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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B62D |
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管理番号 | 1396112 |
総通号数 | 16 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2023-04-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2022-06-03 |
確定日 | 2023-04-11 |
事件の表示 | 特願2018−53796号「車両用構造部材及び車両」拒絶査定不服審判事件〔令和1年10月3日出願公開、特開2019−166855号、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成30年3月22日の出願であって、令和3年8月25日付けで拒絶理由が通知され、同年10月28日に意見書及び手続補正書が提出され、同年11月30日付けで拒絶理由(最後)が通知され、令和4年2月7日に意見書が提出されたが、同年3月31日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ、これに対して、同年6月3日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1〜8に係る発明(以下それぞれ「本願発明1」〜「本願発明8」ともいう。)は、令和3年10月28日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1〜8に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認められる。 「 【請求項1】 長手方向に延在する天板と、 前記天板の両端に隣接し、前記長手方向に延在する2つの縦壁と、 前記縦壁の前記天板と反対側の端部に隣接し、前記長手方向に延在する2つのフランジと、 前記天板と前記縦壁の間にある、前記長手方向に延在する2つの第1稜線と、 前記縦壁と前記フランジの間にある、前記長手方向に延在する2つの第2稜線と、 前記フランジの少なくとも一部にある、前記第1稜線と前記第2稜線との中間位置における前記縦壁の肉厚の1.5倍以上の肉厚を有するフランジ増肉部と、 前記天板の少なくとも一部から前記第1稜線を通って前記縦壁の一部にかけてある、前記第1稜線と前記第2稜線の中間位置の前記縦壁の肉厚の1.5倍以上の肉厚を有する第1稜線増肉部とを備え、 前記第1稜線増肉部及び前記フランジ増肉部の少なくとも1つは、前記第1稜線又は前記フランジの前記長手方向の一部に形成される、車両用構造部材。 【請求項2】 前記フランジ増肉部は、前記フランジの少なくとも一部から前記第2稜線を通り前記縦壁の一部にかけてある、請求項1に記載の車両用構造部材。 【請求項3】 前記天板は、前記長手方向に延在する溝部を含み、 前記溝部の前記長手方向に垂直な方向の両端にある、前記長手方向に延在する2つの第3稜線と、 前記溝部の少なくとも一部から前記第3稜線を通り前記天板の前記溝部以外の部分にかけてある、前記第1稜線と前記第2稜線との中間位置における前記縦壁の肉厚の1.5倍以上の肉厚を有する第3稜線増肉部を備える、請求項1又は2に記載の車両用構造部材。 【請求項4】 前記フランジ増肉部及び前記第1稜線増肉部は、前記長手方向の中央にある、請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両用構造部材。 【請求項5】 前記第1稜線増肉部の前記長手方向の寸法は、前記車両用構造部材の前記長手方向の寸法の20%以上である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の車両用構造部材。 【請求項6】 長手方向に延在する天板と、 前記天板の両端に隣接し、前記長手方向に延在する2つの縦壁と、 前記縦壁の前記天板と反対側の端部に隣接し、前記長手方向に延在する2つのフランジと、 前記天板と前記縦壁の間にある、前記長手方向に延在する2つの第1稜線と、 前記縦壁と前記フランジの間にある、前記長手方向に延在する2つの第2稜線と、 前記フランジの少なくとも一部にある、前記第1稜線と前記第2稜線との中間位置における前記縦壁の肉厚の1.5倍以上の肉厚を有するフランジ増肉部と、 前記天板の少なくとも一部から前記第1稜線を通って前記縦壁の一部にかけてある、前記第1稜線と前記第2稜線の中間位置の前記縦壁の肉厚の1.5倍以上の肉厚を有する第1稜線増肉部とを備え、 前記天板は、前記長手方向に延在する溝部を含み、 前記溝部の前記長手方向に垂直な方向の両端にある、前記長手方向に延在する2つの第3稜線と、 前記溝部の少なくとも一部から前記第3稜線を通り前記天板の前記溝部以外の部分にかけてある、前記第1稜線と前記第2稜線との中間位置における前記縦壁の肉厚の1.5倍以上の肉厚を有する第3稜線増肉部とを備え、 前記第1稜線増肉部の前記長手方向の端の位置と、前記第3稜線増肉部の前記長手方向の端の位置は、前記長手方向においてずれている、車両用構造部材。 【請求項7】 前記第1稜線増肉部の前記長手方向の寸法は、前記第3稜線増肉部の前記長手方向の寸法より大きい、請求項6に記載の車両用構造部材。 【請求項8】 請求項1〜7のいずれか1項に記載の車両用構造部材を備える車両。」 第3 原査定の概要 原査定の概要は次のとおりである。 [理由] この出願の請求項1〜5、8に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された以下の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 [刊行物等一覧] 国際公開第2017/130429号(以下「引用文献1」という。) 特開2014−87848号公報(以下「引用文献2」という。) なお、原査定では、請求項6及び7に係る発明については、現時点では、拒絶の理由を発見しない、としている。 第4 引用文献 1 引用文献1について (1)引用文献1に記載された事項 引用文献1には、図面とともに以下の事項が記載されている(下線は当審が付した。以下同様である。)。 (1a) 「請求の範囲 [請求項1] 所定の方向に延びる1つ又は複数の溝状部を有する車両用骨格部材の製造方法であって、 前記所定の方向に延びる帯状の1つ又は複数の第1板状部と、前記第1板状部の幅方向における端部に沿って前記所定の方向にそれぞれ延びる帯状の第2板状部であって、前記第1板状部よりも板厚の小さな第2板状部とを有する板状部材を、押出成形法を用いて製造する押出加工工程と、 前記溝状部の底壁部の少なくとも一部が前記第1板状部から構成され、且つ前記溝状部の側壁部が前記第2板状部から構成されるように、前記板状部材をプレス加工するプレス加工工程と、 を含む、車両用骨格部材の製造方法。」 (1b) 「[0009] 本発明は上記問題に対処するためになされたもので、その目的は、曲げ剛性が高く、かつ軽量な車両用骨格部材を提供することにある。なお、下記本発明の各構成要件の記載においては、本発明の理解を容易にするために、実施形態の対応箇所の符号を括弧内に記載しているが、本発明の各構成要件は、実施形態の符号によって示された対応箇所の構成に限定解釈されるべきものではない。 ・・・ [0026] なお、中間部M1の長手方向に垂直な断面は、その切断位置に拘わらず一定であり、図5に示す通りである。中間部M1のビーム長手方向の寸法は、例えば、600mmである。底壁部111,121及び接続壁部13の板厚は、側壁部112,113,122,123よりも大きい。底壁部111,121及び接続壁部13の板厚は、例えば、4.5mmである。また、側壁部112,113,122,123の板厚は、例えば、2.5mmである。 ・・・ [0039] 車両用ドアインパクトビーム20は、車両用ドアインパクトビーム10と同様に、その長手方向における中間部M2が溝状に形成され、その前端部F2及び後端部R2は、平板状に形成されている。車両用ドアインパクトビーム20の中間部M2の形状は、図10に示すように、車両用ドアインパクトビーム10の中間部M1の形状と略同様である。すなわち、車両用ドアインパクトビーム20は、第1溝部21及び第2溝部22からなる溝状部24を有する。そして、第1溝部21及び第2溝部22が接続壁部23によって接続されている。ただし、車両用ドアインパクトビーム10とは異なり、底壁部211、底壁部221及び接続壁部23の上端及び下端に面取り部Cがそれぞれ形成されている。また、フランジ部212F及びフランジ部222Fの板厚が、底壁部211、底壁部221及び接続壁部23の板厚と同一である。また、フランジ部212Fの下端、フランジ部222Fの上端に面取り部Cが形成されている。また、前端部F2及び後端部R2の形状は、図11に示す通りである。具体的には、前端部F2及び後端部R2は、板状部211a,212a,213a,212Fa,221a,222a,223a,222Fa,23aを備える。板状部211a,221aが本発明の第1板状部に相当し、板状部212a,213a,222a,223aが本発明の第2板状部に相当する。つまり、板状部212a,213a,222a,223aの板厚は、板状部211a,221aよりも小さい。また、各板状部が帯状に形成されている。そして、板状部211aの幅方向における端部に沿って、板状部212a,213aが延設されている。また、板状部221aの幅方向における端部に沿って、板状部222a,223aが延設されている。また、板状部212Fa及び板状部222Faは、板状部材BM2の幅方向における両端部にそれぞれ設けられている。板状部212Fa及び板状部222Faの板厚は、板状部211a,221aの板厚と同一である。 ・・・ [0044] つぎに、車両用ドアインパクトビーム20の製造方法について説明する。まず、金属材料(例えば、アルミニウム合金材)を押出加工して、帯状の板状部材BM2を製造する(押出加工工程)。板状部材BM2の長手方向に垂直な断面の形状は、図11に示す通りである。 [0045] つぎに、ダイクエンチ工法(熱間プレス加工法)を用いて、加熱された板状部材BM2の長手方向における中間部を、その長手方向に垂直な断面の形状が図10に示す形状を呈するように成形すると同時に、急冷して焼入れする(プレス加工工程)。つまり、板状部材BM2の板状部211a,221aがドアDRのアウターパネルOPに対面し、かつ板状部212a,213a,222a,223aが板状部211a,221aの幅方向における端部からインナーパネルIPに向かって延び、板状部212Fa,222FaがドアDRのインナーパネルIPに対面した状態を呈するように、板状部材BM2をプレス加工する(図13参照)。つまり、板状部211aの右面と板状部212a,213aの右面とが第1溝部21の内側面を構成するように、板状部材BM2がプレス加工される。また、板状部221aの右面と板状部222a,223aの右面とが第2溝部22の内側面を構成するように、板状部材BM2がプレス加工される。そして、前記貫通孔を板状部23aに形成する。このようにして、車両用ドアインパクトビーム20が形成される。 ・・・ [0047] 上記のように、板状部211a,212a,213aの右面が同一平面内に位置しているので、底壁部211と側壁部212,213との境界において大きく曲げられた部分が存在しない。また、板状部221a,222a,223aの右面が同一平面内に位置しているので、底壁部221と側壁部222,223との境界において、大きく曲げられた部分が存在しない。また、車両用ドアインパクトビーム20の他の部分(接続壁部23と側壁部213との境界、接続壁部23と側壁部223との境界、側壁部212とフランジ部212Fとの境界、及び側壁部222とフランジ部222Fとの境界)においても、大きく曲げられた部分が存在しない。よって、車両用ドアインパクトビーム20の強度を、車両用ドアインパクトビーム10よりも高めることができる。 ・・・ [0049] さらに、本発明の車両用ドアインパクトビームとしての実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。 ・・・ [0051] また、中間部M2の断面形状は、図10の形状に限られない。例えば、図15に示すような中間部M2Aとしてもよい。中間部M2Aは、図16に示すように、板状部材BM2Aにおける板状部211a,221a,23a,212Fa,222Faの端部を折り曲げることにより形成される。この場合も、底壁部と側壁部の板厚が同一である車両用ドアインパクトビームを成形する際に用いる金型を流用することができる。」 (1c) 図9、図14、図15には、以下の内容が記載されている。 ![]() ![]() ![]() (2)引用発明 上記(1)において摘記した記載及び図9、図15から看取できる構成(特に図15から看取できる構成)を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 [引用発明] 「長手方向に延在する、2つの側壁部213、223と接続壁部23により構成された凹部によって接続された2つの底壁部211、221と、 前記2つの側壁部213、223と接続壁部23により構成された凹部によって接続された2つの底壁部211、221の両端に、それぞれ隣接し、長手方向に延在する2つの側壁部212、222と、 前記長手方向に延在する2つの側壁部212、222の、前記2つの底壁部211、221と反対側の端部に、それぞれ隣接し、長手方向に延在する2つのフランジ部212F、222Fと、 前記2つの底壁部211、221と、2つの側壁部212、222の間に、それぞれある、長手方向に延在する2つの第1稜線と、 前記2つの側壁部212、222と前記2つのフランジ部212F、222Fの間に、それぞれある、長手方向に延在する2つの第2稜線と、 前記2つのフランジ部212F、222Fのそれぞれの少なくとも一部にある、フランジ増肉部と、 前記2つの側壁部213、223と接続壁部23により構成された凹部によって接続された2つの底壁部211、221の、それぞれの少なくとも一部から、それぞれの前記第1稜線を通って前記2つの側壁部212、222の一部にかけて、それぞれある、第1稜線増肉部とを備える、 中間部M2と、 前端部F2及び後端部R2とから構成される 車両用ドアインパクトビーム20。」 2 引用文献2について (1)引用文献2に記載された事項 引用文献2には、図面とともに以下の事項が記載されている。 (1a) 「【0036】 ここに,補強部材を稜線部の断面でその領域だけに被せる例を示している。それは,部材特性を改善させる上で,稜線部の溶接固定が有効であるが,一方で,補強部材は部材全体の重量増要因であるためである。なお、「稜線部の断面」は成形部材の長手方向に直交する方向の断面を云う。 さらに,本発明では,溶接により補強材を溶接させてからプレス成形あるいはロール成形を行うことが好ましい.すなわち,稜線部つまり曲げ加工部全体(母材部+補強部)が隙間なく一体的に成形されるのが好ましいからである。 ・・・ 【0043】 しかし、実在の多くの成形部材は、各稜線部28、30、33の延在方向において断面形状がその位置によって一定ではなく変化する。この場合には、成形部材20〜25が、例えば軸圧潰方向への荷重を受けた時に最も変形し易い、断面積が小さな領域がある。そのため、少なくとも、この領域に補強部材35、35−1、35−2を設けることが有効である。成形部材20〜25の軸方向の全長に補強部材35、35−1、35−2を設けなくとも、この断面積が小さな領域に補強部材35、35−1、35−2を設けることにより、より確実に、本発明の効果を得ることができる。 (1b) 図2には、以下の内容が記載されている。 【図2】 ![]() (2)引用文献2に記載された技術事項 上記(1)から、引用文献2には、次の技術事項(以下「引用文献2に記載された技術事項」という。)が記載されていると認められる。 [引用文献2に記載された技術事項] 「補強部材を稜線部だけに被せ、溶接により補強材を溶接させてからプレス成形あるいはロール成形を行い、各稜線部の延在方向において、軸圧潰方向への荷重を受けた時に最も変形し易い領域に、補強部材を設けることが有効であり、軸方向の全長に補強部材を設けなくともよいこと。」 第5 対比・判断 1 本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明とを対比する。 ア 引用発明の「長手方向に延在する、2つの側壁部213、223と接続壁部23により構成された凹部によって接続された2つの底壁部211、221」の「凹部」を含めた全「壁部」は、本願発明1の「長手方向に延在する天板」に相当する。 イ 上記アを踏まえると、引用発明の「前記底壁部211、221の両端に、それぞれ隣接し、長手方向に延在する2つの側壁部212、222」は、本願発明1の「前記天板の両端に隣接し、前記長手方向に延在する2つの縦壁」に相当する。 ウ 上記ア、イを踏まえると、引用発明の「前記長手方向に延在する2つの側壁部212、222の、前記2つの底壁部211、221と反対側の端部に、それぞれ隣接し、長手方向に延在する2つのフランジ部212F、222F」は、本願発明1の「前記縦壁の前記天板と反対側の端部に隣接し、前記長手方向に延在する2つのフランジ」に相当する。 エ 上記ア、イを踏まえると、引用発明の「前記2つの底壁部211、221と、2つの側壁部212、222の間に、それぞれある、長手方向に延在する2つの第1稜線」は、本願発明1の「前記天板と前記縦壁の間にある、前記長手方向に延在する2つの第1稜線」に相当する。 オ 引用発明の「前記2つの側壁部212、222と前記2つのフランジ部212F、222Fの間に、それぞれある、長手方向に延在する2つの第2稜線」は、本願発明1の「前記縦壁と前記フランジの間にある、前記長手方向に延在する2つの第2稜線」に相当する。 カ 引用発明の「前記2つのフランジ部212F、222Fのそれぞれの少なくとも一部にある、フランジ増肉部」と、本願発明1の「前記フランジの少なくとも一部にある、前記第1稜線と前記第2稜線との中間位置における前記縦壁の肉厚の1.5倍以上の肉厚を有するフランジ増肉部」とは、「前記フランジの少なくとも一部にある、フランジ増肉部」において共通する。 キ 引用発明の「前記2つの側壁部213、223と接続壁部23により構成された凹部によって接続された2つの底壁部211、221の、それぞれの少なくとも一部から、それぞれの前記第1稜線を通って前記2つの側壁部212、222の一部にかけて、それぞれある、第1稜線増肉部」と、本願発明1の「前記天板の少なくとも一部から前記第1稜線を通って前記縦壁の一部にかけてある、前記第1稜線と前記第2稜線の中間位置の前記縦壁の肉厚の1.5倍以上の肉厚を有する第1稜線増肉部」とは、「前記天板の少なくとも一部から前記第1稜線を通って前記縦壁の一部にかけてある、第1稜線増肉部」において共通する。 ク 引用発明の「中間部M2と、前端部F2及び後端部R2とから構成される、車両用ドアインパクトビーム20」は、本願発明1の「車両用構造部材」に相当する。 以上から、本願発明1と引用発明との一致点及び相違点は、以下のとおりある。 <一致点> 「長手方向に延在する天板と、 前記天板の両端に隣接し、前記長手方向に延在する2つの縦壁と、 前記縦壁の前記天板と反対側の端部に隣接し、前記長手方向に延在する2つのフランジと、 前記天板と前記縦壁の間にある、前記長手方向に延在する2つの第1稜線と、 前記縦壁と前記フランジの間にある、前記長手方向に延在する2つの第2稜線と、 前記フランジの少なくとも一部にある、フランジ増肉部と、 前記天板の少なくとも一部から前記第1稜線を通って前記縦壁の一部にかけてある、第1稜線増肉部とを備える、 車両用構造部材。」 <相違点1> 「フランジ増肉部」、「第1稜線増肉部」のそれぞれが、本願発明1では、「前記第1稜線と前記第2稜線との中間位置における前記縦壁の肉厚の1.5倍以上の肉厚を有する」フランジ増肉部、「前記第1稜線と前記第2稜線の中間位置の前記縦壁の肉厚の1.5倍以上の肉厚を有する」第1稜線増肉部であるが、引用発明では、そのように特定されていない点。 <相違点2> 本願発明1では、「前記第1稜線増肉部及び前記フランジ増肉部の少なくとも1つは、前記第1稜線又は前記フランジの前記長手方向の一部に形成される」のに対して、引用発明では、「フランジ増肉部」及び「第1稜線増肉部」は、長手方向の一部にだけ形成されているとの特定がない点。 (2)判断 ア 相違点1について (ア) 引用文献1の段落[0026]には「底壁部111,121及び接続壁部13の板厚は、例えば、4.5mmである」及び「側壁部112,113,122,123の板厚は、例えば、2.5mmである」と記載され、段落[0039]には「フランジ部212F及びフランジ部222Fの板厚が、底壁部211、底壁部221及び接続壁部23の板厚と同一である」と記載されていることから、引用文献1の図15の各「板厚」の寸法は、段落[0039]に記載された各「板厚」寸法と同様であるといえるから(すなわち、フランジ部212F、222F、底壁部211、221及び接続壁部23の板厚は、4.5mmであり、側壁部212、213、222、223の板厚は、2.5mmであるといえるから)、引用発明の「フランジ増肉部」、「第1稜線増肉部」は、いずれも、前記第1稜線と前記第2稜線との中間位置における前記側壁部212、222(縦壁)の肉厚1.5倍以上の肉厚を有するものであり、相違点1は実質的な相違点ではない。 (イ) 仮に、相違点1が実質的な相違点であったとしても、段落[0026]及び[0039]の上記の記載を参照して、引用発明の「フランジ増肉部」、「第1稜線増肉部」の構成を、相違点1に係る本願発明1の構成とすることは、当業者が適宜なし得たことにすぎない。 イ 相違点2について 引用発明に引用文献2に記載された技術事項を適用することについて、以下検討する。 引用文献1の請求項1を参照すると、引用発明の増肉部(第1板状部の部分が図15の増肉部を形成していることは明らかである。)を含む車両用ドアインパクトビームは、押出成形とそれに続くプレス加工により形成されるところ、引用文献2に記載された技術事項を適用しようとすると、当該押出成形では、単に長尺矩形の平板状部材を成形し、その平板状部材の長手方向の必要な箇所のみに溶接により増肉部を付加し、その後プレス加工することになる。 引用発明において、このような製造工程とするためには、板厚の異なる板状部材(引用文献1の図14等参照)を形成する製造技術において、特徴部分である板厚の厚い第1板状部の増肉部分を一旦取り除いておき、その後に、その取り除いた部分に対して溶接という別の手段で増肉し直すことになるが、そのように変更することは当業者が着想し得ないことである。 さらに、上記のような変更を試みようとすると、引用発明の稜線部分について、押出成形により長手方向の全領域に形成されていた第1板状部の増肉部分が存在しなくなってしまい、長手方向の全体を補強することができなくなり、引用文献1の「曲げ剛性が高く、かつ軽量な車両用骨格部材を提供する」という課題も解決できなくなるから、引用発明に引用文献2に記載された技術事項を適用することには、阻害要因も存在する。 ウ 小括 したがって、本願発明1は、引用発明び引用文献2に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 2 本願発明2〜5及び8について 本願発明2〜5及び8は、本願発明1の発明特定事項を全て含み、さらに請求項2〜5及び8の発明特定事項を付加して限定したものであるから、上記1と同じ理由により、引用発明び引用文献2に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 3 まとめ 上記1、2のとおりであるから、本願発明2〜5及び8は、引用発明及び引用文献2に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 したがって、原査定を維持することはできない。 第6 むすび 以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶すべきものとすることはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2023-03-30 |
出願番号 | P2018-053796 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(B62D)
|
最終処分 | 01 成立 |
特許庁審判長 |
筑波 茂樹 |
特許庁審判官 |
三宅 龍平 出口 昌哉 |
発明の名称 | 車両用構造部材及び車両 |
代理人 | 上羽 秀敏 |
代理人 | 山内 哲文 |