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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  C12N
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  C12N
管理番号 1396293
総通号数 16 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2023-04-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-09-15 
確定日 2023-03-23 
異議申立件数
事件の表示 特許第7038664号発明「操作された腫瘍溶解性ウイルス」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7038664号の請求項1、2、4−6、8、9、13−21に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7038664号(以下「本件特許」という。)の請求項1〜21に係る特許についての出願(以下「本件出願」という。)は、いずれも2016年1月8日を第一国における出願日(以下「本件優先日」という。)として英国知的財産庁(UKIPO)において受理された、「英国特許第1600380.8号」(以下「優先権基礎出願1」という。)、「英国特許第1600381.6号」(以下「優先権基礎出願2」という。)及び「英国特許第1600382.4号」(以下「優先権基礎出願3」という。)に基づくパリ条約による優先権主張を伴う、2017年1月9日を国際出願日(以下「本件出願日」という。)とする特許出願であって、令和4年3月10日にその特許権の設定登録がされ、同年同月18日に特許掲載公報が発行された。
その後、本件特許についての特許異議申立の期間内である令和4年9月15日に、特許異議申立人 バイオインヴェント インターナショナル アーベー、及び、トランスジーン エスエー(以下、両者をまとめて「申立人」という。)により、本件特許の請求項1、2、4〜6、8、9、13〜21に係る発明の特許に対して特許異議の申立てがなされた。

第2 本件発明
特許異議の申立てがなされた特許第7038664号の請求項1、2、4〜6、8、9、13〜21の特許に係る発明は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1、2、4〜6、8、9、13〜21に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、特許第7038664号の請求項1、2、4〜6、8、9、13〜21の特許に係る発明を、請求項の番号順に「本件発明1」等ということがある。)。

「【請求項1】
(i)GM-CSFをコードする遺伝子、及び(ii)CD40リガンド、ICOSリガンド、GITRリガンド、4-1-BBリガンド、OX40リガンド、TL1A、CD30リガンド、CD27、flt3リガンド又はCTLA-4阻害剤をコードする遺伝子を含む腫瘍溶解性ウイルス。
【請求項2】
ウイルスが選択的複製コンピテントウイルスであり、GM-CSFをコードする遺伝子及びCD40リガンド、ICOSリガンド、GITRリガンド、4-1-BBリガンド、OX40リガンド、TL1A、CD30リガンド、CD27、flt3リガンド又はCTLA-4阻害剤をコードする遺伝子がウイルスのゲノムに挿入され、各々の遺伝子がプロモーター配列の調節下にある、請求項1に記載のウイルス。
【請求項4】
CTLA-4阻害剤がCTLA-4抗体又はその断片である、請求項1又は2に記載のウイルス。
【請求項5】
融合誘導性タンパク質をコードする遺伝子をさらに含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載のウイルス。
【請求項6】
融合誘導性タンパク質が、
(a)水疱性口内炎ウイルス(VSV)Gタンパク質、シンシチン-1、シンシチン-2、シミアンウイルス5(SV5)Fタンパク質、麻疹ウイルス(MV)Hタンパク質、MV Fタンパク質、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)Fタンパク質、及びRペプチドが欠失しているテナガザル(gibbon ape)白血病ウイルス(GALV)、マウス白血病ウイルス(MLV)、Mason-Pfizerサルウイルス(MPMV)及びウマ感染性貧血ウイルス(EIAV)由来の糖タンパク質からなる群から選択されるか、又は
(b)テナガザル白血病ウイルス(GALV)由来の糖タンパク質であり、R膜貫通ペプチドが突然変異又は除去されている(GALV-R-)、
請求項5に記載のウイルス。
【請求項8】
(i)ヘルペスウイルス、ポックスウイルス、アデノウイルス、レトロウイルス、ラブドウイルス、パラミクソウイルス及びレオウイルスからなる群から選択される、
(ii)単純ヘルペスウイルス(HSV)である、
(iii)HSV1である、
(iv)HSVであって、(a)機能的ICP34.5を発現しない、
(b)機能的ICP47を発現しない、及び/又は
(c)US11遺伝子を前初期遺伝子として発現する、HSVである、
請求項1〜7のいずれか1項に記載のウイルス。
【請求項9】
ウイルスの改変された臨床分離株である、請求項1〜8のいずれか1項に記載のウイルス。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載のウイルス及び医薬として許容される担体又は希釈剤を含む医薬組成物。
【請求項14】
治療によってヒト又は動物の体を処置する方法に使用するための、請求項1〜12のいずれか1項に記載のウイルスを含む組成物。
【請求項15】
がんを処置する方法に使用するための、請求項1〜12のいずれか1項に記載のウイルスを含む組成物。
【請求項16】
方法が、さらなる抗がん剤を投与することを含む、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
さらなる抗がん剤が、免疫共阻害経路又は免疫共刺激経路を標的とする薬剤、放射線療法及び/又は化学療法、腫瘍において生じる特定の遺伝子突然変異を標的とする薬剤、1つ以上の腫瘍抗原又はネオ抗原に対する免疫応答を誘導することが意図された薬剤、T細胞又はNK細胞に由来する細胞生成物、STING、cGAS、TLR又は他の自然免疫応答及び/若しくは炎症経路を刺激することが意図された薬剤、第2のウイルス、任意選択的に腫瘍溶解性ウイルス、並びにそれらの組み合わせから選択される、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
免疫共阻害経路を標的とする薬剤が、CTLA-4阻害剤、PD-1阻害剤、PD-L1阻害剤、LAG-3阻害剤、TIM-3阻害剤、VISTA阻害剤、CSF1R阻害剤、IDO阻害剤、KIR阻害剤、SLAMF7阻害剤、CEACAM1阻害剤若しくはCD47阻害剤であり、及び/又は免疫共刺激経路を標的とする薬剤が、GITRアゴニスト、4-1-BBアゴニスト、OX40アゴニスト、CD40アゴニスト若しくはICOSアゴニストである、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
(a)方法が、さらなる抗がん剤を投与することを含み、さらなる抗がん剤が抗体である、
(b)方法が、インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)経路の阻害剤及び免疫共阻害経路のさらなるアンタゴニスト、又は免疫共刺激経路のアゴニストを投与することを含む、
(c)方法が、さらなる抗がん剤を投与することを含み、ウイルス及びさらなる抗がん剤が別々に又は同時に投与される、及び/又は
(d)がんが固形腫瘍である、請求項16〜18のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項20】
がんを処置する方法において使用するための医薬の製造における、請求項1〜12のいずれか1項に記載のウイルスの使用。
【請求項21】
方法が、さらなる抗がん剤を投与することを含む、請求項20に記載の使用。」

第3 申立ての理由の概要及び証拠
申立人は、特許異議申立書(以下「申立書」という。)において、本件発明1、2、4〜6、8、9、13〜21についての特許を取り消すべき理由として、優先権基礎出願1〜3を伴う本件出願についてのパリ条約による優先権の主張の効果が認められないことを前提として、以下の「1」に概要を示す(1)及び(2)の申立ての理由(以下「申立理由1」等という。)を主張するとともに、証拠方法として、以下の「2」に示す甲第1号証〜甲第12号証(以下、それぞれ番号順に「甲1」等という。)を提出した。

1 申立人による申立ての理由の概要
(1)申立理由1(新規性
本件発明1、2、4〜6、8、9、13〜17、19〜21は、甲1に記載された発明と同一の発明である。よって、本件発明1、2、4〜6、8、9、13〜17、19〜21についての特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(2)申立理由2(進歩性
本件発明1、2、4〜6、8、9、13〜17、19〜21について、甲1に記載された発明との間に相違点があったとしても、本件発明1、2、4〜6、8、9、13〜17、19〜21は、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、本件発明18は甲1に記載された発明と甲11の記載から当業者が容易に発明をすることができたものである。よって、本件発明1、2、4〜6、8、9、13〜21についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

2 申立人が提出した証拠(証拠方法)
甲第1号証: 国際公開第2016/008976号(公知日:2016年
1月21日)
甲第2号証: 特表2017−5222025号公報(公知日:2017年
8月10日)(甲1の日本語ファミリー)
甲第3号証: 英国特許第1600380.8号明細書(出願日:2016
年1月8日)
甲第4号証: 英国特許第1600381.6号明細書(出願日:2016
年1月8日)
甲第5号証: 英国特許第1600382.4号明細書(出願日:2016
年1月8日)
甲第6号証: 岩波 生物学辞典 第4版(発行日:1996年3月21日
)の74頁、75頁、及び、202〜203頁
甲第7号証: Msaouel et al., Curr Pharm Biotechnol, 2012 Jul 1; 13
(9): 1732-1741
甲第8号証: McDonald et al., Breast Cancer Research and Treatment
(2006) 99:177-184
甲第9号証: Kaufmann et al., J Investigative Dermatology (2013)
133, 1034-1042
甲第10号証: Jacobs et al., Antiviral Res. 2009 October; 84(1):
1-13
甲第11号証: 国際公開第2016/009017号(公知日:2016
年1月21日)
甲第12号証: 特表2017−524693号公報(公知日:2017年
8月31日)(甲11の日本語ファミリー)

第4 申立ての理由についての当審の判断
本件優先日(2016年1月8日)の後であって、本件出願日(2017年1月9日)の前において公知となったものである、甲1及び甲11に記載された事項に基づく申立理由1及び2はいずれも、優先権基礎出願1〜3を伴う本件出願に係る、本件発明1、2、4〜6、8、9、13〜21についてのパリ条約による優先権の主張の効果が認められないことが前提となるものである。
そこで、まず、本件発明1、2、4〜6、8、9、13〜21についてのパリ条約による優先権の主張の効果が認められるか否かについて検討する。

1 本件出願についてのパリ条約による優先権の主張の効果について
優先権基礎出願1〜3はいずれも、パリ条約の同盟国の国民である英国企業 レプリミュン リミテッドが、パリ条約の同盟国である英国に正規に特許出願をしたものであり、そして、本件出願は、当該レプリミュン リミテッドにより、第一国への最初の出願の日から12月であるパリ条約による優先権の主張ができる期間(優先期間)内に、これら優先権基礎出願1〜3に基づく優先権を主張し、日本国を指定国に含めた特許協力条約(PCT)に基づく国際特許出願がなされたものである。
ここで、本件出願について、優先権基礎出願1〜3に基づくパリ条約第4条Bの優先権主張の効果が認められるためには、パリ条約では「発明の構成部分」が第一国出願に係る出願書類の全体により明らかにされていなければならないものとされている(パリ条約第4条H)ことから、この要件を満たすためには、本件出願の特許法第184条の4第1項の国際出願日における国際特許出願の明細書、請求の範囲又は図面の全体の記載を考慮して把握される請求項に係る発明が、第一国出願である優先権基礎出願1〜3のいずれかの出願書類(以下、それぞれ「優先権基礎出願1明細書」等という。)の全体に記載した事項の範囲内のものである必要がある。
そこで、優先権基礎出願1明細書、優先権基礎出願2明細書又は優先権基礎出願3明細書のうちの少なくとも1つにおいて、本件発明1、2、4〜6、8、9、13〜21が記載されているか否かについて、以下検討する。

(1) 優先権基礎出願2明細書に記載された事項
優先権基礎出願2明細書(英国特許第1600381.6号明細書、甲4に相当。)には、次の事項が記載されている。なお、英文で記載されているため、当審合議体による翻訳文にて記載し、また、下線は、項目名に対して元から付されている箇所以外については当審合議体が付した。

ア 4頁4行〜8頁6行
「発明の概要
本発明は、改良された腫瘍溶解性ウイルスを提供する。本発明のウイルスによって提供される改善された直接的な腫瘍溶解効果は、改善された全身性の抗腫瘍免疫効果にもつながる。腫瘍細胞における複製及び殺傷の増強は、腫瘍抗原の放出の増強及び放出された抗原に対する全身性免疫応答の増強をもたらすであろう。直接的な腫瘍溶解効果及び/又は免疫刺激を増強するために挿入された任意の遺伝子の発現レベルもまた増加することになる。
・・・(中略)・・・
目的の用途が腫瘍溶解性ウイルス療法である場合、このようなアプローチをとることで、腫瘍溶解性薬剤の開発のための出発点が改善される。このような操作には、例えば腫瘍選択性を提供するためのウイルス遺伝子の欠失、及び/又は不溶化特性や免疫増強特性をさらに改善するための外来遺伝子の挿入が含まれる。
したがって、本発明のウイルスは、それらが比較され、その比較によって同定された他の臨床単離株よりも優れた抗腫瘍効果を有するウイルス種の新規臨床単離株を含む。特に、本発明の臨床単離株は、同じウイルスタイプのこれらの参照臨床単離株よりも、より迅速に、及び/又はより低い用量で、インビトロで腫瘍細胞株を殺傷する。典型的には、本発明の臨床分離株は、必要な特性又は性質について、ウイルス種の5個を超える臨床分離株の比較を通じて、好ましくはウイルス種の10個を超える臨床分離株の比較を通じて、より好ましくはウイルス種の20個を超える臨床分離株の比較を通じて同定されたであろう。本発明の臨床分離株は、典型的には、試験したウイルス株の3/5、6/10又は11/20より優れた腫瘍細胞殺傷活性を示し、好ましくは4/5、8/10又は17/20より優れた、より好ましくは9/10又は19/20より優れた。
典型的には、本発明の臨床分離株は、0.01〜0.001以下の感染多重度(MOI)で、感染後24〜48時間以内に2つ以上の腫瘍細胞株をインビトロで死滅させ得る。
本発明の臨床分離株は、その抗腫瘍効果をさらに高めるために改変することができる。本発明の臨床分離株のゲノムは、1つ又は複数のウイルス遺伝子の発現を削除又は変更するように改変されてもよく、及び/又は臨床分離株のゲノムは、1つ又は複数の異種遺伝子、例えば融合誘導性タンパク質及び/又は免疫刺激分子又は分子をコードする遺伝子を発現するように改変されてもよい。
本発明の腫瘍溶解性ウイルスは、改善された直接的な癌溶解効果、ウイルスの複製及び腫瘍を介した拡散を通じて癌の改善された治療を提供し、(i)抗腫瘍免疫応答の誘導のために放出されるネオ抗原を含む腫瘍抗原の量が増加し、(ii)ウイルスがコードする免疫刺激分子(複数可)の発現が増強される。ウイルスによる免疫刺激分子(複数可)の発現は、抗腫瘍免疫効果をさらに高め、増強させることができる。ウイルスによる融合誘導性タンパク質の発現は、腫瘍を通過するウイルスの拡散をさらに促進することができる。
本発明の腫瘍溶解性ウイルスの抗腫瘍効果は、ウイルスが単剤で使用される場合、及び、ウイルスが、化学療法、標的薬剤による治療、放射線、免疫チェックポイント遮断(すなわち、免疫共抑制経路の1つ又は複数のアンタゴニストの投与)及び/又は免疫増強剤(例えば免疫共刺激経路の1つ又は複数のアゴニスト)などの他の抗癌様式と併用される場合にも、実現する。本発明のウイルスの改善された直接的な腫瘍溶解効果(すなわち、腫瘍細胞におけるウイルス複製、腫瘍細胞間の拡散、及び、腫瘍細胞の直接的な殺傷)及び改善された全身性の抗腫瘍免疫効果は、腫瘍溶解療法と免疫共抑制経路の遮断及び/又は免疫共刺激経路活性化の組み合わせの利点を改善する。
したがって、本発明は、2つ以上の腫瘍細胞株の腫瘍細胞をインビトロで殺すための同じウイルス種の3つ以上の臨床分離株のパネルの能力を比較し、パネル内の他の臨床分離株の1つ以上よりもインビトロで2つ以上の腫瘍細胞株の細胞をより迅速に及び/又はより低い用量で殺すことができる臨床分離株を選択した臨床分離株であるか、その由来である腫瘍溶解性ウイルスを提供する。臨床単離株は改変されていてもよい。改変された臨床分離株は、ウイルスゲノムに欠失などの変異を有していてもよく、及び/又は1つ以上の異種遺伝子を発現してもよい。
ウイルスは、ヘルペスウイルス、ポックスウイルス、アデノウイルス、レトロウイルス、ラブドウイルス、パラミクソウイルス又はレオウイルスの株を含む、腫瘍溶解療法に使用され得る任意のウイルス種の株であってよい。ウイルスは、好ましくは、HSV1のような単純ヘルペスウイルス(HSV)である。HSVは、典型的には、機能的なICP34.5及び/又は機能的なICP47を発現せず、及び/又はUS11遺伝子を前初期遺伝子として発現する。
ウイルスは、(i)融合誘導性タンパク質をコードする遺伝子;及び/又は(ii)免疫刺激分子もしくは免疫刺激分子をコードする遺伝子を含んでいてもよい。ウイルスは、1つ以上の融合誘導性タンパク質及び/又は1つ以上の免疫刺激分子をコードしていてもよい。融合誘導性タンパク質は、好ましくは、テナガザル白血病ウイルス(GALV)由来の糖タンパク質であり、R膜貫通ペプチドが変異又は除去されている(GALV-R-)。免疫刺激分子は、好ましくは、GM-CSF及び/又はGITRL、4-1-BBL、OX40L、ICOSLもしくはCD40Lを含む免疫共刺激経路のアゴニスト又はそれらの各場合における修飾体である。
本発明はまた、以下を提供する。
- 本発明のウイルスと、薬学的に許容される担体又は希釈剤とを含む医薬組成物。
- 本発明のウイルスは、治療によってヒト又は動物の体を治療する方法において使用するためのものであり、この方法は、任意に、治療によってヒト又は動物の体を治療することを含む。
- 癌を治療する方法において使用するための本発明のウイルスであって、該方法は任意に、さらなる抗癌剤を投与することを含む、本発明のウイルス。
- 無菌バイアル、アンプル又はシリンジ中の本発明のウイルスを含む製造製品。
- 治療上有効な量のウイルス又は本発明の医薬組成物を、それを必要とする患者に投与することを含む、癌を治療する方法:ここで、この方法は任意に、さらなる抗癌剤を投与することを含む。
- 癌を治療する方法において使用するための医薬品の製造における本発明のウイルスの使用であって、該方法が任意にさらなる抗癌剤を投与することを含む、使用。
- 癌を処置する方法であって、治療上有効な量の癌溶解性ウイルス、インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)経路の阻害剤、及び、免疫共抑制経路のさらなるアンタゴニスト、又は免疫共刺激経路のアゴニストを、それを必要としている患者に投与することからなる、方法;及び
- 腫瘍溶解性ウイルスを選択する方法であって、該方法は、以下を含む。
(i) 同じウイルス株の3つ以上の臨床分離株のパネルが、2つ以上の腫瘍細胞株の腫瘍細胞を殺す能力をインビトロで比較すること。
(ii) 腫瘍細胞を死滅させるウイルスのパネルの各々の能力を採点すること。
(iii) 最良のスコアの1つを有するウイルスを選択すること。
(iv) 任意に、1つ又は複数のウイルス遺伝子を不活性化するためにウイルスを改変する;及び/又は
(v) 任意に、1つ又は複数の免疫刺激分子コード化遺伝子及び/又は1つ又は複数の融合誘導性タンパク質をコードする遺伝子を発現するように、ウイルスを改変する。
さらなる抗癌剤は、免疫共抑制経路のアンタゴニスト又は免疫共刺激経路のアゴニストであり得る。」

イ 9頁14〜30行
「発明の詳細な説明
腫瘍溶解性ウイルス
本発明のウイルスは腫瘍溶解性である。腫瘍溶解性ウイルスは、腫瘍細胞に感染及び複製し、それにより腫瘍細胞を死滅させるウイルスである。したがって、本発明のウイルスは複製可能である。好ましくは、ウイルスは、腫瘍組織において選択的に複製可能である。ウイルスは、非腫瘍組織よりも腫瘍組織においてより効果的に複製する場合、腫瘍組織において選択的に複製可能である。異なる組織タイプで複製するウイルスの能力は、当該技術分野において標準的な技術を用いて決定することができる。
本発明のウイルスは、これらの特性を有する任意のウイルス、例えばヘルペスウイルス、ポックスウイルス、アデノウイルス、レトロウイルス、ラブドウイルス、パラミクソウイルス若しくはレオウイルス、又はこれらのより大きな群内の任意の種若しくは株であり得る。本発明のウイルスは、野生型(すなわち、親ウイルス種から変更されていない)であってもよく、又は遺伝子破壊若しくは遺伝子付加を有してもよい。これらのうちのどちらであるかは、使用されるウイルス種に依存する。好ましくは、ウイルスはヘルペスウイルスの種であり、より好ましくはHSV1及びHSV2の株を含むHSVの株であり、最も好ましくはHSV1の株である。本発明のウイルスは、使用されるウイルス種の臨床分離株に基づく。臨床分離株は、がんの処置のために特に有利な特性を有するものに基づいて選択される。」

ウ 16頁22行〜17頁20行
「免疫刺激分子
本発明のウイルスは、1つ以上の免疫刺激分子及び/又は免疫刺激分子をコードする1つ以上の遺伝子を含んでいてもよい。免疫刺激性分子には、免疫応答の誘導を助け得るタンパク質、免疫応答の誘導又は有効性に対する阻害シグナルを緩和し得るタンパク質、及び免疫阻害性分子の発現を阻害するRNA分子(例えば、shRNA、アンチセンスRNA、RNAi又はマイクロRNA)などがある。
免疫刺激分子の例としては、IL-2、IL-12、IL-15、IL-18、IL-21、IL-24、CD40リガンド、GITRリガンド、4-1-BBリガンド、OX40リガンド、ICOSリガンド、flt3リガンド、インターフェロンα及びインターフェロンβ並びにインターフェロンγを含むI型インターフェロン、III型インターフェロン(IL-28、IL-29)、TNFα又はGM-CSFなどの他のサイトカイン、TGFβ又は免疫チェックポイントアンタゴニストが挙げられる。免疫チェックポイントアンタゴニストには、抗体、一本鎖抗体、及びRNA1/siRNA/マイクロRNA/アンチセンスRNAのノックダウンアプローチが含まれる。免疫増強/共刺激経路のアゴニストには、変異型又は野生型、可溶性、分泌型及び/又は膜結合型リガンド、並びに一本鎖抗体を含むアゴニスト抗体がある。免疫共阻害経路又は免疫共刺激経路の標的化に関しては、CTLA-4(アンタゴニスト)、PD-1(アンタゴニスト)、PD-L1(アンタゴニスト)、LAG-3(アンタゴニスト)、TIM-3(アンタゴニスト)、VISTA(アンタゴニスト)、CSF1R(アンタゴニスト)、IDO(アンタゴニスト)、CEACAM1(アンタゴニスト)、GITR(アゴニスト)、4-1-BB(アゴニスト)、KIR(アンタゴニスト)、SLAMF7(アンタゴニスト)、OX40(アゴニスト)、CD40(アゴニスト)、ICOS(アゴニスト)又はCD47(アンタゴニスト)を標的とするタンパク質又は他の分子(場合によりアゴニスト又はアンタゴニスト)が特に好ましい。したがって、本発明のウイルスは、好ましくは、これらの分子のうちの1つ又は複数をコードする。より好ましくは、本発明のウイルスは、GM-CSF及び/又はCD40L、ICOSL、4-1-BBL、GITRLもしくはOX40Lの野生型もしくは改変型、最も好ましくはGM-CSFをコードする。
本発明のウイルスは、1つ以上の免疫刺激分子、好ましくは1、2、3又は4個の免疫刺激分子、より好ましくは1又は2個の免疫刺激分子をコードすることができる。
免疫刺激分子をコードする遺伝子の配列は、改変されていない配列を使用した場合と比較して、標的細胞におけるそれぞれのタンパク質の発現レベルを増加させるように、コドン最適化されていてもよい。」

(2) 本件発明1、2、4〜6、8、9、13〜21が優先権基礎出願2明細書に記載されていることについて
ア 本件発明1について
優先権基礎出願2明細書には、摘記ア及びイのとおり、インビトロにおける腫瘍細胞株の殺傷能力に優れる腫瘍溶解性ウイルスの臨床単離株において、その抗腫瘍効果をさらに高めるために、免疫刺激分子をコードする遺伝子を発現するように改変することについて記載されている。また、優先権基礎出願2明細書には当該改変に関して、摘記ウのとおり免疫刺激分子の項において、腫瘍溶解性ウイルスは、免疫応答の誘導又は有効性に対する阻害シグナルを緩和し得るタンパク質等である免疫刺激分子をコードする1つ以上の遺伝子を含んでいてもよいこと、当該免疫刺激分子は、GM-CSF、CD40リガンド、ICOSリガンド、GITRリガンド、4-1-BBリガンド、OX40リガンド、TL1A、CD30リガンド、CD27、flt3リガンドや、免疫チェックポイントアンタゴニスト、すなわち免疫チェックポイントの阻害剤などであること、腫瘍溶解性ウイルスは複数の免疫刺激分子をコードすることができることが記載されている。
さらに、優先権基礎出願2明細書には、摘記ウのとおり、免疫共阻害経路又は免疫共刺激経路の標的化に関して、CTLA-4や、CD40、ICOS、GITR、4-1-BB、OX40等を標的とするタンパク質又は他の分子が特に好ましいことが記載されており、そして、前記CTLA-4が免疫チェックポイント分子の1種であることは、優先権基礎出願2の出願時における当業者にとって周知の技術的事項である。
ここで、優先権基礎出願2明細書では、上記の免疫刺激分子をコードする遺伝子を発現するように改変することは、もっぱら、インビトロにおける腫瘍細胞株の殺傷能力に優れる腫瘍溶解性ウイルスの特定の臨床単離株に対して行うことを記載しているが、優先権基礎出願2明細書において、そのような特定の臨床単離株以外の腫瘍溶解性ウイルスに対しては、当該遺伝子改変を採用しないことや採用できないことについての記載は特段なく、また、腫瘍溶解性ウイルスにおける当該遺伝子改変が、そのような特定の臨床単離株に対してしか行えないものであって、それ以外の腫瘍溶解性ウイルスに対して採用することは不可能であるといった技術的な事情が、優先権基礎出願2の出願時に存在していたとは認められない。
また、優先権基礎出願2明細書には、GM-CSF及びCD40リガンドを共に発現する、GM-CSFをコードする遺伝子とCD40リガンドをコードする遺伝子の両方を含む腫瘍溶解性ウイルスを実際に作製したことは記載されている(実施例3)一方、GM-CSFをコードする遺伝子と、特に、抗CTLA-4抗体のようなCTLA-4阻害剤をコードする遺伝子の両方を含む腫瘍溶解性ウイルスを実際に作製したことについての具体的な記載はないものの、例えば、優先権基礎出願2の出願日前に公知であった文献「Gene Ther.,2012,Vol.19,No.10,pp988−998」において、抗CTLA-4抗体をコードする腫瘍溶解性アデノウイルスが開示されている(図1)とおり、免疫チェックポイント阻害剤である抗CTLA-4抗体を発現する、抗CTLA-4抗体をコードする遺伝子を含む腫瘍溶解性ウイルスを作製できることは、優先権基礎出願2の出願日前に既に知られていたところ、当該技術的事項に加えて、GM-CSF及びCD40リガンドを共に発現する、GM-CSFをコードする遺伝子とCD40リガンドをコードする遺伝子の両方を含む腫瘍溶解性ウイルスを実際に作製したことについての、優先権基礎出願2における前記実施例3の記載もふまえれば、優先権基礎出願2明細書には、GM-CSFをコードする遺伝子と、CD40リガンド以外のものであるCTLA-4阻害剤等をコードする遺伝子の両方を含み、GM-CSFとCTLA-4阻害剤等とを共に発現する腫瘍溶解性ウイルスを、当業者が作製することができるように記載されているといえる。

以上によれば、優先権基礎出願2明細書には、本件発明1である本件請求項1における
「(i)GM-CSFをコードする遺伝子、及び(ii)CD40リガンド、ICOSリガンド、GITRリガンド、4-1-BBリガンド、OX40リガンド、TL1A、CD30リガンド、CD27、flt3リガンド又はCTLA-4阻害剤をコードする遺伝子を含む腫瘍溶解性ウイルス。」
という記載自体はないものの、当該記載が優先権基礎出願2明細書について補正されたものであると仮定した場合において、その補正がされたことにより、本件発明1が、「第一国出願の出願書類全体に記載した事項」、すなわち優先権基礎出願2明細書全体の記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、新規事項が追加されたものとならないから、本件発明1についてパリ条約による優先権の主張の効果が認められるというべきである。

イ 本件発明2、4〜6、8、9、13〜21について
本件発明1を直接的又は間接的に引用する本件発明2、4〜6、8、9、13〜21における各発明特定事項についても、そのいずれも、優先権基礎出願2の出願時における技術常識をふまえ、摘記ア〜ウに記載した事項を含めた優先権基礎出願2明細書全体の記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、新規事項が追加されたものとならないから、本件発明2、4〜6、8、9、13〜21についても、パリ条約による優先権の主張の効果が認められる。

(2)申立人の主張について
申立人は、本件発明1、2、4〜6、8、9、13〜21は、甲3(優先権基礎出願1明細書)、甲4(優先権基礎出願2明細書)、甲5(優先権基礎出願3明細書)のいずれにも記載されていないから、甲3〜5(優先権基礎出願1〜3)に基づく優先権の主張の効果は認められず、本件発明1、2、4〜6、8、9、13〜21は、甲3〜5(優先権基礎出願1〜3)に基づく優先権主張の利益を享受することはできない旨、主張する(申立書11頁10行〜16頁23行)。
しかしながら、本件発明1、2、4〜6、8、9、13〜21が、優先権基礎出願2に基づいてパリ条約による優先権の主張の効果が認められることは上記(1)に記載したとおりであり、申立人の主張は採用できない。

(3) 小括
以上のとおり、本件発明1、2、4〜6、8、9、13〜21は、第一国出願である英国特許第1600381.6号に基づいてパリ条約による優先権の主張の効果が認められる。
そして、特許法第41条第2項の規定により、本件発明1、2、4〜6、8、9、13〜21についての同法第29条の規定の適用については、本件出願は、英国特許第1600381.6号の出願の時である「2016年1月8日」にされたものとみなされる。

2 申立理由1(新規性)、申立理由2(進歩性)について
申立人が、申立理由1(新規性)及び申立理由2(進歩性)についての根拠とする証拠である甲1(国際公開第2016/008976号)は、「2016年1月21日」を公知日とする特許文献である。また、申立人が、申立理由2(進歩性)についての根拠とする証拠である甲11(国際公開第2016/009017号)は、「2016年1月21日」を公知日とする特許文献である。
ここで、甲1及び甲11の公知日である「2016年1月21日」は、本件特許についての出願がされた時とみなされる「2016年1月8日」よりも後の日であるから、甲1及び甲11に記載された発明は、特許法第29条第1項第3号に規定する「特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明」に該当しない。
そうすると、申立人の主張する、本件発明1、2、4〜6、8、9、13〜17、19〜21が特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであるとする申立理由1、及び、本件発明1、2、4〜6、8、9、13〜21が同法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとする申立理由2は、いずれも理由がない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、申立人による特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1、2、4〜6、8、9、13〜21に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1、2、4〜6、8、9、13〜21に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、特許法第114条第4項の規定により、本件請求項1、2、4〜6、8、9、13〜21に係る特許について、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2023-03-10 
出願番号 P2018-555311
審決分類 P 1 652・ 113- Y (C12N)
P 1 652・ 121- Y (C12N)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 冨永 みどり
特許庁審判官 森井 隆信
馬場 亮人
登録日 2022-03-10 
登録番号 7038664
権利者 レプリミュン リミテッド
発明の名称 操作された腫瘍溶解性ウイルス  
代理人 丸山 智裕  
代理人 日野 真美  
代理人 日野 真美  
代理人 丸山 智裕  
代理人 弁理士法人平木国際特許事務所  

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