ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード![]() |
審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 B29B 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 B29B |
---|---|
管理番号 | 1396302 |
総通号数 | 16 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2023-04-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2022-10-28 |
確定日 | 2023-04-10 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第7062122号発明「樹脂フィルムの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第7062122号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第7062122号(請求項の数9。以下「本件特許」という。)に係る出願は、令和3年7月27日を出願日とする特願2021−122777号の一部を新たな特許出願として令和3年8月27日に分割出願したものであって、令和4年4月21日にその特許権の設定登録がされ、令和4年5月2日に特許掲載公報が発行されたものである。 本件特許について、特許掲載公報の発行の日から6月以内である令和4年10月28日に、特許異議申立人 相澤 聡(以下「特許異議申立人」という。)から全請求項に対して特許異議の申立てがされた。 第2 本件特許発明 本件特許の請求項1〜9に係る発明(以下、それぞれ、「本件特許発明1」〜「本件特許発明9」という。)は、特許請求の範囲の請求項1〜9に記載された事項によって特定されるとおりの、以下のものである。 [本件特許発明1] 「 インキ層及び樹脂層を有するフィルムラベル、及び該フィルムラベルが装着された樹脂ボトルの少なくとも一方を出発原料として用意することと、 前記出発原料から比重が1未満の熱可塑性樹脂を回収することと、 前記回収された熱可塑性樹脂を原料に含め、比重が1未満の樹脂フィルムを押出成形することと、 を備え、 前記比重が1未満の熱可塑性樹脂を回収することは、 前記出発原料または前記樹脂層を個片化することと、 前記フィルムラベルまたは前記フィルムラベルの個片から前記インキ層を分離して、前記インキ層が除去された前記樹脂層または前記樹脂層の個片を得ることと、 前記出発原料、前記樹脂層、またはこれらの個片を比重分離して、比重が1未満の前記出発原料、前記樹脂層、またはこれらの個片を回収することと、 を含み、 前記押出成形される比重が1未満の樹脂フィルムは、オレフィン系樹脂を主成分とする、 樹脂フィルムの製造方法。」 [本件特許発明2] 「 前記比重が1未満の熱可塑性樹脂を回収することは、 前記出発原料を個片化することと、 前記フィルムラベルの個片から前記インキ層を分離して、前記インキ層が除去された前記樹脂層の個片を得ることと、 前記樹脂層の個片を比重分離して、比重が1未満の前記樹脂層の個片を回収することと、をこの順に含む、 請求項1に記載の樹脂フィルムの製造方法。」 [本件特許発明3] 「 前記押出成形された樹脂フィルムにインキ層を積層し、インキ層及び樹脂層を有するフィルムラベルを作製すること、 をさらに備える、 請求項1または請求項2に記載の樹脂フィルムの製造方法。」 [本件特許発明4] 「 前記作製されたフィルムラベルを前記出発原料とし、さらに比重が1未満の熱可塑性樹脂を回収することと、前記回収された熱可塑性樹脂を原料に含め、比重が1未満の樹脂フィルムを作製することと、を1回以上繰り返す、 請求項3に記載の樹脂フィルムの製造方法。」 [本件特許発明5] 「 前記インキ層が除去された前記樹脂層または前記樹脂層の個片を得ることは、前記フィルムラベルまたは前記フィルムラベルの個片をアルカリ性水溶液に浸漬することにより前記インキ層を分離することを含む、 請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の樹脂フィルムの製造方法。」 [本件特許発明6] 「 前記アルカリ性水溶液に浸漬された後の前記樹脂層または前記樹脂層の個片を中和すること、 をさらに備える、 請求項5に記載の樹脂フィルムの製造方法。」 [本件特許発明7] 「 前記インキ層が除去された前記樹脂層または前記樹脂層の個片を得ることは、前記フィルムラベルまたは前記フィルムラベルの個片を水に浸漬することにより前記インキ層を分離することを含む、 請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の樹脂フィルムの製造方法。」 [本件特許発明8] 「 前記インキ層が除去された前記樹脂層または前記樹脂層の個片を得ることは、前記インキ層が分離された後の前記樹脂層または前記樹脂層の個片を洗浄することを含む、 請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の樹脂フィルムの製造方法。」 [本件特許発明9] 「 前記比重が1未満の熱可塑性樹脂を回収することと前記比重が1未満の樹脂フィルムを押出成形することとの間に、前記回収された比重が1未満の熱可塑性樹脂を乾燥させること、 をさらに備える、 請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の樹脂フィルムの製造方法。」 第3 特許異議申立ての概要 1 証拠 特許異議申立人が提出した証拠は以下のとおりである。 甲第1号証:国際公開第2020/059516号 甲第2号証:特開平11−333952号公報 甲第3号証:特開2007−130831号公報 甲第4号証:国際公開第2021/090690号 なお、甲第1号証及び甲2号証はいずれも主引用文献であり、甲第3号証及び甲4号証はいずれも副引用文献である(以下、「甲第1号証」〜「甲第4号証」を、それぞれ、「甲1」〜「甲4」という。)。 2 申立て理由の概要 特許異議申立人が主張する取消しの理由は、概略、以下のとおりである(特許異議申立書48〜49頁)。 (1)特許法29条1項3号(同法113条2号) 本件特許発明1、2、5、8、9は、甲1に記載された発明である。 (2)特許法29条2項(同法113条2号) 本件特許発明1は、本件出願前にその発明が属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が、甲1に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものである。 本件特許発明1は、本件出願前に当業者が甲1に記載された発明及び甲3に記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものである。 本件特許発明1は、本件出願前に当業者が甲2に記載された発明及び甲3に記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものである。 本件特許発明2、5、8、9は、本件出願前に当業者が甲1に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものである。 本件特許発明3、4は、本件出願前に当業者が甲1に記載された発明及び甲3に記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものである。 本件特許発明6、7は、本件出願前に当業者が甲1に記載された発明及び甲4に記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものである。 第4 当合議体の判断 1 甲1〜2の記載及び甲1〜2に記載された発明 (1)甲1の記載 甲1は、本件出願前に日本国内又は外国において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載された文献であるところ、そこには、以下の記載がある。 なお、下線は当合議体が付与したものであって、引用発明の認定及び判断等において活用した箇所を示す(以下、他の甲号証についても同様である。)。 ア 「技術分野 [0001] 本発明は、接着剤を使用しラミネート法により積層された樹脂フィルムのリサイクル方法に関する。」 イ 「背景技術 [0002] 従来、プラスチック製容器包装のリサイクル義務化により、食品包装用をはじめとしたプラスチック廃棄物の回収分別再利用化が行われている。プラスチック廃棄物の種類は様々であり、例えばポリエチレンやポリプロピレン、ポリスチレン(発泡スチロール)、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル等の合成樹脂からなるものや、これらの合成樹脂フィルムやアルミ箔等の金属箔を積層させ、印刷インキで商品名等の表示や装飾性を施された積層フィルムも多々含まれており、これらがゴミ収集時には混合された状態にある。 [0003] 積層フィルムとしては、複数の押出機を用い異なる種類の熱可塑性樹脂からなるフィルムを複数層積層した積層フィルムが知られており、これを各層の単層フィルムに分離する装置も開発されている(例えば特許文献1参照)。 一方、押し出し成形によらずラミネート法により複数の樹脂フィルムを、イソシアネート化合物とポリオール化合物との反応による熱硬化型の反応型接着剤を用いて積層させた積層フィルムは、反応後の接着剤層が架橋しているためにラミネート接着力が強く、例えばレトルト耐性等を必要とするレトルト食品包装材として利用されている(例えば特許文献2参照)。一方で、反応後の接着層は強固な架橋層を形成しているため、特許文献1に開示されたような分離装置では容易に分離することができない。 [0004] 一般に熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂とが混在する廃プラスチックは、比重分離しリサイクルする方法が知られるが、樹脂によりその回収の容易さは異なっている。特に熱硬化性樹脂のリサイクルは熱分解が難しいため、リサイクルは難しいとの認識が一般的である。」 ウ 「発明が解決しようとする課題 [0007] 発明が解決しようとする課題は、プラスチック系複合廃棄物に混在する反応性接着剤でラミネートされた積層フィルムを、容易に単層フィルムに分離することの可能な、積層フィルムの分離回収方法を提供するものである。」 エ 「課題を解決するための手段 [0008] 即ち本発明は、接着剤でラミネート接着された積層フィルムの分離回収方法であって、前記積層フィルムを20〜90℃の加熱攪拌または超音波振動させながらモルホリン濃度が50質量%以上のモルホリン液に積層フィルムを浸漬する工程1と、分離した各層の単層フィルムを回収する工程2とを有する積層フィルムの分離回収方法を提供する。」 オ 「発明の効果 [0009] 本発明により、プラスチック系複合廃棄物に混在する反応性接着剤でラミネート接着された積層フィルムを、容易に単層フィルムに分離することができ、非反応性の接着剤、例えば熱可塑性樹脂接着剤でラミネート接着された積層フィルムや、押し出し積層法で熱融着して得られた積層フィルム等が混在するプラスチック系複合廃棄物を、より容易に回収分別再利用することができる。」 カ 「発明を実施するための形態 [0010] 本発明の積層フィルムの分離回収方法は、接着剤でラミネート接着された積層フィルムの分離回収方法であって、前記積層フィルムを20〜90℃の加熱攪拌または超音波振動させながらモルホリン濃度が50質量%以上のモルホリン液に積層フィルムを浸漬する工程1と、分離した各層の単層フィルムを回収する工程2とを有することを特徴とする。 ・・・中略・・・ [0025] 前記工程1において、前記モルホリン液に浸漬する回数は、1回でも数回に分けて行ってもよい。即ち、浸漬回数を1回行ったのち、分離した各層の単層フィルムを回収する工程2を行ってもよいし、浸漬回数を数回行ったのち工程2を行ってもよい。また工程1において複数浸漬を行う場合は、モルホリン液の濃度を変更したり、アルカリ溶液での浸漬を加えてもよく好ましい。特に、積層フィルム中がアルミ箔やアルミ蒸着膜を含有する場合は、アルミ箔やアルミ蒸着膜を容易に剥離あるいは溶解させるために、1回目の浸漬をモルホリン100%液で行った後、2回目の浸漬をモルホリンと水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム濃度0.5質量%〜10質量%)の1:1溶液で行い、その後工程2を行うことや、1回目の浸漬をモルホリン100%液で行った後、2回目の浸漬を水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム濃度0.5質量%〜10質量%)で行い、その後工程2を行う方法等が挙げられる。また該工程の間に、水洗や乾燥等、公知の工程を適宜加えることは好ましい。 [0026] 積層フィルムには、接着剤の他、商品名等の表示や装飾性を付与するための印刷インキ層を設けている場合が殆どであるが、前記モルホリン液に浸漬する工程においては、該印刷インキ層も剥離あるいは溶解させることができる。また前述の通りアルミニウム等の金属の箔や蒸着膜が積層している場合もあるが、モルホリン液に水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等の水溶液を混合することによって、金属の箔や蒸着膜も剥離あるいは溶解させることができる。 [0027] 本分離回収方法で使用するモルホリン液は、積層フィルムと接着剤や印刷インキとの界面に作用しその接着力を著しく低減させることで、積層フィルムと接着剤や印刷インキとの界面剥離を生じさせると推定される。通常反応型接着剤等の架橋後の塗膜はいかなる溶液にも溶解することは殆どないが、本発明では溶解させるわけではなく界面剥離を生じさせているので、短時間で効率よく分離回収が行えるものと推定される。 [0028](工程2) 積層フィルムから分離した接着剤層は、反応性接着剤が使用されている場合はモルホリン液へ溶解せずにモルホリン液中で残渣となっていることが多い。即ち工程1におけるモルホリン液中には、分離した各層の単層フィルムと、反応性接着剤や印刷インキ、金属箔等の残渣が浮遊あるいは溶解している状態となっている。これらをモルホリン液から取り出した後、分別して回収する。 具体的な方法の一例としては、例えば、浮上選別において、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン等の比重の軽いプラスチックフィルムと(浮物)、ポリオレフィンより比重の重いポリエステル、ナイロン等の縮合合成系フィルム、もしくは金属箔等の重量物を選別し、重量物を取り除き、次に、洗浄脱水工程で回収したプラスチックフィルムを洗浄・脱水し、遠心分離で比重の異なるプラスチックを分別する。例えば水に沈む比重1以上の塩化ビニル樹脂やポリエチレンテレフタレート等を含むプラスチックフィルム分離物と、塩化ビニル樹脂を含まないポリエチレンやポリプロピレン等のオレフィン系樹脂を含むプラスチックフィルム分離物に分けることができる。 さらなる分別は、浮遊分別で使用する液体、例えば水と有機溶剤との配合比率を適宜変更することにより比重を変化させることで可能である。 各々分離物は、乾燥後固化し再生品として、リサイクルプラスチックの再生原料として再利用される。 [0029](積層フィルム) 本分離回収方法の対象となる積層フィルムとしては、特に限定なく食品包装用や生活用品に使用されている反応性接着剤でラミネート接着された積層フィルムであるが、もちろん非反応性の接着剤、例えば熱可塑性樹脂接着剤でラミネート接着された積層フィルムや、押し出し積層法で熱融着して得られた積層フィルムも、本発明の分離回収方法で各々の単層フィルムに分離することができる。即ちリサイクルによって廃棄された様々な種類の樹脂層を有する積層フィルムを、特に再分別する必要はなく、一緒に処理できることが本発明の特徴である。 工程1でモルホリン液に浸漬する積層フィルムは、リサイクル廃棄回収後のそのままの形状で浸漬工程を行ってもよいが、ある程度裁断したほうが効率よく分離回収でき好ましい。具体的には、チップ上に裁断する方法、短冊状に裁断する方法が挙げられ、可能な限り多層フィルムの断面が溶液に接触するように裁断することが好ましい。 [0030] 本分離回収方法の対象である反応性接着剤でラミネート接着された積層フィルムは、少なくとも2つの樹脂フィルム層または金属箔や蒸着膜層の間に前記反応性接着剤からなる接着剤層を積層されていることが多い。具体的には、該積層フィルムにおいて、樹脂フィルム層を(F)と表現し、金属箔や蒸着膜層の金属箔層を(M)と表現し、前記反応性接着剤等の接着剤層を(AD)と表現すると、積層フィルムの具体的態様として以下の構成が考えられるが、もちろんこれに限定されることはない。 (F)/(AD)/(F)、(F)/(AD)/(F)/(AD)/(F)、(F)/(AD)/(M)/(AD)/(F)、(F)/(AD)/(M)、(F)/(AD)/(F)/(AD)/(M)/(AD)/(F)、(F)/(AD)/(M)/(AD)/(F)/(AD)/(F)、(M)/(AD)/(M)、(M)/(AD)/(F)/(AD)/(M)、(AD)/(F)/(AD)/(M)、(AD)/(F)/(AD)/(F)/(AD)、等。 本分離回収方法の対象である積層フィルムは、さらに、紙層、酸素吸収層、アンカーコート層、印刷層等を有することもある。 [0031] 樹脂フィルム層(F)は、求められる役割で分類すると、基材フィルム層(F1)や包装材料を形成する際にヒートシール部位となるシーラント層(F2)などとして機能する。 [0032] 例えば基材フィルム層(F1)となる樹脂フィルムとしては、例えば、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直線状低密度ポリエチレン、OPP(2軸延伸ポリプロピレン)、CPP(無延伸ポリプロピレン)などのポリオレフィン系フィルム;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系フィルム;ナイロン6、ナイロン6,6、メタキシレンアジパミド(N−MXD6)などのポリアミド系フィルム;ポリ乳酸などの生分解性フィルム;ポリアクリロニトリル系フィルム;ポリ(メタ)アクリル系フィルム;ポリスチレン系フィルム;ポリカーボネート系フィルム;エチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物(EVOH)系フィルム;ポリビニルアルコール系フィルム;ポリ塩化ビニリデン、等のKコート等、これらの顔料を含むフィルムが挙げられる。これらフィルムにアルミナ、またはシリカ等の蒸着した透明蒸着フィルムも使用してよい。 また前記フィルム材料の表面に火炎処理、コロナ放電処理、またはプライマー等のケミカル処理などの各種表面処理が実施されていることもある。 [0033] シーラント層(F2)となる可撓性ポリマーフィルムとしては、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、エチレン−酢酸ビニル共重合体などのポリオレフィン系フィルム、イオノマー樹脂、EAA樹脂、EMAA樹脂、EMA樹脂、EMMA樹脂、生分解樹脂のフィルムなどが好ましい。汎用名では、CPP(無延伸ポリプロピレン)フィルム、VMCPP(アルミ蒸着無延伸ポリプロピレンフィルム)、LLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン)、LDPE(低密度ポリエチレン)、HDPE(高密度ポリエチレン)、VMLDPE(アルミ蒸着無低密度ポリエチレンフィルム)フィルム、これらの顔料を含むフィルム等が挙げられる。フィルムの表面には火炎処理、コロナ放電処理、またはプライマー等のケミカル処理などの各種表面処理が実施されていてもよい。 ・・・中略・・・ [0046] また、積層フィルムには、接着剤の他、商品名等の表示や装飾性を付与するための印刷インキ層を設けている場合もある。印刷層は、グラビア印刷機、フレキソ印刷機、オフセット印刷機、インクジェット印刷機等を使用し、有機溶剤型印刷インキ、水性型又は活性エネルギー線硬化型インキを印刷されている場合が多い。この中で、食品包装用をはじめとしたプラスチック積層フィルムに最も多く使用されているインキはグラビアインキやフレキソインキであるが、本発明においては前述の通り該印刷インキ層も剥離することができる。」 キ 「請求の範囲 [請求項1]接着剤でラミネート接着された積層フィルムの分離回収方法であって、前記積層フィルムを20〜90℃の加熱攪拌または超音波振動させながらモルホリン濃度が50質量%以上のモルホリン液に積層フィルムを浸漬する工程1と、 分離した各層の単層フィルムを回収する工程2とを有することを特徴とする、積層フィルムの分離回収方法。 [請求項2]前記接着剤が、ポリイソシアネート組成物とポリオール組成物とを含有する反応性接着剤である請求項1に記載の積層フィルムの分離回収方法。 [請求項3]前記積層フィルムは、印刷インキ層を有する請求項1または2に記載の積層フィルムの分離回収方法。」 (2)甲1に記載された発明 甲1の上記(1)に摘記した[0026]、[0028]、[0029]、請求項1及び請求項3を参照すると、甲1には、請求項3に係る発明を実施するための形態として、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。 「接着剤でラミネート接着された積層フィルムの分離回収方法であって、前記積層フィルムを20〜90℃の加熱攪拌または超音波振動させながらモルホリン濃度が50質量%以上のモルホリン液に積層フィルムを浸漬する工程1と、 分離した各層の単層フィルムを回収する工程2とを有する、積層フィルムの分離回収方法であって、 前記積層フィルムは、印刷インキ層を有し、 前記モルホリン液に浸漬する工程においては、該印刷インキ層も剥離あるいは溶解させ、 工程1におけるモルホリン液中には、分離した各層の単層フィルムと、反応性接着剤や印刷インキ、金属箔等の残渣が浮遊あるいは溶解している状態となっており、 これらをモルホリン液から取り出した後、分別して回収する工程2は、浮上選別において、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン等の比重の軽いプラスチックフィルムと(浮物)、ポリオレフィンより比重の重いポリエステル、ナイロン等の縮合合成系フィルム、もしくは金属箔等の重量物を選別し、重量物を取り除き、次に、洗浄脱水工程で回収したプラスチックフィルムを洗浄・脱水し、遠心分離で比重の異なるプラスチックを分別し、水に沈む比重1以上の塩化ビニル樹脂やポリエチレンテレフタレート等を含むプラスチックフィルム分離物と、塩化ビニル樹脂を含まないポリエチレンやポリプロピレン等のオレフィン系樹脂を含むプラスチックフィルム分離物に分け、各々分離物は、乾燥後固化し再生品として、リサイクルプラスチックの再生原料として再利用され、 リサイクルによって廃棄された様々な種類の樹脂層を有する積層フィルムを、特に再分別する必要はなく、一緒に処理するものであり、 工程1でモルホリン液に浸漬する積層フィルムは、ある程度裁断する、 積層フィルムの分離回収方法。」 (3)甲2の記載 甲2は、本件出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ、そこには、以下の記載がある。 ア 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 熱可塑性重合体フィルムの少なくとも片面に、アルカリ性温湯中でインキを除去させる中間層がインキ層と基材層との間に存在することを特徴とするラベル。 【請求項2】 アルカリ性温湯中でインキを除去させる中間層がアルカリ性温湯中で膨潤又は溶解可能な樹脂組成物を含有することを特徴とする請求項1記載のラベル。 【請求項3】 アルカリ性温湯中で膨潤又は溶解可能な樹脂組成物がポリエステル系樹脂、ポリアクリル系樹脂、アクリル変性ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル変成ポリウレタン樹脂、ポリオレフィン系樹脂から選ばれる少なくとも1種類以上からなることを特徴とする請求項1、2のいずれかに記載のラベル。 【請求項4】 アルカリ性温湯中で膨潤又は溶解可能な樹脂組成物がポリエステル系樹脂であることを特徴とする請求項1、2、3のいずれかに記載のラベル。 【請求項5】 アルカリ性温湯中で膨潤又は溶解可能な樹脂組成物がアクリル変性ポリエステル系樹脂であることを特徴とする請求項1、2、3、4のいずれかに記載のラベル。 【請求項6】 熱可塑性重合体フィルムが熱収縮性フィルムであることを特徴とする請求項1、2、3、4、5のいずれかに記載のラベル。 【請求項7】 熱収縮性フィルムがポリエステル系熱収縮性フィルムであることを特徴とする請求項6に記載のラベル。 【請求項8】 熱収縮性フィルムの熱収縮率が30〜80%であることを特徴とする請求項6、7のいずれかに記載のラベル。 【請求項9】 請求項1〜8のいずれかに記載のラベルを装着したことを特徴とするボトル。 【請求項10】 ラベルを構成する熱可塑性重合体と、ボトルを構成する熱可塑性重合体とが同種の重合体であることを特徴とする請求項9記載のボトル。 【請求項11】 装着ラベルのボトル周方向の熱収縮率が、0.1%以上80%未満であることを特徴とする請求項9又は10に記載のボトル。 【請求項12】 請求項1〜8のいずれかに記載のラベルをアルカリ性温湯中に浸漬して、ラベル上のインキ層と基材層との間に存在する中間層を膨潤又は溶解させ、インキ層をラベル上から除去することを特徴とするインキ除去方法。 【請求項13】 請求項9〜11のいずれかに記載のラベルを装着したボトルを、アルカリ性温湯中に浸漬してラベル上のインキ層と基材層との間に存在する中間層を膨潤又は溶解させ、インキ層をラベル上から除去することを特徴とするインキ除去方法。 【請求項14】 請求項13に記載の方法によりインキ層を除去したラベルを、該ラベルを装着したボトルと共に溶融し、再生することを特徴とするラベル付ボトルの再生方法。 【請求項15】 請求項14記載の方法により得られた再生ペレット。」 イ 「【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、印刷されたインキを除去することができるラベル、そのラベルを装着したボトル、それらのインキ除去方法、再生方法及びそれらの再生ペレット、に関するものである。」 ウ 「【0002】 【従来の技術】近年、ボトルは、ガラス、金属製等のボトルから重合体、特に熱可塑性重合体製のボトルが耐破壊性、軽量性、透明性等が優れることから年々使用量が増加してきている。特に、飲料分野での重合体ボトル化は目覚ましく、小型ボトルから大型ボトルまで大量に使用されている。その中でも、ポリエチレンテレフタレートを主成分とするボトル(以下「PETボトル」と略称する。)の使用量の伸びは著しい。 【0003】一方、最近の地球環境問題への意識の高まりから熱可塑性重合体からなるボトルのリサイクル問題への対応が迫られている。熱可塑性重合体からなるボトル、特に、PETボトルのリサイクルへの関心は大きくリサイクルシステムの早期の確立が必要とされている。PETボトルには、一般にポリオレフィン系のストレッチラベルやポリエステル、ポリスチレン、塩化ビニル等からなる熱収縮ラベル及びポリプロピレンフィルム等からなるタックラベル等のラベルが装着されている。PETボトルのリサイクルに関しては、通常、ラベルが付いたまま一般消費者から回収され再生業者に持ち込まれ、持ち込まれたボトルは洗浄後一次粉砕によりラベルの除去作業が行われるが、粉砕物の中にはまだ多量のラベルが含まれている。そのため、二次粉砕、ラベルの液比重分離、脱水・乾燥、風力比重分離及びペレタイズ工程を経て再生ペレットを得ていた。図2に典型的な従来のラベル付ボトルから熱可塑性重合体をペレットとして回収する工程を示す。」 エ 「【0004】 【発明が解決しようとする課題】上記従来のラベル、そのラベルを装着したボトルの再生方法においては、ラベルは各種分離工程により分離されるが再生熱可塑性重合体の純度を向上させると原料の再生比率が低下してしまうという問題がある。さらに、これらの工程を経た再生熱可塑性重合体中の不純物としては、ラベル樹脂、インキ等があり、特にインキは少量でも再生ペレット全体が着色してしまうという問題があった。 【0005】したがって、ボトルのリサイクルを効率的に行うためには、再生熱可塑性重合体の純度を向上させるため、ラベル及びラベルのインキの混入を防ぐことが必要である。これまでに、ラベルの素材である熱可塑性重合体の改良が行われ、比重分離しやすい、PETよりも低比重の重合体例えばポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンのラベルが提案されてきたがインキ層が乗るため低比重にならないので完全な分離は不可能である、という問題があった。 【0006】また、PETボトルに混入しても問題にならない同種のポリエステル系のラベルも提案されたがインキ層の分離ができず、再生ペレットが着色するという問題未解決のままであった。 【0007】本発明は、上記従来のラベル、そのラベルを装着したボトルの再生方法の有する問題点を解決し、インキ層を容易に除去することのできるラベル、そのラベルを装着したボトル、ラベル上のインキ層を除去する方法、前記ラベルを装着したボトルからラベル上のインキ層を除去する方法、インキを除去したラベルとボトルとを再生する方法及び再生ペレット、を提供することを目的とする。」 オ 「【0008】 【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、ラベルは、熱可塑性重合体フィルムの少なくとも片面にアルカリ性温湯中で溶解または膨潤し、結果としてインキを除去させる中間層を、インキ層と基材層との間に存在する層を有することを特徴とする。」 カ 「【0034】 【発明の実施の形態】以下、本発明のラベル並びにそのラベルを装着したボトル及びその再生方法の実施の形態を説明する。 【0035】本発明のラベルの基材フィルムとしては、熱可塑性フィルムであれば特に制約はない。また、収縮性フィルム、非収縮性フィルム又はストレッチ性フィルムのいずれであるかについての制約もない。具体的には、収縮性フィルムとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系フィルム、ポリスチレン系の非発泡、発泡フィルム、ポリ塩化ビニルフィルム及びポリエステル系フィルム等の一軸又は二軸延伸フィルムが挙げられる。非収縮性フィルムとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系フィルム、ポリスチレン系フィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム、ナイロン−6、ナイロン−66等のポリアミド系フィルム、ポリエステル系フィルム及びその他ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン等の耐熱性エンジニアリングプラスチックフィルム等の未延伸、一軸又は二軸延伸フィルムが挙げられる。好ましくは、PETボトルの胴部に装着するラベルの素材としては、粉砕したものを液体中で比重分離しやすいポリオレフィン系フィルム、ポリスチレン系フィルム及び回収ペレットに混入しても問題がないポリエステル系フィルムが挙げられる。また、特に好ましくは、インキ層が洗浄除去されれば回収ペレットに混入しても良いことから比重分離及び風選を必要としないポリエステル系フィルムが挙げられる。このように、ラベルを構成する熱可塑性重合体はボトルを構成する熱可塑性重合体と同種の重合体であることが好ましい。同種の重合体とは、主たる繰り返し単位が同じ重合体のことであり、実質的に相溶性を有している重合体である。 【0036】さらに好ましくは、洗浄工程でフィルムが熱収縮することによりインキ層との間の界面が剥離して除去が容易になる熱収縮性ポリエステル系フィルムが好ましい。熱収縮することによりボトルに装着された熱収縮後のラベルは、まだ残留収縮性を有することが好ましく、ボトルからとりはずして95℃温湯中に10秒間浸漬した後に、ボトルの径方向に測定した熱収縮率が0.1%以上80%未満であることが好ましい。熱収縮率が0.1%未満ではインキ層と熱可塑性フィルムが縮むことにより界面に生ずる力が小さくなるためインキ脱落率が低下し、一方、熱収縮率が80%以上であるとラベルが折れ曲がりが大きくなりインキ除去率が低下するので好ましくない。 ・・・中略・・・ 【0044】本発明のラベルはその少なくとも片面にインキ層と基材層との間に存在する中間層を有しており、そのインキ層と基材層との間に存在する中間層は、アルカリ性温湯中で膨潤又は溶解することによりインキ層を基材層から除去することができる。ここで、アルカリ性温湯中でインキを除去させる中間層とは、試料ラベル1gを1cm角に切断し100ccのNaOH3%溶液(90℃)中で30分攪拌した後、水洗乾燥しインキ除去率が90%である中間層を意味する。除去されるのは、中間層がアルカリ性温湯中で主として膨潤又は溶解することによる。実用的には、弱アルカリ性温水による洗浄は通常30分前後行われ、その間にインキ層が脱落するものであればよい。また、再生ペレットの純度をできるだけ上げる意味から、中間層自身も上記処理によって90%以上除去できることが好ましい。 ・・・中略・・・ 【0047】また、特に制約はないが、これらの樹脂の中に、例えば、アルカリ性温湯中で溶解可能な又は膨潤性の化合物を添加することもできる。アルカリ性温湯中で溶解可能な又は膨潤性の化合物としては、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、硝酸カリウム、酢酸ナトリウム、硫酸アンモニウム等の無機塩、アスコルビン酸、セバシン酸、アゼライン酸等の有機酸又はその塩、ポリエチレンオキサイド、ポリテトラメチレンオキサイド等の高分子ポリエーテル、ポリビニルアルコール及びポリアクリル酸又はその金属塩並びにそれらの共重合体等が挙げられる。また、上記化合物としては常温で液体のものも挙げられ、具体的には、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−プロピルアルコール、イソブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、シクロヘキシルアルコール、ベンジルアルコール等のアルコール類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールグリセリン、ペンタエリスリトール等の多価アルコールのモノメチル、モノエチル、モノプロピル、モノブチルエーテルあるいはモノメチル、モノエチルエステル等、その他、ジオキサン、アセトン、メチルエチルケトン、ジアセトンアルコール、ジメチルホルムアミド、テトレヒドロフラン等が挙げられる。中でもインキ層中に残存することが必要であることから高沸点のものが好ましく、具体的には、沸点が50℃以上のものが好ましく、さらにアルカリ性温湯への溶解可能性から多価アルコールのモノアルキルエーテルが特に好ましい。インキ層と基材層との間に存在する中間層に用いられる、アルカリ性温湯中で膨潤または溶解可能な樹脂を熱可塑性重合体フィルムへの積層方法は一般の塗布法や製膜中に塗布、乾燥後延伸する方法でもよい。また、溶融押し出し可能な樹脂であれば共押し出し法でもかまわない。またアルカリ性温湯中で膨潤または溶解可能な樹脂を一般のドライラミネートや押し出しラミネート等のラミネート加工による積層でもかまわない。しかし安価に上記積層フィルムを得るには塗布法が最適である。 ・・・中略・・・ 【0049】本発明のラベルを製造するためのインキの印刷方法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、グラビア印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷等が挙げられる。インキ層の厚みとしては、0.1μm〜100μmが好ましい。0.1μm未満ではインキ発色が不十分であり、一方100mを越えるとインキ層が脆くなり割れやすくなる。 【0050】本発明において、ラベルからインキ層と基材層との間に存在する中間層を膨潤又は溶解させてインキ層を除去するには、アルカリ性温湯中に浸漬して行う。実用的には、ラベル1gを1cm以下に切断後、90℃のNaOH3%溶液100cc中で30分以上撹拌することによりインキ層を除去することができる。しかる後洗浄し、濾過、さらに水で洗浄後乾燥することにより、インキ層の除去率90%以上となるような方法が挙げられる。具体的には、ラベル処理能力、処理設備の点からラベルを粉砕した形態が好ましく粉砕されたフィルムの大きさとしては0.1mm角以上10cm角以下が好ましい。0.1mm角未満ではその後の濾過工程での効率が悪く、一方10cm角を越えるとインキの除去に時間がかかることになる。またインキ層を除去する処理工程の温湯は、アルカリ性であることが必要でありpHとしては9.0以上が好ましい。アルカリ性付与の方法としては、NaOH、KOH、アンモニア等の温湯への添加が挙げられる。洗浄液の温度としては50〜100℃の温湯が好ましく温度が高い方が脱落効率が向上する。これらのラベルと洗浄液の使用量はラベルの大きさにより一様ではないが非常に大きいものでは5〜20倍量、粉砕した小さなものでは0.2〜5倍量必要である。また、効率向上のために循環式の洗い流しを行ってもよい。洗浄時間としては、リサイクル工程上30分以内が好ましい。インキ層の脱落率としては、90%以上であればよいが、好ましくは98%以上、さらに好ましくは99.9%以上である。 【0051】本発明のボトルは、常法によりラベルを少なくとも胴部をかこむようにして装着することができる。また、回収された、本発明のラベルが装着されたボトルは、典型的にはボトル洗浄を行った後粉砕を行い、次いでアルカリ温湯中でインキ層を除去し、そのまま水洗・乾燥してボトルとラベルの再生熱可塑性重合体フレークを得る。これを押出機により再生熱可塑性重合体ペレットに再生して利用することができる。」 キ 「【0057】 【発明の効果】本発明のラベルは、アルカリ性温湯中に浸漬することにより、容易に熱可塑性重合体フィルムからインキ層を除去することができ、また、ラベルを構成する熱可塑性重合体フィルムを熱収縮性フィルムとすることによりインキ層がはずれやすく、アルカリ性温湯中に浸漬することによりさらに容易にインキ層を除去することができる。 ・・・中略・・・ 【0062】この場合、ボトルを構成する熱可塑性重合体をラベルを構成する熱可塑性重合体と同種の重合体にすることにより、ボトルとラベルとを手作業での分離や液比重分離、風力比重分離等の複雑な分離工程を要せず、ボトルとラベルとが混在する状態でインキ層をアルカリ性温湯中で分離・除去したあと、ボトルとラベルを同時に回収工程に乗せて再利用することができる。 ・・・中略・・・ 【0066】また、前記方法によりインキ層を除去したラベルを、該ラベルを装着したボトルと共に溶融し、再生するラベル付ボトルの再生方法により、インキ層のないラベルとボトルをそのまま回収工程で再生利用することができる。 【0067】さらに、上記方法により得られた再生ペレットはインキを含有しない状態で再度各種成形に利用することができる。」 ク 「【図面の簡単な説明】 【図1】 本発明のラベル付ボトルから熱可塑性重合体をペレットとして回収する工程の一例を示す図である。 【図2】 従来のラベル付ボトルから熱可塑性重合体をペレットとして回収する工程の一例を示す図である。」 ケ 「【図1】 ![]() 」 コ 「【図2】 ![]() 」 (4)甲2に記載された発明 甲2の上記(3)に摘記した請求項1、2、9、13、14、【0035】、【0044】、【0050】、【0051】、【0067】を参照すると、甲2には、請求項1、2、9、13をすべて引用する請求項14に係る発明を実施するための形態として、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されている。 「熱可塑性重合体フィルムの少なくとも片面に、アルカリ性温湯中でインキを除去させる中間層がインキ層と基材層との間に存在するラベルであって、アルカリ性温湯中でインキを除去させる中間層がアルカリ性温湯中で膨潤又は溶解可能な樹脂組成物を含有するラベルを装着したボトルを、アルカリ性温湯中に浸漬してラベル上のインキ層と基材層との間に存在する中間層を膨潤又は溶解させ、インキ層をラベル上から除去するインキ除去方法によりインキ層を除去したラベルを、該ラベルを装着したボトルと共に溶融し、再生する、ラベル付ボトルの再生方法であって、 ラベルの基材フィルムは、熱可塑性フィルムであり、 中間層がアルカリ性温湯中で主として膨潤又は溶解することにより、中間層自身も上記処理によって90%以上除去され、 ラベルからインキ層と基材層との間に存在する中間層を膨潤又は溶解させてインキ層を除去するには、アルカリ性温湯中に浸漬して行うものであって、ラベル1gを1cm以下に切断後、90℃のNaOH3%溶液100cc中で30分以上撹拌することによりインキ層を除去し、 回収された、ラベルが装着されたボトルは、ボトル洗浄を行った後粉砕を行い、次いでアルカリ温湯中でインキ層を除去し、そのまま水洗・乾燥してボトルとラベルの再生熱可塑性重合体フレークを得、これを押出機により再生熱可塑性重合体ペレットに再生して利用し、 得られた再生ペレットはインキを含有しない状態で再度各種成形に利用する、 ラベル付ボトルの再生方法。」 2 甲1発明に基づく新規性欠如及び進歩性欠如について (1)本件特許発明1 ア 対比 本件特許発明1と甲1発明を対比する。 (ア)出発原料として用意すること a フィルムラベル 本件特許発明1における「フィルムラベル」とは、本件明細書等を参照すると「熱可塑性樹脂を主成分とする樹脂フィルム(樹脂層)に印刷層が形成され、ラベルとして構成されたもの」(【0021】)であって、「ラベル」とは、一般に、「貼り紙。付箋。レッテル。レーベル。」(「広辞苑」,第四版,株式会社岩波書店,1991年11月15日,2671頁)を意味し、本件明細書等にも「ペットボトルから取り外された状態であってもよく、ペットボトルに装着された状態であってもよい。」(【0024】)と記載があることから、貼付可能なものと解される。 一方、甲1発明における「積層フィルム」とは、文言からみて「積層」された「フィルム」であって、「印刷インキ層を有し、」「様々な種類の樹脂層を有する」ものの、それ自体、ペットボトル等に貼付可能に、すなわちラベルとして構成されたものではない。 b 出発原料 甲1発明は、「積層フィルムの分離回収方法」に係る発明であるから、当該「積層フィルム」を出発原料として用意することを備える点は明らかである。 c まとめ よって、甲1発明と本件特許発明1は、「インキ層及び樹脂層を有する」「フィルム」「を出発原料として用意すること」を備える点で共通する。 (イ)熱可塑性樹脂を回収すること 甲1発明の「オレフィン系樹脂を含むプラスチックフィルム分離物」は、技術的にみて、本件特許発明1の「熱可塑性樹脂」に相当する。 甲1発明の「オレフィン系樹脂を含むプラスチックフィルム分離物」は、「浮上選別」において「浮物」とされ、「水に沈む比重1以上の塩化ビニル樹脂やポリエチレンテレフタレート等を含むプラスチックフィルム分離物」と分けられているから、本件特許発明1の「比重が1未満」という条件を満たす。 甲1発明の「回収」は、本件特許発明1の「回収」に相当する。 よって、甲1発明と本件特許発明1は、「前記出発原料から比重が1未満の熱可塑性樹脂を回収すること」を備えるという要件を満たす。 (ウ)回収された熱可塑性樹脂を原料に含めること 甲1発明は、上記(イ)のとおり、「前記出発原料から比重が1未満の熱可塑性樹脂を回収すること」を備えるところ、「各々分離物は、乾燥後固化し再生品として、リサイクルプラスチックの再生原料として再利用され」る。 よって、甲1発明と本件特許発明1は、「前記回収された熱可塑性樹脂を原料に含め、比重が1未満の樹脂」を「リサイクルプラスチックの再生原料として再利用」する点で共通する。 (エ)個片化すること 甲1発明の「モルホリン液に浸漬する積層フィルム」を「ある程度裁断」することは、本件特許発明1の「前記出発原料」「を個片化すること」に相当する。 (オ)インキ層が除去された個片を得ること 甲1発明の「モルホリン液に浸漬する積層フィルム」は、「ある程度裁断」されているから、本件特許発明1の「フィルム」「の個片」に相当する。 甲1発明の「積層フィルム」を「モルホリン液に浸漬させる工程」における、「積層フィルムに」設けられた「印刷インキ層も剥離あるいは溶解させる」ことは、本件特許発明1の「インキ層を分離」することに相当する。 甲1発明の「モルホリン液に浸漬する工程」における「各層の単層フィルム」は、「ある程度裁断」された「様々な種類の樹脂層を有する積層フィルム」から「分離」し、「印刷インキ層も剥離あるいは溶解」させているので、本件特許発明1の「前記印刷インキ層が除去された」「樹脂層の個片」に相当する。 よって、甲1発明と本件特許発明1は、「前記フィルム」「の個片から前記インキ層を分離して、前記インキ層が除去された」「前記樹脂層の個片を得ること」を含む点で共通する。 (カ)比重が1未満の個片を回収すること 甲1発明の「モルホリン液から取り出した後、分別」する「単層フィルム」は、上記(オ)と同様に、本件特許発明1の「樹脂層」「の個片」に相当する。 甲1発明の「浮上選別」は、本件特許発明1の「比重分離」に相当する。 甲1発明の「オレフィン系樹脂を含むプラスチックフィルム分離物」は、上記(イ)と同様に、本件特許発明1の「比重が1未満」という条件を満たす。 甲1発明の「回収」される「オレフィン系樹脂を含むプラスチックフィルム分離物」は、「ある程度裁断」された「単層フィルム」であるから、本件特許発明1の「樹脂層」「の個片」に相当する。 よって、甲1発明と本件特許発明1は、「前記樹脂層」「の個片を比重分離して、比重が1未満の」「前記樹脂層」「の個片を回収すること」を含む点で共通する。 (キ)製造方法 甲1発明は、「各々分離物は、乾燥後固化し再生品として、リサイクルプラスチックの再生原料として再利用され」るので、本件特許発明1と、「樹脂」「再生品」「の製造方法」である点で共通する。 イ 一致点及び相違点 本件特許発明1と甲1発明は、下記(ア)の点で一致し、下記(イ)の点で相違する。 (ア)一致点 「インキ層及び樹脂層を有するフィルムを出発原料として用意することと、 前記出発原料から比重が1未満の熱可塑性樹脂を回収することと、 前記回収された熱可塑性樹脂を原料に含め、比重が1未満の樹脂をリサイクルプラスチックの再生原料として再利用することと、 を備え、 前記比重が1未満の熱可塑性樹脂を回収することは、 前記出発原料を個片化することと、 前記フィルムの個片から前記インキ層を分離して、前記インキ層が除去された前記樹脂層の個片を得ることと、 前記樹脂層の個片を比重分離して、比重が1未満の前記樹脂層の個片を回収することと、 を含む、 樹脂再生品の製造方法。」 (イ)相違点 相違点1−1 本件特許発明1においては、「インキ層及び樹脂層を有するフィルムラベル」を、「出発原料として用意する」のに対し、 甲1発明において、「出発原料として用意する」「積層フィルム」は、「インキ層及び樹脂層を有する」ものの、「ラベル」として構成されたものではない点。 相違点1−2 本件特許発明1においては、回収した「比重が1未満の熱可塑性樹脂」を押出成形し、樹脂フィルムを製造するのに対し、 甲1発明においては、比重が1未満である「オレフィン系樹脂を含むプラスチックフィルム分離物」を「リサイクルプラスチックの再生原料として再利用」して再生品を製造するものの、押出成形することについても、再生品として樹脂フィルムを製造することについても特定されていない点。 ウ 判断 事案に鑑み、相違点1−1について検討する。 (ア)本件特許発明1は、「ラベル及びボトルから分離回収される熱可塑性樹脂のうち、・・・比重が1未満の熱可塑性樹脂については、・・・分離回収された後に廃棄されがちである」(【0006】)という従来技術が有する課題を解決すべく、「インキ層及び樹脂層を有するフィルムラベル及び該フィルムラベルが装着される樹脂ボトルの一方から比重1未満の熱可塑性樹脂を回収し、これを利用して比重が1未満となる樹脂フィルムを製造する方法を提供する」(【0007】)ものであって、「フィルムラベル」とは、その文言、及び、本件特許明細書等の「ペットボトルから取り外された状態であってもよく、ペットボトルに装着された状態であってもよい」(【0024】)との記載からみて、ボトル等に装着して用いることが想定されたものである。 他方、甲1発明は、甲1の技術分野の項にあるとおり、「接着剤を使用しラミネート法により積層された樹脂フィルムのリサイクル方法に関する」([0001])ものであって、当該技術分野においては、「プラスチック製容器包装のリサイクル義務化により、食品包装用をはじめとしたプラスチック廃棄物の回収分別再利用化が行われている」ところ、「プラスチック廃棄物」には「印刷インキで商品名等の表示や装飾性を施された積層フィルム」([0002])が含まれており、これら「プラスチック系複合廃棄物に混在する反応性接着剤でラミネートされた積層フィルムを、容易に単層フィルムに分離することの可能な、積層フィルムの分離回収方法を提供」([0007])すべくなされたものである。そして、甲1発明において、その分離回収対象である反応性接着剤でラミネート接着された積層フィルムは、典型的には、「少なくとも2つの樹脂フィルム層または金属箔や蒸着膜層の間に前記反応性接着剤からなる接着剤層を積層されている」([0030])ものであって、甲1発明は、樹脂フィルム層同士、あるいは、樹脂フィルムと金属箔や蒸着膜がラミネートされた積層フィルムの分離回収方法において、モルホリン液により、「積層フィルムと接着剤や印刷インキとの界面に作用しその接着力を著しく低減させることで、積層フィルムと接着剤や印刷インキとの界面剥離を生じさせる」([0027])という点に技術的特徴を有する発明である。 しかるところ、甲1には、積層フィルムに関し、それ自体でのプラスチック製容器包装としての使用が想定される、反応性接着剤でラミネートされた積層フィルムの分離回収方法に係る技術が記載されているのであって、当該積層フィルムを、ボトル等他のプラスチック容器に装着して使用することが念頭におかれたものではないといえる。このことは、甲1の[0029]における「食品包装用や生活用品に使用されている反応性接着剤でラミネート接着された積層フィルム」との記載及び[0030]に示される積層フィルムの層構造とも符合する。 してみれば、甲1の記載に接した当業者であれば、「出発材料として用意する」「積層フィルム」として、プラスチック製容器包装として用いられる、2つの樹脂フィルム層または金属箔や蒸着膜層を反応性接着剤でラミネート接着した積層フィルムを想定するのであって、甲1発明において、これに代えて、用途も構造も異なるボトル等に装着するフィルムラベルを用いる動機付けはないといえる。 (イ)甲2に記載の技術的事項の適用について ここで、甲2には、「従来のラベル、そのラベルを装着したボトルの再生方法の有する問題点を解決し、インキ層を容易に除去できるラベル、そのラベルを装着したボトル、・・・インキを除去したラベルとボトルとを再生する方法及び再生ペレット、を提供することを目的」(【0007】)とすること、即ち、ボトルに装着され、インキ層を有するラベルを回収する技術が記載されている。 そして、甲2の【0044】には、「本発明のラベルはその少なくとも片面にインキ層と基材層との間に存在する中間層を有しており、そのインキ層と基材層との間に存在する中間層は、アルカリ性温湯中で膨潤又は溶解することによりインキ層を基材から除去することができる。」こと、「インキ層と基材層との間に存在する中間層に用いられる、アルカリ性温湯中で膨潤または溶解可能な樹脂を熱可塑性重合体フィルムへの積層方法」として、「アルカリ性温湯中で膨潤または溶解可能な樹脂を一般のドライラミネートや押し出しラミネート等のラミネート加工による積層でもかまわない。」(【0047】)ことが記載されている。しかしながら、当該「ラミネート加工による積層」は、反応性接着剤でラミネート接着したものであるとの明示はなく、かえって、アルカリ性温湯中で主として膨潤又は溶解し、インキ層を基材から除去させるための構成であることは技術的にみて明らかである。 そうすると、甲1発明における積層フィルムは、2つの樹脂フィルム層または金属箔や蒸着膜層を反応性接着剤でラミネート接着した積層フィルムであるのに対し、甲2に記載の積層フィルムは、インキ層と基材層との間に存在する中間層の層構造であって、しかも中間層はアルカリ性温湯で膨潤溶解可能な層であって、積層フィルムの層構造のみならず中間層の構成・機能を明らかに異にするものであるから、たとえ、甲2に、ラベルとして構成された積層フィルムを出発原料として用いることが記載されているにしても、反応性接着剤でラミネート接着した積層フィルムをモルホリン液で界面解離することに技術的特徴を有する甲1発明において、「出発原料として用意する」「積層フィルム」として、反応性接着剤を用いず、層構造を異にする甲2記載のラベルとして構成された積層フィルムを採用し、相違点1−1に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。 そして、本件特許発明1は、上記相違点1−1に係る構成により、フィルムラベルや樹脂ボトルに含まれる比重1未満の熱可塑性樹脂の循環を形成することができるという格別な効果を奏するものである。 エ 特許異議申立人の主張について 特許異議申立人は、特許異議申立書36頁において、「甲1発明における「A:本分離回収方法の対象となる積層フィルム(【0029】)。積層フィルムには、印刷インキ層を設けている(【0046】)」は、本件特許発明1の「A:インキ層及び樹脂層を有するフィルムラベル、及び該フィルムラベルが装着された樹脂ボトルの少なくとも一方を出発原料として用意すること」に相当する。」と主張する。 しかし、上記ウ(ア)に記載したとおり、「インキ層及び樹脂層を有するフィルムラベル」「を出発原料として用意すること」は、甲1発明が備えるものではないし、甲1に記載も示唆もされていない。 よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 オ 本件特許発明1についての小括 したがって、本件特許発明1は、甲1に記載された発明ではない。 また、相違点1−2について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1に記載された発明、及び、特許異議申立人が提出したその他の甲号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。 (2)本件特許発明2〜9 本件特許の特許請求の範囲の請求項2〜9は、いずれも、請求項1を直接又は間接的に引用するので、本件特許発明2〜9は、本件特許発明1の構成を全て具備する。 そうすると、上記(1)と同様に、本件特許発明2〜9は、甲1に記載された発明でない。また、本件特許発明2〜9は、甲1に記載された発明、及び、特許異議申立人が提出したその他の甲号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 3 甲2発明に基づく進歩性欠如について (1)本件特許発明1 ア 対比 本件特許発明1と甲2発明を対比する。 (ア)出発原料として用意すること a フィルムラベル 甲2発明の「ラベル」の「インキ層」は、本件特許発明1の「インキ層」に相当する。 甲2発明の「ラベル」の「基材層」は、「ラベルの基材フィルムは、熱可塑性フィルム」であるので、本件特許発明1の「樹脂層」に相当する。 甲2発明の「ラベル」の「中間層」も、「アルカリ性温湯中で膨潤又は溶解可能な樹脂組成物を含有する」ので、本件特許発明1の「樹脂層」に相当する。 そうすると、甲2発明の「熱可塑性重合体フィルムの少なくとも片面に、アルカリ性温湯中でインキを除去させる中間層がインキ層と基材層との間に存在するラベル」は、本件特許発明1の「インキ層及び樹脂層を有するフィルムラベル」に相当する。 b 出発原料 甲2発明の「熱可塑性重合体フィルムの少なくとも片面に、アルカリ性温湯中でインキを除去させる中間層がインキ層と基材層との間に存在するラベルを装着したボトル」は、本件特許発明1の「インキ層及び樹脂層を有するフィルムラベル」「が装着された樹脂ボトル」に相当する。 甲2発明は、「ラベル付きボトルの再生方法」であるから、「熱可塑性重合体フィルムの少なくとも片面に、アルカリ性温湯中でインキを除去させる中間層がインキ層と基材層との間に存在するラベルを装着したボトル」が本件特許発明1の「出発原料として用意」されることは技術的にみて明らかである。 c まとめ よって、本件特許発明1と甲2発明は、「インキ層及び樹脂層を有するフィルムラベル」「が装着された樹脂ボトル」「を出発原料として用意すること」を備えるという要件を満たす。 (イ)熱可塑性樹脂を回収すること 甲2発明は、「回収された、ラベルが装着されたボトルは、ボトル洗浄を行った後粉砕を行い、次いでアルカリ温湯中でインキ層を除去し、そのまま水洗・乾燥してボトルとラベルの再生熱可塑性重合体フレークを得」るので、本件特許発明1と、「前記出発原料から」「熱可塑性樹脂を回収すること」を備える点で共通する。 (ウ)回収された熱可塑性樹脂を原料に含めること 甲2発明は、「再生熱可塑性重合体フレークを得、これを押出機により再生熱可塑性重合体ペレットに再生して利用」し、「得られた再生ペレットはインキを含有しない状態で再度各種成形に利用する」ので、本件特許発明1と、「前記回収された熱可塑性樹脂を原料に含め」、「樹脂」「成形」品を「成形すること」を備える点で共通する。 (エ)個片化すること 甲2発明の「ラベルが装着されたボトルは、ボトル洗浄を行った後粉砕を行」うことは、本件特許発明1の「前記出発原料」「を個片化すること」に相当する。 (オ)インキ層が除去された個片を得ること 甲2発明の「ラベル1gを1cm以下に切断後、90℃のNaOH3%溶液100cc中で30分以上撹拌することによりインキ層を除去」することは、本件特許発明1の「フィルムラベル」「の個片から前記インキ層を分離」することを含んでいる。 甲2発明の「インキ層を除去したラベル」は、「熱可塑性重合体フィルムの少なくとも片面に、アルカリ性温湯中でインキを除去させる中間層がインキ層と基材層との間に存在するラベル」から「インキ層を除去」しており、その際に、「中間層自身も上記処理によって90%以上除去」される。そうすると、甲2発明の「インキ層を除去したラベル」は、「基材層」のみとなっているか、又は、除去しきれなかった「中間層」が残存した「基材層」となっているといえる。 「インキ層を除去する」前にすでに「個片」となっていること、及び、上記(ア)aのとおり、「中間層」及び「基材層」の両者が本件特許発明1の「樹脂層」に相当することを併せ考慮すると、甲2発明の「ラベル1gを1cm以下に切断後、90℃のNaOH3%溶液100cc中で30分以上撹拌することによりインキ層を除去」することは、本件特許発明1の「前記印刷インキ層が除去された」「前記樹脂層の個片を得ること」に相当する。 よって、甲2発明と本件特許発明1は、「前記フィルムラベルの個片から前記インキ層を分離して、前記インキ層が除去された」「前記樹脂層の個片を得ること」を含むという要件を満たす。 (カ)製造方法 甲2発明は、「再生熱可塑性重合体ペレットに再生して利用」し、「得られた再生ペレットはインキを含有しない状態で再度各種成形に利用する」ので、本件特許発明1と、「樹脂」「成形」品「の製造方法」である点で共通する。 イ 一致点及び相違点 本件特許発明1と甲2発明は、下記(ア)の点で一致し、下記(イ)の点で相違する。 (ア)一致点 「インキ層及び樹脂層を有するフィルムラベルが装着された樹脂ボトルを出発原料として用意することと、 前記出発原料から熱可塑性樹脂を回収することと、 前記回収された熱可塑性樹脂を原料に含め、樹脂成型品を成形することと、 を備え、 前記熱可塑性樹脂を回収することは、 前記出発原料を個片化することと、 前記フィルムラベルの個片から前記インキ層を分離して、前記インキ層が除去された前記樹脂層の個片を得ることと、 を含む、 樹脂成型品の製造方法。」 (イ)相違点 相違点2−1 本件特許発明1においては、回収する「熱可塑性樹脂」は「比重が1未満」であって、「前記出発原料、前記樹脂層、またはこれらの個片を比重分離して、比重が1未満の前記出発原料、前記樹脂層、またはこれらの個片を回収する」のに対し、 甲2発明においては、回収する「熱可塑性樹脂」が「比重が1未満」であるか否か明らかでなく、「前記出発原料、前記樹脂層、またはこれらの個片を比重分離して、比重が1未満の前記出発原料、前記樹脂層、またはこれらの個片を回収」するものでない点。 相違点2−2 本件特許発明1においては、「比重が1未満の熱可塑性樹脂」を押出成形し、樹脂フィルムを製造するものであって、「前記押出成形される比重が1未満の樹脂フィルムは、オレフィン系樹脂を主成分とする」ものであるのに対し、 甲2発明においては、「樹脂」成形品を「成形」するものの、「比重が1未満の熱可塑性樹脂」を押出成形することについても、「押出成形される比重が1未満の樹脂フィルムは、オレフィン系樹脂を主成分とする」ことについても特定されていない点。 ウ 判断 相違点2−1について検討する。 甲2発明は、「ボトルのリサイクルを効率的に行うためには、再生熱可塑性重合体の純度を向上させるため、ラベル及びラベルのインキの混入を防ぐことが必要である。これまでに、ラベルの素材である熱可塑性重合体の改良が行われ、比重分離しやすい、PETよりも低比重の重合体例えばポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンのラベルが提案されてきたがインキ層が乗るため低比重にならないので完全な分離は不可能である、という問題があった。」(【0005】)という課題に鑑みなされたものであって、「インキ層を容易に除去することのできるラベル、・・・インキを除去したラベルとボトルとを再生する方法」(【0007】)を提供することを目的とするものである。 そして、甲2の【0035】には、「好ましくは、PETボトルの胴部に装着するラベルの素材としては、粉砕したものを液体中で比重分離しやすいポリオレフィン系フィルム、ポリスチレン系フィルム及び回収ペレットに混入しても問題がないポリエステル系フィルムが挙げられる。また、特に好ましくは、インキ層が洗浄除去されれば回収ペレットに混入しても良いことから比重分離及び風選を必要としないポリエステル系フィルムが挙げられる。」と記載され、同【0062】には、「ボトルを構成する熱可塑性重合体をラベルを構成する熱可塑性重合体と同種の重合体にすることにより、ボトルとラベルとを手作業での分離や液比重分離、風力比重分離等の複雑な分離工程を要せず、ボトルとラベルとが混在する状態でインキ層をアルカリ性温湯中で分離・除去したあと、ボトルとラベルを同時に回収工程に乗せて再利用することができる。」と記載されているとおり、甲2には、「比重分離しやすいポリオレフィン系フィルム」を用いることが記載されているものの、特に好ましいラベルの素材は、「インキ層が洗浄除去されれば回収ペレットに混入しても良いことから比重分離及び風選を必要としないポリエステル系フィルム」である。 この点、甲2には、「従来のラベル付ボトルから熱可塑性重合体をペレットとして回収する工程の一例を示す図」である【図2】が記載され、そこには、「ラベルの液比重分離」と「風力比重分離」が記載されているものの、「本発明のラベル付ボトルから熱可塑性重合体をペレットとして回収する工程の一例を示す図」である【図1】には、「ラベルの液比重分離」と「風力比重分離」は記載されていない。 そうすると、甲2の上記記載に接した当業者であれば、ラベル上のインキ層を容易に除去することができれば、ボトルとラベルを同時に回収工程に乗せて再利用することができるから、ラベルの比重分離を行うことを要しないので、ポリエステル系フィルムを用いることが望ましいと解するのが自然であり、「ポリオレフィン系プラスチックおよびポリスチレン系プラスチック」を分離するという技術思想は読み取れない。 一方、甲3には、「プラスチック廃材の再資源化方法に関する」(【0001】)技術に関し、「ポリオレフィン系プラスチック組成物を再資源化するに際し、特定の改質材および/または添加剤を添加すれば、非相溶性樹脂であるポリスチレン系プラスチック組成物などの異物の混入により低下した物性を回復させることができるとの着想を得」(【0023】)、「ポリオレフィン系プラスチックおよびポリスチレン系プラスチックに相溶性および/または分散性を有する改質剤を含む2種以上の添加剤を、分離後のプラスチック系破砕物に含まれるポリオレフィン系プラスチックの純度に応じて種類および/または量を決定して、分離後のプラスチック系破砕物に添加する工程」(【0024】)を含む方法が記載され、「プラスチック系破砕物を比重差によって分離」(【0041】)、「ポリオレフィン系プラスチック(一般的に比重が1未満)を主体とするプラスチック系破砕物とポリスチレン系プラスチック(一般に比重が1以上)を主体とするプラスチック系破砕物とに分離」(【0042】)することが記載されている。 すなわち、甲3に記載の技術においては、ポリオレフィン系プラスチック組成物を再資源化すべく「プラスチック系破砕物を比重差によって分離」することが必須であるといえる。 そうすると、インキの除去を容易とし、ラベルの材料として、比重分離の不要なポリエチレンフィルムを用いることが、好ましい態様として想定される甲2発明において、比重分離を必須とする甲3に記載の技術的事項をわざわざ採用する動機付けはなく、甲2発明に、甲3に記載の相違点2−1に係る構成を採用することは当業者が容易に想到し得たことではない。 そして、本件特許発明1は、上記相違点2−1に係る構成により、フィルムラベルや樹脂ボトルに含まれる比重1未満の熱可塑性樹脂の循環を形成することができるという格別な効果を奏するものである。 エ 特許異議申立人の主張について 特許異議申立人は、特許異議申立書44頁において、「甲2発明と甲第3号証は、共に樹脂のリサイクルに関する技術分野で一致しており、また、甲第3号証にはフィルム状の成形用プラスチック原料を形成する点についても記載がある。よって、甲2発明と甲第3号証とを組み合わせ、甲2発明に甲第3号証に記載の上記事項を適用することは、当業者が適宜なし得ることである。」と主張する。 しかし、甲2発明に甲3に記載の技術的事項を適用する動機を見出し難いことは、上記ウに記載したとおりである。 よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 オ 本件特許発明1についての小括 したがって、相違点2−2について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲2に記載された発明、及び、特許異議申立人が提出したその他の甲号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2)本件特許発明2〜9 本件特許の特許請求の範囲の請求項2〜9は、いずれも、請求項1を直接又は間接的に引用するので、本件特許発明2〜9は、本件特許発明1の構成を全て具備する。 そうすると、上記(1)と同様に、本件特許発明2〜9は、甲2に記載された発明、及び、特許異議申立人が提出したその他の甲号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 第5 むすび 請求項1〜9に係る特許は、いずれも、特許異議の申立ての理由及び証拠によって取り消すことはできない。また、他に請求項1〜9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2023-03-31 |
出願番号 | P2021-139403 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(B29B)
P 1 651・ 113- Y (B29B) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
松波 由美子 |
特許庁審判官 |
杉山 輝和 石附 直弥 |
登録日 | 2022-04-21 |
登録番号 | 7062122 |
権利者 | グンゼ株式会社 |
発明の名称 | 樹脂フィルムの製造方法 |
代理人 | 立花 顕治 |