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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  E04G
管理番号 1396321
総通号数 16 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2023-04-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-12-12 
確定日 2023-04-11 
異議申立件数
事件の表示 特許第7092288号発明「構造物の補強工法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7092288号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7092288号の請求項1ないし6に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成30年10月12日(優先権主張平成29年10月24日)に出願され、令和4年6月20日にその特許権の設定登録がされ、同月28日に特許掲載公報が発行され、その後、令和4年12月12日に特許異議申立人中川賢治(以下「申立人」という。)より、請求項1ないし6に係る特許に対して、特許異議の申立てがされたものである(特許異議申立書について、以下「申立書」という。)。

第2 本件特許発明
特許第7092288号の請求項1ないし6の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される、下記のとおりのものである(以下、それぞれ「本件特許発明1」等という。)。

【請求項1】
支持部で支持された構造物の前記支持部とは反対側の外面から前記支持部に向けて穿孔し、前記支持部の内部に孔底を有した挿入孔を形成する挿入孔形成工程と、
前記挿入孔に棒材を挿入する棒材挿入工程と、
前記挿入孔から前記支持部の前記挿入孔と前記棒材との間にのみ充填材を充填し、前記棒材を前記支持部に定着する定着工程と、
前記棒材の前記構造物側の端部を前記構造物の外面に固定する固定工程と、
を有する構造物の補強工法。
【請求項2】
前記構造物は、組積構造物であり、
前記棒材を緊張させ、前記組積構造物に圧縮力を付与する緊張工程を有する、
請求項1に記載の構造物の補強工法。
【請求項3】
前記組積構造物は、レンガ壁である、
請求項2に記載の構造物の補強工法。
【請求項4】
前記支持部に形成された前記挿入孔の一部に拡径部を形成する拡径工程が、前記棒材挿入工程の前に行われる、
請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の構造物の補強工法。
【請求項5】
前記拡径部は、前記支持部に形成された前記挿入孔の中間部に形成されており、
前記拡径部よりも奥側の前記挿入孔に挿入された前記棒材には、定着部材が取り付けられている、請求項4に記載の構造物の補強工法。
【請求項6】
前記挿入孔は、前記構造物の上面から、前記構造物の下方に設けられた前記支持部に向けて穿孔されている、請求項1〜請求項5の何れか1項に記載の構造物の補強工法。

第3 申立理由の概要(進歩性
申立人は、次の証拠方法とともに以下のとおり主張している。

1 甲第1号証に記載された発明を主引用発明として
本件特許発明1、2、6は、甲第1号証に記載された発明、及び甲第2号証に記載された発明、
または甲第1号証に記載された発明、及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件特許発明3、4、5は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された発明、及び周知の技術事項、
または甲第1号証に記載された発明、及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

2 甲第2号証に記載された発明を主引用発明として
本件特許発明1、2、6は、甲第2号証に記載された発明、及び甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件特許発明3、4、5は、甲第2号証に記載された発明、甲第1号証に記載された発明、及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

よって、本件特許発明1ないし6は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。
従って、本件特許発明1ないし6に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取消すべきである。

[証拠方法]
(なお、甲第3号証ないし甲第5号証は、「甲第2号証は本件特許の出願前に公知であることを立証する証拠」(証拠説明書2から3頁「3 証拠の説明」。)として提出されているものである。)

甲第1号証:特開2011−80239号公報

甲第2号証:「POST-TENSIONED CONCRETE MASONRY WALL CONSTRUCTION, TEK 03-14.」,[online], 2002年改訂,NATIONAL CONCRETE MASONRY ASSOCIATION Echelon,p1〜9,インターネット (及び抄訳文)
<URL:https://ncma.org/resource/tensioned-concrete-masonry-wall-construction/ >

甲第3号証:「CONSTRUCTION OF REINFORCED CONCRETE MASONRY DIAPHRAGM WALLS, TEK 03-15.」,[online],2017年改訂,NATIONAL CONCRETE MASONRY ASSOCIATION Echelon,p1〜11,インターネット (及び抄訳文)
<URL:https://ncma.org/resource/construction-of-reinforced-concrete-masonry-diaphragm-walls/ >

甲第4号証:「STEEL REINFORCEMENT FOR CONCRETE MASONRY, TEK 12-04D.」,[online], 2006年改訂,NATIONAL CONCRETE MASONRY ASSOCIATION Echelon,p1〜8,インターネット (及び抄訳文)
<URL:https://ncma.org/resource/steel-reinforcement-for-concrete-masonry/ >

甲第5号証:「SPLICES, DEVELOPMENT & STANDARD HOOKS FOR CONCRETE MASONRY BASED ON THE 2009 & 2012 IBC, TEK 12-06A.」,[online],2013年改訂,NATIONAL CONCRETE MASONRY ASSOCIATION Echelon,p1〜16,インターネット (及び抄訳文)
<URL:https://ncma.org/resource/splices-development-standard-hooks-2009-2012-ibc/ >

甲第6号証:浜田公也,外1名,「ストレート穿孔充填セメントモルタルの側面付着抵抗力とシアキーを設けた場合の引抜耐力」,日本建築学会構造系論文報告集,社団法人日本建築学会,1991年3月,第421号,p.77-87

甲第7号証:浜田公也,外2名,「シアキー位置と充填材強度が引抜耐力に及ぼす影響およびボルト頭付近の支圧破壊領域の等価付着強度」、日本建築学会構造系論文報告集,社団法人日本建築学会,1992年2月28日,第432号,p.81-90

第4 当審の判断
1 各甲号証の記載事項
(1)甲第1号証
ア 甲第1号証の記載事項
本件特許の出願前に発行された甲第1号証には、以下の記載がある。
(当審で下線を付与した。以下同様。)

(ア)「【0001】
本発明は、耐震のための既設コンクリート構造物の補強方法に関する。」

(イ)「【0007】
実施形態1
図1に示すように、既設コンクリート構造物としての既設橋脚1は、基礎部2と橋脚本体3とにより形成される。
基礎部2は例えばフーチング基礎であり、地盤10に設けられる。
橋脚本体3は、基礎部2上に、コンクリートを複数回に分けて打ち継いで形成される。橋脚本体3の高さは例えば2〜3m以上である。
基礎部2及び橋脚本体3は、コンクリートを複数回に分けて打ち継いで形成された打ち継ぎコンクリート構造体14を構成する。」

(ウ)「【0020】
既設橋脚1Aの補強について説明する。
図6に示すように、既設橋脚1Aの補強は、孔4と補強体5と、充填材6とにより形成される。
【0021】
孔4は、打ち継ぎコンクリート構造体14の外面に開口した有底孔である。例えば、孔4は、打ち継ぎコンクリート構造体14の上端面7から基礎部2に延長するように形成され、橋脚本体3中に形成された1つ以上の打ち継ぎ面21;21及び基礎部2の上面8と橋脚本体3との境界である打ち継ぎ面22;22を貫通するように設けられた一端有底で他端開口の有底孔により形成される。
補強体5は、すべての打ち継ぎ面21;21,22;22を貫通するように孔4内に設置される。補強体5としては、鋼材(鋼棒50)、その他の棒材などが用いられる。
充填材6は、打ち継ぎコンクリート構造体14の打ち継ぎ面21;21,22;22を貫通するように孔4内に設置された補強体5と孔4の内壁9との間に充填される。充填材6としては、高流動性、不分離性、無収縮性を有したモルタルやセメントミルクなどを用いる。
【0022】
図6に基づいて具体的に説明する。
孔4の形成場所は施工条件により決め、孔4の個数は設計に基づき決めればよい。例えば、孔4は、橋脚本体3の上端面7から下方に鉛直に延長し、3箇所の打ち継ぎ面21;21,22;22を貫通するように形成される。
そして、補強体5を一端側から孔4内に挿入し、補強体5の一端を孔4の孔底20に接触させて補強体5の他端部を孔4の他端開口41より孔4外に突出させた状態、または、他端部を他端開口41より孔4内に挿入した状態、または、他端部を打ち継ぎコンクリート構造体14の上端面7と面一となるような状態に設置させる。そして、当該補強体5が挿入された孔4内に充填材6を充填する。充填材6は、孔4の内壁9と孔4内に設置された補強体5の外周面との間に充填される。つまり、充填材6は、補強体5が挿入された孔4内全体に充填される。尚、孔4内への充填材6の充填は実施形態4で説明する充填装置42を用いて行えばよい。孔4を打ち継ぎコンクリート構造体14の上端面7に開口した有底孔により形成したので、孔4の形成が容易となり、また、孔4及び補強体5を鉛直または鉛直に近い状態に設置できるようになるので、地震力に対するせん断耐力や曲げ耐力、じん性がより向上する橋脚100を形成することができる。さらに、補強体5が挿入された孔4内全体に充填材6を容易に充填することができるようになり、作業性を向上できる。
また、補強体5が挿入された孔4内全体に充填材を充填したので、地震力が加わった場合、孔4内に空間がある場合に比べて補強体5のずれ防止効果が向上する。」

(エ)「【0023】
次に、既設橋脚1Bの補強について説明する。図7に示すように、既設橋脚1Bの補強は既設橋脚1Bにプレストレスを導入する補強であって、孔4と補強体5と、充填材6と、定着部材56とにより形成される。
補強体5としては、緊張材が用いられる。緊張材としては、PC鋼材、炭素繊維により形成された緊張材等が用いられる。PC鋼材としては、例えば、PC鋼棒(直径10mm以上の高強度鋼)、PC鋼より線(直径8mm以下の高強度鋼であるPC鋼線をより合わせたもの)などが用いられる。
定着部材56は、補強体5の一端部に取付けられる一端側定着部材57と、補強体5の他端部に取付けられる他端側定着部材58とにより構成される。一端側定着部材57は、補強体5の一端部の周面より突出する突出体により形成される。突出体は、例えば補強体5の一端部の周面に形成された図外のねじ部に螺着されて当該補強体5の一端部に固定されるナット部材により形成される。他端側定着部材58は、孔4の他端開口41を覆うように打ち継ぎコンクリート構造体14の上端面7に設置されるプレート58aと、プレート58aの中央に形成された貫通孔58bを貫通する補強体5の他端部の周面に形成された図外のねじ部に螺着されて当該補強体5の一端部に固定されるナット部材58cとにより形成される。
【0024】
補強体5の設置された孔4内に充填材6を充填して、孔4外に突出する補強体5の他端部にプレート58aの貫通孔58bを通すとともにナット部材58cを螺着し、充填材6が固化した後に補強体5の他端を図外の引張装置により引張った状態でナット部材58cをプレート58aに締結することにより、既設橋脚1に圧縮力を加える。すなわち、打ち継ぎコンクリート構造体14のコンクリートは、予め圧縮力が加えられて打ち継ぎ面21;21,22;22同士の摩擦力が増加したプレストレスコンクリートに形成される。
【0025】
図7に基づいて具体的に説明する。
一端側定着部材57を取付けた補強体5を一端側から孔4内に挿入し、補強体5の一端を孔4の孔底20に接触させて補強体5の他端部を孔4の他端開口41より孔4外に突出させた状態で、当該補強体5が挿入された孔4内に充填材6を充填する。充填材6は、孔4の内壁9と孔4内に設置された補強体5及び一端側定着部材57の外周面との間に充填される。つまり、充填材6は、一端側定着部材57を取付けた補強体5が挿入された孔4内全体に充填される。尚、孔4内への充填材6の充填は実施形態4で説明する充填装置42を用いて行えばよい。そして、孔4外に突出する補強体5の他端部にプレート58aの貫通孔58bを通すとともにナット部材58cを螺着する。充填材6が固化した後に、補強体5の他端部に図外の引張装置を取付けて補強体5を引張った状態でナット部材58cをプレート58aに締結する。これにより、充填材6が補強体5の一端部に取付けられた一端側定着部材57によって圧縮され、この圧縮力が充填材6と孔4の内壁9との付着部を介して打ち継ぎコンクリート構造体14のコンクリートに伝達される。よって、打ち継ぎコンクリート構造体14は、上記圧縮力が加えられて打ち継ぎ面21;21,22;22同士の摩擦力が増加したプレストレスコンクリートに形成されることになる。
【0026】
既設橋脚1Bの補強によれば、プレストレスの導入により打ち継ぎコンクリート構造体14の打継ぎ面21;21,22;22同士の摩擦力が大きくなり、打ち継ぎコンクリート構造体14の打ち継ぎ面のずれ防止効果が高い橋脚100となる。
また、一端側定着部材57を取付けた補強体5が挿入された孔4内全体に充填材6を充
填したので、補強体5の定着が安定する。」

(オ)図面
a 図1は以下のものである。



b 図6は以下のものである。



c 図7は以下のものである。




イ 上記アの(ウ)の「既設橋脚1Aの補強」(図6)と、(エ)の「既設橋脚1Bの補強」(図7)において、「孔4」の構造は共通であるとの理解を踏まえ、上記アより、甲第1号証には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認める。(便宜のために関連する段落番号等を付した。以下同様。)

[甲1発明]
「耐震のための既設コンクリート構造物の補強方法であって、(【0001】)
既設コンクリート構造物としての既設橋脚1は、基礎部2と橋脚本体3とにより形成され、
基礎部2は例えばフーチング基礎であり、地盤10に設けられ、
橋脚本体3は、基礎部2上に、コンクリートを複数回に分けて打ち継いで形成され、
基礎部2及び橋脚本体3は、コンクリートを複数回に分けて打ち継いで形成された打ち継ぎコンクリート構造体14を構成するものであり、(【0007】)
既設橋脚1Bの補強は既設橋脚1Bにプレストレスを導入する補強であって、孔4と補強体5と、充填材6と、定着部材56とにより形成され、
補強体5としては、緊張材が用いられ、緊張材としては、PC鋼材、炭素繊維により形成された緊張材等が用いられ、
定着部材56は、補強体5の一端部に取付けられる一端側定着部材57と、補強体5の他端部に取付けられる他端側定着部材58とにより構成され、
一端側定着部材57は、補強体5の一端部の周面より突出する突出体により形成され、
突出体は、例えば補強体5の一端部の周面に形成されたねじ部に螺着されて当該補強体5の一端部に固定されるナット部材により形成され、
他端側定着部材58は、孔4の他端開口41を覆うように打ち継ぎコンクリート構造体14の上端面7に設置されるプレート58aと、プレート58aの中央に形成された貫通孔58bを貫通する補強体5の他端部の周面に形成されたねじ部に螺着されて当該補強体5の一端部に固定されるナット部材58cとにより形成され、(【0023】)
孔4は、打ち継ぎコンクリート構造体14の外面に開口した有底孔であり、例えば、孔4は、打ち継ぎコンクリート構造体14の上端面7から基礎部2に延長するように形成され、橋脚本体3中に形成された1つ以上の打ち継ぎ面21;21及び基礎部2の上面8と橋脚本体3との境界である打ち継ぎ面22;22を貫通するように設けられた一端有底で他端開口の有底孔により形成され、(【0021】)
例えば、孔4は、橋脚本体3の上端面7から下方に鉛直に延長し、3箇所の打ち継ぎ面21;21,22;22を貫通するように形成され、(【0022】)
補強体5の設置された孔4内に充填材6を充填して、孔4外に突出する補強体5の他端部にプレート58aの貫通孔58bを通すとともにナット部材58cを螺着し、充填材6が固化した後に補強体5の他端を図外の引張装置により引張った状態でナット部材58cをプレート58aに締結することにより、既設橋脚1に圧縮力を加える、すなわち、打ち継ぎコンクリート構造体14のコンクリートは、予め圧縮力が加えられて打ち継ぎ面21;21,22;22同士の摩擦力が増加したプレストレスコンクリートに形成されるものであって、(【0024】)
その手順は、
一端側定着部材57を取付けた補強体5を一端側から孔4内に挿入し、補強体5の一端を孔4の孔底20に接触させて補強体5の他端部を孔4の他端開口41より孔4外に突出させた状態で、当該補強体5が挿入された孔4内に充填材6を充填し、
充填材6は、孔4の内壁9と孔4内に設置された補強体5及び一端側定着部材57の外周面との間に充填され、つまり、充填材6は、一端側定着部材57を取付けた補強体5が挿入された孔4内全体に充填され、
そして、孔4外に突出する補強体5の他端部にプレート58aの貫通孔58bを通すとともにナット部材58cを螺着し、
充填材6が固化した後に、補強体5の他端部に図外の引張装置を取付けて補強体5を引張った状態でナット部材58cをプレート58aに締結し、
これにより、充填材6が補強体5の一端部に取付けられた一端側定着部材57によって圧縮され、この圧縮力が充填材6と孔4の内壁9との付着部を介して打ち継ぎコンクリート構造体14のコンクリートに伝達され、よって、打ち継ぎコンクリート構造体14は、上記圧縮力が加えられて打ち継ぎ面21;21,22;22同士の摩擦力が増加したプレストレスコンクリートに形成されることになる、(【0025】)
一端側定着部材57を取付けた補強体5が挿入された孔4内全体に充填材6を充填したので、補強体5の定着が安定する、(【0026】)
耐震のための既設コンクリート構造物の補強方法。(【0001】)」

(2)甲第2号証
ア 甲第2号証の記載事項
甲第2号証には、以下の記載がある。(括弧内に申立人が提出した抄訳を付した。)
なお、「甲第2号証は本件特許の出願前に公知であることを立証する証拠」として提出された甲第3号証ないし甲第5号証の記載(摘記省略)も参照し、甲第2号証は本件特許の出願前に発行されたものとおいて、以下検討を進める。

(ア)
「TEK 03-14
POST-TENSIONED CONCRETE MASONRY WALL CONSTRUCTION

INTRODUCTION

Prestressing is the general term used when a structural element is compressed prior to being subjected to building loads. This initial state of compression offsets tensile stresses from applied loads. Post-tensioning is a specific method of prestressing where tendons are stressed after the wall has been placed. The other type of prestressing, called pretensioning, involves tensioning the tendon prior to construction of the masonry. Because virtually all prestressed masonry built to date has been post-tensioned, the two terms are often used interchangeably as they apply to this form of masonry design and construction.

Post-tensioned concrete masonry walls have been built for schools, retail, manufacturing, highway sound barriers, warehouses and other types of structures. In addition, posttensioning has been used to strengthen and repair existing masonry walls.

This TEK addresses new concrete masonry walls laid in running bond and built with unbonded vertical post-tensioning tendons. Post-Tensioned Concrete Masonry Wall Design, TEK 14-20A (ref.1) addresses the structural design of vertically post-tensioned walls.」
(1頁1から12行)
(TEK 03-14
ポストテンション工法によるコンクリート組積造壁の施工イントロダクション

緊張工法は、構造要素が建物の荷重を受ける前に構造要素に圧縮力を付与する一般的な方法です。この初期の圧縮の状態は、加えられた荷重により発生する引張応力を相殺します。壁が設置された後にテンドンに応力をかけるといったポストテンション工法は、緊張工法の具体的な手法のひとつです。緊張工法の他のタイプには、プレテンションと呼ばれるような、組石構造物の施工に先立ちテンドンを緊張させるものがあります。これまでに建設された実質的にすべての緊張工法による組積構造物はポストテンション工法のため、この形式の組積構造物の設計と施工に用いられる2つの用語はしばしば同じ意味で使用されます。

ポストテンション工法によるコンクリート組積造壁は、学校、小売店舗、製造工場、高速道路の遮音壁、倉庫、その他の種類の構造用として造られています。さらに、ポストテンション工法は、既存の組積造壁の補強や修復のために使用されています。

このTEK資料では、長手積みで積層され、アンボンドによる垂直方向のポストテンション工法用テンドンで構築された新設のコンクリート組積造壁について述べています。ポストテンション工法のコンクリート組積造壁の設計について述べたTEK14-20A(参考文献1)では、垂直方向にポストテンションがかけられた壁の構造設計法について示しています。)

(イ)
「Anchorages

Each tendon is anchored at the foundation and extends to the top of the wall. Building Code Requirements for Masonry Structures (ref. 3) requires that tendons be anchored by mechanical embedments or bearing devices or by bond development in concrete. Tendons can not be anchored by bond development into the masonry. The foundation anchorage is embedded in the wall or footing while the top anchorage utilizes a special block, a precast concrete spreader beam or a grouted bond beam.

Unless the design documents call out specific bottom anchors, the contractor must select the anchor appropriate to the conditions. The cast-in-place bottom anchor (Figure 2a) is preferred for shear walls and for fire walls. While they are the best anchors for capacity, cast-in-place anchors are the most difficult to align. Cast-in-place anchors are often set by the foundation contractor, not the mason. Thus, quality control is a concern with these anchors.

The mason controls bottom anchor placement when either adhesive anchors are installed in the foundation (Figure 2c), or when an anchor is used which does not rely on the foundation for support (Figure 2b). If the anchor in Figure 2b is used, foundation dowels are grouted into the wall to lock it in place. In some instances, tendons can also begin at an upper floor and not at the foundation. In this case, the foundationless anchor is used with a bond beam, similar to Figure 2b.

The mechanical post-installed anchors can be used for nearly all applications, while the adhesive type should not be used for fire walls.」
(4頁1から20行)
(固定工程

各テンドンは基礎に固定され、壁の上部まで伸びています。組積構造物の建設要求基準では、メカニカルな機構による埋め込み器具または支持器具によって、またはコンクリート内部への定着によってテンドンを固定することを求めています。組積構造物内部への定着によるテンドンの固定は認められません。基礎側の固定は壁またはフーチングに埋め込まれ、一方で上部の固定は特殊なブロック、プレキャストコンクリート製臥梁、またはグラウト充填型結合梁を利用します。

もし設計図書に具体的な下部の固定工法が記載されていない場合、請負業者は条件に適した固定工法を選択する必要があります。現場打ちでの下部の固定工法(図2a)は、せん断壁や防火壁に適しています。これは耐力の点では最良の固定工法ですが、現場打ち型の固定工法は位置合わせが最も困難です。現場打ち型の固定工法では、多くの場合、組石工の業者ではなく、基礎工の請負業者によって設置されます。したがって、こういった固定方法には品質管理の懸念があります。

接着型の固定工法が基礎に設置される場合(図2c)、または支持用の基礎に依存しない固定工法が使用される場合(図2b)のいずれの場合でも、下部の固定工法に対して組石工の業者が管理を行います。図2bの固定工法を使用する場合は、基礎ダボ鉄筋を壁内部にグラウト充填により所定の位置に固定します。場合によっては、テンドンの始点は基礎ではなく上層階とすることもあります。この場合、図2bと同様となるように、結合梁を使うことで、基礎を使わない固定工法が使われます。

メカニカルな機構によるあと施工型の固定工法は、ほぼすべてに使用できますが、接着剤を使用するタイプは防火壁には使用しないでください。)

(ウ)図面
a 図1は以下のものである。



b 図2は以下のものである。(枠線は申立人が付与。以下同様。)(下の図は抄訳文。)





上記図2中の図2a部分の拡大は以下のものである。



上記図2中の図2b部分の拡大は以下のものである。




上記図2中の図2c部分の拡大は以下のものである。(下の図は抄訳文)






上記(イ)の記載を踏まえ、上記図2cより、以下の事項が看取できる。
「接着型の固定工法が基礎に設置される場合、テンドンは基礎又は支持部材中に挿入され、基礎又は支持部材中において接着型の固定がなされている。」

イ 上記アより、甲第2号証には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認める。(訳は申立人提出の抄訳より。)

[甲2発明]
「組石構造物の施工に先立ちテンドンを緊張させるプレテンションに対し、壁が設置された後にテンドンに応力をかけるといったポストテンション工法の、
既存の組積造壁の補強や修復のためにも使用される、コンクリート組積造壁のポストテンション工法であって、
長手積みで積層され、アンボンドによる垂直方向のポストテンション工法用テンドンで構築された新設のコンクリート組積造壁について述べると、(1頁)
各テンドンは基礎に固定され、壁の上部まで伸び、定着によってテンドンを固定することを求められ、基礎側の固定は壁またはフーチングに埋め込まれ、一方で上部の固定は特殊なブロック、プレキャストコンクリート製臥梁、またはグラウト充填型結合梁を利用し、
下部の固定工法の選択として、現場打ちでの下部の固定工法の場合、接着型の固定工法が基礎に設置される場合、または支持用の基礎に依存しない固定工法が使用される場合があり、(4頁)
接着型の固定工法が基礎に設置される場合、テンドンは基礎又は支持部材中に挿入され、基礎又は支持部材中において接着型の固定がなされる、(図2c)
コンクリート組積造壁のポストテンション工法。」

(3)甲第6号証
ア 甲第6号証の記載事項
本件特許の出願前に発行された甲第6号証には、以下の記載がある。
(ア)「1.1 シアキー付き穿孔セメントモルタル充填式あと施工アンカーボルト開発の背景
鉄筋コンクリート構造物の改修や設備機器の取り付け等に,アンカーボルトが使用されているが,コンクリート打設後に設置する「あと施工アンカーボルト」は位置を自由に決めやすいことから,次第に数多く使用されるようになってきた。」
(77頁左欄2〜8行)

(イ)「このような現状から,筆者らは,安定した耐力,変形量が得られ,かつ耐久性,耐火性があり,経済的なあと施工アンカーを作ることを目標に,側面に凹みを設けた穿孔に,頭付きボルトを埋込み,セメントモルタルを充填し固定する方法を考えた。
1.2 シアキー付き穿孔セメントモルタル充填式あと施工アンカーボルトの抵抗機構とその特徴
シアキー付き穿孔セメントモルタル充填式あと施工アンカーボルト(以後「シアキー付きアンカー」と呼ぶ)の形状を図−1に示すが,穿孔にシアキーとして凹みを設け,頭付きアンカーボルトを用いた理由を,抵抗機構から示すと,」(77頁右欄3〜末行)

(ウ)「このような破壊を防ぐためには,鉄筋と充嗔材の付着力が小さい丸鋼の先端に,抜出さない程度の大きさを持った定着金物を設け(頭付きボルトでも可),機械的に抵抗させ,できるだけ深い位置の応力を大きくし(図−2(2)),深い所から錐状破壊が生じるようにすればよい。」(78頁左欄10〜14行)

(エ)「・・・拘束支承−引張実験を行い,破壊性状と変形性状および耐力性状について考察し,これらから,耐力推定式を導いたものである。」(78頁右欄末行〜80頁左欄3行)

(オ)「2.1 供試体の形状と作成
供試体は,図−3に示すような直方体母材型枠に,レディミクストコンクリート(セメント:細骨材:粗骨材=1:2.42:3.70,水セメント比=0.57,細 骨材の粗粒率は2.70,粗骨材の粗粒率は6.56)を,穿孔面が側面になるよう打設し,3日後に脱型し,実験日まで室内空中養生して作製した。
穿孔は, 頭付きボルトが挿入できる最小径のコンクリートドリル*1)を用いて下穴をあけ,その後,シアキーを設ける供試体については,拡幅用ドリル*1)を用いた。シアキー形状を写真−1 に示し,シアキー形状実測寸法を図−1に示す。
埋込みボルトは,転造された六角ボルトを用いた。」
(80頁左欄5〜17行)

(カ)図面
図−1は以下のものである。


図−2は以下のものである。


図−3は以下のものである。



(4)甲第7号証
ア 甲第7号証の記載事項
本件特許の出願前に発行された甲第7号証には、以下の記載がある。
(ア)「筆者らは,安定した耐力を有し,設計荷重までの変形量が小さく,粘り強い力学特性を有し,その上耐久性,耐火性があって,しかも経済的なあと施工アンカーを作ることを目標に,シアキー付き穿孔セメントモルタル充填式あと施工アンカーボルトの研究を行っている1)−3)」
(81頁左欄2〜6行)

(イ)「2.1 供試体の形状と作成
供試体の形状は前報1)と同様に,図−1に示すような直方母材とし,穿孔面が側面になるようにレディミクストコンクリートを打設,3日後に脱型し,実験日まで空中養生した。穿孔およびシアキーの施工方法についても前報1)と同様であるが,シアキー形状と実測寸法を図−2に示す。埋込みボルトは,六角ボルトM12,M16,M20を用いた。充填材については,セメントモルタルを用いた。」
(81頁右欄下から3行〜82頁左欄6行)

(ウ)図面
図−1は以下のものである。



図−2は以下のものである。



2 本件特許発明1について
(1)甲第1号証を主引用例として
ア 対比
(ア)甲1発明の、「基礎部2と橋脚本体3とにより形成され」る「既設コンクリート構造物としての既設橋脚1」と、本件特許発明1の「支持部で支持された構造物」について、
甲1発明の「基礎部2」、「橋脚本体3」が、本件特許発明1の「支持部」、「構造物」にそれぞれ相当する。
そして甲1発明の「耐震のための既設コンクリート構造物の補強方法」により「既設コンクリート構造物」の「橋脚本体3」が補強されることは自明であるから、甲1発明の「耐震のための既設コンクリート構造物の補強方法」は、本件特許発明1における「構造物の補強工法」に相当する。

(イ)甲1発明の「橋脚本体3の上端面7」は、本件特許発明1の「支持部で支持された構造物の前記支持部とは反対側の外面」に相当する。
また、甲1発明の「孔4」は、「一端側定着部材57を取付けた補強体5を一端側から孔4内に挿入」するものであるから、本件特許発明1の(「挿入孔に棒材を挿入する」)「挿入孔」に相当する。
よって、甲1発明の「孔4」が、「孔4は、打ち継ぎコンクリート構造体14の外面に開口した有底孔であり、例えば、孔4は、打ち継ぎコンクリート構造体14の上端面7から基礎部2に延長するように形成され、橋脚本体3中に形成された1つ以上の打ち継ぎ面21;21及び基礎部2の上面8と橋脚本体3との境界である打ち継ぎ面22;22を貫通するように設けられた一端有底で他端開口の有底孔により形成され、
例えば、孔4は、橋脚本体3の上端面7から下方に鉛直に延長し、3箇所の打ち継ぎ面21;21,22;22を貫通するように形成され」る工程は、
本件特許発明1の「支持部で支持された構造物の前記支持部とは反対側の外面から前記支持部に向けて穿孔し、前記支持部の内部に孔底を有した挿入孔を形成する挿入孔形成工程」に相当する。

(ウ)甲1発明の「補強体5」は、「補強体5としては、緊張材が用いられ、緊張材としては、PC鋼材、炭素繊維により形成された緊張材等が用いられ」るものであることから棒状の部材と言え、本件特許発明1の「棒材」に相当する。
よって、甲1発明の、「一端側定着部材57を取付けた補強体5を一端側から孔4内に挿入」する工程は、
本件特許発明1の「前記挿入孔に棒材を挿入する棒材挿入工程」に相当する。

(エ)甲1発明の、「補強体5の一端を孔4の孔底20に接触させて補強体5の他端部を孔4の他端開口41より孔4外に突出させた状態で、当該補強体5が挿入された孔4内に充填材6を充填し、
充填材6は、孔4の内壁9と孔4内に設置された補強体5及び一端側定着部材57の外周面との間に充填され、つまり、充填材6は、一端側定着部材57を取付けた補強体5が挿入された孔4内全体に充填され、」「一端側定着部材57を取付けた補強体5が挿入された孔4内全体に充填材6を充填したので、補強体5の定着が安定する」工程は、「定着が安定する」工程であるから補強体5の定着工程の一環と言えるので、
本件特許発明1の「前記挿入孔から前記支持部の前記挿入孔と前記棒材との間にのみ充填材を充填し、前記棒材を前記支持部に定着する定着工程」とは、
「前記挿入孔と前記棒材との間に充填材を充填し、前記棒材を前記支持部に定着する定着工程」である点で共通する。

(オ)甲1発明の、「定着部材56は、補強体5の一端部に取付けられる一端側定着部材57と、補強体5の他端部に取付けられる他端側定着部材58とにより構成され、」
「他端側定着部材58は、孔4の他端開口41を覆うように打ち継ぎコンクリート構造体14の上端面7に設置されるプレート58aと、プレート58aの中央に形成された貫通孔58bを貫通する補強体5の他端部の周面に形成されたねじ部に螺着されて当該補強体5の一端部に固定されるナット部材58cとにより形成され、」
「孔4外に突出する補強体5の他端部にプレート58aの貫通孔58bを通すとともにナット部材58cを螺着し、
充填材6が固化した後に、補強体5の他端部に図外の引張装置を取付けて補強体5を引張った状態でナット部材58cをプレート58aに締結」する工程により、
「補強体5」の「打ち継ぎコンクリート構造体14の上端面7」側に位置する「他端部」が、「打ち継ぎコンクリート構造体14の上端面7」に固定されることにもなるのは明らかであるから、
当該工程は、本件特許発明1の「前記棒材の前記構造物側の端部を前記構造物の外面に固定する固定工程」に相当する。

(カ)前記(ア)ないし(オ)から、本件特許発明1と甲1発明とは、

[一致点]
「支持部で支持された構造物の前記支持部とは反対側の外面から前記支持部に向けて穿孔し、前記支持部の内部に孔底を有した挿入孔を形成する挿入孔形成工程と、
前記挿入孔に棒材を挿入する棒材挿入工程と、
前記支持部の前記挿入孔と前記棒材との間に充填材を充填し、前記棒材を前記支持部に定着する定着工程と、
前記棒材の前記構造物側の端部を前記構造物の外面に固定する固定工程と、
を有する構造物の補強工法。」

の点で一致し、そして以下の点で相違する。

[相違点1]
本件特許発明1の「定着工程」においては、「前記挿入孔から前記支持部の前記挿入孔と前記棒材との間にのみ充填材を充填」するのに対し、
甲1発明においては、「補強体5が挿入された孔4内に充填材6を充填」するにあたり、
「充填材6は、孔4の内壁9と孔4内に設置された補強体5及び一端側定着部材57の外周面との間に充填され、つまり、充填材6は、一端側定着部材57を取付けた補強体5が挿入された孔4内全体に充填され、」「一端側定着部材57を取付けた補強体5が挿入された孔4内全体に充填材6を充填したので、補強体5の定着が安定する」ものであって、「前記挿入孔から前記支持部の前記挿入孔と前記棒材との間に『のみ』充填」するものではない点。

イ 判断
(ア)検討
上記相違点1について検討する。
相違点1で示したように、甲1発明は、「充填材6は、一端側定着部材57を取付けた補強体5が挿入された孔4内全体に充填され、」「一端側定着部材57を取付けた補強体5が挿入された孔4内全体に充填材6を充填したので、補強体5の定着が安定する」というものであって、「孔4内全体」ではなく基礎部2の孔4と補強体5との間にのみ充填、すなわち「橋脚本体」部分の孔4内には充填材を充填しないということは甲第1号証全体を見ても記載されておらず、そのように設計変更する動機もない。
さらに甲2発明について検討しても、甲2発明では、「テンドンは基礎又は支持部材中に挿入され、基礎又は支持部材中において接着型の固定がなされる」ことの特定まではあっても、「基礎又は支持部材」上の「壁」の部分について、(「壁」を中実な構造とした上で、)「壁」の上端面から「基礎」まで貫通した、「テンドン」を挿入する孔の穿孔について特定するものではなく、したがって、そのような孔の「壁」内部分には充填材を充填しないとすることが記載又は示唆されているものではない。
さらに甲第6号証、甲第7号証について検討しても、本件特許発明1で言う「支持部」、あるいは甲1発明で言う「基礎部3」の部分に関する記載はあるが、その上の構造物に穿孔した孔には充填材を充填しないとすることの記載又は示唆は見当たらない。(なお付け加えると、「甲第2号証は本件特許の出願前に公知であることを立証する証拠」である甲第3号証ないし甲第5号証にも、この点についての記載はない。)
よって、当業者が、甲2発明、又は、甲第6号証及び甲第7号証の記載事項を、甲1発明に適用し、相違点1に係る本件特許発明1の構成を想到することが、容易であるとは言えない。

(イ)申立人の主張について
申立人は、上記相違点1に関し、要約すると
「甲2発明は、上記相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を備えている。
また、一般に構造物の補強工法において、挿入孔から支持部の前記挿入孔と棒材との間にのみ充填材を充填し、前記棒材を前記支持部に定着する定着工程を有することは周知の技術事項(例えば、甲2発明、甲6記載事項1、甲7記載事項1参照。以下「周知の技術事項1」という。)である。
してみると、上記周知の技術事項1は、上記相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を備えている。」(申立書24頁17〜24行)
と主張している。
しかしながら、上記(ア)で検討したように、甲第2号証、甲第6号証、又は甲第7号証に、本件特許発明1で言う「支持部の挿入孔と棒材との間に」「充填材を充填」することが記載されていたとしても、「支持部」以外部分(「構造物」の部分)の挿入孔について、その「支持部」以外部分(「構造物」の部分)の挿入孔には充填材を充填しないこととすることの記載は無い。よって、甲2発明、あるいは甲第6号証、甲第7号証記載の周知技術に接した当業者が、「充填材6は、一端側定着部材57を取付けた補強体5が挿入された孔4内全体に充填され、」「一端側定着部材57を取付けた補強体5が挿入された孔4内全体に充填材6を充填したので、補強体5の定着が安定する」ものである甲1発明を、「橋脚本体」部分の孔4内には充填材を充填しないように設計変更することが容易であるとは言えない。
以上より、申立人の主張は採用できない。

ウ 小括
以上のとおりであるから、、本件特許発明1は、当業者が、甲1発明、及び甲2発明、
または甲1発明、及び周知の技術事項に基づいて、容易に発明をすることができたものではない。

(2)甲第2号証を主引用例として
ア 検討
甲2発明を主引用発明として、本件特許発明1は、甲2発明、及び甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるかどうかを検討すると、少なくとも上記(1)における相違点1に係る本件特許発明1の構成を有しない点で相違するから、上記(1)の甲1発明を主引用発明とした検討のとおり、相違点1に係る本件特許発明1の構成は、申立人が提出したいずれの証拠に基づいても、容易に想到できるものではない。

イ 小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1は、当業者が、甲2発明、及び甲1発明に基づいて、容易に発明をすることができたものではない。

3 本件特許発明2ないし6について
本件特許発明2ないし6は、本件特許発明1の構成をすべて含み、更に減縮したものであるから、上記2(1)、(2)と同様の理由により、申立人が提出した証拠に記載された発明あるいは周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

第5 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2023-03-31 
出願番号 P2018-193162
審決分類 P 1 651・ 121- Y (E04G)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 居島 一仁
特許庁審判官 前川 慎喜
藤脇 昌也
登録日 2022-06-20 
登録番号 7092288
権利者 株式会社竹中工務店
発明の名称 構造物の補強工法  
代理人 弁理士法人太陽国際特許事務所  

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