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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B23K
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B23K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B23K
管理番号 1396329
総通号数 16 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2023-04-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-12-19 
確定日 2023-04-10 
異議申立件数
事件の表示 特許第7089491号発明「フラックス組成物、ソルダペースト及び電子回路基板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7089491号の請求項1〜9に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7089491号(以下、「本件特許」という。)の請求項1〜9に係る特許についての出願は、平成29年 1月31日に出願した特願2017−15244号の一部を、特許法第44条第1項の規定に基づいて、平成31年 4月23日に新たな特許出願(特願2019−81977号。以下、「本願」という。)としたものであって(分割の適否については、後記第6の1(1)で述べる。)、令和 4年 6月14日にその特許権の設定登録がなされ、同年 6月22日にその特許掲載公報が発行されたものであり、その後、同年12月19日に、特許異議申立人 山下 桂(以下、「申立人」という。)により、本件特許の請求項1〜9(全請求項)に係る特許に対して特許異議の申立てがなされたものである。

第2 本件発明
本件特許の請求項1〜9に係る発明は、本願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1〜9に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、請求項1〜9に記載された発明を、それぞれ「本件発明1」〜「本件発明9」という。また、これらを総称して「本件発明」という。)。

「【請求項1】
(A)ベース樹脂と、(B)活性剤と、(C)チキソ剤と、(D)溶剤とを含むフラックス組成物であって、
前記活性剤(B)の配合量はフラックス組成物全量に対して4.5質量%以上35質量%以下であり、
前記活性剤(B)として(B−1)炭素数が3から4の直鎖の飽和ジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して1質量%以上2質量%以下、(B−2)炭素数が5から13のジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して3質量%以上12質量%以下、及び(B−3)炭素数が20から22のジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して6質量%以上12質量%以下含み、前記炭素数が5から13のジカルボン酸(B−2)と前記炭素数が20から22のジカルボン酸(B−3)の配合量が合計で15質量%以上18質量%以下であることを特徴とするフラックス組成物。
【請求項2】
前記炭素数が3から4の直鎖の飽和ジカルボン酸(B−1)はマロン酸及びコハク酸の少なくとも一方であり、
前記炭素数が5から13のジカルボン酸(B−2)はグルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、2−メチルアゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸及びトリデカン二酸から選ばれる少なくとも1種であり、
前記炭素数が20から22のジカルボン酸(B−3)はエイコサ二酸、8−エチルオクタデカン二酸、8,13−ジメチル−8,12−エイコサジエン二酸及び11−ビニル−8−オクタデセン二酸から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載のフラックス組成物。
【請求項3】
前記炭素数が20から22のジカルボン酸(B−3)は常温で液状または半固体状であることを特徴とする請求項1または2に記載のフラックス組成物。
【請求項4】
酸化防止剤を更に含むことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のフラックス組成物。
【請求項5】
前記ベース樹脂(A)は(A−1)ロジン系樹脂を含むことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のフラックス組成物。
【請求項6】
前記ベース樹脂(A)は更に(A−2)合成樹脂を含むことを特徴とする請求項5に記載のフラックス組成物。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のフラックス組成物と、はんだ合金粉末とを含むことを特徴とするソルダペースト。
【請求項8】
前記はんだ合金粉末はSn並びにAg、Bi、In、Sb、Cu、Ni及びCoから選ばれる少なくとも1種を含む合金からなることを特徴とする請求項7に記載のソルダペースト。
【請求項9】
請求項7または請求項8に記載のソルダペーストを用いて形成されるはんだ接合体を有することを特徴とする電子回路基板。」

第3 特許異議の申立ての理由の概要
申立人は、証拠方法として、後記する甲第1号証〜甲第9号証を提出し、以下の申立理由1、2により、本件特許の請求項1〜9に係る特許は取り消されるべきものである旨主張している。
1 申立理由1(新規性進歩性
本願は、特許法第44条第1項の規定に基づく特許出願であるとはいえず、もとの特許出願の時にしたものとみなされないから、本件発明1〜9は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。また、本件発明1〜9は、甲第1号証に記載された発明に基いて、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件発明1〜9に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。
2 申立理由2(サポート要件)
本件発明1〜9に係る特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
3 証拠方法
・甲第1号証:特開2018−122323号公報
・甲第2号証:本願の審査段階における令和 1年 7月22日付け上申書
・甲第3号証:本願の審査段階における令和 2年 9月25日付け拒絶理由通知書
・甲第4号証:本願の審査段階における令和 3年 3月26日付け手続補正書
・甲第5号証:本願の審査段階における令和 3年 6月14日付け意見書
・甲第6号証:本願の審査段階における令和 3年 3月26日付け意見書
・甲第7号証:原出願(特願2017−15244)に係る異議2019−700970号の異議の決定
・甲第8号証:特許・実用新案 審査基準(特許庁発行)「第IV部 明細書、特許請求の範囲又は図面の補正」「第2章 新規事項を追加する補正(特許法第17条の2第3項)」
・甲第9号証:原出願(特願2017−15244)に係る異議2019−700970号において、特許権者が令和 3年 3月18日に提出した意見書

第4 本願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の記載事項
1 本件明細書には、以下の事項が記載されている。
「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラックス組成物、ソルダペースト及び電子回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント配線板やシリコンウエハといった基板上に形成される電子回路に電子部品を接合するには、はんだ合金を用いたはんだ接合方法が採用されている。従来、前記はんだ合金には鉛を使用するのが一般的であった。しかし環境負荷の観点からRoHS指令等によって鉛の使用が制限されたため、近年では鉛を含有しない、所謂鉛フリーはんだ合金を用いたはんだ接合が一般的になりつつある。
【0003】
この鉛フリーはんだ合金には、例えばSn−Cu系、Sn−Ag−Cu系、Sn−Bi系、Sn−Zn系はんだ合金等がよく用いられる。その中でもテレビ、携帯電話等に使用される民生用電子機器や自動車に搭載される車載用電子機器には、Sn−3Ag−0.5Cuはんだ合金が多く使用されている。
【0004】
また近年では、例えば電子制御装置に用いられる電子回路基板のように、エンジンコンパートメントやエンジン直載、またはモーターとの機電一体化といった寒暖差が特に激しく(例えば−30℃から110℃、−40℃から125℃、−40℃から150℃といった寒暖差)、加えて振動負荷を受けるような過酷な環境下での電子回路基板の配置の検討及び実用化がなされている。
【0005】
特許文献1から特許文献7には、このような寒暖差の激しい環境下におかれる車載用電子回路基板に用いるはんだ合金において、その機械特性の向上を目的として酸化性の高いIn、Bi及びSbといった元素を添加する方法が開示されている。
【0006】
また特許文献8には、酸化性の高い元素を含むはんだ合金を用いたソルダペーストの経時変化を抑制するために、ソルダペースト用フラックスに活性剤として炭素数3〜5のジカルボン酸と炭素数15〜20のジカルボン酸を併用する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−228685号公報
【特許文献2】特開平9−326554号公報
【特許文献3】特開2000−190090号公報
【特許文献4】特開2000−349433号公報
【特許文献5】特開2008−28413号公報
【特許文献6】国際公開パンフレットWO2009/011341号
【特許文献7】特開2012−81521号公報
【特許文献8】特開2003−260589号公報
【0008】
しかし、Sn−3Ag−0.5Cu系はんだ合金は、従来のSn−Pb共晶はんだに比べて固相線温度・液相線温度が約40℃以上も高く、また粘性の高いCuも含有されている。そのためフラックス組成物に含まれる活性剤がSn−3Ag−0.5Cu系はんだ合金の酸化膜を十分に除去できないと、特にこれをソルダペーストに用いてはんだ接合する場合、その接合中にボイドが発生し易く、且つ形成されたはんだ接合部にボイドが残留し易くなる虞がある。
特にSn−Ag−Cu系はんだ合金にBi、In及びSbといった酸化性の高い元素を添加する場合、Sn−3Ag−0.5Cu系はんだ合金よりも表面酸化膜を十分に除去し難い傾向にある。そのため使用するフラックス組成物の活性力が不十分であると、特にこれをソルダペーストに用いてはんだ接合する場合、溶融した前記はんだ合金からなる合金粉末の粘性が下がり難くなりはんだ接合部にボイドが残留し易く、当該合金粉末同士が凝集・融合し難くなりはんだボールが発生し易いという問題がある。はんだボールは基板上に実装された電子部品の電極とソルダペーストとの未融合現象といったオープン不良やショートの原因となるため、特に高信頼性が要求される車載用電子回路基板においては、はんだボールの発生の抑制は重要な課題の一つである。
またBall Grid Array(BGA)部品等のはんだ接合に用いられるソルダボールにおいても、はんだ合金の酸化膜の除去が不十分であると基板上の電極と電子部品上の電極との接合不良が起こり易くなる。特にSn−Ag−Cu系はんだ合金にBi、In及びSbといった酸化性の高い元素を添加したソルダボールを使用する場合、上述の接合不良は更に起こり易くなる。
【0009】
上述したはんだ合金の表面酸化膜の除去不十分によるはんだボールの発生や接合不良を抑制するために活性力の強い活性剤と活性力の弱い活性剤とを併用した場合であっても、これらの組み合わせのみではBi、In及びSb等を含むはんだ合金への酸化作用が不十分となり、はんだボールやボイドの発生及び接合不良の抑制効果を十分に発揮し難い虞がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記課題を解決するものであり、酸化性の強い合金元素を含むはんだ合金を用いる場合であってもはんだ接合部のボイド発生、はんだボールの発生及びはんだ接合不良を抑制しつつ、良好な印刷性を発揮することのできるフラックス組成物、ソルダペースト及びこれを用いて形成されるはんだ接合体を有する電子回路基板を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明に係るフラックス組成物は、(A)ベース樹脂と、(B)活性剤と、(C)チキソ剤と、(D)溶剤とを含むフラックス組成物であって、前記活性剤(B)の配合量はフラックス組成物全量に対して4.5質量%以上35質量%以下であり、前記活性剤(B)として(B−1)炭素数が3から4の直鎖の飽和ジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して0.5質量%以上2質量%以下、(B−2)炭素数が5から13のジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して2質量%以上15質量%以下、及び(B−3)炭素数が20から22のジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して2質量%以上15質量%以下含み、前記炭素数が5から13のジカルボン酸(B−2)と前記炭素数が20から22のジカルボン酸(B−3)の配合量が合計で4質量%以上18質量%以下であることをその特徴とする。
【0012】
(2)上記(1)に記載の構成にあって、前記炭素数が3から4の直鎖の飽和ジカルボン酸(B−1)はマロン酸及びコハク酸の少なくとも一方であり、前記炭素数が5から13のジカルボン酸(B−2)はグルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、2−メチルアゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸及びトリデカン二酸から選ばれる少なくとも1種であり、前記炭素数が20から22のジカルボン酸(B−3)はエイコサ二酸、8−エチルオクタデカン二酸、8,13−ジメチル−8,12−エイコサジエン二酸及び11−ビニル−8−オクタデセン二酸から選ばれる少なくとも1種であることをその特徴とする。
【0013】
(3)上記(1)または(2)に記載の構成にあって、前記炭素数が20から22のジカルボン酸(B−3)は常温で液状または半固体状であることをその特徴とする。
【0014】
(4)本発明に係るフラックス組成物は、上記(1)から(3)のいずれか1に記載の構成にあって、酸化防止剤を更に含むことをその特徴とする。
【0015】
(5)上記(1)から(4)のいずれか1に記載の構成にあって、前記ベース樹脂(A)は(A−1)ロジン系樹脂を含むことをその特徴とする。
【0016】
(6)上記(5)に記載の構成にあって、前記ベース樹脂(A)は更に(A−2)合成樹脂を含むことをその特徴とする。
【0017】
(7)本発明に係るソルダペーストは、上記(1)から(6)のいずれか1に記載のフラックス組成物と、はんだ合金粉末とを含むことをその特徴とする。
【0018】
(8)上記(7)に記載の構成にあって、前記はんだ合金粉末はSn並びにPb、Ag、Bi、In及びSbから選ばれる少なくとも1種を含む合金からなることをその特徴とする。
【0019】
(9)本発明に係る電子回路基板は、上記(7)または(8)に記載のソルダペーストを用いて形成されるはんだ接合体を有することをその特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明のフラックス組成物、ソルダペースト及びこれを用いて形成されるはんだ接合体を有する電子回路基板は、酸化性の強い合金元素を含むはんだ合金を用いる場合であってもはんだ接合部のボイド発生、はんだボールの発生及びはんだ接合不良を抑制しつつ、良好な印刷性を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施例及び比較例に係る試験基板において、チップ部品の電極下の領域及びフィレットが形成されている領域を表す、X線透過装置を用いてチップ部品側から撮影した写真。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明のフラックス組成物、ソルダペースト及び電子回路基板の一実施形態を詳述する。なお、本発明が以下の実施形態に限定されるものではないことはもとよりである。
【0023】
(1)フラックス組成物
本実施形態のフラックス組成物は、(A)ベース樹脂と、(B)活性剤と、(C)チキソ剤と、(D)溶剤とを含むことが好ましい。
【0024】
(A)ベース樹脂
前記ベース樹脂(A)としては、例えば(A−1)ロジン系樹脂及び(A−2)合成樹脂の少なくとも一方を用いることが好ましい。
前記ロジン系樹脂(A−1)としては、例えばトール油ロジン、ガムロジン、ウッドロジン等のロジン;ロジンを重合化、水添化、不均一化、アクリル化、マレイン化、エステル化若しくはフェノール付加反応等を行ったロジン誘導体;これらロジンまたはロジン誘導体と不飽和カルボン酸(アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、フマル酸等)とをディールス・アルダー反応させて得られる変性ロジン樹脂等が挙げられる。これらの中でも特に変性ロジン樹脂が好ましく用いられ、アクリル酸を反応させて水素添加した水添アクリル酸変性ロジン樹脂が特に好ましく用いられる。なおこれらは1種単独でまたは複数種を混合して用いてもよい。
【0025】
なお前記ロジン系樹脂(A−1)の酸価は140mgKOH/gから350mgKOH/gであることが好ましく、その質量平均分子量は200Mwから1,000Mwであることが好ましい。
【0026】
前記合成樹脂(A−2)としては、例えばアクリル樹脂、スチレン−マレイン酸樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノキシ樹脂、テルペン樹脂、ポリアルキレンカーボネート及びカルボキシル基を有するロジン系樹脂とダイマー酸誘導体柔軟性アルコール化合物とを脱水縮合してなる誘導体化合物が挙げられる。なおこれらは1種単独でまたは複数種を混合して用いてもよい。これらの中でも特にアクリル樹脂が好ましく用いられる。
【0027】
前記アクリル樹脂は、例えば炭素数1から20のアルキル基を有する(メタ)アクリレートを単重合、または当該アクリレートを主成分とするモノマーを共重合することにより得られる。このようなアクリル樹脂の中でも、特にメタクリル酸と炭素鎖が直鎖状である炭素数2から20の飽和アルキル基を2つ有するモノマーを含むモノマー類とを重合して得られるアクリル樹脂が好ましく用いられる。なお当該アクリル樹脂は、1種単独でまたは複数種を混合して用いてもよい。
【0028】
前記カルボキシル基を有するロジン系樹脂とダイマー酸誘導体柔軟性アルコール化合物とを脱水縮合してなる誘導体化合物(以下、「ロジン誘導体化合物」という。)について、先ずカルボキシル基を有するロジン系樹脂としては、例えばトール油ロジン、ガムロジン、ウッドロジン等のロジン;水添ロジン、重合ロジン、不均一化ロジン、アクリル酸変性ロジン、マレイン酸変性ロジン等のロジン誘導体等が挙げられ、これら以外にもカルボキシル基を有するロジンであれば使用することができる。またこれらは1種単独でまたは複数種を混合して用いてもよい。
次に前記ダイマー酸誘導体柔軟性アルコール化合物としては、例えばダイマージオール、ポリエステルポリオール、ポリエステルダイマージオールのようなダイマー酸から誘導される化合物であって、その末端にアルコール基を有するもの等が挙げられ、例えばPRIPOL2033、PRIPLAST3197、PRIPLAST1838(以上、クローダジャパン(株)製)等を用いることができる。
前記ロジン誘導体化合物は、前記カルボキシル基を有するロジン系樹脂と前記ダイマー酸誘導体柔軟性アルコール化合物とを脱水縮合することにより得られる。この脱水縮合の方法としては一般的に用いられる方法を使用することができる。また、前記カルボキシル基を有するロジン系樹脂と前記ダイマー酸誘導体柔軟性アルコール化合物とを脱水縮合する際の好ましい質量比率は、それぞれ25:75から75:25である。
【0029】
前記合成樹脂(A−2)の酸価は0mgKOH/gから150mgKOH/gであることが好ましく、その質量平均分子量は1,000Mwから30,000Mwであることが好ましい
【0030】
また前記ベース樹脂(A)の配合量は、フラックス組成物全量に対して10質量%以上60質量%以下であることが好ましく、30質量%以上55質量%以下であることがより好ましい。
【0031】
前記ロジン系樹脂(A−1)を単独で用いる場合、その配合量はフラックス組成物全量に対して20質量%以上60質量%以下であることが好ましく、30質量%以上55質量%以下であることが更に好ましい。ロジン系樹脂(A−1)の配合量をこの範囲とすることで、良好なはんだ付性を実現することができる。
【0032】
また前記合成樹脂(A−2)を単独で用いる場合、その配合量はフラックス組成物全量に対して10質量%以上60質量%以下であることが好ましく、15質量%以上50質量%以下であることがより好ましい。
【0033】
更に前記ロジン系樹脂(A−1)と前記合成樹脂(A−2)とを併用する場合、その配
合比率はロジン系樹脂:合成樹脂=20:80から50:50であることが好ましく、25:75から40:60であることがより好ましい。
【0034】
なお前記ベース樹脂(A)としては、ロジン系樹脂(A−1)単独、またはロジン系樹脂(A−1)及び合成樹脂(A−2)としてアクリル樹脂の併用が好ましい。
【0035】
(B)活性剤
前記活性剤(B)として、(B−1)炭素数が3から4の直鎖の飽和ジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して0.5質量%以上3質量%以下、(B−2)炭素数が5から13のジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して2質量%以上15質量%以下、及び(B−3)炭素数が20から22のジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して2質量%以上15質量%以下含むことが好ましい。
当該活性剤(B)の配合量は、4.5質量%以上35質量%以下であることが好ましく、4.5質量%以上20質量%以下であることがより好ましい。
【0036】
前記炭素数が3から4の直鎖の飽和ジカルボン酸(B−1)は、マロン酸及びコハク酸の少なくとも一方であることが好ましい。
また当該炭素数が3から4の直鎖の飽和ジカルボン酸(B−1)のより好ましい配合量は、フラックス組成物全量に対して0.5質量%から2質量%である。
【0037】
前記炭素数が5から13のジカルボン酸(B−2)における炭素鎖は直鎖であっても分鎖であってもいずれでもよいが、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、2−メチルアゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸及びトリデカン二酸から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。これらの中でも特にアジピン酸、スベリン酸、セバシン酸及びドデカン二酸が好ましく用いられる。
また前記炭素数が5から13のジカルボン酸(B−2)のより好ましい配合量は、フラックス組成物全量に対して3質量%から12質量%である。
【0038】
前記炭素数が20から22のジカルボン酸(B−3)における炭素鎖は直鎖であっても分鎖であってもいずれでもよいが、エイコサ二酸、8−エチルオクタデカン二酸、8,13−ジメチル−8,12−エイコサジエン二酸及び11−ビニル−8−オクタデセン二酸から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0039】
また前記炭素数が20から22のジカルボン酸(B−3)としては、常温で液状または半固体状であるものがより好ましく用いられる。なお本明細書において、常温とは5℃から35℃の範囲をいう。また半固体状とは液状と固体状との間に該当する状態をいい、その一部が流動性を有する状態及び流動性はないが外力を与えると変形する状態を言う。このような前記炭素数が20から22のジカルボン酸(B−3)としては、特に8−エチルオクタデカン二酸が好ましく用いられる。
【0040】
また前記炭素数が20から22のジカルボン酸(B−3)のより好ましい配合量は、フラックス組成物全量に対して3質量%から12質量%である。
【0041】
前記活性剤(B)として前記活性剤(B−1)、(B−2)及び(B−3)のそれぞれの炭素数の範囲に該当するジカルボン酸を上記配合量により配合することにより、本実施形態のフラックス組成物は、Bi、In及びSbといった酸化性の高い元素を添加したはんだ合金を使用した場合であっても十分にその酸化膜を除去することができる。よってこれをソルダペーストに用いる場合、前記はんだ合金からなる合金粉末同士の凝集力の向上及びはんだ溶融時の粘性の低減を図れ、これにより電子部品脇に発生するはんだボールやはんだ接合部に発生するボイドを低減することができる。またソルダボールによるはんだ接合を行う場合であっても、当該ソルダボールの表面酸化を十分に抑制し得るため、基板上の電極と電子部品の電極との接合不良を抑制することができる。
【0042】
特にソルダペーストに用いる場合、前記炭素数が3から4の直鎖の飽和ジカルボン酸(B−1)は、前記フラックス組成物と前記合金粉末とを混練する際、その一部が前記合金粉末の表面をコーティングしてその表面酸化を抑制し得る。また前記炭素数が20から22のジカルボン酸(B−3)は反応性が遅いことから長時間に渡る基板へのソルダペーストの印刷工程においても安定的であり且つリフロー加熱中においても揮発し難いことから、溶融した前記合金粉末の表面を被覆して還元作用により酸化を抑制することができる。
但し前記炭素数20から22のジカルボン酸(B−3)は活性力が低く、前記炭素数3から4の直鎖の飽和ジカルボン酸(B−1)との組み合わせのみでは前記合金粉末表面の酸化膜を十分に除去できない虞がある。そのため、特にBi、In及びSb等を含むはんだ合金の粉末を用いた場合、当該合金粉末への酸化作用が不十分となり、はんだボールやボイドの抑制効果を十分に発揮し難い。
【0043】
しかし本実施形態のフラックス組成物は、前記(B−1)及び(B−3)の活性剤に更にプリヒート中から強力な活性力を発揮する炭素数が5から13のジカルボン酸(B−2)を所定量含有するため、フラックス残さの信頼性を確保しつつ、このような合金粉末を使用した場合であっても十分に酸化膜を除去することができるようになる。そのため、本実施形態のフラックス組成物は、前記合金粉末同士の凝集力を向上し、且つはんだ溶融時の粘性を低減させることにより、電子部品脇に発生するはんだボールやはんだ接合部に発生するボイドを低減することができる。またこのような作用により、当該フラックス組成物をソルダボールに使用した場合にも基板上の電極と電子部品上の電極との接合不良を抑制することができる。
【0044】
即ち本実施形態のフラックス組成物は、前記活性剤(B−1)、(B−2)及び(B−3)という特定の炭素数の範囲に該当するジカルボン酸を所定の配合量にて組み合わせて配合することにより、所謂短鎖のジカルボン酸と長鎖のジカルボン酸との組み合わせよりも更に良好なはんだ合金への酸化還元作用を発揮し得る。またこのような活性剤を組み合わせたフラックス組成物は良好な印刷性をも発揮することができる。
【0045】
本実施形態のフラックス組成物には、上記効果を阻害しない範囲で他の活性剤を配合することができる。
このような他の活性剤としては、例えば有機アミンのハロゲン化水素塩等のアミン塩(無機酸塩や有機酸塩)、有機酸、有機酸塩、有機アミン塩等が挙げられる。具体的には、ジフェニルグアニジン臭化水素酸塩、シクロヘキシルアミン臭化水素酸塩、ジエチルアミン塩、ダイマー酸、レブリン酸、乳酸、アクリル酸、安息香酸、サリチル酸、アニス酸、クエン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、アントラニル酸、ピコリン酸及び3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸等が挙げられる。これらは1種単独でまたは複数種を混合して用いてもよい。
当該他の活性剤の配合量は、フラックス組成物全量に対して0質量%超20質量%以下であることが好ましい。
【0046】
(C)チキソ剤
前記チキソ剤(C)としては、例えば水素添加ヒマシ油、脂肪酸アマイド類、飽和脂肪酸ビスアミド類、オキシ脂肪酸、ジベンジリデンソルビトール類が挙げられる。これらは1種単独でまたは複数種を混合して用いてもよい。
前記チキソ剤(C)の配合量は、フラックス組成物全量に対して2質量%以上15質量
%以下であることが好ましく、2質量%以上10質量%以下であることがより好ましい。
【0047】
(D)溶剤
前記溶剤(D)としては、例えばイソプロピルアルコール、エタノール、アセトン、トルエン、キシレン、酢酸エチル、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ヘキシルジグリコール、(2−エチルヘキシル)ジグリコール、フェニルグリコール、ブチルカルビトール、オクタンジオール、αテルピネオール、βテルピネオール、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、トリメリット酸トリス(2−エチルヘキシル)、セバシン酸ビスイソプロピル等が挙げられる。これらは1種単独でまたは複数種を混合して用いてもよい。
前記溶剤(D)の配合量は、フラックス組成物全量に対して20質量%以上50質量%以下であることが好ましく、25質量%以上40質量%以下であることがより好ましい。
【0048】
本実施形態のフラックス組成物には、前記はんだ合金の酸化を抑える目的で酸化防止剤を配合することができる。この酸化防止剤としては、例えばヒンダードフェノール系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、ビスフェノール系酸化防止剤、ポリマー型酸化防止剤等が挙げられる。その中でも特にヒンダードフェノール系酸化剤が好ましく用いられる。これらは1種単独でまたは複数種を混合して用いてもよい。
前記酸化防止剤の配合量は特に限定されないが、一般的にはフラックス組成物全量に対して0.5質量%以上5質量%程度以下であることが好ましい。
【0049】
本実施形態のフラックス組成物には、必要に応じて添加剤を配合することができる。前記添加剤としては、例えば消泡剤、界面活性剤、つや消し剤及び無機フィラー等が挙げられる。これらは1種単独でまたは複数種を混合して用いてもよい。
前記添加剤の配合量は、フラックス組成物全量に対して0.5質量%以上20質量%以下であることが好ましく、1質量%以上15質量%以下であることがより好ましい。
【0050】
(2)ソルダペースト
本実施形態のソルダペーストは、前記フラックス組成物とはんだ合金からなるはんだ合金粉末とを含むことが好ましい。
【0051】
<はんだ合金粉末>
前記はんだ合金粉末としては、無鉛のはんだ合金の粉末が好ましく用いられる。そして本実施形態のソルダペーストは、使用するはんだ合金の成分を問わず、またBi、In及びSb等の酸化性の高い成分を使用した場合であってもはんだ接合部のボイド発生、はんだボールの発生及びはんだ接合不良を抑制しつつ、良好な印刷性を発揮することができる。
【0052】
前記はんだ合金粉末に用いることのできる合金の例示としては、例えばSn並びにAg、Bi、In、Sb、Cu、Zn、Ga、Ge、Au、Pa、Ni、Cr、Al、P、Cd、Tl、Se、Ti、Si及びMg等から選ばれる少なくとも1種を含む合金が挙げられる。なお上記に挙げた元素以外であってもその組み合わせに使用することは可能である。
【0053】
本実施形態のソルダペーストは、例えば前記フラックス組成物と前記はんだ合金粉末とを混練することにより得られる。
前記はんだ合金粉末と前記フラックス組成物との配合比率は、はんだ合金粉末:フラックス組成物の比率で65:35から95:5であることが好ましい。より好ましいその配合比率は85:15から93:7であり、特に好ましい配合比率は87:13から92:8である。
【0054】
なお前記合金粉末の平均粒子径は1μm以上40μm以下であることが好ましく、5μm以上35μm以下であることがより好ましく、10μm以上30μm以下であることが特に好ましい。
【0055】
(3)電子回路基板
本実施形態の電子回路基板は、前記ソルダペーストを用いて形成されるはんだ接合部とフラックス残さ(本明細書においては当該はんだ接合部とフラックス残さとを合わせて「はんだ接合体」という。)を有することが好ましい。当該電子回路基板は、例えば基板上の所定の位置に電極及びソルダレジスト膜を形成し、所定のパターンを有するマスクを用いて本実施形態のソルダペーストを印刷し、当該パターンに適合する電子部品を所定の位置に搭載し、これをリフローすることにより作製される。
このようにして作製された電子回路基板は、前記電極上にはんだ接合部が形成され、当該はんだ接合部は当該電極と電子部品とを電気的に接合する。そして前記基板上には、少なくともはんだ接合部に接着するようにフラックス残さが付着している。
【0056】
本実施形態の電子回路基板は前記ソルダペーストを用いてそのはんだ接合体が形成されているため、酸化性の強い合金元素を含むはんだ合金を用いる場合であってもはんだ接合部のボイド発生及びはんだボールの発生を抑制しつつ、良好な印刷性を発揮することができる。
このようなはんだ接合体を有する電子回路基板は、車載用電子回路基板といった高い信頼性の求められる電子回路基板にも好適に用いることができる。
【0057】
またこのような電子回路基板を組み込むことにより、電子制御装置が作製される。
【実施例】
【0058】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を詳述する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0059】
<アクリル樹脂の合成>
メタクリル酸10質量%、2−エチルヘキシルメタクリレート51質量%、ラウリルアクリレート39質量%を混合した溶液を作製した。
その後、撹拌機、還流管及び窒素導入管とを備えた500mlの4つ口フラスコにジエチルヘキシルグリコール200gを仕込み、これを110℃に加熱した。次いで前記溶液300gにアゾ系ラジカル開始剤としてジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)(製品名:V−601、和光純薬(株)製)を0.2質量%から5質量%を加えてこれを溶解させた。
この溶液を前記4つ口フラスコに1.5時間かけて滴下し、当該4つ口フラスコ内にある成分を110℃で1時間撹拌した後に反応を終了させ、合成樹脂を得た。なお、合成樹脂の重量平均分子量は7,800Mw、酸価は40mgKOH/g、ガラス転移温度は−47℃であった。
【0060】
表1から表4に記載の各成分を混練し、実施例1から16及び比較例1から18に係る各フラックス組成物を得た。なお、特に記載のない限り、表1から表4に配合量の単位は質量%である。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
【表3】

【0064】
【表4】

※1 荒川化学工業(株)製 水添酸変性ロジン
※2 日本化成(株)製 ヘキサメチレンビスヒドロキシステアリン酸アマイド
※3 BASFジャパン(株)製 ヒンダードフェノール系酸化防止剤
【0065】
<ソルダペーストの作製>
前記フラックス組成物を11.2質量%と以下のはんだ合金の粉末を88.8質量混合し、実施例1から16及び比較例1から18に係るソルダペーストを作製した。
実施例1、比較例4:Sn−3Ag−0.5Cuはんだ合金
実施例2、比較例5:Sn−3Ag−59Biはんだ合金
実施例3、比較例6:Sn−2Ag−58Bi−0.5Cu−0.1Niはんだ合金
実施例4、比較例7:Sn−3Ag−0.5Cu−3.5Bi−3Sb−0.04Ni−0.01Coはんだ合金
実施例5から16、比較例1から3及び8から18:Sn−3Ag−0.5Cu−0.5Bi−2.5Sb−4In−0.15Niはんだ合金
※はんだ合金粉末の粒径はいずれも20μmから36μm
【0066】
(1)ボイド試験
2.0mm×1.2mmのサイズのチップ部品と、当該サイズのチップ部品を実装できるパターンを有するソルダレジスト及び前記チップ部品を接続する電極(1.25mm×1.0mm)とを備えたガラスエポキシ基板と、同パターンを有する厚さ150μmのメタルマスクを用意した。
前記ガラスエポキシ基板上に前記メタルマスクを用いて各ソルダペーストを印刷し、それぞれ前記チップ部品を搭載した。
その後、リフロー炉(製品名:TNP−538EM、(株)タムラ製作所製)を用いて前記各ガラスエポキシ基板を加熱してそれぞれに前記ガラスエポキシ基板と前記チップ部品とを電気的に接合するはんだ接合部を形成し、前記チップ部品を実装した。この際のリフロー条件は、プリヒートを170℃から190℃で110秒間、ピーク温度を245℃とし、200℃以上の時間が65秒間、220℃以上の時間が45秒間、ピーク温度から200℃までの冷却速度を3℃から8℃/秒とし、酸素濃度は1500±500ppmに設定した。
次いで各試験基板の表面状態をX線透過装置(製品名:SMX−160E、(株)島津製作所製)で観察し、各試験基板中40箇所のランドにおいて、チップ部品の電極下の領域(図1の破線で囲った領域(a))に占めるボイドの面積率(ボイドの総面積の割合。以下同じ。)とフィレットが形成されている領域(図1の破線で囲った領域(b))に占めるボイドの面積率の平均値を求め、以下のように評価した。その結果を表5から表8までにそれぞれ表す。
◎:ボイドの面積率の平均値が3%以下であって、ボイド発生の抑制効果が極めて良好
○:ボイドの面積率の平均値が3%超5%以下であって、ボイド発生の抑制効果が良好
△:ボイドの面積率の平均値が5%超8%以下であって、ボイド発生の抑制効果が十分
×:ボイドの面積率の平均値が8%を超え、ボイド発生の抑制効果が不十分
【0067】
(2)はんだボール試験
リフロー条件のピーク温度を260℃、200℃以上の時間を70秒間、220℃以上の時間を60秒間とする以外は上記(1)ボイド試験と同じ条件にて各試験基板を作製し、これらを各試験基板の表面状態をX線透過装置(製品名:SMX−160E、(株)島津製作所製)で観察し、チップ部品の周辺及び下面に発生したはんだボール数をカウントし、以下のように評価した。その結果を表5から表8までにそれぞれ表す。
◎:2.0mm×1.2mmチップ抵抗10個辺りに発生したボール数が0個
○:2.0mm×1.2mmチップ抵抗10個辺りに発生したボール数が0個を超え5個以下
△:2.0mm×1.2mmチップ抵抗10個辺りに発生したボール数が5個を超え10個以下
×:2.0mm×1.2mmチップ抵抗10個辺りに発生したボール数が10個を超える
【0068】
(3)銅板腐食試験
JIS規格Z 3284(1994)に規定の条件に従い試験を行い、以下のように評価した。その結果を表5から表8までにそれぞれ表す。
○:Cu板の変色なし
×:Cu板の変色あり
(4)印刷性試験
100ピン0.5mmピッチのBGAを実装できるパターンを有するソルダレジストと電極(直径0.25mm)を備えたガラスエポキシ基板と、同パターンを有する厚さ120μmのメタルマスクを用意した。
前記ガラスエポキシ基板上に前記メタルマスクを用いて各ソルダペーストをそれぞれ6枚連続で印刷し、直径0.25mmにおける転写体積率を画像検査機(製品名:aspire2、(株)コーヨンテクノロジー製)を用いて以下の基準で評価した。その結果を表5から表8までにそれぞれ表す。
◎:転写体積率35%以下の個数が0個
○:転写体積率35%以下の個数が0個を超え10個以下
△:転写体積率35%以下の個数が10個を超え50個以下
×:転写体積率35%以下の個数が50個を超える
【0069】
【表5】

【0070】
【表6】

【0071】
【表7】

【0072】
【表8】

【0073】
以上に示す通り、実施例に係るソルダペーストは、前記活性剤(B)として前記炭素数が3から4の直鎖の飽和ジカルボン酸(B−1)と、前記炭素数が5から13のジカルボン酸(B−2)と、前記炭素数が20から22のジカルボン酸(B−3)を所定量含むフラックス組成物を使用することにより、Sn−3Ag−0.5Cuはんだ合金の合金粉末のみならず、酸化性の高いBiを多く含むはんだ合金の粉末、並びに酸化性の高いSb、In、Bi、Ni、Coを含むはんだ合金の粉末を使用した場合であってもはんだ接合部のボイド発生及びはんだボールの発生を十分に抑制すると共に銅板の腐食を抑制し、且つ良好な印刷性を発揮し得ることが分かる。
なお、例えば比較例5から10のように前記炭素数が5から13のジカルボン酸(B−2)を配合したフラックス組成物を用いた場合であっても、その配合量が少ない場合ははんだ接合部のボイド発生及びはんだボールの発生の抑制効果は不十分であることが分かる。
【0074】
以上、本発明のフラックス組成物は、車載用電子回路基板といった高い信頼性の求められる電子回路基板にも好適に用いることができる。更にこのような電子回路基板は、より一層高い信頼性が要求される電子制御装置に好適に使用することができる。」

第5 甲第1号証〜甲第9号証の記載事項
1 甲第1号証の記載事項
甲第1号証(原出願の公開公報)には、以下の記載がある。
なお、以下に摘記しない記載事項については、上記第4で摘記したとおりである。
(1)「【請求項1】
(A)ベース樹脂と、(B)活性剤と、(C)チキソ剤と、(D)溶剤とを含むフラックス組成物であって、
前記活性剤(B)の配合量はフラックス組成物全量に対して4.5質量%以上35質量%以下であり、
前記活性剤(B)として(B−1)炭素数が3から4の直鎖の飽和ジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して0.5質量%以上3質量%以下、(B−2)炭素数が5から13のジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して2質量%以上15質量%以下、及び(B−3)炭素数が20から22のジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して2質量%以上15質量%以下含むことを特徴とするフラックス組成物。
【請求項2】
前記炭素数が3から4の直鎖の飽和ジカルボン酸(B−1)はマロン酸及びコハク酸の少なくとも一方であり、
前記炭素数が5から13のジカルボン酸(B−2)はグルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、2−メチルアゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、2,4−ジメチル−4−メトキシカルボニルウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸及び2,4,6−トリメチル−4,6−ジメトキシカルボニルトリデカン二酸から選ばれる少なくとも1種であり、
前記炭素数が20から22のジカルボン酸(B−3)はエイコサ二酸、8−エチルオクタデカン二酸、8,13−ジメチル−8,12−エイコサジエン二酸及び11−ビニル−8−オクタデセン二酸から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載のフラックス組成物。
【請求項3】
前記炭素数が20から22のジカルボン酸(B−3)は常温で液状または半固体状であることを特徴とする請求項1または2に記載のフラックス組成物。
【請求項4】
酸化防止剤を更に含むことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のフラックス組成物。
【請求項5】
前記ベース樹脂(A)は(A−1)ロジン系樹脂を含むことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のフラックス組成物。
【請求項6】
前記ベース樹脂(A)は更に(A−2)合成樹脂を含むことを特徴とする請求項5に記のフラックス組成物。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のフラックス組成物と、はんだ合金粉末とを含むことを特徴とするソルダペースト。
【請求項8】
前記はんだ合金粉末はSn並びにAg、Bi、In、Sb、Cu、Ni及びCoから選ばれる少なくとも1種を含む合金からなることを特徴とする請求項7に記載のソルダペースト。
【請求項9】
請求項7または請求項8に記載のソルダペーストを用いて形成されるはんだ接合体を有することを特徴とする電子回路基板。」
(2)「【0011】
(1)本発明に係るフラックス組成物は、(A)ベース樹脂と、(B)活性剤と、(C)チキソ剤と、(D)溶剤とを含むフラックス組成物であって、前記活性剤(B)の配合量はフラックス組成物全量に対して4.5質量%以上35質量%以下であり、前記活性剤(B)として(B−1)炭素数が3から4の直鎖の飽和ジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して0.5質量%以上3質量%以下、(B−2)炭素数が5から13のジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して2質量%以上15質量%以下、及び(B−3)炭素数が20から22のジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して2質量%以上15質量%以下含むことをその特徴とする。
【0012】
(2)上記(1)に記載の構成にあって、前記炭素数が3から4の直鎖の飽和ジカルボン酸(B−1)はマロン酸及びコハク酸の少なくとも一方であり、前記炭素数が5から13のジカルボン酸(B−2)はグルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、2−メチルアゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、2,4−ジメチル−4−メトキシカルボニルウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸及び2,4,6−トリメチル−4,6−ジメトキシカルボニルトリデカン二酸から選ばれる少なくとも1種であり、前記炭素数が20から22のジカルボン酸(B−3)はエイコサ二酸、8−エチルオクタデカン二酸、8,13−ジメチル−8,12−エイコサジエン二酸及び11−ビニル−8−オクタデセン二酸から選ばれる少なくとも1種であることをその特徴とする。」
(3)「【0037】
前記炭素数が5から13のジカルボン酸(B−2)における炭素鎖は直鎖であっても分鎖であってもいずれでもよいが、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、2−メチルアゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、2,4−ジメチル−4−メトキシカルボニルウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、及び2,4,6−トリメチル−4,6−ジメトキシカルボニルトリデカン二酸から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。これらの中でも特にアジピン酸、スベリン酸、セバシン酸及びドデカン二酸が好ましく用いられる。
また前記炭素数が5から13のジカルボン酸(B−2)のより好ましい配合量は、フラックス組成物全量に対して3質量%から12質量%である。」

1−1 原出願の分割直前の明細書、特許請求の範囲の記載事項
下線は、原出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲からの補正箇所を示す。
なお、【請求項2】、段落【0012】、【0037】以外は補正されていない。
(1)「【請求項1】
(A)ベース樹脂と、(B)活性剤と、(C)チキソ剤と、(D)溶剤とを含むフラックス組成物であって、
前記活性剤(B)の配合量はフラックス組成物全量に対して4.5質量%以上35質量%以下であり、
前記活性剤(B)として(B−1)炭素数が3から4の直鎖の飽和ジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して0.5質量%以上3質量%以下、(B−2)炭素数が5から13のジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して2質量%以上15質量%以下、及び(B−3)炭素数が20から22のジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して2質量%以上15質量%以下含むことを特徴とするフラックス組成物。
【請求項2】
前記炭素数が3から4の直鎖の飽和ジカルボン酸(B−1)はマロン酸及びコハク酸の少なくとも一方であり、
前記炭素数が5から13のジカルボン酸(B−2)はグルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、2−メチルアゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸及びトリデカン二酸から選ばれる少なくとも1種であり、
前記炭素数が20から22のジカルボン酸(B−3)はエイコサ二酸、8−エチルオクタデカン二酸、8,13−ジメチル−8,12−エイコサジエン二酸及び11−ビニル−8−オクタデセン二酸から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載のフラックス組成物。
【請求項3】
前記炭素数が20から22のジカルボン酸(B−3)は常温で液状または半固体状であることを特徴とする請求項1または2に記載のフラックス組成物。
【請求項4】
酸化防止剤を更に含むことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のフラックス組成物。
【請求項5】
前記ベース樹脂(A)は(A−1)ロジン系樹脂を含むことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のフラックス組成物。
【請求項6】
前記ベース樹脂(A)は更に(A−2)合成樹脂を含むことを特徴とする請求項5に記
載のフラックス組成物。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のフラックス組成物と、はんだ合金粉末とを含むことを特徴とするソルダペースト。
【請求項8】
前記はんだ合金粉末はSn並びにAg、Bi、In、Sb、Cu、Ni及びCoから選ばれる少なくとも1種を含む合金からなることを特徴とする請求項7に記載のソルダペースト。
【請求項9】
請求項7または請求項8に記載のソルダペーストを用いて形成されるはんだ接合体を有することを特徴とする電子回路基板。」
(2)「【0011】
(1)本発明に係るフラックス組成物は、(A)ベース樹脂と、(B)活性剤と、(C)チキソ剤と、(D)溶剤とを含むフラックス組成物であって、前記活性剤(B)の配合量はフラックス組成物全量に対して4.5質量%以上35質量%以下であり、前記活性剤(B)として(B−1)炭素数が3から4の直鎖の飽和ジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して0.5質量%以上3質量%以下、(B−2)炭素数が5から13のジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して2質量%以上15質量%以下、及び(B−3)炭素数が20から22のジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して2質量%以上15質量%以下含むことをその特徴とする。
【0012】
(2)上記(1)に記載の構成にあって、前記炭素数が3から4の直鎖の飽和ジカルボン酸(B−1)はマロン酸及びコハク酸の少なくとも一方であり、前記炭素数が5から13のジカルボン酸(B−2)はグルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、2−メチルアゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸及びトリデカン二酸から選ばれる少なくとも1種であり、前記炭素数が20から22のジカルボン酸(B−3)はエイコサ二酸、8−エチルオクタデカン二酸、8,13−ジメチル−8,12−エイコサジエン二酸及び11−ビニル−8−オクタデセン二酸から選ばれる少なくとも1種であることをその特徴とする。」
(3)「【0037】
前記炭素数が5から13のジカルボン酸(B−2)における炭素鎖は直鎖であっても分鎖であってもいずれでもよいが、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、2−メチルアゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸及びトリデカン二酸から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。これらの中でも特にアジピン酸、スベリン酸、セバシン酸及びドデカン二酸が好ましく用いられる。また前記炭素数が5から13のジカルボン酸(B−2)のより好ましい配合量は、フラックス組成物全量に対して3質量%から12質量%である。」

2 甲第2号証の記載事項
甲第2号証には、以下の記載がある。
(1)「<変更箇所の説明>
1)請求項1
「前記活性剤(B)として(B−1)炭素数が3から4の直鎖の飽和ジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して0.5質量%以上2質量%以下」について、 原出願の出願当初の明細書及び原出願の分割直前の明細書(以下、「原出願の明細書」といいます。)の段落【0036】において、「また当該炭素数が3から4の直鎖の飽和ジカルボン酸(B−1)のより好ましい配合量は、フラックス組成物全量に対して0.5質量%から2質量%である。」旨が開示されています。
「前記炭素数が5から13のジカルボン酸(B−2)と前記炭素数が20から22のジカルボン酸(B−3)の配合量が合計で4質量%以上18質量%以下である」について、その下限値に関しては、前記炭素数が5から13のジカルボン酸(B−2)と前記炭素数が20から22のジカルボン酸(B−3)の下限値の合計であり、原出願の特許請求の範囲及び明細書に開示されている事項です。
またその上限値については、同段落【0061】【表1】の実施例1から5に係るフラックス組成物の前記炭素数が5から13のジカルボン酸(B−2)と前記炭素数が20から22のジカルボン酸(B−3)の合計であり、原出願の明細書に開示されている事項です。」(第2ページ)

3 甲第3号証の記載事項
甲第3号証には、以下の記載がある。
(1)「●理由1(サポート要件)について

・請求項1〜9
フラックス組成物を構成する各成分のソルダペーストとして用いられた場合の効果を確認し、当該成分の当該効果が発現する成分組成範囲を決めるためには、フラックス組成物の当該成分以外の成分組成及びソルダペーストのはんだ合金が同じであるもの同士を比較する必要がある。
しかし、発明の詳細な説明に開示された実施例及び比較例においては、段落0065に記載されるように、5種類のはんだ合金が実験例毎に変えられて用いられているところ、特定成分のフラックス組成物における含有量を決定するために、実施例と比較例をどのように組み合わせて比較するのか、その組合せが発明の詳細な説明に記載がなく、具体的にどのようにして、「(B−1)炭素数が3から4の直鎖の飽和ジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して0.5質量%以上2質量%以下」「(B−2)炭素数が5から13のジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して2質量%以上15質量%以下」、「(B−3)炭素数が20から22のジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して2質量%以上15質量%以下」、「前記炭素数が5から13のジカルボン酸(B−2)と前記炭素数が20から22のジカルボン酸(B−3)の配合量が合計で4質量%以上18質量%以下」と特定することができるのか、明らかでない。
例えば、実施例1と比較例1とでは、(B−1)成分の含有量のみが異なり(実施例1は2質量%、比較例1は0質量%)、両者を比較すれば(B−1)成分を含むことによる効果を確認することが可能であるところ、実験に使用されるはんだ合金は、実施例1は「Sn−3Ag−0.5Cuはんだ合金」であり、比較例1は「Sn−3Ag−0.5Cu−0.5Bi−2.5Sb−4In−0.15Niはんだ合金」であって、両者は異なるから、実施例1と比較例1とで(B−1)成分のみの効果を確認することはできない。
したがって、実施例と比較例の比較から、上記本願発明の課題を解決し得る(B−1)(B−2)(B−3)の直鎖飽和ジカルボン酸の各成分組成を確認することができないし、発明の詳細な説明には、当該成分組成を採る理由も記載されていない。
したがって、請求項1に係る発明の「(B−1)炭素数が3から4の直鎖の飽和ジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して0.5質量%以上3質量%以下」、「(B−2)炭素数が5から13のジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して2質量%以上15質量%以下」、「(B−3)炭素数が20から22のジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して2質量%以上15質量%以下」、「前記炭素数が5から13のジカルボン酸(B−2)と前記炭素数が20から22のジカルボン酸(B−3)の配合量が合計で4質量%以上18質量%以下」という各成分組成範囲において、上記課題が解決できているのか否か明らかではないから、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえない。
請求項1を引用する請求項2〜9についても同様である。」(第3〜4ページ)

4 甲第4号証の記載事項
甲第4号証には、以下の記載がある。
(1)「【請求項1】(A)ベース樹脂と、(B)活性剤と、(C)チキソ剤と、(D)溶剤とを含むフラックス組成物であって、
前記活性剤(B)の配合量はフラックス組成物全量に対して4.5質量%以上35質量%以下であり、
前記活性剤(B)として(B−1)炭素数が3から4の直鎖の飽和ジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して1質量%以上2質量%以下、(B−2)炭素数が5から13のジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して3質量%以上12質量%以下、及び(B−3)炭素数が20から22のジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して6質量%以上12質量%以下含み、前記炭素数が5から13のジカルボン酸(B−2)と前記炭素数が20から22のジカルボン酸(B−3)の配合量が合計で15質量%以上18質量%以下であり、
前記活性剤(B)としてハロゲン系活性剤を含むことを特徴とするフラックス組成物。」(第1ページ)

5 甲第5号証の記載事項
甲第5号証には、以下の記載がある。
(1)「1−2.補正の根拠
補正後請求項1の「(B−1)炭素数が3から4の直鎖の飽和ジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して1質量%以上2質量%以下」については、本願明細書段落【0061】【表1】の実施例1、実施例7等に開示されています。
また「(B−2)炭素数が5から13のジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して3質量%以上12質量%以下」、「(B−3)炭素数が20から22のジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して6質量%以上12質量%以下」、「前記炭素数が5から13のジカルボン酸(B−2)と前記炭素数が20から22のジカルボン酸(B−3)の配合量が合計で15質量%以上18質量%以下」、「前記活性剤(B)としてハロゲン系活性剤を含む」ことについては、以下2.以降で述べる理由により、本願明細書に開示されているに等しい事項であると考えます。」(第2ページ)
(2)「即ち、本願明細書における実施例から「(B−1)炭素数が3から4の直鎖の飽和ジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して1質量%以上2質量%以下」、「(B−2)炭素数が5から13のジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して3質量%以上12質量%以下」、「(B−3)炭素数が20から22のジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して6質量%以上12質量%以下」と特定することができることは明確であると理解します。
また同様に、前記炭素数が5から13のジカルボン酸(B−2)と前記炭素数が20から22のジカルボン酸(B−3)の配合量が合計で15質量%以上18質量%以下と特定することができることも明確であると理解します。」(第16ページ)

6 甲第6号証の記載事項
甲第6号証には、以下の記載がある。
(1)「また上述のように、2−ブロモヘキサン酸を含むハロゲン系活性剤は、ハロゲンを含むことにより活性作用が高いことは当業者において技術常識であると考えます。」(第6ページ)

7 甲第7号証の記載事項
甲第7号証には、以下の記載がある。
(1)「(カ)ところで,実施例6及び11〜16,比較例1〜3,8,10〜11及び15〜17については,フラックス組成物の各成分の総和が100質量%となっていないことから,表1〜4のいずれかの欄に記載された数値に誤記が存在することは,明らかである。
そして,上記(ア)〜(オ)で述べたとおり,実施例及び比較例が,基本的に,「(A)」,「(C)」,「酸化防止剤,「添加剤」の各成分については,同条件とした上で,「(B)」の各成分について,その種類や含有量を系統的に変更したものであることを踏まえると,「(D)」欄に誤記があることは,当業者にとって明らかといえる(例えば,実施例6については,「(D)」欄に「24.7」(質量%)と記載されているが,「25.7」(質量%)の誤記である。)。
(キ)以上によれば,本件明細書の表1〜4における実施例6及び11〜16,比較例1〜3,8,10〜11及び15〜17については,フラックス組成物の各成分の総和が100質量%となっていないものの,「(D)」欄に誤記があることは当業者にとって明らかであり,その正しい記載も当業者であれば直ちに理解できることから,実施例及び比較例の記載は,いずれも,適正な実験結果であるといえる。
そうすると,本件発明1〜9については,発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するものであり,また,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものである。」(第15〜16ページ)

8 甲第8号証の記載事項
甲第8号証には、以下の記載がある。
(1)「(3)数値限定を追加又は変更する補正の場合
a 数値限定を追加する補正は、その数値限定が新たな技術的事項を導入するものではない場合には、許される。
例えば、発明の詳細な説明中に「望ましくは24〜25℃」との数値限定が明示的に記載されている場合には、その数値限定を請求項に追加する補正は許される。
また、24℃と25℃の実施例が記載されている場合は、そのことをもって直ちに「24〜25℃」の数値限定を追加する補正が許されることにならないが、当初明細書等の記載全体からみて24〜25℃の特定の範囲についての言及があったものと認められる場合もある。例えば、24℃と25℃が、課題、効果等の記載からみて、ある連続的な数値範囲の上限、下限等の境界値として記載されていると認められる場合である。このような場合は、実施例のない場合と異なり、数値限定の記載が当初からなされていたものと評価でき、新たな技術的事項を導入するものではない。したがって、このような補正は許される。」(第6ページ)

9 甲第9号証の記載事項
甲第9号証には、以下の記載がある。
(1)「



(2)「



第6 当審の判断
以下に述べるように、本件特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1〜9に係る特許を取り消すことはできない。
1 申立理由1(新規性進歩性)について
(1)特許法第44条第1項に規定する分割要件について
ア 申立人は、本件発明1における、「前記炭素数が5から13のジカルボン酸(B−2)と前記炭素数が20から22のジカルボン酸(B−3)の配合量が合計で15質量%以上18質量%以下である」という構成は、原出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものとはいえず、本件特許は違法な分割出願に基づいて成立したものであるから、出願日の遡及の効果を受けられない結果、原出願の公開特許公報(特開2018−122323号公報)(甲第1号証)に対して新規性進歩性を具備していない旨主張する。
そのため、まず申立人の主張の前提となる、本願が分割要件を満たすか否かについて検討する。
イ 形式的要件について
本願は、原出願の出願人が、原出願の特許すべき旨の査定の謄本の送達があった日(平成31年 4月 2日)から30日以内である平成31年 4月23日に新たな特許出願をしたものであって、また、原出願は、拒絶査定を経ておらず、特許権の設定登録は、令和 1年 5月10日であるから、本願は特許出願の分割の形式的要件を満たすものである。
ウ 実体的要件について
(ア)原出願の分割直前の明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「原出願の分割直前の明細書等」)に記載された発明の全部が分割出願の請求項に係る発明とされたものでないことについて
a 原出願の分割直前の明細書等に記載された発明の全部が本件発明とされていないことは明らかである。
(イ)分割出願の明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「分割出願の明細書等」という。)に記載された事項が、原出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「原出願の当初明細書等」という。)に記載された事項の範囲内であることについて
a 本件明細書の段落【0011】、【0012】、【0037】以外は原出願の当初明細書等から補正されていないため、本件明細書の段落【0011】、【0012】、【0037】以外の記載事項は、原出願の当初明細書等に記載された事項の範囲内である。
b 請求項1の記載事項について、活性剤Bの個々の配合量は、原出願の当初明細書等では、「(B−1)炭素数が3から4の直鎖の飽和ジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して0.5質量%以上3質量%以下、(B−2)炭素数が5から13のジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して2質量%以上15質量%以下、及び(B−3)炭素数が20から22のジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して2質量%以上15質量%以下含む」であるのに対し、本件特許の請求項1は、「(B−1)炭素数が3から4の直鎖の飽和ジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して1質量%以上2質量%以下、(B−2)炭素数が5から13のジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して3質量%以上12質量%以下、及び(B−3)炭素数が20から22のジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して6質量%以上12質量%以下含み」である(以下、「(B−1)炭素数が3から4の直鎖の飽和ジカルボン酸」を「活性剤(B−1)」、「(B−2)炭素数が5から13のジカルボン酸」を「活性剤(B−2)」、「(B−3)炭素数が20から22のジカルボン酸」を「活性剤(B−3)」という。)。
ここで、活性剤(B−1)、活性剤(B−2)及び活性剤(B−3)の上下限値に係る補正は、それぞれ、活性剤(B−1)の配合量の下限値である「1」は実施例6〜16、上限値である「2」は実施例1〜5の記載に基づき、活性剤(B−2)の配合量の下限値である「3」は実施例14、上限値である「12」は実施例15の記載に基づき、活性剤(B−3の配合量の下限値である「6」は実施例1〜13、15、16、上限値である「12」は実施例14の記載に基づくものである。
そして、上記aのとおり、本件明細書における実施例(段落【0058】〜【0073】)は、原出願の当初明細書等から補正されていないため、本件特許の請求項1の上記記載事項は、原出願の当初明細書等に記載された事項の範囲内である。
c 段落【0011】の記載事項について、活性剤(B−1)の配合量は、原出願の当初明細書等では、「フラックス組成物全量に対して0.5質量%以上3質量%以下」であるのに対し、本件明細書では、「フラックス組成物全量に対して1質量%以上2質量%以下」である。
ここで、活性剤(B−1)の配合量の上限値である「2」の補正は、実施例1〜5の記載に基づくものである。
そして、上記aのとおり、本件明細書における実施例(段落【0058】〜【0073】)は、原出願の当初明細書等から補正されていないため、本件明細書の段落【0011】における上記記載事項は、原出願の当初明細書等に記載された事項の範囲内である。
d 本件特許の請求項2、本件明細書の段落【0012】、【0037】の記載事項は、原出願の当初明細書等に記載された事項から、「炭素数が5から13のジカルボン酸(B−2)」である、「2,4−ジメチル−4−メトキシカルボニルウンデカン二酸」及び「2,4,6−トリメチル−4,6−ジメトキシカルボニルトリデカン二酸」を削除したものであるから、本件明細書の段落【0012】、【0037】の記載事項は、原出願の当初明細書等に記載された記載事項の範囲内である。
e 本件特許の請求項1、本件明細書の段落【0011】の記載事項である、「前記炭素数が5から13のジカルボン酸(B−2)と前記炭素数が20から22のジカルボン酸(B−3)の配合量が合計で15質量%以上18質量%以下である」との記載事項は、後記(エ)で述べるとおり、原出願の当初明細書等に記載された記載事項の範囲内である。
(ウ)分割出願の明細書等に記載された事項が、原出願の分割直前の明細書等に記載された事項の範囲内であることについて
a 本件明細書の段落【0011】、【0012】、【0037】以外は原出願の当初明細書等から補正されていないため、本件明細書の段落【0011】、【0012】、【0037】以外の記載事項は、原出願の分割直前の明細書等に記載された事項の範囲内である。
b 本件特許の請求項1の記載事項について、活性剤Bの個々の配合量は、原出願の分割直前の明細書等では、「(B−1)炭素数が3から4の直鎖の飽和ジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して0.5質量%以上3質量%以下、(B−2)炭素数が5から13のジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して2質量%以上15質量%以下、及び(B−3)炭素数が20から22のジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して2質量%以上15質量%以下含む」である。
この記載事項は、原出願の当初明細書等の記載と同一であるから、上記(イ)bで述べたのと同様の理由により、本件特許の請求項1における「(B−1)炭素数が3から4の直鎖の飽和ジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して1質量%以上2質量%以下、(B−2)炭素数が5から13のジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して3質量%以上12質量%以下、及び(B−3)炭素数が20から22のジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して6質量%以上12質量%以下含み」との記載事項は、原出願の分割直前の明細書等に記載された事項の範囲内である。
c 段落【0011】の記載事項について、活性剤(B−1)の配合量は、原出願の分割直前の明細書等では、「フラックス組成物全量に対して0.5質量%以上3質量%以下」である。
この記載事項は、原出願の当初明細書等の記載と同一であるから、上記(イ)cで述べたのと同様の理由により、本件明細書の段落【0011】における「フラックス組成物全量に対して0.5質量%以上2質量%以下」との記載事項は、原出願の分割直前の明細書等に記載された事項の範囲内である。
d 本件特許の請求項2、本件明細書の段落【0012】、【0037】の記載事項は、原出願の分割直前の明細書等に記載された事項と同一の記載事項であるから、これらの記載事項は、原出願の分割直前の明細書等に記載された事項の範囲内である。
e 本件特許の請求項1、本件明細書の段落【0011】の記載事項である、「前記炭素数が5から13のジカルボン酸(B−2)と前記炭素数が20から22のジカルボン酸(B−3)の配合量が合計で15質量%以上18質量%以下である」との記載事項は、後記(エ)で述べるとおり、原出願の分割直前の明細書等に記載された記載事項の範囲内である。
(エ)本件特許の請求項1、本件明細書の段落【0011】の記載事項である、「前記炭素数が5から13のジカルボン酸(B−2)と前記炭素数が20から22のジカルボン酸(B−3)の配合量が合計で15質量%以上18質量%以下である」との記載事項が、原出願の当初明細書等、原出願の分割直前の明細書等の記載事項の範囲内であるかについて
本件特許の請求項1、本件明細書の段落【0011】の当該記載事項は、原出願の当初明細書等、原出願の分割直前の明細書等のいずれにも明示的な記載がないため、当該記載事項が、これらに実質的に記載されたものであるといえるかを以下で検討する。
なお、上記(イ)、(ウ)で述べたとおり、本件特許の請求項1、2、本件明細書の段落【0011】、【0012】、【0037】以外の記載事項は、原出願の対応する記載事項から変更されておらず、本件特許の請求項2、本件明細書の段落【0012】、【0037】の記載事項は、原出願の分割直前の明細書等に記載された事項と同一であるから、以下では、本件発明及び本件明細書の記載事項に基づき検討する。
a 活性剤(B−2)の配合量について、段落【0035】には、「(B−2)炭素数が5から13のジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して2質量%以上15質量%以下・・・含むことが好ましい。」、段落【0037】には、「炭素数が5から13のジカルボン酸(B−2)のより好ましい配合量は、フラックス組成物全量に対して3質量%から12質量%である。」との記載があり、実施例には、活性剤(B−2)を合計で、3質量%(実施例14)、9質量%(実施例1〜13、16)、12質量%(実施例15)含む例が記載されている(「・・・」は記載の省略を表す。以下同様。)。
b 活性剤(B−3)の配合量について、段落【0035】には、「(B−3)炭素数が20から22のジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して2質量%以上15質量%以下含むことが好ましい。」、段落【0040】には、「前記炭素数が20から22のジカルボン酸(B−3)のより好ましい配合量は、フラックス組成物全量に対して3質量%から12質量%である。」との記載があり、実施例には、活性剤(B−3)を合計で、6質量%(実施例1〜13、15、16)、12質量%(実施例14)含む例が記載されている。
c 活性剤(B−2)の配合量と活性剤(B−3)の配合量との関係について、本件明細書に以下の事項が記載されている。
(a)「当該活性剤(B)の配合量は、4.5質量%以上35質量%以下であることが好ましく、4.5質量%以上20質量%以下であることがより好ましい。」(段落【0035】)、(b)「前記活性剤(B)として前記活性剤(B−1)、(B−2)及び(B−3)のそれぞれの炭素数の範囲に該当するジカルボン酸を上記配合量により配合することにより、本実施形態のフラックス組成物は、Bi、In及びSbといった酸化性の高い元素を添加したはんだ合金を使用した場合であっても十分にその酸化膜を除去することができる。」(段落【0041】)、(c)「しかし本実施形態のフラックス組成物は、前記(B−1)及び(B−3)の活性剤に更にプリヒート中から強力な活性力を発揮する炭素数が5から13のジカルボン酸(B−2)を所定量含有するため、フラックス残さの信頼性を確保しつつ、このような合金粉末を使用した場合であっても十分に酸化膜を除去することができるようになる。」(段落【0043】)、(d)「即ち本実施形態のフラックス組成物は、前記活性剤(B−1)、(B−2)及び(B−3)という特定の炭素数の範囲に該当するジカルボン酸を所定の配合量にて組み合わせて配合することにより、所謂短鎖のジカルボン酸と長鎖のジカルボン酸との組み合わせよりも更に良好なはんだ合金への酸化還元作用を発揮し得る。」(段落【0044】)
d 上記a〜cの記載事項から、本件発明は、活性剤(B)の配合量が、4.5質量%以上35質量%以下である限り、活性剤(B−1)、(B−2)及び(B−3)のそれぞれの炭素数の範囲に該当するジカルボン酸を上記配合量により配合することにより、所望の効果を奏するものと認められる。
e そして、本件発明1において、活性剤(B−1)の配合量は、「1質量%以上2質量%以下」、活性剤(B−2)の配合量は、「3質量%以上12質量%以下」、活性剤(B−3)の配合量は、「6質量%以上12質量%以下」であって、活性剤(B−1)、(B−2)及び(B−3)の上限値の和は26質量%となり、活性剤(B)の上限値を下回るから、活性剤(B−2)及び活性剤(B−3)の配合量は、それぞれ、「3質量%以上12質量%以下」、「6質量%以上12質量%以下」の範囲で、任意に選択できるものと認められる(そのように任意に選択した場合、結果として、活性剤(B−2)及び活性剤(B−3)の配合量の合計が、「9質量%以上24質量%以下」の範囲に収まるものになることは、自明である。)。
f そうすると、活性剤(B−2)と活性剤(B−3)の配合量の合計を、例えば、実施例14、15の数値である15、18を用いて、「9質量%以上24質量%以下」から「15質量%以上18質量%以下」と減縮することは、原出願の当初明細書等に記載した事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。。
g 以上によれば、本件発明1の、「前記炭素数が5から13のジカルボン酸(B−2)と前記炭素数が20から22のジカルボン酸(B−3)の配合量が合計で15質量%以上18質量%以下である」との記載事項は、原出願の当初明細書等に記載された事項の範囲内であると共に、原出願の分割直前の明細書等に記載された事項の範囲内であると認められる。
h したがって、本願は、分割要件を満たしていると認められる。
エ 申立人の主張について
(ア)理由a〜dについて
申立人は特許異議申立書において、「
理由a:構成(d)が特定する(B−2)および(B−3)の配合量の「合計」の上限値および下限値は、原出願明細書のどこにも記載されていない。
理由b:構成(d)の数値範囲の上限値および下限値は、実施例に記載されている(B−2)および(B−3)の配合量を任意で抽出し、加算するという“演算”を行うことによって得られる数値を根拠とするものである。このような“演算”の結果を上限および下限とする数値範囲を一般化し、請求項に追加することは新規事項の追加にあたり、原出願明細書に記載されたものとは言えない。
理由c:実施例に記載の(B−2)および(B−3)の配合量の合計は、実施例で使用した原材料からなる配合と一体不可分のものである。理由aで述べたとおり、実施例の記載から、(B−2)および(B−3)の配合量の合計の好ましい数値範囲が把握できることはあり得ないが、仮に把握できることがあったとしても、当該数値範囲は実施例に記載されている配合限りのものとしか理解できない。実施例に記載された配合と切り離して、構成(d)のみを追加することは、新規事項の追加にあたり、原出願明細書に記載されたものとは言えない。
理由d:実施例に記載の(B−2)および(B−3)の配合量の合計は、実施例の材料および配合と一体不可分のものであることから、実施例に含まれている「2−ブロモヘキサン酸」を含むことを特定しない本件特許請求項1に記載の発明は、原出願明細書に記載されたものとは言えない。
」と主張する。
しかしながら、上記ウ(エ)で述べたとおり、原出願の明細書及び分割直前の明細書には、活性剤(B)の配合量が、4.5質量%以上35質量%以下である限り、活性剤(B−2)及び活性剤(B−3)の配合量を、それぞれ、「3質量%以上12質量%以下」、「6質量%以上12質量%以下」の範囲で、任意に選択できることが記載されており、また、実施例14、15の数値を用いた、活性剤(B−2)と活性剤(B−3)の配合量が合計で15質量%以上18質量%以下であることも記載されていると認められる。
よって、申立人の主張は採用できない。
(イ)理由eについて
申立人は特許異議申立書において、「仮に、構成(d)の上限値「18」の根拠を本件明細書の実施例15に記載された数値に基づく演算結果(合計量の算出)に求めたとしても、
(B−2)および(B−3)の配合量の合計(質量%)
=[(B−2)配合量+(B−3)配合量]/[フラックス組成物全量]×100
=18/99×100
=18.18・・
となり、上記合計を「18質量%以下」とする本件特許請求項1の構成(d)の数値範囲を導くことはできない。」と主張する。
しかしながら、甲第7号証(原出願(特願2017−15244)に係る異議2019−700970号の異議の決定)において、「実施例及び比較例が,基本的に,「(A)」,「(C)」,「酸化防止剤,「添加剤」の各成分については,同条件とした上で,「(B)」の各成分について,その種類や含有量を系統的に変更したものであることを踏まえると,「(D)」欄に誤記があることは,当業者にとって明らかといえる(例えば,実施例6については,「(D)」欄に「24.7」(質量%)と記載されているが,「25.7」(質量%)の誤記である。)。」と説示されるのと同様の理由により、実施例15の「(D)」欄の「24.7」(質量%)との記載は、「25.7」(質量%)の誤記であると認められる。
したがって、実施例15の記載から、活性剤(B−2)と活性剤(B−3)の配合量が合計で18質量%であることを導くことはできる。
よって、申立人の主張は採用できない。
(ウ)理由fについて
申立人は特許異議申立書において、「審査基準には、実施例に記載された数値に基づく補正が認められる場合が示されているが、本件は当該場合に該当しない。」と主張する。
しかしながら、上記(ア)で述べたとおり、原出願の明細書及び分割直前の明細書には、実施例14、15の数値を用いた、活性剤(B−2)と活性剤(B−3)の配合量が合計で15質量%以上18質量%以下であることが記載されていると認められる。
また、上記実施例の数値は、活性剤(B−2)と活性剤(B−3)のそれぞれの数値範囲の一部として記載されているものであるから、審査基準に記載される事例は、本件とは事案が異なるため、当てはめる対象として適当であるとはいえない。
よって、申立人の主張は採用できない。
オ 小括
以上のとおりであるから、本願は分割要件を満たすものであり、その出願日は特許法第44条第2項の規定により原出願の出願日である平成29年 1月31日とみなされる。

(2)新規性進歩性についての判断
上記(1)で述べたとおり、本願は分割要件を満たすことから、平成30年 8月 9日を公開日とする甲第1号証は、本願出願前に日本国内または外国において頒布された刊行物であるとも、本願出願前に日本国内または外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能になったものとも認められないから、甲第1号証に基づいて、本件発明1〜9が、特許法第29条第1項第3号に掲げる発明に該当するとはいえず、また、特許法第29条第1項第3号に掲げる発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(3)申立理由1のまとめ
以上のとおり、申立理由1によっては、本件特許の請求項1〜9に係る特許を取り消すことはできない。

2 申立理由2(サポート要件)について
下線は、強調のため当審で付与した。
(1)ア 本件発明が解決しようとする課題は、酸化性の強い合金元素を含むはんだ合金を用いる場合であってもはんだ接合部のボイド発生、はんだボールの発生及びはんだ接合不良を抑制しつつ、良好な印刷性を発揮することのできるフラックス組成物、ソルダペースト及びこれを用いて形成されるはんだ接合体を有する電子回路基板を提供することであると認められる(段落【0010】)。
イ 上記本件発明が解決しようとする課題に対し、本件発明1のフラックス組成物は、
「(A)ベース樹脂と、(B)活性剤と、(C)チキソ剤と、(D)溶剤とを含むフラックス組成物であって、
前記活性剤(B)の配合量はフラックス組成物全量に対して4.5質量%以上35質量%以下であり、
前記活性剤(B)として(B−1)炭素数が3から4の直鎖の飽和ジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して1質量%以上2質量%以下、(B−2)炭素数が5から13のジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して3質量%以上12質量%以下、及び(B−3)炭素数が20から22のジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して6質量%以上12質量%以下含み、前記炭素数が5から13のジカルボン酸(B−2)と前記炭素数が20から22のジカルボン酸(B−3)の配合量が合計で15質量%以上18質量%以下であることを特徴とするフラックス組成物。」との技術的事項で特定されている。
ウ 一方、本件明細書には、上記本件発明が解決しようとする課題に関し、以下の事項が記載されている。
「本実施形態のフラックス組成物は、(A)ベース樹脂と、(B)活性剤と、(C)チキソ剤と、(D)溶剤とを含むことが好ましい。」(段落【0023】)
「前記ロジン系樹脂(A−1)を単独で用いる場合、その配合量はフラックス組成物全量に対して20質量%以上60質量%以下であることが好ましく、30質量%以上55質量%以下であることが更に好ましい。ロジン系樹脂(A−1)の配合量をこの範囲とすることで、良好なはんだ付性を実現することができる。」(段落【0031】)
「前記活性剤(B)として前記活性剤(B−1)、(B−2)及び(B−3)のそれぞれの炭素数の範囲に該当するジカルボン酸を上記配合量により配合することにより、本実施形態のフラックス組成物は、Bi、In及びSbといった酸化性の高い元素を添加したはんだ合金を使用した場合であっても十分にその酸化膜を除去することができる。よってこれをソルダペーストに用いる場合、前記はんだ合金からなる合金粉末同士の凝集力の向上及びはんだ溶融時の粘性の低減を図れ、これにより電子部品脇に発生するはんだボールやはんだ接合部に発生するボイドを低減することができる。またソルダボールによるはんだ接合を行う場合であっても、当該ソルダボールの表面酸化を十分に抑制し得るため、基板上の電極と電子部品の電極との接合不良を抑制することができる。」(段落【0041】)
「特にソルダペーストに用いる場合、前記炭素数が3から4の直鎖の飽和ジカルボン酸(B−1)は、前記フラックス組成物と前記合金粉末とを混練する際、その一部が前記合金粉末の表面をコーティングしてその表面酸化を抑制し得る。また前記炭素数が20から22のジカルボン酸(B−3)は反応性が遅いことから長時間に渡る基板へのソルダペーストの印刷工程においても安定的であり且つリフロー加熱中においても揮発し難いことから、溶融した前記合金粉末の表面を被覆して還元作用により酸化を抑制することができる。
但し前記炭素数20から22のジカルボン酸(B−3)は活性力が低く、前記炭素数3から4の直鎖の飽和ジカルボン酸(B−1)との組み合わせのみでは前記合金粉末表面の酸化膜を十分に除去できない虞がある。そのため、特にBi、In及びSb等を含むはんだ合金の粉末を用いた場合、当該合金粉末への酸化作用が不十分となり、はんだボールやボイドの抑制効果を十分に発揮し難い。」(段落【0042】)
「しかし本実施形態のフラックス組成物は、前記(B−1)及び(B−3)の活性剤に更にプリヒート中から強力な活性力を発揮する炭素数が5から13のジカルボン酸(B−2)を所定量含有するため、フラックス残さの信頼性を確保しつつ、このような合金粉末を使用した場合であっても十分に酸化膜を除去することができるようになる。そのため、本実施形態のフラックス組成物は、前記合金粉末同士の凝集力を向上し、且つはんだ溶融時の粘性を低減させることにより、電子部品脇に発生するはんだボールやはんだ接合部に発生するボイドを低減することができる。またこのような作用により、当該フラックス組成物をソルダボールに使用した場合にも基板上の電極と電子部品上の電極との接合不良を抑制することができる。」(段落【0043】)
「即ち本実施形態のフラックス組成物は、前記活性剤(B−1)、(B−2)及び(B−3)という特定の炭素数の範囲に該当するジカルボン酸を所定の配合量にて組み合わせて配合することにより、所謂短鎖のジカルボン酸と長鎖のジカルボン酸との組み合わせよりも更に良好なはんだ合金への酸化還元作用を発揮し得る。またこのような活性剤を組み合わせたフラックス組成物は良好な印刷性をも発揮することができる。」(段落【0044】)
「本実施形態のフラックス組成物には、上記効果を阻害しない範囲で他の活性剤を配合することができる。
このような他の活性剤としては、例えば有機アミンのハロゲン化水素塩等のアミン塩(無機酸塩や有機酸塩)、有機酸、有機酸塩、有機アミン塩等が挙げられる。具体的には、ジフェニルグアニジン臭化水素酸塩、シクロヘキシルアミン臭化水素酸塩、ジエチルアミン塩、ダイマー酸、レブリン酸、乳酸、アクリル酸、安息香酸、サリチル酸、アニス酸、クエン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、アントラニル酸、ピコリン酸及び3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸等が挙げられる。これらは1種単独でまたは複数種を混合して用いてもよい。
当該他の活性剤の配合量は、フラックス組成物全量に対して0質量%超20質量%以下であることが好ましい。」(段落【0045】)
「本実施形態のフラックス組成物には、前記はんだ合金の酸化を抑える目的で酸化防止剤を配合することができる。・・・本実施形態のフラックス組成物には、必要に応じて添加剤を配合することができる。」(段落【0048】、【0049】)
「(2)ソルダペースト
本実施形態のソルダペーストは、前記フラックス組成物とはんだ合金からなるはんだ合金粉末とを含むことが好ましい。
<はんだ合金粉末>
前記はんだ合金粉末としては、無鉛のはんだ合金の粉末が好ましく用いられる。そして本実施形態のソルダペーストは、使用するはんだ合金の成分を問わず、またBi、In及びSb等の酸化性の高い成分を使用した場合であってもはんだ接合部のボイド発生、はんだボールの発生及びはんだ接合不良を抑制しつつ、良好な印刷性を発揮することができる。」(段落【0051】、【0052】)
「本実施形態の電子回路基板は前記ソルダペーストを用いてそのはんだ接合体が形成されているため、酸化性の強い合金元素を含むはんだ合金を用いる場合であってもはんだ接合部のボイド発生及びはんだボールの発生を抑制しつつ、良好な印刷性を発揮することができる。
このようなはんだ接合体を有する電子回路基板は、車載用電子回路基板といった高い信頼性の求められる電子回路基板にも好適に用いることができる。」(段落【0056】)
エ そして、本件明細書の実施例(段落【0058】〜【0073】)には、比較例との比較からみて、活性剤(B−1)をフラックス組成物全量に対して1質量%以上2質量%以下、活性剤(B−2)をフラックス組成物全量に対して3質量%以上12質量%以下、及び活性剤(B−3)をフラックス組成物全量に対して6質量%以上12質量%以下含むことで、ボイド試験が、「ボイドの面積率の平均値が5%以下」、はんだボール試験が、「2.0mm×1.2mmチップ抵抗10個辺りに発生したボール数が5個以下」、銅板腐食試験が、「Cu板の変色なし」、印刷性試験が、「転写体積率35%以下の個数が50個以下」の全てを満たすことが示されている。また、上記活性剤(B−1)、(B−2)、(B−3)の配合量のいずれかを満たさない比較例は、上記試験のいずれかの結果が所望のものとはならないことが示されてる。
オ そうすると、当業者であれば、本件発明1のフラックス組成物であって、活性剤(B−1)をフラックス組成物全量に対して1質量%以上2質量%以下、活性剤(B−2)をフラックス組成物全量に対して3質量%以上12質量%以下、及び活性剤(B−3)をフラックス組成物全量に対して6質量%以上12質量%以下含むフラックス組成物であれば、酸化性の強い合金元素を含むはんだ合金を用いる場合であってもはんだ接合部のボイド発生、はんだボールの発生及びはんだ接合不良を抑制しつつ、良好な印刷性を発揮することのでき、当該フラックス組成物を含むソルダペースト及びこれを用いて形成されるはんだ接合体を有する電子回路基板を提供することができることが理解できるといえる。
カ 以上によれば、本件発明1は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであって、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
キ また、本願の請求項2〜9は、請求項1の記載を引用するものであり、本件発明2〜9は本件発明1の発明特定事項を全て備えたものであるところ、本件発明2〜9についても、上記オの判断と同様である。
ク よって、本件発明1〜9について、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するものである。

(2)申立人の主張について
ア 申立人は特許異議申立書の理由3−1(第30〜31ページ)において、(B−2)および(B−3)の合計配合量を「15質量%以上18質量%以下である」とする数値範囲を満たすことにより、本件発明の課題を解決できると理解することはできない旨主張する。
しかしながら、上記(1)で述べたとおり、本件発明が解決しようとする課題は、本件発明1のフラックス組成物であって、活性剤(B−1)をフラックス組成物全量に対して1質量%以上2質量%以下、活性剤(B−2)をフラックス組成物全量に対して3質量%以上12質量%以下、及び活性剤(B−3)をフラックス組成物全量に対して6質量%以上12質量%以下含むフラックス組成物であれば解決し得るものであり、上記課題を解決するとの点からは、「(B−2)および(B−3)の合計配合量を「15質量%以上18質量%以下である」とする数値範囲」を満たすことを要しないものである。
よって、申立人の主張は採用できない。
イ 申立人は特許異議申立書の理由3−2(第32〜33ページ)において、2−ブロモヘキサン酸を含むことが課題解決に不可欠な構成と把握される旨主張する。
しかしながら、上記(1)エ、オで述べたとおり、本件明細書において、「2−ブロモヘキサン酸」は、所定の効果を阻害しない範囲で配合し得る「他の活性剤」に相当する成分であると認められるところ、本件発明が解決しようとする課題は、「2−ブロモヘキサン酸」を含まなくても解決し得るものである。また、「2−ブロモヘキサン酸」は、全ての実施例にも比較例にも含まれており、その存在の有無が課題解決の可否を左右するとはいえないため、本件明細書の記載から、「2−ブロモヘキサン酸」を含むことが課題解決に不可欠な構成と把握されるとはいえない。
よって、申立人の主張は採用できない。

(3)申立理由2のまとめ
以上のとおり、申立理由2によっては、本件特許の請求項1〜9に係る特許を取り消すことはできない。

第7 まとめ
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1〜9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1〜9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2023-03-31 
出願番号 P2019-081977
審決分類 P 1 651・ 537- Y (B23K)
P 1 651・ 113- Y (B23K)
P 1 651・ 121- Y (B23K)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 井上 猛
特許庁審判官 佐藤 陽一
宮部 裕一
登録日 2022-06-14 
登録番号 7089491
権利者 株式会社タムラ製作所
発明の名称 フラックス組成物、ソルダペースト及び電子回路基板  
代理人 太田 洋子  

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