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審決分類 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  G02B
審判 一部申し立て 2項進歩性  G02B
管理番号 1396337
総通号数 16 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2023-04-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2023-01-12 
確定日 2023-03-29 
異議申立件数
事件の表示 特許第7100225号発明「反射防止フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7100225号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続等の経緯
特許第7100225号(以下「本件特許」という。)の請求項1〜6に係る特許についての出願(特願2017−149852号)は、平成29年8月2日の出願であって、令和4年7月5日にその特許権の設定登録がされ、令和4年7月13日に特許掲載公報が発行された。
本件特許について、特許掲載公報の発行の日から6月以内である令和5年1月12日に特許異議申立人 赤松智信(以下「特許異議申立人」という。)から請求項1〜5に対して特許異議の申立てがされた。


第2 本件特許発明
本件特許の請求項1〜5に係る発明(以下、請求項に付す番号を使って、それぞれ、「本件特許発明1」などという。)は、特許請求の範囲の請求項1〜5に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
基材と、第1の高屈折率層と、第1の低屈折率層と、第2の高屈折率層と、第2の低屈折率層とをこの順に備える反射防止フィルムであって、
該第1の高屈折率層の波長550nmにおける光学膜厚が、23nm〜52nmであり、
該第1の低屈折率層の波長550nmにおける光学膜厚が、18nm〜51nmであり、
該第2の高屈折率層の波長550nmにおける光学膜厚が、185nm〜350nmであり、
該第2の低屈折率層の波長550nmにおける光学膜厚が、100nm〜140nmであり、
該反射防止フィルムは、標準光源D65による波長380nm〜780nmの光Aを、入射角5°で入射させた際の視感度反射率が0.5%以下であり、
該反射防止フィルムは、該光Aの入射角を5°〜50°の範囲で変化させた際の正反射光において、CIE−Lab表色系におけるa*値の最大値と最小値との差に対する、CIE−Lab表色系におけるb*値の最大値と最小値との差の比(b*値の差/a*値の差)が、2以上となる、
反射防止フィルム。
【請求項2】
前記光Aを入射角5°で入射させた際の正反射光が、CIE−Lab表色系において、
下記式(1)、(2)および(3)を満足する、請求項1に記載の反射防止フィルム。
−0.5≦a*≦25 ・・・(1)
b*≦−1.04×a*+1.5 ・・・(2)
b*≧−1.04×a*−11.9 ・・・(3)
【請求項3】
前記光Aを入射角5°〜50°で入射させた際の正反射光のCIE−Lab表色系におけるC*が、40以下である、請求項1または2に記載の反射防止フィルム。
【請求項4】
前記第2の低屈折率層の第2の高屈折率層とは反対側に配置された防汚層をさらに備える、
請求項1から3のいずれかに記載の反射防止フィルム。
【請求項5】
前記防汚層の厚みが、5nm〜13nmである、請求項4に記載の反射防止フィルム。」


第3 申立理由の概要
1 本件特許発明1〜3は、甲1号証(特開2006−126799号公報:以下「甲1」という。)に記載された発明であり、特許法29条1項3号に掲げる発明に該当するから、請求項1〜3に係る特許は、いずれも、特許法29条の規定に違反してされたものである。

2 本件特許発明1は、甲1、甲2号証(国際公開第2016/021732号:以下「甲2」という。)、甲3号証(特開平9−325211号公報:以下「甲3」という。)及び甲4号証(特表2015−537249号公報:以下「甲4」という。)に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

3 本件特許発明4及び5は、甲1及び甲5号証(特開平11−258405号公報:以下「甲5」という。)に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項4及び5に係る特許は、いずれも、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。


第4 当合議体の判断
1 甲1を主引用例とする場合
(1)甲1の記載
甲1には、次の事項が記載されている。下線は当合議体が付した。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明支持体上に、該透明支持体と異なる屈折率を有する少なくとも1層の光学機能層を塗設する反射防止フィルムの製造方法において、前記光学機能層の少なくとも1層を、下記(1)及び(2)の工程を含む製造方法により製造することを特徴とする、反射防止フィルムの製造方法。
(1)熱および/または電離放射線硬化性化合物、無機微粒子及び有機溶媒を含有し、固形分濃度が3〜15質量%で、25℃における粘度が0.5〜3.5mPa・sの塗布組成物を、ウェット塗布量2.5〜5ml/m2で塗布する工程
(2)乾燥温度15℃以上35℃未満で、乾燥速度を0.05〜1.0g/m2・secとして乾燥する乾燥工程(A)と、乾燥温度50℃以上130℃以下で乾燥する乾燥工程(B)とを含む乾燥工程
【請求項2】
透明支持体上に、該透明支持体と異なる屈折率を有する少なくとも1層の光学機能層を含む反射防止膜を有する反射防止フィルムであって、前記光学機能層の少なくとも1層が請求項1に記載の(1)及び(2)の工程を含む製造方法により製造されたことを特徴とする反射防止フィルム。
・・・省略・・・
【請求項5】
前記反射防止膜が、前記透明支持体より低い屈折率を有する低屈折率層、前記透明支持体よりも高い屈折率を有する高屈折率層、および前記透明支持体と該高屈折率層の中間の屈折率を有する中屈折率層の3層の光学機能層からなり、前記3層光学機能層を前記透明支持体側から中屈折率層、高屈折率層、低屈折率層の順に有し、設計波長λに対して、前記中屈折率層が下記数式(1)を、前記高屈折率層が下記数式(2)を、前記低屈折率層が下記数式(3)をそれぞれ充足し、且つ前記反射防止膜の層厚変動幅が±5%以内であることを特徴とする、請求項2〜4のいずれか1項に記載の反射防止フィルム。
数式(1):(m1λ/4)×0.80<n1d1<(m1λ/4)×1.00
数式(2):(m2λ/4)×0.75<n2d2<(m2λ/4)×0.95
数式(3):(m3λ/4)×0.95<n3d3<(m3λ/4)×1.05
[式中、m1は1であり、n1は中屈折率層の屈折率であり、そして、d1は中屈折率層の層厚(nm)であり;m2は2であり、n2は高屈折率層の屈折率であり、そして、d2は高屈折率層の層厚(nm)であり;m3は1であり、n3は低屈折率層の屈折率であり、そして、d3は低屈折率層の層厚(nm)であり、λは400nm〜680nmの値である。]
【請求項6】
波長450nm〜650nmにおける平均反射率が0.5%以下であり、更に耐候性試験前後の該反射率の変化が0.5%以下である、請求項2〜5のいずれか1項に記載の反射防止フィルム。
【請求項7】
CIE標準光源D65の、波長380nmから780nmの領域における入射角5゜の入射光に対して、正反射光のCIE1976L*a*b*色空間のa*、b*値が、0≦a*≦7、−10≦b*≦0の範囲であり、かつ入射角5〜45゜の範囲のあらゆる角度からの入射光に対する正反射光が、該色空間において、a*≧0、b*≦0を満たすことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の反射防止フィルム。」

イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
多層塗布型の反射防止フィルムは、少なくとも最上層に層厚100nm前後の低屈折率層を含む構成からなり、あるいは該低屈折率層を含む少なくとも3層構成のARタイプの反射防止層(各層は200nm以下の薄層)を含む構成からなり、当該薄層には、より精密な制御が求められている。
また、最近、高度情報・通信時代に必須のフラットパネルディスプレイが多用され、特に高精細のカラー画像表示が可能なモニターやテレビなどの大型化あるいはモバイル化の伸びが顕著となっている。高精細のカラー画像表示には、表示画像の色味のより一層のニュートラル化が求められている。また使用する環境が低温・低湿から高温・高湿と大きく変わっても性能が変化しない、更には耐候性等の耐久性の向上が望まれている。更に、上記したような高性能な反射防止フィルムの生産性向上とフィルムの安価化も強く期待されている。
【0008】
従って、本発明の目的は、光学機能層の層厚分布が一定で、反射防止性能に優れ、耐湿性及び耐候性に優れた反射防止フィルムの製造方法を提供することである。
本発明の更なる目的は、光学機能層の層厚分布が一定で、反射防止性能に優れ、安価で、生産性に優れた反射防止フィルムを提供することである。
また、本発明の他の目的は、反射防止性能に優れ、安価で、生産性に優れた、反射防止フィルム、偏光板、及び画像表示装置を提供することである。
・・・省略・・・
【0023】
本発明の反射防止膜が、少なくとも3層の層厚200nm以下の薄層の光学機能層の積層からなる反射防止層を含む態様も好ましく、この場合は、透明基体フィルム上に、中屈折率層、高屈折率層、低屈折率層(最外層)の順序の層構成を有する。透明基体フィルム、中屈折率層、高屈折率層及び低屈折率層は、以下の関係を満足する屈折率を有する。
高屈折率層の屈折率>中屈折率層の屈折率>透明基体フィルムの屈折率>低屈折率層の屈折率
・・・省略・・・
【0026】
更には、設計波長λ(400〜680nm)に対して、中屈折率層が下数式(1)を、高屈折率層が下数式(2)を、低屈折率層が下数式(3)をそれぞれ充足することが、より優れた反射防止性能を有する反射防止膜を作製できる点で好ましい。
【0027】
数式(1):(m1λ/4)×0.60<n1d1<(m1λ/4)×0.80
数式(2):(m2λ/4)×1.00<n2d2<(m2λ/4)×1.50
数式(3):(m3λ/4)×0.85<n3d3<(m3λ/4)×1.05
【0028】
[式中、m1は1であり、n1は中屈折率層の屈折率であり、そして、d1は中屈折率層の層厚(nm)であり;m2は2であり、n2は高屈折率層の屈折率であり、そして、d2は高屈折率層の層厚(nm)であり;m3は1であり、n3は低屈折率層の屈折率であり、そして、d3は低屈折率層の層厚(nm)である]
【0029】
また、設定屈折率よりも高い屈折率を有する層と、低い屈折率を有する層を複数層組み合わせた等価膜の原理を用いて、実質的に設定屈折率の中屈折率層又は高屈折率層と光学的に等価な層を形成できることは公知であり、本発明の反射率特性を実現するためにも応用することができる。
・・・省略・・・
【0034】
上記のような反射防止層を3層構成とすることで達成される本発明における反射防止フィルムは、低反射と反射光の色味の低減、さらに入射角によるその色味変化の低減を両立することができる。
入射角5゜での入射光における450nmから650nmまでの波長領域での鏡面反射率の平均値が1%以下であり、好ましくは0.5%以下である。表示装置表面での外光の反射による視認性の低下を防止でき、さらに0.4%以下では、外光の反射を十分に防止することができ、好ましい。
・・・省略・・・
【0036】
本発明においては、CIE標準光源D65の、波長380nmから780nmの領域における入射角5゜の入射光に対して、正反射光のCIE1976L*a*b*色空間のa*、b*値が、0≦a*≦7、−10≦b*≦0の範囲であり、かつ入射角5〜45゜の範囲のあらゆる角度からの入射光に対する正反射光が、該色空間において、a*≧0、b*≦0を満たすことで、低入射角における反射光の色味を低減し、かつ、反射光の入射角にともなう色味変化を低減することができ、好ましい。
・・・省略・・・
【0041】
さらに、反射防止膜の層厚が実質的に一定とされたことにより、厚みムラに起因する反射光の色味ムラが大幅に低減される。定量的には、TD方向(透明保護フィルムの長手方向と直交する方向)あるいはMD方向(透明保護フィルム長手方向)に10cm離れた任意の2つの場所における、波長380nmから780nmの領域におけるCIE標準光源D65の入射角5°の入射光に対する正反射光の色味ムラで表すことができ、CIE1976L*a*b*色空間のΔEa*b*値で2未満であることが好ましく、1.5未満であれば完全に人間の目でムラを検出できなくなるのでより好ましい。」

(2)引用発明
前記(1)によると、甲1には、請求項1を引用する請求項2を引用する請求項5を引用する請求項6を引用する請求項7に記載された反射防止フィルムの発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「透明支持体上に、該透明支持体と異なる屈折率を有する少なくとも1層の光学機能層を含む反射防止膜を有する反射防止フィルムであって、前記光学機能層の少なくとも1層が、(1)熱および/または電離放射線硬化性化合物、無機微粒子及び有機溶媒を含有し、固形分濃度が3〜15質量%で、25℃における粘度が0.5〜3.5mPa・sの塗布組成物を、ウェット塗布量2.5〜5ml/m2で塗布する工程及び(2)乾燥温度15℃以上35℃未満で、乾燥速度を0.05〜1.0g/m2・secとして乾燥する乾燥工程(A)と、乾燥温度50℃以上130℃以下で乾燥する乾燥工程(B)とを含む乾燥工程を含む製造方法により製造された反射防止フィルムであり、
前記反射防止膜が、前記透明支持体より低い屈折率を有する低屈折率層、前記透明支持体よりも高い屈折率を有する高屈折率層、および前記透明支持体と該高屈折率層の中間の屈折率を有する中屈折率層の3層の光学機能層からなり、前記3層の光学機能層を前記透明支持体側から中屈折率層、高屈折率層、低屈折率層の順に有し、設計波長λに対して、前記中屈折率層が下記数式(1)を、前記高屈折率層が下記数式(2)を、前記低屈折率層が下記数式(3)をそれぞれ充足し、且つ前記反射防止膜の層厚変動幅が±5%以内であり、
数式(1):(m1λ/4)×0.80<n1d1<(m1λ/4)×1.00
数式(2):(m2λ/4)×0.75<n2d2<(m2λ/4)×0.95
数式(3):(m3λ/4)×0.95<n3d3<(m3λ/4)×1.05
[式中、m1は1であり、n1は中屈折率層の屈折率であり、そして、d1は中屈折率層の層厚(nm)であり;m2は2であり、n2は高屈折率層の屈折率であり、そして、d2は高屈折率層の層厚(nm)であり;m3は1であり、n3は低屈折率層の屈折率であり、そして、d3は低屈折率層の層厚(nm)であり、λは400nm〜680nmの値である。]
波長450nm〜650nmにおける平均反射率が0.5%以下であり、更に耐候性試験前後の該反射率の変化が0.5%以下であり、
CIE標準光源D65の、波長380nmから780nmの領域における入射角5゜の入射光に対して、正反射光のCIE1976L*a*b*色空間のa*、b*値が、0≦a*≦7、−10≦b*≦0の範囲であり、かつ入射角5〜45゜の範囲のあらゆる角度からの入射光に対する正反射光が、該色空間において、a*≧0、b*≦0を満たす、反射防止フィルム。」

(3)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明は、「透明支持体上に、該透明支持体と異なる屈折率を有する少なくとも1層の光学機能層を含む反射防止膜を有する反射防止フィルム」であって、「前記反射防止膜が、前記透明支持体より低い屈折率を有する低屈折率層、前記透明支持体よりも高い屈折率を有する高屈折率層、および前記透明支持体と該高屈折率層の中間の屈折率を有する中屈折率層の3層の光学機能層からなり、前記3層の光学機能層を前記透明支持体側から中屈折率層、高屈折率層、低屈折率層の順に」有するものである。
そうすると、甲1発明と本件特許発明1は、「基材と、高屈折率層と、低屈折率層とを備える反射防止フィルム」である点で共通する。

イ 一致点・相違点
前記アの対比結果により、本件特許発明1と甲1発明は、
「基材と、高屈折率層と、低屈折率層とを備える反射防止フィルム。」
の点で一致し、下記の点で相違する。

(相違点1−1)
本件特許発明1は、「基材と、第1の高屈折率層と、第1の低屈折率層と、第2の高屈折率層と、第2の低屈折率層とをこの順に備え」、「該第1の高屈折率層の波長550nmにおける光学膜厚が、23nm〜52nmであり、該第1の低屈折率層の波長550nmにおける光学膜厚が、18nm〜51nmであり、該第2の高屈折率層の波長550nmにおける光学膜厚が、185nm〜350nmであり、該第2の低屈折率層の波長550nmにおける光学膜厚が、100nm〜140nm」であるのに対し、甲1発明は、そのような構成を有するものではない点。

(相違点1−2)
本件特許発明1では、「該反射防止フィルムは、標準光源D65による波長380nm〜780nmの光Aを、入射角5°で入射させた際の視感度反射率が0.5%以下」であるのに対し、甲1発明は、そのような構成を有するのかが明らかでない点。

(相違点1−3)
本件特許発明1では、「該反射防止フィルムは、該光Aの入射角を5°〜50°の範囲で変化させた際の正反射光において、CIE−Lab表色系におけるa*値の最大値と最小値との差に対する、CIE−Lab表色系におけるb*値の最大値と最小値との差の比(b*値の差/a*値の差)が、2以上となる」のに対し、甲1発明は、そのような構成を有するのかが明らかでない点。

ウ 判断
(ア)新規性について
甲1発明において、標準光源D65による波長380nm〜780nmの光Aの入射角を5°〜50°の範囲で変化させた際の正反射光における、CIE−Lab表色系におけるa*値及びb*の値がそもそも不明であるし、また、CIE−Lab表色系におけるa*値の最大値と最小値との差に対する、CIE−Lab表色系におけるb*値の最大値と最小値との差の比(b*値の差/a*値の差)の値も不明である。
そうすると、相違点1−3は実質的な相違点であるから、本件特許発明1は、甲1発明ではない。

(イ)進歩性について
事案に鑑み、相違点1−3について検討する。
反射防止フィルムの「標準光源D65による波長380nm〜780nmの光Aの入射角を5°〜50°の範囲で変化させた際の正反射光において、CIE−Lab表色系におけるa*値の最大値と最小値との差に対する、CIE−Lab表色系におけるb*値の最大値と最小値との差の比(b*値の差/a*値の差)」の値は、反射防止フィルムが備える各高屈折率層及び各低屈折率層の光学膜厚の値により決まるものである。
そして、「基材と、波長550nmにおける光学膜厚が23nm〜52nmである第1の高屈折率層と、波長550nmにおける光学膜厚が18nm〜51nmである第1の低屈折率層と、波長550nmにおける光学膜厚が185nm〜350nmである第2の高屈折率層と、波長550nmにおける光学膜厚が100nm〜140nmである第2の低屈折率層とをこの順に備える反射防止フィルム」において、「標準光源D65による波長380nm〜780nmの光Aの入射角を5°〜50°の範囲で変化させた際の正反射光において、CIE−Lab表色系におけるa*値の最大値と最小値との差に対する、CIE−Lab表色系におけるb*値の最大値と最小値との差の比(b*値の差/a*値の差)」を2以上とするという技術的事項は、特許異議申立人が提出した甲1〜甲5のいずれにも記載されていない。また、当該技術的事項が公知技術又は周知技術であることを示す他の証拠を見いだすこともできない。さらに、甲1発明において、当該技術的事項を採用する動機付けを見いだすことはできない。
そうすると、甲1発明において、相違点1−3に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
したがって、他の相違点について検討しなくても、本件特許発明1は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(ウ)特許異議申立人は、特許異議申立書17頁において、甲1の【請求項7】及び【0036】に「該光Aの入射角を5°〜50°の範囲で変化させた際の正反射光において、CIE−Lab表色系におけるa*値の最大値と最小値との差に対する、CIE−Lab表色系におけるb*値の最大値と最小値との差の比(b*値の差/a*値の差)が、2以上」が記載されていると主張するが、甲1の【請求項7】及び【0036】の記載から、「比(b*値の差/a*値の差)」を「2以上」とすることは読み取れず、当該主張は採用できない。
また、同申立書30頁〜31頁において、甲4の【0020】及び【0064】に「該光Aの入射角を5°〜50°の範囲で変化させた際の正反射光において、CIE−Lab表色系におけるa*値の最大値と最小値との差に対する、CIE−Lab表色系におけるb*値の最大値と最小値との差の比(b*値の差/a*値の差)が、2以上」が記載されていると主張するが、甲4の【0020】の「前記反射防止フィルムに白色光を照射する際、反射光の色相a*値および色相b*値が−1<a*<2、−1<b*<1でもよい」という記載、及び【0064】の「前記反射防止フィルムに白色光を照射すると、反射光の色相a*値および色相b*値が−1<a*<2、−1<b*<1になり得る。国際照明委員会(CIE)で制定している測色システムによって前記反射防止フィルムに白色光(D65)を照射すると、反射光による色相値はCIE10°標準観察者(CIE1964)を基準とした場合、色相空間で二つの色相間の距離が人の目に見える色相の差の程度と一致するように定義したCIE L*、a*、b*で表現することができる。このとき、前記L*は明るさ、前記a*はRed−Green、前記b*はYellow−blue間の値を表すが、約380nmないし約780nmの波長領域で反射防止フィルムに白色光源(D65)照射時に表れる値をa*、b*の値で表すことができる」という記載から、標準光源D65による波長380nm〜780nmの光Aの入射角を5°〜50°の範囲で変化させた際の正反射光における、CIE−Lab表色系におけるa*値及びb*の値はそもそも読み取れないし、また、CIE−Lab表色系におけるa*値の最大値と最小値との差に対する、CIE−Lab表色系におけるb*値の最大値と最小値との差の比(b*値の差/a*値の差)を「2以上」とすることも読み取れず、当該主張も採用できない。

エ 小括
本件特許発明1は、甲1に記載された発明ではない。また、本件特許発明1は、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)本件特許発明2〜5について
本件特許の特許請求の範囲の請求項2〜5は、いずれも、請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、本件特許発明2〜5は、いずれも、本件特許発明1の構成を全て具備し、これに限定を加えたものに該当する。
そうすると、前記(3)のとおり、本件特許発明1が、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件特許発明2〜5は、いずれも、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 甲2を主引用例とする場合
(1)甲2には、「透明フィルムと、光学膜厚が25nm〜55nm程度の高屈折率層、光学膜厚35nm〜55nm程度の低屈折率層、光学膜厚80nm〜240nm程度の高屈折率層、光学膜厚が120nm〜150nm程度の低屈折率層をこの順に有する反射防止フィルム。」の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる([0045]参照)。

(2)本件特許発明1と甲2発明とを対比すると、両発明は少なくとも前記1(3)イの相違点1−3と同じ点で相違する。
そして、前記相違点1−3についての判断は、前記1(3)ウ(イ)で説示したとおりである。

(3)したがって、本件特許発明1は、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本件特許発明2〜5も、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3 甲3を主引用例とする場合
(1)甲3号証には、「基板と、光学的膜厚約42nm、ZrO2の第1層、光学的膜厚約42nm、SiO2の第2層、光学的膜厚約240nm、TiO2の第3層、光学的膜厚約120nm、SiO2の第4層をこの順に有する反射防止膜。」の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されていると認められる(【0031】、【0068】参照)。

(2)本件特許発明1と甲3発明とを対比すると、両発明は少なくとも前記1(3)イの相違点1−3と同じ点で相違する。
そして、前記相違点1−3についての判断は、前記1(3)ウ(イ)で説示したとおりである。

(3)したがって、本件特許発明1は、甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本件特許発明2〜5も、甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

4 甲4を主引用例とする場合
(1)甲4には、「透明基材、ハードコーティング層、高屈折層、低屈折層を含む、反射防止フィルム。」の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されていると認められる(【0043】、【図1】参照)。なお、前記1(3)ウ(ウ)後段で述べたとおり、甲4の【0020】及び【0064】の記載から、「標準光源D65による波長380nm〜780nmの光Aの入射角を5°〜50°の範囲で変化させた際の正反射光において、CIE−Lab表色系におけるa*値の最大値と最小値との差に対する、CIE−Lab表色系におけるb*値の最大値と最小値との差の比(b*値の差/a*値の差)」を「2以上」とすることは読み取れない。

(2)本件特許発明1と甲4発明とを対比すると、両発明は少なくとも前記1(3)イの相違点1−3と同じ点で相違する。
そして、前記相違点1−3についての判断は、前記1(3)ウ(イ)で説示したとおりである。

(3)したがって、本件特許発明1は、甲4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本件特許発明2〜5も、甲4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。


第5 むすび
請求項1〜5に係る特許は、いずれも、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。
また、他に請求項1〜5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2023-03-17 
出願番号 P2017-149852
審決分類 P 1 652・ 113- Y (G02B)
P 1 652・ 121- Y (G02B)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 杉山 輝和
特許庁審判官 関根 洋之
井口 猶二
登録日 2022-07-05 
登録番号 7100225
権利者 日東電工株式会社
発明の名称 反射防止フィルム  
代理人 籾井 孝文  

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