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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 H02M 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 H02M 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 H02M 審判 全部申し立て 2項進歩性 H02M |
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管理番号 | 1396341 |
総通号数 | 16 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2023-04-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2023-01-24 |
確定日 | 2023-04-14 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第7108224号発明「電力変換装置、空気調和機及び冷凍装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第7108224号の請求項に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第7108224号の請求項1ないし13係る特許についての出願は、2022年(令和4年)3月28日の出願(優先権主張 令和3年3月31日)であって、令和4年7月20日にその特許権の設定登録がされ、同年7月28日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和5年1月24日に特許異議申立人 角田 朗(以下、「申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。 第2 本件特許発明 特許第7108224号の請求項1ないし13に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明13」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 電力変換装置であって、 交流電源から第1配線対を介して入力される交流を直流に変換する変換器と、 前記変換器から第2配線対に出力される直流電力を交流電力に変換する逆変換器と、 前記第1配線対の間又は前記第2配線対の間に接続されたコンデンサと、を備え、 前記電力変換装置が前記交流電源と接続される箇所から前記コンデンサまでのインダクタンス成分のインダクタンスをL、前記逆変換器の出力周波数の最大値をMAX(f0)とするとき、前記コンデンサの静電容量であるCは、 【数1】 ![]() を満たす、電力変換装置。 【請求項2】 前記逆変換器の駆動のキャリア周波数をfcとするとき、 前記インダクタンス成分と前記コンデンサとによるLCフィルタの前記キャリア周波数fcでのゲインは、0.1以下である、請求項1に記載の電力変換装置。 【請求項3】 前記インダクタンス成分と前記コンデンサとによるLCフィルタの6×前記MAX(f0)でのゲインは、5以下である、請求項1又は2に記載の電力変換装置。 【請求項4】 前記インダクタンス成分は、前記第1配線対のうちの一方もしくは両方の配線に又は前記第2配線対のうちの一方もしくは両方の配線に直列に挿入されたリアクトルを含み、 前記コンデンサは、前記リアクトルと前記逆変換器との間において、前記第1配線対の間又は前記第2配線対の間に接続された、請求項1から3のいずれか一項に記載の電力変換装置。 【請求項5】 交流電源から第1配線対を介して入力される交流を直流に変換する変換器と、 前記変換器から第2配線対に出力される直流電力を交流電力に変換する逆変換器と、 前記第1配線対のうちの一方もしくは両方の配線に又は前記第2配線対のうちの一方もしくは両方の配線に直列に挿入されたリアクトルと、 前記リアクトルと前記逆変換器との間において、前記第1配線対の間又は前記第2配線対の間に接続されたコンデンサと、を備え、 前記逆変換器の駆動のキャリア周波数をfc、前記リアクトルと前記コンデンサとによるLCフィルタの共振周波数をfLC、前記逆変換器の出力周波数の最大値をMAX(f0)とするとき、MAX(f0)は、 【数2】 ![]() を満たす、電力変換装置。 【請求項6】 前記キャリア周波数fcでの前記LCフィルタのゲインは、0.1以下である、請求項5に記載の電力変換装置。 【請求項7】 6×前記MAX(f0)での前記LCフィルタのゲインは、5以下である、請求項5又は6に記載の電力変換装置。 【請求項8】 前記リアクトルは、基板に実装された部品である、請求項4又は5に記載の電力変換装置。 【請求項9】 前記コンデンサは、前記第2配線対の間に接続された、請求項1から8のいずれか一項に記載の電力変換装置。 【請求項10】 前記MAX(f0)は、600Hzである、請求項1から9のいずれか一項に記載の電力変換装置。 【請求項11】 前記逆変換器に構成されるスイッチング素子は、ワイドバンドギャップ半導体のデバイスである、請求項1から10のいずれか一項に記載の電力変換装置。 【請求項12】 請求項1から11のいずれか一項に記載の電力変換装置を備える、空気調和機。 【請求項13】 請求項1から11のいずれか一項に記載の電力変換装置を備える、冷凍装置。」 第3 申立理由の概要 1 申立理由1(新規性) 申立人は、証拠として、下記の甲第1号証を提出し、請求項1、4、9、13に係る特許は特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。(特許異議申立書58頁2−10行) 2 申立理由2(進歩性) 申立人は、証拠として下記の甲第1号証ないし甲第9号証を提出し、請求項1ないし13に係る特許は、甲第1号証に記載された発明または甲第3号証に記載された発明を主引例とし、甲第6号証に記載の技術事項、周知技術(甲第2号証、甲第4、5、7ないし9号証)を組み合わせることで、原出願前に当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。(特許異議申立書58頁11行−60頁20行) 3 申立理由3(実施可能要件) (1)理由3−1 本件特許の明細書には、変調方式と側帯波の関係について記載されておらず、この側帯波をどのように取り扱うのか当業者が実施することができる程度に明確にかつ十分に記載されていない。(特許異議申立書48頁10行−49頁10行) (2)理由3−2 本件特許の明細書には、ゲインの減衰について記載されておらず、このゲインの減衰をどのように取り扱うのか当業者が実施することができる程度に明確にかつ十分に記載されていない。(特許異議申立書49頁11行−50頁9行) (3)理由3−3 本件特許の明細書には、インダクタンスが小さい場合どのようにするか記載されておらず、低インダクタンスについてどのように取り扱うのか当業者が実施することができる程度に明確にかつ十分に記載されていない。(特許異議申立書50頁10行−51頁4行) したがって、請求項1ないし13に係る特許は特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、請求項1ないし13に係る特許は取り消すべきものである。 4 申立理由4(明確性要件) (1)理由4−1 特許請求の範囲の記載に、変調方式と側帯波の関係について記載されておらず、特許請求の範囲の記載は不明確である。(特許異議申立書51頁6行−52頁4行) (2)理由4−2 特許請求の範囲の記載に、ゲインの減衰について記載されておらず、特許請求の範囲の記載は不明確である。(特許異議申立書52頁5行−53頁2行) (3)理由4−3 特許請求の範囲の記載に、インダクタンスが小さい場合どのようにするか記載されておらず、特許請求の範囲の記載は不明確である。(特許異議申立書53頁3−24行) したがって、請求項1ないし13に係る特許は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、請求項1ないし13に係る特許は取り消すべきものである。 5 申立理由5(サポート要件) (1)理由5−1 特許請求の範囲の記載に、変調方式と側帯波の関係について記載されておらず、特許請求の範囲の記載には本件特許発明の課題を解決できない範囲を含むのであるから、本件特許発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。(特許異議申立書53頁26行−54頁26行) (2)理由5−2 特許請求の範囲の記載に、ゲインの減衰について記載されておらず、特許請求の範囲の記載には本件特許発明の課題を解決できない範囲を含むのであるから、本件特許発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。(特許異議申立書54頁27行−55頁26行) (3)理由5−3 特許請求の範囲の記載に、インダクタンスが小さい場合どのようにするか記載されておらず、特許請求の範囲の記載には本件特許発明の課題を解決できない範囲を含むのであるから、本件特許発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。(特許異議申立書55頁27行−56頁21行) (4)理由5−4 本件特許発明1における数1では上限値しか特定されておらず、C=0も含むものであって、C=0ではLCフィルタを構成することができず、本件特許発明の課題を解決できないことから、本件特許発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。(特許異議申立書56頁22行−57頁8行) (5)理由5−5 本件特許発明3及び7では、ゲインを5以下にすることが記載されているが、ゲイン5以下では高調波成分の増幅を十分に抑制しているとはいえず、本件特許発明の課題を解決できないことから、本件特許発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。(特許異議申立書57頁9−27行) したがって、請求項1ないし13に係る特許は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、請求項1ないし13に係る特許は取り消すべきものである。 6 証拠 甲第1号証:特開2015−89142号公報 甲第2号証:特開2007−181398号公報 甲第3号証:特開2013−27121号公報 甲第4号証:特開2001−69762号公報 甲第5号証:特開2016−21854号公報 甲第6号証:特開2019−201444号公報 甲第7号証:特開2018−148629号公報 甲第8号証:輸出貿易管理令別表第一及び外国為替令別表の規定に基づき貨物又は技術を定める省令等の一部を改正する省令案 甲第9号証:特開2009−219267号公報 第4 甲第1号証ないし甲第9号証の記載 1 甲第1号証に記載された事項及び甲1発明 (1)甲第1号証に記載された事項 甲第1号証には、以下の事項が記載されている。(下線は当審で付加。以下同様。) ア 「【技術分野】 【0001】 本発明は、ブラシレスDCモータを駆動するモータ駆動装置およびこれを用いた電気機器に関するものである。」 イ「【0015】 第4の発明は、特に第1から第3の発明のモータ駆動装置を用いた電気機器である。これにより、電気機器として冷蔵庫に用いた場合は、前記モータ駆動装置が小型化できるため一定速駆動を行っている冷蔵庫の少ないスペースに収めることができ、速度変更が可能なより効率の良い冷蔵庫を安価に提供することができる。また、電気機器として送風機に用いた場合は、送風機はイナーシャが非常に大きいため、持ち運びが容易な小型送風機を実現することが可能となる。」 ウ 「【0016】 以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によってこの発明が限定されるものではない。 (実施の形態1) 図1は、本発明の実施の形態1におけるモータ駆動装置のブロック図である。 【0017】 図1において、交流電源101は、日本の場合、電圧が100[V]、周波数が50[Hz]または60[Hz]の一般的な商用の交流電源である。整流回路102は、周知の如く4個のダイオードがブリッジ接続されたものである。 【0018】 コンデンサ103は整流回路102の出力側に接続される。コンデンサ103には小型化のため、小容量のコンデンサを用いており、出力電圧が交流電源周波数の略2倍周波で大きく脈動する。本実施の形態ではコンデンサの容量を3[μF]とする。 【0019】 また、コンデンサ103には、整流回路102との間にコンデンサへの突入充放電電流のピーク値を下げるためのリアクタ104を接続している。コンデンサ103とリアクタ104の共振周波数fLC(LC共振周波数)が交流電源周波数の40倍以上になるように設定し、共振による電流の周波数を電源高調波規制の範囲外とすることで、高調波電流を低減することができる。本実施の形態ではリアクタのインダクタンスを0.5[mH]とする。また、コンデンサ103の容量は電圧の最大値が最小値の2倍以上となる値を設定することで交流電源101の周波数に近い電流波形となり、高調波電流が改善される。 【0020】 本実施の形態のコンデンサ103の容量を3[μF]としており、負荷が大きな運転条件では直流母線間電圧の最小値はほぼ0[V]まで低下するため、最大値は最小値の2倍以上となっており、高調波電流が改善される。 【0021】 なお、本実施の形態ではリアクタ104は整流回路102とコンデンサ103の間に接続しているが、交流電源101とコンデンサ103を構成するフィルムコンデンサの間に挿入すればよく、整流回路102の前後どちらでも構わない。 【0022】 インバータ105はコンデンサ103からの出力電圧をモータ106の駆動のために所望の電圧値・周波数に変換する複数の半導体スイッチング素子により構成されるPWM型のインバータである。」 エ 「【0037】 さらに、交流電源電流の高調波成分を抑制してIEC規格を遵守するために、小容量コンデンサと小容量リアクタとの共振周波数であるLC共振周波数fLCを交流電源周波数fsの40倍よりも大きくなるように小容量コンデンサと小容量リアクタの組み合わせを決定する。 【0038】 ここで、小容量コンデンサの容量をC[F]、小容量リアクタのインダクタンス値をL[H]とすると、LC共振周波数fLCは数1のように表される。 【0039】 【数1】 ![]() 即ち、fLC>40×fsを満たすように小容量コンデンサと小容量リアクタの組み合わせを決定するものである。(IEC規格では交流電源電流の高調波成分において第40次高調波まで規定されているため)。 【0040】 以上により、小容量コンデンサおよび小容量リアクタの組み合わせを決定することで、交流電源電流の高調波成分を抑制して、IEC規格を遵守することが可能となる。 【0041】 本実施の形態では、コンデンサ103の容量が3[μF]、リアクタのインダクタンス値が0.5[mH]となっているので、LC共振周波数fLCが約4109[Hz]となり、交流電源101の電源周波数が60[Hz]であったとしても40倍は2400[Hz]となり十分高い共振周波数となっている。」 オ 「【0042】 次に、速度の決定に関して図3を用いて説明する。図3は本実施の形態におけるコンデンサ103からインバータ105に流れる電流波形を示すタイミング図である。1転流周期で見た場合、リアクタ104からコンデンサ103に流れ込む電流のピークと転流が一致した時に、リアクタ104からコンデンサ103に流れる電流量が最大となるため直流母線間電圧の上昇が最大となる。これは図3に示すように、コンデンサ103からインバータ105に供給する電流は転流後に一旦、0付近まで電流が低下し、それから徐々に電流が増加していく。このため、転流直後が最も電流が小さくなる区間であるため、リアクタ104に蓄えられたエネルギーが最も多くコンデンサ103に流れ込むこととなり、電圧が上昇する。このように、転流の周波数とLC共振周波数fLCが一致することでコンデンサ103の電圧が大きく上昇することとなる。 【0043】 つまり、転流周期をLC共振周波数fLCと一致させないことで電圧上昇が最大となる条件を回避することができる。 【0044】 モータ106は相数と極数の積が1回転あたりの転流数となるため、本実施の形態のモータ106の3相モータでは、極数が4極ならば1回転あたり12回の転流となり、6極ならば1回転あたり18回の転流となる。さらにこの1回転あたりの転流数と速度の積が転流周波数となる。速度が50r/sならば3相6極モータでは900Hzの転流周波数となる。以下、極数を6極として説明する。 【0045】 LC共振周波数fLCは約4109[Hz]であるため、6極モータであっても、150Hz程度までは転流による電圧上昇の観点からは速度指令を許可する。その他、冷凍サイクルの共振や圧縮機の制限などシステムから複数の要素から最終の指令速度を決定する。 【0046】 また、同じ共振周波数を持つLCの組合せであっても、コンデンサの容量が小さく、インダクタンス値が大きい程、電圧の上昇が大きくなるため、直流母線間電圧の最大が最小の2倍以上となるような小容量のコンデンサを直流母線間に配した回路構成では特に問題となる。 【0047】 また、電源事情の悪い国では電源インピーダンスに大きなインダクタンス成分を持つ場合がある。その場合、たとえば電源インピーダンスのインダクタンス成分が9.9mHとした場合、コンデンサ103とリアクタに電源インピーダンスのインダクタンス成分を加算した値とのLC共振周波数fLCZは約901Hzとなり、速度が50r/sでは周波数がほぼ一致してしまうため、転流ごとに電圧が上昇していくこととなる。 【0048】 これを防止するため、電圧検出手段113でコンデンサ103の電圧検出し、検出した電圧あらかじめ定めた閾値を超えていた場合、制御手段114が駆動速度を変更する。 【0049】 圧縮機108が例えば80r/sまで速度を出力してもよい場合、50r/sより十分に出力してよい速度が高いため、50r/sから1.5倍の75r/sまで速度を上昇させる。転流周波数は1350Hzとなり共振周波数から大きく外れるため、電圧上昇を低く抑えることができる。 【0050】 電源インピーダンスの影響で転流周波数とLC共振周波数fLCZが一致し、電源電圧が閾値を超えた場合、転流周波数をLC共振周波数fLCZの1.5倍もしくは1.5分の1にした場合、転流による電圧変動の振幅が約3割に低下することとなる。目安として閾値超過時の転流周波数の1.5倍以上もしくは1.5分の1以下の転流周波数となるよう新しい駆動速度を決定することで電圧上昇を大きく改善することができる。 【0051】 以上のように、本実施の形態において、交流電源101と、交流電源101から出力された交流を直流に整流する整流回路102と、整流回路102の入力側もしくは出力側に接続されるリアクタ104と、整流回路102の出力側に接続されたコンデンサ103と、コンデンサ103より得られる直流を交流に変換するPWM型のインバータ105と、インバータ105から得られる交流を入力とし負荷を駆動するモータ106を有し、モータ106が負荷を駆動する際に両端の電圧の最大値が最小値の2倍以上となるようコンデンサ103の値を決定し、モータ106の相数と極数と駆動速度の積がリアクタ104とコンデンサ103の共振周波数と一致しないようモータ106の駆動速度を決定するとしたことにより、インバータ105へ供給される電流が最も小さくなりリアクタ104からコンデンサ103に流れ込む電流が最大となるタイミングが継続的に一致しないため電圧上昇が抑制され、安価な耐圧の低い部品などの使用が可能となる。」 カ 「【図1】 ![]() 」 (2)甲1発明 ア 上記(1)ウの段落【0016】には、“図1は、本発明の実施の形態1におけるモータ駆動装置である”ことが記載されている。また、上記(1)オの段落【0051】、及び【図1】(上記(1)カ)には、図1の実施形態のモータ駆動装置のものが、“交流電源101と、交流電源101から出力された交流を直流に整流する整流回路102と、整流回路102の入力側もしくは出力側に直列に接続されるリアクタ104と、整流回路102の出力側に接続されたコンデンサ103と、コンデンサ103より得られる直流を交流に変換するPWM型のインバータ105と、インバータ105から得られる交流を入力とし負荷を駆動するモータ106を有し、モータ106の相数と極数と駆動速度の積がリアクタ104とコンデンサ103の共振周波数と一致しないようモータ106の駆動速度を決定する”、ものであることが記載されている。 してみると、甲第1号証には、“モータ駆動装置であって、交流電源101と、交流電源101から出力された交流を直流に整流する整流回路102と、整流回路102の入力側もしくは出力側に直列に接続されるリアクタ104と、整流回路102の出力側に接続されたコンデンサ103と、コンデンサ103より得られる直流を交流に変換するPWM型のインバータ105と、 インバータ105から得られる交流を入力とし負荷を駆動するモータ106と、を有し、モータ106の相数と極数と駆動速度の積がリアクタ104とコンデンサ103の共振周波数と一致しないようモータ106の駆動速度を決定する、モータ駆動装置”が記載されているといえる。 イ 上記アの検討から、甲第1号証には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。 「モータ駆動装置であって、 交流電源101と、 交流電源101から出力された交流を直流に整流する整流回路102と、 整流回路102の入力側もしくは出力側に直列に接続されるリアクタ104と、 整流回路102の出力側に接続されたコンデンサ103と、 コンデンサ103より得られる直流を交流に変換するPWM型のインバータ105と、 インバータ105から得られる交流を入力とし負荷を駆動するモータ106と、 を有し、 モータ106の相数と極数と駆動速度の積がリアクタ104とコンデンサ103の共振周波数と一致しないようモータ106の駆動速度を決定する、 モータ駆動装置。」 2 甲第2号証 (1)甲第2号証に記載された事項 甲第2号証には、以下の事項が記載されている。 ア 「【0011】 しかしながら、実際には、図3(b)に示すように、U相出力電圧指令とU相出力電圧との間には大きな差異がある。特に、U相出力電圧指令のゼロクロス付近では、出力電圧指令と出力電圧との差異が大きく、この部分が高調波発生の最大の要因となっている。この結果、DQ軸回転座標系上の状態量やインバータの直流入力側の状態量に、極めて大きな高調波が生じる。この高調波の周波数は、インバータ出力周波数の6倍であり、インバータ出力周波数の増減とともに、高調波の周波数も推移していく。」 イ 「【0017】 本発明によれば、インバータ周波数の6倍にてインバータの直流電圧を脈動させることが可能となり、その結果、インバータが1パルス制御を用いていても、各相の出力電圧が正弦波に近くなることで、インバータ周波数の6倍の高調波電流を低減できる。これにより、高速走行中に主電動機から生じる騒音を低減することができる電気車制御装置を提供することができる。」 3 甲第3号証に記載された事項及び甲3発明 (1)甲第3号証に記載された事項 甲第3号証には、以下の事項が記載されている。 ア 「【技術分野】 【0001】 この発明は、電動車両およびその制御方法に関し、特に、走行用の電力を蓄える蓄電装置と電動機を駆動する駆動装置との間に昇圧装置を備える電動車両およびその制御方法に関する。」 イ 「【発明を実施するための形態】 【0018】 以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。 【0019】 図1は、この発明の実施の形態による電動車両の電気システムを示した図である。図1を参照して、電動車両100は、蓄電装置Bと、昇圧コンバータ10と、インバータ20と、モータジェネレータMGと、駆動輪35と、正極線PL1,PL2と、負極線NLと、平滑コンデンサCとを備える。また、電動車両100は、制御装置40と、電圧センサ52,54と、電流センサ56と、回転角センサ58とをさらに備える。 【0020】 昇圧コンバータ10は、リアクトルLと、電力用半導体スイッチング素子(以下、単に「スイッチング素子」と称する。)Q1,Q2と、ダイオードD1,D2とを含む。リアクトルLの一方端は、蓄電装置Bの正極に接続される正極線PL1に接続され、他方端は、スイッチング素子Q1とスイッチング素子Q2との接続ノード、すなわち、スイッチング素子Q1のエミッタとスイッチング素子Q2のコレクタとの接続点に接続される。スイッチング素子Q1,Q2は、正極線PL2と蓄電装置Bの負極に接続される負極線NLとの間に直列に接続される。スイッチング素子Q1のコレクタは正極線PL2に接続され、スイッチング素子Q2のエミッタは負極線NLに接続される。ダイオードD1,D2は、それぞれスイッチング素子Q1,Q2に逆並列に接続される。すなわち、スイッチング素子Q1,Q2のコレクタ−エミッタ間に、エミッタ側からコレクタ側へ電流を流すダイオードD1,D2がそれぞれ接続される。 【0021】 なお、上記のスイッチング素子Q1,Q2および後述のスイッチング素子Q11〜Q16として、たとえば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)や電力用MOS(Metal Oxide Semiconductor)トランジスタ等を用いることができる。 【0022】 インバータ20は、U相アーム22と、V相アーム24と、W相アーム26とを含む。U相アーム22、V相アーム24およびW相アーム26は、正極線PL2と負極線NLとの間に並列に接続される。U相アーム22は、直列に接続されたスイッチング素子Q11,Q12を含む。V相アーム24は、直列に接続されたスイッチング素子Q13,Q14を含む。W相アーム26は、直列に接続されたスイッチング素子Q15,Q16を含む。また、スイッチング素子Q11〜Q16のコレクタ−エミッタ間には、エミッタ側からコレクタ側へ電流を流すダイオードD11〜D16がそれぞれ接続される。各相アームの中間点は、モータジェネレータMGの各相コイルにそれぞれ接続されている。 【0023】 蓄電装置Bは、再充電可能な直流電源であり、たとえばニッケル水素やリチウムイオン等の二次電池によって構成される。蓄電装置Bは、走行用の電力を蓄える。なお、蓄電装置Bとして、二次電池に代えて、電気二重層キャパシタや大容量のコンデンサ等を用いてもよい。 【0024】 昇圧コンバータ10は、制御装置40からの信号CNVに基づいて、正極線PL2および負極線NL間の電圧(以下「システム電圧」とも称する。)を蓄電装置Bの出力電圧以上に昇圧する。なお、システム電圧が目標電圧よりも低い場合、スイッチング素子Q2のオンデューティーを大きくすることによって正極線PL1から正極線PL2へ電流を流すことができ、システム電圧を上昇させることができる。一方、システム電圧が目標電圧よりも高い場合、スイッチング素子Q1のオンデューティーを大きくすることによって正極線PL2から正極線PL1へ電流を流すことができ、システム電圧を低下させることができる。 【0025】 インバータ20は、制御装置40からの信号INVに基づいて、正極線PL2から供給される直流電力を三相交流に変換してモータジェネレータMGへ出力し、モータジェネレータMGを駆動する。また、インバータ20は、電動車両100の制動時、モータジェネレータMGにより発電された三相交流電力を直流に変換し、正極線PL2へ出力する。 【0026】 平滑コンデンサCは、正極線PL2と負極線NLとの間に接続される。平滑コンデンサCは、正極線PL2および負極線NL間の電圧変動の交流成分を平滑化する。」 ウ 「【0035】 再び図1を参照して、制御装置40は、所定の条件が成立すると、昇圧コンバータ10のスイッチング素子Q1を常時オン状態(スイッチング素子Q2はオフ状態)にして走行する上アームオン走行を実行する。一例として、電圧センサ52の異常時や、省燃費走行条件の成立時などに、上アームオン走行が実行される。上アームオン走行時は、制御装置40は、基本的には、矩形波電圧制御モードでインバータ20を制御する。上アームオン走行時は、システム電圧は蓄電装置Bの電圧となりシステム電圧を高められないので、変調率の高い矩形波電圧制御モードによって高トルクを実現するものである。 【0036】 ところで、矩形波電圧制御モードでは、モータジェネレータMGの回転数に依存した矩形波電圧が印加されるので、モータジェネレータMGの回転数に依存したトルクリップルが発生し、このトルクリップルに応じた電圧リップルが正極線PL2に発生する。そして、この電圧リップルの変動周波数が、平滑コンデンサCおよび昇圧コンバータ10のリアクトルLにより形成されるLC回路の共振周波数に近づくと、電圧リップルに誘引されてそのLC回路が共振し、過電流や過電圧が発生し得る。このような状況は、特に、平滑コンデンサCと昇圧コンバータ10のリアクトルLとが完全に導通する上アームオン走行時に発生しやすい。 【0037】 すなわち、図3の上アームオン走行時の等価回路に示されるように、上アームオン走行時は、平滑コンデンサCと昇圧コンバータ10のリアクトルLとが電気的に直結され、平滑コンデンサCとリアクトルLとによりLC回路が形成される。そして、矩形波電圧制御モード時に、モータジェネレータMGの回転数に依存したトルクリップルに応じて正極線PL2に発生する電圧リップルの変動周波数が上記LC回路の共振周波数に近づくと、電圧リップルに誘引されてLC回路の共振が発生する。 【0038】 より詳しく説明すると、平滑コンデンサCおよび昇圧コンバータ10のリアクトルLにより形成されるLC回路の共振周波数f1は、次式によって表される。 【0039】 f1=1/{2π√(L×C)} …(1) ここで、Lは、リアクトルLのインダクタンスを示し、Cは、平滑コンデンサCの容量を示す。 【0040】 一方、モータジェネレータMGのトルクリップルに応じて発生する正極線PL2の電圧リップルの変動周波数f2は、たとえば次式によって表される。 【0041】 f2=Nm×4×6/60 …(2) ここで、モータジェネレータMGのロータの永久磁石は4極対とし、変動周波数f2は、6次高調波成分の周波数としている。なお、Nmは、モータジェネレータMGの回転数を示す。 【0042】 上記のように、電圧リップルの変動周波数f2はモータジェネレータMGの回転数Nmに依存し、変動周波数f2がLC回路の共振周波数f1に近くなるような回転数NmになるとLC回路が共振する。 【0043】 そこで、変動周波数f2がLC回路の共振周波数f1に近づくことによりLC回路が共振する所定範囲内にモータジェネレータMGの回転数が入ると(共振条件の成立)、制御装置40は、矩形波電圧制御モードでのインバータ20の制御を禁止する。具体的には、制御装置40は、モータジェネレータMGが出力可能な最大トルクを制限することによって、矩形波電圧制御モードでのインバータ20の制御を禁止する。」 エ 「【0048】 なお、モータジェネレータMGの回転数についての上記所定範囲は、平滑コンデンサCおよびリアクトルLにより形成されるLC回路の共振周波数に基づいて決定される。」 オ 「【図1】 ![]() 」 (2)甲3発明 ア 上記(1)イの段落【0019】には、“蓄電装置Bと、昇圧コンバータ10と、インバータ20と、モータジェネレータMGと、駆動輪35と、正極線PL1、PL2と、負極線NLと、平滑コンデンサCと、制御装置40と、電圧センサ52、54と、電流センサ56と、回転角センサ58とを備える電動車両”が記載されている。 イ 上記(1)イの段落【0020】には、“昇圧コンバータ10は、リアクトルLと、電力用半導体スイッチング素子(以下、単に「スイッチング素子」と称する。)Q1、Q2と、ダイオードD1、D2とを含み、リアクトルLの一方端は、蓄電装置Bの正極に接続される正極線PL1に接続され、他方端は、スイッチング素子Q1とスイッチング素子Q2との接続ノードに接続され、スイッチング素子Q1、Q2は、正極線PL2と蓄電装置Bの負極に接続される負極線NLとの間に直列に接続され、スイッチング素子Q1のコレクタは正極線PL2に接続され、スイッチング素子Q2のエミッタは負極線NLに接続され、ダイオードD1、D2は、それぞれスイッチング素子Q1、Q2に逆並列に接続される”ことが記載され、さらに、段落【0024】には、「昇圧コンバータ10は、制御装置40からの信号CNVに基づいて、正極線PL2および負極線NL間の電圧(以下「システム電圧」とも称する。)を蓄電装置Bの出力電圧以上に昇圧する」ことが記載されている。 したがって、甲第3号証には、“昇圧コンバータ10は、リアクトルLと、電力用半導体スイッチング素子(以下、単に「スイッチング素子」と称する。)Q1、Q2と、ダイオードD1、D2とを含み、リアクトルLの一方端は、蓄電装置Bの正極に接続される正極線PL1に接続され、他方端は、スイッチング素子Q1とスイッチング素子Q2との接続ノードに接続され、スイッチング素子Q1、Q2は、正極線PL2と蓄電装置Bの負極に接続される負極線NLとの間に直列に接続され、スイッチング素子Q1のコレクタは正極線PL2に接続され、スイッチング素子Q2のエミッタは負極線NLに接続され、ダイオードD1、D2は、それぞれスイッチング素子Q1、Q2に逆並列に接続されるものであり、また、昇圧コンバータ10は、制御装置40からの信号CNVに基づいて、正極線PL2および負極線NL間の電圧(以下「システム電圧」とも称する。)を蓄電装置Bの出力電圧以上に昇圧するものであ”ることが記載されている。 ウ 上記(1)イの段落【0022】には、「インバータ20は、U相アーム22と、V相アーム24と、W相アーム26とを含む。U相アーム22、V相アーム24およびW相アーム26は、正極線PL2と負極線NLとの間に並列に接続される」ことが記載され、さらに、段落【0025】には、「インバータ20は、制御装置40からの信号INVに基づいて、正極線PL2から供給される直流電力を三相交流に変換してモータジェネレータMGへ出力し、モータジェネレータMGを駆動する」ことが記載されている。 したがって、甲第3号証には、“インバータ20は、U相アーム22と、V相アーム24と、W相アーム26とを含み、U相アーム22、V相アーム24およびW相アーム26は、正極線PL2と負極線NLとの間に並列に接続され、また、インバータ20は、制御装置40からの信号INVに基づいて、正極線PL2から供給される直流電力を三相交流に変換してモータジェネレータMGへ出力し、モータジェネレータMGを駆動するものであ”ることが記載されている。 エ 上記(1)イの段落【0023】には、「蓄電装置Bは、再充電可能な直流電源であ」ることが記載されている。 オ 上記(1)イの段落【0026】には、「平滑コンデンサCは、正極線PL2と負極線NLとの間に接続される」ことが記載されている。 カ 上記(1)ウの段落【0035】、【0037】には、“昇圧コンバータ10のスイッチング素子Q1を常時オン状態(スイッチング素子Q2はオフ状態)にして走行する上アームオン走行時には、平滑コンデンサCと昇圧コンバータ10のリアクトルLとが電気的に直結され、平滑コンデンサCとリアクトルLとによりLC回路が形成されるものであ”ることが記載され、また、段落【0035】、【0037】、【0043】には、“上アームオン走行時には、制御装置40は、基本的には、矩形波電圧制御モードでインバータ20を制御するものであるが、モータジェネレータMGの回転数に依存したトルクリップルに応じて正極線PL2に発生する電圧リップルの変動周波数が上記LC回路の共振周波数に近づくと、矩形波電圧制御モードでのインバータ20の制御を禁止する”ことが記載されている。 したがって、甲第3号証には、“制御装置40が、昇圧コンバータ10のスイッチング素子Q1を常時オン状態(スイッチング素子Q2はオフ状態)にして走行する上アームオン走行時には、平滑コンデンサCと昇圧コンバータ10のリアクトルLとが電気的に直結され、平滑コンデンサCとリアクトルLとによりLC回路が形成されるものであって、また、上アームオン走行時には、制御装置40は、基本的には、矩形波電圧制御モードでインバータ20を制御するものであるが、モータジェネレータMGの回転数に依存したトルクリップルに応じて正極線PL2に発生する電圧リップルの変動周波数が上記LC回路の共振周波数に近づくと、矩形波電圧制御モードでのインバータ20の制御を禁止するものである”ことが記載されている。 キ 上記ア〜カの検討から、甲第3号証には次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されているといえる。 「蓄電装置Bと、昇圧コンバータ10と、インバータ20と、モータジェネレータMGと、駆動輪35と、正極線PL1、PL2と、負極線NLと、平滑コンデンサCと、制御装置40と、電圧センサ52、54と、電流センサ56と、回転角センサ58とを備える電動車両であって、 昇圧コンバータ10は、リアクトルLと、電力用半導体スイッチング素子(以下、単に「スイッチング素子」と称する。)Q1、Q2と、ダイオードD1、D2とを含み、リアクトルLの一方端は、蓄電装置Bの正極に接続される正極線PL1に接続され、他方端は、スイッチング素子Q1とスイッチング素子Q2との接続ノードに接続され、スイッチング素子Q1、Q2は、正極線PL2と蓄電装置Bの負極に接続される負極線NLとの間に直列に接続され、スイッチング素子Q1のコレクタは正極線PL2に接続され、スイッチング素子Q2のエミッタは負極線NLに接続され、ダイオードD1、D2は、それぞれスイッチング素子Q1、Q2に逆並列に接続されるものであり、また、昇圧コンバータ10は、制御装置40からの信号CNVに基づいて、正極線PL2および負極線NL間の電圧(以下「システム電圧」とも称する。)を蓄電装置Bの出力電圧以上に昇圧するものであって、 インバータ20は、U相アーム22と、V相アーム24と、W相アーム26とを含み、U相アーム22、V相アーム24およびW相アーム26は、正極線PL2と負極線NLとの間に並列に接続され、また、インバータ20は、制御装置40からの信号INVに基づいて、正極線PL2から供給される直流電力を三相交流に変換してモータジェネレータMGへ出力し、モータジェネレータMGを駆動するものであって、 蓄電装置Bは、再充電可能な直流電源であって、 平滑コンデンサCは、正極線PL2と負極線NLとの間に接続されるものであって、 制御装置40が、昇圧コンバータ10のスイッチング素子Q1を常時オン状態(スイッチング素子Q2はオフ状態)にして走行する上アームオン走行時には、平滑コンデンサCと昇圧コンバータ10のリアクトルLとが電気的に直結され、平滑コンデンサCとリアクトルLとによりLC回路が形成されるものであって、また、上アームオン走行時には、制御装置40は、基本的には、矩形波電圧制御モードでインバータ20を制御するものであるが、モータジェネレータMGの回転数に依存したトルクリップルに応じて正極線PL2に発生する電圧リップルの変動周波数が上記LC回路の共振周波数に近づくと、矩形波電圧制御モードでのインバータ20の制御を禁止する、 電動車両。」 4 甲第4号証 (1)甲第4号証に記載された事項 甲第4号証には、以下の事項が記載されている。 ア 「【0053】 図2は、図1の抵抗Rbu、Rbv、Rbw(以降、抵抗Rbu、Rbv、Rbwを総称して抵抗Rbと云うことがある)の抵抗値を変化させた時のフィルタとしての周波数特性を示している。コモンモードチョークコイルLcのインダクタンスが100mH、コンデンサCbu、Cbv、Cbwの静電容量が0.1μFにおいて、抵抗Rb=0の場合には、キャリア周波数の15KHzでは減衰率が38dbと高いが、1〜2KHzの間に高いピークがあり、抵抗Rb=0及び抵抗Rbが小さい場合には、フィルタとしての特性がよくないことがわかる。抵抗Rb=3KΩの場合には、ピークは低く、減衰率も20db近く減衰しているので、ローパスフィルタとして十分機能する。すなわち、抵抗Rbu、Rbv、Rbwを入れることにより、共振がなく、ローパスフィルタとしての特性のよいものが得られる効果がある。」 イ 「【図2】 ![]() 」 5 甲第5号証 (1)甲第5号証に記載された事項 甲第5号証には、以下の事項が記載されている。 ア 「 【0098】 図13および図14はいずれも伝達関数G(s)のボード線図である。図13は制御ゲインkが一定である場合であって、従来の技術に相当する。図14は制御ゲインkが式(8)に基づいて設定された場合であって本実施の形態の技術に相当する。 【0099】 図13における曲線Q1,Q3および図14における曲線Q5,Q7はl=0.05[mH]の場合を示し、図13における曲線Q2,Q4および図14における曲線Q6,Q8はl=0.2[mH]の場合を示す。いずれも抵抗成分r=0に設定されている。」 イ 「【図13】 ![]() 」 ウ 「【図14】 ![]() 」 6 甲第6号証 (1)甲第6号証に記載された事項 甲第6号証には、以下の事項が記載されている。 ア 「【0016】 ここで、走行用インバータ34の直流側、すなわち、直流電力の入力側に流れる電流(直流側電流)には、PWMのキャリア周波数fcおよび変調波周波数feに基づいて、下式(1)で表される搬送波のn次(nは奇数)の側帯高調波成分,及び、下式(2)で表される搬送波のm次(mは偶数)の高調波成分の高調波電流が発生する(参考文献:電気学会論文誌D,126巻7号,2006年,1049−1057ページ,「鉄道車両駆動用インバータにおける直流側電流の側帯高調波の理論解析」参照)。 n・fc±3・fe ・・・式(1) m・fc ・・・式(2)」 イ 「【0026】 回転周波数演算部370は、変調波周波数feを下式(3)に従って求める(図3のステップS10)。なお、変調波周波数feは、PWMされた駆動信号Vu,Vv,Vwの表す実効的な電圧の変動の周波数に相当する。 fe=P・fm ・・・式(3) fmは走行モータ38の回転周波数であり、エンコーダ39で検出される走行モータ38の回転の変位θの時間変化により求まる。Pは、走行モータ38の極対数P(Pは1以上の整数)である。 【0027】 キャリア周波数導出部380は、キャリア周波数導出部380は、高調波成分の周波数[n・fc±3・fe](式(1)),周波数[m・fc](式(2))が共振周波数帯域RFBに含まれる場合(図3のステップS20:YES)、変更するキャリア周波数fcの値を導出する(図3のステップS30)。変更するキャリア周波数fcの値は、キャリア周波数fcに応じて発生する高調波成分の周波数が共振周波数帯域RFBに含まれない値である。そして、キャリア周波数導出部380は、導出したキャリア周波数fcの値を、キャリア周波数指令fc*としてキャリア周波数切替部390に出力する。」 ウ 「【図3】 ![]() 」 7 甲第7号証 (1)甲第7号証に記載された事項 甲第7号証には、以下の事項が記載されている。 ア 「【0026】 本実施形態のコンデンサ(12)には、フィルムコンデンサが採用されている。コンデンサ(12)は、インバータ回路(13)のスイッチング素子(後述)がスイッチング動作する際に生じるリプル電圧(電圧変動)のみを平滑化可能な静電容量を有している。すなわち、コンデンサ(12)は、コンバータ回路(11)によって整流された電圧(電源電圧に応じて変動する電圧)を平滑化するような静電容量を有さない小容量のコンデンサである。より詳しくは、コンデンサ(12)とリアクトル(L)によって形成される共振回路が、コンバータ回路(11)から出力された直流電流に含まれるリップル電流成分を通過させ、かつ、後述のインバータ回路(13)のキャリア信号の周波数(キャリア周波数)と同じ周波数の電流成分を減衰させるように、該共振回路の共振周波数が設定、すなわちコンデンサ(12)の静電容量とリアクトル(L)のインダクタンスが設定されている。」 イ 「【0033】 詳しくは、コンバータ回路(11)(パッケージ)、コンデンサ(12)、リアクトル(L)、及びインバータ回路(13)(パッケージ)は、回路基板(20)上において、2段のグリッド状に実装されている。図2には、説明の便宜のために、仮想グリッドの段を示す仮想線を表示してある。コンバータ回路(11)とリアクトル(L)とは、前記グリッドにおける同段に実装されている(図2に示した仮想グリッドの上段を参照)。」 ウ 「【0043】 〈本実施形態における効果〉 以上のように、本実施形態では、従来は電解コンデンサが用いられていたコンデンサ(12)をフィルムコンデンサによって構成しつつ、コンデンサ(12)とリアクトル(L)とを同一の回路基板(20)上に実装した。そのため、従来のように、回路基板外のリアクトルと回路基板とを配線で繋ぐ場合に必要であったノイズ対策(スナバ回路やフェライトコアの追加)が不要になる。すなわち、本実施形態では、電力変換装置(10)のレイアウトのコンパクト化を図ることが可能になる。」 8 甲第8号証 (1)甲第8号証に記載された事項 甲第8号証には、以下の事項が記載されている。 ア 「第1条 輸出貿易管理令(以下「輸出令」という。)別表第一の二の項の経済産業省令で定める仕様のものは、次のいずれかに該当するものとする。」 イ 「八 周波数変換器又はその部分品であって、次のいずれかに該当するもの」 ウ 「ロ 可変周波数又は固定周波数モーター駆動に用いることができる周波数変換器であって、次の(一)から(三)までの全てに該当するもの(イに該当するもの及び産業機械又は消費財用の周波数変換器であって、当該機械等から取り外した場合には、ハードウェア及びソフトウェアの制限により次の(一)から(三)までのいずれかの特性を満たさなくなるものを除く。)」 エ 「(二) 六〇〇ヘルツ以上の出力周波数で作動するもの」 9 甲第9号証 (1)甲第9号証に記載された事項 甲第9号証には、以下の事項が記載されている。 ア 「 【0015】 また、第3の発明は、 第1の発明の電力変換装置において、 該電力変換装置は、交流電源から供給された交流電力を所定の電圧及び周波数の交流電力に直接変換するものであり、 前記小容量コンデンサ(150)は、該電力変換装置の入力側に配置されていることを特徴とする。」 イ 「【0045】 《発明の実施形態1》 本発明の実施形態1に係る電力変換装置の構成を図1に示す。この電力変換装置(100)は、コンバータ回路(110)とインバータ回路(120)を備え、交流電源(例えば商用交流電源)をコンバータ回路(110)によって整流し、制御装置(330)に制御されたインバータ回路(120)がその直流を三相交流に変換して三相交流モータ(320)に供給するものである。この三相交流モータ(320)は空気調和機の冷媒回路に設けられる圧縮機を駆動するものである。 【0046】 コンバータ回路(110)は、4つの整流用ダイオード(111)と、リアクトル(112)とを備え、交流電源を整流する。本実施形態では、整流用ダイオード(111)には、比較的安価なSiダイオードを使用している。この際、コンバータ回路(110)とインバータ回路(120)との距離は離れていても問題ないので整流用ダイオード(111)の断熱は容易である。 【0047】 インバータ回路(120)は、スイッチング素子(130)、駆動回路(140)、及び小容量コンデンサ(150)より構成されている。 【0048】 スイッチング素子(130)は、このインバータ回路(120)内に6つ設けられ、それぞれのスイッチング素子(130)は、ワイドバンドギャップ半導体を用いたスイッチング素子(ここでは、SiC MOSFETとSiCダイオード)によって構成されている。各スイッチング素子(130)は、詳しくは、トランジスタ(131)と還流ダイオード(132)とを備えている。上記のSiダイオードのようなシリコンデバイスの動作温度は、150℃が最大であるが、ワイドバンドギャップ半導体の動作温度の最大値は、シリコンデバイスよりも高い。一般的には、ワイドバンドギャップ半導体の動作温度の最大値は、150℃以上である。そのため、本実施形態のようにワイドバンドギャップ半導体を用いたスイッチング素子(130)の動作温度の最大値は150℃以上である。」 ウ 「【0054】 上記のように、本実施形態の電力変換装置(100)では、キャリア成分の除去に用いる小容量コンデンサ(150)を高温動作可能に構成したので、断熱材などの構成部材の追加、ディバイスの大容量化、或いは冷却機構の大型化などの対策を行うことなく、周辺部品とともにインバータ回路(120)を容易に密閉化できる。そのため、本実施形態の電力変換装置(100)を、空気調和機の室外機などに使用すれば、防塵、防水が容易になる。」 第5 当審の判断 1 取消理由1(新規性)について (1)本件特許発明1について ア 対比・判断 本件特許発明1と甲1発明とを対比する。 (ア)甲1発明の「交流電源101」は、本件特許発明1の「交流電源」に相当する。 そして、甲1発明の「整流回路102」は、「交流電源101から出力された交流を直流に整流する」ものであって、また、「整流回路102」と「交流電源101」とが配線対を介して接続されていることは明らかである。 してみると、甲1発明のこの「整流回路102」と「交流電源101」を接続する配線対は、本件特許発明1の「第1配線対」に相当し、甲1発明の「整流回路102」は、本件特許発明1の「交流電源から第1配線対を介して入力される交流を直流に変換する変換器」に相当する。 (イ)甲1発明においては、「コンデンサ103」が「整流回路102の出力側に接続され」ており、「コンデンサ103」には「整流回路102」が整流した直流が入力しているものと認められ、そして、甲1発明の「インバータ105」は、「コンデンサ103より得られる直流を交流に変換する」ものであるから、甲1発明の「インバータ105」は、「整流回路102」から出力される直流電力を交流電力に変換しているといえる。 また、甲1発明において、「インバータ105」と「コンデンサ103」の間、及び「コンデンサ103」と「整流回路102」の間が配線対を介して接続されていることは明らかである。 してみると、甲1発明の「インバータ105」と「コンデンサ103」の間の配線対と「コンデンサ103」と「整流回路102」の間の配線対を合わせたものは、本件特許発明1の「第2配線対」に相当し、甲1発明の「インバータ105」は、本件特許発明1の「前記変換器から第2配線対に出力される直流電力を交流電力に変換する逆変換器」に相当する。 (ウ)甲1発明の「コンデンサ103」は、上記(イ)の点を踏まえると、本件特許発明1の「前記第2配線対の間に接続されたコンデンサ」に相当する。 (エ)甲1発明の「モータ駆動装置」は、「交流電源101から出力された交流を直流に整流」し「直流を交流に変換」するものであり、電力変換を行っているといえ、また、「整流回路102」と、「インバータ105」と、「コンデンサ103」とを備えるものであるから、甲1発明の「モータ駆動装置」と、本件特許発明1の「電力変換装置」とは、後記の点で相違するものの、“電力変換装置”の点では共通する。 (オ)上記(ア)〜(エ)のことから、本件特許発明1と甲1発明とは、次の点で一致し、また、相違する。 <一致点> 「電力変換装置であって、 交流電源から第1配線対を介して入力される交流を直流に変換する変換器と、 前記変換器から第2配線対に出力される直流電力を交流電力に変換する逆変換器と、 前記第2配線対の間に接続されたコンデンサと、を備えた、 電力変換装置。」 <相違点1> 本件特許発明1では、「前記電力変換装置が前記交流電源と接続される箇所から前記コンデンサまでのインダクタンス成分のインダクタンスをL、前記逆変換器の出力周波数の最大値をMAX(f0)とするとき、前記コンデンサの静電容量であるCは、 【数1】 ![]() を満たす」ものであるのに対して、甲1発明では、その旨の特定がされていない点。 したがって、本件特許発明1と甲1発明は、上記相違点1で相違するから、本件特許発明1は甲1発明であるということはできない。 イ 申立人の主張について (ア)申立人は、特許異議申立書において、概ね、以下のとおり主張している。 本件特許発明1の【数1】は、 ![]() のように変換でき、コンデンサCとインダクタンス成分のインダクタンスLによる共振周波数fLC=1/(2π√(LC))であるため、本件特許発明1は6×MAX(f0)<fLCを示している。 甲1発明では、LC共振周波数fLCZに対して転流周波数を可変としている(段落0038、0050)。モータ106は相数と極数の積が1回転あたりの転流数となることが記載されている(段落0043、0044)。また、速度が50r/sならば3相6極モータでは900Hzの転流周波数とあり、インバータの出力周波数は50rps×3極対(6極÷2)=150Hzとなり、転流周波数とインバータ周波数から転流数の関係は900Hz÷150Hz=6回転流が発生する。従って、転流周波数=転流数×出力周波数=6×f0となる。出力周波数f0の値はどのような値でもこの関係性を満たす(最大や最小は関係ない)。これは周波数の最大値も含んでいるため、転流周波数が「6×MAX(f0)」に相当する。 また、転流周期をLC共振周波数と一致させないことが記載されている(段落0043)。さらに、転流周波数をLC共振周波数fLCZの1.5倍もしくは1.5分の1にすることが記載されている(段落0050)。従って、以下のようになる。 転流周波数×l.5=fLCZ ⇒ 転流周波数<fLCZ 転流周波数/1.5=fLCZ ⇒ 転流周波数>fLCZ 従って、甲1発明には「転流周波数<fLCZ」が記載されている。甲1発明のLC共振周波数fLCZは対象特許のfLCに相当する。転流周波数が対象特許の「6×MAX(f0)」に相当することを考慮すると、甲1発明に「6×MAX(f0)<fLC」が記載されていることは明らかである(段落0038、0043、0044、0050)。 なお、インバータ出力周波数の6倍に高調波が生じることは周知である(例えば、甲第2号証の明細書段落0011、0017)。この高調波により騒音悪化の影響が出るため、インバータ周波数の6倍の高調波電流を低減しなければならないという課題も周知である。従って、本件特許発明1の数1から導かれた「6×MAX(f0)」の「6」の記載は、上記の通り周知の事項であり、当業者であれば容易に想到できるものである。 よって、本件特許発明1は、甲1発明と同一であるか、又は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (イ)申立人の主張について 申立人が主張するように、本件特許発明1の【数1】は、6×MAX(f0)<fLCと変換できるものと認められる。 一方、甲1発明は、「モータ106の相数と極数と駆動速度の積がリアクタ104とコンデンサ103の共振周波数と一致しないようモータ106の駆動速度を決定する」ものである。 すなわち、「モータ106の相数と極数と駆動速度の積」は転流周波数であるから、甲1発明は、転流周波数と共振周波数とが一致しないようモータ106の駆動速度を変化させるものである。また、モータ106の相数をn1、極数をn2、駆動速度をN(rps)とすると、転流周波数=n1×n2×Nとなり、インバータの出力周波数f0=n2/2×Nであるから、転流周波数=2×n1×f0となり、3相の場合はn1=3であり、転流周波数=6×f0となる。 しかしながら、甲第1号証において、モータの速度は転流周波数と共振周波数とが一致しないよう可変であることは記載されているが、モータの速度について最大値があることは記載されていない。そうすると、モータの速度から算出されるインバータの出力周波数f0も可変ではあるが最大値が想定されているとは認められないことから、甲1発明の3相の場合の転流周波数=6×f0が、本件特許発明1の【数1】を変形した「6×MAX(f0)」に相当するとは認められない。 したがって、甲第1号証に、モータの速度の最大値から算出できるインバータの出力周波数f0の最大値MAX(f0)が、「6×MAX(f0)<fLC」であることが記載されているということはできない。 また、甲第2号証には、インバータ出力周波数の6倍に高調波が生じることが記載され周知といえるが、甲第2号証の段落【0011】に「この高調波の周波数は、インバータ出力周波数の6倍であり、インバータ出力周波数の増減とともに、高調波の周波数も推移していく。」と記載されるように、インバータ出力周波数は可変なものであって、最大値が規定されるものでなく、最大値と共振周波数の関係が周知であるということもできない。 したがって、申立人の主張は採用することはできない。 (2)本件特許発明4、9、13について 本件特許発明4、9、13は、上記(1)で検討した本件特許発明1に係る請求項1を直接的又は間接的に引用するものであって、本件特許発明1の構成をさらに限定するものであるから、本件特許発明1と同様の理由により、本件特許発明4、9、13は、甲1発明であるということはできない。 (3)まとめ 以上のとおり、本件特許発明1、4、9、13は、甲1発明であるということはできないから、特許法第29条第1項第3号に該当しない。したがって、請求項1、4、9、13に係る特許は特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるとはいえない。 2 申立理由2(進歩性)について (1)甲第1号証との対比・判断 ア 本件特許発明1について 本件特許発明1と甲第1号証に記載された発明(甲1発明)を対比すると、上記1(1)アで説示したとおり、本件特許発明1と甲1発明は、上記相違点1で相違し、その余の点で一致する。 相違点1について検討すると、上記1(1)イで検討したように、甲第1号証には、モータの速度は可変であるが最大値あることは記載されておらず、このモータの速度から算出されるインバータの出力周波数f0に関しても最大値が想定されているとはいえないことから、インバータの出力周波数f0の最大値MAX(f0)に基づいて、「6×MAX(f0)<fLC」とする動機が存在しない。 したがって、本件特許発明1は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ 本件特許発明2ないし4について 本件特許発明2ないし4はいずれも請求項1を直接または間接的に引用するものである。したがって、本件特許発明2ないし4は、本件特許発明1の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであって、また、甲第4、5号証には、インバータの出力周波数f0の最大値と共振周波数の関係に関しては記載されていないことから、上記本件特許発明1についての判断と同様の理由により、本件特許発明2ないし4は、甲1発明、及び周知技術(甲第4、5号証)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ 本件特許発明5について 本件特許発明5と甲1発明を対比する。 (ア)甲1発明の「交流電源101」は、本件特許発明5の「交流電源」に相当する。 そして、甲1発明の「整流回路102」は、「交流電源101から出力された交流を直流に整流する」ものであって、また、「整流回路102」と「交流電源101」とが配線対を介して接続されていることは明らかである。 してみると、甲1発明のこの「整流回路102」と「交流電源101」を接続する配線対は、本件特許発明5の「第1配線対」に相当し、甲1発明の「整流回路102」は、本件特許発明5の「交流電源から第1配線対を介して入力される交流を直流に変換する変換器」に相当する。 (イ)甲1発明においては、「コンデンサ103」が「整流回路102の出力側に接続され」ており、「コンデンサ103」には「整流回路102」が整流した直流が入力しているものと認められ、そして、甲1発明の「インバータ105」は、「コンデンサ103より得られる直流を交流に変換する」ものであるから、甲1発明の「インバータ105」は、「整流回路102」から出力される直流電力を交流電力に変換しているといえる。 また、甲1発明において「インバータ105」と「コンデンサ103」の間、及び「コンデンサ103」と「整流回路102」の間が配線対を介して接続されていることは明らかである。 してみると、甲1発明の「インバータ105」と「コンデンサ103」の間の配線対と「コンデンサ103」と「整流回路102」の間の配線対を合わせたものは、本件特許発明5の「第2配線対」に相当し、甲1発明の「インバータ105」は、本件特許発明5の「前記変換器から第2配線対に出力される直流電力を交流電力に変換する逆変換器」に相当する。 (ウ)甲1発明の「リアクタ104」は、「整流回路102の入力側もしくは出力側に直列に接続される」ものであって、上記(ア)、(イ)の点を踏まえると、本件特許発明5の「前記第1配線対のうちの一方の配線に又は前記第2配線対のうちの一方の配線に直列に挿入されたリアクトル」に相当する。 (エ)甲1発明の「コンデンサ103」は、上記(イ)、(ウ)の点を踏まえると、本件特許発明5の「前記リアクトルと前記逆変換器との間において、前記第2配線対の間に接続されたコンデンサ」に相当する。 (オ)甲1発明の「モータ駆動装置」は、「交流電源101から出力された交流を直流に整流」し「直流を交流に変換」するものであり、電力変換を行っているといえ、また、「整流回路102」と、「インバータ105」と、「リアクタ104」と、「コンデンサ103」とを備えるものであるから、甲1発明の「モータ駆動装置」と、本件特許発明5の「電力変換装置」とは、後記の点で相違するものの、“電力変換装置”の点では共通する。 (カ)上記(ア)〜(オ)のことから、本件特許発明5と甲1発明とは、次の点で一致し、また、相違する。 <一致点> 「交流電源から第1配線対を介して入力される交流を直流に変換する変換器と、 前記変換器から第2配線対に出力される直流電力を交流電力に変換する逆変換器と、 前記第1配線対のうちの一方の配線に又は前記第2配線対のうちの一方の配線に直列に挿入されたリアクトルと、 前記リアクトルと前記逆変換器との間において、前記第2配線対の間に接続されたコンデンサと、を備えた、 電力変換装置」 <相違点2> 本件特許発明5では、「前記逆変換器の駆動のキャリア周波数をfc、前記リアクトルと前記コンデンサとによるLCフィルタの共振周波数をfLC、前記逆変換器の出力周波数の最大値をMAX(f0)とするとき、MAX(f0)は、 【数2】 ![]() を満たす」ものであるのに対して、甲1発明では、その旨の特定がされていない点。 相違点2について検討すると、上記1(1)イで説示したように、甲第1号証には、モータの速度について最大値があることが記載されておらず、モータの速度から算出できるインバータの出力周波数f0に関しても最大値が想定されていないことから、インバータの出力周波数f0の最大値MAX(f0)に基づいて、「6×MAX(f0)<fLC<fC−3×MAX(f0)」とする動機が存在しない。 また、甲第6号証には、インバータの出力周波数f0の最大値と共振周波数の関係に関しては記載されていない。 したがって、本件特許発明5は、甲1発明、及び甲第6号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 エ 本件特許発明6、7について 本件特許発明6、7はいずれも請求項5を直接または間接的に引用するものである。したがって、本件特許発明6、7は、本件特許発明5の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件特許発明5についての判断と同様の理由により、本件特許発明6、7は、甲1発明、及び甲第6号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 オ 本件特許発明8ないし13について 本件特許発明8ないし13はいずれも請求項1または請求項5を直接または間接的に引用するものである。したがって、本件特許発明8ないし13は、本件特許発明1または本件特許発明5の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであって、また、甲第7ないし9号証には、インバータの出力周波数f0の最大値と共振周波数の関係に関しては記載されていないことから、上記本件特許発明1または本件特許発明5についての判断と同様の理由により、本件特許発明8ないし13は、甲1発明、甲第6号証に記載された技術事項、及び周知技術(甲第4、5、7、8、9号証)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2)甲第3号証との対比・判断 ア 本件特許発明1について 本件特許発明1と甲3発明を対比する。 (ア)甲3発明の「インバータ20」は、「正極線PL2と負極線NLとの間に並列に接続され」、「正極線PL2から供給される直流電力を三相交流に変換」するものである。 してみると、甲3発明の「正極線PL2と負極線NL」は、本件特許発明1の「第2配線対」に相当し、また、甲3発明の「インバータ20」と、本件特許発明1の「前記変換器から第2配線対に出力される直流電力を交流電力に変換する逆変換器」とは、後記の点で相違するものの、“第2配線対に出力される直流電力を交流電力に変換する逆変換器”の点では共通する。 (イ)甲3発明の「平滑コンデンサC」は、「正極線PL2と負極線NLとの間に接続されるものであ」るから、上記(ア)の点も踏まえると、本件特許発明1の「前記第2配線対の間に接続されたコンデンサ」に相当する。 (ウ)甲3発明の「電動車両」は、「正極線PL2から供給される直流電力を三相交流に変換してモータジェネレータMGへ出力」するものであり、電力変換を行っているといえ、また、「インバータ20」と、「平滑コンデンサC」とを備えるものであるから、甲3発明の「電動車両」と、本件特許発明1の「電力変換装置」とは、後記の点で相違するものの、“電力変換装置”の点では共通する。 (エ)上記(ア)〜(ウ)のことから、本件特許発明1と甲3発明とは、次の点で一致し、また、相違する。 <一致点> 「電力変換装置であって、 第2配線対に出力される直流電力を交流電力に変換する逆変換器と、 前記第2配線対の間に接続されたコンデンサと、を備えた、 電力変換装置。」 <相違点3> 本件特許発明1では、「交流電源から第1配線対を介して入力される交流を直流に変換する変換器」を備えるものであって、また、「第2配線対に出力される直流電力」は「前記変換器から」出力されるものであるのに対して、甲3発明では、直流電源である「蓄電装置B」を備えるものであって、そのような「変換器」を備えておらず、また、「正極線PL2と負極線NL」には、「蓄電装置B」の直流電力が「昇圧コンバータ10」を介して出力される点。 <相違点4> 本件特許発明1では、「前記電力変換装置が前記交流電源と接続される箇所から前記コンデンサまでのインダクタンス成分のインダクタンスをL、前記逆変換器の出力周波数の最大値をMAX(f0)とするとき、前記コンデンサの静電容量であるCは、 【数1】 ![]() を満たす」ものであるのに対して、甲3発明では、その旨の特定がされていない点。 事案に鑑み、相違点3について先に検討する。 交流を直流に変換する変換器は周知技術と認められる。 しかしながら、甲3発明は「電動車両」であって、「蓄電装置B」を交流電源に代えることはできないし、また、「蓄電装置B」は直流電源であるので「交流を直流に変換する変換器」を備える必要もない。 したがって、他の上記相違点を検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲3発明、及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。 イ 本件特許発明2ないし4について 本件特許発明2ないし4はいずれも請求項1を直接または間接的に引用するものである。したがって、本件特許発明2ないし4は、本件特許発明1の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであって、また、甲第4、5号証には、インバータの出力周波数f0の最大値と共振周波数の関係に関しては記載されていないことから、上記本件特許発明1についての判断と同様の理由により、本件特許発明2ないし4は、甲3発明、及び周知技術(甲第4、5号証)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ 本件特許発明5について 本件特許発明5と甲3発明を対比する。 (ア)甲3発明の「インバータ20」は、「正極線PL2と負極線NLとの間に並列に接続され」、「正極線PL2から供給される直流電力を三相交流に変換」するものである。 してみると、甲3発明の「正極線PL2と負極線NL」は、本件特許発明5の「第2配線対」に相当し、また、甲3発明の「インバータ20」と、本件特許発明5の「前記変換器から第2配線対に出力される直流電力を交流電力に変換する逆変換器」とは、後記の点で相違するものの、“第2配線対に出力される直流電力を交流電力に変換する逆変換器”の点では共通する。 (イ)甲3発明の「リアクトルL」は、「リアクトルLの一方端は、蓄電装置Bの正極に接続される正極線PL1に接続され、他方端は、スイッチング素子Q1とスイッチング素子Q2との接続ノードに接続され、スイッチング素子Q1、Q2は、正極線PL2と蓄電装置Bの負極に接続される負極線NLとの間に直列に接続され」るものであるから、「リアクトルL」は「正極線PL2」に直列に挿入されているといえる。 してみると、甲3発明の「リアクトルL」は、上記(ア)の点を踏まえると、本件特許発明5の「前記第2配線対のうちの一方の配線に直列に挿入されたリアクトル」に相当する。 (ウ)甲3発明の「平滑コンデンサC」は、「正極線PL2と負極線NLとの間に接続されるものであ」るから、上記(ア)、(イ)の点も踏まえると、本件特許発明5の「前記リアクトルと前記逆変換器との間において、前記第2配線対の間に接続されたコンデンサ」に相当する。 (エ)甲3発明の「電動車両」は、「正極線PL2から供給される直流電力を三相交流に変換してモータジェネレータMGへ出力」するものであり、電力変換を行っているといえ、また、「インバータ20」と、「リアクトルL」と、「平滑コンデンサC」とを備えるものであるから、甲3発明の「電動車両」と、本件特許発明5の「電力変換装置」とは、後記の点で相違するものの、“電力変換装置”の点では共通する。 (オ)上記(ア)〜(エ)のことから、本件特許発明5と甲3発明とは、次の点で一致し、また、相違する。 <一致点> 「第2配線対に出力される直流電力を交流電力に変換する逆変換器と、 前記第2配線対のうちの一方の配線に直列に挿入されたリアクトルと、 前記リアクトルと前記逆変換器との間において、前記第2配線対の間に接続されたコンデンサと、を備えた、 電力変換装置」 <相違点5> 本件特許発明5では、「交流電源から第1配線対を介して入力される交流を直流に変換する変換器」を備えるものであって、また、「第2配線対に出力される直流電力」は「前記変換器から」出力されるものであるのに対して、甲3発明では、直流電源である「蓄電装置B」を備えるものであって、そのような「変換器」を備えておらず、また、「正極線PL2と負極線NL」には、「蓄電装置B」の直流電力が「昇圧コンバータ10」を介して出力される点。 <相違点6> 本件特許発明5では、「前記逆変換器の駆動のキャリア周波数をfc、前記リアクトルと前記コンデンサとによるLCフィルタの共振周波数をfLC、前記逆変換器の出力周波数の最大値をMAX(f0)とするとき、MAX(f0)は、 【数2】 ![]() を満たす」ものであるのに対して、甲3発明では、その旨の特定がされていない点。 相違点5について検討する。 相違点5は、上記相違点3と同様のものであるから、上記アで検討したように、甲3発明の「蓄電装置B」を交流電源に代えることはできないし、また、「蓄電装置B」は直流電源であるので「交流を直流に変換する変換器」を備える必要もない。 したがって、他の上記相違点を検討するまでもなく、また、甲第1、6号証には、車両の電源として交流電電源を用いることは記載されていないことから、本件特許発明5は、甲3発明、甲第6号証に記載の技術事項、及び周知技術(甲第1号証)に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。 エ 本件特許発明6、7について 本件特許発明6、7はいずれも請求項5を直接または間接的に引用するものである。したがって、本件特許発明6、7は、本件特許発明5の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであって、また、甲第5号証には、車両の電源として交流電電源を用いることは記載されていないことから、上記本件特許発明5についての判断と同様の理由により、本件特許発明6、7は、甲3発明、甲第6号証に記載された技術事項、及び周知技術(甲第1、5号証)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 オ 本件特許発明8ないし13について 本件特許発明8ないし13はいずれも請求項1または請求項5を直接または間接的に引用するものである。したがって、本件特許発明8ないし13は、本件特許発明1または本件特許発明5の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであって、また、甲第4、7、8、9号証には、車両の電源として交流電電源を用いることは記載されていないことから、上記本件特許発明1または本件特許発明5についての判断と同様の理由により、本件特許発明8ないし13は、甲3発明、甲第6号証に記載された技術事項、及び周知技術(甲第1、4、5、7、8、9号証)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 3 申立理由3、4、5について (1)理由3−1、理由4−1、理由5−1について 請求項1においては【数1】よりコンデンサの容量は決定でき、また、請求項5においては【数5】より、LCフィルタの共振周波数fLCの範囲は決定できることから、変調方式と側帯波の関係が記載されていなくとも、本件特許発明1、5を当業者が実施をすることができないとまではいえない。 また、【数1】及び【数5】の式自体は明確であって、変調方式と側帯波の関係が記載されていなくとも、請求項1ないし13に係る発明が、不明確とまではいえない。 さらに、【数1】及び【数5】の式の範囲の全てにおいて、変調方式と側帯波の関係の影響によって効果が確認できないものではないことから、請求項1ないし13に係る発明が、発明の詳細な説明に記載されたものではないとまではいえない。 (2)理由3−2、理由4−2、理由5−2について 請求項1においては【数1】よりコンデンサの容量は決定でき、また、請求項5においては【数5】より、LCフィルタの共振周波数fLCの範囲は決定できることから、抵抗による減衰項について記載されていなくとも、当業者が実施をすることができないとまではいえない。 また、【数1】及び【数5】の式自体は明確であって、抵抗による減衰項について記載されていなくとも、請求項1ないし13に係る発明が、不明確とまではいえない。 さらに、抵抗による減衰項の影響を考慮するか否かは、所望とされる性能に応じて決定されるものであり、少なくとも抵抗による減衰項の影響を考慮しないものとしては効果が確認できるものであるから、請求項1ないし13に係る発明が、発明の詳細な説明に記載されたものではないとまではいえない。 (3)理由3−3、理由4−3、理由5−3について 請求項1においては【数1】よりコンデンサの容量は決定でき、また、請求項5においては【数5】より、LCフィルタの共振周波数fLCの範囲は決定できることから、インダクタンスが小さくとも、当業者が実施をすることができないとまではいえない。 また、【数1】及び【数5】の式自体は明確であって、インダクタンスが小さくとも、請求項1ないし13に係る発明が、不明確とまではいえない。 さらに、インダクタンスが小さいことによる影響を考慮するか否かは、所望とされる性能に応じて決定されるものであり、少なくともインダクタンスが小さいことによる影響を考慮する必要がない範囲においては効果が確認できるものであるから、請求項1ないし13に係る発明が、発明の詳細な説明に記載されたものではないとまではいえない。 (4)理由5−4について 請求項1には、コンデンサを備えることが記載されており、C=0を含まないことは明らかであるから、本件特許発明1及びそれに従属する本件特許発明2ないし4、8ないし13が、発明の詳細な説明に記載されたものではないとまではいえない。 (5)理由5−5について 「増幅を抑制」するとは、従来の増幅に比べ減少されればよいものであって、全く増幅させないことまで要求されるものではないことから、ゲインが5であっても、従来との比較において増幅を抑制しているといえ、効果が確認できないものではなく、本件特許発明3及び7が、発明の詳細な説明に記載されたものではないとまではいえない。 (6)まとめ 以上のとおり、請求項1ないし13に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとまではいえず、また、請求項1ないし13に係る特許は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとまではいえず、さらに、請求項1ないし13に係る特許は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとまではいえない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし13に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1ないし13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2023-04-06 |
出願番号 | P2022-051552 |
審決分類 |
P
1
651・
537-
Y
(H02M)
P 1 651・ 113- Y (H02M) P 1 651・ 121- Y (H02M) P 1 651・ 536- Y (H02M) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
須田 勝巳 |
特許庁審判官 |
篠原 功一 山澤 宏 |
登録日 | 2022-07-20 |
登録番号 | 7108224 |
権利者 | ダイキン工業株式会社 |
発明の名称 | 電力変換装置、空気調和機及び冷凍装置 |
代理人 | 伊東 忠重 |
代理人 | 伊東 忠彦 |