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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G03F
管理番号 1396708
総通号数 17 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2023-05-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-11-10 
確定日 2023-03-31 
事件の表示 特願2017−74168号「ペリクル」拒絶査定不服審判事件〔平成30年3月29日出願公開、特開2018−49256号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成29年4月4日(特許法第41条に基づく国内優先権主張 平成28年4月5日、平成28年9月20日)を出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和3年 2月 9日付け:拒絶理由の通知
令和3年 4月13日 :意見書、手続補正書の提出
令和3年 8月 3日付け:拒絶査定
令和3年11月10日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和4年10月24日付け:拒絶理由の通知
令和4年12月22日 :意見書、手続補正書の提出

2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、令和4年12月22日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである(なお、下線は当審が付した。補正箇所を示す。)。
「【請求項1】
面積1000cm2以上の平面視矩形状の開口部を備えるペリクル用枠体と、当該ペリクル用枠体の一方の端面に前記開口部を覆うように展張支持されたペリクル膜と、前記ペリクル用枠体の他方の端面にマスク粘着剤と、を含むペリクルであって、
前記ペリクル膜の膜厚が1.0μm以上3.0μm以下であり、前記ペリクル膜面内の膜厚バラツキが35nm以下であり、
前記ペリクルの中央1ヶ所と、前記ペリクルの対角線を引いた時の中央から300mmの4ヶ所と、前記中央から560mmの4ヶ所との計9か所について、前記ペリクル膜のi線(365nm)の波長に対する透過率を測定したときに、前記9ヶ所の透過率の相加平均値が、95%以上であり、
前記ペリクル用枠体が、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム合金、及び樹脂から選ばれる少なくとも1種の素材からなる、ペリクル。」

3 拒絶の理由
令和4年10月24日付けで当審が通知した拒絶の理由の概要は、次のとおりである。
[理由](進歩性)本件出願の請求項1に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



1.引用文献1 特開2004−157229号公報

4 引用文献及び引用発明について
(1)引用文献1について
本願の優先日前に頒布された引用文献1である、特開2004−157229号公報には、次の記載がある(下線は当審が付した。以下同じ。)。
「【請求項1】
少なくとも、ゴミよけ用のペリクル膜と、該ペリクル膜を張設するペリクルフレームと、ペリクル膜を張設するためにペリクルフレームの一方の端面に設けられた接着剤層と、ペリクルフレームのもう一方の端面に設けられた粘着層とを有するリソグラフィ用ペリクルであって、前記ペリクル膜が、ダイコーターにより成膜されたものであることを特徴とするリソグラフィ用ペリクル。
【請求項2】
前記ペリクル膜が、面積が1000cm2以上であり、かつ膜厚分布が面内分布で±10%以内のものであることを特徴とする請求項1に記載のリソグラフィ用ペリクル。」
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、微細パターンを形成するためのリソグラフィにおいて用いられるリソグラフィ用マスクのゴミよけとして使用される、リソグラフィ用ペリクル及びその製造方法に関するものであり、特に液晶表示板を製造する際に用いられる大型のリソグラフィ用ペリクルに関する。
【0002】
【従来の技術】
LSI、超LSIなどの半導体製造或いは液晶表示板などの製造においては、半導体ウエーハ或いは液晶用原板に光を照射してパターンを作製するのであるが、この場合に用いる露光原板(リソグラフィ用マスク)にゴミが付着していると、このゴミが光を吸収したり、光を曲げてしまうために、転写したパターンが変形したり、エッジががさついたものとなるほか、下地が黒く汚れたりして、寸法、品質、外観などが損なわれ、半導体装置や液晶表示板などの性能や製造歩留りの低下を来すという問題があった。」
「【0007】
しかしながらスピンコート法を、例えば1000cm2以上といったサイズの大きなペリクル膜を作製するのに用いた場合の問題点として、▲1▼基板上に塗布する塗布液量を非常に多くする必要があり、回転中にふり飛ばされて殆どの塗布液が塗布液膜として残らず非常に無駄が多く製造コストがかかる、また▲2▼スピンコート法で大型基板に成膜した場合、膜厚のムラが多くなり(例えば、膜厚分布が面内分布で±10%より大きい)、光線透過率が低下するなどの問題があり、十分な性能のペリクル膜が得られない、さらに▲3▼大型の基板を回転する事が困難で、重量がある大型基板を高速で回転させるのは問題であり製造コストも高い等の問題があった。特に重要な問題としては、▲1▼▲2▼があげられ、実際にスピンコート法によってサイズの大きなペリクル膜を作製する場合、ペリクル膜の本来持つべき光学的特性が出にくいという問題点があった。
【0008】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたもので、従来のスピンコート法などに比べて、簡単かつ確実に、しかも安価で大型のものの製造が可能であり、膜厚のムラが少なく、光線透過率が均一で高いペリクル膜を有する比較的大きなサイズのリソグラフィ用ペリクル、およびその製造方法を提供することを主たる目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、少なくとも、ゴミよけ用のペリクル膜と、該ペリクル膜を張設するペリクルフレームと、ペリクル膜を張設するためにペリクルフレームの一方の端面に設けられた接着剤層と、ペリクルフレームのもう一方の端面に設けられた粘着層とを有するリソグラフィ用ペリクルであって、前記ペリクル膜が、ダイコーターにより成膜されたものであることを特徴とするリソグラフィ用ペリクルが提供される(請求項1)。」
「【0012】
このように、本発明のリソグラフィ用ペリクルのペリクル膜は、面積が1000cm2以上の大型のものであっても、膜厚分布が面内分布で±10%以内と、従来のものが10%より大きいものであったのと比較して膜厚のムラが非常に少ないものであり、光線透過率も高く大型のリソグラフィ工程で用いるのに好適なものである。」
「【0027】
本発明のリソグラフィ用ペリクルのペリクル膜は、従来の半導体製造工程等に使用される面積が750cm2以下といったようなものとくらべて大型な、例えば液晶表示板を製造する時のリソグラフィ工程等で用いられるような大きさのものであっても、膜厚のムラが少なく、光線透過率が均一なものである。すなわち、ペリクル膜の面積が1000cm2以上といった大型のものであっても、従来のスピンコート法等で成膜された膜厚分布が面内分布で±10%より大きいものと比較して、±10%以内さらには5%以内と膜厚のムラが非常に少なく良好なものであり、光線透過率も均一で高い。また、ペリクル膜の面積は、さらには10000cm2以上とすることができ、50000cm2以上の範囲のものも可能である。このような大型のものであっても、膜厚のムラが少なく、光線透過率の高いものとできる。このような、ペリクル膜の厚さは、膜強度、コスト等の点から0.5μm以上20μm以下の範囲であるのが好ましい。・・・
【0028】
このようなペリクル膜は、少なくとも、ペリクル膜原料を溶媒に溶解して塗布液を調整する工程と、該塗布液をダイコーターによって基板上に塗布する工程と、該塗布液を塗布した基板を乾燥する工程を経て作製される。
【0029】
先ず、塗布液の調整工程について説明する。ペリクル膜原料の種類については、特に制限はなく、ニトロセルロース、酢酸セルロース、非晶質フッ素ポリマー等が用いられる。非晶質フッ素ポリマーの例としては、サイトップ(旭硝子(株)製、商品名)、テフロンAF(デュポン(株)製、商品名)等が挙げられる。」
「【0033】
このダイコーターにより塗工する塗布液量は、希望する乾燥後膜厚によって適宜決めることが出来る。
具体的には、塗工する塗布液量は、
0.9×V1<V<1.1×V1 (1)
(V1=S×t/(D/100)
V(m3):塗布液量、 S(m2):基板面積、
t(m):乾燥後膜厚、 D(%):塗布液濃度)
に従って決めることが好ましい。
塗布液量Vは、所望の乾燥後膜厚t、基板面積S、及び塗布液濃度Dから逆算した所望の塗布液量であるV1から求めることができる。塗布液量Vが、V1に対して、0.9倍より大きく、かつ1.1倍未満の範囲の量であれば、乾燥後膜厚分布を、所望の乾燥後膜厚に対して、例えば±10%以下と小さい範囲にできる。乾燥後膜厚は、塗布時の塗布液量によって決まるため、塗布時の塗布液量を所望の塗布液量の少なくとも±10%以下の範囲とする必要がある。塗布をダイコーターで行えば、塗布液を±10%以下の範囲で塗布することが容易であり、結果として、乾燥後の膜厚を±10%以内とすることができるのである。特に、ダイコーターであれば、±5%以内とすることも可能である。」
「【0035】
次に、リソグラフィ用ペリクルを構成する、ペリクルフレーム、接着剤層、及び粘着層について説明する。尚、本発明においてはこれらのものは公知の材質とすることができる。先ず、ペリクルフレームについては特に制限はなく、その材質としては、例えば、従来使用されているアルミ材に陽極酸化処理を行った後、黒色染料により黒染したもの、スチール、ステンレス、ポリアセタール、ポリカーボネート、PMMA(ポリメチルメタクリルレート)、アクリル樹脂等の樹脂、さらには青板ガラス、石英ガラス等が挙げられる。」
「【0044】
【実施例】
以下、本発明を実施例および比較例を挙げて具体的に説明する。
(実施例1)
初めに、ペリクルフレームを準備するのに、フレーム外寸800mm×900mm×5mm幅、フレーム厚さ6mmのアルミニウム合金製フレームを用意した。このフレームの一側面中央に直径1.0mmの通気孔を設けた。・・・
【0048】
次いで、テフロンAF1600(米国デュポン社製、商品名)をフッ素系溶剤・フロリナートFC-75(米国スリーエム社製、商品名)に溶解させて濃度6%の溶液を調整した。
【0049】次に、この溶液(塗布液濃度D=6%)により、1000mm×1000mmで厚さ5mmの鏡面研磨した合成石英基板面(基板面積S=1m2)に、厚さ2μmのペリクル膜(乾燥後膜厚t=2×10-6m)を得るために、スロットダイコーター(FROLIA II 中外炉工業製、商品名)を用いて膜の厚みが35μmの塗布膜・・・を形成させた・・・)。
【0050】そして、この塗布膜を、風速10cmの垂直層流型クリーンブース内で30分間静置乾燥後、180℃に保持されたクリーンベーク炉内で2分間乾燥し、厚さ2μmのペリクル膜を形成した。・・・
【0052】次に、前記のようにして準備した、アルミニウム合金製のペリクルフレームの一方の端面にシリコーン系粘着剤を塗布し、100℃で10分間加熱し乾燥硬化させ、粘着層を形成した。また、このアルミニウム合金製のペリクルフレームのもう一方の端面上にフッ素系溶媒CTソルブ180(旭硝子(株)製、商品名)に希釈したフッ素系高分子ポリマー接着剤CT69(旭硝子(株)製、商品名)を塗布し、100℃で10分間加熱し乾燥硬化させ接着剤層を形成した。PET製ライナーを用意し、CCDカメラによる画像処理位置決め機構を有するライナー貼り付け装置によって、ペリクルフレームの上記粘着層上に貼り合わせした。
【0053】そして、上記用意したテフロンAF1600のペリクル膜表面に、上記ペリクルフレームの接着剤層を密着させた後、IRランプにてペリクルフレームを加熱して、ペリクルフレームとペリクル膜とを融着させた。ペリクルフレームとペリクル製造用治具との二つのフレームは、ペリクルフレームの接着面を上向きにして固定用の治具に取り付けて相対的に位置がずれないように固定した。次いで、ペリクルフレームの外側のペリクル製造用治具のフレームを引き上げて固定し、ペリクルフレーム外側のペリクル膜部に0.5g/cmの張力を与えた。・・・
【0055】この様にして完成したリソグラフィ用ペリクルのペリクル膜の膜厚分布を大塚電子製透過率測定装置により測定した。この測定は、1000×1000mmの膜面内を50mm間隔の格子状に測定して行った。この実施例の成膜試験での測定結果及び塗布液量を下の表1に示した。・・・
【0057】
【表1】

【0058】表1から、ペリクル膜の成膜をダイコーターにより行う実施例1では、ペリクル膜の膜厚分布は面内分布で±5%以内であり、成膜をスピンコーターにより行った比較例1の±11%と比較しても、明らかに高い膜厚均一性が得られていることがわかる。このように膜厚均一性が高いものはその透過率が均一なものである。・・・」

(2)引用発明
上記(1)によれば、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる(なお、括弧内は、認定の根拠とした箇所を示す。)。
「ゴミよけ用のペリクル膜と、該ペリクル膜を張設するフレーム外寸800mm×900mm×5mm幅のフレームであるペリクルフレームと、ペリクル膜を張設するためにペリクルフレームの一方の端面に設けられた接着剤層と、ペリクルフレームのもう一方の端面に設けられた粘着層とを有するリソグラフィ用ペリクルであって(【請求項1】、【0044】)、
前記ペリクル膜が、面積が1000cm2以上であり、かつ膜厚分布が面内分布で±10%以内さらには5%以内と膜厚のムラが非常に少なく良好なものであり、光線透過率も均一で高いものであり(【請求項2】、【0027】)、
前記ペリクル膜の厚さは、0.5μm以上20μm以下の範囲であり(【0027】)、
ペリクル膜原料は、ニトロセルロース、酢酸セルロース、非晶質フッ素ポリマー等が用いられ(【0029】)、
前記ペリクルフレームの材質としては、アルミ材に陽極酸化処理を行った後、黒色染料により黒染したもの、スチール、ステンレス、ポリアセタール、ポリカーボネート、PMMA(ポリメチルメタクリルレート)、アクリル樹脂等の樹脂、青板ガラス、石英ガラス等であり(【0035】)、
液晶表示板を製造する際に用いられる(【0001】)リソグラフィ用ペリクル(【請求項2】)。」

5 対比・判断
(1)本願発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「フレーム外寸800mm×900mm」は平面視矩形状であることを意味するから、引用発明1の「前記ペリクル膜が、面積が1000cm2以上であ」る「ペリクル膜を張設する、例えば、フレーム外寸800mm×900mm×5mm幅のアルミニウム合金製フレームであるペリクルフレーム」は、本願発明の「面積1000cm2以上の平面視矩形状の開口部を備えるペリクル用枠体」に相当する。

イ 引用発明の「ペリクル膜を張設するためにペリクルフレームの一方の端面に設けられた接着剤層」によりペリクルフレームに張設されている「ゴミよけ用のペリクル膜」は、本願発明の「ペリクル用枠体の一方の端面に前記開口部を覆うように展張支持されたペリクル膜」に相当する。

ウ 引用発明の「ペリクルフレームのもう一方の端面に設けられた粘着層とを有するリソグラフィ用ペリクル」は、本願発明の「前記ペリクル用枠体の他方の端面にマスク粘着剤と、を含むペリクル」に相当する。

エ 引用発明の「ペリクル膜の厚さは、0.5μm以上20μm以下の範囲であ」ることは、本願発明の「前記ペリクル膜の膜厚が1.0μm以上3.0μm以下であ」ることの点で一致する。

オ 引用発明の「ペリクルフレームの材質としては、アルミ材に陽極酸化処理を行った後、黒色染料により黒染したもの、スチール、ステンレス、ポリアセタール、ポリカーボネート、PMMA(ポリメチルメタクリルレート)、アクリル樹脂等の樹脂、さらには青板ガラス、石英ガラス等が挙げられ」、「例えば、フレーム外寸800mm×900mm×5mm幅のアルミニウム合金製フレームであるペリクルフレーム」は、本願発明の「ペリクル用枠体が、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム合金、及び樹脂から選ばれる少なくとも1種の素材からなる」ことと、「アルミニウム、アルミニウム合金及び樹脂から選ばれる1種の素材からなる」ことの点で一致する。

カ 以上ア〜オによれば、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
【一致点】
「面積1000cm2以上の平面視矩形状の開口部を備えるペリクル用枠体と、当該ペリクル用枠体の一方の端面に前記開口部を覆うように展張支持されたペリクル膜と、前記ペリクル用枠体の他方の端面にマスク粘着剤と、を含むペリクルであって、
前記ペリクル膜の膜厚が1.0μm以上3.0μm以下であり、
前記ペリクル用枠体が、アルミニウム、アルミニウム合金、及び樹脂から選ばれる1種の素材からなる、ペリクル。」

【相違点】
(相違点1)
「ペリクル膜面内の膜厚バラツキ」に係り、本願発明は、「35nm以下であ」ると特定するのに対して、引用発明は、「ペリクル膜の厚さは、0.5μm以上20μm以下の範囲であ」って、「膜厚分布が面内分布で±10%以内さらには5%以内と膜厚のムラが非常に少なく良好なものであ」ると特定されるにとどまる点。

(相違点2)
ペリクルの「透過率」に係り、本願発明は、「前記ペリクルの中央1ヶ所と、前記ペリクルの対角線を引いた時の中央から300mmの4ヶ所と、前記中央から560mmの4ヶ所との計9か所について、前記ペリクル膜のi線(365nm)の波長に対する透過率を測定したときに、前記9ヶ所の透過率の相加平均値が、95%以上であ」ると特定するのに対して、引用発明は、「ペリクル膜」が、「光線透過率も均一で高いものであ」ると特定されるにとどまる点。

(2)判断
ア 相違点1について検討する。
(ア)まず、本願の発明の詳細な説明の【0058】の「測定した9点の測定対象場所の膜厚のうち、一番厚い膜厚から一番薄い膜厚を引いた値を膜厚バラツキとした。」との記載を参酌すると、本願発明における「ペリクル膜面内の膜厚バラツキ」とは、(測定した膜厚のうち)一番厚い膜厚から一番薄い膜厚を引いた値を意味すると認められる。
一方、引用文献1の【0033】の「このダイコーターにより塗工する塗布液量は、希望する乾燥後膜厚によって適宜決めることが出来る。具体的には、塗工する塗布液量は、0.9×V1<V<1.1×V1 (1)(V1=S×t/(D/100)V(m3):塗布液量、 S(m2):基板面積、t(m):乾燥後膜厚、 D(%):塗布液濃度)に従って決めることが好ましい。塗布液量Vは、所望の乾燥後膜厚t、基板面積S、及び塗布液濃度Dから逆算した所望の塗布液量であるV1から求めることができる。塗布液量Vが、V1に対して、0.9倍より大きく、かつ1.1倍未満の範囲の量であれば、乾燥後膜厚分布を、所望の乾燥後膜厚に対して、例えば±10%以下と小さい範囲にできる。」との記載を参酌すると、「膜厚分布が面内分布で±5%以内」とは、基準となる平均膜厚(所望の乾燥後膜厚t)を1として、一番厚い膜厚が+5%、一番薄い膜厚が−5%以内であることを意味すると認められる。

(イ)上記(ア)を踏まえると、引用発明において、ペリクル膜の厚さ範囲のうちの1μmの場合において、膜厚分布が面内分布で±5%(50nm)以内とは、本願発明におけるペリクル膜面内の膜厚バラツキが100nm以内であることに相当する。
そして、引用発明は、「膜厚分布が面内分布で±10%以内さらには5%以内」とするものであるから、さらに少ない膜厚分布とする方向性が示唆されており、5%より小さい膜厚分布とする動機があるといえる。また、引用文献1には、スピンコート法を用いた場合、膜厚のムラが多くなる問題があり、従来のスピンコート法などに比べて、膜厚のムラが少ないペリクル膜を提供することを目的として、ペリクル膜をダイコーターにより成膜(【0007】〜【0009】)する旨が記載されている。
したがって、ダイコーター(スリットコーター)はスピンコーターより膜厚のバラツキが少ないコーターであることは本願出願日前に周知の技術的事項(後記ウ参照)であったことを踏まえると、「ペリクル膜」を「ダイコーターにより成膜」することによってペリクル膜面内の膜厚バラツキの上限を35nm(膜厚1μmの際に膜厚分布1.75%)とする点に格別の技術的困難性は認められない。

イ 相違点2について検討する。
(ア)引用発明の「ペリクル膜」は、「膜厚のムラが非常に少なく良好なものであり、光線透過率も均一で高いものであ」るところ、その「ペリクル膜原料は、ニトロセルロース、酢酸セルロース、非晶質フッ素ポリマー等が用いられ」ものである。

(イ)ここで、引用文献1では、非晶質フッ素ポリマーとして、実施例1では具体的な原料として、「テフロンAF1600(米国デュポン社製、商品名)」(【0048】)が記載されている。当該非晶質フッ素ポリマーは、本願明細書に「(ペリクル膜)・・・このようなペリクル膜を構成する成分としては、特に制限されないが、例えば、・・・フッ素系ポリマー(テトラフルオロエチレン−ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレンの3元コポリマー、主鎖に環状構造を持つポリマーであるデュ・ポン社製のテフロンAF(商品名)・・・等のポリマー等が用いられる。」(【0022】)と記載されているように、本願発明でも用いられているものである。

(ウ)そして、「テフロンAF1600(米国デュポン社製、商品名)」は、その技術資料(例えば、三井・ケマーズ フロロプロダクツ株式会社のホームページ、テフロンTMAFの概要 AF 1600X についての項目参照。)で一般に開示されているように、例えばフィルム厚さ1.6μm及び2.77μmで、i線(365nm)を含む紫外線領域から近赤外線領域まで95%以上の優れた光透過性を示すものであることが従来周知の技術事項であったといえる。
ここで、引用発明の「光線透過率も均一で高い」ペリクル膜の原料として、例えば、紫外線領域から近赤外線領域まで95%以上の優れた光透過性を示す「テフロンAF1600(米国デュポン社製、商品名)」を使用すれば、どこで測定しても光透過性が95%以上のペリクル膜を作成し得るといえるところ、当該「テフロンAF1600(米国デュポン社製、商品名)」を使用した光透過性が95%以上のペリクル膜は、本願発明の「前記ペリクルの中央1ヶ所と、前記ペリクルの対角線を引いた時の中央から300mmの4ヶ所と、前記中央から560mmの4ヶ所との計9か所について、前記ペリクル膜のi線(365nm)の波長に対する透過率を測定したときに、前記9ヶ所の透過率の相加平均値が、95%以上であ」るとの条件を満たすといえる。
そして、「ペリクル膜原料は、ニトロセルロース、酢酸セルロース、非晶質フッ素ポリマー等が用いられ」る引用発明のペリクル膜として、「光線透過率も均一で高いもの」となすべく、ペリクル膜の原料として、「非晶質フッ素ポリマー」を選ぶこと、さらには、発明を具体化するに際して、「非晶質フッ素ポリマー」として「テフロンAF1600(米国デュポン社製、商品名)」を選ぶことに格別の技術的困難性はない。
また、引用発明において、材料として「テフロンAF1600(米国デュポン社製、商品名)」を選ばなかったとしても、露光波長の光の透過率を上げることは、当業者が当然配慮する事項であって、上記相違点2に係る本願発明1の構成を満たす構成となすことは当業者が容易になし得たことである。

(エ)したがって、「ペリクル膜原料は、ニトロセルロース、酢酸セルロース、非晶質フッ素ポリマー等が用いられ」る引用発明のペリクル膜において、ペリクル膜の原料を具体的に選ぶこと等により、上記相違点2に係る本願発明1の構成を満たす構成となすことは当業者が容易に想到し得たことである。

ウ ダイコーター(スリットコーター)はスピンコーターより膜厚のバラツキが少ないコーターであることが技術常識であったことを示す周知文献(なお、引用箇所中の「コータ」は「コーター」に記載を統一した。)
(ア)周知文献1(特開2009−123857号公報)
「従来、液晶表示装置の製造プロセスにおいて、着色フォトレジストなどの塗布装置としては、ノズルからガラス基板の中央部に塗布液を滴下した後、ガラス基板を回転させ塗布液を延展させるスピンコーターが多く用いられてきた。・・・ガラス基板の大型化に伴い顕著に現れてくる上記スピンコーターの弱点、すなわち、ガラス基板の中央部の塗布膜の膜厚と端部の塗布膜の膜厚の膜厚差・・・これらのコーターに代わって、精度の高いスリットコーターの実用が進んでいる。」(【0004】〜【0006】)
(イ)周知文献2(特開2006−243272号公報)
「近年ではLCDのサイズが大型化しており、元の基板のサイズも1mを超えるものまでが実用化されつつある。このような大きなサイズの基板を用いる場合、スピンコーターによる塗布では膜厚の分布が大きくなってしまう。・・・このようにスピンコーターを用いることによる問題を解決するために以下の方法が提案されている。・・・二つ目は、スリットコーターにより形成する方法が提案されている・・・大型基板塗布時の均一性を、スピンコーターを用いた場合と比較して改善することが可能である。」(【0005】〜【0007】)
(ウ)周知文献3(特開2005−279376号公報)
「スピンコーター法は・・・基板のエッジ部、裏面に塗液が付着したり、装置内に飛散した塗液がゲル化あるいは固形化することがあり、工程の安定性、クリーン化に欠け、塗布製品の品質低下の原因になる恐れもある。・・・そこでこれら問題点を解決する方法として、スリットダイコーター法が知られている・・・特に近年の基板の大型化に伴い、スリットダイコーター法は、品質・経済性に優れる方法として採用が広まっている。スリットダイコーター法は・・・形成された塗膜は膜厚の均一性をかなり高精度に達成できる。」(【0008】・【0011】)

(3)本願発明の効果について
より均一性に非常に優れたペリクル膜を用いれば、よりパターン寸法精度に与える影響が少なくなり、より転写されたパターンに不具合を生じさせることがなくなることは、ペリクル膜の性能として本願出願前に周知の技術的事項にすぎないから、本願発明の効果は、引用発明に基づいて、当業者が予測し得る程度のものにすぎない。

(4)請求人の主張について
ア 本願請求人は、令和4年12月22日付け意見書の【意見の内容】、「(C)拒絶理由」「(C―1)理由1(進歩性)について」において、概略下記のように主張する。
(ア)引用文献では、膜厚分布が面内分布で±5%以内と記載されており、ペリクル膜面内の膜厚バラツキを35nm以下とする、即ち、膜厚分布が面内分布で±3.5%以内とすることについては、一切記載も示唆もなされておりません。

(イ)引用文献では、所望の面内分布を有するペリクル膜を得るために、ダイコーターを用いることが記載されております。一方、本願発明では、所望のペリクル膜を得るために、クローズドカップ式のスピンコーターを用いております。このように本願発明と引用文献とは、ペリクル膜の成膜方法においても異なります。引用文献では、ペリクル膜の成膜に際し、ダイコーターを用いることを記載しており、スピンコーターによる成膜を阻害しております。それゆえ、引用文献では、スピンコーターを用いることで、ペリクル膜面内の膜厚バラツキが35nm以下であるペリクル膜が得られることに想到する動機付けは認められず、引用文献の記載からでは、本願発明の均一性に非常に優れるペリクル膜を得ることはできません。

(ウ)本願発明では、このような均一性に非常に優れるペリクル膜を用いることで、FPD用で解像度2.0μm以下の露光機を使用する場合に用いられる得る面積1000cm2以上のペリクルであって、パターン寸法精度に与える影響が少なく、転写されたパターンに不具合を生じさせないペリクルを得ております。

イ しかしながら、上記ア(ア)の点は、上記(2)アで検討したとおりである。
(なお、上記意見書の上記箇所において、請求人は、「引用文献では、膜厚分布が面内分布で±5%以内と記載されており、ペリクル膜面内の膜厚バラツキを35nm以下とする、即ち、膜厚分布が面内分布で±3.5%以内とすることについては、一切記載も示唆もなされておりません。」と主張しているが、「ペリクル膜面内の膜厚バラツキを35nm以下とする」ことは、上述のとおり、「膜厚分布が面内分布で±1.75%以下とすること」に相当する。)
また、上記ア(イ)の点は、そもそも本願発明が「ペリクル」という物の発明であり、また、当該ペリクル膜の成膜方法を特定する発明ではないから、当該ペリクル膜の成膜方法の違いに基づく請求人の主張は、請求項の記載にのみ基づくものではなく採用できない。
そして、上記ア(ウ)の点は、上記(3)で述べたとおりである。
したがって、請求人の上記アの主張は採用できない。

エ よって、請求人の主張は採用できない。

(5)小括
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

6 むすび
よって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2023-02-03 
結審通知日 2023-02-06 
審決日 2023-02-17 
出願番号 P2017-074168
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G03F)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 瀬川 勝久
特許庁審判官 松川 直樹
金高 敏康
発明の名称 ペリクル  
代理人 内藤 和彦  
代理人 江口 昭彦  
代理人 大貫 敏史  
代理人 稲葉 良幸  

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