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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 H01M 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 H01M 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 H01M |
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管理番号 | 1397184 |
総通号数 | 17 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2023-05-26 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2022-04-13 |
確定日 | 2023-03-06 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | true |
事件の表示 | 特許第6948545号発明「リチウムイオン電池用電極およびリチウムイオン電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6948545号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−6〕について訂正することを認める。 特許第6948545号の請求項2ないし6に係る特許を維持する。 特許第6948545号の請求項1に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6948545号の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、2019年1月7日(優先権主張 2018年1月17日 日本)を国際出願日とする出願であって、令和3年9月24日にその特許権の設定登録がされ、令和3年10月13日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。 令和 4年 4月13日 特許異議申立人 遠藤眞理子による請求項1ないし6に係る特許に対する特許異議の申立て 令和 4年 7月22日 取消理由通知 令和 4年 9月22日 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 令和 4年11月 4日 特許異議申立人による意見書の提出 令和 4年12月 7日 審尋 令和 5年 1月12日 回答書(特許異議申立人)の提出 第2 訂正の適否 1 訂正の内容 令和4年9月22日の訂正請求の趣旨は、特許6948545号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを求めるものであり、その訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである。 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1を削除する。 訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2に 「請求項1に記載のリチウムイオン電池用電極であって、 前記活物質層の密度が3.4g/cc以上であるリチウムイオン電池用電極。」とあるのを、 「リチウムイオン電池用電極であって、 当該リチウムイオン電池用電極は、集電体と、前記集電体の表面に形成された活物質層とを備え、 前記活物質層は、活物質粒子とバインダー樹脂とを含み、 前記活物質層の表面において第1xy直交座標を設定し、前記第1xy直交座標のx軸方向に測定した前記活物質層の表面の算術平均粗さをRaxとし、前記第1xy直交座標のy軸方向に測定した前記活物質層の表面の算術平均粗さをRayとしたとき、Rax−Rayの絶対値が0.2μm以下であり、 前記第1xy直交座標を、そのx軸およびそのy軸がなす面内で45°回転させた第2xy直交座標を設定し、前記第2xy直交座標のx軸方向に測定した前記活物質層の表面の算術平均粗さをRax’とし、前記第2xy直交座標のy軸方向に測定した前記活物質層の表面の算術平均粗さをRay’としたとき、Rax’−Ray’の絶対値が0.2μm以下であり、 前記活物質層の密度が3.4g/cc以上であるリチウムイオン電池用電極。」に訂正する(請求項2の記載を直接的または間接的に引用する請求項3ないし6も同様に訂正する)。 訂正事項3 特許請求の範囲の請求項3に、「請求項1または2に記載のリチウムイオン電池用電極であって、」とあるのを、「請求項2に記載のリチウムイオン電池用電極であって、」に訂正する。(請求項3の記載を直接的または間接的に引用する請求項4ないし6も同様に訂正する)。 訂正事項4 特許請求の範囲の請求項4に「請求項1〜3のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用電極であって、」とあるのを、「請求項2または3に記載のリチウムイオン電池用電極であって、」に訂正する。(請求項4の記載を直接的または間接的に引用する請求項5、6も同様に訂正する)。 訂正事項5 特許請求の範囲の請求項5に「請求項1〜4のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用電極であって、」とあるのを、「請求項2〜4のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用電極であって、」に訂正する。(請求項5の記載を引用する請求項6も同様に訂正する)。 訂正事項6 特許請求の範囲の請求項6に「請求項1〜5のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用電極を備えたリチウムイオン電池。」とあるのを、「請求項2〜5のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用電極を備えたリチウムイオン電池。」に訂正する。 2 訂正要件についての判断 (1)一群の請求項について 本件訂正前の請求項1ないし6について、請求項2ないし6は請求項1を直接的又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。よって、本件訂正前の請求項1ないし6に対応する本件訂正後の請求項1ないし6は、特許法第120条の5第4項に規定する関係を有する一群の請求項である。 (2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 ア 訂正事項1について 訂正事項1は、請求項1を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 また、訂正事項1は上記のとおり、請求項を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもないことから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 イ 訂正事項2について 訂正事項2は、訂正前の請求項2が請求項1を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消して独立形式の請求項に改めるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。 また、訂正事項2は上記のとおり、独立形式の請求項に改めるものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもないことから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 ウ 訂正事項3について 訂正事項3は、訂正前の請求項3が請求項1または2のいずれかを引用する記載であったものを、上記訂正事項1による訂正によって請求項1が削除されたことに伴い、削除された請求項1を引用しているという不明瞭な状態を解消するために請求項2を引用する記載としたものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。 そして、訂正事項3は上述のとおり、削除された請求項1の引用という不明瞭な状態を正すものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもないことから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 エ 訂正事項4について 訂正事項4は、訂正前の請求項4が請求項1ないし3のいずれかを引用する記載であったものを、上記訂正事項1による訂正によって請求項1が削除されたことに伴い、削除された請求項1を引用しているという不明瞭な状態を解消するために請求項2または3を引用する記載としたものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。 そして、訂正事項4は上述のとおり、削除された請求項1の引用という不明瞭な状態を正すものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 オ 訂正事項5について 訂正事項5は、訂正前の請求項5が請求項1ないし4のいずれかを引用する記載であったものを、上記訂正事項1による訂正によって請求項1が削除されたことに伴い、削除された請求項1を引用しているという不明瞭な状態を解消するために請求項2ないし4を引用する記載としたものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。 そして、訂正事項5は上述のとおり、削除された請求項1の引用という不明瞭な状態を正すものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 カ 訂正事項6について 訂正事項6は、訂正前の請求項6が請求項1ないし5のいずれかを引用する記載であったものを、上記訂正事項1による訂正によって請求項1が削除されたことに伴い、削除された請求項1を引用しているという不明瞭な状態を解消するために請求項2ないし5を引用する記載としたものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。 そして、訂正事項6は上述のとおり、削除された請求項1の引用という不明瞭な状態を正すものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 (3)独立特許要件について 訂正事項1は請求項1を削除する訂正であり、訂正事項2は請求項間の引用関係の解消を目的とする訂正であり、訂正事項3ないし6は明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、また、訂正前の請求項1ないし6について特許異議申立てがされているので、訂正前の請求項1ないし6に係る訂正事項1ないし6に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。 3 訂正の適否についてのむすび 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 よって、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−6〕について訂正することを認める。 第3 本件特許発明 特許第6948545号の請求項1ないし6の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明6」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 (削除) 【請求項2】 リチウムイオン電池用電極であって、 当該リチウムイオン電池用電極は、集電体と、前記集電体の表面に形成された活物質層とを備え、 前記活物質層は、活物質粒子とバインダー樹脂とを含み、 前記活物質層の表面において第1xy直交座標を設定し、前記第1xy直交座標のx軸方向に測定した前記活物質層の表面の算術平均粗さをRaxとし、前記第1xy直交座標のy軸方向に測定した前記活物質層の表面の算術平均粗さをRayとしたとき、Rax−Rayの絶対値が0.2μm以下であり、 前記第1xy直交座標を、そのx軸およびそのy軸がなす面内で45°回転させた第2xy直交座標を設定し、前記第2xy直交座標のx軸方向に測定した前記活物質層の表面の算術平均粗さをRax’とし、前記第2xy直交座標のy軸方向に測定した前記活物質層の表面の算術平均粗さをRay’としたとき、Rax’−Ray’の絶対値が0.2μm以下であり、 前記活物質層の密度が3.4g/cc以上であるリチウムイオン電池用電極。 【請求項3】 請求項2に記載のリチウムイオン電池用電極であって、 前記Rax、前記Ray、前記Ray’および前記Ray’が、全て、0.5〜1μmの範囲内にあるリチウムイオン電池用電極。 【請求項4】 請求項2または3に記載のリチウムイオン電池用電極であって、 前記活物質層の厚みが100〜150μmであるリチウムイオン電池用電極。 【請求項5】 請求項2〜4のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用電極であって、 前記活物質粒子が、リチウムコバルト酸化物、リチウムマンガン酸化物、リチウムニッケル酸化物およびリン酸鉄リチウムからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物を含むリチウムイオン電池用電極。 【請求項6】 請求項2〜5のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用電極を備えたリチウムイオン電池。」 第4 取消理由通知に記載した取消理由について 1 取消理由の概要 訂正前の請求項1ないし6に係る特許に対して、当審が令和4年7月22日に特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。 請求項1なし6に係る発明は、下記引用文献に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1なし6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 記 引用文献:国際公開第2008/087966号(甲第1号証) 2 引用文献の記載事項、引用発明 (1)取消理由通知において引用した引用文献(国際公開第2008/087966号)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は、当審が付与した。 「[0001] 本発明は、リチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池の製造に用いることができる結着剤組成物、および電極用スラリーに関する。また、本発明は、該電極用スラリーを用いてなる活物質層を有する電極、および該電極を具えてなる非水電解質二次電池に関する。 ・・・(省略)・・・。 [0004] 非水電解質二次電池の電極は、有機溶媒または水に、活物質および結着剤、さらに必要に応じて、導電材および増粘剤を分散混合させたスラリー(以下、「電極用スラリー」という。)を集電体に塗布・乾燥した後、加圧処理することにより得られる。電極用スラリーの安定性が不十分であると、保存時もしくは塗工時において活物質の凝集や沈降が起き、電極の厚さや密度が不均一となる。このような電極の不均一性はそれを用いて製造した電池間での充電容量や放電容量などの特性のばらつきの原因となる。 [0005] この問題を解決するため、特許文献1には、特定の分散剤を添加して表面改質した導電材を用いて混練分散した正極用ペースト(電極用スラリー)が提案されている。また、特許文献2には、予め可塑剤、活物質および導電材を混練したペースト(電極用スラリー)を製造した後、結着剤を分散媒に分散させた結着剤組成物を添加し、さらに混練することによる電極用スラリーの製造方法が提案されている。いずれの方法も、安定性の優れた電極用スラリーを得ることが出来るが、製造工程が繁雑となり、生産性が低下するという問題があった。 ・・・(省略)・・・。 [0006] 本発明は、均質で安定性に優れた電極用スラリー、厚さおよび密度の均一性に優れた電極、さらには電池特性のばらつきの少ない非水電解質二次電池を提供することを目的とする。 ・・・(省略)・・・。 [0008] すなわち、電極用スラリーにおいて、重合体が活物質表面に吸着することにより、活物質は分散安定化する。しかし、結着剤組成物中に単量体やオリゴマーが存在すると、それらが活物質表面に吸着することにより、重合体の吸着を阻害する。単量体やオリゴマーが吸着した活物質は、重合体が吸着したものと比較して分散安定性に劣るため、電極スラリーの安定性は低下する。 [0009] そして、さらに鋭意検討した結果、結着剤組成物中の単量体およびオリゴマーの含有率の合計を300ppm以下にすることで、簡便に均質で安定性に優れた電極用スラリーが得られることを見出し、これらの知見に基づき本発明を完成するに到った。 [0010] かくして本発明の第一によれば、非水電解質二次電池の製造に用いられる結着剤組成物であって、活物質どうしを結着させるための重合体が有機溶媒または水に、溶解または分散してなり、かつ、 下記(A)および(B)の含有率の合計が、300ppm以下であることを特徴とする結着剤組成物が提供される。 ・・・(省略)・・・。 [0012] 本発明の第二によれば、前記結着剤組成物および活物質を含む電極用スラリーが提供される。 [0013] 本発明の第三によれば、前記電極用スラリーを塗布、乾燥してなる活物質層、および集電体を有する電極が提供される。 ・・・(省略)・・・。 [0016] (結着剤組成物) 本発明の結着剤組成物は、活物質どうしを結着させるための重合体が有機溶媒または水に、溶解または分散してなるものである。 [0017] (重合体) 本発明で用いる重合体は、活物質どうしを結着させる重合体であればよく、アクリル系重合体、ジエン系重合体、スチレン系重合体、オレフィン系重合体、エーテル系重合体、ポリイミド系重合体、ポリエステル系重合体およびウレタン系重合体などを用いることが出来る。活物質の分散安定性および結着力に優れるため、アクリル系重合体、およびジエン系重合体が好ましく、アクリル系重合体がさらに好ましい。 ・・・(省略)・・・。 [0048] (電極用スラリー) 本発明の電極用スラリーは、本発明の結着剤組成物および活物質を含む電極用スラリーであり、正極および負極のいずれにも用いることが出来る。 ・・・(中略)・・・。 [0053] 正極用の活物質としては、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、LiMn2O4、LiFeVO4、LixNiyCozMnwO2(ただし、x+y+z+w=2である)などのリチウム含有複合金属酸化物;LiFePO4、LiMnPO4、LiCoPO4などのリチウム含有複合金属オキソ酸化物塩;TiS2、TiS3、非晶質MoS3などの遷移金属硫化物;Cu2V2O3、非晶質V2O-P2O5、MoO3、V2O5、V6O13などの遷移金属酸化物;および、これらの化合物中の遷移金属の一部を他の金属で置換した化合物などが例示される。さらに、ポリアセチレン、ポリ-p-フェニレンなどの導電性高分子を用いることもできる。また、これらの表面の一部または全面に、炭素材料や無機化合物を被覆させたものも用いられる。 ・・・(中略)・・・。 [0056] 活物質の粒子形状は活物質層中の空隙率を小さくできるため、球形に整粒されたものが好ましい。また、粒子径については体積平均粒子径が0.8〜2μmである細かな粒子と体積平均粒子径が3〜8μmである比較的大きな粒子の混合物、および0.5〜8μmにブロードな粒径分布を持つ粒子が好ましい。粒子径が50μm以上の粒子が含まれる場合は、篩い掛けなどによりこれを除去して用いるのが好ましい。電極活物質のタップ密度が正極で2g/cm3以上、負極で0.8g/cm3以上であればさらに好ましい。 ・・・(省略)・・・。 [0059] (電極) 本発明の電極は、本発明の電極用スラリーを塗布、乾燥してなる活物質層および集電体を有する電極である。本発明の電極の製造方法は、特に限定されないが、例えば、前記電極用スラリーを集電体の少なくとも片面、好ましくは両面に塗布、加熱乾燥して活物質層を形成する方法である。電極用スラリーを集電体へ塗布する方法は特に限定されない。例えば、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、およびハケ塗り法などの方法が挙げられる。乾燥方法としては例えば、温風、熱風、低湿風による乾燥、真空乾燥、(遠)赤外線や電子線などの照射による乾燥法が挙げられる。乾燥時間は通常5〜30分であり、乾燥温度は通常40〜180℃である。 [0060] 次いで、金型プレスやロールプレスなどを用い、加圧処理により活物質層の空隙率を低くすることが好ましい。空隙率の好ましい範囲は5%〜15%、より好ましくは7%〜13%である。空隙率が高すぎると充電効率や放電効率が悪化する。空隙率が低すぎる場合は、高い体積容量が得難かったり、活物質層が集電体から剥がれ易く不良を発生し易いといった問題を生じる。 ・・・(省略)・・・。 [0063] (集電体) 本発明で用いる集電体は、電気導電性を有しかつ電気化学的に耐久性のある材料であれば特に制限されないが、耐熱性を有するため金属材料が好ましく、例えば、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金などが挙げられる。中でも、非水電解質二次電池の正極用としてはアルミニウムが特に好ましく、負極用としては銅が特に好ましい。集電体の形状は特に制限されないが、厚さ0.001〜0.5mm程度のシート状のものが好ましい。集電体は、活物質層との接着強度を高めるため、予め粗面化処理して使用するのが好ましい。粗面化方法としては、機械的研磨法、電解研磨法、化学研磨法などが挙げられる。機械的研磨法においては、研磨剤粒子を固着した研磨布紙、砥石、エメリバフ、鋼線などを備えたワイヤーブラシ等が使用される。また、合剤の接着強度や導電性を高めるために、集電体表面に中間層を形成してもよい。 ・・・(省略)・・・。 [0076] (5)電極の厚み精度 電極の厚み精度は表面粗さにより評価した。電極を10mm×50mmの短冊に裁断し、試料片を5枚製造した。測定は日本工業規格JIS B0651:2001に準拠した触針式表面粗さ測定機(触針先端の半径=0.5μm)で行った。日本工業規格JIS B0601:2001)に準じ、得られた輪郭曲線より、算術平均粗さRaを測定した。5枚の試料片で測定を行い、平均値を算出し、下記の基準で判断した。値が小さいほど電極表面が平滑であることを示す。 A+: <0.10μm A: 0.10〜0.50μm A−: 0.50〜1.00μm B: 1.00〜3.00μm C: >3.00μm ・・・(中略)・・・。 [0080] (実施例1) イオン交換水300部、アクリル酸エチル50部、アクリル酸2−エチルヘキシル40部、メタクリル酸グリシジル8部、メタクリル酸2部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム2部および過硫酸カリウム1.0部を反応器に入れ、十分に撹拌した後、70℃に加温して重合し、重合体水分散液a(固形分濃度20%)を得た。重合体水分散液a中の固形分に対して、10倍量の酢酸エチル、3倍量の水を加え、分液することにより、未反応の単量体を抽出除去した。これに10倍量のNMPを加え、該混合溶液を攪拌しながら真空ポンプにて減圧し、80℃にて水を除去することにより、結着剤組成物(重合体のNMP分散液、固形分濃度10%)を得た。単量体およびオリゴマーの含有率の測定結果を表1に示す。得られた結着剤組成物中の重合体の重量平均分子量は350,000であった。 [0081] アセチレンブラック(電気化学工業社製、「デンカブラック」粉状品)20部と、のLiCoO2(平均粒子径3.8μm、タップ密度2.7g/cm3)1,000部をプラネタリーミキサーに入れ、結着剤組成物の9質量%NMP分散液133部とNMPを加えて固形分濃度を81%とし、60rpmで60分混合した。ついでNMPを混合しながら添加して固形分濃度を77%とし、減圧下で脱泡処理して艶のある流動性の良いスラリーを得た。電極用スラリーの安定性の評価結果を表1に示す。 [表1] ![]() [0082] このスラリーをコンマコーターで厚さ20μmのアルミニウム箔上に乾燥後の膜厚が110μm程度になるように両面に塗布し、120℃で10分乾燥させた後に合剤の密度が3.6×103kg/m3、となるようにロールプレスでプレスさせた。次いで、60℃17時間760mmHgで乾燥処理させ、厚さ190μmの正極用電極を得た。表面粗さ、電極密度のばらつきの評価結果を表1に示す。 ・・・(省略)・・・。 [0087](実施例3) イオン交換水300部、アクリル酸ブチル65部、アクリルニトリル30部、ジメタクリル酸エチレン5部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム2部および過硫酸カリウム1.0部を反応器に入れ、十分に撹拌した後、70℃に加温して重合し、重合体水分散液c(固形分濃度20%)を得た。重合体水分散液c中の固形分に対して、18倍量のNMPを加え、該混合溶液を攪拌しながら真空ポンプにて減圧し、80℃に加熱して、水を除去し、低分子量成分含有率を低減させた結着剤組成物(固形分濃度10%)を得た。単量体およびオリゴマーの含有率の測定結果を表1に示す。得られた結着剤組成物中の重合体の重量平均分子量は530,000であった。この結着剤組成物を用いた外は実施例1と同じ方法で電極用スラリー、正極用電極およびリチウムイオン二次電池を製造した。電極用スラリーの安定性、電極の表面粗さ、電極密度のばらつき、および電池性能のばらつきの評価結果を表1に示す。」 (2)引用文献の上記記載事項及び図面によれば、次のことがいえる。 ア 段落[0001]によれば、引用文献には「リチウムイオン二次電池」の「電極」が記載されている。 イ 段落[0059]によれば、「電極」は「電極用スラリーを塗布、乾燥してなる活物質層および集電体を有」し、「電極用スラリーを集電体の少なくとも片面、好ましくは両面に塗布、加熱乾燥して活物質層を形成」されるものであるから、「電極」は、「集電体」と「集電体の少なくとも片面」に形成される「活物質層」とを備えるといえる。 ウ 段落[0048]によれば、「電極用スラリー」は「結着剤組成物および活物質を含」むことから、「活物質層」が「結着剤組成物および活物質を含」むことは明らかであり、また、段落[0056]によれば、活物質は粒子形状である。 してみると、「活物質層」は、「結着剤組成物」および「粒子形状である活物質」を含むといえる。 エ 段落[0080]及び表1によれば、実施例1として、単量体含有率が10ppm及びオリゴマー含有率が80ppmである結着剤組成物が記載されている。また、段落[0076]、[0081]、[0082]及び表1によれば、実施例1として、アセチレンブラックと、LiCoO2と、結着剤組成物と、NMPとを混合した電極用スラリーをアルミニウム箔上に乾燥後の膜厚が110μm程度になるように塗布し、乾燥させた後に合剤の密度が3.6×103kg/m3となるようにロールプレスでプレスして得られた電極の算術平均粗さRaが0.1μm未満であることが記載されている。 してみると、引用文献には実施例1として、アセチレンブラックと、LiCoO2と、単量体含有率が10ppm及びオリゴマー含有率が80ppmの結着剤組成物と、NMPとを混合した電極用スラリーをアルミニウム箔上に乾燥後の膜厚が110μm程度になるように塗布し、乾燥後に合剤の密度が3.6×103kg/m3となるようにロールプレスでプレスして得られた電極の算術平均粗さRaが0.1μm未満であることが記載されている。 (3)よって、上記(2)アないしエから、引用文献に記載された実施例1に着目すると、引用文献には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。 「リチウムイオン二次電池の電極であって、 前記電極は、集電体と集電体の少なくとも片面に形成される活物質層とを備え、 前記活物質層は、結着剤組成物および粒子形状である活物質を含み、 アセチレンブラックと、LiCoO2と、単量体含有率が10ppm及びオリゴマー含有率が80ppmである結着剤組成物と、NMPとを混合した電極用スラリーをアルミニウム箔上に乾燥後の膜厚が110μm程度になるように塗布し、乾燥後に合剤の密度が3.6×103kg/m3となるようにロールプレスでプレスして得られた電極の算術平均粗さRaが0.1μm未満である、リチウムイオン二次電池の電極。」 (4)また、引用文献の上記記載事項によれば、次のこともいえる。 段落[0087]及び表1によれば、実施例3として、単量体含有率が30ppm及びオリゴマー含有率が130ppmである結着剤組成物が記載されている。また、段落[0076]、[0081]、[0082]、[0087]及び表1によれば、実施例3として、アセチレンブラックと、LiCoO2と、結着剤組成物と、NMPとを混合した電極用スラリーをアルミニウム箔上に乾燥後の膜厚が110μm程度になるように塗布し、乾燥後に合剤の密度が3.6×103kg/m3となるようにロールプレスでプレスして得られた電極の算術平均粗さRaが0.50〜1.00μmであることが記載されている。 してみると、引用文献には実施例3として、アセチレンブラックと、LiCoO2と、単量体含有率が30ppm及びオリゴマー含有率が130ppmである結着剤組成物と、NMPとを混合した電極用スラリーをアルミニウム箔上に乾燥後の膜厚が110μm程度になるように塗布し、乾燥後に合剤の密度が3.6×103kg/m3となるようにロールプレスでプレスして得られた電極の算術平均粗さRaが0.50〜1.00μmであることが記載されている。 (5)よって、上記(2)及び(4)を踏まえれば、引用文献に記載された実施例3に着目すると、引用文献には次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されている。 「リチウムイオン二次電池の電極であって、 前記電極は、集電体と集電体の少なくとも片面に形成される活物質層とを備え、 前記活物質層は、結着剤組成物および粒子形状である活物質を含み、 アセチレンブラックと、LiCoO2と、単量体含有率が30ppm及びオリゴマー含有率が130ppmである結着剤組成物と、NMPとを混合した電極用スラリーをアルミニウム箔上に乾燥後の膜厚が110μm程度になるように塗布し、乾燥後に合剤の密度が3.6×103kg/m3となるようにロールプレスでプレスして得られた電極の算術平均粗さRaが0.50〜1.00μmである、リチウムイオン二次電池の電極。」 3 取消理由に対する当審の判断 本件訂正により、訂正前の請求項1は削除されたため、訂正後の請求項2ないし6について判断する。 (1)引用発明1に基づく進歩性について ア 本件発明2について (ア)対比 本件発明2と引用発明1とを対比する。 a 引用発明2の「リチウムイオン二次電池の電極」は、本件発明1の「リチウムイオン電池用電極」に相当する。 b 引用発明2の「集電体」、「集電体の少なくとも片面に形成される活物質層」は、本件発明1の「集電体」、「集電体の表面に形成された活物質層」に相当する。 よって、引用発明1の「電極は、集電体と集電体の少なくとも片面に形成される活物質層とを備え」ることは、本件発明1の「リチウムイオン電池用電極は、集電体と、前記集電体の表面に形成された活物質層とを備え」ることに相当する。 c 本件発明2の「バインダー樹脂」に関し、本件特許明細書の段落【0039】に「バインダー樹脂の含有量が上記範囲内であると、電極スラリーの塗工性、バインダーの結着性および電池特性のバランスがより一層優れる。」との記載からすれば、本件発明1の「バインダー樹脂」は「結着性」を有する材料であるから、引用発明1の「結着剤組成物」も含まれる。 また、引用発明1の「粒子形状である活物質」は、本件発明2の「活物質粒子」に相当する。 よって、引用発明1の「活物質層は、結着剤組成物および粒子形状である活物質を含」むことは、本件発明2の「活物質層は、活物質粒子とバインダー樹脂とを含」むことに相当する。 d 本件発明2は「活物質層の表面において第1xy直交座標を設定し、前記第1xy直交座標のx軸方向に測定した前記活物質層の表面の算術平均粗さをRaxとし、前記第1xy直交座標のy軸方向に測定した前記活物質層の表面の算術平均粗さをRayとしたとき、Rax−Rayの絶対値が0.2μm以下であり、前記第1xy直交座標を、そのx軸およびそのy軸がなす面内で45°回転させた第2xy直交座標を設定し、前記第2xy直交座標のx軸方向に測定した前記活物質層の表面の算術平均粗さをRax'とし、前記第2xy直交座標のy軸方向に測定した前記活物質層の表面の算術平均粗さをRay'としたとき、Rax'−Ray'の絶対値が0.2μm以下である」のに対し、引用発明1はその旨特定されていない点で相違する。 e 引用発明1では「合剤の密度が3.6×103kg/m3となるようにロールプレスでプレス」されることから、引用発明1の「活物質層」の密度は3.6×103kg/m3であるといえ、3.6×103kg/m3=3.6g/ccである。 してみると、引用発明1の「活物質層」の密度が3.6g/ccであることは、本件発明2の「活物質層の密度が3.4g/cc以上である」ことに含まれる。 上記aないしeにより、本件発明2と引用発明1とは、次の一致点、相違点を有しているものと認められる。 (一致点) 「リチウムイオン電池用電極であって、 当該リチウムイオン電池用電極は、集電体と、前記集電体の表面に形成された活物質層とを備え、 前記活物質層は、活物質粒子とバインダー樹脂とを含み、 前記活物質層の密度が3.4g/cc以上であるリチウムイオン電池用電極。」 (相違点1) 本件発明2は、「活物質層の表面において第1xy直交座標を設定し、前記第1xy直交座標のx軸方向に測定した前記活物質層の表面の算術平均粗さをRaxとし、前記第1xy直交座標のy軸方向に測定した前記活物質層の表面の算術平均粗さをRayとしたとき、Rax−Rayの絶対値が0.2μm以下であり、前記第1xy直交座標を、そのx軸およびそのy軸がなす面内で45°回転させた第2xy直交座標を設定し、前記第2xy直交座標のx軸方向に測定した前記活物質層の表面の算術平均粗さをRax’とし、前記第2xy直交座標のy軸方向に測定した前記活物質層の表面の算術平均粗さをRay’としたとき、Rax’−Ray’の絶対値が0.2μm以下である」であるのに対し、引用発明1はその旨特定されていない点。 (イ)相違点1に対する判断 上記相違点1について検討する。 a 引用発明1では「電極用スラリーをアルミニウム箔上に」「塗布し、乾燥後に合剤の密度が3.6×103kg/m3となるようにロールプレスでプレス」することが記載されているところ、引用文献の段落[0059]、[0060]には次の記載がある。 「[0059](電極) 本発明の電極は、本発明の電極用スラリーを塗布、乾燥してなる活物質層および集電体を有する電極である。本発明の電極の製造方法は、特に限定されないが、例えば、前記電極用スラリーを集電体の少なくとも片面、好ましくは両面に塗布、加熱乾燥して活物質層を形成する方法である。・・・(省略)・・・。 [0060] 次いで、金型プレスやロールプレスなどを用い、加圧処理により活物質層の空隙率を低くすることが好ましい。」 してみると、上記記載からすれば、引用発明1においても、電極用スラリーをアルミニウム箔上に塗布し、乾燥後に「ロールプレス」に替えて「金型プレス」を用いてプレスすることは当業者が適宜なし得る事項である。 b しかしながら、引用文献には、「金型プレス」でプレスして得られた電極の活物質層表面において、どの程度の算術平均粗さが得られるのか明記されておらず、また、「金型プレス」でプレスして得られた電極においても、「ロールプレス」でプレスして得られた電極と同等の活物質層表面の算術平均粗さが得られることを裏付ける証拠は何等提出されていない。 また、本願明細書の段落【0021】ないし【0027】の記載によれば、本件発明2の「Rax−Rayの絶対値が0.2μm以下」、及び、「Rax’−Ray’の絶対値が0.2μm以下」とすることにより、活物質層の表面粗さの異方性が小さいという特性が得られるところ、「金型プレス」を用いてプレスすることにより活物質層の表面粗さの異方性が小さくなることを裏付ける証拠も何等提出されていないことから、仮に引用発明1において「金型プレス」でプレスして得られた電極の活物質層表面の「算術平均粗さRaが0.1μm未満」であったとしても、活物質層の表面において「Rax−Rayの絶対値が0.2μm以下」であり、「Rax’−Ray’の絶対値が0.2μm以下」である蓋然性が高いとはいえない。 そして、本件特許明細書【0025】ないし【0027】によれば、本件発明2は、電極においてRax−Rayの絶対値およびRax'−Ray'の絶対値がともに0.2μm以下とすることにより、リチウムイオン電池の電極の製造において、電極の破断や巻き取り不良を抑えるという効果を奏するものである。 c ここで、特許権者は令和4年9月22日に提出した意見書において、(a)本件訂正発明2に係る「活物質層の密度が3.4g/cc以上である」リチウムイオン電池用電極を、金型プレスにより製造するためには、非現実的で実現困難な「極めて強い力」でのプレスを行うことを要することから、引用発明1、2においてロールプレスを金型プレスに替えて「活物質層の密度が3.4g/cc以上である」電極を製造することは現実的に困難である旨(11頁10行ないし13頁6行参照)、(b)活物質層は、可塑性が極めて小さい活物質粒子(直径が数μmの無機粒子)を主成分とするスラリーを圧縮して設けられるものであり、引用文献の実施例1(段落0081)においては平均粒子径3.8μmのLiCoO2の活物質粒子を主成分とするスラリーが用いられているところ、表面粗さの異方性が小さい金型を用いてこのスラリーを圧縮したとしても、本件訂正発明2のような、表面粗さの異方性が「0.2μm以下」であるリチウムイオン電池用電極が製造できるとは言えない旨(13頁15行ないし28行参照)を主張した。 それに対し、特許異議申立人は、令和4年11月4日に提出した意見書において、(a’)甲第7号証または甲第9号証に記載されているように、本件特許に係る出願の出願時に180t以上、特に1440t以上の力をかけられるプレス機は技術常識であり、甲第7号証または甲第9号証に記載のプレス機を電極製造用の金型プレスに転用することにも困難はないため、引用発明1、2においてロールプレスを金型プレスに替える上で甲第7号証または甲第9号証に記載のプレス機を技術常識として電極製造用の金型プレスに転用して、活物質層を圧縮することは非現実的で困難なこととは言えない旨主張し(6頁20行ないし7頁6行を参照)、また、令和5年1月12日に提出した回答書において、(b’)特許権者の「活物質層は、可塑性が極めて小さい活物質粒子(直径が数μmの無機粒子)を主成分とするスラリーを圧縮して設けられるものであるため、金型の表面性状が電極表面にそのまま転写されるわけではな」いとの主張は一般論に過ぎず、引用発明1に係る電極をロールプレスした場合に「<0.10μm」の算術平均粗さRaが実現されることが現に示されている以上は、「金型プレス」を使用したとしても「ロールプレス」を使用した場合と同等な「算術平均粗さRa」が得られると考えるのが妥当である旨主張する(3頁25行ないし4頁18行参照)。 d しかし、特許異議申立人の上記主張(a’)について、甲第7号証及び甲9号証には、リチウムイオン電池に関する記載は見当たらないため、引用発明1の「リチウムイオン二次電池」の「電極」の製造におけるプレス装置として、甲第7号証又は甲第9号証に記載のプレス機を採用する動機はないといえる。そして、引用発明1において、「ロールプレス」に替えて「金型プレス」を用いてプレスする際に、さらに、「金型プレス」として甲第7号証又または甲第9号証に記載のプレス機を採用することは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。 また、上記主張(b’)について、特許異議申立人は、特許権者の主張に対し「一般論に過ぎ」ないとの反論にとどまり、「『金型プレス』を使用したとしても『ロールプレス』を使用した場合と同等な『算術平均粗さRa』が得られる」ことを裏付ける証拠も何等提示していない、 してみれば、特許異議申立人の主張は採用できない。 e よって、上記aないしdによれば、相違点1に係る構成は、引用発明1に基づいて当業者が容易になし得たものとはいえない。 (ウ)小括 以上から、本件発明2は、引用発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ 本件発明3ないし6について 本件発明3ないし6は、本件発明2の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件発明2についての判断と同様な理由により、本件発明3ないし6は、引用発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2)引用発明2に基づく進歩性について ア 本件発明2について (ア)対比 本件発明2と引用発明2とを対比する。 a 引用発明2の「リチウムイオン二次電池の電極」は、本件発明2の「リチウムイオン電池用電極」に相当する。 b 引用発明2の「集電体」、「集電体の少なくとも片面に形成される活物質層」は、本件発明2の「集電体」、「集電体の表面に形成された活物質層」に相当する。 よって、引用発明2の「電極は、集電体と集電体の少なくとも片面に形成される活物質層とを備え」ることは、本件発明2の「リチウムイオン電池用電極は、集電体と、前記集電体の表面に形成された活物質層とを備え」ることに相当する。 c 本件発明2の「バインダー樹脂」に関し、本件特許明細書の段落【0039】に「バインダー樹脂の含有量が上記範囲内であると、電極スラリーの塗工性、バインダーの結着性および電池特性のバランスがより一層優れる。」との記載からすれば、本件発明2の「バインダー樹脂」は「結着性」を有する材料であるから、引用発明2の「結着剤組成物」も含まれる。 また、引用発明2の「粒子形状である活物質」は、本件発明2の「活物質粒子」に相当する。 よって、引用発明2の「活物質層は、結着剤組成物および粒子形状である活物質を含」むことは、本件発明2の「活物質層は、活物質粒子とバインダー樹脂とを含」むことに相当する。 d 本件発明2は「活物質層の表面において第1xy直交座標を設定し、前記第1xy直交座標のx軸方向に測定した前記活物質層の表面の算術平均粗さをRaxとし、前記第1xy直交座標のy軸方向に測定した前記活物質層の表面の算術平均粗さをRayとしたとき、Rax−Rayの絶対値が0.2μm以下であり、前記第1xy直交座標を、そのx軸およびそのy軸がなす面内で45°回転させた第2xy直交座標を設定し、前記第2xy直交座標のx軸方向に測定した前記活物質層の表面の算術平均粗さをRax'とし、前記第2xy直交座標のy軸方向に測定した前記活物質層の表面の算術平均粗さをRay'としたとき、Rax'−Ray'の絶対値が0.2μm以下である」のに対し、引用発明2はその旨特定されていない点で相違する。 e 引用発明2では「合剤の密度が3.6×103kg/m3となるようにロールプレスでプレス」されることから、引用発明1の「活物質層」の密度は3.6×103kg/m3であるといえ、3.6×103kg/m3=3.6g/ccである。 してみると、引用発明2の「活物質層」の密度が3.6g/ccであることは、本件発明2の「活物質層の密度が3.4g/cc以上である」ことに含まれる。 上記aないしeにより、本件発明2と引用発明2とは、次の一致点、相違点を有しているものと認められる。 (一致点) 「リチウムイオン電池用電極であって、 当該リチウムイオン電池用電極は、集電体と、前記集電体の表面に形成された活物質層とを備え、 前記活物質層は、活物質粒子とバインダー樹脂とを含み、 前記活物質層の密度が3.4g/cc以上であるリチウムイオン電池用電極。」 (相違点2) 本件発明2は、「活物質層の表面において第1xy直交座標を設定し、前記第1xy直交座標のx軸方向に測定した前記活物質層の表面の算術平均粗さをRaxとし、前記第1xy直交座標のy軸方向に測定した前記活物質層の表面の算術平均粗さをRayとしたとき、Rax−Rayの絶対値が0.2μm以下であり、前記第1xy直交座標を、そのx軸およびそのy軸がなす面内で45°回転させた第2xy直交座標を設定し、前記第2xy直交座標のx軸方向に測定した前記活物質層の表面の算術平均粗さをRax’とし、前記第2xy直交座標のy軸方向に測定した前記活物質層の表面の算術平均粗さをRay’としたとき、Rax’−Ray’の絶対値が0.2μm以下である」であるのに対し、引用発明2はその旨特定されていない点。 (イ)相違点2に対する判断 相違点2は相違点1と同じであるから、相違点1に対する理由と同様な理由により、相違点2に係る構成は、引用発明2に基づいて当業者が容易になし得たものとはいえない。 (ウ)小括 以上から、本件発明2は、引用発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ 本件発明3ないし6について 本件発明3ないし6は、本件発明2の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件発明2についての判断と同様な理由により、本件発明3ないし6は、引用発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)まとめ 以上から、請求項2ないし6に係る発明は、引用文献に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、請求項2ないし6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。 第5 取消理由において採用しなかった特許異議申立理由について 1 訂正前の請求項1ないし6に係る特許に対する特許異議申立理由の概要 (1)申立理由1(新規性) 請求項1、5、6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1、5、6に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 (2)申立理由2(進歩性) 請求項1ないし6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、又は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証ないし甲第6号証に記載された技術に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 (3)申立理由3(サポート要件) 本件発明は、本来的には、プレス工程においてロールプレスを採用した際に生じるロールプレス特有の不具合の解消を課題とし、この課題を解決するための手段として、緩衝フィルムを介して活物質層のロールプレスを行う。それにも関わらず、本件発明1乃至6のいずれにも、プレス工程においてロールプレスを適用すること、及び緩衝フィルムを介して活物質層をロールプレスする解決手段が全く規定されていない。 以上のとおり、本件発明1乃至6には、課題の解決手段が全く規定されていないから、発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えている。 したがって、本件発明1乃至6は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものである。 2 提出された証拠 異議申立人が提出した証拠は次のとおりである。 甲第1号証:国際公開第2008/087966号 甲第2号証:特開2013−171839号公報 甲第3号証:特開2011−187178号公報 甲第4号証:特開2008−234879号公報 甲第5号証:特開2013−191550号公報 甲第6号証:特開2013−178952号公報 3 甲各号証の記載事項 (1)甲第1号証 甲第1号証は取消理由通知において引用した引用文献であって、甲第1号証に記載された事項は、上記「第4 2(1)」で述べたとおりであり、また、甲第1号証には、上記「第4 2(3)」及び「同(5)」で述べたのと同様に、以下の次の各発明(以下、「甲1発明1」、「甲1発明2」という。)が記載されている。 甲1発明1 「リチウムイオン二次電池の電極であって、 前記電極は、集電体と集電体の少なくとも片面に形成される活物質層とを備え、 前記活物質層は、結着剤組成物および粒子形状である活物質を含み、 アセチレンブラックと、LiCoO2と、単量体含有率が10ppm及びオリゴマー含有率が80ppmである結着剤組成物と、NMPとを混合した電極用スラリーをアルミニウム箔上に乾燥後の膜厚が110μm程度になるように塗布し、乾燥後に合剤の密度が3.6×103kg/m3となるようにロールプレスでプレスして得られた電極の算術平均粗さRaが0.1μm未満である、リチウムイオン二次電池の電極。」 甲1発明2 「リチウムイオン二次電池の電極であって、 前記電極は、集電体と集電体の少なくとも片面に形成される活物質層とを備え、 前記活物質層は、結着剤組成物および粒子形状である活物質を含み、 アセチレンブラックと、LiCoO2と、単量体含有率が30ppm及びオリゴマー含有率が130ppmである結着剤組成物と、NMPとを混合した電極用スラリーをアルミニウム箔上に乾燥後の膜厚が110μm程度になるように塗布し、乾燥後に合剤の密度が3.6×103kg/m3となるようにロールプレスでプレスして得られた電極の算術平均粗さRaが0.50〜1.00μmである、リチウムイオン二次電池の電極。」 (2)甲第2号証 ア 甲第2号証には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。 「【0005】 本発明の一側面は、寿命特性が向上したリチウム二次電池用電極及びその製造方法を提供するものである。 ・・・(省略)・・・。 【0013】 電極活物質として、一般的に利用されるシリコン系合金は、高容量などのために、高い含量のシリコンを含んでおり、かようなシリコン含量を有するシリコン系合金を利用して、電極を形成すれば、シリコン系合金の結晶サイズが大きくなることにより、電極の表面粗度が10μmを超える範囲に大きくなり、電極に対する電解液含浸性が低下し、これによって、シリコンの体積膨脹時に、持続的なSEI(solidelectrolyteinterface)膜の形成により、電極を採用したリチウム二次電池の初期効率低下と、C.R.R.(capacityretentionrate)の急激な低下によって、寿命が低下することがある。 【0014】 これにより、本発明者らは、前述の問題点を解消すべく、シリコン系合金でのシリコンの含量と、活性シリコンと非活性シリコンとの混合比とを適切に制御しつつ、シリコン系合金を利用した電極製造時に、シリコン系合金、結合剤及び導電剤の混合、並びに粉砕工程条件を最適化することにより、前述のシリコン含量を有するシリコン系合金を使いつつも、電極の表面粗度が0.5ないし12μm、例えば1ないし10μmであり、表面粗度偏差が5μm以下に制御する。 ・・・(省略)・・・。 【0040】 前述のように、活物質の粒径を12μm以下、例えば10μm以下、具体的に1ないし7μmに制御しつつ、活物質の表面特性を制御すれば、電極の表面粗度が0.5ないし12μmであり、粗度偏差が5μm以下に調節することができる。その結果、電極製造のための圧延過程、及び電極を採用したリチウム二次電池の充放電過程において、電極活物質の微分化あるいは損傷を効果的に抑制することができる。」。 イ 甲第2号証の【0005】、【0013】、【0014】及び段落【0040】の記載によれば、甲第2号証には、次の技術事項(以下、「甲第2号証に記載された技術事項」という。)が記載されている。 「電極活物質として高い含量のシリコンを含むシリコン系合金を利用したリチウム二次電池用電極において、初期効率低下と寿命の低下を解消するために、電極の表面粗度が0.5ないし12μmであり、粗度偏差が5μm以下に調節すること。」 (3)甲第3号証 ア 甲第3号証には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。 「【0007】 そこで、本発明は、良好な放電容量を有し、且つ、放電容量のばらつきが抑制されたリチウムイオン電池用正極及びその製造方法を提供することを課題とする。 【課題を解決するための手段】 【0008】 本発明者は、鋭意検討した結果、リチウムイオン電池用正極活物質を含む正極合剤を集電体の表面に塗布してリチウムイオン電池用正極を作製する際、塗布に用いる治具の形状及びそれによって作製された正極表面の粗さと、作製される電池の放電容量及びそのばらつきとの間に密接な相関関係があることを見出した。すなわち、電極作製の際にはリチウムイオン電池用正極活物質を含む正極合剤を集電体の表面に塗布する工程があり、その際に用いる塗布ヘラの形状によって正極表面の粗さが異なってくる。そして、この表面の粗さがある値以下であると、作製される電池の放電容量が良好となり、且つ、そのばらつきも良好に抑制することができることを見出した。 【0017】 (リチウムイオン電池用正極の構成) 本発明のリチウムイオン電池用正極は、リチウムイオン電池用正極活物質と、例えば、導電助剤と、バインダーとを混合して調製した正極合剤をアルミニウム箔等からなる集電体の片面または両面に塗布した構造を有している。 ・・・(省略)・・・。 【0019】 本発明のリチウムイオン電池用正極は、集電体の表面に塗布された正極合剤の基準長さ0.8mm、評価長さ4.0mmにて測定した表面粗さ(Rzjis)が10μm以下である。表面粗さ(Rzjis)が10μmを超えると、電極をプレスした際に電極の密度が不均一となり、一部で活物質と導電材の抵抗が大きくなって充放電に寄与できない活物質が生じるためである。 このときの表面粗さ(Rzjis)は、好ましくは、8μm以下であり、更に好ましくは、7μm以下である。 ・・・(省略)・・・。 【0024】 次に、作製した正極活物質の粉末に、導電助剤とバインダーとを混合して正極合剤を調製する。正極合剤の粘度は通例10〜300Pの範囲となるように調整するが、その範囲で本願発明は適用できる。続いて、アルミニウム箔等からなる集電体を準備し、この集電体の片面または両面に正極合剤を塗布する。正極合剤の塗布は、塗布ヘラを用いて行う。塗布ヘラは、塗布方向に対して垂直な方向から見た先端断面の形状が半円状であり、先端断面の半径が3mm以下である。このような塗布ヘラを用いて正極合剤を塗布することにより、基準長さ0.8mm、評価長さ4.0mmにて測定した正極の表面粗さ(Rzjis)が10μm以下となる。このため、この正極を用いて作製した電池の放電容量が高くなり、放電容量のばらつきも低減される。塗布ヘラの上述した先端断面の半径は、好ましくは、2mm以下であり、更に好ましくは1mm以下である。」 イ 甲第3号証の段落【0008】、【0017】、【0019】、【0024】によれば、甲第3号証には、次の技術事項(以下、「甲第3号証に記載された技術事項」という。)が記載されている。 「リチウムイオン電池用正極活物質と、導電助剤と、バインダーとを混合して調製した正極合剤を集電体に塗布した構造を有するリチウムイオン電池用正極において、作製される電池の放電容量を良好とし、且つ、そのばらつきも良好に抑制するために、正極の表面粗さを10μm以下とすること。」 (4)甲第4号証 ア 甲第4号証には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。 「【0008】 本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、薄いセパレータを備えつつ、耐短絡性に優れたリチウムイオン二次電池を提供することにある。 【0010】 本発明のリチウムイオン二次電池では、正極の正極合剤層および負極の負極合剤層の少なくとも一方の表面に、表面粗度Raが1.0μm以下の多孔質層を形成することで、電池内が高温となりセパレータが収縮しても、上記多孔質層によって正極の正極合剤層と負極の負極合剤層との接触を防止できるため、短絡の発生を抑え得る。本発明では、このような作用によって、より収縮し易い薄型のセパレータを使用しても良好な耐短絡性を確保できるようにしており、電池の高容量化も可能としている。 ・・・(省略)・・・。 【0013】 図1に、多孔質層を有する電極1(正極または負極)の一例の断面模式図を示す。図1に示す電極1では、正極集電体または負極集電体4の両面に正極合剤層または負極合剤層3が形成されており、更に、集電体4の両側の合剤層3の表面に多孔質層2が形成されている。 【0014】 上記の多孔質層の存在によって、電池内が高温となってセパレータに収縮が生じたり、電池に衝撃が加わってセパレータにズレが生じたりしても、正極の正極合剤層と負極の負極合剤層との接触を防止できるため、電池の耐短絡性を高めることができる。 ・・・(省略)・・・ 【0018】 すなわち、多孔質層の表面粗度が大きすぎると、電池に衝撃が加わったり、電池が異常に過熱した場合などにおいて、短絡が発生し易くなる。その理由は定かではないが、多孔質層の表面粗度が大きい場合には、多孔質層の均一性が不十分になって、絶縁性能が不十分な箇所が点在するようになり、その結果、電池が衝撃を受けた場合や高温に曝された場合のように、セパレータの絶縁性能が低下する状況下では、多孔質層の不均一部分(絶縁性能が不十分な欠陥部分)を通じて電極間の短絡が発生し易くなるのではないかと推測される。 【0019】 本明細書でいう多孔質層の表面粗度Raは、JISB0601に規定の算術平均粗さであり、具体的には、共焦点レーザー顕微鏡(レーザテック株式会社製「リアルタイム走査型レーザ顕微鏡1LM−21D」)を用い、1mm×1mmの視野を512×512ピクセルで測定し、各点の平均線からの絶対値を算術平均することにより求めた数値である。多孔質層の表面粗度Raは、0.6μm以下であることがより好ましい。」 イ 甲第4号証の段落【0010】、【0013】、【0014】及び【0019】によれば、甲第4号証には、次の技術事項(以下、「甲第4号証に記載された技術事項」という。)が記載されている。 「リチウムイオン二次電池において、薄型のセパレータを使用しても良好な耐短絡性を確保できるようするために、正極の正極合剤層および負極の負極合剤層の少なくとも一方の表面に、表面粗度Raが0.6μm以下の多孔質層を形成すること。」 (5)甲第5号証 ア 甲第5号証には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。 「【0015】 本発明の非水電解質二次電池用電極は、活物質を含有する合剤層と、多孔質の絶縁層とを含む非水電解質二次電池用電極であって、上記絶縁層は、上記合剤層の上に形成され、上記絶縁層は、架橋構造を有する樹脂と、無機粒子とを含み、上記絶縁層の表面粗さRaが、0.2〜0.4μmであり、上記絶縁層と上記合剤層との界面には、上記絶縁層の成分と上記合剤層の成分とを含む混合層を有することを特徴とする。 ・・・(省略)・・・。 【0020】 上記絶縁層の表面粗さRaは、0.2〜0.4μmに設定されている。上記表面粗さRaは、電池の製造時に絶縁層の表面から絶縁層成分の微粉末の脱落を防止し、上記微粉末が絶縁層の細孔に詰まるのを抑制して電池の負荷特性の低下を防止するため、0.4μm以下に設定され、絶縁層をカレンダー処理して表面粗さRaを調整する際に、絶縁層の細孔が押し潰されて電池の負荷特性が低下することを防止するため、0.2μm以上に設定される。本明細書では、表面粗さRaは、走査型白色干渉計(例えば、Zygo社製の“NEWView5030”)を用い、0.36mm×0.27mmの範囲で5点測定し、それぞれの画像解析から表面粗さを求め、それらの平均値を求めて、表面粗さRaとする。」 イ 甲第5号証の【0015】、【0020】によれば、甲第5号証には、次の技術事項(以下、「甲第5号証に記載された技術事項」という。)が記載されている。 「活物質を含有する合剤層と、合剤層の上に形成され、架橋構造を有する樹脂と無機粒子とを含む多孔質の絶縁層とを含む非水電解質二次電池用電極において、絶縁層の表面粗さRaは、電池の製造時に絶縁層の表面から絶縁層成分の微粉末の脱落を防止し、上記微粉末が絶縁層の細孔に詰まるのを抑制して電池の負荷特性の低下を防止するため、0.4μm以下に設定し、絶縁層をカレンダー処理して表面粗さRaを調整する際に、絶縁層の細孔が押し潰されて電池の負荷特性が低下することを防止するため、0.2μm以上に設定すること。」 (6)甲第6号証 ア 甲第6号証には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。 「【0011】 そこで本発明は、非水電解質二次電池を製造する際の積層工程において、積層ずれの発生を効果的に抑制しうる手段を提供することを目的とする。 ・・・(省略)・・・。 【0023】 [表面粗さ比] 本実施形態に係るリチウムイオン二次電池10は、セパレータ17に接する側の負極活物質層13の表面の表面粗さ(Rzjis(1))に対する、負極活物質層13に接する側のセパレータ17の表面の表面粗さ(Rzjis(2))の比の値として定義される表面粗さ比RA(=Rzjis(2)/Rzjis(1))が、0.15〜0.85である点に特徴を有する。 ・・・(省略)・・・。 【0025】 このように、RAの値が0.15〜0.85の範囲内の値であると、後述する実施例の欄において実証されているように、負極活物質層とセパレータとの間の動摩擦係数が比較的大きい値に制御される。その結果、非水電解質二次電池を製造する際の積層工程において、特に負極活物質層とセパレータとを積層する際の積層ずれの発生が効果的に抑制されうるのである。 ・・・(中略)・・・。 【0028】 表面粗さ比(RA、RB)の値を上述した好ましい範囲内に制御するための具体的な手法について特に制限はなく、本願の出願時における技術常識が適宜参照されうる。一例として、例えば活物質層表面の表面粗さを制御する手法としては、活物質層に含まれる活物質の粒子径を調節するという方法が例示される。この場合、活物質の粒子径を大きくすると、活物質層表面の表面粗さを大きくすることができる。また、活物質層の表面粗さを制御する他の手法としては、活物質層を形成する際に施されることがあるプレス処理の条件を適宜調節して、活物質層の表面の平坦度を制御する方法もある。」 イ 甲第6号証の【0011】、【0023】、【0025】、【0028】によれば、甲第6号証には、次の技術事項(以下、「甲第6号証に記載された技術事項」という。)が記載されている。 「非水電解質二次電池において、製造する際の積層工程において積層ずれの発生を効果的に抑制するために、セパレータに接する側の負極活物質層の表面の表面粗さ(Rzjis(1))に対する、負極活物質層に接する側のセパレータの表面の表面粗さ(Rzjis(2))の比の値として定義される表面粗さ比RA(=Rzjis(2)/Rzjis(1))を、0.15〜0.85とし、該表面粗さ比を制御するための手法として、プレス処理の条件を適宜調節して活物質層の表面の平坦度を制御する方法があること。」 4 申立理由に対する当審の判断 本件訂正により、訂正前の請求項1は削除されたため、訂正後の請求項2ないし6について判断する。 (1)申立理由1(新規性)について ア 甲1発明1に基づく新規性について (ア)本件発明2について a 対比 上記「第4 3(1)ア(ア)」で述べたとおり、本件発明2と甲1発明1とは以下の点で一致ないし相違する。 (一致点) 「リチウムイオン電池用電極であって、 当該リチウムイオン電池用電極は、集電体と、前記集電体の表面に形成された活物質層とを備え、 前記活物質層は、活物質粒子とバインダー樹脂とを含み、 前記活物質層の密度が3.4g/cc以上であるリチウムイオン電池用電極。」 (相違点3) 本件発明2は「前記活物質層の表面において第1xy直交座標を設定し、前記第1xy直交座標のx軸方向に測定した前記活物質層の表面の算術平均粗さをRaxとし、前記第1xy直交座標のy軸方向に測定した前記活物質層の表面の算術平均粗さをRayとしたとき、Rax−Rayの絶対値が0.2μm以下であり、前記第1xy直交座標を、そのx軸およびそのy軸がなす面内で45°回転させた第2xy直交座標を設定し、前記第2xy直交座標のx軸方向に測定した前記活物質層の表面の算術平均粗さをRax’とし、前記第2xy直交座標のy軸方向に測定した前記活物質層の表面の算術平均粗さをRay’としたとき、Rax’−Ray’の絶対値が0.2μm以下である」であるのに対し、甲1発明1はその旨特定されていない点。 してみると、本件発明2と甲1発明1とは相違点3を有するので、本件発明2は甲第1号証に記載された発明ではない。 (イ)本件発明3ないし6について 本件発明3ないし6も、本件発明2の上記相違点3に係る構成を備えるものであるから、本件発明2と同様な理由により、本件発明3ないし6は、甲第1号証に記載された発明ではない。 イ 甲1発明2に基づく新規性について (ア)本件発明2について a 対比 上記「第4 3(2)ア(ア)」で述べたとおり、本件発明2と甲1発明2とは以下の点で一致ないし相違する。 (一致点) 「リチウムイオン電池用電極であって、 当該リチウムイオン電池用電極は、集電体と、前記集電体の表面に形成された活物質層とを備え、 前記活物質層は、活物質粒子とバインダー樹脂とを含み、 前記活物質層の密度が3.4g/cc以上であるリチウムイオン電池用電極。」 (相違点4) 本件発明2は「前記活物質層の表面において第1xy直交座標を設定し、前記第1xy直交座標のx軸方向に測定した前記活物質層の表面の算術平均粗さをRaxとし、前記第1xy直交座標のy軸方向に測定した前記活物質層の表面の算術平均粗さをRayとしたとき、Rax−Rayの絶対値が0.2μm以下であり、前記第1xy直交座標を、そのx軸およびそのy軸がなす面内で45°回転させた第2xy直交座標を設定し、前記第2xy直交座標のx軸方向に測定した前記活物質層の表面の算術平均粗さをRax’とし、前記第2xy直交座標のy軸方向に測定した前記活物質層の表面の算術平均粗さをRay’としたとき、Rax’−Ray’の絶対値が0.2μm以下である」であるのに対し、甲1発明2はその旨特定されていない点。 してみると、本件発明2と甲1発明2とは相違点4を有するので、本件発明2は甲第1号証に記載された発明ではない。 (イ)本件発明3ないし6について 本件発明3ないし6も、本件発明2の上記相違点4に係る構成を備えるものであるから、本件発明2と同様な理由により、本件発明3ないし6は、甲第1号証に記載された発明ではない。 ウ 令和4年4月13日付け異議申立書について (a)特許異議申立人は異議申立書において、「甲第1号証の段落【0060】には、活物質層を加圧処理する際に、ロールプレスの他に金型プレスが用いられることが記載されているところ、金型プレスを用いて活物質層を加圧処理した場合には、活物質層に均等に圧力が加わることは、当業者からすれば当然のこととして把握している事項であり、技術常識である。このため、金型プレスを用いて活物質層を加圧処理することにより、異なる複数の方向において測定した電極の活物質層の表面の算術平均粗さRaは、異方性がなく均一になると考えられ、金型プレスを用いて製造された電極は、表面粗さの異方性が小さいことを特定したものであり、Rax−Rayの絶対値が0.2μm以下であること及びRax’−Ray’の絶対値が0.2μm以下であることを満たしている蓋然性が高い。よって、「・・・Rax−Rayの絶対値が0.2μm以下であり、・・・Rax’−Ray’の絶対値が0.2μm以下である」ことは、甲第1号証に記載された甲1発明1び甲1発明2との相違点とはならない旨主張する。(21頁7行ないし22頁9行、25頁13行ないし26頁4行を参照) (b)しかしながら、特許異議申立人の上記(a)の主張は、甲1発明1における「ロールプレス」に替えて「金型プレス」を用いることを前提とするものであり、甲1発明1自体が「Rax−Rayの絶対値が0.2μm以下であ」ること及び「Rax’−Ray’の絶対値が0.2μm以下であ」ることを満たす蓋然性が高いことを立証するものではないから、甲1発明1に基づく新規性に係る主張とはいえない。 よって、異議申立人の前記主張は採用できない。 エ まとめ したがって、請求項2ないし6に係る発明は、引用文献1に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、請求項2ないし6に係る特許は特許法第29条第1項に違反してされたものでない。 (2)申立理由2(進歩性)について ア 甲1発明1に基づく進歩性について (ア)本件発明2について 上記「(1)ア(ア)a」で述べたとおり、本件発明2と甲1発明1とは相違点3を有する。そこで、相違点3について判断する。 (a)上記「3(2)」ないし「3(5)」で述べたように、甲第2号証には「電極活物質として高い含量のシリコンを含むシリコン系合金を利用したリチウム二次電池用電極において、初期効率低下と寿命の低下を解消するために、電極の表面粗度が0.5ないし12μmであり、粗度偏差が5μm以下に調節すること」の技術事項が、甲第3号証には「リチウムイオン電池用正極活物質と、導電助剤と、バインダーとを混合して調製した正極合剤を集電体に塗布した構造を有するリチウムイオン電池用正極において、作製される電池の放電容量を良好とし、且つ、そのばらつきも良好に抑制するために、正極の表面粗さを10μm以下とすること」の技術事項が、甲第4号証には「リチウムイオン二次電池において、薄型のセパレータを使用しても良好な耐短絡性を確保できるようするために、正極の正極合剤層および負極の負極合剤層の少なくとも一方の表面に、表面粗度Raが0.6μm以下の多孔質層を形成すること」の技術事項が、甲第5号証には「活物質を含有する合剤層と、合剤層の上に形成され、架橋構造を有する樹脂と無機粒子とを含む多孔質の絶縁層とを含む非水電解質二次電池用電極において、絶縁層の表面粗さRaは、電池の製造時に絶縁層の表面から絶縁層成分の微粉末の脱落を防止し、上記微粉末が絶縁層の細孔に詰まるのを抑制して電池の負荷特性の低下を防止するため、0.4μm以下に設定し、絶縁層をカレンダー処理して表面粗さRaを調整する際に、絶縁層の細孔が押し潰されて電池の負荷特性が低下することを防止するため、0.2μm以上に設定すること」の技術事項が、それぞれ記載されている。してみると、二次電池の電極の表面粗さを所定範囲とすることは周知の技術事項といえる。 また、上記「3(6)」で述べたように、甲第6号証には「非水電解質二次電池において、製造する際の積層工程において積層ずれの発生を効果的に抑制するために、セパレータに接する側の負極活物質層の表面の表面粗さ(Rzjis(1))に対する、負極活物質層に接する側のセパレータの表面の表面粗さ(Rzjis(2))の比の値として定義される表面粗さ比RA(=Rzjis(2)/Rzjis(1))を、0.15〜0.85とし、該表面粗さ比を制御するための手法として、プレス処理の条件を適宜調節して活物質層の表面の平坦度を制御する方法があること」の技術事項が記載されている。 しかしながら、甲第2号証ないし甲第6号証に記載された各技術事項は、電極の表面を1次元に走査した際の粗さを調節するものであり、本件発明2に記載されたように「前記活物質層の表面において第1xy直交座標を設定」し、各軸方向に測定した「前記活物質層の表面の算術平均粗さ」の差である「Rax−Rayの絶対値」を「0.2μm以下」とし、さらに、「第1xy直交座標」に対して「45°回転させた第2xy直交座標を設定」し、各軸方向に測定した「前記活物質層の表面の算術平均粗さ」の差である「Rax’−Ray’の絶対値」を「0.2μm以下」とすることは何等記載されていないことから、上記周知の技術事項、及び、甲第6号証に記載された技術事項を甲1発明1に採用したとしても、相違点3に係る構成には至らない。 (b)ここで、上記「第4 3(1)ア(イ)a」で述べたように、甲1発明1において、電極用スラリーをアルミニウム箔上に塗布し、乾燥後に「ロールプレス」に替えて「金型プレス」を用いてプレスすることは当業者が適宜なし得る事項である。 しかし、甲第1号証には、「金型プレス」でプレスして得られた電極の活物質層表面において、どの程度の算術平均粗さが得られるのか明記されていない。 そして、甲2号証ないし甲6号証には、「金型プレス」でプレスして得られた電極においても、「ロールプレス」でプレスして得られた電極と同等の活物質層表面の算術平均粗さが得られることを裏付ける記載は見当たらない。 さらに、本願明細書の段落【0021】ないし【0027】の記載によれば、本件発明2の「Rax−Rayの絶対値が0.2μm以下」、及び、「Rax’−Ray’の絶対値が0.2μm以下」とすることにより、活物質層の表面粗さの異方性が小さいという特性が得られるところ、「金型プレス」を用いてプレスすることにより活物質層の表面粗さの異方性が小さくなることを裏付ける記載は何等見当たらない。 してみると、甲2号証ないし甲6各号証に記載された技術事項を考慮して、甲1発明1において「ロールプレス」に替えて「金型プレス」を用いてプレスしたとしても、相違点2に係る構成は容易に想到し得るものとはいえない。 c 小括 よって、本件発明2は、甲1発明1に基づいて当業者が容易になし得たものとはいえず、また、甲1発明1及び甲第2号証ないし甲第6号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易になし得たものとはいえない。 (イ)本件発明3ないし6について 本件発明3ないし6は、本件発明2の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件発明2についての判断と同様な理由により、本件発明3ないし6は、甲1発明1に基づいて当業者が容易になし得たものとはいえず、また、甲1発明1及び甲第2号証ないし甲第6号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易になし得たものとはいえない。 イ 甲1発明2に基づく進歩性について (ア)本件発明2について 上記「(1)イ(ア)a」で述べたとおり、本件発明2と甲1発明1とは相違点4を有する。そこで、相違点4について判断する。 相違点4は相違点3と同じであるから、相違点3に対する理由と同様な理由により、甲第2号証ないし甲第6号証に記載された技術事項を甲1発明2に採用したとしても、相違点4に係る構成には至らず、また、甲2号証ないし甲6各号証に記載された技術事項を考慮して、甲1発明2において「ロールプレス」に替えて「金型プレス」を用いてプレスしたとしても、相違点4に係る構成は容易に想到し得るものとはいえない。 c 小括 よって、本件発明2は、甲1発明2に基づいて当業者が容易になし得たものとはいえず、また、甲1発明2及び甲第2号証ないし甲第6号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易になし得たものとはいえない。 (イ)本件発明3ないし6について 本件発明3ないし6は、本件発明2の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件発明2についての判断と同様な理由により、本件発明3ないし6は、甲1発明2に基づいて当業者が容易になし得たものとはいえず、また、甲1発明2及び甲第2号証ないし甲第6号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易になし得たものとはいえない。 ウ 令和4年4月13日付け異議申立書について (ア)特許異議申立人は「甲第1号証の段落【0004】、【0006】、【0076】に記載されているように、厚さの均一性に優れた電極を提供することは、当業者にとって当然の課題である。また、甲第2号証の段落【0040】、甲第3号証の段落【0019】、甲第4号証の段落【0019】、甲第5号証の段落【0020】などに記載されているように、電極の表面粗さの数値を一定の好ましい数値範囲に収めることは、当業者にとって当然の課題である。また、活物質層に施されるプレス処理の条件を適宜調節することによって活物質層の表面粗さを制御することは、甲第6号証の段落【0028】にも記載されているように、周知技術である。そして、当業者は、上記の課題の存在を前提として、上記の周知技術を考慮して、通常は表面粗さの異方性が生じにくいようなプレス処理を含む製造方法によって電極を製造すると考えられる。甲第1号証に触れた当業者であれば、上述した課題に基づき、段落【0060】に記載されている金型プレスを用いて活物質層を加圧処理する方法により電極を製造することで、異方性がなく均一であり、したがって「Rax−Rayの絶対値が0.2μm以下であり、・・・、Rax’−Ray’の絶対値が0.2μm以下である」条件を満たす電極に、容易に想到し得る旨主張する。(22頁13行ないし23頁6行参照) しかしながら、上記「ア(ア)b」で述べたように、甲第1号証には、「金型プレス」でプレスして得られた電極の活物質層表面において、どの程度の算術平均粗さが得られるのか明記されておらず、さらに、甲2号証ないし甲6各号証には、「金型プレス」でプレスして得られた電極においても、「ロールプレス」でプレスして得られた電極と同等の活物質層表面の算術平均粗さが得られること、及び、「金型プレス」を用いてプレスすることにより活物質層の表面粗さの異方性が小さくなることを裏付ける記載は何等見当たらない。 してみれば、甲第1号証に触れた当業者は、表面粗さの異方性が生じにくいようなプレス処理を含む製造方法によって電極を製造することは想到し得ず、甲1発明1において「Rax−Rayの絶対値が0.2μm以下であり、・・・、Rax’−Ray’の絶対値が0.2μm以下である」ようにすることは当業者が容易になし得たものとはいえない。 (イ)また、特許異議申立人は、本件発明1に規定されているRaxと、Ray、Rax’Ray’の関係に関する電極の特徴は、表面粗さの異方性がなく均一な電極であれば備える特徴に過ぎず、甲第1号証に記載された電極は、表面粗さの異方性がなく均一な電極と考えられ、仮に、甲第1号証に記載された電極が、異方性がなく均一な電極であるまではいえないとしても、甲第1号証に触れた当業者であれば、異方性がなく均一な電極に、容易に相当し得る旨主張する(23頁10行ないし24頁17行参照) しかしながら、提出された甲各号証のいずれにも、電極の活物質層表面粗さの異方性に係る記載は見当たらないから、甲1号証に触れた当業者であっても、電極の活物質層表面粗さの異方性を小さくすることは容易に想到し得ない。 (ウ)さらに、特許異議申立人は、甲第1号証の段落【0076】には、電極の厚み精度を評価する基準値とするために、算術平均粗さRaを測定することが記載されており、電極の厚み精度を評価するには、任意の方向において測定した電極の活物質層の表面の算術平均粗さRaが、全て基準値の範囲内であることを確認する必要があるため、算術平均粗さRaの基準値「<0.10μm」は、任意の方向において測定した電極の活物質層の表面の算術平均粗さRaが全て<0.10μmとなることを意味すると解され、また、甲第1号証に触れた当業者であれば、任意の方向において測定した活物質層の表面の算術平均粗さRaが全て<0.10μmである電極に容易に想到し得る。そして、任意の第1方向に測定した電極の活物質層の表面の算術平均粗さRaと、第1方向とは異なる任意の第2方向に測定した電極の活物質層の表面の算術平均粗さRaと、の差は、0.1μmより小さくなるため、甲1発明1の電極の活物質層の表面において、Rax−Rayの絶対値は0.2μm以下となり、Rax’−Ray’の絶対値は0.2μm以下となるから、「Rax−Rayの絶対値が0.2μm以下であり、・・・、Rax’−Ray’の絶対値が0.2μm以下である」とすることは、甲第1号証に触れた当業者であれば甲1発明1に基づいて容易に想到し得る設計事項に過ぎない旨主張する。(26頁12行ないし27頁24行参照) しかしながら、甲第1号証の段落【0076】には、「(5)電極の厚み精度 電極の厚み精度は表面粗さにより評価した。電極を10mm×50mmの短冊に裁断し、試料片を5枚製造した。測定は日本工業規格JIS B0651:2001に準拠した触針式表面粗さ測定機(触針先端の半径=0.5μm)で行った。日本工業規格JIS B0601:2001)に準じ、得られた輪郭曲線より、算術平均粗さRaを測定した。5枚の試料片で測定を行い、平均値を算出し、下記の基準で判断した。値が小さいほど電極表面が平滑であることを示す。」と記載されており、甲第1号証において電極の厚み精度は、5枚の試料片で算術平均粗さRaを測定し、その平均値を算出したもので判断するものである。 そして、算術平均粗さRaの基準値「<0.10μm」が、任意の方向において測定した算術平均粗さRaが全て<0.10μmとなることを意味すると解釈できる根拠は甲第1号証には何等見当たらなし、電極の厚み精度を評価するには、任意の方向において測定した算術平均粗さRaが、全て基準値の範囲内であることを確認する必要があることを裏付ける証拠も提出されていない。 (エ)小括 したがって、特許異議申立人の主張は採用できない。 エ まとめ 以上から、請求項2ないし6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、また、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証ないし甲第6号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、請求項2ないし6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。 (3)申立理由3(サポート要件)について ア 特許異議申立人は異議申立て書において、「本件発明は、本来的には、プレス工程においてロールプレスを採用した際に生じるロールプレス特有の不具合の解消を課題とし、この課題を解決するための手段として、緩衝フィルムを介して活物質層のロールプレスを行う。それにも関わらず、本件発明1乃至6のいずれにも、プレス工程においてロールプレスを適用すること、及び緩衝フィルムを介して活物質層をロールプレスする解決手段が全く規定されていない」旨主張する。(33頁13ないし18行を参照) イ 本件特許明細書の段落【0007】によれば、本件発明は、リチウムイオン電池の電極の製造において、電極の破断や巻き取り不良を抑えるという課題を解決するためになされたものである。 ここで、本件特許明細書の段落【0027】には、「Rax−Rayの絶対値」および「Rax'−Ray'の絶対値」がともに0.2μm以下とすることにより、リチウムイオン電池の電極の製造において、電極の破断や巻き取り不良を抑えることが記載されている。 そして、同段落【0083】ないし【0085】、表1によれば、「Rax−Rayの絶対値」および「Rax'−Ray'の絶対値」がともに0.2μm以下である実施例1ないし3は、シワや縞模様が全く確認されず、すき間や歪みが無くきれいに巻き取ることができたことが示されており、また、本件特許明細書の段落【0048】によれば、「Rax−Rayの絶対値」および「Rax'−Ray'の絶対値」がともに0.2μm以下である電極を製造するための手段として、緩衝フィルムを介して活物質層のロールプレスを行うものである。 ウ してみれば、本件発明2が、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるよう記載された範囲を超えるものとは認められない。また、本件発明3ないし6も同様である。 よって、特許異議申立人の主張は採用できない。 エ したがって、本件の請求項2ないし6に係る特許は、特許法第36条第6甲第1号の規定に違反してされたものではない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項2ないし6に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件請求項2ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 また、請求項1は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、特許異議申立人による特許異議の申立てについて、請求項1に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため。特許法第120条の8第1項で準用する同法135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 (削除) 【請求項2】 リチウムイオン電池用電極であって、 当該リチウムイオン電池用電極は、集電体と、前記集電体の表面に形成された活物質層とを備え、 前記活物質層は、活物質粒子とバインダー樹脂とを含み、 前記活物質層の表面において第1xy直交座標を設定し、前記第1xy直交座標のx軸方向に測定した前記活物質層の表面の算術平均粗さをRaxとし、前記第1xy直交座標のy軸方向に測定した前記活物質層の表面の算術平均粗さをRayとしたとき、Rax−Rayの絶対値が0.2μm以下であり、 前記第1xy直交座標を、そのx軸およびその軸がなす面内で45°回転させた第2xy直交座標を設定し、前記第2xy直交座標のx軸方向に測定した前記活物質層の表面の算術平均粗さをRax’とし、前記第2xy直交座標のy軸方向に測定した前記活物質層の表面の算術平均粗さをRay’としたとき、Rax’−Ray’の絶対値が0.2μm以下であり、 前記活物質層の密度が3.4g/cc以上であるリチウムイオン電池用電極。 【請求項3】 請求項2に記載のリチウムイオン電池用電極であって、 前記Rax、前記Ray、前記Rax’および前記Ray’が、全て、0.5〜1μmの範囲内にあるリチウムイオン電池用電極。 【請求項4】 請求項2または3に記載のリチウムイオン電池用電極であって、 前記活物質層の厚みが100〜150μmであるリチウムイオン電池用電極。 【請求項5】 請求項2〜4のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用電極であって、 前記活物質粒子が、リチウムコバルト酸化物、リチウムマンガン酸化物、リチウムニッケル酸化物およびリン酸鉄リチウムからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物を含むリチウムイオン電池用電極。 【請求項6】 請求項2〜5のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用電極を備えたリチウムイオン電池。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2023-02-22 |
出願番号 | P2019-566413 |
審決分類 |
P
1
651・
537-
YAA
(H01M)
P 1 651・ 113- YAA (H01M) P 1 651・ 121- YAA (H01M) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
酒井 朋広 |
特許庁審判官 |
畑中 博幸 須原 宏光 |
登録日 | 2021-09-24 |
登録番号 | 6948545 |
権利者 | 株式会社エンビジョンAESCジャパン |
発明の名称 | リチウムイオン電池用電極およびリチウムイオン電池 |
代理人 | 天城 聡 |
代理人 | 天城 聡 |
代理人 | 速水 進治 |
代理人 | 速水 進治 |