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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C09D
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09D
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C09D
審判 全部申し立て 2項進歩性  C09D
管理番号 1398294
総通号数 18 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2023-06-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-12-28 
確定日 2023-06-09 
異議申立件数
事件の表示 特許第7101294号発明「水性塗料組成物、塗膜及び塗膜の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7101294号の請求項1〜6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許に係る出願は、令和3年6月10日の出願であって、令和4年7月6日に特許権の設定登録がされ(請求項の数6)、同年同月14日に特許掲載公報が発行され、同年12月28日に特許異議申立人清水 誠(以下「申立人」という。)により、請求項1〜6に係る特許に対して特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明等
1 本件の特許請求の範囲の請求項1〜6に係る発明(以下「本件発明1」〜「本件発明6」といい、まとめて「本件発明」ということもある。)は、次の発明であると当審は認定した。また、分説のための(あ)などの記号を当審が付した。
「【請求項1】
(あ)塗膜形成樹脂(A)、
(い)架橋剤(B)、
(う)スルホン酸化合物(C)及び
(え)アミン化合物(D)を含む
(お)水性塗料組成物であって、
(か)前記塗膜形成樹脂(A)が、水酸基を有するアクリル樹脂(A1)を含むものであり、
(き)前記塗膜形成樹脂(A)の水酸基価が、5mgKOH/g以上35mgKOH/g以下であり、
(く)前記架橋剤(B)が、フルアルキル型メラミン樹脂(B1)を含むものであり、
(け)前記アミン化合物(D)による、前記スルホン酸化合物(C)の酸基のモル換算の中和率が、100%以上1,300%以下である、水性塗料組成物。
【請求項2】
前記塗膜形成樹脂(A)の重量平均分子量が、100,000以上である請求項1に記載の水性塗料組成物。
【請求項3】
温度23℃において、剪断速度0.01s−1で測定した剪断粘度が30,000mPa・s以下、剪断速度10s−1で測定した剪断粘度が800mPa・s以下、剪断速度1,000s−1で測定した剪断粘度が150mPa・s以上である請求項1又は2に記載の水性塗料組成物。
【請求項4】
更に、有機溶剤(E1)を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の水性塗料組成物。
【請求項5】
コイルコーティング用である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の水性塗料組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の水性塗料組成物を被塗物に塗工して、塗装膜を形成する工程、
前記塗装膜を、最高到達温度が180℃以上であり、乾燥及び/又は硬化時間が120秒以下である条件下で、乾燥及び/又は硬化させて塗膜とする工程を含む、塗膜の製造方法。」
2 本件発明2について
(1)本件登録時の特許請求の範囲の請求項2は、次のとおりに記載されている。
「【請求項2】
前記塗膜形成樹脂(A1)の重量平均分子量が、100,000以上である請求項1に記載の水性塗料組成物。」
(2)ここで、請求項2の「前記塗膜形成樹脂(A1)」という記載は、次の理由から、「前記塗膜形成樹脂(A)」の明らかな誤記と解されるから、前記(1)のように本件発明を認定した。
ア 本件発明1に「前記塗膜形成樹脂(A)」と記載されていること。
イ 後記3の本件特許明細書の段落【0011】に「[2]前記塗膜形成樹脂(A)の重量平均分子量が、100,000以上である[1]に記載の水性塗料組成物。」と記載されていること。
3 本件特許明細書には次の記載がある。
「【0010】
本発明は、一液形であっても貯蔵安定性に優れ、折り曲げ等の加工性や加工の際の耐クラック性及び耐傷付性の良好な塗膜を形成し得る水性塗料組成物の提供を課題とする。」
「【0011】
・・・
[2]前記塗膜形成樹脂(A)の重量平均分子量が、100,000以上である[1]に記載の水性塗料組成物。
・・・」
「【0014】
<塗膜形成樹脂(A)>
前記塗膜形成樹脂(A)は、アクリル樹脂(A1)を含む。前記アクリル樹脂(A1)は、(メタ)アクリロイル基を有する単量体に由来する単位を有する重合体を表し、エチレン性不飽和結合を有する単量体を含む単量体混合物を重合することによって調製することができる。なお本明細書において、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸又はメタクリル酸を表す。」
「【0016】
前記アクリル樹脂(A1)は、水酸基を有する。前記アクリル樹脂(A1)が水酸基を有することで、該水酸基と架橋剤の反応基との間で架橋反応して塗膜を硬化させることができる。前記アクリル樹脂(A1)が水酸基を得るためには、重合体とする際、前記エチレン性不飽和結合を有する単量体として、水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステルを用いればよい。
【0017】
前記水酸基を有するアクリル樹脂(A1)の水酸基価は、好ましくは5mgKOH/g以上であり、より好ましくは7mgKOH/g以上、更に好ましくは10mgKOH/g以上であり、好ましくは50mgKOH/g以下、より好ましくは35mgKOH/g以下、更に好ましくは30mgKOH/g以下、一層好ましくは25mgKOH/g以下である。前記範囲内にあることで、加工性(密着性、耐クラック性)の良好な塗膜が得られるという利点がある。
【0024】
なお本明細書において、アクリル樹脂(A1)の酸価及び水酸基価は、それぞれ固形分酸価及び固形分水酸基価を表し、JIS K 0070:1999に準じて測定することができる。」
「【0030】
前記アクリル樹脂(A1)の含有率は、前記塗膜形成樹脂(A)中、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、上限は100質量%である。」
「【0043】
前記塗膜形成樹脂(A)は、前記アクリル樹脂(A1)以外に、その他の樹脂(A2)を含んでいてもよい。
【0044】
前記その他の樹脂(A2)としては、水酸基未含有のアクリル樹脂、ウレタン樹脂、酢酸ビニル樹脂、フッ素樹脂、塩化ビニル樹脂等が挙げられ、それぞれ水性樹脂であることが好ましく、水分散性樹脂であることがより好ましく、エマルション型水分散性樹脂であることが更に好ましい。該その他の樹脂(A2)は、予めその他の樹脂(A2)と水性媒体(E)の一部とを含む水性溶液又は水性分散体として、水性塗料組成物の調製に用いてもよい。該水性溶液又は水性分散体は、乳化剤を含んでいてもよい。
【0045】
前記水酸基未含有のアクリル樹脂は、(メタ)アクリロイル基を有する単量体に由来する単位を有する重合体を表し、前記エチレン性不飽和結合を有する単量体のうち、水酸基を有しないものの混合物を重合することによって調製することができる。
【0046】
前記水酸基未含有のアクリル樹脂の重量平均分子量は、好ましくは50,000以上、より好ましくは100,000以上、更に好ましくは150,000以上であり、好ましくは10,000,000以下、より好ましくは2,000,000以下、更に好ましくは500,000以下である。前記範囲にあることで、得られる塗膜の加工性が良好になるとの利点がある。」
「【0051】
前記塗膜形成樹脂(A)の水酸基価は、5mgKOH/g以上であり、好ましくは7mgKOH/g以上、より好ましくは10mgKOH/g以上であり、35mgKOH/g以下であり、好ましくは30mgKOH/g以下、より好ましくは25mgKOH/g以下である。前記範囲内にあることで、加工性及び耐傷付性の良好な塗膜が得られるという利点がある。」
「【0053】
前記塗膜形成樹脂(A)の重量平均分子量は、例えば50,000以上、好ましくは100,000以上、より好ましくは150,000以上であり、例えば10,000,000以下、好ましくは2,000,000以下である。前記範囲内にあることで、加工性の良好な塗膜が得られるという利点がある。」
「【0055】
前記塗膜形成樹脂(A)としては、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。前記塗膜形成樹脂(A)が2種以上含まれる場合、前記塗膜形成樹脂(A)の各パラメータは、ガラス転移温度を除き、各樹脂のパラメータ及び含有率に基づき、加重平均値として算出してもよい。また、ガラス転移温度は、各塗膜形成樹脂の質量基準の含有率をガラス転移温度(K:ケルビン値)で除した値を合計し、その逆数として算出してもよい。
【0056】
前記塗膜形成樹脂(A)の含有量は、前記水性塗料組成物の固形分100質量部中、好ましくは50質量部以上、より好ましくは70質量部以上、更に好ましくは80質量部以上であり、好ましくは100質量部以下、より好ましくは95質量部以下、更に好ましくは90質量部以下である。なお本明細書において、塗膜形成樹脂(A)の含有量は、固形分のみの含有量を表すものとする。」
「【0120】
<塗膜形成樹脂(A−1)の製造例>
ペレックスSS−H(界面活性剤、花王社製)0.6質量部を、イオン交換水60質量部に溶解させた。これに、メタクリル酸メチル53.0質量部、アクリル酸n−ブチル39.2質量部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル5.8質量部及びメタクリル酸2.0質量部から成るモノマー混合物を加えてかくはんし、モノマープレエマルション150.5質量部を調製した。別途、開始剤として過硫酸アンモニウム1.0質量部をイオン交換水20質量部に溶解して開始剤水溶液を調製した。
【0121】
温度計、コンデンサー及びかくはん機を備えた反応容器に、イオン交換水40質量部、ペレックスSS−H 0.4質量部を仕込み、窒素雰囲気下で80℃に加熱した。ここに80℃を保持したまま、前記開始剤水溶液を180分かけて滴下し、滴下開始10分後からモノマープレエマルションを反応容器の別の口から150分かけて滴下して、乳化重合を行った。前記開始剤水溶液の滴下が終了した後、更に80℃で60分加熱かくはんした後、室温まで冷却し、これにジメチルエタノールアミン2.10質量部を添加して塗膜形成樹脂(A−1)が水性媒体に分散しているアクリルエマルション(固形分濃度:45質量%)を調製した。
【0122】
モノマー種、量、開始剤量を表1のとおり変更した以外は、前記と同様にして、塗膜形成樹脂(A−2)〜(A−11)を調製した。各塗膜形成樹脂における水酸基価等の特数値を表1に示す。」
「【0123】
実施例、比較例に用いた下記表中に示される各成分の詳細は以下のとおりである。
塗膜形成樹脂(A)
(A−12)バイロナールMD2000(東洋紡社製、ポリエステル樹脂エマルション);水酸基価:6mgKOH/g、酸価:2mgKOH/g、重量平均分子量:30,000、ガラス転移温度:67℃、最低造膜温度:48℃、平均粒子径:125nm、固形分濃度:40質量%
架橋剤(B)
(B−1)サイメル303(オルネクスジャパン社製、フルアルキル型メチル化メラミン樹脂);固形分濃度:100質量% 数平均分子量:455
(B−2)サイメル300(オルネクスジャパン社製、フルアルキル型メチル化メラミン樹脂);固形分濃度:100質量% 数平均分子量:390
その他の架橋剤
(b−1)サイメル327(オルネクスジャパン社製、イミノ基型メチル化メラミン樹脂);固形分濃度:90質量% 数平均分子量:470
(b−2)マイコート508(オルネクスジャパン社製、イミノ基型ブチル化メラミン樹脂):固形分濃度:80質量%、数平均分子量:1,500
スルホン酸化合物(C)
(C−1)AC400S(テイカ社製、ドデシルベンゼンスルホン酸);固形分濃度:25質量%
(C−2)AC700(テイカ社製、パラトルエンスルホン酸);固形分濃度:25質量%
(C−3)Nacure−1051(楠本化成社製、ジノニルナフタレンスルホン酸);固形分濃度:51質量%
その他の酸化合物
(c−1)Cycat296(オルネクスジャパン社製、リン酸化合物);固形分濃度:50質量%
アミン化合物(D)
(D−1)DMEA(ジメチルエタノールアミン、三菱瓦斯化学社製);沸点:134℃
(D−2)AMP(2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、国産化学社製);沸点:165℃
(D−3)TEA(トリエチルアミン、三菱瓦斯化学社製);沸点:90℃
水性媒体(E)
(E1−1)ジエチレングリコール(日本触媒社製);沸点:244℃、水への溶解度:無限大(水と任意に混和)
(E1−2)プロピレングリコール(三協化学社製);沸点:187℃、水への溶解度:無限大(水と任意に混和)
(E1−3)ジプロピレングリコール(昭和化学社製);沸点:232℃、水への溶解度:無限大(水と任意に混和)
(E1−4)1,4−ブタンジオール(三協化学社製);沸点:228℃、水への溶解度:無限大(水と任意に混和)
(E1−5)1,5−ペンタンジオール(宇部興産社製);沸点:242℃、水への溶解度:無限大(水と任意に混和)
粘性調整剤(F)
(F−1)SNシックナー612(ポリエーテルウレタン系疎水会合型粘性調整剤、サンノプコ社製);固形分濃度:40質量%
(F−2)SNシックナー621(ポリエーテルウレタン系疎水会合型粘性調整剤、サンノプコ社製);固形分濃度:30質量%
(F−3)アデカノールUH−526(ポリエーテルウレタン系疎水会合型粘性調整剤、ADEKA社製);固形分濃度:30質量%
(F−4)プライマルRM−2020NPR(ポリエーテルウレタン系疎水会合型粘性調整剤、ダウケミカル社製);固形分濃度:20質量%
(F−5)プライマルASE−60(ポリアクリル酸エステルエマルション系アルカリ膨潤型増粘剤、ダウケミカル社製);固形分濃度:28質量%
【0124】
<顔料分散ペーストの製造例>
分散剤としてDisperbyk190(ビックケミー社製)1.63質量部、ジメチルエタノールアミン 0.25質量部、消泡剤としてSN−477T(サンノプコ社製)0.05質量部、イオン交換水 32.9質量部及び顔料として二酸化チタン(Ti−Pure R−706、DuPont社製)65.2質量部を予備混合した後、SGミル(分散媒体:ガラスビーズ)を用いて、1,600rpmで、顔料粗粒の最大粒子径が5μmになるまで分散し、顔料分散ペーストを得た。
【0125】
<水性塗料組成物1の製造例>
前記製造例で得られた顔料分散ペースト55.1質量部、前記製造例で得られた塗膜形成樹脂(A−1)80.0質量部、塗膜形成樹脂(A−8)20.0質量部、架橋剤(B−1)としてサイメル303 17.6質量部を混合した後、水性媒体としてジエチレングリコール(E1−1)5.4質量部及びプロピレングリコール(E1−2)5.4質量部を混合、かくはんした。次に、スルホン酸化合物(C−1)としてドデシルベンゼンスルホン酸 1.2質量部及びアミン化合物(D−1)としてジメチルエタノールアミン 1.9質量部をディスパーでかくはんし、更に、粘性調整剤(F−1)としてシックナーSN−612 0.2質量部とをかくはんしながら混合し、塗料組成物1を得た。」
「【0126】
(塗料組成物2〜45、比較例1〜10)
各成分の種類及び量を、表2〜7に記載のように変更したこと以外は、塗料組成物1と同様にして塗料組成物を調製した。
【0127】
<塗装鋼板の製造例>
厚さ0.4mmの溶融亜鉛めっき鋼板をアルカリ脱脂した後、リン酸処理剤サーフコートEC2310(日本ペイント・サーフケミカルズ社製)を、鋼板表面及び裏面に塗布することにより、ノンクロム化成処理を施し、乾燥した。
次に、鋼板の表面に、製造例で得られた塗料組成物を1、乾燥塗膜が18μmとなるようにバーコーターを用いて塗装し、素材最高到達温度230℃となる条件で30秒間焼付けを行ない、表面塗膜を形成し、塗装鋼板を得た。」
「【0136】
【表1】

【0137】
【表2】


「【0138】
【表3】


「【0139】
【表4】


「【0140】
【表5】


「【0141】
【表6】


「【0142】
【表7】

【0143】
実施例1〜45は、本発明の実施例であり、貯蔵安定性が高く、加工性に優れ、且つ耐傷付性が良好であった。
【0144】
比較例1、2は、アクリル樹脂(A1)の水酸基価が5mgKOH/gに満たない例であり、耐傷付性に劣っていた。比較例3、4は、アクリル樹脂(A1)の水酸基価が35mgKOH/gを超える例であり、貯蔵安定性及び加工性に劣っていた。比較例5、6は、アミン化合物(D)によるスルホン酸化合物(C)の中和率が、100%に満たない例であり、貯蔵安定性に劣っていた。比較例7は、アミン化合物(D)によるスルホン酸化合物(D)の中和率が、1,300%を超える例であり、貯蔵安定性に劣っていた。比較例8、9は、架橋剤(B)として、フルアルキル型メラミン樹脂(B1)を含まない例であり、加工性に劣っていた。比較例10は、スルホン酸化合物(C)を含まず、リン酸化合物を用いた例であり、貯蔵安定性及び耐傷付性に劣っていた。」

第3 異議申立ての概要
1 証拠方法の一覧
申立人が提示した証拠方法は、次のとおりである。以下、甲第1号証を「甲1」などという。
甲1:特開2002−146280号公報
甲2:特開2006−283021号公報
甲3:特開平11−19583号公報
2 申立理由について
(1)新規性及び進歩性について
ア 甲1を主引用例とする新規性進歩性欠如
本件発明1、4〜6は、甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の発明であり、また、本件発明1〜6は、甲1に記載された発明及び甲1〜3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができた発明であるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であるから、本件発明1〜6に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
イ 甲2を主引用例とする新規性進歩性欠如
本件発明1、4〜6は、甲2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の発明であり、また、本件発明1〜6は、甲2に記載された発明及び甲1〜3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができた発明であるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であるから、本件発明1〜6に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
ウ 甲3を主引用例とする進歩性欠如
本件発明1〜6は、甲3に記載された発明及び甲1〜3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができた発明であるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であるから、本件発明1〜6に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)実施可能要件違背について
本件特許明細書の記載は、当業者が本件発明1〜6の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないため、本件発明1〜6に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。
(3)サポート要件違背について
本件発明1〜6は、「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えるものであるため、本件発明1〜6に係る特許は、特許法第36条第6項第1項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。
(4)明確性要件について
本件発明1には、「塗膜形成樹脂(A)」及び「水酸基を有するアクリル樹脂(A1)」と記載されているのに対して、本件発明2においては、「前記塗膜形成樹脂(A1)」と記載されており、いずれが正しいのか明確でない。したがって、本件発明1〜6に係る特許は、特許法第36条第6項第2項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。

第4 引用例の記載事項
1 甲1には次の記載がある。
「【請求項1】(A)エポキシ当量220〜300の下記一般式(1)で示される化合物により20〜60重量%変性された変性ポリエステル樹脂10〜95重量部、(B)水酸基を含有するポリエステル樹脂又はアクリル樹脂0〜85重量部、(C)低核体メチル化メラミン樹脂5〜40重量部、及び(D)スルホン酸1当量と沸点30〜250℃の第2級もしくは第3級アミン1.5〜30当量との混合物を(A)、(B)及び(C)の合計量100重量部に基いてスルホン酸量で0.1〜4重量部含有することを特徴とする塗料組成物。
【化1】

R1、R2及びR3はそれぞれ独立に炭素数1以上の直鎖状炭化水素基を表す。
【請求項2】水酸基を含有するポリエステル樹脂(B)がオイルフリーポリエステル、油変性ポリエステル又はシリコーン変性ポリエステルである請求項1記載の塗料組成物。」
「【0015】上記変性ポリエステル樹脂(A)の内、ちぢみの凹凸の大きさ、ちぢみの均一性などの点から、数平均分子量としては1,000〜10,000、好ましくは3,000〜9,000、水酸基価としては0〜100mgKOH/g程度が好ましく、水酸基含有有機樹脂(B)を併用しない場合には、変性ポリエステル樹脂(A)の水酸基価として10〜90mgKOH/gを有するものが好適である。」
「【0016】水酸基を含有するポリエステル樹脂又はアクリル樹脂(B)
本発明の(B)成分として使用できるポリエステル樹脂は、オイルフリーポリエステル樹脂、油変性アルキド樹脂、またはこれらの樹脂の変性物、例えばウレタン変性ポリエステル樹脂、ウレタン変性アルキド樹脂、エポキシ変性ポリエステル樹脂、アクリル変性ポリエステル樹脂などが挙げられる。
【0017】上記オイルフリーポリエステル樹脂は、多塩基酸成分と多価アルコール成分とのエステル化物からなるものである。多塩基酸成分としては、例えば無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、コハク酸、フマル酸、アジピン酸、セバシン酸、無水マレイン酸などから選ばれる1種以上の二塩基酸及びこれらの酸の低級アルキルエステル化物が主として用いられ、必要に応じて安息香酸、クロトン酸、p−t−ブチル安息香酸などの一塩基酸、無水トリメリット酸、メチルシクロヘキセントリカルボン酸、無水ピロメリット酸などの3価以上の多塩基酸などが併用される。多価アルコール成分としては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、3−メチルペンタンジオール、1,4−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオールなどの二価アルコールが主に用いられ、さらに必要に応じてグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどの3価以上の多価アルコールを併用することができる。これらの多価アルコールは単独で、あるいは2種以上を混合して使用することができる。両成分のエステル化又はエステル交換反応は、それ自体既知の方法によって行うことができる。
【0018】アルキド樹脂は、上記オイルフリーポリエステル樹脂の酸成分及びアルコール成分に加えて、油脂肪酸をそれ自体既知の方法で反応せしめたものであって、油脂肪酸としては、例えばヤシ油脂肪酸、大豆油脂肪酸、アマニ油脂肪酸、サフラワー油脂肪酸、トール油脂肪酸、脱水ヒマシ油脂肪酸、キリ油脂肪酸などを挙げることができる。アルキド樹脂の油長は30%以下、特に5〜20%程度のものが好ましい。
【0019】以上に述べたポリエステル樹脂のうち、好適なものとしては、オイルフリーポリエステル樹脂が挙げられる。ポリエステル樹脂のうち、加工性、硬化性などの点からなかでも、数平均分子量1,000〜30,000、好ましくは3,000〜20,000、水酸基価3〜100mgKOH/g、好ましくは8〜70mgKOH/gを有するものが好適である。
【0020】本発明の(B)成分として使用できるアクリル樹脂は、水酸基含有モノマー及びこのモノマーと共重合可能なその他のモノマーからなるモノマー混合物を、ラジカル重合開始剤の存在下に溶液重合法等の常法によって共重合させることによって得ることができる。
【0021】上記水酸基含有モノマ−としては、例えば2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレ−ト、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレ−ト、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレ−ト、2−ヒドロキシエチルビニルエ−テル、2−ヒドロキシプロピルビニルエ−テル、2−ヒドロキシエチルアリルエ−テルなどを挙げることができる。
【0022】上記水酸基含有モノマ−と共重合可能なその他のモノマ−としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、α−クロルスチレン等のビニル芳香族化合物;メチル(メタ)アクリレ−ト、エチル(メタ)アクリレ−ト、n−プロピル(メタ)アクリレ−ト、i−プロピル(メタ)アクリレ−ト、(n−、i−、t−)ブチル(メタ)アクリレ−ト、ヘキシル(メタ)アクリレ−ト、シクロヘキシル(メタ)アクリレ−ト、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレ−ト、n−オクチル(メタ)アクリレ−ト、デシル(メタ)アクリレ−ト、ラウリル(メタ)アクリレ−ト、ステアリル(メタ)アクリレ−ト、イソボルニル(メタ)アクリレ−ト等のアクリル酸又はメタクリル酸の炭素数1〜24のアルキルエステル又はシクロアルキルエステル;酢酸ビニル、塩化ビニル、ビニルエ−テル、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどが挙げられ、さらにこれらのモノマ−の1種及び/又はそれ以上のモノマ−の重合体で、片末端に重合性不飽和基を有する、いわゆるマクロモノマ−も共重合可能なモノマ−として挙げることができる。本発明において、「(メタ)アクリレ−ト」は、「アクリレ−ト又はメタアクリレ−ト」を意味する。
【0023】上記水酸基含有アクリル樹脂の水酸基価は、3〜100mgKOH/g、好ましくは8〜70mgKOH/gを有するものが好適である。」
「【0024】低核体メチル化メラミン樹脂(C)
本発明組成物において(C)成分として使用される低核体メチル化メラミン樹脂はメチル化によるメトキシ基を有する低核体メラミン樹脂であることが必要であり、平均縮合度2.5以下、トリアジン環1個あたり、平均してアルキルエーテル基を4個以上、うちメチルエーテル基を2.5個以上含有するメラミン樹脂が好ましい。上記のメトキシ基以外に有することができるアルキルエーテル基としては、エトキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基などが挙げられる。
【0025】上記メチル化メラミン樹脂の市販品としては、例えば、サイメル300、サイメル303、サイメル370、サイメル232、サイメル235、サイメル238、サイメル272、[いずれも三井サイテック社製]、ニカラックMW30、ニカラックMW22A[いずれも三和ケミカル社製]、スミマールM100[住友化学社製]、レジミン747、レジミン745、レジミン755[いずれもモンサント社製]などが挙げられる。
【0026】これらのメラミン樹脂は強酸触媒の存在下で短時間焼付けによってポリエステル樹脂と十分な硬化反応を起こすが、一方、強酸触媒が存在しない場合には、短時間焼付けでポリエステル樹脂と十分な硬化反応を起こさないものである。メラミン樹脂中にNH基やメチロール基の数が多い場合には、強酸触媒が存在しない場合にも短時間焼付けによって十分な硬化反応を起こすため好ましくない。上記の低核体メチル化メラミン樹脂は1種単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。また、低核体メチル化メラミン樹脂以外のメラミン樹脂、例えば、ブチル化メラミン樹脂等を併用することも可能であるが、ちぢみの安定形成性が低下するため、メラミン樹脂中、20重量%以下に抑えるのが望ましい。」
「【0031】(D)成分におけるスルホン酸とアミン化合物の配合比率は、(スルホン酸/アミン化合物)の当量比で1/1.5〜1/30、好ましくは1/5〜1/15であり、1/1.5より大きい場合は、焼付時にちぢみが十分に形成される前に、塗膜内部においてもスルホン酸の硬化触媒作用が発揮され硬化が進行するため、満足なちぢみ模様が得られにくく、一方、1/30より小さな場合には、塗膜内部の硬化が十分に行なわれなかったり、硬化に長時間を要するなどの問題が生じやすい。
【0032】(D)成分である、スルホン酸とアミン化合物との混合物は、(A)成分、(B)成分及び(C)成分との和100重量部(固形分)に対してスルホン酸量で0.1〜3重量部、好ましくは0.2〜2重量部の範囲内が適している。スルホン酸量で0.1重量部未満では硬化性が不足しやすく、一方、3重量部を越えて使用すると耐水性、耐湿性などの塗膜性能が低下しやすくなる。」
「【0042】本発明の塗料組成物をコイルコーティングなどによってプレコート塗装する場合、その塗装方法に制限はないがプレコート鋼板塗装の経済性からカーテン塗装法およびロール塗装法が推奨される。ロール塗装法を適用する場合には塗面の均一性を最良のものにするため3本ロールによるトップフィードもしくはボトムフィード方式が推奨されるが実用的には通常の2本ロールによるボトムフィード方式(いわゆるナチュラルリバース塗装、ナチュラル塗装)でも良い。本発明組成物の硬化条件は、通常、素材到達最高温度120〜260℃で15秒〜30分程度である。コイルコーティングなどによって塗装するプレコート塗装分野においては、通常、素材到達最高温度160〜260℃で15〜90秒の範囲で行なわれる。」
「【0043】
【実施例】以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。なお、以下、「部」及び「%」はいずれも重量基準によるものとする。
【0044】変性ポリエステル樹脂(A)の製造
製造例1
攪拌機、精留塔、温度計が付いた反応槽に無水フタル酸142.1部(0.96モル)、トリメチロールプロパン53.6部(0.40モル)、カージュラE(シェル・ケミカル社製、エポキシ当量245)147.0部(0.60モル)を仕込み、不活性ガスの存在化、精留塔温度が102℃を超えないように昇温しながら、加熱、攪拌して、生成する水を除去しながら反応を行い、ソルベッソ150(溶剤)で希釈し、冷却して固形分70%の変性ポリエステル樹脂溶液A−1を得た。得られた樹脂の酸価は2mgKOH/g、水酸基価は80mgKOH/g、数平均分子量は7,100であった。
【0045】製造例2及び3
表1に示す原料配合(モル比)とする以外は製造例1と同様の操作を行い、固形分70%の各ポリエステル樹脂溶液を得た。得られたポリエステル樹脂の性状は表1のようであった。
【0046】
【表1】


「【0047】上塗り塗料の製造
実施例1〜14及び比較例1〜7
後記表2に示す組成配合にて塗料化を行い、各上塗り塗料を得た。なお、実施例10及び11、比較例5及び6の塗料の塗料化に際しては、着色顔料を使用するにあたり各使用顔料をあらかじめ変性ポリエステル樹脂A−1で分散した後、残りの原料を混合し、均一に攪拌して塗料化を行った。また、各塗料はシクロヘキサノン/ソルベッソ150(エッソ石油社製、芳香族石油系高沸点溶剤)=40/60(重量比)の混合溶剤にて粘度を90秒(フォードカップ#4、25℃)になるよう調整した。
【0048】
【表2】

【0049】
【表3】


「【0050】表2中の(註)は、それぞれ下記のとおりの意味を有し、配合量は固形分量で示した。
(注1)GK−13CS:ポリエステル樹脂、東洋紡社製、固形分51%、数平均分子量7,000、水酸基価19mgKOH/g
(注2)GK−19CS:ポリエステル樹脂、東洋紡社製、固形分50%、数平均分子量13,000、水酸基価8mgKOH/g
(注3)ダイヤナールHR−2011:アクリル樹脂、三菱レーヨン社製、固形分50%、水酸基価55mgKOH/g
(注4)サイメル303:メチルエーテル化メラミン樹脂、三井サイテック社製、固形分98%以上
(注5)アルミペーストMF40:ノンリーフィングアルミペースト、旭化成メタルズ社製、固形分72%
(注6)IRIODIN103:パール顔料、メルク・ジャパン社製、固形分99%以上、雲母含有量69%
(注7)トレフィールE−501:シリコーンゴム弾性体球状パウダー、東レ・ダウコーニング・シリコーン社製
・・・」
2 甲2には次の記載がある。
「【請求項1】
1種類以上の低温硬化性アルキルエーテル官能性アミノプラスト樹脂と、1種類以上のヒドロキシル基含有樹脂あるいはポリマーと、それぞれが0.25〜1.0のpKaを有する1種類以上の非ブロック化酸触媒と、50〜500の相対蒸発速度(RER)を有する1種類以上の揮発性アミンとを含み、
RERは(p)(M)/11.6に等しく、式中、pは単位mmHgにおける前記アミンの蒸気圧であり、Mは前記アミンの分子量である、
水性または溶剤系の組成物。
【請求項2】
1種類以上の低温硬化性アルキルエーテル官能性アミノプラスト樹脂がアルキルエーテル官能性ポリアミノ核を含み、前記核が、メラミン、アセトグアナミン、アジポグアナミン、およびベンゾグアナミンから選択される、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
1種類以上の低温硬化性アルキルエーテル官能性アミノプラスト樹脂が、メラミン環1つ当たり4〜6個のアルキルエーテル基を有し、かつ1.0〜2.0の平均重合度を有する、1種類以上のアルキルエーテル基含有メラミンを含む、請求項2記載の組成物。
【請求項4】
平均重合度が1.0〜1.5である、請求項3記載の組成物。
【請求項5】
1種類以上のヒドロキシル基含有樹脂あるいはポリマーが、20〜140mgKOH/gのヒドロキシル価を有するアクリルポリマー、100〜300mgKOH/gのヒドロキシル価を有するポリエステル、およびそれらの混合物から選択される、請求項1記載の組成物。
【請求項6】
1種類以上のヒドロキシル基含有樹脂あるいはポリマーが、数平均分子量/第1級ヒドロキシル当量として定義される、2〜10の第1級ヒドロキシル官能性を有するアクリルポリマーを含む、請求項5記載の組成物。
【請求項7】
1種類以上の非ブロック化酸触媒がスルホン酸を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項8】
1種類以上の揮発性アミンが第2級アミンを含む、請求項1記載の組成物。」
「【0001】
本発明は、プラスチック基体にコーティングするための低温焼き付けの反応性一成分および二成分コーティング組成物に関する。特に、本発明は、自動車用ベースコート、カラーコートあるいはモノコート、トップコート、およびクリアコート仕上を形成するために60℃〜105℃の範囲の温度で硬化させることができる一成分貯蔵安定性アルキルエーテル官能性アミノプラスト樹脂硬化コーティング組成物、ならびにその組成物の製造方法
に関する。」
「【0057】
好ましくは、本発明の1種類以上の酸触媒は、有機スルホン酸を含む。より好ましくは、本発明の1種類以上の酸は、p−トルエンスルホン酸(p−TSA)、ドデシルベンゼンスルホン酸(DDBSA)、ジノニルナフタレンジスルホン酸、およびそれらの混合物
を含む。酸触媒の濃度は、樹脂固形分の全重量を基準にして0.5重量%以上、あるいは1.0重量%以上、あるいは1.5重量%以上、および最大で10重量%以下、あるいは最大で6%重量%以下、あるいは最大で5重量%以下の範囲とすることができる。本発明のコーティングがトップコートとして使用される場合、より完全な硬化が望ましいので、樹脂固形分の全重量を基準にして1.5〜10重量%の1種類以上の酸触媒が使用される。」
「【0061】
好適な第2級アミンの例としては、ジ−n−プロピルアミン、ジ−sec−ブチルアミン、ブチルエチルアミン、ジフェニルアミン、N−エチル−1,2−ジイソブチルアミン、ジメチルプロピルアミン、N−メチルヘキシルアミン、ジ−n−オクチルアミン、ピリジン、モルホリン、および種々のメチルピリジンが挙げられる。好適な第1級アミンの例としては、n−ブチルアミン、n−ペンチルアミン、n−ヘキシルアミン、イソヘキシルアミン、およびイソオクチルアミンを挙げることができる。好ましくは、アミンは上記の第2級アミンを含む。本発明の1種類以上のアミンは、樹脂固形分の全重量を基準にして0.0025重量%以上、あるいは0.005重量%以上、あるいは0.01重量%以上、および最大10重量%、あるいは最大6重量%、あるいは最大5重量%の総量で使用することができる。」
「【0067】
本発明による溶剤系組成物中に有用な1種類以上の溶媒としては、芳香族溶媒、たとえばトルエン、キシレン、ナフサ、および石油蒸留物;脂肪族溶媒、たとえばヘプタン、オクタン、およびヘキサン;エステル溶媒、たとえば酢酸ブチル、酢酸イソブチル、プロピオン酸ブチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸アミル、プロピオン酸エチル、およびイソ酪酸イソブチレン;ケトン溶媒、たとえばアセトンおよびメチルエチルケトン;低級アルカノール;グリコールエーテル、グリコールエーテルエステル、ラクタム、たとえばN−メチルピロリドン(NMP);ならびにそれらの混合物を挙げることができる。」
「【0076】
それぞれSTPにおいてバッチ反応器中、攪拌しつつ、それぞれ溶媒中で、アクリルモノマー混合物R1〜R5を重合させ、ポリエステル形成性反応物R6を共縮合させた。アクリルポリマーR1〜R5は窒素雰囲気中で重合させた。結果として得られたポリマー組成物は、以下の表1に示しており、これらを実施例1〜10で使用する。
【0077】
【表2】


3 甲3には次の記載がある。
「【0070】
【実施例】以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、以下、「部」及び「%」はいずれも重量基準によるものとする。
【0071】上塗着色ベース塗料の製造
製造例1〜12
後記表1に示す組成配合にて塗料化を行い、各上塗着色ベース塗料を得た。
【0072】表1におけるポリエステル樹脂及び架橋剤の量は固形分重量による表示であり、硬化触媒の量は、スルホン酸系硬化触媒についてはスルホン酸化合物の量に換算した量を、有機錫系硬化触媒については有機錫化合物の量に換算した量重量表示した。なお、製造例の上塗着色ベース塗料の塗料化に際しては、タイペークCR−95(石原産業(株)製、チタン白顔料)、カーボンブラック及び赤ベンガラの分散を行った後、有機樹脂微粒子などの残りの成分と混合、均一に撹拌して塗料化を行った。また、シクロヘキサノン/ソルベッソ150(「ソルベッソ150」は、エッソ石油(株)製、芳香族石油系高沸点溶剤)=40/60(重量比)の混合溶剤を塗料粘度調整などのために使用し、上塗着色ベース塗料の粘度を90秒(フォードカップ#4、25℃)に調整した。製造例11及び12で得た上塗着色ベース塗料は、比較用の塗料である。
【0073】
【表1】

【0074】表1中の(註)は、それぞれ下記のとおりの意味を有する。
【0075】表1中の(*1)〜(*6)に示すポリエステル樹脂は、いずれも東洋紡績(株)製のポリエステル樹脂であり、下記表2に示す性状値を有する。
【0076】
【表2】

【0077】(*7)サイメル303:三井サイテック(株)製、低分子量メチルエーテル化メラミン樹脂、ヘキサキス(メトキシメチル)メラミンの含有量が60重量%以上。
(*8)スーパーベッカミンJ−820−60:大日本インキ化学工業(株)製、n−ブチルエーテル化メラミン樹脂溶液。
(*9)デスモデュールBL−3175:住友バイエルウレタン(株)製、ブロック化ポリイソシアネート化合物。
【0078】(*10)ネイキュア5225:米国 キング インダストリイズ社製、ドデシルベンゼンスルホン酸の2級アミン等モル中和物溶液、硬化触媒。
(*11)フォーメートTK−1:武田薬品工業(株)製の有機錫溶液である硬化触媒、ブロック化ポリイソシアネート化合物の解離触媒。」

第5 記載要件についての当審の判断
実施可能要件について
(1)申立人の主張1及び判断
ア 申立人の主張1
前記第2、2に摘記した本件特許明細書における実施例36は、水酸基を有するアクリル樹脂(A1)を含まず、ポリエステル樹脂のみを使用している。そうすると、発明の課題は、水酸基を有するアクリル樹脂を用いなくとも発明の課題が解決できることとなるため、本件特許明細書は、その課題及び解決手段が明確かつ十分に記載されていないことになるから、特許法第36条第4項第1項に規定された要件を満たさないものである。
イ 当審の判断
申立人の指摘する実施例36には、前記第2、2に摘記した本件特許明細書の段落【0140】の【表5】を参照すると、塗膜形成樹脂(A)として、(A−12)のみを用いるものであって、同段落【0123】を参照すると、(A−12)は、「バイロナールMD2000(東洋紡社製、ポリエステル樹脂エマルション);水酸基価:6mgKOH/g、酸価:2mgKOH/g、重量平均分子量:30,000、ガラス転移温度:67℃、最低造膜温度:48℃、平均粒子径:125nm、固形分濃度:40質量%」とされており、申立人の指摘のとおり、水酸基を有するアクリル樹脂を用いた例ではない。しかしながら、本件特許明細書に接した当業者は、本件特許明細書に記載された実施例36は、本件発明の実施例でないと把握すると解される。そして、実施例36を除外して、本件特許明細書を把握すれば、課題と解決手段の関係は十分把握できるのであるから、申立人が主張するような、実施可能要件違背があるとはいえない。
(2)申立人の主張2及び判断
ア 申立人の主張2
(ア)前記第2、2で摘記した本件特許明細書の段落【0123】の【表2】には、一例として、実施例1において、1.9重量部のアミン化合物(D−1)及び1.2重量部のスルホン酸化合物(C−1)が用いられている。D−1はジメチルエタノールアミンであり、その分子量は89.14ダルトン、C−1はドデシルベンゼンスルホン酸であり、その分子量は326.5ダルトンであるから、計算上中和率は、1.9÷89.14÷(1.2÷326.5)=約580%であるところ、表2には、600%とされており、整合していない。そうすると、同【表2】において、アミン化合物及びスルホン酸化合物の添加量が正しいのか、中和率が正しいのかを判別できない。
(イ)他の実施例も、計算すると次のとおりであり、いずれも整合していない。

(ウ)仮に本件特許明細書の中和率が正しいとすると、本件特許明細書のアミン化合物及びスルホン酸化合物の使用量が誤っていることになるから、本件特許明細書の実施例は再現可能に記載されていないことになるから、本件特許明細書の記載は実施可能要件を満たさない。
(エ)仮に本件特許明細書の化合物の使用量が正しいとすると、中和率は前記(イ)の表に示したとおりとなるから、実施例14及び実施例38は、本件発明の実施例ではないことになる。
イ 当審の判断
(ア)前記ア(イ)において、指摘された実施例の計算が正しいとして検討する。実施例14及び38を除くと、他の計算結果は最大3%程度の違いでしかなく、実施可能要件に影響するということはできない。
(イ)実施例14について
実施例14のアミン量とスルホン酸量とを用いて計算すると0.002÷89.14÷(0.01÷326.5)=92%となる。本件特許明細書の【0138】の【表3】の実施例14の列の「(D)による(C)の中和率(%)」の項には、100と記載されているものの、実際は92%であるから、実施例14は、本件発明の「100%以上1300%以下」を充足するものでないから、厳密には実施例といえない。しかしながら、中和率が92%と100%は近接しているから、中和率が100%である場合を推測させる例として、記載されているものと解される。
(ウ)実施例38について
実施例38のアミン量とスルホン酸量とを用いて計算すると0.3÷89.14÷(1.2÷326.5)=73%となる。本件特許明細書の【0140】の【表5】の実施例38の列の「(D)による(C)の中和率(%)」の項には、600と記載されているものの、実際は73%であるから、実施例38は、本件発明の「100%以上1300%以下」を充足するものでないから、実施例といえない。
(エ)全体として、本件特許明細書の実施例の記載は、再現することが困難ということはできない。したがって、特許法第36条第4項第1項の規定を満たしているといえるから、申立人の主張は成り立たない。
2 サポート要件について
(1)申立人の主張
本件発明1においては、「前記アミン化合物(D)による、前記スルホン酸化合物(C)の酸基のモル換算の中和率が、100%以上1,300%以下」と規定されている。一方、前記1(2)ア(イ)に摘記したように、裏付けとなる実施例の中和率は、580%〜1282%にとどまっており、本件発明1の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することができない。
(2)当審の判断
前記1(2)イ(イ)において検討したように、本件特許明細書に記載された実施例14は、厳密には本件発明1の実施例ではないが、中和率が100%程度の場合も本件発明の課題が解決できることの裏付けとなる例である。したがって、本件発明1における「前記アミン化合物(D)による、前記スルホン酸化合物(C)の酸基のモル換算の中和率が、100%以上1,300%以下」の範囲において、課題が解決できることが本件特許明細書から読み取ることができる。本件発明の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものといえるから、申立人の主張は採用できない。
明確性要件について
(1)申立人の主張
ア 前記1(2)ア、イで検討したように、本件特許明細書に記載された実施例において、中和率が原料から計算される値と整合していないが、仮に整合するようにすると、中和率は、十の位で四捨五入しているとも考えられる。本件発明における中和率の有効桁数の取り扱いが本件特許明細書に記載されておらず、本件発明における「前記アミン化合物(D)による、前記スルホン酸化合物(C)の酸基のモル換算の中和率が、100%以上1,300%以下」という規定は、例えば、50%や1349%を含むものとも解されるから、第三者に不測の不利益をおよぼすおそれがあるほど不明確である。
イ 本件発明1には、「塗膜形成樹脂(A)」及び「アクリル樹脂(A1)」と記載されているのに対して、本件発明2には、「塗膜形成樹脂(A1)」と記載されており、矛盾があり、本件発明2は不明確である。
(2)当審の判断
ア 中和率の有効桁数については、申立人の指摘どおり本件明細書に記載はないが、通常「100%」と記載していれば、一の位までが有効数字であると理解できる。二桁を有効数字とするのであれば、「1.0×102」と表記されるはずである。本件発明の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たさないということはできず、申立人の主張は採用できない。
イ 前記第2、2において検討したとおり、本件発明2における「塗膜形成樹脂(A1)」は、「塗膜形成樹脂(A)」の明らかな誤記であるから、本件発明2に不明確な点はない。

第6 新規性進歩性についての当審の判断
1 甲1の実施例6を主引用例とする検討
(1)甲1発明6の認定
前記第4、1に摘記した甲1の段落【0048】の【表2】の実施例6に注目し、段落【0047】も参照すると次の発明(以下「甲1発明6」という。)が認定できる。
「変性ポリエステル樹脂A−1を10重量部、ポリエステル樹脂であるパイロンGK−13CSを85重量部、サイメル303(メチルエーテル化メラミン樹脂、固形分98%以上)を5重量部、ドデシルベンゼンスルホン酸を2.5重量部、ジイソプロピルアミンを1.5重量部からなり、シクロヘキサノン/ソルベッソ150(エッソ石油社製、芳香族石油系高沸点溶剤)=40/60(重量比)の混合溶媒にて粘度を90秒(フォードカップ#4)となるように調整した塗料No.B6」
(2)本件発明1との対比・判断
ア 甲1発明6における「変性ポリエステル樹脂A−1」及び「ポリエステル樹脂であるパイロンGK−13CS」が、本件発明1における「塗膜形成樹脂(A)」に相当する。
イ 甲1発明6における「サイメル303(メチルエーテル化メラミン樹脂、固形分98%以上)」は、本件発明1の「架橋剤(B)」に相当し、また、「前記架橋剤(B)が、フルアルキル型メラミン樹脂(B1)を含むものであり」も充足する。
ウ 甲1発明6における「ドデシルベンゼンスルホン酸」は、本件発明1における「スルホン酸化合物(C)」に相当する。
エ 甲1発明6における「ジイソプロピルアミン」は、本件発明1における「アミン化合物(D)」に相当する。
オ 甲1発明6における「塗料No.B6」は、本件発明1の「塗料組成物」に相当する。
カ スルホン酸とアミンのモル比
甲1発明6におけるジイソプロピルアミン(分子量101.19)1.5重量部による、ドデシルベンゼンスルホン酸(分子量326.49)2.5質量部は、1.5/101.19/(2.5/326.5)×100=193.6%であるから、本件発明1の「前記アミン化合物(D)による、前記スルホン酸化合物(C)の酸基のモル換算の中和率が、100%以上1,300%以下」を充足する。
キ 一致点・相違点
以上から、本件発明1と甲1発明6との一致点及び相違点は次のとおりである。
(ア)本件発明1と甲1発明6との一致点
「塗膜形成樹脂(A)、架橋剤(B)、スルホン酸化合物(C)及びアミン化合物(D)を含む水性塗料組成物であって、
前記架橋剤(B)が、フルアルキル型メラミン樹脂(B1)を含むものであり、
前記アミン化合物(D)による、前記スルホン酸化合物(C)の酸基のモル換算の中和率が、100%以上1,300%以下である、水性塗料組成物。」
(イ)相違点6−1
本件発明1においては、「前記塗膜形成樹脂(A)が、水酸基を有するアクリル樹脂(A1)を含むものであり、前記塗膜形成樹脂(A)の水酸基価が、5mgKOH/g以上35mgKOH/g以下であり、」と特定されているのに対し、甲1発明6においては、水酸基を有するアクリル樹脂を含むものでなく、水酸基価が特定されていない点。
(ウ)相違点6−2
本件発明1においては、「水性」と特定されているのに対し、甲1発明6においては、そのような特定がされていない点。
(3)相違点についての判断
ア 事案に鑑み、まず相違点6−1について検討する。
イ 甲1発明6における水酸基価について、前記第2 3に摘記した本件特許明細書の段落【0055】の記載にしたがって加重平均をとると、変性ポリエステルの水酸基価80mgKOH/gが10重量部及びパイロンGK−13CSの水酸基価19mgKOH/gが85重量部含むことから、これらの水酸基価は、25.4mgKOH/gとなる。
したがって、相違点6−1は、実質的には、本件発明1においては、「水酸基を有するアクリル樹脂(A1)を含むもの」であるのに対して、甲1発明6においては、水酸基を有するアクリル樹脂を含むものでない点で相違するということになる。
ウ 検討
(ア)そうすると、本件発明1は、甲1発明6と実質的な相違点があるから、特許法第29条第1項第3号に規定の発明に該当しない。
(イ)また、水酸基を有するアクリル樹脂を変性ポリエステル樹脂と併用することには、後記2(1)に認定する甲1発明9及び前記第4,2に摘記した甲2の段落【0016】などに記載されているが、水酸基を有するアクリル樹脂を併用することが周知の技術ということはできないし、甲1発明6に対して相違点6−1に係る構成を備えることに動機付けがあるということはできない。
(ウ)したがって、相違点6−1は当業者であっても容易に想到しうることということはできず、相違点6−2について検討するまでもなく、本件発明1は、特許法第29条第2項により特許を受けることができないものということはできない。
エ 申立人の主張に対して
(ア)申立人は、申立書の22頁において、「甲第1号証の実施例6に記載の塗料組成物において、バイロンGK−13CSのごく一部に代えて、甲第1号証の実施例等に記載の水酸基を有するアクリル樹脂を配合するか、もしくはバイロンGK−13CSに加えてごく少量の水酸基を有するアクリル樹脂を追加配合することにより・・・水性塗料組成物とすることは当業者であれば容易に想到し得る事項である。」と主張する。
(イ)しかしながら、ごく少量を置換または追加しても、得られる塗料組成物の物性に変化がないと考えられ、そのような変更には意味がないから、そもそも動機がないし、仮に得られる塗料組成物の物性に影響があるとしても、物性にどのように変化を与えるかを予測できると認めるに足りる証拠がないから、この場合も動機付けがない。
したがって、申立人の主張は採用できない。
2 甲1の実施例9を主引例とする検討
(1)甲1発明9の認定
前記第4、1に摘記した甲1の段落【0048】の【表2】の実施例6に注目し、段落【0047】も参照すると次の発明(以下「甲1発明9」という。)が認定できる。
「変性ポリエステル樹脂A−1を55重量部、アクリル樹脂であるダイヤナールHR2011を20重量部、サイメル303(メチルエーテル化メラミン樹脂、固形分98%以上)を15重量部、ドデシルベンゼンスルホン酸を2.5重量部、ジイソプロピルアミンを1.5重量部からなり、シクロヘキサノン/ソルベッソ150(エッソ石油社製、芳香族石油系高沸点溶剤)=40/60(重量比)の混合溶媒にて粘度を90秒(フォードカップ#4)となるように調整した塗料No.B9」
(2)本件発明1との対比・判断
ア 甲1発明9における「変性ポリエステル樹脂A−1」及び「アクリル樹脂であるダイヤナールHR2011」が、本件発明1における「塗膜形成樹脂(A)」に相当する。
イ 甲1発明9における「サイメル303(メチルエーテル化メラミン樹脂、固形分98%以上)」は、本件発明1の「架橋剤(B)」に相当し、また、「前記架橋剤(B)が、フルアルキル型メラミン樹脂(B1)を含むものであり」も充足する。
ウ 甲1発明9における「ドデシルベンゼンスルホン酸」及び「ジイソプロピルアミン」は、本件発明1における「スルホン酸化合物(C)」及び「アミン化合物(D)」にそれぞれ相当する。
エ 甲1発明9における「アクリル樹脂であるダイヤナールHR2011」は、甲1の段落【0050】によれば、水酸基価55mgKOH/gであるから、本件発明1における「水酸基を有するアクリル樹脂(A1)」に相当する。
オ 甲1発明9における「塗料No.B9」は、本件発明1の「塗料組成物」に相当する。
カ スルホン酸とアミンのモル比
前記1(2)カにおける検討と同様に、甲1発明9におけるアミン化合物とスルホン酸化合物の比率は、本件発明1の前記アミン化合物(D)による、前記スルホン酸化合物(C)の酸基のモル換算の中和率が、100%以上1,300%以下」を充足する。
キ 一致点・相違点
以上から、本件発明1と甲1発明9との一致点及び相違点は次のとおりである。
(ア)本件発明1と甲1発明9との一致点
「塗膜形成樹脂(A)、架橋剤(B)、スルホン酸化合物(C)及びアミン化合物(D)を含む水性塗料組成物であって、
前記塗膜形成樹脂(A)が、水酸基を有するアクリル樹脂(A1)を含むものであり、
前記架橋剤(B)が、フルアルキル型メラミン樹脂(B1)を含むものであり、
前記アミン化合物(D)による、前記スルホン酸化合物(C)の酸基のモル換算の中和率が、100%以上1,300%以下である、水性塗料組成物。」
(イ)相違点9−1
本件発明1においては、「前記塗膜形成樹脂(A)の水酸基価が、5mgKOH/g以上35mgKOH/g以下であり、」と特定されているのに対し、甲1発明9においては、水酸基を有するアクリル樹脂を含むものでなく、水酸基が特定されていない点。
(ウ)相違点9−2
本件発明1においては、「水性」と特定されているのに対し、甲1発明6においては、そのような特定がされていない点。
(3)相違点についての判断
ア 事案に鑑み、まず相違点9−1について検討する。
イ 甲1発明9における水酸基価について、前記第2。2に摘記した本件特許明細書の段落【0055】の記載にしたがって加重平均をとると、変性ポリエステルの水酸基価80mgKOH/gが55重量部及びアクリル樹脂であるダイヤナールHR2011の水酸基価55mgKOH/gが20重量部含まれることから、これらの水酸基価は、(60×55+55×20)/(55+20)=58.7mgKOH/gとなる。
ウ 検討
(ア)そうすると、本件発明1は甲1発明9と実質的な相違点があるから、特許法第29条第1項第3号に規定の発明に該当しない。
(イ)甲1発明9の「変性ポリエステル樹脂」について、前記第4、1で摘記した甲1の段落【0019】には、「水酸基価3〜100mgKOH/g、好ましくは8〜70mgKOH/g」と記載されている。
(ウ)甲1発明9の「アクリル樹脂」について、前記第4、1で摘記した甲1の段落【0023】には、「上記水酸基含有アクリル樹脂の水酸基価は、3〜100mgKOH/g、好ましくは8〜70mgKOH/g」と記載されている。
(エ)しかしながら、前記(イ)、(ウ)の記載を踏まえても、それらの加重平均値が35mgKOH/g以下となる範囲を選択する動機があるということはできない。
(オ)したがって、相違点9−1は当業者であっても容易に想到しうることということはできず、相違点9−2について検討するまでもなく、本件発明1は、特許法第29条第2項により特許を受けることができないものということはできない。
エ 申立人の主張に対して
(ア)申立人は、申立書の20頁において「甲第1号証の実施例9に記載の塗料組成物における塗膜形成樹脂(A)の水酸基を調整することは当業者であれば容易に想到し得る」と主張する。
(イ)しかしながら、前記第2、2に摘記した段落【0142】の【表7】における比較例3に注目すると、塗膜形成樹脂(A)の水酸基価が40mgKOH/gの場合に貯蔵安定性が劣ることが示されており、本件発明1の「5mgKOH/g以上35mgKOH/g以下」という数値範囲には臨界的意義があるといえるから、当業者が容易に想到することができたものということはできない。申立人の主張は採用できない。
3 甲2を主引用例とする検討
(1)申立人の主張(特許異議申立書の23頁)
申立人は、「甲第2号証には、その請求項1に、1種類以上のヒドロキシル基含有樹脂あるいはポリマー、及び低温硬化性アルキルエーテル官能性アミノプラスト樹脂を含む水性組成物が記載されている。
そして、甲第2号証には、1種類以上の非ブロック化酸触媒がスルホン酸を含むこと(請求項7)、
1種類以上の揮発性アミンが第2級アミンを含むこと(請求項8)、
甲2発明がプラスチック基体にコーティングするための低温焼き付けの反応性一成分および二成分コーティング組成物に関するものであること(段落[0001])
1種類以上のヒドロキシル基含有樹脂あるいはポリマーが、20〜140mgKOH/gのヒドロキシル価を有するアクリルポリマーであること(請求項5)
が記載されている。
また、甲第2号証には、その段落[0057]、[0061]に、酸触媒の濃度を、樹脂固形分の全重量を基準にして最大で6%重量%以下、あるいは最大で5重量%以下の範囲とすることができること、1種類以上のアミンを、樹脂固形分の全重量を基準にして最大6重量%、あるいは最大5重量%の総量で使用することができることが記載されている。従って、甲第2号証には、(け)と重複する範囲の酸触媒及びアミンの配合量が開示されている。
従って、本件発明1は、甲第2号証に記載されており、新規性を有さない。」と主張する。
(2)当審の判断
ア 本件発明1について
しかしながら、前記2において甲1発明9を主引用例として検討したのと同様、甲2に記載された水酸基価20〜140mgKOH/gのなかから、本件発明1における「5〜35mgKOH/g」を選択する動機付けがあるとはいえない。前記第4、2に摘記した甲2の段落【0077】の【表2】に記載された実施例においても、「OH」と記載された列が水酸基価を表すと解されるところ、最低でも45となっているから、やはり「5〜35mgKOH/g」を選択する動機付けは認められない。また、前記2(3)エ(イ)において検討したとおり、その数値範囲には臨界的意義があるから、当業者が容易に想到し得たものということはできない。したがって、本件発明1は新規性及び進歩性を有するものであり、申立人の主張は採用できない。
イ 本件発明2〜6について
本件発明2〜6は、本件発明1を包含し、さらに特定事項を追加したものであるから、前記アで検討した本件発明1と同様に新規性進歩性を有するものである。
4 甲3を主引用例とする検討
(1)申立人の主張(特許異議申立書の23〜24頁)
申立人は、「甲第3号証には、その段落[0082]の[表4]に、製造例No.28として、バイロンKS−1460V(水酸基価11のポリエステル樹脂([表2]))、サイメル303(低分子量メチルエーテル化メラミン樹脂)、p−トルエンスルホン酸及びジイソプロピルアミン、ケトン系溶剤であるシクロヘキサノンを含む塗料が記載されている。
甲第3号証の段落[0082]の[表4]に示すように、製造例No.28の塗料にはp−トルエンスルホン酸(分子量172.2)を0.6重量部、ジイソプロピルアミン(分子量101.19)を2.0重量部配合しているため製造例No.28の塗料における中和率は約570%となる。
従って、甲第3号証の実施例28に記載の塗料組成物は、上記(あ)〜(お)、(き)〜(け)を満たす。
水酸基を有するアクリル樹脂は塗料に用いる塗膜形成樹脂として周知のものである。また、本件請求項1には、塗膜形成樹脂(A)全体の水酸基価が、5mgKOH/g以上35mgKOH/g以下であることが規定されているが、水酸基を有するアクリル樹脂(A1)の配合量は規定されていない。
従って、甲第3号証の実施例28に記載の塗料組成物において、バイロンKS−1460Vのごく一部に変えて水酸基を有するアクリル樹脂を配合するか、もしくはバイロンKS−1460Vに加えてごく少量の水酸基を有するアクリル樹脂を追加配合することにより上記(あ)〜(け)を全て満たす水性塗料組成物とすることは当業者であれば容易に想到し得る事項である。」と主張する。
(2)当審の判断
ア 本件発明1について
申立人の主張する一致点及び相違点は、前記1(2)キにおいて認定した甲1発明6との一致点及び相違点と同じである。そうすると、前記1(3)における相違点6−1の判断と同様に、本件発明1は甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものといえない。
イ 本件発明2〜6について
本件発明2〜6は、本件発明1を包含し、さらに特定事項を追加したものであるから、前記アで検討した本件発明1と同様に新規性進歩性を有するものである。

第7 むすび
以上のとおりであるから、申立人の主張及び提示した証拠により、本件発明1〜6に係る特許を取り消すことができない。
また、他に本件発明1〜6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2023-06-01 
出願番号 P2021-097518
審決分類 P 1 651・ 537- Y (C09D)
P 1 651・ 121- Y (C09D)
P 1 651・ 113- Y (C09D)
P 1 651・ 536- Y (C09D)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 関根 裕
特許庁審判官 門前 浩一
亀ヶ谷 明久
登録日 2022-07-06 
登録番号 7101294
権利者 日本ペイント・インダストリアルコーティングス株式会社
発明の名称 水性塗料組成物、塗膜及び塗膜の製造方法  
代理人 山本 宗雄  
代理人 吉田 環  
代理人 山尾 憲人  

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