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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C12G
審判 全部申し立て 2項進歩性  C12G
審判 全部申し立て 特29条の2  C12G
審判 全部申し立て 1項2号公然実施  C12G
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C12G
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C12G
管理番号 1400468
総通号数 20 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2023-08-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-08-30 
確定日 2023-05-26 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第7027510号発明「容器詰めアルコール飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7027510号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし10〕について訂正することを認める。 特許第7027510号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7027510号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし10に係る特許についての出願は、平成28年4月14日に出願された特願2016−81255号の一部を令和2年11月20日に特願2020−193667号として新たに出願されたものであって、令和4年2月18日にその特許権の設定登録(請求項の数10)がされ、同年3月1日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年8月30日に特許異議申立人 副島 朋子(以下、「特許異議申立人A」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし10)がされ、同年同月31日に特許異議申立人 山本 美映子(以下、「特許異議申立人B」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし10)がされ、同年9月1日に特許異議申立人 田中 亜実(以下、「特許異議申立人C」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし10)がされ、同年11月28日付けで取消理由の通知がされ、同年12月9日に特許権者 アサヒビール株式会社(以下、「特許権者」という。)から上記取消理由の通知の応答期間の延長を求める旨の上申書が提出され、同年同月19日付けで上記取消理由の通知の応答期間を上記取消理由の通知の発送の日から90日とする旨の通知がされ、令和5年3月1日に特許権者から訂正請求がされるとともに意見書が提出され、同年同月10日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、同年4月13日に特許異議申立人Aから意見書が提出され、特許異議申立人B及びCからは何ら応答がなかったものである。

第2 本件訂正について
1 訂正の内容
令和5年3月1日にされた訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示すものである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「10〜200ppmの、イソアミルアルコール、イソブタノール、βフェネチルアルコール、酢酸イソアミル、酢酸エチル、カプロン酸エチル、及びカプリル酸エチルからなる群から選ばれる少なくとも一種の香気成分」と記載されているのを、「10〜200ppmの、イソアミルアルコール、イソブタノール、βフェネチルアルコール、酢酸イソアミル、酢酸エチル、カプロン酸エチル、及びカプリル酸エチルからなる香気成分」に訂正する。併せて、請求項1を直接又は間接的に引用する他の請求項についても同様に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「容器詰めアルコール飲料。」と記載されているのを、「容器詰めアルコール飲料(乙類焼酎を含むものを除く)。」に訂正する。併せて、請求項1を直接又は間接的に引用する他の請求項についても同様に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項2に「10〜200ppmの、イソアミルアルコール、イソブタノール、βフェネチルアルコール、酢酸イソアミル、酢酸エチル、カプロン酸エチル、及びカプリル酸エチルからなる群から選ばれる少なくとも一種の香気成分」と記載されているのを、「10〜200ppmの、イソアミルアルコール、イソブタノール、βフェネチルアルコール、酢酸イソアミル、酢酸エチル、カプロン酸エチル、及びカプリル酸エチルからなる香気成分」に訂正する。併せて、請求項2を直接又は間接的に引用する他の請求項についても同様に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項2に「炭酸飲料である」と記載されているのを、「果汁含有量が5質量%以下であり、炭酸飲料である」に訂正する。併せて、請求項2を直接又は間接的に引用する他の請求項についても同様に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項2に「容器詰めアルコール飲料。」と記載されているのを、「容器詰めアルコール飲料(乙類焼酎を含むものを除く)。」に訂正する。併せて、請求項2を直接又は間接的に引用する他の請求項についても同様に訂正する。

2 訂正の目的、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内か否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)請求項1についての訂正について
訂正事項1による請求項1についての訂正は、「香気成分」を「イソアミルアルコール、イソブタノール、βフェネチルアルコール、酢酸イソアミル、酢酸エチル、カプロン酸エチル、及びカプリル酸エチルからなる」ものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項2による請求項1についての訂正は、「乙類焼酎を含むもの」を除くものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1及び2による請求項1についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)請求項2についての訂正について
訂正事項3による請求項2についての訂正は、「香気成分」を「イソアミルアルコール、イソブタノール、βフェネチルアルコール、酢酸イソアミル、酢酸エチル、カプロン酸エチル、及びカプリル酸エチルからなる」ものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項4による請求項2についての訂正は、「炭酸飲料」を「果汁含有量が5質量%以下」のものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項5による請求項2についての訂正は、「乙類焼酎を含むもの」を除くものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項3ないし5による請求項2についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)請求項3ないし10についての訂正について
訂正事項1及び2による請求項3ないし10についての訂正は、請求項1についての訂正と同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項3ないし5による請求項3ないし10についての訂正は、請求項2についての訂正と同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1ないし5による請求項3ないし10についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 むすび
以上のとおり、訂正事項1ないし5による請求項1ないし10についての訂正は、特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。
また、訂正事項1ないし5による請求項1ないし10についての訂正は、いずれも、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。

なお、訂正前の請求項1ないし10は一群の請求項に該当するものである。
そして、訂正事項1ないし5による請求項1ないし10についての訂正は、それらについてされたものであるから、一群の請求項ごとにされたものであり、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
また、特許異議申立人AないしCからの特許異議の申立ては、いずれも、訂正前の請求項1ないし10に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。

したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし10〕について訂正することを認める。

第3 本件特許発明
上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし10に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいい、総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
蒸留酒と、
5〜150ppmのリモネンと、
10〜200ppmの、イソアミルアルコール、イソブタノール、βフェネチルアルコール、酢酸イソアミル、酢酸エチル、カプロン酸エチル、及びカプリル酸エチルからなる香気成分とを含有し、
果汁含有量が5質量%以下である、
容器詰めアルコール飲料(乙類焼酎を含むものを除く)。
【請求項2】
蒸留酒と、
5〜150ppmのリモネンと、
10〜200ppmの、イソアミルアルコール、イソブタノール、βフェネチルアルコール、酢酸イソアミル、酢酸エチル、カプロン酸エチル、及びカプリル酸エチルからなる香気成分とを含有し、
果汁含有量が5質量%以下であり、炭酸飲料である、
容器詰めアルコール飲料(乙類焼酎を含むものを除く)。
【請求項3】
容器に密封された飲料である、請求項1又は2に記載のアルコール飲料。
【請求項4】
更に、クエン酸を含有する、請求項1〜3のいずれかに記載のアルコール飲料。
【請求項5】
前記クエン酸の含有量が、0.05〜5.0g/Lである、請求項4に記載のアルコール飲料。
【請求項6】
更に、糖類を含有する、請求項1〜5のいずれかに記載のアルコール飲料。
【請求項7】
エタノール濃度が1.0〜20.0v/v%である、請求項1〜6のいずれかに記載のアルコール飲料。
【請求項8】
醸造酒を含有する、請求項1〜7のいずれかに記載のアルコール飲料。
【請求項9】
前記醸造酒が、ぶどう又はりんごの果実及び/又は果汁を発酵させた果実酒である、請求項8に記載のアルコール飲料。
【請求項10】
前記蒸留酒が、糖蜜由来である、請求項1〜9のいずれかに記載のアルコール飲料。」

第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
1 特許異議申立人Aが提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和4年8月30日に特許異議申立人Aが提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書A」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。

(1)申立理由A1(甲第A1号証から認定される公然実施をされた発明に基づく新規性進歩性
本件特許発明1ないし7は、下記の甲第A1号証から認定される本件特許の出願前に日本国内又は外国において「アサヒ本チューハイ泡盛オレンジ」、「アサヒ本チューハイ麦ユズ」又は「アサヒ本チューハイ芋レモン」として公然実施をされた発明であり、特許法第29条第1項第2号に該当し特許を受けることができないものであるか、該公然実施をされた発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(2)申立理由A2(甲第A10号証に基づく新規性進歩性
本件特許発明2、3、6及び7は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第A10号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第A10号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項2、3、6及び7に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(3)申立理由A3(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。

ア 特定香気成分とリモネンについて
「本発明の課題は、複雑な香りを有し、コクを有する容器詰めアルコール飲料を提供することにある。」(【0005】)と記載しているが、本件特許発明は特定香気成分の種類と含有量及びリモネンの含有量の範囲が広すぎて、上記課題を解決できない発明を包含している。

イ 蒸留酒について
本件特許発明は、「蒸留酒(を含有する)」を具備している。一方、実施例では95%エタノールを用いた模擬試料のデータしか示されていない。
すなわち蒸留酒には、ウィスキー、ブランデー、焼酎、スピリッツ、原料用アルコール等、多種多様のものが含まれるが、本件特許の実施例データは95%エタノールを用いた模擬試料によるものであり、蒸留酒という広い概念をサポートできるものではない。さらに、「糖蜜由来の蒸留酒が好ましく用いられる」と記載しているが、糖蜜由来の蒸留酒を用いることで本件特許発明の課題(複雑な香りを有し、コクを有する容器詰めアルコール飲料を提供すること)を解決できる根拠データも示されていない。

ウ クエン酸について
本件特許発明5では「前記クエン酸の含有量が、0.05〜5.0g/Lである」と規定されている。一方、本件特許の実施例1〜4(表1)、実施例7〜11(表2)では、クエン酸を2.2g添加した1点のみのデータしか示されていない。さらに、この2.2gのクエン酸は酸成分として添加したクエン酸であり、果汁由来のクエン酸は含まれない。そのため、各実施例の最終品のクエン酸含有量は2.2g/Lにはならず、具体的な値は不明である。
また、【0013】には「酸成分としては・・・クエン酸が好ましく用いられる。酸成分の含有量は、例えば、0.1〜10.0g/L、好ましくは0.5〜5.0g/Lである。」とあるが、この数値の根拠が不明である。さらに、本件特許発明5で規定されたクエン酸含有量の下限値0.05g/Lは、請求項の文言を繰り返した【0006】以外に見当たらない。

(4)証拠方法
甲第A1号証:「飲みやすさ・すっきり感をそのままに、乙類焼酎ならではの「味わい深さ」を両立させたチューハイ『アサヒ本チューハイ』3品種を新発売」アサヒビール株式会社ウェブサイト、平成17年11月29日掲載、URL:https://www.asahibeer.co.jp/news/2005/1129.html
甲第A2号証:Toussaint Barboni, Alain Muselli, Francois Luro, Jean-Marie Desjobert, Jean Costa, "Influence of processing steps and fruit maturity on volatile concentrations in juices from clementine, mandarin, and their hybrids", Eur Food Res Technol (2010) 231: 379-386
甲第A3号証:福田央ら「市販泡盛の揮発性成分組成の特性」日本醸造協会誌,公益財団法人日本醸造協会発行,第111巻,第4号,p261−270,2016年4月15日
甲第A4号証:「食品中の健康機能性成分の分析法マニュアル 柑橘の精油」四国地域イノベーション創出協議会 地域食品・健康分科会編,平成22年3月作成
甲第A5号証:瀬戸口智子ら「芋焼酎と黒糖焼酎における一般成分と一般香気成分 −市販本格焼酎の分析−」日本醸造協会誌,公益財団法人日本醸造協会発行,第109巻,第1号,p49−59,2014年1月15日
甲第A6号証:福田央ら「米焼酎・麦焼酎の揮発性成分組成と成分間の相関解析」日本醸造協会誌,公益財団法人日本醸造協会発行,第111巻,第12号,p841−873,2016年12月15日
甲第A7号証:Terence Radford, Kaoru Kawashima, Paul K. Friedel, Larry E. Pope, and Maurizio A. Gianturco, "Distribution of volatile compounds between the pulp and serum of some fruit juices", J. Agric. Food Chem. 1974, Vol. 22, No. 6, 1066-1070
甲第A8号証:Siqiong Zhong, Jingnan Ren, Dewen Chen, Siyi Pan, Kexing Wang, Shuzhen Yang, Gang Fan, "Free and Bound Volatile Compounds in Juice and Peel of Eureka Lemon", Food Science and Technology Research, 20(1), 167-174, 2014
甲第A9号証:Filiz Ucan, Erdal Agcam, Asiye Akyildiz, "Bioactive compounds and quality parameters of natural cloudy lemon juices", J Food Sci Technol (March 2016) 53(3):1465-1474
甲第A10号証:特開2016−146825号公報
甲第A11号証:Kristina L. Penniston, Stephen Y. Nakada, Ross P. Holmes, and Dean G. Assimos, "Quantitative Assessment of Citric Acid in Lemon Juice, Lime Juice, and Commercially-Available Fruit Juice Products", JOURNAL OF ENDOUROLOGY, Volume 22, Number 3, March 2008: 567-570
甲第A12号証:「化学大辞典」共立出版株式会社,昭和37年6月25日発行,表紙,第21−22頁,奥付
甲第A13号証:近 雅代ら「ユズ,レモン果皮の色調とカロチノイド組成の季節的変化」Nippon Shokuhin Kogyo Gakkaishi, Vol. 34, No. 1, 28-35 (1987)
甲第A14号証:飯野久栄ら「果実類の糖および酸含量と嗜好に関する研究(第6報)甘夏ミカン、八朔、伊予柑およびオレンジについて」食品総合研究所研究報告,No.43、1−7(1983)
証拠の表記は、特許異議申立書Aの記載におおむね従った。また、表記に際し、フランス語のセディーユ等の特殊記号の付いたアルファベットは特殊記号を付けずに表記した。以下、順に「甲A1」のようにいう。

2 特許異議申立人Bが提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和4年8月31日に特許異議申立人Bが提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書B」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。

(1)申立理由B1(甲第B1号証に基づく新規性進歩性
本件特許発明1、3、4、6、7及び10は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第B1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許発明1ないし10は、甲第B1号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(2)申立理由B2(甲第B2号証に基づく進歩性
本件特許の請求項1ないし10は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第B2号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(3)申立理由B3(甲第B3号証に基づく進歩性
本件特許の請求項1ないし10は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第B3号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(4)申立理由B4(実施可能要件
本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。

ア 蒸留酒について
本件特許発明1及び2は、ベース酒が甲式焼酎や原料用アルコールという、風味に特徴が少ないベース酒を用いていることが特定されていないため、そもそも本件特許発明の課題を有しないもの(例えば、独特の臭みやクセの強い乙類焼酎をベース酒とする発明)も幅広く含んでしまっている。

イ 香気成分の含有量について
本件特許発明1及び2では、リモネンの含有量が5〜150ppmに特定されており、また、イソアミルアルコール、イソブタノール、βフェネチルアルコール、酢酸イソアミル、酢酸エチル、カプロン酸エチル、及びカプリル酸エチルからなる群から選ばれる少なくとも一種の香気成分(以下、「イソアミルアルコール等の香気成分」と称する)の含有量が10〜200ppmに特定されている。
しかしながら、実施例では、リモネンの含有量が60ppmで、イソアミルアルコール等の香気成分の合計含有量が47〜188ppm(りんご果実酒を含む場合であれば25.7〜128.4ppm)のアルコール飲料が記載されているのみである。
これについて、リモネンの含有量が60ppm以外であったり、イソアミルアルコール等の香気成分の合計含有量が47〜188ppm以外であったりする場合(特に、リモネンの含有量やイソアミルアルコール等の香気成分の合計含有量が下限値又はそれに近い場合)にも、同様に本件特許発明の効果が奏されるかどうかは明らかではなく、また、そのような効果が奏されることが、本件特許の原出願日当時の技術水準であるとはいえない。

ウ イソアミルアルコール等の香気成分について
本件特許発明1及び2では、イソアミルアルコール、イソブタノール、βフェネチルアルコール、酢酸イソアミル、酢酸エチル、カプロン酸エチル、及びカプリル酸エチルの香気成分について、そのうちの少なくとも一種の香気成分が含まれることが特定されている。
しかしながら、実施例では、イソアミルアルコール等の香気成分の全てが含まれた飲料についての効果が示されているのみであり、また、その比較例では上記香気成分が一切含まれていないものが対比用の飲料とされている。
そのため、本件特許発明1及び2で特定されるイソアミルアルコール等の香気成分については、これらの全てを使用しない飲料において、本件特許発明の効果が奏されるかどうかは明らかではない。言い換えれば、イソアミルアルコール等の香気成分のうちいずれか一種のみを使用した飲料であっても、同様に本件特許発明の効果が奏されるのかどうかは明らかではない。さらに言えば、イソアミルアルコール等の香気成分のうち、いずれの香気成分が効果を奏するものかを特定することは不可能である。

(5)申立理由B5(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。

・上記(4)で指摘したアないしウの点。

(6)申立理由B6(明確性要件)
本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。

・イソアミルアルコール等の香気成分の含有量について
本件特許発明1及び2では、イソアミルアルコール、イソブタノール、βフェネチルアルコール、酢酸イソアミル、酢酸エチル、カプロン酸エチル、及びカプリル酸エチルの香気成分について、そのうちの少なくとも一種の香気成分が、10〜200ppmの含有量で飲料に含まれることが特定されている。
しかしながら、この10〜200ppmの含有量は、上記複数の香気成分のうち一種の含有量であるのか、それとも上記複数の香気成分を合計したものの含有量であるのかが明らかではない。

(7)証拠方法
甲第B1号証:特開2015−53920号公報
甲第B2号証:特開2012−244965号公報
甲第B3号証:特開2005−204585号公報
甲第B4号証:林ら、「香酸かんきつ類果汁の香気成分簡易抽出法による分析」、徳島県立工業技術センター研究報告、1992年12月、p.181−185
甲第B5号証:大野ら、「食品中の健康機能性成分の分析法マニュアル」、四国地域イノベーション創出協議会、平成22年3月
甲第B6号証:岡本ら、「県産ユズ果汁のブランド化推進支援(3)」、高知県工業技術センター研究報告、2014年10月、p.13−17
甲第B7号証:特開2012−147680号公報
甲第B8号証:吉沢ら、「酒類の香気成分」、日本醸造協会雑誌、1966年、第61巻第6号、p.481−485
甲第B9号証:Zhong et.al.,Free and Bound Volatile Compounds in Juice and Peel of Eureka Lemon,Food Science and Technology Research,2014年、20(1)p.167−174
甲第B10号証:特開2012−29663号公報
証拠の表記は、特許異議申立書Bの記載におおむね従った。以下、順に「甲B1」のようにいう。

3 特許異議申立人Cが提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和4年9月1日に特許異議申立人Cが提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書C」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。

(1)申立理由C1(甲第C1ないしC3号証から認定される従来技術に基づく進歩性
本件特許発明1ないし10は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第C1ないしC3号証から認定される従来技術に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(2)申立理由C2(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。

ア 香気成分について
本件特許発明は、「複雑な香りを有し、コクを有する容器詰めアルコール飲料を提供すること」を課題とするところ(本件特許明細書の【0005】)、その課題解決手段として、独立項に規定される本件特許発明1及び2は、その他の構成要件と組み合わせて、「イソアミルアルコール、イソブタノール、βフェネチルアルコール、酢酸イソアミル、酢酸エチル、カプロン酸エチル、及びカプリル酸エチルからなる群から選ばれる少なくとも一種の香気成分」を含有することを規定する。
しかし、本件特許発明が課題を解決できることを実証するものであるべき実施例においては、実施例1ないし11のすべてが「イソアミルアルコール、イソブタノール、βフェネチルアルコール、酢酸イソアミル、酢酸エチル、カプロン酸エチル、及びカプリル酸エチル」のすべての香気成分を含有する飲料であり、かかる実施例と、前記香気成分すべてを含有しない比較例5及び前記香気成分のすべてを含有するが本件特許発明に規定する「10〜200ppm」の含有量範囲を逸脱する比較例6とを比較することによる実証結果しか示されていない(本件特許明細書の【0016】ないし【0020】、特に【表1】及び【表2】)。そして、本件特許明細書には、前記香気成分のうち少なくとも一種が本件特許発明の課題を解決できることについてその作用機序に関する説明も何ら示されていない。
そうすると、当業者であっても、本件特許明細書の記載から、前記列挙された香気成分の少なくとも一種又は特定種の組み合わせによって本件特許発明の課題が解決できることを理解することができない。

イ 「炭酸飲料であること」について
独立項に規定される本件特許発明2は、「炭酸飲料であること」を要件とするところ、同じく独立項に規定される本件特許発明1にはかかる要件は存在しない。
しかし、本件特許明細書の実施例においては、実施例及び比較例のすべてが炭酸飲料である試料について検討したものであり、炭酸飲料ではない試料についての検討は何ら示されていない。また、本件特許明細書には、炭酸を含まない場合に本件特許発明の課題を解決できることについてその作用機序に関する説明も何ら示されていない。しかるに、炭酸を含むか否か、は飲料の呈味や風味に大きく影響するところ、炭酸を含まない場合に、本件特許発明が課題を解決できるものであることについて、当業者であっても理解することができない。

(3)申立理由C3(実施可能要件
本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。

・上記(2)で指摘したア及びイの点。

(4)証拠方法
甲第C1号証:大石雅志、外5名、「大麦焼酎に含まれる香気成分の官能特性とその分類について」、J.Brew.Soc.Japan、公益財団法人日本醸造協会、2013年、第108巻、第2号、p.113〜121
甲第C2号証:吉沢淑、「ウイスキー・ブランデーの香気成分」、日本醸造協會雑誌、日本醸造協会、1975年、第70巻、第1−2号、p.872〜879
甲第C3号証:“2013 GOOD DESIGN LONG LIFE DEESIGN AWARD|グッドデザイン・ロングライフデザイン賞 「ソフトアルコール飲料[タカラcanチューハイ]」”、[online]、2013年、公益財団法人日本デザイン振興会、[検索年月日:2002年8月5日]、インターネット<URL:https://www.g-mark.org/award/describe/40682>
甲第C4号証:ANTONIO DE LEON-RODRIGUEZ、外4名、“Characterization of Volatile Compounds of Mezcal,an Ethnic Alcoholic Beverage Obtained from Agave salmiana”,J.Agric.Food Chem.、アメリカ化学会、2006年、54、p.1337〜1341
甲第C5号証:VERSARI ANDREA、外3名、“Analysis of Some Italian Lemon Liquors(Limoncello) ",J.Agric.Food Chem.、アメリカ化学会、2003年、51、p.4978〜4983
証拠の表記は、特許異議申立書Cの記載におおむね従った。以下、順に「甲C1」のようにいう。

第5 取消理由の概要
令和4年11月28日付けで通知した取消理由の概要は次のとおりである。

1 取消理由1(甲A1に基づく新規性進歩性
本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲A1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲A1に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

2 取消理由2(甲A10に係る特許出願(特願2016−19846号)に基づく拡大先願)
本件特許の請求項2ないし7に係る発明は、本件特許の出願前の特許出願であって、本件特許の出願後に出願公開がされた甲A10に係る特許出願(特願2016−19846号)の願書に最初に添付された明細書又は特許請求の範囲に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許の出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許の出願の時において、本件特許の出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項2ないし7に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

3 取消理由3(甲B1に基づく新規性進歩性
本件特許の請求項1、3、4、6、7及び10に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲B1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許の請求項1ないし10に係る発明は甲B1に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
なお、該取消理由3は申立理由B1とおおむね同旨である。

4 取消理由4(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
なお、該取消理由4は申立理由B5のウ及び申立理由C2のアとおおむね同旨である。

本件特許の発明の詳細な説明には、「蒸留酒」、「リモネン」、「イソアミルアルコール」、「イソブタノール」、「βフェネチルアルコール」、「酢酸イソアミル」、「酢酸エチル」、「カプロン酸エチル」及び「カプリル酸エチル」のそれぞれが、複雑な香りやコクに関して、どのような作用機序を有するのかの記載はないが、実施例に関する記載において、「蒸留酒」、「リモネン」、「イソアミルアルコール」、「イソブタノール」、「βフェネチルアルコール」、「酢酸イソアミル」、「酢酸エチル」、「カプロン酸エチル」及び「カプリル酸エチル」を全て含有する「アルコール飲料」が、「イソアミルアルコール」、「イソブタノール」、「βフェネチルアルコール」、「酢酸イソアミル」、「酢酸エチル」、「カプロン酸エチル」及び「カプリル酸エチル」を含有しない「アルコール飲料」と比べて、複雑な香りを有すること及びコクを有することを確認している。
そうすると、当業者は、「蒸留酒」、「リモネン」、「イソアミルアルコール」、「イソブタノール」、「βフェネチルアルコール」、「酢酸イソアミル」、「酢酸エチル」、「カプロン酸エチル」及び「カプリル酸エチル」を全て含有する「アルコール飲料」であれば、「複雑な香りを有し、コクを有する容器詰めアルコール飲料」を提供するという発明の課題を解決できると認識できる。
しかし、本件特許発明1ないし10においては、上記「アルコール飲料」であることが特定されていない。
また、「蒸留酒」、「リモネン」、「イソアミルアルコール」、「イソブタノール」、「βフェネチルアルコール」、「酢酸イソアミル」、「酢酸エチル」、「カプロン酸エチル」及び「カプリル酸エチル」のいずれかを含有しない「アルコール飲料」でも発明の課題を解決できるというような当業者の出願時の技術常識もない。
したがって、本件特許発明1ないし10は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえないし、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるともいえない。
よって、本件特許発明1ないし10に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合しない。

第6 取消理由についての当審の判断
1 主な証拠に記載された事項等
(1)甲A1に記載された事項等
ア 甲A1に記載された事項
甲A1には、おおむね次の事項が記載されている。

・「

」(第1ページ)

・「

」(第2ページ)

イ 甲A1に記載された発明
甲A1に記載された事項を、特に【商品概要】欄の記載に関して整理すると、甲A1には次の発明(以下、順に「甲A1アサヒ本チューハイ泡盛オレンジ発明」、「甲A1アサヒ本チューハイ麦ユズ発明」及び「甲A1アサヒ本チューハイ芋レモン発明」という。)が記載されていると認める。

<甲A1アサヒ本チューハイ泡盛オレンジ発明>
「アルコール分:6%(うち泡盛1/4使用)、オレンジ果汁:3%、を含有する、リキュール(炭酸ガス含有)タイプである缶350ml入りのチューハイ。」

<甲A1アサヒ本チューハイ麦ユズ発明>
「アルコール分:6%(うち麦焼酎1/5使用)、ユズ果汁:0.1%、を含有する、リキュール(炭酸ガス含有)タイプである缶350ml入りのチューハイ。」

<甲A1アサヒ本チューハイ芋レモン発明>
「アルコール分:6%(うち芋焼酎1/5使用)、レモン果汁:5%、を含有する、リキュール(炭酸ガス含有)タイプである缶350ml入りのチューハイ。」

(2)甲A10に係る特許出願(特願2016−19846号)の願書に最初に添付された明細書又は特許請求の範囲に記載された事項等
ア 甲A10に係る特許出願(特願2016−19846号)の願書に最初に添付された明細書又は特許請求の範囲に記載された事項
甲A10に係る特許出願(特願2016−19846号)の願書に最初に添付された明細書又は特許請求の範囲(以下、「甲A10先願明細書等」という。)には、「果汁含有アルコール飲料」に関して、おおむね次の事項が記載されている。

・「【0035】
試験例1
柑橘類果汁含有アルコール飲料を下記のように調製した。具体的には、表1に示す組成に従って、果汁含有量は果汁率換算で12w/w%、飲料全体の酸度は0.54、pHは3.0となるように、各成分を混合後、1.8kgf/cm2になるように炭酸ガスを加え、缶に充填しその後熱水にて殺菌し、容器詰め柑橘類のチューハイ(実施例及び比較例)を調製した。」

・「【0037】



イ 甲A10先願明細書等に記載された発明
甲A10先願明細書等に記載された事項を、特に実施例1−6及び1−7に関して整理すると、甲A10先願明細書等には次の発明(以下、「甲A10先願発明」という。)が記載されていると認める。

<甲A10先願発明>
「米焼酎(25v/v%の含有アルコール量換算)2.4%又は7.2%、液糖2.0%、レモン果汁(濃縮6.5倍)1.85%、クエン酸Na0.07%、炭酸水適量を含有する容器詰めのチューハイ。」

(3)甲B1に記載された事項等
ア 甲B1に記載された事項
甲B1には、「単式蒸留アルコール含有液を含むアルコール飲料」に関して、おおむね次の事項が記載されている。

・「【0006】
本発明は、単式蒸留アルコール含有液を利用して、優れた風味を有するアルコール飲料を提供することを課題とする。」

・「【0031】
(酸度)
本発明においては、アルコール飲料の酸度を0.040〜0.400w/w%とすることが重要である。当該酸度は、好ましくは、0.044〜0.363w/w%、より好ましくは0.133〜0.269w/w%である。
【0032】
ここで、酸度とはクエン酸相当酸度、すなわち含まれる全ての酸をクエン酸と仮定した場合のクエン酸の重量パーセント濃度のことをいい、例えば、エキス10gを0.1規定の水酸化ナトリウムを用いてpH=8となるまで滴定し、その滴定量から算出することができる。
【0033】
酸度の調整は、例えば、飲料中に含まれる柑橘類果汁の含有量を調節することにより行うことができる。或いは、クエン酸等の酸を少量添加してもよい。
【0034】
(糖類等の糖質)
本発明の飲料は、糖類を含んでもよい。本明細書において用いる「糖類」とは、単糖及び二糖を意味する。本明細書における「単糖類」とは、当該技術分野で用いられる通常の意味を有する。本発明に用いられる単糖類には、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース等が含まれるが、これらに限定されない。本発明の飲料には、これらの単糖類のいずれか一つだけが単独で含まれていてもよいし、二以上の単糖類が含まれていてもよい。本明細書における「二糖類」とは、2分子及の単糖がグリコシド結合した糖類を意味する。本発明に用いられる二糖類には、マルトース、スクロース、ラクトース、トレハロース、セロビオースなどが含まれるが、これらに限定されない。本発明の飲料には、これらの二糖類のいずれか一つだけが単独で含まれていてもよいし、二以上の二糖類が含まれていてもよい。」

・「【0040】
本発明の飲料は、非炭酸アルコール飲料である。当該非炭酸アルコール飲料は、実質的に炭酸ガスを含まない。しかしながら、本発明の飲料の範囲には、ガス圧の上昇を検知できない程度のごく微量の炭酸ガスを含有する飲料は含まれる。」

・「【0042】
(容器詰飲料)
本発明のアルコール飲料は、容器詰めとすることができる。」

・「【実施例】
【0049】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0050】
実施例において用いられる「単式蒸留アルコール含有液の割合」との記載は、別途断らない限り、単式蒸留アルコール含有液の量(A)の、単式蒸留アルコール含有液と連続式蒸留アルコール含有液の量の合計(A+B)に対する、含有アルコール量換算での割合(A/(A+B)×100)を意味する。
【0051】
実施例1 単式蒸留アルコール含有液の割合の影響
柑橘類果汁としてレモン果汁を一定量用い、果汁含有量と酸度を一定に維持して、単式蒸留アルコール含有液の割合を含有アルコール量換算で0〜100v/v%の間で変化させ、アルコール飲料の風味を評価した。
【0052】
以下の手順で、表3の上段に示した配合でアルコール飲料を得た。
【0053】
先ず、連続式蒸留アルコール含有液(焼酎甲類)と単式蒸留アルコール(焼酎乙類)とを混合した。次いで、この混合物に、水と共に、香料、酸味料、糖類、オリゴ糖を加えて混合した。さらに、果汁と水を混合し、アルコール飲料を製造した。得られたアルコール飲料は、それぞれ瓶詰めした。」

・「【0071】
実施例4 ユズ果汁入りアルコール飲料
ユズ果汁を用いて、以下の条件でアルコール飲料を製造した。飲料製造は、実施例1に準じて行った。尚、ユズ果汁の基準酸度は5.1とした。
【0072】
単式蒸留アルコール含有液の割合(含有アルコール量換算):5v/v%、60v/v%
果汁含有量(ストレート果汁換算):0.7w/v%、6w/v%
酸度:0.044w/w%、0.363w/w%
配合を表6上段に示す。飲料中の、フルクトースの糖類に対する比率は10〜40w/w%であり、オリゴ糖の含有量は0.1〜25w/v%であり、アルコール度数は12.3v/v%であった。
【0073】
得られたアルコール飲料に対する官能評価を、実施例1と同様に行った。採点方法と得点(及び平均値)等の評価結果は表6下段に示されている通りである。
【0074】
【表6】




イ 甲B1に記載された発明
甲B1に記載された事項を、特に実施例4に関して整理すると、甲B1には次の発明(以下、「甲B1発明」という。)が記載されていると認める。

<甲B1発明>
「ユズ果汁0.9%、含有アルコール量換算割合で、焼酎甲類(アルコール度数35%)95.0%、焼酎乙類(アルコール度数44%)5.0%、を含有する容器詰めアルコール飲料。」

2 取消理由1(甲A1に基づく新規性進歩性)について
(1)甲A1アサヒ本チューハイ泡盛オレンジ発明との対比・判断
ア 本件特許発明1について
(ア)対比
本件特許発明1と甲A1アサヒ本チューハイ泡盛オレンジ発明を対比する。
両者は、次の点で一致する。
<一致点>
「蒸留酒を含有し、
果汁含有量が5質量%以下である、
容器詰めアルコール飲料。」

そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点A1−1a>
本件特許発明1においては、「5〜150ppmのリモネンと」「を含有し」と特定されているのに対し、甲A1アサヒ本チューハイ泡盛オレンジ発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点A1−1b>
本件特許発明1においては、「10〜200ppmの、イソアミルアルコール、イソブタノール、βフェネチルアルコール、酢酸イソアミル、酢酸エチル、カプロン酸エチル、及びカプリル酸エチルからなる香気成分とを含有し」と特定されているのに対し、甲A1アサヒ本チューハイ泡盛オレンジ発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点A1−1c>
本件特許発明1においては、「容器詰めアルコール飲料(乙類焼酎を含むものを除く)。」と特定されているのに対し、甲A1アサヒ本チューハイ泡盛オレンジ発明においては、そのようには特定されていない点。

(イ)判断
事案に鑑み、相違点A1−1cについて検討する。
甲A1及び令和5年3月1日に特許権者から提出された意見書に添付された乙第1号証(以下、「乙1」という。)によると、甲A1アサヒ本チューハイ泡盛オレンジ発明は乙類焼酎を必須成分として含むものである。
したがって、相違点A1−1cは実質的な相違点である。
そして、甲A1アサヒ本チューハイ泡盛オレンジ発明において、「乙類焼酎を含むものを除く」ようにする動機付けとなる記載は、甲A1にはないし、他の証拠にもない。
したがって、甲A1アサヒ本チューハイ泡盛オレンジ発明において、甲A1及び他の証拠に記載された技術的事項を考慮しても、相違点A1−1cに係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

(ウ)まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲A1アサヒ本チューハイ泡盛オレンジ発明であるとはいえないし、甲A1アサヒ本チューハイ泡盛オレンジ発明並びに甲A1及び他の証拠に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

イ 本件特許発明2について
(ア)対比
本件特許発明2と甲A1アサヒ本チューハイ泡盛オレンジ発明を対比する。
両者は、次の点で一致する。
<一致点>
「蒸留酒を含有し、
果汁含有量が5質量%以下であり、炭酸飲料である、
容器詰めアルコール飲料。」

そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点A1−2a>
本件特許発明2においては、「5〜150ppmのリモネンと」「を含有し」と特定されているのに対し、甲A1アサヒ本チューハイ泡盛オレンジ発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点A1−2b>
本件特許発明2においては、「10〜200ppmの、イソアミルアルコール、イソブタノール、βフェネチルアルコール、酢酸イソアミル、酢酸エチル、カプロン酸エチル、及びカプリル酸エチルからなる香気成分とを含有し」と特定されているのに対し、甲A1アサヒ本チューハイ泡盛オレンジ発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点A1−2c>
本件特許発明2においては、「容器詰めアルコール飲料(乙類焼酎を含むものを除く)。」と特定されているのに対し、甲A1アサヒ本チューハイ泡盛オレンジ発明においては、そのようには特定されていない点。

(イ)判断
事案に鑑み、相違点A1−2cについて検討する。
相違点A1−2cは相違点A1−1cと同じであるから、その判断も同じである。
すなわち、相違点A1−2cは実質的な相違点である。
また、甲A1アサヒ本チューハイ泡盛オレンジ発明において、甲A1及び他の証拠に記載された技術的事項を考慮しても、相違点A1−2cに係る本件特許発明2の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

(ウ)まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明2は甲A1アサヒ本チューハイ泡盛オレンジ発明であるとはいえないし、甲A1アサヒ本チューハイ泡盛オレンジ発明並びに甲A1及び他の証拠に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

ウ 本件特許発明3ないし7について
本件特許発明3ないし7は、請求項1又は2を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1又は2の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1又は2と同様に、甲A1アサヒ本チューハイ泡盛オレンジ発明であるとはいえないし、甲A1アサヒ本チューハイ泡盛オレンジ発明並びに甲A1及び他の証拠に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(2)甲A1アサヒ本チューハイ麦ユズ発明との対比・判断
ア 本件特許発明1について
(ア)対比
本件特許発明1と甲A1アサヒ本チューハイ麦ユズ発明を対比する。
両者は、次の点で一致する。
<一致点>
「蒸留酒を含有し、
果汁含有量が5質量%以下である、
容器詰めアルコール飲料。」

そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点A1−1d>
本件特許発明1においては、「5〜150ppmのリモネンと」「を含有し」と特定されているのに対し、甲A1アサヒ本チューハイ麦ユズ発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点A1−1e>
本件特許発明1においては、「10〜200ppmの、イソアミルアルコール、イソブタノール、βフェネチルアルコール、酢酸イソアミル、酢酸エチル、カプロン酸エチル、及びカプリル酸エチルからなる香気成分とを含有し」と特定されているのに対し、甲A1アサヒ本チューハイ麦ユズ発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点A1−1f>
本件特許発明1においては、「容器詰めアルコール飲料(乙類焼酎を含むものを除く)。」と特定されているのに対し、甲A1アサヒ本チューハイ麦ユズ発明においては、そのようには特定されていない点。

(イ)判断
事案に鑑み、相違点A1−1fについて検討する。
甲A1及び乙1によると、甲A1アサヒ本チューハイ麦ユズ発明は乙類焼酎を必須成分として含むものである。
したがって、相違点A1−1fは実質的な相違点である。
そして、甲A1アサヒ本チューハイ麦ユズ発明において、「乙類焼酎を含むものを除く」ようにする動機付けとなる記載は、甲A1にはないし、他の証拠にもない。
したがって、甲A1アサヒ本チューハイ麦ユズ発明において、甲A1及び他の証拠に記載された技術的事項を考慮しても、相違点A1−1fに係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

(ウ)まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲A1アサヒ本チューハイ麦ユズ発明であるとはいえないし、甲A1アサヒ本チューハイ麦ユズ発明並びに甲A1及び他の証拠に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

イ 本件特許発明2について
(ア)対比
本件特許発明2と甲A1アサヒ本チューハイ麦ユズ発明を対比する。
両者は、次の点で一致する。
<一致点>
「蒸留酒を含有し、
果汁含有量が5質量%以下であり、炭酸飲料である、
容器詰めアルコール飲料。」

そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点A1−2d>
本件特許発明2においては、「5〜150ppmのリモネンと」「を含有し」と特定されているのに対し、甲A1アサヒ本チューハイ麦ユズ発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点A1−2e>
本件特許発明2においては、「10〜200ppmの、イソアミルアルコール、イソブタノール、βフェネチルアルコール、酢酸イソアミル、酢酸エチル、カプロン酸エチル、及びカプリル酸エチルからなる群から選ばれる少なくとも一種の香気成分とを含有し」と特定されているのに対し、甲A1アサヒ本チューハイ麦ユズ発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点A1−2f>
本件特許発明2においては、「容器詰めアルコール飲料(乙類焼酎を含むものを除く)。」と特定されているのに対し、甲A1アサヒ本チューハイ麦ユズ発明においては、そのようには特定されていない点。

(イ)判断
事案に鑑み、相違点A1−2fについて検討する。
相違点A1−2fは相違点A1−1fと同じであるから、その判断も同じである。
すなわち、相違点A1−2fは実質的な相違点である。
また、甲A1アサヒ本チューハイ麦ユズ発明において、甲A1及び他の証拠に記載された技術的事項を考慮しても、相違点A1−2fに係る本件特許発明2の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

(ウ)まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明2は甲A1アサヒ本チューハイ麦ユズ発明であるとはいえないし、甲A1アサヒ本チューハイ麦ユズ発明並びに甲A1及び他の証拠に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

ウ 本件特許発明3ないし7について
本件特許発明3ないし7は、請求項1又は2を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1又は2の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1又は2と同様に、甲A1アサヒ本チューハイ麦ユズ発明であるとはいえないし、甲A1アサヒ本チューハイ麦ユズ発明並びに甲A1及び他の証拠に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(3)甲A1アサヒ本チューハイ芋レモン発明との対比・判断
ア 本件特許発明1について
(ア)対比
本件特許発明1と甲A1アサヒ本チューハイ芋レモン発明を対比する。
両者は、次の点で一致する。
<一致点>
「蒸留酒を含有し、
果汁含有量が5質量%以下である、
容器詰めアルコール飲料。」

そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点A1−1g>
本件特許発明1においては、「5〜150ppmのリモネンと」「を含有し」と特定されているのに対し、甲A1アサヒ本チューハイ芋レモン発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点A1−1h>
本件特許発明1においては、「10〜200ppmの、イソアミルアルコール、イソブタノール、βフェネチルアルコール、酢酸イソアミル、酢酸エチル、カプロン酸エチル、及びカプリル酸エチルからなる香気成分とを含有し」と特定されているのに対し、甲A1アサヒ本チューハイ芋レモン発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点A1−1i>
本件特許発明1においては、「容器詰めアルコール飲料(乙類焼酎を含むものを除く)。」と特定されているのに対し、甲A1アサヒ本チューハイ芋レモン発明においては、そのようには特定されていない点。

(イ)判断
事案に鑑み、相違点A1−1iについて検討する。
甲A1及び乙1によると、甲A1アサヒ本チューハイ芋レモン発明は乙類焼酎を必須成分として含むものである。
したがって、相違点A1−1iは実質的な相違点である。
そして、甲A1アサヒ本チューハイ芋レモン発明において、「乙類焼酎を含むものを除く」ようにする動機付けとなる記載は、甲A1にはないし、他の証拠にもない。
したがって、甲A1アサヒ本チューハイ芋レモン発明において、甲A1及び他の証拠に記載された技術的事項を考慮しても、相違点A1−1iに係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

(ウ)まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲A1アサヒ本チューハイ芋レモン発明であるとはいえないし、甲A1アサヒ本チューハイ芋レモン発明並びに甲A1及び他の証拠に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

イ 本件特許発明2について
(ア)対比
本件特許発明2と甲A1アサヒ本チューハイ芋レモン発明と対比する。
両者は、次の点で一致する。
<一致点>
「蒸留酒を含有し、
果汁含有量が5質量%以下であり、炭酸飲料である、
容器詰めアルコール飲料。」

そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点A1−2g>
本件特許発明2においては、「5〜150ppmのリモネンと」「を含有し」と特定されているのに対し、甲A1アサヒ本チューハイ芋レモン発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点A1−2h>
本件特許発明2においては、「10〜200ppmの、イソアミルアルコール、イソブタノール、βフェネチルアルコール、酢酸イソアミル、酢酸エチル、カプロン酸エチル、及びカプリル酸エチルからなる香気成分とを含有し」と特定されているのに対し、甲A1アサヒ本チューハイ芋レモン発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点A1−2i>
本件特許発明2においては、「容器詰めアルコール飲料(乙類焼酎を含むものを除く)。」と特定されているのに対し、甲A1アサヒ本チューハイ芋レモン発明においては、そのようには特定されていない点。

(イ)判断
事案に鑑み、相違点A1−2iについて検討する。
相違点A1−2iは相違点A1−1iと同じであるから、その判断も同じである。
すなわち、相違点A1−2iは実質的な相違点である。
また、甲A1アサヒ本チューハイ芋レモン発明において、甲A1及び他の証拠に記載された技術的事項を考慮しても、相違点A1−2iに係る本件特許発明2の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

(ウ)まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明2は甲A1アサヒ本チューハイ芋レモン発明であるとはいえないし、甲A1アサヒ本チューハイ芋レモン発明並びに甲A1及び他の証拠に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

ウ 本件特許発明3ないし7について
本件特許発明3ないし7は、請求項1又は2を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1又は2の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1又は2と同様に、甲A1アサヒ本チューハイ芋レモン発明であるとはいえないし、甲A1アサヒ本チューハイ芋レモン発明並びに甲A1及び他の証拠に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(4)取消理由1についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし7は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、取消理由1によっては取り消すことはできない。

3 取消理由2(甲A10に係る特許出願(特願2016−19846号)に基づく拡大先願)について
(1)本件特許発明2について
ア 対比
本件特許発明2と甲A10先願発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「蒸留酒を含有し、
炭酸飲料である、
容器詰めアルコール飲料。」

そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点A10−1>
本件特許発明2においては、「5〜150ppmのリモネンと」「を含有し」と特定されているのに対し、甲A10先願発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点A10−2>
本件特許発明2においては、「10〜200ppmの、イソアミルアルコール、イソブタノール、βフェネチルアルコール、酢酸イソアミル、酢酸エチル、カプロン酸エチル、及びカプリル酸エチルからなる香気成分とを含有し」と特定されているのに対し、甲A10先願発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点A10−3>
本件特許発明2においては、「果汁含有量が5質量%以下であり」と特定されているのに対し、甲A10先願発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点A10−4>
本件特許発明2においては、「容器詰めアルコール飲料(乙類焼酎を含むものを除く)。」と特定されているのに対し、甲A10先願発明においては、そのようには特定されていない点。

イ 判断
事案に鑑み、相違点A10−3について検討する。
甲A10先願発明は、「レモン果汁(濃縮6.5倍)1.85%」を含有するものであるから、「レモン果汁」を「12.025%」(=1.85%×6.5倍)含有するものといえ、「果汁含有量が5質量%以下であり」という本件特許発明2の発明特定事項を充足しない。
したがって、相違点A10−3は実質的な相違点である。
また、相違点A10−3は、課題解決のための具体化手段における微差であるともいえない。

ウ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明2は甲A10先願発明と同一であるとはいえない。

(2)本件特許発明3ないし7について
請求項2を直接又は間接的に引用して特定する本件特許発明3ないし7は、本件特許発明2の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明2と同様に、甲A10先願発明と同一であるとはいえない。

(3)取消理由2についてのむすび
したがって、本件特許発明2ないし7は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項2ないし7に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、取消理由2によっては取り消すことはできない。

4 取消理由3(甲B1に基づく新規性進歩性)について
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲B1発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「蒸留酒を含有し、
果汁含有量が5質量%以下である、
容器詰めアルコール飲料。」

そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点B1−1a>
本件特許発明1においては、「5〜150ppmのリモネンと」「を含有し」と特定されているのに対し、甲B1発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点B1−1b>
本件特許発明1においては、「10〜200ppmの、イソアミルアルコール、イソブタノール、βフェネチルアルコール、酢酸イソアミル、酢酸エチル、カプロン酸エチル、及びカプリル酸エチルからなる香気成分とを含有し」と特定されているのに対し、甲B1発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点B1−1c>
本件特許発明1においては、「容器詰めアルコール飲料(乙類焼酎を含むものを除く)。」と特定されているのに対し、甲B1発明においては、そのようには特定されていない点。

イ 判断
事案に鑑み、相違点B1−1cについて検討する。
甲B1発明は乙類焼酎を必須成分として含むものである。
したがって、相違点B1−1cは実質的な相違点である。
そして、甲B1発明において、「乙類焼酎を含むものを除く」ようにする動機付けとなる記載は、甲B1にはないし、他の証拠にもない。
したがって、甲B1発明において、甲B1及び他の証拠に記載された技術的事項を考慮しても、相違点B1−1cに係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

ウ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲B1発明であるとはいえないし、甲B1発明並びに甲B1及び他の証拠に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(2)本件特許発明2について
ア 対比
本件特許発明2と甲B1発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「蒸留酒を含有し、
果汁含有量が5質量%以下である、
容器詰めアルコール飲料。」

そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点B1−2a>
本件特許発明2においては、「5〜150ppmのリモネンと」「を含有し」と特定されているのに対し、甲B1発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点B1−2b>
本件特許発明2においては、「10〜200ppmの、イソアミルアルコール、イソブタノール、βフェネチルアルコール、酢酸イソアミル、酢酸エチル、カプロン酸エチル、及びカプリル酸エチルからなる群から選ばれる少なくとも一種の香気成分とを含有し」と特定されているのに対し、甲B1発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点B1−2c>
本件特許発明2においては、「炭酸飲料である」と特定されているのに対し、甲B1発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点B1−2d>
本件特許発明2においては、「容器詰めアルコール飲料(乙類焼酎を含むものを除く)。」と特定されているのに対し、甲B1発明においては、そのようには特定されていない点。

イ 判断
事案に鑑み、相違点B1−2dについて検討する。
相違点B1−2dは相違点B1−1cと同じであるから、その判断も同じである。
すなわち、相違点B1−2dは実質的な相違点である。
また、甲B1発明において、甲B1及び他の証拠に記載された技術的事項を考慮しても、相違点B1−2dに係る本件特許発明2の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

ウ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明2は甲B1発明並びに甲B1及び他の証拠に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本件特許発明3、4、6、7及び10について
請求項1を直接又は間接的に引用して特定する本件特許発明3、4、6、7及び10は、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲B1発明であるとはいえないし、甲B1発明並びに甲B1及び他の証拠に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
また、請求項2を直接又は間接的に引用して特定する本件特許発明3、4、6、7及び10は、本件特許発明2の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明2と同様に、甲B1発明並びに甲B1及び他の証拠に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)本件特許発明5、8及び9について
本件特許発明5、8及び9は請求項1又は2を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1又は2の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1又は2と同様に、甲B1発明並びに甲B1及び他の証拠に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(5)取消理由3についてのむすび
したがって、本件特許発明1、3、4、6、7及び10は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、本件特許発明1ないし10は、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、取消理由3によっては取り消すことはできない。

5 取消理由4(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。

(2)サポート要件の判断
本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第3のとおりである。
そして、本件特許の発明の詳細な説明(以下、「発明の詳細な説明」という。)の【0005】の「果汁及び香料等により風味を付与した容器詰めのアルコール飲料では、ベース酒として蒸留酒類を用いることが一般的である。特に、連続式蒸留機を用いる甲式焼酎、あるいは、廃糖蜜を発酵させて高度に精製した原料用アルコールなどが用いられる。このような蒸留酒類は、味や臭いが少なく、風味にクセが少ないことから、その蒸留酒類を原料として得られる容器詰めアルコール飲料も、すっきりとしてクセが無く、後味が残らない飲み口になる。また、原料用アルコール等の蒸留酒類は、安価であることから、価格的にも有利である。その一方で、風味に特徴が少ないベース酒が用いられることから、単調でコクのない味わいになる、という課題があった。そこで、本発明の課題は、複雑な香りを有し、コクを有する容器詰めアルコール飲料を提供することにある。」(当審注:改行は省略した。)という記載によると、本件特許発明の解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は、「複雑な香りを有し、コクを有する容器詰めアルコール飲料」を提供することである。
他方、発明の詳細な説明の【0006】には、本件特許発明1ないし10に対応する記載がある。
また、発明の詳細な説明の【0008】には、「5〜150ppmのリモネンと、10〜200ppmの特定香気成分とを用いることにより、複雑な香気を有し、コクを有する容器詰めアルコール飲料を得ることができる。」と記載されている。
そして、発明の詳細な説明には、「蒸留酒」、「リモネン」、「イソアミルアルコール」、「イソブタノール」、「βフェネチルアルコール」、「酢酸イソアミル」、「酢酸エチル」、「カプロン酸エチル」及び「カプリル酸エチル」のそれぞれが、複雑な香りやコクに関して、どのような作用機序を有するのかの記載はないが、実施例に関する記載において、「蒸留酒」、「リモネン」、「イソアミルアルコール」、「イソブタノール」、「βフェネチルアルコール」、「酢酸イソアミル」、「酢酸エチル」、「カプロン酸エチル」及び「カプリル酸エチル」を全て含有する「アルコール飲料」が、「イソアミルアルコール」、「イソブタノール」、「βフェネチルアルコール」、「酢酸イソアミル」、「酢酸エチル」、「カプロン酸エチル」及び「カプリル酸エチル」を含有しない「アルコール飲料」と比べて、複雑な香りを有すること及びコクを有することを確認している。
そうすると、当業者は、「蒸留酒」、「リモネン」、「イソアミルアルコール」、「イソブタノール」、「βフェネチルアルコール」、「酢酸イソアミル」、「酢酸エチル」、「カプロン酸エチル」及び「カプリル酸エチル」を全て含有する「アルコール飲料」であれば、発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件特許発明1ないし10は、発明の課題を解決できると認識できる上記「アルコール飲料」をさらに限定したものである。
したがって、本件特許発明1ないし10は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえ、本件特許発明1ないし10に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。

(3)取消理由4についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、取消理由4によっては取り消すことはできない。

第7 取消理由に採用しなかった特許異議申立書AないしCに記載した特許異議申立ての理由について
取消理由に採用しなかった特許異議申立書AないしCに記載した特許異議申立ての理由は、申立理由A1(甲A1から認定される公然実施をされた発明に基づく新規性進歩性)、申立理由A2(甲A10に基づく新規性進歩性)、申立理由A3(サポート要件)、申立理由B2(甲B2に基づく進歩性)、申立理由B3(甲B3に基づく進歩性)、申立理由B4(実施可能要件)、申立理由B5(サポート要件)のア及びイ、申立理由B6(明確性要件)、申立理由C1(甲C1ないしC3から認定される従来技術に基づく進歩性)、申立理由C2(サポート要件)のイ並びに申立理由C3(実施可能要件)である。
そこで、検討する。

1 申立理由A1(甲A1から認定される公然実施をされた発明に基づく新規性進歩性)について
(1)甲A1から認定される公然実施をされた発明及び対比・判断
仮に、甲A1から公然実施をされた発明を認定できるとすると、上記第6 1(1)イのとおりの、「甲A1アサヒ本チューハイ泡盛オレンジ発明」、「甲A1アサヒ本チューハイ麦ユズ発明」及び「甲A1アサヒ本チューハイ芋レモン発明」が認定できる。
そして、本件特許発明1ないし7と「甲A1アサヒ本チューハイ泡盛オレンジ発明」、「甲A1アサヒ本チューハイ麦ユズ発明」及び「甲A1アサヒ本チューハイ芋レモン発明」との対比・判断は、上記第6 2のとおりである。
すなわち、本件特許発明1ないし7は、甲A1から認定される公然実施をされた発明であるとはいえないし、甲A1から認定される公然実施をされた発明並びに甲A1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(2)申立理由A1についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし7は、特許法第29条第1項第2号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、申立理由A1によっては取り消すことはできない。

2 申立理由A2(甲A10に基づく新規性進歩性)について
甲A10は平成28年8月18日に公開されたものであり、本件特許の出願分割に係る原出願日(同年4月14日)より前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献ではないから、特許法第29条第1項第3号及び同法同条第2項の文献として引用することはできない。
したがって、本件特許の請求項2、3、6及び7に係る特許は、特許法第113条第2号に該当せず、申立理由A2によっては取り消すことはできない。

3 申立理由B2(甲B2に基づく進歩性)について
(1)甲B2に記載された発明
甲B2に記載された事項を、特に請求項1、6及び7に関して整理すると、甲B2には、次の発明(以下、「甲B2発明」という。)が記載されていると認める。

<甲B2発明>
「アルコールとしてワイン由来のアルコールを含み、
糖類が10〜40(w/v)%、総酸に対する糖類の重量比が6〜23、及びクエン酸に対する酒石酸の重量比率が10〜147(w/w)%に調整された、
蒸留酒を含有する、
アルコール飲料ベースを割り材で希釈することによって製造されるアルコール飲料。」

(2)対比・判断
ア 本件特許発明1について
(ア)対比
本件特許発明1と甲B2発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「蒸留酒を含有する、
アルコール飲料。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点B2−1a>
本件特許発明1においては、「5〜150ppmのリモネンと、
10〜200ppmの、イソアミルアルコール、イソブタノール、βフェネチルアルコール、酢酸イソアミル、酢酸エチル、カプロン酸エチル、及びカプリル酸エチルからなる香気成分とを含有し」と特定されているのに対し、甲B2発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点B2−1b>
本件特許発明1においては、「果汁含有量が5質量%以下である」と特定されているのに対し、甲B2発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点B2−1c>
本件特許発明1においては、「容器詰めアルコール飲料(乙類焼酎を含むものを除く)。」と特定されているのに対し、甲B2発明においては、そのようには特定されていない点。

(イ)判断
相違点B2−1aについて検討する。
甲B2発明において、「リモネン」及び「イソアミルアルコール、イソブタノール、βフェネチルアルコール、酢酸イソアミル、酢酸エチル、カプロン酸エチル、及びカプリル酸エチルからなる香気成分」を含有させ、それらの含有量を調整する動機付けとなる記載は、甲B2にはないし、他の証拠にもない。
したがって、甲B2発明において、甲B2及び他の証拠に記載された技術的事項を考慮しても、相違点B2−1aに係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

(ウ)まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲B2発明並びに甲B2及び他の証拠に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 本件特許発明2について
(ア)対比
本件特許発明2と甲B2発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「蒸留酒を含有する、
アルコール飲料。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点B2−2a>
本件特許発明2においては、「5〜150ppmのリモネンと、
10〜200ppmの、イソアミルアルコール、イソブタノール、βフェネチルアルコール、酢酸イソアミル、酢酸エチル、カプロン酸エチル、及びカプリル酸エチルからなる香気成分とを含有し」と特定されているのに対し、甲B2発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点B2−2b>
本件特許発明2においては、「果汁含有量が5質量%以下であり」と特定されているのに対し、甲B2発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点2−2c>
本件特許発明2においては、「炭酸飲料である」と特定されているのに対し、甲B2発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点B2−2d>
本件特許発明2においては、「容器詰めアルコール飲料(乙類焼酎を含むものを除く)。」と特定されているのに対し、甲B2発明においては、そのようには特定されていない点。

(イ)判断
相違点B2−2aについて検討する。
相違点B2−2aは相違点B2―1aと同じであるから、その判断も同じである。
すなわち、甲B2発明において、甲B2及び他の証拠に記載された技術的事項を考慮しても、相違点B2−2aに係る本件特許発明2の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

(ウ)まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明2は甲B2発明並びに甲B2及び他の証拠に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ 本件特許発明3ないし10について
本件特許発明3ないし10は、請求項1又は2を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1又は2の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1又は2と同様に、甲B2発明並びに甲B2及び他の証拠に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)申立理由B2についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし10は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、申立理由B2によっては取り消すことはできない。

4 申立理由B3(甲B3に基づく進歩性)について
(1)甲B3に記載された発明
甲B3に記載された事項を、特に請求項1に関して整理すると、甲B3には、次の発明(以下、「甲B3発明」という。)が記載されていると認める。

<甲B3発明>
「果実ワインを含有するアルコール飲料。」

(2)対比・判断
ア 本件特許発明1について
(ア)対比
本件特許発明1と甲B3発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「アルコール飲料。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点B3−1a>
本件特許発明1においては、「蒸留酒と」「を含有し」と特定されているのに対し、甲B3発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点B3−1b>
本件特許発明1においては、「5〜150ppmのリモネンと、
10〜200ppmの、イソアミルアルコール、イソブタノール、βフェネチルアルコール、酢酸イソアミル、酢酸エチル、カプロン酸エチル、及びカプリル酸エチルからなる香気成分とを含有し」と特定されているのに対し、甲B3発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点B3−1c>
本件特許発明1においては、「果汁含有量が5質量%以下である」と特定されているのに対し、甲B3発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点B3−1d>
本件特許発明1においては、「容器詰めアルコール飲料(乙類焼酎を含むものを除く)。」と特定されているのに対し、甲B3発明においては、そのようには特定されていない点。

(イ)判断
事案に鑑み、相違点B3−1bについて検討する。
甲B3発明において、「リモネン」及び「イソアミルアルコール、イソブタノール、βフェネチルアルコール、酢酸イソアミル、酢酸エチル、カプロン酸エチル、及びカプリル酸エチルからなる香気成分」を含有させ、それらの含有量を調整する動機付けとなる記載は、甲B3にはないし、他の証拠にもない。
したがって、甲B3発明において、甲B3及び他の証拠に記載された技術的事項を考慮しても、相違点B3−1bに係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

(ウ)まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲B3発明並びに甲B3及び他の証拠に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 本件特許発明2について
(ア)対比
本件特許発明2と甲B3発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「アルコール飲料。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点B3−2a>
本件特許発明2においては、「蒸留酒と」「を含有し」と特定されているのに対し、甲B3発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点B3−2b>
本件特許発明2においては、「5〜150ppmのリモネンと、
10〜200ppmの、イソアミルアルコール、イソブタノール、βフェネチルアルコール、酢酸イソアミル、酢酸エチル、カプロン酸エチル、及びカプリル酸エチルからなる香気成分とを含有し」と特定されているのに対し、甲B3発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点B3−2c>
本件特許発明2においては、「果汁含有量が5質量%以下であり」と特定されているのに対し、甲B3発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点B3−2d>
本件特許発明2においては、「炭酸飲料である」と特定されているのに対し、甲B3発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点B3−2e>
本件特許発明2においては、「容器詰めアルコール飲料(乙類焼酎を含むものを除く)。」と特定されているのに対し、甲B3発明においては、そのようには特定されていない点。

(イ)判断
事案に鑑み、相違点B3−2bについて検討する。
相違点B3−2bは相違点B3―1bと同じであるから、その判断も同じである。
すなわち、甲B3発明において、甲B3及び他の証拠に記載された技術的事項を考慮しても、相違点B3−2bに係る本件特許発明2の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

(ウ)まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明2は甲B3発明並びに甲B3及び他の証拠に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ 本件特許発明3ないし10について
本件特許発明3ないし10は、請求項1又は2を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1又は2の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1又は2と同様に、甲B3発明並びに甲B3及び他の証拠に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)申立理由B3についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし10は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、申立理由B3によっては取り消すことはできない。

5 申立理由C1(甲C1ないしC3から認定される従来技術に基づく進歩性)について
(1)甲C1ないしC3から従来技術として認定される発明
甲C3に記載された事項を整理すると、次の発明(以下、「甲C従来技術発明」という。)を認定することができる。
なお、特許異議申立人Cが特許異議申立書Cの第9ページで行ったような、本件訂正前の本件特許発明1及び2そのものを従来技術とする認定は、本件訂正前の本件特許の請求項1及び2の記載を見た上で、甲C1ないしC3という複数の文献に記載された事項を都合良く組み合わせて行ったものであるといえ、採用できない。

<甲C従来技術発明>
「11種類の焼酎が絶妙にブレンドされた、レモン果汁3.3%、アルコール分8%の「タカラcanチューハイ」。」

(2)対比・判断
ア 本件特許発明1について
(ア)対比
本件特許発明1と甲C従来技術発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「蒸留酒を含有し、
果汁含有量が5質量%以下である、
容器詰めアルコール飲料。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点C−1a>
本件特許発明1においては、「5〜150ppmのリモネンと、
10〜200ppmの、イソアミルアルコール、イソブタノール、βフェネチルアルコール、酢酸イソアミル、酢酸エチル、カプロン酸エチル、及びカプリル酸エチルからなる香気成分とを含有し」と特定されているのに対し、甲C従来技術発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点C−1b>
本件特許発明1においては、「容器詰めアルコール飲料(乙類焼酎を含むものを除く)。」と特定されているのに対し、甲C従来技術発明においては、そのようには特定されていない点。

(イ)判断
相違点C−1aについて検討する。
甲C従来技術発明において、「リモネン」及び「イソアミルアルコール、イソブタノール、βフェネチルアルコール、酢酸イソアミル、酢酸エチル、カプロン酸エチル、及びカプリル酸エチルからなる香気成分」を含有させ、それらの含有量を調整する動機付けとなる記載は、甲C1ないしC3にはないし、他の証拠にもない。
したがって、甲C従来技術発明において、甲C1ないしC3及び他の証拠に記載された技術的事項を考慮しても、相違C−1aに係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

(ウ)まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲C従来技術発明並びに甲C1ないしC3及び他の証拠に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 本件特許発明2について
(ア)対比
本件特許発明2と甲C従来技術発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「蒸留酒を含有し、
果汁含有量が5質量%以下である、
容器詰めアルコール飲料。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点C−2a>
本件特許発明2においては、「5〜150ppmのリモネンと、
10〜200ppmの、イソアミルアルコール、イソブタノール、βフェネチルアルコール、酢酸イソアミル、酢酸エチル、カプロン酸エチル、及びカプリル酸エチルからなる香気成分とを含有し」と特定されているのに対し、甲C従来技術発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点C−2b>
本件特許発明2においては、「炭酸飲料である」と特定されているのに対し、甲C従来技術発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点C−2c>
本件特許発明2においては、「容器詰めアルコール飲料(乙類焼酎を含むものを除く)。」と特定されているのに対し、甲C従来技術発明においては、そのようには特定されていない点。

(イ)判断
相違点C−2aについて検討する。
相違点C−2aは相違点C−1aと同じであるから、その判断も同じである。
すなわち、甲C従来技術発明において、甲C1ないしC3及び他の証拠に記載された技術的事項を考慮しても、相違点C−2aに係る本件特許発明2の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

(ウ)まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明2は甲C従来技術発明並びに甲C1ないしC3及び他の証拠に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ 本件特許発明3ないし10について
本件特許発明3ないし10は、請求項1又は2を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1又は2の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1又は2と同様に、甲C従来技術発明並びに甲C1ないしC3及び他の証拠に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)申立理由C1についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし10は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、申立理由C1によっては取り消すことはできない。

6 申立理由A3(サポート要件)、申立理由B5(サポート要件)のア及びイ並びに申立理由C2(サポート要件)のイについて
(1)サポート要件の判断
上記第6 5(2)のとおり、本件特許発明1ないし10に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。

(2)特許異議申立人Aの申立理由A3、特許異議申立人Bの申立理由B5のア及びイ並びに特許異議申立人Cの申立理由C2のイにおける主張について
ア 申立理由A3における主張について
(ア)申立理由A3のアについて
上記第6 5(2)のとおり、当業者は、「蒸留酒」、「リモネン」、「イソアミルアルコール」、「イソブタノール」、「βフェネチルアルコール」、「酢酸イソアミル」、「酢酸エチル」、「カプロン酸エチル」及び「カプリル酸エチル」を全て含有する「アルコール飲料」であれば、発明の課題を解決できると認識できる。
すなわち、本件特許発明は、当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
したがって、申立理由A3のアにおける主張は採用できない。

(イ)申立理由A3のイについて
当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲は、上記(ア)のとおりである。
すなわち、「蒸留酒」の種類は、当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲の認定とは関係がない。
なお、どのような「蒸留酒」であっても、多少は発明の課題を解決できると当業者は理解する。
したがって、申立理由A3のイにおける主張は採用できない。

(イ)申立理由A3のウについて
当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲は、上記(ア)のとおりである。
すなわち、発明の詳細な説明の実施例における「クエン酸含有量」が不明であったとしても、また、「クエン酸含有量」の下限値の根拠が不明だったとしても、それらは、当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲の認定とは関係がない。
したがって、申立理由A3のウにおける主張は採用できない。

イ 申立理由B5のア及びイにおける主張について
(ア)申立理由B5のアについて
当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲は、上記ア(ア)のとおりである。
すなわち、本件特許発明1及び2において、風味に特徴が少ないベース酒を用いることが特定されているかどうかは、発明の課題を解決できると認識できる範囲の認定とは関係がない。
なお、本件訂正により、本件特許発明1及び2は乙類焼酎を含むものではなくなっている。
したがって、申立理由B5のアにおける主張は採用できない。

(イ)申立理由B5のイについて
当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲は、上記ア(ア)のとおりである。
すなわち、リモネンの含有量が60ppm以下やイソアミルアルコール等の香気成分の含有量が47〜188ppm以外である場合に、本件特許発明の効果が奏されるかどうかは、発明の課題を解決できると認識できる範囲の認定とは関係がない。
なお、リモネンの含有量が60ppm以下やイソアミルアルコール等の香気成分の含有量が47〜188ppm以外である場合でも、リモネン及びイソアミルアルコール等の香気成分の全てが含まれている以上、多少は発明の課題を解決できると当業者は理解する。
したがって、申立理由B5のイにおける主張は採用できない。

ウ 申立理由C2のイにおける主張について
当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲は、上記ア(ア)のとおりである。
すなわち、「炭酸飲料」であるかどうかは、発明の課題を解決できると認識できる範囲の認定とは関係がない。
なお、「炭酸飲料」でない場合でも、多少は発明の課題を解決できると当業者は理解する。
したがって、申立理由C2のイにおける主張は採用できない。

(3)申立理由A3、B5のア及びイ並びにC2のイについてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえず、同法第113条第4号に該当しないので、申立理由A3、B5のア及びイ並びにC2のイによっては取り消すことはできない。

7 申立理由B4(実施可能要件)及び申立理由C3(実施可能要件)について
(1)実施可能要件の判断基準
上記第3のとおり、本件特許発明1ないし10は物の発明であるところ、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載があることを要する。
そこで、検討する。

(2)実施可能要件の判断
発明の詳細な説明には、本件特許発明1ないし10の各発明特定事項について具体的に記載され、実施例についてもその製造方法を含め具体的に記載されている。
したがって、本件特許の発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1ないし10を生産し、使用することができる程度の記載があるといえる。
よって、本件特許発明1ないし10に関して、発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を充足する。

(3)特許異議申立人Bの申立理由B4及び特許異議申立人Cの申立理由C3における主張について
ア 申立理由B4における主張について
(ア)申立理由B4のアについて
本件特許発明1及び2において、風味の特徴が少ないベース酒を用いることが特定されておらず、発明の課題を有していないものが含まれているとしても、そのことは、実施可能要件の判断を左右するものではない。
なお、本件訂正により、本件特許発明1及び2は乙類焼酎を含むものではなくなっている。
したがって、申立理由B4のアにおける主張は採用できない。

(イ)申立理由B4のイについて
リモネンの含有量が60ppm以下やイソアミルアルコール等の香気成分の含有量が47〜188ppm以外である場合に、本件特許発明の効果が奏されるかどうか不明であるとしても、そのことは、実施可能要件の判断を左右するものではない。
なお、リモネンの含有量が60ppm以下やイソアミルアルコール等の香気成分の含有量が47〜188ppm以外であった場合でも、リモネン及びイソアミルアルコール等の香気成分の全てが含まれている以上、多少は本件特許発明の効果を奏すると当業者は理解する。
したがって、申立理由B4のイにおける主張は採用できない。

(ウ)申立理由B4のウについて
本件特許発明1及び2において、イソアミルアルコール等の香気成分の全てを使用しない場合に、本件特許発明の効果が奏されるか明らかでないとしても、そのことは、実施可能要件の判断を左右するものではない。
なお、本件訂正により、本件特許発明1及び2はイソアミルアルコール等の香気成分の全てを使用するものになっている。
したがって、申立理由B4のウにおける主張は採用できない。

イ 申立理由C3における主張について
(ア)申立理由C3のアについて
上記ア(ウ)と同様であり、申立理由C3のアにおける主張は採用できない。

(ア)申立理由C3のイについて
本件特許発明1において、「炭酸飲料である」ことが要件とされておらず、発明の課題を解決できるものであることが理解できないとしても、そのことは、実施可能要件の判断を左右するものではない。
なお、「炭酸飲料」で本件特許発明の効果を奏する以上、「炭酸飲料」以外の「飲料」でも、多少は本件特許発明の効果を奏すると当業者は理解する。
したがって、申立理由C3のイにおける主張は採用できない。

(4)申立理由B4及びC3についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえず、同法第113条第4号に該当しないので、申立理由B4及びC3によっては取り消すことはできない。

8 申立理由B6(明確性要件)について
(1)明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
そこで、検討する。

(2)明確性要件の判断
本件特許の請求項1ないし10の記載は、上記第3のとおりであり、それ自体に不明確な記載はなく、また、発明の詳細な説明の記載とも整合している。
したがって、本件特許発明1ないし10に関して、特許請求の範囲の記載は、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。

(3)特許異議申立人Bの申立理由B6における主張について
特許異議申立人Bの申立理由B6における主張について検討する。
本件特許発明1及び2において特定される「10〜200ppm」が、「イソアミルアルコール、イソブタノール、βフェネチルアルコール、酢酸イソアミル、酢酸エチル、カプロン酸エチル、及びカプリル酸エチルからなる香気成分」という複数の香気成分を合計したものの含有量であることは、本件特許の請求項1及び2の記載自体から当業者に明らかであるし、そう理解することは発明の詳細な説明の【0008】の「飲料中の特定香気成分の含有量(合計値)は、10〜200ppmである。」という記載とも整合する。
したがって、特許異議申立人Bの申立理由B6における主張は採用できない。

(4)申立理由B6についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由B6によっては取り消すことはできない。

第8 結語
上記第6及び7のとおり、本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、取消理由及び特許異議申立書AないしCに記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸留酒と、
5〜150ppmのリモネンと、
10〜200ppmの、イソアミルアルコール、イソブタノール、βフェネチルアルコール、酢酸イソアミル、酢酸エチル、カプロン酸エチル、及びカプリル酸エチルからなる香気成分とを含有し、
果汁含有量が5質量%以下である、
容器詰めアルコール飲料(乙類焼酎を含むものを除く)。
【請求項2】
蒸留酒と、
5〜150ppmのリモネンと、
10〜200ppmの、イソアミルアルコール、イソブタノール、βフェネチルアルコール、酢酸イソアミル、酢酸エチル、カプロン酸エチル、及びカプリル酸エチルからなる香気成分とを含有し、
果汁含有量が5質量%以下であり、炭酸飲料である、
容器詰めアルコール飲料(乙類焼酎を含むものを除く)。
【請求項3】
容器に密封された飲料である、請求項1又は2に記載のアルコール飲料。
【請求項4】
更に、クエン酸を含有する、請求項1〜3のいずれかに記載のアルコール飲料。
【請求項5】
前記クエン酸の含有量が、0.05〜5.0g/Lである、請求項4に記載のアルコール飲料。
【請求項6】
更に、糖類を含有する、請求項1〜5のいずれかに記載のアルコール飲料。
【請求項7】
エタノール濃度が1.0〜20.0v/v%である、請求項1〜6のいずれかに記載のアルコール飲料。
【請求項8】
醸造酒を含有する、請求項1〜7のいずれかに記載のアルコール飲料。
【請求項9】
前記醸造酒が、ぶどう又はりんごの果実及び/又は果汁を発酵させた果実酒である、請求項8に記載のアルコール飲料。
【請求項10】
前記蒸留酒が、糖蜜由来である、請求項1〜9のいずれかに記載のアルコール飲料。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2023-05-18 
出願番号 P2020-193667
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (C12G)
P 1 651・ 537- YAA (C12G)
P 1 651・ 121- YAA (C12G)
P 1 651・ 113- YAA (C12G)
P 1 651・ 112- YAA (C12G)
P 1 651・ 16- YAA (C12G)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 平塚 政宏
特許庁審判官 三上 晶子
加藤 友也
登録日 2022-02-18 
登録番号 7027510
権利者 アサヒビール株式会社
発明の名称 容器詰めアルコール飲料  
代理人 ▲吉▼田 和彦  
代理人 服部 博信  
代理人 須田 洋之  
代理人 服部 博信  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 山崎 一夫  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 山崎 一夫  
代理人 須田 洋之  
代理人 ▲吉▼田 和彦  

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