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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A01N
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A01N
管理番号 1400480
総通号数 20 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2023-08-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-10-04 
確定日 2023-05-12 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第7049511号発明「特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品、及びこれを用いた特定有害物防除方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7049511号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜4〕、〔5〜8〕について」訂正することを認める。 特許第7049511号の請求項1、2、4〜6及び8に係る特許を維持する。 特許第7049511号の請求項3及び7に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第7049511号の請求項1〜8に係る特許についての出願は、2021年3月9日(優先権主張 2020年3月13日 日本国(JP))を国際出願日とする特願2021−517505号の一部を、令和3年6月29日に新たな特許出願としたものであって、令和4年3月29日にその特許権の設定登録がなされ、同年4月6日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許について、同年10月4日に特許異議申立人鈴木幸子(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがなされ、同年12月23日付けで取消理由が通知され、これに対して、令和5年2月17日に特許権者から意見書と訂正請求書が提出され、同年2月27日付けで申立人に対して訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、特許異議申立人から同年3月27日に意見書が提出されたものである。

第2 訂正の許否についての判断
1 令和5年2月17日に提出された訂正請求書による訂正請求について
令和5年2月17日に提出された訂正請求書を「本件訂正請求書」といい、本件訂正請求書による訂正の請求を「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。

2 請求の趣旨
令和5年2月17日に特許権者が行った訂正請求に係る請求の趣旨は、「特許第7049511号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜8について訂正することを求める。」というものである。

3 訂正の内容
本件訂正の内容は、以下のとおりである。(下線は、訂正箇所について合議体が付したものである。)

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記特定有害物防除成分は、イソプロピルメチルフェノール、ベンザルコニウム塩、モノカプリン、及び1,4−ビス[3,3´−(1−デシルピリジニウム)メチルオキシ]ブタン塩からなる群から選択される少なくとも一つを含み、
空間において、前記特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品を上方に向けて噴射し、
前記空間は、浴室であり、
前記エアゾール容器内の内圧が、25℃において0.60MPa以下に設定され、
前記定量噴射バルブの1回当たりの噴射容量は、0.08〜0.9mLに設定されている特定有害物防除方法。」とあるのを、「前記特定有害物防除成分は、イソプロピルメチルフェノール、ベンザルコニウム塩、モノカプリン、及び1,4−ビス[3,3´−(1−デシルピリジニウム)メチルオキシ]ブタン塩からなる群から選択される少なくとも一つを含み、
前記エアゾール原液の20℃における比重は、0.76〜0.95に設定されており、
空間において、前記特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品を上方に向けて噴射し、
前記空間は、浴室であり、
前記エアゾール容器内の内圧が、25℃において0.60MPa以下に設定され、
前記定量噴射バルブの1回当たりの噴射容量は、0.08〜0.9mLに設定されている特定有害物防除方法。」に訂正する。
(請求項1の記載を引用する請求項2、4も同様に訂正する。)

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4に「前記特定有害物防除成分の放出量が、0.01〜250mg/m3となるように、前記特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品を噴射する 請求項1〜3の何れか一項に記載の特定有害物防除方法。」とあるのを、「前記特定有害物防除成分の放出量が、0.01〜250mg/m3となるように、前記特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品を噴射する 請求項1又は2に記載の特定有害物防除方法。」に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5に「特定有害物防除成分及び有機溶剤を含有するエアゾール原液と、噴射剤とを、定量噴射バルブを備えたエアゾール容器に充填してなり、
前記特定有害物防除成分は、イソプロピルメチルフェノール、ベンザルコニウム塩、モノカプリン、及び1,4−ビス[3,3´−(1−デシルピリジニウム)メチルオキシ]ブタン塩からなる群から選択される少なくとも一つを含み、
空間において、前記特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品を上方に向けて噴射するように構成されており、
前記空間は、浴室であり、
前記エアゾール容器内の内圧が、25℃において0.60MPa以下に設定され、
前記定量噴射バルブの1回当たりの噴射容量は、0.08〜0.9mLに設定されている特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品。」とあるのを、「特定有害物防除成分及び有機溶剤を含有するエアゾール原液と、噴射剤とを、定量噴射バルブを備えたエアゾール容器に充填してなり、
前記特定有害物防除成分は、イソプロピルメチルフェノール、ベンザルコニウム塩、モノカプリン、及び1,4−ビス[3,3´−(1−デシルピリジニウム)メチルオキシ]ブタン塩からなる群から選択される少なくとも一つを含み、
前記エアゾール原液の20℃における比重は、0.76〜0.95に設定されており、
空間において、前記特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品を上方に向けて噴射するように構成されており、
前記空間は、浴室であり、
前記エアゾール容器内の内圧が、25℃において0.60MPa以下に設定され、
前記定量噴射バルブの1回当たりの噴射容量は、0.08〜0.9mLに設定されている特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品。」に訂正する。
(請求項5の記載を引用する請求項6及び8も同様に訂正する。)

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項7を削除する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項8に「前記特定有害物防除成分の放出量が、0.01〜250mg/m3に設定されている請求項5〜7の何れか一項に記載の特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品。」とあるのを、「前記特定有害物防除成分の放出量が、0.01〜250mg/m3に設定されている請求項5又は6に記載の特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品。」に訂正する。

4 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)訂正事項1による訂正について
ア 訂正の目的の適否について
訂正事項1に係る請求項1の訂正は、本件訂正前の請求項1における発明特定事項である「エアゾール原液」に関して、「エアゾール原液の20℃における比重は、0.76〜0.95に設定されて」いるものに限定して特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当する。
また、請求項1の上記訂正に連動する請求項2及び4の訂正も、同様の理由により、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

新規事項の追加の有無について
本件特許明細書の段落【0038】には、「エアゾール原液の20℃における比重は、0.76〜0.95に設定され」と記載され、訂正前の請求項3にも同じ記載があるから、登録時の明細書、特許請求の範囲及び図面(以下「本件特許明細書等」という。)の記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係で、新たな技術的事項の導入をするものとはいえない。
したがって、訂正事項1は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について
上記アのとおり、訂正事項1による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、カテゴリーを変更するものでもないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

エ また、請求項1の上記訂正に連動する請求項2及び4の訂正も、同様の理由により、本件特許明細書等に記載された事項の範囲内で行われるものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2による訂正について
ア 訂正の目的の適否について
訂正事項2に係る請求項3の訂正は、請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
よって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当する。

新規事項の追加の有無について
訂正事項2は、請求項を削除する訂正であり、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であることが明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について
訂正事項2は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、カテゴリーを変更するものでもないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(3)訂正事項3による訂正について
ア 訂正の目的の適否について
訂正事項3に係る請求項4の訂正は、訂正前の請求項4が「請求項1〜3何れか一項」を引用する記載であったところ、引用する請求項を「請求項1又は2」と減少させる訂正である。これは、引用する請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
よって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当する。

新規事項の追加の有無について
訂正事項3に係る請求項4についての訂正により、請求項4は請求項1又は2を引用するものとなったが、引用する請求項を減少させるだけの訂正であり、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であることが明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について
訂正事項3に係る請求項4についての訂正により、請求項4は請求項1又は2を引用するものとなったが、上記のとおり、これは特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、引用する請求項を減少させるだけの訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(4)訂正事項4による訂正について
ア 訂正の目的の適否について
訂正事項4に係る請求項5の訂正は、本件訂正前の請求項5における発明特定事項である「エアゾール原液」に関して、「エアゾール原液の20℃における比重は、0.76〜0.95に設定されて」いるものに限定して特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当する。
また、請求項5の上記訂正に連動する請求項6及び8の訂正も、同様の理由により、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

新規事項の追加の有無について
本件特許明細書の段落【0038】には、「エアゾール原液の20℃における比重は、0.76〜0.95に設定され」と記載され、訂正前の請求項7にも同じ記載があるから、本件特許明細書等の記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係で、新たな技術的事項の導入をするものとはいえない。
したがって、訂正事項4は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について
上記アのとおり、訂正事項4による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、カテゴリーを変更するものでもないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

エ また、請求項5の上記訂正に連動する請求項6及び8の訂正も、同様の理由により、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された事項の範囲内で行われるものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(5)訂正事項5による訂正について
ア 訂正の目的の適否について
訂正事項5に係る請求項7の訂正は、請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
よって、訂正事項5は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当する。

新規事項の追加の有無について
訂正事項5は、請求項を削除する訂正であり、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であることが明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について
訂正事項5は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、カテゴリーを変更するものでもないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(6)訂正事項6による訂正について
ア 訂正の目的の適否について
訂正事項6に係る請求項8の訂正は、訂正前の請求項8が「請求項5〜7何れか一項」を引用する記載であったところ、引用する請求項を「請求項5又は6」と減少させる訂正である。これは、引用する請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
よって、訂正事項6は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当する。

新規事項の追加の有無について
訂正事項6に係る請求項8についての訂正により、請求項8は請求項5又は6を引用するものとなったが、引用する請求項を減少させるだけの訂正であり、本件訂正前の本件特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であることが明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について
訂正事項6に係る請求項8についての訂正により、請求項8は請求項5又は6を引用するものとなったが、上記のとおり、これは特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、引用する請求項を減少させるだけの訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

なお、独立特許要件について、特許異議申立人による特許異議の申立ては、本件訂正前の全ての請求項に対してされているので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。

(7)一群の請求項について
本件訂正前の請求項1〜4について、請求項2〜4はそれぞれ請求項1を直接又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項1〜4は一群の請求項である。
また、本件訂正前の請求項5〜8について、請求項6〜8はそれぞれ請求項5を直接または間接的に引用しているものであって、訂正事項4によって記載が訂正される請求項5に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項5〜8は一群の請求項である。
したがって、訂正前の請求項1〜4及び請求項5〜8に、それぞれ対応する訂正後の請求項1〜4及び請求項5〜8に係る本件訂正請求は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に対してされたものである。

5 小括
以上のとおりであるから、令和5年2月17日に特許権者によってされた本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1〜4〕、〔5〜8〕について訂正することを認める。

第3 訂正後の特許請求の範囲の記載
上記第2のとおり、本件訂正は認められるので、本件訂正により訂正された特許請求の範囲の請求項1〜8に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」〜「本件特許発明8」という。まとめて、「本件特許発明」ということもある。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1〜8に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである(なお、令和4年12月23日付け取消理由通知の対象となった本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1〜8に係る発明を、「本件訂正前の本件特許発明1」〜「本件訂正前の本件特許発明8」といい、まとめて、「本件訂正前の本件特許発明」ということもある。)。

「【請求項1】
特定有害物防除成分及び有機溶剤を含有するエアゾール原液と、噴射剤とを、定量噴射バルブを備えたエアゾール容器に充填してなる特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品を用いて、有害微生物及び/又は有害微細物質を含む特定有害物を防除する特定有害物防除方法であって、
前記特定有害物防除成分は、イソプロピルメチルフェノール、ベンザルコニウム塩、モノカプリン、及び1,4−ビス[3,3´−(1−デシルピリジニウム)メチルオキシ]ブタン塩からなる群から選択される少なくとも一つを含み、
前記エアゾール原液の20℃における比重は、0.76〜0.95に設定されており、
空間において、前記特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品を上方に向けて噴射し、
前記空間は、浴室であり、
前記エアゾール容器内の内圧が、25℃において0.60MPa以下に設定され、
前記定量噴射バルブの1回当たりの噴射容量は、0.08〜0.9mLに設定されている特定有害物防除方法。
【請求項2】
前記上方は、天井及び/又は壁面上部である請求項1に記載の特定有害物防除方法。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
前記特定有害物防除成分の放出量が、0.01〜250mg/m3となるように、前記特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品を噴射する 請求項1又は2に記載の特定有害物防除方法。
【請求項5】
有害微生物及び/又は有害微細物質を含む特定有害物を防除するための特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品であって、
特定有害物防除成分及び有機溶剤を含有するエアゾール原液と、噴射剤とを、定量噴射バルブを備えたエアゾール容器に充填してなり、
前記特定有害物防除成分は、イソプロピルメチルフェノール、ベンザルコニウム塩、モノカプリン、及び1,4−ビス[3,3´−(1−デシルピリジニウム)メチルオキシ]ブタン塩からなる群から選択される少なくとも一つを含み、
前記エアゾール原液の20℃における比重は、0.76〜0.95に設定されており、
空間において、前記特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品を上方に向けて噴射するように構成されており、
前記空間は、浴室であり、
前記エアゾール容器内の内圧が、25℃において0.60MPa以下に設定され、
前記定量噴射バルブの1回当たりの噴射容量は、0.08〜0.9mLに設定されている特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品。
【請求項6】
前記上方は、天井及び/又は壁面上部である請求項5に記載の特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品。
【請求項7】
(削除)
【請求項8】
前記特定有害物防除成分の放出量が、0.01〜250mg/m3に設定されている請求項5又は6に記載の特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品。」

第4 特許異議申立人が申し立てた理由及び取消理由
1 特許異議申立人が申し立てた理由
異議申立理由1:請求項1〜8に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された、又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明及び甲第3〜9号証に記載された技術的事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

異議申立理由2:請求項1〜8に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された、又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第2号証に記載された発明並びに甲第1及び3〜9号証に記載された技術的事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

異議申立理由3:本件特許発明は、「エアゾール容器内の内圧が、25℃において0.60MPa以下に設定」され、下限値が特定されておらず、0MPa又はそれに近い値の場合、通常のエアゾール製品として機能しない範囲を含み、技術的に明確でないから、請求項1〜8に係る発明は明確ではなく、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に適合するものではないので、請求項1〜8に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

異議申立理由4−1:本件特許発明は、エアゾール容器の内圧が0MPa又はそれに近い値の場合には、定量噴射製品を構成することができず、天井や壁に対して十分量の防除成分を均一に付着することができないから、本件特許発明の課題が解決できると認識できず、請求項1〜8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明ではなく、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないので、請求項1〜8に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

異議申立理由4−2:本件特許明細書における実施例1、6及び9と比較例2のデータによれば、25℃での内圧と噴射力には一定の関係性がないことから、25℃での内圧が0.6MPa以下でも噴射力を10.5gf/15cm程度とすることが可能で、天井や壁に対して十分量の防除成分を均一に付着することができるか不明であるので、本件特許発明の課題が解決できると認識できないから、請求項1〜8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明ではなく、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないので、請求項1〜8に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

異議申立理由4−3:本件特許発明は、定量噴射バルブの1回あたりの噴射容量を「0.08〜0.9mLに設定」しているが、実施例1、3、4、6、9、11、12及び16においては、噴射容量が0.4mLであり、0.08mLの場合等極めて少ない場合には、天井や壁に対して十分量の防除成分を均一に付着することができないことは明らかなので、本件特許発明の課題が解決できると認識できないから、請求項1〜8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明ではなく、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないので、請求項1〜8に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

異議申立理由4−4:本件特許発明は、エアゾール原液における特定有害物防除成分の含有量について特定されていないが、噴射に際して用いるエアゾール原液中の特定有害物防除成分の含有量も、天井や壁に対して十分量の防除成分を均一に付着するために影響することは明らかであり、本件特許発明の課題が解決できると認識できないから、請求項1〜8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明ではなく、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないので、請求項1〜8に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。



甲第1号証:国際公開2019/117164号
甲第2号証:特開2014−88327号公報
甲第3号証:特開2019−99575号公報
甲第4号証:日本防菌防黴学会誌、2014年、Vol.42、No.6、p.295〜298
甲第5号証:生活衛生、1999年、Vol.43、No.3、p.89〜96
甲第6号証:システムバスルーム アライズ Technical Data 資料編、LIXIL、2015年2月、表紙及びp.127〜129
甲第7号証:システムバスルーム サザナ 基本仕様、TOTO、2018年6月、表紙及びp.176〜177
甲第8号証:特開2006−320857号公報
甲第9号証:特開2019−188301号公報

なお、令和5年3月27日付け意見書とともに、甲第10号証として、本願の原出願である特願2021−517505号の優先権主張の基礎となる特願2020-44039号の出願明細書等がサポート要件違反の理由の証拠として提出されているが、後記の摘記を省略した。

2 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1、2、4〜6及び8に係る特許に対して、当審において令和4年12月23日付け取消理由通知で特許権者に通知した取消理由の要旨は、以下のとおりである。

1 (サポート要件)本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。



本件訂正前の請求項1、2、4〜6及び8には、特定有害防除方法又は特定有害防除用定量噴射用定量噴射エアゾール製品として、エアゾール原液の20℃における比重について特定しない発明が記載されており、一方発明の詳細な説明においては、【0011】【0012】【0038】には、エアゾール原液の20℃における比重が0.76〜0.95であることが、課題解決のための構成であり、噴射粒子の沈降に関わる重要なファクターであることが記載されている。
したがって、本件訂正前の特許発明1、2、4〜6及び8において、エアゾール原液の20℃における比重が0.76〜0.95であることは、上記課題解決の前提条件であると理解でき、エアゾール原液の20℃における比重を0.80〜0.89とした実施例のみからでは本件訂正前の本件特許発明の課題が解決できると認識できないから、請求項1、2、4〜6及び8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明とはいえない。

第5 当審合議体の判断
当審合議体は、請求項1〜8に係る特許は、当審合議体の通知した取消理由及び特許異議申立人が申し立てた理由によっては、取り消すことはできないと判断する。
理由は以下のとおりである。

I 取消理由(サポート要件)の判断
1 特許法第36条第6項第1号の判断の前提
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

2 特許請求の範囲の記載
請求項1には、前記第2のとおり、「特定有害物防除成分及び有機溶剤を含有するエアゾール原液と、噴射剤とを、定量噴射バルブを備えたエアゾール容器に充填してなる特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品を用いて、有害微生物及び/又は有害微細物質を含む特定有害物を防除する特定有害物防除方法」において、「前記特定有害物防除成分は、イソプロピルメチルフェノール、ベンザルコニウム塩、モノカプリン、及び1,4−ビス[3,3´−(1−デシルピリジニウム)メチルオキシ]ブタン塩からなる群から選択される少なくとも一つを含」むこと、「前記エアゾール原液の20℃における比重は、0.76〜0.95に設定され」ること、「浴室であ」る「空間において、前記特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品を上方に向けて噴射」すること、「前記エアゾール容器内の内圧が、25℃において0.60MPa以下に設定され」ること、並びに「前記定量噴射バルブの1回当たりの噴射容量は、0.08〜0.9mLに設定されている」ことを特定した方法の発明が記載されている。
また、請求項2には、請求項1において、「前記上方は、天井及び/又は壁面上部である」ことを特定した方法の発明が記載されている。
さらに、請求項4には、請求項1又は2において、「前記特定有害物防除成分の放出量が、0.01〜250mg/m3となるように、前記特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品を噴射する」ことが特定された方法の発明が記載されている。
そして、請求項5には、「有害微生物及び/又は有害微細物質を含む特定有害物を防除するための特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品」において、「特定有害物防除成分及び有機溶剤を含有するエアゾール原液と、噴射剤とを、定量噴射バルブを備えたエアゾール容器に充填してな」ること、「前記特定有害物防除成分は、イソプロピルメチルフェノール、ベンザルコニウム塩、モノカプリン、及び1,4−ビス[3,3´−(1−デシルピリジニウム)メチルオキシ]ブタン塩からなる群から選択される少なくとも一つを含」むこと、「浴室であ」る「空間において、前記特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品を上方に向けて噴射するように構成されて」いること、「前記エアゾール容器内の内圧が、25℃において0.60MPa以下に設定され」ていること、並びに「前記定量噴射バルブの1回当たりの噴射容量は、0.08〜0.9mLに設定されている」ことを特定した物の発明が記載されている。
さらに、請求項6には、請求項5において、「前記上方は、天井及び/又は壁面上部である」ことを特定した物の発明が記載されている。
また、請求項8には、請求項5又は6において、「前記特定有害物防除成分の放出量が、0.01〜250mg/m3に設定されている」ことが特定された物の発明が記載されている。

3 発明の詳細な説明の記載
ア 本願の発明の詳細な説明には、特許請求の範囲に記載された発明に対応した記載として、実質的な繰り返し記載を除いて以下のような記載がある(下線は、当審合議体にて追加。以下同様。)。

イ まず、【0006】〜【0010】には、発明が解決しようとする課題の記載として、以下の記載がある。
「【0006】
特許文献1の定量噴射エアゾール製品は、噴射の勢いを高めることで害虫防除効率を向上させたものであるが、このような噴射の勢いの強い定量噴射エアゾール製品は、風呂やトイレ等の狭小空間での使用に適した製剤設計であるとは必ずしも言えなかった。
【0007】
特許文献2の定量噴射エアゾール製品は、空間だけでなく床面に対しても十分な消臭効果を発揮するとされているが、カビや菌等の有害微生物は、掃除が行き届きにくい天井や壁での発生や繁殖等が問題となることから、浴室やトイレ等の狭小空間での有害微生物の防除に必ずしも適しているものではなかった。
【0008】
このように、殺虫や消臭等を目的とした定量噴射エアゾール製品は種々開発されているが、カビ、菌、ウイルス等の有害微生物や、ハウスダスト、PM2.5等の有害微細物質を防除対象とする定量噴射エアゾール製品の開発は困難とされ、未だ実用化されていない。
【0009】
特に浴室におけるカビ等の有害微生物の防除には、これまで(1)燻煙剤や(2)全量噴射型エアゾールが一般的であった。これらの製剤は一回の処理で使用後一定期間、カビ等の有害微生物の発生を防ぐとされているが、その都度、使用済みの燻煙剤や全量噴射型エアゾールを廃棄する必要があり、手間を要した。また、使用箇所を完全に密閉できていなければ、使用中に煙や薬剤の一部が他の部屋に漏れだす虞があった。そのため、(1)燻煙剤や(2)全量噴射型エアゾールよりも簡便な操作により、カビ等の有害微生物の防除が可能な定量噴射エアゾール製品の開発が望まれている。
【0010】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、天井や壁に十分量の防除成分が均一に付着することで、空間(特に、狭小空間)において、有害微生物及び/又は有害微細物質を含む特定有害物に対して優れた防除効果を発揮することが可能な特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品、及びこれを用いた特定有害物防除方法を提供することを目的とする。」

ウ そして、【0011】には、「前記エアゾール原液と 上記課題を解決するための本発明に係る特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品の特徴構成は、
空間において、有害微生物及び/又は有害微細物質を含む特定有害物を防除するための特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品であって、
特定有害物防除成分及び有機溶剤を含有するエアゾール原液と、噴射剤とを、定量噴射バルブを備えたエアゾール容器に充填してなり、
前記エアゾール原液の20℃における比重は、0.76〜0.95であり、
前記エアゾール容器内において、内圧が25℃において0.60MPa以下に設定されていることにある。」と記載され、エアゾール原液の20℃における比重が0.76〜0.95であることが、課題を解決するための特徴構成に含まれるものであることが明記されている。
また、【0012】には、「本構成の特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品によれば、特定有害物防除成分及び有機溶剤を含有するエアゾール原液と、噴射剤とを、定量噴射バルブを備えたエアゾール容器に充填してなり、エアゾール原液の20℃における比重、及び25℃におけるエアゾール容器の内圧が上記の範囲にあることにより、特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品を空間に向けて噴射したときに、噴射粒子が過剰に気中に残存することなく天井や壁面に十分量の防除成分が均一に付着する。カビ、細菌等の有害微生物は、掃除が行き届きにくい天井や壁面で多く発生、繁殖等する傾向にあり、ハウスダスト等の有害微細物質についても、天井や壁面に付着し易いため、天井や壁面に均一に付着した十分量の防除成分により、空間において、有害微生物及び/又は有害微細物質を含む特定有害物に対して優れた防除効果を発揮することができる。」及び【0024】には、「本構成の特定有害物防除方法によれば、特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品を屋内で空間に向けて噴射するだけの簡便な操作により、噴射粒子が過剰に気中に残存することなく天井や壁面に十分量の防除成分が均一に付着する。カビ、細菌等の有害微生物は、掃除が行き届きにくい天井や壁面で多く発生、繁殖等する傾向にあり、ハウスダスト等の有害微細物質についても、天井や壁面に付着し易いため、天井や壁面に均一に付着した十分量の防除成分により、空間において、有害微生物及び/又は有害微細物質を含む特定有害物に対して優れた防除効果を発揮することができる。」との特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品及び該定量噴射エアゾール製品を用いた特定有害物防除方法について、課題を解決するための手段に関する記載もある。
さらに、【0038】には、「エアゾール原液の20℃における比重は、0.76〜0.95に設定され、0.76〜0.90が好ましく、0.76〜0.88がより好ましい。エアゾール原液の20℃における比重は、噴射粒子の沈降に関わる重要なファクターであり、エアゾール原液の20℃における比重が0.76〜0.95であれば、空間(特に、狭小空間)において、噴射後の十分量の防除成分を天井や壁面に均一に付着させることができる。カビ、細菌等の有害微生物は、掃除が行き届きにくい天井や壁面等で多く発生、繁殖等する傾向にあり、ハウスダスト等の有害微細物質についても、天井や壁面に付着し易いため、天井や壁面に均一に付着した十分量の防除成分により、空間(特に、狭小空間)において、有害微生物及び/又は有害微細物質を含む特定有害物に対して優れた防除効果を発揮することができる。」とのエアゾール原液の20℃における比重に関する記載もある。

エ そして、【0030】〜【0037】及び【0039】〜【0050】には、「特定有害物」等の用語の定義、エアゾール原液中の特定有害物防除成分の例示及び含有量、エアゾール原液中の有機溶剤の例示、エアゾール原液中のその他の成分、噴射剤の例示やゲージ圧、エアゾール原液と噴射剤剤との容積比率、エアゾール容器の内圧の範囲及び測定の手順、噴射力の範囲及び測定基準、一回当たりの噴射容量、噴射部材や定量噴射バルブを備えた噴射容器の構造、気中への 特定有害物防除成分の放出量の範囲、特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品による防除期間、特定有害物の種類、特定有害物防除方法に関するそれぞれ記載がある。

オ 具体的記載としては、実施例1、3、4、6、8、9、11〜13及び16として、特定有害物防除成分として、イソプロピルメチルフェノール(IPMP)、ベンザルコニウムクロライド、モノカプリン(1,4−ビス[3,3´−(1−デシルピリジニウム)メチルオキシ]ブタンジブロマイドについては、本件特許発明には該当しない実施例15として使用されている。)等を用い、25℃における内圧を0.45、0.53、0.23MPaとし、エアゾール原液の20℃における比重を0.82、0.81、0.80、0.89、0.83、0.88とし、1回の噴射容量が0.4mLとし、1回あたり噴射あたりの防除成分の噴射量が、24、2、1.6、72mgとしたエアゾール製品が調製され、比較例として、噴射剤を含まない比較例1、25℃における内圧を0.65MPa、エアゾール原液の20℃における比重を0.82とした比較例2、及び25℃における内圧を0.45MPa、エアゾール原液の20℃における比重を1.00とした比較例3のエアゾール製品が調製されたことが示されている(【0051】〜【0056】)。
そして、それらの実施例及び比較例について、(1)特定有害物防除成分の天井・壁面付着性と拡散均一性を評価するための試験を行い、試験結果が表2に示され(【0059】)、【0060】〜【0062】の表2の結果の考察として、以下の記載がある。
「【0060】
試験の結果、実施例1〜16の特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品では、特定有害物防除成分の天井・壁面付着性が良好であった。中でも、20℃における比重が0.76〜0.88である実施例1、3〜10、12〜15は特定有害物防除成分の天井・壁面付着性に加えて、拡散均一性も良好であり、より優れたものであった。このことから、本発明の特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品によれば、空間での有害微生物及び/又は有害微細物質を含む特定有害物に対する防除効果が確認された。
【0061】
これに対して、比較例1のポンプ式スプレー製品、及びエアゾール原液の20℃における比重が0.95を超える比較例3の定量噴射エアゾール製品は、防除成分の天井・壁面付着性が低いものとなった。このことから、比較例1のポンプ式スプレー製品、及び比較例3の定量噴射エアゾール製品では、空間での有害微生物及び/又は有害微細物質を含む特定有害物に対する防除効果が十分ではないと考えられる。
【0062】
25℃において内圧が0.60MPaを超える比較例2の定量噴射エアゾール製品は、天井及び壁面への拡散均一性の面で不十分であった。」
さらに、【0063】〜【0065】には、[試験例1]〜[試験例3]として、実施例1、4、8の特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品を入口から4回又は2回噴射処理した。14日後又は7日に確認したところ、浴室内にピンク色のヌメリ(細菌)や黒カビ(カビ)が発生しておらず、それらの期間ピンク色のヌメリ(細菌)や黒カビ(カビ)の防除をすることができ、浴室で噴射操作をしている間もむせ等の刺激を感じることがなかったとの結果及び考察の記載がある(【0066】及び【0067】には、[試験例4]及び[試験例5]として、それぞれ、噴射容量が本件特許発明に該当しない実施例14、15の特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品を用いて、上記試験例と同様の結果を得たことが示されている。)

4 判断
ア 本件特許発明の課題について
本件特許発明の課題は、【0010】の「本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、天井や壁に十分量の防除成分が均一に付着することで、空間(特に、狭小空間)において、有害微生物及び/又は有害微細物質を含む特定有害物に対して優れた防除効果を発揮することが可能な特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品、及びこれを用いた特定有害物防除方法を提供することを目的とする。」との記載及び本件明細書全体の記載を参酌して、本件特許発明1、2及び4に関しては、天井や壁に十分量の防除成分が均一に付着することで、空間(特に、狭小空間)において、有害微生物及び/又は有害微細物質を含む特定有害物に対して優れた防除効果を発揮することが可能な特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品を用いた特定有害物防除方法の提供にあり、本件特許発明5、6及び8に関しては、上記特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品の提供にあると認める。

イ 上記課題が解決できると認識できるかの判断
本件訂正後の請求項1及び5には、「前記エアゾール原液の20℃における比重は、0.76〜0.95に設定されており、」との特定事項が追加された。
本件訂正前の請求項1、2、4〜6及び8には、特定有害防除方法又は特定有害防除用定量噴射用定量噴射エアゾール製品として、エアゾール原液の20℃における比重について特定しない(つまり該比重が1を超える場合も包含する)発明が記載されており、一方発明の詳細な説明においては、【0011】【0012】【0038】に、エアゾール原液の20℃における比重が0.76〜0.95であることが、課題解決のための構成であり、噴射粒子の沈降に関わる重要なファクターであることが記載され、比重が1.00である比較例3においては、特定有害物に対する防除効果が十分でないと考察されている。
そして、本件訂正によって、本件特許発明1については、「特定有害物防除成分及び有機溶剤を含有するエアゾール原液と、噴射剤とを、定量噴射バルブを備えたエアゾール容器に充填してなる特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品を用いて、有害微生物及び/又は有害微細物質を含む特定有害物を防除する特定有害物防除方法」において、特定有害物防除成分の種類の特定、「上方に向けて噴射」するという噴射の方向の特定、「浴室であ」るという噴射の空間の特定、「エアゾール容器内の内圧が、25℃において0.60MPa以下に設定」という特定、「定量噴射バルブの1回当たりの噴射容量は、0.08〜0.9mLに設定」という特定に加えて、課題解決の前提条件である「エアゾール原液の20℃における比重は0.76〜0.95に設定され」ることが特定されたので、上記特定を全て満たし、エアゾール原液の20℃における比重を0.80〜0.89とした実施例も併せて検討すれば、本件訂正後の請求項1に係る発明について、発明の詳細な説明の記載から、当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲のものとなったといえる。

また、本件訂正後の請求項5に係る特定有害防除用定量噴射用定量噴射エアゾール製品の発明についても、本件訂正によって、「エアゾール原液の20℃における比重は0.76〜0.95に設定されて」いることが特定されたので、上記特定を全て満たし、エアゾール原液の20℃における比重が0.80〜0.89である実施例も併せて検討すれば、発明の詳細な説明の記載から、当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲のものとなったといえる。

さらに、本件訂正後の請求項1及び5を引用する請求項2、4、6及び8についても、【0018】〜【0028】の噴射対象の領域や空間に関する技術的意義を含めた記載、特定有害物防除成分の放出量に関する技術的意義を含めた記載もあることから、実施例も併せて検討すれば、発明の詳細な説明の記載から、当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲のものとなったといえる。

よって、本件特許発明1、2、4〜6及び8は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、サポート要件を満たしており、上記取消理由は解消している。

II 取消理由に採用しなかった特許異議申立人が申し立てた理由について
1 異議申立理由1(特許法第29条第2項:甲第1号証を主引用例とした進歩性)及び異議申立理由2(特許法第29条第2項:甲第2号証を主引用例とした進歩性)について

(1)甲号証の記載
ア 甲第1号証: 国際公開2019/117164号
(1a)「[0003] このような定量噴射型エアゾールとしては、例えば、特許文献1には、1回当たりの噴霧容量が0.35〜0.9mLである定量噴霧用エアゾールバルブを備えた害虫防除用エアゾールが開示されている。
・・・
[0005] 殺虫剤エアゾールや芳香剤エアゾール等の空間に使用するための定量噴射型エアゾールは、上記したように効果のバラツキが少ないという利点があるが、1回当たりの噴射量が少ないと使用実感が十分に得られず、1回噴射により有効量の薬剤が吐出されているにもかかわらず複数回噴射してしまい過剰に消費してしまうことがあった。また、従来の定量噴射型エアゾールでは薬剤の効果の持続に限度があり、この効果を継続させるために噴射から一定時間経過後に噴射操作を繰り返さなければならず、その頻度が高かった。
そこで、本発明は、薬剤の効力を向上させてその効果の持続性を高め、使用実感が得られる定量噴射型エアゾールを提供することを目的とする。
・・・
[0006] 本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、1.0mL以上の大量噴射が可能な定量噴射型エアゾールとすれば1回の噴射操作による噴射量が多くなるため使用実感を高めつつ薬剤の吐出量も多くすることができ、さらに、大量噴射する定量噴射型エアゾールでは1回の噴射操作による噴射時間により薬剤の効果の持続性が変化すること、そして1回の噴射操作当たりのエアゾール組成物の噴射量と噴射時間には薬剤の効果を持続させる最適なバランスがあることを見出した。」

(1b)「[0017] 除菌・殺菌成分は、微生物、カビ、細菌を除去又は死滅させる成分である。除菌・殺菌成分としては、例えば、エタノール、ヒノキチオール、2−メルカプトベンゾチアゾール、2−(4−チアゾリル)ベンゾイミダゾール、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、トリホリン、p−クロロメタキシレノール、3−メチル−4−イソプロピルフェノール、オルト−フェニルフェノール、グルコン酸クロルヘキシジン、ポリリジンやキトサン、テトラヒドロリナロール、ジアルキルジメチルアンモニウムクロライド等が挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。」

(1c)「[0028] なお、定量噴射型エアゾールとは、1回の噴射操作で一定量のエアゾール組成物を噴射するエアゾールである。定量噴射型エアゾールは、エアゾールバルブに取り付けられた噴射部材(以下、噴射ボタンともいう。)が使用者に操作されることにより、エアゾールバルブを通って耐圧容器内のエアゾール組成物(原液と噴射剤)の一定量が噴射され、原液は噴射剤によって粒子状とされて噴霧粒子として噴射される。」

(1d)「[0038] <試験例1:アカイエカに対する殺虫効力確認試験>
1.原液の調製
表1に示す配合処方に従い、トランスフルトリンを測り取り、イソプロパノール(比重0.785(20℃))を加えて100mLにまでメスアップすることにより、原液1〜3を調製した。
[0039]
[表1]

[0040] 2.定量噴射型エアゾールの作製
表2に従い、実施例1〜5、比較例1〜5の定量噴射型エアゾールを作製した。
・・・
[0047] (実施例5)
エアゾール用耐圧缶(容量294mL)に、原液2を12.8mL充填し、エアゾールバルブ(1回噴射量2.2mL、ステム孔面積1.4mm2)でエアゾール用耐圧缶を閉止した。続いて、噴射剤として液化石油ガス(0.49MPa(25℃))を187.2mL加圧充填した。
エアゾールバルブに噴射ボタン(噴口孔径φ1.6mm)を取り付け、1プッシュ当たりの噴射量が2.2mL、トランスフルトリンの吐出量が16mgの定量噴射型エアゾールを得た。
・・・
[0051][表2]

・・・
[0053] 4.アカイエカに対する殺虫効力確認試験
(噴射直後の殺虫効力の確認)
供試虫としてアカイエカ10匹を入れたケージ(縦25cm×横25cmの16メッシュゲージを二つ折りにし、まわりをホッチキスで止めて筒状に作製したもの)を用意した。
図1に示すように、8畳空間(容積31.1m3)の試験室10の四隅(隅部B〜E)の床(高さ0cm)と床から75cmの高さに、アカイエカを入れたケージを設置した。隅部Bの床から1mの高さより斜め上45度の角度で中央部Aに向けて、定量噴射型エアゾールの噴射ボタンを1回操作(1プッシュ)した。アカイエカがノックダウンする(転倒して動けなくなる)までの時間を計測し、プロビット法によりKT50(分)(アカイエカの5割がノックダウンするのに要する時間)を求めた。試験は3回行い、平均を求めた。結果を表3に示す。

[0054] (噴射3時間後の殺虫効力の確認)
供試虫としてアカイエカ10匹を入れたケージ(縦25cm×横25cmの16メッシュゲージを二つ折りにし、まわりをホッチキスで止めて筒状に作製したもの)を用意した。
図1に示すように、8畳空間(容積31.1m3)の試験室10の隅部Bの床から1mの高さより斜め上45度の角度で中央部Aに向けて、定量噴射型エアゾールの噴射ボタンを1回操作(1プッシュ)した。試験室10を密閉状態にして放置し、3時間経過後にアカイエカを入れたケージを、試験室10の四隅(隅部B〜E)の床(高さ0cm)と床から75cmの高さに設置した。アカイエカがノックダウンするまでの時間を計測し、プロビット法によりKT50(分)を求めた。試験は3回行い、平均を求めた。結果を表4に示す。

(1e)「[0091] <試験例5:除菌効力確認試験>
1.原液の調製
イソプロピルメチルフェノール(IPMP)20gを測り取り、99.5%エタノール(比重0.785(25℃))を加えて100mLにまでメスアップすることにより、原液7を調製した。

[0092] 2.定量噴射型エアゾールの作製
(実施例13)
エアゾール用耐圧缶(容量294mL)に、原液7を60mL充填し、エアゾールバルブ(1回噴射量1.0mL、ステム孔面積1.4mm2)でエアゾール用耐圧缶を閉止した。続いて、噴射剤として液化石油ガス(0.49MPa(25℃))を140mL加圧充填した。
エアゾールバルブに噴射ボタン(噴口孔径φ1.6mm)を取り付け、1プッシュ当たりの噴射量が1.0mL、IPMPの吐出量が60mgの定量噴射型エアゾールを得た。

[0093] 3.噴射時間の測定
試験例1と同様の方法により、定量噴射型エアゾールの噴射時間を測定した。結果を表11に示す。

[0094] 4.効力確認試験
10軒の一般家庭の浴室において、浴室掃除を行い、ピンク色のヌメリ(主にRhodotorula(酵母)もしくはMethylobacterium(細菌)によって発生)や黒カビ(主にCladosporium(真菌)によって発生)を取り除いた。その後、ピンク色のヌメリや黒カビが頻繁に発生する場所を2ヶ所選定した。そのうち1ヶ所に向かって、定量噴射型エアゾールの噴射ボタンを1回操作(1プッシュ)し、処理した場所を処理区とした。もう1ヶ所については、薬剤が付着しないようにし、その場所を無処理区とした。浴室掃除及び検体処理を行った日から何日後にピンク色のヌメリもしくは黒カビが発生したかを家庭ごとに確認した。
試験期間はピンク色のヌメリや黒カビが発生しやすい時期(6〜9月、日本)に行った。
結果を表11に示す。

[0095] [表11]

[0096] 表11の結果から、無処理区は1週間以内にピンク色のヌメリ又は黒カビが発生したのに対し、実施例13の定量噴射型エアゾールを噴射した処理区では、10日以上の除菌・防カビ効果が得られることがわかった。」

(1f)「請求の範囲
請求項1 1回の噴射操作で一定量のエアゾール組成物を噴射する定量噴射型エアゾールであって、
前記エアゾール組成物は薬剤を含む原液と噴射剤とからなり、耐圧容器に充填されており、
前記定量噴射型エアゾールは、1回の噴射量が1.0〜3.0mLであり、且つ1回の噴射時間が0.8秒以内である定量噴射型エアゾール。

請求項2 前記1回の噴射時間が、0.20〜0.75秒である、請求項1に記載の定量噴射型エアゾール。

請求項3 前記原液がさらに溶剤を含む、請求項1又は2に記載の定量噴射型エアゾール。

請求項4 前記薬剤の含有量が、前記原液中0.01〜70質量/容量%である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の定量噴射型エアゾール。

請求項5 前記エアゾール組成物中の前記原液と前記噴射剤の体積比が、1:99〜50:50である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の定量噴射型エアゾール。

請求項6 前記薬剤が、害虫防除成分、芳香成分、消臭成分及び除菌・殺菌成分からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の定量噴射型エアゾール。

請求項7 耐圧容器に薬剤を含む原液と噴射剤とからなるエアゾール組成物が充填された定量噴射型エアゾールを用いて、1回の噴射操作で噴射量が1.0〜3.0mL且つ噴射時間が0.8秒以内となるように噴射する定量噴射型エアゾールの噴射方法。

請求項8 定量噴射型エアゾールを用いて噴射されるエアゾール組成物中の薬剤の効力を向上させる方法であって、
1.0〜3.0mLの範囲にある前記エアゾール組成物の一定量を、0.8秒以内に噴射する薬剤の効力向上方法。」

イ 甲第2号証: 特開2014−88327号公報
(2a)「【請求項1】
ピレスロイド系防虫成分及び沸点が200℃以上の芳香成分を含有するエアゾール原液と液化ガスとからなるエアゾール組成物を、定量噴霧機能を備えたエアゾールバルブを通して0.2〜1.0mLの範囲にある一定量を衣類の収納空間に噴霧処理する衣類害虫防除方法であって、噴射距離20cmにおける噴射力を3〜15gf/25℃とし、かつ、噴霧粒子の平均粒子径が5〜30μmであることを特徴とする衣類害虫防除方法。
【請求項2】
前記エアゾール原液が、更に防黴成分を含有することを特徴とする請求項1に記載の衣類害虫防除方法。
【請求項3】
前記ピレスロイド系防虫成分の30℃における蒸気圧が2×10−4〜1×10−2mmHgであることを特徴とする請求項1又は2に記載の衣類害虫防除方法。
【請求項4】
0.35〜0.9mLの範囲にある一定量を衣類の収納空間に噴霧処理することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の衣類害虫防除方法。
【請求項5】
前記芳香成分の匂いの持続期限を、前記ピレスロイド系防虫成分の有効期限に概略合致させたことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の衣類害虫防除方法。
【請求項6】
前記衣類の収納空間が、クローゼットであることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の衣類害虫防除方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衣類害虫防除方法に関し、更に詳しくは、衣類の収納空間に一定量噴霧されたピレスロイド系防虫成分及び芳香成分粒子を、クローゼット等に侵入もしくは生息する衣類害虫に効率よく接触させて高い防除効果を奏しうる衣類害虫防除方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、屋内で使用されるエアゾール殺虫剤としては、使用法からみて、屋内の空間を飛翔する害虫、あるいは壁や床面を徘徊する害虫等の対象害虫をめがけて噴霧する直撃タイプと、あらかじめ害虫の通り道にエアゾール殺虫剤を噴霧塗布しておく待ち伏せタイプが知られていた。
【0003】
一方、近年、比較的蒸気圧の高い殺虫成分が開発されるに伴い、これを含有するエアゾール殺虫剤を密閉空間で予め一定量施用し、気中に浮遊殺虫成分粒子を残存させて飛翔害虫を予防的に防除しようとする試みもある。例えば、特許文献1(特開2001−17055号公報)には、好ましくは常温揮散性ピレスロイドを用い、蒸気圧の高い溶媒を使用することによって処理薬剤の粒子径を微細化し、処理薬剤量の気中残存率を処理開始から3時間以上12時間未満の間において1%以上とするか、または処理開始から12時間以上24時間未満の間において0.5%以上にできるエアゾール殺虫剤が記載されている。そして、特許文献1によれば、噴霧粒子径が小さいほど処理薬剤量の気中残存率が高まり、殺虫効力が持続するので、このような噴霧粒子径を与えるエアゾール殺虫剤は、蚊等の飛翔害虫防除には有効としている。
なお、上記において空中に噴霧された処理薬剤粒子は、(A)気中に浮遊残存するか、(B)床や壁に付着するか、(C)Bの後に再揮散するか、もしくは(D)光等によって分解し消失する、のいずれかの挙動を辿ると考えられる。特許文献1のエアゾール殺虫剤は、処理薬剤粒子の(B)の比率を下げ、(A)の比率を高めようとするものである。
【0004】
ところで、クローゼットや洋服タンスのような衣類収納空間用の衣類害虫防除方法としては、パラジクロルベンゼン等を用いた錠剤の外、常温揮散性ピレスロイド・エムペントリン等の防虫成分をマット原紙に含有させ、6ケ月から1年間にわたり防虫効果が持続するようになした防虫剤の使用が一般的であるが、防虫成分が収納空間に拡散するまでに幾分時間がかかり使用初期における防虫効果の発現が遅いという課題を有している。そこで、このような密閉小空間をエアゾールを用いて処理し、衣類害虫を防除しようとする提案もいくつかなされている。例えば、特許文献2(特開2003−73203号公報)は、殺虫成分のトランスフルトリン及び噴射剤を含有するエアゾール剤を衣類又は衣類の収納場所に噴霧する防虫方法を開示する。この特許文献2では、通常のエアゾール剤の使用方法に基づき衣類に薬液を噴霧するため、短期的であれ、相応の防虫効果を期待できるものの、噴霧量が過剰となりがちで、その結果。衣類にシミを生じたり安全性上の懸念が拭いきれない。
【0005】
かかる状況を踏まえ、本発明者らは、前述の室内空間用に開発された定量噴霧タイプのエアゾールを衣類収納空間へ適用することを試み、衣類害虫の習性を観察しつつ検討を進めた。その結果、エアゾール組成物、噴射力や噴霧薬剤粒子等の要因を最適化することによって、防虫効果と使用面で効率化された衣類害虫防除方法を実現できることを知見し、本発明を完成するに至ったものである。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、定量噴霧機能を備えたエアゾール剤を用い、一定量を衣類の収納空間に噴霧処理することによって、衣類害虫に対して高い防虫効果を奏し、しかも使用時期を明瞭に認識できる衣類害虫防除方法を提供することにある。」

(2b)「【0017】
本発明で用いるエアゾール原液には、衣類及び衣類収納空間の防黴を目的として、防黴剤が配合されるのが好ましい。防黴剤としては、2−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン(以降、防黴剤A)、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、3−メチル−4−イソプロピルフェノール(以降、防黴剤B)、p−クロロ−m−キシレノール、オルト−フェニルフェノール、N−(フルオロジクロロメチルチオ)−フタルイミド、ヒノキチオール、チモール、テトラヒドロリナロール(以降、防黴剤C)等があげられ、エアゾール原液中に、0.5〜15w/v%程度配合されるのが好適である。」

(2c)「【実施例1】
【0027】
メトフルトリン4.0w/v%、p−tert−ブチルシクロヘキシルアセテート1.1w/v%、テルピネオール2.0w/v%、ガラクソリド0.8w/v%、及び防黴剤A(2.4w/v%)をエタノールに溶解してエアゾール原液を調製した。このエアゾール原液22.5mLと液化石油ガス52.5mL[エアゾール原液/液化ガス比率:30/70(容量比)]を定量噴霧用エアゾールバルブ付きエアゾール容器に加圧充填して、本発明で用いる衣類害虫防除用エアゾール剤を得た。
このエアゾール剤を一定量(0.4mL)噴霧した時、噴射距離20cmにおける噴射力は6.5gfで、平均噴霧粒子径は14μmであった。
【0028】
空間体積が約3m3のクローゼット(上方にハンガーパイプを有し10着の衣類を吊下げ収納、その1着にイガによる虫食いを観察)内で、天井に向けて前記エアゾール剤を2回噴霧した。クローゼット内の芳香は1ケ月後に消失したが、この間イガによる新たな虫食いは発生せず、またクローゼット内が黴臭くなることもなかった。このように、芳香の消失をもって、本エアゾール剤の有効期限を明瞭に認識できたので、本発明の衣類害虫防除方法は、非常に実用性の高いものであった。
【実施例2】
【0029】
実施例1に準じて表1に示す各種エアゾール剤(有効期間:1ケ月)を調製し、下記に示す試験を行った。その試験結果を纏めて表2に示す。
(1)3m3のクローゼットでのコイガに対する防虫効果
実施例1と同様、10着の衣類を吊下げ収納した約3m3のクローゼット内で、天井に向けて各エアゾール剤を2回噴霧した。供試虫としては、直径5cmの球型網カゴの中にウール布とコイガ30日令幼虫10匹、又は卵20匹を入れたものを用い、噴霧から所定期間経過後、これら供試虫を衣類の間に置いた。コイガ幼虫は7日間放置し、その間に仰転もしくは致死した虫数を数え、ノックダウン率(KD率)を求めた。一方、卵については、10日間放置後の孵化虫数を数え、孵化抑制率を算出した。
【0030】
【表1】



ウ 甲第3号証: 特開2019−99575号公報
(3a)「【請求項1】
蒸気圧が1×10-5mmHg(25℃)未満である難揮散性殺虫化合物を含む原液と、噴射剤とからなるエアゾール組成物が充填され、
前記原液は、前記エアゾール組成物中、40容量%以下となるよう含まれ、
1回あたりの噴射量が0.1〜1.0mLである、害虫防除用定量噴射型エアゾール製品。」


(3b)「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1〜2に記載の害虫防除方法において、トランスフルトリンなどの揮散性殺虫化合物を用いると、噴霧時に揮散性殺虫化合物が揮散して舞い上がることで使用者がこれを吸引する可能性がある。この場合、使用者は、刺激感を感じることがある。また、噴霧量を多く(たとえば1回あたり1mLより多く)した場合、噴霧した位置の近傍では、床や衣類等が汚染(液シミ等)されることもある。さらに、難揮散性殺虫化合物を含むエアゾール製品は、拡散性が充分でなく、ゴキブリ等の害虫に直撃するよう噴射したり、それらの生息場所に噴射する等、使用方法が限定されており、たとえばクローゼット等の狭小空間に収容された衣類等へは適用されていなかった。」

(3c)「【0028】
原液は、上記難揮散性殺虫化合物および適宜含有される上記した溶媒のほかに、任意成分が含まれてもよい。任意成分は、例えば、各種香料;抗菌剤;非イオン、陰イオンまたは陽イオン界面活性剤;ブチルヒドロキシトルエン等の抗酸化剤;クエン酸、アスコルビン酸等の安定化剤;タルク、珪酸等の無機粉体、消臭剤、色素等が挙げられる。
【0029】
(噴射剤)
噴射剤は、原液とともにエアゾール容器に加圧充填される内容物である。噴射剤は、後述するバルブ機構が作動されることにより、原液とともに後述する噴射ボタンの噴口から噴射される。その際、噴射剤は、原液を噴射する際の推進力を付与するとともに、エアゾール組成物を微粒子化し、空間中に拡散させる。
【0030】
噴射剤の種類は特に限定されない。噴射剤としては、例えば、液化ガス、圧縮ガス等が挙げられる。液化ガスとしては、液化石油ガス、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン等の炭素数3〜5個の脂肪族炭化水素、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロパ−1−エン、トランス−2,3,3,3−テトラフルオロプロパ−1−エン等のハイドロフルオロオレフィン、ジメチルエーテルおよびこれらの混合物等が例示される。圧縮ガスとしては、窒素ガス、炭酸ガス、亜酸化窒素ガス、圧縮空気等が例示される。
【0031】
本実施形態において、噴射剤は、エアゾール組成物中、95容量%以下となるように含まれることが好ましく、80容量%以下となるように含まれることがより好ましい。また、噴射剤は、エアゾール組成物中、60容量%以上となるように含まれることが好ましく、65容量%以上となるように含まれることがより好ましい。
【0032】
本実施形態において、原液は、エアゾール組成物中、40容量%以下となるよう含まれればよく、35容量%以下となるよう含まれることが好ましい。また、原液は、エアゾール組成物中、5容量%以上となるよう含まれることが好ましく、10容量%以上となるよう含まれることがより好ましい。原液の含有量が、エアゾール組成物中、5容量%未満である場合、エアゾール組成物は、難揮散性殺虫化合物の含有量が少なく、充分な害虫防除効果が得られない傾向がある。
【0033】
原液および噴射剤が充填された状態において、25℃におけるエアゾール容器の内圧は、0.2MPa以上であることが好ましく、0.25MPa以上であることがより好ましい。また、25℃におけるエアゾール容器の内圧は、0.8MPa以下であることが好ましく、0.7MPa以下であることがより好ましい。エアゾール容器の内圧が0.2MPa未満である場合、エアゾール組成物は、噴射後に、噴口から液ダレする可能性、および難揮散性殺虫化合物の拡散性が悪くなる可能性がある。一方、エアゾール容器の内圧が0.8MPaを超える場合、エアゾール組成物は、エアゾール容器から漏洩する可能性がある。」

(3d)「【0045】
本実施形態のエアゾール製品の適用場所は特に限定されない。本実施形態のエアゾール製品は、害虫を防除すべき所望の空間に対し、適用し得る。適用場所は、例えば、衣類の収容空間(衣装ケース、引き出し、洋服ダンス、クローゼット、ウォークインクローゼット、押入れ等)、各種家具や家電製品と床面や壁面との隙間、下駄箱、スーツケース、浴室等の半密閉または密閉空間が挙げられる。これらの中でも、本実施形態のエアゾール製品は、クローゼット等の、衣類を収容するための狭小空間に対して好適に使用され得る。このような狭小空間に使用される場合、エアゾール製品は、エアゾール組成物を、たとえばクローゼット内の広範囲に均一に噴霧できる。また、エアゾール製品は、衣類に対してエアゾール組成物中の難揮発性化合物を均一に付着させ得る。そのため、クローゼットの壁面や衣類は、局所的に高濃度の難揮発性化合物が付着することが防がれ、汚染されにくい。また、この場合、衣類等は、シミ等を生じにくい。なお、本実施形態において、狭小空間とは、容積が50L〜18000L(約4.5畳)程度の半密閉または密閉空間をいう。本実施形態のエアゾール製品は、特に、容積が50L〜2500Lである狭小空間に用いられる場合に、噴霧対象物への液シミが小さく、かつ、空間における拡散性が優れる。適応場所の容積が50L未満である場合、そのような空間における薬剤濃度が高くなり、噴霧対象物への液シミが生じ易くなる傾向がある。一方、適応場所の容積が18000Lを超える場合、噴霧による気流の対流が起こりにくく、薬剤が噴霧対象物に均一に噴霧されにくい。また、均一に塗布させるために薬剤を過剰に噴霧すると、液シミが生じ易くなる傾向がある。
【0046】
また、エアゾール製品は、広範囲に均一に拡散しやすいように噴霧できれば、噴霧時の角度は特に限定されないが、斜め上方向に噴霧されることが好ましい。斜め上方向に噴霧する場合には、噴霧時の角度は、水平方向から斜め上方向に0〜75度であることが好ましい。 原液は、上記難揮散性殺虫化合物および適宜含有される上記した溶媒のほかに、任意成分が含まれてもよい。任意成分は、例えば、各種香料;抗菌剤;非イオン、陰イオンまたは陽イオン界面活性剤;ブチルヒドロキシトルエン等の抗酸化剤;クエン酸、アスコルビン酸等の安定化剤;タルク、珪酸等の無機粉体、消臭剤、色素等が挙げられる。」

エ 甲第4号証:日本防菌防黴学会誌、2014年、Vol.42、No.6、p.295〜298
(4a)「緒言

浴室の真菌汚染は、住環境における代表的な微生物被害の一つである。一般に、生活者は浴室の壁や床、パッキン部など、目に付きやすい場所の真菌汚染については注意を払っているが、凝視する機会が少ない天井までは気が回らないことが多い。現実に、天井は手が届きにくく、洗剤を使いにくい場所であるため、床や壁よりも掃除を行う頻度は低い。 このことは、天井には生活者が想像する以上に真菌の栄養源となる汚れ成分1)2)が蓄積しており、それを要因とした汚染も進行している可能性を示唆している。
一般住宅における浴室の真菌汚染については、過去に種々の調査報告があるものの、天井の真菌汚染に関するものはMoriyamaら(1992)の報告3)など一部を除いて見られない。また、一般住宅以外では、ホテルの浴室に関する報告1)があるが天井の調査は行われていない。
そこで筆者らは、一般家庭の浴室において、天井の真菌汚染状況を詳細に調査、検討した結果、興味深い知見が得られたので報告する。」(295頁左欄緒言の項目)

(4b)296頁右欄の「3.主要汚染カビ」の項目には、浴室の天井から分離された84検体中にCladosporiumが25家庭中14家庭(56%)、28検体から検出されたことが示されている。
また、296頁右欄と297頁の「4.汚染カビの生菌数」の項目には、図4とともに、培養してカビが発育し菌種を特定した45検体について生菌数を調べた結果、Cladosporiumが検出された箇所周辺の生菌数(真菌数)が天井から高かったことが示されている。

(4c)298頁の「結論」の項目には、「3)浴室天井の主要汚染カビはCladosporium、・・・Cladosporiumが検出された箇所周辺の生菌数(真菌数)は105CFU/100cm2以上が72%と極めて高い。」との記載がある。

オ 甲第5号証:生活衛生、1999年、Vol.43、No.3、p.89〜96
(5a)91頁右欄の「表1 浴室の各部分の浴室具のカビ・酵母汚染の比較」として、天井のカビの平均個体数が1512(1cm2当たり)、壁の上部が1946 (1cm2当たり)であることが示されている。

(5b)92頁右欄の「表2 夏の浴室のカビ・酵母相」として、2000倍に希釈した場合に検出された総カビ数としての個体数がCladosporiumが天井で1396、壁の上部で1773であることが示されている。

カ 甲第6号証:システムバスルーム アライズ Technical Data 資料編、LIXIL、2015年2月、表紙及びp.127〜129
(6a)システムバスルーム アライズに関するTechnical Dataとして、室内容積に関して、3.9〜8.1m3のものが示されている。(129頁)

キ 甲第7号証:システムバスルーム サザナ 基本仕様、TOTO、2018年6月、表紙及びp.176〜177
(7a)システムバスルーム サザナに関する基本仕様として、室内容量に関して、4.1〜8.2m3のものが示されている。(176頁)

ク 甲第8号証:特開2006−320857号公報
(8a)「【請求項1】
耐圧容器の開口部にエアゾールバルブを固着したエアゾール容器と、
エアゾール容器内に充填されるエアゾール組成物と、
エアゾールバルブに装着される噴射部材とからなり、
前記エアゾール組成物が炭化水素系溶剤を含有する原液と可燃性液化ガスとからなり、原液と可燃性液化ガスとの割合配合が50/50〜30/70(容積比)であるエアゾール製品であって、
前記エアゾールバルブと耐圧容器との間はエアゾール組成物の液体を通す噴射通路のみを備えており、
前記噴射部材が、噴射方向が異なる3個の噴射孔と、エアゾールバルブに連結するステム装着部と、噴射孔とステム装着部とを連通する噴射部材内通路とを備えており、
それぞれの噴射孔が、噴射部材内通路と一直線に連通しており、径大部と径小部とからなる外部に段状に拡がる形状を有しているエアゾール製品。
【請求項2】
前記噴射部材の噴射孔は一列に設けられており、中心の噴射孔に対する両側の噴射孔の噴射角度が同じである請求項1記載のエアゾール製品。
【請求項3】
前記噴射角度が10〜45度である請求項2記載のエアゾール製品。
【請求項4】
前記径大部の直径が0.3〜0.7mmであり、径小部の直径が0.1〜0.5mmである請求項1記載のエアゾール製品。
【請求項5】
前記エアゾール容器内の25℃における圧力が0.25〜0.6MPaである請求項1記載のエアゾール製品。
【請求項6】
1分間の噴射量が10〜50gである請求項1記載のエアゾール製品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエアゾール製品に関する。さらに詳しくは、畳やカーペットなどの床面に広く噴射するエアゾール製品に関する。
【背景技術】
・・・
【0003】
従来、畳やカーペットの中にいるダニなどの害虫を駆除すべく、畳やカーペットなどの床面に噴霧する害虫用エアゾール製品が知られている。しかし、このようなエアゾール製品は、噴射孔からの噴射の拡がり(噴射パターン)が狭く、また、噴射方向への勢いが強いために、噴射したエアゾール組成物(以下、噴霧粒子)が床面で跳ね返り飛散することがある。そのため、エアゾール組成物中の有効成分が目的とする部分に効率良く付着せず、有効成分の効果を充分に発揮できないという問題がある。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、このような問題を解決すべく、噴射パターンを大きくし、エアゾール製品の噴射圧力を低下させて噴射の勢いを弱く(噴射速度が遅い)すると、噴霧粒子の床面への付着性は向上する。しかし、原液が炭化水素溶剤や低級アルコールなどの可燃性溶剤を含有し、さらに噴射剤として液化石油ガスやジメチルエーテルなどの可燃性液化ガスを含有する場合、噴霧粒子が火や静電気などの火源により引火しやすくなり、噴霧粒子に引火した場合は炎がエアゾール製品側に逆流する逆火現象が見られ、生活製品としての安全基準を満たさなくなる。これは噴霧粒子の噴射速度が火炎の伝播速度よりも遅くなったときに生じる現象であり、特に噴射パターンが大きく噴霧粒子が小さい場合に生じやすい。
・・・
【0007】
本発明は畳やカーペットなどの床面に噴射するものであって、噴射パターンが大きく、床面に噴射しても跳ね返りが小さく、噴霧粒子の付着性が高く、さらに、逆火現象が生じない範囲の噴射の勢いを有する安全なエアゾール製品を提供することを目的としている。」

(8b)「【0014】
通常、上記の割合で炭化水素系剤を含有する可燃性原液と可燃性液化ガスが含まれているエアゾール組成物を充填するエアゾール容器には、エアゾール容器の気相部とエアゾールバルブのハウジング内とを連通するベーパータップ孔を設ける。これは噴射されるエアゾール組成物中に気体を混合させ可燃性原液の噴射量を少なくして、噴霧粒子の飛距離を短くして火炎長試験において火炎長が長くなりすぎないようにするためである。しかし、本発明では3つの噴射孔を備え、上記エアゾール組成物を充填したエアゾール製品にあえてベーパータップ孔を形成させないことにより噴霧粒子に充分な勢いを与えたものである。
つまり、本発明者は、広い噴射パターンを有し、かつ、逆火現象を防止し、さらに床面に噴射しても噴霧粒子が跳ね返らず均一に付着するエアゾール製品に適した組み合せを見出したのである。
【0015】
上述したような本発明のエアゾール製品であって、噴射部材の噴射孔は一列に設けられており、中心の噴射孔に対する両側の噴射孔の噴射角度が同じである場合、隙間無く噴射パターンを拡げることができ、かつ、噴霧濃度を均一にすることができる。また、一列に並んでいるため、並んでいる直線に対して垂直方向に噴射しながら噴霧方向を変えることにより、広い床面に対して均一な濃度で噴霧粒子を付着させることができる。さらに、製品としての美的作用も高い(請求項2)。また、このように並んだ噴射孔であって噴射角度が10〜45度であるものが、噴射パターンが狭くならずに付着性に優れ、かつ、過剰に広く拡散しないため、噴霧粒子に引火しても逆火現象が生じにくく好ましい(請求項3)。また噴射孔の径大部の直径が0.3〜0.7mmであり、径小部の直径が0.1〜0.5mmである場合は、噴射孔から過剰に拡がる噴霧粒子をなくして逆火現象を生じにくくできる(請求項4)。エアゾール容器内の25℃における圧力が0.25〜0.6MPaである場合(請求項5)、さらには1分間の噴射量が10〜50gである場合は(請求項6)、3つの噴射孔から噴射される噴霧粒子に逆火現象が生じにくい範囲で噴射の勢いを保つことができ、かつ床面に付着させやすく好ましい。圧力が0.25MPaより小さい場合、あるいは、1分間の噴射量が10gより小さい場合、噴射の勢いが小さくなりすぎて逆火現象が生じやすくなる。また、圧力が0.6MPaより大きい場合、あるいは、1分間の噴射量が50gより大きい場合、噴射の勢いが強くなり噴霧粒子の跳ね返りが起こりやすくなる。」

ケ 甲第9号証:特開2019−188301号公報
(9a)「【技術分野】
【0001】
本発明は、エアゾール製品に関する。より詳細には、本発明は、粒子径の大きな噴霧粒子を広範囲に噴霧することができ、使用者によって吸引されにくいエアゾール製品に関する。
【背景技術】
【0002】従来、噴霧粒子の舞い散りを少なくし、使用者による吸引を防止するためのエアゾール製品が提案されている。特許文献1に記載のエアゾール製品は、増粘剤を配合することによって原液の粘度を高めている。これにより、噴霧粒子は、粒子径が大きくなり、使用者に吸引されにくい。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、高粘度の原液を含むエアゾール組成物は、噴霧粒子が拡がりにくい。そのため、特許文献1に記載のエアゾール製品は、噴霧粒子の拡がり(スプレーパターン)が小さい。その結果、使用者は、たとえば腕等に噴霧した後に、エアゾール組成物を塗り伸ばす必要がある。
【0005】
本発明は、このような従来の課題に鑑みてなされたものであり、粒子径の大きな噴霧粒子を広範囲に噴霧することができ、使用者によって吸引されにくいエアゾール製品を提供することを目的とする。」

(9b)「【0055】
噴射剤が充填された状態において、容器本体21の内圧(25℃)は、0.2MPa以上であることが好ましく、0.25MPa以上であることがより好ましい。また、容器本体21の内圧(25℃)は、0.6MPa以下であることが好ましく、0.5MPa以下であることがより好ましい。容器本体21の内圧が0.2MPa未満である場合、エアゾール製品1は、溝路54や旋回室52内での流速が遅くなりやすく、噴霧粒子は、スプレーパターンの拡がりが小さくなりやすい傾向がある。一方、容器本体21の内圧が0.6MPaを超える場合、エアゾール製品1は、噴霧粒子の勢いが強くなりやすい傾向がある。」

(2)甲号証に記載された発明
ア 甲第1号証に記載された発明
甲第1号証には、試験例5で、除菌・殺菌成分である(摘記(1b))イソプロピルメチルフェノール(IPMP)20gを測り取り、99.5%エタノール(比重0.785(25℃))を加えて100mLにまでメスアップすることにより、原液7を調製し、実施例13に定量噴射型エアゾールの作製として、エアゾール用耐圧缶(容量294mL)に、原液7を60mL充填し、エアゾールバルブ(1回噴射量1.0mL、ステム孔面積1.4mm2)でエアゾール用耐圧缶を閉止し、噴射剤として液化石油ガス(0.49MPa(25℃))を140mL加圧充填し、エアゾールバルブに噴射ボタン(噴口孔径φ1.6mm)を取り付け、1プッシュ当たりの噴射量が1.0mL、IPMPの吐出量が60mgの定量噴射型エアゾールを得たことが記載されている(摘記(1e))。
また、試験例5における効力確認試験として、浴室において、浴室掃除を行い、ピンク色のヌメリ(主にRhodotorula(酵母)もしくはMethylobacterium(細菌)によって発生)や黒カビ(主にCladosporium(真菌)によって発生)を取り除いた後、ピンク色のヌメリや黒カビが頻繁に発生する場所を選定し、定量噴射型エアゾールの噴射ボタンを1回操作(1プッシュ)し、除菌・防カビ効果が得られたことが記載されている(摘記(1e))。

よって、甲第1号証には、
「除菌・殺菌成分であるイソプロピルメチルフェノール(IPMP)20gを測り取り、99.5%エタノール(比重0.785(25℃))を加えて100mLにまでメスアップすることにより、原液を調製し、エアゾール用耐圧缶(容量294mL)に、該原液を60mL充填し、エアゾールバルブ(1回噴射量1.0mL、ステム孔面積1.4mm2)でエアゾール用耐圧缶を閉止し、噴射剤として液化石油ガス(0.49MPa(25℃))を140mL加圧充填し、エアゾールバルブに噴射ボタン(噴口孔径φ1.6mm)を取り付け、1プッシュ当たりの噴射量が1.0mL、IPMPの吐出量が60mgである定量噴射型エアゾールを用いて、定量噴射型エアゾールの噴射ボタンを1回操作し(1プッシュ)、浴室において、除菌・防カビ効果が得られる方法」の発明(以下、「甲1−1発明」という。)及び

「除菌・殺菌成分であるイソプロピルメチルフェノール(IPMP)20gを測り取り、99.5%エタノール(比重0.785(25℃))を加えて100mLにまでメスアップすることにより、原液を調製し、エアゾール用耐圧缶(容量294mL)に、該原液を60mL充填し、エアゾールバルブ(1回噴射量1.0mL、ステム孔面積1.4mm2)でエアゾール用耐圧缶を閉止し、噴射剤として液化石油ガス(0.49MPa(25℃))を140mL加圧充填し、エアゾールバルブに噴射ボタン(噴口孔径φ1.6mm)を取り付け、1プッシュ当たりの噴射量が1.0mL、IPMPの吐出量が60mgである浴室において、除菌・防カビ効果が得られる定量噴射型エアゾール」の発明(以下、「甲1−2発明」という。)が記載されているといえる。

イ 甲第2号証に記載された発明
甲第2号証は、衣類害虫防除方法に関する文献であって(摘記(2a))、ピレスロイド系防虫成分及び沸点が200℃以上の芳香成分を含有するエアゾール原液と液化ガス及び防黴成分とからなるエアゾール組成物を、定量噴霧機能を備えたエアゾールバルブを通して0.2〜1.0mLの範囲にある一定量を衣類の収納空間に噴霧処理する衣類害虫防除方法であって、噴射距離20cmにおける噴射力を3〜15gf/25℃とし、かつ、噴霧粒子の平均粒子径が5〜30μmである衣類害虫防除方法である請求項1を引用する請求項2(摘記(2a))に係る発明に対応した実施例1には、定量噴霧用エアゾールバルブ付きエアゾール容器に加圧充填して、衣類害虫防除用エアゾール剤を得ること、天井に向けてエアゾール剤を一定量(0.4mL)噴霧すること、本発明で用いる衣類害虫防除用エアゾール剤を得た実施例2の表1に示された本発明4には、衣類害虫防除用エアゾールにおいて、エアゾール原液に関して、ピレスロイド成分として、プロフルトリン10.0w/v%、芳香成分として、シトロネロール2.8w/v%、インドール0.7w/v%、その他成分として、防黴剤B、溶剤として、エタノール残部、液化ガスに関して、LPG、原液/ガス比率10/90、噴射力7.0gf、噴射粒子径6μmであることが記載されている(摘記(2c))。また、摘記(2b)には、防黴剤Bが、衣類及び衣類収納空間の防黴を目的として、配合されるのが好ましい防黴剤として3−メチル−4−イソプロピルフェノールであることが記載されている。

よって、甲第2号証には、
「定量噴霧機能を備えたエアゾールバルブを通して一定量を衣類の収納空間に噴霧処理する衣類害虫防除用エアゾールによる衣類害虫防除方法において、定量噴霧用エアゾールバルブ付きエアゾール容器に加圧充填して、衣類害虫防除用エアゾール剤を得て、天井に向けてエアゾール剤を一定量(0.4mL)噴霧することで防除を行い、該衣類害虫防除用エアゾール剤が、エアゾール原液に関して、ピレスロイド成分として、プロフルトリン10.0w/v%、芳香成分として、シトロネロール2.8w/v%、インドール0.7w/v%、防黴剤として、3−メチル−4−イソプロピルフェノール2.1w/v%、溶剤として、エタノール残部、液化ガスに関して、LPG、原液/ガス比率10/90で、噴射力7.0gf、噴射粒子径6μmである方法」の発明(以下、「甲2−1発明」という。)及び

「定量噴霧機能を備えたエアゾールバルブを通して一定量を衣類の収納空間に噴霧処理する衣類害虫防除用エアゾールにおいて、定量噴霧用エアゾールバルブ付きエアゾール容器に加圧充填して、衣類害虫防除用エアゾール剤を得たもので、天井に向けてエアゾール剤を一定量(0.4mL)噴霧することで防除を行うもので、該衣類害虫防除用エアゾール剤が、エアゾール原液に関して、ピレスロイド成分として、プロフルトリン10.0w/v%、芳香成分として、シトロネロール2.8w/v%、インドール0.7w/v%、防黴剤として、3−メチル−4−イソプロピルフェノール2.1w/v%、溶剤として、エタノール残部、液化ガスに関して、LPG、原液/ガス比率10/90で、噴射力7.0gf、噴射粒子径6μmである定量噴射型エアゾール」の発明(以下、「甲2−2発明」という。)が記載されているといえる。

(3)対比・判断
(3−1)異議申立理由1(特許法第29条第2項:甲第1号証を主引用例とした進歩性
ア 本件特許発明1について
(ア)甲1−1発明との対比
甲1−1発明の「除菌・殺菌成分であるイソプロピルメチルフェノール(IPMP)」を含むことは、本件特許発明1の「特定有害物防除成分は、イソプロピルメチルフェノール、ベンザルコニウム塩、モノカプリン、及び1,4−ビス[3,3´−(1−デシルピリジニウム)メチルオキシ]ブタン塩からなる群から選択される少なくとも一つを含み」に相当する。
また、甲1−1発明の「除菌・殺菌成分であるイソプロピルメチルフェノール(IPMP)20gを測り取り、99.5%エタノール(比重0.785(25℃))を加えて100mLにまでメスアップすることにより」「原液を調製し、エアゾール用耐圧缶・・・に、該原液を・・・充填し、エアゾールバルブ・・・でエアゾール用耐圧缶を閉止し、噴射剤として液化石油ガス(0.49MPa(25℃))を140mL加圧充填し、エアゾールバルブに噴射ボタン・・・を取り付け」た「定量噴射型エアゾール」は、本件特許発明1の「特定有害物防除成分及び有機溶剤を含有するエアゾール原液と、噴射剤とを、定量噴射バルブを備えたエアゾール容器に充填してなる特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品」であって、「エアゾール容器内の内圧が、25℃において0.60MPa以下に設定され」るものに相当する。
さらに、甲1−1発明の「定量噴射型エアゾールを用いて、定量噴射型エアゾールの噴射ボタンを1回操作し(1プッシュ)、浴室において、除菌・防カビ効果が得られる方法」は、本件特許発明1の「空間は、浴室であり」、「定量噴射エアゾール製品を用いて、有害微生物及び/又は有害微細物質を含む特定有害物を防除する特定有害物防除方法」に相当する。

したがって、本件特許発明1と甲1−1発明とは、「特定有害物防除成分及び有機溶剤を含有するエアゾール原液と、噴射剤とを、定量噴射バルブを備えたエアゾール容器に充填してなる特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品を用いて、有害微生物及び/又は有害微細物質を含む特定有害物を防除する特定有害物防除方法であって、
前記特定有害物防除成分は、イソプロピルメチルフェノール、ベンザルコニウム塩、モノカプリン、及び1,4−ビス[3,3´−(1−デシルピリジニウム)メチルオキシ]ブタン塩からなる群から選択される少なくとも一つを含み、
空間は浴室であり、
前記エアゾール容器内の内圧が、25℃において0.60MPa以下に設定される、
特定有害物防除方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1:本件特許発明1においては、エアゾール原液の20℃における比重は、0.76〜0.95に設定されているのに対して、甲1−1発明は、「イソプロピルメチルフェノール(IPMP)20gを測り取り、99.5%エタノール(比重0.785(25℃))を加えて100mLにまでメスアップすることにより、原液を調製」したと特定しており、エアゾール原液の20℃における比重は明らかでない点。
相違点2:本件特許発明1においては、「前記特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品を上方に向けて噴射」すると特定されているのに対して、甲1−1発明は、噴射方向が特定されていない点。
相違点3:本件特許発明1においては、「前記定量噴射バルブの1回当たりの噴射容量は、0.08〜0.9mLに設定されている」のに対して、甲1−1発明は、「1プッシュ当たりの噴射量が1.0mL」である点。

(イ)相違点の判断
a 事案に鑑み上記相違点3について検討する。
甲1−1発明の認定の根拠となった、甲第1号証には、1回当たりの噴射量が少ないと使用実感が十分に得られず、1回噴射により有効量の薬剤が吐出されているにもかかわらず複数回噴射してしまい過剰に消費してしまうことがあり、従来の定量噴射型エアゾールでは薬剤の効果の持続に限度があり、この効果を継続させるために噴射から一定時間経過後に噴射操作を繰り返さなければならず、その頻度が高いことを問題としていること、薬剤の効力を向上させてその効果の持続性を高め、使用実感が得られる定量噴射型エアゾールを提供することを目的としたものであること、解決手段として、1.0mL以上の大量噴射が可能な定量噴射型エアゾールとすれば1回の噴射操作による噴射量が多くなるため使用実感を高めつつ薬剤の吐出量も多くすることができ、さらに、大量噴射する定量噴射型エアゾールでは1回の噴射操作による噴射時間により薬剤の効果の持続性が変化すること、そして1回の噴射操作当たりのエアゾール組成物の噴射量と噴射時間には薬剤の効果を持続させる最適なバランスがあることを見出したこと(摘記(1a))が記載されており、甲1−1発明において、1プッシュ当たりの噴射量が1.0mLの噴射量を少なくし、定量噴射バルブの1回当たりの噴射容量は、0.08〜0.9mLに設定することには、阻害要因があるといえ、その他の噴射対象が異なるか又は噴射容量に関する記載のない甲第3〜9号証の記載を参酌しても、わざわざ相違点3の構成に変更する動機付けはない。

b したがって、甲1−1発明において、1プッシュ当たりの噴射量が1.0mLの噴射量を少なくし、相違点3に対応する「定量噴射バルブの1回当たりの噴射容量は、0.08〜0.9mLに設定する」との特定に変更することは、当業者が容易になし得る技術的事項とはいえない。

c また、本件特許発明1の効果について本件特許明細書の実施例等の記載を参酌すると、本件特許発明1は、エアゾール原液と、噴射剤とを、定量噴射バルブを備えたエアゾール容器に充填してなる特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品を用いた、特定有害物防除方法として、前記特定有害物防除成分、前記エアゾール原液の20℃における比重、前記特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品の噴射方向と適用空間、前記エアゾール容器内の内圧、前記定量噴射バルブの1回当たりの噴射容量は、0.08〜0.9mLに設定されている」ことの特定することで、本件特許発明1の構成全体により、【0012】【0020】【0024】や実施例に記載された、甲1−1発明及び本願優先日時点の技術常識からは、当業者が予測し得ない顕著な効果を奏している。

d 特許異議申立人は、異議申立書38頁下から6行〜39頁2行において、1回当たりの噴射容量に関して、甲第1号証に記載された発明において、従来公知の1回当たりの噴射容量としたに過ぎない旨主張しているが、上述のとおり、甲1−1発明は、そのような従来公知の1回当たりの噴射容量の問題点を解決するために、1回の噴射量を1.0mL以上とすることを解決手段としたものであるから、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

(ウ)以上のように、本件特許発明1は、相違点1及び2について検討するまでもなく、甲第1号証に記載された発明及び甲第3〜9号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 本件特許発明2について
(ア)本件特許発明2は、本件特許発明1において、「上方」を「天井及び/又は壁面上部である」と特定したものであり、本件特許発明2と甲1−1発明との対比において、上記ア(ア)の対比で示した一致点並びに相違点1及び3に加えて、以下の相違点2’を有する。
相違点2’:本件特許発明2が「前記特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品を」「天井及び/又は壁面上部」「に向けて噴射」すると特定されているのに対して、甲1−1発明は、噴射方向が特定されていない点。

(イ)上記アで検討したのと同様に、上記相違点3は、甲1−1発明において、1プッシュ当たり1.0mLである噴射量を少なくし、相違点3に対応する「定量噴射バルブの1回当たりの噴射容量は、0.08〜0.9mLに設定する」との特定に変更することは、当業者が容易になし得る技術的事項とはいえない。
そして、本件特許発明2は、その構成全体により、【0012】【0020】【0024】や実施例に記載された、甲1−1発明及び本願優先日時点の技術常識からは、当業者が予測し得ない顕著な効果を奏している。

(ウ)以上のように、本件特許発明2は、相違点1及び2’について検討するまでもなく、甲第1号証に記載された発明及び甲第3〜9号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 本件特許発明4について
(ア) 本件特許発明4は、本件特許発明1又は2において、「特定有害物防除成分の放出量が、0.01〜250mg/m3となるように、前記特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品を噴射する」ことを特定したものであり、本件特許発明4と甲1−1発明との対比において、上記ア(ア)の対比で示した一致点並びに相違点1〜3(又は1、2’及び3)に加えて、以下の相違点4を有する。
相違点4:本件特許発明4が「特定有害物防除成分の放出量が、0.01〜250mg/m3となるように、前記特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品を噴射する」と特定されているのに対して、甲1−1発明は、単位体積当たりの特定有害物防除成分の放出量に関して、そのような特定のない点。

(イ)上記アで検討したのと同様に、上記相違点3は、甲1−1発明において、1プッシュ当たり1.0mLである噴射量を少なくし、相違点3に対応する「定量噴射バルブの1回当たりの噴射容量は、0.08〜0.9mLに設定する」との特定に変更することは、当業者が容易になし得る技術的事項とはいえない。
そして、本件特許発明4は、その構成全体により、【0012】【0020】【0024】や実施例に記載された、甲1−1発明及び本願優先日時点の技術常識からは、当業者が予測し得ない顕著な効果を奏している。

(ウ)以上のように、本件特許発明4は、相違点1、2(又は2’)及び4について検討するまでもなく、甲第1号証に記載された発明及び甲第3〜9号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ 本件特許発明5について
(ア)甲1−2発明との対比
甲1−2発明の「除菌・殺菌成分であるイソプロピルメチルフェノール(IPMP)」を含むことは、本件特許発明5の「特定有害物防除成分は、イソプロピルメチルフェノール、ベンザルコニウム塩、モノカプリン、及び1,4−ビス[3,3´−(1−デシルピリジニウム)メチルオキシ]ブタン塩からなる群から選択される少なくとも一つを含み」に相当する。
また、甲1−2発明の「除菌・殺菌成分であるイソプロピルメチルフェノール(IPMP)20gを測り取り、99.5%エタノール(比重0.785(25℃))を加えて100mLにまでメスアップすることにより」「原液を調製し、エアゾール用耐圧缶・・・に、該原液を・・・充填し、エアゾールバルブ・・・でエアゾール用耐圧缶を閉止し、噴射剤として液化石油ガス(0.49MPa(25℃))を140mL加圧充填し、エアゾールバルブに噴射ボタン・・・を取り付け」た「定量噴射型エアゾール」は、本件特許発明5の「有害微生物及び/又は有害微細物質を含む特定有害物を防除するための特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品であって、 特定有害物防除成分及び有機溶剤を含有するエアゾール原液と、噴射剤とを、定量噴射バルブを備えたエアゾール容器に充填してな」る「特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品」であって、「エアゾール容器内の内圧が、25℃において0.60MPa以下に設定され」るものに相当する。
さらに、甲1−2発明の「浴室において、除菌・防カビ効果が得られる定量噴射型エアゾール」は、本件特許発明5の「空間は、浴室であ」る「有害微生物及び/又は有害微細物質を含む特定有害物を防除するための特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品」に相当する。

したがって、本件特許発明5と甲1−2発明とは、「有害微生物及び/又は有害微細物質を含む特定有害物を防除するための特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品であって、
特定有害物防除成分及び有機溶剤を含有するエアゾール原液と、噴射剤とを、定量噴射バルブを備えたエアゾール容器に充填してなり、
前記特定有害物防除成分は、イソプロピルメチルフェノール、ベンザルコニウム塩、モノカプリン、及び1,4−ビス[3,3´−(1−デシルピリジニウム)メチルオキシ]ブタン塩からなる群から選択される少なくとも一つを含み、
空間は、浴室であり、
前記エアゾール容器内の内圧が、25℃において0.60MPa以下に設定され、
特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1:本件特許発明5においては、エアゾール原液の20℃における比重は、0.76〜0.95に設定されているのに対して、甲1−2発明は、「イソプロピルメチルフェノール(IPMP)20gを測り取り、99.5%エタノール(比重0.785(25℃))を加えて100mLにまでメスアップすることにより、原液を調製」したと特定しており、エアゾール原液の20℃における比重は明らかでない点。
相違点2:本件特許発明5においては、「前記特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品を上方に向けて噴射」すると特定されているのに対して、甲1−2発明は、噴射方向が特定されていない点。
相違点3:本件特許発明5においては、「前記定量噴射バルブの1回当たりの噴射容量は、0.08〜0.9mLに設定されている」のに対して、甲1−2発明は、「1プッシュ当たりの噴射量が1.0mL」である点。

(イ)相違点の判断
a 事案に鑑み上記相違点3について検討する。
上記ア(イ)で検討したのと同様に、甲1−2発明において、1プッシュ当たりの噴射量が1.0mLの噴射量を少なくし、相違点3に対応する「定量噴射バルブの1回当たりの噴射容量は、0.08〜0.9mLに設定する」との特定に変更することは、当業者が容易になし得る技術的事項とはいえない。

b また、本件特許発明5の効果について本件特許明細書の実施例等の記載を参酌すると、本件特許発明5は、特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品として、エアゾール原液と、噴射剤とを、定量噴射バルブを備えたエアゾール容器に充填すること、特定有害物防除成分、前記エアゾール原液の20℃における比重、前記特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品の噴射方向と適用空間、前記エアゾール容器内の内圧、「前記定量噴射バルブの1回当たりの噴射容量は、0.08〜0.9mLに設定されている」ことの特定することで、本件特許発明5の構成全体により、【0012】【0020】【0024】や実施例に記載された、甲1−2発明及び本願優先日時点の技術常識からは、当業者が予測し得ない顕著な効果を奏している。

(ウ)以上のように、本件特許発明5は、相違点1及び2について検討するまでもなく、甲第1号証に記載された発明及び甲第3〜9号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

オ 本件特許発明6について
(ア)本件特許発明6は、本件特許発明5において、「上方」を「天井及び/又は壁面上部である」と特定したものであり、本件特許発明5と甲1−2発明との対比において、上記エ(ア)の対比で示した一致点並びに相違点1及び3に加えて、以下の相違点2’を有する。
相違点2’:本件特許発明2が「前記特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品を」「天井及び/又は壁面上部」「に向けて噴射」すると特定されているのに対して、甲1−1発明は、噴射方向が特定されていない点。

(イ)上記アで検討したのと同様に、上記相違点3は、甲1−2発明において、1プッシュ当たり1.0mLである噴射量を少なくし、相違点3に対応する「定量噴射バルブの1回当たりの噴射容量は、0.08〜0.9mLに設定する」との特定に変更することは、当業者が容易になし得る技術的事項とはいえない。
そして、本件特許発明6は、その構成全体により、【0012】【0020】【0024】や実施例に記載された、甲1−2発明及び本願優先日時点の技術常識からは、当業者が予測し得ない顕著な効果を奏している。

(ウ)以上のように、本件特許発明6は、相違点1及び2’について検討するまでもなく、甲第1号証に記載された発明及び甲第3〜9号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

カ 本件特許発明8について
(ア) 本件特許発明8は、本件特許発明5又は6において、「特定有害物防除成分の放出量が、0.01〜250mg/m3に設定される」ことを特定したものであり、本件特許発明8と甲1−2発明との対比において、上記エ(ア)の対比で示した一致点並びに相違点1〜3(又は1、2’及び3)に加えて、以下の相違点4’を有する。
相違点4’:本件特許発明8が「特定有害物防除成分の放出量が、0.01〜250mg/m3に設定される」と特定されているのに対して、甲1−2発明は、単位体積当たりの特定有害物防除成分の放出量に関して、そのような特定のない点。

(イ)上記アで検討したのと同様に、上記相違点3は、甲1−2発明において、1プッシュ当たり1.0mLである噴射量を少なくし、相違点3に対応する「定量噴射バルブの1回当たりの噴射容量は、0.08〜0.9mLに設定する」との特定に変更することは、当業者が容易になし得る技術的事項とはいえない。
そして、本件特許発明8は、その構成全体により、【0012】【0020】【0024】や実施例に記載された、甲1−2発明及び本願優先日時点の技術常識からは、当業者が予測し得ない顕著な効果を奏している。

(ウ)以上のように、本件特許発明8は、相違点1、2(又は2’)及び4’について検討するまでもなく、甲第1号証に記載された発明及び甲第3〜9号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

キ 異議申立理由1の判断のまとめ
異議申立理由1(特許法第29条第2項:甲第1号証を主引用例とした進歩性)には、理由がない。

(3−2)異議申立理由2(特許法第29条第2項:甲第2号証を主引用例とした進歩性
ア 本件特許発明1について
(ア)甲2−1発明との対比
甲2−1発明の「防黴剤として、3−メチル−4−イソプロピルフェノール」を含むことは、本件特許発明1の「特定有害物防除成分は、イソプロピルメチルフェノール、ベンザルコニウム塩、モノカプリン、及び1,4−ビス[3,3´−(1−デシルピリジニウム)メチルオキシ]ブタン塩からなる群から選択される少なくとも一つを含み」に相当する。
甲2−1発明の「溶剤として、エタノール」を含むこと、「液化ガスに関して、LPG」を含むことは、それぞれ、本件特許発明1の「有機溶剤を含有する」こと、「噴射剤」を「充填してなる」ことに相当する。
また、甲2−1発明の「天井に向けてエアゾール剤を一定量(0.4mL)噴霧すること」は、本件特許発明1の「空間において、前記特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品を上方に向けて噴射し、」「前記定量噴射バルブの1回当たりの噴射容量は、0.08〜0.9mLに設定されている」ことに相当する。
また、甲2−1発明の「定量噴霧機能を備えたエアゾールバルブを通して一定量を衣類の収納空間に噴霧処理する衣類害虫防除用エアゾールによる衣類害虫防除方法において、定量噴霧用エアゾールバルブ付きエアゾール容器に加圧充填して、衣類害虫防除用エアゾール剤を得て防除を行い、該衣類害虫防除用エアゾール剤が、エアゾール原液に関して、ピレスロイド成分として、プロフルトリン10.0w/v%、芳香成分として、シトロネロール2.8w/v%、インドール0.7w/v%、防黴剤として、3−メチル−4−イソプロピルフェノール2.1w/v%、溶剤として、エタノール残部、液化ガスに関して、LPG、原液/ガス比率10/90で、噴射力7.0gf、噴射粒子径6μmである」「方法」は、本件特許発明1の「特定有害物防除成分及び有機溶剤を含有するエアゾール原液と、噴射剤とを、定量噴射バルブを備えたエアゾール容器に充填してなる特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品を用いて、有害微生物及び/又は有害微細物質を含む特定有害物を防除する特定有害物防除方法」に相当する。

したがって、本件特許発明1と甲2−1発明とは、「特定有害物防除成分及び有機溶剤を含有するエアゾール原液と、噴射剤とを、定量噴射バルブを備えたエアゾール容器に充填してなる特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品を用いて、有害微生物及び/又は有害微細物質を含む特定有害物を防除する特定有害物防除方法であって、
前記特定有害物防除成分は、イソプロピルメチルフェノール、ベンザルコニウム塩、モノカプリン、及び1,4−ビス[3,3´−(1−デシルピリジニウム)メチルオキシ]ブタン塩からなる群から選択される少なくとも一つを含み、
空間において、前記特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品を上方に向けて噴射し、前記定量噴射バルブの1回当たりの噴射容量は、0.08〜0.9mLに設定されている特定有害物防除方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1−2:本件特許発明1においては、エアゾール原液の20℃における比重は、0.76〜0.95に設定されているのに対して、甲2−1発明は、エアゾール原液の20℃における比重は明らかでない点。
相違点2−2:本件特許発明1においては、「空間は、浴室であ」ると特定されているのに対して、甲2−1発明は、「衣類の収納空間に噴霧処理する」ものである点。
相違点3−2:本件特許発明1においては、「エアゾール容器内の内圧が、25℃において0.60MPa以下に設定され」ているのに対して、甲2−1発明は、25℃におけるエアゾール容器内の内圧が明らかでない点。

(イ)相違点の判断
a 事案に鑑み上記相違点2−2について検討する。
甲2−1発明の認定の根拠となった、甲第2号証には、衣類の収納空間に噴霧処理する衣類害虫防除方法に関する文献であり、衣類の収納空間に一定量噴霧されたピレスロイド系防虫成分及び芳香成分粒子を、クローゼット等に侵入もしくは生息する衣類害虫に効率よく接触させて高い防除効果を奏しうる衣類害虫防除方法に関するものであることを前提とし、定量噴霧機能を備えたエアゾール剤を用い、一定量を衣類の収納空間に噴霧処理することによって、衣類害虫に対して高い防虫効果を奏し、しかも使用時期を明瞭に認識できる衣類害虫防除方法を提供することを課題とし、「噴射距離20cmにおける噴射力を3〜15gf/25℃とし、かつ、噴霧粒子の平均粒子径が5〜30μmであること」を主な解決手段としたこと(摘記(2a))が記載されている。
そうしてみれば、「定量噴霧機能を備えたエアゾール剤を用い、一定量を衣類の収納空間に噴霧処理することによって、衣類害虫に対して高い防虫効果を奏し、しかも使用時期を明瞭に認識できる衣類害虫防除方法を提供する」ことを課題とした甲2−1発明において、衣類の収納空間に噴霧処理する衣類害虫防除方法に関する甲第2号証の記載に基づき、衣類の収納空間であるとした処理空間の特定を浴室に変更することには、動機付けがあるとはいえない。
また、浴室をも対象とした甲第1号証及び甲第3号証を考慮しても、甲第1号証は、上記(アー1)で述べたとおり、1プッシュ当たりの噴射量が1.0mL以上であることを前提としたものであり、甲第3号証は、蒸気圧が低い難揮散性殺虫化合物を前提としたものであるので、常温揮散性殺虫成分(ピレスロイド成分)を対象とした甲2−1発明に適用する動機付けはなく、甲第4〜9号証の記載を参酌しても、わざわざ相違点2−2の浴室に処理空間を変更する動機付けはない。

b したがって、甲2−1発明において、衣類の収納空間を、空間は、浴室であると変更し、相違点2−2の構成に変更することは、当業者が容易になし得る技術的事項とはいえない。

c また、本件特許発明1の効果について本件特許明細書の実施例等の記載を参酌すると、本件特許発明1は、エアゾール原液と、噴射剤とを、定量噴射バルブを備えたエアゾール容器に充填してなる特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品を用いた、特定有害物防除方法として、前記特定有害物防除成分、前記エアゾール原液の20℃における比重、前記特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品の噴射方向と適用空間、前記エアゾール容器内の内圧、及び「前記定量噴射バルブの1回当たりの噴射容量は、0.08〜0.9mLに設定されている」ことの特定することで、本件特許発明1の構成全体により、【0012】【0020】【0024】や実施例に記載された、甲2−1発明及び本願優先日時点の技術常識からは、当業者が予測し得ない顕著な効果を奏している。

d 特許異議申立人は、異議申立書44頁下から9〜2行において、防除対象空間に関して、本件特許発明1の有害物の範囲が広いことを指摘し、甲第2号証に記載された発明において、甲第1号証及び甲第3号証の記載に基いて浴室で使用することは当業者が容易に想到する旨主張しているが、上述のとおり、本件特許発明1は、浴室を処理対象空間とするものであり、甲第2号証においては、処理対象空間が衣類の収納空間であり、わだわざ、甲第1号証及び甲第3号証の記載に基いて浴室で使用する動機付けはなく、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

(ウ)以上のように、本件特許発明1は、相違点1−2及び3−2について検討するまでもなく、甲第2号証に記載された発明並びに甲第1及び3〜9号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 本件特許発明2について
(ア)本件特許発明2は、本件特許発明1において、「上方」を「天井及び/又は壁面上部である」と特定したものであり、甲2−1発明は、「天井に向けてエアゾール剤を」「噴霧すること」が特定されているので、本件特許発明2と甲2−1発明との対比において、上記ア(ア)の対比で示した一致点並びに相違点1−2〜3−2以外に新たな相違点はない。

(イ)上記アで検討したのと同様に、上記相違点2−2は、引用発明2−1において、衣類の収納空間を、空間は、浴室であると変更し、相違点2−2の構成に変更することは、当業者が容易になし得る技術的事項とはいえない。
そして、本件特許発明2は、その構成全体により、【0012】【0020】【0024】や実施例に記載された、甲2−1発明及び本願優先日時点の技術常識からは、当業者が予測し得ない顕著な効果を奏している。

(ウ)以上のように、本件特許発明2は、相違点1−2及び3−2について検討するまでもなく、甲第2号証に記載された発明及び甲第3〜9号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 本件特許発明4について
(ア) 本件特許発明4は、本件特許発明1又は2において、「特定有害物防除成分の放出量が、0.01〜250mg/m3となるように、前記特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品を噴射する」ことを特定したものであり、本件特許発明4と甲2−1発明との対比において、上記ア(ア)の対比で示した一致点並びに相違点1−2〜3−2に加えて、以下の相違点4−2を有する。
相違点4−2:本件特許発明4が「特定有害物防除成分の放出量が、0.01〜250mg/m3となるように、前記特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品を噴射する」と特定されているのに対して、甲2−1発明は、単位体積当たりの特定有害物防除成分の放出量に関して、そのような特定のない点。

(イ)上記アで検討したのと同様に、上記相違点2−2は、引用発明2−1において、衣類の収納空間を、空間は、浴室であると変更し、相違点2−2の構成に変更することは、当業者が容易になし得る技術的事項とはいえない。
そして、本件特許発明4は、その構成全体により、【0012】【0020】【0024】や実施例に記載された、甲2−1発明及び本願優先日時点の技術常識からは、当業者が予測し得ない顕著な効果を奏している。

(ウ)以上のように、本件特許発明4は、相違点1−2、3−2及び4−2について検討するまでもなく、甲第1号証に記載された発明及び甲第3〜9号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ 本件特許発明5について
(ア)甲2−2発明との対比
甲2−2発明の「防黴剤として、3−メチル−4−イソプロピルフェノール」を含むことは、本件特許発明5の「特定有害物防除成分は、イソプロピルメチルフェノール、ベンザルコニウム塩、モノカプリン、及び1,4−ビス[3,3´−(1−デシルピリジニウム)メチルオキシ]ブタン塩からなる群から選択される少なくとも一つを含み」に相当する。
甲2−2発明の「溶剤として、エタノール」を含むこと、「液化ガスに関して、LPG」を含むことは、それぞれ、本件特許発明5の「有機溶剤を含有する」こと、「噴射剤」を「充填してなる」ことに相当する。
また、甲2−2発明の「天井に向けてエアゾール剤を一定量(0.4mL)噴霧すること」は、本件特許発明5の「空間において、前記特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品を上方に向けて噴射し、」「前記定量噴射バルブの1回当たりの噴射容量は、0.08〜0.9mLに設定されている」ことに相当する。
また、甲2−2発明の「定量噴霧機能を備えたエアゾールバルブを通して一定量を」「空間に噴霧処理する衣類害虫防除用エアゾールにおいて、定量噴霧用エアゾールバルブ付きエアゾール容器に加圧充填して、」「防除用エアゾール剤を得たもので、天井に向けてエアゾール剤を一定量(0.4mL)噴霧することで防除を行うもので、」「害虫防除用エアゾール剤が、エアゾール原液に関して、ピレスロイド成分として、プロフルトリン10.0w/v%、芳香成分として、シトロネロール2.8w/v%、インドール0.7w/v%、防黴剤として、3−メチル−4−イソプロピルフェノール2.1w/v%、溶剤として、エタノール残部、液化ガスに関して、LPG、原液/ガス比率10/90で、噴射力7.0gf、噴射粒子径6μmである定量噴射型エアゾール」は、本件特許発明5の「有害微生物及び/又は有害微細物質を含む特定有害物を防除するための特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品であって、
特定有害物防除成分及び有機溶剤を含有するエアゾール原液と、噴射剤とを、定量噴射バルブを備えたエアゾール容器に充填してなり、
前記特定有害物防除成分は、イソプロピルメチルフェノール、ベンザルコニウム塩、モノカプリン、及び1,4−ビス[3,3´−(1−デシルピリジニウム)メチルオキシ]ブタン塩からなる群から選択される少なくとも一つを含み、」「空間において、前記特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品を上方に向けて噴射するように構成されており、」「前記定量噴射バルブの1回当たりの噴射容量は、0.08〜0.9mLに設定されている特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品」に相当する。

したがって、本件特許発明5と甲2−2発明とは、「有害微生物及び/又は有害微細物質を含む特定有害物を防除するための特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品であって、
特定有害物防除成分及び有機溶剤を含有するエアゾール原液と、噴射剤とを、定量噴射バルブを備えたエアゾール容器に充填してなり、
前記特定有害物防除成分は、イソプロピルメチルフェノール、ベンザルコニウム塩、モノカプリン、及び1,4−ビス[3,3´−(1−デシルピリジニウム)メチルオキシ]ブタン塩からなる群から選択される少なくとも一つを含み、
空間において、前記特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品を上方に向けて噴射するように構成されており、
前記定量噴射バルブの1回当たりの噴射容量は、0.08〜0.9mLに設定されている特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1−2:本件特許発明5においては、エアゾール原液の20℃における比重は、0.76〜0.95に設定されているのに対して、甲2−2発明は、エアゾール原液の20℃における比重は明らかでない点。
相違点2−2:本件特許発明5においては、「空間は、浴室であ」ると特定されているのに対して、甲2−2発明は、「衣類の収納空間に噴霧処理する」ものである点。
相違点3−2:本件特許発明5においては、「エアゾール容器内の内圧が、25℃において0.60MPa以下に設定され」ているのに対して、甲2−2発明は、25℃におけるエアゾール容器内の内圧が明らかでない点。

(イ)相違点の判断
a 事案に鑑み上記相違点2−2について検討する。
上記ア(イ)で検討したのと同様に、甲2−2発明において、衣類の収納空間を、空間は、浴室であると変更し、相違点2−2の構成に変更することは、当業者が容易になし得る技術的事項とはいえない。

b また、本件特許発明5の効果について本件特許明細書の実施例等の記載を参酌すると、本件特許発明5は、特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品として、エアゾール原液と、噴射剤とを、定量噴射バルブを備えたエアゾール容器に充填すること、特定有害物防除成分、前記エアゾール原液の20℃における比重、前記特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品の噴射方向と適用空間、「エアゾール容器内の内圧が、25℃において0.60MPa以下に設定され」ていること、及び定量噴射バルブの1回当たりの噴射容量を特定することで、本件特許発明5の構成全体により、【0012】【0020】【0024】や実施例に記載された、甲2−2発明及び本願優先日時点の技術常識からは、当業者が予測し得ない顕著な効果を奏している。

(ウ)以上のように、本件特許発明5は、相違点1−2及び3−2について検討するまでもなく、甲第2号証に記載された発明及び甲第3〜9号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

オ 本件特許発明6について
(ア)本件特許発明6は、本件特許発明5において、「上方」を「天井及び/又は壁面上部である」と特定したものであり、甲2−2発明は、「天井に向けてエアゾール剤を」「噴霧すること」が特定されているので、本件特許発明6と甲2−2発明との対比において、上記エ(ア)の対比で示した一致点並びに相違点1−2〜3−2以外に新たな相違点はない。

(イ)上記アで検討したのと同様に、甲2−2発明において、衣類の収納空間を、空間は、浴室であると変更し、相違点2−2の構成に変更することは、当業者が容易になし得る技術的事項とはいえない。
そして、本件特許発明6は、その構成全体により、【0012】【0020】【0024】や実施例に記載された、甲2−2発明及び本願優先日時点の技術常識からは、当業者が予測し得ない顕著な効果を奏している。

(ウ)以上のように、本件特許発明6は、相違点1−2及び3−2について検討するまでもなく、甲第2号証に記載された発明及び甲第3〜9号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

カ 本件特許発明8について
(ア) 本件特許発明8は、本件特許発明5又は6において、「特定有害物防除成分の放出量が、0.01〜250mg/m3に設定される」ことを特定したものであり、本件特許発明8と甲2−2発明との対比において、上記エ(ア)の対比で示した一致点並びに相違点1−2〜3−2に加えて、以下の相違点4’−2を有する。
相違点4’−2:本件特許発明8が「特定有害物防除成分の放出量が、0.01〜250mg/m3に設定される」と特定されているのに対して、甲2−2発明は、単位体積当たりの特定有害物防除成分の放出量に関して、そのような特定のない点。

(イ)上記アで検討したのと同様に、甲2−2発明において、衣類の収納空間を、空間は、浴室であると変更し、相違点2−2の構成に変更することは、当業者が容易になし得る技術的事項とはいえない。
そして、本件特許発明8は、その構成全体により、【0012】【0020】【0024】や実施例に記載された、甲2−2発明及び本願優先日時点の技術常識からは、当業者が予測し得ない顕著な効果を奏している。

(ウ)以上のように、本件特許発明8は、相違点1−2、3−2及び4’−2について検討するまでもなく、甲第1号証に記載された発明及び甲第3〜9号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

キ 異議申立理由2の判断のまとめ
異議申立理由2(特許法第29条第2項:甲第2号証を主引用例とした進歩性)には、理由がない。

2 特許異議申立人が申し立てた理由(異議申立理由3(特許法第36条第6項第2号明確性要件)について
ア 特許異議申立人は、異議申立書48頁下から7行〜49頁6行において、請求項1〜8に係る特許に関して、訂正前の本件特許発明においては、「エアゾール容器内の内圧が、25℃において0.60MPa以下に設定」され、下限値が特定されていないので、0MPa又はそれに近い値の場合、通常のエアゾール製品として機能しない範囲を含んでいる点で、請求項の記載が技術的に明確でないから、請求項1〜8に係る発明は明確ではない旨主張している。

イ しかしながら、下限値が特定されていないからといって、絶対圧として0MPaで使用するはずがなく、当業者であれば技術常識として、0MPaに限りなく近いエアゾール製品として機能しない範囲は除かれていると理解できるし、本件特許明細書の【0043】のエアゾール容器内圧の好ましい範囲等に記載を参考に、それ以外のエアゾール製品として機能する範囲であれば、他の条件を調整することによって使用することが理解できるといえる。
したがって、「エアゾール容器内の内圧が、25℃において0.60MPa以下に設定」するという特定事項の下限がないことをもって、第三者に不測の不利益を生じる不明確な点はなく、特許法第36条第6項第2号に適合するものであり、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。

ウ 異議申立理由3の判断のまとめ
異議申立理由3(特許法第36条第6項第2号明確性要件)には、理由がない。

3 特許異議申立人が申し立てた理由(異議申立理由4−1〜4−4(特許法第36条第6項第1号:サポート要件)について
ア 本件特許発明1、2、4〜6及び8は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、サポート要件を満たしていることは、前記「I 取消理由(サポート要件)の判断」で述べたとおりである。

イ 特許異議申立人の主張の検討
(ア)異議申立理由4−1について
特許異議申立人は、異議申立書49頁最終行〜50頁14行において、請求項1〜8に係る特許に関して、エアゾール容器の内圧が0MPa又はそれに近い値の場合には、定量噴射製品を構成することができず、天井や壁に対して十分量の防除成分を均一に付着することができず、本件特許発明の課題が解決できると認識できず、請求項1〜8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明ではない旨主張している。

しかしながら、絶対圧として0MPaで使用するはずがなく、当業者であれば技術常識として、0MPaに限りなく近いエアゾール製品として機能しない範囲は除かれていると理解できるし、本件特許明細書の【0043】のエアゾール容器内圧の好ましい範囲等に記載を参考に、それ以外のエアゾール製品として機能する範囲であれば、他の条件を調整することによって使用することが理解でき、一定程度、天井や壁に対して十分量の防除成分を均一に付着することができ、本件特許発明の課題が解決できると認識できるといえる。
したがって、本件特許発明において、「エアゾール容器内の内圧が、25℃において0.60MPa以下」と特定されているからといって、内圧が0MPa又はそれに近い値の場合という極端な場合を想定してサポート要件を満たさないということはできず、特許法第36条第6項第1号に適合するものであり、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。

よって、異議申立理由4−1には、理由がない。

(イ)異議申立理由4−2について
特許異議申立人は、異議申立書50頁下から6行〜51頁下から2行において、請求項1〜8に係る特許に関して、実施例1、6及び9と比較例2のデータから25℃での内圧と噴射力には、一定の関係性がないことから、25℃での内圧が0.6MPa以下でも噴射力を10.5gf/15cm程度とすることが可能で、天井や壁に対して十分量の防除成分を均一に付着することができるか不明であるので、課題が解決できると認識できないから、請求項1〜8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明ではない旨主張している。

しかしながら、実施例1、6及び9と比較例2のデータから25℃での内圧と噴射力には、完全な相関関係が成立しない場合があることや、25℃での内圧が0.6MPa以下でも噴射力を10.5gf/15cm程度とすることが可能であること自体が、サポート要件を満たさないことを示すことにはならず、当業者であれば、【0011】〜【0030】、【0036】〜【0050】に記載された各パラメータの好ましい範囲や技術的意義の記載及び実施例の記載を参考にすれば、一定程度、天井や壁に対して十分量の防除成分を均一に付着することができ、本件特許発明の課題が解決できると認識できるといえる。
したがって、本件特許発明に関して、実施例1、6及び9と比較例2のデータを比較することだけに着目して、サポート要件を満たさないということはできず、特許法第36条第6項第1号に適合するものであり、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。

よって、異議申立理由4−2には、理由がない。

(ウ)異議申立理由4−3について
特許異議申立人は、異議申立書51頁最終行〜52頁14行において、請求項1〜8に係る特許に関して、定量噴射バルブの1回あたりの噴射容量を「0.08〜0.9mLに設定」しているが、実施例1、3、4、6、9、11、12及び16においては、噴射容量が0.4mLであり、0.08mLの場合等極めて少ない場合には、天井や壁に対して十分量の防除成分を均一に付着することができないことは明らかなので、課題が解決できると認識できないから、請求項1〜8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明ではない旨主張している。

しかしながら、本件特許明細書には、【0045】に、好ましい噴射バルブの1回あたりの噴射容量の範囲が示され、この範囲であれば、天井や壁に対して十分量の防除成分を均一に付着することができると説明されている上に、たとえ噴射容量が比較的小さい場合であっても、例えば噴射時間や噴射口径等の他の条件を調整すれば、一定程度天井や壁に対して十分量の防除成分を均一に付着することができることは理解でき、本件特許発明の課題が解決できると認識できるといえる。
したがって、本件特許発明の噴射バルブの1回あたりの噴射容量の下限付近の条件だけに着目して、サポート要件を満たさないということはできず、特許法第36条第6項第1号に適合するものであり、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。

よって、異議申立理由4−3には、理由がない。

(エ)異議申立理由4−4について
特許異議申立人は、異議申立書52頁15〜25行において、請求項1〜8に係る特許に関して、エアゾール原液における特定有害物防除成分の含有量について特定されていないが、噴射に際して用いるエアゾール原液中の特定有害物防除成分の含有量も、天井や壁に対して十分量の防除成分を均一に付着するために影響することは明らかであり、課題が解決できると認識できないから、請求項1〜8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明ではない旨主張している。

しかしながら、噴射に際して用いるエアゾール原液中の特定有害物防除成分の含有量も、天井や壁に対して十分量の防除成分を均一に付着するために影響することが技術常識であるとしても、当業者であれば、該技術常識に基づいて条件を調整すればよく、本件特許明細書には、【0036】に、好ましいエアゾール原液における特定有害物防除成分の含有量の範囲が示され、この範囲であれば、天井や壁に対して十分量の防除成分を均一に付着することができると説明されているので、一定程度天井や壁に対して十分量の防除成分を均一に付着することができることは理解でき、本件特許発明の課題が解決できると認識できるといえる。
したがって、本件特許発明に、エアゾール原液における特定有害物防除成分の含有量の特定がないからといって、サポート要件を満たさないということはできず、特許法第36条第6項第1号に適合するものであり、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。

よって、異議申立理由4−3には、理由がない。

ウ 異議申立理由4−1〜4−4の判断のまとめ
異議申立理由4−1〜4−4(特許法第36条第6項第1号:サポート要件)には、理由がない。

4 特許異議申立人の意見書における主張について
特許異議申立人は、意見書において、本願のパリ優先権主張の基礎となる出願(特願2020−44039号)の明細書(甲第10号証)を提出して、その記載を根拠に、エアゾール原液(a)/噴射剤(b)の容量比率やエアゾール容器の内圧を、その【0034】や【0035】の範囲に限定しなければサポート要件を満たさないことや本件特許明細書に、細菌、カビ、ウイルス以外の「特定有害物」の例示がないことを問題にして、サポート要件を満たさない旨主張している。

甲第10号証は、本件特許明細書ではないので、サポート要件に関する根拠とは直接ならないし、エアゾール原液(a)/噴射剤(b)の容量比率やエアゾール容器の内圧に関しては、本件特許明細書において、好ましい範囲が示されており、実施例も参考に当業者であれば本件特許発明の課題を解決できることを認識できることはすでに述べたとおりである。
また、「特定有害物」に関しては、【0030】に記載があり、有害微生物と有害微細物質を併せた概念であることが示されており、当業者であれば技術常識をも考慮すれば理解できるものであり、一定程度本件特許発明の課題が解決できることを認識できるといえる。

第6 むすび
以上のとおり、本件請求項1、2、4〜6及び8に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由並びに特許異議申立人が申し立てた理由及び証拠によっては、取り消されるべきものとはいえない。
そして、請求項3及び7に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、特許異議申立人による特許異議の申立てについて、請求項3及び7に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
また、ほかに本件請求項1、2、4〜6及び8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定有害物防除成分及び有機溶剤を含有するエアゾール原液と、噴射剤とを、定量噴射バルブを備えたエアゾール容器に充填してなる特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品を用いて、有害微生物及び/又は有害微細物質を含む特定有害物を防除する特定有害物防除方法であって、
前記特定有害物防除成分は、イソプロピルメチルフェノール、ベンザルコニウム塩、モノカプリン、及び1,4−ビス[3,3’−(1−デシルピリジニウム)メチルオキシ]ブタン塩からなる群から選択される少なくとも一つを含み、
前記エアゾール原液の20℃における比重は、0.76〜0.95に設定されており、
空間において、前記特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品を上方に向けて噴射し、
前記空間は、浴室であり、
前記エアゾール容器内の内圧が、25℃において0.60MPa以下に設定され、
前記定量噴射バルブの1回当たりの噴射容量は、0.08〜0.9mLに設定されている特定有害物防除方法。
【請求項2】
前記上方は、天井及び/又は壁面上部である請求項1に記載の特定有害物防除方法。
【請求項3】(削除)
【請求項4】
前記特定有害物防除成分の放出量が、0.01〜250mg/m3となるように、前記特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品を噴射する請求項1又は2に記載の特定有害物防除方法。
【請求項5】
有害微生物及び/又は有害微細物質を含む特定有害物を防除するための特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品であって、
特定有害物防除成分及び有機溶剤を含有するエアゾール原液と、噴射剤とを、定量噴射バルブを備えたエアゾール容器に充填してなり、
前記特定有害物防除成分は、イソプロピルメチルフェノール、ベンザルコニウム塩、モノカプリン、及び1,4−ビス[3,3’−(1−デシルピリジニウム)メチルオキシ]ブタン塩からなる群から選択される少なくとも一つを含み、
前記エアゾール原液の20℃における比重は、0.76〜0.95に設定されており、
空間において、前記特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品を上方に向けて噴射するように構成されており、
前記空間は、浴室であり、
前記エアゾール容器内の内圧が、25℃において0.60MPa以下に設定され、
前記定量噴射バルブの1回当たりの噴射容量は、0.08〜0.9mLに設定されている特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品。
【請求項6】
前記上方は、天井及び/又は壁面上部である請求項5に記載の特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品。
【請求項7】(削除)
【請求項8】
前記特定有害物防除成分の放出量が、0.01〜250mg/m3に設定されている請求項5又は6に記載の特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2023-04-28 
出願番号 P2021-107265
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (A01N)
P 1 651・ 537- YAA (A01N)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 阪野 誠司
特許庁審判官 齋藤 恵
瀬良 聡機
登録日 2022-03-29 
登録番号 7049511
権利者 大日本除蟲菊株式会社
発明の名称 特定有害物防除用定量噴射エアゾール製品、及びこれを用いた特定有害物防除方法  
代理人 沖中 仁  
代理人 日東 伸二  
代理人 日東 伸二  
代理人 沖中 仁  
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