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審決分類 |
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載 H01M 審判 一部申し立て 2項進歩性 H01M |
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管理番号 | 1400515 |
総通号数 | 20 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2023-08-25 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2023-04-25 |
確定日 | 2023-08-04 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第7160796号発明「リチウムイオン電極用粘着剤、リチウムイオン電池用電極及びリチウムイオン電池用電極の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第7160796号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第7160796号の請求項1ないし12に係る特許についての出願は、2018年(平成30年)4月20日(優先権主張2017年(平成29年)4月21日)を国際出願日とする出願であって、令和4年10月17日にその特許権の設定登録がされ、令和4年10月25日に特許掲載公報が発行された。その後、その請求項1ないし3に係る特許に対し、令和5年4月25日に特許異議申立人小林喜一(以下「特許異議申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。 第2 本件発明 特許第7160796号の請求項1ないし12の特許に係る発明(以下「本件特許発明1」ないし「本件特許発明12」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 リチウムイオン電極において活物質同士を接着させる粘着剤であって、 前記粘着剤のガラス転移点が60℃以下であり、溶解度パラメータが8〜13(cal/cm3)1/2であり、周波数10−1〜101Hzの範囲において20℃で測定した貯蔵せん断弾性率及び損失せん断弾性率が2.0×103〜5.0×107Paであって、 前記粘着剤が(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体由来の構成単位を必須とし、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体と共重合可能なモノビニル単量体を構成単量体として含むアクリル系重合体であり、前記粘着剤を構成する単量体中における前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体の割合が単量体の合計重量を基準として50重量%以上であり、フッ素含有単量体の割合が単量体の合計重量を基準として3重量%未満であることを特徴とするリチウムイオン電極用粘着剤。 【請求項2】 前記粘着剤が2種類以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体を構成単量体として含み、その合計含有量が構成単量体の合計重量を基準として50重量%以上である請求項1に記載のリチウムイオン電極用粘着剤。 【請求項3】 前記粘着剤が、(メタ)アクリル酸単量体を構成単量体として含む請求項1又は2に記載のリチウムイオン電極用粘着剤。 【請求項4】 請求項1〜3のいずれか1項に記載の粘着剤と、リチウムイオンを吸蔵及び放出する電極活物質の表面の少なくとも一部に被覆用樹脂を含む被覆層を有する被覆電極活物質との非結着体からなることを特徴とするリチウムイオン電池用電極。 【請求項5】 前記被覆電極活物質と前記粘着剤の重量比が、被覆電極活物質/粘着剤=90/10〜99.99/0.01である請求項4に記載のリチウムイオン電池用電極。 【請求項6】 前記電極を構成する電極活物質層の厚さが150μm以上である請求項4又は5に記載のリチウムイオン電池用電極。 【請求項7】 リチウムイオンを吸蔵及び放出する電極活物質の表面の少なくとも一部に被覆用樹脂を含む被覆層を有する被覆電極活物質と、 リチウムイオン電極において活物質同士を接着させる粘着剤であって、前記粘着剤のガラス転移点が60℃以下であり、溶解度パラメータが8〜13(cal/cm3)1/2であり、周波数10−1〜101Hzの範囲において20℃で測定した貯蔵せん断弾性率及び損失せん断弾性率が2.0×103〜5.0×107Paであって、前記粘着剤が(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体由来の構成単位を必須とし、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体と共重合可能なモノビニル単量体を構成単量体として含むアクリル系重合体であり、前記粘着剤を構成する単量体中における前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体の割合が単量体の合計重量を基準として50重量%以上であり、フッ素含有単量体の割合が単量体の合計重量を基準として3重量%未満であるリチウムイオン電極用粘着剤と、の混合物を加圧することにより、 前記被覆電極活物質と前記粘着剤とを含む混合物の非結着体からなる電極活物質層を形成することを特徴とするリチウムイオン電池用電極の製造方法。【請求項8】 前記粘着剤が、2種類以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体を構成単量体として含み、その合計含有量が構成単量体の合計重量を基準として50重量%以上である請求項7に記載のリチウムイオン電池用電極の製造方法。 【請求項9】 前記粘着剤が、(メタ)アクリル酸単量体を構成単量体として含む請求項7又は8に記載のリチウムイオン電池用電極の製造方法。 【請求項10】 前記混合物中における、前記被覆電極活物質と前記粘着剤の重量比が、被覆電極活物質/粘着剤=90/10〜99.99/0.01である請求項7〜9のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用電極の製造方法。 【請求項11】 前記混合物がさらに電解液を含む電解液含有混合物であり、 前記電解液含有混合物を加圧することにより電極活物質層を形成する請求項7〜10のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用電極の製造方法。 【請求項12】 前記電極活物質層の厚さが150μm以上である請求項7〜11のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用電極の製造方法。」 第3 申立理由の概要 特許異議申立人が申し立てた申立ての理由は、以下のとおりである。 1 申立理由1 請求項1〜3に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1〜3に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。 2 申立理由2 (1)請求項1〜3に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証に記載された発明に基づいて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。 (2)請求項1〜3に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証に記載された発明、並びに甲第2号証及び甲第3号証に記載された周知技術に基づいて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。 甲第1号証:国際公開第2018/021552号 甲第2号証:国際公開第2011/078212号 甲第3号証:国際公開第2017/150048号 第4 甲号証の記載及び甲号証に記載された発明 1 甲第1号証 甲第1号証には、「ポリマー粒子」について、以下の各記載がある(下線は当審で付与した。)。 ア.「[0016]本開示は、一又は複数の実施形態において、蓄電デバイス電極用バインダーに、イオン透過性を有し、かつ、電解液による処理前後における弾性変化率[(処理後弾性率)/(処理前弾性率)]が所定の範囲内であるポリマー粒子を含有させることで、バインダーとして良好な結着性を確保しつつ、優れたイオン透過性を付与できるという知見に基づく。 [0017]すなわち、本開示は、一態様において、ポリマー粒子を含む蓄電デバイス電極用樹脂組成物であって、前記ポリマー粒子は、イオン透過性を有し、前記ポリマー粒子の電解液による処理前後における弾性変化率[(処理後弾性率)/(処理前弾性率)]が、30%以下である、蓄電デバイス電極用樹脂組成物(以下、「本開示に係る樹脂組成物」ともいう)に関する。本開示によれば、電極への良好な結着性を確保しつつ、優れたイオン透過性を有する樹脂組成物を提供できる。」 イ.「[0019]さらに、本開示は、その他の一又は複数の実施形態において、蓄電デバイス電極用樹脂組成物に所定のポリマー粒子を含有させ、該樹脂組成物の表面張力を所定の大きさに規定することで、電極の結着性を確保しつつ、電池特性を向上できるという知見に基づく。 [0020]すなわち、本開示は、その他の態様において、前記式(I)で表される化合物由来の構成単位(A−2)、並びに、前記式(II)で表される化合物、前記式(III)で表される化合物、及び不飽和二塩基酸から選ばれる少なくとも1種の化合物由来の構成単位(B−2)を含有するポリマー粒子を含む、蓄電デバイス電極用樹脂組成物であって、 前記ポリマー粒子の全構成単位中の構成単位(A−2)の含有量が、50質量%以上99.9質量%以下であり、 前記ポリマー粒子の全構成単位中の構成単位(B−2)の含有量が、0.1質量%以上20質量%以下であり、 前記樹脂組成物の表面張力が、55mN/m以上である、蓄電デバイス電極用樹脂組成物(以下、「本開示に係る樹脂組成物」ともいう)に関する。本開示に係る樹脂組成物によれば、電極への良好な結着性を確保しつつ、電池特性を向上できる。そして、本開示に係る樹脂組成物を蓄電デバイス用電極に用いることで、電池特性を向上できる。 [0021]本開示の樹脂組成物が、その他の一又は複数の実施形態において、電極への良好な結着性を確保しつつ、電池特性を向上できるという効果発現のメカニズムの詳細は明らかではないが、以下のことが推定される。 本開示に係る樹脂組成物は、一又は複数の実施形態において、所定のポリマー粒子を含有し、かつ、表面張力が所定の値以上であることで、バインダーとして良好な結着性を有しつつ、蓄電デバイスに用いる電解液への親和性を優れたものとすることができる。そのため、電解液に含まれるリチウムイオン等のアルカリイオンの移動も阻害しないようにすることができる。これにより、本開示に係る樹脂組成物を用いて作製した電池は、電池の内部抵抗が抑制され、電池特性を向上できると考えられる。但し、これらは推定であって、本開示はこれらメカニズムに限定して解釈されなくてもよい。」 ウ.「[0023][ポリマー粒子] 本開示に係る樹脂組成物は、一又は複数の実施形態において、イオン透過性を有するポリマー粒子(以下、「本開示のポリマー粒子」ともいう)を含む。イオン透過性は、例えば、誘導結合プラズマ質量分析計(ICP−MS)を用いた測定方法にて評価でき、具体的には、実施例に記載の方法により評価できる。 [0024]本開示のポリマー粒子は、一又は複数の実施形態において、電解液による処理前後における弾性変化率[(処理後弾性率)/(処理前弾性率)]が、低温でのイオン透過性の観点から、30%以下であって、10%以下が好ましく、3%以下がより好ましく、そして、バインダーの安定性の観点から、0.01%以上が好ましく、0.05%以上が好ましい。弾性率及び弾性変化率は、例えば、実施例に記載の方法により測定できる。弾性率を調整する方法としては、例えば、ポリマーがアクリレート系ポリマーの場合、低級アルキル基を多く有するモノマー量を増やすことや、アクリレートエステルやアクリルアミドのモル比を増やすことが挙げられる。」 エ.「[0027]本開示のポリマー粒子の溶解度パラメータspは、一又は複数の実施形態において、電解液との親和性の観点から、9.0(cal/cm3)1/2以上が好ましく、9.3(cal/cm3)1/2以上がより好ましく、9.5(cal/cm3)1/2以上が更に好ましく、そして、同様の観点から、11.0(cal/cm3)1/2以下が好ましく、10.7(cal/cm3)1/2以下がより好ましく、10.5(cal/cm3)1/2以下が更に好ましい。本開示において、溶解度パラメータspは、Fedorsの方法[R.F.Fedors.Polym.Eng.Sci.,14,147(1974)]により計算される値である。本開示のポリマー粒子が上記の範囲内の溶解度パラメータを有する場合、本開示に係る樹脂組成物と電解液との親和性が良好となり、電解液の透過をスムーズに行うことができる。溶解度パラメータspの調整は、例えば、ポリマーがアクリレート系ポリマーの場合、モノマーに用いられる原料の親水性官能基と疎水性官能基の割合やその極性の強さを考慮することにより行うことができる。」 オ.「[0029]本開示のポリマー粒子のガラス転移温度(Tg)は、一又は複数の実施形態において、結着性及びイオン透過性の観点から、一定範囲内にあることが好ましい。本開示のポリマー粒子のTgは、一又は複数の実施形態において、電解液の透過性を阻害せず、電極との結着性の観点から、一定値以下であることが好ましく、具体的には、60℃以下が好ましく、30℃以下がより好ましい。本開示のポリマー粒子のTgは、一又は複数の実施形態において、電解液中での安定性の観点から、一定値以上であることが好ましく、具体的には、−50℃以上が好ましく、−30℃以上がより好ましい。ポリマー粒子自体のTgの違いにより、電解液中での温度によるバインダーの形状変化によって電解液の通液及び結着力を左右するためであると考えられる。Tgの調整は、既知の各種ホモポリマーにおけるTgを参考にモノマー組成比や分子量を適宜選択することにより行うことができる。ガラス転移温度(Tg)は、例えば、実施例に記載の方法により測定できる。 [0030]本開示のポリマー粒子としては、例えば、単官能(メタ)アクリレート、単官能(メタ)アクリルアミド、酸性基を有する単官能モノマー、スチレン系の単官能モノマー、及び窒素含有複素環を有する単官能モノマーから選ばれる少なくとも1種の単官能モノマー由来の構成単位を含むポリマーが挙げられる。本開示において、単官能モノマーとは、不飽和結合を1個有するモノマーをいう。単官能モノマーは1種単独でもよいし、2種以上の組合せでもよい。本開示において、(メタ)アクリレートとは、メタクリレート又はアクリレートを意味し、(メタ)アクリルアミドとは、メタクリルアミド又はアクリルアミドを意味する。」 カ.「[0039]スチレン系の単官能モノマーとしては、例えば、スチレン等が挙げられる。 [0040]窒素含有複素環を有する単官能モノマーとしては、例えば、ビニルピリジン、ビニルピロリドン等が挙げられる。 [0041]本開示のポリマー粒子の一実施形態としては、合成の容易性、結着性及びイオン透過性の観点から、単官能(メタ)アクリレート(以下、「モノマー(A−1)」ともいう)由来の構成単位(以下、「構成単位(A−1)」ともいう)を含むポリマーが好ましく挙げられる。 本開示のポリマー粒子のその他の実施形態としては、同様の観点から、単官能(メタ)アクリレートのモノマー(A−1)由来の構成単位(A−1)と酸性基を有する単官能モノマー(以下、「モノマー(B−1)」ともいう)由来の構成単位(以下、「構成単位(B−1)」ともいう)とを含むポリマーが好ましく挙げられる。モノマー(A−1)及び(B−1)はそれぞれ、1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。 本開示のポリマー粒子のその他の実施形態としては、合成の容易性、電解液への親和性及びバインダー物性の観点から、単官能(メタ)アクリレート及び単官能(メタ)アクリルアミドから選ばれる少なくとも1種の単官能モノマー(以下、「モノマー(A−2)」ともいう)由来の構成単位(A−2)、並びに、単官能(メタ)アクリレート及び酸性基を有する単官能モノマーから選ばれる少なくとも1種の単官能モノマー(以下、「モノマーB−2」ともいう)由来の構成単位(B−2)を含むポリマーが好ましく挙げられる。モノマー(A−2)及び(B−2)はそれぞれ、1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。 [0042]<モノマー(A−1)> モノマー(A−1)の単官能(メタ)アクリレートとしては、合成の容易性、結着性及びイオン透過性の観点から、上述した単官能(メタ)アクリレートの中でも、エステル系(メタ)アクリレートが好ましく、炭素数1以上8以下のアルキルエステル(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、アルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、及びポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートから選ばれる1種又は2種以上の組合せがより好ましい。 [0043]本開示におけるポリマーが構成単位(A−1)を含む場合、本開示のポリマー粒子の全構成単位中の構成単位(A−1)の含有量は、合成の容易性、結着性及びイオン透過性の観点から、70質量%以上が好ましく、75質量%以上がより好ましく、80質量%以上が更に好ましく、85質量%以上がより更に好ましく、そして、同様の観点から、100質量%以下が好ましく、99質量%以下がより好ましく、97質量%以下が更に好ましい。構成単位(A−1)が複数種類のモノマー(A−1)由来の構成単位からなる場合、構成単位(A−1)の含有量は、それらの合計量をいう。 [0044]<モノマー(B−1)> モノマー(B−1)の酸性基を有する単官能モノマーとしては、合成の容易性、結着性及びイオン透過性の観点から、上述した酸性基を有する単官能モノマーの中でも、カルボン酸基を有する単官能モノマーが好ましい。カルボン酸基を有する単官能モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸;マレイン酸、イタコン酸及びこれらの塩等の不飽和二塩基酸;等が挙げられ、合成の容易性、結着性及びイオン透過性の観点から、(メタ)アクリル酸が好ましい。(メタ)アクリル酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸及びそれらの塩から選ばれる1種又は2種以上の組合せが挙げられる。塩としては、合成の容易性、結着性及びイオン透過性の観点から、アンモニウム塩、ナトリウム塩、リチウム塩及びカリウム塩から選ばれる少なくとも1種が好ましく、リチウム塩及びナトリウム塩の少なくとも一方がより好ましい。モノマー(B−1)が(メタ)アクリル酸の塩である場合、アクリル酸及びメタクリル酸の少なくとも一方のモノマーを、アルカリ(アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム等)で中和したものであってもよいし、アクリレート及びメタクリレートの少なくともどちらか一方のモノマーを重合したポリマーの構成単位となってから中和されたものでもあってもよい。重合反応制御の観点から重合後にポリマーの構成単位となってから中和されたものであることが好ましい。」 キ.「[0098][水性媒体] 本開示に係る樹脂組成物は、水性媒体をさらに含有することができる。水性媒体としては、イオン交換水等が挙げられる。本開示に係る樹脂組成物が水性媒体を含有する場合、本開示に係る樹脂組成物の形態としては、例えば、上記ポリマー粒子が水性媒体に分散されたポリマー粒子分散体が挙げられる。ポリマー粒子分散体としては、例えば、上述した乳化重合法で得られるポリマー粒子を含む混合液をそのまま使用できる。本開示に係る樹脂組成物中の水性媒体の含有量は、上記ポリマー粒子及び後述するその他の任意成分の残余とすることができる。」 ク.「[0101][樹脂組成物の製造方法] 本開示に係る樹脂組成物は、上述したポリマー粒子、並びに必要に応じて上述した水性媒体及び任意成分を公知の方法で配合することにより製造できる。すなわち、本開示は、一態様において、少なくともポリマー粒子を配合する配合工程を含む、樹脂組成物の製造方法(以下、「本開示に係る製造方法」ともいう)に関する。前記配合は、例えば、スターラー、ディスパー、ホモミキサー等の公知の混合装置を用いて行うことができる。前記配合工程における各成分の配合量は、上述の樹脂組成物中の各成分の含有量と同様とすることができる。」 ケ.「[0103]本開示に係る樹脂組成物は、例えば、蓄電デバイス電極材料、蓄電デバイス電極用バインダー等として使用できる。また、本開示に係る樹脂組成物は、例えば、正極用バインダーであってもよいし、負極用バインダーであってもよい。好ましくは負極のバインダーである。蓄電デバイスとしては、二次電池、キャパシタ等が挙げられる。本開示に係る樹脂組成物は、例えば、リチウムイオン二次電池の材料に好適に用いられる。」 コ.「[0105][蓄電デバイス用電極] 本開示に係る樹脂組成物は、蓄電デバイス用電極(正極及び/又は負極)の合材層の作製に使用されうる。すなわち、本開示は、一態様において、集電体、及び前記集電体上に形成された合材層を含む蓄電デバイス用電極であって、前記合材層が、活物質、及び本開示に係る樹脂組成物を含む、蓄電デバイス用電極(以下、「本開示に係る電極」ともいう)に関する。 [0106]前記合材層は、例えば、活物質、本開示に係る樹脂組成物、及び溶媒を含むスラリーを調製し、このスラリーを集電体に塗布し、スラリー中の溶媒を乾燥除去することにより得られる。(後略)」 サ.「[0113]以下、実施例により本開示を説明するが、本開示はこれに限定されるものではない。 [0114]1.ポリマー粒子分散体の調製(実施例1〜4及び比較例1) 表1に示す実施例1〜4及び比較例1のポリマー粒子分散体の調製には、下記原料を用いた。表1及び以下の実施例に用いた原料の略号は次の通りである。 [0115]<モノマー(A−1)> MMA:メチルメタクリレート(和光純薬工業製) EA:エチルアクリレート(和光純薬工業製) BA:ブチルアクリレート(和光純薬工業製) 2−EHA:2エチルへキシルアクリレート <モノマー(B−1)> AA:アクリル酸(和光純薬工業製) <モノマー(C)> EGDMA:エチレングリコールジメタクリレート(和光純薬工業製) <重合開始剤> APS:過硫酸アンモニウム KPS:過硫酸カリウム <中和塩> Na:ナトリウム Li:リチウム NH4:アンモニウム <乳化剤> ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム」 シ.「[0121]2.ポリマー粒子の物性について(実施例1〜4及び比較例1) 実施例1〜4及び比較例1の各ポリマー粒子の弾性率、弾性変化率、溶解度、ガラス転移温度、平均粒径、及び吸液量を下記のようにして求め、これらの結果を表2に示す。さらに、各ポリマー粒子のsp及び各ポリマー粒子とEC/DEC(体積比1/1)とのΔspを表2にまとめて示す。 [0122][弾性率及び弾性変化率] ポリマー粒子分散体を平板上で乾燥して得られた皮膜状となったポリマー(以下、ポリマー粒子皮膜)1gを電解液100gに浸し、常温(25℃)で72時間放置した。電解液には、EC/DEC混合溶媒(体積比1/1)を用いた。浸漬後のポリマー粒子皮膜を取出し、余分な電解液を拭き取った後、1cm角に裁断した。Anton Paar社製レオメーター「MCR302」を用い、測定温度25℃、治具PP08、ノーマルフォース1N、周波数2Hz、ひずみ0.01〜1000%の条件で測定し、角速度0.01(1/s)の貯蔵弾性率を弾性変化率算出に用いた。電解液浸漬前のポリマー粒子皮膜についても同様の条件で測定した。 弾性変化率(%)=浸漬後の皮膜の貯蔵弾性率/浸漬前の皮膜の貯蔵弾性率×100 [0123](中略) [0124][ガラス転移温度(Tg)] ガラス転移温度Tgは、Fox式[T.G.Fox、Bull.Am.Physics Soc.、第1巻、第3号、123ページ(1956)]に従って、ポリマーを構成する各々のモノマーの単独重合体のTgnより、下記式(I)から計算により求めた。 1/Tg=Σ(Wn/Tgn) (I) 式(I)中、Tgnは、各モノマー成分の単独重合体の絶対温度で表したTgを示し、Wnは各モノマー成分の質量分率を示す。」 ス.「[0129][表1] [0130][表2] 」 セ.「請求の範囲 [請求項1]ポリマー粒子を含む蓄電デバイス電極用樹脂組成物であって、 前記ポリマー粒子は、イオン透過性を有し、 前記ポリマー粒子の電解液による処理前後における弾性変化率[(処理後弾性率)/(処理前弾性率)]が、30%以下である、蓄電デバイス電極用樹脂組成物。 [請求項2]前記ポリマー粒子は、エステル(メタ)アクリレート由来の構成単位を含む、請求項1に記載の蓄電デバイス電極用樹脂組成物。」 ソ.上記「ア.」ないし「セ.」から以下のことが言える。 (ア)上記「キ.」の段落[0098]及び上記「ク.」の段落[0101]によれば、樹脂組成物は、ポリマー粒子と必要に応じてイオン交換水等の水性媒体及び任意成分とを含み、上記「コ.」の段落[0105]、[0106]によれば、樹脂組成物は、蓄電デバイス用電極(正極及び/又は負極)の合材層の作製に使用され、前記合材層は、活物質、樹脂組成物、及び溶媒を含むスラリーを調製し、このスラリーを集電体に塗布し、スラリー中の溶媒を乾燥除去することにより、集電体上に形成される。 そうすると、蓄電デバイス用電極の合材層は活物質及び樹脂組成物から形成され、そのうちの樹脂組成物は、ポリマー粒子のほかに必要に応じて水性成分及び任意成分を含むものである。ここで、蓄電デバイス用電極の合材層を構成する活物質、ポリマー粒子、水性成分及び任意成分のうち水性成分及び任意成分は活物質を結着させるものでないことは明らかであるから、蓄電デバイス用電極において活物質を結着させるのは「ポリマー粒子」であるといえる。 さらに、上記「ケ.」の段落[0103]によれば、樹脂組成物は、蓄電デバイス電極材料、蓄電デバイス電極用バインダー等として使用でき、リチウムイオン二次電池の材料に好適に用いられるから、甲第1号証には、「リチウムイオン二次電池の電極において活物質を結着させるポリマー粒子」が記載されているといえる。 (イ)上記「シ.」の段落[0121]〜[0122]によれば、実施例1〜4及び比較例1の各ポリマー粒子の弾性率は、Anton Paar社製レオメーター「MCR302」を用い、測定温度25℃、治具PP08、ノーマルフォース1N、周波数2Hz、ひずみ0.01〜1000%の条件で測定し、角速度0.01(1/s)の貯蔵弾性率を弾性変化率算出に用いたものであるから、上記「ス.」の段落[0130]の[表2]に記載の「弾性率」は、測定温度25℃、周波数2Hzの貯蔵弾性率であると認められる。 (ウ)上記「シ.」の段落[0121]に、「実施例1〜4及び比較例1の各ポリマー粒子の・・・ガラス転移温度・・・を下記のようにして求め、これらの結果を表2に示す」と記載され、段落[0124]に「ガラス転移温度Tg」と記載されているから、上記「ス.」の[表2]に記載の実施例1〜4及び比較例1に対応する「Tg」は実施例1〜4及び比較例1の各ポリマー粒子の「ガラス転移温度」である。 (エ)上記「サ.」〜「ス.」、及び上記(イ)、(ウ)によれば、甲第1号証には、実施例1のポリマー粒子として、ポリマー粒子のガラス転移温度Tgが−17.5℃、溶解度パラメータが10.33(cal/cm3)1/2、測定温度25℃、周波数2Hzの貯蔵弾性率が浸漬前4.63×105、浸漬後8.64×102、であり、モノマー組成が、エチルアリクレート(モノマー(A−1))97質量%、アクリル酸(モノマー(B−1))3質量%、エチレングリコールジメタクリレート(モノマー(C))0.1モル%(対モノマー(A−1)+(B−1))である、ポリマー粒子が記載されている。 (オ)上記「サ.」〜「ス.」、及び上記(イ)、(ウ)によれば、甲第1号証には、実施例2のポリマー粒子として、ポリマー粒子のガラス転移温度Tgが−17.5℃、溶解度パラメータが10.34(cal/cm3)1/2、測定温度25℃、周波数2Hzの貯蔵弾性率が浸漬前4.50×105、浸漬後8.16×102、であり、モノマー組成が、エチルアリクレート(モノマー(A−1))97質量%、アクリル酸(モノマー(B−1))3質量%、エチレングリコールジメタクリレート(モノマー(C))0.5モル%(対モノマー(A−1)+(B−1))である、ポリマー粒子が記載されている。 (カ)上記「サ.」〜「ス.」、及び上記(イ)、(ウ)によれば、甲第1号証には、実施例3のポリマー粒子として、ポリマー粒子のガラス転移温度Tgが−17.5℃、溶解度パラメータが10.33(cal/cm3)1/2、測定温度25℃、周波数2Hzの貯蔵弾性率が浸漬前3.97×105、浸漬後6.04×102、であり、モノマー組成が、エチルアリクレート(モノマー(A−1))97質量%、アクリル酸(モノマー(B−1))3質量%である、ポリマー粒子が記載されている。 (キ)上記「サ.」〜「ス.」、及び上記(イ)、(ウ)によれば、甲第1号証には、実施例4のポリマー粒子として、ポリマー粒子のガラス転移温度Tgが−9.7℃、溶解度パラメータが10.31(cal/cm3)1/2、測定温度25℃、周波数2Hzの貯蔵弾性率が浸漬前4.58×105、浸漬後4.26×105、であり、モノマー組成が、メチルメタクリレート(モノマー(A−1))30質量%、ブチルアリクレート(モノマー(A−1))60質量%、アクリル酸(モノマー(B−1))10質量%である、ポリマー粒子が記載されている。 (ク)上記「サ.」〜「ス.」、及び上記(イ)、(ウ)によれば、甲第1号証には、比較例1のポリマー粒子として、ポリマー粒子のガラス転移温度Tgが−38.1℃、溶解度パラメータが9.77(cal/cm3)1/2、測定温度25℃、周波数2Hzの貯蔵弾性率が浸漬前3.14×105、浸漬後1.35×105、であり、モノマー組成が、2エチルへキシルアクリレート(モノマー(A−1))92質量%、アクリル酸(モノマー(B−1))5質量%、エチレングリコールジメタクリレート(モノマー(C))2.66モル%(対モノマー(A−1)+(B−1))である、ポリマー粒子が記載されている。 (ケ)上記(エ)ないし(ク)に記載の実施例1〜4及び比較例1に用いられるモノマー(A−1)、すなわち、エチルアリクレート、メチルメタクリレート、ブチルアリクレート、2エチルヘキシルアリクレートは、上記「カ.」の段落[0041]、[0042]及び技術常識を参酌すれば、いずれもアルキルエステル(メタ)アクリレートであることは明らかである。 また、上記(エ)ないし(ク)によれば、モノマー(A−1)として、実施例1〜3はエチルアリクレートを97質量%含み、実施例4はモノマー組成としてメチルメタクリレート及びブチルアリクレートを合わせて90質量%含み、比較例1は2エチルヘキシルアリクレートを92質量%含む。 そうすると、実施例1〜4及び比較例1には、モノマー組成として、アルキルエステル(メタ)アクリレート(モノマー(A−1))90質量%〜97質量%を含む、ポリマー粒子が記載されているといえ、上記「サ.」〜「ス.」、及び上記(イ)ないし(ク)によれば、甲第1号証には、ポリマー粒子のガラス転移温度Tgが−38.1〜−9.7℃、溶解度パラメータが9.77〜10.34(cal/cm3)1/2、測定温度25℃、周波数2Hzの貯蔵弾性率が浸漬前3.14×105〜4.63×105、浸漬後6.04×102〜4.26×105、であり、モノマー組成が、単官能(メタ)アクリレート(モノマー(A−1))90質量%〜97質量%、アクリル酸(モノマー(B−1))3〜10質量%である、ポリマー粒子が記載されている。 (コ)段落[0122]に「貯蔵弾性率を弾性変化率算出に用いた」と記載されているから、段落[0017]に記載の「ポリマー粒子の電解液による処理前後における弾性変化率」は、「(処理後の貯蔵弾性率)/(処理前の貯蔵弾性率)」により算出することができるものといえる。 タ.したがって、甲第1号証には、次の各発明が記載されているといえる。 (甲1発明1) 「リチウムイオン二次電池の電極において活物質を結着させるポリマー粒子であって、(上記(ア)) ポリマー粒子のガラス転移温度Tgが−17.5℃、溶解度パラメータが10.33(cal/cm3)1/2、測定温度25℃、周波数2Hzの貯蔵弾性率が浸漬前4.63×105、浸漬後8.64×102、であり、モノマー組成が、エチルアリクレート(モノマー(A−1))97質量%、アクリル酸(モノマー(B−1))3質量%、エチレングリコールジメタクリレート(モノマー(C))0.1モル%(対モノマー(A−1)+(B−1))である、(上記(エ)) ポリマー粒子。」 (甲1発明2) 「リチウムイオン二次電池の電極において活物質を結着させるポリマー粒子であって、(上記(ア)) ポリマー粒子のガラス転移温度Tgが−17.5℃、溶解度パラメータが10.34(cal/cm3)1/2、測定温度25℃、周波数2Hzの貯蔵弾性率が浸漬前4.50×105、浸漬後8.16×102、であり、モノマー組成が、エチルアリクレート(モノマー(A−1))97質量%、アクリル酸(モノマー(B−1))3質量%、エチレングリコールジメタクリレート(モノマー(C))0.5モル%(対モノマー(A−1)+(B−1))である、(上記(オ)) ポリマー粒子。」 (甲1発明3) 「リチウムイオン二次電池の電極において活物質を結着させるポリマー粒子であって、(上記(ア)) ポリマー粒子のガラス転移温度Tgが−17.5℃、溶解度パラメータが10.33(cal/cm3)1/2、測定温度25℃、周波数2Hzの貯蔵弾性率が浸漬前3.97×105、浸漬後6.04×102、であり、モノマー組成が、エチルアリクレート(モノマー(A−1))97質量%、アクリル酸(モノマー(B−1))3質量%である、(上記(カ)) ポリマー粒子。」 (甲1発明4) 「リチウムイオン二次電池の電極において活物質を結着させるポリマー粒子であって、(上記(ア)) ポリマー粒子のガラス転移温度Tgが−9.7℃、溶解度パラメータが10.31(cal/cm3)1/2、測定温度25℃、周波数2Hzの貯蔵弾性率が浸漬前4.58×105、浸漬後4.26×105、であり、モノマー組成が、メチルメタクリレート(モノマー(A−1))30質量%、ブチルアリクレート(モノマー(A−1))60質量%、アクリル酸(モノマー(B−1))10質量%である、(上記(キ)) ポリマー粒子。」 (甲1発明5) 「リチウムイオン二次電池の電極において活物質を結着させるポリマー粒子であって、(上記(ア)) ポリマー粒子のガラス転移温度Tgが−38.1℃、溶解度パラメータが9.77(cal/cm3)1/2、測定温度25℃、周波数2Hzの貯蔵弾性率が浸漬前3.14×105、浸漬後1.35×105、であり、モノマー組成が、2エチルへキシルアクリレート(モノマー(A−1))92質量%、アクリル酸(モノマー(B−1))5質量%、エチレングリコールジメタクリレート(モノマー(C))2.66モル%(対モノマー(A−1)+(B−1))である、(上記(ク)) ポリマー粒子。」 (甲1発明6) 「リチウムイオン二次電池の電極において活物質を結着させるポリマー粒子であって、(上記(ア)) ポリマー粒子のガラス転移温度Tgが−38.1〜−9.7℃、溶解度パラメータが9.77〜10.34(cal/cm3)1/2、測定温度25℃、周波数2Hzの貯蔵弾性率が浸漬前3.14×105〜4.63×105、浸漬後6.04×102〜4.26×105、であり、モノマー組成が、アルキルエステル(メタ)アクリレート(モノマー(A−1))90質量%〜97質量%、アクリル酸(モノマー(B−1))3〜10質量%である、(上記(ケ)) ポリマー粒子。」 (甲1発明7) 「リチウムイオン二次電池の電極において活物質を結着させるポリマー粒子を含む蓄電デバイス電極用樹脂組成物であって、(上記(ア)) 前記ポリマー粒子は、イオン透過性を有し、 前記ポリマー粒子の電解液による処理前後における弾性変化率[(処理後の貯蔵弾性率)/(処理前の貯蔵弾性率)]が、30%以下である、蓄電デバイス電極用樹脂組成物であって、(段落[0017]、[0122]、[請求項1]、上記(コ)) 前記ポリマー粒子は、単官能(メタ)アクリレートのモノマー(A−1)由来の構成単位と酸性基を有する単官能モノマー(B−1)由来の構成単位とを含むポリマーである、(段落[0041]、[請求項2]) 蓄電デバイス電極用樹脂組成物。」 2 甲第2号証 甲第2号証には、「二次電池用正極」に用いる「バインダー」について、以下の各記載がある(下線は当審で付与した。)。 ア.「[0010]以下に本発明を詳述する。 本発明の二次電池用正極は、集電体、及び集電体上に設けられた、正極活物質及びバインダーを含有する正極活物質層を有し、前記正極活物質が、組成式Li2−x(Mn1−m−nFenNim)O3−y(但し、0≦x<2、0≦y≦1、0.01≦m≦0.30、0.05≦n≦0.75、0.06≦m+n<1)で表され、かつ層状岩塩型構造を有するリチウムフェライト系複合酸化物であり、前記バインダーが(メタ)アクリル酸エステルモノマーの重合単位、酸成分を有するビニルモノマーの重合単位及びα,β不飽和ニトリルモノマーの重合単位を含む重合体であり、前記酸成分を有するビニルモノマーの重合単位の含有割合が重合体の全重合単位中1.0〜3.0重量%である。」 イ.「[0016](バインダー) 本発明に用いるバインダーは、(メタ)アクリル酸エステルモノマーの重合単位、酸成分を有するビニルモノマーの重合単位及びα,β不飽和ニトリルモノマーの重合単位を含む重合体である。 [0017]本発明において(メタ)アクリル酸エステルモノマーの重合単位を構成する(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、即ちアクリル酸アルキルエステル及び/又はメタクリル酸アルキルエステルを挙げることができる。例えば、一般式CH2=CR1−COO−R2(R1は水素またはメチル基を表し、R2はアルキル基を表す)で表される化合物を挙げることができる。」 ウ.「[0026]本発明においてα,β不飽和ニトリルモノマーの重合単位を構成する単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリルが挙げられる。」 エ.上記「ア.」〜「ウ.」から甲第2号証には次の技術(以下「甲第2号証に記載の技術」という。)が記載されているといえる。 「(メタ)アクリル酸エステルモノマーの重合単位、酸成分を有するビニルモノマーの重合単位及びα,β不飽和ニトリルモノマーの重合単位を含む重合体であり、(段落[0010]) (メタ)アクリル酸エステルモノマーの重合単位を構成する(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを挙げることができ、(段落[0017]) α,β不飽和ニトリルモノマーの重合単位を構成する単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリルが挙げられる、(段落[0026]) 二次電池用正極に用いるバインダー。(段落[0016])」 3 甲第3号証 甲第3号証には、「非水系二次電池電極用バインダー組成物」について、以下の各記載がある(下線は当審で付与した。)。 ア.「[0021](非水系二次電池電極用バインダー組成物) 本発明の非水系二次電池電極用バインダー組成物は、カチオン性基と結合可能な官能基を有する重合体(以下、「重合体(A)」と称する場合がある。)と、2つ以上のカチオン性基を有する有機化合物(以下、「多価カチオン性有機化合物(B)」と称する場合がある。)とを含み、任意に、二次電池の電極に配合され得るその他の成分を更に含有する。」 イ.「[0032][[結合性官能基含有単量体単位以外の繰り返し単位]] また、重合体(A)が含み得る、結合性官能基含有単量体単位以外の繰り返し単位としては、特に限定されることなく、共役ジエン単量体単位、アルキレン構造単位、ニトリル基含有単量体単位、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位、芳香族ビニル単量体単位などが挙げられる。」 ウ.「[0038]−(メタ)アクリル酸エステル単量体単位− また、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を形成し得る(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、(中略)などのアクリル酸アルキルエステル;(中略)などのメタクリル酸アルキルエステル;などが挙げられる。 (中略) [0039]−芳香族ビニル単量体単位− 更に、芳香族ビニル単量体単位を形成し得る芳香族ビニル単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、ブトキシスチレン、ビニルナフタレンなどが挙げられる。中でも、スチレンが好ましい。」 エ.上記「ア.」〜「ウ.」から甲第3号証には次の技術(以下「甲第3号証に記載の技術」という。)が記載されているといえる。 「カチオン性基と結合可能な官能基を有する重合体(A)と、2つ以上のカチオン性基を有する有機化合物とを含み、(段落[0021]) 重合体(A)が含み得る、繰り返し単位としては、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位、芳香族ビニル単量体単位などが挙げられ、(段落[0032]) (メタ)アクリル酸エステル単量体単位を形成し得る(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、アクリル酸アルキルエステル;メタクリル酸アルキルエステル;などが挙げられ、(段落[0038]) 芳香族ビニル単量体単位を形成し得る芳香族ビニル単量体としては、スチレンなどが挙げられる、(段落[0039]) 非水系二次電池電極用バインダー組成物。」 第5 当審の判断 1 申立理由1について (1)本件特許発明1について ア.甲1発明1との対比、判断 本件特許発明1と甲1発明1とを対比する。 (ア)甲1発明1の「リチウムイオン二次電池の電極」、「活物質」は、それぞれ本件特許発明1の「リチウムイオン電極」、「活物質」に相当し、甲1発明1の「リチウムイオン二次電池の電極において活物質を結着させるポリマー粒子」は、リチウムイオン電極において活物質同士を粘着により結着させるものであるから、本件特許発明1の「リチウムイオン電極において活物質同士を接着させる粘着剤」である「リチウムイオン電極用粘着剤」に相当する。 (イ)甲1発明1は「ポリマー粒子のガラス転移温度Tgが−17.5℃、溶解度パラメータが10.33(cal/cm3)1/2」であり、本件特許発明1の「前記粘着剤のガラス転移点が60℃以下」であり、「溶解度パラメータが8〜13(cal/cm3)1/2」であることに含まれる。 (ウ)弾性率について、本件特許明細書の段落【0015】には「本発明における貯蔵せん断弾性率及び損失せん断弾性率は、粘着剤を0.8g、φ20mmのダイスを用いて30MPaの圧力で成型し、TA社製のADVANCED RHEOMETRIC EXPANSION SYSTEMによりφ20mmのパラレルコーンを使用して、周波数0.1〜10Hz(10−1〜101Hz)、温度20℃、歪み0.1%(自動歪み制御:許容最小応力1.0g/cm、許容最大応力500g/cm、最大付加歪み200%、歪み調整200%)の条件で測定することができる。本発明の粘着剤の貯蔵せん断弾性率及び損失せん断弾性率が周波数10−1〜101Hzの範囲において2.0×103〜5.0×107Paとなるということは、周波数10−1〜101Hzの範囲の全ての領域において貯蔵せん断弾性率及び損失せん断弾性率が上記範囲に含まれることを意味する。」(下線は当審で付与した。)と記載されている。 してみると、本件特許発明1の「周波数10−1〜101Hzの範囲において20℃で測定した貯蔵せん断弾性率及び損失せん断弾性率が2.0×103〜5.0×107Pa」とは、周波数10−1〜101Hzの範囲の全ての領域において20℃で測定した貯蔵せん断弾性率及び損失せん断弾性率が2.0×103〜5.0×107Paの範囲に含まれることである。 他方、甲1発明1は「測定温度25℃、周波数2Hzの貯蔵弾性率が浸漬前4.63×105、浸漬後8.64×102」である。 そうすると、ポリマー粒子の貯蔵せん断弾性率について、本件特許発明1は、「周波数10−1〜101Hzの範囲において20℃で測定した貯蔵せん断弾性率」「が2.0×103〜5.0×107Pa」であるのに対して、甲1発明1は、測定温度25℃、周波数2Hzの貯蔵弾性率が浸漬前4.63×105、浸漬後8.64×102であるものの、20℃で測定した貯蔵せん断弾性率が周波数10−1〜101Hzの範囲の全ての領域において2.0×103〜5.0×107Paの範囲に含まれるとは特定されていない点で相違する。 また、ポリマー粒子の損失せん断弾性率について、本件特許発明1は、「周波数10−1〜101Hzの範囲において20℃で測定した」「損失せん断弾性率が2.0×103〜5.0×107Pa」であるのに対して、甲1発明1は、その旨特定されていない点で相違する。 (エ)甲1発明1における「エチルアリクレート(モノマー(A−1))」、「アクリル酸(モノマー(B−1))」は、技術常識を参酌すると、それぞれ(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体、モノビニル単量体であることは明らかである。 そうすると、甲1発明1の「ポリマー粒子」は、「モノマー組成が、エチルアリクレート(モノマー(A−1))97質量%、アクリル酸(モノマー(B−1))3質量%、エチレングリコールジメタクリレート(モノマー(C))0.1モル%(対モノマー(A−1)+(B−1))」であるから、本件特許発明1の「(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体由来の構成単位を必須とし、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体と共重合可能なモノビニル単量体を構成単量体として含むアクリル系重合体」に相当する。 また、甲1発明1の「ポリマー粒子」は、ポリマー組成として(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体であるエチルアリクレートを97質量%含み、フッ素含有単量体を含まないから、このことは本件特許発明1の「前記粘着剤を構成する単量体中における前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体の割合が単量体の合計重量を基準として50重量%以上であり、フッ素含有単量体の割合が単量体の合計重量を基準として3重量%未満であること」に相当する。 (オ)したがって、上記(ア)ないし(エ)によれば、本件特許発明1と甲1発明1とは、 「リチウムイオン電極において活物質同士を接着させる粘着剤であって、 前記粘着剤のガラス転移点が60℃以下であり、溶解度パラメータが8〜13(cal/cm3)1/2であり、 前記粘着剤が(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体由来の構成単位を必須とし、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体と共重合可能なモノビニル単量体を構成単量体として含むアクリル系重合体であり、前記粘着剤を構成する単量体中における前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体の割合が単量体の合計重量を基準として50重量%以上であり、フッ素含有単量体の割合が単量体の合計重量を基準として3重量%未満であることを特徴とするリチウムイオン電極用粘着剤。」 である点で一致し、次の点で相違する。 (相違点1−1) ポリマー粒子の貯蔵せん断弾性率について、本件特許発明1は、「周波数10−1〜101Hzの範囲において20℃で測定した貯蔵せん断弾性率」「が2.0×103〜5.0×107Pa」であるのに対して、甲1発明1は、測定温度25℃、周波数2Hzの貯蔵弾性率が浸漬前4.63×105、浸漬後8.64×102であるものの、20℃で測定した貯蔵せん断弾性率が周波数10−1〜101Hzの範囲の全ての領域において2.0×103〜5.0×107Paの範囲に含まれるとは特定されていない点。 (相違点1−2) ポリマー粒子の損失せん断弾性率について、本件特許発明1は、「周波数10−1〜101Hzの範囲において20℃で測定した」「損失せん断弾性率が2.0×103〜5.0×107Pa」であるのに対して、甲1発明1は、その旨特定されていない点。 したがって、本件特許発明1は甲1発明1ではない。 イ.甲1発明2との対比、判断 本件特許発明1と甲1発明2とを対比する。 (ア)甲1発明2の「リチウムイオン二次電池の電極」、「活物質」は、それぞれ本件特許発明1の「リチウムイオン電極」、「活物質」に相当し、甲1発明2の「リチウムイオン二次電池の電極において活物質を結着させるポリマー粒子」は、リチウムイオン電極において活物質同士を粘着により結着させるものであるから、本件特許発明1の「リチウムイオン電極において活物質同士を接着させる粘着剤」である「リチウムイオン電極用粘着剤」に相当する。 (イ)甲1発明2は「ポリマー粒子のガラス転移温度Tgが−17.5℃、溶解度パラメータが10.34(cal/cm3)1/2」であり、本件特許発明1の「前記粘着剤のガラス転移点が60℃以下」であり、「溶解度パラメータが8〜13(cal/cm3)1/2」であることに含まれる。 (ウ)弾性率について、上記「ア.(ウ)」で述べたとおり、本件特許発明1の「周波数10−1〜101Hzの範囲において20℃で測定した貯蔵せん断弾性率及び損失せん断弾性率が2.0×103〜5.0×107Pa」とは、周波数10−1〜101Hzの範囲の全ての領域において20℃で測定した貯蔵せん断弾性率及び損失せん断弾性率が2.0×103〜5.0×107Paの範囲に含まれることである。 他方、甲1発明2は「測定温度25℃、周波数2Hzの貯蔵弾性率が浸漬前4.50×105、浸漬後8.16×102」である。 そうすると、ポリマー粒子の貯蔵せん断弾性率について、本件特許発明1は、「周波数10−1〜101Hzの範囲において20℃で測定した貯蔵せん断弾性率」「が2.0×103〜5.0×107Pa」であるのに対して、甲1発明2は、測定温度25℃、周波数2Hzの貯蔵弾性率が浸漬前4.50×105、浸漬後8.16×102であるものの、20℃で測定した貯蔵せん断弾性率が周波数10−1〜101Hzの範囲の全ての領域において2.0×103〜5.0×107Paの範囲に含まれるとは特定されていない点で相違する。 また、ポリマー粒子の損失せん断弾性率について、本件特許発明1は、「周波数10−1〜101Hzの範囲において20℃で測定した」「損失せん断弾性率が2.0×103〜5.0×107Pa」であるのに対して、甲1発明2は、その旨特定されていない点で相違する。 (エ)甲1発明2における「エチルアリクレート(モノマー(A−1))」、「アクリル酸(モノマー(B−1))」は、技術常識を参酌すると、それぞれ(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体、モノビニル単量体であることは明らかである。 そうすると、甲1発明2の「ポリマー粒子」は、「モノマー組成が、エチルアリクレート(モノマー(A−1))97質量%、アクリル酸(モノマー(B−1))3質量%、エチレングリコールジメタクリレート(モノマー(C))0.5モル%(対モノマー(A−1)+(B−1))」であるから、本件特許発明1の「(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体由来の構成単位を必須とし、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体と共重合可能なモノビニル単量体を構成単量体として含むアクリル系重合体」に相当する。 また、甲1発明2の「ポリマー粒子」は、ポリマー組成として(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体であるエチルアリクレートを97質量%含み、フッ素含有単量体を含まないから、このことは本件特許発明1の「前記粘着剤を構成する単量体中における前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体の割合が単量体の合計重量を基準として50重量%以上であり、フッ素含有単量体の割合が単量体の合計重量を基準として3重量%未満であること」に相当する。 (オ)したがって、上記(ア)ないし(エ)によれば、本件特許発明1と甲1発明2とは、 「リチウムイオン電極において活物質同士を接着させる粘着剤であって、 前記粘着剤のガラス転移点が60℃以下であり、溶解度パラメータが8〜13(cal/cm3)1/2であり、 前記粘着剤が(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体由来の構成単位を必須とし、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体と共重合可能なモノビニル単量体を構成単量体として含むアクリル系重合体であり、前記粘着剤を構成する単量体中における前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体の割合が単量体の合計重量を基準として50重量%以上であり、フッ素含有単量体の割合が単量体の合計重量を基準として3重量%未満であることを特徴とするリチウムイオン電極用粘着剤。」 である点で一致し、次の点で相違する。 (相違点2−1) ポリマー粒子の貯蔵せん断弾性率について、本件特許発明1は、「周波数10−1〜101Hzの範囲において20℃で測定した貯蔵せん断弾性率」「が2.0×103〜5.0×107Pa」であるのに対して、甲1発明2は、測定温度25℃、周波数2Hzの貯蔵弾性率が浸漬前4.50×105、浸漬後8.16×102であるものの、20℃で測定した貯蔵せん断弾性率が周波数10−1〜101Hzの範囲の全ての領域において2.0×103〜5.0×107Paの範囲に含まれるとは特定されていない点。 (相違点2−2) ポリマー粒子の損失せん断弾性率について、本件特許発明1は、本件特許発明1は、「周波数10−1〜101Hzの範囲において20℃で測定した」「損失せん断弾性率が2.0×103〜5.0×107Pa」であるのに対して、甲1発明2は、その旨特定されていない点。 したがって、本件特許発明1は甲1発明2ではない。 ウ.甲1発明3との対比、判断 本件特許発明1と甲1発明3とを対比する。 (ア)甲1発明3の「リチウムイオン二次電池の電極」、「活物質」は、それぞれ本件特許発明1の「リチウムイオン電極」、「活物質」に相当し、甲1発明3の「リチウムイオン二次電池の電極において活物質を結着させるポリマー粒子」は、リチウムイオン電極において活物質同士を粘着により結着させるものであるから、本件特許発明1の「リチウムイオン電極において活物質同士を接着させる粘着剤」である「リチウムイオン電極用粘着剤」に相当する。 (イ)甲1発明3は「ポリマー粒子のガラス転移温度Tgが−17.5℃、溶解度パラメータが10.33(cal/cm3)1/2」であり、本件特許発明1の「前記粘着剤のガラス転移点が60℃以下」であり、「溶解度パラメータが8〜13(cal/cm3)1/2」であることに含まれる。 (ウ)弾性率について、上記「ア.(ウ)」で述べたとおり、本件特許発明1の「周波数10−1〜101Hzの範囲において20℃で測定した貯蔵せん断弾性率及び損失せん断弾性率が2.0×103〜5.0×107Pa」とは、周波数10−1〜101Hzの範囲の全ての領域において20℃で測定した貯蔵せん断弾性率及び損失せん断弾性率が2.0×103〜5.0×107Paの範囲に含まれることである。 他方、甲1発明3は「測定温度25℃、周波数2Hzの貯蔵弾性率が浸漬前3.97×105、浸漬後6.04×102」である。 そうすると、ポリマー粒子の貯蔵せん断弾性率について、本件特許発明1は、「周波数10−1〜101Hzの範囲において20℃で測定した貯蔵せん断弾性率」「が2.0×103〜5.0×107Pa」であるのに対して、甲1発明3は、測定温度25℃、周波数2Hzの貯蔵弾性率が浸漬前3.97×105、浸漬後6.04×102であるものの、20℃で測定した貯蔵せん断弾性率が周波数10−1〜101Hzの範囲の全ての領域において2.0×103〜5.0×107Paの範囲に含まれるとは特定されていない点で相違する。 また、ポリマー粒子の損失せん断弾性率について、本件特許発明1は、「周波数10−1〜101Hzの範囲において20℃で測定した」「損失せん断弾性率が2.0×103〜5.0×107Pa」であるのに対して、甲1発明3は、その旨特定されていない点で相違する。 (エ)甲1発明3における「エチルアリクレート(モノマー(A−1))」、「アクリル酸(モノマー(B−1))」は、技術常識を参酌すると、それぞれ(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体、モノビニル単量体であることは明らかである。 そうすると、甲1発明3の「ポリマー粒子」は、「モノマー組成が、エチルアリクレート(モノマー(A−1))97質量%、アクリル酸(モノマー(B−1))3質量%」であるから、本件特許発明1の「(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体由来の構成単位を必須とし、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体と共重合可能なモノビニル単量体を構成単量体として含むアクリル系重合体」に相当する。 また、甲1発明3の「ポリマー粒子」は、ポリマー組成として(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体であるエチルアリクレートを97質量%含み、フッ素含有単量体を含まないから、このことは本件特許発明1の「前記粘着剤を構成する単量体中における前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体の割合が単量体の合計重量を基準として50重量%以上であり、フッ素含有単量体の割合が単量体の合計重量を基準として3重量%未満であること」に相当する。 (オ)したがって、上記(ア)ないし(エ)によれば、本件特許発明1と甲1発明3とは、 「リチウムイオン電極において活物質同士を接着させる粘着剤であって、 前記粘着剤のガラス転移点が60℃以下であり、溶解度パラメータが8〜13(cal/cm3)1/2であり、 前記粘着剤が(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体由来の構成単位を必須とし、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体と共重合可能なモノビニル単量体を構成単量体として含むアクリル系重合体であり、前記粘着剤を構成する単量体中における前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体の割合が単量体の合計重量を基準として50重量%以上であり、フッ素含有単量体の割合が単量体の合計重量を基準として3重量%未満であることを特徴とするリチウムイオン電極用粘着剤。」 である点で一致し、次の点で相違する。 (相違点3−1) ポリマー粒子の貯蔵せん断弾性率について、本件特許発明1は、「周波数10−1〜101Hzの範囲において20℃で測定した貯蔵せん断弾性率」「が2.0×103〜5.0×107Pa」であるのに対して、甲1発明3は、測定温度25℃、周波数2Hzの貯蔵弾性率が浸漬前3.97×105、浸漬後6.04×102であるものの、20℃で測定した貯蔵せん断弾性率が周波数10−1〜101Hzの範囲の全ての領域において2.0×103〜5.0×107Paの範囲に含まれるとは特定されていない点。 (相違点3−2) ポリマー粒子の損失せん断弾性率について、本件特許発明1は、「周波数10−1〜101Hzの範囲において20℃で測定した」「損失せん断弾性率が2.0×103〜5.0×107Pa」であるのに対して、甲1発明3は、その旨特定されていない点。 したがって、本件特許発明1は甲1発明3ではない。 エ.甲1発明4との対比、判断 本件特許発明1と甲1発明4とを対比する。 (ア)甲1発明4の「リチウムイオン二次電池の電極」、「活物質」は、それぞれ本件特許発明1の「リチウムイオン電極」、「活物質」に相当し、甲1発明4の「リチウムイオン二次電池の電極において活物質を結着させるポリマー粒子」は、リチウムイオン電極において活物質同士を粘着により結着させるものであるから、本件特許発明1の「リチウムイオン電極において活物質同士を接着させる粘着剤」である「リチウムイオン電極用粘着剤」に相当する。 (イ)甲1発明4は「ポリマー粒子のガラス転移温度Tgが−9.7℃、溶解度パラメータが10.31(cal/cm3)1/2」であり、本件特許発明1の「前記粘着剤のガラス転移点が60℃以下」であり、「溶解度パラメータが8〜13(cal/cm3)1/2」であることに含まれる。 (ウ)弾性率について、上記「ア.(ウ)」で述べたとおり、本件特許発明1の「周波数10−1〜101Hzの範囲において20℃で測定した貯蔵せん断弾性率及び損失せん断弾性率が2.0×103〜5.0×107Pa」とは、周波数10−1〜101Hzの範囲の全ての領域において20℃で測定した貯蔵せん断弾性率及び損失せん断弾性率が2.0×103〜5.0×107Paの範囲に含まれることである。 他方、甲1発明4は「測定温度25℃、周波数2Hzの貯蔵弾性率が浸漬前4.58×105、浸漬後4.26×105」である。 そうすると、ポリマー粒子の貯蔵せん断弾性率について、本件特許発明1は、「周波数10−1〜101Hzの範囲において20℃で測定した貯蔵せん断弾性率」「が2.0×103〜5.0×107Pa」であるのに対して、甲1発明4は、測定温度25℃、周波数2Hzの貯蔵弾性率が浸漬前4.58×105、浸漬後4.26×105であるものの、20℃で測定した貯蔵せん断弾性率が周波数10−1〜101Hzの範囲の全ての領域において2.0×103〜5.0×107Paの範囲に含まれるとは特定されていない点で相違する。 また、ポリマー粒子の損失せん断弾性率について、本件特許発明1は、「周波数10−1〜101Hzの範囲において20℃で測定した」「損失せん断弾性率が2.0×103〜5.0×107Pa」であるのに対して、甲1発明4は、その旨特定されていない点で相違する。 (エ)甲1発明4における「メチルメタクリレート(モノマー(A−1))」及び「ブチルアリクレート(モノマー(A−1))」、「アクリル酸(モノマー(B−1))」は、技術常識を参酌すると、それぞれ(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体、モノビニル単量体であることは明らかである。 そうすると、甲1発明4の「ポリマー粒子」は、「モノマー組成が、メチルメタクリレート(モノマー(A−1))30質量%、ブチルアリクレート(モノマー(A−1))60質量%、アクリル酸(モノマー(B−1))10質量%」であるから、本件特許発明1の「(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体由来の構成単位を必須とし、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体と共重合可能なモノビニル単量体を構成単量体として含むアクリル系重合体」に相当する。 また、甲1発明4の「ポリマー粒子」は、ポリマー組成として(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体であるメチルメタクリレートとブチルアクリレートをあわせて90質量%含み、フッ素含有単量体を含まないから、このことは本件特許発明1の「前記粘着剤を構成する単量体中における前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体の割合が単量体の合計重量を基準として50重量%以上であり、フッ素含有単量体の割合が単量体の合計重量を基準として3重量%未満であること」に相当する。 (オ)したがって、上記(ア)ないし(エ)によれば、本件特許発明1と甲1発明4とは、 「リチウムイオン電極において活物質同士を接着させる粘着剤であって、 前記粘着剤のガラス転移点が60℃以下であり、溶解度パラメータが8〜13(cal/cm3)1/2であり、 前記粘着剤が(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体由来の構成単位を必須とし、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体と共重合可能なモノビニル単量体を構成単量体として含むアクリル系重合体であり、前記粘着剤を構成する単量体中における前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体の割合が単量体の合計重量を基準として50重量%以上であり、フッ素含有単量体の割合が単量体の合計重量を基準として3重量%未満であることを特徴とするリチウムイオン電極用粘着剤。」 である点で一致し、次の点で相違する。 (相違点4−1) ポリマー粒子の貯蔵せん断弾性率について、本件特許発明1は、「周波数10−1〜101Hzの範囲において20℃で測定した貯蔵せん断弾性率」「が2.0×103〜5.0×107Pa」であるのに対して、甲1発明4は、測定温度25℃、周波数2Hzの貯蔵弾性率が浸漬前4.58×105、浸漬後4.26×105であるものの、20℃で測定した貯蔵せん断弾性率が周波数10−1〜101Hzの範囲の全ての領域において2.0×103〜5.0×107Paの範囲に含まれるとは特定されていない点。 (相違点4−2) ポリマー粒子の損失せん断弾性率について、本件特許発明1は、「周波数10−1〜101Hzの範囲において20℃で測定した」「損失せん断弾性率が2.0×103〜5.0×107Pa」であるのに対して、甲1発明4は、その旨特定されていない点。 したがって、本件特許発明1は甲1発明4ではない。 オ.甲1発明5との対比、判断 本件特許発明1と甲1発明5とを対比する。 (ア)甲1発明5の「リチウムイオン二次電池の電極」、「活物質」は、それぞれ本件特許発明1の「リチウムイオン電極」、「活物質」に相当し、甲1発明5の「リチウムイオン二次電池の電極において活物質を結着させるポリマー粒子」は、リチウムイオン電極において活物質同士を粘着により結着させるものであるから、本件特許発明1の「リチウムイオン電極において活物質同士を接着させる粘着剤」である「リチウムイオン電極用粘着剤」に相当する。 (イ)甲1発明5は「ポリマー粒子のガラス転移温度Tgが−38.1℃、溶解度パラメータが9.77(cal/cm3)1/2」であり、本件特許発明1の「前記粘着剤のガラス転移点が60℃以下」であり、「溶解度パラメータが8〜13(cal/cm3)1/2」であることに含まれる。 (ウ)弾性率について、上記「ア.(ウ)」で述べたとおり、本件特許発明1の「周波数10−1〜101Hzの範囲において20℃で測定した貯蔵せん断弾性率及び損失せん断弾性率が2.0×103〜5.0×107Pa」とは、周波数10−1〜101Hzの範囲の全ての領域において20℃で測定した貯蔵せん断弾性率及び損失せん断弾性率が2.0×103〜5.0×107Paの範囲に含まれることである。 他方、甲1発明5は「測定温度25℃、周波数2Hzの貯蔵弾性率が浸漬前3.14×105、浸漬後1.35×105」である。 そうすると、ポリマー粒子の貯蔵せん断弾性率について、本件特許発明1は、「周波数10−1〜101Hzの範囲において20℃で測定した貯蔵せん断弾性率」「が2.0×103〜5.0×107Pa」であるのに対して、甲1発明5は、測定温度25℃、周波数2Hzの貯蔵弾性率が浸漬前3.14×105、浸漬後1.35×105であるものの、20℃で測定した貯蔵せん断弾性率が周波数10−1〜101Hzの範囲の全ての領域において2.0×103〜5.0×107Paの範囲に含まれるとは特定されていない点で相違する。 また、ポリマー粒子の損失せん断弾性率について、本件特許発明1は、「周波数10−1〜101Hzの範囲において20℃で測定した」「損失せん断弾性率が2.0×103〜5.0×107Pa」であるのに対して、甲1発明5は、その旨特定されていない点で相違する。 (エ)甲1発明5における「2エチルヘキシルアクリレート(モノマー(A−1))」、「アクリル酸(モノマー(B−1))」は、技術常識を参酌すると、それぞれ(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体、モノビニル単量体であることは明らかである。 そうすると、甲1発明5の「ポリマー粒子」は、「モノマー組成が、2エチルヘキシルアクリレート(モノマー(A−1))92質量%、アクリル酸(モノマー(B−1))5質量%、エチレングリコールジメタクリレート(モノマー(C))2.66モル%(対モノマー(A−1)+(B−1))」であるから、本件特許発明1の「(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体由来の構成単位を必須とし、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体と共重合可能なモノビニル単量体を構成単量体として含むアクリル系重合体」に相当する。 また、甲1発明5の「ポリマー粒子」は、ポリマー組成として(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体である2エチルヘキシルアクリレートを92質量%含み、フッ素含有単量体を含まないから、このことは本件特許発明1の「前記粘着剤を構成する単量体中における前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体の割合が単量体の合計重量を基準として50重量%以上であり、フッ素含有単量体の割合が単量体の合計重量を基準として3重量%未満であること」に相当する。 (オ)したがって、上記(ア)ないし(エ)によれば、本件特許発明1と甲1発明5とは、 「リチウムイオン電極において活物質同士を接着させる粘着剤であって、 前記粘着剤のガラス転移点が60℃以下であり、溶解度パラメータが8〜13(cal/cm3)1/2であり、 前記粘着剤が(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体由来の構成単位を必須とし、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体と共重合可能なモノビニル単量体を構成単量体として含むアクリル系重合体であり、前記粘着剤を構成する単量体中における前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体の割合が単量体の合計重量を基準として50重量%以上であり、フッ素含有単量体の割合が単量体の合計重量を基準として3重量%未満であることを特徴とするリチウムイオン電極用粘着剤。」 である点で一致し、次の点で相違する。 (相違点5−1) ポリマー粒子の貯蔵せん断弾性率について、本件特許発明1は、「周波数10−1〜101Hzの範囲において20℃で測定した貯蔵せん断弾性率」「が2.0×103〜5.0×107Pa」であるのに対して、甲1発明5は、測定温度25℃、周波数2Hzの貯蔵弾性率が浸漬前3.14×105、浸漬後1.35×105であるものの、20℃で測定した貯蔵せん断弾性率が周波数10−1〜101Hzの範囲の全ての領域において2.0×103〜5.0×107Paの範囲に含まれるとは特定されていない点。 (相違点5−2) ポリマー粒子の損失せん断弾性率について、本件特許発明1は、「周波数10−1〜101Hzの範囲において20℃で測定した」「損失せん断弾性率が2.0×103〜5.0×107Pa」であるのに対して、甲1発明5は、その旨特定されていない点。 したがって、本件特許発明1は甲1発明5ではない。 カ.甲1発明6との対比、判断 本件特許発明1と甲1発明6とを対比する。 (ア)甲1発明6の「リチウムイオン二次電池の電極」、「活物質」は、それぞれ本件特許発明1の「リチウムイオン電極」、「活物質」に相当し、甲1発明6の「リチウムイオン二次電池の電極において活物質を結着させるポリマー粒子」は、リチウムイオン電極において活物質同士を粘着により結着させるものであるから、本件特許発明1の「リチウムイオン電極において活物質同士を接着させる粘着剤」である「リチウムイオン電極用粘着剤」に相当する。 (イ)甲1発明6は「ポリマー粒子のガラス転移温度Tgが−38.1〜−9.7℃、溶解度パラメータが9.77〜10.34(cal/cm3)1/2」であり、本件特許発明1の「前記粘着剤のガラス転移点が60℃以下」であり、「溶解度パラメータが8〜13(cal/cm3)1/2」であることに含まれる。 (ウ)弾性率について、上記「ア.(ウ)」で述べたとおり、本件特許発明1の「周波数10−1〜101Hzの範囲において20℃で測定した貯蔵せん断弾性率及び損失せん断弾性率が2.0×103〜5.0×107Pa」とは、周波数10−1〜101Hzの範囲の全ての領域において20℃で測定した貯蔵せん断弾性率及び損失せん断弾性率が2.0×103〜5.0×107Paの範囲に含まれることである。 他方、甲1発明6は「測定温度25℃、周波数2Hzの貯蔵弾性率が浸漬前3.14×105〜4.63×105、浸漬後6.04×102〜4.26×105」である。 そうすると、ポリマー粒子の貯蔵せん断弾性率について、本件特許発明1は、「周波数10−1〜101Hzの範囲において20℃で測定した貯蔵せん断弾性率」「が2.0×103〜5.0×107Pa」であるのに対して、甲1発明6は、測定温度25℃、周波数2Hzの貯蔵弾性率が浸漬前3.14×105〜4.63×105、浸漬後6.04×102〜4.26×105であるものの、20℃で測定した貯蔵せん断弾性率が周波数10−1〜101Hzの範囲の全ての領域において2.0×103〜5.0×107Paの範囲に含まれるとは特定されていない点で相違する。 また、ポリマー粒子の損失せん断弾性率について、本件特許発明1は、「周波数10−1〜101Hzの範囲において20℃で測定した」「損失せん断弾性率が2.0×103〜5.0×107Pa」であるのに対して、甲1発明6は、その旨特定されていない点で相違する。 (エ)甲1発明6における「アルキルエステル(メタ)アクリレート(モノマー(A−1))」、「アクリル酸(モノマー(B−1))」は、技術常識を参酌すると、それぞれ(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体、モノビニル単量体であることは明らかである。 そうすると、甲1発明6の「ポリマー粒子」は、「モノマー組成が、アルキルエステル(メタ)アクリレート(モノマー(A−1))90質量%〜97質量%、アクリル酸(モノマー(B−1))3〜10質量%」であるから、本件特許発明1の「(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体由来の構成単位を必須とし、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体と共重合可能なモノビニル単量体を構成単量体として含むアクリル系重合体」に相当する。 また、甲1発明6の「ポリマー粒子」は、ポリマー組成として(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体であるアルキルエステル(メタ)アクリレート(モノマー(A−1))を90質量%〜97質量%含み、フッ素含有単量体を含まないから、このことは本件特許発明1の「前記粘着剤を構成する単量体中における前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体の割合が単量体の合計重量を基準として50重量%以上であり、フッ素含有単量体の割合が単量体の合計重量を基準として3重量%未満であること」に相当する。 (オ)したがって、上記(ア)ないし(エ)によれば、本件特許発明1と甲1発明6とは、 「リチウムイオン電極において活物質同士を接着させる粘着剤であって、 前記粘着剤のガラス転移点が60℃以下であり、溶解度パラメータが8〜13(cal/cm3)1/2であり、 前記粘着剤が(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体由来の構成単位を必須とし、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体と共重合可能なモノビニル単量体を構成単量体として含むアクリル系重合体であり、前記粘着剤を構成する単量体中における前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体の割合が単量体の合計重量を基準として50重量%以上であり、フッ素含有単量体の割合が単量体の合計重量を基準として3重量%未満であることを特徴とするリチウムイオン電極用粘着剤。」 である点で一致し、次の点で相違する。 (相違点6−1) ポリマー粒子の貯蔵せん断弾性率について、本件特許発明1は、「周波数10−1〜101Hzの範囲において20℃で測定した貯蔵せん断弾性率」「が2.0×103〜5.0×107Pa」であるのに対して、甲1発明6は、測定温度25℃、周波数2Hzの貯蔵弾性率が浸漬前3.14×105〜4.63×105、浸漬後6.04×102〜4.26×105であるものの、20℃で測定した貯蔵せん断弾性率が周波数10−1〜101Hzの範囲の全ての領域において2.0×103〜5.0×107Paの範囲に含まれるとは特定されていない点。 (相違点6−2) ポリマー粒子の損失せん断弾性率について、本件特許発明1は、「周波数10−1〜101Hzの範囲において20℃で測定した」「損失せん断弾性率が2.0×103〜5.0×107Pa」であるのに対して、甲1発明6は、その旨特定されていない点。 したがって、本件特許発明1は甲1発明6ではない。 (2)本件特許発明2ないし3について ア.甲1発明1との対比、判断 本件特許発明2は、本件特許発明1に対して「粘着剤」の「構成単量体」を限定したものであり、貯蔵せん断弾性率及び損失せん断弾性率とは異なる事項を限定したものであるから、上記「(1)ア.」で述べたとおり、本件特許発明2と甲1発明1とを対比すると両者は少なくとも上記相違点1−1、1−2を有する。 また、本件特許発明3は、本件特許発明1又は2に対して「粘着剤」の「構成単量体」を限定したものであり、貯蔵せん断弾性率及び損失せん断弾性率とは異なる事項を限定したものであるから、上記「(1)ア.」で述べたとおり、本件特許発明3と甲1発明1とを対比すると両者は少なくとも相違点1−1、1−2を有する。 したがって、本件特許発明2ないし3は甲1発明1ではない。 イ.甲1発明2との対比、判断 本件特許発明2は、本件特許発明1に対して「粘着剤」の「構成単量体」を限定したものであり、貯蔵せん断弾性率及び損失せん断弾性率とは異なる事項を限定したものであるから、上記「(1)イ.」で述べたとおり、本件特許発明2と甲1発明2とを対比すると両者は少なくとも上記相違点2−1、2−2を有する。 また、本件特許発明3は、本件特許発明1又は2に対して「粘着剤」の「構成単量体」を限定したものであり、貯蔵せん断弾性率及び損失せん断弾性率とは異なる事項を限定したものであるから、上記「(1)イ.」で述べたとおり、本件特許発明3と甲1発明2とを対比すると両者は少なくとも相違点2−1、2−2を有する。 したがって、本件特許発明2ないし3は甲1発明2ではない。 ウ.甲1発明3との対比、判断 本件特許発明2は、本件特許発明1に対して「粘着剤」の「構成単量体」を限定したものであり、貯蔵せん断弾性率及び損失せん断弾性率とは異なる事項を限定したものであるから、上記「(1)ウ.」で述べたとおり、本件特許発明2と甲1発明3とを対比すると両者は少なくとも上記相違点3−1、3−2を有する。 また、本件特許発明3は、本件特許発明1又は2に対して「粘着剤」の「構成単量体」を限定したものであり、貯蔵せん断弾性率及び損失せん断弾性率とは異なる事項を限定したものであるから、上記「(1)ウ.」で述べたとおり、本件特許発明3と甲1発明3とを対比すると両者は少なくとも相違点3−1、3−2を有する。 したがって、本件特許発明2ないし3は甲1発明3ではない。 エ.甲1発明4との対比、判断 本件特許発明2は、本件特許発明1に対して「粘着剤」の「構成単量体」を限定したものであり、貯蔵せん断弾性率及び損失せん断弾性率とは異なる事項を限定したものであるから、上記「(1)エ.」で述べたとおり、本件特許発明2と甲1発明4とを対比すると両者は少なくとも上記相違点4−1、4−2を有する。 また、本件特許発明3は、本件特許発明1又は2に対して「粘着剤」の「構成単量体」を限定したものであり、貯蔵せん断弾性率及び損失せん断弾性率とは異なる事項を限定したものであるから、上記「(1)エ.」で述べたとおり、本件特許発明3と甲1発明4とを対比すると両者は少なくとも相違点4−1、4−2を有する。 したがって、本件特許発明2ないし3は甲1発明4ではない。 オ.甲1発明5との対比、判断 本件特許発明2は、本件特許発明1に対して「粘着剤」の「構成単量体」を限定したものであり、貯蔵せん断弾性率及び損失せん断弾性率とは異なる事項を限定したものであるから、上記「(1)オ.」で述べたとおり、本件特許発明2と甲1発明5とを対比すると両者は少なくとも上記相違点5−1、5−2を有する。 また、本件特許発明3は、本件特許発明1又は2に対して「粘着剤」の「構成単量体」を限定したものであり、貯蔵せん断弾性率及び損失せん断弾性率とは異なる事項を限定したものであるから、上記「(1)オ.」で述べたとおり、本件特許発明3と甲1発明5とを対比すると両者は少なくとも相違点5−1、5−2を有する。 したがって、本件特許発明2ないし3は甲1発明5ではない。 カ.甲1発明6との対比、判断 本件特許発明2は、本件特許発明1に対して「粘着剤」の「構成単量体」を限定したものであり、貯蔵せん断弾性率及び損失せん断弾性率とは異なる事項を限定したものであるから、上記「(1)カ.」で述べたとおり、本件特許発明2と甲1発明6とを対比すると両者は少なくとも上記相違点6−1、6−2を有する。 また、本件特許発明3は、本件特許発明1又は2に対して「粘着剤」の「構成単量体」を限定したものであり、貯蔵せん断弾性率及び損失せん断弾性率とは異なる事項を限定したものであるから、上記「(1)カ.」で述べたとおり、本件特許発明3と甲1発明6とを対比すると両者は少なくとも相違点6−1、6−2を有する。 したがって、本件特許発明2ないし3は甲1発明6ではない。 (3)特許異議申立書における主張について 特許異議申立書の第19〜22ページ(ア−2)では、図とともに、「重合体樹脂材料は、他の物質と同様に温度が上がると分子の運動性が増し、そのまま温度を上げ続けると、やがて結晶部分が壊れ、流動性を持った液状になる」、「ゴム状の重合体樹脂材料は、エラストマーと呼ばれる物質に含まれるが、エラストマーの損出係数tanδのオーダーは下図に示されるように、−1乗〜0乗程度である」、「ここで、tanδは貯蔵せん断弾性率と損失せん断弾性率の比率だから、エラストマーでは、貯蔵せん断弾性率と損失せん断弾性率との値の差異は、せいぜい一桁程度の差異である」ことを述べ、これらに基づいて、甲第1号証に記載された「ポリマー粒子」の「周波数10−1〜101Hzの範囲において20℃で測定した」「損失せん断弾性率が2.0×103〜5.0×107Pa」に含まれる旨主張する。 しかしながら、上記主張は20℃で測定したポリマー粒子の貯蔵せん断弾性率及び損失せん断弾性率が周波数10−1〜101Hzの範囲の全ての領域において2.0×103〜5.0×107Paの範囲に含まれることを説明するものではない。 そうすると、特許異議申立書の内容を考慮してみても、甲第1号証(甲1発明1〜6)のポリマー粒子について、その貯蔵せん断弾性率及び損失せん断弾性率が周波数10−1〜101Hzの範囲の全ての領域において2.0×103〜5.0×107Paの範囲に含まれる、と言うことはできない。 よって、特許異議申立人の主張は採用できない。 (4)申立理由1についてのまとめ したがって、本件特許発明1ないし3は、甲第1号証に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものでなく、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものではない。 2 申立理由2(1)について (1)本件特許発明1について ア.甲1発明1との対比、判断 本件特許発明1と甲1発明1とを対比すると、前記「1(1)ア.」に記載のとおり、両者は相違点1−1、1−2で相違し、その余の点で一致する。 ここで、ポリマー粒子の弾性率について、甲第1号証には、段落[0024]に「電解液による処理前後における弾性変化率[(処理後弾性率)/(処理前弾性率)]が、低温でのイオン透過性の観点から、30%以下であって、10%以下が好ましく、3%以下がより好ましく、そして、バインダーの安定性の観点から、0.01%以上が好ましく、0.05%以上が好ましい」と記載されるとともに、段落[0122]及び表2、3に測定温度25℃、周波数2Hzの貯蔵弾性率が浸漬前6.04×102〜4.26×105であること、及び段落[0024]に弾性率を調整する方法が記載されている。 しかしながら、甲第1号証において、20℃で測定したポリマー粒子の貯蔵せん断弾性率及び損失せん断弾性率が周波数10−1〜101Hzの範囲の全ての領域において2.0×103〜5.0×107Paの範囲に含まれるようにする旨の示唆やそのようにする動機付けは存在しない。 また、リチウムイオン二次電池の電極において活物質を接着させるポリマー粒子において、20℃で測定したポリマー粒子の貯蔵せん断弾性率及び損失せん断弾性率が周波数10−1〜101Hzの範囲の全ての領域において2.0×103〜5.0×107Paの範囲に含まれるようにすることは周知慣用の技術ともいえない。 したがって、本件特許発明1は、甲1発明1に基づいて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものではない。 イ.甲1発明2との対比、判断 本件特許発明1と甲1発明2とを対比すると、前記「1(1)イ.」に記載のとおり、両者は相違点2−1、2−2を有し、その余の点で一致する。 そして、上記「ア.」で述べたとおり、甲第1号証において、20℃で測定したポリマー粒子の貯蔵せん断弾性率及び損失せん断弾性率が周波数10−1〜101Hzの範囲の全ての領域において2.0×103〜5.0×107Paの範囲に含まれるようにする旨の示唆やそのようにする動機付けは存在しない。 また、リチウムイオン二次電池の電極において活物質を接着させるポリマー粒子において、20℃で測定したポリマー粒子の貯蔵せん断弾性率及び損失せん断弾性率が周波数10−1〜101Hzの範囲の全ての領域において2.0×103〜5.0×107Paの範囲に含まれるようにすることは周知慣用の技術ともいえない。 したがって、本件特許発明1は、甲1発明2に基づいて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ.甲1発明3との対比、判断 本件特許発明1と甲1発明3とを対比すると、前記「1(1)ウ.」に記載のとおり、両者は相違点3−1、3−2を有し、その余の点で一致する。 そして、上記「ア.」で述べたとおり、甲第1号証において、20℃で測定したポリマー粒子の貯蔵せん断弾性率及び損失せん断弾性率が周波数10−1〜101Hzの範囲の全ての領域において2.0×103〜5.0×107Paの範囲に含まれるようにする旨の示唆やそのようにする動機付けは存在しない。 また、リチウムイオン二次電池の電極において活物質を接着させるポリマー粒子において、20℃で測定したポリマー粒子の貯蔵せん断弾性率及び損失せん断弾性率が周波数10−1〜101Hzの範囲の全ての領域において2.0×103〜5.0×107Paの範囲に含まれるようにすることは周知慣用の技術ともいえない。 したがって、本件特許発明1は、甲1発明3に基づいて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものではない。 エ.甲1発明4との対比、判断 本件特許発明1と甲1発明4とを対比すると、前記「1(1)エ.」に記載のとおり、両者は相違点4−1、4−2を有し、その余の点で一致する。 そして、上記「ア.」で述べたとおり、甲第1号証において、20℃で測定したポリマー粒子の貯蔵せん断弾性率及び損失せん断弾性率が周波数10−1〜101Hzの範囲の全ての領域において2.0×103〜5.0×107Paの範囲に含まれるようにする旨の示唆やそのようにする動機付けは存在しない。 また、リチウムイオン二次電池の電極において活物質を接着させるポリマー粒子において、20℃で測定したポリマー粒子の貯蔵せん断弾性率及び損失せん断弾性率が周波数10−1〜101Hzの範囲の全ての領域において2.0×103〜5.0×107Paの範囲に含まれるようにすることは周知慣用の技術ともいえない。 したがって、本件特許発明1は、甲1発明4に基づいて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものではない。 オ.甲1発明5との対比、判断 本件特許発明1と甲1発明5とを対比すると、前記「1(1)オ.」に記載のとおり、両者は相違点5−1、5−2を有し、その余の点で一致する。 そして、上記「ア.」で述べたとおり、甲第1号証において、20℃で測定したポリマー粒子の貯蔵せん断弾性率及び損失せん断弾性率が周波数10−1〜101Hzの範囲の全ての領域において2.0×103〜5.0×107Paの範囲に含まれるようにする旨の示唆やそのようにする動機付けは存在しない。 また、リチウムイオン二次電池の電極において活物質を接着させるポリマー粒子において、20℃で測定したポリマー粒子の貯蔵せん断弾性率及び損失せん断弾性率が周波数10−1〜101Hzの範囲の全ての領域において2.0×103〜5.0×107Paの範囲に含まれるようにすることは周知慣用の技術ともいえない。 したがって、本件特許発明1は、甲1発明5に基づいて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものではない。 カ.甲1発明6との対比、判断 本件特許発明1と甲1発明6とを対比すると、前記「1(1)カ.」に記載のとおり、両者は相違点6−1、6−2を有し、その余の点で一致する。 そして、上記「ア.」で述べたとおり、甲第1号証において、20℃で測定したポリマー粒子の貯蔵せん断弾性率及び損失せん断弾性率が周波数10−1〜101Hzの範囲の全ての領域において2.0×103〜5.0×107Paの範囲に含まれるようにする旨の示唆やそのようにする動機付けは存在しない。 また、リチウムイオン二次電池の電極において活物質を接着させるポリマー粒子において、20℃で測定したポリマー粒子の貯蔵せん断弾性率及び損失せん断弾性率が周波数10−1〜101Hzの範囲の全ての領域において2.0×103〜5.0×107Paの範囲に含まれるようにすることは周知慣用の技術ともいえない。 したがって、本件特許発明1は、甲1発明6に基づいて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものではない。 (2)本件特許発明2ないし3について ア.甲1発明1との対比、判断 本件特許発明2は、本件特許発明1に対して「粘着剤」の「構成単量体」を限定したものであり、貯蔵せん断弾性率及び損失せん断弾性率とは異なる事項を限定したものであるから、前記「1(1)ア.」で検討したとおり、本件特許発明2と甲1発明1とを対比すると両者は少なくとも上記相違点1−1、1−2を有する。 また、本件特許発明3は、本件特許発明1又は2に対して「粘着剤」の「構成単量体」を限定したものであり、貯蔵せん断弾性率及び損失せん断弾性率とは異なる事項を限定したものであるから、前記「1(1)ア.」で検討したとおり、本件特許発明3と甲1発明1とを対比すると両者は少なくとも上記相違点1−1、1−2を有する。 そして、これらの相違点に係る事項は、前記「2(1)ア.」で検討したとおり、甲1発明1に基づいて当業者が容易に想到し得たものではない。 したがって、本件特許発明2ないし3は、甲1発明1に基づいて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものではない。 イ.甲1発明2との対比、判断 本件特許発明2は、本件特許発明1に対して「粘着剤」の「構成単量体」を限定したものであり、貯蔵せん断弾性率及び損失せん断弾性率とは異なる事項を限定したものであるから、前記「1(1)イ.」で検討したとおり、本件特許発明2と甲1発明2とを対比すると両者は少なくとも上記相違点2−1、2−2を有する。 また、本件特許発明3は、本件特許発明1又は2に対して「粘着剤」の「構成単量体」を限定したものであり、貯蔵せん断弾性率及び損失せん断弾性率とは異なる事項を限定したものであるから、前記「1(1)イ.」で検討したとおり、本件特許発明3と甲1発明2とを対比すると両者は少なくとも上記相違点2−1、2−2を有する。 そして、これらの相違点に係る事項は、前記「2(1)イ.」で検討したとおり、甲1発明2に基づいて当業者が容易に想到し得たものではない。 したがって、本件特許発明2ないし3は、甲1発明2に基づいて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ.甲1発明3との対比、判断 本件特許発明2は、本件特許発明1に対して「粘着剤」の「構成単量体」を限定したものであり、貯蔵せん断弾性率及び損失せん断弾性率とは異なる事項を限定したものであるから、前記「1(1)ウ.」で検討したとおり、本件特許発明2と甲1発明3とを対比すると両者は少なくとも上記相違点3−1、3−2を有する。 また、本件特許発明3は、本件特許発明1又は2に対して「粘着剤」の「構成単量体」を限定したものであり、貯蔵せん断弾性率及び損失せん断弾性率とは異なる事項を限定したものであるから、前記「1(1)ウ.」で検討したとおり、本件特許発明3と甲1発明3とを対比すると両者は少なくとも上記相違点3−1、3−2を有する。 そして、これらの相違点に係る事項は、前記「2(1)ウ.」で検討したとおり、甲1発明3に基づいて当業者が容易に想到し得たものではない。 したがって、本件特許発明2ないし3は、甲1発明3に基づいて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものではない。 エ.甲1発明4との対比、判断 本件特許発明2は、本件特許発明1に対して「粘着剤」の「構成単量体」を限定したものであり、貯蔵せん断弾性率及び損失せん断弾性率とは異なる事項を限定したものであるから、前記「1(1)エ.」で検討したとおり、本件特許発明2と甲1発明4とを対比すると両者は少なくとも上記相違点4−1、4−2を有する。 また、本件特許発明3は、本件特許発明1又は2に対して「粘着剤」の「構成単量体」を限定したものであり、貯蔵せん断弾性率及び損失せん断弾性率とは異なる事項を限定したものであるから、前記「1(1)エ.」で検討したとおり、本件特許発明3と甲1発明4とを対比すると両者は少なくとも上記相違点4−1、4−2を有する。 そして、これらの相違点に係る事項は、前記「2(1)エ.」で検討したとおり、甲1発明4に基づいて当業者が容易に想到し得たものではない。 したがって、本件特許発明2ないし3は、甲1発明4に基づいて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものではない。 オ.甲1発明5との対比、判断 本件特許発明2は、本件特許発明1に対して「粘着剤」の「構成単量体」を限定したものであり、貯蔵せん断弾性率及び損失せん断弾性率とは異なる事項を限定したものであるから、前記「1(1)オ.」で検討したとおり、本件特許発明2と甲1発明5とを対比すると両者は少なくとも上記相違点5−1、5−2を有する。 また、本件特許発明3は、本件特許発明1又は2に対して「粘着剤」の「構成単量体」を限定したものであり、貯蔵せん断弾性率及び損失せん断弾性率とは異なる事項を限定したものであるから、前記「1(1)オ.」で検討したとおり、本件特許発明3と甲1発明5とを対比すると両者は少なくとも上記相違点5−1、5−2を有する。 そして、これらの相違点に係る事項は、前記「2(1)オ.」で検討したとおり、甲1発明5に基づいて当業者が容易に想到し得たものではない。 したがって、本件特許発明2ないし3は、甲1発明5に基づいて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものではない。 カ.甲1発明6との対比、判断 本件特許発明2は、本件特許発明1に対して「粘着剤」の「構成単量体」を限定したものであり、貯蔵せん断弾性率及び損失せん断弾性率とは異なる事項を限定したものであるから、前記「1(1)カ.」で検討したとおり、本件特許発明2と甲1発明6とを対比すると両者は少なくとも上記相違点6−1、6−2を有する。 また、本件特許発明3は、本件特許発明1又は2に対して「粘着剤」の「構成単量体」を限定したものであり、貯蔵せん断弾性率及び損失せん断弾性率とは異なる事項を限定したものであるから、前記「1(1)カ.」で検討したとおり、本件特許発明3と甲1発明6とを対比すると両者は少なくとも上記相違点6−1、6−2を有する。 そして、これらの相違点に係る事項は、前記「2(1)カ.」で検討したとおり、甲1発明6に基づいて当業者が容易に想到し得たものではない。 したがって、本件特許発明2ないし3は、甲1発明6に基づいて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)特許異議申立書における主張について 特許異議申立書の第28ページ(ウ−2−1)では、「上記の『ウ−1』で述べたとおり、重合体樹脂材料では、貯蔵せん断弾性率と損失せん断弾性率とが概ね同じであることは技術常識であるから、甲1発明1〜甲1発明6において、損失せん断弾性率を、貯蔵せん断弾性率と同様の『周波数10−1〜101Hzの範囲において20℃で測定した損失せん断弾性率が2.0×103〜5.0×107Pa』とすることに格別の困難さはない」旨主張する。 しかしながら、上記主張は「重合体樹脂材料では、貯蔵せん断弾性率と損失せん断弾性率とが概ね同じであることは技術常識である」との主張に基づくものであって、当該主張から、20℃で測定したポリマー粒子の貯蔵せん断弾性率及び損失せん断弾性率が周波数10−1〜101Hzの範囲の全ての領域において2.0×103〜5.0×107Paの範囲に含まれるようにすることに格別の困難さはない、ということはできない。 よって、特許異議申立人の主張は採用できない。 (4)申立理由2(1)についてのまとめ したがって、本件特許発明1ないし3は、甲第1号証に記載された発明(甲1発明1〜6)に基づいて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものでなく、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものではない。 3 申立理由2(2)について (1)本件特許発明1について ア.甲1発明7との対比 本件特許発明1と甲1発明7とを対比する。 (ア)甲1発明7の「リチウムイオン二次電池の電極」、「活物質」は、それぞれ本件特許発明1の「リチウムイオン電極」、「活物質」に相当し、甲1発明7の「リチウムイオン二次電池の電極において活物質を結着させるポリマー粒子」は、リチウムイオン電極において活物質同士を粘着により結着させるものであるから、本件特許発明1の「リチウムイオン電極において活物質同士を接着させる粘着剤」である「リチウムイオン電極用粘着剤」に相当する。 (イ)本件特許発明1の「ポリマー粒子」は、「前記粘着剤のガラス転移点が60℃以下であり、溶解度パラメータが8〜13(cal/cm3)1/2」であるのに対し、甲1発明7の「粘着剤」は、ガラス転移点も溶解度パラメータも特定されていない点で相違する。 (ウ)弾性率について、前記「1(1)ア.(ウ)」で述べたとおり、本件特許発明1の「周波数10−1〜101Hzの範囲において20℃で測定した貯蔵せん断弾性率及び損失せん断弾性率が2.0×103〜5.0×107Pa」とは、周波数10−1〜101Hzの範囲の全ての領域において20℃で測定した貯蔵せん断弾性率及び損失せん断弾性率が2.0×103〜5.0×107Paの範囲に含まれることである。 他方、甲1発明7の「ポリマー粒子」は、その「電解液による処理前後における弾性変化率[(処理後の貯蔵弾性率)/(処理前の貯蔵弾性率)]が、30%以下」であることが特定されている。 そうすると、ポリマー粒子の貯蔵せん断弾性率について、本件特許発明1は、「周波数10−1〜101Hzの範囲において20℃で測定した貯蔵せん断弾性率」「が2.0×103〜5.0×107Pa」であるのに対して、甲1発明7は、「ポリマー粒子」の「電解液による処理前後における弾性変化率[(処理後の貯蔵弾性率)/(処理前の貯蔵弾性率)]が、30%以下」であるものの、20℃で測定した貯蔵せん断弾性率が周波数10−1〜101Hzの範囲の全ての領域において2.0×103〜5.0×107Paの範囲に含まれるとは特定されていない点で相違する。 また、ポリマー粒子の損失せん断弾性率について、本件特許発明1は、「周波数10−1〜101Hzの範囲において20℃で測定した」「損失せん断弾性率が2.0×103〜5.0×107Pa」であるのに対して、甲1発明7は、その旨特定されていない点で相違する。 (エ)甲第1号証の段落[0042]には、「単官能(メタ)アクリレートの中でも・・・炭素数1以上8以下のアルキルエステル(メタ)アクリレート・・・から選ばれる1種又は2種以上の組合せがより好ましい」と記載されており、甲1発明7の「単官能(メタ)アクリレート」は、アルキルエステル(メタ)アクリレート、すなわち(メタ)アクリル酸アルキルエステルをその下位概念に含み得るものである。 また、甲第1号証の段落[0044]には、「酸性基を有する単官能モノマーの中でも、カルボン酸基を有する単官能モノマーが好ましい。カルボン酸基を有する単官能モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸・・・(メタ)アクリル酸としては、例えば、アクリル酸・・・から選ばれる1種又は2種以上の組合せが挙げられる」と記載されており、甲1発明7の「酸性基を有する単官能モノマー」は、アクリル酸をその下位概念に含み得るものである。そして、技術常識を参酌すると、アクリル酸がモノビニル単量体であることは明らかであるから、甲1発明7の「酸性基を有する単官能モノマー」は、モノビニル単量体をその下位概念に含み得るものである。 そうすると、甲1発明7における「単官能(メタ)アクリレートのモノマー(A−1)由来の構成単位と酸性基を有する単官能モノマー(B−1)由来の構成単位とを含むポリマー」である「ポリマー粒子」は、アクリル系の重合体である点では本件特許発明1の「粘着剤」と共通する。 しかしながら、本件特許発明1の「粘着剤」は「(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体由来の構成単位を必須とし、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体と共重合可能なモノビニル単量体を構成単量体として含む」のに対し、甲1発明7の「単官能(メタ)アクリレートのモノマー(A−1)」は(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体であるとは特定おらず、また「酸性基を有する単官能モノマー」はモノビニル単量体であるとは特定されていない点で相違する。 また、甲1発明7における「ポリマー粒子」は、「単官能(メタ)アクリレートのモノマー(A−1)由来の構成単位」と「酸性基を有する単官能モノマー(B−1)由来の構成単位」の割合が特定されておらず、本件特許発明1は「前記粘着剤を構成する単量体中における前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体の割合が単量体の合計重量を基準として50重量%以上であり、フッ素含有単量体の割合が単量体の合計重量を基準として3重量%未満である」のに対し、甲1発明7の「ポリマー粒子」は、そのような構成割合が特定されていない点で相違する。 (オ)したがって、上記(ア)ないし(エ)によれば、本件特許発明1と甲1発明7とは、 「リチウムイオン電極において活物質同士を接着させる粘着剤であって、 前記粘着剤がアクリル系重合体である、 リチウムイオン電極用粘着剤。」 である点で一致し、次の点で相違する。 (相違点7−1) ポリマー粒子の貯蔵せん断弾性率について、本件特許発明1は、「周波数10−1〜101Hzの範囲において20℃で測定した貯蔵せん断弾性率」「が2.0×103〜5.0×107Pa」であるのに対して、甲1発明7は、「ポリマー粒子」の「電解液による処理前後における弾性変化率[(処理後の貯蔵弾性率)/(処理前の貯蔵弾性率)]が、30%以下」であるものの、20℃で測定した貯蔵せん断弾性率が周波数10−1〜101Hzの範囲の全ての領域において2.0×103〜5.0×107Paの範囲に含まれるとは特定されていない点。 (相違点7−2) ポリマー粒子の損失せん断弾性率について、本件特許発明1は、「周波数10−1〜101Hzの範囲において20℃で測定した」「損失せん断弾性率が2.0×103〜5.0×107Pa」であるのに対して、甲1発明7は、その旨特定されていない点。 (相違点7−3) 本件特許発明1の「ポリマー粒子」は、「前記粘着剤のガラス転移点が60℃以下であり、溶解度パラメータが8〜13(cal/cm3)1/2」であるのに対し、甲1発明7における「粘着剤」は、ガラス転移点も溶解度パラメータも特定されていない点。 (相違点7−4) 本件特許発明1の「粘着剤」は「(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体由来の構成単位を必須とし、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体と共重合可能なモノビニル単量体を構成単量体として含むアクリル系重合体」であるのに対し、甲1発明7における「ポリマー粒子」は、「単官能(メタ)アクリレートのモノマー(A−1)」は(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体であるとは特定されておらず、また「酸性基を有する単官能モノマー」はモノビニル単量体であるとは特定されていない点。 (相違点7−5) 本件特許発明1は「前記粘着剤を構成する単量体中における前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体の割合が単量体の合計重量を基準として50重量%以上であり、フッ素含有単量体の割合が単量体の合計重量を基準として3重量%未満である」のに対し、甲1発明7における「ポリマー粒子」は、そのような割合で構成されるとは特定されていない点。 イ.甲1発明7との相違点の判断 事案に鑑み、相違点7−1、7−2について検討する。 ポリマー粒子の弾性率について、甲第1号証には、段落[0024]に「電解液による処理前後における弾性変化率[(処理後弾性率)/(処理前弾性率)]が、低温でのイオン透過性の観点から、30%以下であって、10%以下が好ましく、3%以下がより好ましく、そして、バインダーの安定性の観点から、0.01%以上が好ましく、0.05%以上が好ましい」こと、段落[0122]及び表1ないし2に測定温度25℃、周波数2Hzの貯蔵弾性率が浸漬前6.04×102〜4.26×105であること、及び段落[0024]に弾性率を調整する方法が記載されている。 しかしながら、甲第1号証において、20℃で測定したポリマー粒子の貯蔵せん断弾性率及び損失せん断弾性率が周波数10−1〜101Hzの範囲の全ての領域において2.0×103〜5.0×107Paの範囲に含まれるようにする旨の示唆やそのようにする動機付けは存在しない。 また、「第4」の「2」及び「3」で検討したように、甲第2号証に記載の技術及び甲第3号証に記載の技術は、共重合成分として、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとともにスチレンやアクリロニトリルを含む、二次電池の電極に用いられるバインダーに関するものであり、20℃で測定したポリマー粒子の貯蔵せん断弾性率及び損失せん断弾性率が周波数10−1〜101Hzの範囲の全ての領域において2.0×103〜5.0×107Paの範囲に含まれるようにするものではない。また、甲第2号証及び甲第3号証には、せん断弾性率を所定の値とすることは記載も示唆もされていない。 したがって、相違点7−1、7−2に係る事項は、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 そうすると、その他の相違点に言及するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明7、並びに甲第2号証に記載された技術及び甲第3号証に記載された技術に基づいて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものではない。 (2)本件特許発明2ないし3について ア.甲1発明7との対比、判断 本件特許発明2は、本件特許発明1に対して「粘着剤」の「構成単量体」を限定したものであり、貯蔵せん断弾性率及び損失せん断弾性率とは異なる事項を限定したものであるから、上記「(1)ア.」で検討したとおり、本件特許発明2と甲1発明7とを対比すると両者は少なくとも上記相違点7−1、7−2を有する。 また、本件特許発明3は、本件特許発明1又は2に対して「粘着剤」の「構成単量体」を限定したものであり、貯蔵せん断弾性率及び損失せん断弾性率とは異なる事項を限定したものであるから、上記「(1)ア.」で検討したとおり、本件特許発明3と甲1発明7とを対比すると両者は少なくとも上記相違点7−1、7−2を有する。 そして、これらの相違点に係る事項は、上記「(1)イ.」で検討したとおり、甲1発明7、並びに甲第2号証に記載された技術及び甲第3号証に記載された技術に基づいて当業者が容易に想到し得たものではない。 したがって、本件特許発明2ないし3は、甲1発明7、並びに甲第2号証に記載された技術及び甲第3号証に記載された技術に基づいて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)特許異議申立書における主張について 特許異議申立書の第30ページでは、甲第2号証及び甲第3号証に記載されるように、共重合成分として、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとともにスチレンやアクリロニトリルを使用することは周知であって、本件特許発明1ないし3は、甲第1号証に記載された発明、並びに甲第2号証に記載された技術及び甲第3号証に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張する。 しかしながら、甲第2号証に記載の技術及び甲第3号証に記載の技術は、20℃で測定したポリマー粒子の貯蔵せん断弾性率及び損失せん断弾性率が周波数10−1〜101Hzの範囲の全ての領域において2.0×103〜5.0×107Paの範囲に含まれるようにするものではない。また、甲第2号証及び甲第3号証には、せん断弾性率を所定の値とすることは記載も示唆もされていない。 したがって、甲第2号証に記載の技術及び甲第3号証に記載の技術を考慮してみても、甲第1号証(甲1発明7)のポリマー粒子について、20℃で測定したポリマー粒子の貯蔵せん断弾性率及び損失せん断弾性率が周波数10−1〜101Hzの範囲の全ての領域において2.0×103〜5.0×107Paの範囲に含まれるようにすることは、当業者にとって容易になし得たこととはいえない。 よって、特許異議申立人の主張は採用できない。 (4)申立理由2(2)についてのまとめ したがって、本件特許発明1ないし3は、甲第1号証に記載された発明(甲1発明7)、並びに甲第2号証に記載された技術及び甲第3号証に記載された技術に基づいて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものでなく、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものではない。 第6 むすび したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1〜3に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1〜3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2023-07-26 |
出願番号 | P2019-513705 |
審決分類 |
P
1
652・
121-
Y
(H01M)
P 1 652・ 113- Y (H01M) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
山田 正文 |
特許庁審判官 |
須原 宏光 岩田 淳 |
登録日 | 2022-10-17 |
登録番号 | 7160796 |
権利者 | 三洋化成工業株式会社 |
発明の名称 | リチウムイオン電極用粘着剤、リチウムイオン電池用電極及びリチウムイオン電池用電極の製造方法 |
代理人 | 弁理士法人WisePlus |