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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 B66F |
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管理番号 | 1401689 |
総通号数 | 21 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2023-09-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2023-04-10 |
確定日 | 2023-08-14 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第7150367号発明「リフター」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第7150367号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯の概略 特許第7150367号の請求項1〜4に係る特許(以下「本件特許」という。)についての手続の経緯は、概ね、次のとおりである。 令和 3年12月 8日 出願 令和 4年 9月30日 特許権の設定登録 令和 4年10月11日 特許掲載公報 令和 5年 4月10日 特許異議申立人株式会社フジサワ・マルゼン(以下「特許異議申立人」という。)による特許異議の申立て 第2 本件発明 特許第7150367号の請求項1〜4に係る発明(以下「本件発明1」「本件発明2」などとし、まとめて「本件発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された事項により特定される次のとおりである。 【請求項1】 左右のコラムと、左右の前記コラムの間に配置されて容器を保持する容器ホルダと、を備え、左右の前記コラムには、スクリューシャフトが回転可能に設けられており、前記スクリューシャフトには、前記容器ホルダに連結されるスクリューナットが螺合されており、 動力伝達部により1つのモータの動力を左右の前記コラムの各前記スクリューシャフトに伝達して各前記スクリューシャフトの回転により前記容器ホルダを昇降させるリフターであって、 前記容器ホルダの側面には、ボスが設けられており、 前記スクリューナットに取り付けられるナットハウジングの外周面には、前記ボスの中心孔に嵌入される支持軸が設けられており、 前記ボスに対する前記支持軸の嵌入長さが80〜120mmであり、 前記動力伝達部を構成する部品が損傷した際に左右の前記コラムにおいて一方の前記スクリューシャフトのみに前記モータの動力が伝達される状況において、前記容器ホルダが水平に対して傾いた状態で停止されることを特徴とするリフター。 【請求項2】 前記スクリューシャフトは、2条の台形ネジ又は角ネジを備え、前記台形ネジ又は前記角ネジのリードが26〜30mmである請求項1に記載のリフター。 【請求項3】 パン生地用である請求項1又は2に記載のリフター。 【請求項4】 前記支持軸は、前記スクリューシャフトに対する横方向の衝撃を吸収するためのガイドホイールに挿通されており、 前記ガイドホイールは、前記ナットハウジングと前記ボスとの間に配置されており、 前記ガイドホイール及び前記ボスは、前記支持軸よりも軟らかい金属により形成されている請求項1乃至3のいずれか一項に記載のリフター。 第3 申立理由の概要 1 特許異議申立人が主張する申立理由 特許異議申立人は、主たる証拠として甲第1号証の1〜甲第1号証の2及び従たる証拠として甲第2号証の1〜甲第5号証の6を提出し、請求項1〜4に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1〜4に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。 2 証拠方法 特許異議申立人提出の証拠方法は以下のとおりである。証拠番号に従い、「甲1の1」などという。 甲1の1:陳述書 甲1の2:陳述書 甲2の1:見積書 甲2の2:見積書 甲2の3:見積書 甲2の4:見積書 甲2の5:見積書 甲2の6:商品売買契約書 甲3の1:概要図 甲3の2:16袋ミキサー用ネジ式EV兼用BOX概要図 甲3の3:概要図 甲3の4:概要図 甲3の5:概要図 甲4 :仕様書 甲5の1:カタログ 甲5の2:新聞記事パンニュース第2003号 甲5の3:新聞記事パンニュース第2260号 甲5の4:株式会社西友エンジニアリング Facebook 甲5の5:株式会社西友エンジニアリング ホームページ 甲5の6:2019モバックショウ ホームページ 第4 証拠の記載 1 甲1の1 (1)甲1の1の記載事項 甲1の1には、「甲1装置」に関し、図面とともに以下の事項が記載又は示されている。 ア 「1.私は、ケイアンドケイフーズ株式会社の代表取締役であり、2013年4月に株式会社フジサワ・マルゼンから別紙添付の甲1装置(製造番号:3−12−097,概要図番号:5FHEV−013−000)を購入し、ケイアンドケイフーズ株式会社富田林工場に甲1装置を設置しました。 2.当該工場では、パン生地をリフトする状況を、甲1装置を用いて製造する製品の見込み客及び既存ユーザーの不特定の見学希望者でも甲1装置を見学することが可能であり、見学者が甲1装置の内部をみること、及び内部について工場の人に説明してもらうことが可能でした。 3.当社では、当該見学者に対して、工場内で当該見学者が見聞した甲1装置のみについては、秘密を守る義務を課しておりません。」 イ 別紙1からは、左右のコラム2a、2bと、左右の前記コラム2a、2bの間に配置されてドゥボックス(容器)4を保持する側板16や支持板18等と、を備え、左右の前記コラム2a、2bには、スクリューシャフト7が設けられており、減速機43、44、ドライブシャフト45、タイヤカップリング46、チェーンカップリング47等により1つのモータ10の動力を左右の前記コラム2a、2bの各前記スクリューシャフト7に伝達する甲1装置が看取される。 ウ 別紙2からは、左右のコラム2a、2bの間に配置されてドゥボックス(容器)4を保持する容器ホルダ5と、「一方のスクリューシャフトのみが駆動した場合は、容器ホルダは水平に対し傾いた状態で停止される」との記載が看取される。 エ 別紙3からは、スクリューシャフト7には、側板16に連結されるスクリューナット8が取り付けられており、前記側板16には、ボス27が設けられており、前記スクリューナット8に取り付けられるナットハウジング32の外周面には、前記ボス27の中心孔に嵌入される支持軸37が設けられていることと、「ボスに対する支持軸の嵌入長さAは58mmである」との記載が看取される。 オ 別紙1と別紙2を併せ見れば、別紙2の容器ホルダ5は、別紙1の側板16、支持板18等を含むものであることが理解される。 ![]() ![]() (2)甲1の1発明 上記(1)を総合すると、甲1の1には、次の発明(以下、「甲1の1発明」という。)が記載されていると認められる。 「左右のコラム2a、2bと、前記左右のコラム2a、2bの間に配置されてドゥボックス(容器)4を保持する容器ホルダ5と、を備え、左右の前記コラム2a、2bには、スクリューシャフト7が設けられており、前記スクリューシャフト7には、前記容器ホルダ5の側板16に連結されるスクリューナット8が取り付けられており、減速機43、44、ドライブシャフト45、タイヤカップリング46、チェーンカップリング47等により1つのモータ10の動力を左右の前記コラム2a、2bの各前記スクリューシャフト7に伝達する甲1装置であって、 前記容器ホルダ5の側板16には、ボス27が設けられており、 前記スクリューナット8に取り付けられるナットハウジング32の外周面には、前記ボス27の中心孔に嵌入される支持軸37が設けられており、 前記ボス27に対する前記支持軸37の嵌入長さAが58mmであり、 一方の前記スクリューシャフト7のみが駆動した場合は、前記容器ホルダ5は水平に対し傾いた状態で停止される甲1装置。」 2 甲1の2 (1)甲1の2の記載事項 甲1の2には、「甲1装置」に関し、図面とともに以下の事項が記載又は示されている。 ア 「1.私は、フジパン株式会社東京工場の工務課課長であり、2007年12月(2007年度)に株式会社フジサワ・マルゼンから別紙添付の甲1装置(製造番号:3−07−068、概要図番号:16SMEV0709−002)を購入し、フジパン株式会社東京工場に甲1装置を設置しました。 2.当該工場では、パン生地をリフトする状況を不特定の見学希望者でも見学することが可能であり、見学者が甲1装置の内部をみること、及び内部について工場の人に説明してもらうことが可能でした。 3.当社では、当該見学者に対して、当該見学者が見聞した甲1装置の見聞内容について、秘密を守る義務を課しておりません。」 イ 別紙1からは、左右のコラム2a、2bと、左右の前記コラム2a、2bの間に配置されてドゥボックス(容器)4を保持する側板16や支持板18等と、を備え、左右の前記コラム2a、2bには、スクリューシャフト7が設けられており、減速機43、44、ドライブシャフト45、タイヤカップリング46、チェーンカップリング47等により1つのモータ10の動力を左右の前記コラム2a、2bの各前記スクリューシャフト7に伝達する甲1装置が看取される。 ウ 別紙2からは、左右のコラム2a、2bの間に配置されてドゥボックス(容器)4を保持する容器ホルダ5と、「一方のスクリューシャフトのみが駆動した場合は、容器ホルダは水平に対し傾いた状態で停止される」との記載が看取される。 エ 別紙3からは、スクリューシャフト7には、側板16に連結されるスクリューナット8が取り付けられており、前記側板16には、ボス27が設けられており、前記スクリューナット8に取り付けられるナットハウジング32の外周面には、前記ボス27の中心孔に嵌入される支持軸37が設けられていることと、「ボスに対する支持軸の嵌入長さAは55.5mmである」との記載が看取される。 オ 別紙1と別紙2を併せ見れば、別紙2の容器ホルダ5は、別紙1の側板16、支持板18等を含むものであることが理解される。 (2)甲1の2発明 上記(1)を総合すると、甲1の2には、次の発明(以下、「甲1の2発明」という。)が記載されていると認められる。 「左右のコラム2a、2bと、前記左右のコラム2a、2bの間に配置されてドゥボックス(容器)4を保持する容器ホルダ5と、を備え、左右の前記コラム2a、2bには、スクリューシャフト7が設けられており、前記スクリューシャフト7には、前記容器ホルダ5の側板16に連結されるスクリューナット8が取り付けられており、減速機43、44、ドライブシャフト45、タイヤカップリング46、チェーンカップリング47等により1つのモータ10の動力を左右の前記コラム2a、2bの各前記スクリューシャフト7に伝達する甲1装置であって、 前記容器ホルダ5の側板16には、ボス27が設けられており、 前記スクリューナット8に取り付けられるナットハウジング32の外周面には、前記ボス27の中心孔に嵌入される支持軸37が設けられており、 前記ボス27に対する前記支持軸37の嵌入長さAが55.5mmであり、 一方の前記スクリューシャフト7のみが駆動した場合は、前記容器ホルダ5は水平に対し傾いた状態で停止される甲1装置。」 なお、甲1の1における「甲1装置」と、甲1の2における「甲1装置」とは、概要図番号や、嵌入長さAが異なり、同一の装置とは認められないから、それぞれ「甲1の1発明」「甲1の2発明」として認定した。 3 甲2の1の記載事項 甲2の1には、以下の事項が記載又は示されている。 (1)「御見積書 日付 2012年1月15日 見積番号 300023652−00 K&Kフーズ株式会社 御中 株式会社フジサワ・マルゼン」 (2)「商品名」の欄に次の事項が記載されている 「4.ボックスエレベーター 支柱柱部:材質SS製、SUS化粧板カバー付、ホッパー蓋装置:片開き式、SUS製」 4 甲2の2の記載事項 甲2の2には、以下の事項が記載又は示されている。 (1)「御見積書 日付 2005年7月19日 見積番号 400012447−00 フジパン株式会社 東京工場 御中 株式会社フジサワ・マルゼン」 (2)「商品名」の欄に次の事項が記載されている 「16Tミキサー用ボックスエレベーター」 5 甲2の3の記載事項 甲2の3には、以下の事項が記載又は示されている。 (1)「御見積書 日付 2018年4月10日 見積番号 300027487−00 日清エンジニアリング株式会社 御中 株式会社フジサワ・マルゼン」 (2)「商品名」の欄に次の事項が記載されている 「3.本捏ミキサー用ボックスエレベーター 支柱(SS塗装・一部SUS化粧カバー) ホッパー(SUS) 電動式ホッパー蓋(SUS) ドウボックスホルダー(SS塗装・一部樹脂貼付) 動力側メンテナンスステージ(SS塗装・アルミ梯子付)」 6 甲2の4の記載事項 甲2の4には、以下の事項が記載又は示されている。 (1)「御見積書 日付 2012年10月12日 見積番号 300023532−01 株式会社中国フジパン 御中 株式会社フジサワ・マルゼン」 (2)「商品名」の欄に次の事項が記載されている 「2.ボックスエレベータ 仕様:ホッパー蓋片開き式 SUS製」 7 甲2の5の記載事項 甲2の5には、以下の事項が記載又は示されている。 (1)「御見積書 日付 2017年11月8日 見積番号 300027146−00 フジパン株式会社 枚方工場 御中 株式会社フジサワ・マルゼン」 (2)「商品名」の欄に次の事項が記載されている 「1.本捏ミキサー用ボックスエレベーター 仮定ボックス寸法:W2110×D730×H 台形ネジ式,主柱:SUS製 主駆動:2.2kw(ブレーキ付) ボックスホルダー:SUS製(樹脂貼付) メンテナンス用ステージ:SUS製」 8 甲2の6の記載事項 甲2の6には、以下の事項が記載又は示されている。 (1)「商品売買契約書 (買主)ケイアンドケイフーズ株式会社を甲、(売主)株式会社フジサワ・マルゼンを乙とする当事者間において、本日、食品加工機械等の売買について、以下のとおり契約を締結します。 第1条(目的) 乙は、甲に対して平成25年1月15日に提出した「見積書」記載の食品加工機械等(以下「本件食品加工機械等」と云う)を次の条件で甲に販売し、甲はこれを買受けました。」 (2)「平成25年1月16日」(署名欄の上部) 9 甲3の1の記載事項 甲3の1には、以下の事項が記載又は示されている。 (1)「組立名称」の欄に「K&Kフーズ(株)様 FHII−5250ミキサー用 ボックスエレベータ」 (2)「名称」の欄に「概要図」 (3)「製図」の欄に「13,2.14」 (4)「図番」の欄に「5FHEV――013−000」 ![]() 10 甲3の2の記載事項 甲3の2には、以下の事項が記載又は示されている。 (1)「名称」の欄に「16袋ミキサー用ネジ式EV兼用BOX概要図」 (2)「日付」の欄に「H19.09.17」 (3)「図面番号」の欄に「16SMEV 0709−002」 (4)欄外に「持出厳禁」と「出図 ’07.10.31」 11 甲3の3の記載事項 甲3の3には、以下の事項が記載又は示されている。 (1)「組立名称」の欄に「クラウン・フーヅ(株)様 FHII−12600用 FMBEV BOXエレベータ」 (2)「名称」の欄に「概要図」 (3)「製図」の欄に「18.09.19」 (4)「図番」の欄に「FMBEV――019−001」 (5)欄外に「出図 19.5.13」 12 甲3の4の記載事項 甲3の4には、以下の事項が記載又は示されている。 (1)「組立名称」の欄に「(株)中国フジパン様 ADラインFHII−5250用 ボックスエレベータ」 (2)「名称」の欄に「概要図」 (3)「製図」の欄に「12,11.15」 (4)「図番」の欄に「5SMEVX−012−000」 (5)欄外に「出図 12.12.04」 13 甲3の5の記載事項 甲3の5には、以下の事項が記載又は示されている。 (1)「組立名称」の欄に「フジパン(株)枚方工場様 FHII−5250 混合機」 (2)「名称」の欄に「概要図」 (3)「製図」の欄に「15,11.01」 (4)「図番」の欄に「5SMEVX――015−000」 (5)欄外に「出図 18.2.14」 14 甲4の記載事項 甲4には、以下の事項が記載又は示されている。 (1)「仕様書 2019,5,13 クラウン・フーヅ株式会社様 No.18-00-FMBEV-001-B (株)フジサワ・マルゼン ボックスエレベータ」 (2)「BOXエレベータ部品リスト(1/3)」に「331 1 ガイドローラー 2 MCナイロン」と記載されている。 15 甲5の1の記載事項 甲5の1には、以下の事項が記載又は示されている。 (1)「BOX ELEVATOR」 (2)「製造元 株式会社西友機械」 16 甲5の2の記載事項 甲5の2には、以下の事項が記載又は示されている。 (1)「パンニュース 第2003号 1996年(平成8年)4月5日(金曜日)(第1面) (2)「PAN NEWS CO.,LTD. (株)パンニュース社」(第1面) (3)「西友機械 製パン工場に貢献大 ボックスエレベーター」(第21面) (4)「ドゥボックスおよびエレベータ用台形ネジ」、「スクリューシャフトを採用」(第21面) 17 甲5の3の記載事項 甲5の3には、以下の事項が記載又は示されている。 (1)「パンニュース 第2260号 2003年(平成15年)5月25日(日曜日)(第1面) (2)「PAN NEWS CO.,LTD. (株)パンニュース社」(第1面) (3)「ミキサーボックスエレベーター 西友エンジニアリング パン工場の省力化に貢献」(第26面) 18 甲5の4の記載事項 甲5の4には、以下の事項が記載又は示されている。 (1)「株式会社西友エンジニアリング 2019年2月7日 2月20日〜2月23日まで幕張メッセのモバックショー「MOBAC SHOW」に参加します。お時間の許す方は5号館543でお待ち致しております。どうぞお立ち寄り下さい。」 19 甲5の5の記載事項 甲5の5には、以下の事項が記載又は示されている。 (1)「1984年2月1日 愛知県名古屋市に株式会社西友機械として設立 創業」 (2)「1997年02月18日 愛知県東海市にて株式会社西友エンジニアリングを設立」 (3)「2019年2月20日〜23日 幕張メッセ(千葉県千葉市)「第26回国際製パン製菓関連産業展(モバックショウ2019)出展 ボックスエレベーター、ドゥボックス、分割機を展示」 20 甲5の6の記載事項 甲5の6には、以下の事項が記載又は示されている。 (1)「2019モバックショウ(第26回国際製パン製菓関連産業展) (2)「開催期間 2019年2月20日(水)〜2019年2月23日(土) 開催時間 10:00〜17:00」 (3)「主催者 日本製パン製菓機械工業会」 第5 当審の判断 1 甲1の1発明及び甲1の2発明が本件の特許出願前に公然実施された発明であるか否かについて 上記第4・1(1)のとおり、甲1の1には「2013年4月に株式会社フジサワ・マルゼンから別紙添付の甲1装置(製造番号:3−12−097,概要図番号:5FHEV―013−000)を購入し、ケイアンドケイフーズ株式会社富田林工場に甲1装置を設置しました。」と記載されている。 この点に関し、特許異議申立人は次のように主張している。 「甲第3号証の1ないし甲第3号証の5には、実際に、株式会社フジサワ・マルゼンが説明のために販売先に提供した甲1装置の概要図面が本件特許発明の図面に対応するように示されている。甲第3号証の1ないし甲第3号証の5に記載された図面を清書したものが甲第1号証の1ないし甲第1号証の2の別紙1〜3に記載されているものであり、両者は同一のものである。」(特許異議申立書10頁1〜5行目) そこで、甲1の1に記載されている概要図番号(5FHEV―013−000)と同じ図番が記載されている甲3の1について検討する。 上記第4・9(3)のとおり、甲3の1には「製図」の欄に「13,2.14」と記載されており、この数字が何を表すものか不明であるが、この数字が日付であるとすれば、その日付が、西暦表示、元号表示のいずれであっても、甲3の1に示された図面が本件の特許出願前のものであることは推認できる。 そして、甲3の1が「株式会社フジサワ・マルゼンが説明のために販売先に提供した甲1装置の概要図面」(特許異議申立書10頁1〜2行目)であることを踏まえれば、甲3の1において甲1装置の特徴について当然説明されているはずである。しかし、甲3の1には、上記第4・9で挙げた記載はあるが、甲1の1における甲1装置の特徴である、「一方のスクリューシャフトのみが駆動した場合は容器ホルダは水平に対し傾いた状態で停止される」点や、これを実現するための機構を示している甲1の1の別紙3の図面については、甲3の1に記載されていない。また、甲1の1の別紙1〜2の図面における各構成の名称や図番等も甲3の1には記載されていない。すなわち、甲1装置の上記特徴や甲1の1の別紙1〜3の図面については、甲3の1を清書したものとはいえず、甲1の1のみに記載されている事項が存在する不自然な説明となっている。したがって、甲1の1の別紙1〜3は、甲3の1と対応しておらず、甲3の1のみに基づき作成されたものとはいえないため、甲3の1のみから、甲1の1の別紙1〜3における甲1装置が、本件の特許出願前に公然実施されていたということはできない。 次に、甲2の1〜甲2の6、甲3の2〜甲3の5、甲4について検討すると、これらの証拠のいずれにも甲1の1と同じ製造番号や図番の記載はなく、これらの証拠に記載されている装置と、甲1の1で示されている甲1装置とが同一のものであることについて何ら証明はされていない。さらに、これらの証拠にも、一方のスクリューシャフトのみが駆動した場合は容器ホルダは水平に対し傾いた状態で停止される点や、甲1の1の別紙3の図面等に関する記載等は無い。したがって、これらの証拠も、甲1の1の別紙1〜3における甲1装置が、本件の特許出願前に公然実施されていたとする根拠にはならない。 次に、甲5の1〜甲5の6について検討する。 特許異議申立人は「甲第5号証の1ないし甲第5号証の6には、具体的な構成は示されていないが、異議申立人が製造する「ボックスエレベータ」が出願前から不特定の者に販売されていたことを示すカタログや被請求人が製造する「ボックスエレベータ」が出願前から下記に記載の新聞記事に掲載及び展示会で展示されていたことが記載されており、異議申立人が製造する「ボックスエレベータ」及び被請求人が製造する「ボックスエレベータ」が、出願前から公然知られたものであることが示されている。」(特許異議申立書10頁7〜13行)と主張している。しかし、甲5の1〜甲5の6に示されている株式会社西友機械又は株式会社西友エンジニアリングの装置と、甲1の1における株式会社フジサワ・マルゼンの甲1装置とが同一のものであることについて何ら証明はされていないから、これらの証拠も、甲1の1の別紙1〜3における甲1装置が、本件の特許出願前に公然実施されていたとする根拠にはならない。 そうすると、申立人の提出した証拠によっては、甲1の1の別紙1〜3における甲1装置が、本件の特許出願前に公然実施されていたということはできない。 甲1の2の別紙1〜3に記載の甲1装置についても、同様の理由により、本件の特許出願前に公然実施されていたということはできない。 以上のことから、上記第4・1(2)で認定した甲1の1発明及び上記第4・2(2)で認定した甲1の2発明は、本件の特許出願前に日本国内又は外国において公然実施された発明とはいえないから、甲1の1発明又は甲1の2発明を根拠として、本件特許が特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。 次に、甲1の1発明及び甲1の2発明が、本件の特許出願前に日本国内又は外国において公然実施された発明であると仮定して、以下、予備的に検討する。 2 本件発明1について (1)甲1の1発明を主引例とする場合 本件発明1と甲1の1発明とを対比すると、甲1の1発明の「左右のコラム2a、2b」は本件発明1の「左右のコラム」に相当し、以下同様に、「ドゥボックス(容器)4」は「容器」に、「容器ホルダ5」は「容器ホルダ」に、「スクリューシャフト7」は「スクリューシャフト」に、それぞれ相当する。 甲1の1発明において、減速機44、ドライブシャフト45、タイヤカップリング46、チェーンカップリング47等によりモータ10の動力がスクリューシャフト7に伝達されていることから、スクリューシャフト7が回転可能に設けられていることは明らかである。したがって、甲1の1発明の「スクリューシャフト7が設けられており」という事項は本件発明1の「スクリューシャフトが回転可能に設けられており」という事項に相当し、以下同様に、「前記容器ホルダ5の側板16に連結される」は「前記容器ホルダに連結される」に、「スクリューナット8」は「スクリューナット」に、それぞれ相当する。 スクリューシャフトの外面がねじ山に形成されていることは技術常識であり、甲1の1発明におけるスクリューシャフト7は回転可能に設けられていることから、甲1の1発明のスクリューシャフト7には、スクリューナット8が「取り付けられており」という事項は、本件発明1のスクリューシャフトにはスクリューナットが「螺合されており」という事項に相当し、以下同様に、「減速機44、ドライブシャフト45、タイヤカップリング46、チェーンカップリング47等」は「動力伝達部」に、「モータ10」は「モータ」に、それぞれ相当する。 スクリューシャフトとスクリューナットに関する技術常識に鑑みれば、甲1の1発明において、スクリューシャフト7がモータ10の動力により回転すると、スクリューシャフト7に取り付けられているスクリューナット8及びナットハウジング32と、それらに連結されている容器ホルダ5とが、スクリューシャフト7の軸方向に移動することは明らかであるから、甲1の1発明の「モータ10の動力を左右の前記コラム2a、2bの各前記スクリューシャフト7に伝達する」という事項は、本件発明1の「モータの動力を左右の前記コラムの各前記スクリューシャフトに伝達して各前記スクリューシャフトの回転により前記容器ホルダを昇降させる」という事項に相当し、以下同様に「甲1装置」は「リフター」に、「前記容器ホルダ5の側板16」は「前記容器ホルダの側面」に、「ボス27」は「ボス」に、「ナットハウジング32」は「ナットハウジング」に、「支持軸37」は「支持軸」に、「嵌入長さA」は「嵌入長さ」に、それぞれ相当する。 甲1の1発明の「58mmであり」という事項と本件発明1の「80〜120mmであり、」という事項とは、「所定の長さであり」という点で共通する。 左右のコラムに設けられているスクリューシャフトのうちの一方のスクリューシャフトのみが駆動することになった原因によらず、一方のスクリューシャフトのみが駆動していることに差異は無いから、甲1の1発明の「一方のスクリューシャフトのみが駆動した場合は」という事項は、本件発明1の「前記動力伝達部を構成する部品が損傷した際に左右の前記コラムにおいて一方の前記スクリューシャフトのみに前記モータの動力が伝達される状況において」という事項に相当し、同様に、「前記容器ホルダは水平に対し傾いた状態で停止される」という事項は「前記容器ホルダが水平に対して傾いた状態で停止される」という事項に相当する。 したがって、両者は、 「左右のコラムと、左右の前記コラムの間に配置されて容器を保持する容器ホルダと、を備え、左右の前記コラムには、スクリューシャフトが回転可能に設けられており、前記スクリューシャフトには、前記容器ホルダに連結されるスクリューナットが螺合されており、 動力伝達部により1つのモータの動力を左右の前記コラムの各前記スクリューシャフトに伝達して各前記スクリューシャフトの回転により前記容器ホルダを昇降させるリフターであって、 前記容器ホルダの側面には、ボスが設けられており、 前記スクリューナットに取り付けられるナットハウジングの外周面には、前記ボスの中心孔に嵌入される支持軸が設けられており、 前記ボスに対する前記支持軸の嵌入長さが所定の長さであり、 前記動力伝達部を構成する部品が損傷した際に左右の前記コラムにおいて一方の前記スクリューシャフトのみに前記モータの動力が伝達される状況において、前記容器ホルダが水平に対して傾いた状態で停止されるリフター。」 である点で一致し、次の点で相違する。 <相違点1> ボスに対する支持軸の嵌入長さに関し、甲1の1発明では58mmであるのに対し、本件発明1では80〜120mmである点。 相違点1について検討する。 数値範囲を最適化又は好適化する際には、同じ部品の同じ部分の寸法に関する数値であっても、どのような課題を解決するために最適化又は好適化するのかによって、最適又は好適な数値範囲は変わることが技術常識である。 甲1の1には、ボスに対する支持軸の嵌入長さを58mmとした理由は記載されていないし、ボスに対する支持軸の嵌入長さを調整することによって左右のスクリーンシャフト7の各スクリューナット8に対して曲げモーメントを効果的に作用させる技術思想も記載されていない。さらに、リフターにおいて、スクリーンシャフトの各スクリューナットに曲げモーメントを効果的に作用させるために、容器ホルダの側面に設けられているボスに対して、スクリューナットに取り付けられるナットハウジングの外周面に設けた支持軸を嵌入させる長さを調整することが、本件の特許出願前に、リフターの技術分野において技術常識であったともいえない。 そのため、甲1の1発明において、スクリューナット8に対して曲げモーメントを効果的に作用させるために、ボスに対する支持軸の嵌入長さを変更しようとする動機付けはないし、また、スクリューナット8に対して曲げモーメントを効果的に作用させるために、ボスに対する支持軸の嵌入長さの数値範囲を最適化又は好適化することが、設計的事項であるともいえない。 加えて、甲1の2〜甲5の6のいずれにも、相違点1に係る構成は記載も示唆もされていない。 そして、本件発明1は、「前記ボスに対する前記支持軸の嵌入長さが80〜120mm」とすることによって、左右のスクリーンシャフト7の各スクリューナット8に対して曲げモーメントMが効果的に作用されるとともに、容器ホルダ5の横幅を十分に確保しつつ左右のコラム2a、2bの間隔を小さくできる(段落【0031】参照)という特段の効果を奏する。 したがって、本件発明1は、甲1の1発明及び甲1の2〜甲5の6の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2)甲1の2発明を主引例とする場合 甲1の1発明と甲1の2発明とは、ボスに対する支持軸の嵌入長さAが58mmであるか、55.5mmであるかを除いて同じ構成を備えているから、本件発明1と甲1の2発明とを対比すると、上記(1)と同様の点において一致し、次の点で相違する。 <相違点2> ボスに対する支持軸の嵌入長さに関し、甲1の2発明では55.5mmであるのに対し、本件発明1では80〜120mmである点。 相違点2について検討すると、上記(1)における相違点1に関する検討と同様の理由により、本件発明1は、甲1の2発明並びに甲1の1及び甲2の1〜甲5の6の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 3 本件発明2〜4について 本件発明2〜4は、本件発明1を引用するものであるから、上記2に示した理由と同様の理由により、甲1の1発明及び甲1の2〜甲5の6の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、甲1の2発明並びに甲1の1及び甲2の1〜甲5の6の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 第6 むすび したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1〜4に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1〜4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2023-07-31 |
出願番号 | P2021-199489 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(B66F)
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最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
平城 俊雅 |
特許庁審判官 |
吉田 昌弘 小川 恭司 |
登録日 | 2022-09-30 |
登録番号 | 7150367 |
権利者 | 株式会社西友エンジニアリング |
発明の名称 | リフター |
代理人 | 水内 龍介 |
代理人 | 渡辺 三彦 |