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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C12N
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C12N
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C12N
審判 全部申し立て 2項進歩性  C12N
管理番号 1404847
総通号数 24 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2023-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2023-08-21 
確定日 2023-11-27 
異議申立件数
事件の表示 特許第7227211号発明「人工三次元皮膚組織、そのアレイ、およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7227211号の請求項1ないし25に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続きの経緯
特許第7227211号(請求項の数25。以下、「本件特許」という。)は、平成27年11月5日を国際出願日とする特願2017−543318号(パリ条約による優先権主張 平成26年11月5日 米国、平成27年3月30日 米国)の一部を、令和2年12月7日に新たな特許出願としたものであって、その請求項1〜25に係る発明について、令和5年2月13日に特許権の設定登録がされ、特許掲載公報が令和5年2月21日に発行されたものである。その後、その請求項1〜25に係る発明について、令和5年8月21日に特許異議申立人である土田裕介(以下、「申立人」という。)より特許異議の申立てがされた。

第2 本件発明
本件特許の請求項1〜25に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1〜25に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、請求項1〜25に係る発明を、項番に従い、「本件発明1」〜「本件発明25」という。また、本件特許の設定登録時の明細書を「本件明細書」という。)。

「【請求項1】
a.真皮バイオインクからバイオプリントされた真皮層であって、該真皮バイオインクが真皮線維芽細胞を含む、真皮層;および
b.表皮バイオインクからバイオプリントされた表皮層であって、該表皮バイオインクがケラチノサイトを含む、表皮層
を含む、三次元人工生体皮膚組織であって、
該表皮層が該真皮層の少なくとも1つの表面と接触し、該表面上に単一のバイオプリント層を形成して三次元人工生体皮膚組織を形成し、
該表皮層が、培養の12日以内に、分化ケラチノサイトの複数の層を形成することができ、かつ
該皮膚組織が、予め形成されたスキャフォールドを含まない
三次元人工生体皮膚組織。
【請求項2】
真皮層の腹側にある皮下層を含み、該皮下層は、皮下バイオインクからバイオプリントされ、該皮下バイオインクは、内皮細胞を含む、請求項1記載の皮膚組織。
【請求項3】
表皮層が真皮層と途切れることなく接触している、請求項1または2記載の皮膚組織。
【請求項4】
真皮層が押し出し化合物を含む、請求項1〜3のいずれか一項記載の皮膚組織。
【請求項5】
表皮層がメラノサイトを含む、請求項1〜4のいずれか一項記載の皮膚組織。
【請求項6】
少なくとも1つのバイオインクが複数のオルガノイドを含み、該オルガノイドが脂腺細胞、腺細胞、または毛包細胞(follicle cell)を含む、請求項1〜5のいずれか一項記載の皮膚組織。
【請求項7】
真皮バイオインクまたは表皮バイオインクが、癌細胞を含む、請求項1〜6のいずれか一項記載の皮膚組織。
【請求項8】
試験物質を含む皮膚組織であって、該試験物質が、該皮膚組織において変化を誘発する能力についての評価を受けている物質であり、該変化が、該試験物質で処理されない皮膚組織と比較した変化である、請求項1〜7のいずれか一項記載の皮膚組織。
【請求項9】
試験物質が、表皮層の頂端面と接触している、請求項8記載の皮膚組織。
【請求項10】
治療物質を含む、請求項1〜9のいずれか一項記載の皮膚組織。
【請求項11】
インビトロアッセイ、薬物スクリーニングアッセイ、または化粧品アッセイを容易にするようにアレイに構成された、複数の請求項1〜10のいずれか一項記載の皮膚組織。
【請求項12】
a.真皮線維芽細胞を含む真皮バイオインクを調製する工程;
b.ケラチノサイトを含む表皮バイオインクを調製する工程;
c.表面上に該真皮バイオインクをバイオプリントさせる工程;
d.該表皮バイオインクが該真皮バイオインクの少なくとも1つの表面上に接触して単一のバイオプリントされた表皮層を形成するように、該表皮バイオインクをバイオプリントさせる工程;および
e.該真皮線維芽細胞およびケラチノサイトを密着させかつ分化させて三次元人工生体皮膚組織を形成するように、該バイオプリントされたバイオインクを細胞培養培地中で成熟させる工程
を含む、三次元人工生体皮膚組織を製造する方法であって、
該表皮層が、培養の12日以内に、分化ケラチノサイトの複数の層を形成することができ、かつ
該皮膚組織をスキャフォールド上にバイオプリントさせない、
方法。
【請求項13】
真皮バイオインクを押し出しバイオプリントによってバイオプリントさせる、請求項12記載の方法。
【請求項14】
表皮バイオインクをエアロゾルスプレーバイオプリントによってバイオプリントさせる、請求項12記載の方法。
【請求項15】
真皮層および表皮層と接触している基底層をバイオプリントさせる工程を含み、該基底層が、基底ケラチノサイトを含むバイオインクを含む、請求項12〜14のいずれか一項記載の方法。
【請求項16】
真皮バイオインク上への表皮バイオインクのバイオプリントにおいて時間的遅延を含む、請求項12〜15のいずれか一項記載の方法。
【請求項17】
真皮バイオインクのバイオプリントの直後に、表皮バイオインクを該真皮バイオインク上にバイオプリントする工程を含む、請求項12〜15のいずれか一項記載の方法。
【請求項18】
表皮バイオインクがメラノサイトを含む、請求項12〜17のいずれか一項記載の方法。
【請求項19】
ケラチノサイトおよびメラノサイトが、90:10〜99:1ケラチノサイト対メラノサイトの比率で表皮バイオインク中に存在する、請求項18記載の方法。
【請求項20】
バイオプリントされたバイオインクの少なくとも1つの中へ複数のオルガノイドを付着させる工程を含み、該オルガノイドが脂腺細胞、腺細胞、または毛包細胞を含む、請求項12〜19のいずれか一項記載の方法。
【請求項21】
内皮細胞を含む皮下バイオインクを調製する工程、および真皮バイオインクのバイオプリントの前に、該皮下バイオインクを表面に付着させる工程を含む、請求項12〜20のいずれか一項記載の方法。
【請求項22】
真皮バイオインクまたは表皮バイオインクが、癌細胞を含む、請求項12〜21のいずれか一項記載の方法。
【請求項23】
三次元人工生体皮膚組織上に試験物質を付着させる工程を含み、該試験物質が、皮膚組織において変化を誘発する能力についての評価を受けている物質であり、該変化が、該試験物質で処理されない皮膚組織と比較した変化である、請求項12〜22のいずれか一項記載の方法。
【請求項24】
試験物質を、三次元人工生体皮膚組織の表皮層の頂端面に付着させる、請求項23記載の方法。
【請求項25】
治療物質を、三次元人工生体皮膚組織上に付着させる工程を含む、請求項12〜24のいずれか一項記載の方法。」

第3 申立人が申し立てた特許異議申立理由
申立人が申し立てた特許異議申立の理由(以下、「申立理由」という。)の概要及び証拠方法は以下のとおりである。

1.申立理由の概要
(1)申立理由1(特許法第29条第1項第3号新規性))、2(同条第2項(進歩性))
ア.本件発明1〜4、8〜11は甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に違反してされたものであり、取り消されるべきである。

イ.本件発明1〜11は甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項に違反してされたものであり、取り消されるべきである。

ウ.本件発明12〜25は甲第3号証に記載された発明及び甲第1号証、甲第4号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきである。

エ.本件発明1〜25は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証〜甲第4号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきである。

(2)申立理由3(特許法第36条第4項第1号実施可能要件))、4(同条第6項第1号(サポート要件))
ア.本件発明1及び12における「培養の12日以内に」について、培養の起点を明確に規定しておらず、バイオプリントによって三次元人工生体皮膚組織を形成した時点が培養の起点であるのか、バイオプリントによって三次元人工生体皮膚組織を形成してから、かつ、組織構築物を気液界面へもっていく時点が培養の起点であるのか、当業者が明確に理解できないため、本件発明1〜25は特許法第36条第4項第1号及び同条第6項第1号の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきである。

イ.本件発明1及び12において、バイオインクに含まれる細胞以外の組成や培養条件について何ら限定されておらず、達成すべき「該表皮層が、培養の12日以内に、分化ケラチノサイトの複数の層を形成することができ」るという効果が特定されている。本件明細書には実施例に記載された具体的なバイオインク及び特定の培養方法によって得られた三次元人工生体皮膚組織及びその製造方法のみしか記載されておらず、当該効果を達成するためにはバイオインクの組成や培養条件など本件発明1及び12に記載の構成以外の構成を検討しなければならず過度な負担が強いられることとなり、当該効果を奏するための手段のすべてが本件発明1及び12に規定されていないから、本件発明1〜25は特許法第36条第4項第1号及び同条第6項第1号の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきである。

(3)申立理由5(特許法第36条第6項第2号明確性))
ア.本件発明1及び12における「培養の12日以内に」について、培養の起点を明確に規定しておらず、バイオプリントによって三次元人工生体皮膚組織を形成した時点が培養の起点であるのか、バイオプリントによって三次元人工生体皮膚組織を形成してから、かつ、組織構築物を気液界面へもっていく時点が培養の起点であるのか、不明確であるから、本件発明1〜25は特許法第36条第6項第2号の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきである。

イ.本件発明1における「該皮膚組織が、予め形成されたスキャフォールドを含まない」について、例えば、完成した三次元人工生体皮膚組織を物として検討する際には、線維芽細胞が分散されている多孔性ヒドロゲルからなる真皮層が含まれている場合、その多孔性ヒドロゲルが予め形成されたスキャフォールドであるか、多孔性ヒドロゲルを含むバイオインクを用いてスキャフォールドなしで形成された真皮層であるか、その区別ができず、不明確であるから、本件発明1〜11は特許法第36条第6項第2号の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきである。

ウ.本件発明12における「該皮膚組織をスキャフォールド上にバイオプリントさせない」について、バイオプリントを行う生体適合性表面、固体支持体またはそれらのコーティングの材料とスキャフォールドを区別することができず、不明確であるから、本件発明12〜25は特許法第36条第6項第2号の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきである。

2.証拠方法
甲第1号証:Macromol Biosci., 2012 December; 12(12): 1627-1636
甲第2号証:Journal of Cosmetics, Dermatological Sciences and Applications, 2013, 3, 85-89
甲第3号証:Tissue Engineering: Part C. 2014,20(6): 473-484
甲第4号証:国際公開2013/040078号
甲第5号証:特表2014−531204号公報
(以下、「甲第1号証」〜「甲第5号証」を「甲1」〜「甲5」という。)

第4 当審の判断
事案に鑑み、申立理由5、同3、同4、同1、同2の順に判断をする。

1.本件明細書に記載された事項
本件明細書の発明の詳細な説明には、以下の事項が記載されている(なお、下線は当審にて付与した。)。

本a
「【発明の概要】
【0003】
ヒト皮膚の三次元(3D)組織モデルは、医薬品産業および化粧品産業の両方における動物モデルの代替物として、ならびに臨床的には治療用組織移植片として、有益である。本明細書に記載される全層ヒト皮膚モデルは、線維芽細胞および結合組織を含む真皮コンパートメント、ならびに重層ケラチノサイトを含む表皮コンパートメントを含有する。モデルの複雑性は、追加の特殊な細胞タイプを組み入れることによって任意で増加され、例えば、色素沈着をモデル化するためにメラノサイトを表皮層中へ追加することができる。さらに、複雑性は、内皮細胞を含む皮下コンパートメントの追加によって加えられる。三次元環境において発達させた皮膚等価物を利用することの利点は、それらが二次元環境と比べてより生理学的に関連していることである。三次元コンフォーメーションにある細胞は、その後、二次元単層において培養される細胞とは異なる様式で、例えば、代替のシグナル伝達経路または異なる細胞外マトリックス相互作用によって、分化し得る。
【0004】
本明細書に記載される人工組織は、バイオインク製剤化技術と、連続的付着プリント法およびエアロゾルスプレープリント法(例えば、インクジェット)とを組み合わせて、皮膚をモデル化するための新規の3D組織システムを作る。既存の皮膚モデルと比較した、皮膚をバイオプリントすることの一つの主な利点は、自動化プロセスの再現性である。皮膚をプリントすることの別の主な利点は、層状構造体が作製され得る時間枠である。現在の皮膚モデルは、成熟した層状構造体を得るために最低でも3週間を必要とすることが多い。本明細書に記載されるバイオプリントアプローチは、同時に細胞のシートを重ね合わせて真皮層および表皮層を作り、これらを次いで所定の期間成熟および分化させる。本開示に提示される新規の皮膚組織方法は、12日間以内に層状構造を示す。
・・・
【0036】
本明細書において使用される場合、「スキャフォールド」は、合成スキャフォールド、例えば、ポリマースキャフォールドおよび多孔性ヒドロゲル、非合成スキャフォールド、例えば、予め形成された細胞外マトリックス層、死細胞層、および無細胞化組織、ならびに人工組織の物理的構造体にとって不可欠でありかつ前記組織の損傷/破壊無しでは組織から除去することができない任意の他のタイプの予め形成されたスキャフォールドを指す。さらなる態様において、無細胞化組織スキャフォールドは、無細胞化ネイティブ組織、または任意の方法で培養細胞によって生成された無細胞化細胞材料;例えば、生きている間に産生したECMを残して、死滅させられるかまたは無細胞化される細胞層を含む。従って、用語「スキャフォールドレスの」は、予め形成されたスキャフォールドが、使用時に、人工組織の不可欠な部分ではなく、除去されているか、または人工組織の不活性コンポーネントとして残っていることを示唆するように意図される。「スキャフォールドレスの」は、「スキャフォールドフリーの」および「予め形成されたスキャフォールドを含まない」と交換可能に使用される。
・・・
【0063】
いくつかの態様において、バイオインクは、押し出し化合物(即ち、バイオインクの押し出し特性を変更する化合物)をさらに含む。押し出し化合物の例としては、ゲル、ヒドロゲル、ペプチドヒドロゲル、アミノ酸ベースのゲル、界面活性剤ポリオール(例えば、Pluronic F-127またはPF-127)、熱応答性ポリマー、ヒアルロナート、アルギナート、細胞外マトリックス成分(およびその誘導体)、コラーゲン、ゼラチン、他の生体適合性の天然または合成ポリマー、ナノ繊維、および自己集合性ナノ繊維が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの態様において、押し出し化合物は、物理的、化学的、または酵素的手段によって、バイオプリント後に除去される。
・・・
【0105】
使用されるプリント法にかかわらず、様々な因子が、プリントされた組織細胞の増殖および/または分化を促進するために任意で改変される。いくつかの場合において、真皮培地、表皮培地、または真皮培地および表皮培地の組み合わせが、皮膚組織構築物へ添加される。さらに、培地組成は、所望の生物学を促進するために組織寿命における異なる時点で任意で変えられる。組織構築物は、任意で、気液界面へ移されるか、または湿度もしくはCO2の改変などの雰囲気変化へ供される。両方のプリントアプローチを組み合わせる仮定の実験設計を図7に示す。
・・・
【0107】
バイオプリント
いくつかの態様において、人工皮膚組織/構築物およびそのアレイの少なくとも1つのコンポーネントをバイオプリントする。さらなる態様において、バイオプリントされた構築物は、三次元送達デバイス(例えば、バイオプリンター)による、生体適合性支持表面(例えば、ヒドロゲルおよび/または多孔性膜から構成される)上への、細胞溶液、細胞懸濁液、細胞含有ゲルまたはペースト、細胞濃縮物、多細胞体(例えば、シリンダー、スフェロイド、リボンなど)を含む細胞、および、任意で、閉じ込め材料の、三次元の、自動化された、コンピューター支援される付着に基づく迅速なプロトタイピング技術を利用する方法を用いて作られる。本明細書において使用される場合、いくつかの態様において、用語「人工」は、組織および/または器官を指すために使用される場合、細胞、細胞溶液、細胞懸濁液、細胞含有ゲルまたはペースト、細胞濃縮物、多細胞集合体、ならびにそれらの層が、コンピュータースクリプトに従ってコンピューター支援されるデバイス(例えば、バイオプリンター)によって三次元構造体を形成するように位置決めされることを意味する。さらなる態様において、コンピュータースクリプトは、例えば、1つまたは複数のコンピュータープログラム、コンピューターアプリケーション、またはコンピューターモジュールである。なおさらなる態様において、三次元組織構造体は、細胞または多細胞体のプリント後の接着によって形成し、これは、いくつかの場合において、初期形態形成における自己集合現象に類似している。
・・・
【0119】
いくつかの態様において、人工皮膚組織/構築物およびそのアレイは、例えば、組織の形成、組織の任意の層の形成、または組織の形状の形成のために、いかなる予め形成されたスキャフォールドをも利用しない。非限定的な例として、本発明の人工皮膚組織は、いかなる予め形成された、合成スキャフォールド、例えば、ポリマースキャフォールド、予め形成された細胞外マトリックス層、または任意の他のタイプの予め形成されたスキャフォールドをも、製造時にまたは使用時に利用しない。いくつかの態様において、人工皮膚組織は、いかなる予め形成されたスキャフォールドをも実質的に含まない。さらなる態様において、組織の細胞性コンポーネントは、検出可能であるが微量または僅かな量のスキャフォールド、例えば、総組成物の2.0%未満、1.0%未満、または0.5%未満、を含有する。なおさらなる態様において、微量または僅かな量のスキャフォールドは、組織またはそのアレイの長期挙動に影響を与えるか、またはその主要な生物学的機能に干渉するには不十分である。追加の態様において、スキャフォールドコンポーネントは、物理的、化学的、または酵素的方法によって、プリント後に除去され、スキャフォールドコンポーネントを含まないかまたは実質的に含まない人工組織が得られる。
・・・
【0121】
生体適合性表面
いくつかの態様において、人工皮膚組織/構築物は、1つまたは複数の面上において生体適合性表面へ固定される。いくつかの態様において、人工皮膚組織/構築物は、生体適合性表面の1、2、3、4個、またはそれ以上の面へ固定される。多くの方法が、組織を生体適合性表面へ固定するのに適している。様々な態様において、組織は、生体適合性表面へ、例えば、1つまたは複数の面全体にわたって、1つまたは複数の面の端でのみ、または1つまたは複数の面の中央でのみ、適切に固定される。様々なさらなる態様において、組織は、表面へ一体化されたまたは表面と結合されたホルダーまたはキャリアーを用いて、生体適合性表面へ適切に固定される。様々なさらなる態様において、組織は、表面へ一体化されたまたは表面と結合された1つまたは複数のピンチ-クランプまたはプラスチックノブを用いて、生体適合性表面へ適切に固定される。いくつかの態様において、組織は、多孔性表面への細胞付着によって、生体適合性表面へ適切に固定される。いくつかの態様において、表面の細孔サイズは0.2μmを超え得る。いくつかの態様において、表面の細孔サイズは1μmを超え得る。いくつかの態様において、組織は、多孔性膜への細胞付着によって、生体適合性表面へ適切に固定される。いくつかの態様において、人工皮膚組織/構築物は、1つまたは複数の面上における生体適合性表面への貼り付けによってアレイ構成で保持される。さらなる態様において、組織は、1、2、3、4個、またはそれ以上の面上において生体適合性表面へ貼り付けられる。いくつかの態様において、生体適合性表面は、組織または組織に接触する生物に対して傷害または毒性の大きな危険をもたらさない任意の表面である。さらなる態様において、生体適合性表面は、伝統的な組織培養法に適した任意の表面である。好適な生体適合性表面は、非限定的な例として、処理されたプラスチック、膜、多孔性膜、コーティングされた膜、コーティングされたプラスチック、金属、コーティングされた金属、ガラス、処理されたガラス、およびコーティングされたガラスを含み、好適なコーティングは、ヒドロゲル、ECM成分、化学物質、タンパク質などを含み、コーティングまたは処理は、生体適合性表面への細胞および組織接着を促すまたは妨げる手段を提供する。ある態様において、生体適合性表面は柔軟である。ある態様において、生体適合性表面は、バイオプリント時に非静的である(動いている)。ある態様において、生体適合性表面は平らでない。生体適合性表面は、ヒトまたは他の哺乳動物の身体部分のように形作られた型もしくは形態であり得るか、または曲線状である。」

本b
「【実施例】
・・・
【0149】
実施例2−ゼラチンを含有する真皮バイオインクおよび細胞ペーストを含有する表皮バイオインクを使用する連続的付着によって全層皮膚組織をバイオプリントする
手順
1ミリリットル当たり1億5000万個の細胞の濃度で、6%ゼラチン(Novogel(登録商標))中の100%初代成人ヒト真皮線維芽細胞(HDFa)の細胞混合物によって、バイオインクを作製した。上部を縁取る1mm壁を有する4 mm x 4 mm x 0.5 mmベースシートにおいてNovogen Bioprinter(登録商標)プラットフォームを使用する連続的付着によって三次元のバイオインク構築物をプリントし、カップに似ている真皮構造体を作った。6ウェルプレート中の1トランスウェル当たり1つの組織構築物をプリントした。トランスウェルプリント表面は、3μmサイズの細孔を有する、I型およびIII型コラーゲン(ウシ)の等モル混合物でコーティングされたポリテトラフルオロエチレン(PTFE)膜を含有した。95%初代成人ヒト表皮ケラチノサイト(HEKa)および5%初代成人ヒト表皮メラノサイト(HEMa)の混合物を含有する表皮細胞ペーストを、次いで、真皮バイオインクの上部にプリントした。細胞ペーストは、トリパン排除アッセイによって90.5%生存可能とプリント後に測定された。付着された表皮層中の細胞数は、Cell-O-Meterにおける細胞カウンティングによって160,000細胞と推定された。次いで、培地をトランスウェルの外部ウェルへ2 mlの体積で添加した。皮膚組織のその後の増殖および維持のために使用した培地は、50:40:10比率のHDFa:HEKa:HEMa培地であった。添加した体積は、プリントされた構造体の底部で集まるには十分であったが、構造体を沈めるには十分でなかった。48時間後に培地を変え、続いてその後毎日変えた。第2、9、および12日に、構築物を、RNA解析のために溶解させたか、または組織学的解析のために2% PFA中に固定した。
【0150】
結果
第12日での皮膚組織のH&E染色は別個の層状構造を示す(図13、矢印、および14)。真皮層中の線維芽細胞は底部(紫色)で観察され、表皮層中の分化ケラチノサイトは上部(桃色)に観察される。このアプローチでの予想外の知見は、観察された層状構造の程度である。特に、界面で観察され得る別個の形態を有する細胞の層が存在する(矢印)。この層はCK14に対して特異的に染色され、これは、付着されたペースト中のケラチノサイト細胞が基底層へ配置されたことを示している。分化ケラチノサイトの別個の層は、基底細胞マーカーCK5およびインボルクリン(IVL)[顆粒および角化ケラチノサイトの後期分化マーカー]に対して同時に染色されることによって可視化される。通常のヒト皮膚と同様に、形態の差異が見られ、何故ならば、基底細胞は別個の立方体様形態を有するようであり、一方、上部における分化ケラチノサイトはより平らに見えるためである。層状構造はまた、中期分化におけるCK10-陽性有棘および顆粒ケラチノサイトを含む(図15)。以前のプリント法は表皮層のCK14陽性染色を生じさせたが、観察されたパターンは、第10日で、層の全体にわたって広がっており、基底領域に非特異的である。本アプローチにおいて、予想外であることは、第12日において、ネイティブなヒト皮膚と同様に、染色が表皮層の底部での規定の領域に限定されることである(図16)。遺伝子発現解析は組織学的知見を支持している。データは、経時的に表皮分化マーカーCK1、CK10、および特に後期マーカーFLGの増加を示している。遺伝子発現はまた、コラーゲン4レベルが経時的に増加することを示しており 、これは基底膜の形成を示唆している。コラーゲンIレベルは実験の時間経過にわたって維持され、これは真皮層が生存可能のままであることを示唆している(図17)。
【0151】
実施例3−ゼラチンを含有する真皮バイオインクおよび細胞ペーストを含有する表皮バイオインクを使用する連続的付着によって全層皮膚組織をバイオプリントする追加の例
手順
1ミリリットル当たり1億個の細胞の濃度で、8%ゼラチン(Novogel(登録商標))中の100%初代成人ヒト真皮線維芽細胞(HDFa)の細胞混合物によって、バイオインクを作製した。
細胞:ゼラチン比率を変更し、真皮シートの細胞密度を減らし、ネイティブな皮膚中の真皮組織をよりよく模倣した。4 mm x 4 mm x 0.5 mmベースシートにおいてNovogen Bioprinter(登録商標)プラットフォームを使用する連続的付着によって三次元のバイオインク構築物をプリントし、シートに似ている真皮構造体を作った。6ウェルプレート中の1トランスウェル当たり1つの組織構築物をプリントした。トランスウェルプリント表面は、3μmサイズの細孔を有する、I型およびIII型コラーゲン(ウシ)の等モル混合物でコーティングされたポリテトラフルオロエチレン(PTFE)膜を含有した。100%初代新生児ヒト表皮ケラチノサイト(HEKn)の混合物を含有する表皮細胞ペーストを、次いで、真皮バイオインクの上部にプリントした。別のしかし同一の表皮ペースト構造体を、真皮シートの隣りに、直接的にトランスウェルプリント表面上へ同時に付着させた。この構造体は、表皮ケラチノサイトペーストのみから構成され、真皮組織を含有しなかった。細胞ペーストは、トリパン排除アッセイによって87.1%生存可能とプリント後に測定された。付着された表皮層中の細胞数は、Cell-O-Meterにおける細胞カウンティングによって60,000細胞と推定された。プリントの直後に、構築物を4℃で10分間置いた。これは、Novogel(登録商標)を強固にするための重要な工程であり、これは、プリントされた形状を維持し、構築物間の均一性を改善するのを助ける。次いで、冷培地をトランスウェルの外部ウェルへ3 mlの体積で添加した。皮膚組織のその後の増殖および維持のために使用した培地は、50:50比率のHDFa:HEKn培地であった。添加した最初の体積は、構造体を沈めるために十分であった。全てのその後の培地変更は、加温された培地(37℃)を使用し、内部バスケットではなくトランスウェルの外部ウェルへ添加した。48時間後に培地を変え、1ウェル当たり1.5 mlの体積へ減らし、構造体を気液界面(ALI)へもっていった。その後続いて、培地を、48時間(第4日)で1.5 mlの体積で変えた。第5日に、培地を変え、1ウェル当たり1mlへさらに減らし、その後毎日変えた。第0および12日に、構築物を、RNA解析のために溶解させたか、または組織学的解析のために2% PFA中に固定した。
【0152】
結果
トランスウェル表面上に直接プリントされる場合に対して、真皮シートの上部にプリントされたペーストの表皮層パターニングを比較するためのその後の組織学的解析は、予想外の知見をもたらした(図18AおよびB)。第12日での皮膚組織のH&E染色は、表皮ペーストが真皮層の上部にプリントされた構造体においてのみ、別個の層状構造を示す(図18CおよびD対FおよびG、図19A)。真皮層中の線維芽細胞は底部(紫色)で観察され、表皮層中の分化ケラチノサイトは上部(桃色)に観察される。特に、界面で観察され得る別個の形態を有する細胞の層が存在する。分化ケラチノサイトの別個の層は、基底細胞マーカーCK5(緑色)およびインボルクリン(IVL、赤色)[顆粒および角化ケラチノサイトの後期分化マーカー]に対して同時に染色されることによって可視化される(図18E対H、図19B)。別個の緑色層は、付着されたペースト中のケラチノサイト細胞が基底層へ配置され、より分化したIVL陽性細胞の層は上部に配置されたことを示している。通常のヒト皮膚と同様に、形態の差異が見られ、何故ならば、基底細胞は別個の立方体様形態を有するようであり、一方、上部における分化ケラチノサイトはより平らに見えるためである。増殖マーカーPCNAに対する染色(図19E、緑色)は、真皮線維芽細胞および基底層ケラチノサイトの両方において増殖が高いが、分化中のケラチノサイトにおいては高くないことを示している。このパターンは、ネイティブな皮膚において見られるものと類似している。TUNELによるアポトーシスに対する染色(図19F)もまた、真皮層または表皮層のいずれにおいてもごくわずかな陽性染色細胞を低く示している。まとめて、PCNAおよびTUNEL染色は、全層組織の真皮コンパートメントおよび表皮コンパートメントの両方が第12日に生存可能であることを実証している。遺伝子発現解析は組織学的知見を支持している。データは、第0日と比較しての第12日での、中期表皮分化マーカーCK1、CK10、および後期マーカーIVL、ロリクリンの増加を示している。遺伝子発現はまた、コラーゲンIおよび4レベルは実験の時間経過にわたって維持され、一方、コラーゲン3レベルは増加することを示しており、これは、真皮層が生存可能かつ機能的のままであることを示唆している(図20)。多くの驚くべき結果がこれから決定された;例えば、表皮ペーストは別個の層状構造中へ重層化することができること。現在の3D皮膚モデルは、これを達成するために、長期間にわたる単一のケラチノサイト単層の分化に頼る。ここで、本発明者らは、重層化がペーストで達成することが可能であることを示す。ペーストの厚みは単層よりも大きく、細胞がペースト内で自己組織化し、層として分化し得ることを示す。また、本発明者らは、真皮組織の存在無しでトランスウェル表面上へ直接プリントされたケラチノサイトペーストが、重層化層へ組織化しなかったことを示す。同じ分化マーカーに対する染色は、規定された層を含まないかまたは別個の細胞形態を含まない混合発現を示す。この予想外の知見は、真皮層が表皮ケラチノサイトの分化および/または重層化を指示すること、ならびに表皮細胞単独には存在しない、真皮細胞および表皮細胞の組み合わせの独自性があることを示している。3)表皮細胞および真皮細胞の両方から構成された組織中において観察された層状構造の程度は、CK5-陽性基底層の染色を含み、これは、ネイティブなヒト皮膚と同様に、表皮層の底部での規定の領域に限定される。層状構造はまた、中期分化におけるCK10陽性(図19C)有棘および顆粒ケラチノサイトを含み、その上にH&Eおよびトリクローム染色(それぞれ図19AおよびD)によって可視であるケラチノサイトの形態学的に別個の角化層を含む。このアプローチの注目すべき利点は、真皮層の外観である。H&E染色は、真皮線維芽細胞が、前の実施例1および2におけるような薄いシートを形成しないが、より厚い構造体を形成することを示している。コラーゲン付着(これは、真皮中における通常の線維芽細胞機能の重要な指標である)が、トリクローム染色(青色)および真皮細胞間のコラーゲン3についての免疫蛍光染色(赤色)の両方によって理解され得る(図19)。」

2.申立理由5(特許法第36条第6項第2号明確性))について
(1)上記第3 1(3)ア(「培養の12日以内に」)について
ア.判断
本件発明1及び12には、「表皮層」が「分化ケラチノサイトの複数の層を形成することができ」る時期について、「培養の12日以内に」と記載されている。これは、通常の日本語として、「培養」を始めてから「12日以内に」という意味で解釈するのが自然である。そして、この解釈は、次のとおり、本件明細書の記載とも整合するものである。
まず、本件明細書の【発明の概要】には、成熟した層状構造体を得るための時間が、従来は最低でも3週間必要であったところ、本件発明のバイオプリントアプローチでは、「同時に細胞のシートを重ね合わせて真皮層および表皮層を作り、これらを次いで所定の期間成熟及び分化させる。本開示に提示される新規の皮膚組織方法は、12日以内に層状構造を示す。」(【0004】)と記載されているところ、文脈上、「12日以内」とは、「真皮層および表皮層を作」った後の「成熟および分化」の期間を指すことが明らかであるから、「12日」の起点は、「真皮層および表皮層を作」った後の「成熟および分化」のための培養を始めた時点であると解される。
また、本件明細書の実施例3には、真皮バイオインクの上部に表皮細胞ペーストをプリントして得られる構築物について、48時間の培養を行った後、構造体を気液界面に移動し、さらに48時間培養を行ったときが第4日であること(上記1本b実施例3【0151】)が記載されているから、バイオプリントにより形成された真皮層および表皮層の培養の開始時点を起点として期間が算出されている。
そうすると、本件発明1及び12の「培養の12日以内に」という記載が「培養を開始してから12日以内」を意味することは明らかであり、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
本件発明1又は12を直接又は間接的に引用する本件発明2〜11、13〜25も、本件発明1及び12と同様の理由により、不明確であるとはいえない。

イ.申立人の主張について
申立人は、「培養の12日以内に」という記載について、培養の起点を明確に規定しておらず、バイオプリントによって三次元人工生体皮膚組織を形成した時点が培養の起点であるのか、バイオプリントによって三次元人工生体皮膚組織を形成してから、かつ、組織構築物を気液界面へもっていく時点が培養の起点であるのか、不明確であると主張する。
しかしながら、本件明細書には気液界面への移動は任意の事項であること(上記1本a【0105】)が記載されており、気液界面への移動が必須であるものとする根拠は存在しない。
そして、上記アで述べたとおり、「培養の12日以内に」という記載が「培養を開始してから12日以内」を意味することはその記載及び本件明細書の記載から明らかであり、申立人の主張は理由がない。

(2)上記第3 1(3)イ(「該皮膚組織が、予め形成されたスキャフォールドを含まない」)について
ア.判断
本件明細書には「予め形成されたスキャフォールドを含まない」と交換可能に使用される「スキャフォールドレスの」が「予め形成されたスキャフォールドが、使用時に、人工組織の不可欠な部分ではなく、除去されているか、または人工組織の不活性コンポーネントとして残っていることを示唆するように意図される」を意味していること(上記1本a【0036】)が記載されている。
そして、「スキャフォールド」については、人工皮膚組織/構築物はいかなる予め形成されたスキャフォールドをも利用しないものであるが、検出可能な微量または僅かな量のスキャフォールドを含有していてもよく、微量または僅かな量のスキャフォールドは組織またはそのアレイの長期挙動に影響を与えるか、またはその主要な生物学的機能に干渉するには不十分であること(上記1本a【0119】)が記載されており、組織またはアレイの長期挙動に影響を与えるか、その主要な生物学的機能に干渉する機能を有しているものが「予め形成されたスキャフォールド」であることが理解できる。このことは、「スキャフォールド」とは「細胞の接着、増殖、分化を制御するための細胞培養基材」を意味するという本件特許の国際出願時の技術常識とも矛盾しないものである(必要であれば、参考文献A(実験医学、2010、Vol.28、No.2(増刊)、第173頁〜第178頁の第174頁右欄第31行〜第36行)を参照されたい。)
以上により、本件発明1の「該皮膚組織が、予め形成されたスキャフォールドを含まない」とは、細胞培養時に細胞の挙動を制御するための細胞培養基材が「皮膚組織」に含まれず、それにより「皮膚組織」の培養中に皮膚組織中の細胞の長期挙動や生物学的機能が影響を受けないことを意味すると解され、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2〜11も、本件発明1と同様の理由により、不明確であるとはいえない。

イ.申立人の主張について
申立人は、完成した三次元人工生体皮膚組織を物として検討する際には、線維芽細胞が分散されている多孔性ヒドロゲルからなる真皮層が含まれている場合、その多孔性ヒドロゲルが予め形成されたスキャフォールドであるか、多孔性ヒドロゲルを含むバイオインクを用いてスキャフォールドなしで形成された真皮層であるか、その区別ができないと主張している。
しかしながら、バイオプリント層を形成する前のバイオインクに含まれているヒドロゲル等の「押し出し化合物」はバイオインクの押し出し特性を変更するために使用される化合物(上記1本a【0063】)であって、層状構造の構築物中の細胞の培養時に細胞の挙動を制御するためのものでないことは明らかであるから、本件発明1における「予め形成されたスキャフォールド」とバイオインクに含まれている「押し出し化合物」とは区別可能であり、「該皮膚組織が、予め形成されたスキャフォールドを含まない」という記載があることによって、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえないから、申立人の主張は理由がない。

(3)上記第3 1(3)ウ(「該皮膚組織をスキャフォールド上にバイオプリントさせない」)について
ア.判断
「スキャフォールド」については上記(2)アで述べたとおり、細胞を制御する機能を有する細胞培養基材であり、細胞の長期挙動や生物学的機能に影響を与えるものであると理解することができる。
本件明細書には、バイオプリントされた構築物が、生体適合性支持表面上への、細胞溶液等の付着により作られること(上記1本a【0107】)、人工皮膚組織/構築物は、1つまたは複数の面上において生体適合性表面へ固定されること(上記1本a【0121】)が記載され、本件明細書における生体適合性表面等の「表面」は人工皮膚組織/構築物を面上に固定するための物質であり、細胞を制御する機能を有していないことは明らかであるから、本件発明12における「予め形成されたスキャフォールド」と「表面」とは区別可能であり、「該皮膚組織をスキャフォールド上にバイオプリントさせない」という記載があることによって、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
本件発明12を直接又は間接的に引用する本件発明13〜25も、本件発明12と同様の理由により、不明確であるとはいえない。

イ.申立人の主張について
申立人は、バイオプリントを行う生体適合性表面、固体支持体またはそれらのコーティングの材料とスキャフォールドとは区別できないと主張している。
しかしながら、上記アで述べたとおり、「予め形成されたスキャフォールド」と「表面」は区別可能であり、申立人の主張は理由がない。

(4)小括
以上のとおり、本件発明1〜25は、特許請求の範囲の記載が明確性要件に違反しているとはいえない。

3.申立理由3(特許法第36条第4項第1号実施可能要件))、4(同条第6項第1号(サポート要件))について
(1)上記第3 1(2)ア(「培養の12日以内に」)について
ア.判断
上記2(1)アで述べたように「培養の12日以内に」という記載が「培養を開始してから12日以内」を意味することは明らかであるから、当業者は期間を算出するための起点を理解することができる。
そして、本件明細書の【0004】にはバイオプリントにより同時に細胞のシートを重ね合わせて真皮層および表皮層を作り、これらを次いで所定の期間成熟及び分化させるというバイオプリントアプローチにより、12日以内に層状構造が示されることが記載されており、実施例2及び3により、このことが裏付けられているから、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は本件発明1、12を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものであるし、本件発明1、12は本件明細書の発明の詳細な説明に記載された範囲内のものである。
本件発明1又は12を直接又は間接的に引用する本件発明2〜11、13〜25も、本件発明1、12と同様である。

イ.申立人の主張について
申立人は、「培養の12日以内に」という記載について、培養の起点が明確に規定されていないため、本件明細書の発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであるし、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1、12を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではないことを主張している。
しかしながら、上記アで述べたとおり、「培養の12日以内に」という記載が「培養を開始してから12日以内」を意味することはその記載及び本件明細書の記載から明らかであり、申立人の主張は理由がない。

(2)上記第3 1(2)イ(バイオインクに含まれる細胞以外の組成や培養条件)について
ア.判断
本件明細書には、ヒト皮膚の三次元(3D)組織モデルは、医薬品産業および化粧品産業の両方における動物モデルの代替物として、ならびに臨床的には治療用組織移植片として、有益であること(上記1本a【0003】)が記載されており、本件発明の課題は「医薬品産業および化粧品産業の両方における動物モデルの代替物として、ならびに臨床的には治療用組織移植片として有益な、三次元人工生体皮膚組織を提供する」ことであると認められる。
また、本件明細書には三次元環境において発達させた皮膚等価物は二次元単層において培養される細胞とは異なる様式で分化し得ること(上記1本a【0003】)、本件発明の主な利点が層状構造体を作製する時間枠の短縮であり、同時に細胞のシートを重ね合わせて真皮層及び表皮層を作り、これらを所定の期間成熟及び分化させるバイオプリントアプローチにより12日間以内に層状構造を示す成熟した層状構造体が得られること(上記1本a【0004】)が記載されている。
したがって、本件発明においてはバイオプリントにより真皮層と表皮層を同時に形成して、成熟および分化する方法を採用することによって、上記課題を解決できるものと認められる。
そして、本件発明の具体的な実施形態として、本件明細書の実施例2には6%ゼラチン中の100%初代成人ヒト真皮線維芽細胞の細胞混合物によって作製されたバイオインクの連続的付着によって得られる三次元のバイオインク構築物の上に、95%初代成人ヒト表皮ケラチノサイトおよび5%初代成人ヒト表皮メラノサイトの混合物を含有する表皮細胞ペーストをプリントし、培養を行った結果、第12日での皮膚組織のH&E染色は別個の層状構造を示し、分化ケラチノサイトが基底層及び別個の層を形成したこと(上記本1b【0149】、【0150】)、実施例3には8%ゼラチン中の100%初代成人ヒト真皮線維芽細胞の細胞混合物によって作製されたバイオインクの連続的付着によって得られる三次元のバイオインク構造物の上に、100%初代新生児ヒト表皮ケラチノサイトを含有する表皮細胞ペーストをプリントし、48時間培養後、構造体を気液界面に移動し、さらに培養を行って得られる第12日の構築物について、分化ケラチノサイトの別個の層が生じたことや、真皮組織の存在無しでトランスウェル表面に直接プリントされたケラチノサイトペーストは重層化層へ組織化しなかったこと(上記本1b実施例3【0151】、【0152】)についても記載されている。
また、生体により近い皮膚モデルを作成することを目的として、ケラチノサイトを含む表皮層を培養により複数の層に分化させることは本願出願前の当業者が通常行っていたことである(必要であれば、甲1の第5頁Resultsの「Optimization of growth conditions」の項目、甲3の第480頁右上欄の「Structure of printed skin tissue」の項目を参照されたい。)。
そうすると、本件発明1、12は、当業者が、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたバイオプリントアプローチにより、上記課題を解決できると認識できる範囲内のものであるといえるし、本件発明1、12における人工三次元生体皮膚組織を作製する際、表皮層を複数の層に分化するための培養条件等を調整することは本件明細書の記載及び本件特許の国際出願時の技術常識に基づいて当業者であれば格別の困難性なく実施できたことであるといえる。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は本件発明1、12を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものであるし、本件発明1、12は本件明細書の発明の詳細な説明に記載された範囲内のものである。
本件発明1又は12を直接又は間接的に引用する本件発明2〜11、13〜25も、本件発明1、12と同様である。

イ.申立人の主張について
申立人は、本件発明1、12は、バイオインクについて含まれる細胞以外の組成について何ら限定されておらず、また培養条件について何ら限定しておらず、バイオプリントによって作製された三次元人工生体皮膚組織の特性は、様々なパラメータによって影響され得るから、当業者が、本件明細書の記載、本件特許出願の優先日前の技術常識を考慮しても、本件発明1、12が「該表皮層が、培養の12日以内に、分化ケラチノサイトの複数の層を形成する」を達成できるか確認できず、また「該表皮層が、培養の12日以内に、分化ケラチノサイトの複数の層を形成する」を達成するために、バイオインクの組成や培養条件など本件発明1、12に記載の構成以外の構成を検討しなければならず、過度な負担が強いられるため、本件発明1、12はサポート要件、実施可能要件を満たしていないと主張している。
しかしながら、上記アで述べたとおり、本件発明1、12は、当業者が、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により、上記課題を解決できると認識できる範囲内のものであるといえるし、本件発明1、12における人工三次元生体皮膚組織を製造する際、表皮層を複数の層に分化することは当業者であれば格別の困難性なく実施できたことであるといえるため、申立人の主張は理由がない。

(3)小括
以上のとおり、本件発明1〜25については、発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に違反しているとはいえないし、特許請求の範囲の記載がサポート要件に違反しているともいえない。

4.申立理由1(特許法第29条第1項第3号新規性))、2(同条第2項(進歩性))について
(1)上記第3 1(1)ア、イ、エ(甲1に基づく新規性進歩性欠如)について
ア.証拠文献の記載(英文のため当審による訳文で示す。下線は当審にて付与した。)
(ア)甲1の記載
甲1a
「要約
皮膚等価物を作製するための現在の手法はしばしば表皮層と真皮層の成分のみを包含している。しかしながら、完全な厚みを有する皮膚等価物は皮下組織という真皮層の脂肪組織の下にあり、血管系、神経系、線維芽細胞を含有し、表皮層及び真皮層を支持する組織を含んでいる。この研究では、表皮層、真皮層、皮下組織を含み、皮膚の発達や病気を研究するためのインビトロモデル又は消費者向け製品について動物試験を避けるためのプラットフォームとなる、完全な厚みを有する皮膚等価物を開発した。完全な厚みを有する皮膚等価物は扱うのが容易で、表皮と真皮の両方の形態学に生理学的に関連する、ケラチン10、コラーゲンI、コラーゲンIVを発現しながら、14日以上培地の中で維持された。皮膚等価物は、脂肪組織の代謝物のマーカーであるグリセロールとレプチンを生産した。この仕事は安定で機能的な完全な厚みを有する皮膚のモデルを発達させるために必要ないくつかの要素についての理解の基礎となる。」(要約)

甲1b
「この研究では、私たちは完全な厚みを有するヒトの皮膚モデルであって、適切な形態学と代謝活動を示し、異なる薬物又は消費者向け製品に対しても反応する皮膚モデルを開発しようとした。以前、私たちは真皮層と表皮層を有し、完全に分化し、層状になったヒト真皮線維芽細胞を含むコラーゲンゲルに重層した扁平上皮を示す、ヒトの皮膚と形態学が類似するヒト皮膚等価物を構築した。しかしながら、これらの構築物は、ヒトの生体の皮膚と比較して、表皮層に含まれるケラチノサイトの増殖や分化をさらに標準化することができる皮下の脂肪組織の生存可能な層を組み入れることができなかった。さらに、真皮層と表皮層のみを有する皮膚等価物は最大でも7〜10日間までのみ機能的であり、皮膚に影響を与える慢性的な状況を模倣する限定的な能力を有するものであった。私たちは生存可能な脂肪層を組み入れることによる複雑性の増加は、パラクライン作用因子によって仲介されるような細胞細胞間の相互作用を提供し、皮膚等価物の生理学的な関係を向上し、ヒトの皮膚の特徴をより密接に模倣できるようになることを期待した。このような三層の構築物は私たちの以前の成功である、脂肪細胞及び内皮細胞に結合し、多孔のシルクのフィブロインタンパク質スポンジスキャフォールドで共培養する血管脂肪組織の三次元組織モデルの構築を元にしている。」(第2頁第18行〜第37行)

甲1c
「細胞の培養と三次元(静的)培養
正常なヒトケラチノサイト(NHK)は最初、照射した3T3線維芽細胞の上の二次元、単層の培養で成長し、包皮線維芽細胞はダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)及び10%ウシ胎仔血清(FCS)を含有する培地で成長した。三層構築物の真皮層の成分は中和したタイプIコラーゲン(オーガノジェネシス、カントン、MA)に最終濃度が2.5×104細胞/mLとなるように線維芽細胞を添加して、成長させた。3mLの混合物が6ウェルプレート(オーガノジェネシス、カントン、MA)のそれぞれの35mmのウェルに添加され、DMEMと10%ウシ胎仔血清を含有する培地で、コラーゲンマトリックスがさらなる収縮を示さなくなるまで、6日間培養された。単層培地のフィーダー層の上で成長したケラチノサイトはトリプシン処理され、500000の細胞が収縮したコラーゲンマトリックスの上に播種され、2時間付着された。組織は低カルシウム表皮成長培地(EGM)に2日間浸漬され、通常のカルシウムEGMに2日間浸漬され、気液界面にあげて、さらに5日間下面から供給を行った。
内皮細胞は製造者のプロトコルに従って、培養・分化された。幹細胞由来の脂肪はDMEM/F12、10%FBS、1%PSFを含む成長培地で集合まで分化させた。集合後2日目に、細胞はスキャフォールドに播種されるまで、DMEM/F12、3%FBS、1%PSF、500μMIBMX、5μMロシグリタゾン、1μMデキサメタゾン、17μMパントテン酸、33mMビオチン、1μMインスリンを含有する脂肪を生成する培地に転換された。内皮細胞は合計2000000細胞/スキャフォールドの20μLの播種に添加された。播種されたスキャフォールドは、培地にウェルに添加される2時間前に、インキュベーターに置かれた。誘導されたASCは1週間後に添加されたが、1000000細胞/スキャフォールドであった。TGF−βは脂肪を生成する培地に最終濃度が10ng/mLとなるように1日後に添加された。細胞と培地は1週間に2回供給され、37℃に維持され、インキュベーターで加湿された。
構築物は真皮層/表皮層の分化から4日後、脂肪構築物の培養から14日後に結合された。」(第3頁第39行〜第4頁第16行)

甲1d
「結果
成長条件の最適化
三層の完全な厚さを有する皮膚等価物を発展させ、最適化するために、真皮層と表皮層の構築物の気液界面での4日間の培養と脂肪組織の14日間の成長を別々に行った後、結合された(図1)。これらの三層の組織は追加で21日間成長した。図2は脂肪組織(図2b、2d)の個々の構築物の形態学を示し、皮膚(図2a、2c)はそれぞれの組織タイプについてそれぞれの培地において、正常な形態学的な見た目を示している。脂肪培養の8日目までに、細胞とマトリックスはシルクのスポンジの孔に充填された(図2d)。気液界面にあげられてから2日目に、二層の皮膚構築物はケラチノサイトが、はっきりした基底細胞、よく形成された有棘層、薄い顆粒層と角質層の存在を示す多層の上皮組織を生成することを示した。皮膚の培養から8日目に組織はさらに厚くなった有棘層及び顆粒層にみられるようにさらに発展した。この点について、基底細胞は分極した形態学(図2c)を示し、これらの表皮基底細胞(図2c)の増殖が促進していることが示唆された。」(第5頁第1行〜第28行)

甲1e


図1
三層構築物の実験的なアウトライン。皮膚と脂肪組織は0日に結合される前に独立に培養される。−21日に内皮細胞はシルクスポンジに播種され、幹細胞に由来する脂肪は脂肪細胞を生成する分化を二次元で経験した。14日に脂肪細胞様細胞は内皮細胞が播種されたシルクスポンジに添加され、共培養は1:1の脂肪生成:内皮細胞培地で維持された。14日には線維芽細胞もコラーゲンに播種された。細胞が収縮した後、ケラチノサイトがコラーゲンゲルの上に播種された。上皮形成が生じた後、構築物が気液界面に3日間あげられた。0日に2つの構築物は薄いコラーゲンゲルの層をバインダーとして結合された。この点について、三層の構築物は1:1の共培養培地と皮膚培地の混合物で培養された。」(図1)

(イ)甲2の記載
甲2a
「組織工学はいくつかの皮膚の病気や欠損の治療に用いられてきたが、組織工学と再生医療も美容学において大きな可能性を有している。それは、皮膚の代替物、細胞療法、バイオ材料をベースにした置換及び3Dシステムを基礎とする傷を治療する治療法を含んでいる。この総説ではバイオプリンティング技術、及び、それがどのように皮膚の機能を改善し、色素沈着を回復し、毛包の発達を助けるかにフォーカスを当てた。」(要約)

(ウ)甲3の記載
甲3a
「三次元(3D)バイオプリンティング、柔軟で自動化された複雑な生体構造を自由な形式で製造するためのオンデマンドのプラットフォームは、ヒトの臓器や組織のデザイン及びエンジニアリングについての新規な手法である。今回、私たちはヒトの皮膚をプロトタイプの例として組織エンジニアリングのための3Dバイオプリンティングの可能性を示す。ケラチノサイトと線維芽細胞は表皮層と真皮層を表す構成要素の細胞として、コラーゲンは皮膚の真皮マトリックスを表すために使用された。予備的な研究が、表皮層及び真皮層において細胞の生存可能性を最大にし、細胞の密度を最適化して、ヒトの皮膚の生理学的に関連する属性を模倣するために、プリントのパラメーターを最適化するために行われた。プリントされた3D構築物は培地に浸漬して培養され、その後、成熟化と階層化を促進するために、表皮層は気液界面にさらされた。組織構造及び免疫蛍光による特徴付けが3Dプリントされた皮膚組織は形態学的及び生物学的にインビボのヒトの皮膚を表すものであることが示された。皮膚工学の伝統的な方法と比較して、3Dバイオプリンティングは、形、形態の保持、柔軟性、再生産性、高い培地のスループットという、いくつかの利点を提供する。それは、経皮及び局所製剤の発見、真皮の毒性試験、及び、傷を治療するための自家移植のデザインという幅広い応用を有している。今回示されるプルーフオブコンセプトの研究は、第2の付属構造の導入又は皮膚の病気の病理学を研究するためのモデルとして使用するための病気の細胞の包含を介して、皮膚モデルの複雑性を拡大する方向に拡張できる。」(要約)

甲3b
「細胞の培養とハイドロゲルの準備
FBs(ATCCからのHFF−1)及びKCs(HaCaT、カリフォルニア大学、サンフランシスコのTorsten Wittmann博士からのギフト)がこの研究で3D皮膚組織を構築するために使用された。両方の細胞系統は5%CO2の15%ウシ胎児血清(サーモサイエンティフィック)及び1%ペニシリン/ストレプトマイシン(メディアテック)が補充されたダルベッコ改変イーグル培地(ATCC)において37℃で培養された。培養培地は3日おきに変更された。細胞は組織培養フラスコで定期的に継代され、主要な特徴を確実に表現するために、20回の継代後にそれらは捨てられた。印刷の前に、FBsとKCsは0.25%トリプシン/エチレンジアミンテトラアセチル酸(メディアテック)を使用して、所望の懸濁密度になるまで播種された。それらは、氷の上で、印刷のためのシリンジにロードされる準備ができるまで、細胞懸濁液として維持された。
コラーゲンハイドロゲル前駆体(ラットテイル、タイプI;BD バイオサイエンス)は印刷のためのスキャフォールド材料として使用された。ストックからのコラーゲンハイドロゲル前駆体は1×ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(カルシウムとマグネシウムを含まない)を用いて3.0mg/mLまで希釈され、印刷のためのシリンジ(プリンターカットリッジとして機能する)にロードされる準備ができるまで、氷の上で維持された。印刷の圧力及びディスペンサーバルブの開く時間(パルスのデュレーション)が様々なバイオマテリアル、ヒドロゲル及び細胞の適切な印刷のための重要なパラメーターである。これらのパラメーターは適用されるバイオマテリアルの粘度を元に決定された。詰まりを起こさないで安定に適用できる最も低い圧力が、コラーゲン前駆体及び細胞懸濁液の印刷に使用された。コラーゲン前駆体は細胞懸濁液よりも粘度が高いので、コラーゲンの印刷では細胞の印刷よりも高い圧力が採用された。圧力の値は2.5−2.7psiの幅で、750μsのバルブが開く時間がコラーゲンの印刷に使用され、〜52nLの液滴体積が導かれた。細胞の印刷には、1.4−1.5psiの圧力及び750μsのバルブが開く時間により〜28nLの液滴が得られた(表1)。」(第474頁右欄第55行〜第475頁左欄第31行)

甲3c
「3D皮膚組織の構築
コラーゲンの上の単層の個々の細胞のタイプの印刷に関する過去に示された研究から決定された最適なパラメーターが、3D皮膚構築物の構築に使用された。構築は、図2aに示されるレイヤーバイレイヤー製造アプローチを使用して達成された。埋め込まれた細胞を含む多層のコラーゲン構造はポリ−D−リジンでコーティングされたガラスの底面のペトリ皿(マットテック)の上に構築された。印刷が開始される前に、霧状になった炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)の蒸気がペトリ皿の表面に適用され、最初に印刷されるコラーゲンの速やかなゲル化が可能となり、その底面に対する接着力が増加した。最初のコラーゲン層の印刷の後、霧状になったNaHCO3の蒸気が印刷されたコラーゲン層のゲル化のために適用された。次の層の印刷のためのしっかりとしたベースを提供するために、コラーゲンがゲルに相転移を促進するための1分間の時間経過が許された。私たちのデザインスキームでは、印刷された皮膚構造は8のコラーゲン層を含んでいる。これらは6のコラーゲン層であって、3層のFB層及び2つのコラーゲン層が交互になっており、図2bに示されるように積み重なったFB層をKCsから分離するものを含んでいる。2つのKC層は表皮層における望まれる細胞密度を達成するために印刷された。印刷工程が完成次第、複合構造はコラーゲンのゲル化を完了させるためにインキュベーター(37℃、5%CO2)に1時間置かれた。全体の組織構造は培養培地に浸漬された。培地は3日に1回変更された。」(第475頁右欄第6行〜第33行)

甲3d
ALIについての説明
「ALI培養
印刷された皮膚構築物は浸漬条件における7日間の培養の後、ALIで7〜14日間成長された。この期間の間、皮膚構築物の厚みは最初の24〜48hで〜500μmまで激減し、培養期間にかけて引き続き徐々に減少し、最後の10日には〜150〜200μmとなった(図5)。ALIのさらなる培養である約14日ではそれ以上の実質的な皮膚の厚みの減少は観察されなかった。私たちは皮膚組織はALI培養期間において、発展的にさらに半透明となることを観察し、これは、KCsの終末分化によって形成される角質細胞による角質層の形成を示唆するものであった(図6a、c)。
印刷された皮膚組織の構造
組織の構造を視覚化し、真皮層及び表皮層における核の数を測定するために、H&E染色が実施された。ALIの7日と14日におけるセクションがH&Eで染色され、ALIへの暴露と培養の後について図7に示されている。図面から読み取れるように、表皮層は非常に密度が高く、真皮層の区画はまばらである。表皮層の核を含有する層の数は7日から14日で3から7に増加した。印刷された皮膚サンプルの区画は、表皮層の独特な特徴である密着結合の存在を視覚化するためにN−カドヘリン抗体で染色された。図8はALIへの暴露から14日後のN−カドヘリン結合の染色パターンを示す。図から読み取れるように、表皮層の区画の点状のパターンは視認性が高く、表皮層にのみ存在し、KCs細胞層の間の結合の形成を示唆していた。」(第480頁左欄第22行〜右欄第19行)

甲3e


図2 三次元(3D)皮膚組織の構築。(a)単一の構造の中に真皮層及び表皮層の区画を構築するためのコラーゲンマトリックス、KCs、FBsのレイヤーバイレイヤープリンティング、(b)3D印刷された皮膚組織の断面(左)及び上面図(右)を示す図式。色付きの画像はオンライン(www.liebertpub.com/tec)で利用可能である。」(図2)

甲3f


図5 印刷された皮膚組織の厚み。組織の厚みは培養期間(3週間)に沿って顕著に変化した。皮膚の厚みの激減(2〜6倍)は、浸漬の培養条件から気液界面での培養への推移におにて観察された」(図5)

(エ)甲4の記載
甲4a
「【請求項1】生きている、三次元の組織構築物であって、前記組織構築物は、少なくとも1つの接着細胞型を含み、前記少なくとも1つの接着細胞型は、生きている、三次元の組織構築物を形成するために凝集且つ融合され、前記組織構築物は血管チューブでない多層構造を有し、前記組織構築物はインビトロでの使用のためのものであり、但し、少なくとも1つの組織の成分がバイオプリントされたことを条件とする、ことを特徴とする組織構築物。
【請求項18】 生きている、三次元の組織構成物のアレイであって、各組織構成物は、少なくとも1つの接着細胞型を含み、前記少なくとも1つの接着細胞型は、生きている、三次元の組織構成物を形成するために凝集且つ融合され、各組織構成物は多層構造を有し、各組織構成物はインビトロでの使用のためのものであり、但し、少なくとも1つの組織の成分がバイオプリントされたことを条件とする、ことを特徴とするアレイ。
【請求項20】 接着細胞は、肝細胞、胃腸細胞、膵細胞、腎細胞、肺細胞、気管細胞、血管細胞、骨格筋細胞、心細胞、皮膚細胞、平滑筋細胞、結合組織細胞、角膜細胞、尿生殖器細胞、乳房細胞、生殖細胞、内皮細胞、上皮細胞、線維芽細胞、神経細胞、シュワン細胞、脂肪細胞、骨細胞、骨髄細胞、軟骨細胞、周細胞、中皮細胞、内分泌組織由来の細胞、間質細胞、幹細胞、前駆細胞、リンパ細胞、血液細胞、内胚葉由来の細胞、外胚葉由来の細胞、中胚葉由来の細胞、およびそれらの組み合わせ、から成る群から選択されることを特徴とする、請求項18に記載のアレイ。」(特許請求の範囲)

イ.甲1発明の認定
甲1は表皮層、真皮層に加えて、皮下組織を含むことによって、完全な厚みを有する皮膚等価組織モデルを生成したことを示す学術文献であって(上記ア甲1a)、ウェル上でコラーゲンに線維芽細胞を添加して真皮層の構築物を生成し、その上にケラチノサイトを播種して培養を行って得られる真皮層と表皮層の構築物と、シルクのスキャフォールドに対して内皮細胞を添加・培養して得られる皮下組織の構築物を結合してさらに培養することで皮膚等価組織モデルを製造したこと(上記ア(ア)甲1c、甲1e)、ケラチノサイトを添加してから低カルシウムEGMにおける2日間の培養、通常のカルシウムEGMにおける2日間の培養を行った後、気液界面に移動してさらなる培養を行ったこと、気液界面に移動してから2日後にケラチノサイトが多層の上皮組織を形成したこと(上記ア(ア)甲1c、甲1d)が記載されている。したがって、甲1には、次のとおりの発明が記載されていると認められる。
「コラーゲンに線維芽細胞を添加して得られる真皮層の構築物にケラチノサイトを播種して培養することで得られる構築物、及び、シルクのスキャフォールドに対して内皮細胞を添加・培養して得られる構築部を結合して培養することによって得られる、表皮層、真皮層、皮下組織を含む皮膚等価組織モデルであって、
ケラチノサイトの播種から低カルシウムEGMにおける2日間の培養、通常のカルシウムEGMにおける2日間の培養を行った後、気液界面に移動してさらに2日間培養を行った際、ケラチノサイトが多層の上皮組織を形成できる、
皮膚等価組織モデル。」(以下、「甲1発明1」という。)

また、甲1には皮膚等価組織モデルを製造するための方法に関する次の通りの発明も記載されていると認められる。
「コラーゲンに線維芽細胞を添加してウェル上で培養する工程、
ケラチノサイトを上に播種して培養して真皮層と表皮層の構築物を製造する工程、及び、
シルクのスキャフォールドに対して内皮細胞を添加・培養して皮下組織の構築物を製造する工程、
真皮層と表皮層の構築物及び皮下組織の構築物を結合して培養する工程、
を含む、表皮層、真皮層、皮下組織を含む皮膚等価組織モデルの製造方法であって
ケラチノサイトの播種から低カルシウムEGMにおける2日間の培養、通常のカルシウムEGMにおける2日間の培養を行った後、気液界面に移動してさらに2日間培養を行った際、ケラチノサイトが多層の上皮組織を形成できる、
皮膚等価組織モデルを製造する方法。」(以下、「甲1発明2」という。)

ウ.本件発明1についての判断
(ア)本件発明1と甲1発明1の対比
甲1発明1における「線維芽細胞」、「ケラチノサイトの播種から低カルシウムEGMにおける2日間の培養、通常のカルシウムEGMにおける2日間の培養を行った後、気液界面に移動してさらに2日間培養を行った際、ケラチノサイトが多層の上皮組織を形成できる」は本件発明1における「真皮線維芽細胞」、「該表皮層が、培養の12日以内に、分化ケラチノサイトの複数の層を形成することができ」に相当する。また、甲1発明1における「皮膚等価組織モデル」は人工的に生成された三次元のモデルであるから、本件発明1における「三次元人工生体皮膚組織」に相当する。
甲1発明1において、コラーゲンに線維芽細胞を添加して生成された真皮層の構築物にケラチノサイトを直接播種して培養しているから、本件発明1における「表皮層」に相当する層が「真皮層の少なくとも1つの表面と接触し、該表面上に単一の層を形成」しているものと認められる。
そうすると、本件発明1と甲1発明1は、
「真皮線維芽細胞を含む、真皮層;及び
ケラチノサイトを含む、表皮層
を含む、三次元人工生体皮膚組織であって、
該表皮層が該真皮層の少なくとも1つの表面と接触し、該表面上に単一の層を形成して三次元人工生体皮膚組織を形成し、
該表皮層が、培養の12日以内に、分化ケラチノサイトの複数の層を形成することができる、
三次元人工生体皮膚組織。」
である点で一致し、次の点で相違する。

<相違点1>
本件発明1においては真皮層及び表皮層が、それぞれ、真皮バイオインク、表皮バイオインクからバイオプリントされたものであり、表皮層が単一のバイオプリント層を形成するものであるのに対し、甲1発明1ではバイオプリントを行っていない点。

<相違点2>
本件発明1においては皮膚組織が予め形成されたスキャフォールドを含まないことが特定されているのに対し、甲1発明1はシルクのスキャフォールドを含んでいる点。

(イ)相違点についての判断
相違点1について検討する。
甲2〜甲4には皮膚組織をバイオプリントにより製造すること(上記ア(イ)甲2a、ア(ウ)甲3a、ア(エ)甲4a)が記載されているが、甲1に記載されている具体的な実施の態様は、引用発明の認定の基礎としたウェル上でコラーゲンに線維芽細胞を添加して真皮層の構築物を生成し、その上にケラチノサイトを播種して培養を行うことによって、真皮層と表皮層の構築物と、シルクのスキャフォールドに対して内皮細胞を添加・培養して得られる皮下組織の構築物を結合してさらに培養することで得られる皮膚等価組織モデルのみであり、甲1にはバイオプリントにより、真皮層および表皮層を構築することについて記載も示唆もされていないから、甲1発明1においてあえてバイオプリントにより真皮層および表皮層を構築することの動機付けは見いだせない。
次に、相違点2について検討する。
甲1は従来の表皮層、真皮層に加えて、皮下組織を含むことによって、完全な厚みを有する皮膚等価組織モデルを生成したことを示す学術文献であり、三層の組織構築は当該文献の筆者による、シルクフィブロインタンパク質スポンジスキャフォールドを用いた血管脂肪組織の三次元組織モデルの構築の過去の成功に基づいていること(上記ア(ア)甲1b)、ウェル上でコラーゲンに線維芽細胞を添加して真皮層の構築物を生成し、その上にケラチノサイトを播種して培養を行って得られる構築物と、シルクのスキャフォールドに対して内皮細胞を添加・培養して得られる構築物を結合してさらに培養することで皮膚等価組織モデルを製造したこと(上記ア(ア)甲1c、甲1e)が記載されている一方で、当該シルクフィブロインタンパク質スポンジスキャフォールドを用いる方法以外の方法により、内皮細胞の構築物を製造することについては、記載も示唆もされていない。
そうすると、甲1発明1におけるシルクのスキャフォールドを用いて得られる皮下組織は完全な厚みを有する皮膚等価組織モデルを作製するために必須の構成であるものと認められ、皮下組織を除く方向に当業者が動機付けられることはないし、甲1発明1におけるシルクのスキャフォールドをあえて用いない方向に変更しようとすること自体動機付けられるとは認めることができない。
このとおり、甲1にはバイオプリントにより真皮層および表皮層を構築することや、スキャフォールドを用いないことは記載も示唆もされていないうえ、甲1発明1においてバイオプリントを用いる方法に変更することや、シルクのスキャフォールドを用いない方向に変更することの動機付けは認められないのだから、甲2〜甲4に記載された事項を検討しても、甲1を主引用例として、本件発明1の進歩性を否定することはできない。

エ.本件発明2〜11についての判断
本件発明2〜11は本件発明1をさらに限定しようとするものであり、「バイオプリント」を行うこと、「予め形成されたスキャフォールドを含まない」ことが特定されているから、上記ウ(イ)と同様の理由により、甲1を主引用例として本件発明2〜11の進歩性を否定することはできない。

オ.本件発明12についての判断
(ア)本件発明12と甲1発明2の対比
甲1発明2における「線維芽細胞」、「ウェル」、「ケラチノサイトの播種から低カルシウムEGMにおける2日間の培養、通常のカルシウムEGMにおける2日間の培養を行った後、気液界面に移動してさらに2日間培養を行った際、ケラチノサイトが多層の上皮組織を形成される」は本件発明1における「真皮線維芽細胞」、「表面」、「該表皮層が、培養の12日以内に、分化ケラチノサイトの複数の層を形成することができ」に相当する。また、甲1発明2における「皮膚等価組織モデル」は人工的に生成された三次元のモデルであるから、本件発明1における「三次元人工生体皮膚組織」に相当する。
また、甲1発明2において、コラーゲンに線維芽細胞を添加して培養した後、ケラチノサイトを直接播種して培養しているから、線維芽細胞が添加されたコラーゲンに対して「少なくとも1つの表面上に接触して単一のバイオプリントされた表皮層を形成するように」ケラチノサイトが播種・培養されているものと認められる。
そして、甲1発明2では線維芽細胞が添加されたコラーゲンに対するケラチノサイトの播種から低カルシウムEGMにおける2日間の培養、通常のカルシウムEGMにおける2日間の培養を行った後、気液界面に移動してさらに2日間培養を行った際、ケラチノサイトが多層の上皮組織を形成しているから、本件発明12における「該真皮線維芽細胞およびケラチノサイトを密着させ分化させて三次元人工生体皮膚組織を形成するように」ケラチノサイトを「細胞培養培地中で成熟させる工程」を含んでいるものと認められる。

そうすると、本件発明12と甲1発明2は、
「a.真皮線維芽細胞を調製する工程;
b.ケラチノサイトを調製する工程;
e.該真皮線維芽細胞およびケラチノサイトを密着させかつ分化させて三次元人工生体皮膚組織を形成するように、ケラチノサイトを含む表皮層の組成物を細胞培養培地中で成熟させる工程
を含む、三次元人工生体皮膚組織を製造する方法であって、
該表皮層が、培養の12日以内に、分化ケラチノサイトの複数の層を形成することができる、
方法。」
である点で一致し、次の点で相違する。

<相違点3>
本件発明12においては真皮バイオインク、表皮バイオインクをそれぞれ調製し、表面上に真皮バイオインクをバイオプリントすること、表皮バイオインクが真皮バイオインクの少なくとも1つの表面上に接触して単一のバイオプリントされた表皮層を形成するように、表皮バイオインクをバイオプリントさせること、を特定しているのに対し、甲1発明12ではバイオインクの調製やバイオプリントを行っていない点。

<相違点4>
本件発明12においては皮膚組織をスキャフォールド上にバイオプリントさせないことが特定されているのに対し、甲1発明2における皮膚等価組織モデルはシルクのスキャフォールドを含んでいる点。

(イ)相違点についての判断
相違点3、4についてまとめて検討すると、上記ウ(イ)で述べたのと同様に、甲1にはバイオプリントにより、真皮層および表皮層を構築することについて記載も示唆もされていないから、甲1発明2においてあえてバイオプリントにより真皮層および表皮層を構築することの動機付けは見いだせないことに加えて、甲1発明2におけるシルクのスキャフォールドを用いて得られる皮下組織は完全な厚みを有する皮膚等価組織モデルを作製するために必須の構成であるものと認められ、皮下組織を除く方向に当業者が動機付けられることはないし、甲1発明2におけるシルクのスキャフォールドをあえて用いない方向に変更しようとすること自体動機付けられるとは認めることができない。
このとおり、甲1にはバイオプリントにより真皮層および表皮層を構築することや、スキャフォールドを用いないことは記載も示唆もされていないうえ、甲1発明2においてバイオプリントを用いる方法に変更することや、甲1発明2におけるシルクのスキャフォールドを用いない方向に変更することの動機付けは認められないのだから、甲2〜甲4に記載された事項を検討しても、甲1を主引用例として、本件発明12の進歩性を否定することはできない。

カ.本件発明13〜25についての判断
本件発明13〜25は本件発明12をさらに限定しようとするものであり、「バイオプリント」を行うこと、「皮膚組織をスキャフォールド上にバイオプリントさせない」ことが特定されているから、上記オ(イ)と同様の理由により、甲1を主引用例として本件発明13〜25の進歩性を否定することはできない。

キ.異議申立人の主張について
申立人は、甲1に記載された皮下組織を含まない、コラーゲンを含む真皮層と、その上に直接的に接する表皮層を有する二層皮膚構築物を甲1記載の発明として、本件発明との対比を行い、甲1には、本件発明1における「該皮膚組織が、予め形成されたスキャフォールドを含まない」との構成について記載されていると主張している。
しかしながら、上記ウ(イ)で述べたように、甲1は従来の表皮層、真皮層に加えて、皮下組織を含むことによって、完全な厚みを有する皮膚等価組織モデルを生成したことを示す学術文献であるから、甲1から認定される発明において皮下組織は必須の構成であるものと認められ、皮下組織を含まない二層皮膚構築物を甲1記載の発明とすることが前提となっている、申立人の上記主張は採用することができない。

ク.小括
以上のとおり、本件発明1〜4、8〜11が甲1に記載された発明と同一であるということはできないし、本件発明1〜25が甲1に記載された発明及び甲1〜甲4の記載に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるとも認められない。

(2)上記第3 1(1)ウ(甲3に基づく進歩性欠如)について
ア.証拠文献の記載
甲3号証の記載については上記(1)ア(ウ)に示したとおりである。
また、甲1号証の記載については、上記(1)ア(ア)に示したとおりである。

イ.甲3発明の認定
甲3はヒト皮膚組織を三次元バイオプリンティングで製造することに関する学術論文であって、ケラチノサイトと線維芽細胞をそれぞれ表皮層、真皮層の構成要素の細胞として、コラーゲンを皮膚のマトリックスとして使用したこと(上記(1)ア(ウ)甲3a)、プリントのために線維芽細胞又はケラチノサイトの懸濁液又はコラーゲンハイドロゲル前駆体をシリンジに入れること、コラーゲンハイドロゲル前駆体は印刷のスキャフォールド材料であること、構築物はレイヤーバイレイヤー製造アプローチで製造され、細胞を含有する多層コラーゲン構造がポリ−D−リジンでコーティングされた底面がガラスのペトリ皿に構築されたこと、3つの線維芽細胞の層及びケラチノサイトの層がそれぞれ2つのコラーゲンの層で区切られていること(上記(1)ア(ウ)甲3b、甲3c、甲3e)、プリントされた皮膚構築物を培地に浸漬して7日間培養した後、気液界面で7〜14日間培養したこと、表皮層の核を含有する層の数は気液界面に移動してから3日目から7日目で7層から14層に増加したこと(上記(1)ア(ウ)甲3d、甲3f)が記載されている。したがって、甲3には、次のとおりの発明が記載されていると認められる。
「プリントのために線維芽細胞の懸濁液をシリンジに入れる工程、
プリントのためにケラチノサイトの懸濁液をシリンジに入れる工程、
ポリ−D−リジンでコーティングされた底面がガラスのペトリ皿に対して、3つの線維芽細胞の層及びケラチノサイトの層がそれぞれ2つのコラーゲンの層で区切られるようにレイヤーバイレイヤー製造アプローチで、線維芽細胞の層、ケラチノサイトの層、コラーゲンハイドロゲル前駆体の層を積層して構築物を製造する工程、
プリントされた皮膚組織を培地に浸漬してから7日間培養した後、気液界面で7〜14日間培養する工程、
を含む、三次元バイオプリンティングで皮膚組織を製造する方法であって、
当該皮膚組織の表皮層の核を含有する層の数は気液界面に移動してから3日目から7日目で7層から14層に増加する、方法。」(以下、「甲3発明」という。)

ウ.本件発明12について
(ア)本件発明12と甲3発明の対比
甲3発明に記載の「プリントのために線維芽細胞の懸濁液をシリンジに入れる工程」、「プリントのためにケラチノサイトの懸濁液をシリンジに入れる工程」、「ポリ−D−リジンでコーティングされた底面がガラスのペトリ皿」、「皮膚組織」は、それぞれ、本件発明12における「真皮線維芽細胞を含む真皮バイオインクを調製する工程」、「ケラチノサイトを含む表皮バイオインクを調製する工程」、「表面」、「三次元人工生体皮膚組織」に相当する。
甲3発明における皮膚組織はポリ−D−リジンでコーティングされた底面がガラスのペトリ皿の上にコラーゲンの2層を介して線維芽細胞の層が形成されているから、本件発明における「表面上に該真皮バイオインクをバイオプリントさせる工程」により製造されているものと認められる。
また、甲3発明において、プリントされた皮膚組織を培地に浸漬してから7日間培養した後、気液界面に移動した場合、気液界面に移動してから3日目、7日目で表皮層の核を含有する層が多層化しているから、甲3発明における「プリントされた皮膚組織を培地に浸漬してから7日間培養した後、気液界面で7〜14日間培養する工程」、「当該皮膚組織の表皮層の核を含有する層の数は気液界面に移動してから3日目から7日目で7層から14層に増加する」は、それぞれ、本件発明12における「該真皮線維芽細胞およびケラチノサイトを分化させて三次元人工生体皮膚組織を形成するように、該バイオプリントされたバイオインクを細胞培養培地中で成熟させる工程」、「該表皮層が、分化ケラチノサイトの複数の層を形成することができ」に相当する。

そうすると、本件発明12と甲3発明は、
「a.真皮線維芽細胞を含む真皮バイオインクを調製する工程;
b.ケラチノサイトを含む表皮バイオインクを調製する工程;
c.表面上に該真皮バイオインクをバイオプリントさせる工程;
e.該真皮線維芽細胞およびケラチノサイトを分化させて三次元人工生体皮膚組織を形成するように、該バイオプリントされたバイオインクを細胞培養培地中で成熟させる工程
を含む、三次元人工生体皮膚組織を製造する方法であって、
該表皮層が、分化ケラチノサイトの複数の層を形成することができる、方法。」
である点で一致し、次の点で相違する。

<相違点5>
本件発明12は「d.該表皮バイオインクが該真皮バイオインクの少なくとも1つの表面上に接触して単一のバイオプリントされた表皮層を形成するように、該表皮バイオインクをバイオプリントさせる工程」を有し、e工程を真皮線維芽細胞およびケラチノサイトが「密着」した状態で行うことを特定しているのに対し、甲3発明においては3つの線維芽細胞の層及びケラチノサイトの層がそれぞれ2つのコラーゲンの層で区切られており、線維芽細胞の層とケラチノサイトの層が接していない点。

<相違点6>
本件発明12は「該皮膚組織をスキャフォールド上にバイオプリントさせない」ものであるのに対し、甲3発明では皮膚組織をスキャフォールドであるコラーゲンにバイオプリントしている点。

<相違点7>
本件発明12は表皮層が、「培養の12日以内に」分化ケラチノサイトの複数の層を形成することができるのに対し、甲3発明では表皮層の核を含有する層の数について、気液界面に移動してから3日目から7日目で7層から14層に増加することが記載されているが、培養の12日以内であることについて記載はされていない点。

(イ)相違点についての判断
相違点5について検討する。
甲1には真皮層と表皮層が直接接している皮膚組織モデルが記載されている(上記(1)ア(ア)甲1c、甲1e)が、甲3はヒト皮膚組織を三次元バイオプリンティングで製造する方法の具体例として、レイヤーバイレイヤー製造アプローチで3つの線維芽細胞の層及びケラチノサイトの層がそれぞれスキャフォールド材料である2つのコラーゲンの層で区切られている態様のみが記載されており、表皮層が真皮層の表面上に接触するように表皮層を形成することについて記載や示唆はされていない。そうすると、甲3発明におけるコラーゲンの層はスキャフォールドとして必須の構成であるものと認められ、コラーゲンの層を除くように当業者が動機付けられるとは認めることができない
次に相違点6について検討する。
上記相違点5の検討で述べたように甲3発明においてコラーゲンの層はスキャフォールドとして必須の構成であるものと認められるから、甲3発明においてスキャフォールドであるコラーゲンの上に皮膚組織をバイオプリントする方法に代えて、スキャフォールドであるコラーゲンを用いない方法をあえて採用する動機づけは見いだせない。
このとおり、甲3には表皮層が真皮層の表面上に接触するように表皮層を形成することや、スキャフォールドであるコラーゲンを用いない方法について記載も示唆もされていないうえ、甲3発明における方法について、スキャフォールドであるコラーゲンを用いずに、表皮層と真皮層が直接接触するように表皮層を形成する方法に変更することの動機付けは認められないのだから、相違点7について検討するまでもなく、甲1及び甲4に記載された事項について検討しても、甲3を主引用例として、本件発明12の進歩性を否定することはできない。

エ.本件発明13〜25について
本件発明13〜25は本件発明12をさらに限定しようとするものであり、「d.該表皮バイオインクが該真皮バイオインクの少なくとも1つの表面上に接触して単一のバイオプリントされた表皮層を形成するように、該表皮バイオインクをバイオプリントさせる工程」を有すること、「該皮膚組織をスキャフォールド上にバイオプリントさせない」ことが特定されているから、上記ウ(イ)と同様の理由により、甲3を主引用例として本件発明13〜25の進歩性を否定することはできない。

オ.異議申立人の主張について
申立人は、本件発明12と甲3に記載された発明は「d.該表皮バイオインクが該真皮バイオインクの少なくとも1つの表面上に接触して単一のバイオプリントされた表皮層を形成するように、該表皮バイオインクをバイオプリントさせる工程」の有無において相違するが、甲1にはコラーゲンと線維芽細胞を含む真皮層の上に、直接表皮層を設けていることが記載されており、甲1及び甲3はいずれも三次元人工生体皮膚組織に関するもので、その技術分野が共通しており、ヒトの皮膚により近い三次元人工生体皮膚組織を提供するという課題が共通しているから、甲3に触れた当業者が甲1を参酌する動機付けがあり、「d.該表皮バイオインクが該真皮バイオインクの少なくとも1つの表面上に接触して単一のバイオプリントされた表皮層を形成するように、該表皮バイオインクをバイオプリントさせる工程」を容易に想到することができることを主張している。
しかしながら、上記ウ(イ)で述べたように、甲3にはヒト皮膚組織を三次元バイオプリンティングで製造する方法の具体例として、レイヤーバイレイヤー製造アプローチで3つの線維芽細胞の層及びケラチノサイトの層がそれぞれスキャフォールド材料である2つのコラーゲンの層で区切られている態様のみが記載されており、甲3発明におけるコラーゲンの層はスキャフォールドとして必須の構成であるものと認められ、コラーゲンの層を除く方向に当業者が動機付けられるとは認めることができない。
したがって、申立人の上記主張は採用することができない。

カ.小括
以上のとおり、本件発明12〜25が甲3に記載された発明、甲1、甲4に記載された事項、及び、本件特許の国際出願時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明することができたものであると認めることはできない。

第5 むすび
以上のとおり、本件特許に係る特許異議申立てにおいて申立人が主張する申立理由は、いずれも理由がないから、本件発明1〜25に係る特許は、取り消すことができない。
ほかに、本件発明1〜25に係る特許を取り消すべき理由も発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2023-11-14 
出願番号 P2020-202360
審決分類 P 1 651・ 536- Y (C12N)
P 1 651・ 121- Y (C12N)
P 1 651・ 113- Y (C12N)
P 1 651・ 537- Y (C12N)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 長井 啓子
特許庁審判官 松本 淳
天野 貴子
登録日 2023-02-13 
登録番号 7227211
権利者 オルガノボ インコーポレイテッド ロレアル
発明の名称 人工三次元皮膚組織、そのアレイ、およびその製造方法  
代理人 川本 和弥  
代理人 山口 裕孝  
代理人 井上 隆一  
代理人 春名 雅夫  
代理人 小寺 秀紀  
代理人 井上 隆一  
代理人 田村 明照  
代理人 川本 和弥  
代理人 刑部 俊  
代理人 春名 雅夫  
代理人 大関 雅人  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 大関 雅人  
代理人 山口 裕孝  
代理人 清水 初志  
代理人 渡辺 欣乃  
代理人 刑部 俊  
代理人 小林 智彦  
代理人 佐藤 利光  
代理人 新見 浩一  
代理人 新見 浩一  
代理人 佐藤 利光  
代理人 清水 初志  
代理人 小林 智彦  
代理人 小寺 秀紀  

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