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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B29C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B29C
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B29C
管理番号 1404850
総通号数 24 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2023-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2023-09-01 
確定日 2023-11-28 
異議申立件数
事件の表示 特許第7230354号発明「立体造形用粉末、樹脂粉末、立体造形物の製造装置、及び立体造形物の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7230354号の請求項1ないし12に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続等の経緯
特許第7230354号(以下「本件特許」という。)の請求項1〜12に係る特許についての出願(特願2018−125781号)は、平成30年7月2日(先の出願に基づく優先権主張 平成29年11月9日)の出願であって、令和5年2月20日にその特許権の設定登録がされ、同年3月1日に特許掲載公報が発行された。
本件特許について、特許掲載公報の発行の日から6月以内である同年9月1日に特許異議申立人 エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー(以下「特許異議申立人」という。)から請求項1〜12に対して特許異議の申立てがされた。


第2 本件特許発明
本件特許の請求項1〜12に係る発明(以下、請求項に付す番号を使って、それぞれ、「本件特許発明1」などという。)は、特許請求の範囲の請求項1〜12に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
示差走査熱量測定において、ISO 3146に準拠して測定した、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときに得られる吸熱ピークの融解熱量をQ1とし、その後、10℃/minにて、20℃以下まで降温し、更に、融点より30℃高い温度まで10℃/minにて昇温したときの再融解熱量をQ2としたとき、前記Q1と前記Q2との比(Q1/Q2)が、1.10以上1.60以下である立体造形用粉末であって、
前記立体造形用粉末は、ポリエステル、ポリアミド、及びポリオレフィンから選択される少なくとも1種からなり、
前記立体造形用粉末の50%累積体積粒径が20μm以上であり、
前記立体造形用粉末を以下の硬化条件によって硬化してなる立体造形物の、JIS K7191(ISO 75)に準拠した、曲げ応力1.8MPaにおける荷重たわみ温度が、60℃以上であることを特徴とする立体造形用粉末。
[硬化条件]
SLS方式造形装置を使用し、設定条件として、0.1mmの層平均厚み、10ワット以上150ワット以下のレーザー出力に設定し、0.1mmのレーザー走査スペース、融点より3℃低い温度にて部品床温度を使用した。
【請求項2】
前記Q1と前記Q2との比(Q1/Q2)が、1.20以上である請求項1に記載の立体造形用粉末。
【請求項3】
前記Q1と前記Q2との比(Q1/Q2)が、1.30以上である請求項2に記載の立体造形用粉末。
【請求項4】
前記曲げ応力1.8MPaにおける前記荷重たわみ温度が、66℃以上である請求項1から3のいずれかに記載の立体造形用粉末。
【請求項5】
前記曲げ応力1.8MPaにおける前記荷重たわみ温度が、70℃以上である請求項1から4のいずれかに記載の立体造形用粉末。
【請求項6】
前記曲げ応力1.8MPaにおける前記荷重たわみ温度が、80℃以上である請求項5に記載の立体造形用粉末。
【請求項7】
50%累積体積粒径が、20μm以上100μm以下であり、かつ、
体積平均粒径と個数平均粒径との比(体積平均粒径/個数平均粒径)が、2.50以下である請求項1から6のいずれかに記載の立体造形用粉末。
【請求項8】
柱体である請求項1から7のいずれかに記載の立体造形用粉末。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の立体造形用粉末が貯蔵されている供給槽と、
前記立体造形用粉末を含む層を形成する層形成手段と、
前記層の選択された領域内の粉末同士を接着させる粉末接着手段と、を有することを特徴とする立体造形物の製造装置。
【請求項10】
立体造形用粉末を含む層を形成する層形成工程と、
前記層の選択された領域内の粉末同士を接着させる粉末接着工程と、を繰り返す、立体造形物の製造方法であって、
前記立体造形用粉末は、示差走査熱量測定において、ISO 3146に準拠して測定した、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときに得られる吸熱ピークの融解熱量をQ1とし、その後、10℃/minにて、20℃以下まで降温し、更に、融点より30℃高い温度まで10℃/minにて昇温したときの再融解熱量をQ2としたとき、前記Q1と前記Q2との比(Q1/Q2)が、1.10以上1.60以下であり、
前記立体造形用粉末は、ポリエステル、ポリアミド、及びポリオレフィンから選択される少なくとも1種からなり、
前記立体造形用粉末の50%累積体積粒径が20μm以上であり、
前記立体造形用粉末を以下の硬化条件によって硬化してなる立体造形物の、JIS K7191(ISO 75)に準拠した、曲げ応力1.8MPaにおける荷重たわみ温度が、60℃以上であることを特徴とする立体造形物の製造方法。
[硬化条件]
SLS方式造形装置を使用し、設定条件として、0.1mmの層平均厚み、10ワット以上150ワット以下のレーザー出力に設定し、0.1mmのレーザー走査スペース、融点より3℃低い温度にて部品床温度を使用した。
【請求項11】
前記粉末接着工程が、前記形成された層に電磁照射し、溶融させた後に冷却後硬化する硬化工程を含む請求項10に記載の立体造形物の製造方法。
【請求項12】
示差走査熱量測定において、ISO 3146に準拠して測定した、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときに得られる吸熱ピークの融解熱量をQ1とし、その後、10℃/minにて、20℃以下まで降温し、更に、融点より30℃高い温度まで10℃/minにて昇温したときの再融解熱量をQ2としたとき、前記Q1と前記Q2との比(Q1/Q2)が、1.10以上1.60以下である樹脂粉末であって、
前記樹脂粉末は、ポリエステル、ポリアミド、及びポリオレフィンから選択される少なくとも1種からなり、
前記樹脂粉末の50%累積体積粒径が20μm以上であり、
前記樹脂粉末を以下の硬化条件によって硬化してなる硬化物の、JIS K7191(ISO 75)に準拠して測定した、曲げ応力1.8MPaにおける荷重たわみ温度が、60℃以上であることを特徴とする樹脂粉末。
[硬化条件]
SLS方式造形装置を使用し、設定条件として、0.1mmの層平均厚み、10ワット以上150ワット以下のレーザー出力に設定し、0.1mmのレーザー走査スペース、融点より3℃低い温度にて部品床温度を使用した。」


第3 申立理由の概要
進歩性
(1)甲1号証を主引用例とする場合
本件特許発明1〜12は、下記の甲1号証に記載された発明に基づいて、先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜12に係る特許は、特許法29条の規定に違反してされたものである。

(2)甲2号証を主引用例とする場合
本件特許発明1〜12は、下記の甲2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜12に係る特許は、特許法29条の規定に違反してされたものである。

実施可能要件
本件特許の明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明1〜12の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないから、本件特許は、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

3 サポート要件
本件特許の特許請求の範囲の請求項1〜12に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでないから、本件特許は、特許法36条6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

明確性
本件特許の特許請求の範囲の請求項1〜12に係る発明は、明確でないから、本件特許は、特許法36条6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

5 特許異議申立人が提出した証拠は以下のとおりである。
甲1号証:特表2012−513319号公報(以下「甲1」という。)
甲2号証:特表2015−500375号公報(以下「甲2」という。)
甲3号証:国際公開第2013/090174号(以下「甲3」という。)
甲4号証:2019年10月25日付け 東レ株式会社作成の実験成績証明書(以下「甲4」という。)
甲5号証:Schmid,M., et al., “Materials perspective of polymers for additive manufacturing with selective laser sintering”,Journal of Materials Research 29(17),2014(以下「甲5」という。)
甲6号証:Fulcher,B.,Leigh,D.K.“EFFECT OF SEGREGATED FIRST AND SECOND MELT POINT ON LASER SINTERED PART QUALITY AND PROCESSING”,2012(以下「甲6」という。)
甲7号証:特開2011−63681号公報(以下「甲7」という。)
甲8号証:国際公開第2017/112723号(以下「甲8」という。)
(当合議体注:甲1及び甲2は、いずれも主引用例であり、甲3〜甲8は、副引用例である。また、証拠の表記については、おおむね、特許異議申立書における記載に従った。)


第4 当合議体の判断
進歩性について
(1)甲1を主引用例とする場合
ア 甲1に記載された発明
(ア)甲1には、実施例1に係る以下の立体造形用粉末の発明(甲1の【0021】、【0022】、【0134】及び【0140】〜【0147】参照。以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「約16%の結晶化度を有する半結晶質芳香族ポリエステルを含み、ISO 75−2:2004の方法Aに従って、80×10×4ミリメートル(mm)(長さ×幅×厚さ)のLS試験試料の貫層方向に1.8メガパスカル(MPa)を適用したときの加熱撓み温度(HDT)が著しく高い、立体造形用粉末。」

(イ)甲1には、甲1発明を用いたLS物品の製造方法の発明(以下「甲1方法発明」という。)も記載されていると認められる。

イ 本件特許発明1について
(ア)対比、一致点・相違点
本件特許発明1と甲1発明とを対比すると、本件特許発明1と甲1発明は、
「ポリエステル、ポリアミド、及びポリオレフィンから選択される少なくとも1種からなる、立体造形用粉末。」
の点で一致し、下記の点で相違する。

(相違点1−1)
本件特許発明1は、「示差走査熱量測定において、ISO 3146に準拠して測定した、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときに得られる吸熱ピークの融解熱量をQ1とし、その後、10℃/minにて、20℃以下まで降温し、更に、融点より30℃高い温度まで10℃/minにて昇温したときの再融解熱量をQ2としたとき、前記Q1と前記Q2との比(Q1/Q2)が、1.10以上1.60以下」と特定されるのに対し、甲1発明は、そのような構成であるのかが明らかでない点。

(相違点1−2)
本件特許発明1は、「50%累積体積粒径が20μm以上」と特定されるのに対し、甲1発明は、そのような構成であるのかが明らかでない点。

(相違点1−3)
本件特許発明1は、「以下の硬化条件によって硬化してなる立体造形物の、JIS K7191(ISO 75)に準拠した、曲げ応力1.8MPaにおける荷重たわみ温度が、60℃以上」であって、その硬化条件として「[硬化条件]SLS方式造形装置を使用し、設定条件として、0.1mmの層平均厚み、10ワット以上150ワット以下のレーザー出力に設定し、0.1mmのレーザー走査スペース、融点より3℃低い温度にて部品床温度を使用した。」であると特定されるのに対し、甲1発明は、そのような構成であるのかが明らかでない点。

(イ)判断
事案に鑑み、相違点1−1について検討する。

甲1及び他のすべての証拠の記載を見ても、甲1発明において、比(Q1/Q2)を調整することは記載も示唆もされておらず、また、比(Q1/Q2)を1.10以上1.60以下との特定の範囲とすることが、当該技術分野において周知技術であるともいえない。

なお、特許異議申立人は、特許異議申立書において、甲1には結晶化度を高めることが好ましいこと、甲2、3、5及び6には、熱処理によりポリマーの結晶化度を高めることにより、DSC曲線における(1回目加熱の融解熱量)/(2回目加熱の融解熱量)を1.10以上1.60以下とすることが記載されていることから、甲1発明において、相違点1−1に係る本件特許発明1の特定事項を満たすものとすることは容易に想到しうることである旨主張する。
しかしながら、上記のとおり、甲1発明において比(Q1/Q2)を調整する動機付けはないし、また、特許異議申立人が証拠としてあげる甲2、3、5及び6は、ポリアミドに関するものであるから、半結晶質芳香族ポリエステルである甲1発明に適用することはできない。
よって、特許異議申立人の当該主張は採用できない。

そうすると、甲1発明において、相違点1−1に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことであるということはできない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明及び甲1〜甲8に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(ウ)甲1の実施例2〜9に係る立体造形用粉末の発明を甲1に記載された発明(引用発明)とした場合も、上記(ア)及び(イ)と同様になる。

(エ)小括
本件特許発明1は、甲1に記載された発明及び甲1〜甲8に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件特許発明2〜9について
本件特許の特許請求の範囲の請求項2〜9は、いずれも、請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、本件特許発明2〜9は、いずれも、本件特許発明1の構成を全て具備し、これに限定を加えたものに該当する。
そうすると、上記イのとおり、本件特許発明1が、甲1に記載された発明及び甲1〜甲8に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件特許発明2〜9は、いずれも、甲1に記載された発明及び甲1〜甲8に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ 本件特許発明10〜11について
(ア)本件特許発明10と甲1方法発明とを比較すると、両者は、少なくとも、上記相違点1−1と同様の相違点において相違する。
そして、当該相違点についての判断は、上記イ(イ)と同様である。
したがって、本件特許発明10は、甲1に記載された発明及び甲1〜甲8に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(イ)本件特許の特許請求の範囲の請求項11は、請求項10を引用するものであって、本件特許発明11は、本件特許発明10の構成を全て具備し、これに限定を加えたものに該当する。
そうすると、上記(ア)のとおり、本件特許発明10が、甲1に記載された発明及び甲1〜甲8に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件特許発明11は、甲1に記載された発明及び甲1〜甲8に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

オ 本件特許発明12について
本件特許発明12と甲1発明とを比較すると、両者は、少なくとも、上記相違点1−1と同様の相違点において相違する。
そして、当該相違点についての判断は、上記イ(イ)と同様である。
したがって、本件特許発明12は、甲1に記載された発明及び甲1〜甲8に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)甲2を主引用例とする場合
ア 甲2に記載された発明
(ア)甲2には、「EOS PA2201サンプル」(甲2の【0029】及び【図6】参照。以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。

(イ)甲2には、甲2発明である粉末材料を用いた3次元物品の製造方法の発明(【0004】〜【0007】参照。以下「甲2方法発明」という。)も記載されていると認められる。

イ 本件特許発明1について
(ア)本件特許発明1と甲2発明とを比較する。
甲2の【0029】及び【図6】の記載、及び他の全ての証拠の記載を見ても、甲2発明(EOS PA2201サンプル)の上記比(Q1/Q2)が1.10以上1.60以下であるということはできない。
そうすると、両者は、少なくとも、上記相違点1−1と同様の点において相違する。
そして、当該相違点については、上記(1)イ(イ)と同様に判断される。

なお、特許異議申立人は、特許異議申立書において、甲2の図6、10、14及び16における第1の溶融ピークTm1の面積及び第2の溶融ピークTm2の面積によれば、甲2発明のQ1/Q2は「1.10以上1.60以下」である旨主張する。
しかしながら、甲2の当該図面からは、そもそもTm1とTm2の比が1.10以上1.60以下に該当するか否かも明らかではない。さらには、測定条件が本件特許発明1とは異なるものであることからも、甲2発明のQ1/Q2は「1.10以上1.60以下」であるとの主張は採用できない。
また、他の証拠における記載事項との組み合わせに関する主張についても、いずれも採用できない。

したがって、本件特許発明1は、甲2発明及び甲1〜甲8に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(イ)甲2の「熱処理を行ったORGASOL 2003サンプル」(【0033】及び【図10】参照。)、「ORGASOL 2002サンプル」(【0039】及び【図14】参照。)、「熱処理を行ったORGASOL 2002サンプル」(【0041】及び【図16】参照。)を甲2に記載された発明(引用発明)とした場合も、上記(ア)と同様になる。

(ウ)小括
本件特許発明1は、甲2に記載された発明及び甲1〜甲8に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件特許発明2〜9について
本件特許の特許請求の範囲の請求項2〜9は、いずれも、請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、本件特許発明2〜9は、いずれも、本件特許発明1の構成を全て具備し、これに限定を加えたものに該当する。
そうすると、上記イのとおり、本件特許発明1が、甲2に記載された発明及び甲1〜甲8に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件特許発明2〜9は、いずれも、甲2に記載された発明及び甲1〜甲8に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ 本件特許発明10〜11について
(ア)本件特許発明10と甲2方法発明とを比較すると、両者は、少なくとも、上記相違点1−1と同様の相違点において相違する。
そして、当該相違点についての判断は、上記(1)イ(イ)と同様である。
したがって、本件特許発明10は、甲2に記載された発明及び甲1〜甲8に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(イ)本件特許の特許請求の範囲の請求項11は、請求項10を引用するものであって、本件特許発明11は、本件特許発明10の構成を全て具備し、これに限定を加えたものに該当する。
そうすると、上記(ア)のとおり、本件特許発明10が、甲2に記載された発明及び甲1〜甲8に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件特許発明11は、甲2に記載された発明及び甲1〜甲8に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

オ 本件特許発明12について
本件特許発明12と甲2発明とを比較すると、両者は、少なくとも、上記相違点1−1と同様の相違点において相違する。
そして、当該相違点についての判断は、上記(1)イ(イ)と同様である。
したがって、本件特許発明12は、甲2に記載された発明及び甲1〜甲8に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

実施可能要件について
(1)明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するか否かは、物の発明については、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度の記載があるか否か、また、方法の発明については、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その方法の使用をすることができる程度の記載があるか否かを検討して判断すべきである。

(2)請求項1〜12に係る発明について
請求項1〜9及び12に係る発明は、いずれも物の発明であるところ、当業者であれば、発明の詳細な説明の【0125】〜【0134】及び【0138】〜【0140】【表1】の記載及び技術常識に基づいて、実際に、請求項1〜9及び12に係る発明の実施例1〜5の立体造形用粉末を製造し、使用することができるといえる。
また、請求項10及び11に係る発明は、いずれも方法の発明であるところ、当業者であれば、発明の詳細な説明の【0125】〜【0134】及び【0138】〜【0140】【表1】の記載及び技術常識に基づいて、実際に、請求項10及び11に係る発明の実施例1〜5の立体造形物の製造方法を使用することができるといえる。
したがって、本件特許の明細書の発明の詳細な説明は、当業者が、本件特許の請求項1、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2〜9、請求項10、請求項10を引用する請求項11及び請求項12に係る発明のいずれの実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであり、特許異議申立書97〜100頁に記載された実施可能要件違反の理由はない。

(3)小括
本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法36条4項1号に適合するから、本件特許は、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。

3 サポート要件について
(1)特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載を対比し、特許請求の範囲で特定された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。

(2)本件特許発明が解決しようとする課題について
本件特許明細書の【0005】等の記載から、本件特許発明が解決しようとする課題は、「耐熱性に優れる立体造形物を製造することができる立体造形用粉末を提供すること」であると認められる。

(3)請求項1〜12に係る発明について
本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載(【0006】〜【0007】、【0009】〜【0015】、【0125】〜【0140】)から、当業者は、立体造形用粉末を、「示差走査熱量測定において、ISO 3146に準拠して測定した、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときに得られる吸熱ピークの融解熱量をQ1とし、その後、10℃/minにて、20℃以下まで降温し、更に、融点より30℃高い温度まで10℃/minにて昇温したときの再融解熱量をQ2としたとき、前記Q1と前記Q2との比(Q1/Q2)が、1.10以上1.60以下」であり、「以下の硬化条件によって硬化してなる立体造形物の、JIS K7191(ISO 75)に準拠した、曲げ応力1.8MPaにおける荷重たわみ温度が、60℃以上」「[硬化条件] SLS方式造形装置を使用し、設定条件として、0.1mmの層平均厚み、10ワット以上150ワット以下のレーザー出力に設定し、0.1mmのレーザー走査スペース、融点より3℃低い温度にて部品床温度を使用した」という構成にすれば、上記(2)の課題を解決できると認識できるといえる。そして、上記構成は、請求項1、10及び12に記載されている。
そうすると、本件特許の請求項1、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2〜9、請求項10、請求項10を引用する請求項11及び請求項12に係る発明は、いずれも、発明の詳細な説明の記載により当業者が上記(2)の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
したがって、本件特許の請求項1〜12に係る発明は、いずれも、発明の詳細な説明に記載されたものであり、特許異議申立書100〜103頁に記載されたサポート要件違反の理由はない。

(4)小括
本件特許の特許請求の範囲の請求項1〜12の記載は、特許法36条6項1号に適合するから、本件特許は、特許法36条6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。

明確性について
(1)特許請求の範囲の記載が明細書の明確性要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。

(2)請求項1〜12に係る発明について
請求項1、10及び12には、「融点より30℃高い温度まで」「昇温したとき」と記載されている。ここで、本件特許明細書の【0040】の記載によると、融点以上の加熱溶融するのは、結晶化度(結晶化率)をリセットするためであると認められるところ、請求項1、10及び12に係る発明が2種以上の樹脂の粉末からなる態様の場合、「融点」は、全ての樹脂の粉末が溶融する温度、すなわち融点が最も高い樹脂の融点であることは明らかであるから、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確ではない。
したがって、本件特許の請求項1、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2〜9、請求項10、請求項10を引用する請求項11及び請求項12に係る発明は、いずれも明確であり、特許異議申立書103〜105頁に記載された明確性要件違反の理由はない。

(3)小括
本件特許の特許請求の範囲の請求項1〜12の記載は、特許法36条6項2号に適合するから、本件特許は、特許法36条6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。


第5 むすび
請求項1〜12に係る特許は、いずれも、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。
また、他に請求項1〜12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2023-11-17 
出願番号 P2018-125781
審決分類 P 1 651・ 537- Y (B29C)
P 1 651・ 121- Y (B29C)
P 1 651・ 536- Y (B29C)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 神谷 健一
特許庁審判官 植前 充司
関根 洋之
登録日 2023-02-20 
登録番号 7230354
権利者 株式会社リコー
発明の名称 立体造形用粉末、樹脂粉末、立体造形物の製造装置、及び立体造形物の製造方法  
代理人 新川 圭二  
代理人 山口 昭則  
代理人 太田 顕学  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  

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