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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
管理番号 1404856
総通号数 24 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2023-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2023-09-15 
確定日 2023-12-11 
異議申立件数
事件の表示 特許第7240388号発明「熱可塑性粉末組成物及びそのような組成物の3D印刷により製造された強化三次元物体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7240388号の請求項1ないし12に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7240388号の請求項1ないし12に係る特許についての出願は、2018年(平成30年)10月4日を国際出願日(パリ条約に基づく優先権主張 外国庁受理 2017年10月4日 フランス(FR))とする出願であって、令和5年3月7日にその特許権の設定登録(請求項の数12)がされ、同年同月15日に特許掲載公報が発行された。
その後、この特許に対し、令和5年9月15日に特許異議申立人 エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー(以下、「申立人」という。)は、特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし12)を行った。


第2 本件発明
特許第7240388号の請求項1ないし12の特許に係る発明は、それぞれ、願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、「本件発明1」ないし「本件発明12」といい、これらをあわせて「本件発明」という。)。また、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲を「本件明細書等」という。

「【請求項1】
組成物の総重量に関して、
− 100μm未満のd50を有する少なくとも一つのポリアミド粉末、
− 5重量%から70重量%の、
− 100から200μmの範囲内のl50を有し、
− 450μm未満のlmaxを有し、
− 10から25μmの範囲内のd50を有し、
− 5から15の間の形状因子F:l50/d50を有する、
ガラス繊維:及び
− 0.05%から5%の、20μm未満のd50を有する粉末状流動剤;
を含む、強化熱可塑性粉末組成物。
【請求項2】
前記ポリアミドが、PA 11、PA 12、PA 1010、PA 6、PA 6/12、PA 11/1010、及びこれらの混合物から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
ガラス繊維の重量に対する重量%としての酸化物に関して表されるとき、ガラス繊維が:52%から74%の二酸化ケイ素(SiO2)、2%から26%の酸化アルミニウム(Al2O3)、0%から23%の酸化ホウ素(B2O3)、0%から25%の酸化カルシウム(CaO)、0%から25%の酸化マグネシウム(MgO)、0%から5%の酸化亜鉛(ZnO)、0%から5%の酸化ストロンチウム(SrO)、0%から1%の酸化バリウム(BaO)、0%から5%の酸化リチウム(Li2O)、0%から16%の酸化ナトリウム(Na2O)、0%から20%の酸化ジルコニウム(ZrO2)、0%から3%の酸化カリウム(K2O)、0%から3%の酸化チタン(TiO2)、0%から3%の酸化鉄(Fe2O3)を含む、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
流動剤が:シリカ、水和シリカ、非晶質アルミナ、ガラス質シリカ、ガラス質リン酸塩、ガラス質ホウ酸塩、ガラス質酸化物、二酸化チタン、タルク、マイカ、ヒュームドシリカ、焼成シリカ、カオリン、アタパルジャイト、ケイ酸カルシウム、アルミナ、及びケイ酸マグネシウムから選択される、請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
ガラス繊維が、組成物の総重量に関して、5から60重量%、好ましくは15から45重量%、より好ましくは20から40重量%を占める、請求項1から4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
繊維の形状因子F:150/d50が、9から11の範囲内、好ましくは実質的に10に等しい、請求項1から5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の組成物を製造するための方法であって、
a)ポリアミド粉末をガラス繊維とドライブレンドすることにより混合する段階;
b)a)で得られた粉末に流動剤を添加する段階
を含む、方法。
【請求項8】
3D印刷により、同じ組成の射出成形により製造される同じ形の物体の弾性率よりも大きい弾性率を有する物体を製造するために、100μm未満のd50を有するポリアミド系粉末中、
− 100から200μmの範囲内のl50を有し、
− 450μm未満のlmaxを有し、
− 10から25μmの範囲内のd50を有し、
− 5から15の間の形状因子F:l50/d50を有する、
25重量%から40重量%のガラス繊維の使用。
【請求項9】
請求項1から6のいずれか一項に記載の組成物を有する粉末を層ごとに焼結することを含む、強化三次元物体を製造するための方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法に従って製造することができる強化三次元物体であって、前記組成物の射出成形法によって製造される同じ形の物体よりも優れた機械的特性を有する、物体。
【請求項11】
− 少なくとも3000MPaの弾性率、
− 6%超の破断点伸び、
− 60MPa超の破断応力、及び
− 少なくとも150℃の熱たわみ温度(HDT)
を示すことを特徴とする、請求項10に記載の物体。
【請求項12】
スポーツ用品、靴、スポーツシューズ、靴底、装飾、荷物、眼鏡、家具、視聴覚機器、コンピュータ若しくは自動車若しくは航空機器の部品及び/又は医療機器の部品である、請求項10又は11に記載の物体。」


第3 申立理由の概要

1 特許異議申立理由の要旨
申立人が提出した特許異議申立書において主張する特許異議申立理由の要旨は、次のとおりである。

(1)申立理由1−1(甲第1号証に基づく新規性進歩性欠如)
本件特許の請求項1ないし12に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第1号証に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし12に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(2)申立理由1−2(甲第1号証を主引例とする進歩性欠如)
本件特許の請求項1ないし12に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明と、甲第2号証に記載された発明、甲第3号証〜甲第6号証に記載された事項に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし12に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(3)申立理由2(サポート要件違反)
本件特許の請求項1ないし12に係る特許は、下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
その概要は次のとおりである。
請求項1に係る発明に対応する実施例は、実施例1及び5のみであって、ガラス繊維から見ると、平均繊維直径d50、平均繊維長さl50、ガラス繊維の形状因子F:l50/d50が同じ1種類のみであり、該ガラス繊維の含有量が異なる2つの試験例しかなく、また、粉末状流動剤から見ると、ヒュームドシリカの試験例のみであり、その含有量が0.5重量%未満であり、d50が20μm未満であるものしか記載されていないから、上記実施例1及び5以外の、請求項1に係る発明の全範囲において、本件発明の課題を解決できることが本件明細書等には記載されていない。

(4)申立理由3(明確性要件違反)
本件特許の請求項1ないし12に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
その概要は次のとおりである。
請求項1において、「粉末状流動剤」との特定があり、該「粉末状流動剤」について、本件明細書等の段落【0085】には二酸化チタンが例示されているところ、同【0086】には添加剤としてTiO2が例示されており、強化熱可塑性粉末組成物がTiO2を含む場合、粉末状流動剤として機能するのか、添加剤として機能するのか明確でない。

2 証拠方法
申立人は、証拠として、以下の文献を提出する。
・甲第1号証:国際公開第2008/057844号
・甲第2号証:米国特許出願公開第2007/0267766号明細書
・甲第3号証:DURAFORM PA AND GF 2001
・甲第4号証:南条尚志著、「FRP構成素材入門 第2章 構成素材と種類−ガラス繊維−」、日本複合材料学会誌、一般社団法人 日本複合材料学会、2007年、第33巻、第4号、p.141−149
・甲第5号証:ASM Handbook,Vol.21:Composites(#06781G)Glass Fibers,p.27−34、2001
・甲第6号証:TP Sathishkumar,S Satheeshkumar and J Naveen、‘Glass fiber-reinforced polymer composites − a review’、Journal of Reinforced Plastics & Composites、Vol.33、No 13、p.1258−1275、2014
・参考文献1:RILSAN○R D60 NATURAL 2018(当審注:○Rは、丸囲みのRを表す。)
・参考文献2:Lydia Lanzl et.al、‘The effect of short glass fibers on the process behavior of polyamide 12 during selective laser beam melting’、Polymer Testing 83(2020)106313、available online 18 January 2020
以下、甲第1号証ないし甲第6号証については、順に「甲1」等という。


第4 当審の判断
当審は、申立人がした申立ての理由によっては、本件特許の請求項1ないし12に係る特許を取り消すことはできないと判断する。その理由は以下のとおりである。

1 申立理由1−1(甲1に基づく新規性進歩性欠如)、申立理由1−2(甲1を主引例とする進歩性欠如)について
申立理由1−1、申立理由1−2は、どちらも甲1を主引例とするものであるから、合わせて検討する。

(1)証拠等の記載等
ア 甲1の記載事項と甲1に記載された発明
(ア)甲1の記載事項
甲1には、次の記載がある。なお、当審の当審訳は、甲1に対応する日本語のファミリーである特表2010−509459号に基づいて、その段落番号とともに記載した。




・・・




(当審訳:
【請求項1】
粉末組成物であって、
少なくとも1種のレーザー焼結可能なポリマー粉末;並びに
粉末組成物の総重量を基準に少なくとも約3重量%の、少なくとも約5:1のアスペクト比及び約300ミクロン未満の最大寸法を有する強化用粒子を含み、
ここで、強化用粒子の少なくとも一部が、粉末組成物の総重量を基準に、粉末組成物の少なくとも約1wt−%を含む鉱質粒子である、粉末組成物。
【請求項2】
鉱質粒子が、粉末組成物の総重量を基準に、粉末組成物の少なくとも約3wt−%を含む、請求項1に記載の粉末組成物。
【請求項3】
強化用粒子のアスペクト比が少なくとも約10:1である、請求項1に記載の粉末組成物。
【請求項4】
強化用粒子のアスペクト比が少なくとも約20:1である、請求項1に記載の粉末組成物。
【請求項5】
鉱質粒子の少なくとも一部が、1種以上のフェロブスタマイト、ブスタマイト、ビステパイト、カスカンダイト、ペクトライト、デニソバイト、セランダイト、フォシャガイト、ヒレブランダイト、珪灰石、ランキナイト、キルコアナイト、ラルナイト、ブレジガイト、ハツルライト、ロセナーナイト、デラライト、アフウイルライト、ゾノトライト、ジャファイト、スオルナイト、キラライト、オーケナイト、リバーシダイト、トラブゾナイト、ジロライト、フォシャラサイト、トバモライト、クリノトバモライト、ネコアイト、プロムベライト、ジェンナイト、シリマナイト、透角閃石、又はその混合物を含む、請求項1に記載の粉末組成物。
【請求項6】
鉱質粒子が珪酸塩を含む、請求項1に記載の粉末組成物。
【請求項7】
鉱質粒子が硅灰石を含む、請求項1に記載の粉末組成物。
【請求項8】
強化用粒子の最大寸法が約250ミクロン未満である、請求項1に記載の粉末組成物。
【請求項10】
強化用粒子の最大寸法が約200ミクロン未満である、請求項1に記載の粉末組成物。
【請求項11】
強化用粒子の最大寸法が約10ミクロンを超える、請求項1に記載の粉末組成物。
【請求項12】
少なくとも1種のポリマー粉末がポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリエーテルケトン、ポリウレタン、ポリビニルアセテート、ポリメタクリレート、フェノール樹脂、イオノマー、ポリアセタール、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンコポリマー、ポリイミド、ポリカルボーネート、又はその混合物を含む、請求項1に記載の粉末組成物。
【請求項13】
少なくとも1種のポリマー粉末がポリアミドを含む、請求項1に記載の粉末組成物。
【請求項14】
少なくとも1種のポリマー粉末がナイロン6,10;ナイロン6,12;ナイロン6,13;ナイロン8,10;ナイロン8,12;ナイロン10,10;ナイロン10,12;ナイロン12,12;ナイロン−11;ナイロン−12;又はその混合物を含む、請求項13に記載の粉末組成物。
【請求項15】
レーザー焼結可能なポリマー粉末のポリマー粒子の最大寸法が、平均で、少なくとも約200ミクロン未満である、請求項1に記載の粉末組成物。
・・・
【請求項20】
粉末組成物をレーザー焼結して試験標本を形成するとき、試験標本の加熱撓み温度が少なくとも約150℃である、請求項1に記載の粉末組成物。
【請求項21】
粉末組成物をレーザー焼結して試験標本を形成するとき、試験標本の引張強度が少なくとも約40MPaである、請求項1に記載の粉末組成物。
【請求項22】
請求項1に記載の粉末組成物を与え、そして
当該粉末組成物を選択的レーザー焼結して三次元物品を形成することを含む方法。
【請求項23】
少なくとも1種のポリマー粉末及び強化用粒子をブレンドして粉末組成物を形成することをさらに含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
強化用粒子と、
少なくとも1種のポリマー粉末又は少なくとも1種のポリマー粉末からなる物質を含有するペレットとを溶融ブレンドし;そして
得られたブレンドから粉末組成物を形成する
ことをさらに含む、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
請求項22に記載の方法により製造した三次元物品。
【請求項26】
三次元物品であって、
ポリマーマトリックス;と
少なくとも約5:1のアスペクト比、及び
少なくとも約300ミクロン未満の最大寸法を
を有し、前記ポリマーマトリックス全体にわたって分散されている強化用粒子とを含む複数の焼結層を含み、
ここで、強化用粒子が
複数の焼結層の総重量を基準に、複数の焼結層の少なくとも約3wt−%を含み、そして
複数の焼結層の総重量を基準に、複数の焼結層の少なくとも約1wt−%を含む鉱質粒子を含有する
前記三次元物品。
【請求項27】
方法であって、
少なくとも1種のレーザー焼結可能なポリマー粉末;と
粉末組成物の総重量を基準に少なくとも約3重量%の、少なくとも約5:1のアスペクト比及び約300ミクロン未満の最大寸法を有する強化用粒子と
を含む粉末組成物を与え、
当該粉末組成物をレーザー焼結して、約130℃を超える温度の物質から成形製品を形成できる型を形成する、
前記方法。
【請求項28】
前記型を使用して、約130℃よりも高い温度の物質から成形製品を形成することをさらに含む、請求項27に記載の方法。)





(当審訳:
【背景技術】
【0003】
レーザー焼結(選択的レーザー焼結とも呼ばれる)(Laser sintering:LS)は、ディスペンサーが粉末化物質の層を標的領域に沈着させる処理である。レーザー制御機構は、典型的には、所望の物品の設計を収容するコンピューターを含むが、その設計の画定した境界内に粉末層を選択的に放射するためにレーザービームを調節し、かつ変動させ、レーザービームが当たる粉末の溶融をもたらす。制御機構は、逐次的粉末層を選択的に焼結するためにレーザーを操作し、結果的に一緒に焼結させた複数層を含む完成物品を生じさせる。LS技術の詳細な記述は、米国特許第4,247,508号、第4,863,538号、第5,017,753号、及び第6,110,411号明細書に見出すことができる(各々を参照として本明細書に含める)。
【0004】
LS技術は、ポリマー粉末を含む種々の粉末化物質から高解像度(resolution)及び高寸法精度の三次元物品の直接製造を可能にする。これらの物品は、ラピッドプロトタイピングや種々のその他の応用に良く適している。しかし、LS法により慣用ポリマー粉末から製造した物品は、典型的には、より慣用的な製造方法(例えば、射出成形)により製造した物品に対して相対的により劣った機械特性を示す。加えて、このような物品は、概して、機械特性の低下が原因で高温環境の使用に適していない。
【0005】
炭素繊維やガラス繊維は、LS物品の機械特性を改良するために充填物質として考えられてきた。しかし、炭素繊維は相対的に高価であり、粒子吸入問題を可及的に少なくするか又は回避するために注意深い取扱が必要となることがあり(炭素繊維に典型的に関連する粒子寸法及び嵩密度のため)、黒色着色及びそれに関連する追加の赤外線吸収のために、LS装置で処理するのが困難になる可能性があり、そして白色、明色及び/又は彩色を生じさせるのに適していないことがある。ガラス繊維に関して、それらは相対的に高価であり、安定して適切な品質の予測可能な商業ベースの量で得るのが困難なことがある。
【0006】
したがって、環境温度及び/又は高温で適切な機械特性を発揮するLS物品を製造するのに使用するための改良した粉末組成物の継続的必要性がある。)




(当審訳:
【0029】
本発明の粉末組成物は、種々の用途に使用するための種々の物品を形成するのに使用できる。本発明の好適な粉末組成物は、高温環境に耐えることができ、一方で1種以上の適切な機械特性をなお発揮するLS物品を形成できる。前記特性を必要とし得るLS物品の例には、自動車部品(例えば、エンジン部品及びエンジンに接近したその他の部品);燃料系部品;耐熱性が要求される家電部品(自動皿洗い機部品やオーブン部品);加熱した物質から成形物品を形成するための型;加熱液体と接触するための液圧部品;吸気マニホールド(例えば、温風吸気及び吸気ダクト);照明装置部品;並びに昇温環境で行う必要のある可能性のあるその他の用途の部品若しくは物品(例えば、航空宇宙産業用途、モータースポーツ用途、デザイン用途、電子用途、産業用途及び包装用途)等がある。)






(当審訳:
【0034】
本発明の粉末組成物は、所望の機械特性を達成するのに足るいずれかの適切な寸法の強化用粒子を含有できる。LSマシンにおいて粉末組成物の効率的な処理を可能にするために、強化用粒子は、好ましくは、約300ミクロン未満、より好ましくは、約250ミクロン未満、そして、さらにより好ましくは、約200ミクロン未満の最大寸法を有する。所望の機械特性を与えるために、強化用粒子は、好ましくは、約10ミクロンを超え、より好ましくは、約50ミクロンを超え、そして、さらにより好ましくは、約80ミクロンを超える最大寸法を有する。
【0035】
幾つかの実施態様では、強化用粒子の総量の中央若しくは平均最大寸法は、好ましくは、約300ミクロン未満、より好ましくは、約250ミクロン未満、そして、さらにより好ましくは、約200ミクロン未満である。幾つかの実施態様では、強化用粒子の総量の中央若しくは平均最大寸法は、好ましくは、約10ミクロンを超え、より好ましくは、約50ミクロンを超え、そして、さらにより好ましくは、約80ミクロンを超える。
【0036】
所望の場合、本発明の粉末組成物は、上記特定した値以外の最大寸法を有する量の粒子も含むことができる。
該強化用粒子は、所望の機械特性を達成するためにいずれかの適切な最大横寸法を示すことができる。好適な実施態様では、強化用粒子は、約100ミクロン未満、より好ましくは、約80ミクロン未満、そして、さらにより好ましくは、約50ミクロン未満の最大横寸法を示す。好ましくは、強化用粒子は、約3ミクロンを超え、より好ましくは、約10ミクロンを超え、そして、さらにより好ましくは、約15ミクロンを超える最大横寸法を示す。
【0037】
幾つかの実施態様では、強化用粒子の総量の中央若しくは平均最大横寸法は、好ましくは、約100ミクロン未満、より好ましくは、約80ミクロン未満、そして、さらにより好ましくは、約50ミクロン未満である。幾つかの実施態様では、強化用粒子の総量の中央若しくは平均最大横寸法は、好ましくは、約3ミクロンを超え、より好ましくは、約10ミクロンを超え、そして、さらにより好ましくは、約15ミクロンを超える。
【0038】
所望の場合、本発明の粉末組成物は、上記特定した値以外の最大横寸法を有する量の粒子も含むことができる。
所望の機械特性を有するLS物品を製造するのに適することのできる強化用粒子はいずれの適切な物質からも形成できる。適切な強化用粒子の例には、下記の種類の粒子(好ましくは、粒子形態において、適切なアスペクト比、最大寸法、及び/又は最大横寸法を有するとき)等がある。すなわち、例えば、ホウ素粒子、セラミック粒子、ガラス粒子(例えば、ガラス繊維)、及び鉱質粒子のような無機粒子;例えば、炭素粒子(例えば、炭素繊維粒子やカーボンナノチューブ)及びポリマー粒子(例えば、ポリエステル粒子、ポリアミド粒子(KEVLAR繊維のようなアラミド粒子やポリビニルアルコール粒子を含む)のような有機粒子;有機及び無機成分の双方を含有する粒子;並びにその混合物等である。さらに下記に論じる理由のため、好ましくは、強化用粒子のうち少なくとも幾つかの(及び幾つかの実施態様の全て若しくは実質的に全て)は鉱質粒子である。
【0039】
所望の機械特性を達成し得る一定の強化用粒子(例えば、アスベスト類)は人に対する健康危害のおそれがある。このような強化用粒子は一定の環境下で使用することはできる。しかし、本発明の粉末組成物は、好ましくは、粉末組成物又はそれから形成した物品の取扱者に健康危害をもたらさない強化用粒子を含有する。好ましくは、強化用粒子は、(1)粉末組成物又は続いてそれから形成される物品の製造中に空気中に粒子の不適切量の粉化、及び/又は(2)一旦空中にある粒子が空気中に浮遊する時間を回避するか又は可及的に少なくする物理特性(例えば、粒度及び/又は嵩密度)を示す。
【0040】
上述したように、本発明の粉末組成物は、好ましくは、少なくとも幾つかの鉱質粒子を有する一定量の強化用粒子を含む。例えば、珪灰石のような鉱質粒子は廉価であり、(例えば、一定のガラス繊維と異なり)安定して適切な品質大量に市場で容易に入手できる。あるいは、鉱質粒子を本発明の粉末組成物に含ませることができ、より高い価格の粒子(例えば、炭素繊維やガラス繊維)の使用を減少させるか排除することができる。加えて、例えば、ケイ灰石のような鉱質粒子は白色〜その他の明色形態で入手でき、例えば、炭素繊維のようなその他の類似量の粒子を使用してはできないような美的特質をもつ物品を製造できる。このような美的特質は、白色、明色及び/又は鮮明外観(light-colored, and/or bright appearance)を有する物品の製造をできる。さらに、一定の鉱質粒子の着色が、LS処理を効率的にする利点がある(それと異なり、例えば、炭素繊維の暗色は、背景の項で記載したように、LS処理を妨害し得る不適切量の赤外線エネルギーの吸収をもたらし得る)。)





(当審訳:
【0058】
幾つかの実施態様では、本発明の粉末組成物は任意のフロー剤を含有する。フロー剤は、好ましくは、LSマシンのビルド表面に粉末組成物が流動し平らにすることができるのに足る量で存在する。存在するとき、粉末組成物は、好ましくは、当該粉末組成物の総重量を基準に、約0.01wt−%〜約5wt−%、より好ましくは、約0.05wt−%〜約2wt−%、そして、さらにより好ましくは、約0.1wt−%〜約1wt−%のフロー剤を含有する。この任意フロー剤は、好ましくは、約10ミクロン未満の最大寸法を有する粒子状無機物質である。適切なフロー剤の例には、水和シリカ、無定形アルミナ、ガラス状シリカ、ガラス状ホウ酸塩、ガラス状酸化物、チタニア、タルク、雲母、ヒュームド・シリカ、カオリン、アタパルジャイト、珪酸カルシウム、アルミナ、珪酸マグネシウム、及びその混合物等がある。ヒュームド・シリカが好適なフロー剤である。)











(当審訳:
【試験方法】
【0067】
別に特記しない限り、下記の試験方法を後続の実施例に利用した。破断点伸び、破断点引張強度、及び引張弾性率試験は、国際標準化機構(ISO)3167タイプA、150mm長さの多目的犬骨試験標本を使用して行った。当該犬骨標本は、長さ80mm、厚さ4mm、幅10mmであり、試験標本の平らな面に対して平らな平面方向に配置した複数焼結層を有する(すなわち、HDT試験用LS試験標本の方向と類似の方向)。
【0068】
A.加熱撓み温度
高温のLS物品の機械特性を評価するために、ISO 75−2:2004 方法Aを使用して行った。ISO 75−2:2004 方法Aにしたがって、80×10×4ミリメートル(mm)(長さ×幅×厚さ)LS試験表面の平面位置に1.8メガパスカル(MPa)をかけた。
【0069】
B.破断点伸び
破断点伸び試験をISO 527に従って行った。本発明の粉末組成物から形成したLS試験標本の破断点伸びは、好ましくは、少なくとも約3%、より好ましくは、少なくとも約5%、そして、さらにより好ましくは、少なくとも約10%を示す。
【0070】
C.破断点引張強度
破断点引張り強度試験をISO 527に従って行った。本発明の粉末組成物から形成したLS試験標本の破断点引張り強度は、好ましくは、少なくとも約30MPa、より好ましくは、少なくとも約40MPa、そして、さらにより好ましくは、少なくとも約50MPaを示す。
【0071】
D.引張弾性率
引張り弾性率試験をISO 527に従って行った。本発明の粉末組成物から形成したLS試験標本の引張弾性率は、好ましくは、少なくとも約3,000MPa、より好ましくは、少なくとも約4,000MPa、そして、さらにより好ましくは、少なくとも約5,000MPaを示す。
【実施例】
【0072】
次の実施例により本発明を例証する。特定の実施例、物質、量及び手順は本明細書中で記載した範囲及び精神にしたがって、広く解釈すべきであることを理解すべきである。別記しない限り、全ての部、%は重量によるものであり、全ての分子量は重量平均分子量である。特記しない限り、全ての化学品は、例えば、Sigma−Aldrich,St.Louis,Missouriから市販されている。
【0073】
【表1】

【0074】
物質製造
実施例1〜8並びに比較例A及びB各々の粉末組成物の組成構成を下記の表1に示す。比較例A及びBは購入した市販粉末組成物である。
【0075】
(実施例1〜7)珪灰石含有ポリマー粉末の製造
実施例1〜7の粉末組成物の各々について、表1に列挙した物質の表示量を、Mixaco Mischer CM 150ミキサーの混合容器に加えた。毎分100回転(rpm)で、3回の45秒長さ混合工程により物質を乾燥ブレンドして均一粉末ブレンドを形成した。
【0076】
(実施例8)珪灰石含有ポリマー粉末の製造
表1に列挙した実施例8の物質の表示量をMixaco Mischer CM 150ミキサーの混合容器に加え、室温で2回30秒長さ混合工程でブレンドした。得られたブレンドを、FVB 19/25二軸スクリュー押出機(Saronno,ItalyのOMC製)中で配合し、次いで、小ペレットにペレット化した。LS用途に適する粉末を製造するために、得られたペレットを100〜300g/分の速度でAlpine Contraplex 160 Cミル中に連続的に供給し、約−50℃の温度で約12,000を16,000rpmで低温粉砕した。
【0077】
【表2】

【0078】
珪灰石含有ポリマー粉末の反射電子顕微鏡写真
図4Aは、未充填DURAFORM PA ナイロン12粉末の反射電子顕微鏡写真である。図4Bは、75wt−%のDURAFORM PA ナイロン12粉末及び25wt−%のA60珪灰石を含有する実施例1〜7の方法にしたがって製造した本発明の粉末組成物の反射電子顕微鏡写真である。図4Bに示されているように、珪灰石粒子は、ギザギザで針状粒子である。
【0079】
LS物品の製造
LS物品を製造する実施例1〜8の粉末の適性を評価するために、実施例1〜8の各粉末を、VANGUARD HS LSシステム(Valencia,CAの3D Systems製)のビルド表面に施用し、LS物品を作成するのに使用した。約0.1〜0.15mmの層厚さ、約20〜50ワットのレーザー強度設定、及び約0.15mm〜0.40mmのレーザー走査空間を使用してLS物品を製造した。得られたLS物品は良好な着色及び解像を示し、いずれの顕著なカールを示さず、それにより、実施例1〜8の粉末はLS物品を形成するのに適していたことを示す。
【0080】
機械特性
本発明のLS物品の機械特性を評価するために、VANGUARD HS LSシステムを使用して、実施例1〜8並びに比較例A及びBの各粉末から試験標本を製造した。各粉末の試験標本のうち4及び5の間で前掲試験方法の項に記載の試験方法に付した。これらの試験結果を下記の表2に示す。
【0081】
表2に示したように、実施例1〜8の試験標本は比較例Aの未充填試験標本に対して1以上の望ましい機械特性を示し、これらの実施例の各々の試験標本は比較例Aの試験標本よりも著しく高いHDTを示した。加えて、実施例1〜6の試験標本は、比較例Aの破断点引張強度と類似の破断点引張強度を示した(実施例4の試験標本は、比較例Aの試験標本の破断点引張り強度よりもわずかに高い破断点引張り強度を示した)。さらに、実施例1〜8の試験標本により示された破断点伸び及び引張り弾性率は許容できた。
【0082】
比較例B(50wt−%の球形ガラス充填粒子を含有する)も、比較例Aに対して上昇したHDTを示したが、実施例1、2及び4〜6の試験標本により示されたHDTほど高くなかった。しかし、実施例1〜6の試験標本と異なり、比較例Bの試験標本は比較例Aの試験標本に対して実質的に低下した破断点引張強度を示した。比較例Bの組成物から形成したLS物品は、約134℃を超えるHDT及び/又は約27MPaよりも高い引張り強度を必要とする一定のLS用途に適することができない場合がある。理論により制限されることを意図しないが、比較例Aの試験標本の低下した引張り強度は球形ガラス充填剤粒子の低アスペクト比に起因し得ると考えられる。
【0083】
したがって、表2の結果は、実施例1〜8の珪灰石含有試験が、未充填LS物品(すなわち、比較例Aの試験標本)に関して上昇したHDTを示すことを表示する。さらに、実施例1〜6の珪灰石含有試験標本は、慣用ガラス充填剤粒子を含有するLS物品(すなわち比較例Bの試験標本)により示されるような破断点引張強度(比較例Aの試験標本に関して)の低下を示さなかった。
【0084】
【表3】

【0085】
追加のレーザー焼結実験を実施例6及び比較例Aの粉末を使用して行い試験標本を形成した。レーザー焼結系の実験パラメーターを最適化することにより、実施例6の珪灰石含有試験標本を製造し、(i)50MPaを超え且つ(ii)比較例Aの試験標本の引張強度よりも高い双方を備えた引張強度を示した。増強された引張強度は、試験標本のその他の機械特性を妥協することなく達成した。
【0086】
本明細書中で引用した、全ての特許、特許出願、及び公開公報の完全な開示並びに電子的に入手できるものを参照として本明細書に含める。前述の詳細な説明及び実施例は理解を明確にするためにのみ与えた。本発明は示し且つ記載した正確な詳細に制限されず、当業者に自明な変更は請求の範囲に記載した発明の範囲内に含まれる。)

(イ)甲1に記載された発明
甲1には、表1における略号の説明を参考にしつつ、実施例2に着目して整理すると、次の発明が記載されているものと認める。
「Nylon 11(Arkema(Philadelphia、PA)供給RILSAN D60 ナイロン11粉末)30kg、A60(MIAL(Feldmeilen、Switzerland)供給未処理珪灰石、製品文献にしたがうと、アスペクト比は15:1〜20:1を有する)10kg、AEROSIL R920(Degussa(Frankfurt、Germany)供給表面処理無定形シリカ)0.050kgを、Mixaco Mischer CM 150ミキサーの混合容器に加え、毎分100回転(rpm)で、3回の45秒長さ混合工程により物質を乾燥ブレンドして形成した均一粉末ブレンド。」(以下、「甲1発明」という。)

イ 甲2の記載事項
甲2には、次の記載がある。なお、当審の当審訳は、特許請求の範囲以外は、甲2に対応する日本語のファミリーである特表2007−535585号に基づいて、その段落番号とともに記載した。




(当審訳:
[請求項38] 芳香族ポリエーテルケトンプラスチックの本質的に球形の粒子を含む粉末の製造方法であって、
マトリックス微粉末を液相に混合して、マトリックス微粉末の粒径が粉末の粒径よりも小さい懸濁液を形成するステップと、
懸濁液をノズルを通して噴霧して、マトリックス微粉末を含む液滴を形成するステップと、
液滴から液体成分を蒸発又は揮発させて、本質的に球形の凝集体の形態の粉末を形成するステップと、
を含む粉末の製造方法。
[請求項39] 前記液相が、前記粉末の粒径よりも短い長さを有する強化繊維または硬化繊維のうちの少なくとも1つとさらに混合される、請求項38に記載の方法。
[請求項40] 前記マトリックス微粉末が、3〜10μmの平均粒径d50を有する、請求項38に記載の方法。
[請求項41] 前記マトリックス微粉末の平均粒径d50が5μmである、請求項38に記載の方法。
[請求項42] 前記繊維の平均長さL50が20〜150μmである、請求項39に記載の方法。)




(当審訳:
【0001】
本発明は、一般に、「粉末ベースの生成的(generative)ラピッドプロトタイピング」または「無固体製造(solid free from fabrication、SFF)法」という用語でも知られるような積層製造法による、三次元の、特に三次元的に複雑な構造物または成形体の製造に適用される。このような粉末ベースの生成的ラピッドプロトタイピング法は、例えば、3Dレーザ焼結、3Dレーザ溶融、または3Dプリンティングの名称で知られている。)




(当審訳:
【0006】
これまで、材料であるポリアミド、特にPA11やPA12など、高度に網状のポリアミドが、特に最初に記載した方法で主流となってきた。)




(当審訳:
【0015】
本発明の第2の態様によれば、実質上球状の粉末粒子の形で存在し、マトリックス材料で形成される第1の分画と、補強用および/または強化用繊維の形の、少なくとももう1つの分画とを含む粉末が提供される。このマトリックス材料は、プラスチック材料でも金属でもよい。試験の結果、繊維の体積分率をその繊維長分布に応じて、例えば最大で25%、好ましくは15%まで、特に好ましくは10%までに制限したままのとき、粉末の流動能力はうまく制御できることが分かった。この試験結果は、マトリックス材料としてPA12を用いる場合、繊維分率(炭素繊維)10体積パーセントでも既に3倍の剛性率、および50%増の引張強さが得られることを示している。)




(当審訳:
【0017】
マトリックス材料がプラスチック材料で形成される場合、繊維は、好ましくは炭素繊維および/またはガラス繊維からなる群から選択される。)




(当審訳:
【0026】
マトリックス材料が、好ましくは熱可塑性プラスチックからなる群から選択される場合、この方法では、中央粒径d50が3〜10μm、好ましくは5μmのマイクロ粉末、および場合によっては、中間長L50が好ましくは20〜150μm、好ましくは40〜70μmの繊維が使用される。L50値は、繊維の50%がそれを上回り、繊維の残りの50%がそれを下回る長さを表す。)




(当審訳:
【0033】
本発明の方法を使用することによって製造できる本発明の粉末を用いる場合、積層製造法(粉末ベースの生成的ラピッドプロトタイピング法)によって、例えばSLS(粉末焼結積層造形法)またはレーザ溶融技術に従って製造した構成部品または成形体の適用範囲を顕著に拡大することができる。したがって本発明では、このような積層製造法を、内部の、好ましくは三次元骨格様の支柱を有する中空の成形体を製造するために有意義に使用することが初めて可能となる。というのは、これまで材料の機械的特性は非常に不十分であったため、熱的および/または機械的要求の高い分野では、強化構造体に関して使用することさえ不可能であったからである。)




(当審訳:
【0037】
従来方法では、粉末は、熱可塑性プラスチック、例えばPA11またはPA12で形成され、したがって成形体の機械的強度は依然として制限されている。これは、1.4Gpaの範囲の低い弾性率、および40〜50Mpaの範囲の低い引張強さによって生じる。)




(当審訳:
【0059】
粒径分布値d50が約50μmのPA12粉末を、繊維長の中央値L50が約70μで、繊維の厚さが7μmの異なる2つのタイプの炭素繊維10体積%と混合した。このようにして得られた粉末を、商業用ラピッドプロトタイピング機械で、欠陥のない成形体に加工することが可能であった。





(当審訳:
【0070】
マトリックス材料がプラスチック材料である場合、繊維を撹拌しながら混ぜ込む場合には、好ましくは、長さの中央値L50が20〜150μm、好ましくは40〜70μmのものを使用すべきである。)




(当審訳:
【0076】
粉砕の方法ステップは、この場合もさらに冷却しながら実施することができる。それに続いて、この場合もAerosil(登録商標)などのマイクロ粒子またはナノ粒子を埋め込み、あるいは集塊させることによる任意選択の平滑化処理を行う。)




(当審訳:
【0083】
マトリックス材料を、熱可塑性プラスチック材料で形成する場合、繊維は、炭素繊維および/またはガラス繊維からなる群から選択する。
【0084】
球状の粉末粒子の中央粒径は、基本的に制限されない。いずれにせよ、商業用機械では、球状の粉末粒子の中央粒径d50が20〜150、好ましくは40〜70μmの範囲にある場合に良好な結果を得ることができる。このような粉末の流動能力は、径分布の均一化によってさらに高めることができる。)




(当審訳:
【0088】
PA12をマトリックス材料として使用する場合、10、20、または30体積パーセントの繊維分率で、以下の機械的特性の改善が得られた。弾性率3.4、または6.6、または13.9Gpa、引張強さ66、または105、または128Mpa。」

ウ 甲3の記載事項
甲3には、次の記載がある。





エ 甲4の記載事項
甲4には、次の記載がある。





オ 甲5の記載事項
甲5には、次の記載がある。





カ 甲6の記載事項
甲6には、次の記載がある。





(2)対比・判断
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
a 甲1発明の「Nylon 11(Arkema(Philadelphia、PA)供給RILSAN D60 ナイロン11粉末)」は、本件発明1の「ポリアミド粉末」に相当する。
b 甲1発明の「均一粉末ブレンド」は、熱可塑性樹脂である「Nylon 11」を含む粉末ブレンドであるから、本件発明1の「強化熱可塑性粉末組成物」とは、「熱可塑性粉末組成物」である限りにおいて一致する。
c 甲1発明の「A60(MIAL(Feldmeilen、Switzerland)供給未処理珪灰石、製品文献にしたがうと、アスペクト比は15:1〜20:1を有する)」と本件発明1の「ガラス繊維」とは、「強化用粒子」である限りにおいて一致する。
そして、甲1発明の「Nylon 11」、「A60」、「AEROSIL R920」は、それぞれ30kg、10kg、0.050kgで含有してなる均一粉末ブレンドであるところ、「A60」は、均一粉末ブレンドの総重量(40.05kg)に対して、10kg含まれるものだから、「A60」は、均一粉末ブレンドに約25.0重量%(≒10×100/40.05)の割合で含まれていることになる。
そうすると、甲1発明の「均一粉末ブレンド」中に約25.0重量%の割合で「A60」を含むことと、本件発明1の「強化熱可塑性粉末組成物」中に「5重量%から70重量%」の割合で「ガラス繊維」を含むこととは、「熱可塑性粉末組成物」中に「5重量%から70重量%」の割合で「強化用粒子」を含むことにおいて一致する。
d 甲1発明の「AEROSIL R920(Degussa(Frankfurt、Germany)供給表面処理無定形シリカ)」は、気相法シリカ(ヒュームドシリカ)であって、一次粒子径がnmオーダーの粒子であり、また甲1の[071]によると、ヒュームドシリカはフロー剤であるから、本件発明1の「20μm未満のd50を有する粉末状流動剤」に相当する。
そして、「AEROSIL R920」は、均一粉末ブレンドの総重量(40.05kg)に対して、約0.12重量%(≒0.050×100/40.05)の割合で含まれていることになる。
そうすると、甲1発明の「均一粉末ブレンド」中に約0.12重量%の割合で「AEROSIL R920」を含むことは、本件発明1の「強化熱可塑性粉末組成物」中に「0.05%から5%の、20μm未満のd50を有する粉末状流動剤」を含むことに相当する。
e 甲1発明の「均一粉末ブレンド」は、「強化用粒子」として「A60(MIAL(Feldmeilen、Switzerland)供給未処理珪灰石、製品文献にしたがうと、アスペクト比は15:1〜20:1を有する)」を含有するものであるから、「強化」された「均一粉末ブレンド」であるといえ、本願発明1の「強化熱可塑性粉末組成物」に相当する。

してみると、両発明は、
「組成物の総重量に関して、
− 少なくとも一つのポリアミド粉末、
− 5重量%から70重量%の、
強化用粒子:及び
− 0.05%から5%の、20μm未満のd50を有する粉末状流動剤;
を含む、強化熱可塑性粉末組成物。」
で一致し、以下の<相違点>で相違する。

<相違点1>
ポリアミド粉末のd50が、本件発明1は「100μm未満」であるのに対し、甲1発明は不明である点

<相違点2>
強化用粒子が、本件発明1は「100から200μmの範囲内のl50を有し、− 450μm未満のlmaxを有し、− 10から25μmの範囲内のd50を有し、− 5から15の間の形状因子F:l50/d50を有する、ガラス繊維(以下、「形状に特長のあるガラス繊維」という。)」であるのに対し、甲1発明は「A60(MIAL(Feldmeilen、Switzerland)供給未処理珪灰石、製品文献にしたがうと、アスペクト比は15:1〜20:1を有する)」である点

(イ)判断
事案に鑑み、上記<相違点2>から検討する。
甲1発明は、発明特定事項として「ガラス繊維」を含まないものであるから、上記<相違点2>に係る構成は、実質的な相違点である。

ついで、甲1発明において、上記<相違点2>の構成、つまり、「A60(MIAL(Feldmeilen、Switzerland)供給未処理珪灰石、製品文献にしたがうと、アスペクト比は15:1〜20:1を有する)」に代えて、「形状に特長のあるガラス繊維」を採用することが当業者にとって容易になしえたことであるか否か検討する。

甲1には、強化用粒子の一例として、ガラス繊維が例示されている(当審訳:【0038】)一方で、ガラス繊維は相対的に高価であり、安定して適切な品質で予測可能な商業ベースの量を得るのが困難なことがあること(当審訳:【0005】)、珪灰石のような鉱質粒子が廉価であり、(例えば、一定のガラス繊維と異なり)安定して適切な品質で大量に市場で容易に入手できること、硬質粒子を粉末組成物に含ませることができ、より高い価格の粒子(例えば、炭素繊維やガラス繊維)の使用を減少させるか排除することができること(当審訳:【0040】)が記載され、実施例ではガラス繊維を含有した試験例は示されていない。
これらの記載によると、粉末組成物に含有する強化用粒子の一つとして、「ガラス繊維」が例示されてはいるものの、あくまでも一例にすぎず、ガラス繊維を積極的に含有する動機付けが存在しないし、むしろ相対的に高価であり、安定して適切な品質で予測可能な商業ベースの量を得るのが困難なガラス繊維の使用には否定的なものとなっている。
そうすると、甲1発明において、<相違点2>に係る構成とすること、すなわち「A60(MIAL(Feldmeilen、Switzerland)供給未処理珪灰石、製品文献にしたがうと、アスペクト比は15:1〜20:1を有する)」を「ガラス繊維」に換えることは当業者が容易に想到し得たものでなく、ましてや「ガラス繊維」の中でも「形状に特長のあるガラス繊維」に換えることは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
したがって、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明ではないし、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

そして、甲1の上記記載によると、上述のとおり、強化用粒子として、「ガラス繊維」の使用は否定的であると認められるから、甲2〜甲6にガラス繊維を強化繊維に用いることが記載されているとしても、甲1発明と甲2〜甲6に接した当業者が、強化用粒子として「ガラス繊維」を採用することに想到するとはいえないし、さらに「ガラス繊維」の下位概念である「形状に特長のあるガラス繊維」を採用することに想到するとはいえない。
してみると、甲1発明を主引例として、甲2〜甲6に記載された事項を適用する動機付けがないから、<相違点2>に係る構成は、当業者が容易に想到し得たものではない。
したがって、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明と、甲2〜甲6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件発明2ないし7、9ないし12について
本件発明2ないし7、9ないし12は、直接又は間接的に本件発明1を引用するものであるから、上記アで検討したのと同様の理由により、本件発明2ないし7、9ないし12は、甲1発明ではないし、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、さらに、甲1発明と甲2〜甲6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件発明8について
本件発明8は、3D印刷により、同じ組成の射出成形により製造される同じ形の物体の弾性率よりも大きい弾性率を有する物体を製造するために、ポリアミド系粉末中に「形状に特長のあるガラス繊維」を含むものであるところ、上記ア(ア)と同様の相当関係が成り立つから、上記ア(イ)で検討したのと同じ理由により、本件発明8は、甲1発明ではないし、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、さらに、甲1発明に甲2〜甲6に記載された事項を適用することで当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書、特に(2−1−1−2)において、甲1全体から、甲1に記載された発明を認定して、本件発明1は甲1に記載された発明である旨主張するも、以下のとおりである。
申立人が認定した甲1に記載された発明の構成のうち、特に構成(1b)では、強化用粒子として「ガラス繊維」を特定している。この特定は、甲1の段落[051]において、強化用粒子の一例としてガラス粒子(例えば、ガラス繊維)が例示されていることに起因しているものと認められる。しかしながら、甲1では、上述のとおり、強化用粒子としては、廉価で大量に入手可能な珪灰石等の鉱質粒子が好適であるとされており、「ガラス繊維」の使用には否定的であって、甲1の実施例では「ガラス繊維」ではなく珪灰石を実際に使用している。
してみると、申立人が認定した甲1に記載された発明は妥当であるとはいえず、それゆえ、当該主張は採用できない。

(4)申立理由1−1、申立理由1−2のまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1〜12は、特許法第29条第1項第3号に該当せず、また、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件発明1〜12は、申立理由1−1、申立理由1−2によっては取り消すことはできない。

2 申立理由2(サポート要件違反)について
(1)判断基準
特許法第36条第6項は、「第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。
同号は、明細書のいわゆるサポート要件を規定したものであって、特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明/の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
以下、この観点で検討する。

(2)本件発明の課題について
本件明細書等の段落【0014】〜【0017】によれば、3D印刷に使用することができる強化粉末状熱可塑性組成物、つまり組成物が「流動性」(又は流動能力)に優れること、自動車産業、航空産業又はスポーツの要件に適合する改善された機械的特性を示すこと、3D印刷によって「強化物体」を直接製造することを可能とする粉末状組成物を提供すること、3D印刷による強化物体であって、良好な解像度又は鮮明度、すなわち、整然として滑らかで均質な表面外観、及び正確なエッジを示す必要がある強化物体の製造のための方法を提供することを、本件発明の課題としている。

(3)判断
ア 本件発明1について
(ア)ポリアミド粉末において、100μm未満、好ましくは20から100μmのd50とすることで、滑らかで整然とした表面外観を有する正確に規定された3D物体を得るのに寄与すること(【0057】)、ガラス繊維が形状因子F=l50/d50が、5より大きく15より小さいことを条件として、ポリマー組成物を強化する特性としてガラス繊維の形態が好ましいこと(【0066】)、ガラス繊維の直径d50は4から40μm、好ましくは6から30μm、さらに良好には10から25μmの範囲内であること(【0068】)、ガラス繊維の長さl50が50から200μmの範囲内であること(【0070】)、ガラス繊維の最大長さ(lmax)、又は最大繊維は、450μm未満である必要があり、これは、より大きな最大長さ、例えば500μmの最大長さを有する繊維を含む粉末の3D印刷が、機械を通過する間、非常に困難であると判明したためであること(【0071】)、ポリアミド粉末組成物中のガラス繊維の含有率は、組成物の総重量に関して、重量で5%から70%、好ましくは重量で5%から60%、好ましくは重量で20%から40%であること(【0082】)、ポリアミド組成物中のガラス繊維の量が、上で推奨される範囲内であるとき、組成物の単純な3D印刷により、良好な機械的特性と優れた寸法精度の両方を組み合わせた3D物体を製造することが可能であること(【0083】)、特に層ごとの焼結プロセス中に、組成物が流動して平らな層を形成するのに十分な量で(重量で、0.05%から5%、好ましくは0.05%から2%の組成物を占める)流動剤も含むこと、流動剤は、ポリマー粉末の焼結の分野で一般的に使用されるものから選択され、好ましくは、実質的に球状であり、例えば、シリカ、沈降シリカ、水和シリカ、ガラス質シリカ、ヒュームドシリカ、焼成シリカ、ガラス質リン酸塩、ガラス質ホウ酸塩、ガラス質酸化物、非晶質アルミナ、二酸化チタン、タルク、マイカ、カオリン、アタパルジャイト、ケイ酸カルシウム、アルミナ及びケイ酸マグネシウムから選択されること(【0085】)が記載されている。
これらの記載によると、本件発明1の発明特定事項を有することによって、熱可塑性粉末組成物の流動性が良好となり、滑らかで均質な表面外観を有し、良好な機械的特性と優れた寸法安定性を示す強化物体が得られることを理解できる。
ついで、実施例1、5、6では、平均繊維直径(d50)が14μm、平均繊維長さ(l50)が150μm、形状因子(F:l50/d50)が10.7であるガラス繊維(GF)、ポリアミド系粉末(PA11)、流動化剤を含む組成物において、GFを順に25%、30%、40%含有するものが、良好な弾性率、熱たわみ温度(HDT)、破断応力を示し、射出成形により得られた部品よりも高い弾性率を示すこと、実施例7、8では、ポリアミド粉末(PA12)もポリアミド粉末(PA11)と同様に優れた物性を示すことが開示されている。
上記実施例によると、「ガラス繊維」のd50、l50、形状因子Fが、いずれも本件発明1の発明特定事項を満たし、レーザー焼結後には良好な物性を示して、本件発明の課題を解決することが示されている。

(イ)そして、「粉末状流動剤」について、本件明細書等には、組成物が流動して平らな層を形成するのを十分量で(重量で、0.05%から5%、好ましくは0.05%から2%の組成物を占める)流動剤を含むこと、流動剤はポリマー粉末の焼結の分野で一般的に使用されるものから選択されること、実質的に球状であること、ヒュームドシリカ等が挙げられることが記載され(【0085】)、本件実施例でヒュームドシリカを0.5重量%未満、d50が20μm未満であるものを使用して、レーザー焼結後に良好な物性を示し、本件発明の課題を解決することが示されている。

イ 本件発明2〜7、9〜12について
本件発明2〜7、9〜12は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、上記(3)アで本件発明1について述べたのと同じ理由により、本件明細書等に記載したものであり、本件明細書等の発明の詳細な説明の記載より、当業者が上記の課題を解決できると認識し得る範囲のものと認められる。

ウ 本件発明8について
本件発明8が解決しようとする課題も、上記(2)に示したとおりである。
そして、上記(3)アで述べたのと同様の理由により、本件発明8が、上記課題を解決できることを当業者が認識できる。
したがって、本件発明8は、本件明細書等に記載した発明であり、本件明細書等の発明の詳細な説明の記載より、当業者が上記の課題を解決できると認識し得る範囲のものと認められる。

(4)申立人の主張について
ア 申立人は、上記(3)ア(ア)の「ガラス繊維」において、実施例1及び5では、d50、l50、形状因子Fは1点のみで、「ガラス繊維」の含有量は2点のみの試験例しかないから、本件発明1で特定された数値範囲全体にわたって、本件発明の課題を解決できるとはいえない旨主張する。
しかしながら、実施例1及び5は、本件発明1の発明特定事項(d50、l50、形状因子F)で特定された数値範囲の中央付近の値での試験例であって、それらが良好な物性を示していることから、上記数値範囲全体においても、本件発明の課題を解決することが推認しうる。
よって、当該主張は採用できない。

イ 申立人は、上記(3)ア(イ)の「粉末状流動剤」において、実施例1及び5では、含有量が0.5重量%未満であり、d50が20μm未満である場合しか記載されていないため、含有量を特定する必要があり、「粉末状流動剤」の種類、含有量、d50に関して、本件発明1で特定された全体にわたって、本件発明の課題を解決できるとはいえない旨主張する。
しかしながら、「粉末状流動剤」は、甲1、甲2に見られるように従来から周知であり、例えば、甲1の段落【0058】(当審訳)には流動化剤を組成物中に約0.01〜約5重量%含有し、約10μm未満の最大寸法を有すること、ヒュームドシリカをはじめとして種々のものが挙げられることが記載され、甲2の段落【0076】(当審訳)には平滑化のためにAerosil(登録商標)などのマイクロ粒子またはナノ粒子を含むことが記載されているし、また甲1の実施例では、上記1(3)cに示したように約0.12重量%程度の「粉末状流動剤」を含むことが示されている。
そうすると、本件発明1で規定される「粉末状流動化剤」の種類、含有量、d50は従来からよく知られているものといえ、本件発明1の「粉末状流動剤」に係る発明特定事項であれば、本件発明の課題を解決することが理解できる。
よって、当該主張は採用できない。

(5)申立理由2のまとめ
したがって、本件特許の請求項1〜12は、特許法第36条第6項第1号の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1〜12に係る特許は、申立理由2によっては取り消すことはできない。

3 申立理由3(明確性要件違反)について
(1)判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載のみならず、本件明細書等の記載を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきものである。
以下、この観点で検討する。

(2)本件発明1について
本件発明1の「− 0.05%から5%の、20μm未満のd50を有する粉末状流動剤」における「粉末状流動剤」の発明特定事項は、それ自体明確である。

(3)本件発明2〜7、9〜12について
本件発明2〜7、9〜12は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、上記(1)で本件発明1について述べたのと同じ理由により、本件発明2〜7、9〜12に係る請求項2〜7、9〜12の記載は明確である。

(4)本件発明8について
上記(1)で述べたのと同様の理由により、本件発明8に係る請求項8は明確である。

(5)申立人の主張について
申立人は、本件明細書等には、上記「粉末状流動剤」の例示として、二酸化チタン等が記載され(【0085】)、また、3D印刷に使用されるポリマー粉末に適したあらゆる種類の添加剤の例示として、TiO2等が記載されている(【0086】)ところ、強化熱可塑性粉末組成物が二酸化チタン(TiO2)を含む場合、上記「粉末状流動剤」及び上記添加剤のうち、どちらで機能するのか不明である旨主張する。
しかしながら、本件発明1で特定しているように、「0.05%から5%の、20μm未満のd50を有する」二酸化チタン(TiO2)であれば、機能的に「粉末状流動剤」に該当すると解するのが自然である。
そうすると、本件発明1の「粉末状流動剤」として特定された粒径と配合量が適合する二酸化チタン(TiO2)であれば、「粉末状流動剤」に該当するものといえ、本件発明1に係る請求項1の記載は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとまではいえない。
してみると、本件発明1に係る請求項1は明確である。
よって、申立人の主張は採用できない。

(6)申立理由3のまとめ
したがって、本件特許の請求項1〜12は、特許法第36条第6項第2号の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1〜12に係る特許は、申立理由3によっては取り消すことはできない。


第5 むすび
したがって、本件特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1ないし12に係る特許を取り消すことはできない。
また、ほかに本件特許の請求項1ないし12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2023-12-01 
出願番号 P2020-519136
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C08L)
P 1 651・ 537- Y (C08L)
P 1 651・ 113- Y (C08L)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 細井 龍史
特許庁審判官 瀧澤 佳世
藤井 勲
登録日 2023-03-07 
登録番号 7240388
権利者 アルケマ フランス
発明の名称 熱可塑性粉末組成物及びそのような組成物の3D印刷により製造された強化三次元物体  
代理人 伊東 忠重  
代理人 伊東 忠彦  
代理人 宮崎 修  
代理人 園田・小林弁理士法人  

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