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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01L
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
管理番号 1404857
総通号数 24 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2023-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2023-10-05 
確定日 2023-12-12 
異議申立件数
事件の表示 特許第7256310号発明「静電チャック装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7256310号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7256310号の請求項1〜7に係る特許についての出願は、令和1年12月25日(優先権主張 平成30年12月27日 日本国)を国際出願日とする特願2020−563349号の一部を、令和4年2月3日に新たな出願としたものであって、令和5年4月3日にその特許権の設定登録がされ、同年同月11日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、同年10月5日に特許異議申立人 佐藤 義光(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。

第2 本件発明
特許第7256310号の請求項1〜7の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1〜7」という。)は、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1〜7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
複数の内部電極と、該内部電極の厚さ方向の両面側に設けられた絶縁性有機フィルムと、少なくとも前記内部電極および前記絶縁性有機フィルムを含む積層体の厚さ方向の上面に中間層を介して積層されたセラミックス層と、を備え、
前記中間層は、有機絶縁性樹脂および無機絶縁性樹脂の少なくとも一方と、無機充填剤および繊維状充填剤の少なくとも一方と、を含むことを特徴とする静電チャック装置。
【請求項2】
前記無機充填剤は、球形粉体および不定形粉体の少なくとも一方であることを特徴とする請求項1に記載の静電チャック装置。
【請求項3】
前記球形粉体および前記不定形粉体は、アルミナ、シリカおよびイットリアからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項2に記載の静電チャック装置。
【請求項4】
前記繊維状充填剤は、植物繊維、無機繊維および繊維化された有機樹脂からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の静電チャック装置。
【請求項5】
前記セラミックス層は、下地層と、該下地層の上面に形成され、凹凸を有する表層と、を有することを特徴とする請求項1に記載の静電チャック装置。
【請求項6】
前記絶縁性有機フィルムは、ポリイミドフィルムであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の静電チャック装置。
【請求項7】
前記絶縁性有機フィルムは、前記内部電極の厚さ方向の下面側に設けられた第1の絶縁性有機フィルムと前記内部電極の厚さ方向の上面側に設けられた第2の絶縁性有機フィルムとからなり、
前記第1の絶縁性有機フィルムの前記内部電極とは反対側の面に第1の接着剤層が設けられ、
前記第1の絶縁性有機フィルムおよび前記第1の絶縁性有機フィルムの厚さ方向の上面側に設けられた前記内部電極と前記第2の絶縁性有機フィルムの間に第2の接着剤層が設けられ、
前記第1の接着剤層の厚さ、前記第1の絶縁性有機フィルムの厚さ、前記内部電極の厚さ、前記第2の接着剤層の厚さ、前記第2の絶縁性有機フィルムの厚さ、前記中間層の厚さ、および前記セラミックス層の厚さの合計が200μm以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の静電チャック装置。」

第3 取消理由の概要
申立人は、以下の取消理由1、2により、本件発明1〜7に係る特許を取り消すべきものである旨主張した。
1 取消理由1(サポート要件)
本件発明1〜7の特許請求の範囲の記載が、下記(1)、(2)の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件発明1〜7に係る特許は、同法第113条第4号により取り消されるべきものである。
(1) 「本件特許の発明の詳細な説明には、発明によって解決される課題、及び当該課題を解決するための構成、がそれぞれ記載されているが、そのいずれもが、セラミックス層が溶射によって形成されたものであること、を前提とするものとなっている。
しかしながら、本件特許の特許請求の範囲では、請求項1乃至7のいずれにおいても、セラミックス層の具体的な製法については何ら特定されていない。このため、本件特許発明1乃至7は、中間層の表面に対し溶射によりセラミックス層を形成した構成のみならず、例えば、予め焼成された板状のセラミックス層を、接着剤(中間層に相当)を用いて積層体に接合した場合のような構成をも広く包含している。その結果、本件特許発明1乃至7は、発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えるものとなっている。」(特許異議申立書1ページ下から11行〜2ページ1行)
(2) 「本件特許の発明によって解決される課題は、静電チャック装置に吸着用の電極が設けられていることを前提としている。本件特許明細書に記載された第1の内部電極21及び第2の内部電極22のそれぞれが吸着用の電極に該当する。
しかしながら、本件特許の特許請求の範囲では、請求項1乃至7のいずれにおいても、「内部電極」が「吸着用の電極」であることは特定されていない。このため、本件特許発明1乃至7は、内部電極が吸着用の電極である構成のみならず、例えば、内部電極がヒーターやRF電極等である構成をも広く包含するものとなっている。後者の構成とした場合には、「吸着性にも優れた静電チャック装置を提供する」という課題を解決できないことは明らかである。
つまり、本件特許発明1乃至7は、発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えるものとなっている。」(特許異議申立書2ページ7〜20行)

2 取消理由2(新規性進歩性
(1) 本件発明1、6は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、本件発明1、6に係る特許は、同法第113条第2号により取消されるべきものである。
(2) 本件発明1〜7は、甲第1号証〜甲第3号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件発明1〜7に係る特許は、同法第113条第2号により取消されるべきものである。
[証拠]
甲第1号証:特開2013−229464号公報
甲第2号証:特開2010−165805号公報
甲第3号証:特開2007−251124号公報

第4 取消理由1(サポート要件)についての当審の判断
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
1 発明の詳細な説明の記載
発明の詳細な説明には、次の記載がある。
「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されているような、内部電極上に設けた絶縁性有機フィルムからなる誘電層で形成されたクーロン力により、被吸着体を吸着する静電チャック装置は、吸着力には優れている。しかしながら、この静電チャック装置は、ドライエッチング装置で使用するプラズマ環境下での耐性が低く、製品寿命が短いという課題があった。
【0007】
また、特許文献2に記載されているような、内部電極上にセラミックスを溶射して形成した誘電層を有する静電チャック装置は、プラズマ耐性がある。しかしながら、セラミックス粒子間に空隙が存在するため、安定した絶縁性を得ることが難しいばかりでなく、絶縁性確保のために誘電層を厚くしなければならない。そのため、クーロン力で被吸着体を吸着する静電チャック装置としては、高い吸着力を得ることが難しいという課題があった。
【0008】
また、特許文献3に記載されているような、内部電極上に積層した絶縁性有機フィルム上にセラミックスを溶射して形成したセラミックス層を有する静電チャック装置では、絶縁性有機フィルム上にセラミックス層を溶射形成するため、絶縁性有機フィルム上に凹凸形成が必要であった。しかしながら、この凹凸形成やセラミックス溶射により、絶縁性有機フィルムの絶縁性が低下し、静電チャック装置として使用するにはセラミックス層の厚さが少なくとも100μm必要であった。また、絶縁性有機フィルム上にセラミックスを溶射した場合、絶縁性有機フィルムの端部までセラミックス層で覆うことができなかった。絶縁性有機フィルムの端部が露出していると、静電チャック装置のプラズマ耐性が低下する。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、優れたプラズマ耐性と耐電圧性を有し、かつ吸着性にも優れた静電チャック装置を提供することを課題とする。
・・・(中略)・・・
【0055】
以上説明した本実施形態の静電チャック装置1においては、複数の内部電極20と、内部電極20の厚さ方向の両面側に設けられた絶縁性有機フィルム40と、少なくとも内部電極20および絶縁性有機フィルム40を含む積層体2の厚さ方向の上面2aに中間層50を介して積層されたセラミックス層60と、を備える。したがって、少なくとも積層体2の厚さ方向の上面2a側において、耐プラズマ性および耐電圧性が向上し、使用中の異常放電を抑制することができる。そのため、本実施形態の静電チャック装置1は、吸着性にも優れる。」

2 発明の詳細な説明に記載された発明、及び当該発明が解決する課題
上記1によると、発明の詳細な説明には、(1)内部電極上に絶縁性有機フィルムを設けた静電チャック装置においては、耐プラズマ性が低く(段落0006)、(2)内部電極上にセラミックスを溶射して形成した誘電層を有する静電チャック装置においては、絶縁性(耐電圧性)、吸着力が低く(段落0007)、(3)内部電極上に積層した絶縁性有機フィルム上にセラミックスを溶射して形成したセラミックス層を有する静電チャック装置においては、絶縁性が低い(段落0008)との課題を、内部電極20の厚さ方向の両面側に絶縁性有機フィルム40を設け、内部電極20および絶縁性有機フィルム40を含む積層体2の厚さ方向の上面2aに中間層50を介してセラミックス層60を積層し、積層体2の厚さ方向の上面2a側において、耐プラズマ性および耐電圧性を向上させることにより解決する発明(段落0055)が記載されているといえる。

3 サポート要件についての判断
本件発明1は「該内部電極の厚さ方向の両面側に設けられた絶縁性有機フィルムと、少なくとも前記内部電極および前記絶縁性有機フィルムを含む積層体の厚さ方向の上面に中間層を介して積層されたセラミックス層と」を備えることを発明特定事項とするから、同様の構成を備える上記2の発明の詳細な説明に記載された発明と同様に、上記課題を解決できる。
したがって、本件発明1、及び本件発明1の構成をすべて含む本件発明2〜7の特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合するから、取消理由1は理由がない。
(1) 上記「第3の1(1)」の申立人の主張について
上記のとおり、発明の詳細な説明に記載された発明は、内部電極20および絶縁性有機フィルム40を含む積層体2の厚さ方向の上面2aにおいて、セラミックス層60との間に中間層50を介在させることにより課題を解決するものであるから、セラミック層の製法は、課題解決に影響しない。
したがって、上記「第3の1(1)」の申立人の主張は採用できない。
(2) 上記「第3の1(2)」の申立人の主張について
「静電チャック装置」に係る本件発明1〜7における「内部電極」が、静電チャック装置の吸着用の電極を意味することは明らかであり、また、発明の詳細な説明の記載とも整合する。
したがって、上記「第3の1(2)」の申立人の主張は、「内部電極がヒーターやRF電極等である構成をも広く包含するものとなっている。」との誤った前提に基づくものであるから、理由がない。

第5 取消理由2(新規性進歩性)についての当審の判断
1 甲第1号証〜甲第3号証について
(1) 甲第1号証(特開2013−229464号公報)及び引用発明
ア 甲第1号証の記載
甲第1号証には、以下の記載がある(当審注:下線は引用箇所を示すために当審において付加した。)。
「【0014】
(一実施形態)
以下、一実施形態を図1〜図6に従って説明する。
静電チャック1は、従来の静電チャック80と同様に、ベース部材10と、接着層20と、その接着層20を介してベース部材10上に接着された静電チャック(ESC)基板30と、ESC基板30に内蔵された電極40と、電極40に電気的に接続された給電部品(コネクタ)50とを有している。
【0015】
ベース部材10は、ESC基板30を支持するための部材である。このベース部材10は、ベースプレート11と、接着層12と、その接着層12を介してベースプレート11上に接着されたヒータプレート13とを有している。
【0016】
ベースプレート11の材料としては、導電性を有する材料を用いることができる。例えばベースプレート11の材料としては、例えばアルミニウムや超硬合金等の金属材料や、その金属材料とセラミックス材との複合材料等を用いることができる。本実施形態では、入手のし易さ、加工のし易さ、熱伝導性が良好であることなどの点から、アルミニウム又はその合金を使用し、その表面にアルマイト処理(絶縁層形成)を施したものを使用している。なお、ベースプレート11の厚さは、例えば35〜40mm程度とすることができる。
【0017】
接着層12は、主としてベースプレート11とヒータプレート13との間の熱伝導を良好に維持するために設けられている。すなわち、ヒータプレート13はESC基板30上の被吸着物(例えば、シリコンウエハ)を加熱するために設けられているが、プラズマ等により被吸着物が急速に加熱された場合にその熱を外部に逃がす必要があり、また、ヒータプレート13からの熱をベースプレート11に伝導しながら被吸着物を加熱する必要がある。このため、接着層12の材料としては、熱伝導率の高い材料を選択するのが好ましく、例えばシリコーン樹脂などを用いることができる。なお、接着層12の厚さは、例えば0.5〜2.0mm程度とすることができる。
【0018】
ヒータプレート13は、金属板14と、金属板14の下面14Aに貼り付けられたフィルム状のヒータ15とを有している。ヒータ15は、電圧を印加されることで発熱し、接着層20を介してESC基板30の温度制御を行う。このヒータ15は、接着層12を介してベースプレート11上に接着されている。金属板14は、均熱板として機能する。このような金属板14の材料としては、例えばアルミニウムやその合金を用いることができる。なお、金属板14の厚さは例えば1.5〜1.8mm程度とすることができ、ヒータ15の厚さは例えば0.1〜0.5mm程度とすることができる。
【0019】
このヒータプレート13は、例えばポリイミド樹脂フィルム上にヒータ電極(金属配線)を所要の形状にパターン形成し、このヒータ電極を挟み込むように別のポリイミド樹脂フィルムを重ね合わせ、熱硬化させて一体化したもの(ヒータ15)を、金属板14に貼り合せることにより製造することができる。上記ヒータ電極の材料としては、導電性を有する材料を用いることができる。ヒータ電極の材料としては、例えばインコネル(登録商標)を用いることができる。インコネル(登録商標)はニッケル(Ni)と約15〜23%のクロム(Cr)を主成分とする耐熱合金であり、鉄(Fe)、コバルト(Co)あるいはモリブデン(Mo)を含有する場合がある。このようなインコネルは、加工性に優れ、熱間・冷間加工が可能で、耐食性にも優れている。
【0020】
接着層20は、主としてヒータプレート13とESC基板30との間の熱伝導を良好に維持するために設けられている。このような接着層20の材料としては、熱伝導率の高い材料を選択するのが好ましく、例えばシリコーン樹脂などを用いることができる。なお、ヒータプレート13の上面とESC基板30の下面との間に形成された接着層20の厚さは、例えば0.05〜0.2mm程度とすることができる。
【0021】
ESC基板30は、被吸着物が吸着保持される吸着面30A(図1(a)では、上面)を有している。また、ESC基板30には、電極40が内蔵されている。
ESC基板30の材料としては、絶縁性を有する材料を用いることができる。例えばESC基板30の材料としては、例えばアルミナ、窒化アルミニウム、窒化珪素等のセラミックスや、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂などの有機材料を用いることができる。本実施形態では、入手のし易さ、加工のし易さ、プラズマ等に対する耐性が比較的高いなどの点から、アルミナや窒化アルミニウム等のセラミックスを使用している。とくに、窒化アルミニウムを使用した場合、その熱伝導率は150〜250W/(m・K)と大きいため、ESC基板30に吸着保持される被吸着物の面内の温度差を小さくする上で好ましい。また、ESC基板30は、吸着面30Aに吸着される被吸着物のサイズ(例えば、直径が300mm)よりも一回り小さく形成されている。これにより、少なくとも上記吸着面30Aの部分がプラズマに晒されないようにしている。このESC基板30の厚さは、例えば2〜10mm程度とすることができる。
・・・(中略)・・・
【0033】
そして、静電チャック1では、コネクタ50(給電端子54等)を通じて電極40に直流電圧を印加することにより、ESC基板30と被吸着物とに反対の電荷を生じさせ、静電力(クーロン力)で被吸着物をESC基板30の吸着面30Aに吸着保持する。なお、吸着保持力は、電極40に印加される電圧が高いほど強くなる。
・・・(中略)・・・
【0051】
・上記実施形態における金属板14を省略してもよい。
・上記実施形態におけるヒータ15は、ESC基板30に対して全体に1つのヒータ電極を設けてもよいし、ヒータ電極(ヒータゾーン)を複数に分割してそれぞれ独立させて、発熱させるべくヒータ電極(ヒータゾーン)を任意に選択できるようにしてもよい。」
「【図1】


イ 引用発明
上記アによると、甲第1号証には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。
「ベース部材10と、接着層20と、その接着層20を介してベース部材10上に接着された静電チャック(ESC)基板30と、ESC基板30に内蔵された電極40と、電極40に電気的に接続された給電部品(コネクタ)50とを有し(段落0014)、
ESC基板30は、被吸着物が吸着保持される吸着面30A(図1(a)では、上面)を有し、ESC基板30の材料としては、例えばアルミナ、窒化アルミニウム、窒化珪素等のセラミックスや、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂などの有機材料を用いることができ(段落0021)
電極40に直流電圧を印加することにより、ESC基板30と被吸着物とに反対の電荷を生じさせ、静電力(クーロン力)で被吸着物をESC基板30の吸着面30Aに吸着保持する(段落0033)
静電チャック1。」

(2) 甲第2号証(特開2010−165805号公報)
甲第2号証には、以下の記載がある。
「【0024】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について例示をする。尚、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
図1は、本発明の実施の形態に係る静電チャックを例示するための模式断面図である。
尚、図1(a)は静電チャックを例示するための模式断面図、図1(b)は図1(a)におけるB部の模式拡大図である。
図1(a)、(b)に示すように、静電チャック1には、基台2、誘電体基板3、電極4が設けられている。
基台2の一方の主面(電極4の側の表面)には、無機材料からなる絶縁体層5が形成されている。また、誘電体基板3は、被処理物を載置する側の主面に形成された突起部3aと、突起部3aの周辺に形成された平面部3b、を有している。
・・・(中略)・・・
【0043】
接合層6においては、その熱伝導率を高くすることが好ましい。例えば、熱伝導率を1W/mK以上とすることが好ましく、1.6W/mK以上とすればより好ましい。このような熱伝導率は、例えば、シリコーン樹脂等にアルミナや窒化アルミニウムをフィラーとして添加することで得ることができる。また、添加の割合で熱伝導率を調整することもできる。
【0044】
接合層6の厚みは、熱伝達性を考慮すればできるだけ薄い方が好ましい。一方、基台2と誘電体基板3との間における熱膨張率の差に起因する熱せん断応力により、接合層6が剥離することなどを考慮すれば、接合層6の厚みはできるだけ厚い方が好ましい。そのため、接合層6の厚みはこれらを考慮して0.1mm以上、0.3mm以下とすることが好ましい。
【0045】
誘電体基板3としては、静電チャックに求められる様々な要求により種々の材料を用いることができる。この場合、熱伝導率、電気絶縁の信頼性を考慮すると、セラミック焼結体を用いることが好ましい。セラミック焼結体の具体例を例示すれば、アルミナ、イットリア、窒化アルミニウム、炭化珪素などを挙げることができる。」
「【図1】



(3) 甲第3号証(特開2007−251124号公報)
甲第3号証には次の記載がある。
「【0039】
絶縁性接着剤23としては、熱伝導率が1W/mk以上あるのが好ましく、より好ましくは1.6W/mK以上である。上記熱伝導率の絶縁性接着剤は、例えばシリコーン樹脂等にアルミナやチッ化アルミをフィラーとして添加することで得ることができる。」
「【図2】



2 本件発明1〜7について
(1) 対比
本件発明1と引用発明とを対比する。
ア 「静電チャック装置」に係る本件発明1と、「静電チャック」に係る引用発明とは、いずれも「静電チャック装置」の発明といえる点で共通する。
イ 本件特許の願書に添付された明細書(段落0003)には、内部電極の機能について「静電チャック装置は、内部電極となる導電性支持部材と、それを被覆する誘電性材料からなる誘電層と、を主要部として備える。この主要部により被吸着体を吸着させることができる。静電チャック装置内の内部電極に電圧を印加して、被吸着体と導電性支持部材との間に電位差を生じさせると、誘電層の間に静電気的な吸着力が発生する。これにより、被吸着体は導電性支持部材に対しほぼ平坦に支持される。」と記載されている。
そうすると、「直流電圧を印加することにより、ESC基板30と被吸着物とに反対の電荷を生じさせ、静電力(クーロン力)で被吸着物をESC基板30の吸着面30Aに吸着保持する」引用発明の「電極40」は、同様の機能を有する本件発明1の「内部電極」に相当するといえる。
ウ 一致点・相違点
以上を踏まえると、本件発明1と引用発明とは次の点で一致し、相違する。
(ア) 一致点
「内部電極を備える静電チャック装置。」
(イ) 相違点
本件発明1が、内部電極が複数であることを特定し、更に、「該内部電極の厚さ方向の両面側に設けられた絶縁性有機フィルムと、少なくとも前記内部電極および前記絶縁性有機フィルムを含む積層体の厚さ方向の上面に中間層を介して積層されたセラミックス層と、を備え、
前記中間層は、有機絶縁性樹脂および無機絶縁性樹脂の少なくとも一方と、無機充填剤および繊維状充填剤の少なくとも一方と、を含むこと」を特定しているのに対し、引用発明は、内部電極40が複数であるとは特定されておらず、また、ESC基板30の材料としては、例えばアルミナ、窒化アルミニウム、窒化珪素等のセラミックスや、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂などの有機材料を用いることができると特定されている点。

(2) 相違点についての判断
本件発明1の静電チャック装置における、「該内部電極の厚さ方向の両面側に設けられた絶縁性有機フィルムと、少なくとも前記内部電極および前記絶縁性有機フィルムを含む積層体の厚さ方向の上面に中間層を介して積層されたセラミックス層と、を備え、
前記中間層は、有機絶縁性樹脂および無機絶縁性樹脂の少なくとも一方と、無機充填剤および繊維状充填剤の少なくとも一方と、を含むこと」は、引用発明との実質的な相違であるから、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明ではない。
また、相違点に係る本件発明1の構成は、甲第1号証〜甲第3号証のいずれにも記載も示唆もされていないから、甲第1号証〜甲第3号証の記載に基づいて、引用発明において相違点に係る本件発明1の構成を採用することは、当業者が容易に想到し得るものでもない。
そして、本件発明1の構成をすべて含む本件発明2〜7についても同様に、甲第1号証に記載された発明ではなく、また、甲第1号証〜甲第3号証の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、取消理由2(新規性進歩性)は理由がない。

(3) 申立人の主張について
ア 構成要件Aについて
申立人は構成要件Aについて次の主張をした。
「(4−3−3)本件特許発明と証拠に記載された発明との対比
ア.本件特許発明1
(ア)構成要件Aについて
先に述べた通り、構成要件Aは以下のようなものである。

A.複数の内部電極と、

甲第1号証には以下の記載がある。
「このヒータブレート13は、例えばポリイミド樹脂フィルム上にヒータ電極(金属配線)を所要の形状にパターン形成し、このヒータ電極を挟み込むように別のポリイミド樹脂フィルムを重ね合わせ、熱硬化させて一体化したもの(ヒータ15)を、金属板14に貼り合せることにより製造することができる。上記ヒータ電極の材料としては、導電性を有する材料を用いることができる。」(段落0019)
甲第1号証に記載の「ヒータ電極(金属配線)」は、一対のポリイミド樹脂フィルムの間に挟み込まれ、ヒーター15の内部に配置されるものであるから、「内部電極」に該当する。

甲第1号証には、更に以下の記載がある。
「・上記実施形態におけるヒータ15はESC基板30に対して全体に1つのヒータ電極を設けてもよいし、ヒータ電極(ヒータゾーン) を複数に分割してそれぞれ独立させて、発熱させるべくヒータ電極(ヒータゾーン)を任意に選択できるようにしてもよい。」(段落0051)

上記のように、甲第1号証には、ヒータ電極を複数に分割した構成についても記載されている。従って、甲第1号証には「複数の内部電極」 すなわち、構成要件Aが記載されている。」(特許異議申立書14ページ下から9行〜15ページ15行)
しかしながら、上記「第4の3(2)」のとおり、「静電チャック装置」に係る本件発明1〜7における「内部電極」が、静電チャック装置の吸着用の電極であることは明らかであるから、上記(1)イのとおり、本件発明1の「内部電極」に対応するのは、引用発明の「電極40」であって、甲第1号証に記載された「ヒータ電極」は本件発明1の「内部電極」に対応しない。
したがって、申立人の構成要件Aについての対比は誤りである。

イ 構成要件Bについて
申立人は構成要件Bについて次の主張をした。
「(イ)構成要件Bについて
先に述べた通り、構成要件Bは以下のようなものである。

B.該内部電極の厚さ方向の両面側に設けられた絶縁性有機フィルム

甲第1号証には以下の記載がある。
「このヒータブレート13は、例えばポリイミド樹脂フィルム上にヒータ電極(金属配線)を所要の形状にパターン形成し、このヒータ電極を挟み込むように別のポリイミド樹脂フィルムを重ね合わせ、熱硬化させて一体化したもの(ヒータ15)を、金属板14に貼り合せることにより製造することができる。」(段落0019)

ポリイミドは絶縁性の材料であるから、上記の「ポリイミド樹脂フィルム」は「絶縁性有機フィルム」に該当する。甲第1号証の上記記載から明らかなように、ポリイミド樹脂フィルムは、内部電極であるヒーター電極の、厚さ方向の両面側に設けられている。

以上のように、甲第1号証には構成要件Bが記載されている。」(特許異議申立書15ページ16〜30行)
しかしながら、上記アのとおり、本件発明1の「内部電極」に対応するのは、引用発明の「電極40」であって、「ヒータ電極」ではないから、甲第1号証に記載されたヒータ電極を挟み混むポリイミド樹脂フィルムは、本件発明1の「該内部電極の厚さ方向の両面側に設けられた絶縁性有機フィルム」に相当しない。
したがって、申立人の構成要件Bについての対比は誤りである。

ウ 上記アのとおり、申立人の構成要件Aについての対比は誤りであり、上記(1)イのとおり、甲第1号証に記載された「ヒータ電極」ではなく「電極40」が、本件発明1の「内部電極」に相当する。
それに伴い、上記イのとおり、申立人の構成要件B(絶縁性有機フィルム)についての対比も誤りであり、上記(1)ウ(イ)のとおり、本件発明1において、「該内部電極の厚さ方向の両面側に設けられた絶縁性有機フィルムと、少なくとも前記内部電極および前記絶縁性有機フィルムを含む積層体の厚さ方向の上面に中間層を介して積層されたセラミックス層と、を備え、
前記中間層は、有機絶縁性樹脂および無機絶縁性樹脂の少なくとも一方と、無機充填剤および繊維状充填剤の少なくとも一方と、を含むこと」は、引用発明との相違点である。
そして、上記(2)のとおり、引用発明において、相違点に係る本件発明1の構成とすることは容易想到でない。
したがって、申立人の主張は、誤った対比に基づくものであり、採用できない。

(4) 小括
以上のとおり、本件発明1〜7は、甲第1号証に記載された発明ではなく、また、甲第1号証〜甲第3号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、取消理由2(新規性進歩性)は理由がない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1〜7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1〜7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2023-12-01 
出願番号 P2022-015912
審決分類 P 1 651・ 537- Y (H01L)
P 1 651・ 113- Y (H01L)
P 1 651・ 121- Y (H01L)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 瀧内 健夫
特許庁審判官 中野 浩昌
松永 稔
登録日 2023-04-03 
登録番号 7256310
権利者 株式会社巴川製紙所
発明の名称 静電チャック装置  
代理人 棚井 澄雄  
代理人 川越 雄一郎  
代理人 鈴木 史朗  

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