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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F02D
管理番号 1405499
総通号数 25 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2024-01-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2022-11-17 
確定日 2024-01-16 
事件の表示 特願2020−556348「内燃機関の制御方法および制御装置」拒絶査定不服審判事件〔令和2年5月14日国際公開、WO2020/095081、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2018年(平成30年)11月6日を国際出願日とする出願であって、令和3年4月23日に手続補正書が提出され、令和4年6月23日付け(発送日:同年6月28日)で拒絶の理由が通知され、その指定期間内の令和4年7月14日に意見書及び手続補正書が提出されたが、令和4年10月18日付け(発送日:同年10月25日)で拒絶査定(以下「原査定」という。)がなされ、これに対し、令和4年11月17日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし4に係る発明(以下「本願発明1」ないし「本願発明4」という。)は、令和4年7月14日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。

「 【請求項1】
機械的圧縮比を変更可能な可変圧縮比機構を備えた内燃機関の制御方法において、
内燃機関の運転中は内燃機関の運転条件に基づいて設定される基本目標圧縮比を目標圧縮比とし、
車両の停止に伴い自動に内燃機関の運転を停止して回転を停止させるアイドルストップ時は、アイドルストップ解除に伴う再始動に備えたアイドルストップ再始動用圧縮比を目標圧縮比とし、
車両の惰行走行中に自動に内燃機関を駆動系から切り離すとともに内燃機関の運転を停止して回転を停止させるセーリングストップ時は、セーリングストップ解除に伴う再始動に備えたセーリングストップ再始動用圧縮比を目標圧縮比とし、
上記セーリングストップ再始動用圧縮比は上記アイドルストップ再始動用圧縮比よりも相対的に低い圧縮比である、内燃機関の制御方法。
【請求項2】
セーリングストップの条件成立時に、内燃機関の停止に先だって、上記可変圧縮比機構により機械的圧縮比を上記セーリングストップ再始動用圧縮比へと変更する、請求項1に記載の内燃機関の制御方法。
【請求項3】
上記セーリングストップ再始動用圧縮比を、セーリングストップ中の車速が高いほど低い圧縮比として設定する、請求項1または2に記載の内燃機関の制御方法。
【請求項4】
機械的圧縮比を変更可能な可変圧縮比機構を備えた内燃機関の制御装置において、
内燃機関の運転条件に基づいて基本目標圧縮比を設定する基本目標圧縮比設定部と、
所定の車両停止時に自動に内燃機関の運転を停止して回転を停止させるアイドルストップを実行するアイドルストップ制御部と、
所定の惰行走行中に自動に内燃機関を駆動系から切り離すとともに内燃機関の運転を停止して回転を停止させるセーリングストップを実行するセーリングストップ制御部と、
内燃機関の運転中は上記基本目標圧縮比を目標圧縮比とし、アイドルストップ時はアイドルストップ再始動用圧縮比を目標圧縮比とし、セーリングストップ時は、アイドルストップ再始動用圧縮比よりも相対的に低いセーリングストップ再始動用圧縮比を目標圧縮比として、上記可変圧縮比機構を制御する圧縮比制御部と、
を備えてなる内燃機関の制御装置。」

第3 原査定の概要
原査定の拒絶の理由の概要は次のとおりである。

1.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

・請求項1〜4
・引用文献等1〜8

<引用文献等一覧>
1.特開2012−225165号公報
2.特開2008−111375号公報
3.特開2004−293411号公報
4.特開2014−196665号公報
5.国際公開第2016/194605号
6.特開2018−91392号公報
7.特開2016−113947号公報
8.特開2017−210918号公報

第4 引用文献、引用発明等
1 引用文献1
(1)引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である引用文献1には、「可変圧縮比エンジンの制御装置」に関して、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審が付した。以下同様。)。

ア 「【0001】
この発明は、機関圧縮比を変更可能な可変圧縮比エンジンの制御に関する。」

イ 「【0004】
エンジンの運転状態として、燃料噴射を行いエンジントルクを出力している通常の運転状態と、車両減速時のように燃料噴射を停止する燃料カットの運転状態とでは、燃費性能や出力性能などのエンジン運転性能を向上するために要求される機関圧縮比が異なるものとなる。このために、燃料カットの運転状態における目標圧縮比を、通常の運転状態と同じように設定したり、あるいは所定値に固定すると、エンジン運転性能を十分に向上させることができず、改善の余地が残されている。
【0005】
例えば、燃料カットを伴う減速運転状態では、ポンピングロス等による所定のエンジンブレーキが作用するが、この際、機関圧縮比を低くすることで、圧縮圧力を抑制してポンピングロスを抑制し、この抑制した分に相当するエネルギーを例えばオルタネータ(発電機)により電力として回生することによって、所定のエンジンブレーキを付与するように制御を行うことで、無駄に消費されていたエネルギーを有効に回収して、燃費性能の向上を図ることが可能となる。また、燃料カットを伴う減速運転状態として、アクセルペダルを踏み込まずに惰性により車両を走行しているコースト運転状態では、機関圧縮比を低くすることにより減速トルク(エンジンブレーキ)の効き過ぎを緩和・抑制して、車両走行距離を延長し、ひいては燃費性能を向上することができる。しかしながら、このように燃料カットの運転状態での機関圧縮比を過度に低くすると、例えばエンジン回転速度が低い場合には、次回のエンジン再始動時に、有効圧縮比の低下に起因して着火・燃焼が良好に行われず、燃焼が不安定となるおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、燃料カットを伴う運転状態における機関圧縮比を適切に制御することによって、燃料カット後のエンジン再始動時の燃焼安定性を確保しつつ、燃料カットを伴う運転状態での燃費性能の向上を図ることを目的としている。
【0007】
本発明に係る可変圧縮比エンジンには、エンジンの燃焼室もしくは吸気ポートへ燃料を噴射供給する燃料噴射装置と、機関圧縮比を変更可能な可変圧縮比装置と、が設けられる。また、エンジンコントロールユニット等の制御装置によって、車両運転状態に応じて目標圧縮比を設定し、この目標圧縮比へ向けて機関圧縮比を駆動制御するように構成されている。そして、燃料噴射を停止する燃料カット運転状態においては、上記エンジン回転速度に基づいて目標圧縮比を設定している。
【発明の効果】
【0008】
このように本発明によれば、燃料を噴射供給してエンジントルクを出力する通常の運転状態と、燃料カットを行う車両減速時などの運転状態とで、目標圧縮比の設定を切り換えており、個々の運転状態に応じた適切な目標圧縮比に設定することで、燃費性能や燃焼安定性などのエンジン運転性能の向上を図ることができ、特に、燃料カットの運転状態においては、次回のエンジン再始動時の燃焼安定性を確保し得る範囲で、エンジン回転速度に応じて目標圧縮比を可能な限り低く設定することで、圧縮圧力を抑制して無駄なエネルギーの消費を抑制することができる。」

ウ 「【0010】
以下、本発明の好ましい実施例を図面に基づいて詳細に説明する。図1を参照して、このエンジンは、シリンダヘッド1とシリンダブロック2とにより大略構成されており、かつ、ピストン3の上方に画成される燃焼室4内の混合気を火花点火する点火プラグ9を備えたガソリンエンジン等の火花点火式エンジンである。このエンジンは、周知のように、吸気カム12により駆動されて吸気ポート7を開閉する吸気弁5と、排気カム13により駆動されて排気ポート8を開閉する排気弁6と、吸気ポート7に燃料を噴射供給する燃料噴射装置としての燃料噴射弁10と、吸気コレクタ14の上流側を開閉して吸入空気量を調整するスロットル15と、を有し、かつ、機関圧縮比を変更可能な可変圧縮比装置20を備えている。なお、エンジンの形態としては図示のものに限られず、例えば燃料噴射弁10によりエンジンの燃焼室内に燃料を直接的に噴射供給する筒内直接噴射式のエンジンに本発明を適用することもできる。
【0011】
制御部11は、CPU,ROM,RAM及び入出力インターフェースを備えた周知のデジタルコンピュータであり、排気の空燃比を検出する空燃比センサ16からの空燃比センサ信号,スロットル開度を検出するスロットルセンサ信号,エンジン水温を検出する水温センサからの水温センサ信号,エンジン回転速度を検出するクランク角センサからのクランク角センサ信号,ノッキングの有無を検出するノックセンサからのノックセンサ信号,バッテリ17から供給される電力により可変圧縮比装置20のコントロールシャフト27を駆動する可変圧縮比アクチュエータ21からの回転角センサ信号や負荷センサ信号等の各種信号に基づいて、燃料噴射弁10,点火プラグ9,スロットル15,及び可変圧縮比装置20の可変圧縮比アクチュエータ21等の各種アクチュエータへ制御信号を出力して、燃料噴射量,燃料噴射時期,点火時期,スロットル開度,及び機関圧縮比等を制御する。」

エ 「【0015】
図5は、本実施例に係る燃料カット時の目標圧縮比の設定制御の流れを示すフローチャートである。本ルーチンは上記の制御部11により所定時間毎(例えば10ms毎)に繰り返し実行される。ステップS11では、図6のサブルーチンにより、燃料カットシーケンスフラグの設定処理を行う。この燃料カットシーケンスフラグは、燃料カットを行うべき車両運転状態である場合に「1」に設定され、燃料カットを行うべき車両運転状態でない場合に「0」に設定される。具体的には、図6に示すように、ステップS21でアクセル開度APOと車速VSPとを読み込み、ステップS22でアクセル開度APOが所定値thAPO以下であり、かつ、ステップS23で車速VSPが所定値thVSP以上であると判定された場合に、ステップS24へ進み、燃料カットを行うべき車両運転状態であるとして燃料カットシーケンスフラグを「1」に設定し、それ以外の場合にはステップS25へ進み、燃料カットを行うべき車両運転状態にないとして燃料カットシーケンスフラグを「0」に設定する。
【0016】
再び図5を参照して、ステップS12では、上記の燃料カットシーケンスフラグが「1」であるかを判定する。燃料カットシーケンスフラグが「1」である場合、ステップS13へ進み、図7のサブルーチンにより、燃料カットフラグの設定処理を行う。この燃料カットフラグは、エンジンが燃料カットを行うことが可能な運転状態にあるかを判定するものであり、燃料カットを実行可能なエンジン運転状態の場合に「1」に設定され、燃料カットが不可能なエンジン運転状態の場合に「0」に設定される。具体的には図7に示すように、ステップS31では、エンジン圧力(負圧)とエンジン回転速度とを読み込み、ステップS32でエンジン圧力(負圧)が所定値thBoost(負の値)以下で、かつ、ステップS33でエンジン回転速度Neが所定値thNe以上と判定された場合に、ステップS34へ進み、燃料カットが可能なエンジン運転状態であるとして、燃料カットフラグを「1」に設定し、それ以外の場合にはステップS35へ進み、燃料カットが不可能なエンジン運転状態であるとして、燃料カットフラグを「0」に設定する。
【0017】
再び図5を参照して、ステップS14では、この燃料カットフラグが「1」であるかを判定する。燃料カットを行うべき車両運転状態にあり、かつ、燃料カットが可能なエンジン運転状態にある場合には、燃料の噴射供給が停止されて燃料カットが実行されるとともに、ステップS12及びS14の双方の判定処理が肯定されて、ステップS15へ進み、図8に示す回転追従圧縮比制御処理が行われる。燃料カットを行うべき車両運転状態にある一方、燃料カットが不可能なエンジン運転状態にある場合には、燃料カットは行われず、つまり燃料の噴射供給によるエンジンの実動状態が継続されるとともに、ステップS12の判定処理が肯定、ステップS14の判定処理が否定されて、ステップS16へ進み、図9に示す負圧追従圧縮比制御が行われる。燃料カットを行うべき車両運転状態にない場合には、燃料カットは行われず、燃料の噴射供給によるエンジン実動状態を継続しつつ、ステップS12の判定処理が否定されてステップS17へ進み、図10に示す力行圧縮比制御処理が行われる。
【0018】
図8を参照して、回転追従圧縮比制御処理においては、先ずステップS41において、エンジン回転速度を読み込み、ステップS42において、読み込まれたエンジン回転速度と吸気温度とに基づいて、図11に示すような予め適合・設定された回転追従圧縮比制御マップを検索して、目標圧縮比を設定する(ステップS43)。図11に示すように、エンジン回転数が高くなるほど、同じ時間で着火が行われる機会が多くなり、エンジン始動性が良いので、目標圧縮比を低く設定し、エンジン回転数が低くなるほど、エンジン始動性(燃焼安定性)を確保するために、目標圧縮比を高く設定する。また、吸気温度が高くなるほど、エンジン始動性が良くなるので、目標圧縮比を低く設定し、吸気温度が低くなるほど、エンジン始動性が悪化するので、エンジン始動性を確保するように、目標圧縮比を高く設定している。
【0019】
つまり、エンジン回転速度と吸気温度とに基づいて、良好なエンジン始動性を確保できる範囲内で、目標圧縮比を可能な限り低く設定している。これによって、圧縮圧力が低くなり、ポンピングロスが抑制されるために、減速トルク、つまりエンジンブレーキが抑制される。従って、このように抑制された減速トルク分を補うように、オルタネータ(図示省略)により発電を行い余剰エネルギーを回生することによって、所期の減速トルク(エンジンブレーキ)を確保しつつ、余剰エネルギーを回生して燃費向上を図ることができる。また、上述したように減速トルクを抑制することによって、例えばアクセル開度を踏み込まずに惰性により走行している燃料カットを伴うコースト走行中にあっては、減速トルクの低下によって、過度な減速が抑制されて車両の走行距離が延びるために、燃費性能が向上する。」

オ 「【0022】
急加速が生じる可能性があると判定された場合、ステップS44からステップS45へ進み、図13に示すように燃料カットを行わないエンジン実動状態での目標圧縮比の設定に用いられる力行圧縮比制御マップを参照して、現在のエンジン回転速度Neと、全開出力(NA−WOT)相当のエンジン負荷と、に基づいて、目標圧縮比の設定を行う。すなわち、急加速が生じる可能性があると判定された場合には、その後に生じるであろうエンジン再始動に備えて、目標圧縮比を予めエンジン実動時の値に近づけるように、エンジン実動状態での力行圧縮比制御マップを用いて目標圧縮比を設定しているために、無駄な圧縮比の変更が抑制されるとともに、予め目標圧縮比がエンジン再始動時の値に近づくことなり、エンジン再始動時の圧縮比の変換量が少なくてすみ、応答性が向上するとともにトルク段差を抑制することができる。また、全開出力(NA−WOT)相当のエンジン負荷に対応した目標圧縮比に設定することで、過度な高圧縮比化によるノッキングやプレイグニッションの発生を確実に抑制・回避することができる。
【0023】
図9を参照して、この負圧追従圧縮比制御処理は、燃料カットを行うべき車両運転状態であるにもかかわらず、エンジンが燃料カットの実現が不可能な運転状態であるために、燃料カットは行わていない運転状態、つまり、燃料を噴射供給している通常のエンジン運転状態から燃料カット運転へと移行する過渡期の運転状態で行われる。この負圧追従圧縮比制御処理では、ステップS51において、燃料カット前に予め目標圧縮比を低くしており、特に、この実施例では目標圧縮比を最低圧縮比Eminに設定している。
【0024】
この負圧追従圧縮比制御処理による作用効果について、図12を参照して説明する。車速が所定値Ne以上での車両走行中に運転者がアクセルペダルを戻した車両減速運転時には、図12に示すように、先ずアクセル開度が所定値thAPO以下(図6のステップS22参照)となった時点t1で、燃料カットシーケンスフラグが「1」、つまり燃料カットを行うべき車両運転状態となり、その後、トルク段差を生じることのないようにエンジン圧力が所定値thBoostまで低下(負圧が発達)した時点t2で、燃料カットフラグが「1」となって燃料カットが開始される。従って、時点t1から時点t2までの期間に、上記の負圧追従圧縮比制御が行われる。
【0025】
ここで、燃料カットを行うべき車両運転状態となった時点t1で、アクセル開度の低下に応じてスロットル開度TVOを低下させても、吸気コレクタ内に残存する吸気の応答遅れの影響によりエンジン負圧は急激に低下しないため、図中の破線の特性で示すように、その後の燃料カット開始時t2におけるエンジントルクが高くなって、トルク段差を生じるおそれがあるものの、本実施例では、図中の実線の特性で示すように、目標圧縮比を最低圧縮比εminまで低下させることで、エンジントルクの低下を促進し、目標圧縮比を補正しない図中の破線の特性に比して、燃料カット開始時t2におけるエンジントルクを所定分ΔTeだけ低くすることができる。このように、燃料カット前に予め目標圧縮比を低下させておくことによって、その後のエンジン再始動時におけるトルク段差の発生を抑制もしくは解消することができる。
【0026】
なお、この実施例では負圧追従圧縮比制御における目標圧縮比を最低圧縮比εminまで低下させているが、これに限らず、例えば、エンジン負圧に応じて目標圧縮比の低下分を調整しても良い。具体的には、エンジン圧力が低くなる(負圧が発達する)ほど、エンジントルクが低下してトルク段差が小さくなることから、目標圧縮比の低下分を小さくし、つまり目標圧縮比を大きくすれば良い。
【0027】
図10を参照して、上記の力行圧縮比制御では、先ず、ステップS61においてエンジン負荷とエンジン回転速度Neとを読み込む。ステップS62では、読み込まれたエンジン負荷とエンジン回転速度Neとに基づいて、予め適合・設定された図13に示す力行圧縮比制御マップを検索して、目標圧縮比を設定する(ステップS63)。図13に示すように、目標圧縮比は、基本的にはエンジン負荷が低くなるほど有効圧縮比を高めて燃費を向上するように高い値とされる。また、エンジン回転速度Neが低い低速域では、プレイグニッションの発生を回避するように、目標圧縮比が低い値(図の例では、10)に抑制され、また、全開出力(NA−WOT)近傍の高負荷域では、ノッキングの発生を回避するために、目標圧縮比が低い値(図の例では、11または12)に抑制される。
【0028】
図13に示す力行圧縮比制御マップは、燃料を噴射供給する通常のエンジン実動時に目標圧縮比の設定に用いられるものであるが、本実施例では、上述したように、この力行圧縮比制御マップを用いて、燃料カット時に急加速の可能性がある場合の目標圧縮比を設定しているために、個別に制御マップを設定する場合に比して、記憶容量の消費を抑制することができる。」

(2)引用発明1
上記(1)の記載事項を総合すると、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明1A」という。)が記載されている。

〔引用発明1A〕
「機関圧縮比を変更可能な可変圧縮比装置20を備えたエンジンの制御方法において、
燃料カットを行うべき車両運転状態にない場合には、燃料カットは行われず、燃料の噴射供給によるエンジン実動状態を継続しつつ、エンジン負荷とエンジン回転速度Neとに基づいて力行圧縮比制御マップを検索して目標圧縮比を設定し、
アクセル開度を踏み込まずに惰性により走行している燃料カットを伴うコースト走行中にあっては、エンジン回転速度と吸気温度とに基づいて、良好なエンジン始動性を確保できる範囲内で、目標圧縮比を可能な限り低く設定する、
エンジンの制御方法。」

2 引用文献2
(1)引用文献2の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である引用文献2には、「エンジンの圧縮比制御装置及び圧縮比制御方法」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「【0001】
本発明は、エンジンの圧縮比制御装置及び圧縮比制御方法に関する。」

イ 「【0010】
本発明は、エンジン(100)の圧縮比を可変制御する圧縮比可変制御装置である。このエンジンの圧縮比可変制御装置は、エンジン(100)の圧縮比を変更する圧縮比可変機構(10)を駆動する駆動手段(42)と、駆動手段(42)への負荷が小さい運転条件のときに圧縮比を変更する圧縮比制御手段(50)と、を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、エンジンの圧縮比は、駆動手段への負荷が小さい運転条件のときに変更するので、駆動手段の要求駆動力を抑制することができ、駆動手段を小形化することが可能となり、コスト低減を図ることができる。」

ウ 「【0013】
図1は、アルコール燃料とガソリン燃料とを使用可能な可変圧縮比エンジンの第1実施形態を示す概略図である。
【0014】
可変圧縮比エンジン100は、ピストン行程を変化させて圧縮比を変更する圧縮比可変機構10を備える。圧縮比可変機構10は、ピストン21とクランクシャフト11とをアッパリンク12、ロアリンク13で連結して、コントロールリンク14でロアリンク13の姿勢を制御することで圧縮比を変更できるようになっている。」

エ 「【0045】
このような可変圧縮比エンジン100は、図1に示すように圧縮比を制御し、また可変動弁装置を制御するコントローラ50を備える。このコントローラ50はCPU、ROM、RAM及びI/Oインタフェースから構成される。
【0046】
コントローラ50には、給油検出センサ316、燃料性状判別装置317、燃料噴射弁31や点火プラグ32からの出力が入力する。コントローラ50は、これら出力に基づいてアクチュエータ42を制御してコントロールシャフト41を回転させて圧縮比を変更し、また可変動弁装置200を制御して吸気バルブ35のリフト特性(リフト量、作動角及び開閉弁時期)を変更する。」

オ 「【0085】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について図11を参照して説明する。第2実施形態は、圧縮比を中間圧縮比に維持するロック機構60やノックセンサ24を有し、クランキング時だけでなくアクセルオフ又はスロットルオフである期間にも圧縮比を変更する点で第1実施形態と相違する。以下その相違点を中心に説明する。なお、第2実施形態では、上述した第1実施形態と同様の機能を果たす部分には同一の符号を用いており、重複する説明は適宜省略する。
【0086】
図11は、第2実施形態の可変圧縮比エンジン400の概略図である。
【0087】
可変圧縮比エンジン400は、基本的に第1実施形態の可変圧縮比エンジン100と同様の構成だが、ロック機構60やノックセンサ24を有する点で相違している。
【0088】
ロック機構60は、コントロールシャフト41に発生するトルクが最大となる中間圧縮比で車両が通常走行する場合において、そのトルクによってコントロールシャフト41が回転して圧縮比が変化しないようにコントロールシャフト41の回転を防止する。
【0089】
このロック機構60は、例えばコントロールシャフト41のシャフト端面に設けられた位置決め穴61と、コントロールシャフト41の回転を防止するために位置決め穴61に挿入される図示しないピンから構成される。そして、車両が中間圧縮比で走行する場合に、油圧などによって図示しないピンを押し出し、位置決め穴61に挿入して、コントロールシャフト41がトルクによって回転するのを規制する。
【0090】
ノックセンサ24は、シリンダブロック20の側部に設けられる。ノックセンサ24は、燃焼室内でノッキングが発生した場合に、そのノッキングによって生じる振動を検知してコントローラ50に出力する。
【0091】
コントローラ50には、ノックセンサ24からの出力のほか、冷却水温度やアクセルペダル踏込量などが入力する。
【0092】
第2実施形態の可変圧縮比エンジン400では、第1実施形態と同様に燃焼性状を判別して、クランキング時に圧縮比を燃料性状に応じた圧縮比に変更するだけでなく、コントロールシャフト41に発生するトルクが通常運転時よりも小さくなるアクセルオフ又はスロットルオフである期間においても圧縮比を変更する。
【0093】
次に、図12〜図15を参照して、使用燃料に応じて最適な圧縮比となるようにエンジン始動時からエンジン停止時までにコントローラ50が実行する処理について説明する。
【0094】
図12は、コントローラ50が実行する処理を説明するフローチャートである。この処理は、キースイッチがOFFからONに操作されるとともに実行され、一定周期、例えば10ミリ秒周期のもとで可変圧縮比エンジン400が停止するまで実行される。
【0095】
まず、ステップS1では、コントローラ50は燃料噴射及び点火をしていないか否かを、燃料噴射弁31及び点火プラグ32からの出力信号に基づいて判断する。燃料噴射及び点火がされていない場合にはクランキング時と判断して、ステップS2に移る。また、燃料噴射及び点火がされている場合には通常運転時と判断して、ステップS6に移る。
【0096】
ステップS2では、コントローラ50は、クランキング時に行う始動時処理を実施して、処理を終了する。この始動時処理の詳細については、図13を参照して後述する。
【0097】
ステップS6では、コントローラ50は、車両がアイドル運転をしているか否かを判断する。アイドル運転をしていない場合には、ステップS3に移る。また、車両がアイドル運転をしている場合には、ステップS7に移る。
【0098】
ステップS7では、コントローラ50は、アイドル時処理を実施して、処理を終了する。このアイドル時処理の詳細については、図15を参照して後述する。
【0099】
ステップS3では、コントローラ50は、エンジンを停止する停止信号の有無を判断する。停止信号が無い場合には運転継続中と判断してステップS4に移り、停止信号があった場合にはステップS5に移る。
【0100】
ステップS4では、コントローラ50は通常運転時処理を実施して、処理を終了する。この通常運転時処理の詳細については、図14を参照して後述する。
【0101】
ステップS5では、コントローラ50は停止時処理を実施して、処理を終了する。この停止時処理では、第1実施形態と同様に圧縮比を中間圧縮比に変更してからエンジンを停止する処理を行う。そのため、次回エンジン始動時における可変圧縮比エンジン400の圧縮比は常に中間圧縮比となる。
【0102】
図13は、クランキング時に行う始動時処理を示すフローチャートである。
【0103】
まず、ステップS26では、コントローラ50は、燃料性状判別装置317が正常か否かを判断する。つまり、ガソリン燃料やアルコール燃料を燃料性状判別装置317によって検出したときの検出値を予め実験などにより設定しておき、所定範囲外の検出値が検出された場合に燃料性状判別装置317が正常に作動していないと判断するようにする。そして、燃料性状判別装置317が異常であると判断した場合には、ステップS27に移る。また、燃料性状判別装置317が正常に作動していると判断した場合には、ステップS21に移る。
【0104】
ステップS27では、コントローラ50は異常フラグを1に設定し、ステップS25に移る。
【0105】
ステップS21では、コントローラ50は燃料性状判別装置317の検出値に基づいて目標圧縮比を設定し、ステップS28に移る。
【0106】
ステップS28では、コントローラ50は、可変圧縮比エンジン400が冷機状態にあるか否かを判断する。冷機状態であるか否かの判断は、冷却水温度の検出値Tが基準値T0以下であるかどうかで判断する。そして、T≦T0の場合には、可変圧縮比エンジン400は冷機状態にあると判断する。一方、T>T0の場合には、可変圧縮比エンジン400は暖機状態にあると判断する。
【0107】
可変圧縮比エンジン400が冷機状態にある場合には、ピストン21とシリンダ22とのフリクションなどが大きくなるので、圧縮比を変更するときに要求されるアクチュエータ42の駆動力も大きくなる。このような大きなフリクションは圧縮行程での圧縮や燃焼などによる圧力上昇によってアクチュエータ負荷に追加されるので、アクチュエータ負荷が特に大きくなってしまう。そのため、冷機状態にある場合には、圧縮比を変更しないようにする。したがって、可変圧縮比エンジン400が暖機状態にあると判断された場合に、ステップ22に移ってステップS21で設定した圧縮比に基づいて圧縮比を中間圧縮比から低圧縮比又は高圧縮比に変更する。ステップS22以降の処理については第1実施形態と同様であるため、便宜上説明を省略する。
【0108】
可変圧縮比エンジン400が冷機状態にあると判断された場合は、圧縮比を変更せずにステップS25に移る。
【0109】
第2実施形態では、燃料性状判別装置317が異常と判断された場合や可変圧縮比エンジン400が冷機状態にあると判断された場合には、クランキング時に圧縮比を変更することなく、エンジン始動時に設定されている中間圧縮比のままステップS25で燃料噴射及び点火を開始する。このとき、コントロールシャフト41は、上述したロック機構60によって位置決めされているので、コントロールリンク角度θがθcとなってコントロールシャフト41に発生するトルクが最大となる中間圧縮比で車両が通常走行しても、そのトルクによってコントロールシャフト41が回転して圧縮比が変化することが防止される。
【0110】
図14は、通常運転時に行う通常運転時処理を示すフローチャートである。
【0111】
ステップS41では、コントローラ50は車両が通常運転している間は圧縮比を変更せず圧縮比を維持し、ステップS42に移る。
【0112】
ステップS42では、コントローラ50は燃料性状判別装置317の動作が異常であり、異常フラグが1となっているか否かを判断する。異常フラグが1となっている場合には、燃料性状判別装置317に基づいて目標圧縮比を設定できないのでステップS43に移る。燃料性状判別装置317が正常に作動しており、異常フラグが1となっていない場合には、一旦処理を抜ける。
【0113】
ステップS43では、コントローラ50はノックセンサ24に基づいて燃焼室内でのノッキングを検出して目標圧縮比を設定し、一旦処理を抜ける。
【0114】
つまり、燃料性状判別装置317の作動が異常である場合には、ノックセンサ24によって燃料性状を判別する。ガソリン燃料はアルコール燃料よりもオクタン価が低いので、同じ圧縮比であってもガソリン燃料の方がアルコール燃料よりもノッキングが発生しやすい。そのため、始動時処理で圧縮比を変更せずに中間圧縮比で走行すると、運転状況によってはガソリン燃料ではノッキングが発生することがあり、このノッキングをノックセンサ24で検出することによってガソリン燃料とアルコール燃料とを判別することができる。
【0115】
図15は、アクセルオフ又はスロットルオフである期間としての、アイドリングの最中(燃料カットが行われる減速コーストを含む)に行うアイドル時処理を示すフローチャートである。
【0116】
ステップS71では、コントローラ50は、可変圧縮比エンジン400が冷機状態にあるか否かを判断する。冷機状態であるか否かの判断は、冷却水温度の検出値Tが基準値となる所定値T0以下であるかどうかで判断し、T≦T0の場合には冷機状態と判断する。一方、T>T0の場合には暖機状態と判断する。そして、可変圧縮比エンジン400が暖機状態にあると判断した場合には、ステップS72に移る。また、可変圧縮比エンジン400が冷機状態にあると判断した場合には一旦処理を抜け、可変圧縮比エンジン400が暖機されるまで待機する。
【0117】
ステップS72では、コントローラ50は目標圧縮比が設定されているか否かを判断する。つまり、燃料性状判別装置317が正常に作動している場合には始動時処理で設定した目標圧縮比を検出し、燃料性状判別装置317の作動が異常である場合には通常運転処理でノックセンサ24に基づいて設定した目標圧縮比を検出し、ステップS73に移る。なお、燃料性状判別装置317の作動が異常であっても、まだノックセンサ24に基づいて目標圧縮比が設定されていない場合には一旦処理を抜け、目標圧縮比が設定されまで待機する。
【0118】
ステップS73では、コントローラ50はアクチュエータ42を制御し、低圧縮比又は高圧縮比のうち目標圧縮比に近い方の圧縮比に変更するように圧縮比変更を開始し、ステップS74に移る。
【0119】
ステップS74では、コントローラ50は、加速要求があるか否かをアクセルペダル踏込量の検出値ΔAに基づいて判断する。
【0120】
つまり、圧縮比を変更している最中に加速要求があって加速を開始すると、コントロールリンク14とコントロールシャフト41の連結部に生じる引っ張り荷重が増大し、コントロールシャフト41に大きなトルクが発生する。そうすると、コントロールシャフト41を回転させるアクチュエータ42の要求駆動量も大きくなってしまう。そこで、第2実施形態では、圧縮比を変更している最中に加速要求があるか否かを判断し、加速要求があった場合には後述するステップS75からステップS77までの処理を実行する。
【0121】
加速要求があるか否かは、アクセルペダル踏込量の検出値ΔAが基準値ΔA0以上であるかどうかで判断し、ΔA≧ΔA0である場合には加速要求があると判断する。一方、ΔA<ΔA0である場合には加速要求はないと判断する。そして、加速要求が無い場合には処理を一旦抜け、加速要求がある場合にはステップS75に移る。
【0122】
ステップS75では、コントローラ50は、コントロールリンク角度θがθ1<θ<θ2の範囲にあるか否かを判断する。コントロールリンク角度θがθ1<θ<θ2でない場合には、加速要求に応じて加速してもコントロールシャフト41に生じるトルクは小さいと判断し、ステップS77に移る。これに対して、コントロールリンク角度θがθ1<θ<θ2である場合には、加速要求に応じて加速するとトルクが大きくなると判断し、ステップS76に移る。
【0123】
ステップS76では、コントローラ50は、燃焼室内に導入される吸気量を制限して加速する吸気量制限加速制御を実行し、その後処理を抜ける。
【0124】
つまり、コントローラ50は可変動弁装置200を制御することによって吸気バルブ35のリフト量を低下させる。このように、加速要求によって必要とされる吸気量よりも少ない吸気量を燃焼室23に導入することで、コントロールシャフト41に生じるトルクを抑制する。なお、吸気バルブ35のリフト量を低下させるだけでなく、吸気バルブ35の作動角や開閉時期を調整したり、スロットル開度を補正したりして、吸気量を制限するようにしてもよい。
【0125】
ステップS77では、コントローラ50は吸気量を制限することなく、加速要求に応じて加速する通常加速制御を行い、処理を抜ける。
【0126】
図16は、コントローラ50が実行するアイドル時処理の動作を示すタイムチャートである。このタイムチャートは、アイドリング時に圧縮比を中間圧縮比から低圧縮比に変更する場合を例示したものである。
【0127】
第2実施形態においても、エンジン停止時に圧縮比を中間圧縮比にして停止するため、エンジン始動時の圧縮比は中間圧縮比となっている(図16(A))。
【0128】
ここで、燃料性状判別装置317又はノックセンサ24によって燃料タンク311に蓄えられている燃料がガソリン燃料であると判断されて目標圧縮比が設定され(S21又はS43)、可変圧縮比エンジン400が冷機状態にないと判定されると(S71でNo)、コントローラ50は圧縮比を中間圧縮比から低圧縮比へ変更する(S73)。つまり、車両がアイドルリング状態になると(S6でYes)、時刻t4において圧縮比の変更が開始される(図16(A);S73)。そして、時刻t5で加速要求があった場合に(図16(E);S74でYes)、コントロールリンク角度θがθ1<θ<θ2にあると(S75でYes)、吸気バルブ35の閉弁時期をエンジン回転速度の上昇に応じて吸気量が僅かに増加するように徐々に遅角し(図16(C)、図16(F))、時刻t6までは吸気バルブ35のリフト量を小さく設定することで燃焼室内に導入される吸気量を制限する(図16(E);S76)。つまり、コントロールリンク角度θがθ1<θ<θ2である場合に、加速要求に応じて加速するとトルクが大きくなってアクチュエータ42への負荷が大きくなるため、トルクが小さくなるコントロールリンク角度θがθ≦θ1又はθ≧θ2になるまで吸気量を制限する。このように吸気量を低減することでピストンが受ける圧縮圧力や燃焼圧力などを抑制して、コントロールシャフト41に生じるトルクを低減させる。そして、時刻t7において中間圧縮比から低圧縮比への変更が完了する。
【0129】
以上により、第2実施形態では下記の効果を得ることができる。
【0130】
始動時処理(ステップS2)では、燃料性状判別装置317の検出値に基づいて圧縮比を変更するため、燃料性状に応じた圧縮比で車両を運転することはでき、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0131】
アイドル時処理(ステップS7)では、クランキング時に圧縮比を変更しない場合であっても、通常運転時よりもトルクが小さくなるアイドリング時に圧縮比を変更する。これにより、燃料性状に応じた圧縮比で可変圧縮比エンジン400の運転を行うことができ、燃費の向上を図るとともに出力特性の向上を図ることが可能となる。
【0132】
また、始動時処理(ステップS2)での圧縮比の変更は、ピストンなどのフリクションが低減する暖機状態にあるクランキング時に行い、さらに可変動弁装置200によって吸気量も制限するので、コントロールシャフト41に生じるトルクを小さくすることができる。これにより、コントロールシャフトを駆動するアクチュエータ42の要求駆動力を抑制することができるので、アクチュエータ42を小形化することが可能となり、コスト低減を図ることができる。
【0133】
さらに、アイドル時処理(ステップS7)では、圧縮比を変更している最中に加速要求があっても、トルクが小さくなるコントロールリンク角度になるまで吸気量を制限する。これにより、ピストンが受ける圧縮圧力や燃焼圧力を抑制して、コントロールシャフト41に生じるトルクを低減させることができるので、アクチュエータ42を小形化することが可能となり、コスト低減を図ることができる。
【0134】
さらに、可変圧縮比エンジン400はノックセンサ24を備えるため、通常運転時におけるノッキングを検出することによって燃料性状を判別することができる。そのため、燃料性状判別装置317が故障などした場合であっても燃料性状に応じた圧縮比で車両を運転することができ、燃費の向上を図るとともに出力特性の向上を図ることが可能となる。
【0135】
本発明は上記した実施形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなし得ることは明白である。
【0136】
例えば、第2実施形態の停止時処理(ステップS5)においても、第1実施形態と同様に、エンジンを停止するときに中間圧縮比にして停止するのではなく、高圧縮比にして停止するようにしてもよい。そうすると、適正圧縮比が低圧縮比である場合には、圧縮比を高圧縮比から低圧縮比に変更する場合には、コントロールシャフト41はコントロールリンク14に生じる引っ張り荷重の補助を受けるので、速やかに低圧縮比化することができる。また、適正圧縮比が高圧縮比である場合には、圧縮比を変更する必要がない。これにより、コントロールシャフト41を制御するアクチュエータ42をさらに小型化することができ、コストの低減を図ることが可能となる。」

(2)引用発明2
上記(1)の記載事項を総合すると、引用文献2には、第2実施形態として、以下の発明(以下「引用発明2A」という。)が記載されている。

〔引用発明2A〕
「ピストン行程を変化させて圧縮比を変更する圧縮比可変機構10を備える可変圧縮比エンジン400の制御方法において、
燃料噴射及び点火がされている通常運転時は、燃料性状判別装置317の検出値に基づいて設定された目標圧縮比を維持し、
燃料カットが行われる減速コーストを含むアイドリングの最中には、コントローラ50はアクチュエータ42を制御し、低圧縮比又は高圧縮比のうち目標圧縮比に近い方の圧縮比に変更するように圧縮比変更を行う、
エンジンの制御方法。」

3 引用文献3
(1)引用文献3の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である引用文献3には、「圧縮比を変更可能な内燃機関とその制御方法」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、圧縮比を変更可能な内燃機関とその制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、圧縮比を変更可能な機能を有する種々の内燃機関が提案されている。圧縮比を高く設定すると効率よく動力を得ることができるが、ノッキングが発生しやすい。このため、圧縮比は、運転条件に応じて変更される。具体的には、内燃機関の負荷が低い場合には、ノッキングが発生しにくいため圧縮比は高く設定される。一方、内燃機関の負荷が高い場合には、ノッキングが発生しやすいため圧縮比は低く設定される。」

イ 「【0006】
本発明は、上記問題点を解決するためになされ、可変圧縮比エンジンを始動する際の始動性の向上を図ることを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段およびその作用・効果】
かかる課題の少なくとも一部を解決するため、本発明の第1の圧縮比を変更可能な内燃機関とその制御方法では、内燃機関の停止要求を検出した場合には、圧縮比変更機構を制御して圧縮比を内燃機関の始動時の始動時目標圧縮比に変更することと、内燃機関の運転を停止することとを実行する。
【0008】
このため、内燃機関の停止要求に基づき内燃機関の運転を停止させる際に、圧縮比を、次回の内燃機関始動に先だって予め変更させておくことができ、その変更圧縮比を次回の内燃機関始動に備えた始動時目標圧縮比とすることが可能である。よって、次回始動時には圧縮比変更のための時間が不要となり、始動性が向上する。こうした始動性向上の一例として、次のような例を示すことができる。
【0009】
従来した公報の従来技術では、圧縮比は内燃機関の停止時の状態のままであり、次回の始動の際に、冷却水温度に応じて圧縮比を変更する。今、内燃機関の停止時に圧縮比が低圧縮比であったとする。停止後の内燃機関の冷却が進むにつれて冷却水温度も低下するので、上記の従来技術では、次回の始動時において、内燃機関停止時の低圧縮比から高圧縮比に変更を要し、圧縮比変更程度も大きいことからその時間も長くなる。しかし、上記の本発明によれば、内燃機関の運転停止時において、次回の始動に応じた圧縮比(高圧縮比=始動時目標圧縮比)に予め変更しておくことが可能であるので、始動性が高まる。
【0010】
上記した本発明の第1の内燃機関では、次のような態様を採ることができる。即ち、エンジン停止後にエンジンを再始動する際の目標圧縮比を、前記エンジンを停止する状況に応じて決定し、こうして定めた目標圧縮比となるよう、圧縮比をエンジンの停止状況下において予め変更する。こうすれば、圧縮比を、エンジン停止の状況で定まる次回のエンジン始動(再始動)に備え、当該エンジン始動に先立ち変更するので、やはり、次回のエンジン始動時の始動性を高めることができる。
【0011】
また、他の態様としては、内燃機関の運転中において車両の状況或いは内燃機関の運転履歴に基づき所定の自動停止条件が成立すると内燃機関の運転を自動的に停止する自動停止手段と、運転者の内燃機関停止意図に基づいて内燃機関の運転を停止する手動停止手段とを備えるものとした上で、停止要求検出手段による停止要求検出を、自動停止手段に基づく停止要求と、手動停止手段に基づく停止要求とで区別すると共に、停止時制御手段による停止時変更制御を、自動停止手段に基づく停止要求の検出時と、手動停止手段に基づく停止要求の検出時で、始動時目標圧縮比が異なるように実行することもできる。
【0012】
そして、このように異なる圧縮比(始動時目標圧縮比)となるようにするに当たっては、自動停止手段による停止要求時では、手動停止手段による停止要求時よりも始動時目標圧縮比を低い圧縮比とすること、つまり、自動停止手段による停止要求時では低圧縮比とし、手動停止手段による停止要求時では高圧縮比とすることができる。
【0013】
このように自動・手動の停止手段による停止要求に応じて目標圧縮比を変更するものであっても、圧縮比を、次回の内燃機関始動に備え、当該内燃機関始動に先立ち変更するので、やはり、次回の内燃機関始動時の始動性を高めることができる。
【0014】
また、自動・手動の停止手段による停止要求に応じて目標圧縮比を変更することで、次の利点がある。
例えば、信号や踏切等で一時的に車両を停止すると、自動停止条件が成立して自動停止手段による停止要求が出され、内燃機関は停止制御される。信号の切り替わり或いは列車通過に伴い運転者がシフト操作やアクセル操作を行うと、自動停止条件が解除されるので、内燃機関は始動制御される。よって、自動停止手段による停止要求が出されこれにより内燃機関が停止している停止期間は、比較的短時間であると予想されるので、この内燃機関停止期間で冷却水温度が大きく低下する事態は起きにくい。
【0015】
このため、自動停止手段による停止要求が出された場合には、内燃機関の冷却水温度の大きな低下が起きにくいことから、内燃機関の停止時の圧縮比を、次回の内燃機関の始動を行う以前に低圧縮比側(始動時目標圧縮比)に変更することができる。よって、次回の内燃機関始動の際には、低圧縮比側の圧縮比で内燃機関の運転を再開(始動)できるので、気筒内の内圧(圧縮比)が上がりすぎることによる始動時の振動の増大を抑制できる。この結果、自動停止手段による停止要求が出された後に行う内燃機関始動に際しては、内燃機関の始動時振動を低減できるので、運転者に違和感を与えないようにでき、好ましい。
【0016】
その一方、こうした自動停止手段ではなく手動停止手段による停止要求が出されたような状況は、例えば、運転者が内燃機関を停止して車両を降りたりするような状況であると考えられる。こうした運転者の意図による内燃機関の停止期間は、自動停止手段による場合と相違し、比較的長時間に及ぶことが予想され、内燃機関の冷却水温度は比較的大きく低下すると予想される。
【0017】
このため、手動停止手段による停止要求が出された場合には、内燃機関の冷却水温度の低下が大きいことから、内燃機関の停止時の圧縮比を次回の内燃機関の始動を行う以前に高圧縮比側(始動時目標圧縮比)に変更することができる。よって、次回の内燃機関始動の際には、暖機が不十分な内燃機関において、高圧縮比側の圧縮比であるために筒内温度を上げることができ始動性を向上させることができる。この結果、手動停止手段による停止要求が出された後に行う内燃機関始動に際しても、始動性をより高めることができ、好ましい。
【0018】
更に、上記した自動・手動の停止手段を備えるものにおいて、自動停止手段による内燃機関停止の際には、内燃機関の暖機状況を検出する暖機センサの出力に基づいて異なる始動時目標圧縮比となるようにすることもできる。
【0019】
こうすれば、自動停止手段に基づく内燃機関の停止状況下であっても、内燃機関の暖機状況に変化が起きれば、例えば、この内燃機関停止が長期間に亘るために内燃機関の暖機が不十分となれば、その際の始動時目標圧縮比を内燃機関暖機が十分である場合と異なる始動時目標圧縮比とできる。このため、自動停止手段に基づく内燃機関停止状況下でありながら内燃機関の暖機が不十分であれば、内燃機関停止時の圧縮比を次回の内燃機関始動を行う以前に高圧縮比側(始動時目標圧縮比)に変更することができる。よって、長期に亘る自動停止手段に基づく内燃機関停止の後の内燃機関始動の際には、高圧縮比側の圧縮比により燃料温度を高くして燃料を燃焼させて、内燃機関を始動できることになり、始動性をより高めることができ、好ましい。
【0020】
なお、前記停止時制御手段による停止時変更制御と機関停止制御の実行順については任意であるが、両制御をこの順に実行するようにすることができる。
こうすれば、次回の始動に備えた圧縮比変更を停止前の内燃機関の運転状況下で行うことができるので、圧縮比変更は、気筒内の内圧が燃料燃焼によって高い状態で行われる。よって、この内圧が作用する向きと同じ側に圧縮比変更機構が駆動する場合には、気筒内の高い内圧をこの圧縮比変更機構の駆動力の補助とでき、当該駆動力の低減を図ることができる。」

ウ 「【0031】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の形態を実施例に基づき説明する。図1は第1実施例に係る可変圧縮比エンジン10を含むエンジンシステムの構成を概略的に示す説明図である。
【0032】
図示するように、本実施例に係るエンジンシステムは、気筒内噴射型の可変圧縮比エンジン10と、その運転状態を制御する制御ユニット40と、可変圧縮比エンジン10の図示しないクランクシャフトと連結されたトランスミッション60およびエンジンの運転状態を検出する各種センサを備えている。可変圧縮比エンジン10は、内部に複数のシリンダ11を有するシリンダブロック12と、シリンダ11内を往復動するピストン13と、シリンダブロック12の底部に配置されたクランクケース14と、シリンダブロック12(シリンダ11)の上部に配置されたシリンダヘッド15を備えている。
【0033】
可変圧縮比エンジン10には、圧縮比を所定の範囲内において任意に設定可能な可変圧縮比機構20が備えられている。可変圧縮比機構20は、シリンダブロック12をクランクケース14に対してピストン13の運動方向(シリンダ11の軸方向)に移動させることによって圧縮比を変更する。具体的には、シリンダブロック12側に備えられたアクチュエータ21(例えば、モータ)によってシリンダブロック12の長手方向両側に配置された偏心カム(図示しない)を駆動して、シリンダブロック12をクランクケース14から離間若しくは密着させる。シリンダブロック12がクランクケース14から離間する方向へ移動させることによって圧縮比は低くなる。
【0034】
シリンダヘッド15は、各シリンダ11毎に吸気ポート16および排気ポート17を有している。各吸気ポート16には、吸気側カムICによって駆動されて吸気ポート16を開閉する吸気バルブ161が配置されており、各排気ポート17には、排気側カムECによって駆動されて排気ポート17を開閉する排気バルブ171が配置されている。
【0035】
各吸気ポート16には、吸気管18の分岐端が連結され、各排気ポート17には、排気管(排気マニホールド)19の分岐端が連結されている。吸気管18の途中には、燃焼室への流入吸気量を制御する吸気制御バルブ30が配置されている。
【0036】
本実施例における可変圧縮比エンジン10は気筒内噴射型の内燃機関であり、シリンダヘッド15の各シリンダ11に対応する位置には、燃料噴射弁IJが配置されている。各燃料噴射弁IJには、昇圧ポンプ31によって昇圧された高圧燃料が燃料デリバリパイプFDを介して供給される。昇圧ポンプ31は、例えば、機械的に駆動されるポンプまたはモータによって駆動されるポンプであり、所定の燃料圧力範囲内において燃料圧力を任意の圧力に昇圧することができる。
【0037】
シリンダヘッド15には、この他に、各シリンダ11に対応する位置に火花点火のための点火プラグ32が配置されている。
【0038】
制御ユニット40は、演算処理機能、マップ、プログラム等を格納する記憶機能を備えている。制御ユニット40には、アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルポジションセンサ50、車両速度を検出する車速センサ51、機関回転数を検出するクランクポジションセンサ52、燃料デリバリパイプFD内の燃料圧力(燃料噴射圧力)を検出する燃圧センサ53、ブレーキペダルの踏込量を検出するブレーキポジションセンサ54、トランスミッションのシフト位置を検出するシフトポジションセンサ55、エンジンの暖機状況を冷却水温度で検出するための冷却水温度センサ56といった各種センサが接続されており、可変圧縮比エンジン10の運転状態を検出する各種センサからの信号が入力される。制御ユニット40には、燃料噴射弁IJ、可変圧縮比機構20のアクチュエータ21、吸気制御バルブ30、昇圧ポンプ31、点火プラグ32が接続されている。この制御ユニット40は、上記した各センサからの入力に基づいて燃料噴射弁IJ等の各機器を駆動制御し、エンジンの運転制御を司る。
【0039】
例えば、制御ユニット40は、アクセルポジションセンサ50や車速センサ51からのセンサ出力に基づきエンジンの負荷をマップ等から演算し、その負荷に応じて圧縮比を高低変更制御する。この圧縮比変更の際には、目標となる圧縮比となるように可変圧縮比機構20のアクチュエータ21を駆動制御する。また、制御ユニット40は、アクセルポジションセンサ50、ブレーキポジションセンサ54や車速センサ51およびシフトポジションセンサ55からのセンサ出力に基づき車両の一時停止状況(例えば、信号待ちや踏切停止等)を判別し、こうした一時停止時にあってはエンジンを自動停止するエンジン制御(いわゆるエコラン制御)を行う。このエコラン制御では、制御ユニット40は、エンジン自動停止後のシフト操作やアクセル操作をシフトポジションセンサ55やアクセルポジションセンサ50からのセンサ信号で受けると、エンジンを再始動させる。なお、制御ユニット40は、こうしたエコラン制御の場合は勿論のこと、車両走行中のエンジン制御の際にあっても、上記各センサからの出力に基づいて燃料噴射時期、燃料噴射圧力、点火時期、吸入空気量等を適宜制御する。
【0040】
次に、第1実施例のエンジンシステムが行う可変圧縮比エンジン10の圧縮比制御について説明する。図2は第1実施例のエンジンシステムが行う圧縮比の停止時制御の様子を示すフローチャートである。この圧縮比の停止時制御は、所定時間ごとに繰り返し処理されるものであり、まず、エンジン停止に先立つエンジン停止要求が出されたか否かを判定し(ステップS100)、エンジン停止要求がなければ何の処理を行うことなく、本ルーチンを終了する。つまり、エンジン停止時における圧縮比変更を伴う後述の処理は、エンジンの停止要求に基づきエンジンを停止する状況下において実行されることになる。このエンジン停止要求は、例えば、図示しないエコラン制御にてエンジンの自動停止を実行する所定条件の成立時に出力されたり、運転者の意図に基づく操作、例えばイグニッションスイッチのOFF操作(エンジン停止信号)等で出力されるので、その様子からエンジン停止要求の有無が判定できる。
【0041】
このステップS100でエンジン停止要求があると判定すると(即ち、エンジンを停止する状況下にあると判定すると)、今回のエンジン停止が、信号待ち等のために車両が一時停止する状況下でエンジン停止を図る既述したエコラン制御によるものか否かを判定する(ステップS105)。この判定は、エコラン制御によるエンジン自動停止の条件の成立状態を上記した各種センサからの出力に基づいて行ったり、上記のエコラン制御におけるフラグセットの状態に基づいて行うことができる。なお、運転者の停止意図に基づくエンジン停止要求は、イグニッションスイッチのOFF信号で直接的に判別できるので、エコラン制御による停止要求と運転者の停止意図に基づく停止要求は、容易に区別できる。
【0042】
ここでエコラン制御によるエンジン停止ではないと否定判定すると、制御ユニット40は、圧縮比が高圧縮比ε(始動時目標圧縮比)となるように可変圧縮比機構20のアクチュエータ21を駆動制御し、可変圧縮比エンジン10の圧縮比を高める(ステップS110)。このように圧縮比を高圧縮比εとするに当たっては、予め定めた所定の高圧縮比εHに変更することもできるほか、現状圧縮比より所定の差分だけ高めの圧縮比に変更するようにすることもできる。
【0043】
その一方、ステップS105で肯定判定した場合には、冷却水温度センサ56から入力したエンジンの冷却水温度が所定値以上であるか否かの判定を行い(ステップS120)、否定判定すれば、ステップS110に移行して圧縮比を高める。ところが、冷却水温度が所定温度以上であると肯定判定した場合は、圧縮比が低圧縮比εとなるように可変圧縮比機構20のアクチュエータ21を駆動制御し、可変圧縮比エンジン10の圧縮比を低い値のものとする(ステップS130)。このように圧縮比を低圧縮比εとするに当たっても、予め定めた所定の低圧縮比εLに変更することもできるほか、現状圧縮比より所定の差分だけ低めの圧縮比に変更するようにすることもできる。
【0044】
ステップS120に続く圧縮比変更処理(ステップS110、120)において圧縮比を変更するに当たっては、エンジン水温に応じて目標となる圧縮比(始動時目標圧縮比)の値を設定するようにすることもできる。
【0045】
こうしてステップS110、130で圧縮比を変更した後は、燃料噴射・プラグ点火の停止等を含むエンジン停止処理を行い(ステップS140)、上記処理を繰り返す。
【0046】
以上説明したように、本実施例では、可変圧縮比エンジン10を停止させるような状況下となると、圧縮比を高低変更し(ステップS110、130)、可変圧縮比エンジン10の運転を停止する(ステップS140)。このため、こうして停止した可変圧縮比エンジン10を次に始動する際には、圧縮比が変更済みであることから、始動時において圧縮比変更のために可変圧縮比機構20を駆動制御する時間が不要となる。よって、本実施例の可変圧縮比エンジン10(エンジンシステム)によれば、エンジン停止後の再始動時の始動性を高めることができる。
【0047】
また、エンジンの停止状況がエコラン制御に基づくものであるか、このエコラン制御に基づかないものであるかに応じて、上記したエンジン停止時の圧縮比の変更の様子を異なるものとした。よって、次の利点がある。
【0048】
まず、エコラン制御に基づかないエンジン停止である場合について説明する。こうしたエンジン停止の状況は、降車する等の運転者がエンジン停止の意図を持って生じる状況であると考えられる。こうした運転者の意図によるエンジン停止期間は、通常、比較的長時間に及ぶことが予想され、エンジン冷却水温度はこのエンジン停止期間で大きく低下すると予想される。
【0049】
本実施例では、こうした運転者の意図に基づくエンジン停止の状況にあっては(ステップS105否定判定)、エンジン停止時の圧縮比を次回のエンジン始動を行う以前に高圧縮比側に予め変更する(ステップS110)。よって、運転者の意図に基づくエンジン停止を経てエンジンを次回に始動する際には、可変圧縮比エンジン10の暖機が不十分であるものの、圧縮比が高圧縮比であるために燃料の温度を高めた状態で燃料を燃焼させて、エンジンを始動できる。この結果、エコラン制御に基づくのではなく運転者の意図に基づくエンジン停止の後に行うエンジン始動に際しては、始動性をより高めることができ、好ましい。
【0050】
その一方、信号待ち等の車両一時停止に基づくエコラン制御によるエンジン自動停止を行う状況下では(ステップS105肯定判断)、そのエンジン停止期間を反映した冷却水温度に応じて、圧縮比を高圧縮比か(ステップS110)、低圧縮比(ステップS130)のいずれかに変更し、その後、エンジンを停止する。このため、エコラン制御による可変圧縮比エンジン10の運転停止(車両停止)が短時間で終わって再始動する場合は、可変圧縮比エンジン10はその暖機が十分であるので、圧縮比を次回のエンジン再始動を行う以前に低圧縮比側に変更する(ステップS130)。よって、次回のエンジン再始動の際には、既に低圧縮比側の圧縮比となっている可変圧縮比エンジン10を始動できるので、始動性が高まるほか、次の利点もある。
【0051】
エンジンの暖機が十分の状況で圧縮比を高くすると、エンジン気筒内の内圧(圧縮比)上昇により燃料は高温状態で燃焼することになり、ノッキングやエンジンに不用意な振動を起こす。しかしながら、本実施例では、エコラン制御によるエンジン停止時間が短いために暖機済みであれば、圧縮比を低圧縮比に設定するので(ステップS130)、エコラン制御に基づくエンジン停止の後に行うエンジン再始動に際しては、可変圧縮比エンジン10の始動時振動を低減できるので、運転者に違和感を与えないようにでき、好ましい。
【0052】
更に、エコラン制御に基づくエンジン停止が長時間に亘ってエンジンの暖機が不十分となると(ステップS120否定判定)、エンジン停止時の圧縮比を次回のエンジン始動を行う以前に高圧縮比側に予め変更する(ステップS110)。よって、エコラン制御に基づくエンジン停止でありながら暖機が不十分であれば、その後のエンジン再始動の際に、高圧縮比にすることにより筒内温度を上げることができるので、始動性をより高めることができ、好ましい。
【0053】
また、本実施例では、次回の始動に備えた圧縮比変更(ステップS110、130)に続いてエンジン停止処理(ステップS140)を行うようにして、圧縮比変更を停止前のエンジン運転状況下で行うようにした。このため、圧縮比変更は、エンジン気筒内の内圧が燃料燃焼により高い状態でのものとなる。図1に示す構成の可変圧縮比機構20は、低圧縮比側への圧縮比変更に際してシリンダブロック12をクランクケース14から離間させるよう駆動させるので、この駆動の向きはエンジン気筒内の内圧が作用する向きと同じとある。よって、低圧縮比側への変更(ステップS130)の際には、気筒内の高い内圧を圧縮比変更機構20(アクチュエータ21)の補助とできることから、アクチュエータ21の駆動力を低減できる。」

(2)引用文献3記載事項
上記(1)の記載事項を総合すると、引用文献3には、以下の事項(以下「引用文献3記載事項」という。)が記載されている。

〔引用文献3記載事項〕
「シリンダブロック12をクランクケース14に対してピストン13の運動方向に移動させることによって圧縮比を変更する可変圧縮比機構20が備えられている可変圧縮比エンジン10の制御装置において、
圧縮比は、運転条件に応じて変更され、
エコラン制御に基づく自動停止手段による停止要求が出された場合には、内燃機関の停止時の圧縮比を、始動時目標圧縮比に変更し、
前記自動停止手段による停止要求時では、イグニッションスイッチのOFF信号に基づく手動停止手段による停止要求時よりも始動時目標圧縮比を低い圧縮比とし、
次回の始動に備えた圧縮比変更に続いてエンジン停止処理を行うようにしたこと。」

4 引用文献4
(1)引用文献4の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である引用文献4には、「内燃機関の制御装置」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮比可変機構を備えた内燃機関の制御装置に関する。」

イ 「【0005】
そこで、本発明は、アイドリングストップ機能を備えた内燃機関の機関始動性を確保できる、内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このため、本発明では、圧縮比を可変とする圧縮比可変機構を備えた内燃機関において、イグニッションスイッチによる機関停止の場合とアイドリングストップによる機関停止の場合とで、内燃機関を停止させるときに設定する圧縮比を異ならせる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、アイドリングストップ機能を備えた内燃機関において、機関始動性を確保することができる。」

ウ 「【0011】
また、内燃機関1は、吸気バルブ7のバルブリフト量及び作動角を可変とする可変バルブリフト機構21と、吸気バルブ7の開期間のクランクシャフト9に対する位相を可変とする可変バルブタイミング機構22と、ピストン4の上死点位置を変更することで、圧縮比を可変とする圧縮比可変機構23と、を備えている。
【0012】
可変バルブリフト機構21は、例えば、特開2003?172112号公報などに開示されるように、電動モータなどのアクチュエータによって制御軸の角度位置を変化させることによって、吸気バルブ7の最大バルブリフト量を増減させる。また、可変バルブリフト機構21は、最大バルブリフト量の増減に連動して、作動角(開期間の角度)を増減させる。
【0013】
可変バルブタイミング機構22は、クランクシャフト9に対する吸気カムシャフト24の位相を変更することで、吸気バルブ7の作動角を一定としたまま、作動角の中心位相を進角又は遅角させる。
【0014】
圧縮比可変機構23は、例えば、特開2002?276446号公報に開示されるような構造によって、ピストン4の上死点位置を変化させることで、内燃機関1の圧縮比を可変とする。以下に、圧縮比可変機構23の構造の一例を説明する。
【0015】
クランクシャフト9は、複数のジャーナル部9aとクランクピン部9bとを有し、シリンダブロック2の主軸受に、ジャーナル部9aが回転自在に支持される。クランクピン部9bは、ジャーナル部9aから偏心しており、ここにロアリンク11が回転自在に連結される。アッパリンク12は、下端側が連結ピン25によりロアリンク11の一端に回動可能に連結され、上端側がピストンピン26によりピストン4に回動可能に連結される。コントロールリンク27は、上端側が連結ピン28によりロアリンク11の他端に回動可能に連結され、下端側が制御シャフト29を介してシリンダブロック2の下部に回動可能に連結される。詳しくは、制御シャフト29は、回転可能に機関本体(シリンダブロック2)に支持されていると共に、その回転中心から偏心している偏心カム部29aを有し、この偏心カム部29aにコントロールリンク27の下端部が回転可能に嵌合する。制御シャフト29は、電動モータを用いた圧縮比制御アクチュエータ30によって回動位置が制御される。
【0016】
このような複リンク式ピストン?クランク機構を用いた圧縮比可変機構23においては、制御シャフト29が圧縮比制御アクチュエータ30によって回動されると、偏心カム部29aの中心位置、つまり、機関本体(シリンダブロック2)に対する相対位置が変化する。これにより、コントロールリンク27の下端の搖動支持位置が変化すると、ピストン4の行程が変化し、ピストン上死点(TDC)におけるピストン4の位置が高くなったり低くなったりして、内燃機関1の圧縮比が変更される。
【0017】
また、内燃機関1の吸気系には、吸気系の開口面積を変化させることで、内燃機関1の吸入空気量を調整する電子制御スロットル41が配設されている。
可変バルブリフト機構21、可変バルブタイミング機構22、圧縮比可変機構23、電子制御スロットル41、更に、点火コイルの1次側に流れる電流を制御するパワートランジスタ43などは、コンピュータを内蔵した制御装置31によって、内燃機関1の運転状態などに応じて制御される。
【0018】
制御装置31には、外気温TOを検出する外気温センサ32、内燃機関1の潤滑油などの油温TLを検出する油温センサ33、バッテリなどの電源電圧VBを検出する電圧センサ34、内燃機関1を始動又は停止させるイグニッションスイッチ35、内燃機関1の冷却水温度(水温)TWを検出する水温センサ37、内燃機関1の回転速度NEを検出する回転速度センサ42の各信号が入力される。ここで、イグニッションスイッチ35は、車両運転者などにより操作され、内燃機関1を始動させるときにOFFからONに変化し、内燃機関1を停止させるときにONからOFFに変化する。
【0019】
制御装置31は、駐停車や信号待ちのときに内燃機関1を自動停止させ、燃料節約及び排気削減を行うアイドリングストップ機能を実現する。このため、制御装置31は、所定の停止条件が成立したときに内燃機関1を停止させ、所定の始動条件が成立したときに内燃機関1を再始動させる。なお、アイドリングストップ機能は、制御装置31と別体のアイドリングストップ制御装置によって実現されるようにしてもよい。この場合には、制御装置31は、CAN(Controller Area Network)などの車載ネットワークを介して、アイドリングストップ制御装置から、内燃機関1を停止する「停止指令」、及び、内燃機関1を再始動する「始動指令」を夫々読み込み可能となっていればよい。
【0020】
図2及び図3は、制御装置31が起動されたことを契機として、制御装置31が所定時間ごとに繰り返し実行する、内燃機関1の停止時における圧縮比可変機構23の制御内容の一例を示す。なお、制御装置31は、フラッシュROM(Read Only Memory)などの不揮発性メモリに格納された制御プログラムに従って、圧縮比可変機構23を制御する(以下同様)。
【0021】
ステップ1(図では「S1」と略記する。以下同様。)では、制御装置31が、イグニッションスイッチ35の出力信号がONからOFFに変化したか、又は、所定の停止条件が成立しているか否かを介して、内燃機関1の停止要求があるか否かを判定する。そして、制御装置31は、内燃機関1の停止要求があると判定すれば処理をステップ2へと進める一方(Yes)、内燃機関1の停止要求がないと判定すれば処理をステップ11へと進める(No)。なお、内燃機関1の停止要求があった場合には、制御装置31は、図示しない燃料噴射装置、パワートランジスタ43などを電子制御して、内燃機関1を徐々に停止させる。
【0022】
ステップ2では、制御装置31が、内燃機関1の停止要求はアイドリングストップによるものであるか否か、要するに、所定の停止条件が成立したことを起因とするものであるか否かを判定する。そして、制御装置31は、停止要求はアイドリングストップによるものであると判定すれば処理をステップ3へと進める一方(Yes)、停止要求はアイドリングストップによるものでない(イグニッションスイッチ35によるもの)と判定すれば処理をステップ7へと進める(No)。
【0023】
ステップ3では、制御装置31が、水温センサ37から水温TWを読み込む。
ステップ4では、制御装置31が、油温センサ33から油温TLを読み込む。
ステップ5では、制御装置31が、外気温センサ32から外気温TOを読み込む。
【0024】
ステップ6では、制御装置31が、水温センサ37、油温センサ33及び外気温センサ32から夫々読み込んだ水温TW、油温TL及び外気温TOに基づいて、内燃機関1のホットリスタートに適した目標圧縮比を設定する。即ち、内燃機関1の始動に適した圧縮比は、内燃機関1の温度(機関温度)に応じて変化するため、制御装置31は、例えば、水温、油温及び外気温に適合した目標圧縮比が設定されたマップ又はテーブルを参照し、水温TW、油温TL及び外気温TOに応じた目標圧縮比を設定する。なお、目標圧縮比は、ある程度の精度を有していれば足りる場合には、水温TW、油温TL及び外気温TOのうち、少なくとも水温TWに応じて設定することもできる(以下同様)。」

エ 「【0028】
ステップ7では、制御装置31が、フラッシュROMなどの不揮発性メモリから制御値たる固定値を読み出し、内燃機関1のコールドリスタートに適した目標圧縮比を設定する。ここで、コールドリスタートに適した目標圧縮比としては、始動時の機関温度が不明であるため、機関始動時に要求される圧縮比の範囲内から所定規則によって選定された圧縮比を採用することができる。具体的には、目標圧縮比として、例えば、機関始動時に要求される最小圧縮比と最大圧縮比との中央値、又は、圧縮比可変機構23による圧縮比の変更可能範囲における応答時間の中央値(図4参照)などを採用することができる。なお、内燃機関1の始動時には、高圧縮側へと圧縮比を変更し難いため、中央値よりも高圧縮側へと所定値だけオフセットさせてもよい。
【0029】
図4について説明すると、所定条件で内燃機関1を作動させた場合、圧縮比を8から12へと変更するのに要する時間は2.4秒、圧縮比を12から14へと変更するのに要する時間は0.4秒である。これは、圧縮比可変機構23のギヤレシオの関係で、低圧縮比における圧縮比変更に時間がかかるためである。なお、圧縮比を低圧縮比側に変更する場合には、これよりも早くなる。従って、応答時間の中央値としては、図4に示す例では、圧縮比を8から高圧縮側に1.4秒変更したときの値とすることができる。
【0030】
ステップ8では、制御装置31が、電圧センサ34から電源電圧VBを読み込む。
ステップ9では、制御装置31が、電圧センサ34から読み込んだ電源電圧VBに基づいて、圧縮比可変機構23の圧縮比制御アクチュエータ30を駆動する駆動ゲインを設定する。要するに、制御装置31は、電源電圧VBから把握されるバッテリの充電状態に応じて、圧縮比制御アクチュエータ30の応答速度を調整する。
【0031】
圧縮比制御アクチュエータ30を駆動するバッテリは、充電状態(SOC:State of Charge)と電源電圧との間に、図5に示すような特性を有している。即ち、バッテリにおいては、充電状態がある程度低下すると、電源電圧が急激に低下してしまう。このため、電源電圧が急激に低下する領域では、圧縮比制御アクチュエータ30を安定して駆動することができない。また、バッテリを使い切ってしまうと、スタータが作動せず機関始動ができなくなるため、ある程度の余裕を確保する必要がある。さらに、バッテリは、化学反応によって電力を生み出しているため、その環境温度の一例としての外気温に応じて、外部に供給可能な電力も変化する。
【0032】
このため、図6に示すように、内燃機関1の停止要求があったときの充電状態、即ち、電源電圧VBから把握される充電状態と外気温に応じた閾値との差分に応じた駆動ゲインを設定し、この駆動ゲインを用いて圧縮比可変機構23の圧縮比制御アクチュエータ30を駆動する。このとき、駆動ゲインは、例えば、充電状態と閾値との差分に比例した大きさ、要するに、その差分が大きくなるにつれて徐々に大きくなる値とすることができる。また、外気温が高いほど化学反応が促進するので、外気温が高くなるほど、閾値は図の左方へと移動する。なお、充電状態と閾値との差分が所定値Δよりも小さい場合、要するに、電源電圧VBが所定値よりも小さい場合には、実質的に圧縮比可変機構23を駆動することが困難であるため、例えば、駆動ゲインを0として圧縮比可変機構23の駆動を禁止するようにしてもよい。
【0033】
ステップ10では、制御装置31が、圧縮比可変機構23により圧縮比が目標圧縮比となるように、ステップ9で設定した駆動ゲインを用いて圧縮比制御アクチュエータ30を駆動する。
【0034】
ステップ11では、制御装置31が、回転速度センサ42から回転速度NEを読み込み、これが所定値(例えば、50rpm)未満であるか否か、要するに、内燃機関1が車両運転者などの意思に反してストールする状態にあるか否かを判定する。そして、制御装置31は、回転速度NEが所定値未満であると判定すれば処理をステップ12へと進める一方(Yes)、回転速度NEが所定値以上であると判定すれば処理をステップ16へと進める(No)。
【0035】
ステップ12では、制御装置31が、水温センサ37から水温TWを読み込む。
ステップ13では、制御装置31が、油温センサ33から油温TLを読み込む。
ステップ14では、制御装置31が、外気温センサ32から外気温TOを読み込む。
【0036】
ステップ15では、制御装置31が、ステップ6と同様な方法で、水温センサ37、油温センサ33及び外気温センサ32から夫々読み込んだ水温TW、油温TL及び外気温TOに応じた目標圧縮比を設定する。そして、制御装置31は、目標圧縮比を設定した後、処理をステップ8へと進める。
【0037】
ステップ16では、制御装置31が、圧縮比可変機構23の通常制御、即ち、内燃機関1の停止時及び始動時以外の圧縮比可変機構23の制御を行う。そして、制御装置31は、圧縮比可変機構23の制御を行った後、処理を終了させる。
【0038】
かかる制御によれば、アイドリングストップによる停止要求があった場合、短時間で内燃機関1が再始動される蓋然性が高いため、内燃機関1のホットリスタートに適した圧縮比として、内燃機関1の水温TW、油温TL及び外気温TOに応じた目標圧縮比が設定される。また、イグニッションスイッチ35による停止要求があった場合、内燃機関1の再始動時の温度が不明であるため、内燃機関1のコールドリスタートに適した圧縮比として、機関始動時に要求される圧縮比の範囲内から所定規則によって選定された圧縮比が設定される。そして、内燃機関1が停止するまでに、電源電圧VBから把握される充電状態に応じた駆動ゲインを用いて圧縮比可変機構23が駆動され、圧縮比が目標圧縮比まで変更される。
【0039】
従って、アイドリングストップによる停止要求があった場合には、内燃機関1の水温TW、油温TL及び外気温TOに基づいて、ホットリスタートにおける目標圧縮比が設定されるため、機関始動性を確保することができる。このとき、ホットリスタートにおける燃料の着火性は、コールドリスタートにおける燃料の着火性よりも良好であるため、図7に示すように、目標圧縮比をコールドスタートのものより低くすることができる。このため、機関始動性を確保しつつ、スタータの負荷を低減することができる。」

(2)引用文献4記載事項
上記(1)の記載事項を総合すると、引用文献4には、以下の事項(以下「引用文献4記載事項」という。)が記載されている。

〔引用文献4記載事項〕
「圧縮比可変機構23を備えた内燃機関1の制御装置31において、
制御装置31が、圧縮比可変機構23の通常制御、即ち、内燃機関1の停止時及び始動時以外の圧縮比可変機構23の制御を行い、
制御装置31は、停止要求はアイドリングストップによるものであると判定すれば、制御装置31が、内燃機関1のホットリスタートに適した目標圧縮比としてコールドスタートのものより低く設定し、
停止要求はイグニッションスイッチ35によるものと判定すれば、制御装置31が、内燃機関1のコールドリスタートに適した目標圧縮比として設定し、
制御装置31が、圧縮比可変機構23により圧縮比が目標圧縮比となるように圧縮比制御アクチュエータ30を駆動すること。」

5 引用文献5
(1)引用文献5の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である引用文献5には、「車両用エンジン始動装置」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「[0001] 本発明は、車両用エンジン始動装置に関する。」

イ 「[0049] 図4は、アイドルストップ時にエンジン1の回転数とピニオンギヤ4の回転数とを同期して、ピニオンギヤ4をリングギヤ2へ噛み込ませながらエンジン1を停止する回転数同期式プリメッシュを行う際のフローチャートである。この制御フローチャートで示した動作の処理は、ECU20にて繰り返し実行される。

[0050] アイドルストップは、車両が停止(車速=0km/h)状態で、アクセル操作無しでエンジン1が無負荷運転にあるとき、車速センサ33やブレーキスイッチ34などの各入力条件がアイドルストップ許可条件を満たすと実行される。

[0051] 車両が減速中にアイドルストップを行うコーストストップは、前記「車両が停止(車速=0km/h)状態」に代わり、例えば「車速条件が13km/h以下で、かつ不図示のブレーキペダルが踏み込まれていること」が挙げられる。

[0052] 車両が前記より更に高い車速でアイドルストップを行うセーリングストップは、例えば「車速条件が60km/h以下で、かつ不図示のアクセルペダル、ブレーキペダルともに踏み込まれていないこと」が挙げられる。

[0053] アイドルストップ条件、またはコーストストップ条件、セーリングストップの条件を満たすと(ステップ101:Yes)、ステップ102で、燃料噴射弁15の駆動を停止して、エンジン1の燃料供給の遮断(燃料供給の停止、燃料カット)を行う。


(2)引用文献5記載事項
上記(1)の記載事項を総合すると、引用文献5には、以下の事項(以下「引用文献5記載事項」という。)が記載されている。

〔引用文献5記載事項〕
「車両用エンジン始動装置において、アイドルストップ条件、またはセーリングストップの条件を満たすと、燃料噴射弁15の駆動を停止して、エンジン1の燃料供給の遮断を行うこと。」

6 引用文献6
(1)引用文献6の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である引用文献6には、「車両のセーリングストップ制御装置及び制御方法」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「【0001】
本発明は、動力伝達経路に有する摩擦締結要素を解放状態にすると共に走行用駆動源の回転速度をゼロとしてセーリングストップ走行する車両のセーリングストップ制御装置及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンから駆動輪への動力伝達を遮断すると共にエンジンの回転速度をゼロとしてセーリングストップ走行する際、動力伝達経路に有するフォワードクラッチとロックアップクラッチを共に解放状態とする装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。」

イ 「【0007】
上記目的を達成するため、本発明は、走行用駆動源と駆動輪との間に配される摩擦締結要素と、流体伝動装置と、コントローラと、を備える。
流体伝動装置は、走行用駆動源と摩擦締結要素との間に配され、走行用駆動源から動力が入力される入力要素と、摩擦締結要素に動力を伝達する出力要素とを有する。
コントローラは、セーリングストップ走行条件が成立すると、摩擦締結要素を解放状態にすると共に走行用駆動源の回転速度をゼロとしてセーリングストップ走行するセーリングストップ制御を行う。このセーリングストップ走行中、流体伝動装置の入力要素と出力要素との回転速度差を低減する処理を実行する。」

ウ 「【0010】
以下、本発明の車両のセーリングストップ制御装置及び制御方法を実現する最良の形態を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
【実施例1】
【0011】
まず、構成を説明する。
実施例1におけるセーリングストップ制御装置及び制御方法は、副変速機付き無段変速機を搭載したエンジン車に適用したものである。以下、実施例1の構成を、「全体システム構成」、「変速マップによる変速制御構成」、「油圧制御系構成」、「セーリングストップ制御処理構成」に分けて説明する。
【0012】
[全体システム構成]
図1は、実施例1のセーリングストップ制御装置が適用された副変速機付き無段変速機が搭載されたエンジン車の全体構成を示し、図2は、変速機コントローラの内部構成を示す。以下、図1及び図2に基づき、全体システム構成を説明する。なお、以下の説明において、ある変速機構の「変速比」は、当該変速機構の入力回転速度を当該変速機構の出力回転速度で割って得られる値である。また、「最ロー変速比」は当該変速機構の最大変速比を意味し、「最ハイ変速比」は当該変速機構の最小変速比を意味する。
【0013】
図1に示すエンジン車は、走行駆動源としてエンジン1を備える。エンジン1の出力回転は、ロックアップクラッチ9を有するトルクコンバータ2、リダクションギア対3、副変速機付き無段変速機4(以下、「自動変速機4」という。)、ファイナルギア対5、デファレンシャルギア6を介して駆動輪7へと伝達される。ファイナルギア対5には、駐車時に自動変速機4の出力軸を機械的に回転不能にロックするパーキング機構8が設けられている。油圧源として、エンジン1の動力により駆動されるメカオイルポンプ10と、モータ51の動力により駆動される電動オイルポンプ50と、を備える。そして、メカオイルポンプ10又は電動オイルポンプ50からの吐出圧を調圧して自動変速機4の各部位に供給するコントロールバルブユニット11と、コントロールバルブユニット11を制御する変速機コントローラ12と、統合コントローラ13と、エンジンコントローラ14と、が設けられている。以下、各構成について説明する。」

エ 「【0019】
副変速機構30は、前進2段・後進1段の変速機構である。副変速機構30は、2つの遊星歯車のキャリアを連結したラビニヨウ型遊星歯車機構31と、ラビニヨウ型遊星歯車機構31を構成する複数の回転要素に接続され、それらの連係状態を変更する摩擦締結要素(ローブレーキ32、ハイクラッチ33、リバースブレーキ34)と、を備える。
【0020】
副変速機構30の変速段は、各摩擦締結要素32?34への供給油圧を調整し、各摩擦締結要素32?34の締結・解放状態を変更すると変更される。例えば、ローブレーキ32を締結し、ハイクラッチ33とリバースブレーキ34を解放すれば副変速機構30の変速段は前進1速段(以下、「低速モード」という。)となる。ハイクラッチ33を締結し、ローブレーキ32とリバースブレーキ34を解放すれば副変速機構30の変速段は1速よりも変速比が小さな前進2速段(以下、「高速モード」という。)となる。また、リバースブレーキ34を締結し、ローブレーキ32とハイクラッチ33を解放すれば副変速機構30の変速段は後進段となる。なお、副変速機構30のローブレーキ32とハイクラッチ33とリバースブレーキ34の全てを解放すれば、駆動輪7への駆動力伝達経路が遮断される。なお、前進走行時に締結されるローブレーキ32(低速モード)とハイクラッチ33(高速モード)を総称し、以下、「フォワードクラッチFWD/C」という。
【0021】
変速機コントローラ12は、図2に示すように、CPU121と、RAM/ROMからなる記憶装置122と、入力インターフェース123と、出力インターフェース124と、これらを相互に接続するバス125とから構成される。この変速機コントローラ12は、バリエータ20の変速比を制御すると共に、副変速機構30の複数の摩擦締結要素(ローブレーキ32、ハイクラッチ33、リバースブレーキ34)を架け替えることで所定の変速段を達成する。

オ 「【0025】
統合コントローラ13は、変速機コントローラ12による変速機制御やエンジンコントローラ14によるエンジン制御などが適切に担保されるように、複数の車載コントローラの統合管理を行う。この統合コントローラ13は、変速機コントローラ12やエンジンコントローラ14などの車載コントローラとCAN通信線25を介して情報交換が可能に接続される。そして、アクセル足放しによるコースト走行中、駆動力伝達系を切り離すと共にエンジン1を停止するセーリングストップ制御などを行う。
【0026】
エンジンコントローラ14は、エンジン1へのフューエルカットによるエンジン停止制御、スタータモータ15を用いてエンジン1を始動するエンジン始動制御、などを行う。このエンジンコントローラ14には、エンジン1の回転速度(以下、「エンジン回転速度Ne」という。)を検出するエンジン回転速度センサ47の出力信号、などが入力される。」

カ 「【0034】
[油圧制御系構成]
図4は、実施例1の自動変速機4における油圧制御系の構成を示す。以下、図4に基づき、コントロールバルブユニット11を中心とする油圧制御系構成を説明する。
【0035】
コントロールバルブユニット11の入力側には、メカオイルポンプ10又は電動オイルポンプ50が接続され、メカオイルポンプ10又は電動オイルポンプ50から吐出される作動油を油圧源とする。例えば、アクセル踏み込み操作によるドライブ状態で走行シーンなどであって、エンジン1の運転中(作動)においては、エンジン1により回転駆動されるメカオイルポンプ10を油圧源とする。例えば、アイドルストップ停車シーンやセーリングストップ走行シーンなどであって、エンジン1の停止中(非作動)においては、バッテリ17を電源としてモータ51を回転駆動する電動オイルポンプ50を油圧源とする。なお、エンジン1の停止中は、エンジン1を駆動源とするメカオイルポンプ10もオルタネータ16も非作動になる。」

キ 「【0043】
[セーリングストップ制御処理構成]
図5は、実施例1の統合コントローラ13で実行されるセーリングストップ制御処理構成の流れを示す。以下、セーリングストップ制御処理構成をあらわす図5の各ステップについて説明する。なお、アクセル足放し操作によりエンジン1から駆動輪7,7までの駆動系を駆動伝達状態のままとして惰性走行することを“コースト走行”という。一方、コースト走行中、セーリングストップ入り条件の成立に基づいてエンジン1から駆動輪7,7までの駆動系を駆動伝達遮断状態とし、エンジン1を停止(回転速度ゼロ)して惰性走行することを“セーリングストップ走行”という。
【0044】
ステップS1では、エンジン1を走行駆動源とし、フォワードクラッチFWD/C(ローブレーキ32又はハイクラッチ33)を締結してのコースト走行中、ロックアップクラッチ9を解放状態にしているか否かを判断する。YES(ロックアップOFF)の場合はステップS2へ進み、NO(ロックアップON)の場合はステップS7へ進む。
ここで、ロックアップクラッチ9の締結/解放の判断は、ロックアップクラッチ9に対して締結制御指令が出力されているか、解放制御指令が出力されているかを監視したり、ポンプインペラ回転速度(=エンジン回転速度)とタービン回転速度を監視したりすることで判断する。
【0045】
ステップS2では、ステップS1でのロックアップOFFであるとの判断に続き、ロックアップクラッチ9を解放状態としているコースト走行中、セーリングストップ入り条件が成立したか否かを判断する。YES(セーリングストップ入り条件成立)の場合はステップS3へ進み、NO(セーリングストップ入り条件不成立)の場合はステップS2の判断を繰り返す。
ここで、「セーリングストップ入り条件」とは、
(a)エンジン駆動による前進走行中(レンジ位置信号や車速信号などにより判断)
(b)ブレーキOFF(ブレーキスイッチ信号により判断)
(c)アクセルOFF(アクセル開度=0のアクセル開度信号により判断)
をいい、上記(a)?(c)の条件を全て満足する状態のままで所定のディレー時間が経過すると、セーリングストップ入り条件が成立したとする。即ち、運転者が加速や停止を意図しておらず、そのまま惰性により走行することを検知する条件に設定している。
【0046】
ステップS3では、ステップS2でのセーリングストップ入り条件成立であるとの判断に続き、締結状態であるフォワードクラッチFWD/C(ローブレーキ32又はハイクラッチ33)へ解放指令を出力し、ステップS4へ進む。
ここで、「フォワードクラッチFWD/Cの解放状態」は、フォワードクラッチFWD/Cへの油圧指令をゼロまで低下させることで行われる。なお、セーリングストップ入り条件が成立すると、電動オイルポンプ50のモータ51を起動し、セーリングストップ走行中の油圧源を確保する。
【0047】
ステップS4では、ステップS3でのフォワードクラッチFWD/Cへの解放指令に続き、エンジン1への供給燃料を遮断するフューエルカットをしているか否かを判断する。YES(フューエルカットをしている)の場合はステップS5へ進み、NO(フューエルカットをしていない)の場合はステップS4の判断を繰り返す。
ここで、フューエルカットをしているかどうかの判断は、エンジンコントローラ14からフューエルカット指令が出力されているか否かにより判断し、フューエルカットをしていないと判断されると、エンジン1に対してフューエルカット指令を出力する。」

ク 「【0051】
ステップS8では、ステップS7でのフューエルカットをしているとの判断に続き、ロックアップクラッチ9を完全締結状態としているコースト走行中、セーリングストップ入り条件が成立したか否かを判断する。YES(セーリングストップ入り条件成立)の場合はステップS9へ進み、NO(セーリングストップ入り条件不成立)の場合はステップS8の判断を繰り返す。なお、セーリングストップ入り条件は、ステップS2と同様である。
【0052】
ステップS9では、ステップS8でのセーリングストップ入り条件成立であるとの判断に続き、ステップS3と同様に、締結状態であるフォワードクラッチFWD/C(ローブレーキ32又はハイクラッチ33)へ解放指令を出力し、ステップS10へ進む。
【0053】
ステップS10では、ステップS9でのフォワードクラッチFWD/Cへの解放指令に続き、ロックアップクラッチ9が完全締結状態のままでエンジン1を停止し、ステップS11へ進む。
【0054】
ステップS11では、ステップS6でのロックアップON、或いは、ステップS10でのエンジン停止、或いは、ステップS12でのセーリングストップ抜け条件不成立であるとの判断に続き、アクセルOFF&ブレーキOFFによるセーリングストップ走行を実行し、ステップS12へ進む。」

ケ 「【0062】
次に、作用を説明する。
実施例1の作用を、「セーリングストップ制御処理作用」、「セーリングストップ制御の背景技術と課題」、「セーリング入り作用」、「セーリング抜け作用」、「セーリングストップ制御の特徴作用」に分けて説明する。
【0063】
[セーリングストップ制御処理作用]
以下、図5に示すフローチャートに基づいて、セーリングストップ制御処理作用を説明する。
まず、ロックアップクラッチ9を解放状態とし、フォワードクラッチFWD/Cを締結状態としてのコースト走行中、セーリングストップ入り条件が成立すると、ステップS1→ステップS2→ステップS3へと進む。ステップS3では、締結状態のフォワードクラッチFWD/Cへ解放指令が出力される。フォワードクラッチFWD/Cへ解放指令が出力された後、エンジン1を停止するフューエルカット条件が成立し、かつ、ロックアップON条件が成立すると、ステップS3からステップS4→ステップS5→ステップS6→ステップS11へ進む。ステップS6では、ロックアップクラッチ9が完全締結状態とされ、ステップS11では、セーリングストップ走行が開始される。
【0064】
一方、ロックアップクラッチ9とフォワードクラッチFWD/Cが締結状態によるコースト走行中、フューエルカット条件とセーリングストップ入り条件が成立すると、ステップS1→ステップS7→ステップS8→ステップS9へと進む。ステップS9では、締結状態のフォワードクラッチFWD/Cへ解放指令が出力される。エンジン1が停止すると、ステップS9からステップS10→ステップS11へ進み、ステップS12では、セーリングストップ走行が開始される。
【0065】
このように、セーリングストップ走行が開始される場合は、コースト走行中にロックアップクラッチ9が解放状態であるか、ロックアップクラッチ9が完全締結状態であるかによって処理を異ならせている。即ち、コースト走行中にロックアップクラッチ9が解放状態であるときは、セーリングストップ入り条件が成立すると、フォワードクラッチFWD/Cへ解放指令を出力し、ロックアップON条件が成立するのを待つ。そして、ロックアップON条件が成立すると、解放されているロックアップクラッチ9を完全締結状態にしてセーリングストップ走行を開始する。一方、コースト走行中にロックアップクラッチ9が完全締結状態であるときは、セーリングストップ入り条件が成立すると、フォワードクラッチFWD/Cへ解放指令を出力する。そして、ロックアップクラッチ9の完全締結状態を維持したままで、エンジン1を停止させてセーリングストップ走行を開始する。
【0066】
セーリングストップ走行中、セーリングストップ抜け条件が成立し、かつ、加速要求が大であると、ステップS11からステップS12→ステップS13→ステップS14→ステップS15へと進む。ステップS14では、完全締結状態のロックアップクラッチ9を解放状態とし、ステップS15では、セーリングストップ走行中に停止していたエンジン1が再始動される。その後、フォワードクラッチFWD/Cが回転同期すると、ステップS15からステップS16→ステップS17へと進み、ステップS17では、セーリングストップ走行中に解放状態とされたフォワードクラッチFWD/Cが再締結される。そして、ステップS18→エンドへと進み、セーリングストップ走行から通常走行へと走行モードが移行する。」

コ 「【0069】
[セーリングストップ制御の背景技術と課題]
特開2013?117274号公報などに記載されている比較例の場合、セーリングストップ走行中、フォワードクラッチFWD/CとロックアップクラッチLU/Cとを共に解放状態にし、駆動系の動力伝達を遮断するようにしている。このように、セーリングストップ走行中、フォワードクラッチFWD/CとロックアップクラッチLU/Cとを共に解放状態とする理由としては、次のような理由がある。
【0070】
セーリングストップ制御に際して、ロックアップクラッチLU/Cを解放するのみでは、トルクコンバータ内の流体(油)により駆動輪からのトルクがエンジンに入力され、エンジンが引き摺り負荷となりセーリングストップ走行による航続距離が低下する。これを防止するように、フォワードクラッチFWD/Cを解放状態にする。
【0071】
ここで、セーリングストップ制御を終了する際は、エンジンから駆動輪へ動力を伝達するように、フォワードクラッチFWD/Cを締結する必要があり、差回転状態にあるフォワードクラッチFWD/Cを締結すると締結ショックが発生する。なお、締結ショックを防止するようにゆっくり締結すると、駆動力の応答遅れが発生する。よつて、フォワードクラッチFWD/Cの締結ショックをトルクコンバータが持つトルク変動減衰機能を発揮させて緩和するように、セーリングストップ制御中、ロックアップクラッチLU/Cを解放状態とする。
このような点から、セーリングストップ制御中は、フォワードクラッチFWD/C及びロックアップクラッチLU/Cを共に解放状態にしている。」

サ 「【0100】
[セーリングストップ制御の特徴作用]
実施例1では、セーリングストップ走行条件が成立すると、フォワードクラッチFWD/Cを解放状態にすると共にエンジン1の回転速度をゼロとする。このセーリングストップ走行中、トルクコンバータ2のポンプインペラ2aとタービンランナ2bとの回転速度差を低減する。」

シ 「【0116】
次に、効果を説明する。
実施例1のエンジン車のセーリングストップ制御装置及び制御方法にあっては、下記に列挙する効果が得られる。
【0117】
(1) 走行用駆動源(エンジン1)と駆動輪7,7との間に配される摩擦締結要素(フォワードクラッチFWD/C)と、流体伝動装置(トルクコンバータ2)と、コントローラ(統合コントローラ13)と、を備える。
流体伝動装置(トルクコンバータ2)は、走行用駆動源(エンジン1)と摩擦締結要素(フォワードクラッチFWD/C)との間に配され、走行用駆動源(エンジン1)から動力が入力される入力要素(ポンプインペラ2a)と、摩擦締結要素に動力を伝達する出力要素(タービンランナ2b)とを有する。
コントローラ(統合コントローラ13)は、セーリングストップ走行条件が成立すると、摩擦締結要素(フォワードクラッチFWD/C)を解放状態にすると共に走行用駆動源(エンジン1)の回転速度をゼロとしてセーリングストップ走行するセーリングストップ制御を行う。
この車両(エンジン車)であって、コントローラ(統合コントローラ13)は、セーリングストップ走行中、流体伝動装置(トルクコンバータ2)の入力要素(ポンプインペラ2a)と出力要素(タービンランナ2b)との回転速度差を低減する処理を実行する。
このため、セーリングストップ走行中、解放状態の摩擦締結要素(フォワードクラッチFWD/C)にて油の引き摺りが発生しても、流体伝動装置(トルクコンバータ2)内の油の温度上昇を抑制する車両(エンジン車)のセーリングストップ制御装置を提供することができる。」

ス 「【0125】
(9) 走行用駆動源(エンジン1)と駆動輪7,7との間に配される摩擦締結要素(フォワードクラッチFWD/C)と、流体伝動装置(トルクコンバータ2)と、を備える。
流体伝動装置(トルクコンバータ2)は、走行用駆動源(エンジン1)と摩擦締結要素(フォワードクラッチFWD/C)との間に配され、走行用駆動源(エンジン1)から動力が入力される入力要素(ポンプインペラ2a)と、摩擦締結要素に動力を伝達する出力要素(タービンランナ2b)とを有する。
この車両(エンジン車)であって、セーリングストップ走行条件が成立すると、摩擦締結要素(フォワードクラッチFWD/C)を解放状態にすると共に走行用駆動源(エンジン1)の回転速度をゼロとしてセーリングストップ走行する。
セーリングストップ走行中、流体伝動装置(トルクコンバータ2)の入力要素(ポンプインペラ2a)と出力要素(タービンランナ2b)との回転速度差を低減する。
このため、セーリングストップ走行中、解放状態の摩擦締結要素(フォワードクラッチFWD/C)にて油の引き摺りが発生しても、流体伝動装置(トルクコンバータ2)内の油の温度上昇を抑制する車両(エンジン車)のセーリングストップ制御方法を提供することができる。」

(2)引用文献6記載事項
上記(1)の記載事項を総合すると、引用文献6には、以下の事項(以下「引用文献6記載事項」という。)が記載されている。

〔引用文献6記載事項〕
「車両のセーリングストップ制御装置において、アイドルストップ停車シーンや、エンジン1から駆動輪7,7までの駆動系を駆動伝達遮断状態とし、エンジン1を停止して惰性走行するセーリングストップ走行シーンがあること。」

7 引用文献7
(1)引用文献7の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である引用文献7には、「車両用制御装置」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「【0001】
本発明は、車両用制御装置に関する。」

イ 「【0004】
ところで、車両が内燃機関の自動停止と駆動力伝達機構を非締結状態にするセーリングストップ制御状態において、走行レーンを変更する場合に、ドライバーが加速や制動の意志がない時においても、内燃機関の自動停止が制限され、内燃機関が起動するために燃料を消費し、省燃費走行の要求に応えることができない場合がある。」

ウ 「【0011】
図2は、本車両の動力源であるエンジン(内燃機関)1は、セーリング機能付きであり、所定のセーリングストップ条件にてエンジン1への燃料供給を停止することによりエンジン1の自動停止と、動力を伝達する経路の締結状態を非締結状態に切り替えした後、セーリングストップ解除条件の成立によりエンジン1への燃料供給を再開してエンジン1を再始動させる。
【0012】
このエンジン1の出力軸は、トルクコンバータ2を介して、変速装置3に接続されている。変速装置3は、クラッチ4と無段変速機5とを含んで構成される。
【0013】
クラッチ4は、湿式多板クラッチにより構成され、作動油の油圧制御によって締結・解放が制御される。
【0014】
尚、ここでいうクラッチ4は、詳しくは、前後進切換機構における摩擦係合要素である。前後進切換機構は、例えば、エンジン出力軸と連結したリングギア、ピニオン及びピニオンキャリア、変速機入力軸と連結したサンギアからなる遊星歯車機構と、変速機ケースをピニオンキャリアに固定する後退ブレーキと、変速機入力軸とピニオンキャリアを連結する前進クラッチと、を含んで構成され、車両の前進と後退とを切換える。この場合、前後進切換機構における摩擦係合要素である前進クラッチ及び後退ブレーキが、クラッチ4に相当する。」

エ 「【0028】
図3は本発明の一実施形態で示す車両用制御装置において、車両の外界情報に基づきセーリング制御を行う処理の流れを示すフローチャートである。
【0029】
この処理は、エンジンが自動停止していない場合、所定の演算周期で繰り返し実行される。
【0030】
ステップ101では、車速が基準車速以上であるか否かを判定し、成立(Yes)の場合はステップ102へ進み、不成立の場合はステップ106へ進む。ステップ106では、セーリング制御への移行を禁止し、通常制御を継続する。具体的には、走行中にドライバーが加速や制動の意志がない時に、エンジンの自動停止、および駆動力伝達機構を非締結状態にすることを禁止する。なお、通常制御では、走行中にドライバーが制動や車両停止の意志がある時に、エンジンの自動停止を行うアイドルストップ制御、またはコーストストップ制御を実施しても良い。」

オ「【0036】
ステップ108では、セーリングストップ制御を実行する。具体的には、動力伝達機構であるトランスミッションの動力伝達開放要素であるクラッチ(CL)を解放状態に制御することや、エンジン(ENG)の燃料噴射や点火を停止させる。詳細内容は、図4に示すフローチャートを用いて説明する。」

カ 「【0039】
次に、図4の各ステップについて説明する。ここでは、図3のステップ108である、セーリングストップ制御が選択された後の動作について説明する。
【0040】
ステップ201では、セーリングストップ許可が実行された後、その車両状態において、駆動力伝達機構であるトランスミッションに必要な油圧(指示油圧1)を算出する。この油圧は、セーリングストップ状態において、ドライバーからの再加速を要求された時に、速やかに駆動力を伝達できるようにするために、クラッチ機構やプーリーへオイルを供給する為に設定する。必要油圧は、オイル温度、油圧回路(ソレノイド電流)の状態を元に決定する。

キ 「【0043】
ステップ204では、車両を惰性走行状態とするために、動力伝達機構であるトランスミッションの動力伝達開放要素であるクラッチ(CL)を解放状態に制御させる。具体的には、クラッチの締結開放を制御しているソレノイドへの通電電流を、クラッチが開放する方へ変化させる。
【0044】
ステップ205では、エンジンコントールユニットがトランスミッションコントールユニットからの信号に基づき、エンジンの燃料噴射や点火を停止またはタイミングを変化させながら、エンジン回転数を0r/min(停止状態)にする。ここで、エンジン停止動作をステップ204(CL指示(開放))より後に実行させることで、エンジン停止による急激なエンジンブレーキ力がタイヤまで伝わることを避けることができ、走行安定性とドライバーへの違和感を低減することができる。」

ク 「【0052】
従来であれば、車両が内燃機関の自動停止と駆動力伝達機構を非締結状態にするセーリングストップ制御状態において、走行レーンを変更する場合に、ドライバーが加速や制動の意志がない時においても、内燃機関の自動停止が制限され、内燃機関が起動するために燃料を消費し、省燃費走行の要求に応えることができない場合があった。これに対し、本実施形態に係る車両用制御装置は、セーリングストップ制御状態において、車両の外界情報から検知、または予測した走行レーンの変更に基づいて、車両の走行中に、内燃機関の自動停止、または再始動の実行、または駆動力伝達機構を非締結状態に制御するセーリング条件判定手段を備え、走行レーンの変更が追越車線側への変更の場合は、内燃機関の自動停止を制限するように構成され、また、走行レーンの変更が追越車線側と反対方向への変更の場合は、内燃機関の自動停止を許可するように構成される。従って、走行レーンを変更する場合に、ドライバーが加速や制動の意思がない時においても、内燃機関の自動停止が適切に判断でき、燃費の向上を図ることができる。」

(2)引用文献7記載事項
上記(1)の記載事項を総合すると、引用文献7には、以下の事項(以下「引用文献7記載事項」という。)が記載されている。

〔引用文献7記載事項〕
「車両用制御装置において、走行中にドライバーが車両停止の意志がある時に、エンジンの自動停止を行うアイドルストップ制御を行い、セーリングストップ許可が実行された後、内燃機関の自動停止と駆動力伝達機構を非締結状態にするセーリングストップ制御を実行すること。」

8 引用文献8
(1)引用文献8の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である引用文献8には、「エンジンの制御装置」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「【0001】
本発明は、エンジンの制御装置に係り、特に、エンジンの自動停止と再始動における吸入空気量を制御するエンジンの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アイドリング中のエネルギー消費削減とCO2排出量削減を目的として、運転者が車両を停止させた際に燃料カット(気筒内への燃料噴射停止)によるエンジンの自動停止を行い、運転者がアクセル操作等で車両を運転しようとした際に、例えばスタータによってエンジンをクランキングして再始動を行うアイドルストップ機能を搭載した車両が知られている。
【0003】
近年では、このアイドルストップ機能を、車両の停止時のみならず、低車速領域で運転者がブレーキを踏んだ場合にエンジンの自動停止を行うコーストストップ機能や、高車速領域で運転者がトルクを必要としない場合(例えばアクセルオフ且つブレーキオフの状態が所定時間以上継続した時)にエンジンとクラッチを切り離し、エンジンの自動停止を行うセーリングストップ機能へ拡張することが提案されている(例えば、下記特許文献1参照)。
【0004】
上述したアイドルストップ機能において、運転者の発進操作(例えばアクセル操作やハンドル操作)が行われてエンジンの再始動要求が発生したときは、高い再始動性が求められている。ここでいう再始動性とは、再始動要求が発生してからエンジンが自律運転状態に入るまでに要する時間である。特に前述のセーリングストップ機能における再始動時は、車両が走行中であり、再始動性が100msの単位で求められる。」

(2)引用文献8記載事項
上記(1)の記載事項を総合すると、引用文献8には、以下の事項(以下「引用文献8記載事項」という。)が記載されている。

〔引用文献8記載事項〕
「エンジンの制御装置において、運転者が車両を停止させた際に燃料カットによるエンジンの自動停止を行うアイドルストップ機能と、高車速領域でアクセルオフ且つブレーキオフの状態が所定時間以上継続した時にエンジンとクラッチを切り離し、エンジンの自動停止を行うセーリングストップ機能を有すること。」

第5 対比及び判断
1 本願発明1
(1)引用発明1Aを主引用発明とした場合
ア 対比
本願発明1と引用発明1Aとを対比すると、引用発明1Aの「機関圧縮比」は、その機能、構成又は技術的意義からみて、本願発明1の「機械的圧縮比」に相当し、以下同様に、「可変圧縮比装置20」は「可変圧縮比機構」に、「エンジン」は「内燃機関」に、「エンジン実動状態」は「内燃機関の運転中」に、「エンジン負荷とエンジン回転速度Ne」は「運転条件」に、それぞれ相当する。

また、引用発明1Aの「燃料の噴射供給によるエンジン実動状態を継続しつつ、エンジン負荷とエンジン回転速度Neとに基づいて力行圧縮比制御マップを検索して」「設定」される「目標圧縮比」は、本願発明1の「内燃機関の運転中は内燃機関の運転条件に基づいて設定される基本目標圧縮比」に相当する。
そうすると、引用発明1Aの「燃料カットを行うべき車両運転状態にない場合には、燃料カットは行われず、燃料の噴射供給によるエンジン実動状態を継続しつつ、エンジン負荷とエンジン回転速度Neとに基づいて力行圧縮比制御マップを検索して目標圧縮比を設定」することは、本願発明1の「内燃機関の運転中は内燃機関の運転条件に基づいて設定される基本目標圧縮比を目標圧縮比と」することに相当する。

さらに、引用発明1Aの「良好なエンジン始動性を確保できる範囲内で」「可能な限り低く」する「目標圧縮比」は、本願発明1の「再始動に備えた」「再始動用圧縮比」に相当する。
そうすると、引用発明1Aの「アクセル開度を踏み込まずに惰性により走行している燃料カットを伴うコースト走行中にあっては、エンジン回転速度と吸気温度とに基づいて、良好なエンジン始動性を確保できる範囲内で、目標圧縮比を可能な限り低く設定する」ことと本願発明1の「車両の惰行走行中に自動に内燃機関を駆動系から切り離すとともに内燃機関の運転を停止して回転を停止させるセーリングストップ時は、セーリングストップ解除に伴う再始動に備えたセーリングストップ再始動用圧縮比を目標圧縮比と」することとは、「車両の惰行走行中に自動に内燃機関の運転を停止させる時は、再始動に備えた再始動用圧縮比を目標圧縮比と」することという限りにおいて一致する。

そうすると、本願発明1と引用発明1Aは、以下の一致点、相違点を有する。

〔一致点〕
「機械的圧縮比を変更可能な可変圧縮比機構を備えた内燃機関の制御方法において、
内燃機関の運転中は内燃機関の運転条件に基づいて設定される基本目標圧縮比を目標圧縮比とし、
車両の惰行走行中に自動に内燃機関の運転を停止させる時は、再始動に備えた再始動用圧縮比を目標圧縮比とする、内燃機関の制御方法。」

〔相違点1〕
本願発明1では、「車両の停止に伴い自動に内燃機関の運転を停止して回転を停止させるアイドルストップ時は、アイドルストップ解除に伴う再始動に備えたアイドルストップ再始動用圧縮比を目標圧縮比と」するのに対し、引用発明1Aでは、そのようなことが特定されていない点。

〔相違点2〕
「車両の惰行走行中に自動に内燃機関の運転を停止させる時は、再始動に備えた再始動用圧縮比を目標圧縮比と」することに関して、本願発明1では、「車両の惰行走行中に自動に内燃機関を駆動系から切り離すとともに内燃機関の運転を停止して回転を停止させるセーリングストップ時は、セーリングストップ解除に伴う再始動に備えたセーリングストップ再始動用圧縮比を目標圧縮比と」するのに対し、引用発明1Aでは、「アクセル開度を踏み込まずに惰性により走行している燃料カットを伴うコースト走行中にあっては、エンジン回転速度と吸気温度とに基づいて、良好なエンジン始動性を確保できる範囲内で、目標圧縮比を可能な限り低く設定する」点。

〔相違点3〕
本願発明1は「上記セーリングストップ再始動用圧縮比は上記アイドルストップ再始動用圧縮比よりも相対的に低い圧縮比である」のに対し、引用発明1Aは、そのようなことが特定されていない点。

イ 当審の判断
事案に鑑み、まず相違点3について検討する。
上記第4の3(2)ないし8(2)において上述したとおり、引用文献3ないし8には、引用文献3記載事項ないし引用文献8記載事項が開示されている。
アイドルストップ時に目標圧縮比を設定することは、引用文献3及び引用文献4に記載されており、アイドルストップとセーリングストップを行うことは、引用文献5ないし8に記載されているものの、「上記セーリングストップ再始動用圧縮比は上記アイドルストップ再始動用圧縮比よりも相対的に低い圧縮比である」ことは、引用文献3ないし8に記載されておらず、また、これら記載事項から当業者が適宜なし得ることであるともいえない。
そして、引用文献3記載事項ないし引用文献8記載事項は、いずれも本願発明1の「上記セーリングストップ再始動用圧縮比は上記アイドルストップ再始動用圧縮比よりも相対的に低い圧縮比である」ことを備えるものではなく、そのほかに本願発明1の「上記セーリングストップ再始動用圧縮比は上記アイドルストップ再始動用圧縮比よりも相対的に低い圧縮比である」ことを周知であるとする根拠や証拠もない。
そうすると、仮に引用発明1Aにおいて引用文献3記載事項ないし引用文献8記載事項を採用する動機があったとしても、引用発明1Aにおいて引用文献3記載事項ないし引用文献8記載事項を採用したものは、相違点3に係る本願発明1の発明特定事項にはならない。
したがって、引用発明1Aにおいて引用文献3記載事項ないし引用文献8記載事項を採用しても、相違点3に係る本願発明1の発明特定事項とすることは、当業者であっても容易に想到することができたものではない。
加えて、当業者の通常の創作能力の範囲内で、引用発明1Aから相違点3に係る本願発明1の発明特定事項を容易に想到し得たとする他の事情を見出すこともできない。

そして、本願発明1は、相違点3に係る本願発明1の発明特定事項により、明細書段落【0037】における「アイドルストップ再始動用圧縮比εisは、低負荷運転に適した比較的に高い圧縮比に設定される。従って、再始動に必要な最小限の燃料量ならびに吸気量によって、穏やかな始動が実現される。これに対し、セーリングストップ再始動用圧縮比εssは、高負荷運転に適した比較的に低い圧縮比に設定される。従って、再始動の完了と同時に直ちに高い負荷の運転に移行することができ、トルクの立ち上がりに優れた特性となる。」などの、引用発明1A及び引用文献3記載事項ないし引用文献8記載事項から予測し得ない格別顕著な効果も奏する。

したがって、他の相違点の検討をするまでもなく、本願発明1は、引用発明1A及び引用文献3記載事項ないし引用文献8記載事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。

(2)引用発明2Aを主引用発明とした場合
ア 対比
本願発明1と引用発明2Aとを対比すると、引用発明2Aの「ピストン行程を変化させて圧縮比を変更する圧縮比可変機構10」は、その機能、構成又は技術的意義からみて、本願発明1の「機械的圧縮比を変更可能な可変圧縮比機構」に相当し、以下同様に、「可変圧縮比エンジン400」は「内燃機関」に、「燃料噴射及び点火がされている通常運転時」は「内燃機関の運転中」に、「燃料性状判別装置317の検出値に基づいて設定された目標圧縮比」は「運転条件に基づいて設定される基本目標圧縮比」に、それぞれ相当する。

また、引用発明2Aの「燃料噴射及び点火がされている通常運転時は、燃料性状判別装置317の検出値に基づいて設定された目標圧縮比を維持」することは、本願発明1の「内燃機関の運転中は内燃機関の運転条件に基づいて設定される基本目標圧縮比を目標圧縮比と」することに相当する。

さらに、引用発明2Aの「燃料カットが行われる減速コーストを含むアイドリングの最中」と本願発明1の「車両の惰行走行中に自動に内燃機関を駆動系から切り離すとともに内燃機関の運転を停止して回転を停止させるセーリングストップ時」とは、「車両の惰行走行中に自動に内燃機関の運転を停止させる時」という限りにおいて一致し、同様に、「コントローラ50はアクチュエータ42を制御し、低圧縮比又は高圧縮比のうち目標圧縮比に近い方の圧縮比に変更するように圧縮比変更を行う」ことと「セーリングストップ解除に伴う再始動に備えたセーリングストップ再始動用圧縮比を目標圧縮比と」することとは、「目標圧縮比を変更する」ことという限りにおいて一致する。

そうすると、本願発明1と引用発明2Aは、以下の一致点、相違点を有する。

〔一致点〕
「機械的圧縮比を変更可能な可変圧縮比機構を備えた内燃機関の制御方法において、
内燃機関の運転中は内燃機関の運転条件に基づいて設定される基本目標圧縮比を目標圧縮比とし、車両の惰行走行中に自動に内燃機関の運転を停止させる時は、目標圧縮比を変更する、内燃機関の制御方法。」

〔相違点4〕
本願発明1では、「車両の停止に伴い自動に内燃機関の運転を停止して回転を停止させるアイドルストップ時は、アイドルストップ解除に伴う再始動に備えたアイドルストップ再始動用圧縮比を目標圧縮比と」するのに対し、引用発明2Aでは、そのようなことが特定されていない点。

〔相違点5〕
「車両の惰行走行中に自動に内燃機関の運転を停止させる時は、目標圧縮比を変更する」ことに関して、本願発明1では、「車両の惰行走行中に自動に内燃機関を駆動系から切り離すとともに内燃機関の運転を停止して回転を停止させるセーリングストップ時は、セーリングストップ解除に伴う再始動に備えたセーリングストップ再始動用圧縮比を目標圧縮比と」するのに対し、引用発明2Aでは、「燃料カットが行われる減速コーストを含むアイドリングの最中には、コントローラ50はアクチュエータ42を制御し、低圧縮比又は高圧縮比のうち目標圧縮比に近い方の圧縮比に変更するように圧縮比変更を行う」点。

〔相違点6〕
本願発明1では、「上記セーリングストップ再始動用圧縮比は上記アイドルストップ再始動用圧縮比よりも相対的に低い圧縮比である」のに対し、引用発明2Aでは、そのようなことが特定されていない点。

イ 当審の判断
事案に鑑み、まず相違点6について検討する。
上記第4の3(2)ないし8(2)において上述したとおり、引用文献3ないし8には、引用文献3記載事項ないし引用文献8記載事項が開示されている。
アイドルストップ時に目標圧縮比を設定することは、引用文献3及び引用文献4に記載されており、アイドルストップとセーリングストップを行うことは、引用文献5ないし8に記載されているものの、「上記セーリングストップ再始動用圧縮比は上記アイドルストップ再始動用圧縮比よりも相対的に低い圧縮比である」ことは、引用文献3ないし8に記載されておらず、また、これら記載事項から当業者が適宜なし得ることであるともいえない。
そして、引用文献3記載事項ないし引用文献8記載事項は、いずれも本願発明1の「上記セーリングストップ再始動用圧縮比は上記アイドルストップ再始動用圧縮比よりも相対的に低い圧縮比である」ことを備えるものではなく、そのほかに本願発明1の「上記セーリングストップ再始動用圧縮比は上記アイドルストップ再始動用圧縮比よりも相対的に低い圧縮比である」ことを周知であるとする根拠や証拠もない。
そうすると、仮に引用発明2Aにおいて引用文献3記載事項ないし引用文献8記載事項を採用する動機があったとしても、引用発明2Aにおいて引用文献3記載事項ないし引用文献8記載事項を採用したものは、相違点6に係る本願発明1の発明特定事項にはならない。
したがって、引用発明2Aにおいて引用文献3記載事項ないし引用文献8記載事項を採用しても、相違点6に係る本願発明1の発明特定事項とすることは、当業者であっても容易に想到することができたものではない。
加えて、当業者の通常の創作能力の範囲内で、引用発明2Aから相違点6に係る本願発明1の発明特定事項を容易に想到し得たとする他の事情を見出すこともできない。

そして、本願発明1は、相違点6に係る本願発明1の発明特定事項により、明細書段落【0037】における「アイドルストップ再始動用圧縮比εisは、低負荷運転に適した比較的に高い圧縮比に設定される。従って、再始動に必要な最小限の燃料量ならびに吸気量によって、穏やかな始動が実現される。これに対し、セーリングストップ再始動用圧縮比εssは、高負荷運転に適した比較的に低い圧縮比に設定される。従って、再始動の完了と同時に直ちに高い負荷の運転に移行することができ、トルクの立ち上がりに優れた特性となる。」などの、引用発明2A及び引用文献3記載事項ないし引用文献8記載事項から予測し得ない格別顕著な効果も奏する。

したがって、他の相違点を検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明2A及び引用文献3記載事項ないし引用文献8記載事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。

2 本願発明2及び本願発明3
本願発明2及び本願発明3は、本願発明1の発明特定事項を全て備え、加えて本願発明2及び本願発明3において新たに特定される発明特定事項を全て備えるものである。
したがって、本願発明1と同様に、本願発明2及び本願発明3は、当業者であっても、引用発明1A及び引用文献3記載事項ないし引用文献8記載事項に基いて、又は、引用発明2A及び引用文献3記載事項ないし引用文献8記載事項に基いて、容易に発明することができたものであるとはいえない。

3 本願発明4
本願発明4は、「制御方法」に係る発明である本願発明1を実行する「制御装置」に係る発明であると認められ、その実質的な内容は本願発明1と同様である。

引用文献1には、以下のとおり、引用発明1Aに係る制御装置の発明(以下「引用発明1B」という。)も実質的に記載されている。

〔引用発明1B〕
「機関圧縮比を変更可能な可変圧縮比装置20を備えたエンジンの制御装置において、
燃料カットを行うべき車両運転状態にない場合には、燃料カットは行われず、燃料の噴射供給によるエンジン実動状態を継続しつつ、エンジン負荷とエンジン回転速度Neとに基づいて力行圧縮比制御マップを検索して目標圧縮比を設定し、
アクセル開度を踏み込まずに惰性により走行している燃料カットを伴うコースト走行中にあっては、エンジン回転速度と吸気温度とに基づいて、良好なエンジン始動性を確保できる範囲内で、目標圧縮比を可能な限り低く設定する、
エンジンの制御装置。」

また、引用文献2には、以下のとおり、引用発明2Aに係る制御装置の発明(以下「引用発明2B」という。)も実質的に記載されている。

〔引用発明2B〕
「ピストン行程を変化させて圧縮比を変更する圧縮比可変機構10を備える可変圧縮比エンジン400の制御装置において、
燃料噴射及び点火がされている通常運転時は、燃料性状判別装置317の検出値に基づいて設定された目標圧縮比を維持し、
燃料カットが行われる減速コーストを含むアイドリングの最中には、コントローラ50はアクチュエータ42を制御し、低圧縮比又は高圧縮比のうち目標圧縮比に近い方の圧縮比に変更するように圧縮比変更を行う、
エンジンの制御装置。」

本願発明4と引用発明1B及び2Bとを対比すると、実質的にそれぞれ上記1(1)アの相違点3、上記1(2)アの相違点6で少なくとも相違する。
そして、相違点3及び6に係る判断は、それぞれ上記1(1)イ、上記1(2)イのとおりである。

したがって、本願発明4は、当業者であっても、引用発明1B及び引用文献3記載事項ないし引用文献8記載事項に基いて、又は、引用発明2B及び引用文献3記載事項ないし引用文献8記載事項に基いて、容易に発明することができたものであるとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1ないし4は、引用文献1ないし8に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2023-12-26 
出願番号 P2020-556348
審決分類 P 1 8・ 121- WY (F02D)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 河端 賢
特許庁審判官 星名 真幸
倉橋 紀夫
発明の名称 内燃機関の制御方法および制御装置  
代理人 富岡 潔  
代理人 小林 博通  

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