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審決分類 審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C21D
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  C21D
審判 一部申し立て 2項進歩性  C21D
管理番号 1405842
総通号数 25 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2024-01-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2023-08-24 
確定日 2023-12-27 
異議申立件数
事件の表示 特許第7231642号発明「耐熱磁区細分化型方向性珪素鋼及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7231642号の請求項1、2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7231642号(請求項の数6。以下、「本件特許」という。)は、2018年(平成30年)6月20日(パリ条約による優先権主張外国庁受理:2018年3月30日 (CN)中国)を国際出願日とする出願(特願2020−550770号)に係るものであって、令和5年2月20日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は、令和5年3月1日である。)。
その後、令和5年8月24日に、本件特許の請求項1、2に係る特許に対して、特許異議申立人である前田洋志(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。

第2 本件発明
本件特許の請求項1〜6に係る発明は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1〜6に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、そのうち、請求項1、2に係る発明は、以下のとおりのものである(以下、それぞれ「本件発明1」等という。また、本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。

【請求項1】
耐熱磁区細分化型方向性珪素鋼であって、
片面又は両面に、切れ目付け方式により形成された相互に平行な複数の溝を有し、
各溝はいずれも耐熱磁区細分化型方向性珪素鋼の幅方向に延在し、
該相互に平行な複数の溝は耐熱磁区細分化型方向性珪素鋼の圧延方向に沿って均一に分布し、
耐熱磁区細分化型方向性珪素鋼の幅方向に延在する各溝はいずれも耐熱磁区細分化型方向性珪素鋼の幅方向に延在する複数のサブ溝をつなぎ合わせてなり、
各サブ溝の耐熱磁区細分化型方向性珪素鋼の幅方向における横断面形状は逆台形であり、前記台形の長辺の長さはLtであり、前記台形の斜辺の耐熱磁区細分化型方向性珪素鋼の幅方向における投影長さleは8mmを超えず、
各溝をつなぎ合わせにより形成する複数のサブ溝のうち、隣接する2つのサブ溝の相互間の横方向間隔lbは10mmを超えず、
前記台形の長辺の長さLt、前記台形の斜辺の耐熱磁区細分化型方向性珪素鋼の幅方向における投影長さle及び横方向間隔lbはさらに、(le+lb)/Lt≦0.2の関係を満たし、
前記台形の高さmは5〜60μmであり、
圧延方向において隣接する溝間の間隔dは2〜10mmであり、
各溝をつなぎ合わせにより形成する複数のサブ溝について、耐熱磁区細分化型方向性珪素鋼の圧延方向のずれ間隔d0は溝間の間隔dの0.4倍を超えない、
ことを特徴とする耐熱磁区細分化型方向性珪素鋼。
【請求項2】
前記切れ目付け方式は、レーザー切れ目付け、電気化学的切れ目付け、歯付きローラ切れ目付け及び高圧水ビーム切れ目付けのうちの少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1に記載の耐熱磁区細分化型方向性珪素鋼。

第3 特許異議の申立ての理由の概要
本件特許の請求項1、2に係る特許は、下記1〜4のとおり、特許法113条2号及び4号に該当する。証拠方法は、甲第1号証〜甲第6号証(以下、単に「甲1」等という。下記5を参照。)である。
1 申立理由1(新規性
本件発明1、2は、甲1に記載された発明であり、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1、2に係る特許は、同法113条2号に該当する。
2 申立理由2(進歩性
本件発明1、2は、甲1に記載された発明及び甲2〜4に記載された事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1、2に係る特許は、同法113条2号に該当する。
3 申立理由3(サポート要件)
本件発明1、2については、特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に適合するものではないから、本件特許の請求項1、2に係る特許は、同法113条4号に該当する。
4 申立理由4(明確性要件)
本件発明1、2については、特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号に適合するものではないから、本件特許の請求項1、2に係る特許は、同法113条4号に該当する。
5 証拠方法
・甲1 特開2014−73518号公報
・甲2 特開2012−102395号公報
・甲3 藤田博之、「異方性および等方性エッチング」、高分子、1995年、44巻、4月号、p.235
・甲4 特開2017−133051号公報
・甲5 特開2017−125250号公報
・甲6 特開2016−113643号公報

第4 当審の判断
以下に述べるように、特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1、2に係る特許を取り消すことはできない。

1 申立理由1(新規性)、申立理由2(進歩性
(1)甲1に記載された発明
甲1の記載(請求項1〜3、【0002】〜【0006】、【0010】〜【0026】、図1、2)によれば、特に、【0002】、【0003】の記載を前提として、【0016】〜【0018】の記載、図1(電解エッチングで形成された線状溝の外観写真)に着目すると、甲1には、以下の発明が記載されていると認められる。

「グラビア印刷でエッチングレジストを塗布した後、電解エッチングで表面に溝を形成することで、圧延方向に3mmピッチで、板幅方向から圧延方向に10°傾いて線状溝が形成された、磁区細分化処理された方向性電磁鋼板であって、
線状溝は、圧延方向の溝幅が変動しており、場所によっては完全に溝が途切れている箇所も認められる、方向性電磁鋼板。」(以下、「甲1発明」という。)

(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明における「方向性電磁鋼板」は、技術常識に照らして、本件発明1における「方向性珪素鋼」に相当する。
また、甲1発明における「グラビア印刷でエッチングレジストを塗布した後、電解エッチングで表面に溝を形成することで、圧延方向に3mmピッチで、板幅方向から圧延方向に10°傾いて線状溝が形成された、磁区細分化処理された方向性電磁鋼板」は、「線状溝が形成され」ていることから、本件明細書の記載(【0003】)を踏まえると、耐熱磁区細分化型であると解され、また、図1によれば、上記「線状溝」は、相互に平行な複数の溝であり、方向性電磁鋼板の幅方向に延在し、方向性電磁鋼板の圧延方向に沿って均一に分布していることが見て取れるから、本件発明1における「片面又は両面に、切れ目付け方式により形成された相互に平行な複数の溝を有し、各溝はいずれも耐熱磁区細分化型方向性珪素鋼の幅方向に延在し、該相互に平行な複数の溝は耐熱磁区細分化型方向性珪素鋼の圧延方向に沿って均一に分布し」、「圧延方向において隣接する溝間の間隔dは2〜10mmであ」る、「耐熱磁区細分化型方向性珪素鋼」に相当する。
以上によれば、本件発明1と甲1発明とは、
「耐熱磁区細分化型方向性珪素鋼であって、
片面又は両面に、切れ目付け方式により形成された相互に平行な複数の溝を有し、
各溝はいずれも耐熱磁区細分化型方向性珪素鋼の幅方向に延在し、
該相互に平行な複数の溝は耐熱磁区細分化型方向性珪素鋼の圧延方向に沿って均一に分布し、
圧延方向において隣接する溝間の間隔dは2〜10mmである、
耐熱磁区細分化型方向性珪素鋼。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
・相違点1
本件発明1では、「いずれも耐熱磁区細分化型方向性珪素鋼の幅方向に延在」する「各溝」が、「いずれも」「幅方向に延在する複数のサブ溝をつなぎ合わせてな」るものであり、「各サブ溝の」「幅方向における横断面形状は逆台形であ」るのに対して、甲1発明では、「線状溝」が、「圧延方向の溝幅が変動しており、場所によっては完全に溝が途切れている箇所も認められる」ものの、「いずれも」「幅方向に延在する複数のサブ溝をつなぎ合わせてな」るものであるかどうか明らかではなく、また、「各サブ溝の」「幅方向における横断面形状は逆台形であ」るかどうか明らかではない点。
・相違点2
本件発明1では、「前記台形の斜辺の耐熱磁区細分化型方向性珪素鋼の幅方向における投影長さleは8mmを超えず」、「各溝をつなぎ合わせにより形成する複数のサブ溝のうち、隣接する2つのサブ溝の相互間の横方向間隔lbは10mmを超えず」、「前記台形の長辺の長さLt、前記台形の斜辺の耐熱磁区細分化型方向性珪素鋼の幅方向における投影長さle及び横方向間隔lbはさらに、(le+lb)/Lt≦0.2の関係を満たし」、「前記台形の高さmは5〜60μmであり」、「各溝をつなぎ合わせにより形成する複数のサブ溝について、耐熱磁区細分化型方向性珪素鋼の圧延方向のずれ間隔d0は溝間の間隔dの0.4倍を超えない」のに対して、甲1発明では、「線状溝」がそのようなものであるかどうか明らかではない点。

イ 相違点1の検討
(ア)まず、相違点1が実質的な相違点であるか否かについて検討する。
a 甲1発明における「線状溝」は、「圧延方向の溝幅が変動しており、場所によっては完全に溝が途切れている箇所も認められる」ものである。
甲1には、(a)このような溝が形成されると、鉄損や磁束密度のばらつきが大きくなり、安定した品質(磁気特性)の方向性電磁鋼板を得ることはできなくなること(【0017】)、(b)発明者らは、上記のような溝形状のばらつきの原因について調査した結果、エッチングレジストを塗布する冷延板の表面粗さが、レジストの塗布状態に大きく影響していることを突き止めたこと(【0018】)、(c)図2(電解エッチングで形成された線状溝不良部近傍の3次元粗さ測定結果を示す図)によれば、溝の途切れが発生している部分は、その周辺部より鋼板表面が相対的に凹んでいること(【0016】、【0018】)、(d)塗布されたレジスト液は、鋼板表面の凹んだ部分に流入することから、溝形状不良の原因は、本来、非塗布部となるべき場所にレジスト液が流入して塗布されてしまったことによるものと推察されること(【0018】)が記載されている。
甲1の上記記載を踏まえると、甲1発明における、「圧延方向の溝幅が変動しており、場所によっては完全に溝が途切れている箇所も認められる」「線状溝」は、本来、非塗布部となるべき場所にレジスト液が流入して塗布されたために形成されてしまった、溝形状のばらつきがある、溝形状不良の「線状溝」と解される。
そうすると、このような甲1発明における「線状溝」が、本件発明1における「いずれも」「幅方向に延在する複数のサブ溝をつなぎ合わせてな」る、「いずれも」「幅方向に延在」する「各溝」に相当するものとはいい難い。
b 仮に、甲1発明における「線状溝」が、「場所によっては完全に溝が途切れている箇所も認められる」ものであることから、本件発明1における「いずれも」「幅方向に延在する複数のサブ溝をつなぎ合わせてな」る、「いずれも」「幅方向に延在」する「各溝」に相当するものであると解する余地があるとしても、甲1には、「線状溝」の幅方向における横断面形状については何ら記載されていないから、本件発明1のように、「各サブ溝の」「幅方向における横断面形状は逆台形であ」るかどうかは不明である。
c(a)この点、申立人は、エッチングによって形成される線状溝について、圧延方向における横断面形状は、通常、甲2の図1に示されるように、逆台形であるところ、甲3によれば、甲2の図1に示される溝を形成するためのエッチングは、その断面形状からすると、等方性エッチングであることから、圧延方向にも幅方向にも同様にエッチングが進むはずであり、その場合、甲1発明における「線状溝」の幅方向における横断面形状は、圧延方向における横断面形状と同様に、甲2の図1に示されるような逆台形となっている蓋然性が高いと主張する。
(b)申立人の主張は、エッチングによって形成される線状溝の圧延方向における横断面形状は、通常、逆台形である(甲2の図1)から、電解エッチングで形成される、甲1発明における「線状溝」(図1に示される線状溝)の圧延方向における横断面形状も、逆台形であることを前提とするものと解される。
しかしながら、甲2の記載(【0026】、【0027】)によれば、甲2の図1に示されるような、圧延方向における横断面形状が所定の逆台形である線状溝は、電解エッチングを所定の条件(極間距離:30mm、液温:40℃、電解液の鋼板に対する相対速度:0.5m/s、電流密度:10A/dm2以上20A/dm2以下)で行うことで得られるものであり、甲2の記載からは、いかなる条件の電解エッチングであっても、必ず、圧延方向における横断面形状が所定の逆台形になると解することはできない。
そうすると、申立人が主張するように、甲2の記載を根拠として、エッチングによって形成される線状溝の圧延方向における横断面形状が、通常、逆台形であるとまではいえないから、甲1発明における「線状溝」(図1に示される線状溝)が電解エッチングで形成されるものであるとしても、その圧延方向における横断面形状が、当然に、逆台形であるとまではいえない。
(c)また、エッチングによって形成される線状溝の圧延方向における横断面形状が、通常、逆台形であるとまではいえないとしても、甲1発明における「線状溝」(図1に示される線状溝)が、甲2に記載される電解エッチングの条件(上記(b)参照)と同じ条件で電解エッチングを行うことで形成されたものであれば、甲2の図1に示されるような所定の逆台形となっていると解する余地がある。
しかしながら、甲1発明における「線状溝」は、「グラビア印刷でエッチングレジストを塗布した後、電解エッチングで表面に溝を形成する」というだけであり、甲1には、甲1発明における「線状溝」(図1に示される線状溝)を形成する際の、電解エッチングの具体的な条件については記載されていないから、甲2に記載される電解エッチングの条件(上記(b)参照)との異同は不明である。
そうすると、甲2の上記(b)の記載を踏まえても、甲1発明における「線状溝」(図1に示される線状溝)の圧延方向における横断面形状が、実際に、甲2の図1に示されるような所定の逆台形となっているかどうかは、不明というほかない。
(d)さらに、そもそも、甲2の図1に示される線状溝の横断面形状は、「圧延方向」における横断面形状にすぎない。仮に、申立人が主張するように、甲2の図1に示される線状溝を形成するためのエッチングが、等方性エッチングであったとしても、実際に、「幅方向」における横断面形状も、「圧延方向」における横断面形状と同様に、甲2の図1に示されるような所定の逆台形となっているかどうかは、やはり不明である。
(e)よって、いずれにしろ、申立人の主張は採用できない。
d 以上によれば、相違点1は実質的な相違点である。
したがって、本件発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえない。

(イ)次に、相違点1の容易想到性について検討する。
a 上記(ア)aで述べたとおり、甲1発明における「線状溝」が、本件発明1における「いずれも」「幅方向に延在する複数のサブ溝をつなぎ合わせてな」る、「いずれも」「幅方向に延在」する「各溝」に相当するものとはいい難い。
また、甲1のほか、甲2〜4にも、甲1発明における「線状溝」を、本件発明1のように、「いずれも」「幅方向に延在する複数のサブ溝をつなぎ合わせてな」る、「いずれも」「幅方向に延在」する「各溝」とすることを動機付ける記載は見当たらない。
b 上記(ア)bで述べたとおり、仮に、甲1発明における「線状溝」が、「場所によっては完全に溝が途切れている箇所も認められる」ものであることから、本件発明1における「いずれも」「幅方向に延在する複数のサブ溝をつなぎ合わせてな」る、「いずれも」「幅方向に延在」する「各溝」に相当するものであると解する余地があるとしても、甲1のほか、甲2〜4にも、甲1発明における「線状溝」を、本件発明1のように、「各サブ溝の」「幅方向における横断面形状は逆台形」とすることを動機付ける記載は見当たらない。
c 以上によれば、甲1発明において、「線状溝」を、「いずれも」「幅方向に延在する複数のサブ溝をつなぎ合わせてな」る、「いずれも」「幅方向に延在」する「各溝」とするとともに、「各サブ溝の」「幅方向における横断面形状は逆台形」とすることは、当業者が容易に想到することができたとはいえない。
したがって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明及び甲2〜4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 小括
以上のとおり、本件発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1に記載された発明及び甲2〜4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を引用するものであり、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであるが、上記(2)で述べたとおり、本件発明1が、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1に記載された発明及び甲2〜4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明2についても同様に、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1に記載された発明及び甲2〜4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)まとめ
以上のとおり、本件発明1、2は、甲1に記載された発明であるとはいえない。
また、本件発明1、2は、甲1に記載された発明及び甲2〜4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、申立理由1(新規性)、申立理由2(進歩性)によっては、本件特許の請求項1、2に係る特許を取り消すことはできない。

2 申立理由3(サポート要件)
(1)本件発明1について
ア 本件明細書の記載(【0002】〜【0006】)によれば、本件発明1が解決しようとする課題は、「切れ目付けによる溝の形態が制御可能な状態にあり、その縁部の溶融堆積物が明らかに抑制され、それにより磁区を細分化し、低鉄損化を実現し、かつ、応力除去焼鈍後でも鉄損が劣化することない、耐熱磁区細分化型方向性珪素鋼を提供すること」であると認められる。
イ 本件明細書の記載及び図面(【0003】、【0007】〜【0018】、【0021】、【0022】、【0025】、【0042】、【0046】、【0047】、図1、2)によれば、上記アの課題は、「片面又は両面に、切れ目付け方式により形成された相互に平行な複数の溝を有し、各溝はいずれも幅方向に延在し、該相互に平行な複数の溝は圧延方向に沿って均一に分布し、幅方向に延在する各溝はいずれも幅方向に延在する複数のサブ溝をつなぎ合わせてなる」、「耐熱磁区細分化型方向性珪素鋼」において、「各サブ溝の幅方向における横断面形状」を「逆台形」とし、「前記台形の斜辺の幅方向における投影長さle」を「8mmを超え」ないものとし、「各溝をつなぎ合わせにより形成する複数のサブ溝のうち、隣接する2つのサブ溝の相互間の横方向間隔lb」を「10mmを超え」ないものとし、「前記台形の長辺の長さLt、前記台形の斜辺の幅方向における投影長さle及び横方向間隔lb」について、「(le+lb)/Lt≦0.2」の関係を満た」すものとし、「前記台形の高さm」を「5〜60μm」とし、「圧延方向において隣接する溝間の間隔d」を「2〜10mm」とするとの要件を備えることによって、解決できることが理解できる。
ウ また、本件明細書には、「各溝をつなぎ合わせにより形成する複数のサブ溝」について、「耐熱磁区細分化型方向性珪素鋼の圧延方向のずれ間隔d0」を「溝間の間隔dの0.4倍を超えない」ものとすること(【0023】、【0024】)との要件についても記載されている。
エ 以上のとおり、本件明細書の記載を総合すれば、上記イ、ウの要件を備えた本件発明1は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであって、当業者が出願時の技術常識に照らして発明の詳細な説明の記載により上記アの課題を解決できると認識できる範囲のものということができる。
したがって、本件発明1については、特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものである。

(2)本件発明2について
ア 本件発明2が解決しようとする課題は、上記(1)アと同様である。
イ 本件発明2は、本件発明1を引用するものであり、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであるところ、本件明細書には、「切れ目付け方式」が、「レーザー切れ目付け、電気化学的切れ目付け、歯付きローラ切れ目付け及び高圧水ビーム切れ目付けのうちの少なくとも1つを含む」こと(【0025】)との要件についても記載されている。
ウ そうすると、上記(1)で述べたのと同様の理由により、上記(1)イ、ウの要件及び上記イの要件を備えた本件発明2についても、特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものである。

(3)申立人の主張について
申立人は、本件明細書の記載(【0006】、【0027】)を踏まえると、本件発明1、2が目的とする課題は、レーザービームを用いて溝(サブ溝)を形成する際にレーザービームに起因して生じる溶融堆積物を抑制することや、複数回のレーザー走査の場合の位置決めが不正確である問題を回避することであるところ、本件発明1においては、切れ目付け方式が「レーザー切れ目付け」に限定されておらず、また、本件発明2においても、「レーザー切れ目付け」だけでなく、「電気化学的切れ目付け」、「歯付きローラ切れ目付け」、「高圧水ビーム切れ目付け」も含まれるが、「レーザー切れ目付け」以外の方式では、溶融堆積物は生じないし、複数回のレーザー走査の場合の位置決めが不正確である問題も生じることはなく、また、「レーザー切れ目付け」以外の方式によって溝を形成する場合に、溶融堆積物を抑制できることや、複数回のレーザー走査の場合の位置決めが不正確である問題を解消できることは、本件明細書において実証されていないから、切れ目付け方式が「レーザー切れ目付け」に限定されていない本件発明1、2は、サポート要件を満たさないと主張する。
しかしながら、上記(1)、(2)で述べたとおり、本件発明1、2が解決しようとする課題は、「切れ目付けによる溝の形態が制御可能な状態にあり、その縁部の溶融堆積物が明らかに抑制され、それにより磁区を細分化し、低鉄損化を実現し、かつ、応力除去焼鈍後でも鉄損が劣化することない、耐熱磁区細分化型方向性珪素鋼を提供すること」である。申立人が課題であると主張する、「複数回のレーザー走査の場合の位置決めが不正確である問題を回避すること」については、本件明細書の記載(【0027】〜【0040】、【0043】)によれば、耐熱磁区細分化型方向性珪素鋼の製造方法に関する本件発明4〜6が解決しようとする課題と認められ、本件発明1、2が解決しようとする課題であるとはいえないから、この点についての申立人の主張は、前提において失当である。
また、申立人も認めるように、「レーザー切れ目付け」以外の方式では、そもそも溶融堆積物が生じないのであるから、本件発明1、2において、「レーザー切れ目付け」以外の方式によって溝を形成する場合においても、(そもそも溶融堆積物が生じないことで)溶融堆積物を抑制できることは、当業者にとって明らかである。
よって、いずれにしろ、申立人の主張は採用できない。

(4)まとめ
したがって、申立理由3(サポート要件)によっては、本件特許の請求項1、2に係る特許を取り消すことはできない。

3 申立理由4(明確性要件)
申立人は、切れ目付け方式として「電気化学的切れ目付け」を採用する場合、本件発明1、2の各構成、特に、「前記台形の斜辺の耐熱磁区細分化型方向性珪素鋼の幅方向における投影長さleは8mmを超えず」(以下、「構成F」という。)、「各溝をつなぎ合わせにより形成する複数のサブ溝のうち、隣接する2つのサブ溝の相互間の横方向間隔lbは10mmを超えず」(以下、「構成G」という。)、「前記台形の長辺の長さLt、前記台形の斜辺の耐熱磁区細分化型方向性珪素鋼の幅方向における投影長さle及び横方向間隔lbはさらに、(le+lb)/Lt≦0.2の関係を満たし」(以下、「構成H」という。)、「各溝をつなぎ合わせにより形成する複数のサブ溝について、耐熱磁区細分化型方向性珪素鋼の圧延方向のずれ間隔d0は溝間の間隔dの0.4倍を超えない」(以下、「構成K」という。)との構成は、当たり前に満足する構成であるから、切れ目付け方式が「レーザー切れ目付け」に限定されていない本件発明1、2については、その技術的意味を理解することができず、出願時の技術常識を考慮すれば、「レーザー切れ目付け」という発明特定事項が不足していることが明らかであり、本件発明1、2は明確ではないと主張する。
しかしながら、請求項1、2の記載に不明確なところはなく、その意味は明確であり、本件発明1、2は明確である。
また、本件発明1、2の各構成の技術的意味についても、本件明細書には、構成F、G、Hについて、磁区細分化による低鉄損化の効果が得られること(【0003】、【0011】、【0016】、【0018】)、構成Kについて、磁歪によるノイズが低下するとの効果が得られること(【0024】)が記載されている。本件明細書の上記記載を考慮すれば、切れ目付け方式として「電気化学的切れ目付け」を採用する場合に、構成F、G、H、Kが当たり前に満足する構成であるか否かにかかわらず、各構成の技術的意味は理解できるから、申立人が主張するように、「レーザー切れ目付け」という発明特定事項が不足しているなどということはできない。
したがって、申立理由4(明確性要件)によっては、本件特許の請求項1、2に係る特許を取り消すことはできない。

第5 むすび
以上のとおり、特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1、2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1、2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2023-12-18 
出願番号 P2020-550770
審決分類 P 1 652・ 537- Y (C21D)
P 1 652・ 121- Y (C21D)
P 1 652・ 113- Y (C21D)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 土屋 知久
井上 猛
登録日 2023-02-20 
登録番号 7231642
権利者 宝山鋼鉄股▲ふん▼有限公司
発明の名称 耐熱磁区細分化型方向性珪素鋼及びその製造方法  
代理人 関谷 充司  
代理人 奥山 尚一  
代理人 小川 護晃  

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