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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
管理番号 1405843
総通号数 25 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2024-01-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2023-08-29 
確定日 2024-01-10 
異議申立件数
事件の表示 特許第7231197号発明「医薬用錠剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7231197号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許7231197号(以下「本件特許」という。)の請求項1に係る特許についての出願(特願2018−246925号)は、平成30年12月28日に出願され、令和5年2月20日にその特許権が設定登録され、同年3月1日に特許掲載公報が発行された。
その後、請求項1に係る特許について、令和5年8月29日に、特許異議申立人である宮園祐爾(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立がされた。

第2 本件発明
本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、設定登録時の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
イブプロフェンと、アリルイソプロピルアセチル尿素と、カフェインとして無水カフェインと、アミノ酸としてグリシンまたはアスパラギン酸と、を含む医薬用錠剤であって、
前記イブプロフェンの配合比をA、前記アリルイソプロピルアセチル尿素の配合比をB、前記カフェインの配合比をC、前記アミノ酸の配合比をDとしたとき、
A:B:C:D=100:30〜40:30〜60:20〜230
である医薬用錠剤。」

第3 申立理由の概要及び証拠
申立人は、特許異議申立書(以下「申立書」という。)において、以下の申立理由1−1、1−2及び2を主張し、甲第1号証−甲第12号証(以下、号証の番号にしたがい「甲1」−「甲12」という。)を提出した。

1 申立理由の概要
(1)申立理由1−1(進歩性欠如)
本件発明は、甲1に記載の発明及び甲1乃至甲11の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

(2)申立理由1−2(進歩性欠如)
本件発明は、甲12に記載の発明及び甲2乃至甲12の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

(3)申立理由2(サポート要件)
本件特許は、特許請求の範囲が、本件明細書の発明の詳細な説明に記載される発明を記載したものではないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさない。
したがって、本件発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。

2 申立人が提出した証拠(証拠方法)
甲1:特開平8−34728号公報
甲2:特開2016−8189号公報
甲3:「ノンフィーブ〈錠剤〉」添付文書, 2014年
甲4:「フツナロンEV錠」添付文書, 2015年
甲5:「メリドンEV錠」添付文書, 2015年
甲6:「スグナ(R)IB〈錠剤〉」添付文書, 2016年
甲7:「セダックス(R)錠」添付文書, 2017年
甲8:「アダムA錠」添付文書, 2017年
甲9:「イーナ錠」添付文書, 2017年
甲10:「メルヂンゴールド」添付文書, 2018年4月
甲11:特開2015−229659号公報
甲12:特開2006−290812号公報
(当審注:「(R)」は、○の中にRが入った、登録商標を意味する記号の上付文字又は下付文字を表す。)

第4 各甲号証の記載事項
1 甲1の記載事項
甲1には以下の事項が記載されている。

(甲1ア)特許請求の範囲
「【請求項1】 イブプロフェンにイブプロフェンの解熱鎮痛作用を高める量のアミノ酢酸を配合したことを特徴とするイブプロフェン製剤。
【請求項2】 イブプロフェン10重量部に対してアミノ酢酸が1〜100重量部配合されてなる請求項1の製剤。」

(甲1イ)
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、イブプロフェン及びアミノ酢酸からなるイブプロフェン製剤に関する。」

(甲1ウ)
「【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、驚くべきことに制酸剤として公知のアミノ酢酸をイブプロフェンに配合することにより、イブプロフェンの有する解熱鎮痛作用が一層向上することを見い出した。これは同一の解熱鎮痛効果を得るのに必要なイブプロフェンの量が一層少なくて済むという予想外の効果をもたらすものである。同時にアミノ酢酸が本来有する制酸作用等によって胃腸障害を軽減することができることから、イブプロフェンにアミノ酢酸を配合することにより、有効性及び安全性の高い製剤が得られることを知見し、本発明を完成するに至った。即ち、本発明はイブプロフェンとイブプロフェンの解熱鎮痛作用を高める量のアミノ酢酸を配合してなるイブプロフェン製剤を提供するものである。」

(甲1エ)
「【0006】
本発明のイブプロフェン製剤は、ブロムワレリル尿素、アリルイソプロピルアセチル尿素等の鎮静催眠剤、安息香酸ナトリウムカフェイン、無水カフェイン、カフェイン等の中枢興奮剤、ビタミンB1及びその誘導体並びにそれらの塩類、ビタミンB2及びその誘導体並びにそれらの塩類、ビタミンC及びその誘導体並びにそれらの塩類、ヘスペリジン及びその誘導体並びにそれらの塩類等のビタミン剤、ケイ酸マグネシウム、合成ケイ酸アルミニウム、合成ヒドロタルサイト、酸化マグネシウム、アルミニウムグリシネート、水酸化アルミニウムゲル、乾燥水酸化アルミニウムゲル、水酸化アルミニウム・炭酸マグネシウム混合乾燥ゲル、水酸化アルミニウム・炭酸水素ナトリウムの共沈生成物、水酸化アルミニウム・炭酸カルシウム・炭酸マグネシウムの共沈生成物、水酸化マグネシウム・硫酸アルミニウムカリウムの共沈生成物、炭酸マグネシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム等の制酸剤などの薬効成分を適宜配合することができる。更に添加物としては、例えば、乳糖、結晶セルロース等の賦形剤、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等の結合剤、メチルセルロース、ポリソルベート80等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール等の滑沢剤があり、この他必要に応じて香料、着色剤、呈味剤等を使用することができる。」

(甲1オ)実験例1
「【0009】実験例1(鎮痛作用)
18時間絶食させた雄性マウス(体重23〜28g)に3%アラビアゴム水溶液に懸濁した薬物〔1)イブプロフェン30mg/kg、2)イブプロフェン30mg/kgとアミノ酢酸3mg/kg、3)イブプロフェン30mg/kgとアミノ酢酸10mg/kg、4)イブプロフェン30mg/kgとアミノ酢酸30mg/kg、5)イブプロフェン30mg/kgとアミノ酢酸60mg/kg、6)イブプロフェン30mg/kgとアミノ酢酸100mg/kg、7)イブプロフェン30mg/kgとアミノ酢酸300mg/kg〕を強制経口投与した。30分後に0.6%酢酸水溶液を腹腔内投与し、その5分後から15分間のライジング発生回数を計測した。対照として3%アラビアゴムを投与し、そのライジング数に対する薬物群のライジング抑制率を以下の式に従って算出し、結果を図1に示した。
【数1】

図1から明らかな様に、イブプロフェンにアミノ酢酸を配合することにより、イブプロフェン単独に比べて鎮痛作用が増強されることがわかる。」

(甲1カ)図1
「【図1】

」(図1)

(甲1キ)実施例1
「【0011】実施例1 錠剤(1錠中)
イブプロフェン 150mg
アミノ酢酸 75mg
無水カフェイン 50mg
結晶セルロース 50mg
ヒドロキシプロピルセルロース 10mg
ステアリン酸マグネシウム 5mg
上記成分を常法により打錠する。」

2 甲2の記載事項
甲2には以下の事項が記載されている。

(甲2ア)特許請求の範囲
「【請求項1】
イブプロフェン、アリルイソプロピルアセチル尿素及びカフェインをそれぞれ質量比で10:3:4の割合で含有することを特徴とする解熱鎮痛製剤。
【請求項2】
さらに制酸剤、ビタミン類、生薬から選ばれる1種以上を含有する請求項1記載の解熱鎮痛製剤。」

(甲2イ)
「【0002】
イブプロフェン、アリルイソプロピルアセチル尿素及び無水カフェインを含有する解熱鎮痛剤は、1990年9月1日にイブA錠(エスエス製薬社製)として発売されたものであり、イブプロフェン単独の製剤の効きはじめがやや弱いという弱点を克服し、早くよく効くイブプロフェン含有の解熱鎮痛薬として汎用されている。このイブA錠には、活性医薬品成分として、イブプロフェン、アリルイソプロピルアセチル尿素及び無水カフェインが2錠中にそれぞれ150mg、60mg及び80mg配合されているが、イブA錠と同量のイブプロフェン、アリルイソプロピルアセチル尿素及び無水カフェインを配合した解熱鎮痛薬が一般用医薬品として本邦で数多く販売されるに至り、さらに、酸化マグネシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、乾燥水酸化アルミニウムゲルなどの制酸剤を配合した解熱鎮痛薬も含めると、解熱鎮痛薬は30種類以上に上っている。」

(甲2ウ)
「【0012】
従って、本発明の課題は、従来技術よりも簡便に、イブプロフェン、アリルイソプロピルアセチル尿素及びカフェインを含有する解熱鎮痛製剤において、ウイスカーの発生やそれに伴う不快な臭いの発生を抑制することのできる技術を提供することである。」

(甲2エ)
「【0019】
また、本発明製剤に含有するアリルイソプロピルアセチル尿素は、その化学名が、2−イソプロピル−4−ペンテノイルウレア(英名:2−Isopropyl−4−pentenoylurea)であり、分子式は、C9H16N2O2で、その分子量は、184.24、融点は、193〜198℃の穏和な鎮静薬で、痛みに伴う不安、不快感、恐怖心等の疼痛反応を除去することにより疼痛を緩和するとともに、鎮痛薬の作用を増強するものである。」

(甲2オ)
「【0022】
本発明製剤では、必要に応じて、上記各医薬品成分の他、制酸剤を配合してもよい。制酸剤としては、例えば、アミノ酢酸(グリシン)、ケイ酸マグネシウム、合成ケイ酸アルミニウム、合成ヒドロタルサイト、酸化マグネシウム、ジヒドロキシアルミニウム・アミノ酢酸塩(アルミニウムグリシネート)、水酸化アルミニウムゲル、乾燥水酸化アルミニウムゲル、水酸化アルミニウム・炭酸マグネシウム混合乾燥ゲル、水酸化アルミニウム・炭酸水素ナトリウムの共沈生成物、水酸化アルミニウム・炭酸カルシウム・炭酸マグネシウムの共沈生成物、水酸化マグネシウム・硫酸アルミニウムカリウムの共沈生成物、炭酸マグネシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、水酸化アルミナマグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、沈降炭酸カルシウム、無水リン酸水素カルシウム、リン酸水素カルシウム等が挙げられる。なお、これらは、1種または2種以上を混合して添加しても良い。
【0023】
これら制酸剤の配合量は、制酸剤の種類によって異なるが、イブプロフェン450mg〜600mgに対して10〜5000mgを用いることが好ましく、さらに好ましくは16〜4000mgである。より詳細には、イブプロフェン450mg〜600mgに対して、制酸剤としてアミノ酢酸や、水酸化アルミニウム・炭酸水素ナトリウムの共沈生成物を使用する場合は、30〜900mg程度、ケイ酸マグネシウム、合成ケイ酸アルミニウム、水酸化アルミニウム・炭酸マグネシウム混合乾燥ゲルを使用する場合は、100〜3000mg程度、合成ヒドロタルサイトを使用する場合は、133〜4000mg程度、酸化マグネシウムを使用する場合は、16〜500mg程度、ジヒドロキシアルミニウム・アミノ酢酸塩、水酸化アルミニウム・炭酸カルシウム・炭酸マグネシウムの共沈生成物、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、沈降炭酸カルシウム、リン酸水素カルシウムを使用する場合は、50〜1500mg程度、水酸化アルミニウムゲル、乾燥水酸化アルミニウムゲルを使用する場合は、乾燥水酸化アルミニウムゲルとして33〜1000mg程度、水酸化マグネシウム・硫酸アルミニウムカリウムの共沈生成物を使用する場合は、60〜1800mg程度、炭酸マグネシウム、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、水酸化アルミナマグネシウムを使用する場合は、66〜2000mg程度、水酸化マグネシウム、無水リン酸水素カルシウムを使用する場合は、40〜1200mg程度、炭酸水素ナトリウムを使用する場合は、83〜2500mg程度とすることが好ましい。」

(甲2カ)実施例1
「【0034】
実 施 例 1
フィルムコーティング錠の製造:
(1)イブプロフェン300g、アリルイソプロピルアセチル尿素90g、無水カフェイン120g、トウモロコシデンプン60g、結晶セルロース255g、軽質無水ケイ酸30g、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース150gおよびタルク63gを秤量し、高速攪拌造粒機で、精製水を添加して、湿式造粒を行った。整粒後、流動層で乾燥したのち、24メッシュの篩を通過させ、これにタルク12gを混合し打錠用顆粒を製した。常法により、1錠あたり360mgになるようにロータリー打錠機で圧縮成型し、素錠を得た。この素錠にヒプロメロース、酸化チタン、マクロゴール及び水(7:2.5:0.5:90)からなるフィルムコーティング剤を通気式コーティング装置にて噴霧し、直径約9mm、365mg/錠のフィルムコーティング錠として発明品1を得た。
【0035】
(2)イブプロフェン660g、アリルイソプロピルアセチル尿素198g、無水カフェイン264g、酸化マグネシウム330gおよび低置換度ヒドロキシプロピルセルロース481.8gを高速攪拌造粒機で混合後、精製水を添加し練合した。次に、0.6mmスクリーンで押し出し造粒後、流動層乾燥機にて乾燥した。この乾燥顆粒を1758g量り取り、結晶セルロース165.6g、クロスカルメロースナトリウム120g、軽質無水ケイ酸16.2g、タルク24g、ステアリン酸マグネシウム16.2gを混合し打錠用顆粒を製した。常法により、1錠あたり350mgになるようにロータリー打錠機で圧縮成型し、素錠を得た。この素錠にヒドロキシプロピルメチルセルロース、酸化チタン、マクロゴール及び水(7:2.5:0.5:90)からなるフィルムコーティング剤を通気式コーティング装置にて噴霧し、直径約9mm、360mg/錠のフィルムコーティング錠として発明品2を得た。」

(甲2キ)表1
「【0039】
【表1】



3 甲3の記載事項
甲3には以下の事項が記載されている。

(甲3ア)


」(「用法・用量」及び「成分・分量」の項)

4 甲4の記載事項
甲4には以下の事項が記載されている。

(甲4ア)


」(「用法・用量」及び「成分・分量」の項)

5 甲5の記載事項
甲5には以下の事項が記載されている。

(甲5ア)


」(「用法・用量」及び「成分・分量」の項)

6 甲6の記載事項
甲6には以下の事項が記載されている。

(甲6ア)


」(「用法・用量」及び「成分・分量」の項)

7 甲7の記載事項
甲7には以下の事項が記載されている。

(甲7ア)


」(「用法・用量」及び「成分・分量」の項)

8 甲8の記載事項
甲8には以下の事項が記載されている。

(甲8ア)


」(「成分と作用」の項)

(甲8イ)


」(「用法・用量」の項)

9 甲9の記載事項
甲9には以下の事項が記載されている。

(甲9ア)


」(「成分と作用」の項)

(甲9イ)


」(「用法・用量」の項)

10 甲10の記載事項
甲10には以下の事項が記載されている。

(甲10ア)


」(「用法・用量」及び「成分・分量」の項)

11 甲11の記載事項
甲11には以下の事項が記載されている。

(甲11ア)特許請求の範囲
「【請求項1】
次の成分(a1)〜(a3)、
(a1)イブプロフェン
(a2)ポリビニルアルコール共重合体1〜8質量%
(a3)低置換度ヒドロキシプロピルセルロース5〜15質量%
を含有する顆粒(A)と、次の成分(b1)〜(b3)、
(b1)アリルイソプロピルアセチル尿素および無水カフェインよりなる群から
選ばれる一種以上の有効成分
(b2)ポリビニルアルコール共重合体0.5〜2.5質量%
(b3)低置換度ヒドロキシプロピルセルロース8〜11質量%
を含有する顆粒(B)とをそれぞれ別個に造粒し、次いで得られた顆粒(A)と顆粒(B)を混合し、圧縮成型することを特徴とするイブプロフェン含有錠剤の製造方法。」
「【請求項9】
次の成分(a1)〜(a3)、
(a1)イブプロフェン
(a2)ポリビニルアルコール共重合体1〜8質量%
(a3)低置換度ヒドロキシプロピルセルロース5〜15質量%
を含有する顆粒(A)と、次の成分(b1)〜(b3)、
(b1)アリルイソプロピルアセチル尿素および無水カフェインよりなる群から選ばれる有効成分の一種以上
(b2)ポリビニルアルコール共重合体0.5〜2.5質量%
(b3)低置換度ヒドロキシプロピルセルロース8〜11質量%
を含有する顆粒(B)とを含む打錠用組成物を圧縮成型することにより得られるイブプロフェン含有錠剤。」(請求項1、9)

(甲11イ)
「【0003】
しかしながら、イブプロフェンの融点は75〜77℃と比較的に低融点であるため、イブプロフェンを配合した錠剤を製造する場合、圧縮発熱などにより圧縮成型で使用する杵に薬剤組成物が付着する打錠障害(スティッキング)をしばしば起こすことが知られている。そして、スティッキングが生じると、錠剤の一部が欠けたり、表面のツヤが失われたりするため、外観が好ましくないばかりか、含量の均一性にも影響を与えるという問題があった。」

(甲11ウ)
「【0008】
更にまた、従来からイブプロフェンとイブプロフェン以外の有効成分が混合された錠剤も知られているが、イブプロフェンと他の成分が混合された場合、薬剤組成物の融点降下により、圧縮成型時のスティッキングやターンテーブルへの薬剤組成物の付着の問題が更に深刻化し、この問題の解消がより強く求められている。」

(甲11エ)
「【0010】
従って、本発明の課題は、イブプロフェンとその他の有効成分を含有する錠剤の製造において、スティッキングやターンテーブルへの薬剤組成物の付着を防止することができる製造方法を見出し、この方法により得られる服用しやすいイブプロフェン含有錠剤を提供することである。」

(甲11オ)実施例1
「【0039】
実 施 例 1
イブプロフェン 2480g、クロスカルメロースナトリウム 161.2g、軽質無水ケイ酸(日本アエロジル社製,アエロジル200) 396.8g、結晶セルロース(旭化成ケミカルズ社製、セオラスUF−711) 449.5gおよび低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(信越化学工業社製、NBD−020) 449.5gを混合する。この混合物に、ポリビニルアルコール共重合体(12%ポバコート/60%エタノール(95)溶液)を775g加えて(ポバコートの乾燥重量 93g)、練合した後、撹拌造粒した。その後、70℃で乾燥後、整粒機で整粒して得られた顆粒(平均粒径250〜355μm)を顆粒(A)とした。
【0040】
アリルイソプロピルアセチル尿素 1500g、無水カフェイン 2000g、軽質無水ケイ酸(富士シリシア社製、アドソリダー101) 50gおよび低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(信越化学工業社製,NBD−020) 410gを混合する。この混合物に、ポリビニルアルコール共重合体(12%ポバコート/60%エタノール(95)溶液)を333.3g加えて(ポバコートの乾燥重量 40g)、練合した後、撹拌造粒した。その後、70℃で乾燥後、整粒機で整粒して得られた顆粒(平均粒径200〜300μm)を顆粒(B)とした。
【0041】
上記のようにして得られた顆粒(A)1170g、顆粒(B)576gおよび軽質無水ケイ酸(日本アエロジル社製,アエロジル200) 50.4gを混合した後、タルク(日本タルク社製、ミクロエースP−3) 28.8gおよびステアリン酸マグネシウム 10.8gを加えて更に混合し、これをロータリー打錠機にて18KNの圧力で打錠し、255mg/tbの素錠を製造した。」

(甲11カ)表1
「【0045】
上記実施例1〜2を表1に示す。
【0046】
【表1】



12 甲12の記載事項
甲12には以下の事項が記載されている。

(甲12ア)特許請求の範囲
「【請求項1】
(A)プロピオン酸誘導体鎮痛剤と、(B)グルコサミンもしくはその誘導体またはそれらの塩から選択される少なくとも一種とを含有する鎮痛製剤。」
「【請求項4】
プロピオン酸誘導体鎮痛剤が、イブプロフェン、ケトプロフェン、プラノプロフェン、フェノプロフェン、アルミノプロフェン、チアプロフェン酸、ロキソプロフェン、フルルビプロフェン、ナプロキセン、フェンブフェン、カルプロフェン、ピルプロフェン、インドブフェン、またはそれらの塩から選択される少なくとも一種である、請求項1〜3のいずれかに記載の鎮痛製剤。
【請求項5】
さらに(C)コンドロイチンもしくはコンドロイチン硫酸またはそれらの塩あるいはグリシンまたはグリシルグリシンから選択される少なくとも一種を含有する、請求項1〜4のいずれかに記載の鎮痛製剤。
【請求項6】
(A)プロピオン酸誘導体鎮痛剤と(B)グルコサミンもしくはその誘導体またはそれらの塩から選択される少なくとも一種とを合算した量を1重量部とした場合に、(C)コンドロイチンもしくはコンドロイチン硫酸またはそれらの塩あるいはグリシンまたはグリシルグリシンから選択される少なくとも一種を0.03〜2重量部含有する、請求項1〜5のいずれかに記載の鎮痛製剤。
【請求項7】
(C)コンドロイチンもしくはコンドロイチン硫酸またはそれらの塩あるいはグリシンまたはグリシルグリシンから選択される少なくとも一種を1〜50mg/kg体重/1日量含有する、請求項1〜6のいずれかに記載の鎮痛製剤。」(請求項1、4−7)

(甲12イ)
「【0001】
本発明は、鎮痛効果が著しく増強された製剤に関し、より詳細には、プロピオン酸誘導体鎮痛剤と、グルコサミンもしくはその誘導体またはそれらの塩から選択される少なくとも一種とを含有することを特徴とする鎮痛製剤に関する。」

(甲12ウ)
「【0007】
本発明は、鎮痛効果が著しく増強された新規の鎮痛製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、プロピオン酸誘導体鎮痛剤と、グルコサミンもしくはその誘導体またはそれらの塩から選択される少なくとも一種とを組合わせて用いることにより、鎮痛効果が相乗効果的に著しく高められることを見出し、本発明を完成するに至った。」

(甲12エ)
「【0042】
本発明の製剤は、必要に応じてさらなる種々の薬効成分を含み得るか、またはそれらと組み合わせて使用され得る。このような成分の種類や量は特に制限されず、例えば、さらなる解熱鎮痛成分、抗炎症成分、鎮静催眠薬成分、抗ヒスタミン薬成分、抗アレルギー薬成分、鎮咳薬成分、気管支拡張薬成分または交感神経興奮薬成分、副交感神経遮断成分、中枢神経興奮成分、去痰薬成分、制酸剤成分、生薬成分、アミノ酸、無機塩類、カフェイン類、ビタミン類などが例示できる。本発明において好適なさらなる成分としては例えば、次のような成分が例示できる。
【0043】
解熱鎮痛成分:例えば、サリチル酸誘導体(アスピリン、アスピリンアルミニウム、エテンザミド、サザピリン、サリチルアミド、サリチル酸ナトリウム、サリチル酸メチル、サリチル酸フェニルなど)、アセトアミノフェン、イソプロピルアンチピリン、フェニルブタゾン、インドメタシン、メフェナム酸、フェナセチン、ジクロフェナクナトリウム、ラクチルフェネチジンなど。

【0045】
鎮静催眠薬成分:例えば、ブロムワレリル尿素、アリルイソプロピルアセチル尿素など。

【0057】
カフェイン類:例えば、カフェイン、無水カフェイン、テオフィリン、オクストリフィリン、ダイフィリン、ジイソブチルアミノベンゾイルオキシプロピルテオフィリン、テオブロミン、ジプロフィリン、プロキシフィリン、ペントキシフィリンなど。
【0058】
ビタミン類:ビタミンA類としては、例えば、レチナール、レチノール、レチノイン酸、カロチン、デヒドロレチナール、リコピンおよびその薬理学的に許容される塩(例えば、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノールなど)など、…その他のビタミン類としては、例えば、ヘスペリジン、カルニチン、フェルラ酸、γ−オリザノール、オロチン酸、ルチン、エリオシトリンおよびその薬理学的に許容される塩(塩化カルニチンなど)など。」(【0042】−【0058】)

(甲12オ)試験例
「【0079】
試験例1:
イブプロフェンと塩酸グルコサミンとを用いた、酢酸ライジング抑制試験(鎮痛作用)
一晩絶食させた6週齢のICR系雄性マウス(体重約30g、SPF、日本エスエルシー株式会社製)を1群5匹として6群に分け、3%アラビアゴム水溶液に懸濁した被験薬〔(1)イブプロフェン20mg/kg体重単独(IBP20)、(2)イブプロフェン20mg/kg体重と塩酸グルコサミン4.4mg/kg体重(IBP20+GSM4.4)、(3)イブプロフェン20mg/kg体重と塩酸グルコサミン14.8mg/kg体重(IBP20+GSM14.8)、(4)イブプロフェン20mg/kg体重と塩酸グルコサミン44.4mg/kg体重(IBP20+GSM44.4)、又は(5)塩酸グルコサミン44.4mg/kg体重単独(GSM44.4)〕を強制経口投与した(被験薬群(1)〜(5))。その30分後に、0.6%酢酸水溶液を腹腔内投与し、その5分後から15分間のライジング発生回数を計測した。一方、対照群のマウスには3%アラビアゴム水溶液のみを投与し、被験薬群と同様にして酢酸腹腔内投与後のライジング発生回数を計測した。被験薬群および対照群のライジング数から、以下の式に従ってライジング数の抑制率を算出した。
抑制率(%)=(対照群の平均ライジング数−各被験薬群の平均ライジング数)×100/対照群の平均ライジング数。
【0080】
この結果を、下記の表1に示す。
【表1】

【0081】
表1から明らかなように、塩酸グルコサミンを単独で投与した群(GSM44.4)では、44.4mg/kg体重と多量に投与してもライジング抑制率は極めて低かった。さらに、イブプロフェンと塩酸グルコサミンとを組合わせて投与した群(IBP20+GSM4.4、IBP20+GSM14.8、およびIBP20+GSM44.4)では、イブプロフェンまたは塩酸グルコサミンをそれぞれ単独で投与した群(IBP20またはGSM44.4)に比べ、ライジング抑制率の上昇において著しい相乗効果が認められた。この結果から、イブプロフェンと塩酸グルコサミンとを組合わせることにより、鎮痛効果が著しく増強されることが実証された。またこの効果は、単回投与によって奏されており、本発明の製剤が長期連用をせずに効果を奏することが理解される。」

(甲12カ)実施例
「【0089】
実施例1(錠剤):
イブプロフェン 150重量部
グリシン 150重量部
ブロムワレリル尿素 200重量部
無水カフェイン 150重量部
コンドロイチン硫酸ナトリウム 100重量部
酸化マグネシウム 120重量部
硝酸チアミン 25重量部
結晶セルロース 330重量部
コーンスターチ 220重量部
塩酸グルコサミン 150重量部
ヒドロキシプロピルセルロース 20重量部
軽質無水ケイ酸 5重量部
ショ糖脂肪酸エステル 30重量部
上記成分を日本薬局方製剤総則「錠剤」に準じて製し、1錠あたり410mgとなるように製して錠剤を得た。なおこの製剤は、成人1日量として4錠を服用する。」
「【0094】
実施例6(錠剤):
イブプロフェン 450重量部
グリシン 900重量部
無水カフェイン 250重量部
コンドロイチン硫酸ナトリウム 400重量部
酸化マグネシウム 150重量部
硝酸チアミン 25重量部
コーンスターチ 500重量部
塩酸グルコサミン 900重量部
乳糖 200重量部
ヒドロキシプロピルセルロース 10重量部
香料 0.1重量部
上記成分を日本薬局方製剤総則「錠剤」に準じて製し、1錠あたり630mgとなるように製して錠剤を得た。なおこの製剤は、成人1日量として6錠を服用する。」

第5 本件明細書の発明の詳細な説明の記載
本件明細書の発明の詳細な説明には以下の事項が記載されている。

(1)【技術分野】・【背景技術】・【発明が解決しようとする課題】
「【0002】
…イブプロフェンを含有する製剤は、…他の有効成分を配合したいわゆる配合剤として用いられることが多い。しかし、イブプロフェンに他の有効成分を配合すると、各種成分の相互作用による融点降下を招き、錠剤への打錠時において臼や杵に付着しやすくなる。その結果、イブプロフェンの配合剤は、深刻な打錠障害を招くという問題がある…。

【0004】
…イブプロフェンは、特有の苦みや芳香を有するという特徴がある。そのため、配合剤は、この特有の苦みや芳香を改善するための添加物が必要となる。添加物を添加すると、…錠剤の大型化などにともなう服用性の低下を招くという問題がある。

【0006】
そこで、服用性が高く、生産性の低下を招くことなく打錠性が向上するイブプロフェンを含有する医薬用錠剤を提供することを目的とする。」

(2)【課題を解決するための手段】
「【0007】

本件発明者らは、イブプロフェンに、矯味剤であるアミノ酸類を適量添加することにより、イブプロフェン特有の苦みや芳香が緩和されるだけでなく、打錠時における臼や杵への付着性が低下することを見出した。
…本実施形態では、このイブプロフェンとアプロナールとの混合物にアミノ酸類を添加することにより、粉体の付着性を低下させている。これにより、アミノ酸類は、それに期待される矯味剤としての効果を発揮するだけでなく、付着性を抑え、打錠性の改善に寄与する。…すなわち、アミノ酸類の添加によって、アミノ酸類の本来の矯味剤として効能と打錠性の改善とが両立される。…したがって、服用性を高めることができ、生産性の低下を招くことなく打錠性を向上することができる。」
(当審注:「アプロナール」はアリルイソプロピルアセチル尿素を表す。以降も同様。)

(3)【発明を実施するための形態】
「【0009】

医薬用錠剤は、イブプロフェン、アプロナール、カフェイン類およびアミノ酸類をその主成分として含んでいる。…アプロナールは、イブプロフェンによる効能を高めるための鎮静剤として用いられる。同様に、カフェイン類は、イブプロフェンによる鎮痛効果を高めるために用いられる。…

【0011】
一実施形態の医薬用錠剤は、カフェイン類として、無水カフェインを用いることが好ましい。また、医薬用錠剤は、アミノ酸類として、グリシンおよびアスパラギン酸のうちいずれか1種以上を用いることが好ましく、グリシンを用いることがより好ましい。グリシンは、胃粘膜の保護作用も有している。イブプロフェンは、服用によって胃粘膜に影響を与えることが知られている。そのため、特に医薬用錠剤においてアミノ酸類としてグリシンを用いる場合、上述のような矯味性および打錠性の向上だけでなく、胃粘膜保護作用も期待することができる。
【0012】
医薬用錠剤は、イブプロフェンの配合比をAとし、アプロナールの配合比をBとし、カフェイン類の配合比をCとし、アミノ酸類の配合比をDとしたとき、質量比で次のような比率となっている。すなわち、A:B:C:D=100:30〜40:30〜60:20〜230である。
【0013】
本実施形態の医薬用錠剤は、上記に加え、必要に応じて適量の賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味剤および香料などのいずれか一種以上を添加してもよい。…」

(4)実施例
「【0017】

実施例の試料は、図1に示す各成分の総量が300gとなるように秤量する。このとき、実施例を構成する各成分の配合比は、図1に示す通りである。秤量した各成分は、混合機で混合する。なお、各成分のうちステアリン酸マグネシウムは、この段階では混合しない。混合された混合物は、造粒溶媒を加えて撹拌混合機で練り合わせる。この場合、造粒溶媒は、例えばエタノールと水との混合物など、本実施形態の医薬用錠剤の効果を損なわない物質であれば任意に選択することができる。
【0018】
造粒溶媒を加えて生成された造粒物は、乾燥機で乾燥される。乾燥した造粒物にステアリン酸マグネシウムが加えられ、打錠末を生成する。生成した打錠末は、ロータリー打錠機を用いて打錠する。この場合、杵形状は、曲面または平面を有するものを用いる。打錠される錠剤の質量は300mg〜400mgであり、直径を9mmとする杵が用いられる。ロータリー打錠機の回転数は、30rpm程度とする。
【0019】
比較例1および比較例3〜7は、図1に示す各成分の総量が300gとなるように秤量する。このとき、各成分の配合比は、図1に示す通りである。比較例1および比較例3〜7におけるその他の製造方法は、上述の実施例と同様である。
一方、比較例2は、イブプロフェン:結晶セルロース:カルメロースカルシウム:軽質無水ケイ酸=100:20:10:10の配合比で総量が300gとなるように秤量し、実施例と同様に造粒および乾燥した後、顆粒(1)を調製する。次に、アプロナール:無水カフェイン:結晶セルロース:ヒドロキシプロピルセルロース:軽質無水ケイ酸=30:40:72:3:1の配合比で総量が300gとなるように秤量し、実施例と同様に造粒および乾燥した後、顆粒(2)を調製する。さらに、結晶セルロース:軽質無水ケイ酸:合成ケイ酸アルミニウム・ヒドロキシプロピルスターチ・結晶セルロース=100:25:125の配合比で総量が300gとなるように秤量し、均一に混合した混合末(3)を調製する。そして、顆粒(1):顆粒(2):混合末(3):ステアリン酸マグネシウム=47:49:23:1の配合比で混合し、打錠する。
【0020】
得られた実施例および比較例の錠剤は、服用感および打錠障害の観点から評価した。服用感は、「刺激性(口に含んで20秒後の刺激)の有無」の観点から評価し、図1における評価において「○」はほとんど刺激を感じない、「×」は強い刺激を感じることを示している。また、打錠障害は、「杵表面への付着」および「杵臼のきしみ」の観点から評価した。図1における評価において、「○」は、問題が生じていない、すなわち付着または杵臼のきしみが生じていないことを示している。一方、図1における評価において、「×」は、生産性に大きな問題を生じる付着またはきしみが認められていることを示している。また、「△」は、直ちに生産性に大きな問題を生じていないものの、軽度の付着またはきしみが認められることを示している。図1における配合比とは、1錠の錠剤に含まれるイブプロフェンを100としたときにおける、各成分の質量比である。また、実施例および比較例では、1錠の錠剤は、イブプロフェンを20質量%以上、50mg以上含んでいる。
【0021】
実施例1〜実施例7では、イブプロフェンにアミノ酸類としてグリシンを加えることにより、いずれも打錠機の杵表面への付着および杵臼のきしみといった打錠障害に関する問題は生じないことが分かる。同様に、実施例8では、イブプロフェンにアミノ酸類としてアスパラギン酸を加えることにより、打錠障害に関する問題は生じないことが分かる。また、実施例1〜実施例8では、刺激性に関する問題も生じていないことが分かる。このように、実施例1〜実施例8では、アミノ酸類によって、イブプロフェンに特有の刺激性の問題が改善されるだけでなく、アプロナールの添加に起因する融点降下による付着性が生じても、打錠性に与える影響が低減されることが分かる。また、実施例1〜実施例8では、効能を高めるためにカフェイン類として無水カフェインを添加する場合でも、刺激性および打錠性に関する問題が生じていないことが分かる。
【0022】
一方、アミノ酸類を加えない比較例1〜比較例7は、打錠性の改善が図られない。このことからも、実施例1〜実施例8と比較例1〜比較例7とを比較すると、打錠性の改善にはアミノ酸類であるグリシンまたはアスパラギン酸が貢献していることが明らかである。また、アプロナールを添加していない比較例7を参照すると、イブプロフェンはアプロナールの添加によって打錠性が低下することが分かる。そして、矯味剤として比較例3のようにクエン酸、比較例4のように酒石酸、比較例5のようにキシリトール、比較例6のようにアスパルテームを添加することにより、刺激性は改善される。しかし、これらの矯味剤を添加しても、打錠性の改善はみられない。このことからも、アミノ酸類は、イブプロフェンとアプロナールとの混合物に対する打錠性の改善に寄与していることが明らかである。
【0023】

本実施形態では、イブプロフェンとアプロナールとの混合物にアミノ酸類を添加することにより、融点降下にともなう粉体の付着性を低下させている。これにより、アミノ酸類に期待される矯味剤としての効果を発揮すると同時に、付着性を抑え、打錠性の改善が図られる。このアミノ酸類を加えることにより滑沢剤や賦形剤などの添加物の添加量の低減が図られる。すなわち、アミノ酸類の添加によって、アミノ酸類の本来の矯味剤として効能と打錠性の改善とが両立される。その結果、必要な処方量に対して錠剤の大型化および服用錠数の増加を招かない。したがって、服用性を高めることができ、生産性の低下を招くことなく打錠性を向上することができる。」

(5)図1




第6 当審の判断
1 申立理由1−1(甲1に記載の発明に基づく進歩性欠如)について
(1)甲1に記載された発明
(甲1キ)の実施例1には、イブプロフェン150mg、アミノ酢酸75mg及び無水カフェイン50mgを含む錠剤が記載されているから、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

<甲1発明>
「イブプロフェン150mg、アミノ酢酸75mg及び無水カフェイン50mgを含む錠剤。」

(2)本件発明と甲1発明との対比
甲1発明の「イブプロフェン」、「アミノ酢酸」及び「無水カフェイン」は、本件発明の「イブプロフェン」、「グリシン」及び「無水カフェイン」に相当する。
甲1発明の「イブプロフェン150mg、アミノ酢酸75mg及び無水カフェイン50mgを含む」は、75mg及び50mgが、150mgに対し、それぞれ、50%(=75mg÷150mg×100)及び約33%(=50mg÷150mg×100)に相当することから、イブプロフェン、無水カフェイン及びアミノ酢酸の配合比が、150mg:50mg:75mg=100:33:50となり、本件発明の、「イブプロフェンの配合比をA、」「無水カフェインの配合比をC、」「アミノ酸の配合比をD」「としたとき、A:C:D」「=100:30〜60:20〜230」に相当すると認められる。
甲1発明の「錠剤」は本件発明の「錠剤」に相当する。
したがって、本件発明と甲1発明の一致点、並びに、相違点1-1(当審注:「相違点1-1」とは、本件発明と甲1発明の相違点1を意味する。以下も同様。)及び1-2は以下のとおりである。

<一致点>
「イブプロフェンと、無水カフェインと、アミノ酸としてグリシンと、を含む錠剤であって、
前記イブプロフェンの配合比をA、前記無水カフェインの配合比をC、前記アミノ酸の配合比をDとしたとき、
A:C:D=100:30〜60:20〜230
である錠剤。」

<相違点1-1>
本件発明は、アリルイソプロピルアセチル尿素を、イブプロフェンの配合比をA、前記アリルイソプロピルアセチル尿素の配合比をBとしたとき、A:B=100:30〜40となるよう、さらに含むことを特定する一方、甲1発明にそのような特定はない点。

<相違点1-2>
本件発明の錠剤は医薬用である一方、甲1発明にその特定はない点。

(3)判断
ア 相違点について
(ア)相違点1-1について
(甲1エ)のとおり、甲1には、アリルイソプロピルアセチル尿素等の鎮静催眠剤や、カフェイン等の中枢興奮剤のほか、ビタミン剤、制酸剤など種々の薬効成分を適宜配合し得ることが記載されている。
しかしながら、該種々の薬効成分の中からアリルイソプロピルアセチル尿素を選択することを動機付ける記載があるとは認められないから、アリルイソプロピルアセチル尿素を選択することは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。この点は、イブプロフェン、アリルイソプロピルアセチル尿素及び無水カフェイン配合錠が記載される甲2−11を参酌しても同様である。
そのうえ、引用発明の錠剤は、中枢興奮剤として記載されるカフェインを含むのであるから、甲1に、アリルイソプロピルアセチル尿素が、鎮静催眠という、精神状態に関しカフェインとは逆の作用を奏する成分として記載されることに鑑みても、アリルイソプロピルアセチル尿素をさらに加えることが当業者に動機付けられるともいえない。
また、甲1には、上述の「適宜配合」する際の配合量に関する記載は全くないから、イブプロフェン100に対し30〜40なる量を配合量として設定することは、当業者が容易になし得たことであるともいえない。

(イ)そうすると、相違点1-2について検討するまでもなく、本件発明は、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。

イ 効果について
第5の図1の実施例1−8には、イブプロフェン、アリルイソプロピルアセチル尿素、無水カフェイン、グリシン又はアスパラギン酸、結晶セルロース、カルメロースカルシウム、ヒドロキシプロピルセルロース、軽質無水ケイ酸及びステアリン酸マグネシウムを含む錠剤が、刺激性及び打錠性いずれも「○」であることが記載されている。
一方、比較例1及び2の錠剤は、刺激性及び打錠性いずれも「×」であること、比較例3−6の錠剤は刺激性が「○」であるものの、打錠性は「×」であること、及び、比較例7の錠剤は「刺激性」が「×」である一方、打錠性は「△」であることが記載されている。
ここで、比較例7の組成の乳糖の一部をアリルイソプロピルアセチル尿素及び無水カフェインに換え、残りの乳糖をやや増やしたものが比較例1の組成に相当し、さらに、比較例1の乳糖をグリシンに換えたものが、実施例3の組成に相当するから、イブプロフェン含有錠にアリルイソプロピルアセチル尿素及び無水カフェインを配合することにより、打錠障害がより深刻となり、乳糖を増やしても改善できない一方、乳糖をグリシンに換えることにより、刺激性及び打錠性がいずれも改善したことが示されていると認められ、この点、本件明細書【0020】−【0022】の記載とも整合する。
また、グリシンの量を変えたり、グリシンをアスパラギン酸に換えたりした実施例1、2、4−8においても、実施例3と同様、刺激性及び打錠性ともに「○」という結果が得られているから、アスパラギン酸の配合によってもグリシンと同様の効果を奏すると認められる。
そして、上述した、グリシン又はアスパラギン酸の配合による、刺激性及び打錠性の改善なる効果は、甲1−11のいずれにも記載も示唆もされず、甲1−11の記載から予測し得たものであるとはいえない。
したがって、本件発明の効果は、甲1−11の記載から予測し得たものではなく、格別な効果でないとはいえない。

(4)申立人の主張及びそれに対する判断について
ア 申立人の主張について
申立人は申立書において以下のとおり主張する。

(主張ア)
「(ア)甲1発明において、さらに、アリルイソプロピルアセチル尿素を、質量比でイブプロフェン100に対して、30〜40の割合で配合すること…は、…甲1記載事項を考慮すれば、当業者が容易に想到する事項である。」(申立書23-25頁ウの(ア))

(主張イ)
「オ 本件特許発明の効果について検討する。本件特許発明の効果は、以下に示すとおり、引用発明と比較した有利な効果とは認められない。

(イ)…そもそも、イブプロフェンとアリルイソプロピルアセチル尿素とを本件特許発明の所定の比率(例えば、それぞれ、質量比で、100(150mg):40(60mg):53.3(80mg))で含む原料を打錠して錠剤とすることは、…本件特許発明の出願日(2018年12月28日)前迄に多数実施されており(例えば、甲2(2014年6月24日出願)の発明品1および発明品2や、甲3〜甲10(2014年10月〜2018年4月の間に追記、改訂または作成された添付文書)の各錠剤など)、既に多数の場合において解決されていたと認められる。

(エ)したがって、本件特許発明の効果は、これら文献から把握される引用発明に対しての有利な効果と認められる余地はないと考える。」(申立書27-28頁のオ)

イ 各主張に対する判断について
(ア)主張アについて
(甲1エ)に列挙される無数の成分の中から、アリルイソプロピルアセチル尿素を選択することを動機付ける記載等はないから、アリルイソプロピルアセチル尿素を選択し配合することが、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえないことは、(3)アにて説示したとおりである。
また、中枢興奮剤であるカフェインを配合することを特定している引用発明において、その逆の作用と認められる鎮静催眠剤として記載されるアリルイソプロピルアセチル尿素を加えることが、当業者に動機付けられるとはいえないことも、(3)アにて説示したとおりである。

(イ)主張イについて
甲2の発明品1および発明品2や、甲3〜甲10の添付文書が存在するとしても、本件の明細書【0021】−【0022】や図1に、イブプロフェン、アリルイソプロピルアセチル尿素及び無水カフェイン配合錠において生じる刺激性や打錠障害が、グリシン又はアスパラギン酸の配合により改善したという効果が奏されたことが、具体的な試験結果とともに記載されていること、及び、該効果が、甲1−11のいずれにも記載も示唆もされず、甲1−11の記載から予測し得るとはいえないことは、(3)イにて説示したとおりである。

ウ 小括
したがって、申立人の主張はいずれも採用することができない。

(5)まとめ
よって、本件発明は、甲1発明及び甲1−11の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない発明ではない。

2 申立理由1−2(甲12に記載の発明に基づく進歩性欠如)について
(1)甲12に記載された発明
ア 甲12−1発明(当審注:甲12の実施例6に基づく、申立人の認定発明)
(甲12カ)のとおり、甲12の実施例6には、イブプロフェン450重量部、グリシン900重量部及び無水カフェイン250重量部を含む錠剤が記載されているから、甲12には次の発明(以下「甲12−1発明」という。)が記載されていると認められる。

<甲12−1発明>
「イブプロフェン450重量部、グリシン900重量部及び無水カフェイン250重量部を含む錠剤。」

イ 甲12−2発明(当審注:甲12の実施例1に基づく、当審による認定発明)
(甲12カ)のとおり、甲12の実施例1には、イブプロフェン150重量部、グリシン150重量部、ブロムワレリル尿素200重量部及び無水カフェイン150重量部を含む錠剤が記載されている。
そうすると、甲12には、次の発明(以下「甲12−2発明」という。)が記載されていると認められる。

<甲12−2発明>
「イブプロフェン150重量部、グリシン150重量部、ブロムワレリル尿素200重量部及び無水カフェイン150重量部を含む錠剤。」

(2)本件発明と甲12−1発明又は甲12−2発明との対比
ア 本件発明と甲12−1発明との対比
甲12−1発明の「イブプロフェン」、「グリシン」及び「無水カフェイン」は、本件発明の「イブプロフェン」、「グリシン」及び「無水カフェイン」に相当する。
甲12−1発明の「イブプロフェン450重量部、グリシン900重量部及び無水カフェイン250重量部を含む」は、900重量部及び250重量部が、450重量部に対し、それぞれ、200%(=900重量部÷450重量部×100)、及び、約56%(=250重量部÷450重量部×100)に相当することから、イブプロフェン、無水カフェイン及びグリシンの配合比は、450重量部:250重量部:900重量部=100:56:200となり、本件発明の、「イブプロフェンの配合比をA、」「カフェインの配合比をC、」「アミノ酸の配合比をD」「としたとき、A:」「C:D」「=100:」「30〜60:20〜230」であることに相当すると認められる。
甲12−1発明の「錠剤」は本件発明の「錠剤」に相当する。
したがって、本件発明と甲12−1発明の間の一致点、並びに、相違点12-1-1(当審注:「相違点12-1-1」は、本件発明と甲12−1発明との相違点1との意。以下も同様。)及び相違点12-1-2は以下のとおりである。

<一致点>
「イブプロフェンと、カフェインとして無水カフェインと、アミノ酸としてグリシンと、を含む錠剤であって、
前記イブプロフェンの配合比をA、前記カフェインの配合比をC、前記アミノ酸の配合比をDとしたとき、
A:C:D=100:30〜60:20〜230
である錠剤。」

<相違点12-1-1>
本件発明は、アリルイソプロピルアセチル尿素を、イブプロフェン100に対し、30〜40、すなわち、イブプロフェンの配合比をA、アリルイソプロピルアセチル尿素の配合比をBとしたとき、A:B=100:30〜40となるよう、さらに含むことを特定する一方、甲12−1発明にそのような特定はない点。

<相違点12-1-2>
本件発明は錠剤を医薬用と特定する一方、甲12−1発明にそのような特定はない点。

イ 本件発明と甲12−2発明との対比
甲12−2発明の「イブプロフェン」、「グリシン」及び「無水カフェイン」は、本件発明の「イブプロフェン」、「グリシン」及び「無水カフェイン」に相当する。
甲12−2発明の「イブプロフェン150重量部、グリシン150重量部」「を含む」は、グリシンの配合量である150重量部が、イブプロフェンの配合量である150重量部に対し100%(=150重量部÷150重量部×100)に相当することから、イブプロフェン及びグリシンの配合比は150重量部:150重量部=100:100となり、本願発明の、「イブプロフェンの配合比をA、」「前記アミノ酸の配合比をDとしたとき、」「A:」「D=100:」「20〜230」であることに相当する。
甲12−2発明の「錠剤」は本件発明の「錠剤」に相当する。
したがって、本件発明と甲12−2発明との一致点及び相違点12-2-1〜12-2-3は以下のとおりである。

<一致点>
「イブプロフェンと、カフェインとして無水カフェインと、アミノ酸としてグリシンまたはアスパラギン酸と、を含む錠剤であって、
前記イブプロフェンの配合比をA、前記アミノ酸の配合比をDとしたとき、
A:D=100:20〜230
である錠剤。」

<相違点12-2-1>
本件発明は、アリルイソプロピルアセチル尿素を、イブプロフェン100に対し30〜40配合することを特定する一方、甲12−2発明は、イブプロフェン150重量部に対しブロムワレリル尿素200重量部を配合することを特定している点。

<相違点12-2-2>
無水カフェインの配合量を、本件発明はイブプロフェン100に対し30〜60と特定する一方、甲12−2発明はイブプロフェン150重量部に対し150重量部と特定する点。

<相違点12-2-3>
本件発明は「医薬用錠剤」であると特定する一方、甲12−2発明は錠剤を医薬用とは特定していない点。

(3)判断
ア 本件発明と甲12−1発明との相違点についての判断
(ア)相違点について
a 相違点12-1-1について
(甲12エ)のとおり、甲12には、アリルイソプロピルアセチル尿素を添加し得ることが記載されている(【0045】)。
しかしながら、甲12には、解熱鎮痛成分(【0043】)からビタミン類(【0058】)まで、様々な作用を奏する無数の成分が添加し得る成分として列挙されている一方、これらの中からアリルイソプロピルアセチル尿素を選択し配合することを動機付ける記載等があるとは認められないから、甲12の記載を参酌しても、アリルイソプロピルアセチル尿素を選択し配合することが、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

b そうすると、相違点12-1-2について検討するまでもなく、本件発明は、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。

(イ)本件発明の効果について
1(3)イにて述べたとおり、本件発明が奏する、グリシン又はアスパラギン酸の配合による、イブプロフェン、アリルイソプロピルアセチル尿素及び無水カフェイン配合錠に生じる刺激性及び打錠障害の改善という効果は、甲2−12の記載から予測し得たものであるとはいえないから、該効果が格別なものでないとはいえない。

イ 本件発明と甲12−2発明との相違点についての判断
(ア)相違点について
a 相違点12-2-1について
(甲12エ)のとおり、甲12には、鎮静催眠成分として、ブロムワレリル尿素と同様に、アリルイソプロピルアセチル尿素を添加し得ることが記載されているから(【0045】)、甲12−2発明において、ブロムワレリル尿素に換えてアリルイソプロピルアセチル尿素を用いることは、当業者が容易に想到し得たことといえる。
しかしながら、配合量を示唆する記載はなく、甲12−2発明の200重量部(イブプロフェンの配合量である150重量部の約133%(=200重量部÷150重量部×100)に相当)を減じることを動機付ける記載等があるとは認められないから、イブプロフェン100に対し30〜40とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

b 相違点12-2-2について
甲12には、無水カフェインの配合量を示唆する記載はなく、甲12−2発明の150重量部(イブプロフェン150重量部に対し100%に相当)を減じることを動機付ける記載等があるとは認められないから、イブプロフェン100に対し30〜60とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

c そうすると、相違点12-2-3について検討するまでもなく、本件発明は、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。

(イ)本件発明の効果について
1(3)イにて述べたとおり、本件発明が奏する、グリシン又はアスパラギン酸の配合による、イブプロフェン、アリルイソプロピルアセチル尿素及び無水カフェイン配合錠に生じる刺激性及び打錠障害の改善という効果は、甲2−12の記載から予測し得たものであるとはいえないから、該効果が格別なものでないとはいえない。

(4)申立人の主張及びそれに対する判断について
ア 申立人の主張について
申立人は申立書において以下のとおり主張する。

(主張ウ)
「(ア)甲12発明において、さらに、アリルイソプロピルアセチル尿素を、質量比でイブプロフェン100に対して、30〜40の割合で配合すること…は、…甲12記載事項を考慮すれば、当業者が容易に想到する事項である。」(申立書29-30頁ウ(ア)の項)

(主張エ)
「オ 本件特許発明の効果に関し、引用発明と比較した有利な効果とは認められない」(申立書31頁のオ)

イ 各主張に対する判断について
(ア)主張ウについて
(甲12エ)に列挙される無数の成分の中から、アリルイソプロピルアセチル尿素を選択することを動機付ける記載等はないから、アリルイソプロピルアセチル尿素を選択し配合することが、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえないことは、(3)ア(ア)にて説示したとおりである。

(イ)主張エについて
本件発明が奏する効果が、甲2−12の記載からは予測し得ず、格別な効果でないとはいえないことは、(3)ア(イ)にて説示したとおりである。

ウ 小括
したがって、申立人の主張はいずれも採用することができない。

(5)まとめ
よって、本件発明は、甲12−1発明又は甲12−2発明、及び、甲2−12の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない発明ではない。

3 申立理由2(サポート要件)について
(1)サポート要件について
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と本願明細書の発明の詳細な説明(以下「発明の詳細な説明」という。)の記載を対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、発明の詳細な説明の記載や示唆がなくとも、当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。

(2)本件発明の課題について
第5の【0002】、【0004】、【0006】の記載から、本件発明が解決しようとする課題は、イブプロフェンに他の有効成分を配合した、服用性が高く、生産性の低下を招くことなく打錠性が向上した医薬用錠剤を提供することであると認められる。

(3)本件明細書の発明の詳細な説明の記載
第5のとおり、本件明細書【0021】−【0022】には、実施例1−8では、アミノ酸類によって、イブプロフェンに特有の刺激性の問題が改善されるだけでなく、アリルイソプロピルアセチル尿素の添加に起因する融点降下による付着性が生じても、打錠性に与える影響が低減されていることが分かること、及び、比較例1−7との比較から、打錠性の改善にはアミノ酸類であるグリシン又はアスパラギン酸が貢献していることが明らかであることが記載されている。
一方、第5の図1には、比較例7として、イブプロフェン、乳糖、結晶セルロース、カルメロースカルシウム、ヒドロキシプロピルセルロース、軽質無水ケイ酸及びステアリン酸マグネシウムを含む打錠末を錠剤に製したこと、該錠剤の刺激性は「×」であること、及び、該打錠末の打錠性、すなわち、打錠障害の有無は、杵表面への付着及び杵臼のきしみともに「△」であることが記載されている。
また、同じく図1には、比較例1及び2として製造された錠剤の、刺激性及び打錠性いずれも「×」であることが記載されている。
さらに、図1には、比較例3−6として製造された錠剤の刺激性は「○」であるものの、打錠性は「×」のままであることが記載されている。
加えて、図1には、実施例1−8の錠剤は、刺激性及び打錠性のいずれも「○」であることが記載されている。

(4)判断
比較例1の組成は、比較例7の組成のうち、乳糖の一部をアリルイソプロピルアセチル尿素及び無水カフェインに換え、乳糖を30から50に増やしたものに相当し、アリルイソプロピルアセチル尿素及び無水カフェインの配合により、錠剤の打錠性がより悪化し打錠障害がより深刻になること、及び、乳糖を増やしても該打錠障害を軽減することはできないことが認められる。
一方、比較例1の組成のうちの乳糖をグリシンに換えたものに相当する実施例3において、打錠性が「○」であることから、グリシンの添加により、「×」であった打錠性が改善したと認められる。
また、実施例3のグリシンの量を増減させた実施例1、2、4−7や、グリシンをアスパラギン酸に換えた実施例8においても、打錠性は「○」であり、各実施例に記載の配合量の範囲であれば同様の改善効果が奏されると認められる。
さらに、実施例1−8の錠剤はいずれも、刺激性も「○」であり、「×」であった比較例1や2に比して改善したと認められる。
そうすると、各比較例及び各実施例の結果の比較から、当業者は、グリシン又はアスパラギン酸の配合により、イブプロフェン、アリルイソプロピルアセチル尿素及び無水カフェイン配合錠に生じる刺激性や打錠障害が改善されることを理解するといえ、この点は、【0021】−【0022】の記載とも整合する。
したがって、発明の詳細な説明には、本件発明に特定される医薬用錠剤が(2)にて説示した課題を解決できると当業者が認識できる程度の記載があると解することができるから、本件発明が、該課題を解決できることを、当業者は認識できるといえる。

(5)申立人の主張及びそれに対する判断について
ア 申立人の主張について
申立人は申立書において以下のとおり主張する。

「(ウ)しかし、本件特許発明の出願日当時の技術水準(甲2、甲3〜甲10)を考慮すると、そもそも、イブプロフェンとアリルイソプロピルアセチル尿素とを本件特許発明の所定の比率の範囲内で含む原料(例えば、「イブプロフェン:アリルイソプロピルアセチル尿素を100(150mg):40(60mg)で含み、さらに無水カフェイン53.3(80mg)を含む原料」(甲2〜甲10)や、「イブプロフェン:アリルイソプロピルアセチル尿素を10:3で含み、さらに無水カフェインを4含む原料」(甲2))を打錠することは、上記特許文献1(甲11)の出願日(2014年6月6日)以降、遅くとも本件特許発明に係る出願日(2018年12月28日)前迄に多数実施されており(例えば、甲2…の発明品1および発明品2や、甲3〜甲10…の各錠剤)、既に、これら個々の場合において解決されていたと認められる。
(エ)しかも、上記技術水準の中には、本件明細書で比較例に使用された乳糖水和物を含むものもあり(甲3、甲6および甲7の成分・分量の欄、甲8および甲9の成分と作用の欄)、それでも市販できるレベルで錠剤が製造されていたことが窺える。このことは、乳糖を比較例とする本件明細書の実験結果の意味するところと整合しない。
(オ)また、本件明細書の比較例でグリシンやアスパラギン酸の代わりに用いられた矯味剤のうち、乳糖以外の「クエン酸、酒石酸、キシリトール、アスパルテーム」については、そもそも、イブプロフェンを含む錠剤において配合された例を見つけるのが困難であり、したがって、これら矯味剤を配合した本件明細書の比較例の処方は、イブプロフェンの錠剤としては特異なものと考える他ない。
(カ)そうすると、本件明細書の図1に示された本件特許発明の効果は、これら出願日当時の技術水準を考慮すると、本件明細書の実施例で規定された特定の場合についての効果と考える他ない。」(申立書32-33頁(ウ)−(カ))

イ 主張に対する判断について
甲3−10のように、イブプロフェン、アリルイソプロピルアセチル尿素及び無水カフェインを配合することが記載されている各錠剤が、仮に、グリシン又はアスパラギン酸を配合せず、かつ、製品として上市されていたとしても、発明の詳細な説明に、本件発明が(2)に説示した課題を解決できることが記載されていることは、(4)にて説示したとおりである。

ウ 小括
したがって、申立人の主張は採用することができない。

(6)まとめ
よって、本件発明は、発明の詳細な説明に記載された発明である。

第7 むすび
以上より、申立書に記載されるいずれの申立理由によっても、本件発明に係る特許を取り消すことはできない。
また、本件発明に係る特許を取り消すべき他の理由も発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2023-12-28 
出願番号 P2018-246925
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A61K)
P 1 651・ 537- Y (A61K)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 原田 隆興
特許庁審判官 鈴木 理文
岩下 直人
登録日 2023-02-20 
登録番号 7231197
権利者 株式会社アラクス
発明の名称 医薬用錠剤  
代理人 弁理士法人サトー  

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