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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
管理番号 1405851
総通号数 25 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2024-01-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2023-09-12 
確定日 2023-12-28 
異議申立件数
事件の表示 特許第7250910号発明「セル、セルスタック装置、モジュール及びモジュール収容装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7250910号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7250910号(以下、「本件特許」という。)の請求項1〜10に係る特許についての出願(特願2021−516208号。以下、「本願」という。)は、2020年(令和 2年) 4月23日(優先権主張:平成31年 4月24日)に出願され、令和 5年 3月24日にその特許権の設定登録がされ、同年 4月 3日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その請求項1〜10(全請求項)に係る特許に対し、同年 9月12日(到達日)に特許異議申立人である井上 敬也(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1〜10に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」等という。)は、その特許請求の範囲の請求項1〜10に記載された事項によって特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
対向する一対の第1面及び第2面を有し、Crを含有する金属板と、
前記第1面上に配置され、第1電極層、該第1電極層上に位置する固体電解質層、及び該固体電解質層上に位置する第2電極層を有する素子部と、
前記第1面と前記第1電極層との間に位置する第1中間層と、を備え、
該第1中間層は、Cr2O3及びCr2O3とは異なる第1の導電性粒子を含み、
前記第1の導電性粒子は、金属または合金の粒子である、セル。
【請求項2】
前記第1の導電性粒子の粒径が、前記第1中間層の厚さより小さい、請求項1に記載のセル。
【請求項3】
前記第1電極層が、Niを含み、
前記第1の導電性粒子が、金属Niを含む、請求項1又は2に記載のセル。
【請求項4】
前記第1中間層と前記第1電極層との間に、さらに、多孔質の第2中間層を有する、請求項1〜3のいずれか1つに記載のセル。
【請求項5】
前記第2中間層の厚さは、前記第1中間層よりも厚い、請求項4に記載のセル。
【請求項6】
前記第2中間層が、第2の導電性粒子を含む、請求項4または5に記載のセル。
【請求項7】
前記第2中間層が、さらに無機酸化物を含む、請求項6に記載のセル。
【請求項8】
複数の請求項1〜7のいずれか1つに記載のセルが配列されたセルスタックを備える、セルスタック装置。
【請求項9】
収容容器と、該収容容器内に収容された請求項8に記載のセルスタック装置と、を備える、モジュール。
【請求項10】
外装ケースと、該外装ケース内に収容された、請求項9に記載のモジュール及び該モジュールを運転する補機と、を備える、モジュール収容装置。」

第3 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として、本願の優先日前に公知となった後述の甲第1号証〜甲第4号証(以下、「甲1」等という。)を提出し、以下の申立理由1、2により、本件特許の請求項1〜10に係る特許を取り消すべきである旨主張している。

1 申立理由1(新規性
本件特許発明1〜3、8は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

2 申立理由2(進歩性
(1) 本件特許発明4〜6は、甲1に記載された発明及び甲2記載事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(2) 本件特許発明7は、甲1に記載された発明並びに甲2記載事項及び甲3記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(3) 本件特許発明9、10は、甲1に記載された発明及び甲4記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

3 証拠方法
甲1:“Oxidation behaviour of ferrous alloys used as interconnecting material in solid oxide fuel cells”, Journal of Materials Science, 2003.02.01, Vol.38, No.3, pp.507-513
甲2:特開2012−9245号公報
甲3:特開2008−204906号公報
甲4:特開2013−229219号公報

第4 当審の判断
以下に述べるとおり、当審は、上記第3の1及び2のいずれの申立理由によっても、本件特許の請求項1〜10に係る特許を取り消すことはできないと判断する。

1 申立理由1(新規性
(1) 甲1の記載事項
甲1には、以下の記載がある(下線は当審が付したものであり、「・・・」は記載の省略を表すものである。以下同様。)。

ア 「



」(507-508頁)
(当審訳:1. イントロダクション
燃料電池では、燃焼プロセスを経ずに化学エネルギーが直接電気エネルギーに変換される。電気化学反応は、燃料ガス(水素など)と大気中の酸素の間で起こる。SOFCでは、酸素イオンが空気カソード側からイオン伝導性電解質を通ってアノード側に運ばれ、そこで酸素が燃料ガスの水素と反応して水になる。水素と酸素が再結合して水になる過程で電子が放出され、これを外部の電気回路で使用することができる。燃料電池は、利用可能なエネルギー資源の効率的かつ環境的に許容可能な利用を可能にする。
ユーリッヒ研究所では、いわゆる基板コンセプトが開発され(図1)、そこでは、Y2O3で安定化されたZrO2(YSZ)の電解質と、ランタンストロンチウムマンガナイトのカソードが、厚さ 1.5 mmのNi/YSZの「基板」アノード上に堆積される[1, 2]。
このような燃料電池膜の開回路電圧は約1ボルトである。より高い電圧を得るには、これらのセルを積層する、つまり、隣接する2つの燃料電池のアノードとカソード(それぞれ水素と酸素を供給する必要がある。)を互いに向かい合わせることが有利である。ガスの分離は、インターコネクタによって行われる。インターコネクタは、燃料電池の電極間の電流の流れを最小限の電気損失で確保するために、良好な導電性を示さなければならない。そのため、インターコネクタと燃料電池膜の界面における絶縁腐食生成物の形成は、可能な限り避けなければならない。
インターコネクタ材とアノード間の電気的接触を改善するため、Niメッシュが追加されている[3]。カソード側では、インターコネクタ上に蒸着された接触層がより優れた導電性を確保する。
現在、クロム含有ステンレス鋼(1.4742など、組成は表1を参照)がインターコネクタ材として使用されている[4]。しかしながら、800℃の動作温度では、これらの金属インターコネクタ鋼は、しばしば絶縁性又は導電性の低い酸化スケール(Al2O3、Cr2O3など)を形成し、接触抵抗を増加させる[5-7]。現在使用されている1.4742鋼の場合、鋼表面に薄い電気絶縁性の酸化アルミニウムスケールが形成されるため、使用条件下で接触抵抗が増加する。
そこで、ユーリッヒ研究所では、接触抵抗に関してより好ましい酸化挙動を示すフェライト鋼を開発した[6]。空気カソード側の酸化については、かなり多くの研究が行われているので(例えば[6]を参照)、本研究では、SOFCのアノード側におけるこれらの材料の挙動に焦点を当てる。本論文の目的は、接触抵抗測定と走査型電子顕微鏡によって、Niコーティングを追加したインターコネクタ材料の適用性を検証することである。

2. 実験
調査は、表Iに示すインターコネクタ鋼で実施した。
鋼材製造中に形成された酸化スケールを除去するため、測定前に表面を粗さ15μmのエメリー紙で研磨した。
・・・。
接触抵抗と腐食の実験では、アノード基板をインターコネクタ鋼の2つの試験片で挟んだ。アノードとインターコネクトの間にはNiメッシュを挟んだ。
試験片は100K/hの加熱速度で800℃に加熱された。試験片の電気接触抵抗を測定するため、4探針直流法を用いて、電流密度約150mA/cm2のガルバノスタティック実験を行った(図2)。
・・・。
暴露終了後、試料を樹脂に埋め込み、サンドイッチ層に対して垂直に切断し、研磨して走査型電子顕微鏡で観察した。
・・・。)
(当審訳:図1 固体酸化物形燃料電池と、カソード接触層を備えたクロム含有ステンレス鋼の標準的なインターコネクトとの接触)
(当審訳:図2 Ar/4vol% H2/3vol% H2O雰囲気下、800℃におけるNi箔の有無による接触抵抗測定の測定配置。線番号はそれぞれ電圧リード(1,2)と電流リード(3,4)を示す。暴露終了後、試験片を樹脂に埋め込み、垂直に切断した。)

イ 「

」(510頁の右欄20-33行)
(当審訳: 800℃で1000時間後、主にそれぞれCr2O3とスピネル(Mn,Cr)3O4からなる2つの層が、合計約4μmの厚さで見つかった(図9)。対応する結晶構造はX線回折によって検出された。かなりの量のCrとMnがNiメッシュに拡散し、重大な腐食、つまりNiワイヤの表面のわずか下における酸化を引き起こした(図9参照)。さらに、NiメッシュのNiの一部は鋼中に拡散している。
図10にNiメッシュの研磨及びエッチングされた断面の画像を示す。Niメッシュとインターコネクタ鋼中のNiの結晶粒の粗大化がはっきりと見える。この粗大化はメッシュの弾性を低下させる。)

ウ 「

」(511頁)
(当審訳:図9 3000時間動作後における元素用のFeCrMn(LaTi)鋼の顕微鏡写真。画像の凡例の略語は、元素(クロムの場合はCrなど)とX線ライン(Ka:Kα)を示す。画像上の領域が明るいほど、指定された元素の含有量が高い。)

エ 「

」(512頁)
(当審訳:図10 800℃で1000時間後の、Niメッシュ接合を備えたFeCrMn(LaTi)鋼の研磨及びエッチングされた断面)

(2) 甲1に記載された発明
ア 上記(1)ア(特に図1)からみて、甲1には、次の発明が記載されていると認められる。

イ 「クロム含有ステンレス鋼のインターコネクタの一方の面から順にNiメッシュ、Ni/YSZのアノード、YSZの電解質、ランタンストロンチウムマンガナイトのカソード及びカソード接触層が存在し、他方の面から順にカソード接触層、ランタンストロンチウムマンガナイトのカソード、YSZの電解質及びNi/YSZのアノードが存在する固体酸化物形燃料電池」(以下、「甲1発明」という。)

(3) 本件特許発明1について
ア 甲1発明との対比
(ア) 本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
上記(1)アの図1からみて、甲1発明の「クロム含有ステンレス鋼のインターコネクタ」は、技術常識に照らして、板状のものと解されるから、本件特許発明1の「対向する一対の第1面及び第2面を有し、Crを含有する金属板」に相当する。

(イ) また、上記(1)アの「より高い電圧を得るには、これらのセルを積層する、つまり、隣接する2つの燃料電池のアノードとカソード(それぞれ水素と酸素を供給する必要がある。)を互いに向かい合わせることが有利である。ガスの分離は、インターコネクタによって行われる。」という記載からみて、甲1発明において、1つのセルは、アノードとカソードと両者の間に挟まれる電解質とで形成されていると解される。

(ウ) ここで、上記(1)アの図1における下側のセルに着目し、甲1発明におけるインターコネクタの下側の面を「第1面」とし、上側の面を「第2面」とすると、当該第1面上に配置される甲1発明の「Ni/YSZのアノード」は、本件特許発明1の「第1電極層」に相当する。
また、当該アノード上に位置する甲1発明の「YSZの電解質」は、甲1発明が「固体酸化物形燃料電池」である以上、「YSZの電解質」が「固体電解質」であることは明らかであるから、本件特許発明1の「固体電解質層」に相当する。
さらに、当該電解質上に位置する甲1発明の「ランタンストロンチウムマンガナイトのカソード」は、本件特許発明1の「第2電極層」に相当する。
そして、甲1発明において、上記アノードと上記カソードと両者の間に挟まれる上記電解質とで形成される1つのセルは、本件特許発明1における、第1電極層、固体電解質層、第2電極層を有する「素子部」に相当する。

(エ) さらに、甲1発明の「Niメッシュ」は、インターコネクタの「第1面」と上記アノードとの間に位置するから、本件特許発明1の「前記第1面と前記第1電極層との間に位置する第1中間層」に相当する。

(オ) 上記(ア)〜(エ)を踏まえると、本件特許発明1と甲1発明とは、
「対向する一対の第1面及び第2面を有し、Crを含有する金属板と、
前記第1面上に配置され、第1電極層、該第1電極層上に位置する固体電解質層、及び該固体電解質層上に位置する第2電極層を有する素子部と、
前記第1面と前記第1電極層との間に位置する第1中間層と、を備え」る点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
第1中間層について、本件特許発明1では、「Cr2O3及び」「Cr2O3とは異なる」「金属または合金の粒子である」「第1の導電性粒子」「を含」むのに対し、甲1発明では、これらを含むか不明である点。

<相違点2>
本件特許発明1は「セル」の発明であるのに対し、甲1発明は「固体酸化物形燃料電池」の発明である点。

イ 判断
(ア) まず、上記相違点1について検討すると、甲1発明のNiメッシュが「Cr2O3とは異なる金属または合金の粒子である第1の導電性粒子を含むこと」は、甲1に記載も示唆もされていない。

(イ) したがって、上記相違点1は実質的な相違点である。

(ウ) よって、上記相違点2について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1発明であるとはいえない。

ウ 申立人の主張について
(ア) 申立人は、特許異議申立書の第9頁第7〜12行において、
「iv)甲第1号証の図10(図題:800℃で1000時間後の、Niメッシュ接合を備えたFeCrMn(LaTi)鋼の研磨およびエッチングされた断面)から、以下の点が看取される。
・Niメッシュ(図の中央の略円形部材、および、その上方に配置された線状部材)において観察される粒界の線から特定されるNiの粒子の少なくとも一部は、Niメッシュの厚さより小さいこと。」
と指摘し、NiメッシュがNiの粒子を含むことを主張している。

(イ) ここで、上記(1)ア(特に「2. 実験」参照)、イ及びエの摘記事項からみて、申立人が指摘する甲1の図10は、インターコネクタ材のクロム含有ステンレス鋼としてFeCrMn(LaTi)鋼を使用し、図2の左図の態様において800℃で1000時間動作後の、Niメッシュ接合を備えたFeCrMn(LaTi)鋼の研磨及びエッチングされた断面を示すものであると認められる。

(ウ) しかしながら、甲1の図10から看取されるのは、「Niの粒子」ではなく「Niの結晶粒」である。これは、上記(1)イの「Niメッシュ・・・中のNiの結晶粒の粗大化がはっきりと見える。」という記載からも裏付けられる。

(エ) これに対して、本件特許の願書に添付した明細書の【0030】に「第1中間層9中に、Cr2O3とは異なる第1の導電性粒子が分散していると、・・・」と記載されていたり、【0035】に「第1の導電性粒子は、例えば金属または合金の粒子、導電性酸化物の粒子等であってもよい。」と記載されていたりすることを踏まえると、本件特許発明1の「粒子」は、粒状の塊(particle)を意味するものであり、金属や合金の組織を構成する「結晶粒」(grain)と解する余地はないから、甲1の図10から看取される「Niの結晶粒」が、本件特許発明1の「Cr2O3とは異なる金属または合金の粒子である第1の導電性粒子」に相当するとはいえない。
よって、本件特許発明1の「粒子」を「結晶粒」と解することを前提とする申立人の上記主張は、採用できない。

(オ) なお、仮に甲1発明におけるインターコネクタ材のクロム含有ステンレス鋼としてFeCrMn(LaTi)鋼を使用し、800℃で1000時間動作させたとしても、技術常識に照らして、甲1発明のNiメッシュに「Cr2O3とは異なる金属または合金の粒子である第1の導電性粒子」が含まれることはないといえる。

進歩性について
(ア) 本件特許発明1について申立理由2(進歩性)は申し立てられていないが、事案に鑑み、本件特許発明1の進歩性の有無を検討する。

(イ) 上記イ(ア)のとおり、甲1発明のNiメッシュが「Cr2O3とは異なる金属または合金の粒子である第1の導電性粒子を含むこと」は、甲1に記載も示唆もされていないから、甲1発明において、Niメッシュに「Cr2O3とは異なる金属または合金の粒子である第1の導電性粒子」を含ませることが動機付けられるとはいえない。
また、甲2には、平板状の電解質と、この電解質の一方の面に設けられた空気極と、前記電解質の他方の面に設けられた燃料極と、この燃料極の前記電解質と接触する面と反対側の面に形成され、前記燃料極よりも電気抵抗が低い材料からなる導電部材とを備えた固体酸化物形燃料電池用単セルであって、前記導電部材は、格子状または放射状の平面形状を有し、前記燃料極よりも電気抵抗が低い材料は、ニッケル酸化物からなる固体酸化物形燃料電池用単セルについて記載されている(特に【請求項1】〜【請求項3】参照)。
さらに、甲3には、ニッケル粉末、ニッケル合金粉末、および、酸化ニッケル粉末から選択される1種または2種以上よりなるニッケル系粉末と、電池発電時の温度でセパレータと固着しない材料の粉末であって、安定化ジルコニア粉末、セリア系固溶体粉末、アルミナ粉末、および、ランタンガレート系複合酸化物粉末から選択される1種または2種以上である材料粉末とを含む燃料極用集電材料について記載されている(特に【請求項1】、【請求項3】及び【請求項4】参照)。
加えて、甲4には、固体酸化物形燃料電池セルを、収納容器内に複数個収納してなる燃料電池モジュール、及び該燃料電池モジュールと、該燃料電池モジュールを作動させるための補機とを、外装ケース内に収納してなる燃料電池装置について記載されている(特に【請求項7】及び【請求項8】参照)。
しかしながら、甲2〜4には、甲1発明において、Niメッシュに「Cr2O3とは異なる金属または合金の粒子である第1の導電性粒子」を含ませることを動機付ける記載は、見当たらない。
よって、甲1発明において、Niメッシュに「Cr2O3とは異なる金属または合金の粒子である第1の導電性粒子」を含ませることは、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。

(ウ) この点、申立人は、特許異議申立書の第8頁第20行〜第9頁第5行において、
「iii)甲第1号証には、以下の記載がある。
「かなりの量のCrとMnがNiメッシュに拡散し、重大な腐食、つまりNiワイヤの表面のわずか下における酸化を引き起こした(図9参照)。」
(p.510、右欄、第24−27行)

また、甲第1号証の図9(図題:3000時間の動作後の周期要素用のFeCrMn(LaTi)鋼の顕微鏡写真。画像の凡例の略語は、元素(クロムの場合はCrなど)とX線ライン(Ka:Kα)を示す。画像上の領域が明るいほど、指定された元素の含有量が高い。)から、以下の点が看取される。
・(NiとCrの写真を比較すると)Cr元素がNiメッシュ内に存在していること。
・(NiとOの写真を比較すると)O元素がNiメッシュ内に存在していること。
・(CrとOの写真を比較すると)Niメッシュ内におけるCr元素とO元素の分布は全体的に重複しており、Niメッシュ内においてCr元素は酸化物であるCr2O3として存在していること。」
と主張している。

(エ) 仮に上記主張を前提とするとしても、甲1発明におけるインターコネクタ材のクロム含有ステンレス鋼としてFeCrMn(LaTi)鋼を使用し、800℃で3000時間動作させた場合に、Niメッシュ内にCr2O3が存在するようになるというのみであり、「Cr2O3とは異なる金属または合金の粒子である第1の導電性粒子」が存在するようになることがないことは、上記ウ(オ)のとおりである。また、甲1発明において、Niメッシュに当該「第1の導電性粒子」を含ませる動機付けも存在しないというほかない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。

(オ) したがって、本件特許発明1は、甲1発明及び甲2〜4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

オ 小括
以上のとおり、本件特許発明1は、甲1発明であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものとはいえないから、申立理由1によっては、同発明に係る特許を取り消すことはできない。
また、本件特許発明1は、甲1発明及び甲2〜4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4) 本件特許発明2、3、8について
本件特許発明2、3、8は、本件特許発明1の発明特定事項を全て含むものである。
上記(3)オのとおり、本件特許発明1は甲1発明であるとはいえないから、本件特許発明2、3、8も同様に甲1発明であるとはいえない。
したがって、本件特許発明2、3、8は、甲1発明であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものとはいえないから、申立理由1によっては、同発明に係る特許を取り消すことはできない。

2 申立理由2(進歩性
(1) 本件特許発明4〜6について
本件特許発明4〜6は、本件特許発明1の発明特定事項を全て含むものである。
上記1(3)エで検討したとおり、本件特許発明1は、甲1発明及び甲2〜4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件特許発明4〜6についても、甲1発明及び甲2〜4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
したがって、本件特許発明4〜6は、甲1発明及び甲2記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえないから、申立理由2によっては、同発明に係る特許を取り消すことはできない。

(2) 本件特許発明7について
本件特許発明7は、本件特許発明1の発明特定事項を全て含むものである。
上記1(3)エで検討したとおり、本件特許発明1は、甲1発明及び甲2〜4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件特許発明7についても、甲1発明及び甲2〜4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
したがって、本件特許発明7は、甲1発明並びに甲2記載事項及び甲3記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえないから、申立理由2によっては、同発明に係る特許を取り消すことはできない。

(3) 本件特許発明9、10について
本件特許発明9、10は、本件特許発明1の発明特定事項を全て含むものである。
上記1(3)エで検討したとおり、本件特許発明1は、甲1発明及び甲2〜4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件特許発明9、10についても、甲1発明及び甲2〜4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
したがって、本件特許発明9、10は、甲1発明及び甲4記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえないから、申立理由2によっては、同発明に係る特許を取り消すことはできない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、申立人による特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1〜10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1〜10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2023-12-20 
出願番号 P2021-516208
審決分類 P 1 651・ 113- Y (H01M)
P 1 651・ 121- Y (H01M)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 井上 猛
特許庁審判官 佐藤 陽一
相澤 啓祐
登録日 2023-03-24 
登録番号 7250910
権利者 京セラ株式会社
発明の名称 セル、セルスタック装置、モジュール及びモジュール収容装置  
代理人 弁理士法人酒井国際特許事務所  

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