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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  B32B
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  B32B
管理番号 1405852
総通号数 25 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2024-01-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2023-09-13 
確定日 2024-01-09 
異議申立件数
事件の表示 特許第7241324号発明「遮熱フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7241324号の請求項1、3〜7、9、14〜18に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7241324号(以下「本件特許」という。)の請求項1〜18に係る特許についての出願は、令和2年9月4日(優先権主張 令和1年9月6日、日本国)を国際出願日とする出願であって、令和5年3月9日にその特許権の設定登録がされ、令和5年3月17日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和5年9月13日に特許異議申立人山内慶子(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。


第2 本件発明
本件特許の請求項1、3〜7、9、14〜18の特許に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1、3〜7、9、14〜18に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
リタデーション値が100nm以下の透明基材と、
前記透明基材に重ねられた赤外線吸収層と、
を備え、
前記赤外線吸収層は、紫外線硬化性樹脂組成物の硬化物であり、
前記紫外線硬化性樹脂組成物は、
赤外吸収能を有する酸化物(A)と、
フッ素を含有しないアクリル化合物(B)と、
フッ素を含有するアクリル化合物(C)と、
を含有する、
遮熱フィルム。
【請求項3】
前記酸化物(A)は、セシウム酸化タングステンを含有し、
前記酸化物(A)に対する前記セシウム酸化タングステンの割合は、30質量%以上である、
請求項1又は2に記載の遮熱フィルム。
【請求項4】
前記アクリル化合物(B)は、6官能アクリレートを含有し、
前記アクリル化合物(B)に対する前記6官能アクリレートの割合は、10質量%以上である、
請求項1〜3のいずれか1項に記載の遮熱フィルム。
【請求項5】
前記紫外線硬化性樹脂組成物に対する前記酸化物(A)の割合は、5質量%以上80質量%以下であり、
前記紫外線硬化性樹脂組成物に対する前記アクリル化合物(B)の割合は、15質量%以上90質量%以下であり、
前記紫外線硬化性樹脂組成物に対する前記アクリル化合物(C)の割合は0.1質量%以上10質量%以下である、
請求項1〜4のいずれか1項に記載の遮熱フィルム。
【請求項6】
前記透明基材は、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー、及びポリメタクリル酸メチルアクリレートからなる群から選択される少なくとも1種を含有する、
請求項1〜5のいずれか1項に記載の遮熱フィルム。
【請求項7】
前記透明基材は、ポリカーボネートを含有する層と、ポリメタクリル酸メチルアクリレートを含有する層との積層物を含んでいる、
請求項1〜6のいずれか1項に記載の遮熱フィルム。
【請求項9】
前記赤外線吸収層の厚みは、0.3μm以上30μm以下である、
請求項1〜8のいずれか1項に記載の遮熱フィルム。
【請求項14】
投影装置の光学系を構成する光学部材に適用される、
請求項1〜13のいずれか1項に記載の遮熱フィルム。
【請求項15】
偏光層を更に備える 、
請求項1〜14のいずれか1項に記載の遮熱フィルム。
【請求項16】
フッ素を含有するアクリル化合物(C)が、重合性官能基とフルオロアルキル基とを含有する化合物であり、前記重合性官能基としてエチレン性不飽和基を含有する、
請求項1〜15のいずれか1項に記載の遮熱フィルム。
【請求項17】
前記赤外線吸収層に対する酸化物(A)の割合が、5質量%以上80質量%以下であり、
前記赤外線吸収層が塗膜である、
請求項1〜16のいずれか1項に記載の遮熱フィルム。
【請求項18】
前記透明基材は、ポリカーボネートを含有する層と、ポリメタクリル酸メチルアクリレートを含有する層との二層構造であり、
(ポリカーボネートを含有する層の厚み)/(ポリメタクリル酸メチルアクリレートを含有する層の厚み)=99/1〜51/49である、
請求項1〜17のいずれか1項に記載の遮熱フィルム。」


第3 申立理由の概要
申立人は、本件特許の請求項1、3〜7、9、14〜18に係る特許に対して、本件特許異議申立書に以下の甲第1号証〜甲第6号証を添付して、大要、次の申立理由を主張している。

1 申立理由1(甲第1号証に基づく新規性
本件発明1、3、4、9、16、17は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の甲第1号証に記載された発明であるから、本件発明1、3、4、9、16、17に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

2 申立理由2(甲第1号証〜甲第4号証に基づく進歩性
本件発明1、3、4、9、16、17は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の甲第1号証に、本件発明5、6は甲第1号証及び甲第2号証に、本件発明7、18は甲第1号証及び甲第3号証に、本件発明14、15は甲第1号証及び甲第4号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1、3〜7、9、14〜18に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

[証拠方法]
甲第1号証:国際公開第2016/152458号公報
甲第2号証:特開2009−80253号公報
甲第3号証:特開2014−104613号公報
甲第4号証:国際公開第2016/152843号公報
甲第5号証:特開2011−161871号公報
甲第6号証:特開2018−103518号公報
(以下、甲第1号証を「甲1」という。他の甲各号証についても、同様である。)


第4 当審の判断
1 甲1に記載された事項・発明
(1)甲1に記載された事項
甲1には、次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与し、「・・・」は文章の省略を表す。
ア 「【請求項1】
基材上に近赤外線反射層又は近赤外線吸収層を有する光学フィルムであって、
当該光学フィルムを二次元色彩輝度計を用いて下記ステップ(1)〜(6)によって虹彩評価したときに得られる下記Δu′のピーク値が、5.0×10−7以下になるように調整されたことを特徴とする光学フィルム。
・・・
【請求項6】
前記近赤外線吸収層が、無機赤外線吸収剤としてスズドープ酸化インジウム(ITO)、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)及びセシウム含有酸化タングステン(Cs0.33WO3)から選択される化合物を含有することを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の光学フィルム。」

イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルム及び光学フィルムの製造方法に関する。より詳しくは、基材上に近赤外線反射層又は近赤外線吸収層を有する光学フィルムであって、虹彩や色ムラが改善された光学フィルム及び光学フィルムの製造方法に関する。」

ウ 「【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、虹彩や色ムラが改善された光学フィルム及び光学フィルムの製造方法を提供することである。」

エ 「【0065】
<本発明の光学フィルムの構成>
〔1〕基材
本発明の光学フィルムに適用可能な基材としては、透明基材であることが好ましく、さらに透明樹脂フィルムであることが好ましい(以下、透明基材ともいう。)。本発明でいう「透明」とは、JIS S3107(2013)に準拠する方法で測定される可視光透過率としては、50%以上であることをいい、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、特に好ましくは80%以上である。
【0066】
本発明に用いられる透明基材の厚さは、20〜200μmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは25〜100μmの範囲内であり、更に好ましくは30〜70μmでの範囲内である。透明樹脂フィルムの厚さが20μm以上であれば、取り扱い中にしわ等が発生しにくくなり、また厚さが200μm以下であれば、合わせガラス作製時、ガラス基材と貼り合わせる際のガラス曲面への追従性がよくなる。
【0067】
本発明に用いられる透明基材は、二軸配向ポリエステルフィルムであることが好ましいが、未延伸又は少なくとも一方に延伸されたポリエステルフィルムを用いることもできる。強度向上、熱膨張抑制の点から延伸フィルムが好ましい。特に、本発明の光学フィルムを用いた近赤外線反射性のウインドウフィルムを具備した合わせガラスを、自動車のフロントガラスとして用いられる際に、延伸フィルムがより好ましい。
・・・
【0069】
本発明の赤外線反射フィルムに適用可能な透明基材としては、透明であれば特に制限されることはないが、種々の樹脂フィルムを用いることが好ましく、例えば、ポリオレフィンフィルム(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリエステルフィルム(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリ塩化ビニル、トリアセチルセルロースフィルム等を用いることができ、好ましくはポリエステルフィルム、トリアセチルセルロースフィルムであり、特に好ましくはポリエステルフィルムである。
【0070】
透明基材である透明樹脂フィルムは、従来公知の一般的な方法により製造することが可能である。例えば、材料となる樹脂を押出機により溶融し、環状ダイやTダイにより押し出して急冷することにより、実質的に無定形で配向していない未延伸の透明樹脂フィルムを製造することができる。また、未延伸の透明樹脂フィルムを一軸延伸、テンター式逐次二軸延伸、テンター式同時二軸延伸、チューブラー式同時二軸延伸などの公知の方法により、透明樹脂フィルムの流れ(縦軸)方向、又は透明樹脂フィルムの流れ方向と直角(横軸)方向に延伸することにより延伸透明樹脂フィルムを製造することができる。この場合の延伸倍率は、透明樹脂フィルムの原料となる樹脂に合わせて適宜選択することできるが、縦軸方向及び横軸方向にそれぞれ2〜10倍が好ましい。
・・・
【0073】
〔2〕屈折率の異なる透明層
本発明の光学フィルムは、特定の波長の反射率や透過率を制御する層を内在することが好ましく、特に近赤外線を選択的に反射する近赤外線反射層を有することが、熱遮断性のウインドウフィルムの用途として好ましい。また、近赤外線を選択的に吸収する近赤外線吸収層を設けることも好ましく、その場合はハードコート層を兼ねることも好ましい。さらには、近赤外線反射層と近赤外線吸収層の両方を具備する光学フィルムであることが、より好ましい。」

オ 「【0179】
〔2.2〕近赤外線吸収層
本発明の光学フィルムは、近赤外線反射層、基材及び近赤外線吸収層をこの順に有していることが好ましい。すなわち、基材を挟んで、近赤外線反射層と近赤外線吸収層を有することが、近赤外線遮蔽効果の観点から好ましい。例えば、本発明の光学フィルムをウインドウフィルムとして用いた場合、通常日照側に近赤外線反射層を配置するが、反射しきれずに透過する光については、そのままでは基材を透過してしまうが、近赤外線吸収層を反対側に設けることで、透過した近赤外線を吸収し遮蔽効果を高めることができる。
【0180】
前記近赤外線吸収層の層厚は、厚いと虹彩や色ムラの劣化が起こることと、近赤外線を吸収することで熱を帯びるため、50μm未満であることが好ましく、10〜30μmの範囲であることがより好ましい。
【0181】
本発明に係る近赤外線吸収層に含まれる材料としては、特に制限されないが、例えば、バインダー成分である紫外線硬化樹脂、光重合開始剤、赤外線吸収剤などが挙げられる。近赤外線吸収層は、含まれるバインダー成分が硬化していることが好ましい。ここで、硬化とは、紫外線などの活性エネルギー線や熱などにより反応が進み硬化することを指し、鉛筆硬度がH以上であるハードコート性を有する層を形成することが好ましい。
【0182】
近赤外線吸収層に含まる無機赤外線吸収剤としては、可視光線透過率、近赤外線吸収性、樹脂中への分散適性等の観点から、金属酸化物粒子であることが好ましく、例えば、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化タングステン及び酸化インジウム等が挙げられる。
・・・
【0183】
中でも、スズドープ酸化インジウム(ITO)、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)、及びセシウム含有酸化タングステン(Cs0.33WO3)から選択される化合物を用いることが好ましい。これらは単独でも又は2種以上組み合わせても用いることができる。無機赤外線吸収剤の平均粒径は、5〜100nmが好ましく、10〜50nmがより好ましい。5nm以上であれば樹脂中の分散性や、近赤外線吸収性が向上する。一方、100nm以下であれば、可視光線透過率が低下することがない。なお、平均粒径の測定は、透過型電子顕微鏡により撮像し、無作為に、例えば50個の粒子を抽出して該粒径を測定し、これを平均したものである。また、粒子の形状が球形でない場合には、長径を測定して算出したものと定義する。
【0184】
前記無機赤外線吸収剤の近赤外線吸収層における含有量は、近赤外線吸収層の全質量に対して1〜80質量%であることが好ましく、5〜50質量%であることがより好ましい。含有量が1%以上であれば、十分な近赤外線吸収効果が現れ、80%以下であれば、十分な量の可視光線を透過できる。
・・・
【0187】
バインダー成分として用いられる紫外線硬化樹脂は、ほかの樹脂よりも硬度や平滑性に優れ、更にはスズドープ酸化インジウム(ITO)、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)、セシウム含有酸化タングステン(Cs0.33WO3)や熱伝導性の金属酸化物の分散性の観点からも有利である。紫外線硬化樹脂としては、硬化によって透明な層を形成する物であれば特に制限なく使用でき、例えば、紫外線硬化型ウレタン(メタ)アクリレート樹脂、紫外線硬化型ポリエステル(メタ)アクリレート樹脂、紫外線硬化型エポキシ(メタ)アクリレート樹脂、紫外線硬化型ポリオール(メタ)アクリレート樹脂等が挙げられる。これらのうち、紫外線硬化型(メタ)アクリレート系樹脂を用いることが好ましい。
紫外線硬化型ウレタン(メタ)アクリレート樹脂は、ポリエステルポリオールにイソシアネートモノマー又はプレポリマーを反応させて得られた生成物に、更に2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシ基を有する(メタ)アクリレート系のモノマーを反応させることによって容易に得ることができる。例えば、特開昭59−151110号公報に記載のユニディック17−806(DIC株式会社製)100部とコロネートL(東ソー株式会社製)1部との混合物等が好ましく用いられる。
・・・
【0190】
紫外線硬化型ポリオール(メタ)アクリレート樹脂としては、特に制限されないが、エチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
・・・
【0192】
また、前記紫外線硬化樹脂は、屈折率を調整するという観点から、フッ素を含むことが好ましい。すなわち、近赤外線吸収層はフッ素を含むことが好ましい。このような紫外線硬化樹脂としては、含フッ素ビニルモノマーに由来する構成単位を含むアクリル樹脂が挙げられる。含フッ素ビニルモノマーとしては、フルオロオレフィン類(例えばフルオロエチレン、ビニリデンフルオライド、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン等)、(メタ)アクリル酸の部分又は完全フッ素化アルキルエステル誘導体類(例えばビスコート6FM(商品名、大阪有機化学工業株式会社製)やR−2020(商品名、ダイキン工業株式会社製)等)、完全又は部分フッ素化ビニルエーテル類等が挙げられる。」

カ 「【0250】
実施例2
〔光学フィルム201の作製〕
実施例1で作製した光学フィルム109を用いて、近赤外線反射層を設けた側と反対側のPETフィルム上に、赤外線吸収剤であるスズドープ酸化インジウム(ITO)を1.4g/m2となるように混ぜ込んだ、膜厚55μmのブチラール樹脂層をダイコーターにて塗設し、次いで5℃の冷風を5分間吹き付けてセットさせた後、80℃の温風を吹き付けて乾燥させて、近赤外線吸収層と近赤外線反射層を有する光学フィルム201を得た。
【0251】
〔光学フィルム202〜210の作製〕
光学フィルム201の作製において、スズドープ酸化インジウム(ITO)の代わりに、表2記載のようにアンチモンドープ酸化スズ(ATO)及びセシウム含有酸化タングステン(Cs0.33WO3:CWOと表記)を用い、更に近赤外線吸収層の膜厚を表2に記載のように変化させた以外は同様にして、光学フィルム202〜210を作製した。
【0252】
得られた光学フィルム201〜210を用いて、実施例1と同様にして色差u′、Δu′及び色ムラ値を測定して、虹彩及び色ムラの評価を行い、結果を表2に示した。
【0253】
【表2】

【0254】
表2から、近赤外線吸収層の層厚が厚い場合(光学フィルム201及び202)は、用いた光学フィルム109に対して虹彩及び色ムラ値が大幅に劣化するが、40μm以下と薄膜することで、虹彩及び色ムラ値に優れた光学フィルムが得られることが分かった。
【0255】
中でも、セシウム含有酸化タングステン(Cs0.33WO3)を用いた場合は、スズドープ酸化インジウム(ITO)やアンチモンドープ酸化スズ(ATO)を用いた場合に比較して、虹彩及び色ムラ値に優れることが分かった。」

(2)甲1に記載された発明
以上より、甲1には以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「基材上に近赤外線吸収層を有する光学フィルムであって、
基材が透明樹脂フィルムから形成され、
近赤外線吸収層がバインダー成分である紫外線硬化樹脂と、赤外線吸収剤を含み、
紫外線硬化樹脂として、紫外線硬化型(メタ)アクリレート系樹脂が用いられるが、屈折率を調整するという観点から、含フッ素ビニルモノマーに由来する構成単位を含むアクリル樹脂を用いることが好ましく、
赤外線吸収剤として、セシウム含有酸化タングステンが用いられた光学フィルム。」

2 本件発明1について
(1)対比
ア 本件発明1と甲1発明を対比する。
(ア)甲1発明の「透明樹脂フィルム」は、本件発明1の「透明基材」に相当する。また、甲1発明の「近赤外線吸収層」は、赤外線吸収剤を含むことから、本件発明1の「赤外線吸収層」に相当する。
(イ)甲1発明の透明樹脂フィルムからなる「基材上に近赤外線吸収層を有する」ことは、本件発明1の「赤外線吸収層」が「透明基材に重ねられた」ことに相当する。
(ウ)甲1発明の「近赤外線吸収層がバインダー成分である紫外線硬化樹脂」を含むことは、本件発明1の「赤外線吸収層は、紫外線硬化性樹脂組成物の硬化物であ」ることに相当する。
(エ)甲1発明の「赤外線吸収剤として、セシウム含有酸化タングステンを用い」ることは、本件発明1の「赤外吸収能を有する酸化物(A)」を含有することに相当する。
(オ)甲1発明の「紫外線硬化樹脂として、紫外線硬化型(メタ)アクリレート系樹脂が用いられるが、屈折率を調整するという観点から、含フッ素ビニルモノマーに由来する構成単位を含むアクリル樹脂を用いることが好まし」いとされることと、本件発明1の紫外線硬化性樹脂組成物が「フッ素を含有しないアクリル化合物(B)と、フッ素を含有するアクリル化合物(C)と、を含有する」こととは、紫外線硬化樹脂組成物がアクリル化合物を含有する限りにおいて一致する。
(カ)甲1発明の「光学フィルム」は、近赤外線反射層と近赤外線吸収層とにより遮熱性を有するものであり、本件発明1の「遮熱フィルム」に相当する。

イ 以上のことから、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、次の通りである。
【一致点】
「透明基材と、前記透明基材に重ねられた赤外線吸収層とを備え、
前記赤外線吸収層は、紫外線硬化性樹脂組成物の硬化物であり、
前記紫外線硬化性樹脂組成物は、
赤外吸収能を有する酸化物(A)と、
アクリル化合物と、
を含有する、遮熱フィルム。」
【相違点1】
本件発明1は、透明基材の「リタデーション値が100nm以下」であるのに対して、甲1発明では、透明樹脂フィルムのリタデーション値が不明である点。
【相違点2】
紫外線硬化樹脂組成物がアクリル化合物を含有することについて、本件発明1は、紫外線硬化性樹脂組成物が「フッ素を含有しないアクリル化合物(B)と、フッ素を含有するアクリル化合物(C)と、を含有する」のに対して、甲1発明では、「紫外線硬化樹脂として、紫外線硬化型(メタ)アクリレート系樹脂が用いられるが、屈折率を調整するという観点から、含フッ素ビニルモノマーに由来する構成単位を含むアクリル樹脂を用いることが好まし」いとされる点。

(2)判断
ア 上記相違点1について検討する。
(ア)甲1には、虹彩や色ムラが改善された光学フィルムに適用可能な基材として、透明樹脂フィルムが好ましいことが記載されているが、当該透明樹脂フィルムのリタデーション値を100nm以下とすることについては記載も示唆もされておらず、虹彩や色ムラが改善されるものは、透明樹脂フィルムのリタデーション値が100nm以下であるとする技術常識もない。
よって、相違点1は実質的な相違点である。
(イ)申立人は、「甲1には、透明基材のリタデーション値が100nm以下であることの明確な記載はないが、虹彩や色ムラが改善された光学フィルムを提供していることから、透明基材のリタデーション値が100nm以下である蓋然性が高い。」(特許異議申立書第21ページ〜第22ページ)と主張する。
この申立人の主張について検討するに、甲1の段落【0011】には、課題として「虹彩や色ムラが改善された光学フィルム及び光学フィルムの製造方法を提供すること」が記載され、光学フィルムの基材として、段落【0065】に、所定以上の可視光透過率を有する透明樹脂フィルムを使用することが記載されているが、上記のとおりリタデーション値について具体的な記載はなく、また、虹彩や色ムラが改善されるものは透明樹脂フィルムのリタデーション値が100nm以下であるとする技術常識もないから、申立人の上記主張は採用できない。
(ウ)また、甲1発明の光学フィルムは虹彩や色ムラを改善しようとするものであるが、基材上に積層した近赤外線反射層を、高屈折率層と低屈折率層とを交互に複数層積層した構成(甲1の段落【0036】)とすることにより実現するものである。
そして、基材自体は虹彩や色ムラを改善しようとするものではなく、基材の光学的性能を変更すると、近赤外線反射層の高屈折率層と低屈折率層による虹彩や色ムラの改善にかえって悪影響を及ぼす可能性があるから、基材のリタデーション値を虹彩や色ムラが発生しないような値に設定しようとする動機付けはない。
よって、相違点1に係る本件発明1の構成は、甲1発明に基いて当業者が容易に想到し得たものではない。

イ そうすると、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は甲1発明ではなく、また、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3 本件発明3〜7、9、14〜18について
本件発明3〜7、9、14〜18は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、上記2で検討したものと同じ理由により、本件発明3、4、9、16、17は甲1発明ではなく、また、本件発明3、4、9、16、17は甲1発明に基いて、本件発明5、6は甲1発明及び甲2に記載された事項に基いて、本件発明7、18は甲1発明及び甲3に記載された事項に基いて、本件発明14、15は甲1発明及び甲4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。


第5 むすび
以上のとおり、申立人が提出した特許異議の申立の理由及び証拠によっては、請求項1、3〜7、9、14〜18に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1、3〜7、9、14〜18に係る特許を取り消すべき理由は発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2023-12-20 
出願番号 P2021-544046
審決分類 P 1 652・ 121- Y (B32B)
P 1 652・ 113- Y (B32B)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 井上 茂夫
特許庁審判官 西堀 宏之
藤原 直欣
登録日 2023-03-09 
登録番号 7241324
権利者 パナソニックIPマネジメント株式会社
発明の名称 遮熱フィルム  

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