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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
管理番号 1405856
総通号数 25 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2024-01-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2023-09-19 
確定日 2023-12-28 
異議申立件数
事件の表示 特許第7242242号発明「毛髪処理方法、毛髪用第1組成物及び毛髪用第2組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7242242号の請求項1〜8に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7242242号の請求項1〜8に係る特許についての出願は、平成30年10月22日を出願日とする特許出願であって、令和5年3月10日にその特許権の設定登録がされ、同年同月20日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許について、同年9月19日に特許異議申立人 砂川 幸子(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第7242242号の請求項1〜8の特許に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1〜8(以下「本件請求項1」〜「本件請求項8」という。)に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、それぞれ「本件発明1」〜「本件発明8」という。また、これらをまとめて「本件発明」ともいう。)。

「【請求項1】
モノカルボン酸又はその塩、ジカルボン酸又はその塩、及びトリカルボン酸又はその塩から選ばれる1種又は2種以上の有機酸及び/又はその塩が配合されたpHが6.0未満の毛髪用第1組成物を毛髪に塗布する酸処理と、
前記毛髪を洗浄する洗浄処理と、
前記毛髪に、ジメチルシリコーン、アミノ変性シリコーン、及びポリシリコーン−29から選ばれる1種又は2種以上のシリコーンが配合されたpHが9.0未満で液状の毛髪用第2組成物を塗布するシリコーン処理と、
前記毛髪を乾燥させる乾燥処理と、
設定温度100℃以上の発熱体と前記毛髪とを接触させる加熱処理と、
を備えることを特徴とする毛髪処理方法。
【請求項2】
前記酸処理における毛髪用第1組成物が、グリオキシル酸又はその塩、レブリン酸又はその塩、グリコール酸又はその塩、乳酸又はその塩、サリチル酸又はその塩、マレイン酸又はその塩、フマル酸又はその塩、コハク酸又はその塩、酒石酸又はその塩、リンゴ酸又はその塩、及びクエン酸又はその塩から選ばれる1種又は2種以上の有機酸及び/又はその塩を配合したものである請求項1に記載の毛髪処理方法。
【請求項3】
前記酸処理における第1剤のpHが1.5以上6.0未満である請求項1又は2に記載の毛髪処理方法。
【請求項4】
前記加熱処理における発熱体の設定温度が120℃以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載の毛髪処理方法。
【請求項5】
前記加熱処理における発熱体が毛髪を挟むための一対の発熱体である請求項1〜4のいずれか1項に記載の毛髪処理方法。
【請求項6】
前記加熱処理において、発熱体に接触している間の毛髪を略直線状に変形させる請求項5に記載の毛髪処理方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項の毛髪処理方法における酸処理で使用される毛髪用第1組成物。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項の毛髪処理方法におけるシリコーン処理で使用される毛髪用第2組成物。」

第3 申立理由の概要及び証拠
1 申立理由の概要
申立人は、甲第1〜13号証(以下「甲1」などという。)を提出し、本件特許は、以下の(1)〜(4)の理由により、取り消されるべきものである旨主張している。

(1)申立理由1の1(甲1を主引用例とする進歩性欠如)
本件発明1〜8は、甲1に記載された発明及び甲2〜13に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項1〜8に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、同法113条2号に該当する。

(2)申立理由1の2(甲2を主引用例とする進歩性欠如)
本件発明1〜8は、甲2に記載された発明並びに甲1及び甲6〜13に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項1〜8に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、同法113条2号に該当する。

(3)申立理由2(サポート要件違反)
本件発明1〜8は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではないから、本件請求項1〜8に係る特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法113条4号に該当する。

(4)申立理由3(明確性要件違反)
本件発明1〜8は、明確でないから、本件請求項1〜8に係る特許は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法113条4号に該当する。

2 証拠方法
甲1:MINTEL世界新商品情報データベース、記録番号(ID#):2383167、「Limited Edition Set」、[online]、2014年5月、インターネット<URL:http://www.gnpd.com>
甲2:経営とサイエンス Number 32、新美容出版株式会社、2018年8月1日、p.32〜33、表紙、奥付
甲3:特表2017−523234号公報
甲4:特表2016−518380号公報
甲5:特表2017−536406号公報
甲6:「繊維応用技術研究会編 技術シリーズ−3 ヘアケアってなに? −美しい髪・健康な髪へのアプローチ−」、第1版第1刷、株式会社繊維社企画出版、2014年8月28日、p.38〜39、56〜57、表紙、奥付
甲7:藤重昇永 ほか1名、「生活環境に見られるpH(第1報)」、東京家政大学研究紀要、2004年、第44集(2)、p.77〜107
甲8:「美容業界初!酸性ケラチントリートメントACID SHAPER(アシッドシェイパー)とは?」、 [online]、2018年4月18日、株式会社レボ社ホームページ、[2023年9月11日検索]、インターネット<URL:https://www.e-revo.co.jp/acid-shaper/>
甲9:デール・H・ジョンソン編、山口 真主 訳、「ヘアケアサイエンス入門」、第1版第1刷、フレグランスジャーナル社、平成23年(2011)6月30日、p.92〜93、110〜111、奥付
甲10:田村健夫著、「正統派ヘアケアのための常識ブック 毛髪110番」、初版第2刷、株式会社扶桑社、昭和63年4月8日、p.96〜101、奥付
甲11:矢作和行 ほか、「香粧品における界面活性剤の応用」、日本油化学会誌、1996年、第45巻、第10号、p.1133〜1143、1208
甲12:クラーレンス・R・ロビンス原著、山口 真主 訳、「毛髪の科学」、第4版第1刷、フレグランスジャーナル社、平成18年(2006)7月10日、p.234〜235、奥付
甲13:「医薬部外品原料規格2006」、第6刷、株式会社薬事日報社、平成21年10月5日、通則p.3、奥付

第4 甲号証の記載事項
甲1〜13には、それぞれ以下の記載がある(下線は当審合議体による。「・・・」は摘記の省略を示す。)。

1 甲1(英文の箇所は、提出された翻訳文の摘記又は当審合議体による翻訳である。)
甲1a 「限定セット
記録番号(ID#):2383167
・・・
ブランド:花王 エッセンシャル ダメージケア ニュアンス エアリー
カテゴリー:【ヘアケア製品】
・・・
掲載時期:2014年5月
・・・
商品説明
花王 エッセンシャル ダメージケア ニュアンス エアリー 限定セット くまのプーさんパッケージ:シャンプー(500ml)、コンディショナー(500ml)、トリートメント(100ml)。全品フルーティフローラルの香り。このヘアケアシリーズは、20代から30代の女性で、ヒートスタイリングツールやスタイリング剤を頻繁に使う人のために開発された。キューティクル保護剤、シアバター、ハチミツ、乳酸、ラノリン脂肪酸を配合し、傷んだキューティクルの隙間を埋め、髪にしっかりと潤いを与えます。キューティクルを集中的に補修、保湿、保護することで、ダメージを受けやすい毛先も輝き、なめらかでまとまりのある髪に仕上げます。シャンプーは、きめ細かな泡立ちで髪に摩擦を与えず、軽くまとまりやすい洗い上がり。コンディショナーは、髪にしっかりなじんでキューティクルのはがれを防ぎ、枝毛や切れ毛を防ぐ。トリートメントは、髪の柔軟性を高め、切れ毛や枝毛のできにくい髪にするという。カラーリングやパーマだけでなく、カーラーやアイロンなどの熱で傷んだ髪にも使えるという。このセットは2014年2月に発売された。」(1頁)

甲1b 「成分 ・・・
シャンプー:水、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸アンモニウム(3E.O.)液、アルコール、ジステアリン酸グリコール、ラウリルヒドロキシスルタイン、PPG−7、蜂蜜、Butyrospermum Parkii Butter、ラノリン脂肪酸、カニナバラ果実エキス、ステアロキシプロピルジメチルアミン、リンゴ酸、イソデシルグリセリルエーテル、PPG−3カプリリルエーテル、ミリスチルアルコール、ステアリルアルコール、ベンジルアルコール、ポリクオタニウム−7、ポリクオタニウム−10、カチオン化グアーガム−2、セトリモニウムクロリド、ジメチコン、コカミドMEA、Dipeptide−15、ヒマワリ混合オイル(ハイブリッド、交配種)、BG、ラウレス硫酸Na、ラウレス−4、塩化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、リン酸、安息香酸ナトリウム、赤504、Parfum
コンディショナー:水、ステアリルアルコール、DPG、ジメチコン、乳酸、ステアロキシプロピルジメチルアミン、蜂蜜、Butyrospermum Parkii Butter、ラノリン脂肪酸、カニナバラ果実エキス、リンゴ酸、ベヘナミドプロピルジメチルアミン、ヘキサ(ヒドロキシステアリン酸/ステアリン酸/ロジン酸)ジペンタエリススリチル、ビス−イソブチルPEG−15/アモジメチコンコポリマー、(アミノエチルアミノプロピルメチコン/ジメチコン)コポリマー、セテアレス−7、セテアレス−25、HEC、ヒマワリ混合オイル(ハイブリッド、交配種)、アルコール、ベンジルアルコール、BG、PEG−45M、赤504、Parfum
トリートメント:水、ステアリルアルコール、ジメチコン、DPG、ステアロキシプロピルジメチルアミン、乳酸、ヒマワリ混合オイル(ハイブリッド、交配種)、蜂蜜、Butyrospermum Parkii Butter、ラノリン脂肪酸、リンゴ酸、カニナバラ果実エキス、ヘキサ(ヒドロキシステアリン酸/ステアリン酸/ロジン酸)ジペンタエリスリチル、ヒドロキシステアリン酸水添ヒマシ油(加水分解)、ホホバエステル、パラフィン、PEG−45M、(アミノエチルアミノプロピルメチコン/ジメチコン)コポリマー、ビス−イソブチルPEG−15/アモジメチコンコポリマー、セテアレス−7、セテアレス−25、アルコール、ベンジルアルコール、BG、赤504、Parfum」(2〜3頁)

2 甲2
甲2a 「硬毛&ウエットで戻るクセ × グリコール酸
エイジング&ダメージ毛の横波うねりをグリコール酸でスリークに」(32頁)

甲2b 「<1> 専用のパウダーシャンプーなどで水洗いしウエットにした状態。まずここでクセの出方をチェックする
<2> 続いて30%ほどドライする。
<3> その後根元5cmあけて、グリコール酸系の「酸・熱」トリートメントを塗布する。
<4> そのまま中間部にも剤を塗布し、
<5> 毛先まで同様に塗っていく。
<6> 塗布終了。20分自然放置し、シャンプー水洗を行い、専用のトリートメントを塗布。さらにプレーンリンスをする。
<7> その後、8割ほどドライし、ツインブラシでブローをする。
<8> 最後は、200℃のアイロンでスルー。ワンストランドにつき、5〜7回スルーするのがポイント。」(32〜33頁)

甲2c 「Before
細毛のやや硬毛。エイジングとダメージにより硬くなった可能性あり。クセはウエットで弱くなるタイプで内側の根元が強く横波にうねっている。カーラーを繰り返している髪。」(32頁)

甲2d 「After ノースタイリングの状態
横波のうねりが収まって、スリークな質感になった。ツヤ感、手触り感も高く、毛先も落ち着いた。」(33頁)

3 甲3
甲3a 「【0005】
本発明は、縮れを低減し、ヘアコンディショニングを改善する方法であって、毛髪処理組成物が、担体中に50ナノメートル未満の平均直径を有する液滴を有するシリコーンエマルションを含み、前記シリコーンエマルションが、様々な反応性化合物から作製される架橋オルガノポリシロキサンを含み、それぞれの化合物が、以下の一般式によって表される1つ以上の単位で構成され、
・・・
【0006】
・・・
前記架橋オルガノポリシロキサンが、1分子当たり平均で少なくとも1つのラジカルR1を含み、前記方法が、
a)噴霧又は展着によって前記毛髪処理組成物を毛髪に塗布する工程と、
b)空気又は熱によって毛髪を乾燥させる工程と、を含む方法を目的とする。」

甲3b 「【0093】
縮れ防止試験法及び性能:
a)塗布方法:自然に縮れている低リフトヘアピース(重量4g、長さ15cm(6インチ))を、浄化シャンプー(市販されている従来の浄化シャンプー)で洗浄し、空気乾燥させる。3つのヘアピースを、0.1g/gの用量の各リーブオントリートメント(LOT)組成物で処理し、30秒間マッサージし、ブローしながら乾かし、次いで、加熱設定40のBaBylissPRO Nano Titanium 1ストレートアイロンを用いてストレートにする。処理したヘアピースは、一晩平衡化するために15%RH/32C(15% RH/90F)恒湿恒温(CHCT)室に移すまでは、CaSO4乾燥剤を入れた乾燥箱(約22%相対湿度(RH))内で保持する。これによって、毛髪が研究室の周囲空気中の水分に曝露されるのを防いだ。一晩(>8時間)平衡化した後、ヘアピースを27C/80%RH(80F/80%RH)CTCH室に移し、直ちに5分間ごとに又は3時間以上になるまで1時間ごとに画像を撮影する。」

4 甲4
甲4a 「【0001】
本発明は、尿素およびそれらの誘導体から選択される1種またはそれ以上の化合物と、1種またはそれ以上のアクリルおよび/またはメタクリル単位を含んでなる、1種またはそれ以上の非イオン性、カチオン性、両性またはアニオン性会合性ポリマー増粘剤とを含んでなる、ケラチン繊維、特に、毛髪などのヒトのケラチン繊維の持続的なストレート化のための組成物に関する。
【0002】
また本発明は、ケラチン繊維、特に、毛髪などのヒトのケラチン繊維をストレート化するための本発明による組成物の使用にも関する。
【0003】
最終的に、本発明の対象は、本発明による組成物をケラチン繊維に適用するステップと、次いで、加熱手段を使用して、約25℃〜250℃の範囲の温度までケラチン繊維の温度を増加させるステップとを含んでなる、ケラチン繊維、特に、毛髪などのヒトのケラチン繊維をストレート化するための方法である。」

甲4b 「【0232】
組成物1および2、ならびに対照組成物は、以下のプロトコルに従って、適度に縮れた毛髪の房に適用される(・・・)。
【0233】
ケラチン繊維は、シャンプーで予備洗浄する。
【0234】
それぞれの組成物を、別々の湿った頭髪に適用する。次いで、過剰量の製品は、すりこみ乾燥によって除去される。
【0235】
次いで、頭髪をヘアドライヤーで予備乾燥する。次いで、ストレートアイロンを210℃の温度で(約1分間)、連続して2回、頭髪に沿ってゆっくり適用する。次いで、頭髪をシャンプーで洗浄して、ヘアドライヤーを使用して最終的に乾燥する。」

5 甲5
甲5a 「【請求項1】
縮毛を減少させるためのリンスオフコンディショナー組成物であって、
0.2%〜20%、好ましくは0.5%〜8%、より好ましくは0.5%〜5%の水分調整材料又は水分調整材料の混合物を含み、前記水分調整材料は、以下のうちの1つ以上から選択されており、
・・・
・・・及び前記水分調整材料を含まない対照組成物に対して、少なくとも4%の縮れ減少率、を有する、リンスオフコンディショナー組成物。
・・・
【請求項12】
前記組成物はシリコーンを更に含む、請求項1〜11のいずれか一項に記載のリンスオフコンディショナー組成物。」

甲5b 「【0001】
本発明は、縮毛を処置するのに有用な1つ以上の材料を含むリンスオフコンディショナー組成物に関する。」

甲5c 「【実施例】
【0042】
リンスオフコンディショナー組成物の調製:
・・・
【0043】
【表4】



甲5d 「【0045】
0.20g量の浄化用シャンプーを注射器でヘアスイッチに別個に塗布する。つまりは、シャンプーの用量は、毛髪1gあたり0.10gである。各塗布は、毛髪へのシャンプーの付加、30秒間のミルキング、続けて30秒間のすすぎからなる。次に、シャンプーを再塗布(0.1g/g)し、30秒間ミルキングし、30秒間すすぐ。過剰な水をヘアスイッチから絞り取った後、0.1g/gのリンスオフコンディショナーを塗布し、30秒間ミルキングし、次に30秒間すすぐ。
・・・
【0049】
b.縮れ減少率の測定
ヘアスイッチを、全ての毛髪繊維を先端で保持しつつ、リンスオフコンディショナーで処置した後に、全体的にドライヤーで乾燥し、次に、毛髪を3部分に分けてヘアスイッチを加熱矯正した後、204〜232℃(400〜450F)で8回フラットアイロンで加熱する。次に、ヘアスイッチを低湿度(20〜25%RH)で少なくとも1時間維持して平衡化させる。」

6 甲6
甲6a 「ヘアケア製品
シャンプー
・・・
●弱酸性
・・・
中性域以下で機能する界面活性剤が開発された後、2001年以降、洗いやすさやすすぎやすさなどの使用感がうまく調整されるようになり、弱酸性が一般的になっています。」(38〜39頁)

甲6b 「仕上げ方
・・・
・アイロン・コテ
・・・
アイロンも「乾かす」(水素結合を作る)ことによって形を決める機器です。高温にすることにより、髪が柔らかくなって髪どうしが添いやすくなるのが特徴です。髪全体を乾かした後、仕上げにストレートやカールをしっかり決めるために使います。」(56〜57頁)

7 甲7
甲7a 「生活環境に見られるpH(第1報)」(表題)

甲7b 「われわれの研究の目的は「生活環境に見られるpH」が主題であるが,これにはわれわれの日常生活で使用する各種洗浄剤や飲料のpHを測定して比較するだけにとどまらず,これらが自分たちの皮膚の状態に及ぼす影響についても研究の範囲を拡張して・・・」(78頁左欄)

甲7c 「(3)身の回りの石鹸,洗剤,ヘアケア用品のpH
・・・
ここでは,実験の対象を一般家庭で使用されている各種トイレトリーから洗濯用洗剤,食器用洗剤,風呂用洗剤まで広げて,pHを測定してこれら日用品として市販されている身の回りの洗剤ひとつを見ても,想像されていた以上にこれらのpHがさまざまであることを一覧表にまとめて図1に比較した.・・・さらに,これらを皮膚に塗ったのち,洗い流したあとのpHがどのように影響を受けているかを追跡して表3,表4に比較している.
・・・
表4 各種洗剤のpHと肌への影響(2)
・・・

」(79頁右欄〜82頁)

8 甲8
甲8a 「美容業界初!酸性ケラチントリートメントACID SHAPER(アシッドシェイパー)とは?」(表題 1頁)

甲8b 「酸性ケラチントリートメント
・・・
ACID SHAPER(アシッドシェイパー)はトリートメントでありながらクセの緩和をダメージレスで実現しました。
さらにケラチンやCMCなどの成分によりダメージ補修を行い、酸のチカラで毛髪強度を高めハリ、コシ、ツヤを出すことが可能です。」(2頁)

甲8c 「イオン結合へのアプローチ
内容成分にグリオキシル酸を配合する事で、イオン結合から生まれるクセを緩和します。
その為、シスチン結合を切ること無くダメージレスで施術が可能になりました。
程よくボリュームをシェイプし、気になる箇所のクセを和らげ、ケラチンやへマチン、シルクの配合と酸の力でハリ、コシやツヤを出すことが可能です。」(4頁)

甲8d 「

」(5頁)

9 甲9
甲9a 「d.シリコーン類
・・・ジメチコンは損傷したキューティクルを滑らかにし、平らに寝かせ、光を反射して、よりツヤがあるように見せる。
いくつかのメチル基がアミノ基に置き換わると、結果として図11に示されるようなアミノ変性シリコーンが生じ、それは7以下のpHにおいて正電荷を呈する。・・・アミノ基の存在は毛髪に対するジメチコンの親和性をかなり増大させる。」(93頁)

甲9b 「処方13 アミノ変性シリコーン含有耐久性コンディショナー94)
・・・
成分名 重量%
アモジメチコン 1.6
クオタニウム−40 1.6
ヒドロキシエチルセルロース 1.5
クエン酸 0.5
水 適量 」(111頁)

10 甲10
甲10a 「■ヘアアイロンは百七十度で三秒間が標準
・・・
ヘアアイロンは毛髪に対し百七十〜百八十度(摂氏・以下同じ)で使用する例が多い・・・
・・・
こうした試験結果から、ヘアアイロンの目的効果と安全性を考えると、百七十度で三秒が、理想的な使い方、といえそうです。
・・・
・・・ちなみに、髪が焼け切れるのは二百五十度とされています。」(97〜100頁)

11 甲11
甲11a 「リンスの基本機能は,シャンプーした後の髪のもつれからまりをなくし,乾燥するまでの髪の扱いやすさを向上させ,毛髪のダメージを防止し,さらにパサつきやブラッシングによる静電気を防止したり,しっとり感やさらさら感などの仕上がり感を向上させるものである。現在のリンスの一般的な配合組成をTable 5に示す。このようにリンスはカチオン界面活性剤が主成分で,基本的な機能はカチオン界面活性剤の毛髪への吸着に基づいている。」(1138頁右欄2段落)

甲11b 「

」(1138頁)

12 甲12
甲12a 「2−8.ヘアコンディショナーの処方例と製造法
単純であるが効率的なクリームリンス/コンディショナーの処方例を表5−7に示す。
・・・
ディープコンディショナーは、油分をより多く含んでいるかあるいは単に粘性が高いだけのものである(表5−9)。」(234頁)

甲12b 「


・・・

」(234〜235頁)

13 甲13
甲13a 「 pHの範囲
微酸性 約5〜約6.5
弱酸性 約3〜約5
強酸性 約3以下 」(通則p.3)

第5 判断
1 申立理由1の1(甲1を主引用例とする進歩性欠如)
(1)甲1に記載された発明
甲1には、アイロンなどの熱で傷んだ髪にも使えるヘアケアのためのシャンプー、コンディショナー及びトリートメントのセットが記載されており(甲1a)、シャンプー、コンディショナー及びトリートメントのそれぞれに含まれる成分が、甲1bに記載されている。当該セットを用いて髪を処理することは自明であるから、甲1には、以下の発明が記載されていると認められる(以下「甲1発明」という。)。

「以下の成分を、それぞれ含む、シャンプー、コンディショナー及びトリートメントのセットを用いた髪の処理方法。
シャンプー:水、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸アンモニウム(3E.O.)液、アルコール、ジステアリン酸グリコール、ラウリルヒドロキシスルタイン、PPG−7、蜂蜜、Butyrospermum Parkii Butter、ラノリン脂肪酸、カニナバラ果実エキス、ステアロキシプロピルジメチルアミン、リンゴ酸、イソデシルグリセリルエーテル、PPG−3カプリリルエーテル、ミリスチルアルコール、ステアリルアルコール、ベンジルアルコール、ポリクオタニウム−7、ポリクオタニウム−10、カチオン化グアーガム−2、セトリモニウムクロリド、ジメチコン、コカミドMEA、Dipeptide−15、ヒマワリ混合オイル(ハイブリッド、交配種)、BG、ラウレス硫酸Na、ラウレス−4、塩化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、リン酸、安息香酸ナトリウム、赤504、Parfum
コンディショナー:水、ステアリルアルコール、DPG、ジメチコン、乳酸、ステアロキシプロピルジメチルアミン、蜂蜜、Butyrospermum Parkii Butter、ラノリン脂肪酸、カニナバラ果実エキス、リンゴ酸、ベヘナミドプロピルジメチルアミン、ヘキサ(ヒドロキシステアリン酸/ステアリン酸/ロジン酸)ジペンタエリススリチル、ビス−イソブチルPEG−15/アモジメチコンコポリマー、(アミノエチルアミノプロピルメチコン/ジメチコン)コポリマー、セテアレス−7、セテアレス−25、HEC、ヒマワリ混合オイル(ハイブリッド、交配種)、アルコール、ベンジルアルコール、BG、PEG−45M、赤504、Parfum
トリートメント:水、ステアリルアルコール、ジメチコン、DPG、ステアロキシプロピルジメチルアミン、乳酸、ヒマワリ混合オイル(ハイブリッド、交配種)、蜂蜜、Butyrospermum Parkii Butter、ラノリン脂肪酸、リンゴ酸、カニナバラ果実エキス、ヘキサ(ヒドロキシステアリン酸/ステアリン酸/ロジン酸)ジペンタエリスリチル、ヒドロキシステアリン酸水添ヒマシ油(加水分解)、ホホバエステル、パラフィン、PEG−45M、(アミノエチルアミノプロピルメチコン/ジメチコン)コポリマー、ビス−イソブチルPEG−15/アモジメチコンコポリマー、セテアレス−7、セテアレス−25、アルコール、ベンジルアルコール、BG、赤504、Parfum」

なお、申立人が認定・主張する「甲1発明」(異議申立書21頁)は、シャンプー又はコンディショナーにより洗浄し、かつ、コンディショナー又はトリートメントにより毛髪を処理し、アイロンを含む発熱体により毛髪を加熱するという、甲1に記載されていない事項を含めて認定しており、採用できない。

(2)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「シャンプー」に含まれる「リンゴ酸」、及び「コンディショナー」に含まれる「リンゴ酸」及び「乳酸」は、本件発明1の「モノカルボン酸又はその塩、ジカルボン酸又はその塩、及びトリカルボン酸又はその塩から選ばれる1種又は2種以上の有機酸及び/又はその塩」に相当するから、甲1発明の「シャンプー」及び「コンディショナー」は、本件発明1の「モノカルボン酸又はその塩、ジカルボン酸又はその塩、及びトリカルボン酸又はその塩から選ばれる1種又は2種以上の有機酸及び/又はその塩が配合された」「毛髪用第1組成物」に相当する。

イ 甲1発明の「コンディショナー」に含まれる「ジメチコン」、「ビス−イソブチルPEG−15/アモジメチコンコポリマー」及び「(アミノエチルアミノプロピルメチコン/ジメチコン)コポリマー」、並びに「トリートメント」に含まれる「(アミノエチルアミノプロピルメチコン/ジメチコン)コポリマー」及び「ビス−イソブチルPEG−15/アモジメチコンコポリマー」は、本件発明1の「ジメチルシリコーン、アミノ変性シリコーン、及びポリシリコーン−29から選ばれる1種又は2種以上のシリコーン」に相当するから、甲1発明の「コンディショナー」及び「トリートメント」は、本件発明1の「ジメチルシリコーン、アミノ変性シリコーン、及びポリシリコーン−29から選ばれる1種又は2種以上のシリコーンが配合された」「毛髪用第2組成物」に相当する。

ウ 甲1発明の「シャンプー」、「コンディショナー」及び「トリートメント」は、使用する際に、毛髪に塗布するものであるから、甲1発明の「シャンプー、コンディショナー及びトリートメントのセットを用いた髪の処理方法」は、本件発明1の「毛髪用第1組成物を毛髪に塗布する」「処理」と、「毛髪に」「毛髪用第2組成物を塗布する」「処理」とを備える「毛髪処理方法」に相当する。
また、甲1発明において、「コンディショナー」及び「トリートメント」には、シリコーンが含まれているから、これらを毛髪に塗布する処理は、本件発明1の「シリコーン処理」といえる。

エ 上記ア〜ウより、本件発明1と甲1発明とは、以下の一致点と相違点があると認められる。

(一致点)
「モノカルボン酸又はその塩、ジカルボン酸又はその塩、及びトリカルボン酸又はその塩から選ばれる1種又は2種以上の有機酸及び/又はその塩が配合された毛髪用第1組成物を毛髪に塗布する処理と、
毛髪に、ジメチルシリコーン、アミノ変性シリコーン、及びポリシリコーン−29から選ばれる1種又は2種以上のシリコーンが配合された毛髪用第2組成物を塗布するシリコーン処理と、
を備えることを特徴とする毛髪処理方法。」

(相違点1)
本件発明1が、「酸処理」、「前記毛髪(すなわち、酸処理した毛髪)を洗浄する洗浄処理」、「前記毛髪(すなわち、洗浄処理した毛髪)に」「毛髪用第2組成物を塗布するシリコーン処理」、「前記毛髪(すなわち、シリコーン処理した毛髪)を乾燥させる乾燥処理」、及び「設定温度100℃以上の発熱体と前記毛髪(すなわち、乾燥処理した毛髪)とを接触させる加熱処理」を備える毛髪処理方法であるのに対し、甲1発明は、そのような処理工程をとることが特定されていない点

(相違点2)
毛髪用第1組成物について、本件発明1は、「pHが6.0未満」であり、酸性の組成物であって、該組成物を塗布する処理が「酸処理」であるのに対し、甲1発明は、「シャンプー」及び「コンディショナー」のpHが明らかでなく、これらを塗布する処理が「酸処理」であるかどうか明らかでない点

(相違点3)
毛髪用第2組成物について、本件発明1は、「pHが9.0未満で液状」であるのに対し、甲1発明は、「コンディショナー」及び「トリートメント」のpH及び状態が明らかでない点

オ 上記相違点1について検討する。
甲3には、「縮れを低減し、ヘアコンディショニングを改善する方法」が記載され(甲3a)、髪(自然に縮れている低リフトヘアピース)を、浄化シャンプー(市販されている従来の浄化シャンプー)で洗浄し、空気乾燥させ、リーブオントリートメント組成物で処理し、ブローしながら乾かし、次いで、ストレートアイロンを用いてストレートにすることが記載されている(甲3b)。
甲4には、「毛髪などのヒトのケラチン繊維をストレート化するための方法」が記載され(甲4a)、縮れた毛髪をシャンプーで予備洗浄し、毛髪を処理するための組成物を、湿った頭髪に適用し、頭髪をヘアドライヤーで予備乾燥し、次いで、ストレートアイロンを210℃の温度で、頭髪に沿ってゆっくり適用することが記載されている(甲4b)。
甲5には、「縮毛を減少させるためのリンスオフコンディショナー組成物」を用いて、縮毛を減少させる方法が記載され(甲5a、甲5b)、毛髪へのシャンプーの付加、続けて30秒間のすすぎをし、リンスオフコンディショナーを塗布し、30秒間すすいだ後に、全体的にドライヤーで乾燥し、204〜232℃でフラットアイロンで加熱することが記載されている(甲5d)。
しかしながら、甲3〜5に記載の方法は、縮毛を減少させるための方法であるところ、甲1発明は、甲1に「キューティクルを集中的に補修、保湿、保護することで、ダメージを受けやすい毛先も輝き、なめらかでまとまりのある髪に仕上げます」と記載されているように(甲1a)、シャンプー、コンディショナー及びトリートメントからなるセットの「ヘアケア製品」を用いて髪をケアする方法であって(甲1a)、甲3〜5に記載の方法とはその目的が異なるから、甲1発明において、甲3〜甲5に記載の処理工程を適用する動機付けがない。
また、甲2には、「エイジング&ダメージ毛の横波うねりをグリコール酸でスリークに」するために(甲2a)、甲2bで示す1〜8の手順で処理をする方法、すなわち、毛髪にグリコール酸系の「酸・熱」トリートメントを塗布し、塗布終了後、20分自然放置し、シャンプー水洗を行い、専用のトリートメントを塗布し、さらにプレーンリンスをし、その後、8割ほどドライし、最後は、200℃のアイロンでスルーする方法が記載されている。
しかしながら、甲2に記載の方法は、「エイジング&ダメージ毛の横波うねり」をスリークにするための方法であるところ、甲1発明は、シャンプー、コンディショナー及びトリートメントからなるセットの「ヘアケア製品」を用いて髪をケアする方法であって(甲1a)、甲2に記載の方法とはその目的が異なるから、甲1発明において、甲2に記載の処理工程を適用する動機付けがない。
さらに、甲6〜8のシャンプー等のpHについての記載、甲9のシリコーンについての記載、甲10のヘアアイロンについての記載、甲11のリンスの成分についての記載、甲12のコンディショナーの成分についての記載、及び甲13の弱酸性についての記載を参照しても、甲1発明において、相違点1の構成をとることの動機付けはないから、本件特許出願日の技術常識を参酌しても、甲1発明の処理工程を、上記相違点1の構成とすることは、当業者にとって容易に想到し得たとはいえない。

カ そして、相違点1が当業者に容易に想到し得たとはいえないから、相違点2及び3を検討するまでなく、本件発明1は、甲1発明及び甲2〜13に記載の事項を参照しても、当業者が容易に発明することができたとはいえない。また、本件発明1の毛髪の柔らかさ、滑らかさといった手触りを良好にできるとの効果は、当業者の予測の範囲を超える顕著なものである。

キ 申立人は、以下の主張をする。
「甲3発明〜甲5発明に示されるように、毛髪処理方法において、酸処理、洗浄処理、シリコーン処理、乾燥処理、及び加熱処理を行う施術手順は通常行われる手順である。
よって、甲1発明において、甲3発明〜甲5発明を参照して、リンゴ酸を含むシャンプー又は乳酸及びリンゴ酸を含むコンディショナーにより毛髪を酸処理し、洗浄(すすぎ)処理し、ジメチコン、ビス−イソブチルPEG−15/アモジメチコンコポリマー、及び(アミノエチルアミノプロピルメチコン/ジメチコン)コポリマーを含むコンディショナー又はトリートメントにより毛髪をシリコーン処理し、乾燥処理し、更に加熱処理を行うことは、当業者が容易に想到し得るものである。」(申立書34〜35頁)
しかしながら、上記オで述べたように、甲3〜5に記載の方法は、縮毛を減少させるための方法であり、毛髪処理方法における通常の施術手順ではない。そして、甲3〜5に記載の方法は、甲1発明のようなダメージを受けた髪などをケアするための方法ではないから、甲1発明において、甲3〜5に記載の施術手順を適用することは容易とはいえない。
よって、上記主張は受け入れられない。

(3)本件発明2〜6について
本件発明2〜6は、本件発明1をさらに特定したものであり、甲1発明とは、上記相違点1〜3で少なくとも相違する。
そして、本件発明1について述べた理由と同様の理由で、相違点1が当業者に容易に想到し得たとはいえないから、相違点2及び3を検討するまでなく、本件発明2〜6は、甲1発明及び甲2〜13に記載の事項を参照しても、当業者が容易に発明することができたとはいえない。また、本件発明2〜6の毛髪の柔らかさ、滑らかさといった手触りを良好にできるとの効果は、当業者の予測の範囲を超える顕著なものである。

(4)本件発明7及び8について
本件発明7及び8は、それぞれ、本件発明1の方法における酸処理で使用される毛髪用第1組成物、及び本件発明1の方法におけるシリコーン処理で使用される毛髪用第2組成物である。
甲1には、甲1発明の方法に用いる「シャンプー、コンディショナー及びトリートメントからなるセット」が記載されており(以下「甲1発明(ヘアケア製品)」という。)、本件発明7及び8と、甲1発明(ヘアケア製品)とは、上記相違点1〜3で少なくとも相違する。
そして、本件発明1について述べた理由と同様の理由で、相違点1が当業者に容易に想到し得たとはいえないから、相違点2及び3を検討するまでなく、本件発明7及び8は、甲1発明(ヘアケア製品)及び甲2〜13に記載の事項を参照しても、当業者が容易に発明することができたとはいえない。また、本件発明7及び8の毛髪の柔らかさ、滑らかさといった手触りを良好にできるとの効果は、当業者の予測の範囲を超える顕著なものである。

(5)小括
以上より、本件発明1〜8は、甲1に記載された発明及び甲2〜13に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、申立理由1の1(甲1を主引用例とする進歩性欠如)は、理由がない。

2 申立理由1の2(甲2を主引用例とする進歩性欠如)
(1)甲2に記載された発明
甲2には、「エイジング&ダメージ毛の横波うねりをグリコール酸でスリークに」するために(甲2a)、甲2bで示す1〜8の手順で処理をする方法が記載されており、甲2には、以下の発明が記載されていると認められる(以下「甲2発明」という。)。

「エイジング&ダメージ毛の横波のうねりをスリークにするための方法であり、シャンプーで水洗いし、30%ほどドライした毛髪にグリコール酸系の「酸・熱」トリートメントを塗布し、塗布終了後、20分自然放置し、シャンプー水洗を行い、専用のトリートメントを塗布し、さらにプレーンリンスをし、その後、8割ほどドライし、最後は、200℃のアイロンでスルーする方法。」

なお、申立人が認定・主張する「甲2発明」(異議申立書22〜23頁)は、甲2に記載の1〜8の工程のとおりの認定ではなく、採用できない。

(2)本件発明1について
ア 本件発明1と甲2発明とを対比すると、甲2発明の「「酸・熱」トリートメント」に含まれる「グリコール酸」は、本件発明1の「モノカルボン酸又はその塩、ジカルボン酸又はその塩、及びトリカルボン酸又はその塩から選ばれる1種又は2種以上の有機酸及び/又はその塩」に相当するから、甲2発明の「「酸・熱」トリートメント」は、本件発明1の「モノカルボン酸又はその塩、ジカルボン酸又はその塩、及びトリカルボン酸又はその塩から選ばれる1種又は2種以上の有機酸及び/又はその塩が配合された」「毛髪用第1組成物」に相当する。

イ 甲2発明の「専用のトリートメント」は、本件発明1の「毛髪用第1組成物」に相当する「「酸・熱」トリートメント」の処理の後に、髪に塗布するものであるから、本件発明1の「毛髪用第2組成物」に相当する。

ウ 甲2発明の「「酸・熱」トリートメント」に含まれる「グリコール酸」は酸であり、「「酸・熱」トリートメント」は、その名称から酸及び熱を利用したトリートメントと理解されるから、甲2発明において、「「酸・熱」トリートメント」を毛髪に塗布することは、本件発明1の「毛髪用第1組成物を毛髪に塗布する酸処理」に相当する。
甲2発明の「シャンプー水洗」は、上記「「酸・熱」トリートメント」を毛髪に塗布した後に行われるから、本件発明1の「前記毛髪を処理する洗浄処理」に相当する。
甲2発明における「専用のトリートメントを塗布」は、上記「シャンプー水洗」の後に行われるから、本件発明1の「前記毛髪に」「毛髪用第2組成物を塗布する」「処理」に相当する。
甲2発明における「その後、8割ほどドライ」は、「専用のトリートメントを塗布」した後に行われるから、本件発明1の「前記毛髪を乾燥させる乾燥処理」に相当する。
甲2発明における「最後は、200℃のアイロンでスルー」することは、上記「8割ほどドライ」の後に行われるから、本件発明1の「設定温度100℃以上の発熱体と前記毛髪とを接触させる加熱処理」に相当する。

エ 上記ア〜ウより、本件発明1と甲2発明とは、以下の一致点と相違点があると認められる。

(一致点)
「モノカルボン酸又はその塩、ジカルボン酸又はその塩、及びトリカルボン酸又はその塩から選ばれる1種又は2種以上の有機酸及び/又はその塩が配合された毛髪用第1組成物を毛髪に塗布する酸処理と、
前記毛髪を洗浄する洗浄処理と、
前記毛髪に、毛髪用第2組成物を塗布する処理と、
前記毛髪を乾燥させる乾燥処理と、
設定温度100℃以上の発熱体と前記毛髪とを接触させる加熱処理と、
を備えることを特徴とする毛髪処理方法。」

(相違点1)
毛髪用第2組成物について、本件発明1は、「ジメチルシリコーン、アミノ変性シリコーン、及びポリシリコーン−29から選ばれる1種又は2種以上のシリコーンが配合された」ものであるのに対し、甲2発明の「専用のトリートメント」は、シリコーンが含まれているか明らかでなく、これを塗布する処理が、シリコーン処理であるかも不明な点

(相違点2)
毛髪用第1組成物について、本件発明1は、「pHが6.0未満」であるのに対し、甲2発明は、グリコール酸系の「酸・熱」トリートメントのpHが明らかでない点

(相違点3)
毛髪用第2組成物について、本件発明1は、「pHが9.0未満で液状」であるのに対し、甲2発明は、「専用のトリートメント」のpH及び状態が明らかでない点

オ 上記相違点1について検討する。
甲1には、コンディショナー及びトリートメントにシリコーンが含まれていることが記載されている(甲1b)。
しかしながら、甲1に記載のコンディショナー及びトリートメントは、甲1に「キューティクルを集中的に補修、保湿、保護することで、ダメージを受けやすい毛先も輝き、なめらかでまとまりのある髪に仕上げます」と記載されているように(甲1a)、「ヘアケア製品」のセットに含まれるものであって(甲1a)、甲2発明のように、「酸・熱」トリートメントを用いて「エイジング&ダメージ毛の横波のうねりをスリークに」するための方法に用いるためのものではない。それゆえ、甲2発明における「専用のトリートメント」に、シリコーンを含むものとすることの動機付けがない。
また、甲9には、ジメチコンはキューティクルを滑らかにし、アミノ変性シリコーンはアミノ基の存在により毛髪に対するジメチコンの親和性を増大させることが記載されているが(甲9a)、甲2発明のように、「酸・熱」トリートメントを用いて「エイジング&ダメージ毛の横波のうねりをスリークに」するための方法における「専用のトリートメント」に使用することは記載も示唆もない。それゆえ、甲2発明における「専用のトリートメント」に、シリコーンを含むものとすることの動機付けがない。
さらに、甲6〜8のシャンプー等のpHについての記載、甲10のヘアアイロンについての記載、甲11のリンスの成分についての記載、甲12のコンディショナーの成分についての記載、及び甲13の弱酸性についての記載を参照しても、甲2発明において、相違点1の構成をとることの動機付けはないから、本件特許出願日の技術常識を参酌しても、甲2発明における「専用のトリートメント」をシリコーンを含むものとし、「専用のトリートメント」を塗布する処理をシリコーン処理とすることは、当業者にとって容易に想到し得たとはいえない。

カ そして、相違点1が当業者に容易に想到し得たとはいえないから、相違点2及び3を検討するまでなく、本件発明1は、甲2発明並びに甲1及び甲6〜13に記載の事項を参照しても、当業者が容易に発明することができたとはいえない。また、本件発明1の毛髪の柔らかさ、滑らかさといった手触りを良好にできるとの効果は、当業者の予測の範囲を超える顕著なものである。

キ 申立人は、以下の主張をする。
「甲2号証に開示される「トリートメントを塗布。さらにプレーンリンスをする」との施術において、市販製品を用いることは自明であり、甲第1号証に示される製品を用いれば、毛髪処理方法において、シャンプー又は乳酸及びリンゴ酸を含むコンディショナーにより毛髪を洗浄した後に、ジメチコン、ビス−イソブチルPEG−15/アモジメチコンコポリマー、及び(アミノエチルアミノプロピルメチコン/ジメチコン)コポリマーを含むコンディショナー又はトリートメントを用いてシリコーン処理を行うことになる。
よって、甲2発明において、甲1発明を参照して、ジメチルシリコーン、アミノ変性シリコーン、及びポリシリコーン−29から選ばれる1種又は2種以上のシリコーンが配合された液状の毛髪用第2組成物を塗布するシリコーン処理を行うことは、当業者が容易に想到し得るものである。」(申立書41〜42頁)
しかしながら、甲2発明におけるトリートメントは、「酸・熱」トリートメントを用いて「エイジング&ダメージ毛の横波のうねりをスリークに」するための方法に用いられる「専用のトリートメント」であり、甲1に記載のダメージを受けた髪などをケアするためのヘアケア製品ではないから、甲2発明における「専用のトリートメント」に、甲1のシリコーンを含むコンディショナー又はトリートメントを用いることの動機付けはない。
よって、上記主張は受け入れられない。

(3)本件発明2〜6について
本件発明2〜6は、本件発明1をさらに特定したものであり、甲2発明とは、上記相違点1〜3で少なくとも相違する。
そして、本件発明1について述べた理由と同様の理由で、相違点1が当業者に容易に想到し得たとはいえないから、相違点2及び3を検討するまでなく、本件発明2〜6は、甲2発明並びに甲1及び甲6〜13に記載の事項を参照しても、当業者が容易に発明することができたとはいえない。また、本件発明2〜6の毛髪の柔らかさ、滑らかさといった手触りを良好にできるとの効果は、当業者の予測の範囲を超える顕著なものである。

(4)本件発明7及び8について
本件発明7及び8は、それぞれ、本件発明1の方法における酸処理で使用される毛髪用第1組成物、及び本件発明1の方法におけるシリコーン処理で使用される毛髪用第2組成物である。
甲2には、甲2発明の方法に用いる「「酸・熱」トリートメント」及び「専用のトリートメント」が記載されており(以下、それぞれ、「甲2発明(「酸・熱」トリートメント)」及び「甲2発明(専用のトリートメント)」という。)、本件発明7及び8と、「甲2発明(「酸・熱」トリートメント)」及び「甲2発明(専用のトリートメント)」とは、上記相違点1〜3で少なくとも相違する。
そして、本件発明1について述べた理由と同様の理由で、相違点1が当業者に容易に想到し得たとはいえないから、相違点2及び3を検討するまでなく、本件発明7及び8は、甲2発明並びに甲1及び甲6〜13に記載の事項を参照しても、当業者が容易に発明することができたとはいえない。また、本件発明7及び8の毛髪の柔らかさ、滑らかさといった手触りを良好にできるとの効果は、当業者の予測の範囲を超える顕著なものである。

(5)小括
以上より、本件発明1〜8は、甲2に記載された発明並びに甲1及び甲6〜13に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、申立理由1の2(甲2を主引用例とする進歩性欠如)は、理由がない。

3 申立理由3(サポート要件違反)
(1)特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、その記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(2)本件特許請求の範囲及び本件明細書には、以下の記載がある(下線は当審合議体による。)。

a 特許請求の範囲の記載
上記第2に摘記したとおりである。

b 発明が解決しようとする課題について
「【背景技術】
【0002】
美容室で毛髪に対して行うトリートメントは、自宅で行うトリートメントよりも、毛髪の感触を実感できるとの声が多い。そのようなトリートメントは、複数の組成物を組み合わせる多剤式トリートメントが知られている。また、近年、その多剤式トリートメントとは施術工程が異なる「酸・熱トリートメント」が知られるようになってきている。
【0003】
非特許文献1には、ツヤ、質感、手触りの向上及び持続が酸・熱トリートメントの特徴であり、酸の塗布、塗布した酸の洗浄除去、乾燥、アイロン処理の手順を有することが説明されている。特許文献1には、酸・熱トリートメントに関する開示があり、当該文献では、半永久的毛髪矯正方法として、グリオキシル酸などのα−ケト酸類由来の緩衝酸剤を含む溶液を毛髪に塗布する段階と、毛髪を乾燥させる段階と、毛髪矯正アイロンを用いて毛髪を矯正する段階とを有する方法が開示されている。
【0004】
ところで、上記非特許文献1で説明されている通り、ツヤ、質感、手触りの向上及び持続が酸・熱トリートメントの特徴であり、柔らかさ、滑らかさといった手触りについて十分な感触が得られ、当該感触の更なる向上は、困難性が伴うことが予想される。しかし、その感触を更に向上できる技術の実現は、望ましいことである。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑み、柔らかさ、滑らかさといった手触りに優れる毛髪処理方法、並びに、この方法で使用される毛髪用第1組成物及び毛髪用第2組成物の提供を目的とする。」

c 課題を解決するための手段について
「【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者が鋭意検討を行った結果、酸及び/又はその塩を配合した酸性組成物を毛髪に塗布し、洗浄、乾燥後、アイロンなどの発熱体と毛髪とを接触させる毛髪処理方法において、洗浄と乾燥との間にシリコーンが配合された液状組成物を毛髪に塗布すれば、柔らかさ、滑らかさといった毛髪の手触りに優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明に係る毛髪処理方法は、酸が配合された酸性の毛髪用第1組成物を毛髪に塗布する酸処理と、前記毛髪を洗浄する洗浄処理と、前記毛髪にシリコーンが配合された液状の毛髪用第2組成物を塗布するシリコーン処理と、前記毛髪を乾燥させる乾燥処理と、設定温度100℃以上の発熱体と前記毛髪とを接触させる加熱処理と、を備えることを特徴とする。」

d 発明の効果について
「【発明の効果】
【0015】
本発明に係る毛髪処理方法によれば、所定の酸処理、洗浄処理、乾燥処理、及び加熱処理を有する処理過程における洗浄処理と乾燥処理との間に、シリコーンが配合された液状組成物を塗布するシリコーン処理を設けるから、毛髪の柔らかさ、滑らかさといった手触りを良好にできる。
【0016】
本発明に係る酸及び/又はその塩が配合された酸性の毛髪用第1組成物によれば、所定の酸処理、洗浄処理、シリコーン処理、乾燥処理、及び加熱処理を有する毛髪処理方法の酸処理において用いられるから、髪の柔らかさ、滑らかさといった手触りを良好にできる。
【0017】
また、本発明に係るシリコーンが配合された液状の毛髪用第2組成物によれば、所定の酸処理、洗浄処理、シリコーン処理、乾燥処理、及び加熱処理を有する毛髪処理方法のシリコーン処理において用いられるから、髪の柔らかさ、滑らかさといった手触りを良好にできる。」

e 発明を実施するための形態について
「【0020】
酸処理
本実施形態における酸処理では、濡れた毛髪又は乾燥した毛髪に対して、毛髪用第1組成物が塗布される。
・・・
【0028】
上記毛髪用第1組成物は、酸性であれば、pHが特に限定されるものではない。当該pHは、1.5以上6.0未満が良く、1.5以上4.0未満が好ましい。1.5以上であれば、頭皮に付着した場合の刺激を抑制でき、6.0未満であれば、酸及びその塩の総配合量を多くできる。」

f 実施例について
「【実施例】
【0049】
以下、実施例に基づき本発明を詳述するが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるものではない。
【0050】
下記の通り、処方例1a〜1dの毛髪用第1組成物及び処方例2a〜2hの毛髪用第2組成物を製造し、実施例1〜9及び比較例1〜5の毛髪処理を行った。詳細は、次の通りである。
・・・
【0058】
下記表1に、処方例1a〜1dの毛髪用第1組成物に配合した原料及びその配合量、並びにpH、下記表2に、処方例2a〜2hの毛髪用第2組成物に配合した原料及びその配合量、並びにpHを示す。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
下記表3に、実施例1〜2及び比較例1〜2の評価結果を示す。表3に示す通り、実施例1〜2は、毛髪用第2組成物を使用しなかった(シリコーン処理を行わなかった)比較例1及び毛髪用第2組成物にシリコーンを配合しなかった比較例2よりも、柔らかさ、滑らかさ、まとまりの平均点が高く、良好な結果であったことから、シリコーンを配合した毛髪用第2組成物によるシリコーン処理の有無が柔らかさ等に影響することが分かる。また、毛髪用第2組成物に配合するシリコーンとしてアミノ変性シリコーンを配合した実施例1は、ジメチルシリコーン(高重合メチルポリシロキサン(1)及びメチルポリシロキサン)を配合した実施例2よりも、柔らかさ、滑らかさ、まとまりの平均点が高く、良好な結果であった。
【0062】
【表3】

【0063】
下記表4に、実施例3及び比較例3の評価結果を示す。表4に示す通り、実施例3は、毛髪用第1組成物を使用しなかった(酸処理を行わなかった)比較例3よりも、柔らかさ、滑らかさ、まとまりの平均点が高く、良好な結果であったことから、酸を配合した酸性の毛髪用第1組成物による酸処理の有無が柔らかさ等に影響することが分かる。また、比較例3の毛髪用第2組成物は、酸(グリオキシル酸)が配合されたものであるが、実施例3よりも評価に劣るから、毛髪用第1組成物への酸の配合が柔らかさ等の向上に適することを確認できる。
【0064】
【表4】

【0065】
下記表5に、実施例4〜5及び比較例4〜5の評価結果を示す。表5に示す通り、毛髪用第1組成物のpHが酸性領域である実施例4〜5は、アルカリ性領域の比較例4〜5よりも、柔らかさ、滑らかさ、まとまりの平均点が高く、良好な結果であったことから、毛髪用第1組成物が酸性であれば、柔らかさ等の向上に適することが分かる。また、グリオキシル酸の配合が滑らかさの向上に適し(実施例4)、乳酸の配合が柔らかさの配合に適する(実施例5)ことが、表5において確認できる。
【0066】
【表5】

【0067】
下記表6に、実施例6〜9の評価結果を示す。表6に示す通り、毛髪用第2組成物のpHが9.0未満である実施例6〜7は、pHが9.0以上である実施例8〜9よりも、柔らかさ、滑らかさ、まとまりの平均点が高く、良好な結果であったことから、毛髪用第2組成物のpHが9.0未満であれば、柔らかさ等の向上により適することが分かる。また、毛髪用第2組成物のpHが8.0未満である実施例6は、pHが8.0以上である実施例7よりも、柔らかさ、滑らかさ、まとまりの平均点が高く、良好な結果であったことから、毛髪用第2組成物のpHが8.0未満であれば、柔らかさ等の向上に更に適することが分かる。
【0068】
【表6】




(3)本件発明の課題は、本件明細書の記載(記載b)から、酸・熱トリートメントにおいて、柔らかさ、滑らかさといった手触りに優れる毛髪処理方法、並びに、この方法で使用される毛髪用第1組成物及び毛髪用第2組成物を提供することと認められる。

(4)上記課題を解決するために、本件発明は、「酸及び/又はその塩を配合した酸性組成物を毛髪に塗布し、洗浄、乾燥後、アイロンなどの発熱体と毛髪とを接触させる毛髪処理方法において、洗浄と乾燥との間にシリコーンが配合された液状組成物を毛髪に塗布すれば、柔らかさ、滑らかさといった毛髪の手触りに優れること」、すなわち、本件発明1で特定される処理工程を備えることにより、柔らかさ、滑らかさといった毛髪の手触りに優れることを見出したことによって完成したものである(記載c)。そして、実施例において、本件発明で特定した要件を全て満たす実施例が、毛髪の柔らかさ、滑らかさといった手触りを良好にできることが示されている(記載f)。
そうしてみれば、本件明細書の発明の詳細な説明の記載には、上記(3)の課題を解決するための手段が記載され、実際に、毛髪の柔らかさ、滑らかさといった手触りを良好にできることも確認されているから、本件明細書の発明の詳細な説明の記載から、当業者が本件発明の課題を解決できることを認識できるといえ、本件発明は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されているといえる。

(5)申立人は、以下の理由を根拠に、本件発明はサポート要件を満たさないと主張する。
「実施例では、pHの臨界性を検証する実施例4及び5と、比較例4及び5において、実施例と比較例とは、pHのみならず、酸の濃度も大きく異なる。・・・よって、毛髪用第1組成物のpHが酸性領域であることによる効果の違いが、pHによるものか、酸の濃度によるものか不明である。すなわち、出願時の技術常識に照らしても、毛髪用第1組成物のpHが6.0未満の全ての範囲において、課題が解決できると当業者が認識できる程度に具体例又は説明が記載されていない。」(申立書47頁)
しかしながら、本件明細書には、毛髪用第1組成物について、「上記毛髪用第1組成物は、酸性であれば、pHが特に限定されるものではない。当該pHは、1.5以上6.0未満が良く、1.5以上4.0未満が好ましい。1.5以上であれば、頭皮に付着した場合の刺激を抑制でき、6.0未満であれば、酸及びその塩の総配合量を多くできる。」と記載されており(記載e)、本件発明を実施するために、毛髪用第1組成物のpHを6.0未満にすることが記載されている。
また、本件明細書の実施例の表5(記載f)において、比較例4と比較例5を比べると、比較例4は、毛髪用第1組成物のpHが8.0であり、柔らかさ(平均点)2.2、滑らかさ(平均点)2.0、まとまり(平均点)2.0であるのに対し、毛髪用第1組成物のpHが9.0である比較例5は、柔らかさ(平均点)1.0、滑らかさ(平均点)1.2、まとまり(平均点)1.2である。ここで、比較例4及び5は、酸(グリオキシル酸)を含む成分の配合比は同じであり、pHの値だけが異なる例であるから(記載fの【表1】の処方1b及び処方1cを参照。)、毛髪用第1組成物は、酸の濃度ではなく、pHの違いによって、本件発明の効果に影響を及ぼすことが示されているといえる。
そうしてみれば、本件発明が、毛髪用第1組成物のpHが6.0未満の全ての範囲において、本件発明の課題を解決できることを当業者は認識できるといえる。
よって、上記理由に基づく申立人の主張は受け入れられない。

(6)以上のとおり、申立理由2(サポート要件違反)は、理由がない。

4 申立理由3(明確性要件違反)
(1)明確性要件に関し、発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。

(2)申立人は、以下のア〜エを理由に、本件発明は明確でないと主張する。
ア 「本件発明1は、「・・・pHが6.0未満の毛髪用第1組成物」を規定する。
しかし、pHは温度に依存する特性であるため、いかなる温度における液性であるか明瞭でない。」(申立理由3の1(その1))(申立書47頁)

イ 「本件発明1は、設定温度100℃以上の発熱体と前記毛髪とを接触させる加熱処理」を規定する。しかし、発熱体の「設定温度」が、装置のダイアルのメモリか、測定した実温度か、具体的に何を指しているのか明確でない。」(申立理由3の1(その2))(申立書47〜48頁)

ウ 「本件発明3には、「前記酸処理における第1剤のpHが1.5以上6.0未満である」ことが規定されている。しかし、請求項3の従属先である請求項1及び2には、「第1剤」が記載されていないため、本件発明3は、特許を受けようとする発明が明確でない。」(申立理由3の2)(申立書48頁)

エ 「本件発明6は、「前記加熱処理において、発熱体に接触している間の毛髪を略直線状に変形させる」ことが規定されている。しかし、「発熱体に接触している間の毛髪」の「間」が、接触している時間を指すのか、発熱体の位置的に挟まれた間を指すのか明瞭でない。」(申立理由3の3)(申立書48頁)

(3)しかしながら、以下に述べるとおり、上記主張は、受け入れられず、本件発明は、明確である。
ア 上記理由アについて、pHは、特に言及がなければ、通常の方法で測定されるものと当業者は理解するから、請求項1に記載の「pH」がいかなる温度で測定されたものであるか記載されていなくても、「pHが6.0未満の毛髪用第1組成物」との記載が第三者に不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。

イ 上記理由イについて、「設定温度100℃以上の発熱体」の記載は、発熱体の設定温度が100℃以上であることを意味しており、明確である。仮に、発熱体がダイアルによって、温度を設定する装置であるとすれば、「設定温度」は、ダイアルのメモリの値を意味し、測定した実温度を意味しないことは明らかである。

ウ 上記理由ウについて、請求項3における「前記酸処理における第1剤」は、酸処理に用いられる剤であり、請求項1及び2における「毛髪用第1組成物」を意味することは明らかである。

エ 上記理由エについて、「間」が接触している時間を指すのであれば、「発熱体に接触している間の毛髪を略直線状に変形させる」ではなく、「発熱体に接触している間に毛髪を略直線状に変形させる」と記載されるべきであるから、「発熱体に接触している間の毛髪」との記載が発熱体の位置的に挟まれた間の毛髪を意味することは明らかである。
このことは、本件明細書の「ヘアアイロンを使用する際には、毛髪を対向する発熱体間に挟み、その後に、毛髪を挟んだ状態を維持しながらヘアアイロンを移動させ、挟まっている毛髪を滑らせる」との記載(【0046】)からも明らかである。

(4)以上のとおり、申立理由3(明確性要件違反)は、理由がない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1〜8に係る特許を取り消すことはできない。
また、そのほかに請求項1〜8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2023-12-18 
出願番号 P2018-198059
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A61K)
P 1 651・ 537- Y (A61K)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 井上 典之
特許庁審判官 阪野 誠司
関 美祝
登録日 2023-03-10 
登録番号 7242242
権利者 株式会社ミルボン
発明の名称 毛髪処理方法、毛髪用第1組成物及び毛髪用第2組成物  
代理人 田中 信治  

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