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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C12C
審判 全部申し立て 2項進歩性  C12C
管理番号 1405861
総通号数 25 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2024-01-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2023-11-10 
確定日 2024-01-10 
異議申立件数
事件の表示 特許第7270862号発明「ビール様発泡性飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7270862号の請求項1ないし17に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7270862号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし17に係る特許についての出願は、令和5年1月18日の出願であって、同年4月27日にその特許権の設定登録(請求項の数17)がされ、同年5月10日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年11月10日に特許異議申立人 山内 慶子(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし17)がされたものである。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし17に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし17に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
リン酸、クエン酸、ピルビン酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、酢酸、及びピログルタミン酸からなる酸成分の総濃度が1500ppm未満であり、β−イオノンの濃度が0.010ppb以上であることを特徴とする、ビール様発泡性飲料。
【請求項2】
β−イオノンの濃度が0.010〜2.0ppbである、請求項1に記載のビール様発泡性飲料。
【請求項3】
β−イオノンの濃度が0.010〜1.0ppbである、請求項1に記載のビール様発泡性飲料。
【請求項4】
前記酸成分の総濃度に対するβ−イオノンの濃度の比率([β−イオノンの濃度(ppb)]/[酸成分の総濃度(ppm)])が0.00001以上である、請求項1に記載のビール様発泡性飲料。
【請求項5】
前記酸成分の総濃度に対するβ−イオノンの濃度の比率([β−イオノンの濃度(ppb)]/[酸成分の総濃度(ppm)])が0.002未満である、請求項1に記載のビール様発泡性飲料。
【請求項6】
アルコール濃度が、1.0〜6.0v/v%である、請求項1に記載のビール様発泡性飲料。
【請求項7】
アルコール濃度が、1.0v/v%未満である、請求項1に記載のビール様発泡性飲料。
【請求項8】
発酵ビール様発泡性飲料である、請求項1〜7のいずれか一項に記載のビール様発泡性飲料。
【請求項9】
飲料中のリン酸、クエン酸、ピルビン酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、酢酸、及びピログルタミン酸からなる酸成分の総濃度が1500ppm未満であるように調整する工程と、
飲料のβ−イオノン濃度が0.010ppb以上になるように調整する工程と、
を有する、ビール様発泡性飲料の製造方法。
【請求項10】
原料として、β−イオノンを用いる、請求項9に記載のビール様発泡性飲料の製造方法。
【請求項11】
β−イオノンの濃度が0.010〜2.0ppbになるように調整する、請求項9に記載のビール様発泡性飲料の製造方法。
【請求項12】
β−イオノンの濃度が0.010〜1.0ppbになるように調整する、請求項9に記載のビール様発泡性飲料の製造方法。
【請求項13】
飲料中の前記酸成分の総濃度及び飲料中のβ−イオノン濃度を、前記酸成分の総濃度に対するβ−イオノンの濃度の比率([β−イオノンの濃度(ppb)]/[酸成分の総濃度(ppm)])が0.00001以上になるように調整する、請求項9に記載のビール様発泡性飲料の製造方法。
【請求項14】
飲料中の前記酸成分の総濃度及び飲料中のβ−イオノン濃度を、前記酸成分の総濃度に対するβ−イオノンの濃度の比率([β−イオノンの濃度(ppb)]/[酸成分の総濃度(ppm)])が0.002未満になるように調整する、請求項9に記載のビール様発泡性飲料の製造方法。
【請求項15】
飲料中のリン酸、クエン酸、ピルビン酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、酢酸、及びピログルタミン酸からなる酸成分の総濃度が1500ppm未満であるビール様発泡性飲料の香味を改善する方法であって、
飲料のβ−イオノン濃度が0.010ppb以上になるように調整する工程、
を有する、ビール様発泡性飲料の香味改善方法。
【請求項16】
β−イオノンの濃度が0.010〜2.0ppbになるように調整する、請求項15に記載のビール様発泡性飲料の香味改善方法。
【請求項17】
飲料中の前記酸成分の総濃度及び飲料中のβ−イオノン濃度を、前記酸成分の総濃度に対するβ−イオノンの濃度の比率([β−イオノンの濃度(ppb)]/[酸成分の総濃度(ppm)])が0.00001以上になるように調整する、請求項15に記載のビール様発泡性飲料の香味改善方法。」

第3 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和5年11月10日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。なお、判断の便宜上、主引用文献となる証拠毎に申立理由を整理した。

1 申立理由1(甲第1号証に基づく新規性進歩性
本件特許発明1ないし6及び8ないし17は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許発明1ないし17は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし17に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
なお、特許異議申立書第8ページにおいては、請求項6については特許法第29条第1項第3号の対象となっていないが、同28ページにおいては同条文の対象としているので、上記のとおりとした。

2 申立理由2(甲第2号証に基づく新規性進歩性
本件特許発明1ないし6及び8ないし17は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許発明1ないし17は、甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし17に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
なお、特許異議申立書第8ページにおいては、請求項6については特許法第29条第1項第3号の対象となっていないが、同47ページにおいては同条文の対象としているので、上記のとおりとした。

3 証拠方法
甲第1号証:特開2015−123027号公報
甲第2号証:特開2015−123053号公報
甲第3号証の1:特開2020−89396号公報
甲第3号証の2:特開2018−110589号公報
甲第3号証の3:特開2018−99139号公報
甲第3号証の4:特開2017−118824号公報
甲第3号証の5:特開2016−82899号公報
甲第3号証の6:特開2015−154748号公報
甲第3号証の7:特開2015−154747号公報
甲第3号証の8:特開2015−154746号公報
甲第3号証の9:特開2015−154745号公報
甲第3号証の10:特開2015−154744号公報
甲第3号証の11:特開2015−154743号公報
甲第3号証の12:特開2015−154742号公報
甲第3号証の13:特開2015−154741号公報
甲第3号証の14:特開2015−154740号公報
甲第3号証の15:特開2015−154739号公報
甲第4号証:Acta Horticulturae ・ October 2013「The Influence of the Age of a Hop Plant on the Quality of Hop Aromas in Beer」
甲第5号証:国際公開第2016/080282号
甲第6号証:醸協第104巻第3号(2009年)、第157ないし169ページ
甲第7号証:醸造物の成分、財団法人日本醸造協会、第185ページ、平成11年12月10日
甲第8号証:「エタノール水溶液の容量%と比重及び重量%等との関係」(アルコール協会)(http://www.alcohol.jp/expert/expert_table/09%20youryou%20jyuuryou.pdf)、令和5年11月7日検索日
甲第9号証:Journal of the American Society of Brewing Chemists 55(2): 44-46「Determination of Inorganic and Organic Anions in Beer and Wort by Capillary Electrophoresis」、1997年
証拠の表記は、特許異議申立書の記載におおむね従った。以下、順に「甲1」のようにいう。

第4 当審の判断
1 主な証拠に記載された事項等
(1)甲1に記載された事項等
ア 甲1に記載された事項
甲1には、「発酵麦芽飲料」に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものである。他の証拠についても同様。

・「【請求項1】
発酵原料の麦芽比率が50質量%未満であり、リン酸、クエン酸、ピルビン酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、ギ酸、酢酸、及びピログルタミン酸の総含有量が800〜1200mg/Lであり、リナロール含有量が0.5〜3ppbであることを特徴とする、発酵麦芽飲料。」

・「【請求項4】
ホップを原料とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の発酵麦芽飲料。」

・「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、発酵原料に対する麦芽の使用比率が低く、麦芽オフフレーバーが少ないにもかかわらず、充分な酸味を有し、かつ軽快感も良好な発酵麦芽飲料を提供することを目的とする。」
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、麦芽オフフレーバーを抑えるべく発酵原料に対する麦芽の使用比率を50質量%未満に抑えた発酵麦芽飲料において、飲料における特定の有機酸の総含有量とリナロール含有量を所定の範囲内に調整することにより、充分な酸味と軽快感の両方を改善し得ることを見出し、本発明を完成させた。」

・「【0033】
[参考例1]
発酵原料として麦芽粉砕物とコーンスターチを用いて、ビールテイストの発酵麦芽飲料における麦芽オフフレーバーの強さに対する麦芽比率の影響を調べた。具体的には、麦芽比率が20、40、又は60質量%となるように麦芽粉砕物とコーンスターチを混合した混合物を、発酵原料として用いた。
まず、200Lスケールの仕込設備を用いて、発酵麦芽飲料の製造を行った。仕込槽に、40kgの発酵原料及び160Lの原料水を投入し、当該仕込槽内の混合物を常法に従って加温して糖化液を製造した。得られた糖化液を濾過し、得られた濾液にホップを添加した後、煮沸して麦汁(穀物煮汁)を得た。次いで、80〜99℃程度の麦汁を沈降槽に移して沈殿物を分離、除去した後、約7℃に冷却した。当該冷麦汁にビール酵母を接種し、約10℃で7日間発酵させた後、7日間貯酒タンク中で熟成させた。熟成後の発酵液をフィルター濾過(平均孔径:0.65μm)し、目的の発酵麦芽飲料を得た。
【0034】
得られた発酵麦芽飲料の麦芽オフフレーバーについて、6名の訓練されたビール専門パネリストによる官能検査を行った。この結果、麦芽比率60質量%の発酵麦芽飲料では麦芽オフフレーバーが感じられたが、麦芽比率40質量%の発酵麦芽飲料では麦芽オフフレーバーはあまり感じられず、麦芽比率20質量%の発酵麦芽飲料では麦芽オフフレーバーは感じられなかった。すなわち、発酵原料に対する麦芽比率の低下により、麦芽オフフレーバーが低減されることが確認された。
【0035】
[実施例1]
有機酸及びリナロールを適宜添加することにより濃度を調整した麦芽比率50質量%未満のビールテイストの発酵麦芽飲料について、酸味、軽快感等の官能評価を行った。
具体的には、麦芽比率が49質量%となるように麦芽粉砕物とコーンスターチを混合した混合物を発酵原料として用い、ビール酵母接種前の冷麦汁に、有機酸(リン酸、クエン酸、ピルビン酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、ギ酸、酢酸、及びピログルタミン酸の総量)とリナロールの飲料中の最終濃度が表1に示す濃度になるように、有機酸(前記9種の総量)とリナロール(香料)を添加した以外は参考例1と同様にして発酵麦芽飲料を製造した。
【0036】
なお、発酵麦芽飲料中の有機酸含有量(濃度)は、リン酸、クエン酸、ピルビン酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、ギ酸、酢酸、及びピログルタミン酸の各有機酸の含有量をそれぞれHPLC有機酸分析システム(装置名:Prominence、株式会社島津製作所社製)を用いて測定し、その合計を算出することにより求めた。
【0037】
また、発酵麦芽飲料中のリナロール含有量(濃度)は、GC−MS(ガスクロマトグラフ質量分析)により定量した。具体的には、香気成分を供試サンプルからC18固相カラムで抽出し、得られた抽出物をGC/MSに供した。定量は内部標準法を用いた。内部標準物質にはBorneolを用い、試料中50ppbになるように添加した。GC/MSにおけるホップ香気成分の分析条件は、以下の通りであった。
【0038】
[GC/MS分析条件]
キャピラリーカラム:商品名「DB−WAX」(長さ60m、内径0.25mm、膜厚0.25μm)、
オーブン温度:40℃(10分)→3℃/分→240℃(20分)、
キャリアガス:He、10psi低圧送気、
トランスファーライン温度:240℃、
MSイオンソース温度:230℃、
MSQポール温度:150℃、
フロント注入口温度:200℃、
定量に用いたイオン:m/z=110(borneol)、m/z=93(linalool)。
【0039】
得られた発酵麦芽飲料の麦芽オフフレーバー、酸味、軽快感について、6名の訓練されたビール専門パネリストによる官能検査を行った。この結果、いずれの発酵麦芽飲料においても、麦芽オフフレーバーはあまり感じられなかった。また、各発酵麦芽飲料についての酸味、軽快感、及び総合評価について、6名のパネリストの評価の平均を表1示す。
【0040】
【表1】

【0041】
表1に示すように、発酵麦芽飲料の酸味は、有機酸含有量が600mg/Lでは乏しいが、800mg/L及び1200mg/Lでは良好であり、1000mg/Lでは非常に良好であった。有機酸含有量が1400mg/Lになると酸味が強くなりすぎ、かえって評価は低くなった。また、発酵麦芽飲料の軽快感は、リナロール含有量が6ppbの発酵麦芽飲料ではリナロール特有の香味が強く、軽快感が悪くなったが、3ppbでは良好であり、0.5〜1.0ppbでは非常に良好であった。」

イ 甲1に記載された発明
甲1に記載された事項を、特に【請求項1】、【請求項4】、【0006】、【0007】、【0033】及び【0035】に関して整理すると、甲1には次の発明(以下、順に「甲1飲料発明」、「甲1製法発明」及び「甲1方法発明」という。)が記載されていると認める。

<甲1飲料発明>
「発酵原料の麦芽比率が50質量%未満であり、リン酸、クエン酸、ピルビン酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、ギ酸、酢酸、及びピログルタミン酸の総含有量が800〜1200mg/Lであり、リナロール含有量が0.5〜3ppbである、ホップを原料とする、発酵麦芽飲料。」

<甲1製法発明>
「発酵原料の麦芽比率が50質量%未満であり、リン酸、クエン酸、ピルビン酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、ギ酸、酢酸、及びピログルタミン酸の総含有量が800〜1200mg/Lであり、リナロール含有量が0.5〜3ppbであるように調整する工程を有する、ホップを原料とする、発酵麦芽飲料の製造方法。」

<甲1方法発明>
「発酵原料の麦芽比率が50質量%未満であり、リン酸、クエン酸、ピルビン酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、ギ酸、酢酸、及びピログルタミン酸の総含有量が800〜1200mg/Lであり、リナロール含有量が0.5〜3ppbであるように調整する工程を有する、ホップを原料とする、発酵麦芽飲料が充分な酸味と良好な軽快感を有するようにする方法。」

(2)甲2に記載された事項等
ア 甲2に記載された事項
甲2には、「発酵麦芽飲料」に関して、おおむね次の事項が記載されている。

・「【請求項1】
発酵原料の麦芽比率が25質量%未満であり、リン酸、クエン酸、ピルビン酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、ギ酸、酢酸、及びピログルタミン酸の総含有量が800〜1200mg/Lであり、リナロール含有量が4〜8ppbであることを特徴とする、発酵麦芽飲料。」

・「【請求項4】
ホップを原料とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の発酵麦芽飲料。」

・「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、発酵原料に対する麦芽の使用比率が低く、麦芽オフフレーバーが少ないにもかかわらず、充分な酸味を有し、かつ華やかな香りを有する発酵麦芽飲料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、麦芽オフフレーバーを抑えるべく発酵原料に対する麦芽の使用比率を25質量%未満に抑えた発酵麦芽飲料において、飲料における特定の有機酸の総含有量とリナロール含有量を所定の範囲内に調整することにより、充分な酸味と華やかな香りの両方を付与し得ることを見出し、本発明を完成させた。」

・「【0033】
[参考例1]
発酵原料として麦芽粉砕物とコーンスターチを用いて、ビールテイストの発酵麦芽飲料における麦芽オフフレーバーの強さに対する麦芽比率の影響を調べた。具体的には、麦芽比率が20、40、又は60質量%となるように麦芽粉砕物とコーンスターチを混合した混合物を、発酵原料として用いた。
まず、200Lスケールの仕込設備を用いて、発酵麦芽飲料の製造を行った。仕込槽に、40kgの発酵原料及び160Lの原料水を投入し、当該仕込槽内の混合物を常法に従って加温して糖化液を製造した。得られた糖化液を濾過し、得られた濾液にホップを添加した後、煮沸して麦汁(穀物煮汁)を得た。次いで、80〜99℃程度の麦汁を沈降槽に移して沈殿物を分離、除去した後、約7℃に冷却した。当該冷麦汁にビール酵母を接種し、約10℃で7日間発酵させた後、7日間貯酒タンク中で熟成させた。熟成後の発酵液をフィルター濾過(平均孔径:0.65μm)し、目的の発酵麦芽飲料を得た。
【0034】
得られた発酵麦芽飲料の麦芽オフフレーバーについて、6名の訓練されたビール専門パネリストによる官能検査を行った。この結果、麦芽比率60質量%の発酵麦芽飲料では麦芽オフフレーバーが感じられたが、麦芽比率40質量%の発酵麦芽飲料では麦芽オフフレーバーはあまり感じられず、麦芽比率20質量%の発酵麦芽飲料では麦芽オフフレーバーは感じられなかった。すなわち、発酵原料に対する麦芽比率の低下により、麦芽オフフレーバーが低減されることが確認された。
【0035】
[実施例1]
有機酸及びリナロールを適宜添加することにより濃度を調整した麦芽比率25質量%未満のビールテイストの発酵麦芽飲料について、酸味、華やかさ等の官能評価を行った。
具体的には、麦芽比率が24質量%となるように麦芽粉砕物とコーンスターチを混合した混合物を発酵原料として用い、ビール酵母接種前の冷麦汁に、有機酸(リン酸、クエン酸、ピルビン酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、ギ酸、酢酸、及びピログルタミン酸の総量)とリナロールの飲料中の最終濃度が表1に示す濃度になるように、有機酸(前記9種の総量)とリナロール(香料)を添加した以外は参考例1と同様にして発酵麦芽飲料を製造した。
【0036】
なお、発酵麦芽飲料中の有機酸含有量(濃度)は、リン酸、クエン酸、ピルビン酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、ギ酸、酢酸、及びピログルタミン酸の各有機酸の含有量をそれぞれHPLC有機酸分析システム(装置名:Prominence、株式会社島津製作所社製)を用いて測定し、その合計を算出することにより求めた。
【0037】
また、発酵麦芽飲料中のリナロール含有量(濃度)は、GC−MS(ガスクロマトグラフ質量分析)により定量した。具体的には、香気成分を供試サンプルからC18固相カラムで抽出し、得られた抽出物をGC/MSに供した。定量は内部標準法を用いた。内部標準物質にはBorneolを用い、試料中50ppbになるように添加した。GC/MSにおけるホップ香気成分の分析条件は、以下の通りであった。
【0038】
[GC/MS分析条件]
キャピラリーカラム:商品名「DB−WAX」(長さ60m、内径0.25mm、膜厚0.25μm)、
オーブン温度:40℃(10分)→3℃/分→240℃(20分)、
キャリアガス:He、10psi低圧送気、
トランスファーライン温度:240℃、
MSイオンソース温度:230℃、
MSQポール温度:150℃、
フロント注入口温度:200℃、
定量に用いたイオン:m/z=110(borneol)、m/z=93(linalool)。
【0039】
得られた発酵麦芽飲料の麦芽オフフレーバー、酸味、華やかさについて、6名の訓練されたビール専門パネリストによる官能検査を行った。この結果、いずれの発酵麦芽飲料においても、麦芽オフフレーバーはあまり感じられなかった。また、各発酵麦芽飲料についての酸味、華やかさ、及び総合評価について、6名のパネリストの評価の平均を表1示す。
【0040】
【表1】

【0041】
表1に示すように、発酵麦芽飲料の酸味は、有機酸含有量が600mg/Lでは乏しいが、800mg/L及び1200mg/Lでは良好であり、1000mg/Lでは非常に良好であった。有機酸含有量が1400mg/Lになると酸味が強くなりすぎ、かえって評価は低くなった。また、発酵麦芽飲料の華やかな香りは、リナロール含有量が1ppbの発酵麦芽飲料ではほとんどしなかったが、4ppbでは良好であり、6〜8ppbでは非常に良好であった。ただし、リナロール含有量が15pbの発酵麦芽飲料は、リナロール特有の香りが強すぎ、4ppbの発酵麦芽飲料よりも華やかさは弱く、普通であった。」

イ 甲2に記載された発明
甲2に記載された事項を、特に【請求項1】、【請求項4】、【0006】、【0007】、【0033】及び【0035】に関して整理すると、甲2には次の発明(以下、順に「甲2飲料発明」、「甲2製法発明」及び「甲2方法発明」という。)が記載されていると認める。

<甲2飲料発明>
「発酵原料の麦芽比率が25質量%未満であり、リン酸、クエン酸、ピルビン酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、ギ酸、酢酸、及びピログルタミン酸の総含有量が800〜1200mg/Lであり、リナロール含有量が4〜8ppbである、ホップを原料とする、発酵麦芽飲料。」

<甲2製法発明>
「発酵原料の麦芽比率が25質量%未満であり、リン酸、クエン酸、ピルビン酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、ギ酸、酢酸、及びピログルタミン酸の総含有量が800〜1200mg/Lであり、リナロール含有量が4〜8ppbであるように調整する工程を有する、ホップを原料とする、発酵麦芽飲料の製造方法。」

<甲2方法発明>
「発酵原料の麦芽比率が25質量%未満であり、リン酸、クエン酸、ピルビン酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、ギ酸、酢酸、及びピログルタミン酸の総含有量が800〜1200mg/Lであり、リナロール含有量が4〜8ppbであるように調整する工程を有する、ホップを原料とする、発酵麦芽飲料が充分な酸味と華やかな香りを有するようにする方法。」

2 申立理由1(甲1に基づく新規性進歩性)について
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1飲料発明を対比する。
甲1飲料発明における「発酵麦芽飲料」は本件特許発明1における「ビール様発泡性飲料」に相当する。
甲1飲料発明は、「リン酸、クエン酸、ピルビン酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、ギ酸、酢酸、及びピログルタミン酸の総含有量が800〜1200mg/L」であるから、「ギ酸」が除かれた「リン酸、クエン酸、ピルビン酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、酢酸、及びピログルタミン酸の総含有量」は当然「800〜1200mg/L」以下であり、本件特許発明1における「リン酸、クエン酸、ピルビン酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、酢酸、及びピログルタミン酸からなる酸成分の総濃度が1500ppm未満」という発明特定事項の条件を満足する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「リン酸、クエン酸、ピルビン酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、酢酸、及びピログルタミン酸からなる酸成分の総濃度が1500ppm未満である、ビール様発泡性飲料。」

そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点1−1>
本件特許発明1においては、「β−イオノンの濃度が0.010ppb以上である」と特定されているのに対し、甲1飲料発明においては、そのようには特定されていない点。

イ 判断
そこで、相違点1−1について検討する。
甲1飲料発明は、「ホップを原料とする」ものであるから、「β−イオノン」を含有するものであるとはいえるものの、甲1には、甲1飲料発明の「β−イオノンの濃度」が「0.010ppb以上である」ことを示す記載はないし、他の証拠にもない。
したがって、相違点1−1は実質的な相違点である。
また、甲1には、甲1飲料発明において、「β−イオノンの濃度」が「0.010ppb以上である」ようにして、相違点1−1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。
そして、本件特許発明1の奏する「リン酸や有機酸の含有量が少ないにもかかわらず、味に締まりが感じられるとともに、ビールらしい華やかさも付与されており、嗜好性が高い」(本件特許の発明の詳細な説明の【0009】)という効果は、甲1飲料発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。

ウ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、甲1飲料発明は一般的な製法で製造された飲料であり、ホップを使用した一般的な発酵麦芽飲料のβ−イオノンの濃度は、甲4及び5に記載されているように、0.09〜0.26質量ppbであるから、甲1飲料発明のβ−イオノンの濃度も0.09〜0.26質量ppbであり、相違点1−1は実質的に存在しないし、相違点1−1が存在したとしても、容易に想到できる旨主張する(特許異議申立書第19ないし25ページ)。
そこで、上記主張について検討する。
甲4の「表4.ビールに含まれるアロマ化合物」には、2010年のb、d、g及びh並びに2011年のb、d、g及びhのビール中のβ−イオノンの濃度が0.09から0.26ppbであることが記載されている。なお、甲4に記載されたb、d、g及びhは、2010年及び2011年に4つの園で収穫された「Saaz」というチェコ産のホップである。
甲5には、184L又は180Lの麦汁にホップ(アメリカ産Citra)を140g添加して発酵させた対照区1、対照区2及び試験区において、いずれもβ−イオノンの濃度が0.2ppbであることが記載されている。
しかし、甲1には、ビールに使用されたホップの品種、樹齢、収穫年及び収穫地並びに添加量に関する記載がなく、また、ビール中のβ−イオノンの濃度がホップの品種、樹齢、収穫年及び収穫地並びに添加量によらないという技術常識もない(なお、本件特許の発明の詳細な説明の【0038】の記載によると、少なくともホップの品種や添加量は、ビール中のβ−イオノンの濃度に影響を与えるものである。)から、甲1飲料発明におけるβ−イオノンの濃度が、甲4又は5に記載されたβ−イオノンの濃度の数値となるということはできない。
したがって、相違点1−1は実質的に存在しないとはいえない。
また、甲4又は5に、甲1飲料発明におけるβ−イオノンの濃度を調整する動機付けとなる記載はない。
したがって、甲4又は5に記載された事項を考慮しても、甲1飲料発明において、相違点1−1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することを当業者が容易に想到できるとはいえない。
よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

エ まとめ
したがって、本件特許発明1は甲1飲料発明であるとはいえないし、甲1飲料発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(2)本件特許発明2ないし6及び8について
本件特許発明2ないし6及び8は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1飲料発明であるとはいえないし、甲1飲料発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(3)本件特許発明7について
本件特許発明7は、請求項1を引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1飲料発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)本件特許発明9について
ア 対比
本件特許発明9と甲1製法発明を対比する。
両者の間には、本件特許発明1と甲1飲料発明との間と同様の相当関係が成り立つ。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「リン酸、クエン酸、ピルビン酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、酢酸、及びピログルタミン酸からなる酸成分の総濃度が1500ppm未満であるように調整する工程を有する、ビール様発泡性飲料の製造方法。」

そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点1−2>
本件特許発明9においては、「飲料のβ−イオノンの濃度が0.010ppb以上になるように調整する工程と、を有する」と特定されているのに対し、甲1製法発明においては、そのようには特定されていない点。

イ 判断
そこで、相違点1−2について検討する。
甲1製法発明は、「ホップを原料とする」ものであるから、「β−イオノン」を含有するものであるとはいえるものの、甲1には、甲1製法発明が「β−イオノンの濃度」を「0.010ppb以上になるように調整する工程を有する」ことを示す記載はないし、他の証拠にもない。
したがって、相違点1−2は実質的な相違点である。
また、甲1には、甲1製法発明において、「β−イオノンの濃度」を「0.010ppb以上になるように調整する工程を有する」ようにして、相違点1−2に係る本件特許発明9の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。
そして、本件特許発明9の奏する「リン酸や有機酸の含有量が少ないにもかかわらず、味に締まりが感じられるとともに、ビールらしい華やかさも有している、嗜好性の高いビール様発泡性飲料が製造できる」(本件特許の発明の詳細な説明の【0009】)という効果は、甲1製法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明9の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。

ウ まとめ
したがって、本件特許発明9は甲1製法発明であるとはいえないし、甲1製法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(5)本件特許発明10ないし14について
本件特許発明10ないし14は、請求項9を引用して特定するものであり、本件特許発明9の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明9と同様に、甲1製法発明であるとはいえないし、甲1製法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(6)本件特許発明15について
ア 対比
本件特許発明15と甲1方法発明を対比する。
両者の間には、本件特許発明1と甲1飲料発明との間と同様の相当関係が成り立つ。
甲1方法発明における「発酵麦芽飲料が充分な酸味と良好な軽快感を有するようにする方法」と本件特許発明15における「ビール様発泡性飲料の香味改善方法」は、「ビール様発泡性飲料の調整方法」という限りにおいて一致する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「リン酸、クエン酸、ピルビン酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、酢酸、及びピログルタミン酸からなる酸成分の総濃度が1500ppm未満であるように調整する工程を有する、ビール様発泡性飲料の調整方法。」

そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点1−3>
本件特許発明15においては、「飲料のβ−イオノンの濃度が0.010ppb以上になるように調整する工程、を有する」と特定されているのに対し、甲1方法発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点1−4>
「ビール様発泡性飲料の調整方法」に関して、本件特許発明15においては、「ビール様発泡性飲料の香味改善方法」と特定されているのに対し、甲1方法発明においては、「発酵麦芽飲料が充分な酸味と良好な軽快感を有するようにする方法」と特定されている点。

イ 判断
そこで、相違点1−3について検討する。
甲1方法発明は、「ホップを原料とする」ものであるから、「β−イオノン」を含有するものであるとはいえるものの、甲1には、甲1方法発明が「β−イオノンの濃度」を「0.010ppb以上になるように調整する工程を有する」ことを示す記載はないし、他の証拠にもない。
したがって、相違点1−3は実質的な相違点である。
また、甲1には、甲1方法発明において、「β−イオノンの濃度」を「0.010ppb以上になるように調整する工程を有する」ようにして、相違点1−3に係る本件特許発明9の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。
そして、本件特許発明15の奏する「リン酸や有機酸の含有量が少ないにもかかわらず、味に締まりが感じられるとともに、ビールらしい華やかさも有している、嗜好性の高いビール様発泡性飲料が製造できる」(本件特許の発明の詳細な説明の【0009】)という効果は、甲1方法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明15の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。

ウ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明15は甲1方法発明であるとはいえないし、甲1方法発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(7)本件特許発明16及び17について
本件特許発明16及び17は、請求項15を引用して特定するものであり、本件特許発明15の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明15と同様に、甲1方法発明であるとはいえないし、甲1方法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(8)申立理由1についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし6及び8ないし17は特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、本件特許発明1ないし17は同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1ないし17に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、申立理由1によっては取り消すことはできない。

3 申立理由2(甲2に基づく新規性進歩性)について
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲2飲料発明を対比する。
甲2飲料発明における「発酵麦芽飲料」は本件特許発明1における「ビール様発泡性飲料」に相当する。
甲2飲料発明は、「リン酸、クエン酸、ピルビン酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、ギ酸、酢酸、及びピログルタミン酸の総含有量が800〜1200mg/L」であるから、「ギ酸」が除かれた「リン酸、クエン酸、ピルビン酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、酢酸、及びピログルタミン酸の総含有量」は当然「800〜1200mg/L」以下であり、本件特許発明1における「リン酸、クエン酸、ピルビン酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、酢酸、及びピログルタミン酸からなる酸成分の総濃度が1500ppm未満」という発明特定事項の条件を満足する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「リン酸、クエン酸、ピルビン酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、酢酸、及びピログルタミン酸からなる酸成分の総濃度が1500ppm未満である、ビール様発泡性飲料。」

そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点2−1>
本件特許発明1においては、「β−イオノンの濃度が0.010ppb以上である」と特定されているのに対し、甲2飲料発明においては、そのようには特定されていない点。

イ 判断
そこで、相違点2−1について検討する。
甲2飲料発明は、「ホップを原料とする」ものであるから、「β−イオノン」を含有するものであるとはいえるものの、甲2には、甲2飲料発明の「β−イオノンの濃度」が「0.010ppb以上である」ことを示す記載はないし、他の証拠にもない。
したがって、相違点2−1は実質的な相違点である。
また、甲2には、甲2飲料発明において、「β−イオノンの濃度」が「0.010ppb以上である」ようにして、相違点2−1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。
そして、本件特許発明1の奏する「リン酸や有機酸の含有量が少ないにもかかわらず、味に締まりが感じられるとともに、ビールらしい華やかさも付与されており、嗜好性が高い」という効果は、甲2飲料発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。

ウ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、甲2飲料発明は一般的な製法で製造された飲料であり、ホップを使用した一般的な発酵麦芽飲料のβ−イオノンの濃度は、甲4及び5に記載されているように、0.09〜0.26質量ppbであるから、甲2飲料発明のβ−イオノンの濃度も0.09〜0.26質量ppbであり、相違点2−1は実質的に存在しないし、相違点2−1が存在したとしても、容易に想到できる旨主張する(特許異議申立書第43ないし45ページ)。
そこで、検討するに、上記主張は、上記2(1)ウの主張と同じであるから、その判断も同じである。すなわち、相違点2−1は実質的に存在しないとはいえないし、甲4又は5に記載された事項を考慮しても、甲2飲料発明において、相違2−1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することを当業者が容易に想到できるともいえない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

エ まとめ
したがって、本件特許発明1は甲2飲料発明であるとはいえないし、甲2飲料発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(2)本件特許発明2ないし6及び8について
本件特許発明2ないし6及び8は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲2飲料発明であるとはいえないし、甲2飲料発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(3)本件特許発明7について
本件特許発明7は、請求項1を引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲2飲料発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)本件特許発明9について
ア 対比
本件特許発明9と甲2製法発明を対比する。
両者の間には、本件特許発明1と甲2飲料発明との間と同様の相当関係が成り立つ。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「リン酸、クエン酸、ピルビン酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、酢酸、及びピログルタミン酸からなる酸成分の総濃度が1500ppm未満であるように調整する工程を有する、ビール様発泡性飲料の製造方法。」

そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点2−2>
本件特許発明9においては、「飲料のβ−イオノンの濃度が0.010ppb以上になるように調整する工程と、を有する」と特定されているのに対し、甲2製法発明においては、そのようには特定されていない点。

イ 判断
そこで、相違点2−2について検討する。
甲2製法発明は、「ホップを原料とする」ものであるから、「β−イオノン」を含有するものであるとはいえるものの、甲2には、甲2製法発明が「β−イオノンの濃度」を「0.010ppb以上になるように調整する工程を有する」ことを示す記載はないし、他の証拠にもない。
したがって、相違点2−2は実質的な相違点である。
また、甲2には、甲2製法発明において、「β−イオノンの濃度」を「0.010ppb以上になるように調整する工程を有する」ようにして、相違点2−2に係る本件特許発明9の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。
そして、本件特許発明9の奏する「リン酸や有機酸の含有量が少ないにもかかわらず、味に締まりが感じられるとともに、ビールらしい華やかさも有している、嗜好性の高いビール様発泡性飲料が製造できる」という効果は、甲2製法発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明9の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。

ウ まとめ
したがって、本件特許発明9は甲2製法発明であるとはいえないし、甲2製法発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(5)本件特許発明10ないし14について
本件特許発明10ないし14は、請求項9を引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明9と同様に、甲2製法発明であるとはいえないし、甲2製法発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(6)本件特許発明15について
ア 対比
本件特許発明15と甲2方法発明を対比する。
両者の間には、本件特許発明1と甲2飲料発明との間と同様の相当関係が成り立つ。
甲2方法発明における「発酵麦芽飲料が酸味と華やかな香りを有するようにする方法」は本件特許発明15における「ビール様発泡性飲料の香味改善方法」に相当する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「リン酸、クエン酸、ピルビン酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、酢酸、及びピログルタミン酸からなる酸成分の総濃度が1500ppm未満であるように調整する工程を有する、ビール様発泡性飲料の香味改善方法。」

そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点2−3>
本件特許発明15においては、「飲料のβ−イオノンの濃度が0.010ppb以上になるように調整する工程、を有する」と特定されているのに対し、甲2方法発明においては、そのようには特定されていない点。

イ 判断
そこで、相違点2−3について検討する。
甲2方法発明は、「ホップを原料とする」ものであるから、「β−イオノン」を含有するものであるとはいえるものの、甲2には、甲2方法発明が「β−イオノンの濃度」を「0.010ppb以上になるように調整する工程を有する」ことを示す記載はないし、他の証拠にもない。
したがって、相違点2−3は実質的な相違点である。
また、甲2には、甲2方法発明において、「β−イオノンの濃度」を「0.010ppb以上になるように調整する工程を有する」ようにして、相違点2−3に係る本件特許発明9の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。
そして、本件特許発明15の奏する「リン酸や有機酸の含有量が少ないにもかかわらず、味に締まりが感じられるとともに、ビールらしい華やかさも有している、嗜好性の高いビール様発泡性飲料が製造できる」という効果は、甲2方法発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明15の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。

ウ まとめ
したがって、本件特許発明15は甲2方法発明であるとはいえないし、甲2方法発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(7)本件特許発明16及び17について
本件特許発明16及び17は、請求項15を引用して特定するものであり、本件特許発明15の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明15と同様に、甲2方法発明であるとはいえないし、甲2方法発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(8)申立理由2についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし6及び8ないし17は特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、本件特許発明1ないし17は同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1ないし17に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、申立理由2によっては取り消すことはできない。

第5 結語
上記第4のとおり、本件特許の請求項1ないし17に係る特許は、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし17に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2023-12-25 
出願番号 P2023-005957
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C12C)
P 1 651・ 113- Y (C12C)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 植前 充司
特許庁審判官 加藤 友也
磯貝 香苗
登録日 2023-04-27 
登録番号 7270862
権利者 アサヒビール株式会社
発明の名称 ビール様発泡性飲料  
代理人 伊藤 英輔  
代理人 大槻 真紀子  
代理人 西澤 和純  

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