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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A46B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A46B
管理番号 1406704
総通号数 26 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2024-02-22 
種別 異議の決定 
異議申立日 2023-04-07 
確定日 2023-11-28 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第7149730号発明「歯ブラシ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7149730号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜7〕について訂正することを認める。 特許第7149730号の請求項1〜7に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第7149730号の請求項1〜7に係る特許についての出願は、2017年(平成29年)3月9日(優先権主張 平成28年3月9日)を国際出願日とする特願2018−504585号の一部を平成30年4月27日に新たな特許出願としたものであって、令和4年9月29日にその特許権の設定登録がされ、令和4年10月7日に特許掲載公報が発行された。その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和5年 4月 7日 特許異議申立人平野惠稔による
特許異議の申立て
令和5年 5月16日 手続補正書(方式)の提出
令和5年 6月16日付け 取消理由通知書
令和5年 8月 8日 特許権者による意見書の提出及び訂正請求
令和5年 8月25日付け 訂正請求があった旨の通知書
(特許法第120条の5第5項
令和5年 9月27日 特許異議申立人による意見書の提出

2 訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
令和5年8月8日付け訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は、以下のとおりである(下線は、訂正箇所を示す。)。
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を、
「ヘッド部と、該ヘッド部に延設されたネック部と、該ネック部に延設されたハンドル部とを備えるハンドル体を備え、前記ヘッド部の植毛面には平線式植毛により複数の毛束が植設され、
前記ヘッド部の厚さが2.0〜4.0mmであり、
前記ネック部の最小の幅と最小の厚さのうちの小さい方が3.0〜4.5mmであり、
下記の方法(α)で測定される前記ヘッド部の撓み量Aと、下記の方法(β)で測定される前記ネック部の撓み量Bにおいて、
前記撓み量Aが0.4〜2.0mmであり、
前記撓み量Bが2.1〜5.0mmであり、
前記撓み量Aと前記撓み量Bとの差(B−A)が、1≦(B−A)≦4であり、
前記撓み量Aと前記撓み量Bとの積が0.8〜6であることを特徴とする歯ブラシ。
方法(α):前記ヘッド部の植毛面を鉛直方向の上に向け、前記ヘッド部と前記ネック部との境界の位置を固定した状態における前記ハンドル体の先端の高さを基準高さとし、前記固定した状態においてさらに前記ヘッド部における、植毛部の長軸方向の長さに対して前記植毛部の先端から10±3%の位置に200gの錘を吊り下げ、10秒後の前記ハンドル体の先端の前記基準高さからの高さの変位量(単位はmm)を前記ヘッド部の撓み量Aとする。
方法(β):前記ヘッド部の植毛面を鉛直方向の上に向け、前記ネック部と前記ハンドル部との境界の位置を固定した状態における前記ハンドル体の先端の高さを基準高さとし、前記固定した状態においてさらに前記ヘッド部における、植毛部の長軸方向の長さに対して前記植毛部の先端から50±3%の位置に200gの錘を吊り下げ、10秒後の前記ハンドル体の先端の前記基準高さからの高さの変位量(単位はmm)を前記ネック部の撓み量Bとする。」に訂正する。
(請求項1の記載を引用する、請求項2〜7も同様に訂正する。)
イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3を、
「前記撓み量Aと前記撓み量Bとの積が2〜6であることを特徴とする請求項1又は2に記載の歯ブラシ。」に訂正する。
(請求項3の記載を引用する、請求項4〜7も同様に訂正する。)

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、一群の請求項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項1について
上記訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載されていた「前記撓み量Aが0.4〜3.0mmであり、」との事項及び「前記撓み量Aと前記撓み量Bとの積が0.8〜10である」との事項を、「前記撓み量Aが0.4〜2.0mmであり、」及び「前記撓み量Aと前記撓み量Bとの積が0.8〜6である」と訂正するものであり、それぞれの数値範囲を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的としており、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
また、本件特許の願書に添付された明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の段落【0028】及び【0032】には、以下の記載がなされている(下線は強調のため、当審で付した。)。
・「【0028】
撓み量Aは、0.4〜3.0が好ましく、0.4〜2.5がより好ましく、0.4〜2.0がさらに好ましい。また撓み量Aは、0.5〜3.0が好ましく、0.5〜2.5がより好ましく、0.5〜2.0がさらに好ましい。撓み量Aが前記範囲であると、ヘッド部2自体が適度に撓み、ヘッド部2に植設された植毛部のしなやかさが発現して歯肉に対する当たり心地、即ち使用感がより良好になる。また、撓み量Aが前記下限値以上であると、使用感が良好となる。撓み量Aが前記上限値以下であると、ヘッド部2において充分な強度を確保しやすい。さらに、歯ブラシ1が軟弱になりすぎず、良好な口腔内操作性、清掃力が得られやすくなる。
なお、撓み量Aは、ヘッド部2の材質(つまりハンドル体10の材質)の曲げ弾性率やヘッド部2の厚さ、幅等を調整することで調整される。」
・「【0032】
ヘッド部の撓み量Aと、ネック部の撓み量Bとの積(A×B)は、0.8〜10であり、1〜10がより好ましく、1〜6がさらに好ましく、1〜3.5がさらに好ましい。また(A×B)は2〜10が好ましい。(A×B)が前記範囲であると、ヘッド部2とネック部4が協調する適度な撓みが得られる。これにより、植毛部を清掃対象部位(歯、歯肉等)に対して摺動させた際に、植毛部のしなやかさとクッション性が発現し、植毛部の当たり心地が良好になる。また、(A×B)の下限値は0.8以上であり、1以上が好ましい。また2以上が好ましい。(A×B)が前記下限値以上であることで、適度な撓みが得られることで、歯肉に対する当たり心地が良好で、歯肉に対して高いマッサージ効果が得られ、使用感が向上する。(A×B)の上限値は、10以下であり、6以下が好ましく、3.5以下がより好ましい。(A×B)が前記上限値以下であることで、ヘッド部2とネック部4とで形成される領域が撓みすぎて、操作性が低下し清掃力が低下するのを抑制できる。また、前記撓みすぎによる歯肉に対するマッサージ効果が低下したり、使用者が歯ブラシ1を使用した際に軟弱と感じたりするのを抑制できる。さらに、歯ブラシ1の強度が高められ耐久性が向上する。」
これらの記載に鑑みれば、上記訂正後の数値範囲の上限値はそれぞれ、本件特許明細書に記載されていると認められるから、上記訂正事項1による訂正は新規事項の追加に該当しない。
イ 訂正事項2について
上記訂正事項2は、訂正前の請求項3に記載されていた「前記撓み量Aと前記撓み量Bとの積が2〜10である」との事項を、「前記撓み量Aと前記撓み量Bとの積が2〜6である」と訂正するものであり、数値範囲を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的としており、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
また、本件特許明細書の段落【0032】には、上記アで示した事項が記載されており、上記訂正後の数値範囲の上限値は本件特許明細書に記載されていると認められるから、上記訂正事項2による訂正は新規事項の追加に該当しない。

そして、請求項2〜7はそれぞれ請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、本件訂正請求は、一群の請求項〔1〜7〕に対して請求されたものである。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜7〕について訂正することを認める。

3 訂正後の本件特許発明
本件訂正請求により訂正された請求項1〜7に係る発明(以下、「本件特許発明1〜7」といい、各請求項に係る発明を「本件特許発明1」等という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1〜7に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
ヘッド部と、該ヘッド部に延設されたネック部と、該ネック部に延設されたハンドル部とを備えるハンドル体を備え、前記ヘッド部の植毛面には平線式植毛により複数の毛束が植設され、
前記ヘッド部の厚さが2.0〜4.0mmであり、
前記ネック部の最小の幅と最小の厚さのうちの小さい方が3.0〜4.5mmであり、
下記の方法(α)で測定される前記ヘッド部の撓み量Aと、下記の方法(β)で測定される前記ネック部の撓み量Bにおいて、
前記撓み量Aが0.4〜2.0mmであり、
前記撓み量Bが2.1〜5.0mmであり、
前記撓み量Aと前記撓み量Bとの差(B−A)が、1≦(B−A)≦4であり、
前記撓み量Aと前記撓み量Bとの積が0.8〜6であることを特徴とする歯ブラシ。
方法(α):前記ヘッド部の植毛面を鉛直方向の上に向け、前記ヘッド部と前記ネック部との境界の位置を固定した状態における前記ハンドル体の先端の高さを基準高さとし、前記固定した状態においてさらに前記ヘッド部における、植毛部の長軸方向の長さに対して前記植毛部の先端から10±3%の位置に200gの錘を吊り下げ、10秒後の前記ハンドル体の先端の前記基準高さからの高さの変位量(単位はmm)を前記ヘッド部の撓み量Aとする。
方法(β):前記ヘッド部の植毛面を鉛直方向の上に向け、前記ネック部と前記ハンドル部との境界の位置を固定した状態における前記ハンドル体の先端の高さを基準高さとし、前記固定した状態においてさらに前記ヘッド部における、植毛部の長軸方向の長さに対して前記植毛部の先端から50±3%の位置に200gの錘を吊り下げ、10秒後の前記ハンドル体の先端の前記基準高さからの高さの変位量(単位はmm)を前記ネック部の撓み量Bとする。
【請求項2】
前記ネック部の最小の幅が3.0〜4.5mmであり、前記ネック部の最小の厚さが3.0〜4.5mmであることを特徴とする請求項1に記載の歯ブラシ。
【請求項3】
前記撓み量Aと前記撓み量Bとの積が2〜6であることを特徴とする請求項1又は2に記載の歯ブラシ。
【請求項4】
前記撓み量Aが0.5〜2.0mmであり、前記撓み量Bが2.1〜4.0mmであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の歯ブラシ。
【請求項5】
前記毛束を構成する用毛の毛先強度が1.7〜3.0Nであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の歯ブラシ。
【請求項6】
前記ネック部の最小の幅が3.0〜4.2mmであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の歯ブラシ。
【請求項7】
前記ハンドル体の材質がポリプロピレン樹脂である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の歯ブラシ。」

4 取消理由通知に記載した取消理由について
(1)取消理由の概要
訂正前の請求項1〜7に係る特許に対して、当審が令和5年6月16日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
ア 請求項1〜7に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

(2)当審の判断
ア 特許法第36条第6項第1号について
(ア) モニターによる評価試験について
本件特許明細書の記載からみて、本件特許発明1〜7が解決しようとする課題は、歯ブラシのハンドル体のヘッド部を薄くすると、通常の歯ブラシでは届きにくい奥歯の奥等に対する清掃力を高めることができる一方で、使用時に前記ヘッド部が撓みやすく毛束が広がるなど使用者の使用感が損なわれるという事情を前提とし、清掃力により優れ、かつ、使用感により優れる歯ブラシを提供する、というものである(特に、段落【0002】〜【0005】参照。)。
そして、本件特許明細書の段落【0046】〜【0057】では、10人のモニターが実施例及び比較例の各歯ブラシで口腔内を清掃し、段落【0050】〜【0052】に記載された評価基準に基づき、「奥歯の奥(奥歯の咽喉側)の清掃力」、「使用感の評価」、「口腔内での操作性」の各観点についてそれぞれ評価し、10人のモニターによる評価の平均点によって「○」、「△」、「×」の判定を行い、この結果に基づき「本発明を適用した歯ブラシは、口腔内の清掃力により優れ、かつ、使用感により優れることが確認できた」(段落【0057】)旨が説明されている。
これに関し、上記取消理由通知においては、当該評価試験がどのような者により行われたのか、各観点の評価基準がモニター間で統一されていたのかなど、評価方法の詳細についてが、本件特許明細書の記載からは不明であるため、当該評価試験の結果については、その信ぴょう性及び客観性に疑義があり、本件特許発明1〜7の実施例が上記課題を解決し得る効果を奏するものであるのか判然としない旨を指摘した。

そこで、当該評価試験の試験結果の信ぴょう性及び客観性に疑義があるか、また、当該評価試験結果から、本件特許発明1〜7が上記課題を解決可能であると把握できるかについて、以下で検討する。
まず、上記のとおり本件特許発明1〜7が解決しようとする課題は、歯ブラシの使用感や操作性といった使用者にとっての感覚的な指標の改善を含むものであるから、実施例及び比較例の評価試験として、モニターによる官能評価を採用することは合理的であるといえる。
そして、一般的に官能評価は、評価結果の確からしさを担保するため、その評価試験に精通し、評価の信頼性が高い試験者により実施されることが通常であると解される。また、歯ブラシが日常的に使われていることや、本件特許明細書における評価試験の評価基準が、奥歯の奥の清掃効果(段落【0050】)、歯肉への当たり心地(段落【0051】)、歯ブラシの操作性(段落【0052】)といった、使用者ごとの好み等に大きく依拠するようなものでないことを考慮すると、本件特許明細書で記載された本件特許発明1〜7に係る歯ブラシに関する評価試験は、その使用形態や評価基準が、使用者ごとに大きくばらつくようなものでもないと解される。また、本件特許明細書における評価試験では、10人のモニターによる評価の平均点を「○」、「△」、「×」の三段階に単純化した上で評価を行うものであるから、仮にモニター間にある程度のばらつきがあったとしても、各実施例・比較例の評価値として10人のモニターによる評価の平均点を採り、当該評価値を一定の点数の幅を持つ「○」、「△」、「×」に分類する段階で、そのばらつきは当該点数の幅に吸収されると解すこともできる。
そうした事情を踏まえると、本件特許明細書の段落【0046】〜【0057】に開示された評価試験結果は、その信ぴょう性及び客観性における合理的な疑義があるとはいえない。
そして、上記のように実施例・比較例の評価を「○」、「△」、「×」の三段階評価に単純化してもなお、本件特許明細書の【表1】〜【表3】にあるとおり、実施例1〜2及び4〜9(以下、これらの実施例を「本件特許発明1〜7に係る実施例」といい、実施例3及び比較例を「その他の例」という。なお、実施例3は、本件訂正により、本件特許発明1〜7に含まれないものとなった。)は、「奥歯の奥(奥歯の咽喉側)の清掃力」、「使用感の評価」、「口腔内での操作性」においていずれも「○」の評価であり、上記課題との関係で有利な効果を奏するものであることが示されている。このことから、本件特許発明1〜7は、上記課題解決が可能なものであることが把握される。
してみれば、本件特許発明1〜7は、発明の詳細な説明に記載された前記課題を解決することができると理解することができるから、発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえない。

(イ) 撓み量Aと撓み量Bとの積の技術的意義について
上記取消理由通知において、ネック部の撓み量Aと、ヘッド部の撓み量B(ネック部及びヘッド部の撓み量)との積が、機械工学的にどのような物性を表すものであるのか、技術常識を加味しても明らかでなく、また、実施例及び比較例の評価試験の結果において、その信ぴょう性及び客観性に疑義が存在することを併せて検討すると、ネック部の撓み量Aとヘッド部の撓み量Bとの積の技術的意義が不明であり、課題解決にどう寄与するのかが判然としない旨を指摘した。

これに関し、本件特許明細書の段落【0046】〜【0057】、特に【表1】〜【表3】をみると、撓み量Aと撓み量Bとの積が0.8〜6の範囲に属する本件特許発明1〜7に係る実施例は、「奥歯の奥(奥歯の咽喉側)の清掃力」、「使用感の評価」、「口腔内での操作性」の評価がいずれも「○」である一方、その他の例は、「奥歯の奥(奥歯の咽喉側)の清掃力」、「使用感の評価」、「口腔内での操作性」の評価のうち少なくとも一つが「△」又は「×」となっている。そして、上記(ア)における評価試験結果の信ぴょう性及び客観性についても併せて検討すれば、撓み量Aと撓み量Bとの積は、本件特許発明1〜7に係る歯ブラシとそれ以外の歯ブラシとを区別するための指標としての技術的意義を有するものであると解される。
してみれば、本件特許発明1〜7は、発明の詳細な説明に記載された前記課題を解決することができると理解することができるから、発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえない。

(ウ) 本件特許発明1〜7に係る数値範囲について
上記取消理由通知において、訂正前の請求項1に係る発明の実施例は、訂正前の請求項1で特定される範囲の一部に偏在していること、また、特に「口腔内操作性」については、撓み量A及びBの値が他の実施例よりも大きい実施例3において、実施例で唯一「△」の評価となっていることから、撓み量A及びBが大きくなると「口腔内操作性」が低下し得ることが示唆されており、撓み量A及びBのそれぞれの値が実施例3よりも大きい範囲や、実施例3以外の実施例に比べ撓み量Aに対して撓み量Bが極端に大きい範囲には、上記課題が解決できないものを含み得ることを指摘した。

これに対し、上記訂正事項1により、本件特許発明1における撓み量Aの範囲が「0.4〜2.0mm」に減縮されるとともに、撓み量Aと撓み量Bの積の範囲が「0.8〜6」に減縮された。これにより、本件特許明細書の【表1】において「口腔内での操作性」の評価が「△」であった実施例3や、撓み量A及びBのそれぞれの値が実施例3よりも大きい範囲、実施例3以外の実施例に比べ撓み量Aに対して撓み量Bが極端に大きい範囲が、本件特許発明1〜7から除かれることとなった。
また、本件特許明細書の段落【0032】には、「(A×B)の上限値は、10以下であり、6以下が好ましく、3.5以下がより好ましい。(A×B)が前記上限値以下であることで、ヘッド部2とネック部4とで形成される領域が撓みすぎて、操作性が低下し清掃力が低下するのを抑制できる。また、前記撓みすぎによる歯肉に対するマッサージ効果が低下したり、使用者が歯ブラシ1を使用した際に軟弱と感じたりするのを抑制できる。さらに、歯ブラシ1の強度が高められ耐久性が向上する。」との記載があり、当該記載から、(A×B)の上限値が6以下の範囲に属する歯ブラシは、実施例3が含まれるような当該上限値が6より大きい範囲に属する歯ブラシよりもさらに好ましい効果を発揮し得ることが理解される。
してみれば、本件特許発明1〜7は、発明の詳細な説明に記載された前記課題を解決することができると理解することができるから、発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえない。

イ 特許異議申立人の意見について
(ア) モニターによる評価試験について
特許異議申立人は、本件特許明細書における評価試験について、それぞれの試験において、どの程度異なれば1点あげるのか、下げるのか、モニター間で共通化されているか不明であり、各モニターの個別の評点が不明であり、3つの各感触の加点又は減点の幅を等しくとらえるための手段がとられたか不明であり、何故、操作性だけ7点と他の感触と点数をあげているのか不明であり、各感触についての全モニターの評点を単純に足し合わせて総合評価する方法が合理的か不明である旨(意見書「3.(2)(2−1)ア」参照。)、かりに10人のモニター全員が経験豊富な歯ブラシスキルが統一された開発従事者であったとしても、官能試験における評価基準の統一性という点において何らの意味も持たない旨(意見書「3.(2)(2−1)イ」参照。)、及び、本件特許明細書に記載の各試験の評価基準(奥歯の歯の汚れが落ちたと感じるか、歯肉への当たり心地が優しいか、操作性が良好であると感じたか)は、味覚、嗅覚、視覚とともに人が日常的に使っている五感の一つである「触覚」による評価であり、味覚、嗅覚、視覚と同様、人によりバラつきが大きいものである旨(意見書「3.(2)(2−1)ウ」参照。また、関連する主張として、意見書「3.(2)(2−1)エ」〜「3.(2)(2−1)カ」参照。)を主張する。
しかしながら、上記ア(ア)で挙げた事情等を勘案すれば、本件特許発明1〜7の実施例及び比較例の評価試験として、モニターによる官能評価を採用することは合理的であり、また、本件特許明細書において、特許異議申立人が主張する事項に対応する説明がなされていないからといって、本件特許明細書で開示された評価試験が合理的でないとする特段の事情は認められない。

(イ) 撓み量Aと撓み量Bとの積の技術的意義について
特許異議申立人は、本件特許の官能試験結果の具体的数字と撓み量A、B、その差及びその積のそれぞれの具体的数字の完全な対応関係が当業者に理解できるものでなければならないがその対応関係はまったく理解できない旨、及び、撓み量に関する4つのパラメータによって、「本発明を適用した歯ブラシは、口腔内の清掃力により優れ、かつ、使用感により優れること」を実現することも示しておらず、これらのパラメータ以外の基準ではこの作用効果を実現しないことも示しておらず、撓み量に関しても、他のパラメータ、例えばA+BやA/Bがこの作用効果の実現に関連がないことも示していない旨を主張する(意見書「3.(2)(2−1)ア」参照。)。
併せて、特許異議申立人は、「撓み量B」は、分解された後の「ネック部の撓み量」ではなく、「ヘッド部+ネック部の撓み量」であり、この撓み量Bを、特許権者が主張する「ヘッド部の撓み」と「ネック部の撓み」に分解することは容易にできず、また、本件特許明細書に記載の「撓み量A」、「撓み量B」から求めることはできない旨を主張する(意見書「3.(2)(2−2)ア」参照。)。
まず、本件特許明細書における「撓み量B」の意味について検討すると、本件特許明細書では、段落【0029】に記載される「方法(β)」により測定される撓み量を「撓み量B」と定義している。そして、この「方法(β)」は、歯ブラシのヘッド部における植毛部の長軸方向の長さに対して植毛部の先端から50±3%の位置に200gの錘を吊り下げ、10秒後のハンドル体の先端の基準高さからの高さの変位量を測定するものであり、これにより測定される「撓み量B」には、ネック部の撓みに起因する高さの変位量に加え、ヘッド部の撓みに起因する高さの変位量も一定程度含まれることは、技術常識から明らかである。してみれば、本件特許明細書では、ヘッド部の撓みを一定程度含むネック部の撓み量を、便宜的に「ネック部の撓み量B」として定義しているのであり、「ネック部の撓み量B」が、純粋にネック部が撓んだことによる変位量のみを指すものではないと解すのが妥当である。
そして、本件特許明細書の【表1】〜【表3】をみれば、本件特許発明1〜7に係る実施例は、撓み量A、B、その差及びその積の組合せにより、その他の例と上記課題との関係で区別されるものであるから、撓み量A、B、その差及びその積は、本件特許発明1〜7に係る歯ブラシとそれ以外の歯ブラシとを区別するための指標としての技術的意義を備えると認められる。また【表1】〜【表3】からして、例えばA+BやA/Bといった撓み量に関する他のパラメータに係る構成が課題解決のために必須であるとは認められないから、当該他のパラメータが上記課題解決のための作用効果の実現に関連がないことが説明されていないからといって、本件特許発明1〜7が上記課題を解決できないものを含むとはいえない。

(ウ) 本件特許発明1〜7に係る数値範囲について
特許異議申立人は、A×Bの数値限定による実施例(実施例3以外)、比較例(実施例3を含む)の区別は、撓み量Aと撓み量Bの間に正の相関傾向を有するデータを、なんら根拠もなく負の相関を示す的外れな広い範囲で区別するものであり妥当でないし、また、減縮後のA×Bの数値限定(0.8≦A×B≦6)の数値範囲内に実施例のデータがまったくない領域がなお多く、各領域もデータの数、集まりに対して極端に範囲が広くなっており、妥当でない旨を主張する(意見書「3.(2)(2−3)」参照。)。
しかしながら、本件特許明細書の段落【0028】、【0031】〜【0033】には、撓み量A、撓み量B、B−A、AとBの積について、それぞれの好適な上限値及び下限値が記載されており、本件特許明細書の段落【0046】〜【0057】で挙げられる本件特許発明1〜7に係る実施例は、それぞれのパラメータにより規定される本件特許発明1〜7の代表的な実施形態として、その効果を確認するためのものに過ぎない。してみれば、単に実施例としての裏付けがないからといって、減縮後のA×Bの数値限定(0.8≦A×B≦6)の数値範囲が、本件特許発明1〜7が解決しようとする課題が解決できないような妥当でないものであるとはいえない。
そして、上記ア(ウ)に示したとおり、本件特許明細書の段落【0032】の記載からして、(A×B)の上限値が6以下の範囲に属する歯ブラシは、実施例3が含まれるような当該上限値が6より大きい範囲に属する歯ブラシよりもさらに好ましい効果を発揮し得ることが理解されるとともに、上記訂正事項1により、実施例3や、撓み量A及びBのそれぞれの値が実施例3よりも大きい範囲、実施例3以外の実施例に比べ撓み量Aに対して撓み量Bが極端に大きい範囲が、本件特許発明1〜7から除かれることとなったため、訂正事項1による減縮後のA×Bの数値限定(0.8≦A×B≦6)の数値範囲が、本件特許明細書に開示された内容に対して極端に広いものであるとはいえない。

5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)特許法第36条第6項第1号について
特許異議申立人は、B−Aの数値範囲により実施例が比較例よりも優位であることは何ら示されず、臨界的意義も勿論なく、本件特許発明1〜7の課題が解決される根拠がない旨を主張する(特許異議申立書「3.(4)(4−2−7)」参照。)。
しかしながら、本件特許発明1〜7は、B−Aのほか、撓み量A、撓み量B、A×Bなるパラメータの数値範囲の組合せやヘッド部及びネック部の寸法等によって、本件特許発明1〜7に係る歯ブラシを特定するものであるから、本件特許明細書における実施例及び比較例も、上記パラメータの組合せ等により区別されるものである。してみれば、本件特許明細書における比較例のB−Aの値が、請求項1におけるB−Aの数値範囲に含まれるからといって、本件特許発明1〜7が課題解決できないとはいえない。

また、特許異議申立人は、本件特許明細書の段落【0027】、【0030】に記載された測定方法にならい、先行実施品について撓み量を5回測定し、その平均により撓み量A及びBを求めたところ、特に撓み量Aの測定値は、測定ごとに広い範囲にバラつくことが分かったということを背景に、撓み量A及びBを求めるにあたり、測定を5回のみとし、その平均値で評価することに何らかの合理性があるとは思えない旨を主張する(特許異議申立書「3.(4)(4−2−8)」参照。)。
しかしながら、特許異議申立人が主張する測定結果のバラつきは、先行実施品の測定において生じたバラつきを示すものであり、当該先行実施品の測定結果にバラつきがあったからといって、本件明細書に記載された撓み量A及びBの測定においても同程度のバラつきが生じ得るといえる合理的な根拠は認められない。

以上より、本件特許発明1〜7は発明の詳細な説明に記載されたものであり、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定された要件を満たす。
したがって、特許異議申立人のかかる主張は、採用することができない。

(2)特許法第29条第1項及び同条第2項について
ア 甲第1号証に記載された発明に基づく新規性進歩性欠如について
特許異議申立人は、甲第1号証(特開2002−28028号公報)を提出し、本件特許発明1〜7は、甲第1号証に記載された発明(以下「甲1発明」という。)と同一であり新規性を有さず(特許異議申立書「3.(4)(4−3−1)」参照。)、また、本件特許発明1〜7は、甲1発明に基づいて容易に想到するものである旨(特許異議申立書「3.(4)(4−3−2)」参照。)を主張している(当審注:上記「3.(4)(4−3−1)」は、一見すると、本件特許発明1〜6について、その新規性が欠如している旨を主張しているように見受けられるが、同「3.(3)むすび ケ」において、「本件特許発明1〜7に係る発明は、甲1発明と同一であり、新規性を欠いている。」と記載されていることからみて、上記「3.(4)(4−3−1)」は、本件特許発明1〜7についての新規性欠如について主張していると認めて検討した。なお、同「3.(4)(4−3−2)」の主張も同様に扱った。)。
そこで、以下にて、本件特許発明1〜7は甲1発明と同一であるか、本件特許発明1〜7は甲1発明に基づいて容易に想到するものであるかについて検討する。

甲第1号証(特に、段落【0007】−【0020】)の記載から、甲第1号証には、甲1発明として次の発明が記載されていると認められる。
「ヘッド部1と、これに続く首部2および把持部3とからなる歯ブラシハンドルを備え、ヘッド部植毛面には平線式植毛法により刷毛束が植毛され、
前記ヘッド部1の厚さが3〜4.5mmであり、
前記首部2の厚みと幅が3〜7mmである歯ブラシ。」
そこで、本件特許発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「ヘッド部1」、「首部2」、「把持部3」、「歯ブラシハンドル」、「ヘッド部植毛面」はそれぞれ、本件特許発明1の「ヘッド部」、「ネック部」、「ハンドル部」、「ハンドル体」、「ヘッド部の植毛面」に相当する。
また、甲1発明の「首部2および把持部3」が「ヘッド部1」に対して「これに続く」よう構成されることは、本件特許発明1における「ネック部」が「ヘッド部に延設され」ること、「ハンドル部」が「ネック部に延設され」ることに相当する。
加えて、甲1発明の「平線式植毛法により刷毛束が植毛され」ることは、本件特許発明1の「平線式植毛により複数の毛束が植設され」ることに相当する。
そして、甲1発明の「前記ヘッド部1の厚さが3〜4.5mmであ」ること、「前記首部2の厚みと幅が3〜7mmである」ことは、本件特許発明1の「前記ヘッド部の厚さが2.0〜4.0mmであ」ること、「前記ネック部の最小の幅と最小の厚さのうちの小さい方が3.0〜4.5mmであ」ることに相当する。

そうすると、本件特許発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点]
「ヘッド部と、該ヘッド部に延設されたネック部と、該ネック部に延設されたハンドル部とを備えるハンドル体を備え、前記ヘッド部の植毛面には平線式植毛により複数の毛束が植設され、
前記ヘッド部の厚さが2.0〜4.0mmであり、
前記ネック部の最小の幅と最小の厚さのうちの小さい方が3.0〜4.5mmである歯ブラシ。」

[相違点]
本件特許発明1は「下記の方法(α)で測定される前記ヘッド部の撓み量Aと、下記の方法(β)で測定される前記ネック部の撓み量Bにおいて、
前記撓み量Aが0.4〜2.0mmであり、
前記撓み量Bが2.1〜5.0mmであり、
前記撓み量Aと前記撓み量Bとの差(B−A)が、1≦(B−A)≦4であり、
前記撓み量Aと前記撓み量Bとの積が0.8〜6であることを特徴とする歯ブラシ。
方法(α):前記ヘッド部の植毛面を鉛直方向の上に向け、前記ヘッド部と前記ネック部との境界の位置を固定した状態における前記ハンドル体の先端の高さを基準高さとし、前記固定した状態においてさらに前記ヘッド部における、植毛部の長軸方向の長さに対して前記植毛部の先端から10±3%の位置に200gの錘を吊り下げ、10秒後の前記ハンドル体の先端の前記基準高さからの高さの変位量(単位はmm)を前記ヘッド部の撓み量Aとする。
方法(β):前記ヘッド部の植毛面を鉛直方向の上に向け、前記ネック部と前記ハンドル部との境界の位置を固定した状態における前記ハンドル体の先端の高さを基準高さとし、前記固定した状態においてさらに前記ヘッド部における、植毛部の長軸方向の長さに対して前記植毛部の先端から50±3%の位置に200gの錘を吊り下げ、10秒後の前記ハンドル体の先端の前記基準高さからの高さの変位量(単位はmm)を前記ネック部の撓み量Bとする。」であるのに対して、甲1発明は、ヘッド部1及び首部2の撓みに関する構成が不明であり、上記「方法(α)」及び「方法(β)」でヘッド部1及び首部2の撓みを測定したとき、どの程度の値となるのか明らかでない点。

このように本件特許発明1は甲1発明と相違し、この点は実質的なものであるから、本件特許発明1は甲1に記載された発明ではない。
次に、前記相違点について検討すると、甲第1号証には、本件特許発明1の「下記の方法(α)で測定される前記ヘッド部の撓み量Aと、下記の方法(β)で測定される前記ネック部の撓み量Bにおいて、前記撓み量Aが0.4〜2.0mmであり、前記撓み量Bが2.1〜5.0mmであり、前記撓み量Aと前記撓み量Bとの差(B−A)が、1≦(B−A)≦4であり、前記撓み量Aと前記撓み量Bとの積が0.8〜6である」点に対応する事項が記載も示唆もされていない。また、仮に上記「方法(α)」及び「方法(β)」により甲1発明のヘッド部1及び首部2の撓みを測定したときに、撓み量Aが0.4〜2.0mm、撓み量Bが2.1〜5.0mm、撓み量Aと撓み量Bとの差(B−A)が、1≦(B−A)≦4、撓み量Aと撓み量Bとの積が0.8〜6の範囲にそれぞれ該当する蓋然性が高いといえる合理的な根拠も見当たらない。さらに、甲1発明において、設計変更等により、撓み量に関する各パラメータを上記範囲内とするような動機付けも認められない。
したがって、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明でなく、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

また、本件特許発明2〜6と甲1発明を対比すると、両者は少なくとも前記相違点で相違する。そうすると、本件特許発明2〜6は、甲第1号証に記載された発明でなく、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

公然実施発明に基づく新規性進歩性欠如について
特許異議申立人は、本件特許発明1〜7は、甲第2号証(試験報告書「結果報告書 DENT. MAXIMA 歯ブラシ分析」)及び甲第3〜5号証を証拠方法とする公然実施をされた発明(以下「公然実施発明」という。)と同一であるから新規性を有さず、仮に相違点があるとしても、本件特許発明1〜7は公然実施発明に基づいて容易に想到するものである旨(特許異議申立書「3.(4)(4−4)」参照。)を主張している(当審注:上記アと同様に、特許異議申立書「3.(4)(4−4)」は、本件特許発明1〜7の新規性進歩性欠如について主張しているものと認めて検討した。)。

甲第2号証には、以下の事項が記載されていると認められる。
・「DENT. MAXIMA S ピンク」及び「DENT. MAXIMA S オレンジ」各1本(この内のオレンジのものを、以下「甲2歯ブラシ」という。)を対象として、試験を行ったこと。
・甲2歯ブラシが、ヘッドと、該ヘッドに延設されたネックと、該ネックに延設されたハンドル部とを備えること。
・甲2歯ブラシのヘッドは、ブラシ毛が植毛される面を備えていること。
・甲2歯ブラシのヘッドの厚さが2.90mmであり、ネックの最小厚さが4.70mmであり、ネックの最小幅が4.58mmであること。
・特許第6341527号(当審注:本件特許出願の親出願である特願2018−504585号の特許である。)の歯ブラシのたわみ量に関する特許【請求項1】および【請求項3】に基づく試験により、甲2歯ブラシのたわみ量A及びたわみ量Bを測定したこと。
・たわみ量Aの測定は、甲2歯ブラシをP1で固定し(「4−1−1.」参照。)、錘を吊す前の状態(H0)を撮影機器で撮影しておき、10%の位置に錘を吊し、錘を吊してから、10秒後の状態(H1)を撮影すること(「4−1−4.」参照。)により行われるものであり、「P1」及び「10%」なる記載の意味するところが必ずしも明確でないものの、「4−1−1.」欄の写真及び図面からして、たわみ量Aは、特許第6341527号の請求項1における「方法(α)」により測定されるものと推認されること。
・たわみ量Bの測定は、甲2歯ブラシをP2の位置で固定して測定されるものであり(「4−3.」参照。)、「P2」なる記載の意味や、その他の諸条件及び測定手順について何ら記載がないものの、「4−3−1.」欄の写真及び図面からして、たわみ量Bは、特許第6341527号の請求項1における「方法(β)」により測定されるものと推認されること。
・甲2歯ブラシのたわみ量Aを5回測定したときの平均値が0.41mm(「5.測定結果」におけるオレンジのたわみ量Aのn1〜n5の平均値)であり、たわみ量Bを5回測定したときの平均値が3.64mm(「5.測定結果」におけるオレンジのたわみ量Bのn1〜n5の平均値)であること。
・上記のたわみ量Aとたわみ量Bについて、差(B−A)と積(A×B)を計算すると、それぞれ3.23、1.49となること。
なお、特許第6341527号の請求項1には、方法(α)及び方法(β)として以下の記載があり、いずれも本件特許発明1における方法(α)及び方法(β)と同一である。
「方法(α):前記ヘッド部の植毛面を鉛直方向の上に向け、前記ヘッド部と前記ネック部との境界の位置を固定した状態における前記ハンドル体の先端の高さを基準高さとし、前記固定した状態においてさらに前記ヘッド部における、植毛部の長軸方向の長さに対して前記植毛部の先端から10±3%の位置に200gの錘を吊り下げ、10秒後の前記ハンドル体の先端の前記基準高さからの高さの変位量(単位はmm)を前記ヘッド部の撓み量Aとする。
方法(β):前記ヘッド部の植毛面を鉛直方向の上に向け、前記ネック部と前記ハンドル部との境界の位置を固定した状態における前記ハンドル体の先端の高さを基準高さとし、前記固定した状態においてさらに前記ヘッド部における、植毛部の長軸方向の長さに対して前記植毛部の先端から50±3%の位置に200gの錘を吊り下げ、10秒後の前記ハンドル体の先端の前記基準高さからの高さの変位量(単位はmm)を前記ネック部の撓み量Bとする。」

また、甲第3号証〜甲第5号証から、以下の事項が把握される。
・甲第3号証(ライオン歯科材株式会社 2009年12月発行「ライオン歯科用品カタログ2010」)、甲第4号証(同社の2010年12月7日時点のホームページ)及び甲第5号証(同社の2011年5月31日時点のホームページ)において、「DENT. MAXIMA」なる名称の歯ブラシ(以下、それぞれ「甲3歯ブラシ」等という。)が掲載されていること。
・甲第3号証〜甲第5号証から、「DENT. MAXIMA」なる歯ブラシは、「S」、「MS」、「M」なる三タイプが存在し、ピンク及びオレンジを含む四色のカラーバリエーションが展開されていること。
・甲3歯ブラシ及び甲4歯ブラシは、ヘッド部の厚さが2.9mmである一方、甲5歯ブラシはヘッドの厚さが2.6mmであり、両者のヘッド部の厚さが異なること。
・甲第3号証第7ページ及び甲第4号証に掲載された甲3歯ブラシ及び甲4歯ブラシの外観と、甲第5号証に掲載された甲5歯ブラシの外観を比較すると、特にハンドル部の意匠が異なること。

そして、上記甲第2号証から把握される事項と、上記甲第3号証〜甲第5号証から把握される事項を併せて検討すると、以下の点が把握される。
・甲2歯ブラシと、甲3歯ブラシ〜甲5歯ブラシは、いずれも名称が「DENT. MAXIMA」で共通すること。また、「S」タイプ、オレンジのカラーが、甲3歯ブラシ〜甲5歯ブラシのそれぞれにおいて、一品種として含まれること。
・甲第2号証第6ページに掲載された甲2歯ブラシの外観が、甲3歯ブラシ及び甲4歯ブラシに類似すること。また、ヘッド部の厚さも2.9mmである点で一致していること。
・甲第2号証第6ページに掲載された甲2歯ブラシのパッケージの外観が、甲第3号証第7ページに掲載された甲3歯ブラシのパッケージの外観と類似すること。
・甲第2号証第6ページに掲載された甲2歯ブラシの外観と甲5歯ブラシの外観を比較すると、特にハンドル部の意匠が互いに異なること。また、ヘッド部の厚さも2.9mmと2.6mmとで異なること。
以上より、甲2歯ブラシは、甲3歯ブラシ及び甲4歯ブラシのうち、「S」タイプかつオレンジのものに該当する蓋然性が高く、そうすると、甲2歯ブラシは、遅くとも甲第3号証に示される2010年12月7日時点において、公然実施をされたものであると推認される。

以上の事情を総合すると、本件特許発明1〜7についての出願の優先日である2016年3月9日より前に、以下の発明が実施されていたと認められる。
公然実施発明]
「ヘッドと、該ヘッドに延設されたネックと、該ネックに延設されたハンドル部とを備え、
前記ヘッドは、ブラシ毛が植毛される面を備え、
前記ヘッドの厚さが2.90mmであり、前記ネックの最小厚さが4.70mmであり、前記ネックの最小幅が4.58mmであり、
下記の方法(α)で5回測定されたたわみ量Aの平均値と、下記の方法(β)で5回測定されたたわみ量Bの平均値において、
前記たわみ量Aが0.41mmであり、
前記たわみ量Bが3.64mmであり、
前記たわみ量Aと前記たわみ量Bとの差(B−A)が、3.23であり、
前記たわみ量Aと前記たわみ量Bとの積が1.49であることを特徴とする歯ブラシ。
方法(α):前記ヘッド部の植毛面を鉛直方向の上に向け、前記ヘッド部と前記ネック部との境界の位置を固定した状態における前記ハンドル体の先端の高さを基準高さとし、前記固定した状態においてさらに前記ヘッド部における、植毛部の長軸方向の長さに対して前記植毛部の先端から10±3%の位置に200gの錘を吊り下げ、10秒後の前記ハンドル体の先端の前記基準高さからの高さの変位量(単位はmm)を前記ヘッド部の撓み量Aとする。
方法(β):前記ヘッド部の植毛面を鉛直方向の上に向け、前記ネック部と前記ハンドル部との境界の位置を固定した状態における前記ハンドル体の先端の高さを基準高さとし、前記固定した状態においてさらに前記ヘッド部における、植毛部の長軸方向の長さに対して前記植毛部の先端から50±3%の位置に200gの錘を吊り下げ、10秒後の前記ハンドル体の先端の前記基準高さからの高さの変位量(単位はmm)を前記ネック部の撓み量Bとする。」

そこで、本件特許発明1と公然実施発明とを対比すると、公然実施発明の「ヘッド」、「ネック」、「ハンドル部」、「ブラシ毛が植毛される面」はそれぞれ、本件特許発明1の「ヘッド部」、「ネック部」、「ハンドル部」、「植毛面」に相当する。また、公然実施発明の「ヘッド」、「ネック」、「ハンドル部」からなる構成は、本件特許発明1の「ハンドル体」に相当する構成を成すものと認められる。
加えて、公然実施発明の「前記ヘッドの厚さが2.90mmであ」ることは、本件特許発明1の「前記ヘッド部の厚さが2.0〜4.0mmであ」ることに相当する。
そして、公然実施発明の「たわみ量A」、「たわみ量B」はそれぞれ、方法(α)及び方法(β)により5回測定された値の平均値である一方、本件特許発明1は単に方法(α)及び方法(β)により測定することが特定されている点においては相違するものの、その相違点を除き、本件特許発明1の「前記ヘッド部の撓み量A」、「前記ネック部の撓み量B」に相当し、公然実施発明の「前記たわみ量Aが0.41mmであり、前記たわみ量Bが3.64mmであり、前記たわみ量Aと前記たわみ量Bとの差(B−A)が、3.23であり、前記たわみ量Aと前記たわみ量Bとの積が1.49である」ことは、本件特許発明1の「前記撓み量Aが0.4〜2.0mmであり、前記撓み量Bが2.1〜5.0mmであり、前記撓み量Aと前記撓み量Bとの差(B−A)が、1≦(B−A)≦4であり、前記撓み量Aと前記撓み量Bとの積が0.8〜6である」ことに相当する。

そうすると、本件特許発明1と公然実施発明とは次の3点で相違し、その余の点で一致する。
[相違点1]
ヘッド部の植毛面について、本件特許発明1は「平線式植毛により複数の毛束が植設され」るのに対し、公然実施発明はどのように植毛されるのかが明確でない点。
[相違点2]
本件特許発明1は「前記ネック部の最小の幅と最小の厚さのうちの小さい方が3.0〜4.5mmであ」るのに対して、公然実施発明は「前記ネックの最小厚さが4.70mmであり、前記ネックの最小幅が4.58mmであ」る、すなわち、「前記ネック部の最小の幅と最小の厚さのうちの小さい方が」「4.58mmであ」る点。
[相違点3]
本件特許発明1の「前記ヘッド部の撓み量A」は「方法(α)で測定される」ものであり、「前記ネック部の撓み量B」は「方法(β)で測定される」ものである一方、公然実施発明の「たわみ量A」及び「たわみ量B」はそれぞれ、「方法(α)で5回測定されたたわみ量Aの平均値」及び「方法(β)で5回測定されたたわみ量Bの平均値」である点。

このように本件特許発明1は公然実施発明と相違し、この点は実質的なものであるから、本件特許発明1は公然実施をされた発明ではない。
次に、事案に鑑み前記相違点2から検討すると、上記のとおり、公然実施発明のネックの最小幅は、本件特許発明1のネック部の最小幅よりも太いものであるが、公然実施発明は、製品として完成し市場に流通していたものであることに鑑みれば、公然実施発明においてたわみ量A及びBやその他の寸法等を維持しながら、ネックのみを細くして3.0〜4.5mmとする合理的な動機は見当たらない。
また、公然実施発明において、ネックの太さを変えるとたわみ量Bの値も変わることは明らかである。してみれば、仮に、当業者にとって、公然実施発明のネックを細くして3.0〜4.5mmとする動機があったとしても、ネックの最小幅を3.0〜4.5mmとしたとき、公然実施発明のたわみ量Bがどの程度の値となるのかは、技術常識を加味しても不明である。
これらの事情を勘案すれば、公然実施発明において、「前記ネック部の最小の幅と最小の厚さのうちの小さい方が3.0〜4.5mmであ」ることに相当する構成を採用し、前記相違点2に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
そして、本件特許発明1は、歯ブラシのヘッド部の厚さ、撓み量A、Bを含むパラメータを特定するとともに、前記相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項を備えることにより、清掃力により優れ、かつ、使用感により優れるという効果を奏するものである。
したがって、本件特許発明1は、本件特許発明1〜7に係る出願の優先日より前に公然実施をされた発明でなく、公然実施をされた発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

また、本件特許発明2〜6と公然実施発明を対比すると、両者は少なくとも前記相違点1〜3で相違する。そうすると、本件特許発明2〜6は、本件特許発明1〜7に係る出願の優先日より前に公然実施をされた発明でなく、公然実施をされた発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1〜7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1〜7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッド部と、該ヘッド部に延設されたネック部と、該ネック部に延設されたハンドル部とを備えるハンドル体を備え、前記ヘッド部の植毛面には平線式植毛により複数の毛束が植設され、
前記ヘッド部の厚さが2.0〜4.0mmであり、
前記ネック部の最小の幅と最小の厚さのうちの小さい方が3.0〜4.5mmであり、
下記の方法(α)で測定される前記ヘッド部の撓み量Aと、下記の方法(β)で測定される前記ネック部の撓み量Bにおいて、
前記撓み量Aが0.4〜2.0mmであり、
前記撓み量Bが2.1〜5.0mmであり、
前記撓み量Aと前記撓み量Bとの差(B−A)が、1≦(B−A)≦4であり、
前記撓み量Aと前記撓み量Bとの積が0.8〜6であることを特徴とする歯ブラシ。
方法(α):前記ヘッド部の植毛面を鉛直方向の上に向け、前記ヘッド部と前記ネック部との境界の位置を固定した状態における前記ハンドル体の先端の高さを基準高さとし、前記固定した状態においてさらに前記ヘッド部における、植毛部の長軸方向の長さに対して前記植毛部の先端から10±3%の位置に200gの錘を吊り下げ、10秒後の前記ハンドル体の先端の前記基準高さからの高さの変位量(単位はmm)を前記ヘッド部の撓み量Aとする。
方法(β):前記ヘッド部の植毛面を鉛直方向の上に向け、前記ネック部と前記ハンドル部との境界の位置を固定した状態における前記ハンドル体の先端の高さを基準高さとし、前記固定した状態においてさらに前記ヘッド部における、植毛部の長軸方向の長さに対して前記植毛部の先端から50±3%の位置に200gの錘を吊り下げ、10秒後の前記ハンドル体の先端の前記基準高さからの高さの変位量(単位はmm)を前記ネック部の撓み量Bとする。
【請求項2】
前記ネック部の最小の幅が3.0〜4.5mmであり、前記ネック部の最小の厚さが3.0〜4.5mmであることを特徴とする請求項1に記載の歯ブラシ。
【請求項3】
前記撓み量Aと前記撓み量Bとの積が2〜6であることを特徴とする請求項1又は2に記載の歯ブラシ。
【請求項4】
前記撓み量Aが0.5〜2.0mmであり、前記撓み量Bが2.1〜4.0mmであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の歯ブラシ。
【請求項5】
前記毛束を構成する用毛の毛先強度が1.7〜3.0Nであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の歯ブラシ。
【請求項6】
前記ネック部の最小の幅が3.0〜4.2mmであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の歯ブラシ。
【請求項7】
前記ハンドル体の材質がポリプロピレン樹脂である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の歯ブラシ。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2023-11-17 
出願番号 P2018-087461
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (A46B)
P 1 651・ 537- YAA (A46B)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 窪田 治彦
特許庁審判官 長馬 望
八木 敬太
登録日 2022-09-29 
登録番号 7149730
権利者 ライオン株式会社
発明の名称 歯ブラシ  
代理人 田▲崎▼ 聡  
代理人 加藤 広之  
代理人 川越 雄一郎  
代理人 川越 雄一郎  
代理人 田▲崎▼ 聡  
代理人 加藤 広之  

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