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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
管理番号 1406721
総通号数 26 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2024-02-22 
種別 異議の決定 
異議申立日 2023-08-24 
確定日 2024-02-02 
異議申立件数
事件の表示 特許第7272345号発明「リチウムイオン二次電池用正極活物質及びリチウムイオン二次電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7272345号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7272345号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、2019年3月4日(優先権主張 平成30年3月7日、日本国)を国際出願日とする出願であって、令和5年5月1日に特許権の設定登録がされ、令和5年5月12日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対して、令和5年8月24日に特許異議申立人竹下瑞恵により請求項1ないし6に係る特許に対する特許異議の申立てがなされたものである。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし6に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明6」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
下記組成式(1);
Li1+aNibCocMndMeO2+α ・・・(1)
[但し、組成式(1)において、Mは、Al、Ti、Zn、Ga、Zr、Mo、Nb、V、Sn、Ta、Ba、W及びYからなる群より選択される1種以上の金属元素を表し、a、b、c、d、e及びαは、それぞれ、−0.04≦a≦0.04、0.80≦b<1.00、0.01≦c≦0.04、0<d<0.20、b+c+d+e=1、及び、−0.2<α<0.2を満たす数である。]で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を含むリチウムイオン二次電池用正極活物質であって、
前記組成式(1)において、c/d≦0.75を満たし、
CuKα線を用いた粉末X線回折スペクトルにおいて、(003)面に帰属される回折ピークの半値幅が0.130°以下であるリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項2】
前記組成式(1)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物は、α−NaFeO2型の結晶構造を有し、空間群R−3mに帰属される結晶構造中の3aサイトにおけるニッケルのサイト占有率が4%未満である請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項3】
CuKα線を用いた粉末X線回折スペクトルにおいて、(003)面に帰属される回折ピークの積分強度をI(003)、(104)面に帰属される回折ピークの積分強度をI(104)としたとき、回折ピークの強度比I(003)/I(104)が1.2以上である請求項1又は請求項2に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項4】
単位格子におけるa軸の格子定数が2.878×10−10m以上である請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項5】
比表面積が0.2m2/g以上1.5m2/g以下である請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質を含有する正極を備えるリチウムイオン二次電池。」

第3 申立理由の概要
請求項1に係る発明は、甲第1号証〜甲第4号証のいずれかに記載された発明、及び甲第6号証〜甲第12号証のいずれかに記載された技術に基づいて、あるいは、甲第12号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、
請求項2に係る発明は、甲第1号証、甲第2号証及び甲第4号証のいずれかに記載された発明、及び甲第3号証、甲第6号証〜甲第12号証のいずれかに記載された技術に基づいて、あるいは、甲第12号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、
請求項3に係る発明は、甲第1号証、甲第2号証及び甲第4号証のいずれかに記載された発明、及び甲第6号証〜甲第12号証のいずれかに記載された技術に基づいて、あるいは、甲第12号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、
請求項4の係る発明は、甲第1号証、甲第2号証及び甲第4号証のいずれかに記載された発明、並びに甲第5号証及び甲第6号証〜甲第12号証のいずれかに記載された技術に基づいて、あるいは、甲第12号証に記載された発明及び甲第5号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、
請求項5に係る発明は、甲第4号証に記載された発明、及び甲第6号証〜甲第12号証のいずれかに記載された技術に基づいて、あるいは、甲第1号証〜甲第3号証のいずれかに記載された発明、及び甲第4号証、甲第6号証〜甲第12号証のいずれかに記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、
請求項6に係る発明は、甲第1号証〜甲第4号証のいずれかに記載された発明、及び甲第6号証〜甲第12号証のいずれかに記載された技術に基づいて、あるいは、甲第12号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、
請求項1ないし6に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

<証拠方法>
甲第1号証:特開2013−120676号公報
甲第2号証:特開2013−120678号公報
甲第3号証:特開2015−18803号公報
甲第4号証:特開2015−103331号公報
甲第5号証:国際公開第2011/135953号
甲第6号証:特開2015−56368公報
甲第7号証:特開2011−116580号公報
甲第8号証:特開2000−133249号公報
甲第9号証:特開2016−207278号公報
甲第10号証:国際公開第2016/190419号
甲第11号証:特開2000−149923号公報
甲第12号証:特開平11−25957号公報

第4 甲各号証の記載事項、引用発明
1 甲第1号証
(1)甲第1号証には、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付与したものである。以下同様。)。
「【0008】
上記知見を基礎にして完成した本発明は一側面において、
組成式:LixNi1-yMyO2+α
(前記式において、0.9≦x≦1.2であり、0<y≦0.7であり、Mは金属であり、α>0.05である。)
で表され、
粉末X線回折(XRD)において、(003)面の回折ピークの2θでの半値幅が0.14°以下であるリチウムイオン電池用正極活物質である。」

「【0010】
本発明に係るリチウムイオン電池用正極活物質は別の実施形態において、前記Mが、Mn及びCoから選択される1種以上である。」

「【0030】
(実施例1〜14)
まず、表1に記載の投入量の炭酸リチウムを純水3.2リットルに懸濁させた後、金属塩溶液を4.8リットル投入した。ここで、金属塩溶液は、各金属の硝酸塩の水和物を、各金属が表1に記載の組成比になるように調整し、また全金属モル数が14モルになるように調整した。
・・・中略・・・
この処理により溶液中に微小粒のリチウム含有炭酸塩が析出したが、この析出物を、フィルタープレスを使用して濾別した。
続いて、析出物を乾燥してリチウム含有炭酸塩(リチウムイオン電池正極材用前駆体)を得た。
次に、焼成容器を準備し、この焼成容器内にリチウム含有炭酸塩を充填した。次に、焼成容器を、大気圧下、酸素雰囲気炉に入れて、表1に記載の焼成温度で10時間加熱保持した後、300℃までは表1に記載の時間をかけて冷却した。続いて室温まで冷却した後、解砕してリチウムイオン二次電池正極材の粉末を得た。」

段落【0038】の表1によると、実施例9のLiを除く全金属中の各金属の組成比は、Ni80Co10Mn10である。また、段落【0039】の表2によると、実施例9のxは1.00、αは0.15、(003)2θ半値幅(°)は0.123である。

(2)甲1発明
実施例9に着目すると、【0008】の記載よりリチウムイオン二次電池用正極活物質に関して、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「組成式:Li1Ni0.8Co0.1Mn0.1O2.15で表され、
粉末X線回折(XRD)において、(003)面の回折ピークの2θでの半値幅が0.123°であるリチウムイオン二次電池用正極活物質。」

2 甲第2号証
実施例8に着目すると、【0008】、【0030】、【0038】(表1)及び【0039】(表2)の記載より、甲第2号証には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「組成式:Li1Ni0.8Co0.1Mn0.1O2.15で表され、
粉末X線回折(XRD)において、(003)面の回折ピークの2θでの半値幅が0.123°であるリチウムイオン二次電池用正極活物質。」

3 甲第3号証
(1)甲第3号証には、以下の事項が記載されている。
「【0008】
本発明の他の一側面は、前述した正極活物質を含む正極を提供することである。
【0009】
本発明のさらに他の一側面は、前記正極を採用したリチウム二次電池を提供することである。」

「【0119】
<製造例1:正極活物質の製造>」
・・・
【0123】
前記製造方法によって得られた正極活物質は、Li[Ni0.5Co0.2Mn0.3]O2であり、正極活物質の単一粒子形態である一次粒子の平均粒径は4μmであり、二次粒子の平均粒径6μmの小径の粒子形態を示す。」

「【0150】
<評価例3:XRD実験>
製造例1と比較製造例1及び2で製造された正極活物質粉末のXRD分析を実施した。
【0151】
XRD分析は、分析機器として(Xpert PRO,Philips/Power3kW)を使い、Rietveld分析を行って、その結果を図3Aないし図3D及び下記の表2に示す。XRD分析時に励起源としては、CuK−アルファ特性X線波長1.541Åを用いる。」

段落【0152】の表2によると、製造例1では、(003)ピークのFWHM(deg.)は0.121である。

(2)甲3発明
製造例1に着目すると、【0009】、【0123】、【0150】、【0151】及び【0152】(表2)の記載よりリチウムイオン二次電池用正極活物質に関して、甲第3号証には、次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。
「組成式:LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2で表され、
CuKα線を用いた粉末のXRD分析において、(003)面に帰属される回折ピークの半値幅が0.121°であるリチウムイオン二次電池用正極活物質。」

4 甲第4号証
(1)甲第4号証には、以下の事項が記載されている。
「【0001】
本発明は、正極活物質、およびリチウムイオン二次電池に関する。」

「【0023】
そこで、本発明者は、上記の問題点等を詳細に検討することにより、本発明を想到するに至った。本発明の一実施形態に係る正極活物質は、Ni比率が80%以上のリチウムニッケル複合酸化物において、X線回折における(003)面の回折ピーク強度I(003)と、(104)面の回折ピーク強度I(104)との比I(003)/(104)が、1.05以上1.25以下であり、かつ、(003)面の半値幅FWHM(003)が、0.12以上0.155以下であり、かつ、平均2次粒子径(D50)が、3μm以上9μm以下であり、かつ、比表面積が、0.38m2/g以上1.05m2/g以下である場合に、放電容量、初期充放電効率およびサイクル特性のすべてを向上させることができる。」

「【0087】
次に、表3において、正極活物質として、LiNixCoyMnzO2の組成を有するリチウムニッケル複合酸化物を用いた実施例4、5および比較例5、6の測定結果を示す。なお、各実施例および比較例におけるx、y、zの値も表3に併記した。」

段落【0088】の表3によると、比較例5はLiNi0.8Co0.1Mn0.1O2で、FWHM(003)(2θ°)が0.1071である。また、比較例6はLiNi0.85Co0.1Mn0.05O2で、FWHM(003)(2θ°)が0.1053である。

(2)甲4発明
比較例5に着目すると、【0001】、【0023】、【0087】及び【0088】(表3)の記載よりリチウムイオン二次電池用正極活物質に関して、甲第4号証には、次の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されていると認められる。
「組成式:LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2で表され、
X線回折における(003)面に帰属される回折ピークの半値幅が0.1071°であるリチウムイオン二次電池用正極活物質。」

比較例6に着目すると、【0001】、【0023】、【0087】及び【0088】(表3)の記載よりリチウムイオン二次電池用正極活物質に関して、甲第4号証には、次の発明(以下、「甲4’発明」という。)が記載されていると認められる。
「組成式:LiNi0.85Co0.1Mn0.05O2で表され、
X線回折における(003)面に帰属される回折ピークの半値幅が0.1053°であるリチウムイオン二次電池用正極活物質。」

5 甲第12号証
(1)甲第12号証には、以下の事項が記載されている。
「【0012】また、請求項3に示すように、上記の正極材料として、X線源にCu−Kαを用いた粉体X線回折測定により測定した2θ=18.71±0.25゜の範囲に存在するピークの強度をI(003) 、2θ=44.54±0.25゜の範囲に存在するピークの強度をI(104) とした場合に、I(003) /I(104) の値が0.8以上のものを用いると、より放電容量が向上されるようになる。」

「【0029】(実施例20)この実施例においては、正極を作製するにあたり、攪拌槽内に硫酸ニッケルと硫酸コバルトと硫酸マンガンの混合溶液を、各遷移金属のモル比がNi:Co:Mn=0.9:0.01:0.09の割合になるように調製し、この混合溶液中に水酸化ナトリウム水溶液を徐々に投入しながら攪拌させて、各遷移金属の水酸化物を共沈させた。このようにすると、水酸化ニッケル中におけるニッケル原子の一部が、コバルト原子とマンガン原子とによって均一に置換されたような構造を有する組成式Ni0.9 Co0.01Mn0.09(OH)2 で示される遷移金属複合水酸化物が得られた。
【0030】そして、この遷移金属複合水酸化物とLiOHとを、Liと遷移金属元素の総量とが1:1のモル比となるように混合させ、この混合物を乾燥空気雰囲気下において800℃で8時間熱処理してリチウム−遷移金属複合酸化物を作製し、このリチウム−遷移金属複合酸化物を用いて、上記の実施例1〜17及び比較例1〜3の場合と同様にして正極を作製すると共にリチウム二次電池を作製した。」

「【0044】ここで、上記の実施例1〜23及び比較例1〜9の各リチウム二次電池における各正極材料について、X線源としてCu−Kαを用いた粉体X線回折測定によって2θ=18.71±0.25゜の範囲に存在するピークの半値幅を求めると共に、2θ=18.71±0.25゜の範囲に存在するピークの強度I(003) と2θ=44.54±0.25゜の範囲に存在するピークの強度I(104) とからピーク強度比[I(003) /I(104) ]を求め、これらの結果を下記の表1及び表2に合わせて示した。」

段落【0046】の表1によると、実施例20のリチウム遷移金属複合酸化物はLiNi0.9Co0.01Mn0.09であり、半値幅(°)が0.15である。

(2)甲12発明
【0030】によれば、リチウム遷移金属複合酸化物は、リチウム二次電池の正極に用いられるのであるから、リチウムイオン二次電池用正極活物質である。
また、【0012】及び【0044】によれば、表1の半値幅(°)は、Cu−Kαを用いた粉体X線回折測定によって測定したピークの強度I(003)の半値幅である。

ここで、特許異議申立人が引用し、かつ、本件特許発明1に構成が近い実施例20に着目すると、【0030】及び【0046】(表1)の記載よりリチウムイオン二次電池用正極活物質に関して、甲第12号証には、次の発明(以下、「甲12発明」という。)が記載されていると認められる。
「組成式:LiNi0.9Co0.01Mn0.09O2で表され、
CuKα線を用いた粉末X線回折において、(003)面に帰属される回折ピークの半値幅が0.15°であるリチウムイオン二次電池用正極活物質。」

第5 当審の判断
1 甲第1号証に記載された発明について
(1)本件特許発明1
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明を対比すると、次のことがいえる。
(ア)本件特許明細書の段落【0039】の記載によれば、本件特許発明1の組成式(1)におけるMの係数eは0を含むものである。
そこで、本件特許発明1においてMの係数eが0の場合について検討する。
甲1発明の「組成式:Li1Ni0.8Co0.1Mn0.1O2.15で表され」る「リチウムイオン二次電池用正極活物質」と本件特許発明1の「下記組成式(1);Li1+aNibCocMndMeO2+α ・・・(1)[但し、組成式(1)において、Mは、Al、Ti、Zn、Ga、Zr、Mo、Nb、V、Sn、Ta、Ba、W及びYからなる群より選択される1種以上の金属元素を表し、a、b、c、d、e及びαは、それぞれ、−0.04≦a≦0.04、0.80≦b<1.00、0.01≦c≦0.04、0<d<0.20、b+c+d+e=1、及び、−0.2<α<0.2を満たす数である。]で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を含むリチウムイオン二次電池用正極活物質」とは、「下記組成式(1);Li1+aNibCocMndMeO2+α ・・・(1)[但し、組成式(1)において、Mは、Al、Ti、Zn、Ga、Zr、Mo、Nb、V、Sn、Ta、Ba、W及びYからなる群より選択される1種以上の金属元素を表し、a、b、c、d、e及びαは、それぞれ、−0.04≦a≦0.04、0.80≦b<1.00、0<d<0.20、b+c+d+e=1、及び、−0.2<α<0.2を満たす数である。]で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を含むリチウムイオン二次電池用正極活物質」である点で一致する。
但し、組成式(1);Li1+aNibCocMndMeO2+αにおいて、本件特許発明1は「0.01≦c≦0.04」であるのに対して、甲1発明は「Co0.1」(即ち、c=0.1)である点で相違する。
(イ)本件特許発明1は「前記組成式(1)において、c/d≦0.75を満た」すのに対して、甲1発明は「Co0.1Mn0.1」(即ち、c/d=1)である点で相違する。
(ウ)粉末X線回折は通常CuKα線を用いて行われるものであり、甲1発明の粉末X線回折もCuKα線を用いたものと認めれるから、甲1発明の「粉末X線回折(XRD)において、(003)面の回折ピークの2θでの半値幅が0.123°である」ことは、本件特許発明1の「CuKα線を用いた粉末X線回折スペクトルにおいて、(003)面に帰属される回折ピークの半値幅が0.130°以下である」ことに含まれる。

以上によれば、本件特許発明1と甲1発明とは、次の一致点及び相違点を有する。
(一致点)
「下記組成式(1);
Li1+aNibCocMndMeO2+α ・・・(1)
[但し、組成式(1)において、Mは、Al、Ti、Zn、Ga、Zr、Mo、Nb、V、Sn、Ta、Ba、W及びYからなる群より選択される1種以上の金属元素を表し、a、b、c、d、e及びαは、それぞれ、−0.04≦a≦0.04、0.80≦b<1.00、0<d<0.20、b+c+d+e=1、及び、−0.2<α<0.2を満たす数である。]で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を含むリチウムイオン二次電池用正極活物質であって、
CuKα線を用いた粉末X線回折スペクトルにおいて、(003)面に帰属される回折ピークの半値幅が0.130°以下であるリチウムイオン二次電池用正極活物質。」

(相違点1a)
組成式(1);Li1+aNibCocMndMeO2+αにおいて、本件特許発明1は「0.01≦c≦0.04」であるのに対して、甲1発明は「Co0.1」(即ち、c=0.1)である点。
(相違点2a)
本件特許発明1は「前記組成式(1)において、c/d≦0.75を満た」すのに対して、甲1発明は「Co0.1Mn0.1」(即ち、c/d=1)である点。

イ 判断
(ア)上記相違点1a,2aについてまとめて検討する。
甲第1号証において、「組成式:LixNi1-yMyO2+α(前記式において、0.9≦x≦1.2であり、0<y≦0.7であり、Mは金属であり、α>0.05である。)で表され」(【0008】)、「前記Mが、Mn及びCoから選択される1種以上である。」(【0010】)と記載されているが、Mn及びCoの含有量についての具体的な示唆はない。
また、実施例についてもMn及びCoを含むものは、Ni0.33Co0.33Mn0.33(実施例1−8,15−17)、Ni0.8Co0.1Mn0.1(実施例9)の例が記載されているに過ぎない(表1)。
そうすると、甲1発明において、Mn及びCoの含有量を変化させて、「Co0.1」(即ち、c=0.1)からCoの組成比cを「0.01≦c≦0.04」にし、かつ「Co0.1Mn0.1」(即ち、c/d=1)からCoとMnの比率c/dを「c/d≦0.75」にして上記相違点1a及び2aに係る構成を得る動機はない。また、組成により回折ピークの半値幅は変化するものと認められるから、Mn及びCoの含有量を変化させた場合、変化後の組成において、(003)面に帰属される回折ピークの半値幅が0.130°以下と特定し得るものとは認められない。
そして、甲第6号証〜甲第12号証にも、リチウムイオン二次電池の正極活物質において、Mn及びCoの含有量を変化させて、「Co0.1」(即ち、c=0.1)からCoの組成比cを「0.01≦c≦0.04」にし、かつ「Co0.1Mn0.1」(即ち、c/d=1)からCoとMnの比率c/dを「c/d≦0.75」とすることは記載も示唆もされていない。
したがって、上記相違点1a、2aに係る構成は、甲1発明及び甲第6号証〜甲第12号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たこととはいえない。

(イ)特許異議申立人の主張について
a 特許異議申立人の主張の概要
甲第6号証〜甲第8号証に記載されているように、リチウムニッケル系酸化物は熱的安定性が必ずしも良好ではなく、ニッケルの一部をマンガンなどの異種元素で置換することで、熱的安定性が改善されること、および、コバルトは高価であることは、周知である。
また、甲第9号証および甲第10号証には、Niのモル比が発明特定事項A(「下記組成式(1);Li1+aNibCocMndMeO2+α ・・・(1)[但し、組成式(1)において、Mは、Al、Ti、Zn、Ga、Zr、Mo、Nb、V、Sn、Ta、Ba、W及びYからなる群より選択される1種以上の金属元素を表し、a、b、c、d、e及びαは、それぞれ、−0.04≦a≦0.04、0.80≦b<1.00、0.01≦c≦0.04、0<d<0.20、b+c+d+e=1、及び、−0.2<α<0.2を満たす数である。]で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を含むリチウムイオン二次電池用正極活物質」)に規定の範囲から外れるものの、Mnのモル比に対するCoのモル比が0.75以下であるリチウム遷移金属複合酸化物を含むリチウムイオン二次電池用正極活物質が開示されている(甲第9号証(【0107】、表1)、甲第10号証(【0097】、表1))。
さらに、甲第11号証および甲第12号証は、実質的に発明特定事項Aを開示している。
そうすると、甲第1号証に記載されてた発明において、甲第6号証〜甲第12号証を参照して、コストを抑えるために、コバルトの含有量を少なく抑えつつ、所望の熱的安定性を得るべく、コバルトの含有量、および、コバルトとマンガンの組成比を、発明特定事項Aおよび発明特定事項B(「前記組成式(1)において、c/d≦0.75を満たし」)に規定する範囲に調整することは、当業者が適宜なし得る設計的事項に過ぎない。(特許異議申立書34頁4行〜35頁4行)

b 当審の判断
甲第9号証及び甲第10号証に記載されたMnのモル比に対するCoのモル比が0.75以下である実施例は、いずれも、リチウムを除いた金属あたりのCoの組成比「c」が0.1以上である。
また、甲第11号証に記載された実施例4の組成式は「LiNi0.8Co0.05Al0.05Mn0.1O2」(表1)であり、「実施例1と3、実施例2と3(当審注:「4」の誤記)を比較するとマンガン置換量が増え、その分コバルト置換量が少なくなると充放電効率が低下することが分かる。」(【0058】)と記載されている。
そうすると、甲1発明に甲第9号証〜甲第11号証に記載の技術を適用しても、「Co0.1」(即ち、c=0.1)からCoの組成比cを「0.01≦c≦0.04」にすることはできない。
さらに、甲第12号証には、金属の割合がLi1Ni0.9Co0.01Mn0.09である実施例1及び20(表1)が記載されているが、(003)面に帰属される回折ピークの半値幅が0.17°(実施例1)及び0.15°(実施例20)であり、甲第12号証に記載の技術を適用しても、甲1発明において、(003)面に帰属される回折ピークの半値幅が0.130°以下の特性を維持できるとはいえない。
したがって、甲第6号証〜甲第8号証に記載されているような周知の事項に基づいて、甲1発明に甲第9号証〜甲第12号証に記載された技術を適用しても、上記相違点1a、2aに係る構成を得ることはできない。
よって、特許異議申立人の主張を採用することができない。

(ウ)よって、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第6号証〜甲第12号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

(2)本件特許発明2について
甲第3号証には「前記ニッケル系リチウム遷移金属酸化物でリチウムサイトを占有しているニッケルイオンの占有率が0.4原子%以下」(【0037】)と記載されているものの上記相違点1aに係る構成は記載されていない。
そして、請求項2は請求項1を引用するものであり、本件特許発明2は、本件特許発明1に係る全ての構成を備え、さらに構成を付加したものであるから、本件特許発明1と同様な理由により、本件特許発明1と同様な理由により、甲第1号証に記載された発明、甲第3号証及び甲第6号証〜甲第12号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

(3)本件特許発明3、6について
請求項3、6は請求項1を引用するものであり、本件特許発明3、6は、本件特許発明1に係る全ての構成を備え、さらに構成を付加したものであるから、本件特許発明1と同様な理由により、甲第1号証に記載された発明及び甲第6号証〜甲第12号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

(4)本件特許発明4について
甲第5号証には「a軸の格子定数が2.874オングストローム以上であることが好ましい。」(【0022】)と記載されているものの上記相違点1aに係る構成は記載されていない。
そして、請求項4は請求項1を引用するものであるから、本件特許発明4は、本件特許発明1と同様な理由により、甲第1号証に記載された発明及び甲第5号証〜甲第12号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

(5)本件特許発明5について
甲第4号証には、リチウム複合酸化物を含む正極活物質において、比表面積が、0.38m2/g以上1.05m2/g以下であることが記載されているが(請求項1)、上記相違点1a、2aに係る構成は記載されていない。
そして、請求項5は請求項1を引用するものであるから、本件特許発明5は、本件特許発明1と同様な理由により、甲第1号証に記載された発明、甲第4号証及び甲第6号証〜甲第12号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

2 甲第2号証に記載された発明について
甲2発明は甲1発明と同じであるから、上記「1」と同じ理由により、本件特許発明1ないし6は、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証〜甲第12号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

3 甲第3号証に記載された発明について
(1)本件特許発明1
ア 対比
本件特許発明1と甲3発明を対比すると、次のことがいえる。
(ア)本件特許明細書の段落【0039】の記載によれば、本件特許発明1の組成式(1)におけるMの係数eは0を含むものである。
そこで、本件特許発明1においてMの係数eが0の場合について検討する。
甲3発明の「組成式:LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2で表され」る「リチウムイオン二次電池用正極活物質」と本件特許発明1の「下記組成式(1);Li1+aNibCocMndMeO2+α ・・・(1)[但し、組成式(1)において、Mは、Al、Ti、Zn、Ga、Zr、Mo、Nb、V、Sn、Ta、Ba、W及びYからなる群より選択される1種以上の金属元素を表し、a、b、c、d、e及びαは、それぞれ、−0.04≦a≦0.04、0.80≦b<1.00、0.01≦c≦0.04、0<d<0.20、b+c+d+e=1、及び、−0.2<α<0.2を満たす数である。]で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を含むリチウムイオン二次電池用正極活物質」とは、「下記組成式(1);Li1+aNibCocMndMeO2+α ・・・(1)[但し、組成式(1)において、Mは、Al、Ti、Zn、Ga、Zr、Mo、Nb、V、Sn、Ta、Ba、W及びYからなる群より選択される1種以上の金属元素を表し、a、b、c、d、e及びαは、それぞれ、−0.04≦a≦0.04、b+c+d+e=1、及び、−0.2<α<0.2を満たす数である。]で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を含むリチウムイオン二次電池用正極活物質」である点で一致する。
但し、組成式(1);Li1+aNibCocMndMeO2+αにおいて、本件特許発明1は「0.80≦b<1.00、0.01≦c≦0.04、0<d<0.20」であるのに対して、甲3発明は「Ni0.5Co0.2Mn0.3」である点で相違する。
(イ)甲3発明の「Co0.2Mn0.3」であることは、本件特許発明1の「前記組成式(1)において、c/d≦0.75を満た」すことに含まれる。
(ウ)甲3発明の「CuKα線を用いた粉末のXRD分析において、(003)面に帰属される回折ピークの半値幅が0.121°である」ことは、本件特許発明1の「CuKα線を用いた粉末X線回折スペクトルにおいて、(003)面に帰属される回折ピークの半値幅が0.130°以下である」ことに含まれる。

以上によれば、本件特許発明1と甲3発明とは、次の一致点及び相違点を有する。
(一致点)
「下記組成式(1);
Li1+aNibCocMndMeO2+α ・・・(1)
[但し、組成式(1)において、Mは、Al、Ti、Zn、Ga、Zr、Mo、Nb、V、Sn、Ta、Ba、W及びYからなる群より選択される1種以上の金属元素を表し、a、b、c、d、e及びαは、それぞれ、−0.04≦a≦0.04、b+c+d+e=1、及び、−0.2<α<0.2を満たす数である。]で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を含むリチウムイオン二次電池用正極活物質であって、
前記組成式(1)において、c/d≦0.75を満たし、
CuKα線を用いた粉末X線回折スペクトルにおいて、(003)面に帰属される回折ピークの半値幅が0.130°以下であるリチウムイオン二次電池用正極活物質。」

(相違点1c)
組成式(1);Li1+aNibCocMndMeO2+αにおいて、本件特許発明1は「0.80≦b<1.00、0.01≦c≦0.04、0<d<0.20」であるのに対して、甲3発明は「Ni0.5Co0.2Mn0.3」である点。

イ 判断
(ア)上記相違点1cについて検討する。
甲第3号証はNi、Co及びMnの組成比に関して、「化学式1の化合物の例としては、Li1.05Ni0.5Co0.2Mn0.3O2, Li1.05Ni0.4Co0.2Mn0.4O2, またはLi1.05Ni0.333Co0.333Mn0.333O2が挙げられる。」(【0046】)、「[化学式3]LixCoaNibMncO2+α前記化学式3で、0.9<x<1.1、0<a<0.5、0.4<b<1、0<c<0.5、−0.1≦α≦0.1である。」(【0048】)と記載されているに留まり、それ以上の具体的な組成比について示唆はない。
そうすると、甲3発明において、Ni、Co及びMnの含有量を大幅に変化させて、「Ni0.5Co0.2Mn0.3」から、Niの組成比b、Coの組成比c及びMnの組成比dについて、「0.80≦b<1.00、0.01≦c≦0.04、0<d<0.20」にして上記相違点1cに係る構成を得る動機はない。また、組成により回折ピークの半値幅は変化するものと認められるから、Ni、Co及びMnの含有量を大幅に変化させた場合、大幅に変化後の組成において、(003)面に帰属される回折ピークの半値幅が0.130°以下と特定し得るものとは認められない。
と推定し得るものとは認められない。
そして、甲第6号証〜甲第12号証にも、リチウムイオン二次電池の正極活物質において、Ni、Co及びMnの含有量を変化させて、「Ni0.5Co0.2Mn0.3」から、組成式(1);Li1+aNibCocMndMeO2+αにおいて「0.80≦b<1.00、0.01≦c≦0.04、0<d<0.20」とすることは記載も示唆もされていない。
したがって、上記相違点1cに係る構成は、甲3発明及び甲第6号証〜甲第12号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たこととはいえない。

(イ)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人の主張は、上記「1(1)イ(イ)a」のとおりである。
ここで、甲第9号証〜甲第11号証には、組成式;Li1+aNibCocMndMeO2+αにおいて「0.80≦b<1.00、0.01≦c≦0.04、0<d<0.20」を満たすものは記載されていない。
また、甲第12号証には、金属の割合がLi1Ni0.9Co0.01Mn0.09である実施例1及び20(表1)が記載されているが、(003)面に帰属される回折ピークの半値幅が0.17°(実施例1)及び0.15°(実施例20)であり、甲第12号証に記載の技術を適用しても、甲3発明において、(003)面に帰属される回折ピークの半値幅が0.130°以下の特性を維持できるとはいえない。
したがって、甲第6号証〜甲第8号証に記載されているような周知の事項に基づいて、甲3発明に甲第9号証〜甲第12号証に記載された技術を適用しても、上記相違点1cに係る構成を得ることはできない。
よって、特許異議申立人の主張を採用することができない。

(ウ)よって、本件特許発明1は、甲第3号証に記載された発明及び甲第6号証〜甲第12号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

(2)本件特許発明5、6について
甲第4号証には、リチウム複合酸化物を含む正極活物質において、比表面積が、0.38m2/g以上1.05m2/g以下であることが記載されているが(請求項1)、上記相違点1cに係る構成は記載されていない。
そして、請求項5、6は請求項1を引用するものであり、本件特許発明5、6は、本件特許発明1に係る全ての構成を備え、さらに構成を付加したものであるから、本件特許発明1と同様な理由により、甲第3号証に記載された発明、甲第4号証及び甲第6号証〜甲第12号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

4 甲第4号証に記載された発明について
(1)本件特許発明1
ア 対比
本件特許発明1と甲4発明を対比すると、次のことがいえる。
(ア)本件特許明細書の段落【0039】の記載によれば、本件特許発明1の組成式(1)におけるMの係数eは0を含むものである。
そこで、本件特許発明1においてMの係数eが0の場合について検討する。
甲4発明の「組成式:LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2で表され」る「リチウムイオン二次電池用正極活物質」と本件特許発明1の「下記組成式(1);Li1+aNibCocMndMeO2+α ・・・(1)[但し、組成式(1)において、Mは、Al、Ti、Zn、Ga、Zr、Mo、Nb、V、Sn、Ta、Ba、W及びYからなる群より選択される1種以上の金属元素を表し、a、b、c、d、e及びαは、それぞれ、−0.04≦a≦0.04、0.80≦b<1.00、0.01≦c≦0.04、0<d<0.20、b+c+d+e=1、及び、−0.2<α<0.2を満たす数である。]で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を含むリチウムイオン二次電池用正極活物質」とは、
組成式(1);Li1+aNibCocMndMeO2+αにおいて、本件特許発明1は「0.01≦c≦0.04」であるのに対して、甲4発明は「Co0.1」(即ち、c=0.1)である点で相違し、その余の点で一致する。
(イ)本件特許発明1は「前記組成式(1)において、c/d≦0.75を満た」すのに対して、甲4発明は「Co0.1Mn0.1」(即ち、c/d=1)である点で相違する。
(ウ)粉末X線回折においてCuKα線を用いることは一般的なことなので、甲4発明の「X線回折における(003)面に帰属される回折ピークの半値幅が0.1071°である」ことは、本件特許発明1の「CuKα線を用いた粉末X線回折スペクトルにおいて、(003)面に帰属される回折ピークの半値幅が0.130°以下である」ことに含まれる。

以上によれば、本件特許発明1と甲4発明とは、次の一致点及び相違点を有する。
(一致点)
「下記組成式(1);
Li1+aNibCocMndMeO2+α ・・・(1)
[但し、組成式(1)において、Mは、Al、Ti、Zn、Ga、Zr、Mo、Nb、V、Sn、Ta、Ba、W及びYからなる群より選択される1種以上の金属元素を表し、a、b、c、d、e及びαは、それぞれ、−0.04≦a≦0.04、0.80≦b<1.00、0<d<0.20、b+c+d+e=1、及び、−0.2<α<0.2を満たす数である。]で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を含むリチウムイオン二次電池用正極活物質であって、
CuKα線を用いた粉末X線回折スペクトルにおいて、(003)面に帰属される回折ピークの半値幅が0.130°以下であるリチウムイオン二次電池用正極活物質。」

(相違点1d)
組成式(1);Li1+aNibCocMndMeO2+αにおいて、本件特許発明1は「0.01≦c≦0.04」であるのに対して、甲4発明は「Co0.1」(即ち、c=0.1)である点。
(相違点2d)
本件特許発明1は「前記組成式(1)において、c/d≦0.75を満た」すのに対して、甲4発明は「Co0.1Mn0.1」(即ち、c/d=1)である点。

イ 判断
上記相違点1d及び2dに係る本件特許発明1の構成は、上記「1」で判断した相違点1a及び2aに係る本件特許発明1の構成と同じであるから、「1(1)イ(ア)」で検討したのと同様な理由により、本件特許発明1は、甲4発明及び甲第6号証〜甲第12号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

ウ 上記「ア」及び「イ」で検討したことを踏まえると、同様な理由により、本件特許発明1は、甲4’発明及び甲第6号証〜甲第12号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

エ よって、本件特許発明1は、甲第4号証に記載された発明及び甲第6号証〜甲第12号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

(2)本件特許発明2ないし6について
甲第3号証には「前記ニッケル系リチウム遷移金属酸化物でリチウムサイトを占有しているニッケルイオンの占有率が0.4原子%以下」(【0037】)と記載されているものの上記相違点1dに係る構成は記載されていない。
甲第5号証には「a軸の格子定数が2.874オングストローム以上であることが好ましい。」(【0022】)と記載されているものの上記相違点1dに係る構成は記載されていない。
そして、請求項2ないし6は請求項1を引用するものであり、本件特許発明2ないし6は、本件特許発明1に係る全ての構成を備え、さらに構成を付加したものであるから、本件特許発明1と同様な理由により、甲第4号証に記載された発明、甲第3号証及び甲第5号証〜甲第12号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

5 甲第12号証に記載された発明について
(1)本件特許発明1
ア 対比
本件特許発明1と甲12発明を対比すると、次のことがいえる。
(ア)本件特許明細書の段落【0039】の記載によれば、本件特許発明1の組成式(1)におけるMの係数eは0を含むものである。
そこで、本件特許発明1においてMの係数eが0の場合について検討する。
甲12発明の「組成式:LiNi0.9Co0.01Mn0.09O2で表され」る「リチウムイオン二次電池用正極活物質」は、本件特許発明1の「下記組成式(1);Li1+aNibCocMndMeO2+α ・・・(1)[但し、組成式(1)において、Mは、Al、Ti、Zn、Ga、Zr、Mo、Nb、V、Sn、Ta、Ba、W及びYからなる群より選択される1種以上の金属元素を表し、a、b、c、d、e及びαは、それぞれ、−0.04≦a≦0.04、0.80≦b<1.00、0.01≦c≦0.04、0<d<0.20、b+c+d+e=1、及び、−0.2<α<0.2を満たす数である。]で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を含むリチウムイオン二次電池用正極活物質であって、 前記組成式(1)において、c/d≦0.75を満た」すことに相当する。
(イ)CuKα線を用いた粉末X線回折スペクトルにおいて、(003)面に帰属される回折ピークの半値幅が、本件特許発明1は「0.130°以下である」のに対して、甲12発明は「0.15°」である点で相違する。

以上によれば、本件特許発明1と甲12発明とは、次の一致点及び相違点を有する。
(一致点)
「下記組成式(1);
Li1+aNibCocMndMeO2+α ・・・(1)
[但し、組成式(1)において、Mは、Al、Ti、Zn、Ga、Zr、Mo、Nb、V、Sn、Ta、Ba、W及びYからなる群より選択される1種以上の金属元素を表し、a、b、c、d、e及びαは、それぞれ、−0.04≦a≦0.04、0.80≦b<1.00、0.01≦c≦0.04、0<d<0.20、b+c+d+e=1、及び、−0.2<α<0.2を満たす数である。]で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を含むリチウムイオン二次電池用正極活物質であって、
前記組成式(1)において、c/d≦0.75を満たす、
リチウムイオン二次電池用正極活物質。」

(相違点1e)
CuKα線を用いた粉末X線回折スペクトルにおいて、(003)面に帰属される回折ピークの半値幅が、本件特許発明1は「0.130°以下である」のに対して、甲12発明は「0.15°」である点。

イ 判断
上記相違点1eについて検討する。
甲第12号証には「正極材料に使用する上記のリチウム−遷移金属複合酸化物は、2θ=18.71±0.25゜の範囲に存在するピークの半値幅が小さいほど、その結晶構造の乱れが少なくなって高い放電容量を有するようになるため、上記のピークの半値幅が小さいほど好ましく」(【0015】)、「正極材料に使用する上記のリチウム−遷移金属複合酸化物を製造する方法は、特に上記のような方法に限られず、上記のピークの半値幅がさらに小さくなったリチウム−遷移金属複合酸化物を用いることも当然可能である。」(【0016】)と記載されているものの具体的に示された実施例1〜23には、(003)面の回折ピークの半値幅は、0.15〜0.22のものしか示されておらず、甲第12号証に記載された事項から、半値幅0.130°以下であるリチウムイオン二次電池用正極活物質を得ることができると当業者が理解し得るとは認められない。
また、甲第1号証〜甲第4号証には、いずれも、組成式(1);Li1+aNibCocMndMeO2+αにおいて、−0.04≦a≦0.04、0.80≦b<1.00、0.01≦c≦0.04、0<d<0.20、b+c+d+e=1、及び、−0.2<α<0.2、c/d≦0.75を満たすリチウムイオン二次電池用正極活物質は記載されていない。
そうすると、リチウムイオン二次電池用正極活物質が「LiNi0.9Co0.01Mn0.09O2」である甲12発明において、(003)面の回折ピークの半値幅を「0.15」から減少させる際に、甲第1号証〜甲第4号証の記載された技術を適用する動機はない。
したがって、上記相違点1eに係る構成は、甲12発明に基づいて、当業者が容易になし得たこととはいえない。

よって、本件特許発明1は、甲第12号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

(2)本件特許発明2
甲第3号証には「前記ニッケル系リチウム遷移金属酸化物でリチウムサイトを占有しているニッケルイオンの占有率が0.4原子%以下」(【0037】)と記載されているものの組成式(1);Li1+aNibCocMndMeO2+αにおいて、−0.04≦a≦0.04、0.80≦b<1.00、0.01≦c≦0.04、0<d<0.20、b+c+d+e=1、及び、−0.2<α<0.2、c/d≦0.75を満たすリチウムイオン二次電池用正極活物質は記載されていない。
そして、請求項2は請求項1を引用するものであり、本件特許発明2は、本件特許発明1に係る全ての構成を備え、さらに構成を付加したものであるから、本件特許発明1と同様な理由により、甲第12号証に記載された発明に及び甲第3号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

(3)本件特許発明3,6について
請求項3、6は請求項1を引用するものであり、本件特許発明3、6は、本件特許発明1に係る全ての構成を備え、さらに構成を付加したものであるから、本件特許発明1と同様な理由により、甲第12号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

(4)本件特許発明4について
甲第5号証には「a軸の格子定数が2.874オングストローム以上であることが好ましい。」(【0022】)と記載されているものの上記相違点1eに係る構成は記載されていない。
そして、請求項4は請求項1を引用するものであるから、本件特許発明4は、本件特許発明1と同様な理由により、甲第12号証に記載された発明及び甲第5号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

6 まとめ
以上のとおりであるから、請求項1ないし6に係る特許は、いずれも特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるということができず、同法第113条第2号により取り消すことができない。

第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2024-01-25 
出願番号 P2020-505020
審決分類 P 1 651・ 121- Y (H01M)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 山田 正文
特許庁審判官 山本 章裕
須原 宏光
登録日 2023-05-01 
登録番号 7272345
権利者 株式会社プロテリアル
発明の名称 リチウムイオン二次電池用正極活物質及びリチウムイオン二次電池  
代理人 弁理士法人磯野国際特許商標事務所  

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