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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B29C
審判 全部申し立て 2項進歩性  B29C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B29C
管理番号 1406727
総通号数 26 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2024-02-22 
種別 異議の決定 
異議申立日 2023-09-07 
確定日 2024-02-01 
異議申立件数
事件の表示 特許第7236554号発明「湾曲部材の製造方法、及び、熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7236554号の請求項1〜10に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7236554号(以下「本件特許」という。)の請求項1〜10に係る特許についての出願(特願2021−551180号)は、2020年(令和2年)9月25日(優先権主張 令和元年10月9日)を国際出願日とする国際出願であって、令和5年3月1日にその特許権の設定登録がされ、令和5年3月9日に特許掲載公報が発行された。
その後、特許掲載公報の発行の日から6月以内である令和5年9月7日に、本件特許の請求項1〜10に係る特許に対し、特許異議申立人 金山 愼一(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。


第2 本件特許発明
特許第7236554号の請求項1〜10の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」〜「本件特許発明10」といい、総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1〜10に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
厚みが0.1mm〜20mmであるポリカーボネート樹脂基材層(A層)の少なくとも一方の面に、浸透層(B層)と、ハードコート層(C層)がこの順に積層され、かつ、下記(a)〜(d)の要件を満たす熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体を準備する工程と、
準備した熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体のポリカーボネート樹脂のガラス転移温度をTg(℃)としたとき、Tgより5℃高い温度以上Tgより70℃高い温度以下で前記熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体を予備加熱する工程と、
前記予備加熱する工程で得られた熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体に圧力を作用させて湾曲させる工程と、
を含む、湾曲部材の製造方法。
(a)前記B層は、前記A層の全成分および前記C層の成分の少なくとも一部を含む。
(b)前記B層の厚みが、2μm〜9μmである。
(c)前記B層と前記C層の厚みの合計に対する前記B層の厚みの割合が20%〜70%である。
(d)前記C層は、多官能(メタ)アクリレート、並びに、無機微粒子及び珪素化合物加水分解縮合物の少なくとも一方を含み、
前記多官能(メタ)アクリレート、並びに、無機微粒子及び珪素化合物加水分解縮合物の少なくとも一方の合計量に対して、前記多官能(メタ)アクリレートの含有量が35質量%〜95質量%であり、前記無機微粒子及び珪素化合物加水分解縮合物の少なくとも一方の含有量が5質量%〜65質量%である。
【請求項2】
前記湾曲させる工程が、前記熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体の少なくとも片方のC層側が凸面状になるように湾曲させる工程を含む、請求項1に記載の湾曲部材の製造方法。
【請求項3】
前記予備加熱する工程の前に、前記熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体のC層の表面に印刷する工程を含む、請求項1又は請求項2に記載の湾曲部材の製造方法。
【請求項4】
前記A層におけるポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量が、20,000〜30,000である、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の湾曲部材の製造方法。
【請求項5】
前記B層と前記C層の厚みの合計が、10μm〜32μmである、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の湾曲部材の製造方法。
【請求項6】
前記多官能(メタ)アクリレートの(メタ)アクリロイル基の付加重合反応率が、30%〜70%である、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の湾曲部材の製造方法。
【請求項7】
厚みが0.1mm〜20mmであるポリカーボネート樹脂基材層(A層)の少なくとも一方の面に、浸透層(B層)と、ハードコート層(C層)がこの順に積層され、かつ、下記(a)〜(d)の要件を満たし、前記B層が前記A層及び前記C層に接している、請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の製造方法に用いるための、熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体。
(a)前記B層は、前記A層の全成分および前記C層の成分の少なくとも一部を含む。
(b)前記B層の厚みが、2μm〜9μmである。
(c)前記B層と前記C層の厚みの合計に対する前記B層の厚みの割合が20%〜70%である。
(d)前記C層は、多官能(メタ)アクリレート、並びに、無機微粒子及び珪素化合物加水分解縮合物の少なくとも一方を含み、
前記多官能(メタ)アクリレート、並びに、無機微粒子及び珪素化合物加水分解縮合物の少なくとも一方の合計量に対して、前記多官能(メタ)アクリレートの含有量が35質量%〜95質量%であり、前記無機微粒子及び珪素化合物加水分解縮合物の少なくとも一方の含有量が5質量%〜65質量%である。
【請求項8】
前記A層におけるポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量が、20,000〜30,000である、請求項7に記載の熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体。
【請求項9】
前記B層と前記C層の厚みの合計が、10μm〜32μmである、請求項7又は請求項8に記載の熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体。
【請求項10】
前記多官能(メタ)アクリレートの(メタ)アクリロイル基の付加重合反応率が、30%〜70%である、請求項7〜請求項9のいずれか1項に記載の熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体。」


第3 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和5年9月7日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。

1 申立理由1
(1) 本件特許の請求項1〜10に係る発明は、優先権主張の基礎となった先の出願(以下、単に「先の出願」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1〜10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

(2) 証拠方法
甲1:特開2018−34561号公報(合議体注:「甲第1号証」を「甲1」と略す。以下、甲第2号証〜甲第18号証についても同様。)
甲2:特開2001−114916号公報
甲3:特開平11−78515号公報
甲4:特開2005−178035号公報
甲5:国際公開第2011/049186号
甲6:大津 理人 他,「高耐候性UV硬化型樹脂の開発とその応用」,色材協会誌,第86巻,第9号,2013年9月20日,p.340〜344
甲7:篠原 宣康 他,「有機無機ハイブリッドコート材の耐擦傷性の定量的評価」,JSR株式会社,テクニカルレビュー,No.112,2005年3月,p.7〜11
甲8:特開2015−112812号公報
甲9:特開平10−95937号公報
甲10:国際公開第2015/093516号
甲11:特開2019−11390号公報
甲12:伊藤 彰彦 他,「放射線を利用したプラスチックの透明コーティング」,日本原子力学会誌,第16巻,第6号,1974年6月30日,p.312〜314
甲13:「アクリレートモノマー メタクリレートモノマー」,[online],ダイセル・オルネクス株式会社ホームページ,2023年8月28日(印刷日),インターネット<URL:http://www.daicel-allnex.com/products/product01.html>
甲14:稲田和正,「(メタ)アクリレート系光硬化型樹脂の密着性」,東亞合成グループ研究年報TREND2006,第9号,2006年1月1日,p.19−24
甲15:「プラスチック基材を中心としたハードコート膜における材料設計・塗工技術と硬度の向上」,株式会社技術情報協会,2005年4月28日発行,p.292〜293
甲16:「耐化学薬品性」,[online],ターソンズ製品日本総代理店,東栄株式会社ホームページ,2023年9月4日(印刷日),インターネット<URL:https://tarsons.jp/page03-04.html>
甲17:「ポリカーボネートプレート −総合技術資料−」,タキロンシーアイ株式会社,2021年5月1日改訂(1981年4月21日初版)
甲18:特開2011−42071号公報

2 申立理由2
本件特許の請求項1〜10に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものでなく、また、発明の詳細な説明は、請求項1〜10に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。したがって、本件特許は、特許法第36条第6項第1号及び同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、特許法第113条第4号に該当するから、取り消されるべきである。

3 申立理由3
本件特許の請求項1〜10に係る発明は明確でないから、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであり、特許法第113条第4号に該当するから、取り消されるべきである。


第4 当合議体の進歩性についての判断
1 甲1の記載
甲1には、以下の記載がある(なお、合議体が発明の認定等に用いた箇所に下線を付した。)。
(1) 「【請求項1】
熱可塑性樹脂を含む材料を用いて形成された基材と、前記基材の少なくとも一方の面側に設けられたコート層とを有する窓用部材であって、
当該窓用部材は、JIS K 6735に規定された方法に準拠して測定された加熱収縮率が5%以下であることを特徴とする窓用部材。
・・・略・・・
【請求項10】
前記コート層に、サンシャインウエザオメーターを用いて紫外線を3000時間照射した後において、下記要件Aを満足する請求項1ないし9のいずれか1項に記載の窓用部材。
要件A:当該窓用部材は、ASTM D673で規定された落砂摩耗試験に準拠して規定砂800[g]を前記コート層に向かって落下させ、前記落砂摩耗試験前のヘイズと前記落砂摩耗試験後のヘイズとの大きさの差をヘイズ増加量(800[g])としたとき、該ヘイズ増加量(800[g])が10以下となる。
【請求項11】
前記コート層に、サンシャインウエザオメーターを用いて紫外線を3000時間照射した後において、下記要件Bを満足する請求項1ないし10のいずれか1項に記載の窓用部材。
要件B:当該窓用部材は、JIS K 5600−5−6で規定されたクロスカット法により、格子状に切断されたコート層の基材に対する付着性が90%以上となる。」

(2) 「【技術分野】
【0001】
本発明は、窓用部材および車両に関する。
・・・略・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記のような基材の表面に塗工処理を施すことでコート層を形成した窓用部材(風防板)は、ある程度の熱成形性が維持されているものの、その一部または全部を、曲面形状に熱成形された成形部を備えるものとすると、基材とコート層との間で剥離が生じたり、窓用部材に印刷面を印刷した後に、成形部を形成する構成とすると、この印刷面にズレが生じたりすると言う問題があった。
【0008】
そこで、本発明の目的は、窓用部材を曲面形状に熱成形された成形部を備えるものとしても、成形部における、基材とコート層との間での剥離の発生や、印刷面のズレの発生を的確に抑制または防止することができる窓用部材、および、かかる窓用部材を備える信頼性に優れた車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような目的は、下記(1)〜(14)に記載の本発明により達成される。
(1) 熱可塑性樹脂を含む材料を用いて形成された基材と、前記基材の少なくとも一方の面側に設けられたコート層とを有する窓用部材であって、
当該窓用部材は、JIS K 6735に規定された方法に準拠して測定された加熱収縮率が5%以下であることを特徴とする窓用部材。
・・・略・・・
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、窓用部材を曲面形状に熱成形された成形部を備えるものとしても、成形部における、基材とコート層との間での剥離の発生や、印刷面のズレの発生を的確に抑制または防止することができる窓用部材とすることができる。したがって、かかる窓用部材を備える車両を優れた信頼性を有するものとすることができる。
・・・略・・・
【発明を実施するための形態】
【0024】
・・・略・・・
【0025】
本発明の窓用部材は、熱可塑性樹脂を含む材料を用いて形成された基材と、この基材の少なくとも一方の面側に設けられたコート層とを有するものであり、JIS K 6735に規定された方法に準拠して測定された加熱収縮率が5%以下であることを特徴とする。
【0026】
なお、この加熱収縮率は、本明細書中では、特に方向を規定しない場合、窓用部材の面方向に沿って測定される各加熱収縮率のうち、最大値のことを言う。
【0027】
このように、窓用部材の加熱収縮率が前記上限値以下であれば、窓用部材を曲面形状に熱成形された成形部を備えるものとしても、成形部における、基材とコート層との間での剥離の発生を的確に抑制または防止することができる。その結果、窓用部材を優れた耐候性を備えるものとすることができる。また、窓用部材に印刷を施して印刷面を形成した場合、この印刷面のズレの発生を的確に抑制または防止することができる。
【0028】
この窓用部材は、熱成形性に優れるものであり、例えば、車両に用いられる車両用窓用部材であり、車両とは、人、または物を乗せて移動や作業をする乗り物全般を指す。例えば、乗用車・・・略・・・飛行機・・・略・・・の各種乗物等を含むものである。
・・・略・・・
【0032】
以下、本発明の窓用部材をオートバイ等が備える風防板(車両用風防板)に適用した場合ついて詳述する。
【0033】
<<第1実施形態>>
まず、本発明の窓用部材を風防板に適用した第1実施形態について説明する。
【0034】
図1は、本発明の窓用部材を風防板に適用した第1実施形態を示す図((a)平面図、(b)側面図、(c)図1(a)中のA−A線断面図)である。
・・・略・・・
【0037】
この本体部151において、上面は、湾曲凸面で構成され、後面は、湾曲凹面で構成されており、これにより、本体部151は、前面側に突出して湾曲する湾曲形状(曲面形状)をなしている。
・・・略・・・
【0043】
かかる構成の風防板100は、図1(c)に示すように、熱可塑性樹脂を含む材料を用いて形成された基材1と、この基材1の前面側に設けられたコート層2とを有している。すなわち、コート層2は、基材1の前面(一方の面)側に選択的に設けられている。
・・・略・・・
【0050】
<コート層>
コート層2(ハードコート層)は、本実施形態では、図1(c)に示すように、基材1の前面に形成され、樹脂組成物を用いて形成されたものであり、風防板100に優れた耐候性、耐久性、耐擦傷性、熱成形性を付与するために設けられたものである。
【0051】
このように、風防板100において、基材1の前面(一方の面)にコート層2が形成される場合、この風防板100を車両用風防板に適用した際には、オートバイ等(車両)を利用する人に対して、基材1を人側、コート層2を車両の外側にして配置することが好ましい。より具体的には、風防板100を、コート層2は、前面に設けられることが好ましい。
【0052】
このコート層2を形成するために用いられる樹脂組成物は、本実施形態では、シリコン変性(メタ)アクリル樹脂を含む。このように樹脂組成物が、シリコン変性(メタ)アクリル樹脂を含むことにより、コート層2の表面硬度が高くなり、優れた耐擦傷性、さらには、優れた耐候性を風防板100に付与することができる。
【0053】
また、このシリコン変性(メタ)アクリル樹脂を含む樹脂組成物の種類を適宜選択することにより、後述するような、加熱収縮率が5%以下となっている基材1を用いた場合、この基材1を備える風防板100の加熱収縮率をより小さくできる。すなわち、コート層2は、このものを形成するために用いられる樹脂組成物の種類を適宜選択することにより、基材1が加熱収縮することに起因して生じる風防板100の加熱収縮率を低下させるための層としても機能するが、その詳細な説明については、後に行うこととする。
【0054】
以下、このコート層2を形成するために用いられる樹脂組成物について詳述する。
(シリコン変性(メタ)アクリル樹脂)
シリコン変性(メタ)アクリル樹脂(シロキサン変性(メタ)アクリレート)は、(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリルモノマーに由来する構成単位が繰り返された主鎖と、この主鎖に連結し、シロキサン結合を有する構成単位が繰り返された繰り返し体(副鎖)とを有するポリマー(プレポリマー)である。
【0055】
すなわち、主鎖としての(メタ)アクリル系化合物と、副鎖としてのシロキサン結合(−Si−O−Si−)を有する化合物とが連結したポリマー(プレポリマー)である。
【0056】
シリコン変性(メタ)アクリル樹脂は、前記主鎖を有することにより、コート層2に優れた透明性を付与し、また、前記シロキサン結合を有する構成単位が繰り返された繰り返し体を有することにより、コート層2に優れた耐擦傷性および耐候性を付与することができる。
【0057】
シリコン変性(メタ)アクリル樹脂の主鎖としては、具体的には、下記式(1)および式(2)の少なくとも一方の(メタ)アクリロイル基を有するモノマーに由来する構成単位の繰り返しで構成されているものが挙げられる。
【0058】
【化1】

(式(1)中、nは、1以上の整数を示し、R1は、独立して炭化水素基、有機基、または水素原子を示し、R0は、独立して炭化水素基または水素原子を示す。)
【0059】
【化2】

(式(2)中、mは、1以上の整数を示し、R2は、独立して炭化水素基、有機基、または水素原子を示し、R0は、独立して炭化水素基または水素原子を示す。)
【0060】
【化3】

(式(12)中、m、nは、1以上の整数を示し、R1、R2、R3は、それぞれ独立して炭化水素基、有機基、または水素原子を示し、R0は、独立して炭化水素基または水素原子を示す。)
【0061】
また、前記主鎖の末端または側鎖には、水酸基(−OH)を有することが好ましい。すなわち、前記式(1)、式(2)または式(12)の場合には、R1および/またはR2が水素であることが好ましい。これにより、後述する基材1としてポリカーボネート系樹脂を用いた場合には、コート層2とポリカーボネート系樹脂との密着性を向上させることができる。したがって、コート層2の基材1に対する密着性が高まることから、平板を湾曲させることにより熱成形して風防板100を構成する本体部(中央部)151、側面部152および連結部153を形成する際に、基材1からコート層2が不本意に剥離することを防ぐことができる。そのため、風防板100の耐擦傷性および耐候性のさらなる向上を図ることができる。また、樹脂組成物中に後述するイソシアネート(イソシアネート基を有する硬化剤)が含まれる場合には、前記水酸基は硬化剤が有するイソシアネート基と反応してウレタン結合による架橋構造を形成する。これより、樹脂組成物の硬化を促進させることができ、コート層2の形成に寄与することができる。
【0062】
また、かかる構成の主鎖の少なくとも1つの末端または側鎖には、シロキサン結合を有する構成単位が繰り返された繰り返し体(副鎖)が結合している。
【0063】
シロキサン結合は、結合力が高いため、シリコン変性(メタ)アクリル樹脂が、シロキサン結合を有する構成単位が繰り返された繰り返し体を有することにより、耐熱性、耐候性がより良好なコート層2を得ることができる。また、シロキサン結合の結合力が高いことで、硬質なコート層2を得ることができるため、風防板100の砂ほこりや飛び石等の衝撃に対する耐擦傷性をさらに増大させることができる。
【0064】
シロキサン結合を有する構成単位が繰り返された繰り返し体としては、具体的には、下記式(3)および式(4)の少なくとも一方のシロキサン結合を有する構成単位の繰り返しで構成されているものが挙げられる。
【0065】
【化4】

(式(3)中、X1は、炭化水素基または水酸基を示す。)
【0066】
【化5】

(式(4)中、X2は、炭化水素基または水酸基を示し、X3は、炭化水素基または水酸基から水素が離脱した2価の基を示す。)
【0067】
前記シロキサン結合を有する構成単位が繰り返された繰り返し体としては、具体的には、ポリオルガノシロキサンを有するものや、シルセスキオキサンを有するものが挙げられる。
・・・略・・・
【0068】
前記炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基等のアルキル基、シクロプロピル基・・・・略・・・等のシクロアルキル基、フェニル基・・・略・・・等のアリール基、ベンジル基・・・略・・・等のアラルキル基、フェニル基、ビフェニル基等が挙げられる。
【0069】
また、シロキサン結合を有する構成単位が繰り返された繰り返し体の末端または側鎖には、不飽和二重結合が導入されていることが好ましい。これにより、樹脂組成物中に後述するウレタン(メタ)アクリレートが含まれる場合、このウレタン(メタ)アクリレートが有する(メタ)アクリロイル基と結合して、シリコン変性(メタ)アクリル樹脂とウレタン(メタ)アクリレートとのネットワークを形成することができる。そのため、コート層2において、シリコン変性(メタ)アクリル樹脂とウレタン(メタ)アクリレートとがより均一に分散し、その結果、コート層2は、前述した特性をその全体にわたってより均一に発現することができる。
【0070】
前記樹脂組成物中におけるシリコン変性(メタ)アクリル樹脂の含有量は、特に限定されないが、前記樹脂組成物100質量部中、5質量部以上45質量部以下であることが好ましく、11質量部以上28質量部以下であることがより好ましい。前記樹脂組成物中におけるシリコン変性(メタ)アクリル樹脂の含有量が前記下限値未満であると、前記樹脂組成物により得られたコート層2の硬さが低下する場合がある。また、前記樹脂組成物中におけるシリコン変性(メタ)アクリル樹脂の含有量が前記上限値を超えると、前記樹脂組成物中におけるシリコン変性(メタ)アクリル樹脂以外の材料の含有量が相対的に減ってしまい、前記樹脂組成物を用いて形成されたコート層2の撓み性が低下してしまう可能性がある。
・・・略・・・
【0074】
(ウレタン(メタ)アクリレート)
また、樹脂組成物は、さらに、ウレタン(メタ)アクリレートを含むものであることが好ましい。
・・・略・・・
【0079】
かかる構成のウレタン(メタ)アクリレートは、ウレタン結合を有するため、柔軟性に優れた化合物である。このため、コート層2がウレタン(メタ)アクリレートを含むことで、コート層2にさらなる撓み性(柔軟さ)を付与することができる。そのため、熱成形して風防板100を構成する本体部151、側面部152および連結部153を形成する際に生じる湾曲部におけるクラックの発生を的確に抑制することができる。
・・・略・・・
【0090】
((メタ)アクリレートモノマー)
また、樹脂組成物は、さらに(メタ)アクリレートモノマーを含むものであることが好ましい。
【0091】
シリコン変性(メタ)アクリル樹脂が備える、シロキサン結合を有する構成単位が繰り返された繰り返し体の末端または側鎖に不飽和二重結合が導入されている場合、樹脂組成物中に(メタ)アクリレートモノマーが含まれることで、この(メタ)アクリレートモノマーが有する(メタ)アクリロイル基と不飽和二重結合とが結合して、シリコン変性(メタ)アクリル樹脂と(メタ)アクリレートモノマーとのネットワークが形成され、その結果、樹脂組成物が硬化することでコート層2が形成される。
【0092】
以上のようにして形成されるコート層2において、基材1とコート層2との密着性が向上する。そのため、熱成形により風防板100を構成する本体部(中央部)151、側面部152および連結部153を形成する際に、コート層2の基材1からの剥離が生じにくくなる。また、コート層2の表面硬度が高くなり、その結果、コート層2に優れた耐擦傷性を付与することができる。さらに、(メタ)アクリレートモノマーは、反応性希釈剤としての機能も果たすため、樹脂組成物の粘度を低下させ、樹脂組成物中に含まれる他の構成材料を(メタ)アクリレートモノマー中に均一に分散させる機能を発揮する。
・・・略・・・
【0094】
なお、これらのうち、3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能(メタ)アクリレートモノマーを用いることにより、樹脂組成物から得られるコート層2において、多官能(メタ)アクリレートモノマー同士が架橋され、三次元架橋構造を形成することに起因して、コート層2の硬度がより高くなる。その結果、コート層2により優れた耐擦傷性を付与することができる。
【0095】
また、2個の(メタ)アクリロイル基を有する多官能(メタ)アクリレートモノマーは、3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能(メタ)アクリレートモノマーと比較して低粘度であるため、樹脂組成物の希釈剤として寄与する。このため、2個の(メタ)アクリロイル基を有する多官能(メタ)アクリレートモノマーを含むことにより、樹脂組成物のさらなる低粘度化を図ることができ、樹脂組成物の取扱性をより向上させることができる。
【0096】
樹脂組成物中における(メタ)アクリレートモノマーの含有量は、特に限定されないが、前記樹脂組成物100質量部中、15質量部以上55質量部以下であることが好ましく、27質量部以上55質量部以下であることがより好ましい。
【0097】
樹脂組成物中における(メタ)アクリレートモノマーの含有量が前記下限値未満の場合、(メタ)アクリレートモノマーの種類によっては、基材1とコート層2の密着性が不足するおそれがある。そのため、熱成形により風防板100を構成する本体部(中央部)151、側面部152および連結部153を形成する際にコート層2が基材1から剥離しやすくなるおそれがある。さらには、コート層2の架橋密度が低下する場合があり、風防板100の耐擦傷性が低下するおそれがある。また、樹脂組成物中における(メタ)アクリレートモノマーの含有量が前記上限値超える場合、(メタ)アクリレートモノマーの種類によっては、熱成形する際にコート層2が伸びずに割れてしまう可能性がある。
【0098】
(イソシアネート)
また、樹脂組成物は、さらにイソシアネートを含むものであることが好ましい。
・・・略・・・
【0100】
以上のようにして形成されるコート層2において、水酸基とイソシアネート基とが結合することにより形成されるネットワークを構築することができるため、コート層2の耐擦傷性および耐候性をより向上させることができる。
・・・略・・・
【0103】
(その他の材料)
さらに、樹脂組成物には、上述した各種材料以外に、その他の材料が含まれていてもよい。
【0104】
その他の材料としては、特に限定されないが、例えば、前記シリコン変性(メタ)アクリル樹脂以外の樹脂材料、光重合開始剤、紫外線吸収剤、着色剤、増感剤、安定剤、界面活性剤、酸化防止剤、還元防止剤、帯電防止剤、表面調整剤、親水化添加剤、充填材および溶剤等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0105】
((紫外線吸収剤))
なお、樹脂組成物は、さらに、紫外線吸収剤を含むことにより、樹脂組成物から得られるコート層2の耐候性をより優れたものとすることができる。
・・・略・・・
【0112】
また、溶剤としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール、メチルエチルケトン、2−ぺンタノン、イソホロン、ジイソブチルケトンなどのケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸メトキシプロピルなどのエステル、エチルセロソルブなどのセロソルブ系溶剤、メトキシプロパノール、エトキシプロパノール、メトキシブタノールなどのグリコール系溶剤などが挙げられる。・・・略・・・溶剤の主成分として炭化水素系、ケトン系、エステル系を使用することがより好ましい。
【0113】
以上のような樹脂組成物の硬化物で構成されるコート層2の平均厚さは、特に限定されないが、1μm以上50μm以下であることが好ましく、2μm以上30μm以下であることがより好ましく、5μm以上20μm以下であることがさらに好ましい。コート層2の厚さが前記下限値未満であると、風防板100の耐候性が低下する場合がある。一方、コート層2の厚さが前記上限値を超えると、熱成形して風防板100を構成する本体部151、側面部152および連結部153を形成する際に生じる湾曲部においてクラックが発生する場合がある。
【0114】
<基材>
基材1は、熱可塑性樹脂を含む材料を用いて形成されたものであり、風防板100に軽量性、透明性、加工性および割れにくさ(耐衝撃性)と割れた場合の安全性を付与するものである。
【0115】
熱可塑性樹脂としては、特に限定されず、例えば、ポリスチレン系樹脂・・・略・・・ポリカーボネート系樹脂・・・略・・・等が挙げられ、・・・略・・・。これらの中でも、特にポリカーボネート系樹脂であるのが好ましい。ポリカーボネート系樹脂の硬化物は、透明性(透光性)や剛性等の機械的強度に富むため、基材1にポリカーボネート系樹脂を用いることで、風防板100の透明性や耐衝撃性を向上させることができる。また、ポリカーボネート系樹脂は、その比重が1.2程度であり、樹脂材料のなかでも軽いものに分類されることから、基材1を、ポリカーボネート系樹脂を主材料として構成されるものとすることで、基材1ひいては風防板100の軽量化が図られる。さらに、コート層2に含まれるシリコン変性(メタ)アクリル樹脂が水酸基を有する場合、ポリカーボネート系樹脂を含む基材1とコート層2との間の密着性を向上させることができるため、基材1からコート層2が不本意に剥離することを防ぐことができる。その結果、風防板100の耐擦傷性および耐候性のさらなる向上が図られる。また、基材1にポリカーボネートが含まれることで、後述する方法を適用して基材1を製造することで、基材1ひいては風防板100の前記加熱収縮率を比較的容易に5%以下に設定することができる。
・・・略・・・
【0124】
また、基材1には、コート層2との密着性を向上させる目的で、サンドブラスト法や溶剤処理法等による表面の凹凸化処理、あるいは、コロナ放電処理、クロム酸処理、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理、電子線照射処理等の表面の酸化処理が施されていてもよい。
【0125】
この基材1は、風防板100において、後述するような風防板100の製造方法を適用することにより、本実施形態では、JIS K 6735に規定された方法に準拠して測定された加熱収縮率が5%以下のものが用いられている。これにより、風防板100の加熱収縮率を確実に5%以下に設定することができる。そのため、風防板100において、基材1とコート層2との間で剥離が発生するのを的確に抑制または防止することができる。
・・・略・・・
【0128】
基材1の厚さは、0.4mm以上15mm以下であることが好ましく、1mm以上10mm以下であることがより好ましく、3mm以上4mm以下であることがさらに好ましい。基材1の厚さが前記下限値未満であると、熱可塑性樹脂の種類によっては、風防板100の機械的強度が低下する場合があり、また、基材1の厚さが前記上限値を超えると、熱可塑性樹脂の種類によっては、風防板100を曲面形状に成形することが困難になるおそれがある。
【0129】
さらに、基材1の厚さをA[mm]とし、コート層2の厚さをB[mm]としたとき、A/Bは、300以上15000以下なる関係を満足することが好ましく、1500以上10000以下なる関係を満足することがより好ましい。これにより、風防板100の前記加熱収縮率をより確実に5%以下に設定することができる。そのため、風防板100において、基材1とコート層2との間で剥離が発生するのをより的確に抑制または防止することができる。
・・・略・・・
【0142】
<風防板の製造方法>
以上のような構成をなす風防板100は、例えば、以下のような製造方法により製造することができる。
【0143】
風防板100の製造方法は、基材を形成する基材形成工程と、基材の前面に樹脂組成物を塗布して塗布層を形成する塗布層形成工程と、塗布層を乾燥して平板を形成する平板形成工程と、平板を曲面形状に成形して風防板を得る成形工程とを有する。
【0144】
以下、各工程について説明する。
(基材形成工程)
まず、基材1を形成する。
・・・略・・・
【0168】
([A]溶融工程)
・・・略・・・
【0169】
([B]押出工程)
・・略・・・
【0176】
([C]成形工程)
次に、Tダイ600から押出された溶融シート150における前面15および後面13を平坦化する。
【0177】
・・・略・・・溶融シート150を所定の厚さに設定する。
・・・略・・・
【0181】
([D]冷却工程)
次に、前面15および後面13が平坦化された溶融シート150を冷却することで、溶融シート150を固化させることにより、基材1を得る。
・・・略・・・
【0191】
(塗布層形成工程)
次に、基材1の前面に樹脂組成物を塗布することで塗布層を形成する。
・・・略・・・
【0193】
(平板形成工程)
次に、塗布された塗布層を構成する樹脂組成物を乾燥させて硬化させることにより、コート層2を形成する。これにより、基材1の前面にコート層2が積層された平板を得る。
・・・略・・・
【0202】
(成形工程)
次に、得られた平板を、曲面形状に成形して、本体部151、側面部152および連結部153を形成することにより、風防板100を得る。
【0203】
平板を曲面形状に成形して、本体部151、側面部152および連結部153を形成する方法としては、特に限定されないが、例えば、平板を加熱し、樹脂が軟化した直後に型に押し当てる方法が挙げられる。これにより、平板に、凹凸が形成されることで、本体部151、側面部152および連結部153が設けられ、その輪郭に沿って残存している平板を取り除くことにより、図1に示す、風防板100が得られることとなる。
【0204】
この際、本発明では、得られる風防板100の前記加熱収縮率が5%以下となっている。そのため、本実施形態における、成形部としての本体部151、側面部152および連結部153を形成するときに、平板(特に、基材1)の熱収縮が抑制され、これにより、基材1とコート層2との間での密着性が向上するため、基材1とコート層2との間で剥離が発生するのを的確に抑制または防止することができる。その結果、得られた風防板100を優れた耐候性を備えるものとすることができる。また、平板の熱収縮が抑制されているため、風防板100におけるシワの発生を的確に抑制または防止することができるとともに、風防板100に印刷を施して印刷面を形成した場合には、この印刷面のズレの発生を的確に抑制または防止することができる。
【0205】
また、この際、平板が備える基材1の搬送方向と、垂直方向とが、それぞれ、形成すべき風防板100の上下方向(長手方向)と、左右方向とに沿うようにして、本体部151、側面部152および連結部153を形成する。これにより、平板に曲面形状に成形する際に、湾曲形状(曲面形状)を形成する方向を、搬送方向および垂直方向のうち、前記加熱収縮率が小さい垂直方向に沿わせることができる。その結果、湾曲形状を形成する方向(一方向)における前記加熱収縮率を確実に5%以下とすることができ、かつ、基材1中において前記加熱収縮率が小さい方向を、湾曲形状を形成する方向に一致させることができる。そのため、本体部151、側面部152および連結部153を形成する際に、基材1とコート層2との間での剥離の発生をより的確に抑制または防止することができる。」

(3) 「【実施例】
【0222】
・・・略・・・
【0223】
1.風防板の形成
(実施例1)
[1]まず、塗布層を形成するにあたり、樹脂組成物を調製した。
【0224】
具体的には、シリコン変性(メタ)アクリル樹脂とアクリレートモノマーとの混合物(商品名「MFGコートSD−101」、シリコン変性(メタ)アクリル樹脂:16質量部、アクリレートモノマー:5.5質量部、DIC株式会社製):21.5質量部とウレタン(メタ)アクリレートとして2官能ウレタンアクリレート(重量平均分子量1.3×103、粘度17000mPa・s[60℃]、商品名「EBECRYL8804」、ダイセルオルネクス製):26質量部、4官能アクリレートモノマー(商品名「NKエステルA−TMMT」、新中村化学工業株式会社製):14.7質量部、2官能アクリレートモノマー(商品名「NKエステルA−BPE−4」、新中村化学工業株式会社製):21.8質量部、イソシアネートとして3官能ポリイソシアネート(商品名「バーノックDN−992S」、DIC株式会社製):16質量部を調製して、混合体(主成分)を得た。
【0225】
さらに、得られた混合体100質量部に対して、添加物として、紫外線吸収剤(ヒドロキシフェニルトリアジン誘導体、商品名「Tinuvin400」、BASF製):6.5質量部と、表面調整剤(商品名「グラノール450」、共栄社化学社製):0.04質量部を添加し、不揮発分が30%になるように溶剤としての酢酸ブチルを加えて撹拌し、全ての成分を溶解させ、樹脂組成物を得た。
【0226】
[2]次に、熱可塑性樹脂としてポリカーボネート(商品名「ユーピロンE−2000−N」、三菱瓦斯化学工業社製)を用意し、これを、図2に示す基材製造装置500が備える押出機210に収納した後、基材製造装置500を作動させることにより、厚さ4.0mmの基材を得た。
【0227】
なお、この際の基材製造装置500が備える各部における条件は、以下のように設定した。すなわち、シート成形部800による溶融シート150の送り速度を100としたとき、シート送り部1000による溶融シート150の送り速度を105に設定した。また、シート冷却部900が備える冷却ロール310および370における冷却温度を、それぞれ、160℃、40℃とし、これらの間に位置する冷却ロール320〜360では、20℃間隔で140℃〜60℃まで段階的に低下するように設定した。
【0228】
なお、得られた基材の搬送方向(流れ方向;MD方向)および垂直方向(TD方向)の双方における加熱収縮率を、JIS K 6735に規定された方法に準拠して次のように評価した。
【0229】
得られた基材について、試料(幅150mm、長さ150mm、厚さ4mm)にコンパスで直径100mmの円を描き、90℃設定の熱風循環型オーブンで24時間加熱し乾燥させ、23℃までデシケーター中で冷却した後、乾燥後の搬送方向(流れ方向;MD方向)および垂直方向(TD方向)の双方における直径L0を測定した。その後、190℃設定の熱風循環型オーブンで60分加熱し、23℃までデシケーター中で冷却し、先に測定した円の直径個所の加熱後の直径L1を測定した。下記式(A)により、加熱収縮率S(%)を算出した。2回の平均値を求めたところ、搬送方向における加熱収縮率S(%)が5.0%であり、垂直方向における加熱収縮率S(%)が0.2%であった。
S(%)=(L0−L1)/L0×100・・・・・(A)
【0230】
[3]次に、前記工程[2]で得られた基材に、前記工程[1]で得られた樹脂組成物を、バーコーターにて乾燥後の厚さ(コート層の厚さ)が11μmになるように塗布して塗布層を得た。
【0231】
そして、塗布層が塗布された基材を65℃の熱風オーブンにて10分間乾燥させた後、FUSIONシステムズ製無電極UVランプを用い、照射距離90mm、コンベア速度2.6mm/min、照射強度200mW/cm2、積算光量700mJ/cm2という条件下で紫外線を照射することで塗布層を光硬化させた。この照射後、さらに、60℃の熱風オーブンにて48時間加熱することで塗布層を熱硬化させた。
これにより、基材上にコート層が形成された平板からなる実施例1の風防板を得た。
【0232】
なお、得られた風防板の搬送方向(流れ方向;MD方向)および垂直方向(TD方向)の双方における加熱収縮率を、JISK6735に規定された方法に準拠して次のように評価した。
【0233】
得られた風防板について、試料(幅150mm、長さ150mm、厚さ4mm)にコンパスで直径100mmの円を描き、90℃設定の熱風循環型オーブンで24時間加熱し乾燥させ、23℃までデシケーター中で冷却した後、乾燥後の搬送方向(流れ方向;MD方向)および垂直方向(TD方向)の双方における直径L0を測定した。その後、190℃設定の熱風循環型オーブンで60分加熱し、23℃までデシケーター中で冷却し、先に測定した円の直径個所の加熱後の直径L1を測定した。下記式(A)により、加熱収縮率S(%)を算出した。2回の平均値を求めたところ、搬送方向における加熱収縮率S(%)が4.0%であり、垂直方向における加熱収縮率S(%)が0.1%であった。
S(%)=(L0−L1)/L0×100・・・・・(A)
【0234】
(実施例2、3)
前記工程[2]において、シート成形部800による溶融シート150の送り速度を100としたとき、シート送り部1000による溶融シート150の送り速度を表1に示すように変更したこと以外は、前記実施例1と同様にして平板からなる風防板を作製した。
・・・略・・・
【0238】
2.評価
各実施例および比較例の風防板を、以下の方法で評価した。
【0239】
<1>熱成形性評価
各実施例および比較例の風防板について、それぞれ、試料(幅60mm、長さ120mm、厚さ4mm)を170℃設定の熱風循環型オーブンで10分間加熱し軟化させ、取り出した直後に塗膜面を外側にして各半径の木製円柱にネル布を介して添わせ、試料が室温付近に冷却されるまでそのままに保つことで単曲面成形を行い、その後、外観を観察し、次のように評価した。
【0240】
A:半径25mmの木型で熱成形し、クラックや塗膜剥離の発生および外観の変化がない。
B:半径30mmの木型で熱成形し、クラックや塗膜剥離の発生および外観の変化がない。
C:半径40mmの木型で熱成形し、クラックや塗膜剥離の発生および外観の変化がない。
D:半径50mmの木型で熱成形し、クラックや塗膜剥離の発生および白濁や表面の肌荒れなどの外観変化が発生する。
【0241】
<2>耐候性評価
各実施例および比較例の風防板について、それぞれ、試料(幅60mm、長さ120mm、厚さ4mm)を170℃設定の熱風循環型オーブンで10分間加熱し軟化させ、取り出した直後に塗膜面を外側にして半径30mmの木製円柱にネル布を介して添わせ、試料が室温付近に冷却されるまでそのままに保つことで単曲面成形を行い、成形体を得た。
【0242】
次いで、各実施例および比較例の風防板から得られた成形体について、それぞれ、カーボンアーク式サンシャインウエザオメーターにて促進試験を行い、JIS K 5600に準じて、紫外線照射3000時間後の外観、黄変度(ΔYI)を次のように評価した。
【0243】
A:ΔYIが2.0以下で外観の変化なし。
B:ΔYIが2.0超3.0以下で外観変化が若干見られる。
C:ΔYIが3.0超6.0以下で外観変化が少し見られる。
D:ΔYIが6.0超で外観変化が著しく見られる。
【0244】
<3>透明性評価
<3−1>初期ヘイズHz0の算出
各実施例および比較例の風防板について、それぞれ、試料(幅60mm、長さ120mm、厚さ4mm)を170℃設定の熱風循環型オーブンで10分間加熱し軟化させ、取り出した直後に塗膜面を外側にして半径30mmの木製円柱にネル布を介して添わせ、試料が室温付近に冷却されるまでそのままに保つことで単曲面成形を行い、成形体を得た。
【0245】
次いで、各実施例および比較例の風防板から得られた成形体について、それぞれ、切り出したサンプル(60mm×60mm)を用いて、まず、カーボンアーク式サンシャインウエザオメーターにて紫外線照射を3000時間実施する促進試験を行い、その後、ヘイズメーター(商品名:NDH2000、日本電飾工業社製)により、拡散透過率Tdと、全光線透過率Ttとを求め、下記式(B)によりヘイズT(%)を算出した。なお、ヘイズとは、透明性に関する指標であり、濁度(曇度)を表すものである。
T(%)=Td/Tt×100 ・・・・・(B)
【0246】
<3−2>規定砂800[g]における落砂摩耗試験によるヘイズ増加量(800[g])ΔHz1の評価
各実施例および比較例の風防板から得られた成形体について、それぞれ、切り出したサンプル(60mm×60mm)を用いて、まず、カーボンアーク式サンシャインウエザオメーターにて紫外線照射を3000時間実施する促進試験を行った。その後、ASTM D673に準じて、落砂摩耗試験を行い、落砂摩耗試験後のヘイズを前記<3−1>と同様の方法にて算出し、落砂量800gにおける落砂摩耗試験後のサンプルのヘイズHz1を求めた。
【0247】
なお、各落砂摩耗試験は、上島製作所社製の落砂摩耗試験機を用い、前記試験機のサンプルホルダーにサンプルを45°傾け、回転可能に固定し、回転しているサンプルに、炭化ケイ素(カーボンランダム#80)を自由落下させ、サンプルに傷をつけるようにする方法により行った。また、落砂量800gにおける落砂摩耗試験の測定条件としては、衝突速度を13km/hrとし、サンプル表面に対して衝突物を落下させる高さを60cmとした。
【0248】
次に、求めたヘイズHz1と、前記<3−1>で求めた初期ヘイズHz0との差(Hz1−Hz0)を算出することにより、ヘイズ増加量(800[g])ΔHz1を求めた。そして、得られたヘイズ増加量(800[g])ΔHz1に基づいて、次のように評価した。
【0249】
A:ヘイズ増加量(800[g])ΔHz1が5%以下である。
B:ヘイズ増加量(800[g])ΔHz1が5%超10%以下である。
C:ヘイズ増加量(800[g])ΔHz1が10%超20%以下である。
D:ヘイズ増加量(800[g])ΔHz1が20%超である。
【0250】
<4>付着性評価
各実施例および比較例の風防板について、それぞれ、試料(幅60mm、長さ120mm、厚さ4mm)を170℃設定の熱風循環型オーブンで10分間加熱し軟化させ、取り出した直後に塗膜面を外側にして半径30mmの木製円柱にネル布を介して添わせ、試料が室温付近に冷却されるまでそのままに保つことで単曲面成形を行い、成形体を得た。
【0251】
次いで、各実施例および比較例の風防板から得られた成形体について、それぞれ、切り出したサンプル(60mm×60mm)を用いて、まず、カーボンアーク式サンシャインウエザオメーターにて紫外線照射を3000時間実施する促進試験を行い、その後、JIS K 5600−5−6で規定されたクロスカット法に準拠して、成形体のコート層に、単一刃を用いて2mmの間隔で直角の格子状(25マス)の切り込み(カット)を行った。続いて、25マスの格子(コート層2)に、25mmの幅当たり10±1Nの付着強さを備えるテープを貼り、付着して5分以内に60°に近い角度で、0.5〜1.0秒でテープを引き離した。コート層がカットの縁に沿って、および/または交差点において剥がれている格子の個数を測定し、基材1に付着している格子(コート層2)の割合を算出した。そして、得られた付着している格子の割合に基づいて、次のように評価した。
【0252】
A:付着している格子の割合が100%である。
B:付着している格子の割合が90%以上100%未満である。
C:付着している格子の割合が50%以上90%未満である。
D:付着している格子の割合が50%未満である。
【0253】
<5>耐久性評価
各実施例および比較例の風防板について、それぞれ、試料(幅60mm、長さ120mm、厚さ4mm)を170℃設定の熱風循環型オーブンで10分間加熱し軟化させ、取り出した直後に塗膜面を外側にして半径30mmの木製円柱にネル布を介して添わせ、試料が室温付近に冷却されるまでそのままに保つことで単曲面成形を行い、成形体を得た。
【0254】
各実施例および比較例の風防板から得られた成形体について、それぞれ、試料(サイズ:100mm角)(当合議体注:(サイズ:100mm角)」の「試料」を、【0253】に記載の「成形体」の「試料(幅60mm、長さ120mm、厚さ4mm)」から切り出すことはできないことから、「試料(サイズ:100mm角)」は、「幅60mm、長さ120mm、厚さ4mm」の「試料」の誤りであると認められる。)を温度60℃、湿度95%以上の恒温恒湿度槽内に静置し、その後、外観を観察し、次のように評価した。
【0255】
A:静置時間が500時間で塗膜の剥離や割れ、黄変などの外観変化が見られない。
B:静置時間が250時間で塗膜の剥離や割れ、黄変などの外観変化が見られない。
C:静置時間が125時間で塗膜の剥離や割れ、黄変などの外観変化が見られない。
D:静置時間が73時間で塗膜の剥離や割れ、黄変などの外観変化が見られる。
【0256】
以上のようにして得られた各実施例および比較例の風防板における評価結果を、それぞれ、下記の表1に示す。
【0257】
【表1】

【0258】
表1に示したように、各実施例における風防板では、JIS K 6735に規定された方法に準拠して測定された加熱収縮率が5%以下に設定され、これにより、風防板が備える基材とコート層との間での剥離の発生が抑制されて、比較例と比較して優れた熱成形性を示した。そのため、耐候性、透明性、付着性および耐久性についても比較例と比較して優れた結果が得られているものと推察された。」

(4) 「【図1】



2 甲1発明
(1) 甲1の記載(【0223】〜【0233】)、「表1」(【0257】)に記載の実施例3の「コート層」の組成、「基材」の「基材層構成」及び「風防板評価結果」や、「<1>熱成形性評価」(【0239】〜【0240】)、「<2>耐候性評価」(【0241】〜【0242】)、「<3−2>規定砂800[g]における落砂摩耗試験によるヘイズ増加量(800[g])ΔHz1の評価」(【0244】〜【0249】)、「<4>付着性評価」(【0250】〜【0252】)及び「<5>耐久性評価」(【0253】〜【0255】)の各定義からみて、
甲1には、「前記工程[2]において、シート成形部800による溶融シート150の送り速度を100としたとき、シート送り部1000による溶融シート150の送り速度を表1に示すように変更したこと以外は、前記実施例1と同様にして平板からなる風防板を作製した」「実施例3」の「平板からなる風防板」(【0234】)の「試料(幅60mm、長さ120mm、厚さ4mm)を170℃設定の熱風循環型オーブンで10分間加熱し軟化させ、取り出した直後に塗膜面を外側にして半径30mmの木製円柱にネル布を介して添わせ、試料が室温付近に冷却されるまでそのままに保つことで単曲面成形を行い、成形体を得」る「成形体」の製造方法に係る発明として、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。なお、参考のため、甲1発明の認定の根拠となった各記載の段落番号を、括弧書きで示している。

「 シリコン変性(メタ)アクリル樹脂とアクリレートモノマーとの混合物(シリコン変性(メタ)アクリル樹脂:16質量部、アクリレートモノマー:5.5質量部):21.5質量部とウレタン(メタ)アクリレートとして2官能ウレタンアクリレート(重量平均分子量1.3×103、粘度17000mPa・s[60℃]):26質量部、4官能アクリレートモノマー:14.7質量部、2官能アクリレートモノマー:21.8質量部、イソシアネートとして3官能ポリイソシアネート:16質量部を調製して、混合体(主成分)を得て、
得られた混合体100質量部に対して、添加物として、紫外線吸収剤(ヒドロキシフェニルトリアジン誘導体):6.5質量部と、表面調整剤:0.04質量部を添加し、不揮発分が30%になるように溶剤としての酢酸ブチルを加えて撹拌し、全ての成分を溶解させ、樹脂組成物を得る工程[1]と、(【0224】〜【0225】)

次に、熱可塑性樹脂としてポリカーボネート(商品名「ユーピロンE−2000−N」、三菱瓦斯化学工業社製)を用意し、これを基材製造装置500が備える押出機210に収納した後、基材製造装置500を作動させ、基材製造装置500が備える各部における条件は、シート成形部800による溶融シート150の送り速度を100としたとき、シート送り部1000による溶融シート150の送り速度を102に設定して、厚さ4.0mmの基材を得る工程[2]と、(【0226】〜【0227】)

次に、前記工程[2]で得られた基材に、前記工程[1]で得られた樹脂組成物を、バーコーターにて乾燥後の厚さ(コート層の厚さ)が11μmになるように塗布して塗布層を得て、
そして、塗布層が塗布された基材を65℃の熱風オーブンにて10分間乾燥させた後、FUSIONシステムズ製無電極UVランプを用い、照射距離90mm、コンベア速度2.6mm/min、照射強度200mW/cm2、積算光量700mJ/cm2という条件下で紫外線を照射することで塗布層を光硬化させ、この照射後、さらに、60℃の熱風オーブンにて48時間加熱することで塗布層を熱硬化させ、これにより、基材上にコート層が形成された平板からなる風防板を得る工程[3]と、(【0230】〜【0231】)

工程[3]で得られた風防板の試料(幅60mm、長さ120mm、厚さ4mm)を170℃設定の熱風循環型オーブンで10分間加熱し軟化させ、取り出した直後に塗膜面を外側にして半径30mmの木製円柱にネル布を介して添わせ、試料が室温付近に冷却されるまでそのままに保つことで単曲面成形を行い、成形体を得る工程[4]と、(【0241】)
を含む、成形体の製造方法であって、

工程[2]で得られた基材の搬送方向(流れ方向;MD方向)および垂直方向(TD方向)の双方における加熱収縮率は、JIS K 6735に規定された方法に準拠し、
得られた基材について、試料(幅150mm、長さ150mm、厚さ4mm)にコンパスで直径100mmの円を描き、90℃設定の熱風循環型オーブンで24時間加熱し乾燥させ、23℃までデシケーター中で冷却した後、乾燥後の搬送方向(流れ方向;MD方向)および垂直方向(TD方向)の双方における直径L0を測定した。その後、190℃設定の熱風循環型オーブンで60分加熱し、23℃までデシケーター中で冷却し、先に測定した円の直径個所の加熱後の直径L1を測定し、加熱収縮率S(%)=(L0−L1)/L0×100)により加熱収縮率S(%)を算出し、2回の平均値を求めたところ、搬送方向における加熱収縮率S(%)が1.0%であり、垂直方向における加熱収縮率S(%)が0.0%であり、(【0228】〜【0229】、表1)
工程[3]で得られた風防板の搬送方向(流れ方向;MD方向)および垂直方向(TD方向)の双方における加熱収縮率を、上記と同様に求めたところ、搬送方向における加熱収縮率S(%)が0.1%であり、垂直方向における加熱収縮率S(%)が0.0%であり、(【0232】〜【0233】、表1)

下記の定義による<1>熱成形性評価、<2>耐候性評価、<3−2>規定砂800[g]における落砂摩耗試験によるヘイズ増加量(800[g])ΔHz1の評価、<4>付着性評価及び<5>耐久性評価の結果がいずれもAである、(【0257】【表1】)
成形体の製造方法。

<1>熱成形性評価
工程[3]で得られた前記風防板について、試料(幅60mm、長さ120mm、厚さ4mm)を170℃設定の熱風循環型オーブンで10分間加熱し軟化させ、取り出した直後に塗膜面を外側にして各半径の木製円柱にネル布を介して添わせ、試料が室温付近に冷却されるまでそのままに保つことで単曲面成形を行い、その後、外観を観察し、次のように評価した。
A:半径25mmの木型で熱成形し、クラックや塗膜剥離の発生および外観の変化がない。
B:半径30mmの木型で熱成形し、クラックや塗膜剥離の発生および外観の変化がない。
C:半径40mmの木型で熱成形し、クラックや塗膜剥離の発生および外観の変化がない。
D:半径50mmの木型で熱成形し、クラックや塗膜剥離の発生および白濁や表面の肌荒れなどの外観変化が発生する。(【0239】〜【0240】)

<2>耐候性評価
前記風防板から得られた前記成形体について、カーボンアーク式サンシャインウエザオメーターにて促進試験を行い、JIS K 5600に準じて、紫外線照射3000時間後の外観、黄変度(ΔYI)を次のように評価した。
A:ΔYIが2.0以下で外観の変化なし。
B:ΔYIが2.0超3.0以下で外観変化が若干見られる。
C:ΔYIが3.0超6.0以下で外観変化が少し見られる。
D:ΔYIが6.0超で外観変化が著しく見られる。(【0241】〜【0243】)

<3−2>規定砂800[g]における落砂摩耗試験によるヘイズ増加量(800[g])ΔHz1の評価
前記風防板から得られた前記成形体について、切り出したサンプル(60mm×60mm)を用いて、まず、カーボンアーク式サンシャインウエザオメーターにて紫外線照射を3000時間実施する促進試験を行い、その後、ヘイズメーター(商品名:NDH2000、日本電飾工業社製)により、拡散透過率Tdと、全光線透過率Ttとを求め、下記式(B)によりヘイズT(%)を算出し、初期ヘイズHz0とした。なお、ヘイズとは、透明性に関する指標であり、濁度(曇度)を表すものである。
T(%)=Td/Tt×100 ・・・・・(B)
前記風防板から得られた前記成形体について、切り出したサンプル(60mm×60mm)を用いて、まず、カーボンアーク式サンシャインウエザオメーターにて紫外線照射を3000時間実施する促進試験を行った。その後、ASTM D673に準じて、落砂摩耗試験を行い、落砂摩耗試験後のヘイズを同様の方法にて算出し、落砂量800gにおける落砂摩耗試験後のサンプルのヘイズHz1を求めた。
なお、各落砂摩耗試験は、上島製作所社製の落砂摩耗試験機を用い、前記試験機のサンプルホルダーにサンプルを45°傾け、回転可能に固定し、回転しているサンプルに、炭化ケイ素(カーボンランダム#80)を自由落下させ、サンプルに傷をつけるようにする方法により行った。また、落砂量800gにおける落砂摩耗試験の測定条件としては、衝突速度を13km/hrとし、サンプル表面に対して衝突物を落下させる高さを60cmとした。
次に、求めたヘイズHz1と、初期ヘイズHz0との差(Hz1−Hz0)を算出することにより、ヘイズ増加量(800[g])ΔHz1を求めた。そして、得られたヘイズ増加量(800[g])ΔHz1に基づいて、次のように評価した。
A:ヘイズ増加量(800[g])ΔHz1が5%以下である。
B:ヘイズ増加量(800[g])ΔHz1が5%超10%以下である。
C:ヘイズ増加量(800[g])ΔHz1が10%超20%以下である。
D:ヘイズ増加量(800[g])ΔHz1が20%超である。(【0244】〜【0249】)

<4>付着性評価
前記風防板から得られた前記成形体について、切り出したサンプル(60mm×60mm)を用いて、まず、カーボンアーク式サンシャインウエザオメーターにて紫外線照射を3000時間実施する促進試験を行い、その後、JIS K 5600−5−6で規定されたクロスカット法に準拠して、成形体のコート層に、単一刃を用いて2mmの間隔で直角の格子状(25マス)の切り込み(カット)を行った。続いて、25マスの格子(コート層2)に、25mmの幅当たり10±1Nの付着強さを備えるテープを貼り、付着して5分以内に60°に近い角度で、0.5〜1.0秒でテープを引き離した。コート層がカットの縁に沿って、および/または交差点において剥がれている格子の個数を測定し、基材1に付着している格子(コート層2)の割合を算出した。そして、得られた付着している格子の割合に基づいて、次のように評価した。
A:付着している格子の割合が100%である。
B:付着している格子の割合が90%以上100%未満である。
C:付着している格子の割合が50%以上90%未満である。
D:付着している格子の割合が50%未満である。(【0250】〜【0252】)

<5>耐久性評価
前記風防板から得られた前記成形体について、試料(幅60mm、長さ120mm、厚さ4mm)を温度60℃、湿度95%以上の恒温恒湿度槽内に静置し、その後、外観を観察し、次のように評価した。
A:静置時間が500時間で塗膜の剥離や割れ、黄変などの外観変化が見られない。
B:静置時間が250時間で塗膜の剥離や割れ、黄変などの外観変化が見られない。
C:静置時間が125時間で塗膜の剥離や割れ、黄変などの外観変化が見られない。
D:静置時間が73時間で塗膜の剥離や割れ、黄変などの外観変化が見られる。(【0253】〜【0255】)」


3 本件特許発明1について
(1) 対比
ア ポリカーボネート樹脂基材剤層(A層)
甲1発明の「工程[2]」の工程内容からみて、「工程[2]」で得られた「基材」は、「厚さ4.0mm」の「ポリカーボネート」「樹脂」からなる。
また、甲1発明の「工程[3]」により、「基材上にコート層が形成された平板からなる風防板」が得られる。
してみると、甲1発明の「基材」は、本件特許発明1の、「厚みが0.1mm〜20mmである」とされる、「ポリカーボネート樹脂基材層」(「A層」)に相当する。

イ ハードコート層(C層)
甲1発明の「工程[1]」により得られる「樹脂組成物」の組成(特に、「多官能アクリレート」を含む点)、「工程[3]」の工程内容(特に、「樹脂組成物」の「塗工層」を「紫外線」「照射」による「光硬化」、その後「熱硬化」する点)、「落砂摩耗試験によるヘイズ増加量」である「ΔHz1」の評価結果(「A」)からみて、甲1発明の「コート層」は、「基材層」上に設けることで、「風防板」から得た「成形体」に優れた耐擦傷性を与えるものといえる。
そうすると、甲1発明の「コート層」は、本件特許発明1の「ハードコート層」(「C層」)に相当する。

ウ 熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体を準備する工程
(ア) 上記ア及びイより、甲1発明の「工程[3]で得られた」「基材上にコート層が形成された平板からなる風防板」は、本件特許発明1の「ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体」に相当し、甲1発明の「平板からなる風防板」と、本件特許発明1の「ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体」は、「ポリカーボネート樹脂基材層(A層)の少なくとも一方の面に」、「ハードコート層(C層)が」「積層され」たものである点で共通する。

(イ) 甲1発明の「工程[4]」においては、「工程[3]で得られた風防板」の「試料(幅60mm、長さ120mm、厚さ4mm)」を、「170℃設定の熱風循環型オーブンで10分間加熱し軟化させ」て、「取り出した直後に」、「半径30mmの木製円柱に」「添わせ」、「単曲面成形を行い、成形体を得」ている。
そうすると、甲1発明の「工程[4]」は、「工程[3]で得られた」「平板からなる風防板」の「試料」を、「170℃」で「加熱」し、その後に「曲面成形」、すなわち「風防板」の熱曲げを行っている。
してみると、甲1発明の「工程[1]」〜「工程[3]」は、熱曲げを行う「工程[4]」のために、熱曲げ用の「平板からなる風防板」を準備する工程ということができる。

(ウ) 上記(ア)、(イ)及び上記ア、イより、甲1発明と、本件特許発明1は、「厚みが0.1mm〜20mmであるポリカーボネート樹脂基材層(A層)の少なくとも一方の面に」、「ハードコート層(C層)が」「積層され」た「熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体を準備する工程」を含む点で共通する。

エ 熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体を予備加熱する工程
(ア) 上記ウ(イ)によれば、甲1発明の「工程[4]」においては、「曲面形成」を行う前に、「工程[3]で得られた」「基材上にコート層が形成された平板からなる風防板」を、予め「170℃」に「加熱」しているから、予備加熱しているといえる。

(イ) 甲1発明の「基材」は、「熱可塑性樹脂」である「ポリカーボネート(商品名「ユーピロンE−2000−N」、三菱瓦斯化学工業社製)」からなる。
ポリカーボネート(樹脂)のガラス転移温度Tg(℃)は150℃前後であることや、ガラス転移温度Tgは平均分子量に依存してある程度変化することは技術常識であるところ、上記の平均分子量によるTgの変化を考慮に入れたとしても、甲1発明の「工程[4]」における「170℃」の「加熱」(予備加熱)温度は、「基材上にコート層が形成された平板からなる風防板」の「ポリカーボネート」「樹脂」のガラス転移温度であるTg(150℃前後)よりも5℃高い温度以上、当該Tg(℃)より70℃高い温度以下であるといえる。

(ウ) 上記(ア)、(イ)及び上記ア〜ウより、甲1発明は、本件特許発明1の、「準備した熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体のポリカーボネート樹脂のガラス転移温度をTg(℃)としたとき、Tgより5℃高い温度以上Tgより70℃高い温度以下で前記熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体を予備加熱する工程」「を含む」との構成を具備する。

オ 湾曲させる工程
(ア) 上記ウ(イ)及びエ(ア)より、甲1発明の「工程[4]」においては、予め「170℃」に「加熱」(予備加熱)して得られた、「基材上にコート層が形成された平板からなる風防板」(「試料」)を、「半径30mmの木製円柱に」「添わせ」、「単曲面成形を行い、成形体を得」ているということができる。
ここで、「風防板」(「試料」)を「半径30mmの木製円柱に」「添わせ」て「単曲面成形」を行う際に、「木製円柱」に押し当てて圧力を作用させていることは技術的に明らかである。(甲1の【0203】の記載からも確認できることである。)。

(イ) 上記(ア)より、甲1発明は、本件特許発明1の、「前記予備加熱する工程で得られた熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体に圧力を作用させて湾曲させる工程」「を含む」との構成を具備する。

カ 湾曲部材の製造方法
上記ウ(イ)より、甲1発明の「工程[1]〜工程[4]」により、「単曲面成形」された「成形体」が得られる。
甲1発明の「単曲面成形」された「成形体」は、本件特許発明1の「湾曲部材」に相当する。
上記ア〜オより、甲1発明の「成形体の製造方法」は、本件特許発明1の「湾曲部材の製造方法」に相当する。

(2) 一致点及び相違点
上記(1)の対比結果を踏まえると、本件特許発明1と、甲1発明は、
「 厚みが0.1mm〜20mmであるポリカーボネート樹脂基材層(A層)の少なくとも一方の面に、ハードコート層(C層)が積層された熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体を準備する工程と、
準備した熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体のポリカーボネート樹脂のガラス転移温度をTg(℃)としたとき、Tgより5℃高い温度以上Tgより70℃高い温度以下で前記熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体を予備加熱する工程と、
前記予備加熱する工程で得られた熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体に圧力を作用させて湾曲させる工程と、
を含む、湾曲部材の製造方法。」で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
「熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体」が、本件特許発明1においては、ポリカーボネート樹脂基材層(A層)の少なくとも一方の面に「浸透層(B層)と、ハードコート層(C層)がこの順に積層され」、かつ、「(a)〜(d)の要件を満たす」のに対して、甲1発明においては、「浸透層(B)」を有しているかどうか不明であり、「浸透層(B層)と、ハードコート層(C層)がこの順に積層され」、かつ、「(a)〜(d)の要件を満たす」のかどうかも不明である点。
ここで、「(a)〜(d)の要件」は、以下のものである。
(a)前記B層は、前記A層の全成分および前記C層の成分の少なくとも一部を含む。
(b)前記B層の厚みが、2μm〜9μmである。
(c)前記B層と前記C層の厚みの合計に対する前記B層の厚みの割合が20%〜70%である。
(d)前記C層は、多官能(メタ)アクリレート、並びに、無機微粒子及び珪素化合物加水分解縮合物の少なくとも一方を含み、
前記多官能(メタ)アクリレート、並びに、無機微粒子及び珪素化合物加水分解縮合物の少なくとも一方の合計量に対して、前記多官能(メタ)アクリレートの含有量が35質量%〜95質量%であり、前記無機微粒子及び珪素化合物加水分解縮合物の少なくとも一方の含有量が5質量%〜65質量%である。

(3) 判断
相違点1について検討する。
ア 甲1でいう本発明は、「窓用部材および車両」(【0001】)に関し、「窓用部材を曲面形状に熱成形された成形部を備えるものとしても、成形部における、基材とコート層との間での剥離の発生や、印刷面のズレの発生を的確に抑制または防止することができる窓用部材を提供」(【0008】)することを課題とし、「熱可塑性樹脂を含む材料を用いて形成された基材と、前記基材の少なくとも一方の面側に設けられたコート層とを有する窓用部材であって」、「当該窓用部材は、JIS K 6735に規定された方法に準拠して測定された加熱収縮率が5%以下」とすること(【0009】、請求項1)、「前記基材は、前記加熱収縮率が5%以下である」こと(【0009】、請求項2)、「前記基材の厚さをA[mm]とし、前記コート層の厚さをB[mm]としたとき、A/Bは、300以上15000以下なる関係を満足する」こと(【0010】、請求項3)を、課題を解決する手段とする技術思想に基づくものであり、
甲1発明の「成形体」は、厚さ4.0mmのポリカーボネート樹脂(以下「PC」と略す。)からなる基材に、
シリコン変性(メタ)アクリル樹脂とアクリレートモノマーとの混合物(シリコン変性(メタ)アクリル樹脂:16質量部、アクリレートモノマー:5.5質量部):21.5質量部とウレタン(メタ)アクリレートとして2官能ウレタンアクリレート:26質量部、4官能アクリレートモノマー:14.7質量部、2官能アクリレートモノマー:21.8質量部、イソシアネートとして3官能ポリイソシアネート:16質量部を調製して、混合体(主成分)を得て、これに溶剤としての酢酸ブチルを加えた樹脂組成物を、ポリカーボネート樹脂からなる基材に、乾燥後の厚さが11μmになるように塗布して塗布層を得て、65℃で10分間乾燥させた後、塗布層を光硬化させ、さらに、熱硬化させて、基材上にコート層が形成された平板からなる風防板とし、当該風防板の試料を170℃設定の熱風循環型オーブンで10分間加熱し軟化させ、取り出した直後に塗膜面を外側にして半径30mmの木製円柱にネル布を介して添わせ、試料が室温付近に冷却されるまでそのままに保つことで単曲面成形を行い得られたものである。

イ ここで、甲1には、コート層、基材の材料、及び、コート層と基材との密着性、剥離に関し、
(甲1-1) コート層を構成する樹脂組成物を、シリコン変性(メタ)アクリル樹脂を含むものとすれば、「加熱収縮率が5%以下となっている基材1を用いた場合、この基材1を備える風防板100の加熱収縮率をより小さくできる」、「基材1が加熱収縮することに起因して生じる風防板100の加熱収縮率を低下させるための層としても機能する」こと(【0052】〜【0053】)、
(甲1-2) シリコン変性(メタ)アクリル樹脂の主鎖としては、式(1)(【0058】)及び式(2)(【0059】)の少なくとも一方の(メタ)アクリロイル基を有するモノマーに由来する構成単位の繰り返しで構成されているものが挙げられ、式(1)、式(2)又は式(12)(【0060】)の主鎖の末端または側鎖に水酸基を有するものとすると、「コート層2とポリカーボネート系樹脂との密着性を向上させることができる」、「平板を湾曲させることにより熱成形して風防板100を構成する」「際に、基材1からコート層2が不本意に剥離することを防ぐことができる」こと(【0061】)、
(甲1-3) コート層を構成する樹脂組成物は、さらに(メタ)アクリレートモノマーを含むことが好ましく、シリコン変性(メタ)アクリル樹脂と(メタ)アクリレートモノマーとのネットワークが形成され、その結果、樹脂組成物が硬化することで「形成されるコート層2において、基材1とコート層2との密着性が向上する」こと(【0090】〜【0092】)、(メタ)アクリレートモノマーの含有量は、樹脂組成物100質量部中、15質量部以上55質量部以下であることが好ましく、「含有量が下限値未満の場合」、「基材1とコート層2の密着性が不足するおそれがある」、「コート層2が基材1から剥離しやすくなるおそれがある」こと(【0096】〜【0097】)、
(甲1-4) コート層を構成する樹脂組成物は、さらにイソシアネートを含むことが好ましく、イソシアネートの含有量は、樹脂組成物100質量部中、3質量部以上40質量部以下であることが好ましく、「含有量が前記上限値を超えると」、「イソシアネートの未反応物が不純物として塗膜に残るため、塗膜から得られるコート層2の耐擦傷性および耐久性(塗膜の密着性)が低下してしまうおそれがある」こと(【0098】〜【0099】、【0102】)、
(甲1-5) コート層の「平均厚さは、特に限定されないが、1μm以上50μm以下であることが好ましく、2μm以上30μm以下であることがより好ましく、5μm以上20μm以下であることがさらに好まし」く、コート層の「厚さが、前記下限値未満であると、風防板100の耐候性が低下する場合がある」、「前記上限値を超えると、熱成形して風防板100を構成する本体部151、側面部152および連結部153を形成する際に生じる湾曲部においてクラックが発生する場合がある」こと(【0113】)、
(甲1-6) 基材は、ポリカーボネート系樹脂であるのが特に好ましく、風防板100の透明性や耐衝撃性を向上させることができ、軽量化も図られ、さらに、コート層2に含まれるシリコン変性(メタ)アクリル樹脂が水酸基を有する場合、基材1とコート層2との間の密着性を向上させることができ、剥離することを防ぐことができ、風防板100の耐擦傷性および耐候性のさらなる向上が図られること、基材1にポリカーボネートが含まれることで、基材1ひいては風防板100の加熱収縮率を比較的容易に5%以下に設定することができること(【0115】)、
(甲1-7) 基材には、「コート層2との密着性を向上させる目的で、サンドブラスト法や溶剤処理法等による表面の凹凸化処理、あるいは、コロナ放電処理、クロム酸処理、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理、電子線照射処理等の表面の酸化処理が施されていてもよい」こと(【0124】)、
(甲1-8) 「基材1の厚さをA[mm]、コート層2の厚さをB[mm]としたとき、A/Bは、300以上15000以下なる関係を満足することが好ましく、1500以上10000以下なる関係を満足することがより好ましい」、「これにより、風防板100の前記加熱収縮率をより確実に5%以下に設定することができ」、「そのため、風防板100において、基材1とコート層2との間で剥離が発生するのをより的確に抑制または防止することができる」こと(【0129】)、が記載されている。

ウ 上記アで述べた課題(【0008】)、課題解決手段(【0009】〜【0010】)、及び、上記イの、コート層と基材との密着性の向上や剥離の抑制のために、A(基材1の厚さ)/B(コート層2の厚さ)を300以上15000以下(1500以上10000以下)の関係とするとの記載(甲1-8)、コート層の組成及び含有量を特定のものとするとの記載(甲1-2、甲1-3、甲1-4及び甲1-6)、基材表面に凹凸処理や酸化処理等の表面処理を行う(甲1-7)との記載からみて、甲1には、PC基材とコート層との間に両者の成分を含む浸透層を形成することは記載されていない。

一方、酢酸ブチル(溶剤)がPCを溶解する、あるいはPCに浸透することは技術常識である。例えば、甲16の「2/7」頁の表の下から20行目の「薬品名」「n-Butyl Acetate」欄、右から3番目の「PC」欄の「DD」(「20℃での耐化学薬品性」、「50℃での耐化学薬品性」がいずれも「D:使用不可、短時間の使用で変化あり」ということ(「1/7」頁の下から10行〜6行を参照。)。)を参照。
このような技術常識に照らせば、甲1発明において、上記組成の樹脂組成物の塗布層を65℃で10分間乾燥させるまでの間に酢酸ブチル(溶剤)がPCと反応(溶解、浸透)し、基材とコート層との間に基材とコート層の両方の成分を含む層(本件特許発明1の「前記A層の全成分および前記C層の成分の少なくとも一部を含む」「浸透層」に相当する。)が不可避的に生じることまでは当業者は容易に理解できる。しかしながら、酢酸ブチルとPCとの溶解、浸透等の反応は、酢酸ブチルの濃度及び乾燥条件(温度・時間)、PC基材の分子量、コート層の樹脂組成物の具体的な材料・組成(比)等に依存して変化することが技術常識に照らし明らかであるところ、甲1発明においては、PC基材とコート層との間に不可避的に形成される両成分を含む浸透層がどの程度の厚みとなるか、コート層と浸透層の厚みの合計に対する浸透層の厚みの割合がどの程度となるかは不明である。

エ そして、甲1には、上記課題(【0008】)と関連して、PC基材とコート層の両方の成分を含む層(浸透層)の厚みに着目し、これを所定の厚み(2〜9μm)に制御し、かつ、基材とコート層の両方の成分を含む層(浸透層)とコート層の厚みの合計に対する基材とコート層の両方の成分を含む層(浸透層)の厚みの割合を所定の範囲(20%〜70%)とすることは記載も示唆もされていない。
してみると、引用発明において、甲1の記載に基づき、相違点1に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
さらにいうと、本件特許発明1の「浸透層(B層)」は、「ハードコート層(C層)」と「別々に形成させてもよい」(本件特許明細書の【0038】)ものであるところ、上記ア及びイの甲1の記載に接した当業者は、A(4.0mm)/B(11μm)を約364とした甲1発明は、PCからなる所定の厚みの基材上に所定の厚みのコート層を形成することを前提としたものと理解し、密着性や剥離の抑制の改善のためには、基材表面の表面処理を行う(甲1-7)、あるいはコート層の組成、含有量を変更、調整すればよい(甲1-1〜甲1-4及び甲1-6)と考えるから、甲1発明に、PC基材とコート層との間に、密着性を高めるためのプライマー層を、コート層と別々に形成する構成を採用する動機付けもない。

オ 特許異議申立人が提出した甲14には、無溶剤のメタアクリレート系光硬化型樹脂の基材への密着性について、19頁の要約には、
(甲14-1)基材がPMMAやポリカーボネート等のプラスチックである場合、光硬化型樹脂塗工後の加熱が、良好な密着性に非常に効果的であること(19頁要約3〜4行)、
(甲14-2)この加熱の効果は、低分子量の(メタ)アクリレートを多く含む組成物で特に大きく、加熱および低分子量化合物の配合による密着性向上は、いずれも基材表面に光硬化型樹脂が浸透する効果に起因すると考えられること(同4〜6行)、
(甲14-3)このことは、臭素を含有する光硬化型樹脂をPMMAに塗工して硬化させ、界面をSEMおよびXMAにより分析した結果によれば、強く支持されること(同6〜7行)、
(甲14-4)この浸透効果を利用すると、硬化収縮率と架橋密度が高く密着性に不利な多官能(メタ)アクリレートを多く配合した組成物でも、良好な密着性を発現することが可能となったこと(同7〜9行)が記載され、
19頁左欄1〜19行には、
(甲14-5)(メタ)アクリレート系光硬化型樹脂の密着性について、SP値(極性の目安)、Tg(バルク物性の一つ)、光照射前の加熱(基材に浸透する場合に速度を促進)、多官能アクリレートの配合割合(残留応力に影響)、および添加剤(界面の問題)といった要素が、基材との密着性に影響を及ぼすことが記載されている。
また、上記(甲14-3)に関連して、甲14の22頁左欄下から8行〜23頁左欄3行には、
(甲14-6)臭素を含有する光硬化型樹脂をPMMAに塗工して硬化させ、界面をSEMおよびXMAにより分析した結果、加熱を実施しない場合、明確な界面が観察され(図2)、XMA分析ではBrの分布が界面で明確に分かれ、この塗膜について密着性を評価した所、碁盤目の全面積が剥離し、一方、60℃10分間の前加熱を行った場合、界面は明瞭でなく(図3)、XMA分析ではBrの分布が数μm程度の幅で広がっていて、この塗膜について密着性を評価した所、剥離箇所は全くなかったことが記載されている。

さらに、同甲15には、
(甲15-1)被印刷体(シート材)とコート層との密着性、結合に寄与する因子の1つとして、「コート剤の微視的浸透;被印刷体への浸透による内部拡散」が挙げられること、このメカニズムは、被印刷体の表面をコート剤が部分的に溶解、浸食し、界面において両者が拡散しあい融合することによって密着性が高まること(292頁下から14行〜13行、293頁2〜4行)、
(甲15-2)溶剤型コート剤ではケトン系溶剤のように溶解力の強い溶剤を配合することで密着性が向上すること(同4〜5行、同頁表1)、が記載されている。

しかしながら、甲14、甲15及び甲16(上記ウ参照)のいずれにも、PC基材に(ハード)コート層を積層して積層体を構成した後、これを予備加熱し、圧力を作用させて湾曲部材を製造する際に、基材と(ハード)コート層の間に形成される中間層(浸透層)を2〜9μmの範囲に設定し、かつ、基材と中間層の厚みの合計に対する中間層(浸透層)の厚みの割合を20〜70%に設定することは記載も示唆もされておらず、仮に、甲14〜甲16に記載された技術的事項を参考にすることができたとしても、甲1発明において、相違点1に係る構成のうち、「(b)前記B層の厚みが、2μm〜9μmである。」及び「(c)前記B層と前記C層の厚みの合計に対する前記B層の厚みの割合が20%〜70%である。」との構成には至らない。

カ さらに、特許異議申立人が提出した甲2には、
(甲2-1)甲2でいう発明の目的は、表面硬度及び耐擦傷性に優れると共に基材との密着性にも優れるポリカーボネート基材用ハードコート剤組成物を提供することであること(【0008】)、
(甲2-2)ポリカーボネート基材の上にハードコート層を形成してハードコート層付きポリカーボネートフィルムを得る際に、ポリカーボネート基材とハードコート層の間に、ハードコート層形成時に用いた溶剤(S)によってポリカーボネートが侵され、変質ないし膨潤した見られるポリカーボネートが変質した「変質層」が形成されること(請求項15、【0011】、【0058】及び図6等)、
(甲2-3)ハードコート層の厚さは、ポリカーボネートフィルムの使用目的にもよるが、硬化後0.5μm〜20μm程度、好ましくは2μm〜5μm程度になるようにすればよいこと(【0045】)、
(甲2-4)この変質層の厚みは、用いた溶剤(S)の組成や、ハードコート層形成操作によっても変わるが、例えば0.2〜2μm程度であり、変質層が厚すぎると、フィルムの透明性に悪影響を及ぼす可能性があり、変質層が薄い場合は、ハードコート層との密着性が不十分となる可能性があること(【0049】)、
(甲2-5)両面にハードコート層が付与された成形品を得ることができること、板状の射出成形品、例えば、自動車の窓ガラス代替プラスチック品の製造に適すること(【0056】)。
(甲2-6)実施例2では、厚さ300μmのポリカーボネートフィルムの表層部に、ハードコート層形成時に用いた溶剤(MEK/トルエン)によってポリカーボネートが変質した変質層が観察され、ハードコート層の厚さが約2.3μm、変質層の厚さが約1.2μmであること(【0059】、【0068】、図6等)、が記載されている。
【図6】


同甲3には、透明樹脂板を用いた車両用窓材に関し(【0001】)、
(甲3-1)従来から透明樹脂板に課せられる耐磨耗性や易加工性等の要求に応えるために、透明樹脂板表面に積層される種々のハードコート層が提案されているが、未だに車両用途に求められる性能を備えた窓材は知られていないこと(【0011】)、
(甲3-2)最外層は無機物の被膜であるにもかかわらず、内層に対して、および結果的に透明樹脂板に対して、充分密着し、ガラスと同等ないしそれに近い表面耐磨耗性を有した透明硬化物層を有する透明合成樹脂成形品を見いだしたこと(【0012】)、
(甲3-3)第1のコート層のうちの最外層の厚さは0.05〜10μmであることが好ましく、最外層に接する内層の厚さは1〜50μmであることが好ましいこと(【0018】)、
(甲3-4)透明樹脂板10の両面に第1のコート層1及び第2のハードコート層2が積層され、第1のコート層は、最外層を形成する透明硬化物層(外層)11と外層1に直接接触する透明硬化物層(内層)12との2層の透明硬化物層からなること(【0019】、図1等)、
(甲3-5)密着性と耐摩耗性の高い内層を得るために、活性エネルギー線硬化性の被覆組成物(A)として多官能性化合物(a)を用いること(【0024】)、
(甲3-6)被覆組成物(A)を用いて形成される硬化物の層の厚さは1〜50μmであることが好ましく、層厚が50μm超では、活性エネルギー線による硬化が不充分になり樹脂板との密着性が損なわれやすく好ましくなく、1μm未満では、この層の耐摩耗性が不充分となるおそれがあり、この層の上の外層の耐摩耗性や耐擦傷性が充分発現できないおそれがあること、より好ましい層厚は2〜30μmであること(【0098】)、
(甲3-7)車両用の窓材として高い耐摩耗性を得るための外層を形成するものとして、実質的に有機基を含まないシリカの層を形成しうる被覆組成物(B)の硬化物であるシリカ層があげられること(【0099】)、
(甲3-8)被覆組成物(B)を用いて形成される硬化物の層の厚さは0.05〜10μmであることが好ましく、層厚が10μm超では、耐擦傷性などの表面特性のそれ以上の向上が期待できないうえ、層が脆くなり被覆成形品のわずかな変形によってもこの層にクラックなどが生じやすくなり、0.05μm未満では、この外層の耐摩耗性や耐擦傷性が充分発現できないおそれがあること、より好ましい層厚は0.1〜3μmであること(【0108】)、
(甲3-9)[例16]として、塗工液3を厚さ3mmの透明な芳香族ポリカーボネート樹脂板に塗工(ウェット厚み16μm)して、80℃で5分間保持し、これを空気雰囲気中、紫外線を照射し、膜厚5μmの部分硬化物層を形成し、この上に塗工液2を塗工(ウェット厚み6μm)して、80℃で5分間保持した後、これを空気雰囲気中、紫外線を照射し、引き続いて170℃で5分間保持し、取り出し直後に透明硬化物層塗工面が凸側になるように、180mmRの曲率を持つ型に押しつけ、曲げ加工を施すことにより、クラックやしわがない良好な硬化物層が得られること(【0154】)、が記載されている。
【図1】


同甲4には、表面にハードコート層を有する耐擦傷性に優れた熱加工のできる熱可塑性樹脂成形体に関し(【0001】)、
(甲4-1)公知のハードコート剤である有機系、有機無機ハイブリッド系樹脂のいずれの樹脂を用いても、熱曲げ加工のできるハードコート層付き熱可塑性樹脂成形体を提供することを解決課題とすること(【0007】)、
(甲4-2)熱可塑性樹脂成形体Aは、熱可塑性樹脂よりなる基材1の一方の片面11にプライマー層2を介してハードコート層3を形成してなるものであること(【0013】)、
(甲4-3)基材1に用いる熱可塑性樹脂は、熱可塑性を有する樹脂であれば限定されることはないが、特にポリカーボネート樹脂は、透明性、耐衝撃性に優れていて最も好ましく用いられ、熱可塑性樹脂基材1の厚さは限定されるものではないが、0.1〜20mmの基材が用途に応じて用いられること(【0014】)、
(甲4-4)プライマー層2は、熱可塑性樹脂基材1とハードコート層3とを接着接合するものであり、接着性樹脂にフィラーを含有させてなる層であること(【0015】)、接着性樹脂としては、アクリル系樹脂などの熱可塑性樹脂が用いられること、フィラーのうちでも、シリカ、特にコロイダルシリカは、二酸化ケイ素の表面にOH基を有するコロイド懸濁液であり、接着性樹脂との相溶性、分散性が優れている点で、最も好ましく用いられること(【0016】)、
(甲4-5)プライマー層2の厚みは0.1〜10μm、好ましくは0.5〜5μmの範囲で適宜選択して使用され、0.1μm未満であると、接着強度を保つことが困難になるとともに、柔軟性が乏しくなるので望ましくなく、また10μmより厚くなると、接着強度のさらなる向上が期待できないので、材料の無駄遣いとなること(【0018】)、
(甲4-6)ハードコート層3は、公知のハードコート剤により形成されてなり、例えば、有機系、有機無機ハイブリッド系などのハードコート剤であり(【0019】)、ハードコート層3として、上記ハードコート剤に前記プライマー層2に使用するいずれかのフィラーを1〜20重量%含有させて形成した塗膜であってもよいこと(【0020】)、
(甲4-7)ハードコート層3の厚みは1〜20μmであることが好ましく、1μm未満であると、ハードコート性を得ることができず、20μmより厚くなると、ハードコート性の向上が見られず、逆にクラックが発生するなどの不具合が発生し望ましくないこと(【0022】)、
(甲4-8)実施例として、ポリエチレンテレフタレートフィルムに、ウレタンアクリレート塗料を用いて厚さ10μmのハードコート層を形成し、該層の上に、ウレタン樹脂にコロイダルシリカを含有させた各プライマー塗料により厚さ1μmのプライマー層を形成することで転写フィルムを作製し、厚さ5mmのポリカーボネート樹脂シートを押出しつつ、前記各転写フィルムのプライマー層をシート面に押し当てて、プライマー層とハードコート層とを転写することで、ポリカーボネート樹脂基材、プライマー層、ハードコート層とがこの順で積層された3層構造の成形板(成形体)を得たこと(【0031】)、が記載されている。
【図1】


同甲5には、高品位な意匠面を有する湾曲部材の製造方法およびかかる部材に関し(1頁6〜9行)、
(甲5-1)従来の押出シートに替えて、射出圧縮成形により形成されたシートを熱成形する方法により、高品位な意匠面を有する湾曲した成形品が得られること、即ち、射出圧縮成形により形成された高品位な面は、樹脂材料のガラス転移温度を超える場合であっても適切な熱処理条件を適用することにより、シートの熱曲げ加工が可能となり、かつ得られたシートが高品位な面を有することを見出し、検討を進め、本発明を完成するに至ったこと(3頁最下行〜4頁8行)、
(甲5-2)樹脂材料は熱可塑性樹脂を含有し(9頁6〜7行)、熱可塑性樹脂中のポリカーボネート樹脂の含有量は、好ましくは90〜100重量%であり(9頁15〜18行、請求項3、35頁下から2行〜36頁1行)、樹脂材料から形成されるシートは、その厚みが好ましくは1〜9mmであること(9頁25行)、
(甲5-3)熱成形の前にコートを行う順序は、コートの汎用性および生産効率を高められる点で有利である一方、現状ではハードコート層の硬度または耐用年数が比較的低いものに限定される点で不利であり、逆に、コートの前に熱成形を行う順序は、ハードコート種が限定されず、したがって、成形品の保護層として最も適切なハードコート層を自由に設けられる利点を有すること(26頁10〜19行)、
(甲5-4)シート基材(41)上に印刷層(43)が形成され、その上に更にハードコート層(42)が積層される構成を基本とすること(33頁下から3行〜34頁1行、図4)、
(甲5-5)2層以上の積層からなるハードコート層としては、少なくともプライマー層およびトップ層の2層以上の構成が代表的に例示されること(31頁18〜23行)、ハードコート層は、アクリル系樹脂からなるプライマー層、およびシリコーン系樹脂からなるトップ層よりなる積層構成が好適であること(31頁24〜26行、52頁最下行〜53頁5行)、
(甲5-6)アクリル樹脂組成物を熱硬化させてなる、好適なプライマー層の膜厚は、1〜15μmが好ましく、2〜10μmがより好ましいこと、膜厚が1μm未満であると、紫外線の透過率が高くなり、甚材の黄変が生じたり密着性を低下させるため、耐候性が乏しくなり、膜厚が15μmを超えると、内部応力の増大のため、また熱硬化時に架橋反応が十分進行しないため、耐久性に乏しい塗膜層になり、また、アクリル樹脂組成物を溶解するために使用する溶剤の揮発が不十分となり、溶剤が塗膜中に残存し、耐熱水性、耐候性を損ねることになること(62頁下から2行〜63頁6行)、
(甲5-7)オルガノシロキサン樹脂組成物の熱硬化塗膜屑(トップ層)の厚みは、好ましくは2〜10μm、より好ましくは3〜8μmである。塗膜層の厚みがかかる範囲であると、熱硬化時に発生する応力のために塗膜層にクラックが発生したり、塗膜層とアクリル樹脂層(プライマー層)との密着性が低下したりすることがなく、本発明の目的とする十分な耐摩耗性を有する塗膜層が得られることとなること(66頁2〜6行)、
(甲5-8)実施例として、熱成形されたポリカ-ボネートシートの第1層用アクリル樹脂塗料を両面塗布し、熱硬化し、平均8μmの膜厚の硬化膜を積層し、次いで、かかる硬化膜上に第2層用オルガノシロキサン樹脂塗料を両面塗布し、平均4μmの膜厚の硬化膜を積層して、ハードコート処理を実施すること(75頁下から6行〜78頁19行(PCシートの製造について)、79頁22行〜80頁15行(シートの熱成形について)、83頁12行〜88頁5行(熱成形されたシートへのハードコート))、が記載されている。

甲8には、積層体、窓材、車両及び建築物に関し(【0001】)、
(甲8-1)透過性に優れ、200〜400nmに含まれる特定波長の光を反射する積層体、該積層体を使用した窓材等を提供することを、発明が解決しようとする課題とすること(【0010】)、
(甲8-2)基材と保護層とを有する積層体であり、保護層が、無機化合物粒子と、該無機化合物粒子に結合しているポリマーとを含有する有機無機複合体を含み、ポリマーの分子量分布が2.3以下であり、保護層中の無機化合物粒子の粒子分散度が0.8以下であり、保護層の厚みが1μm〜5mmであり、200〜400nmに含まれる特定波長の光を反射する、積層体とすること、基材がポリカーボネート又はアクリル樹脂を含むこと、ハードコート層を更に有することを、課題を解決する手段とすること(【0012】)、
(甲8-3)保護層の厚みは、特に限定されるものではないが、特定波長反射効果の発現と製造コストの観点から、好ましくは1μm〜5mm、より好ましくは3μm〜2mm、更に好ましくは、5〜500μmであること(【0158】)、
(甲8-4)積層体は、基材、保護層及びハードコート層をこの順に有することが好ましいこと(【0195】)、ハードコート層の厚みは、好ましくは1〜20μm、より好ましくは2〜10μm、更に好ましくは3〜8μmであり、20μmより厚い場合、硬化時に発生する応力で、ハードコート層にクラックが生じる場合があり、1μm未満であると、所望の表面硬度が発現しない場合があること(【1097】)、ハードコート材は、例えば、シリコーン樹脂系ハードコート材、有機樹脂系ハードコート材等が使用できること(【0198】)、
(甲8-5)ハードコート層の下には、接着性向上等を目的に、プライマー層を設けてもよく(【0205】)、プライマー層の厚みは、接着性の観点から、0.5〜20μmが好ましく、より好ましくは1〜10μmであり、更に好ましくは2〜5μmであること(【0206】)、
(甲8-6)実施例として、基材(ポリカーボネート板、厚み3mm)の上に(【0251】)、保護層となる厚み80〜110μmの成形体からなる保護層(【0250】)を重ね、圧縮成形機で真空熱プレスすることで一体化させ、第一の積層体を作製し(【0251】)、第一の積層体の上に、ハードコート材を塗工し、熱硬化させることで、厚み8μmのハードコート層が形成された第四の積層体の積層体を作製すること、この時、必要に応じ、プライマーを使用し、上記保護層とハードコート層の間に、厚み2μmのプライマー層を作製すること(【0253】)、が記載されている。

キ 上記カで述べたとおり、甲2〜甲5及び甲8には、それぞれPC等からなる基材にハードコート層を設ける際の、ハードコート層の好ましい厚み範囲や、基材とハードコート層の間の中間の変質層、内層、プライマー層等の好ましい厚み範囲がそれぞれ記載され、甲2〜甲5及び甲8でいう発明を具体化した特定の実施例として、ハードコート層及び基材とハードコート層の間の中間の層を好ましい範囲内の特定の厚みとしたものがそれぞれ記載されているものの、これら甲2〜甲5及び甲8には、PC基材に(ハード)コート層を積層して積層体を構成した後、これを予備加熱し、圧力を作用させて湾曲部材を製造する際に、基材と(ハード)コート層の間に形成される両者の成分を含む層(浸透層)の厚みに着目しこれを2〜9μmの範囲に設定し、かつ、基材と浸透層の厚みの合計に対する浸透層の厚みの割合に着目しこれを20〜70%に設定することは記載も示唆もされていない。

さらに、特許異議申立人が提出した甲6、甲7、甲9〜甲13、甲17及び甲18のいずれにも、PC基材に(ハード)コート層を積層して積層体を構成した後、これを予備加熱し、圧力を作用させて湾曲部材を製造する際に、基材と(ハード)コート層の間に形成される層(浸透層)の厚みを2〜9μmの範囲に設定し、かつ、基材と中間層の厚みの合計に対する浸透層の厚みの割合を20〜70%に設定することは記載も示唆もされていない。
さらに、ポリカーボネート基材に(ハード)コート層を積層して積層体を構成した後、これを予備加熱し、圧力を作用させて湾曲部材を製造する際に、基材と(ハード)コート層の間に形成される浸透層の厚みを2〜9μmの範囲に設定し、かつ、基材と中間層の厚みの合計に対する浸透層の厚みの割合を20〜70%に設定することは、先の出願前に周知の技術であるとも、当業者の技術常識であるともいえない。

ク 本件特許発明1は、相違点1に係る構成を具備することにより、本件特許明細書の【0008】の記載の、「耐摩耗性、熱曲げ性、及び、熱曲げ後の密着性に優れた湾曲部材の製造方法を提供できる」との優れた効果を奏する。

ケ してみると、甲1発明において、甲2に記載された技術及び甲3〜甲18に記載された先の出願時の周知の技術に基づき、相違点1に係る本件特許発明1の構成とすることが、当業者に容易に想到し得たことであるということはできない。

コ 特許異議申立書における特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、
(ア)特許異議申立書64〜65頁において、
相違点1に係る本件特許発明1の構成(b)について、
特許異議申立人は、甲2及び(甲3、甲5、甲8、甲14等の)周知技術によれば、甲1において、ハードコート層と基材の間に、浸透層(B層)のような中間層を設け、かつ、その厚みが2〜9μm程度となるようにすることは、適宜なし得る設計事項にすぎない、

(イ)特許異議申立書65〜67頁において、
相違点1に係る本件特許発明1の構成(c)について、
甲3の内層が本件特許発明1の浸透層(B層)に相当し、その厚さは、2〜30μmが好ましいことが開示され(【0098】)、最外層が本件特許発明1のハードコート層(C層)に相当し、その厚さは、0.1〜3μmが好ましいことが開示され(【0108】)、B層とC層の厚みの合計に対するB層の厚みの割合は、40〜99.7%になるから、本件特許発明1の要件(c)の数値範囲(20〜70%)と重複し、
甲5のプライマー層が本件特許発明1の浸透層(B層)に相当し、その膜厚は1〜15μmが好ましいことが開示され(62頁28行〜63頁1行)、トップ層が本件特許発明1のハードコート層(C層)に相当し、その厚さは、2〜10μmが好ましいことが開示され(66頁2〜6行)、B層とC層の厚みの合計に対するB層の厚みの割合は、3〜88%になるから、本件特許発明1の構成(c)の数値範囲(20〜70%)を包含し、
甲8の保護層が本件特許発明1の浸透層(B層)相当し、その厚さは、1〜5μmであり(請求項1)、ハードコート層が本件特許発明1のハードコート層(C層)に相当し、その厚さは、2〜10μmが好ましいことが開示され(【0197】)、B層とC層の厚みの合計に対するB層の厚みの割合は、8〜71%になるから、本件特許発明1の構成(c)の数値範囲(20〜70%)を包含し、
甲14には、「Brの分布が数μm程度」(甲14の22頁右欄下から3行〜1行)と記載されており、これは本件特許発明1のB層の厚さに相当し、甲14には、「組成物をバーコータ#10で約10μm厚に塗工」(甲14の20頁左欄23行)したと記載されており、これは本件特許発明1のC層の厚さに相当するから、前記B層と前記C層の厚みの合計に対する前記B層の厚みの割合は「数μm÷(10μm+数μ)」となるから、本件特許発明1の構成要件1Iの数値範囲(20%〜70%)を満たしている蓋然性が高い、
以上より、甲3、甲5、甲8、甲14等の層構成からも明らかなように、「前記B層と前記C層の厚みの合計に対する前記B層の厚みの割合」を20%〜70%となるように制御することは、公知の層構成が満たし得ることであり、端なる設計事項に範疇に過ぎないことは明らかであり、したがって、甲2及び周知(甲3、甲5、甲8、甲14等)によれば、甲1において、ハードコート層と基材の間に、浸透層(B層)のような中間層を設け、かつ、B層とC層の厚みの合計に対するB層の厚みの割合が20〜70%となるようにすることは、適宜なし得る設計事項に過ぎない、
と主張する。

(ウ) しかしながら、甲2〜甲5、甲8及び甲14には、PC基材に(ハード)コート層を積層して積層体を構成した後、これを予備加熱し、圧力を作用させて湾曲部材を製造する際に、基材と(ハード)コート層の間に形成される両者の成分を含む層(浸透層)の厚みに着目しこれを2〜9μmの範囲に設定し、かつ、基材と浸透層の厚みの合計に対する浸透層の厚みの割合に着目しこれを20〜70%に設定することは記載も示唆もされていないことは既に述べたとおりである。

また、甲3に記載の内層の好ましい厚み(2〜30μm)と、ハードコート層の好ましい厚み(0.1〜3μm)とから、内層とハードコート層の厚みの合計(2.1〜33μm)に対する内層の厚みの割合として、本件特許発明1の相違点1に係る「前記B層と前記C層の厚みの合計に対する前記B層の厚みの割合」「20%〜70%」と重複する、40〜99.7%を求めることができたからといって、本件特許発明1の相違点1に係る「B層の厚み」「2μm〜9μm」、かつ、「前記B層と前記C層の厚みの合計に対する前記B層の厚みの割合」「20%〜70%」の範囲の構成とする動機付けはないし、甲3に記載の内層の特定の厚み範囲、かつ、上記の内層とハードコート層の厚みの合計に対する内層の厚みの特定の割合の構成を、甲1発明に採用する動機付けもない。

甲5、甲8についても同様、プライマー層や保護層の好ましい厚み、ハードコート層の好ましい厚みとから、プライマー層や保護層とハードコート層の厚みの合計に対する内層の厚みの合計に対するプライマー層や保護層の厚みの割合として、本件特許発明1の相違点1に係る「前記B層と前記C層の厚みの合計に対する前記B層の厚みの割合」「20%〜70%」を包含する、割合の範囲を求めることができたからといって、本件特許発明1の相違点1に係る「B層の厚み」「2μm〜9μm」、かつ、「前記B層と前記C層の厚みの合計に対する前記B層の厚みの割合」「20%〜70%」の範囲の構成を、甲1発明に採用する動機付けはない。

また、甲14は、無溶剤のメタアクリレート系光硬化型樹脂の基材への密着性についての文献であり、甲1発明の、溶剤として酢酸ブチルを加えた樹脂組成物によるハードコート層を形成する技術とは前提が異なり、参考にならない。

以上のとおりであるから、特許異議申立人の上記の主張を採用することはできない。

(4) 小括
本件特許発明1は、甲1に記載された発明、甲2に記載された技術及び甲3〜甲18に記載された先の出願時の周知の技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

4 本件特許発明2〜6について
本件特許発明2〜6は、本件特許発明1の構成を具備し、これらに限定を加えたものである。
そうすると、上記3(3)で述べたとおり、本件特許発明1は、甲1に記載された発明、甲2に記載された技術及び甲3〜甲18に記載された先の出願時の周知の技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない以上、本件特許発明2〜6は、甲1に記載された発明、甲2に記載された技術及び甲3〜甲18に記載された先の出願時の周知の技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

5 本件特許発明7について
甲1の【0223】〜【0233】、【0239】〜【0242】、【0244】〜【0255】)【0257】(表1)の記載(上記2(1)参照。)から理解される、甲1発明の「成形体」の製造方法に用いるための、「基材上にコート層が形成された平板からなる風防板」の発明を、以下「甲1風防板発明」とする。
本件特許発明7と、甲1風防板発明とを対比すると、両者は、少なくとも、上記3(2)で抽出した(相違点1)と同じ点で相違する。
相違点1についての判断は、上記3(3)で既に述べたとおりである。
してみると、本件特許発明7は、甲1に記載された発明、甲2に記載された技術及び甲3〜甲18に記載された先の出願時の周知の技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

6 本件特許発明8〜10について
本件特許発明8〜10は、本件特許発明7の構成を具備し、これらに限定を加えたものである。
そうすると、上記5で述べたとおり、本件特許発明7は、甲1に記載された発明、甲2に記載された技術及び甲3〜甲18に記載された先の出願時の周知の技術に基づき、当業者が容易に想到し得することができたものであるということができない以上、本件特許発明8〜10は、甲1に記載された発明、甲2に記載された技術及び甲3〜甲18に記載された先の出願時の周知の技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。


第5 当合議体のサポート要件(特許法第36条第6項第1号)及び実施可能要件(特許法第36条第4項第1号)についての判断
実施可能要件違反及びサポート要件違反についての特許異議申立人の主張
(1) 特許異議申立人は、特許異議申立書の「(4)実施可能要件欠如及びサポート要件欠如について」「ア」〜[ク](78頁11行〜84頁下から7行)において、以下のように主張する。

ア A〜C層の厚みについて
本件特許発明1と対比されるべき本件特許明細書の比較例1〜9(表1参照)は、A層の厚さが4.5mmである場合の1点しか検証されていないため、それ以外の厚みの場合に有利な効果があるのか不明である。

イ 「多官能(メタ)アクリレート」について
本件特許発明1では、多官能(メタ)アクリレートを必須要件として規定し、「多官能」なる用語は、官能基数の下限が2以上であればよく、上限は無限大であることを意味するところ、本件特許明細書の実施例(表1参照)で具体的に検証されているのは、官能基数が2又は3である場合しか効果が検証されておらず、官能基数が4以上になると柔軟性が失われて、硬くてもろい性質が顕著に表れる傾向にある等、官能基数が4以上になると官能基が2や3の場合と異なる挙動を示す傾向にあることは当業者の技術常識であり、かかる技術常識を有する当業者であれば、官能基数が4のアクリレートモノマーを使用すると本件特許発明の課題の1つである、熱曲げ性、ひいては熱曲げ後の密着性等が低下する可能性が高い、と考えるのが自然であるから、本件特許明細書の実施例では官能基数が2又は3である場合のデータしか開示されていない以上、官能基数の全範囲おいて課題が解決できているとはいえないことは明らかである。

ウ 「無機微粒子」について
本件特許発明1では、C層の必須成分として、「無機微粒子」を含有することを規定しているが、「無機微粒子」なる用語は極めて広範な無機物を包含し、その一方で、本件特許明細書の【0090】には、その他の任意成分について「ハードコート層(C層)は、必要に応じて上述した以外の成分(その他の成分)を含んでいてもよい。その他の成分としては、表面調整剤、着色剤、並びに、分散液の固形分量及び粘度を調整する目的としての分散媒が挙げられる。」と記載されており、表面調整剤、着色剤及び分散媒には、無機微粒子に該当するものも含まれるから、クレームされている「無機微粒子」とこれらの任意成分に該当し得る「無機微粒子」との区別ができず、如何なる無機微粒子をもって課題を解決できるのか、当業者であっても理解できない。

エ 「珪素化合物加水分解縮合物」について
本件特許発明1では、C層の必須成分として、「珪素化合物加水分解縮合物」を含有することを規定しているが、「珪素化合物加水分解縮合物」に該当し得る化合物は多岐にわたる一方で、本件特許明細書の実施例において具体的に検証されているのは、2種類(ポリシロキサンに由来するポリシロキサンセグメントとビニル系重合体セグメントとからなる複合樹脂(【0119】、【0120】、表1参照)しかなく、クレームされている「珪素化合物加水分解縮合物」に該当し得る縮合物に如何なる場合に課題が解決できているのか、当業者であっても理解できない。

オ 多官能(メタ)アクリレートの重合の程度(重合度、分子量、粘度等)について
本件特許明細書の【0013】及び【0061】の記載に鑑みると、課題解決において、少なくとも多官能(メタ)アクリレートの重合の程度が重要なポイントであることが伺われるし、高分子化学分野の技術常識を有する当業者の視点からも、そのように考えるのが自然であるところ、本件特許発明1において、多官能(メタ)アクリレートの重合度(又は、分子量、粘度)が何ら規定されていない点で、課題を解決するための手段がクレームに反映されていない。

カ C層の「多官能(メタ)アクリレート」と「無機微粒子及びケイ素化合物加水分解縮合物の少なくとも一方」との含有量の比率について
本件特許発明1では、「前記多官能(メタ)アクリレート、並びに、無機微粒子及び珪素化合物加水分解縮合物の少なくとも一方の合計量に対して、前記多官能(メタ)アクリレートの含有量が35質量%〜95質量%であり、前記無機微粒子及び珪素化合物加水分解縮合物の少なくとも一方の含有量が5質量%〜65質量%である」ことを規定しているが、本件特許明細書の実施例で具体的に検証されているのは45.0〜86.0質量%であるから、本件特許発明1において、少なくとも少なくとも35〜45.0質量%及び86.0〜95質量%範囲について、実施可能要件及びサポート要件を満たしていない。

キ B層の形成方法について
B層の実態はいわゆる“層(layer)"ではなく、単にハードコート層(C層)とポリカーボネート樹脂基材(A層)の“界面”を、厚みがあるかのように“層(layer)"として記載しているにすぎない、という疑義が生じるところ、かかる疑義を払しょくする観点からも、B層を如何にして形成するのか、本件特許発明1にその手段を当業者が実施可能な程度に十分に規定する必要があるが、本件特許発明1ではB層の形成方法について全く規定されていないため、本件特許発明1はB層の形成方法の規定か不十分であり、本件特許明細書の実施例以外の場合において、B層を同時形成するには如何にすればよいのか、B層の同時形成について過度の試行錯誤なく製造できないし、本件特許明細書の【0038】や実施例の内容に基づけば、B層の形成方法として、C層形成用の無機微粒子分散体を塗布して、C層及びB層を同時形成できること等が開示されているが、かかる手法でB層が本当に形成できるのか当業者であれば疑義を抱かざるを得ず、B層の形成方法の規定が不十分であるから、本件特許明細書の実施例以外の場合に、B層を同時形成するにはどうすればよいか、B層の同時形成について過度の試行錯誤なく製造できない。

ク まとめ
ア〜キより、本件特許発明1及びこれに従属する本件特許発明2〜10に対応する発明の詳細な説明の記載は、当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないから、実施可能要件(特許法第36条第4項第1号)を満たしておらず、特許を受けることができない、また、本件特許発明1及びこれに従属する本件特許発明2〜10は、発明の詳細な説明に記載したものではないから、サポート要件(特許法第36条第6項第1号)を満たしておらず、特許を受けることができないから、本件特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

2 サポート要件についての判断
事案に鑑み、サポート要件について先に検討する。
(1) サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号所定の要件(サポート要件)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであると解される。
これを本件特許発明についてみると以下のとおりとなる。

(2) 本件特許発明について
本件特許発明1〜10は、上記「第2 本件特許発明」に記載したとおりのものであるところ、本件特許発明1は、「厚みが0.1mm〜20mmであるポリカーボネート樹脂基材層(A層)の少なくとも一方の面に、浸透層(B層)と、ハードコート層(C層)がこの順に積層され、かつ、下記(a)〜(d)の要件を満たす熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体を準備する工程」と、「予備加熱する工程」と、「湾曲させる工程」とを含む、「(a)前記B層は、前記A層の全成分および前記C層の成分の少なくとも一部を含む」、「(b)前記B層の厚みが、2μm〜9μmである」、「(c)前記B層と前記C層の厚みの合計に対する前記B層の厚みの割合が20%〜70%である。」、「(d)前記C層は、多官能(メタ)アクリレート、並びに、無機微粒子及び珪素化合物加水分解縮合物の少なくとも一方を含み」、「前記多官能(メタ)アクリレート、並びに、無機微粒子及び珪素化合物加水分解縮合物の少なくとも一方の合計量に対して、前記多官能(メタ)アクリレートの含有量が35質量%〜95質量%であり、前記無機微粒子及び珪素化合物加水分解縮合物の少なくとも一方の含有量が5質量%〜65質量%である」、との発明特定事項を具備する。

(3) 本件特許明細書の記載
ア 「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湾曲部材の製造方法、及び、熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体に関する。
・・・略・・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
・・・基材上にハードコート層を設ける場合には、基材とハードコート層との高い密着性が求められる。特に、湾曲部材の製造においては、熱曲げ後も、基材とハードコート層との密着性に優れることが重要である。しかし、・・・・熱曲げ後の密着性については着目していない。また、湾曲部材の製造においては、耐摩耗性及び熱曲げ性も要求されている。
【0006】
・・・略・・・湾曲部材の製造方法において、耐摩耗性、熱曲げ性、及び、熱曲げ後の密着性にに関する改良の余地があることを見出した。
本発明の一実施形態によれば、耐摩耗性、熱曲げ性、及び、熱曲げ後の密着性に優れた湾曲部材の製造方法が提供される。
本発明の他の実施形態によれば、耐摩耗性、熱曲げ性、及び、熱曲げ後の密着性に優れた熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体が提供される。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の態様を含む。
<1>厚みが0.1mm〜20mmであるポリカーボネート樹脂基材層(A層)の少なくとも一方の面に、浸透層(B層)と、ハードコート層(C層)がこの順に積層され、かつ、下記(a)〜(d)の要件を満たす熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体を準備する工程と、
準備した熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体のポリカーボネート樹脂のガラス転移温度をTg(℃)としたとき、Tgより5℃高い温度以上Tgより70℃高い温度以下で前記熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体を予備加熱する工程と、
前記予備加熱する工程で得られた熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体に圧力を作用させて湾曲させる工程と、
を含む、湾曲部材の製造方法。
(a)前記B層は、前記A層の全成分および前記C層の成分の少なくとも一部を含む。
(b)前記B層の厚みが、2μm〜9μmである。
(c)前記B層と前記C層の厚みの合計に対する前記B層の厚みの割合が20%〜70%である。
(d)前記C層は、多官能(メタ)アクリレート、並びに、無機微粒子及び珪素化合物加水分解縮合物の少なくとも一方を含み、
前記多官能(メタ)アクリレート、並びに、無機微粒子及び珪素化合物加水分解縮合物の少なくとも一方の合計量に対して、前記多官能(メタ)アクリレートの含有量が35質量%〜95質量%であり、前記無機微粒子及び珪素化合物加水分解縮合物の少なくとも一方の含有量が5質量%〜65質量%である。
・・・略・・・
【発明の効果】
【0008】
本発明の実施形態によれば、耐摩耗性、熱曲げ性、及び、熱曲げ後の密着性に優れた湾曲部材の製造方法を提供できる。
本発明の他の実施形態によれば、耐摩耗性、熱曲げ性、及び、熱曲げ後の密着性に優れた熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体を提供できる。」

イ 「【発明を実施するための形態】
【0010】
・・・略・・・
【0012】
通常、ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体を熱曲げした際に、積層体のハードコート層にクラックが発生してしまうことがあった。
クラックが発生する理由としてポリカーボネート樹脂層とハードコート層との界面の密着が不十分なため、熱曲げ後の外観だけでは判断しにくいポリカーボネート樹脂層とハードコート層との界面でミクロなレベルの剥離が発生し、ハードコート層がポリカーボネート層に追随できず、急角度に折れ曲がるためクラックが発生すると推定している。
そこで、本発明者らが鋭意検討した結果、特定の厚みのポリカーボネート樹脂基材層(A層)の少なくとも一方の面に、浸透層(B層)と、ハードコート層(C層)と、がこの順に積層され、かつ、(a)〜(d)の要件を満たす熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体を、特定の温度条件で前記熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体を予備加熱する工程と、得られた熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体に圧力を作用させて湾曲させる工程とを含む製造方法により、耐摩耗性、熱曲げ性、及び、熱曲げ後の密着性に優れた湾曲部材が得られることを見出した。
上記効果が得られる詳細なメカニズムは不明であるが、以下のように推測される。
【0013】
ハードコート層(C層)は、特定量の多官能(メタ)アクリレートと、特定量の無機微粒子及び珪素化合物加水分解縮合物の少なくとも一方とを、含む。多官能(メタ)アクリレートと、無機微粒子及び珪素化合物加水分解縮合物の少なくとも一方は、溶解パラメーターが芳香族ポリカーボネートに近く、両者の親和性が高く界面での分子間力が大きくなる。さらに、本開示に係る湾曲部材の製造方法に用いられる熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体におけるB層は、A層及びC層の両成分を含むので、C層とA層とはB層を介することで、積層体全体の密着性が更に良好となるので熱曲げ性にも優れると推定している。
また、ハードコート層(C層)が、特定量の多官能(メタ)アクリレートを含むので、多官能(メタ)アクリレート中の重合性二重結合が、紫外線等の活性エネルギー線で硬化されることにより、C層において3次元架橋が形成されて、C層の耐摩耗性及び熱曲げ後の密着性にも優れると推定している。
・・・略・・・
【0014】
<積層体の準備工程>
本開示に係る湾曲部材の製造方法における積層体の準備工程に用いられる熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体は、厚みが0.1mm〜20mmであるポリカーボネート樹脂基材層(A層)の少なくとも一方の面に、浸透層(B層)と、ハードコート層(C層)がこの順に積層され、かつ、上記(a)〜(d)の要件を満たす。
以下、積層体の詳細について説明する。
【0015】
<<積層体>>
本開示に係る湾曲部材の製造方法に用いられる積層体では、ポリカーボネート樹脂基材層(A層)の両方の面に浸透層(B層)とハードコート層(C層)とが積層され、B層がA層及びC層と接している。
・・・略・・・
【0016】
−A層−
ポリカーボネート樹脂層(A層)に用いられるポリカーボネート樹脂・・・略・・・。
・・・略・・・
【0021】
・・・略・・・
ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量が17,000〜40,000であると、得られる積層体は、十分な強度及び良好な溶融流動性を有するため、耐摩耗性、熱曲げ性、及び、熱曲げ後の密着性により優れる。
・・・略・・・
【0022】
・・・略・・・
ポリカーボネート樹脂基材層(A層)は、耐摩耗性、熱曲げ性、及び、熱曲げ後の密着性の観点から、粘度平均分子量が17,000〜40,000のポリカーボネート樹脂の含有率が、A層の全質量に対して、85質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることが更に好ましく、100質量%であることが特に好ましい。
・・・略・・・
【0032】
ポリカーボネート樹脂基材層(A層)の厚みは、0.1mm〜20mmであり、好ましくは、1mm〜20mm、更に好ましくは3mm〜15mmである。
ポリカーボネート樹脂基材層(A層)の厚みは、本開示に係る積層体の厚みをマイクロメーターで測定し、この積層体の厚みから、走査型電子顕微鏡(SEM)で測定されたB層及びC層の厚みを差し引くことで求められる。
なお、上記B層及びC層の厚みは、本開示に係る積層体の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で測定して求められる。
【0033】
−B層−
(a)B層は、A層の全成分及びC層の成分の少なくとも一部を含む。B層がA層及びC層の両成分を含むことにより、各層の密着性を向上させ、熱曲げ性に優れた湾曲部材を得ることができる。
B層に含まれるA層及びC層の両成分は、顕微−赤外分光法(顕微FT−IR法により確認される。
具体的には、本開示に係る積層体を切断し、B層の断面の顕微FT−IR測定装置を用いて分析し、カーボネート結合に由来するピーク(1780cm−1)とアクリルエステルに由来するピーク(1740cm−1付近)との混在を確認することで、A層及びC層の両成分がまじりあっていること、すなわち、B層がA層及びC層の両成分を含むことを確認することができる。
耐摩耗性、熱曲げ性、及び、熱曲げ後の密着性に優れる観点から、B層は、A層の成分、及び、シリカ微粒子以外のC層の成分を含むことが好ましく、ポリカーボネート樹脂と、多官能(メタ)アクリレートと、珪素化合物加水分解縮合物とを含むことがより好ましい。
【0034】
(b)B層の厚みは、2μm〜9μmである。B層の厚みが2μm以上であると、熱曲げ後の密着性に優れ、また、9μm以下であると、耐摩耗性及び熱曲げ性に優れる。
・・・略・・・
【0036】
(c)B層の厚みとC層の厚みとの合計の厚みに対するB層の厚みの割合は、20%〜70%である。B層の厚みとC層の厚みとの合計の厚みに対するB層の厚みの割合が、20%〜70%であると、得られる湾曲部材の耐摩耗性、熱曲げ性、及び、熱曲げ後の密着性に優れる。
・・・略・・・
【0037】
−C層−
(d)C層は、多官能(メタ)アクリレート、並びに、無機微粒子及び珪素化合物加水分解縮合物の少なくとも一方を含み、多官能(メタ)アクリレート、並びに、無機微粒子及び珪素化合物加水分解縮合物の少なくとも一方の合計量に対して、多官能(メタ)アクリレートの含有量が35質量%〜95質量%であり、無機微粒子及び珪素化合物加水分解縮合物の少なくとも一方の含有量が5質量%〜65質量%である。
【0038】
−B層及びC層の形成方法−
B層及びC層の形成方法としては、特に制限はなく、B層及びC層を別々に形成させてもよいし、B層及びC層を同時に形成させてもよい。例えば、A層のいずれか一方の表面に、C層が含む、多官能(メタ)アクリレート、並びに、無機微粒子及び珪素化合物加水分解縮合物の少なくとも一方を含む無機微粒子分散体(以下、単に「無機微粒子分散体」ともいう。)を塗布してB層を形成し、B層の上にC層形成用の無機微粒子分散体を塗布してC層を形成してもよいし、A層のいずれか一方の表面に、C層形成用の無機微粒子分散体を塗布して、C層及びB層を形成させる方法であってもよい。
【0039】
B層は、C層を形成する成分のうち、多官能(メタ)アクリレートとA層を構成するポリカーボネート樹脂との溶解性パラメーターの差が10((MPa)1/2)以下であることが好ましい。
溶解性パラメーターの差が上記範囲であると、A層にC層を塗工後の接触面において、分子運動による拡散でA層及びC層の両成分が入り混じった浸透層(B層)を形成することができる。
【0040】
・・・略・・・
なお、B層及びC層を同時に形成させる場合において、無機微粒子分散体の一部成分のみがB層形成に寄与するように無機微粒子分散体を調製することが好ましく、この場合、無機微粒子分散体の組成とC層の組成は一致しなくてもよい。
B層及びC層を同時に形成させる方法である場合、B層の厚みは、乾燥温度及び乾燥時間を変化させることで適宜調節することができる。
・・・略・・・
【0044】
C層の厚みは、特に制限はないが、耐摩耗性、熱曲げ性、及び、熱曲げ後の密着性の観点から、7μm〜26μmの範囲であることが好ましく、・・・略・・・。
・・・略・・・
【0045】
−多官能アクリレート−
C層の形成に用いられる多官能(メタ)アクリレートモノマーとしては、1分子中に(メタ)アクリレート基を2以上有していれば特に制限されず、・・・略・・・2官能の(メタ)アクリレートモノマー、・・・略・・・3官能の(メタ)アクリレートモノマー・・・略・・・等の4官能以上の(メタ)アクリレートモノマーが挙げられル。
これらの中でも、C層の形成に用いられる多官能(メタ)アクリレートモノマーは、2官能〜4官能の(メタ)アクリレートモノマーであることが好ましく、2官能又は3官能の(メタ)アクリレートモノマーであることが更に好ましい。
本明細書において、多官能(メタ)アクリレートモノマーとは、分子量が2,000未満である多官能(メタ)アクリレートを意味する。
【0046】
C層は、耐摩耗性と熱曲げ性とのバランスをとるために、単官能(メタ)アクリレートモノマーを用いて形成されていてもよい。その場合、多官能(メタ)アクリレートモノマーは(メタ)アクリレートモノマーの全質量に対して、90質量%以上であることが好ましく、・・・略・・・。
・・・略・・・
【0060】
硬度と柔軟性のバランス、耐摩耗性、熱曲げ性、及び、熱曲げ後の密着性の観点から、C層の形成に用いられる多官能(メタ)アクリレートモノマーは、2官能(メタ)アクリレート・・・、及び、3官能の(メタ)アクリレートモノマー・・・であることが特に好ましい。
【0061】
C層に含まれる多官能(メタ)アクリレートは、上述の多官能(メタ)アクリレートモノマーの重合体(多官能(メタ)アクリレートポリマー)であることが好ましい。
上記多官能(メタ)アクリレートポリマーは、耐摩耗性と熱曲げ性のバランスの観点から、オリゴマーを含んでいてもよい。
本明細書において、多官能(メタ)アクリレートオリゴマーとは、重量平均分子量が2,000以上50,000未満である多官能(メタ)アクリレートの重合体を意味する。
本明細書において、多官能(メタ)アクリレートポリマーとは、重量平均分子量が50,000以上ある多官能(メタ)アクリレートの重合体を意味する。
多官能(メタ)アクリレートモノマーの重合体の重量平均分子量は、耐摩耗性と熱曲げ性の観点から、50,000以上であることが好ましく、100,000以上であることがより好ましく、200,000以上であることが更に好ましい。
・・・略・・・
【0062】
〔多官能(メタ)アクリレートの含有量〕
C層に含まれる多官能(メタ)アクリレート( 好ましくは、多官能(メタ)アクリレートポリマー)は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
C層中の多官能(メタ)アクリレートの含有量は、多官能(メタ)アクリレート、並びに、無機微粒子及び珪素化合物加水分解縮合物の少なくとも一方の合計量に対して35質量%〜95質量%であり、好ましくは40質量%〜90質量%であり、より好ましくは、50質量%〜90質量%である。
C層中の多官能(メタ)アクリレートの含有量が上記範囲であると、耐摩耗性、熱曲げ性、及び、熱曲げ後の密着性に優れる。
・・・略・・・
【0070】
耐摩耗性、熱曲げ性、及び、熱曲げ後の密着性に優れる観点から、後述する複合樹脂(C2)と、多官能(メタ)アクリレートと、無機微粒子との合計量に対して、多官能(メタ)アクリレートモノマーの配合率は、40質量%〜98質量%であることが好ましく、より好ましくは、45質量%〜96質量%であり、60質量%〜70量%であることがさらに好ましい。
【0071】
<<無機微粒子>>
C層は、無機微粒子及び珪素化合物加水分解縮合物の少なくとも一方を含む。無機微粒子としては、無機酸化物微粒子が好ましい。無機酸化微粒子としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウム、及び二酸化ケイ素(シリカ)が挙げられる。これらの中でも、コロイダルシリカ等のシリカ微粒子が好ましく挙げられる。
・・・略・・・
【0074】
無機酸化物微粒子の一次平均粒径は、1nm〜200nmであることが好ましく、1nm〜100nmであることがより好ましい。無機酸化物微粒子の一次平均粒径を上記範囲とすることで、耐摩耗性、熱曲げ性、及び、熱曲げ後の密着性に優れる湾曲部材が得ることができる。
【0075】
・・・略・・・
ハードコート層中への分散性の観点から、無機酸化物微粒子は、球状、かつ、平均一次粒子径が5nm〜100nmのコロイダルシリカであることが好ましく、より好ましくは平均一次粒子径が20nm〜60nmのコロイダルシリカである。
・・・略・・・
【0076】
〔無機微粒子の配合率〕
無機微粒子は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
無機微粒子の配合率は、後述する複合樹脂(C2)と、多官能(メタ)アクリレート化合物と、無機微粒子の合計質量に対して、5質量%〜30質量%であることが好ましく、耐摩耗性、熱曲げ性、及び、熱曲げ後の密着性の観点から、5.5質量%〜20質量%であることが好ましく、6質量%〜16質量%であることが更に好ましい。
【0077】
−珪素化合物加水分解縮合物−
珪素化合物加水分解縮合物としては、加水分解性シラン化合物が好ましく挙げられる。加水分解性シラン化合物としては、アルコキシシラン化合物の加水分解縮合物が挙げられる。
加水分解性シラン化合物としては、具体的にはメチルメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン等のアルキルトリアルコキシシラン;3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン等の3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリアルコキシシラン;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のビニルトリアルコキシシラン;及び、アミノメチルトリメトキシシラン、アミノメチルトリエトキシシラン、2−アミノエチルトリメトキシシラン、2−アミノエチルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン等のアルコキシシラン化合物の加水分解縮合物が挙げられる。
【0081】
〔複合樹脂(C2)〕
珪素化合物加水分解縮合物は、多官能(メタ)アクリレートと無機微粒子及び珪素化合物加水分解縮合物の少なくとも一方との親和性を向上するために、トリアルコキシシリル基含有(メタ)アクリル樹脂と上述の珪素化合物加水分解縮合物とを縮重合させた複合樹脂(C2)を含むことが好ましい。
【0082】
複合樹脂(C2)は、C層を硬化する時、上述の多官能(メタ)アクリレートと共重合できるように、上述の多官能(メタ)アクリレート又は(メタ)アクリロイル基を有する化合物が縮合反応で固定化された(メタ)アクリロイル基を有する複合樹脂であってもよい。
・・・略・・・
【0090】
−その他の成分−
本開示に係るハードコート層(C層)は、必要に応じて上述した以外の成分(その他の成分)を含んでいてもよい。その他の成分としては、表面調整剤、着色剤、並びに、分散液の固形分量及び粘度を調整する目的としての分散媒が挙げられる。
分散媒としては、本開示の効果を損ねることのない液状媒体であればよく、各種有機溶剤が挙げられる。
【0091】
浸透層(B層)の層厚を好適な範囲に調整することができる観点から、有機溶剤としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、メチルブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン(2−ブタノン)、メチルイソブチルケトン(4−メチル−2−ペンタノン)、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸エチル、吉草酸エチル等のエステル類;メトキシエタノール、エトキシエタノール、ブトキシエタノール、メトキシプロパノール(以下、「プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)」とも称する場合がある。)、エトキシプロパノール、ブトキシプロパノール等のエーテルアルコール類;ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素;及び、トルエン、キシレン、(エチルベンゼン)、スチレン、スチルベン等の芳香族炭化水素が挙げられる。
有機溶剤は、単独又は混合して使用することができる。
有機溶剤を単独で使用する場合、ハードコート層(C)に含まれるアクリル樹脂の溶解性、ポリカーボネート樹脂基材層(A層)への浸透性の観点から、メトキシエタノール、エトキシエタノール、ブトキシエタノール、メトキシプロパノール、エトキシプロパノール、ブトキシプロパノール等のエーテルアルコール類が好ましく用いられる。これらのなかでも特に、揮発性、アクリル樹脂の溶解力、ポリカーボネート樹脂基材層(A層)への浸透性のバランス及び毒性の低さの観点から、メトキシプロパノールが特に好ましく用いられる。
有機溶剤を混合して使用する場合、浸透層(B)を形成しやすい観点から、上記単独で使用する場合の有機溶剤として挙げたエーテルアルコール類に、更にアセトン、メチルエチルケトン(2−ブタノン)、メチルイソブチルケトン(4−メチル−2−ペンタノン)、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸エチル、吉草酸エチル等のエステル類;及び、トルエン、キシレン、(エチルベンゼン)、スチレン、スチルベン等の芳香族炭化水素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の有機溶剤を加えた混合溶剤を用いることが好ましい。また、沸点が70〜140℃の範囲にあり、ハードコート塗布後基材を熱乾燥する際に溶剤が揮発して浸透層が必要以上に厚くなるのを遅らせることができるため、エーテルアルコール類にメチルエチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、及び、トルエンよりなる群から選ばれる少なくとも1種の有機溶剤を加えた混合溶剤を用いることがより好ましい。また、メトキシプロパノールにメチルエチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、及び、トルエンよりなる群から選ばれる少なくとも1種の有機溶剤を加えた混合溶剤を用いることが特に好ましい。
塗工時の揮発性及び溶媒回収の面からは、有機溶剤は、メチルエチルケトン(MEK)、又は、メトキシプロパノール(プロピレングリコールモノメチルエーテル)であることが好ましい。
【0092】
上記有機溶剤の含有量は、無機微粒子分散体100質量部に対して40質量部〜70質量部であることが好ましく、45質量部〜65質量部であることがより好ましい。
・・・略・・・
【0095】
−熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体の製造方法−
熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体の製造方法は、公知の製造方法を用いることができる。例えば、ポリカーボネート樹脂層の少なくとも一方表面に無機微粒子分散体の塗布液を塗布した後、塗布面を例えば、紫外線等の活性エネルギー線を照射することにより、屋外における長期耐候性と優れた耐摩耗性を併有し、且つ、基材に対する密着性に優れる熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体を得ることができる。
・・・略・・・
【0099】
<予備加熱する工程(予備加熱工程)>
前記熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体を予備加熱する工程(以下、単に「予備加熱工程」ともいう。)は、準備した熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体のポリカーボネート樹脂のガラス転移温度をTg(℃)としたとき、Tgより5℃高い温度以上Tgより70℃高い温度以下で前記熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体を予備加熱する工程である。
予備加熱工程は、準備した積層体のポリカーボネート樹脂のガラス転移温度をTg(℃)としたとき、Tgより5℃高い温度以上Tgより70℃高い温度以下で前記熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体を予備加熱して軟化させる工程であることが好ましい。
・・・略・・・
【0101】
予備加熱温度は、ポリカーボネート樹脂のTg(℃)に対して、Tgより5℃高い温度以上Tgより70℃高い温度以下である。
・・・略・・・
予備加熱温度範囲が上記範囲であると、製造効率と、熱成形品の表面状態及び寸法精度とを両立するのに好適である。」

ウ 「【実施例】
【0116】
・・・略・・・
【0117】
<ハードコート層の前駆材料液(C2−1)の調製方法>
水分散型コロイダルシリカ分散液(日揮触媒化成工業(株)製カタロイドSN−30、平均粒子径約17nm、固形分濃度30質量%)203質量部に酢酸30質量部を加えて攪拌し、この分散液に氷水浴で冷却下メチルトリメトキシシラン322質量部を加えた。この混合液を30℃で1時間半攪拌後、60℃で8時間攪拌した反応液を氷水冷却し、これに、硬化触媒として酢酸ナトリウム5質量部を氷水冷却下で混合し、ポリシロキサン(C2−1)560質量部を得た。
【0118】
<ハードコート層の前駆材料液(C2−2)の調製方法>
脱イオン水177.5質量部、酢酸39.5質量部を加えて攪拌し、この分散液に氷水浴で冷却下メチルトリメトキシシラン447.5質量部を加えた。この混合液を30℃で1時間半攪拌後、60℃で8時間攪拌した反応液を氷水冷却し、これに、硬化触媒として酢酸ナトリウム6.6重量部を氷水冷却下で混合しポリシロキサン(C2−2)671.1質量部を得た。
【0119】
<珪素化合物加水分解縮合物:複合樹脂C2−Xの合成>
反応容器にメトキシプロパノール164質量部を加え80℃まで昇温し、メチルメタクリレート(MMA)40質量部、ブチルメタクリレート(BMA)8質量部、ブチルアクリレート(BA)36質量部、アクリル酸(AA)24質量部、3−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン(MPTS)24質量部、及びtert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(TBPEH)6質量部を含有する混合物を、前記反応容器中へ4時間で滴下した後、更に同温度で2時間反応させた。
更に同温度で上記で得られたポリシロキサン(C2−1)560部を加えて1時間攪拌し、次いでグリシジルアクリレート50部、メトキノン0.07部を加えて1時間攪拌し、得られた反応生成物を、10kPa〜300kPaの減圧下で、40℃〜60℃の条件で2時間蒸留することにより、生成したメタノール及び水を除去し、次いで、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)を添加し、不揮発分(固形分)が50.0質量%である、ポリシロキサン(C2−1)に由来するポリシロキサンセグメント(C1−1)とビニル系重合体セグメントとからなる複合樹脂C2−X:790質量部を得た。
複合樹脂C2−Xにおいて、ポリシロキサン(C2−1)に由来するポリシロキサンセグメントの配合比率は60質量%であり、ビニル系重合体セグメントの配合比率は40質量%であった。
【0120】
<珪素化合物加水分解縮合物:複合樹脂C2−Yの合成>
反応容器にメトキシプロパノール164質量部を加え80℃まで昇温し、メチルメタクリレート(MMA)40質量部、ブチルメタクリレート(BMA)8質量部、ブチルアクリレート(BA)36質量部、アクリル酸(AA)24質量部、3−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン(MPTS)24質量部、及びtert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(TBPEH)6質量部を含有する混合物を、前記反応容器中へ4時間で滴下した後、更に同温度で2時間反応させた。
更に同温度で上記で得られたポリシロキサン(C2−2)671.1部を加えて1時間攪拌し、次いでグリシジルアクリレート50部、メトキノン0.07部を加えて1時間攪拌し、得られた反応生成物を、10kPa〜300kPaの減圧下で、40℃〜60℃の条件で2時間蒸留することにより、生成したメタノール及び水を除去し、次いで、PGMを添加し、不揮発分(固形分)が50.0質量%である、ポリシロキサン(C2−2)に由来するポリシロキサンセグメント(C2−2)とビニル系重合体セグメントとからなる複合樹脂C2−Y:790質量部を得た。
複合樹脂C2−Yにおいて、ポリシロキサン(C2−2)に由来するポリシロキサンセグメントの配合比率は60質量%であり、ビニル系重合体セグメントの配合比率は40質量%であった。
【0121】
<熱曲げ加工用ハードコート剤(HC−1)の調製>
多官能(メタ)アクリレート(C1−2)としてトリメチロールプロパンエチレンオキシド変性トリアクリレート(東亞合成(株)製、アロニックスM−350)42質量部、多官能(メタ)アクリレート(C1−3)として1、9−DA(共栄社化学(株)製1、9−ノナンジオールジアクリレート)を18質量部、珪素化合物加水分解縮合物(C2−X)40質量部、無機微粒子(C3)として、有機溶剤分散型表面修飾コロイダルシリカ(日産化学(株)製MEK−AC−2140Z固形分濃度40%)50質量部、ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤(C4)としてチヌビン400(BASF(株)製)4質量部、ヒンダードアミン光安定剤(C5)としてLA−52((株)ADEKA製)15質量部、チヌビン123(BASF(株)製)1質量部、光重合開始剤(C6)としてフェニル1−ヒドロキシエチルケトン(BASF(株)製イルガキュア184)1質量部、メチルエチルケトン20質量部、メトキシプロパノール100質量部、イソプロパノール40質量部を加え、ハードコート剤(HC−1)を調製した。(HC−1)の組成は、下記の表1に示す。
【0122】
<熱曲げ加工用ハードコート剤(HC−2〜HC−9)の調製>
表1に示す組成で調製した以外は(HC−1)の調製と同様にして(HC−2)〜(HC−9)を調製した。
【0123】
<熱曲げ加工用ハードコート剤(HC−10)の調製>
水分散型コロイダルシリカ分散液(日揮触媒化成(株)製カタロイドSN−30、粒子径約17nm、固形分濃度30質量%)80重量部を氷水浴で冷却下、メチルトリメトキシシラン127重量部に加えた。この混合液を25℃で1時間半攪拌後、60℃で4時間攪拌した反応液を氷水冷却し、これに、酢酸24重量部および硬化触媒として酢酸ナトリウム2重量部を氷水冷却下で混合し、ハードコート剤(HC−10)を調製した。
【0124】
【表1】

(当合議体注:表1は便宜のため、90度回転している。以下の表2〜表4も同様。)
【0125】
表1中、その他の成分の欄における数字は、多官能(メタ)アクリレートの総量、珪素化合物加水分解縮合物、及び、無機粒子の合計100質量部に対する比率(質量%)を表している。また、表中「−」は、該当する成分を含まないことを意味している。
【0126】
<<樹脂材料の製造>>
−樹脂材料A1の製造−
・・・略・・・
樹脂材料A1のガラス転移温度は、150℃であった。
【0127】
−樹脂材料A2の製造−
・・・略・・・
樹脂材料A2のガラス転移温度は148℃であった。
・・・略・・・
【0129】
<<原反シート成形品の製造>>
−シート−α(51)の製造−
上記樹脂材料A1、又は、A2のペレットをプラテンの4軸平行制御機構を備えた射出プレス成形可能な大型成形機((株)名機製作所製:MDIP2100、最大型締め力33540kN)を用いて射出プレス成形し、図1に示す厚み4.5mmで長さ×幅が1000mm×600mmのシート成形品(シート−α(51))を製造した。
・・・略・・・
【0130】
−シート−β(61)の製造−
・・・略・・・長辺側にホットランナー(63〜65)5点のゲート(62)を取った金型に変更して、上記シート−α(51)の場合と同様に成形した。5点のゲートは第1ホットランナーゲート(63)、第2ホットランナーゲート(64)、及び第3ホットランナーゲート(65)の順に、SVG法によるカスケード成形を行い、ウエルド部のないシートを成形した。
シート−β(61)は、ゲート(62)を除く部分において、長さが1,000mmであり、幅が600mmであり、厚みが4.5mmである。
・・・略・・・
【0131】
−シート−γの製造−
樹脂材料A1又はA2を120℃で5時間熱風乾燥の後、特開2005−081757号公報の押出方法に従い、厚み4.5mmで1,200mm幅の押出シートを製造し、両端部100mmずつを切断して1,000mmの長辺とし、押出方向に600mmの長さで切断して、カットして厚み4.5mmで長さ×幅が1,000mm×600mmのシート成形品を製造した。
【0132】
<ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体の作製>
(実施例1〜実施例23及び比較例1〜比較例8)
表2〜表4に記載のポリカーボネート樹脂基材層の表面に、表2〜4に記載のハードコート剤を塗布し、表2〜表4に記載の条件で加熱乾燥させた。その後、ランプ出力1kWの水銀ランプ下、表2〜表4に記載の照射量で紫外線を照射することにより、ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体を作製した。
得られたハードコート層ポリカーボネート樹脂積層体におけるポリカーボネート樹脂層(A層)、浸透層(B層)及びハードコート層(C層)の厚さは、上述の方法で測定し、表2〜表4に値を示した。
【0133】
ハードコート層中の多官能(メタ)アクリレートの(メタ)アクリロイル基の付加重合反応率(反応率)及びC層における多官能(メタ)アクリレート含有量(質量%)の値は、下記のようにして求めた。
・・・略・・・
【0137】
上記のようにして求めた反応率及びC層中の多官能(メタ)アクリレートの含有量は、表2〜表4に値を示した。
また、得られたハードコート層ポリカーボネート樹脂積層体は、下記の評価を行い、結果を表2〜表4に示した。
得られたハードコート層ポリカーボネート樹脂積層体を顕微FT−IRにより測定したところ、B層が、A層及びC層の両成分を含むことが前述の方法により確認された。
【0138】
<(HC−10)用接着層前駆材料液(P−1)の調製方法>
・・・略・・・
【0140】
(比較例9)
<ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体の作製>
表4に記載のポリカーボネート樹脂板を基板として、その両面に、上記で調製した接着層前駆材料液(P−1)をディップコーティングし、風乾の後、120℃で1時間熱硬化を行い、膜厚約8μmの接着層をポリカーボネート基板の両面に形成した。
【0141】
更に続いて、熱曲げ加工用ハードコート剤(HC−10)をディップコーティングし、風乾の後、120℃で1時間熱硬化を行い、膜厚約4μmの下地硬化層を両面に積層形成し、ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体を作製した。A層、B層及びC層の厚さは、上述の方法で測定し、表4に値を示した。
・・・略・・・
【0144】
〔評価〕
実施例1〜実施例23及び比較例1〜比較例9のハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体について、以下の評価を行った。その結果を表2〜表4に示す。
・・・略・・・
【0146】
<初期ヘーズ(H)>
日本電色工業株式会社製のヘイズメーターNDH2000を用いて測定した。尚、曇値(H)は、H=Td/Tt×100(Td:散乱光線透過率、Tt:全光線透過率)で示される。
【0147】
<耐摩耗性(△H)>
ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体の表面を、テーバー摩耗性試験前にTaber社製ST−11研磨石で25回転摩耗輪表面を研磨し、試験片を調製した。研磨後の試験片に、摩耗輪(製品名:CS−10F、Taber社製)を用いて、荷重500g、100回転及び500回転の条件で、ASTMD1044準拠して、テーバー摩耗試験を行い、テーバー摩耗試験前後のハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体表面の曇値(ヘイズ値)の変化(△H)を測定した。
曇値の変化(△H)は、ヘイズメーター(製品名:NDH2000、日本電色工業(株)製)を用いて、測定方法2、A光源で測定した。なお、曇値(H)は、H=Td/Tt×100(Td:散乱光線透過率、Tt:全光線透過率)で示される値を示す。
曇値(H)の測定は同一の研磨仕様の3つの試験片について行い、△Hの平均値を下記の評価基準に従い評価した。ΔHの値が小さいほど、耐摩耗性に優れるといえ、ΔHが9.0未満であることが好ましい。
なお、テーバー摩耗性試験に用いる摩耗輪は、市販のフロートガラス(板ガラス)を上記同様の方法で荷重500g、1,000回転の条件でテーバー摩耗試験を行った場合の曇値の変化(△H)が0.6〜1.0の範囲にある摩耗輪を使用した。△Hが上記範囲を外れる摩耗輪は試験には用いないものとした。
【0148】
<熱曲げ性>
100mm×250mm×5mmのハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体を準備し、この積層体の末端から5cmのところに熱電対(株)エムアイティー製Tタイプ)を取り付け、表2〜4に記載の熱曲げ予備加熱温度に設定した熱風循環型加熱炉に投入し、積層体を加熱した。
積層体が熱曲げ予備加熱温度に到達したら、直ちに積層体を加熱炉から取り出し、ただちに(5秒以内に)所定の曲率半径(70mm、100mm、150mm、175mm、200mm、250mm、300mm、400mm、500mm、700mm、及び、1000mm)を有する扇形の木型に沿って、曲げ加工を実施し、曲げ実施領域である曲率半径100mm×150mmの全領域で積層体にクラック(亀裂)が発生のない最小曲率半径を求め、その値をその積層体の熱曲げ可能曲率半径(mm)とし、表2〜表4に示した。
最小曲率半径の値が小さいほど、熱曲げ性に優れるといえる。
【0149】
<熱曲げ後の密着性>
上記熱曲げ性試験で求めた最小曲率半径の各試験片を100℃の沸騰水中に浸せきし、3時間保持の後に沸騰水中より取り出し、試験片表面に付着した水分を取り除いて2時間室温(25℃)環境にて放置の後、試験片に対して下記の密着性のテストを行った。
【0150】
試験片のハードコート層側の表面にカッターナイフで2cmの長さの直線が60°で交差するように、傷をつけた。所定の粘着力を有するテープ(例えばニチバン製セロテープ(商標))を、上記傷の上に貼り付け固着した後に、垂直に強く引き剥がす操作を3回繰り返した後、試験片上のハードコート層に剥離の有無を目視で確認し、下記の評価基準に従って、熱曲げ後の密着性を評価した。
−評価基準−
A:ハードコート層の剥離が見られず、熱曲げ後の密着性に優れていた。
B:ハードコート層の剥離が見られ、熱曲げ後の密着性に劣っていた。
【0151】
【表2】

【0152】
【表3】

【0153】
【表4】

【0154】
表4の比較例8中、最小熱曲げ半径が「−」とは、熱曲げできなかったことを意味する。
【0155】
実施例1〜23の曲部材の製造方法で得られたハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体は、比較例1〜9のハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体に比べて、耐摩耗性、熱曲げ性、及び、熱曲げ後の密着性に優れることが分かる。また、実施例1〜23のハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体は、ヘーズ値を低く抑えることができ、全光線透過率にも優れる。」

(4) 本件特許発明の課題
上記(3)によれば、本件特許発明が解決しようとする課題は、「耐摩耗性、熱曲げ性、及び、熱曲げ後の密着性に優れた湾曲部材の製造方法」を提供すること、「耐摩耗性、熱曲げ性、及び、熱曲げ後の密着性に優れた熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体」を提供すること(本件特許明細書の【0006】)であると認められる。

(5) 課題解決手段に係る本件特許明細書の記載及び当該記載から理解される技術的事項
ア 課題を解決する手段及びその作用機序(メカニズム)について
本件特許明細書には、「特定の厚みのポリカーボネート樹脂基材層(A層)の少なくとも一方の面に、浸透層(B層)と、ハードコート層(C層)と、がこの順に積層され、かつ、(a)〜(d)の要件を満たす熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体を、特定の温度条件で前記熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体を予備加熱する工程と、得られた熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体に圧力を作用させて湾曲させる工程とを含む製造方法により、耐摩耗性、熱曲げ性、及び、熱曲げ後の密着性に優れた湾曲部材が得られる」(【0012】)ことが記載され、そのような効果が得られる作用機序(メカニズム)について、「多官能(メタ)アクリレートと、無機微粒子及び珪素化合物加水分解縮合物の少なくとも一方は、溶解パラメーターが芳香族ポリカーボネートに近く、両者の親和性が高く界面での分子間力が大きくなる」こと、(上記(a)要件に関し、)「B層は、A層及びC層の両成分を含むので、C層とA層とはB層を介することで、積層体全体の密着性が更に良好となるので熱曲げ性にも優れる」こと、(上記(d)要件に関し、)「ハードコート層(C層)が、特定量の多官能(メタ)アクリレートを含むので、多官能(メタ)アクリレート中の重合性二重結合が、紫外線等の活性エネルギー線で硬化されることにより、C層において3次元架橋が形成されて、C層の耐摩耗性及び熱曲げ後の密着性にも優れる」(以上【0013】)ことが記載されている。
また、上記(b)要件に関し、「B層の厚みが2μm以上であると、熱曲げ後の密着性に優れ、また、9μm以下であると、耐摩耗性及び熱曲げ性に優れる」(【0034】)こと、
上記(c)要件に関し、「B層の厚みとC層の厚みとの合計の厚みに対するB層の厚みの割合が、20%〜70%であると、得られる湾曲部材の耐摩耗性、熱曲げ性、及び、熱曲げ後の密着性に優れる」(【0036】)こと、
上記(d)要件に関し、「C層は」、「多官能(メタ)アクリレート、並びに、無機微粒子及び珪素化合物加水分解縮合物の少なくとも一方の合計量に対して、多官能(メタ)アクリレートの含有量が35質量%〜95質量%であり、無機微粒子及び珪素化合物加水分解縮合物の少なくとも一方の含有量が5質量%〜65質量%である)(【0037】)こと、が記載されている。

イ 実施例について
本件特許明細書の【0116】〜【0155】には、実施例1〜23として、厚み0.5〜18mmのポリカーボネート基板(A層)の表面にハードコート層(C層)を、合計量に対する多官能(メタ)アクリレートの含有量が45.0〜86.0質量部、無機微粒子及び珪素化合物加水分解縮合物の少なくとも一方の含有量が14.0〜55.0質量部(【0124】【表1】)の範囲の「熱曲げ加工用ハードコート剤」「HC−1」〜「HC−7」により形成したハードコート層付きポリカーボネート樹脂積層体であって、浸透層(B層)がA層及びC層の両成分を含み(【0137】)、B層の厚みが3〜8μmの範囲、B層とC層の厚みの合計に対するB層の厚みの割合が23〜67%の範囲の、実施例1〜実施例23のハードコート層付きポリカーボネート樹脂積層体が、耐摩耗性(【0146】〜【0147】)に優れ、樹脂材料のガラス転移温度(150℃(【0126】)あるいは148℃(【0127】))に対し、「熱曲げ予備加熱温度」を160〜210℃に設定した熱曲げ性(【0148】)に優れ、熱曲げ後の密着性(【0149】〜【0150】)に優れることが、「熱曲げ加工用ハードコート剤」として「HC−1」及び「HC−8」〜「HC−10」を用い、耐摩耗性、熱曲げ性あるいは熱曲げ後の密着性が劣る比較例1〜9との対比をもって、具体的に示されている(【0151】〜【0153】の【表2】〜【表4】)。

(6) 判断
上記(5)アで示した本件特許明細書の課題を解決する手段及びその作用機序(メカニズム)についての記載と、上記(5)イで示した実施例と比較例との対比結果を踏まえると、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「厚みが0.1mm〜20mmであるポリカーボネート樹脂基材層(A層)の少なくとも一方の面に、浸透層(B層)と、ハードコート層(C層)がこの順に積層され、かつ、下記(a)〜(d)の要件を満たす熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体を準備する工程」と、「予備加熱する工程」と、「湾曲させる工程」とを含む、「(a)前記B層は、前記A層の全成分および前記C層の成分の少なくとも一部を含む。」、「(b)前記B層の厚みが、2μm〜9μmである。」、「(c)前記B層と前記C層の厚みの合計に対する前記B層の厚みの割合が20%〜70%である。」、「(d)前記C層は、多官能(メタ)アクリレート、並びに、無機微粒子及び珪素化合物加水分解縮合物の少なくとも一方を含み」、「前記多官能(メタ)アクリレート、並びに、無機微粒子及び珪素化合物加水分解縮合物の少なくとも一方の合計量に対して、前記多官能(メタ)アクリレートの含有量が35質量%〜95質量%であり、前記無機微粒子及び珪素化合物加水分解縮合物の少なくとも一方の含有量が5質量%〜65質量%である」との発明特定事項を具備する本件特許発明1は、上記(2)で示した本件特許発明の課題を解決できるものと認識できる範囲のものであるといえる。
本件特許発明1の構成を全て具備する本件特許発明2〜6についても同様である。

本件特許発明1〜6のいずれかの製造方法に用いるための、熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体であって、「厚みが0.1mm〜20mmであるポリカーボネート樹脂基材層(A層)の少なくとも一方の面に、浸透層(B層)と、ハードコート層(C層)がこの順に積層され、かつ、下記(a)〜(d)の要件を満たし、前記B層が前記A層及び前記C層に接している」点で同様の発明特定事項を具備する本件特許発明7及び本件特許発明7の構成を全て具備する本件特許発明8〜10についても同様である。

(7) 特許異議申立人のサポート要件に係る主張について
ア 上記1(1)アの主張について
A層の厚さを0.5〜18mm、B層の厚みを3〜8μm、B層とC層の厚みの合計に対するB層の厚みの割合を23〜67%とした実施例1〜23において、耐摩耗性、熱曲げ性、熱曲げ後の密着性に優れることが、比較例との対比をもって具体的に示されているから、本件特許発明1は、発明の詳細な説明の記載により上記(2)で示した本件特許発明の課題を解決できるものと認識できる範囲のものであるといえる。

イ 上記1(1)イの主張について、
多官能(メタ)アクリレートの官能基数が大きくなればなるほど、硬くなる、脆くなるといった性質が表れる傾向にあることは当業者の技術常識である。また、発明の詳細な説明には、C層は、多官能(メタ)アクリレートの含有量が35質量%〜95質量%であり、無機微粒子及び珪素化合物加水分解縮合物の少なくとも一方の含有量が5質量%〜65質量%とすること、C層は、耐摩耗性と熱曲げ性とのバランスをとるために、単官能(メタ)アクリレートモノマーを用いて形成されていてもよく、その場合、多官能(メタ)アクリレートモノマーは(メタ)アクリレートモノマーの全質量に対して、90質量%以上であることが好ましいこと(【0046】)、硬度と柔軟性のバランス、耐摩耗性、熱曲げ性、及び、熱曲げ後の密着性の観点から、C層の形成に用いられる多官能(メタ)アクリレートモノマーは、2官能(メタ)アクリレートモノマー、3官能の(メタ)アクリレートモノマーであることが特に好ましいこと(【0060】)、多官能(メタ)アクリレートポリマーは、耐摩耗性と熱曲げ性のバランスの観点から、オリゴマーを含んでいてもよい(【0061】)ことが記載されている。そうすると、技術常識に照らせばハードコート層として、官能基が4以上の多官能(メタ)アクリレートを多官能(メタ)アクリレートの全成分とするような極端なケースは想定されないこと、また、官能基が4以上の多官能(メタ)アクリレートが含まれるとしても、多官能(メタ)アクリレートの含有量を調整したり、モノマーやオリゴマーを含ませたりして、耐摩耗性と熱曲げ性とのバランスを取ることができることを当業者は理解できる。そうすると、本件特許発明1の多官能(メタ)アクリレートに官能基数が4以上のものが含まれるとしても、本件特許発明1は、発明の詳細な説明の記載により上記(2)で示した本件特許発明の課題を解決できるものと認識できる範囲のものであるといえる。

ウ 上記1(1)ウの主張について
本件特許発明は、「多官能(メタ)アクリレート」と、「無機微粒子及び珪素化合物加水分解縮合物の少なくとも一方」は、溶解パラメーターが芳香族ポリカーボネートに近く、両者の親和性が高く界面での分子間力が大きくなることを課題を解決するための作用機序とするものである。そうすると、「無機微粒子」として溶解パラメーターが実施例のもの(コロイダルシリカ)と極端に異なるものが想定されないことは当業者に明らかである一方、溶解パラメーターが一定の範囲内であれば「無機微粒子」の種類によらず、本件特許発明1は、ハードコート層が「多官能(メタ)アクリレート」と「無機微粒子」を含み、「合計量に対して、前記多官能(メタ)アクリレートの含有量が35質量%〜95質量%であり、前記無機微粒子(及び珪素化合物加水分解縮合物の少なくとも一方)の含有量が5質量%〜65質量%である」との構成を有していれば、上記(2)で示した本件特許発明の課題を解決できるものと認識できる。

エ 上記1(1)エの主張について
本件特許発明は、多官能(メタ)アクリレートと、無機微粒子及び珪素化合物加水分解縮合物の少なくとも一方は、溶解パラメーターが芳香族ポリカーボネートに近く、両者の親和性が高く界面での分子間力が大きくなることを作用機序とするものである。また、発明の詳細な説明には、珪素化合物加水分解複合物の具体例が示され(【0077】)、複合樹脂は、多官能(メタ)アクリレートと無機微粒子及び珪素化合物加水分解縮合物の少なくとも一方との親和性を向上するために、トリアルコキシシリル基含有(メタ)アクリル樹脂と珪素化合物加水分解縮合物とを縮重合させた複合樹脂を含有させたものである(【0081】)ことが記載されている。そうすると、実施例の複合樹脂を含有しなくても、C層の必須成分として、多官能(メタ)アクリレートと、無機微粒子及び珪素化合物加水分解縮合物の少なくとも一方が含有されていれば上記(2)で示した課題を解決できると当業者は認識できる。

オ 上記1(1)オの主張について
本件特許発明の課題を解決する作用機序(メカニズム)は、既に述べたとおりものであるところ、実施例の記載や、発明の詳細な説明の、多官能(メタ)アクリレートポリマーは、耐摩耗性と熱曲げ性のバランスの観点から、重量平均分子量が2,000以上50,000未満である多官能(メタ)アクリレートの重合体オリゴマーを含んでいてもよい、多官能(メタ)アクリレートポリマーとは、重量平均分子量が50,000以上ある多官能(メタ)アクリレートの重合体を意味する、多官能(メタ)アクリレートモノマーの重合体の重量平均分子量は、耐摩耗性と熱曲げ性の観点から、50,000以上であることが好ましいとの記載(【0061】)に基づけば、多官能(メタ)アクリレートの重合度(又は、分子量、粘度)が規定されていなくとも、本件特許発明1は、上記(2)で示した本件特許発明の課題を解決できるものと認識できる範囲のものであるといえる。

カ 上記1(1)カの主張について
実施例として使用された熱曲げ加工用ハードコート剤HC−1〜HC−7の多官能(メタ)アクリレートの含有量は45質量%〜86質量%であり、課題を達成することができない比較例として使用されたハードコート剤HC−8及びHC−9の多官能(メタ)アクリレートの含有量が34質量%及び97質量%である。そうすると、本件特許発明の、特定量の多官能(メタ)アクリレートを含むので、多官能(メタ)アクリレート中の重合性二重結合が、紫外線等の活性エネルギー線で硬化されることにより、C層において3次元架橋が形成されて、C層の耐摩耗性及び熱曲げ後の密着性にも優れるとの課題を解決する作用機序に基づけば、「前記多官能(メタ)アクリレート、並びに、無機微粒子及び珪素化合物加水分解縮合物の少なくとも一方の合計量に対して、前記多官能(メタ)アクリレートの含有量が35質量%〜95質量%であ」る本件特許発明1は、上記(2)で示した本件特許発明の課題を解決できるものと認識できる範囲のものであるといえる。

キ 上記ア〜カで述べたとおりであるから、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載したものではないということはできない。本件特許発明2〜6及び本件特許発明7〜10についても同様である。

実施可能要件についての判断
次に実施可能要件について検討する。
(1) 実施可能要件の判断基準
発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号の要件(実施可能要件)に適合するというためには、明細書の発明の詳細な説明に、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、その発明を実施することができる程度に明確かつ十分な記載があることが必要である。
そして、特許請求の範囲に記載された発明が、物の発明である場合、物の発明について実施をすることができるとは、その物を作れ、かつ、その物を使用できることであるところ、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満たすためには、当業者が、物の発明について明確に理解でき、その物を作れ、かつ、その物を使用できる程度に具体的な記載が求められる。
また、特許請求の範囲に記載された発明が、方法の発明である場合、方法の発明について実施をすることができるとは、その方法を使用できることであるところ、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満たすためには、方法の発明について明確に理解でき、その方法を使用できる程度に具体的な記載が求められる。

(2) 判断
本件特許発明1〜10は、上記「第2 本件特許発明」に記載したとおりのものであるところ、発明の詳細な説明には、A層の厚さを0.5〜18mm、B層の厚みを3〜8μm、B層とC層の厚みの合計に対するB層の厚みの割合を23〜67%とした実施例1〜23が記載されているから、発明の詳細な説明には、本件特許発明1〜6に係る湾曲部材の製造方法について、方法の発明について明確に理解でき、その方法を使用できる程度に具体的に記載されているということができる。
同様に、発明の詳細な説明には、本件特許発明7〜10に係る熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体について、物の発明について明確に理解でき、その物を作れ、かつ、その物を使用できる程度に具体的に記載されているということができる。

(3) 特許異議申立人の実施可能要件に係る主張について
ア 上記1(1)カの主張について
発明の詳細な説明の多官能(メタ)アクリレートの含有量が45〜86質量%とした実施例の記載を参考にすれば、多官能(メタ)アクリレートの含有量を35〜45質量%や86〜95質量%の範囲とした湾曲部材の製造方法及び熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体の実施は、当業者に期待し得る程度を超える過度の試行錯誤なく行うことができる。

イ 上記1(1)キの主張について
発明の詳細な説明な説明の記載によれば、A層のいずれか一方の表面に、C層が含む、多官能(メタ)アクリレート、並びに、無機微粒子及び珪素化合物加水分解縮合物の少なくとも一方を含む無機微粒子分散体(以下、単に「無機微粒子分散体」ともいう。)を塗布してB層を形成し、B層の上にC層形成用の無機微粒子分散体を塗布してC層を形成してもよいし、A層のいずれか一方の表面に、C層形成用の無機微粒子分散体を塗布して、C層及びB層を形成してもよいことが理解できるところ、発明の詳細な説明には、実施例として、ポリカーボネート樹脂基材層(A層)の表面に、ハードコート層(C層)形成用の多官能(メタ)アクリレート、珪素化合物加水分解縮合物及び無機微粒子を含むハードコート剤(無機微粒子分散体)を塗布して、ハードコート層(C層)及び(A層及びC層の両成分を含む)浸透層(B層)を同時に形成することが具体的に記載されている。してみると、実施例等の発明の詳細な説明の記載を参考にすれば、実施例以外のB層の同時形成について、過度の試行錯誤なく実施することができる。

ウ 上記ア及びイで述べたとおりであるから、本件特許発明1について、発明の詳細な説明の記載は、当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないということはできない。本件特許発明2〜6及び本件特許発明7〜10についても同様である。


第6 当合議体の明確性要件(特許法第36条第6項第2号)についての判断
明確性要件違反についての特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、特許異議申立書の「(5)明確性要件欠如について」において、クレームされている「無機微粒子」と、本件特許明細書の【0090】に任意成分として記載されている表面調整剤、着色剤、及び分散媒に該当し得る「無機微粒子」との区別ができず、この点で、本件特許発明1〜10は、明確でない旨主張する。

明確性要件についての判断
ア 本件特許発明は、「多官能(メタ)アクリレートと、無機微粒子及び珪素化合物加水分解縮合物の少なくとも一方は、溶解パラメーターが芳香族ポリカーボネートに近く、両者の親和性が高く界面での分子間力が大きくなる」ことを、課題を解決するための作用機序とするものであるところ、「無機微粒子」が表面調整剤、着色剤として用いたものであるかどうかにかかわらず、「無機微粒子」との用語が示す意味、内容は明確である。

イ 以上のとおりであるから、本件特許発明1〜10は、明確でないということはできない。


第7 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1〜10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1〜10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2024-01-23 
出願番号 P2021-551180
審決分類 P 1 651・ 537- Y (B29C)
P 1 651・ 121- Y (B29C)
P 1 651・ 536- Y (B29C)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 神谷 健一
特許庁審判官 廣田 健介
河原 正
登録日 2023-03-01 
登録番号 7236554
権利者 帝人株式会社
発明の名称 湾曲部材の製造方法、及び、熱曲げ用ハードコート層付ポリカーボネート樹脂積層体  
代理人 弁理士法人太陽国際特許事務所  

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