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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  C08G
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  C08G
管理番号 1406728
総通号数 26 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2024-02-22 
種別 異議の決定 
異議申立日 2023-09-08 
確定日 2024-01-15 
異議申立件数
事件の表示 特許第7236805号発明「官能化ポリチオフェンを生成するプロセス」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7236805号の請求項1ないし11に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7236805号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし19に係る特許についての出願は、2015年(平成27年)11月20日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2014年(平成26年)12月23日 欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、令和5年3月2日にその特許権の設定登録(請求項の数19)がされ、特許掲載公報が同年同月10日に発行され、その後、その特許に対し、同年9月8日に特許異議申立人 所 智恵子(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし11)がされたものである。


第2 本件発明
本件特許の請求項1ないし11に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、請求項の番号に応じて各発明を「本件発明1」などといい、これらを併せて「本件発明」という場合がある。)。

「【請求項1】
官能化π共役ポリチオフェンを含む液体組成物を生成するプロセスであって、
i)
a)一般式(I)のチオフェンモノマー
【化1】

(式中、
X、Yは、同一であるか、または異なり、O、S、もしくはNR1であり、ここでR1は、水素または1〜18個の炭素原子を有する脂肪族もしくは芳香族残基であり、
Aは、アニオン性官能基を保持している有機残基である)、
b)酸化剤、および
c)溶媒
を含む液相を準備するステップと(ただし、プロセスステップi)において提供される前記液相は、ポリスチレンスルホン酸(PSS)を含まない。)、
ii)前記一般式(I)のチオフェンモノマーを酸化重合して、官能化π共役ポリチオフェンを含む液体組成物を得るステップと
を含み、ここで、
(α1)プロセスステップi)において準備された前記液相のpHは、無機酸を使用して7.0未満の値に調整され、前記無機酸は、塩化物を含まないものであり、前記pHは20℃の温度で決定され、
(α2)プロセスステップi)において準備された前記液相の塩化物含有量は、前記液相の全重量に基づいて、10000ppm未満である、
プロセス。
【請求項2】
(α3)プロセスステップi)において準備された前記液相の酸素含有量は、前記液相の全重量に基づいて、1000ppm未満である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
X、Yは、Oであり、
Aは、−(CH2)m−CR2R3−(CH2)n−であり、ここで、
R2は、水素または−(CH2)s−Z−(CH2)p−SO3−M+であり、
R3は、−(CH2)s−Z−(CH2)p−SO3−M+であり、
Zは、O、Sまたは−CH2−であり、
M+は、カチオンであり、
mおよびnは、同一であるか、または異なり、0〜3の整数であり、
sは、0〜10の整数であり、
pは、1〜18の整数である、
請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記一般式(I)において、
X、Yは、Oであり、
Aは、−(CH2)−CR2R3−(CH2)n−であり、ここで、
R2は、水素であり、
R3は、−(CH2)s−O−(CH2)p−SO3−M+であり、
M+は、Na+またはK+であり、
nは、0または1であり、
sは、0または1であり、
pは、4または5である、
請求項1〜3のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項5】
X、Yは、Oであり、
Aは、−(CH2−CHR)−であり、ここで、
Rは、−(CH2)t−O−Ar−[(W)u−SO3−M+]vであり、ここで、
Arは、任意に置換されているC6−C20アリーレン基を表し、
Wは、任意に置換されているC1−C6アルキレン基を表し、
M+は、H+、Li+、Na+、およびK+からなる群から選択されるアルカリカチオン、NH(R1)3+またはHNC5H5+を表し、ここで各R1基は独立して水素原子または任意に置換されているC1−C6アルキル基を表し、
tは、0〜6の整数を表し、
uは、0または1の整数を表し、
vは、1〜4の整数を表す、
請求項1に記載のプロセス。
【請求項6】
前記酸化剤b)は、重金属の塩、ペルオキソ二硫酸の塩またはそれらの混合物である、請求項1〜5のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項7】
前記溶媒c)は水である、請求項1〜6のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項8】
プロセスステップii)における前記酸化重合は、窒素、アルゴン、二酸化炭素またはそれらの混合物の不活性ガス雰囲気下で実施される、請求項1〜7のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項9】
プロセスステップii)における前記酸化重合は、プロセスステップii)における重合反応の間、前記液相の蒸気圧以上である圧力下で実施される、請求項8に記載のプロセス。
【請求項10】
プロセスステップii)における前記酸化重合は、0.8bar以下の減圧下で実施される、請求項1〜9のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項11】
プロセスステップii)で調製された官能化π共役ポリチオフェンが、前記一般式(I)のチオフェンモノマーからなる、請求項1〜10のいずれか一項に記載のプロセス。」


第3 特許異議申立理由の概要
申立人が主張する申立理由は、おおむね次のとおりである。

1 申立理由1(甲第1号証を根拠とする新規性欠如)
本件発明1ないし11は、本件特許の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

2 申立理由2(甲第1号証を主引用例とする進歩性欠如)
本件発明1ないし11は、甲第1号証に記載された発明、及び、甲第3号証に記載された事項又は周知技術(甲第4号証)に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

3 申立理由3(甲第2号証を根拠とする新規性欠如)
本件発明1ないし11は、本件特許の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

4 申立理由4(甲第2号証を主引用例とする進歩性欠如)
本件発明1ないし11は、甲第2号証に記載された発明、及び、甲第3号証に記載された事項又は周知技術(甲第4号証)に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

5 証拠方法
申立人は、証拠として、以下の文献等を提出する。文献の表記は、特許異議申立書の記載に基づく。以下、甲各号証の番号に応じて、甲第1号証を「甲1」などという。
・甲第1号証:国際公開第2014/007299号
・甲第2号証:特開2001−261795号公報
・甲第3号証:特表2011−510131号公報
・甲第4号証:奥崎秀典、「PEDOTの材料物性とデバイス応用」、サイエンス&テクノロジー株式会社、2012年3月5日、第70頁〜71頁


第4 当審の判断
当審は、以下に述べるように、申立理由1ないし4には、いずれも理由はないと判断する。

1 甲各号証の記載事項及び甲各号証記載の発明
(1)甲1の記載事項
甲1には、「ポリチオフェン類、それを用いた水溶性導電性ポリマー、及びその製造方法」に関し、以下の事項が記載されている(下線は当審において付した。以下同様。)。

・「[0001] 本発明は、ポリチオフェン類、それを用いた水溶性導電性ポリマー水溶液、及び当該ポリチオフェン類の製造方法に関する。」

・「[0003] このため、水溶性の導電性ポリマーを得る方法として、ポリスチレンスルホン酸(PSS)等の水溶性高分子ドーパントの存在下に、EDOTを重合させる方法が提案されている(例えば、特許文献2参照。PEDOT−PSSと呼ばれる)。
特許文献2によれば、ポリアニオンがドーパント兼水分散剤として取り込まれることで水溶性となり、成型加工性が向上するとされている。しかしながら、特許文献2に記載の導電性ポリマーは、ドーピングに関与していない導電性の低いポリマー部分を多量に含むため、導電性が低くなること、大過剰のスルホ基があることで耐熱性や耐水性が低いこと、強酸性による装置腐食等の課題がある。
・・・
[0007] 従って、水溶化のために導電性向上に寄与しない他の成分を添加することなく、プロセッサビリティを付与できる自己ドープ型の水溶性導電性ポリマーであって、良好な水溶性と導電性に加えて、水溶液とした場合にポリマーの粒子径が十分に小さいものが求められていた。」

・「発明が解決しようとする課題
[0010] 本発明は、上記の背景技術に鑑みてなされたものであり、その目的は、
(1)導電材料として用いられる水溶性のポリチオフェン類及びその製造方法を提供すること、及び
(2)ポリチオフェン類の原料として用いられるチオフェン化合物を提供すること、
である。」

・「[0042] 本重合反応に用いる溶媒は、水又はアルコール溶媒である。水としては、純水であればよく、蒸留水、イオン交換水でもよい。アルコール溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類が挙げられる。これらのアルコール溶媒は、単独でも使用しても、水と併用してもよい。本発明において、好ましくは水又はメタノールであり、より好ましくは水である。また、溶媒を脱気や窒素等の不活性ガスで置換していてもよい。
[0043] ・・・
本重合反応に用いる酸化剤としては、酸化的脱水素化反応による酸化重合を進行させるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、過硫酸類、鉄塩(III)、過酸化水素、過マンガン酸塩、重クロム酸塩、硫酸セリウム(IV)、酸素等が挙げられ、単独で又は二種以上を混合して使用しても良い。
[0044] ここで、過硫酸類としては、具体的には、過硫酸、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等が例示される。
また、鉄塩(III)としては、具体的には、FeCl3、Fe2(SO4)3、過塩素酸鉄、パラ−トルエンスルホン酸鉄(III)等が例示される。これらは無水物を使用しても、水和物を使用してもよい。
また、過マンガン酸塩としては、具体的には、過マンガン酸ナトリウム、過マンガン酸カリウム、過マンガン酸マグネシウム等が例示される。
また、重クロム酸塩としては、具体的には、重クロム酸アンモニウム、重クロム酸カリウム等が例示される。
これらの酸化剤のうち、好ましくは、鉄塩(III)、又は過硫酸塩と鉄塩(III)との併用系である。鉄塩(III)としては、FeCl3、Fe2(SO4)3が好ましい。」

・「実施例
[0105] 以下に本発明のポリチオフェン類(A)に関する実施例を示すが、本発明はこれら実施例に限定して解釈されるものではない。
・・・
[0114] 実施例4: 6−(2,3−ジヒドロ−チエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン−2−イル)−1−ヘキサンスルホン酸ナトリウム(36)の合成[上記式(20)に相当する化合物].
・・・
[0116] (4−2)6−(2,3−ジヒドロ−チエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン−2−イル)−1−ヘキサンスルホン酸ナトリウム(36)の合成[上記式(20)に相当する化合物].
・・・引き続き、減圧ろ過で不溶物を除去し、得られた無色ろ液を濃縮して目的の化合物(36)を白色固体として11.9g(収率56%)で得た。この化合物は室温で1重量%以上の水溶性を示した。また、大気中での保存・取扱いが可能であった。
[0117][化41]



・「[0133] [化54]

[化55]

[0134] 実施例14: ポリマー(57)の合成[上記式(55)又は上記式(56)で表される構造単位を含む重合体).
30mL反応管に、実施例4で得た化合物(36)を1000mg(2.85mmol)、及び水14.8gを仕込んでモノマーの水溶液を得た。次にFeCl3 231mg(1.43mmol)を添加し、30分間室温で攪拌した。得られた褐色水溶液に別途調製したNa2S2O8 1359mg(5.71mmol)を水8mLに溶かして調製した酸化剤水溶液をゆっくり添加した。添加とともに濃青色液に変化し、系が固化した。室温で24時間重合させた後、アセトン700mLに重合液を注ぎ、ポリマーを析出させた。得られたポリマーをろ過して1.43gの淡緑色固体を得た。引き続き、水で全量200gの水溶液を調製し、陽イオン交換樹脂アンバーライト(IR120H型)を添加して一晩攪拌した。減圧ろ過でアンバーライトを除去して濃青色H型ポリマー水溶液を得た。さらに透析(透析膜:Spectra/Por MWCO=3500)により無機塩を除去した。精製した水溶液を濃縮乾燥して目的のH型ポリマー(57)を黒色固体として460mg得た(収率46%)。このポリマーを100ppm含む水溶液のUV−Vis−NIR分析を行った結果、ドーピングに起因する長波長吸収が観測された(図10参照)。図17にそのIR分析の結果を示したが、ドーピングに起因する3600〜1800cm−1辺りに特徴的なバンド吸収を観測した。本ポリマーの0.5重量%水溶液を調製し、無アルカリガラス板にキャストして得た膜の導電率は10S/cmであった。0.5重量%水溶液におけるポリマーの粒径(D50)は検出限界(0.8nm)以下であり、また0.05μmフィルターを通液した。」

・「[0165] 以下に本発明のポリチオフェン類(C)に関する実施例を示す。
実施例25: 3−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−メチル−1−プロパンスルホン酸ナトリウムの合成.
・・・得られた粉末を濾過及び真空乾燥させることで1.82gの淡黄色粉末である3−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−メチル−1−プロパンスルホン酸ナトリウムを収率62%で得た。1H−、及び13C−NMRから目的物であることを確認した。
・・・
[0166] 実施例26: ポリマー合成[下記式(92)又は下記式(93)で表される構造単位を含む重合体].
窒素雰囲気下、50mlシュレンク管に、実施例25で得られた3−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−メチル−1−プロパンスルホン酸ナトリウム 0.505g(1.52mmol)と水 7.5mlを加え、室温下、無水塩化鉄(III)0.153g(0.93mmol)を加えて20分攪拌した。その後、過硫酸ナトリウム0.724g(3.05mmol)と水5mlからなる混合溶液をシリンジで滴下した。室温で3時間攪拌したのち、反応液を100mlのアセトンに滴下させ黒色のポリマーを析出させた。ポリマーを濾過し、真空乾燥することで、0.88gの3−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−メチル−1−プロパンスルホン酸ナトリウムのポリマーを得た。次に、このポリマーに水を加え1重量%溶液に調製した水溶液に、陽イオン交換樹脂(Lewatit MonoPlus S100(H型))9.2gを加え、室温下、13時間攪拌した。濾過によりイオン交換樹脂を分離することで濃群青色水溶液を得た。得られた濃群青色水溶液は、更に、透析(透析膜:Spectra/Por MWCO=3500)により無機塩を除去した。更に、得られた濃群青色水溶液を6.3gまで濃縮し、アセトン 120mlに再沈させ、353mgの黒色粉末を得た(収率=69%)。
このポリマーの100ppm水溶液を調製後、UV−Vis−NIR分析を行ったところ、ドーピングに起因する長波長吸収が観測された(図25参照)。
[0167] 更に、本ポリマーの0.5重量%水溶液を無アルカリガラス板(25mm角)にキャストして得た膜の表面抵抗、膜厚及び導電率は、夫々98Ω/□、1.9μm、54S/cmであった。この値は、従来報告されているPEDT−Sの導電率より2倍程度高かった。また、0.5重量%水溶液におけるポリマーの粒径(D50)は検出限界(0.8nm)以下であった。結果を表1に纏める。
[化69]



(2)甲1に記載された発明
甲1には、その実施例14及び26に着目すると、それぞれ以下の発明が記載されていると認める。

<甲1A発明>
「30mL反応管に、6−(2,3−ジヒドロ−チエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン−2−イル)−1−ヘキサンスルホン酸ナトリウムを1000mg(2.85mmol)、及び水14.8gを仕込んでモノマーの水溶液を得、次にFeCl3 231mg(1.43mmol)を添加し、30分間室温で攪拌し、得られた褐色水溶液に別途調製したNa2S2O8 1359mg(5.71mmol)を水8mLに溶かして調製した酸化剤水溶液をゆっくり添加し、添加とともに濃青色液に変化し、系が固化し、室温で24時間重合させる、ポリ6−(2,3−ジヒドロ−チエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン−2−イル)−1−ヘキサンスルホン酸の製造方法。」

<甲1B発明>
「窒素雰囲気下、50mlシュレンク管に、3−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−メチル−1−プロパンスルホン酸ナトリウム 0.505g(1.52mmol)と水 7.5mlを加え、室温下、無水塩化鉄(III)0.153g(0.93mmol)を加えて20分攪拌し、その後、過硫酸ナトリウム0.724g(3.05mmol)と水5mlからなる混合溶液をシリンジで滴下し、室温で3時間攪拌して反応液を得る、ポリ3−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−メチル−1−プロパンスルホン酸の製造方法。」

(3)甲2の記載事項
甲2には、「水溶性π共役重合体の製造方法」に関し、以下の事項が記載されている。

・「【請求項1】 水溶性π共役重合体の製造方法であって、酸化剤を用いて式I
【化1】

[式中、XおよびYは、同一もしくは異なり、O、SまたはN−R1であり、Zは、−(CH2)m−CR2R3−(CH2)n−であり、R1は、アリール、C1−C18−アルキルまたは水素であり、R2は、水素または−(CH2)s−O−(CH2)p−SO3-M+であり、R3は、−(CH2)s−O−(CH2)p−SO3-M+であり、M+は、カチオンであり、mおよびnは、同一もしくは異なり、0から3の整数であり、sは、0から10の整数であり、そしてpは、1から18の整数である]で表される単量体チオフェン誘導体を水溶液中で重合させることを特徴とする方法。」

・「【発明の詳細な説明】
【0001】本発明は、水溶性π共役重合体を水中の化学的重合で製造することに関する。
・・・
【0010】電気的および/または光学的特性がPEDT/PSSに比較して類似または向上していて環境に優しい材料を探求する我々の研究を行っている間に、我々は、PSSを用いなくても水に可溶な新規π共役重合体を成功裏に生じさせることができた。」

・「【0019】この単量体化合物の重合を水中で適切な酸化剤を用いて実施する。適切な酸化剤の例は鉄(III)塩、特にFeCl3、そして芳香族および脂肪族スルホン酸の鉄(III)塩、H2O2,K2Cr2O7,K2S2O8,Na2S2O8,KMnO4、アルカリ金属の過ホウ酸塩、そしてアルカリ金属またはアンモニウムの過硫酸塩、またはそのような酸化剤の混合物である。適切なさらなる酸化剤が、例えばHandbook of Conducting Polymers (Ed.Skotheim,T.A.),Marcel Dekker:New York,1986,1巻,46−57などに記述されている。特に好適な酸化剤はFeCl3,Na2S2O8およびK2S2O8またはそれらの混合物である。
【0020】本発明に従う方法を好適には−20から100℃の反応温度で実施する。特に20から100℃の反応温度が好適である。
【0021】また、そのような水性反応混合物にさらなる水混和性溶媒を添加することも可能である。
【0022】適切な溶媒の例は脂肪アルコール類、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、ジアセトンアルコール、エチレングリコールおよびグリセロールなどである。同様に脂肪族ケトン、例えばアセトンおよびメチルエチルケトンなど、そして脂肪族ニトリル類、例えばアセトニトリルなども適切である。」

・「【0038】
【実施例】以下に示す実験では、Chevrot他(J.Electroanal.Chem.1998,443,217−226)が記述したようにして生じさせた4−(2,3−ジヒドロ−チエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン−2−イルメトキシ)−1−ブタンスルホン酸ナトリウム塩(EDT−S)を単量体として用いた。
・・・
【0040】・・・
RT:室温
Lewatit(商標)S100:バイエル社(Bayer AG)のカチオン性イオン交換体
Lewatit(商標)MP62:バイエル社のアニオン性イオン交換体
実施例2
Na2S2O8を酸化剤として用いたポリ(4−(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン−2−イルメトキシ)−1−ブタンスルホン酸)(PEDT−S)の製造
蒸留水(25ml)に入っているNa2S2O8(0.267g、1.12ミリモル)とFe2(SO4)3(0.0025g)の溶液にアルゴン下で脱気を受けさせた後、貯蔵した。EDT−Sのナトリウム塩(0.25g、0.76ミリモル)を一度に加えた後、この溶液をRTで24時間撹拌した。次に、この混合物を100℃で更に2時間撹拌した。次に、この反応混合物をRTに冷却した。この暗青色の溶液を蒸留水で固体含有量が1%になるまで希釈した後、Lewatit(商標)S100(5g)およびLewatit(商標)MP62(5g)と一緒にしてRTで1時間撹拌した。イオン交換体を濾過で除去することで暗青色の重合体溶液を得た。」

(4)甲2に記載された発明
甲2には、その実施例2に着目すると、以下の発明が記載されていると認める。

<甲2発明>
「蒸留水(25ml)に入っているNa2S2O8(0.267g、1.12ミリモル)とFe2(SO4)3(0.0025g)の溶液にアルゴン下で脱気を受けさせた後、貯蔵し、EDT−Sのナトリウム塩(4−(2,3−ジヒドロ−チエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン−2−イルメトキシ)−1−ブタンスルホン酸ナトリウム塩;0.25g、0.76ミリモル)を一度に加えた後、この溶液をRTで24時間撹拌し、次に、この混合物を100℃で更に2時間撹拌し反応混合物を得る、ポリ(4−(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン−2−イルメトキシ)−1−ブタンスルホン酸)(PEDT−S)の製造方法。」

(5)甲3の記載事項
甲3には、「可溶性伝導性高分子およびその製造方法」に関し、以下の事項が記載されている。

・「【0037】
本発明において、硫酸、塩酸、リン酸、塩化硫酸、メタンスルホン酸、スルファミン酸、硝酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、カンファースルホン酸、トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、蟻酸、ポリスチレンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、シュウ酸、ジフェニルスルホンスルホン酸、安息香酸、アントラキノンスルホン酸などのドーパントでドープされた伝導性高分子は、メチルエチルケトン、・・・、およびピロリジンの中から選ばれた有機溶媒それぞれに全て溶解する重要な特性を持つ。」

・「【0065】
本発明の製造方法において、ドーパントとしては、硫酸、塩酸、リン酸、塩化硫酸、メタンスルホン酸、スルファミン酸、硝酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、カンファースルホン酸、トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、蟻酸、ポリスチレンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、シュウ酸、ジフェニルスルホンスルホン酸、安息香酸、アントラキノンスルホン酸などを挙げることができ、これらは単独で或いは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0066】
本発明の製造方法において、酸化剤、第1酸化剤および第2酸化剤としては、それぞれ独立に過硫酸アンモニウム、硫酸アンモニウム鉄(III)、硫酸鉄(III)、塩化鉄(III)、過塩素酸鉄(III)、硫酸トルエン鉄(III)、過マンガン酸カリウム、重クロム酸カリウム、およびトリトルエンスルホン鉄(III)(Fe(OTs)3)からなる群より選ばれる少なくとも1種で構成されたものを使用することができる。」

・「【0088】
実施例13:伝導性高分子ポリチオフェンおよびそれを用いた伝導性フィルムの製造
(1)常温でチオフェン単量体0.3モルをメチルエチルケトン600ml入りの三角フラスコに入れて磁石攪拌棒で攪拌した。この溶液に水5mlとドーパントとしての硫酸0.1モルを加えた。この溶液に触媒剤として塩化リチウム(LiCl)8gを入れ、ドーピング補助剤としてN−メチルピロリジノン(NMP)10mlを入れて30分間攪拌した後、過硫酸アンモニウム((NH4)2S2O8)0.3モルを添加し、72時間以上反応させた。この溶液を濾過して伝導性高分子溶液を得た(溶液の粘度が大きくなって沈殿物が生成された場合、メチルエチルケトンを除いた他の溶媒を溶液の総重量に対して5重量%以上加えて攪拌を可能にした)。」

(6)甲4の記載事項
甲4には、「PEDOT/PSSディスパージョンの合成」に関し、以下の事項が記載されている。

・「はじめに
PEDOT/PSSディスパージョン(コロイド分散液)はテンプレートとしてPSSを用い,EDOTを水中で酸化重合することにより合成される(図1)。



・「また、PEDOT重合においてpHも重要なパラメータである。PSSにより溶液のpHは3以下であり,酸が反応触媒として作用している。酸が無ければEDOTの酸化によりケト型の副生成物を生じるが11),酸化重合の進行とともにEDOTからプロトンが放出されるためpHは低下する(式2)。


」(第71ページ)

2 申立理由1及び2(甲1を根拠とする新規性進歩性欠如)について
(1)本件発明1について
ア 甲1A発明を主引用発明とした場合
(ア) 対比
本件発明1と甲1A発明とを対比する。
甲1A発明の「6−(2,3−ジヒドロ−チエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン−2−イル)−1−ヘキサンスルホン酸ナトリウム」は、[0117]の[化41]で表される化合物であり、本件発明1の一般式(I)のチオフェンモノマーにおいて、XとYが共に酸素であって、Aがエチレン基にアニオン性官能基である1−ヘキサンスルホン酸ナトリウムが置換した構造のものであるから、本件発明1の「a)一般式(I)のチオフェンモノマー」に相当する。
また、甲1A発明の「FeCl3」及び「Na2S2O8」は、甲1の段落[0043]〜[0044]の記載から、本件発明1の「b)酸化剤」に相当し、甲1A発明は、水溶液中でのプロセスであること、及び、甲1の段落[0042]の記載から、「水」が本件発明1の「c)溶媒」に相当する。
そして、甲1A発明の「酸化剤水溶液をゆっくり添加」するまでの工程はチオフェンモノマー、酸化剤及び水を含む液体組成物を得る工程であるから、本件発明1の「プロセスステップi)」に相当し、その際、液相は、ポリスチレンスルホン酸(PSS)を含まないのは明らかである。
また、甲1A発明の「室温で24時間重合させる」工程は、それによって液体組成物として、官能化π共役ポリチオフェンである、ポリ(6−(2,3−ジヒドロ−チエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン−2−イル)−1−ヘキサンスルホン酸)を含むものが得られることから、本件発明1の「プロセスステップii)」に相当する。

そうすると、本件発明1と甲1A発明との一致点及び相違点は、それぞれ次のとおりである。
<一致点>
官能化π共役ポリチオフェンを含む液体組成物を生成するプロセスであって、
i)
a)一般式(I)のチオフェンモノマー
【化1】

(式中、
X、Yは、同一であるか、または異なり、O、S、もしくはNR1であり、ここでR1は、水素または1〜18個の炭素原子を有する脂肪族もしくは芳香族残基であり、
Aは、アニオン性官能基を保持している有機残基である)、
b)酸化剤、および
c)溶媒
を含む液相を準備するステップと(ただし、プロセスステップi)において提供される前記液相は、ポリスチレンスルホン酸(PSS)を含まない。)、
ii)前記一般式(I)のチオフェンモノマーを酸化重合して、官能化π共役ポリチオフェンを含む液体組成物を得るステップと
を含むプロセスである点。

<相違点1>
本件発明1は「(α1)プロセスステップi)において準備された前記液相のpHは、無機酸を使用して7.0未満の値に調整され、前記無機酸は、塩化物を含まないものであり、前記pHは20℃の温度で決定され」ることが特定されるのに対し、甲1A発明は、無機酸を使用せず、液相のpHが特定されない点。

<相違点2>
本件発明1は「(α2)プロセスステップi)において準備された前記液相の塩化物含有量は、前記液相の全重量に基づいて、10000ppm未満である」ことが特定されるのに対し、甲1A発明は、液相の塩化物含有量が特定されない点。

(イ) 相違点についての検討
a 相違点1について
方法の発明である本件発明1と甲1A発明との対比において、無機酸を使用してpHを調整する工程が存在しない点は、実質的な相違点といえる。
そして、甲1には、酸化重合時において、液相のpHを調整すること、しかも、それを無機酸の添加という更なる手段によって行うことについて、甲1に記載及び示唆がなく、該手段の採用の動機付けが存在しない。
また、甲1の段落[0044]には、甲1A発明のFeCl3と等価で好ましい酸化剤として、Fe2(SO4)3が例示されているものの、Fe2(SO4)3は、「塩」であって、「無機酸」ではないし、仮に、甲1A発明において、FeCl3に代えてFe2(SO4)3を用いたとしても、液相のpHが7.0未満となるかは不明である。
なお、本件特許の審査段階における令和2年3月27日付け意見書において、酸化剤としてモノマー溶液にFe2(SO4)3、Na2S2O8を添加し、有機酸や無機酸を添加しない場合、導電性ポリマー(すなわちPEDOT−S)の調製に使用される液相のpH値が、10.1や10.2になることが示されている。

一方、甲3には、可溶性伝導性高分子の製造方法において、ドーパントとして、硫酸、塩酸、トルエンスルホン酸などを用いること、及び、酸化剤である過硫酸アンモニウムなどを添加することが記載されている。
しかしながら、甲3において、硫酸等の酸はドーパントとして用いるものであり、pH調整を目的としつつ、塩化物を含有しない無機酸として添加されるものではない(甲3の段落【0037】、【0065】)。そして、甲1A発明で得るものは、自己ドープ型の水溶性導電性ポリマーであるから、更に甲3に記載の、ドーパントである硫酸等の無機酸を混合させる動機付けもない。

また、甲4には、PSS(当審注:ポリ(4−スチレンスルホン酸))をテンプレートとしてEDOT(当審注:3,4−エチレンジオキシチオフェン)を水中で酸化重合してPEDOT(当審注:ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン))/PSSディスパージョンを製造するに当たり、pHも重要なパラメータであり、PSSにより溶液のpHは3以下であり、酸が反応触媒として作用していることが記載されている(第71ページ)。

しかしながら、かかる記載から、酸として、甲1A発明において、あえて用いないPSSに係る甲4記載の技術を組み合わせるのには、阻害事由があり、また、自己ドーパント型である1−メチル−1−プロパンスルホン酸ナトリウム基を有する甲1A発明においても、「酸」を添加する必要があるか否かは不明であるから、PSS以外の酸によって溶液のpHを調整することも、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

b 相違点2について
甲1A発明は、酸化剤としてFeCl3を用いるものであるし、甲1の記載をみても、特段、塩素含有量を少なくすることについて何ら言及はされていないから、甲1A発明において、塩素含有量を10000ppm(1重量%)未満とする動機付けもない。
そして、塩化物含有量を低減させる効果に関し、本件特許明細書において、酸化剤として塩化鉄を使用した比較例2と、硫酸を加え酸化剤として硫酸鉄(III)水溶液とペルオキソ二硫酸ナトリウムを用い、塩化物が液相に入らない実施例2との対比において、【表2】に示されるように、静電容量(CAP)及び等価直列抵抗(ESR)が共に良好な結果が得られ、特にESRに関して比較例2の0.25倍という格別顕著な効果を奏するものである。

イ 甲1B発明を主引用発明とした場合
(ア) 対比
本件発明1と甲1B発明とを対比する。
甲1B発明の「3−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−メチル−1−プロパンスルホン酸ナトリウム」は、[0167]の[化69]で表される重合体に対応する単量体のナトリウム塩であり、本件発明1の一般式(I)のチオフェンモノマーにおいて、XとYが共に酸素であって、Aがエチレン基にアニオン性官能基である、3−メトキシ−1−メチル−1−プロパンスルホン酸ナトリウムのメトキシで置換した構造のものであるから、本件発明1の「a)一般式(I)のチオフェンモノマー」に相当する。
また、甲1A発明と同様に、甲1B発明の「無水塩化鉄(III)」及び「過硫酸ナトリウム」は、本件発明1の「b)酸化剤」に、「水」が本件発明1の「c)溶媒」にそれぞれ相当する。
そして、甲1B発明の過硫酸ナトリウムと水からなる混合溶液をシリンジで滴下するまでの工程はチオフェンモノマー、酸化剤及び水を含む液体組成物を得る工程であるから、本件発明1の「プロセスステップi)」に相当し、また、甲1B発明の「室温で3時間攪拌して反応液を得る」工程は、それによって液体組成物として、官能化π共役ポリチオフェンである、ポリ(3−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−メチル−1−プロパンスルホン酸)を含むものが得られることから、本件発明1の「プロセスステップii)」に相当する。

そうすると、本件発明1と甲1B発明との一致点及び相違点は、上記ア(ア)にて甲1A発明との対比において述べた、<一致点>、<相違点1>及び<相違点2>と同一である。

(イ) 相違点についての検討
甲1B発明と本件発明1との相違点については、上記ア(イ)にて甲1A発明と本件発明1との対比において述べたとおりである。

ウ 申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書第43ないし44ページにおいて、上記相違点1及び2について、おおむね以下の主張をしている。

(ア)「甲1発明の『FeCl3』については、甲第1号証の段落[0044]の記載に基づいて『Fe2(SO4)3』に置き換えることが可能」であって、「『Fe2(SO4)3』は、20℃におけるpHが3〜4になる性質を有する無機化合物であることは周知であるから、本件発明1の構成要件Gに記載される『無機酸』にも相当」し、「甲1発明のプロセスステップi)において、『FeCl3』から置換された『Fe2(SO4)3』は塩化物を含むものではなく、かつ、液相に含まれるその他の成分のいずれも塩化物を含むものではない。そうすると、『FeCl3』を『Fe2(SO4)3』に置換した甲1発明(実施例14)は『プロセスステップi)において準備された前記液相の塩化物含有量は、前記液相の全重量に基づいて、10000ppm未満である』という条件を満足するものである。」

(イ)「甲第3号証には、甲3発明として、『ポリチオフェンの製造方法として、チオフェンに無機酸である硫酸を添加し、酸化剤である過硫酸アンモニウムを添加し、前記チオフェンを酸化重合する方法』が開示されている。そして、甲1発明と甲3発明は、いずれもチオフェン化合物を重合し、ポリチオフェンを製造する共通の課題に関する同一の技術分野の発明であり、両者を組み合わせることには明らかな動機付けがある。」

(ウ)「甲第4号証記載のとおり、PEDOT/PSSの製造において、PSSは種々の役割を果たしており、その重要な役割の一つとして、酸として重合反応を触媒する点が挙げられているように、EDOTに代表されるチオフェンの重合には、酸を添加することが重要であることは当業者には周知技術なのである。」

しかしながら、上記主張(ア)に関し、本件発明は、酸化剤とは別の成分として「無機酸」を使用するものであるところ、Fe2(SO4)3は、酸化剤として用いられる塩であって、無機酸ではないから、仮に、甲1A発明において、酸化剤であるFeCl3に代えて、Fe2(SO4)3を使用したとしても、それとは異なる成分である「無機酸」を更に使用することにはならない。また、pHについても、申立人は、異議申立書において、「Fe2(SO4)3」は、20℃におけるpHが3〜4になる性質を有することは周知と主張するのみであって、その証拠を示していないし、「Fe2(SO4)3」以外を含む系でのpHについて、かかるpHになるかは不明である。
そして、塩素量を所定範囲とすることが当業者にとって容易でないことも上記「ア(イ)b 相違点2について」に説示したとおりである。

また、主張(イ)及び(ウ)についても、上記「ア(イ)a 相違点1について」において述べたとおり、甲3及び甲4の記載を考慮しても、甲1A発明又は甲1B発明において、酸化剤であるFeCl3に代えて、「無機酸」を用いることを、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

よって、申立人の上記主張は、採用できない。

エ 本件発明1についての小括
そうすると、少なくとも上記相違点1は、実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明、及び、甲3、甲4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明2ないし11について
本件発明1の特定事項を全て有し、更に限定する本件発明2ないし11についても、上記(1)に示した本件発明1と同様の理由により、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明、及び、甲3、甲4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)申立理由1及び2のまとめ
したがって、申立理由1及び申立理由2には理由がない。

3 申立理由3及び4(甲2を根拠とする新規性進歩性欠如)について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明の「EDT−Sのナトリウム塩」は、段落【0038】の記載から、「4−(2,3−ジヒドロ−チエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン−2−イルメトキシ)−1−ブタンスルホン酸ナトリウム塩」であるから、本件発明1の一般式(I)のチオフェンモノマーにおいて、XとYが共に酸素であって、Aがエチレン基にアニオン性官能基である、4−メトキシ−1−ブタンスルホン酸ナトリウムのメトキシで置換した構造のものであるから、本件発明1の「a)一般式(I)のチオフェンモノマー」に相当する。
また、甲2発明の「Na2S2O8」及び「Fe2(SO4)3」は、本件発明1の「b)酸化剤」に、「蒸留水」が本件発明1の「c)溶媒」にそれぞれ、相当する。
そして、甲2発明の、Na2S2O8とFe2(SO4)3溶液にEDT−Sのナトリウム塩を加えるまでの工程は、本件発明1の「プロセスステップi)」に相当し、その際、溶液には塩化物が含まれないため、本件発明1の「(α2)プロセスステップi)において準備された前記液相の塩化物含有量は、前記液相の全重量に基づいて、10000ppm未満である」という特定事項を充足する。
更に、甲2発明の「RTで24時間撹拌し、次に、この混合物を100℃で更に2時間撹拌し反応混合物を得る」は、本件発明1のプロセスステップii)に相当する。

そうすると、本件発明1と甲2発明との一致点及び相違点は、それぞれ次のとおりである。
<一致点>
官能化π共役ポリチオフェンを含む液体組成物を生成するプロセスであって、
i)
a)一般式(I)のチオフェンモノマー
【化1】

(式中、
X、Yは、同一であるか、または異なり、O、S、もしくはNR1であり、ここでR1は、水素または1〜18個の炭素原子を有する脂肪族もしくは芳香族残基であり、
Aは、アニオン性官能基を保持している有機残基である)、
b)酸化剤、および
c)溶媒
を含む液相を準備するステップと(ただし、プロセスステップi)において提供される前記液相は、ポリスチレンスルホン酸(PSS)を含まない。)、
ii)前記一般式(I)のチオフェンモノマーを酸化重合して、官能化π共役ポリチオフェンを含む液体組成物を得るステップと
を含み、ここで、
(α2)プロセスステップi)において準備された前記液相の塩化物含有量は、前記液相の全重量に基づいて、10000ppm未満である、
プロセスである点。

<相違点3>
本件発明1は「(α1)プロセスステップi)において準備された前記液相のpHは、無機酸を使用して7.0未満の値に調整され、前記無機酸は、塩化物を含まないものであり、前記pHは20℃の温度で決定され」ることが特定されるのに対し、甲2発明は、無機酸を使用せず、液相のpHが特定されない点。

イ 相違点についての検討
上記相違点3について検討すると、甲2発明において、無機酸を使用してpHを調整する工程が存在しない点に関し、Fe2(SO4)3は、「塩」であって、「無機酸」ではないし、Fe2(SO4)3を含んでいても液相のpHが7.0未満となるかは不明であるから実質的な相違点といえる。
そして、甲2における酸化重合時において、液相のpHを調整すること、しかも、それを塩化物を含まない無機酸の添加という更なる手段によって行うことについて、記載及び示唆がなく、該手段の採用の動機付けが甲2には、存在しない。

一方、甲3には、可溶性伝導性高分子の製造方法において、ドーパントとして、硫酸、塩酸、トルエンスルホン酸などを用いること、及び、酸化剤である過硫酸アンモニウムなどを添加することが記載されている。
しかしながら、甲3において、硫酸等の酸はドーパントとして用いるものであり、pH調整を目的としつつ、塩化物を含有しない無機酸として添加されるものではない(甲3の段落【0037】、【0065】)。そして、甲2は、PSSを用いずに水に可溶なπ共役重合体を製造するもの(甲2の段落【0010】)であって、そのために自己ドープの構造を採ることから、更に甲3に記載の、ドーパントである硫酸等の無機酸を混合させる動機付けもない。

また、甲4には、PSS(当審注:ポリ(4−スチレンスルホン酸))をテンプレートとしてEDOT(当審注:3,4−エチレンジオキシチオフェン)を水中で酸化重合してPEDOT(当審注:ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン))/PSSディスパージョンを製造するに当たり、pHも重要なパラメータであり、PSSにより溶液のpHは3以下であり、酸が反応触媒として作用していることが記載されている(第71ページ)。
しかしながら、かかる記載から、酸として、甲2発明において、あえて用いないPSSに係る甲4記載の技術を組み合わせるのには、阻害事由があり、また、自己ドーパント型である1−メチル−1−プロパンスルホン酸ナトリウム基を有する甲3発明においても、「酸」を添加する必要があるか否かは不明であるから、PSS以外の酸によって溶液のpHを調整することも、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

ウ 申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書56〜57ページにおいて、上記相違点3について、おおむね以下の主張をしている。

(ア)「『Fe2(SO4)3』は、20℃におけるpHが3〜4になる性質を有する無機化合物であることは周知であるから、本件発明1の構成要件Gに記載される『無機酸』にも相当する。」

(イ)「甲第3号証には、甲3発明として、『ポリチオフェンの製造方法として、チオフェンに無機酸である硫酸を添加し、酸化剤である過硫酸アンモニウムを添加し、前記チオフェンを酸化重合する方法』が開示されている。そして、甲2発明と甲3発明は、いずれもチオフェン化合物を重合し、ポリチオフェンを製造する共通の課題に関する同一の技術分野の発明であり、両者を組み合わせることには明らかな動機付けがある。」

(ウ)「甲第4号証記載のとおり、PEDOT/PSSの製造において、PSSは種々の役割を果たしており、その重要な役割の一つとして、酸として重合反応を触媒する点が挙げられているように、EDOTに代表されるチオフェンの重合には、酸を添加することが重要であることは当業者には周知技術なのである。」

しかしながら、上記(ア)に関し、申立人は、単に「Fe2(SO4)3」が単独で水溶した際の20℃におけるpHが3〜4になる性質を有すると述べるのみであって、甲2発明の場合にいかなるpHを示すのか証拠を示していない。また、その余の点については、上記イで示した理由により、採用できない。

エ 本件発明1についての小括
そうすると、少なくとも上記相違点3は実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲2に記載された発明とはいえないし、上記相違点3によって格別顕著な効果を奏する本件発明1は、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(2)本件発明2ないし11について
本件発明1の特定事項を全て有し、更に限定する本件発明2ないし11についても、上記(1)に示した本件発明1と同様の理由により、甲2に記載された発明ではなく、また、甲2に記載された発明、及び、甲3、甲4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)申立理由3及び4のまとめ
したがって、申立理由3及び申立理由4には理由がない。


第5 むすび
したがって、申立人の主張する特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし11に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2024-01-05 
出願番号 P2017-531809
審決分類 P 1 652・ 113- Y (C08G)
P 1 652・ 121- Y (C08G)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 藤原 浩子
特許庁審判官 大畑 通隆
小出 直也
登録日 2023-03-02 
登録番号 7236805
権利者 ヘレウス ドイチェラント ゲーエムベーハー ウント カンパニー カーゲー
発明の名称 官能化ポリチオフェンを生成するプロセス  
代理人 林 一好  

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