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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
管理番号 1406749
総通号数 26 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2024-02-22 
種別 異議の決定 
異議申立日 2023-10-11 
確定日 2024-01-11 
異議申立件数
事件の表示 特許第7261784号発明「蓋体および密閉型電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7261784号の請求項1〜5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7261784号(以下「本件特許」という。)は、令和2年11月30日に出願され、令和5年4月12日にその特許権の設定登録がされ、令和5年4月20日に特許掲載公報が発行された。その後、その請求項1〜5に係る特許に対し、令和5年10月11日に特許異議申立人 森村実(以下「申立人」という。)により、特許異議申立書(以下「申立書」という。)が提出され特許異議の申立てがなされた。

第2 本件発明
本件特許の請求項1〜5の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」〜「本件発明5」といい、これらを総称して「本件発明」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1〜5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
開口部を有し、電極体を収容するケース本体を備えた密閉型電池に使用され、前記開口部を塞ぐ蓋体であって、
第一金属を主体として構成される、正極および負極のうち少なくとも一方の電極の端子部材と、
第二金属を主体として構成される封口板と、
シール材と
を備え、
前記封口板は、前記端子部材を取り付けるための取付穴を有し、
前記端子部材は、前記取付穴の周縁部に前記シール材が接合された状態で、前記取付穴に挿通されて、前記封口板に取り付けられており、
ここで、前記シール材の25℃における線膨張係数値をαS、前記第一金属の25℃における線膨張係数をα1、前記第二金属の25℃における線膨張係数をα2、α1とα2のうち値の大きい方をαH、値の小さい方をαLとしたときに、αL≦αS≦αHを満たし、
前記シール材は、ポリアリーレンスルフィド樹脂を含む、蓋体。
【請求項2】
前記第一金属が銅または銅合金であり、前記第二金属がアルミニウムまたはアルミニウム合金である、請求項1に記載の蓋体。
【請求項3】
前記シール材の25℃における線膨張係数αSが、1.6×10−5/K以上、2.3×10−5/K以下である、請求項1または2に記載の蓋体。
【請求項4】
前記シール材は、前記端子部材と少なくとも一部がアンカー効果によって接合されている、請求項1〜3のいずれか一項に記載の蓋体。
【請求項5】
電極体と、
開口部を有し、電極体を収容するケース本体と、
該開口部を塞ぐ、請求項1〜 4のいずれか一項に記載の蓋体と
を備える、密閉型電池。」

第3 特許異議の申立ての理由について
申立人は、証拠方法として、以下の甲第1号証〜甲第9号証(以下、それぞれ「甲1」〜「甲9」という。)を提出して、以下に概要を示す特許異議の申立ての理由(以下「申立理由」という。)を主張している。

(証拠方法)
甲1:特開2012−131896号公報
甲2:特開2014−60138号公報
甲3:特開2016−44303号公報
甲4:DIC Corporationソリッドコンパウンド製品本部リーフレット「DIC.PPS Polyphenylene Sulfide(CZ−1030)」
甲5:DIC Corporationソリッドコンパウンド製品本部リーフレット「DIC.PPS Polyphenylene Sulfide(Z−230)」
甲6:アルミニウムハンドブック
甲7:伸銅品データブック
甲8:国際公開2014/157289号
甲9:特開2015−71375号公報

(申立理由の概要)
申立理由1(進歩性) 請求項1〜5に係る発明は、甲1、甲2又は甲3に記載された発明、及び、甲4〜甲9に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項についての特許は同法29条2項の規定に違反してなされたものである。(同法113条2号

申立理由2(サポート要件) 請求項1〜5に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではないから、当該請求項についての特許は同法36条6項1号の規定に違反してなされたものである。(同法113条4号

申立理由3(明確性) 請求項1〜5に係る発明は、明確でないから、当該請求項についての特許は特許法36条6項2号の規定に違反してなされたものである。(特許法113条4号

第4 甲号証の記載事項
1 甲1の記載事項
甲1には、次の事項が記載されている。なお、下線は強調のために当審で付した(以下、同様)。

(1)「【0001】
本発明は、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物に関するものであり、詳細には優れた耐薬品性、耐冷熱性、良成形性をあわせもつことから特に二次電池封口板用シール部材に適したポリアリーレンスルフィド樹脂組成物に関するものである。」

(2)「【0012】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、ポリアリーレンスルフィド(A)50〜89重量%、α−アルミナ(B)10〜30重量%、及び、エチレン系共重合体(C)1〜20重量%からなるものである。
【0013】
該ポリアリーレンスルフィド(A)(以下、PAS(A)と記すことがある。)は、直径1mm、長さ2mmのダイスを装着した高化式フローテスターにて、測定温度315℃、荷重10kgの条件下で測定した溶融粘度が100〜1000ポイズであるポリアリーレンスルフィドである。該ポリアリーレンスルフィド(A)としては、一般にポリアリーレンスルフィドと称される範疇に属するものであればよく、該PASとしては、例えばp−フェニレンスルフィド単位、m−フェニレンスルフィド単位、o−フェニレンスルフィド単位、フェニレンスルフィドスルフォン単位、フェニレンスルフィドケトン単位、フェニレンスルフィドエーテル単位、ビフェニレンスルフィド単位からなる単独重合体又は共重合体を挙げることができ、該PASの具体的例示としては、ポリ(p−フェニレンスルフィド)、ポリフェニレンスルフィドスルフォン、ポリフェニレンスルフィドケトン、ポリフェニレンスルフィドエーテル等が挙げられ、その中でも、特に耐熱性、強度特性に優れることから、ポリ(p−フェニレンスルフィド)であることが好ましい。」

(3)「【0018】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を構成するα−アルミナ(B)は、98MPaでの加圧かさ密度が2.00g/cm3以下のα−アルミナであり、α−アルミナとしては、α−アルミナと称される範疇に属するものであればいかなるものでもよく、不純物を低減した低ソーダのα−アルミナであっても構わない。また、該アルミナはシランカップリング剤などの表面処理が施されたものであっても構わない。」

(4)「【0030】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、PAN系炭素繊維やピッチ系炭素繊維等の炭素繊維;グラファイト化繊維、窒化珪素ウイスカー、塩基性硫酸マグネシウムウイスカー、チタン酸バリウムウイスカー、チタン酸カリウムウイスカー、炭化珪素ウイスカー、ボロンウイスカー、酸化亜鉛ウイスカー等のウイスカー;ステンレス繊維等の金属繊維;ロックウール、ジルコニア、チタン酸バリウム、炭化珪素、シリカ、高炉スラグ等の無機系繊維;全芳香族ポリアミド繊維、フェノール樹脂繊維、全芳香族ポリエステル繊維等の有機系繊維;ワラステナイト、マグネシウムオキシサルフェート等の鉱物系繊維が添加されたものであってもよいし、本発明の効果を損なわない範囲で、炭酸カルシウム、炭酸リチウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、マイカ、シリカ、タルク、クレイ、硫酸カルシウム、カオリン、ワラステナイト、ゼオライト、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化鉄、酸化スズ、珪酸マグネシウム、珪酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、黒鉛、カーボンブラック、ハイドロタルサイトが添加されたものであっても構わない。
【0031】
また、本発明のPAS樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、従来公知のタルク、カオリン、シリカなどの結晶核剤;ポリアルキレンオキサイドオリゴマー系化合物、チオエーテル系化合物、エステル系化合物、有機リン化合物などの可塑剤;アマイドワックスやカルナバワックスなどの離型剤;酸化防止剤;熱安定剤;滑剤;紫外線防止剤;着色剤;発泡剤などの通常の添加剤を1種以上添加するものであってもよい。
【0032】
さらに、本発明のPAS樹脂組成物は、本発明の目的を逸脱しない範囲で、各種熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、例えばエポキシ樹脂、シアン酸エステル樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド、シリコーン樹脂、ポリエステル、ポリアミド、ポリフェニレンオキサイド、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミドイミド、ポリアミド系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアルキレンオキサイド等の1種以上を混合して使用してなるものであってもよい。」

(5)「【0034】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、優れた耐薬品性、耐冷熱性、良成形性をあわせもつことから、各種用途に適応することが可能であり、その中でも、二次電池封口板用シール部材、特に電解液から容易にフッ化水素酸を発生しやすいリチウム電池封口板の物理的粗化処理及び/又は陽極酸化処理により表面を粗面化した電極端子と蓋板との間に配置されるシール部材として好適に用いることが可能である。
【0035】
ここで、二次電池封口板とは、電極端子、蓋板、絶縁のシール部材から構成される二次電池容器の一部材であり、図1に概略図を示す。ここで、1,2は物理的粗化処理及び/又は陽極酸化処理により表面を粗面化した電極端子を示し、電極端子は正極用と負極用の一対の金属からなり、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金から選択される少なくとも1種以上の金属であることが好ましい。3は、シール部材を示し、シール部材は本発明のPAS樹脂組成物よりなることが好ましい。4は物理的粗化処理及び/又は陽極酸化処理により表面を粗面化した蓋板を示し、蓋板の材質としては、アルミニウム、鉄、ステンレス等の金属をあげることができる。
【0036】
そして、該電極端子、該蓋板は、とりわけ電極端子及び蓋板とシール部材、特に本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物からなるシール部材、との間のシール性に優れるものとなることから、物理的粗化処理及び/又は陽極酸化処理により表面を粗面化した電極端子、蓋板である。
【0037】
陽極酸化法としては、電極端子、蓋板等の金属製部材を陽極として電解液中で電化反応を行いその表面に酸化被膜を形成する方法であり、メッキ等の分野において陽極酸化法として一般的に知られている方法を用いることができ、例えば1)一定の直流電圧をかけて電解を行う直流電解法、2)直流成分に交流成分を重畳した電圧をかけることにより電解を行うバイポーラ電解法、等を挙げることができる。さらに、物理的表面粗化法としては、金属表面に微小固体粒子を接触、衝突させたり、高エネルギー電磁線を照射するなどの物理的な手段により表面粗化を行う方法であり、例えばサンドブラスト処理、液体ホーニング処理等として知られている方法を挙げることができる。また、サンドブラスト処理、液体ホーニング処理の際の研磨剤としては、例えばサンド、スチールグリッド、スチールショット、カットワイヤー、アルミナ、炭化ケイ素、金属スラグ、ガラスビーズ、プラスチックビーズ等を挙げることができる。
【0038】
物理的粗化処理及び/又は陽極酸化処理により表面を粗面化した該電極端子と該蓋板を本発明のPAS樹脂組成物をシール部材として固定化することにより優れた耐薬品性、耐冷熱性を発揮するものとなる。そして、シール部材として固定化する際には、該シール部材により該電極端子と該蓋板をかしめる方法、該電極と該蓋板を固定化する一体成形を行う方法、等を挙げることができ、その中でも特に生産性に優れた方法となることから、例えば射出成形機、押出成形機、圧縮成形機などを用いた金属インサート成形により、該電極端子及び/又は該蓋板に対し、本発明のPAS樹脂組成物をシール部材として成形し、一体化する方法が挙げられる。」

(6)図1

図1によれば、蓋板4は2つの穴を備え、電極端子1、2が各々通されるとともに、シール部材3で隙間が埋められている。

(7)「【0053】
〜耐冷熱性、耐薬品性の評価〜
キシダ化学製、(商品名)LBG−96533(エチレンカーボネート:ジメチルカーボネート=1:1の混合溶媒に六フッ化燐酸リチウムが1mol%/リットル添加された電解液)を上部が開放されたアルミニウム製容器に入れ、容器と封口板とを溶接して密閉し、図4に示す二次電池用容器を作製した。該二次電池用容器を60℃で1時間保持した後、−40℃で1時間保持することを1サイクルとする冷熱サイクルに1000サイクル供し、蓋板とシール材との界面及び電極とシール材との界面を検査用液体で浸した。該二次電池用容器内を0.2MPaに昇圧して1分間保持し、耐冷熱性を評価した。
○:検査用液体に浸された界面から気泡が発生しない場合。
×:検査用液体に浸された界面から気泡が発生した場合。」

(8)甲1に記載された発明
前記(1)〜(7)の記載によれば、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。なお、後の参照の便宜のため、甲1発明をa〜mに分説し、「甲1分説a」などのようにして参照する。

「a 二次電池封口板用シール部材に適したポリアリーレンスルフィド樹脂組成物であって、(【0001】)
b ポリアリーレンスルフィド(A)50〜89重量%、α−アルミナ(B)10〜30重量%、及び、エチレン系共重合体(C)1〜20重量%からなるものであり、(【0012】)
c 該ポリアリーレンスルフィド(A)は、直径1mm、長さ2mmのダイスを装着した高化式フローテスターにて、測定温度315℃、荷重10kgの条件下で測定した溶融粘度が100〜1000ポイズであるポリアリーレンスルフィドであり、(【0013】)
d α−アルミナ(B)は、98MPaでの加圧かさ密度が2.00g/cm3以下のα−アルミナであり、(【0018】)
e 炭素繊維、ウイスカー、金属繊維、無機系繊維、有機系繊維、鉱物系繊維が添加されたものであってもよく、(【0030】)
f 結晶核剤、可塑剤、離型剤;酸化防止剤;熱安定剤;滑剤;紫外線防止剤;着色剤;発泡剤などの通常の添加剤を1種以上添加するものであってもよく、(【0031】)
g 各種熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂の1種以上を混合して使用してなるものであってもよく、(【0032】)
h リチウム電池封口板の物理的粗化処理及び/又は陽極酸化処理により表面を粗面化した電極端子と蓋板との間に配置されるシール部材として好適に用いることが可能であり、(【0034】)
i ここで、二次電池封口板とは、電極端子、蓋板、絶縁のシール部材から構成される二次電池容器の一部材であり、物理的粗化処理及び/又は陽極酸化処理により表面を粗面化した電極端子1,2を備え、電極端子は正極用と負極用の一対の金属からなり、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金から選択される少なくとも1種以上の金属であり、シール部材3を備え、シール部材はPAS樹脂組成物よりなり、表面を粗面化した蓋板4を備え、蓋板の材質としては、アルミニウム、鉄、ステンレス等の金属をあげることができ、(【0035】)
j 該電極端子、該蓋板は、とりわけ電極端子及び蓋板とシール部材、特にポリアリーレンスルフィド樹脂組成物からなるシール部材、との間のシール性に優れるものとなることから、物理的粗化処理及び/又は陽極酸化処理により表面を粗面化した電極端子、蓋板であり、該電極端子及び該蓋板に対しPAS樹脂組成物をシール部材として成形し、一体化し、(【0036】、【0038】)
k 蓋板4は2つの穴を備え、電極端子1、2が各々通されるとともに、シール部材3で隙間が埋められており、(図1)
l LBG−96533を上部が開放されたアルミニウム製容器に入れ、容器と封口板とを溶接して密閉し、二次電池用容器を作製する、(【0053】)
m ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。」

2 甲2の記載事項
甲2には、次の事項が記載されている。

(1)「【0001】
本発明は、密閉容器の内部に電解液を含む電極素子部が気密状態に設けられたキャパシタやリチウム電池などの密閉型電気化学デバイスに関する。」

(2)「【0018】
(実施形態1)
図1および図2において、1は、金属端子および容器部材を有する密閉型電気化学デバイスであり、その容器部材は2分割されており、開口端を有する有底の円筒状または直方体状の箱体3と円板(楕円を含む)状や矩形状の金属蓋体2とからなる。金属蓋体2は、アルミニウム(その合金を含む)やステンレスなどの金属材でできており、樹脂ガスケット9を介して金属端子4が設けられている。箱体3はアルミニウム(その合金を含む)やステンレスなどの金属材またはアルミニウム(その合金を含む)材が被覆された合成樹脂材でできており、この箱体3の開口端は金属蓋体2で閉蓋されるように箱体3と金属蓋体2とを組み合わせて接合部5をレーザ接合や超音波溶着などで固着して密閉容器を構成している。この密閉容器の箱体3の内部3Aにはリード8A、8B、電極素子部6および電解液7が気密状態に設けられている。リード8Aは金属端子4と接続されており、リード8Bは金属蓋体2と接続されている。
【0019】
金属蓋体2の中央位置には、打ち抜き加工により、丸孔または角孔の貫通孔2Aが形成されている。金属蓋体2の貫通孔2Aの内周面およびその周縁の表面は後述(図3(a)、(b)参照)の表面改質処理が行なわれている。この金属蓋体2の貫通孔2Aには正極端子または負極端子の何れか一方の端子となる金属端子4が合成樹脂材からなる樹脂ガスケット9を介して設けられている。金属端子4は、棒状または板状で、銅(その合金を含む)、ニッケルめっきした銅(その合金を含む)、アルミニウム(その合金を含む)などでできており、その表面は後述(図4(a)、(b)参照)の表面改質処理が行なわれている。」

(3)「【0021】
この樹脂ガスケット9は金属蓋体2と金属端子4とを電気的に絶縁するものであるとともに密閉型電気化学デバイス1に使用するには電解液7が金属蓋体2および金属端子4と樹脂ガスケット9との境界面すなわち接合部分から漏れ出ないように密着性が要求されるので、金属蓋体2および金属端子4の表面は樹脂ガスケット9の合成樹脂材と水素結合もしくはフェノール結合もしくはエステル結合させる反応基100を有するように金属蓋体2および金属端子4のそれぞれに表面改質処理が行われている(金属蓋体2は図3(a)および(b)、金属端子4は図4(a)および(b)参照)。この表面改質処理を行って表面に合成樹脂材と水素結合もしくはフェノール結合もしくはエステル結合させる反応基100が生成された金属蓋体2および金属端子4を用いて、射出成形型内で金属蓋体2の貫通孔2Aに金属端子4を配置させて、合成樹脂材を充填させて成形する。このように金属蓋体2と金属端子4とを合成樹脂材と一体に成形することにより、金属蓋体2の貫通孔2Aの内周面およびその周縁の内周面に合成樹脂材の樹脂ガスケット9が接合され、金属端子4が樹脂ガスケット9に接合される際に、樹脂ガスケット9の合成樹脂材と水素結合もしくはフェノール結合もしくはエステル結合させる反応基100が有効に作用して金属端子4が樹脂ガスケット9を介して金属蓋体2に密着接合される。
【0022】
この場合、樹脂ガスケット9の材質として、合成樹脂材の表面に官能基を存在させるようにしてもよい。例えば、官能基含有ポリアリーレンスルフィド樹脂としては、特許第3838296号にて、ポリアリーレンスルフィドポリマーにOH基などの活性水素含有基を有する有機化合物を添加して、酸素含有雰囲気下で熱酸化架橋させて合成樹脂材の表面に官能基を存在させることにより、エステル結合させるカルボキシル基の反応基100が表面に生成された金属端子4および金属蓋体2が樹脂ガスケット9と化学結合されて金属端子4が樹脂ガスケット9を介して金属蓋体2に一層密着接合される。」

(4)図2


図2によれば、金属端子4は貫通孔2Aに通されている。

(5)甲2に記載された発明
前記(1)〜(4)の記載によれば、甲2には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。なお、後の参照の便宜のため、甲2発明をa〜gに分説し、「甲2分説a」などのようにして参照する。

「a 密閉容器の内部に電解液を含む電極素子部が気密状態に設けられたリチウム電池の密閉型電気化学デバイスであって、(【0001】)
b1 その容器部材は2分割されており、開口端を有する有底の円筒状または直方体状の箱体3と円板(楕円を含む)状や矩形状の金属蓋体2とからなり、
b2 金属蓋体2は、アルミニウム(その合金を含む)やステンレスなどの金属材でできており、樹脂ガスケット9を介して金属端子4が設けられており、
b3 この箱体3の開口端は金属蓋体2で閉蓋されるように箱体3と金属蓋体2とを組み合わせて接合部5をレーザ接合や超音波溶着などで固着して密閉容器を構成しており、
b4 この密閉容器の箱体3の内部3Aにはリード8A、8B、電極素子部6および電解液7が気密状態に設けられており、
b5 リード8Aは金属端子4と接続されており、リード8Bは金属蓋体2と接続されており、(【0018】)
c1 金属蓋体2の中央位置には、打ち抜き加工により、丸孔または角孔の貫通孔2Aが形成されており、金属蓋体2の貫通孔2Aの内周面およびその周縁の表面は表面改質処理が行なわれており、
c2 この金属蓋体2の貫通孔2Aには正極端子または負極端子の何れか一方の端子となる金属端子4が合成樹脂材からなる樹脂ガスケット9を介して設けられており、
c3 金属端子4は、棒状または板状で、銅(その合金を含む)、ニッケルめっきした銅(その合金を含む)、アルミニウム(その合金を含む)などでできており、その表面は表面改質処理が行なわれており、(【0019】)
d1 この樹脂ガスケット9は金属蓋体2と金属端子4とを電気的に絶縁するものであるとともに密閉型電気化学デバイス1に使用するには電解液7が金属蓋体2および金属端子4と樹脂ガスケット9との境界面すなわち接合部分から漏れ出ないように密着性が要求されるので、金属蓋体2および金属端子4の表面は樹脂ガスケット9の合成樹脂材と水素結合もしくはフェノール結合もしくはエステル結合させる反応基100を有するように金属蓋体2および金属端子4のそれぞれに表面改質処理が行われており、
d2 射出成形型内で金属蓋体2の貫通孔2Aに金属端子4を配置させて、合成樹脂材を充填させて成形し、このように金属蓋体2と金属端子4とを合成樹脂材と一体に成形することにより、金属蓋体2の貫通孔2Aの内周面およびその周縁の内周面に合成樹脂材の樹脂ガスケット9が接合され、金属端子4が樹脂ガスケット9に接合される際に、樹脂ガスケット9の合成樹脂材と水素結合もしくはフェノール結合もしくはエステル結合させる反応基100が有効に作用して金属端子4が樹脂ガスケット9を介して金属蓋体2に密着接合され、(【0021】)
e 樹脂ガスケット9の材質として、合成樹脂材の表面に官能基を存在させるようにしてもよく、例えば、官能基含有ポリアリーレンスルフィド樹脂としては、ポリアリーレンスルフィドポリマーにOH基などの活性水素含有基を有する有機化合物を添加して、酸素含有雰囲気下で熱酸化架橋させて合成樹脂材の表面に官能基を存在させることにより、エステル結合させるカルボキシル基の反応基100が表面に生成された金属端子4および金属蓋体2が樹脂ガスケット9と化学結合されて金属端子4が樹脂ガスケット9を介して金属蓋体2に一層密着接合され、(【0022】)
f 金属端子4は貫通孔2Aに通されている、(図2)
g 密閉型電気化学デバイス。」

3 甲3の記載事項
甲3には、次の事項が記載されている。

(1)「【0001】
本発明は、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物に関するものであり、詳細には、常温常湿、長期の高温高湿環境下において金属との優れた接合性を有することから特に二次電池封口板用シール部材に適したポリアリーレンスルフィド樹脂組成物に関するものである。」

(2)「【0012】
即ち、本発明は、直径1mm、長さ2mmのダイスを装着した高化式フローテスターにて、測定温度315℃、荷重10kgの条件下で測定した溶融粘度が100〜1000ポイズのポリアリーレンスルフィド(A)100重量部に対し、少なくともエチレン−α、β−不飽和カルボン酸アルキルエステル−無水マレイン酸共重合体(b1)、エチレン−α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル共重合体(b2)、エチレン−α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル−酢酸ビニル共重合体(b3)、エチレン−α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル−α、β−不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体(b4)からなる群より選択される少なくとも1種以上のエチレン系共重合体(B)10〜50重量部、金属不活性化剤(C)0.05〜2重量部、繊維状充填剤(D)10〜80重量部を含むことを特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂組成物に関するものである。」

(3)「【0032】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、金属との接合性に優れることから、各種用途に適応することが可能であり、そのなかでも、二次電池封口板用シール部材、特に電解液から容易にフッ化水素酸を発生しやすいリチウムイオン電池封口板の物理的粗化処理及び/又は化学的粗化処理等により表面を粗面化した電極端子と蓋板との間に配置されるシール部材、好ましくは物理的粗化処理及び/又は陽極酸化処理等により表面を粗面化した電極端子と蓋板との間に配置されるシール部材として好適に用いることが可能である。
【0033】
ここで、二次電池封口板とは、電極端子、蓋板、絶縁のシール部材から構成される二次電池容器の一部材であり、図1に概略図を示す。ここで、1,2は物理的粗化処理及び/又は化学的粗化処理等、好ましく物理的粗化処理及び/又は陽極酸化処理等により表面を粗面化した電極端子を示し、電極端子は正極用と負極用の一対の金属からなり、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金から選択される少なくとも1種以上の金属であることが好ましい。3は、シール部材を示し、シール部材は本発明のPAS樹脂組成物よりなることが好ましい。4は物理的粗化処理及び/又は化学的粗化処理等、好ましくは物理的粗化処理及び/又は陽極酸化処理等により表面を粗面化した蓋板を示し、蓋板の材質としては、アルミニウム、鉄、ステンレス等の金属を挙げることができる。
【0034】
そして、該電極端子、該蓋板は、とりわけ電極端子及び蓋板とシール部材、特に本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物からなるシール部材、との間のシール性に優れるものとなることから、物理的粗化処理及び/又は化学的粗化処理等、好ましくは物理的粗化処理及び/又は陽極酸化処理等により表面を粗面化した電極端子、蓋板である。」

(4)「【0038】
物理的粗化処理及び/又は化学的粗化処理等、好ましくは物理的粗化処理及び/又は陽極酸化処理等により表面を粗面化した該電極端子と該蓋板を本発明のPAS樹脂組成物をシール部材として固定化することにより、該電極端子、該蓋板、および該PAS樹脂組成物の常温常湿、長期の高温高湿環境下における接合性が優れたものとなる。そして、シール部材として固定化する際には、該シール部材により該電極端子と該蓋板をかしめる方法、該電極と該蓋板を固定化する一体成形を行う方法、等を挙げることができ、その中でも特に生産性に優れた方法となることから、例えば射出成形機、押出し成形機、圧縮成形機などを用いた金属インサート成形により、該電極端子及び/又は該蓋板に対し、本発明のPAS樹脂組成物をシール部材として成形し、一体化する方法が挙げられる。」

(5)図1

図1によれば、蓋板4は2つの穴を備え、電極端子1、2が各々通されるとともに、シール部材3で隙間が埋められている。

(6)甲3に記載された発明
前記(1)〜(5)の記載によれば、甲3には、次の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。なお、後の参照の便宜のため、甲3発明をa〜hに分説し、「甲3分説a」などのようにして参照する。

「a 二次電池封口板用シール部材に適したポリアリーレンスルフィド樹脂組成物であって、(【0001】)
b 直径1mm、長さ2mmのダイスを装着した高化式フローテスターにて、測定温度315℃、荷重10kgの条件下で測定した溶融粘度が100〜1000ポイズのポリアリーレンスルフィド(A)100重量部に対し、エチレン系共重合体(B)10〜50重量部、金属不活性化剤(C)0.05〜2重量部、繊維状充填剤(D)10〜80重量部を含むことを特徴とし、(【0012】)
c リチウムイオン電池封口板の物理的粗化処理及び/又は化学的粗化処理等により表面を粗面化した電極端子と蓋板との間に配置されるシール部材として好適に用いることが可能であり、(【0032】)
d ここで、二次電池封口板とは、電極端子、蓋板、絶縁のシール部材から構成される二次電池容器の一部材であり、物理的粗化処理及び/又は化学的粗化処理等、好ましく物理的粗化処理及び/又は陽極酸化処理等により表面を粗面化した電極端子1,2を備え、電極端子は正極用と負極用の一対の金属からなり、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金から選択される少なくとも1種以上の金属であり、シール部材3を備え、シール部材はPAS樹脂組成物よりなり、表面を粗面化した蓋板4を備え、蓋板の材質としては、アルミニウム、鉄、ステンレス等の金属を挙げることができ、(【0033】)
e 該電極端子、該蓋板は、とりわけ電極端子及び蓋板とシール部材、特にポリアリーレンスルフィド樹脂組成物からなるシール部材、との間のシール性に優れるものとなることから、物理的粗化処理及び/又は化学的粗化処理等、好ましくは物理的粗化処理及び/又は陽極酸化処理等により表面を粗面化した電極端子、蓋板であり、(【0034】)
f 該電極端子及び/又は該蓋板に対し、PAS樹脂組成物をシール部材として成形し、一体化し、(【0038】)
g 蓋板4は2つの穴を備え、電極端子1、2が各々通されるとともに、シール部材3で隙間が埋められている、(図1)
h ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。」

4 甲4の記載事項
甲4には、次の事項が記載されている。

(1)「概要:CZ-1030は、ピッチ系カーボンファイバー30%で強化したPPSコンパウンドです。特に摩擦摩耗特性に秀でており、小型精密機器の自己潤滑軸受けなどに使用されます。」

(2)表

本表によると、CZ-1030の−50〜50℃における線熱膨張係数は、樹脂流動方向については2.0×10−5/Kであり、流動に直角方向については4.0×10−5/Kである。

(3)甲4に記載された技術事項
前記(1)及び(2)の記載によれば、甲4には、以下の技術事項(以下「甲4技術事項」という。)が記載されていると認められる。

「CZ-1030は、ピッチ系カーボンファイバー30%で強化したPPSコンパウンドであり、特に摩擦摩耗特性に秀でており、小型精密機器の自己潤滑軸受けなどに使用され、
CZ-1030の−50〜50℃における線熱膨張係数は、樹脂流動方向については2.0×10−5/Kであり、流動に直角方向については4.0×10−5/Kであること。」

5 甲5の記載事項
甲5には、次の事項が記載されている。

(1)Z-230は、ガラス繊維30%強化のスーパータフタイプのPPSコンパウンドです。PPSの特長に加え、低温から高温までの広範な環境雰囲気下でも極めて高い靭性と伸びを有しております。この様な特徴から自動車機器部品やポンプ、配管継手、電磁弁などの機器にも広く使用されます。

(2)表


本表によると、Z-230の−50〜50℃における線熱膨張係数は、樹脂流動方向については1.5×10−5/Kであり、流動に直角方向については5.0×10−5/Kである。

(3)甲5に記載された技術事項
前記(1)及び(2)の記載によれば、甲5には、以下の技術事項(以下「甲5技術事項」という。)が記載されていると認められる。

「Z-230は、ガラス繊維30%強化のスーパータフタイプのPPSコンパウンドであり、PPSの特長に加え、低温から高温までの広範な環境雰囲気下でも極めて高い靭性と伸びを有しており、この様な特徴から自動車機器部品やポンプ、配管継手、電磁弁などの機器にも広く使用され、
Z-230の−50〜50℃における線熱膨張係数は、樹脂流動方向については1.5×10−5/Kであり、流動に直角方向については5.0×10−5/Kであること。」

6 甲6の記載事項
甲6には、次の事項が記載されている。

(1)表4.4

表4.4によると、アルミニウム合金の20〜100℃の平均線膨張係数は、20.0(×10−6/℃)、すなわち、2.00×10−5/℃から、24.3(×10−6/℃)、すなわち、2.43×10−5/℃の範囲にある。

(2)甲6に記載された技術事項
前記(1)の記載によれば、甲6には、以下の技術事項(以下「甲6技術事項」という。)が記載されていると認められる。

「アルミニウム合金の20〜100℃の平均線膨張係数は、2.00×10−5/℃から2.43×10−5/℃の範囲にあること。」

7 甲7の記載事項
甲7には、次の事項が記載されている。

(1)表4.2−1



表4.2−1によると、各種銅及び銅合金の20〜300℃の線膨張係数は、16.2[10−6/K]、すなわち、1.62×10−5/Kから、21.2[10−6/K]、すなわち、2.12×10−5/Kの範囲にある。

(2)甲7に記載された技術事項
前記(1)の記載によれば、甲7には、以下の技術事項(以下「甲7技術事項」という。)が記載されていると認められる。

「各種銅及び銅合金の20〜300℃の線膨張係数は、1.62×10−5/Kから2.12×10−5/Kの範囲にあること。」

8 甲8の記載事項
甲8には、次の事項が記載されている。

(1)「[0001] この発明は、金属からなる金属基材と熱可塑性樹脂製の樹脂成形体とが、熱可塑性樹脂の射出成形又は熱圧着により、一体的に強固に接合された金属樹脂接合体及びその製造方法に関する。
背景技術
[0002] 近年、自動車の各種センサー部品、家庭電化製品部品、産業機器部品等の分野では、放熱性や導電性が非常に高い銅又は銅合金からなる銅基材や、放熱性が高く、かつ、他金属と比較し、軽量なアルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミ基材と、絶縁性能が高く、軽量でしかも安価である熱可塑性樹脂製の樹脂成形体とを一体に接合した金属樹脂接合体が幅広く用いられるようになり、また、その用途が拡大している。
[0003] そして、従来においては、このような異種材質である金属基材と樹脂成形体とを互いに一体的に接合した金属樹脂接合体としては、金属基材と樹脂成形体との間を接着剤により加圧下に接合したものが用いられていた。しかるに、昨今、工業的により好適な接合方法として、金属基材を射出成形用金型内にインサートし、このインサートされた金属基材の表面に向けて溶融した熱可塑性樹脂を射出し、熱可塑性樹脂の射出成形により樹脂成形体を成形する際に同時に金属基材と樹脂成形体との間を接合する方法が開発され、金属基材と樹脂成形体との間の接合をより安価に、また、接合強度をより向上させるための幾つかの方法が提案されている。そして、このような提案の多くは、金属基材の表面に適切な表面処理を施すというものである。
[0004] 例えば、本発明者らは、既にアルミ材の凹状部と熱可塑性樹脂の嵌入部とによりアルミ形状体と樹脂成形体とが互いに係止されていることを特徴とするアルミ・樹脂射出一体成形品を提案し(特許文献1)、また、シリコン結晶からなる凸部を有することを特徴とする樹脂接合性に優れたアルミニウム合金部材を提案している(特許文献2)。
[0005] また、例えば、アンモニア、ヒドラジン、及び水溶性アミン化合物から選択される1種以上の水溶液に浸漬する前処理を経て得られたアルミニウム合金物と熱可塑性樹脂組成物とを射出成形によって一体化する技術(特許文献3、4)や、トリアジンジチオール類の水溶液、又は種々の有機溶剤を溶媒とした溶液を電着溶液として用い、金属の電気化学的表面処理を行った後、この表面処理後の金属とゴム又はプラスチックとを接合する技術(特許文献5)が提案されており、更には、金属板上に接着剤を塗布し、あるいは、表面処理して有機皮膜を形成し、その後に射出成形により金属と樹脂とを一体化する技術(特許文献6)や、金属の表面を酸又はアルカリで処理した後にシランカップリング剤で処理し、その後に射出成形により樹脂と接合させる技術(特許文献7)がそれぞれ提案されている。
[0006] 更に、微多孔質の水酸基含有皮膜が形成された金属の表面に、熱可塑性樹脂を射出し、上記皮膜を介して金属と熱可塑性樹脂とを一体化する技術(特許文献8)や、ポリアリーレンサルファイド樹脂を主体とし、これに特定のオレフィン系共重合体及び無機充填剤を配合した樹脂材料を用いて金属端子等をインサートして接合させる技術(特許文献9)がそれぞれ提案されている。
先行技術文献
特許文献
[0007]特許文献1:WO2009-151,099号公報
特許文献2:特開2010-174,372号公報
特許文献3:特許第3,954,379号公報
特許文献4:特許第4,270,444号公報
特許文献5:特公平05-051,671号公報
特許文献6:特許3,016,331号公報
特許文献7:特開2003-103,562号公報
特許文献8:特開2008-162,115号公報
特許文献9:特開平04-211,916号公報
[0008] ここで、特許文献3、4に記載されたアンモニア、ヒドラジン、及び水溶性アミン化合物を利用した方法においては、処理後から射出成形までの時間に制限があるため、安定した表面状態を維持できる時間が短いという問題がある。また、特許文献5に記載の処理方法においては、処理が複雑であるという問題があり、また、特許文献6や7に記載された方法についても、工程の複雑さや処理コストが高いといった問題がある。
[0009] ところで、特許文献1や特許文献2に記載の通り、本発明者らは、これまでも主としてアンカー効果の嵌合に基づく物理的な接合を提案し、その手法として処理浴にハロゲンイオンを含む特殊なエッチング処理による方法を提案してきた。これらの方法は、接合強度や接合部分の気密性といった性能に問題はないものの、このエッチング処理中にハロゲンに由来するガスが発生し、周辺の金属部品や装置を腐食させず、また、周辺の環境を汚染させないための対策を講じなければならないという別の課題があった。
[0010] また、特許文献8に多孔質の水酸基含有皮膜のアンカー効果と化学的な作用と、熱可塑性エラストマーを添加した熱可塑性樹脂組成物を使用する効果が記載され、特許文献9にはポリアリーレンサルファイド樹脂にオレフィン系共重合体等を配合した樹脂材料と金属との密着性について記載されているが、金属の表面処理と樹脂組成物の官能基の組合せによる接合強度や密着性への効果ついては不明であった。」

(2)甲8に記載された技術事項
前記(1)の記載によれば、甲8には、以下の技術事項(以下「甲8技術事項」という。)が記載されていると認められる。

「アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミ基材と熱可塑性樹脂製の樹脂成形体とを一体に接合した金属樹脂接合体が幅広く用いられるようになり、また、その用途が拡大しており、
ポリアリーレンサルファイド樹脂を主体とし、これに特定のオレフィン系共重合体及び無機充填剤を配合した樹脂材料を用いて金属端子等をインサートして接合させる技術が提案されており、
アンカー効果の嵌合に基づく物理的な接合も提案されていること。」

9 甲9の記載事項
甲9には、次の事項が記載されている。

(1)「【0013】
以下、本発明を実施形態と図に基づいて説明する。
本実施形態の自動車用バックドアに含まれる金属/樹脂複合構造体は、図1に示すように構造体部(A)及びリブ部(C)が樹脂から得られ、金属体部(B)が金属材料から得られる。
以下、金属/樹脂複合構造体を構成する樹脂(以下樹脂材料ということがある)と金属(以下金属材料ということがある)について説明した後、前記構造体部(A)と前記金属体部(B)、及びリブ部(C)の接合の態様、金属/樹脂複合構造体の特徴について説明する。
【0014】
[構造体部(A)及びリブ部(C)]
本実施形態の金属/樹脂複合構造体を構成する構造体部(A)及びリブ部(C)は同一または異なる樹脂材料からなる。この樹脂材料はそれぞれ樹脂材料aおよび樹脂材料cから得ることができる。
【0015】
本実施形態で用いることができる樹脂材料は特に限定されないが、例えば、種々の重合体、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリブチレン、4−メチル−1−ペンテン等のポリオレフィンや、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート、液晶ポリエステル等のポリエステル系樹脂や、スチレン系樹脂、ウレタン樹脂の他や、ポリオキシメチレン(POM)、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、変性PPE、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリスルホン(PSU)、変性PSU、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリアクリルブタジエンポリケトン(PK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリアリレート(PAR)、ポリエーテルニトリル(PEN)、フェノール系樹脂およびフェノキシ樹脂を含む。また、樹脂材料は、上記の樹脂の共重合体や変性体および/または2種類以上ブレンドした樹脂組成物から得てもよい。」

(2)「【0018】
また、本実施形態において上記樹脂材料は、金属材料と樹脂材料との線膨張率差の調整、および樹脂材料の機械的強度を向上させることを目的として、充填材を含有していることが好ましい。充填材を含有させることにより、樹脂材料の剛性を高める効果の他、樹脂材料の線膨張係数を低減、制御できる。本実施形態にかかる金属/樹脂複合構造体は、金属材料と樹脂材料との複合構造体であり、金属材料と樹脂材料との形状安定性の温度依存性が大きく異なることが多いので、大きな温度変化が起こると金属/樹脂複合構造体に歪みが掛かりやすい。上記充填材を含有することにより、この歪みを低減することができる。
【0019】
充填材としては、繊維状充填材、粒状充填材、板状充填材などの充填材を挙げることができる。上記繊維状充填剤としては、例えばガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維などが挙げられる。上記ガラス繊維の具体的例示としては、平均繊維径が6〜14μmのチョップドストランドなどが挙げられる。」

(3)「【0027】
[金属体部(B)]
本実施形態の金属/樹脂複合構造体を構成する金属体部(B)は金属材料からなる。
本実施形態で用いることができる金属材料の種類は世の中に存在する全てが対象であるが、好ましくは、線膨張率の大きな金属の種類を用いた方が好ましい。その理由は、後述する樹脂材料の線膨張率は充填剤等を加えて調整しても金属と同等の線膨張率にするには無理があるためである。すなわち、樹脂材料の線膨張率は、最も低いものでも2×10−5℃−1程度である。
【0028】
このような金属材料のうち、入手の容易さ、価格などを考慮すると、鉄、ステンレス、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、マグネシウム合金、銅、銅合金、チタンおよびチタン合金を好ましい例として挙げることができ、より好ましくは、アルミニウム、アルミニウム合金が挙げられる。」

(4)「【0030】
[金属体部(B)の表面処理]
本実施形態にかかる金属/樹脂複合構造体の金属体部(B)は、上記構造体部(A)を構成する樹脂材料と強固に接合させるために、公知の表面処理技術を施したものを使用することができる。
【0031】
具体的な例としては、金属体部(B)の表面に(i)微細な凹凸形状を付与する方法や、(ii)プライマー層を形成させる方法、さらには、(i)と(ii)の組み合わせがある。」

(5)甲9に記載された技術事項
前記(1)〜(4)の記載によれば、甲9には、以下の技術事項(以下「甲9技術事項」という。)が記載されていると認められる。

「金属/樹脂複合構造体は、構造体部(A)及びリブ部(C)が樹脂から得られ、金属体部(B)が金属材料から得られ、
樹脂材料は、例えば、ポリフェニレンスルフィド(PPS)を含み、
樹脂材料は、金属材料と樹脂材料との線膨張率差の調整を目的として、充填材を含有していることが好ましく、充填材を含有させることにより、樹脂材料の線膨張係数を低減、制御でき、金属材料と樹脂材料との形状安定性の温度依存性が大きく異なることが多いので、大きな温度変化が起こると金属/樹脂複合構造体に歪みが掛かりやすいところ、上記充填材を含有することにより、この歪みを低減することができ、
充填材としては、繊維状充填材、粒状充填材、板状充填材などの充填材を挙げることができ、上記繊維状充填剤としては、例えばガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維などが挙げられ、
金属体部(B)は金属材料からなり、線膨張率の大きな金属の種類を用いた方が好ましく、その理由は、樹脂材料の線膨張率は充填剤等を加えて調整しても金属と同等の線膨張率にするには無理があるためであり、すなわち、樹脂材料の線膨張率は、最も低いものでも2×10−5℃−1程度であり、
このような金属材料のうち、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金を好ましい例として挙げることができ、
金属体部(B)は、上記構造体部(A)を構成する樹脂材料と強固に接合させるために、公知の表面処理技術を施したものを使用することができ、
具体的な例としては、金属体部(B)の表面に微細な凹凸形状を付与する方法があること。」

第5 申立理由1(進歩性)についての判断
後の参照の便宜のため、次に示すように、請求項1を、1A〜1Iに分説し、「発明特定事項1A」のようにして参照する。

「【請求項1】
1A: 開口部を有し、電極体を収容するケース本体を備えた密閉型電池に使用され、前記開口部を塞ぐ蓋体であって、
1B: 第一金属を主体として構成される、正極および負極のうち少なくとも一方の電極の端子部材と、
1C: 第二金属を主体として構成される封口板と、
1D: シール材と
1E:を備え、
1F: 前記封口板は、前記端子部材を取り付けるための取付穴を有し、
1G: 前記端子部材は、前記取付穴の周縁部に前記シール材が接合された状態で、前記取付穴に挿通されて、前記封口板に取り付けられており、
1H: ここで、前記シール材の25℃における線膨張係数値をαS、前記第一金属の25℃における線膨張係数をα1、前記第二金属の25℃における線膨張係数をα2、α1とα2のうち値の大きい方をαH、値の小さい方をαLとしたときに、αL≦αS≦αHを満たし、
1I: 前記シール材は、ポリアリーレンスルフィド樹脂を含む、蓋体。」

1 甲1を主引例とした進歩性について
(1)本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、以下のとおりである。

ア 発明特定事項1Aについて
甲1発明が適用される「二次電池封口板」(甲1分説a)は「二次電池容器の一部材」である(甲1分説i)から、電池に使用されるものである。
また、「二次電池容器」は、「上部が開放されたアルミニウム製容器」と「封口板とを溶接して密閉し」て作成される(甲1分説l)から、「二次電池容器」は開口部を有するアルミニウム製容器、すなわちケース本体を備えており、封口板は開口部を塞ぐ蓋体であり、また、この二次電池容器による電池は密閉型であるといえる。
そして、「二次電池封口板」(前記「封口板」と同一と認める。)は、「電極端子」を備えている(甲1分説i)から、電池のケース本体が、電極端子と接続される電極体を収容するものであることは明らかである。
したがって、甲1発明が適用される「二次電池封口板」は、本件発明1の「蓋体」に相当し、本件発明1の「蓋体」と甲1発明の「二次電池封口板」とは、「開口部を有し、電極体を収容するケース本体を備えた密閉型電池に使用され、前記開口部を塞ぐ蓋体」である点で一致する。

イ 発明特定事項1B〜1Eについて
(ア)甲1発明の「二次電池封口板」は、「電極端子、蓋板、絶縁のシール部材」から構成されており(甲1分説i)、甲1発明の「電極端子」、「蓋板」及び「シール部材」は、それぞれ本件発明1の「端子部材」、「封口板」及び「シール材」に相当する。

(イ)甲1発明の「電極端子」は、「正極用と負極用の一対の金属からな」る(甲1分説i)ものであるから、該金属を「第一金属」と称することは任意であり、本件発明1の「端子部材」と甲1発明の「電極端子」とは、「第一金属を主体として構成される、正極および負極のうち少なくとも一方の電極の端子部材」である点で一致する。

(ウ)甲1発明の「蓋板」について、「蓋板の材質としては、アルミニウム、鉄、ステンレス等の金属」(甲1分説i)であり、「蓋板」を構成する金属を「第二金属」と称することは任意である。
したがって、本件発明1の「封口板」と甲1発明の「蓋板」とは、「第二金属を主体として構成される封口板」を備える点で一致する。

(エ)前記(ア)〜(ウ)によれば、本件発明1と甲1発明とは、「第一金属を主体として構成される、正極および負極のうち少なくとも一方の電極の端子部材と、
第二金属を主体として構成される封口板と、
シール材と
を備え」る点で一致する。

ウ 発明特定事項1Fについて
甲1発明の「二次電池封口板」では、「蓋板4は2つの穴を備え、電極端子1、2が各々通されるとともに、シール部材3で隙間が埋められ」ており(甲1分説k)、「電極端子及び蓋板に対しPAS樹脂組成物をシール部材として成形し、一体化」する(甲1分説j)から、「蓋板4」は、その「2つの穴」によって、「電極端子1、2」を取り付けていると認められる。よって、甲1発明の「蓋板4」の「2つの穴」は、電極端子を取り付けるための取付穴であるといえる。
したがって、本件発明1と甲1発明とは、「前記封口板は、前記端子部材を取り付けるための取付穴を有」する点で一致する。

エ 発明特定事項1Gについて
甲1発明では、「蓋板4は2つの穴を備え、電極端子1、2が各々通される」(甲1分説k)から、「電極端子」は「2つの穴」に挿通されている。
また、甲1発明の「2つの穴」は、「シール部材3で隙間が埋められ」(甲1分説k)ており、「蓋板に対しPAS樹脂組成物をシール部材として成形し、一体化」(甲1分説j)するから、「2つの穴」と「シール部材3」は一体化して接合された状態であると認められる。
また、甲1発明では、電極端子1、2は蓋板4に取り付けられている(前記ウ)。
以上によれば、本件発明1と甲1発明とは、「前記端子部材は、前記取付穴に前記シール材が接合された状態で、前記取付穴に挿通されて、前記封口板に取り付けられて」いる点で共通する。
他方、甲1発明の「二次電池封口板」では、2つの穴「の周縁部」にシール部材3が接合された状態であるか否かは不明である。

オ 発明特定事項1Hについて
甲1発明では、シール材、第一金属、第二金属の線膨張係数値は不明であり、「前記シール材の25℃における線膨張係数値をαS、前記第一金属の25℃における線膨張係数をα1、前記第二金属の25℃における線膨張係数をα2、α1とα2のうち値の大きい方をαH、値の小さい方をαLとしたときに、αL≦αS≦αHを満た」すか否かは不明である。

カ 発明特定事項1Iについて
甲1発明の「二次電池封口板」の「シール部材」は、「ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物」(PAS樹脂組成物)から構成される(甲1分説a、i)。
したがって、本件発明1と甲1発明とは、「前記シール材は、ポリアリーレンスルフィド樹脂を含む」点で一致する。なお、甲1発明の「二次電池封口板」が本件発明1の「蓋体」に相当することは、前記アのとおりである。

キ 一致点及び相違点
前記ア〜カによれば、本件発明1と甲1発明とは、以下の点で一致及び相違する。

<一致点>
「 開口部を有し、電極体を収容するケース本体を備えた密閉型電池に使用され、前記開口部を塞ぐ蓋体であって、
第一金属を主体として構成される、正極および負極のうち少なくとも一方の電極の端子部材と、
第二金属を主体として構成される封口板と、
シール材と
を備え、
前記封口板は、前記端子部材を取り付けるための取付穴を有し、
前記端子部材は、前記取付穴に前記シール材が接合された状態で、前記取付穴に挿通されて、前記封口板に取り付けられており、
前記シール材は、ポリアリーレンスルフィド樹脂を含む、蓋体。」

<相違点1>
本件発明1では、取付穴「の周縁部」にシール材が接合された状態であるのに対して、甲1発明では、取付穴「の周縁部」にシール材が接合された状態であるか否かが不明である点。

<相違点2>
本件発明1では、「シール材」、「第一金属」及び「第二金属」の線膨張係数の関係が「前記シール材の25℃における線膨張係数値をαS、前記第一金属の25℃における線膨張係数をα1、前記第二金属の25℃における線膨張係数をα2、α1とα2のうち値の大きい方をαH、値の小さい方をαLとしたときに、αL≦αS≦αHを満た」すのに対して、甲1発明では、「シール部材」、「電極端子」及び「蓋板」の線膨張係数が前記関係を満たすか否かは不明である点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑み、相違点2について検討する。

ア 甲1発明の「電極端子」は、「アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金から選択される少なくとも1種以上の金属」であり(甲1分説i)、甲1発明の「蓋板」は、「アルミニウム、鉄、ステンレス等の金属」である(甲1分説i)。
また、甲1発明の「シール部材」は、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(PAS樹脂組成物)である(甲1分説i)。
そして、甲1には、これらの物質の線膨張係数を、相違点2で挙げた関係を満たすように選択することについて、記載も示唆もない。

イ 甲4技術事項によればCZ−1030と呼ばれるPPSコンパウンドの−50〜50℃における線熱膨張係数は、樹脂流動方向については2.0×10−5/K、流動に直角方向については4.0×10−5/Kであり、甲5技術事項によればZ−230と呼ばれるPPSコンパウンドの−50〜50℃における線熱膨張係数は、樹脂流動方向については1.5×10−5/K、流動に直角方向については5.0×10−5/Kである。
しかしながら、甲1には、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物として、甲4技術事項のピッチ系カーボンファイバー30%で強化したPPSコンパウンドや、甲5技術事項のガラス繊維30%強化のスーパータフタイプのPPSコンパウンドを用いることについて記載も示唆もないから、甲1発明のシール部材のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物として、甲4技術事項のCZ−1030又は甲5技術事項のZ−230を採用する動機付けは存在しない。

ウ 甲6技術事項によればアルミニウム合金の20〜100℃の平均線膨張係数は2.00×10−5/℃から2.43×10−5/℃の範囲にあり、甲7技術事項によれば銅合金の20〜300℃の線膨張係数は1.62×10−5/Kから2.12×10−5/Kの範囲にある。
しかしながら、甲1発明の「電極端子」として甲7技術事項にあるような銅合金を採用する動機付けは存在しないし、甲1発明の「蓋板」として甲6技術事項にあるようなアルミニウム合金を採用する動機付けも存在しない。

エ 仮に、甲1発明の「シール部材」に甲4技術事項又は甲5技術事項のPPSコンパウンドを採用し、「電極端子」に甲7技術事項にある銅合金を採用し、「蓋板」に甲6技術事項にあるアルミニウム合金を採用するにしても、これらの線膨張係数を相違点2で挙げた関係を満たすように選択する動機付けは存在しない。(なお、CZ−1030の流動に直角方向の線熱膨張係数4.0×10−5/K並びにZ−230の樹脂流動方向の線熱膨張係数1.5×10−5/K及び流動に直角方向の線熱膨張係数5.0×10−5/Kは、甲6技術事項のアルミニウム合金の線膨張係数及び甲7技術事項の銅合金の線膨張係数を両端とする範囲の外にある。)

オ 甲9技術事項は、構造体部(A)及びリブ部(C)が樹脂であり、金属体部(B)が金属材料である金属/樹脂複合構造体において、大きな温度変化が起こると金属/樹脂複合構造体に歪みが掛かりやすいという課題を解決するために、充填材を含有させることにより、樹脂材料の線膨張係数を低減、制御するとともに、線膨張率の大きな金属を用いるものであるが、甲9技術事項は単一の金属材料と樹脂材料との線膨張係数に関するものであり、甲1発明のような2種類の金属材料と樹脂材料との構造体についてのものではないため、甲1発明に適用する動機付けは存在しない。
仮に、甲9技術事項を甲1発明に適用することができたとしても、甲9技術事項は樹脂材料の線膨張係数を低減、制御し、線膨張係数の大きな金属を採用することを開示するにとどまるから、樹脂材料の線膨張係数が2つの金属の線膨張係数の間に入るように樹脂材料の線膨張係数を制御することには想到し得ない。

カ また、甲8技術事項は、金属や樹脂材料の線膨張係数に関するものではないから、以上の点は、甲8技術事項を参照しても左右されない。

キ 前記ア〜カによれば、相違点2に係る本件発明1の発明特定事項は、当業者が容易に想到し得たものではない。
よって、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲4〜甲9技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)申立人の主張について
ア 申立人は、異議申立書において、以下の(ア)、(イ)を主張している(異議申立書第20及び21頁)。

(ア)甲4にはピッチ系カーボンファイバー30%で強化したポリフェニレンスルファイドの−50〜50℃における線熱膨張係数は2.0〜4.0×10−5/Kであることが示されており、甲5にはガラス繊維30%で強化したポリフェニレンスルファイドの−50〜50℃における線熱膨張係数は1.5〜5.0×10−5/Kであることが示されている。ポリフェニレンスルファイドはポリアリーレンスルファイド系樹脂である。また、甲6には、−60〜+20℃におけるアルミニウム合金の平均線膨張係数は18.4〜22.3×10−6/℃であることが示されており、甲7には、20〜300℃における銅及び銅合金の線膨張係数は16.2〜21.2×10−6/Kであることが示されている。
例えば、第一金属を銅合金JIS−6140(α1=16.2×10−6/℃)、第二金属をアルミニウム合金JIS−5083(α2=22.3×10−6/℃)とした場合、シール材の線膨張係数が16.2×10−6/℃以上かつ22.3×10−6/℃以下であれば、「αL≦αS≦αH」を満たすことになる。ここで、ピッチ系カーボンファイバー30%で強化したポリフェニンレンスルファイドの線熱膨張係数は2.0〜4.0×10−5/K、ガラス繊維30%で強化したポリフェニンレンスルファイドの線熱膨張係数は1.5〜5.0×10−5/Kであり、共に16.2×10−6/℃以上かつ22.3×10−6/℃以下の値を有していることから、甲1には「αL≦αS≦αH」となるシール材、第一金属及び第二金属からなる蓋体が実質的に開示されている。

(イ)甲8には、金属基材と熱可塑性樹脂とをアンカー効果の嵌合によって接合することや、ポリアリーレンスルファイド(ポリアリーレンスルフィド)樹脂と金属との密着性について開示されている。また、甲9には樹脂材料をポリフェニレンスルフィド(PPS)、金属材料を鉄、ステンレス、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、マグネシウム合金、銅、銅合金、チタン及びチタン合金として、金属材料と樹脂材料との線膨張率差の調整、および樹脂材料の機械的強度を向上させることを目的として樹脂材料に充填剤を添加することが開示されている。即ち、金属部材の膨張収縮にシール材を追随させることを目的として、シール材、第一金属及び第二金属の線膨張係数を「αL≦αS≦αH」とすることは、当業者が適宜選択し得る設計事項に過ぎず、当業者であれば容易に想到し得るものである。

イ しかしながら、前記ア(ア)の主張については、前記(2)イ及びウのとおり、甲1発明の「シール部材」に甲4技術事項又は甲5技術事項のPPSコンパウンドを採用すること、「電極端子」に甲7技術事項にある銅合金を採用すること、及び「蓋板」に甲6技術事項にあるアルミニウム合金を採用することは、いずれについても動機付けが存在しない。また、仮に、甲1発明の「シール部材」、「電極端子」、「蓋板」について、上記のとおりに甲4〜甲7技術事項のものを採用するにしても、前記(2)エのとおり、これらの線膨張係数を相違点2で挙げた関係を満たすように選択する動機付けは存在しない。
よって、前記ア(ア)の主張は採用できない。

ウ また、前記ア(イ)の主張については、前記(2)オのとおり、甲9技術事項は甲1発明のような2種類の金属材料と樹脂材料との構造体についてのものではないため、甲1発明に適用する動機付けは存在せず、さらに、仮に、甲9技術事項を甲1発明に適用することができたとしても、甲9技術事項は樹脂材料の線膨張係数を低減、制御し、線膨張係数の大きな金属を採用することを開示するにとどまるから、樹脂材料の線膨張係数が2つの金属の線膨張係数の間に入るように樹脂材料の線膨張係数を制御することには想到し得ない。
また、前記(2)カのとおり、甲8技術事項は、金属や樹脂材料の線膨張係数に関するものではないから、以上の点は、甲8技術事項を参照しても左右されない。
よって、前記ア(イ)の主張は採用できない。

エ したがって、申立人の主張は採用できない。

(4)本件発明2〜5について
本件発明2〜5は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに別の発明特定事項を付加したものである。
したがって、本件発明2〜5と甲1発明とは、少なくとも、前記(1)に示した相違点2において相違する。
そして、前記(2)に示したとおり、前記相違点2に係る構成は、当業者が容易に想到し得たものではない。
よって、本件発明2〜5は、甲1発明及び甲4〜甲9技術事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものではない。


2 甲2を主引例とした進歩性について
(1)本件発明1と甲2発明との対比
本件発明1と甲2発明とを対比すると、以下のとおりである。

ア 発明特定事項1A〜1Fについて
本件発明1の「蓋体」に対応する構成が甲2では単一の語で表現されていないため、発明特定事項1Aから順に対比をすると煩雑となる。そこで、先に「蓋体」の構成要素を特定する発明特定事項1B〜1D及び1Fについて対比し、その後で「蓋体」を特定する発明特定事項1A及び1Eについて対比する。

(ア)発明特定事項1Bについて
甲2発明の「金属端子4」は、「正極端子または負極端子の何れか一方の端子となる」ものである(甲2分説c2)から、本件発明1の「正極および負極のうち少なくとも一方の電極の端子部材」に相当する。
そして、甲2発明の「金属端子4」は、「銅(その合金を含む)、ニッケルめっきした銅(その合金を含む)、アルミニウム(その合金を含む)などでできて」いる(甲2分説c3)から、銅又はアルミニウムなどの金属を主体として構成されている。そして、銅又はアルミニウムなどの金属を「第一金属」と称することは任意であるから、本件発明1の「端子部材」と甲2発明の「金属端子4」とは、「第一金属を主体として構成される、正極および負極のうち少なくとも一方の電極の端子部材」である点で一致する。

(イ)発明特定事項1Cについて
甲2発明の「金属蓋体2」は、「円板(楕円を含む)状や矩形状」である(甲2分説b1)から、板といえる。
そして、甲2発明の「金属蓋体2」は、「箱体3の開口端」を「閉蓋」する(甲2分説b3)から、口(開口端)を封じる板という意味において、本件発明1の「封口板」に相当する。
甲2発明の「金属蓋体2」は、「アルミニウム(その合金を含む)やステンレスなどの金属材でできて」いる(甲2分説b2)から、アルミニウム又は鉄などの金属を主体として構成されている。そして、アルミニウム又は鉄などの金属を「第二金属」と呼ぶことは任意であるから、本件発明1の「封口板」と甲2発明の「金属蓋体2」とは、「第二金属を主体として構成される封口板」である点で一致する。

(ウ)発明特定事項1Dについて
甲2発明の「樹脂ガスケット9」は、「電解液7が金属蓋体2および金属端子4と樹脂ガスケット9との境界面すなわち接合部分から漏れ出ないように密着性が要求される」(甲2分説d1)ものであるから、シール材であるといえる。
よって、甲2発明の「樹脂ガスケット9」は本件発明1の「シール材」に相当する。

(エ)発明特定事項1Fについて
甲2発明の「金属蓋体2」には、「貫通孔2A」が形成されており(甲2分説c1)、甲2発明の「貫通孔2A」には「金属端子4」が「樹脂ガスケット9を介して設けられて」いる(甲2分説c2)から、甲2発明の「貫通孔2A」は「金属端子4」を取り付けるための穴であると解される。
よって、甲2発明の「貫通孔2A」は、甲1発明の「前記端子部材を取り付けるための取付穴」に相当し、本件発明1の「封口板」と甲1発明の「金属蓋体2」とは、「前記端子部材を取り付けるための取付穴を有」する点で一致する。

(オ)発明特定事項1Aについて
a 甲2発明では、「金属蓋体2の貫通孔2Aには正極端子または負極端子の何れか一方の端子となる金属端子4」が「樹脂ガスケット9を介して設けられて」おり(甲2分説c2)、また、「金属蓋体2と金属端子4とを合成樹脂材と一体に成形することにより、金属蓋体2の貫通孔2Aの内周面およびその周縁の内周面に合成樹脂材の樹脂ガスケット9が接合され」ている(甲2分説d2)から、甲2発明の「金属蓋体2」、「金属端子4」及び「樹脂ガスケット9」は一体となっており、以下、これらを一体的に「金属樹脂成形体」という。
そして、甲2発明は、「箱体3の開口端は金属蓋体2で閉蓋されるように箱体3と金属蓋体2とを組み合わせて接合部5をレーザ接合や超音波溶着などで固着して密閉容器を構成」する(甲2分説b3)ものであり、「電解液7が金属蓋体2および金属端子4と樹脂ガスケット9との境界面すなわち接合部分から漏れ出ないように密着性が要求される」(甲2分説d1)ものであるから、甲1発明の密閉容器は、「箱体3」の「開口端」を「金属樹脂成形体」(「金属蓋体2」、「金属端子4」及び「樹脂ガスケット9」)で塞ぐことによって密閉性が確保されるものと認められる。
そうすると、甲2発明の「開口端」は、本件発明1の「開口部」に相当し、甲2発明の「金属樹脂成形体」は、「箱体3」を密閉するために「開口端」を塞ぐ蓋として機能するものと解されるから、本件発明1の「前記開口部を塞ぐ蓋体」に相当する。

b 甲2発明の「電極体素子部6」は、本件発明1の「電極体」に相当する。
そして、甲2発明では、「箱体3の内部3A」に「電極素子部6」が「設けられて」いる(甲2分説b4)から、甲2発明の「箱体3」は「電極素子部6」を収容しているといえる。
よって、前記aも考慮すると、甲2発明の「箱体3」は、本件発明1の「開口部を有し、電極体を収容するケース本体」に相当する。

c 甲2発明の「密閉型電気化学デバイス」は、「リチウム電池の密閉型電気化学デバイス」である(甲2分説a)から、本件発明1の「密閉型電池」に相当する。
また、甲2発明の「その容器部材」つまり「密閉型電気化学デバイス」の「容器部材」は、「箱体3」と「金属蓋体2」からなる(甲2分説b1)。
よって、甲2発明の「密閉型電気化学デバイス」は「箱体3」を備えており、また、甲2発明の「密閉型電気化学デバイス」には、「金属蓋体2」により構成される「金属樹脂成形体」が使用されている。

d 前記a〜cを総合すると、本件発明1の「蓋体」と甲2発明の「金属樹脂成形体」とは、「開口部を有し、電極体を収容するケース本体を備えた密閉型電池に使用され、前記開口部を塞ぐ蓋体」である点で一致する。

(カ)発明特定事項1Eについて
甲2発明の「金属樹脂成形体」は、「金属蓋体2」、「金属端子4」及び「樹脂ガスケット9」からなる(前記(オ)a)から、甲2発明の「金属樹脂成形体」は「金属端子4」と、「金属蓋体2」と、「樹脂ガスケット9」とを備える。
よって、本件発明1の「蓋体」と甲2発明の「金属樹脂成形体」とは、「端子部材」と、「封口板」と、「シール材とを備え」る点で一致する。

(キ)発明特定事項1A〜1Fについての小括
前記(ア)〜(カ)を総合すると、本件発明1の「蓋体」と甲2発明の「金属樹脂成形体」(「金属蓋体2」、「金属端子4」及び「樹脂ガスケット9」)とは、「開口部を有し、電極体を収容するケース本体を備えた密閉型電池に使用され、前記開口部を塞ぐ蓋体であって」(発明特定事項1A)、「第一金属を主体として構成される、正極および負極のうち少なくとも一方の電極の端子部材と」(発明特定事項1B)、「第二金属を主体として構成される封口板と」(発明特定事項1C)、「シール材とを備え」(発明特定事項1D及び1E)る点で一致する。
加えて、本件発明1の「封口板」と甲2発明の「金属蓋体2」とは、「前記封口板は、前記端子部材を取り付けるための取付穴を有」する点(発明特定事項1F)で一致する。

イ 発明特定事項1Gについて
(ア)甲2発明では、「金属蓋体2の貫通孔2Aの内周面およびその周縁の内周面に合成樹脂材の樹脂ガスケット9が接合され」る(甲2分説d2)から、甲2発明の金属蓋体2では、取付穴の周縁部にシール材が接合された状態であるといえる。

(イ)甲2発明では、「金属端子4は貫通孔2Aに通され」る(甲2分説f)から、甲2発明では、端子部材は取付穴に挿通されているといえる。

(ウ)甲2発明では、前記ア(エ)のとおり、端子部材である金属端子4は金属蓋体2が有する貫通孔2Aに取り付けられているから、端子部材は封口板に取り付けられているといえる。

(エ)前記(ア)〜(ウ)によれば、甲2発明では、端子部材は、取付穴の周縁部にシール材が接合された状態で、取付穴に挿通されて、封口板に取り付けられていると認められる。
したがって、本件発明1と甲2発明とは、「前記端子部材は、前記取付穴の周縁部に前記シール材が接合された状態で、前記取付穴に挿通されて、前記封口板に取り付けられて」いる点で一致する。

ウ 発明特定事項1Hについて
甲2発明では、シール材、第一金属、第二金属の線膨張係数値は不明であり、「前記シール材の25℃における線膨張係数値をαS、前記第一金属の25℃における線膨張係数をα1、前記第二金属の25℃における線膨張係数をα2、α1とα2のうち値の大きい方をαH、値の小さい方をαLとしたときに、αL≦αS≦αHを満た」すか否かは不明である。

エ 発明特定事項1Iについて
甲2発明では、「樹脂ガスケット9の材質として、合成樹脂材の表面に官能基を存在させるように」し、「官能基含有ポリアリーレンスルフィド樹脂」(甲2分説e)を用いるので、甲2発明では、樹脂ガスケット9は、ポリアリーレンスルフィド樹脂から構成されると認められる。
よって、甲2発明では、シール材は、ポリアリーレンスルフィド樹脂を含んでいる。
したがって、本件発明1と甲2発明とは、「前記シール材は、ポリアリーレンスルフィド樹脂を含む」点で一致する。なお、甲2発明の「金属樹脂成形体」が、本件発明1の「蓋体」に相当することは、前記ア(オ)aのとおりである。

オ 一致点及び相違点
前記ア〜エによれば、本件発明1と甲2発明とは、以下の点で一致及び相違する。

<一致点>
「 開口部を有し、電極体を収容するケース本体を備えた密閉型電池に使用され、前記開口部を塞ぐ蓋体であって、
第一金属を主体として構成される、正極および負極のうち少なくとも一方の電極の端子部材と、
第二金属を主体として構成される封口板と、
シール材と
を備え、
前記封口板は、前記端子部材を取り付けるための取付穴を有し、
前記端子部材は、前記取付穴の周縁部に前記シール材が接合された状態で、前記取付穴に挿通されて、前記封口板に取り付けられており、
前記シール材は、ポリアリーレンスルフィド樹脂を含む、蓋体。」

<相違点>
本件発明1では、「シール材」、「第一金属」及び「第二金属」の線膨張係数の関係が「前記シール材の25℃における線膨張係数値をαS、前記第一金属の25℃における線膨張係数をα1、前記第二金属の25℃における線膨張係数をα2、α1とα2のうち値の大きい方をαH、値の小さい方をαLとしたときに、αL≦αS≦αHを満た」すのに対して、甲2発明では、「樹脂ガスケット9」、「金属端子4」、及び「金属蓋体2」、の線膨張係数が前記関係を満たすか否かは不明である点。

(2)相違点についての判断
ア 甲2発明の「金属端子4」は、「銅(その合金を含む)、ニッケルめっきした銅(その合金を含む)、アルミニウム(その合金を含む)などでできて」おり(甲2分説c3)、「金属蓋体2は、アルミニウム(その合金を含む)やステンレスなどの金属材でできて」いる(甲2分説b2)。
また、甲2発明の「樹脂ガスケット9」は、ポリアリーレンスルフィド樹脂である(前記(1)エ)。
そして、甲2には、これらの物質の線膨張係数を、相違点で挙げた関係を満たすように選択することについて、記載も示唆もない。

イ 前記1(2)イのとおり、甲4技術事項にはCZ−1030と呼ばれるPPSコンパウンドの線熱膨張係数、甲5技術事項にはZ−230と呼ばれるPPSコンパウンドの線熱膨張係数が示されているが、甲2には、ポリアリーレンスルフィド樹脂として、甲4技術事項のピッチ系カーボンファイバー30%で強化したPPSコンパウンドや、甲5技術事項のガラス繊維30%強化のスーパータフタイプのPPSコンパウンドを用いることについて記載も示唆もないから、甲2発明の樹脂ガスケット9のポリアリーレンスルフィド樹脂として、甲4技術事項のCZ−1030又は甲5技術事項のZ−230を採用する動機付けは存在しない。

ウ 前記1(2)ウのとおり、甲6技術事項にはアルミニウム合金の平均線膨張係数、甲7技術事項には銅合金の線膨張係数が示されているが、甲2発明の「金属端子4」として甲7技術事項にあるような銅合金を採用する動機付けは存在しないし、甲2発明の「金属蓋体2」として甲6技術事項にあるようなアルミニウム合金を採用する動機付けも存在しない。

エ 仮に、甲2発明の「樹脂ガスケット9」に甲4技術事項又は甲5技術事項のPPSコンパウンドを採用し、「金属端子4」に甲7技術事項にある銅合金を採用し、「金属蓋体2」に甲6技術事項にあるアルミニウム合金を採用するにしても、これらの線膨張係数を相違点で挙げた関係を満たすように選択する動機付けは存在しない。(なお、前記1(2)エのとおり、CZ−1030の流動に直角方向の線熱膨張係数4.0×10−5/K並びにZ−230の樹脂流動方向の線熱膨張係数1.5×10−5/K及び流動に直角方向の線熱膨張係数5.0×10−5/Kは、甲6技術事項のアルミニウム合金の線膨張係数及び甲7技術事項の銅合金の線膨張係数を両端とする範囲の外にある。)

オ また、甲9技術事項については、前記1(2)オのとおりであり、甲2発明のような2種類の金属材料と樹脂材料との構造体についてのものではないため、甲2発明に適用する動機付けは存在しない。
仮に、甲9技術事項を甲2発明に適用することができたとしても、甲9技術事項は樹脂材料の線膨張係数を低減、制御し、線膨張係数の大きな金属を採用することを開示するにとどまるから、樹脂材料の線膨張係数が2つの金属の線膨張係数の間に入るように樹脂材料の線膨張係数を制御することには想到し得ない。

カ また、甲8技術事項は、金属や樹脂材料の線膨張係数に関するものではないから、以上の点は、甲8技術事項を参照しても左右されない。

キ 前記ア〜カによれば、相違点に係る本件発明1の発明特定事項は、当業者が容易に想到し得たものではない。
よって、本件発明1は、甲2発明及び甲4〜甲9技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)申立人の主張について
ア 申立人は、異議申立書において、甲1と同様に甲2には「αL≦αS≦αH」となるシール材、第一金属及び第二金属からなる蓋体が実質的に開示されており、甲1発明の場合と同様に本件発明1は特許法第29条第2項違反に該当すると主張している(異議申立書第14頁及び23頁)から、前記1(3)ア(ア)及び(イ)において甲1を甲2に置き換えた主張をしているものと認められる。

イ しかしながら、前記1(3)ア(ア)において甲1を甲2に置き換えた主張については、前記(2)イ及びウのとおり、甲2発明の「樹脂ガスケット9」に甲4技術事項又は甲5技術事項のPPSコンパウンドを採用すること、「金属端子4」に甲7技術事項にある銅合金を採用すること、及び「金属蓋体2」に甲6技術事項にあるアルミニウム合金を採用することは、いずれについても動機付けが存在しない。また、仮に、甲2発明の「樹脂ガスケット9」、「金属端子4」、「金属蓋体2」について、上記のとおりに甲4〜甲7技術事項のものを採用するにしても、前記(2)エのとおり、これらの線膨張係数を相違点で挙げた関係を満たすように選択する動機付けは存在しない。
よって、前記1(3)ア(ア)において甲1を甲2に置き換えた主張は採用できない。

ウ また、前記1(3)ア(イ)において甲1を甲2に置き換えた主張については、前記(2)オのとおり、甲9技術事項は甲2発明のような2種類の金属材料と樹脂材料との構造体についてのものではないため、甲2発明に適用する動機付けは存在せず、さらに、仮に、甲9技術事項を甲2発明に適用することができたとしても、甲9技術事項は樹脂材料の線膨張係数を低減、制御し、線膨張係数の大きな金属を採用することを開示するにとどまるから、樹脂材料の線膨張係数が2つの金属の線膨張係数の間に入るように樹脂材料の線膨張係数を制御することには想到し得ない。
また、前記(2)カのとおり、甲8技術事項は、金属や樹脂材料の線膨張係数に関するものではないから、以上の点は、甲8技術事項を参照しても左右されない。
よって、前記1(3)ア(イ)において甲1を甲2に置き換えた主張は採用できない。

エ したがって、申立人の主張は採用できない。

(4)本件発明2〜5について
本件発明2〜5は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに別の発明特定事項を付加したものである。
したがって、本件発明2〜5と甲2発明とは、少なくとも、前記(1)に示した相違点において相違する。
そして、前記(2)に示したとおり、前記相違点に係る構成は、当業者が容易に想到し得たものではない。
よって、本件発明2〜5は、甲2発明及び甲4〜甲9技術事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものではない。

3 甲3を主引例とした進歩性について
(1)本件発明1と甲3発明との対比
本件発明1と甲3発明とを対比すると、以下のとおりである。

ア 発明特定事項1Aについて
甲3発明が適用される「二次電池封口板」(甲3分説a)は「二次電池容器の一部材」である(甲3分説d)から、電池に使用されるものである。また、「二次電池封口板」は「蓋板」から構成されており(甲3分説d)、二次電池容器のケース本体の開口部を塞ぐ蓋の役割を果たすものと認められる。
そして、「二次電池封口板」は、「電極端子」を備えている(甲3分説d)から、二次電池容器のケース本体に、電極端子と接続される電極体が収容されるのは明らかである。
したがって、甲3発明が適用される「二次電池封口板」は、本件発明1の「蓋体」に相当し、本件発明1の「蓋体」と甲3発明の「二次電池封口板」とは、「開口部を有し、電極体を収容するケース本体を備えた電池に使用され、前記開口部を塞ぐ蓋体」である点で共通する。
他方、甲3発明では、電池が、「密閉型」電池であるか否かは不明である。

イ 発明特定事項1B〜1Eについて
(ア)甲3発明の「二次電池封口板」は、「電極端子、蓋板、絶縁のシール部材」から構成されており(甲3分説d)、甲3発明の「電極端子」、「蓋板」及び「シール部材」は、それぞれ本件発明1の「端子部材」、「封口板」及び「シール材」に相当する。

(イ)甲3発明の「電極端子」は、「正極用と負極用の一対の金属からな」る(甲3分説d)ものであるから、金属を「第一金属」と称することは任意であり、本件発明1の「端子部材」と甲3発明の「電極端子」とは、「第一金属を主体として構成される、正極および負極のうち少なくとも一方の電極の端子部材」である点で一致する。

(ウ)甲3発明の「蓋板」について、「蓋板の材質としては、アルミニウム、鉄、ステンレス等の金属」(甲3分説d)であり、「蓋板」を構成する金属を「第二金属」と称することは任意である。
したがって、本件発明1の「封口板」と甲3発明の「蓋板」とは、「第二金属を主体として構成される封口板」を備える点で一致する。

(エ)前記(ア)〜(ウ)によれば、本件発明1と甲3発明は、「第一金属を主体として構成される、正極および負極のうち少なくとも一方の電極の端子部材と、
第二金属を主体として構成される封口板と、
シール材と
を備え」る点で一致する。

ウ 発明特定事項1Fについて
甲3発明の「二次電池封口板」では、「蓋板4は2つの穴を備え、電極端子1、2が各々通されるとともに、シール部材3で隙間が埋められ」ており(甲3分説g)、「電極端子及び蓋板に対し、PAS樹脂組成物をシール部材として成形し、一体化」する(甲3分説f)から、「蓋板4」は、その「2つの穴」によって、「電極端子1、2」を取り付けていると認められる。よって、甲3発明の「蓋板4」の「2つの穴」は、電極端子を取り付けるための取付穴であるといえる。
したがって、本件発明1と甲3発明は、「前記封口板は、前記端子部材を取り付けるための取付穴を有」する点で一致する。

エ 発明特定事項1Gについて
甲3発明では、「蓋板4は2つの穴を備え、電極端子1、2が各々通される」(甲3分説g)から、「電極端子」は「2つの穴」に挿通されている。
また、甲3発明の「2つの穴」は、「シール部材3で隙間が埋められ」(甲3分説g)ており、「蓋板に対し、PAS樹脂組成物をシール部材として成形し、一体化」(甲3分説f)するから、「2つの穴」と「シール部材3」は一体化して接合された状態であると認められる。
また、甲3発明では、電極端子1、2は蓋板4に取り付けられている(前記ウ)。
以上によれば、本件発明1と甲3発明とは、「前記端子部材は、前記取付穴に前記シール材が接合された状態で、前記取付穴に挿通されて、前記封口板に取り付けられて」いる点で共通する。
他方、甲3発明の「二次電池封口板」では、2つの穴「の周縁部」にシール材が接合された状態であるか否かは不明である。

オ 発明特定事項1Hについて
甲3発明では、シール材、第一金属、第二金属の線膨張係数値は不明であり、「前記シール材の25℃における線膨張係数値をαS、前記第一金属の25℃における線膨張係数をα1、前記第二金属の25℃における線膨張係数をα2、α1とα2のうち値の大きい方をαH、値の小さい方をαLとしたときに、αL≦αS≦αHを満た」すか否かは不明である。

カ 発明特定事項1Iについて
甲3発明の「二次電池封口板」の「シール部材」は、「ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物」(PAS樹脂組成物)から構成される(甲3分説a、d)。
したがって、本件発明1と甲3発明とは、「前記シール材は、ポリアリーレンスルフィド樹脂を含む」点で一致する。なお、甲3発明の「二次電池封口板」が本件発明1の「蓋体」に相当することは、前記アのとおりである。

キ 一致点及び相違点
前記ア〜カによれば、本件発明1と甲3発明とは、以下の点で一致及び相違する。

<一致点>
「 開口部を有し、電極体を収容するケース本体を備えた電池に使用され、前記開口部を塞ぐ蓋体であって、
第一金属を主体として構成される、正極および負極のうち少なくとも一方の電極の端子部材と、
第二金属を主体として構成される封口板と、
シール材と
を備え、
前記封口板は、前記端子部材を取り付けるための取付穴を有し、
前記端子部材は、前記取付穴に前記シール材が接合された状態で、前記取付穴に挿通されて、前記封口板に取り付けられており、
前記シール材は、ポリアリーレンスルフィド樹脂を含む、蓋体。」

<相違点1>
本件発明1では、電池は「密閉型」電池であるのに対して、甲3発明では、電池が「密閉型」電池であるか否かは不明である点。

<相違点2>
本件発明1では、取付穴「の周縁部」にシール材が接合された状態であるのに対して、甲3発明では、取付穴「の周縁部」にシール材が接合された状態であるか否かが不明である点。

<相違点3>
本件発明1では、「シール材」、「第一金属」及び「第二金属」の線膨張係数の関係が「前記シール材の25℃における線膨張係数値をαS、前記第一金属の25℃における線膨張係数をα1、前記第二金属の25℃における線膨張係数をα2、α1とα2のうち値の大きい方をαH、値の小さい方をαLとしたときに、αL≦αS≦αHを満た」すのに対して、甲3発明では、「シール部材」、「電極端子」及び「蓋板」の線膨張係数が前記関係を満たすか否かは不明である点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑み、相違点3について検討する。

ア 甲3発明の「電極端子」は、「アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金から選択される少なくとも1種以上の金属」であり(甲3分説d)、甲3発明の「蓋板」は、「アルミニウム、鉄、ステンレス等の金属」(甲3分説d)である。
また、甲3発明の「シール部材」は、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(PAS樹脂組成物)である(甲3分説d)。
そして、甲3には、これらの物質の線膨張係数を、相違点3で挙げた関係を満たすように選択することについて、記載も示唆もない。

イ 前記1(2)イのとおり、甲4技術事項にはCZ−1030と呼ばれるPPSコンパウンドの線熱膨張係数、甲5技術事項にはZ−230と呼ばれるPPSコンパウンドの線熱膨張係数が示されているが、甲3には、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物として、甲4技術事項のピッチ系カーボンファイバー30%で強化したPPSコンパウンドや、甲5技術事項のガラス繊維30%強化のスーパータフタイプのPPSコンパウンドを用いることについて記載も示唆もないから、甲3発明のシール部材のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物として、甲4技術事項のCZ−1030又は甲5技術事項のZ−230を採用する動機付けは存在しない。

ウ 前記1(2)ウのとおり、甲6技術事項にはアルミニウム合金の平均線膨張係数、甲7技術事項には銅合金の線膨張係数が示されているが、甲3発明の「電極端子」として甲7技術事項にあるような銅合金を採用する動機付けは存在しないし、甲3発明の「蓋板」として甲6技術事項にあるようなアルミニウム合金を採用する動機付けも存在しない。

エ 仮に、甲3発明の「シール部材」に甲4技術事項又は甲5技術事項のPPSコンパウンドを採用し、「電極端子」に甲7技術事項にある銅合金を採用し、「蓋板」に甲6技術事項にあるアルミニウム合金を採用するにしても、これらの線膨張係数を相違点3で挙げた関係を満たすように選択する動機付けは存在しない。(なお、前記1(2)エのとおり、CZ−1030の流動に直角方向の線熱膨張係数4.0×10−5/K並びにZ−230の樹脂流動方向の線熱膨張係数1.5×10−5/K及び流動に直角方向の線熱膨張係数5.0×10−5/Kは、甲6技術事項のアルミニウム合金の線膨張係数及び甲7技術事項の銅合金の線膨張係数を両端とする範囲の外にある。)

オ また、甲9技術事項については、前記1(2)オのとおりであり、甲3発明のような2種類の金属材料と樹脂材料との構造体についてのものではないため、甲3発明に適用する動機付けは存在しない。
仮に、甲9技術事項を甲3発明に適用することができたとしても、甲9技術事項は樹脂材料の線膨張係数を低減、制御し、線膨張係数の大きな金属を採用することを開示するにとどまるから、樹脂材料の線膨張係数が2つの金属の線膨張係数の間に入るように樹脂材料の線膨張係数を制御することには想到し得ない。

カ また、甲8技術事項は、金属や樹脂材料の線膨張係数に関するものではないから、以上の点は、甲8技術事項を参照しても左右されない。

キ 前記ア〜カによれば、相違点3に係る本件発明1の発明特定事項は、当業者が容易に想到し得たものではない。
よって、本件発明1は、甲3発明及び甲4〜甲8技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)申立人の主張について
ア 申立人は、異議申立書において、甲1と同様に甲3には「αL≦αS≦αH」となるシール材、第一金属及び第二金属からなる蓋体が実質的に開示されており、甲1発明の場合と同様に本件発明1は特許法第29条第2項違反に該当すると主張している(異議申立書第15頁及び23頁)から、前記1(3)ア(ア)及び(イ)において甲1を甲3に置き換えた主張をしているものと認められる。

イ しかしながら、前記1(3)ア(ア)において甲1を甲3に置き換えた主張については、前記(2)イ及びウのとおり、甲3発明の「シール部材」に甲4技術事項又は甲5技術事項のPPSコンパウンドを採用すること、「電極端子」に甲7技術事項にある銅合金を採用すること、及び「蓋板」に甲6技術事項にあるアルミニウム合金を採用することは、いずれについても動機付けが存在しない。また、仮に、甲3発明の「シール部材」、「電極端子」、「蓋板」について、上記のとおりに甲4〜甲7技術事項のものを採用するにしても、前記(2)エのとおり、これらの線膨張係数を相違点3で挙げた関係を満たすように選択する動機付けは存在しない。
よって、前記1(3)ア(ア)において甲1を甲3に置き換えた主張は採用できない。

ウ また、前記1(3)ア(イ)において甲1を甲3に置き換えた主張については、前記(2)オのとおり、甲9技術事項は甲3発明のような2種類の金属材料と樹脂材料との構造体についてのものではないため、甲3発明に適用する動機付けは存在せず、さらに、仮に、甲9技術事項を甲3発明に適用することができたとしても、甲9技術事項は樹脂材料の線膨張係数を低減、制御し、線膨張係数の大きな金属を採用することを開示するにとどまるから、樹脂材料の線膨張係数が2つの金属の線膨張係数の間に入るように樹脂材料の線膨張係数を制御することには想到し得ない。
また、前記(2)カのとおり、甲8技術事項は、金属や樹脂材料の線膨張係数に関するものではないから、以上の点は、甲8技術事項を参照しても左右されない。
よって、前記1(3)ア(イ)において甲1を甲3に置き換えた主張は採用できない。

エ したがって、申立人の主張は採用できない。

(4)本件発明2〜5について
本件発明2〜5は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに別の発明特定事項を付加したものである。
したがって、本件発明2〜5と甲3発明とは、少なくとも、前記(1)に示した相違点3において相違する。
そして、前記(2)に示したとおり、前記相違点3に係る構成は、当業者が容易に想到し得たものではない。
よって、本件発明2〜5は、甲3発明及び甲4〜甲9技術事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものではない。

第6 申立理由2(サポート要件)についての判断
1 サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

2 本件明細書の記載事項
本件特許明細書には、次の記載がある。

(1)「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓋体およびそれを用いた密閉型電池に関する。詳しくは、シール材を備える蓋体およびそれを用いた密閉型電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池等の非水電解液二次電池は、車両搭載用電源あるいはパソコンや携帯端末等の電源として重要性が高まっている。特に、軽量で高エネルギー密度が得られるリチウムイオン二次電池は、車両搭載用高出力電源として好ましく用いられている。
この種の二次電池は、例えば、電極体が電池ケース内に収容された密閉型電池として構築される。かかる密閉型電池の蓋体には、シール材を介した状態で端子が取り付けられている。密閉型電池に用いられる端子として、例えば、電池ケース外部に露出する外部端子と、電池ケース内部の電極体と接続される内部端子とを備えた端子が用いられている。かかる構成の端子は、外部端子と内部端子のうち一方が、封口板の取付穴に挿通され、他方に対してかしめられることによって、蓋体に接続されている。
【0003】
シール材には、電池ケース内部を気密に保つためのシール性が求められている。また、シール材には、端子をかしめによって封口板に取り付ける際の、かしめ強度に耐えられる機械強度が求められている。
特許文献1には、樹脂部材の強度および耐衝撃性を向上させるために、樹脂部材にガラス繊維を配合させる技術が開示されている。特許文献2には、シール材として用いられる樹脂組成物の機械強度および寸法安定性を向上させるために、樹脂組成物に繊維状充填剤を配合させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020−55205号公報
【特許文献2】特開2016−44303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年では、製造コスト削減のため、電池に使用される部品の点数を減らすことが試みられている。例えば、端子をかしめによって接合するための部品を用いずに、金属製の端子や封口板を、樹脂材料からなるシール材と直接合させることが検討されている。しかしながら、シール材と端子が直接接合されている場合、温度変化に伴う部品の膨張収縮によって、接合面に剥離が生じるおそれがある。接合面に剥離が生じると、シール材のシール性が低下し、ひいては電池性能の劣化につながる。
【0006】
特許文献1や特許文献2に記載されている樹脂には、機械強度を向上させるためにガラス繊維等が配合されている。しかしながら、シール材の機械強度を向上させても、温度変化に伴って部品が膨張収縮することによって生じる、シール材と端子の接合面の剥離を防ぐことは困難である。
温度変化が大きな環境で使用されても、かかる剥離を生じにくくするような技術の開発が求められている。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、封口板や端子といった金属部材と、樹脂材料からなるシール材の接合面において、剥離が生じにくい蓋体を提供することを目的とする。併せて、そのような蓋体を用いた、耐久性の高い密閉型電池を提供することを他の目的とする。」

(2)「【0028】
以下では、ここで開示される蓋体34の構成について、負極端子側の構成を元に、図2を参照しつつ説明する。図2は、図1中のII−II線断面図であって、ここで開示される蓋体34の、負極端子部材50を含んだ断面の構造を模式的に示す部分断面図である。なお、正極端子側の構成については、以下に説明する負極端子側の構成と同様の構成とすることができるので、詳細な説明は省略する。
【0029】
シール材70は、負極端子部材50と封口板60とを絶縁し、かつ、密閉型電池10内部の気密性を保つため、取付穴64を塞ぐように、負極端子部材50と封口板60の間に配置されている。
シール材70は、熱可塑性樹脂と無機フィラーから実質的に構成されている。熱可塑性樹脂としては、従来の一般的な熱可塑性樹脂を用いることができる。これに限られないが、例えば、ポリアリーレンスルフィド(PAS)等が用いられ、好ましくはポリフェニレンスルフィド(PPS)が用いられる。無機フィラーとして使用される材料は、本発明の効果を奏する限りにおいて特に限定されない。これに限られないが、無機フィラーとして、例えば、ガラス繊維、アルミナ、チタン酸カリウム等を用いることができる。無機フィラーとしては、繊維状、鱗片状、球状等、形状を問わず用いることができる。シール材70に使用される熱可塑性樹脂や無機フィラーは一種類に限られず、複数の種類から構成されていてもよい。シール材70は、本発明の効果を損なわない限りにおいて、熱可塑性樹脂と無機フィラー以外の材料を含んでいてもよい。
【0030】
本実施形態では、シール材70は、負極端子部材50と接触している面(接触面50C)においてアンカー効果によって接合されている。また、シール材70は、封口板60と接触している面(接触面60C)においてもアンカー効果によって接合されている。
具体的には、負極端子部材50上の接触面50Cおよび封口板60上の接触面60Cには、粗面処理が行われており、微細な凹凸が形成されている。当該凹凸にシール材が入り込むことによって、シール材70は負極端子部材50および封口板60と接合されている。粗面処理は、公知の物理的および/または化学的によって行うことができる。表面処理の方法として、レーザ処理、サンドブラスト処理、陽極酸化処理等の方法が例示される。
【0031】
シール材70は、射出成形によって、封口板60および負極端子部材50とアンカー効果によって接合され、一体になった状態で成形することができる。例えば、以下の方法で成型することができる。
シール材70に使用される、熱可塑性樹脂と無機フィラーを溶融させ、射出成形用の樹脂を準備する。封口板60と負極端子部材50を配置でき、かつ、シール材70の形状に合わせた金型を準備する。金型に、封口板60と、負極端子部材50を配置する。金型に、溶融した射出成形用の樹脂を所定の条件で流し込む。射出成形の条件は、シール材70の材料、寸法等によって適宜調整される。例えば、樹脂の温度は250〜350℃程度、射出速度は10〜60mm/秒程度、保持圧力は20〜100MPa程度で行われ得る。
【0032】
本実施形態において、封口板60はアルミニウム製であり、負極端子部材50は銅製である。シール材70の線膨張係数は、銅の線膨張係数1.6×10−5/K以上、アルミニウムの線膨張係数2.3×10−5/K以下になるように調整されている。上述したように、シール材70は、熱可塑性樹脂と無機フィラーによって構成されている。シール材70の線膨張係数は、例えば、使用する無機フィラーの種類や含有量を変えることによって調整することができる。例えば、シール70材に使用する無機フィラーの含有量を多くすると、線膨張係数を低くすることができる。
なお、本明細書において、線膨張係数は25℃における線膨張係数である。線膨張係数は、熱機械分析(TMA)を用いて測定することができる。
【0033】
このように、シール材70の線膨張係数は、接合される封口板60の線膨張係数と負極端子部材50の線膨張係数の範囲内に調整されていることが好ましい。これによって、温度変化に伴って封口板60と負極端子部材50が膨張収縮した場合にも、シール材70はその膨張収縮に追従する。これによって、シール材70と封口板60が接合されている面およびシール材70と負極端子部材50が接合されている面に、剥離を生じにくくすることができる。」

3 本件発明の課題及びその解決手段
(1)前記2の本件特許明細書の記載事項によると、本件発明の課題は、次のとおりと認められる。

「シール材と端子が直接接合されている場合、温度変化に伴う部品の膨張収縮によって、接合面に剥離が生じるおそれがあり、接合面に剥離が生じると電池性能の劣化につながり(【0005】)、ガラス繊維等が配合された先行技術における樹脂によっても、温度変化に伴って部品が膨張収縮することによって生じる、シール材と端子の接合面の剥離を防ぐことは困難である(【0006】)との問題点に鑑み、封口板や端子といった金属部材と、樹脂材料からなるシール材の接合面において、剥離が生じにくい蓋体を提供し、併せて、そのような蓋体を用いた、耐久性の高い密閉型電池を提供すること(【0007】)。」

(2)本件発明の課題は前記(1)のとおりであり、要するに、金属部材と樹脂材料からなるシール材との接合面が温度変化に伴う膨張収縮によって剥離することが問題であると解される。
そして、シール部材が負極端子部材及び封口板と接触している構造(【0030】)において剥離を生じにくくすることについては、本件特許明細書【0033】に記載があり、当該記載によれば、前記(1)の課題を解決するための手段は、次のとおりと認められる。

「シール材70の線膨張係数を、接合される封口板60の線膨張係数と負極端子部材50の線膨張係数の範囲内に調整すること。」

4 本件発明についてのサポート要件の検討
本件発明1は、密閉型電池に使用される蓋体(発明特定事項1A)であって、端子部材及び封口板がシール部材と接合されたものであり(発明特定事項1G)、端子部材は第一金属を主体としており(発明特定事項1B)、封口板は第二金蔵を主体としており(発明特定事項1C)、前記シール材は、ポリアリーレンスルフィド樹脂を含む物である(発明特定事項1I)から、前記3(1)に示す課題が生じ得る構造を持つ。
そして、本件発明1は、「ここで、前記シール材の25℃における線膨張係数値をαS、前記第一金属の25℃における線膨張係数をα1、前記第二金属の25℃における線膨張係数をα2、α1とα2のうち値の大きい方をαH、値の小さい方をαLとしたときに、αL≦αS≦αHを満たし」ている(発明特定事項1H)から、シール材の線膨張係数αSは、接合される封口板の線膨張係数α2と端子部材の線膨張係数α1との範囲内に調整されている。
ここで、前記3(2)の課題解決手段は負極端子部材を対象とするのに対して、本件発明1は負極端子部材に加えて、正極端子部材を対象とするものであるが、本件特許明細書の【0028】には「正極端子側の構成については」、「負極端子側の構成と同様の構成とすることができる」との記載が認められるから、負極端子部材についての前記3(2)の解決手段が正極端子部材についても同様に適用できることは、当業者にとって明らかである。よって、本件発明1は、正極端子側及び負極端子側双方について、前記3(2)に示した課題解決手段を有しているといえる。
したがって、本件発明1は、前記3(1)の課題を解決するものであると認められる。
以上によると、本件発明1は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、サポート要件を満たすと認められる。
また、本件発明2〜5は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに別の発明特定事項を付加したものであり、本件発明2〜5について、他にサポート要件に適合しない事項があるとも認められないから、本件発明2〜5についても同様にサポート要件を満たすと認められる。

5 申立人の主張について
(1)申立人は、発明特定事項1Hについて、異議申立書において、以下のア〜エを主張している(異議申立書第23〜24頁)。

ア 本件特許明細書の実施例においては、シール材に相当するPPSと無機フィラーの混合物の線膨張係数が1.8〜2.3×10−5/Kの場合に冷熱サイクル特性が○となることが示されているのみであり、第一金属及び第二金属に相当する部材の詳細が開示されておらず、これらの熱膨張係数も記載されていない(本件特許明細書、【0037】〜【0048】)。即ち、実施例が上記発明特定事項を具備しているか否かについて、全く把握することができない。

イ 甲6の表4.4には、−60〜+20℃におけるアルミニウム合金の平均線膨張係数は18.4〜22.3×10−6/℃であることが示されており、甲7の表4.2−1には、20〜300℃における銅及び銅合金の線膨張係数は16.2〜21.2×10−6/Kであることが示されている。本件特許明細書に実施例として記載されているシール材の線膨張係数は1.8〜2.3×10−5/Kであり、当該数値範囲は第一金属及び第二金属の線膨張係数が取り得る値と重複していることからも、実施例が上記発明特定事項を具備しているか否かについて、全く把握することができない。

ウ 本件特許明細書の実施例においては、シール材に相当するPPSと無機フィラーの混合物の線膨張係数が1.8〜2.3×10−5/Kの場合に冷熱サイクル特性が○となることが示されているのみであり、シール材の線膨張係数が1.8×10−5/K未満の場合については明らかになっておらず、数値範囲の臨界的意義が明確ではない。加えて、上記発明特定事項との関係も明確ではない。

エ αL≦αS≦αHは、αL=αS=αHとなる場合(即ち、αL、αS及びαHが等しい場合)も含むものであり、かかる場合には「使用環境の温度変化によって金属部材が膨張収縮しても、シール材もそれに追従して膨張収縮しやすくなる。」(本件特許明細書の【0009】)との効果は得られないと考えられる。

(2)前記(1)アの主張について
本件特許明細書には、「本実施形態において、封口板60はアルミニウム製であり、負極端子部材50は銅製である。シール材70の線膨張係数は、銅の線膨張係数1.6×10−5/K以上、アルミニウムの線膨張係数2.3×10−5/K以下になるように調整されている。」(【0032】)との記載があり、加えて、「以下、好適な実施形態について実施例を挙げて説明するが、本発明をかかる実施例に限定することを意図したものではない。」(【0037】)との記載があるので、【0038】〜【0048】の実施例は、端子部材を構成する第一金属として線膨張係数1.6×10−5/Kの銅を想定し、封口板を構成する第二金属として線膨張係数2.3×10−5/Kのアルミニウムを想定していることが理解できる。
したがって、「第一金属及び第二金属に相当する部材の詳細が開示されておらず、これらの熱膨張係数も記載されていない」とする申立人の主張は採用できない。

(3)前記(1)イの主張について
請求人は、甲6に示されるアルミニウム合金の平均線膨張係数が1.84〜2.23×10−5/℃であり、甲7に示される銅合金の線膨張係数が1.62〜2.12×10−5/Kであることに言及しているが、本件発明の実施形態において想定されるのは、前記(2)のとおりであって、甲6や甲7に示される金属を用いるとは限らない。
仮に、甲6及び甲7に示される金属を使用するのだとしても、発明特定事項1Hにより、本件発明におけるシール材の線膨張係数は、使用するアルミニウム合金及び銅合金の線膨張係数により規定される範囲に入るから、前記3(1)の課題を解決できると認識できる。
したがって、申立人の主張は採用できない。

(4)前記(1)ウの主張について
本件発明1は、前記4のとおり、シール材の線膨張係数αSを、接合される封口板の線膨張係数α2と端子部材の線膨張係数α1との範囲内に調整することで、前記3(1)の課題を解決するものであり、本件特許明細書の【0032】には、シール材70の線膨張係数を1.6×10−5/K以上、2.3×10−5/K以下とする実施形態が記載されおり、「このように、シール材70の線膨張係数は、接合される封口板60の線膨張係数と負極端子部材50の線膨張係数の範囲内に調整されていることが好ましい。これによって、温度変化に伴って封口板60と負極端子部材50が膨張収縮した場合にも、シール材70はその膨張収縮に追従」し、「これによって、シール材70と封口板60が接合されている面およびシール材70と負極端子部材50が接合されている面に、剥離を生じにくくする」(本件明細書の【0033】)と記載されている。
前記記載から、シール材70の線膨張係数が前記範囲の外にある場合、シール材70が封口板60及び負極端子部材50の膨張収縮に追従できなくなるため、「乖離を生じにくくする」いう効果が期待できなくなると理解される。したがって、上記実施形態のシール材70の線膨張係数の上限及び下限の値は、封口板の線膨張係数及び端子部材の線膨張係数において、臨界的意義を有するものと認められる。
よって、本件特許明細書の実施例において、シール材の線膨張係数が1.8×10−5/K未満の場合の冷熱サイクル特性が示されていなくても、本件発明の数値範囲の臨界的意義が明確でないとはいえない。また、上記発明特定事項との関係が明確でないとも認められない。
したがって、申立人の主張は採用できない。

(5)前記(1)エの主張について
本件発明1は、前記4のとおり、シール材の線膨張係数αSを、接合される封口板の線膨張係数α2と端子部材の線膨張係数α1との範囲内に調整することで、前記3(1)の課題を解決するものであり、αL=αS=αHとなる場合、すなわち、シール材、封口板、及び端子部材の線膨張係数が等しい場合は、シール材の線膨張係数は、封口板の線膨張係数と端子部材の線膨張係数との範囲内になっているから、前記3(1)の課題を解決することができるものと認められる。
したがって、申立人の主張は採用できない。

(6)以上のとおり、前記(1)ア〜エのいずれについても、申立人の主張は採用できない。

第7 申立理由3についての判断
明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。

2 本件発明についての明確性要件の検討
(1)本件特許の請求項1は、前記第2のとおりであり、「ここで、前記シール材の25℃における線膨張係数値をαS、前記第一金属の25℃における線膨張係数をα1、前記第二金属の25℃における線膨張係数をα2、α1とα2のうち値の大きい方をαH、値の小さい方をαLとしたときに、αL≦αS≦αHを満たし、」との記載を含むものである。

(2)当該記載について、「前記シール材の25℃における線膨張係数値をαS、前記第一金属の25℃における線膨張係数をα1、前記第二金属の25℃における線膨張係数をα2」との記載によるαS、α1、及びα2の定義に不明確な点はなく、また、「α1とα2のうち値の大きい方をαH、値の小さい方をαLとしたときに」との記載によるαH及びαLの定義についても、不明確な点は見られない。また、「αL≦αS≦αHを満たし」とは、αSがαL以上、かつαSがαH以下であることを特定するものであり、記載自体に不明確な点はない。

(3)よって、前記(1)に挙げた本件特許の請求項1の記載は、不明確なものとは認められない。また、本件特許の請求項1、及び請求項2〜5について、前記(1)に挙げた記載以外についても、それ自体に不明確な記載はない。

(4)したがって、本件発明1〜5に関して、特許請求の範囲の記載は、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。

3 申立人の主張について
(1)申立人は、本件発明1では、「前記シール材の25℃における線膨張係数値をαS、前記第一金属の25℃における線膨張係数をα1、前記第二金属の25℃における線膨張係数をα2、α1とα2のうち値の大きい方をαH、値の小さい方をαLとしたときに、αL≦αS≦αHを満たし」と規定されているが、αL≦αS≦αHは、αL=αS=αHとなる場合(即ち、αL、αS及びαHが等しい場合)も含むものであり、かかる場合には「使用環境の温度変化によって金属部材が膨張収縮しても、シール材もそれに追従して膨張収縮しやすくなる。」(本件特許明細書の【0009】)との効果は得られないため、上記の規定による発明特定事項の技術的意義が明らかではないと主張している。(異議申立書第25頁)
しかしながら、前記2(1)〜(3)のとおり、本件特許の請求項1の「前記シール材の25℃における線膨張係数値をαS、前記第一金属の25℃における線膨張係数をα1、前記第二金属の25℃における線膨張係数をα2、α1とα2のうち値の大きい方をαH、値の小さい方をαLとしたときに、αL≦αS≦αHを満たし」との記載について、記載自体に不明確な点はない。
よって、本件発明1は明確であると認められる。
なお、本件発明1の技術的意義は、前記第6、4のとおり、シール材の線膨張係数αSを、接合される封口板の線膨張係数α2と端子部材の線膨張係数α1との範囲内に調整することで、前記第6、3(1)の課題を解決することであり、また、前記第6、5(5)のとおり、αL=αS=αHとなる場合についても、前記第6、3(1)の課題を解決することができるものと認められるから、その技術的意義が明らかでないとはいえない。
したがって、出願人の主張は採用できない。

第8 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1〜5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1〜5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2023-12-26 
出願番号 P2020-198151
審決分類 P 1 651・ 537- Y (H01M)
P 1 651・ 121- Y (H01M)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 高野 洋
特許庁審判官 稲葉 崇
丸山 高政
登録日 2023-04-12 
登録番号 7261784
権利者 トヨタ自動車株式会社 プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
発明の名称 蓋体および密閉型電池  
代理人 安部 誠  
代理人 天野 浩治  
代理人 山根 広昭  
代理人 大井 道子  

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