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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H05K 審判 査定不服 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明 取り消して特許、登録 H05K |
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管理番号 | 1407698 |
総通号数 | 27 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2024-03-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2023-06-14 |
確定日 | 2024-03-05 |
事件の表示 | 特願2019− 68671「素子内蔵基板およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年10月 8日出願公開、特開2020−167336、請求項の数(17)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成31年3月29日の出願であって、その手続の経緯の概要は以下のとおりである。 令和 4年 9月30日付け 拒絶理由通知書 11月24日 意見書・手続補正書 令和 5年 3月13日付け 拒絶査定 6月14日 審判請求書・手続補正書 8月 7日 前置報告書 以下では、令和5年3月13日付け拒絶査定を「原査定」といい、同年6月14日の手続補正書による補正を「本件補正」という。 第2 本件補正について 本件補正は適法になされたものと認められる。その理由は以下のとおりである。 1 本件補正の内容 本件補正は、請求項6及び12の記載を補正するものであり、その他の請求項の記載を変えていない。 (1)本件補正前の請求項6及び12の記載 本件補正前の令和4年11月24日の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項6及び12の記載は次のとおりである。なお、下線は本件補正で補正される箇所を示す。 「【請求項6】 第1支持基板の表面に、第1所定パターンの第1導体膜を形成する工程と、 一部の前記第1導体膜の上に、第1スルーホール電極となる第1導体ポストを形成する工程と、 前記第1導体ポストの頂面に、導体接続膜を形成する工程と、 他の一部の前記第1導体膜の上に、機能性フィラーと混合用樹脂粉とを塗布して原料粉を配置する工程と、 前記原料粉が配置された前記第1導体膜の上に、第1絶縁層を形成するための第1絶縁層用樹脂粉を塗布する工程と、 前記第1絶縁層用樹脂粉を、前記混合用樹脂粉と共に第1熱プレスして、第1基板ユニットを形成する工程と、 第2支持基板の表面に、第2所定パターンの第2導体膜を形成する工程と、 一部の前記第2導体膜の上に、第2スルーホール電極となる第2導体ポストを形成する工程と、 前記第2導体ポストが形成された前記第2導体膜の上に、第2絶縁層を形成するための第2絶縁層用樹脂粉を塗布する工程と、 前記第2絶縁層用樹脂粉を第2熱プレスして、第2基板ユニットを形成する工程と、 少なくとも前記第1基板ユニットと前記第2基板ユニットとを含む積層体を一括積層熱プレスして接合する工程と、を有し、 前記第1基板ユニットと前記第2基板ユニットとを含む積層体を熱プレスして接合する際に、前記第1基板ユニットの上に積層される別の基板ユニットの下面に形成してある導体膜に、前記導体接続膜が同時に接続され、 前記第1絶縁層用樹脂粉および前記第2絶縁層用樹脂粉は、融点が230〜360℃の熱可塑性樹脂粉末であり、 前記一括積層熱プレス時の温度が、前記第1絶縁層用樹脂粉および前記第2絶縁層用樹脂粉の融点以下の温度であり、前記導体接続膜の融点よりも高い素子内蔵基板の製造方法。 【請求項12】 第1支持基板の表面に、第1所定パターンの第1導体膜を形成する工程と、 一部の前記第1導体膜の上に、第1スルーホール電極となる第1導体ポストを形成する工程と、 他の一部の前記第1導体膜の上に、機能性フィラーと混合用樹脂粉とを塗布して原料粉を配置する工程と、 前記原料粉が配置された前記第1導体膜の上に、第1絶縁層を形成するための第1絶縁層用樹脂粉を塗布する工程と、 前記第1絶縁層用樹脂粉を、前記混合用樹脂粉と共に第1熱プレスして、第1基板ユニットを形成する工程と、 第2支持基板の表面に、第2所定パターンの第2導体膜を形成する工程と、 一部の前記第2導体膜の上に、第2スルーホール電極となる第2導体ポストを形成する工程と、 前記第2導体ポストの頂面に、導体接続膜を形成する工程と、 前記第2導体ポストが形成された前記第2導体膜の上に、第2絶縁層を形成するための第2絶縁層用樹脂粉を塗布する工程と、 前記第2絶縁層用樹脂粉を第2熱プレスして、第2基板ユニットを形成する工程と、 少なくとも前記第1基板ユニットと前記第2基板ユニットとを含む積層体を一括積層熱プレスして接合する工程と、を有し、 前記第1基板ユニットと前記第2基板ユニットとを含む積層体を熱プレスして接合する際に、前記第2基板ユニットの上に積層される別の基板ユニットの下面に形成してある導体膜に、前記導体接続膜が同時に接続され、 前記第1絶縁層用樹脂粉および前記第2絶縁層用樹脂粉は、融点が230〜360℃の熱可塑性樹脂粉末であり、 前記一括積層熱プレス時の温度が、前記第1絶縁層用樹脂粉および前記第2絶縁層用樹脂粉の融点以下の温度であり、前記導体接続膜の融点よりも高い素子内蔵基板の製造方法。」 (2)本件補正後の請求項6及び12の記載 本件補正後の特許請求の範囲の請求項6及び12の記載は、以下のとおりである。なお、下線は本件補正で補正された箇所を示す。 「【請求項6】 第1支持基板の表面に、第1所定パターンの第1導体膜を形成する工程と、 一部の前記第1導体膜の上に、第1スルーホール電極となる第1導体ポストを形成する工程と、 他の一部の前記第1導体膜の上に、機能性フィラーと混合用樹脂粉とを塗布して原料粉を配置する工程と、 前記原料粉が配置された前記第1導体膜の上に、第1絶縁層を形成するための第1絶縁層用樹脂粉を塗布する工程と、 前記第1絶縁層用樹脂粉を、前記混合用樹脂粉と共に第1熱プレスして、第1基板ユニットを形成する工程と、 前記第1導体ポストの頂面に、導体接続膜を形成する工程と、 第2支持基板の表面に、第2所定パターンの第2導体膜を形成する工程と、 一部の前記第2導体膜の上に、第2スルーホール電極となる第2導体ポストを形成する工程と、 前記第2導体ポストが形成された前記第2導体膜の上に、第2絶縁層を形成するための第2絶縁層用樹脂粉を塗布する工程と、 前記第2絶縁層用樹脂粉を第2熱プレスして、第2基板ユニットを形成する工程と、 少なくとも前記第1基板ユニットと前記第2基板ユニットとを含む積層体を一括積層熱プレスして接合する工程と、を有し、 前記第1基板ユニットと前記第2基板ユニットとを含む積層体を熱プレスして接合する際に、前記第1基板ユニットの上に積層される別の基板ユニットの下面に形成してある導体膜に、前記導体接続膜が同時に接続され、 前記第1絶縁層用樹脂粉および前記第2絶縁層用樹脂粉は、融点が230〜360℃の熱可塑性樹脂粉末であり、 前記一括積層熱プレス時の温度が、前記第1絶縁層用樹脂粉および前記第2絶縁層用樹脂粉の融点以下の温度であり、前記導体接続膜の融点よりも高い素子内蔵基板の製造方法。 【請求項12】 第1支持基板の表面に、第1所定パターンの第1導体膜を形成する工程と、 一部の前記第1導体膜の上に、第1スルーホール電極となる第1導体ポストを形成する工程と、 他の一部の前記第1導体膜の上に、機能性フィラーと混合用樹脂粉とを塗布して原料粉を配置する工程と、 前記原料粉が配置された前記第1導体膜の上に、第1絶縁層を形成するための第1絶縁層用樹脂粉を塗布する工程と、 前記第1絶縁層用樹脂粉を、前記混合用樹脂粉と共に第1熱プレスして、第1基板ユニットを形成する工程と、 第2支持基板の表面に、第2所定パターンの第2導体膜を形成する工程と、 一部の前記第2導体膜の上に、第2スルーホール電極となる第2導体ポストを形成する工程と、 前記第2導体ポストが形成された前記第2導体膜の上に、第2絶縁層を形成するための第2絶縁層用樹脂粉を塗布する工程と、 前記第2絶縁層用樹脂粉を第2熱プレスして、第2基板ユニットを形成する工程と、 前記第2導体ポストの頂面に、導体接続膜を形成する工程と、 少なくとも前記第1基板ユニットと前記第2基板ユニットとを含む積層体を一括積層熱プレスして接合する工程と、を有し、 前記第1基板ユニットと前記第2基板ユニットとを含む積層体を熱プレスして接合する際に、前記第2基板ユニットの上に積層される別の基板ユニットの下面に形成してある導体膜に、前記導体接続膜が同時に接続され、 前記第1絶縁層用樹脂粉および前記第2絶縁層用樹脂粉は、融点が230〜360℃の熱可塑性樹脂粉末であり、 前記一括積層熱プレス時の温度が、前記第1絶縁層用樹脂粉および前記第2絶縁層用樹脂粉の融点以下の温度であり、前記導体接続膜の融点よりも高い素子内蔵基板の製造方法。」 2 補正の目的 (1)本件補正前の請求項6は、「前記第1導体ポストの頂面に、導体接続膜を形成する工程と、」との記載が、「前記第1絶縁層用樹脂粉を、前記混合用樹脂粉と共に第1熱プレスして、第1基板ユニットを形成する工程と、」との記載よりも前に位置していたものを、本件訂正後においては、「前記第1導体ポストの頂面に、導体接続膜を形成する工程と、」との記載が、「前記第1絶縁層用樹脂粉を、前記混合用樹脂粉と共に第1熱プレスして、第1基板ユニットを形成する工程と、」との記載よりも後に位置するように変更された。 同様に、本件補正前の請求項12は、「前記第2導体ポストの頂面に、導体接続膜を形成する工程と、」との記載が、「前記第2絶縁層用樹脂粉を第2熱プレスして、第2基板ユニットを形成する工程と、」との記載よりも前に位置していたものを、本件補正後においては、「前記第2導体ポストの頂面に、導体接続膜を形成する工程と、」との記載が、「前記第2絶縁層用樹脂粉を第2熱プレスして、第2基板ユニットを形成する工程と、」との記載よりも後に位置するように変更された。 (2)請求項6及び12の記載は、本件補正の前後に関わらず、各工程が実行される順序について明記はないため、各工程が実行される順序は、請求項6及び12に記載された各工程において行われる加工の内容と、本件明細書の記載内容から前後関係を判断する必要がある。 本件補正前の請求項6において、先に記載された「前記第1導体ポストの頂面に、導体接続膜を形成する工程」と、後に記載された「前記第1絶縁層用樹脂粉を、前記混合用樹脂粉と共に第1熱プレスして、第1基板ユニットを形成する工程」との実行順序は、本願明細書【0070】及び【0074】の記載を参照すれば、前者が後の工程で、後者が前の工程である、すなわち、請求項6での記載の順序とは逆だと理解されるものである。請求項12についても同様である。 そして、本件補正後の請求項6においては、請求項での記載の順序と、工程の実行順序とが整合している。請求項12についても同様である。 よって、本件補正前では、請求項6及び12の記載のみからでは各工程の実行順序が明りようではなく、本願明細書に記載の実行順序と逆であると解し得たところ、本件補正により、請求項6及び12の記載のみによっても、その記載順序が各工程の実行順序と整合するので、各工程の実行順序を明りように理解できるようになる。 (3)そして、本件補正は、原査定において「<拒絶理由が解消されているか否かについての判断を行っていない請求項>」の項目において、「令和4年11月24日付け手続補正書において、…(略)…「前記第1導体ポストの頂面に、導体接続膜を形成する工程」が「前記第1絶縁層用樹脂粉を、前記混合用樹脂粉と共に第1熱プレスして、第1基板ユニットを形成する工程」より前に行われる構成と、「前記第2導体ポストの頂面に、導体接続膜を形成する工程」が「前記第2絶縁層用樹脂粉を第2熱プレスして、第2基板ユニットを形成する工程」より前に行われる構成は、いずれも出願当初の明細書、請求項、及び図面に記載されたものではない。」(2頁)と指摘されたことを受けて、本願明細書【0070】及び【0074】の記載に合わせて順序を修正したものと認められる。 上記指摘は、本件補正前の請求項6及び12の記載のみからは各工程の実行順序が明りようでないこと起因する誤解があり得ることを考慮して、該誤解に基づけば、本件補正前の令和4年11月24日の手続補正書による補正が、特許法17条の2第3項の規定に違反するという拒絶理由の存在を実質的に通知したものと解される。 (4)前記(1)〜(3)によれば、本件補正は、特許法17条の2第5項4号に規定する「明りようでない記載の釈明」を目的とすると認められる。 3 補正要件の適否 前記2(4)のとおり、本件補正の目的は、特許法17条の2第5項4号に該当する。 前記2(3)に示したように、本件補正の内容は、本願明細書【0070】及び【0074】(本願の出願当初のものと同じ)に記載された内容であるから、本件補正は特許法17条の2第3項の要件を満たす。 本件補正が特許法17条の2第4項の要件を満たすことは明らかである。 前記2(4)のとおりであるから、本件補正の目的は、特許法17条の2第6項における「前項第2号の場合」に該当しないため、同法126条7項の規定は準用されない。 以上によれば、本件補正は適法になされたものである。 第3 本願発明 本件補正は適法になされたものであるから、本願の請求項1〜17に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」〜「本願発明17」という。)は、本件補正後の特許請求の範囲に記載される以下のとおりのものである(請求項6及び12は、前記第2、1(2)の再掲)。 なお、本願発明1についてのみ、後の参照の便宜のため、請求項1の記載を以下のようにA1〜Hに分説し、「発明特定事項A1」のようにして参照する。 【請求項1】 A1 基板本体と、 A2 前記基板本体の内部または表面に形成してある導体配線層と、 A3 前記導体配線層の一部に接触するように、前記基板本体の内部に形成される素子形成層と、 A を有する素子内蔵基板であって、 B 前記素子形成層が、素子を形成するための機能性フィラーが内部に分散してある絶縁領域で構成してあり、 C 前記基板本体が、少なくとも一つの絶縁層を有し、 D 前記絶縁層の樹脂は熱可塑性樹脂で構成してあり、 E 前記基板本体は、前記絶縁層を貫通するスルーホール電極を有し、 F 前記スルーホール電極と前記導体配線層との間には、導体接続膜が介在してあり、 G 前記絶縁層を構成する樹脂の融点よりも、前記導体接続膜の融点が低い H 素子内蔵基板。 【請求項2】 前記絶縁領域を構成する樹脂は、熱可塑性の樹脂であって、前記基板本体を構成する樹脂の融点と実質的に同一の融点を有する樹脂で構成してある請求項1に記載の素子内蔵基板。 【請求項3】 前記機能性フィラーが、磁性体フィラーまたは誘電体フィラーである請求項1または2に記載の素子内蔵基板。 【請求項4】 前記基板本体が、少なくとも一つの絶縁層を有する請求項1〜3のいずれかに記載の素子内蔵基板。 【請求項5】 前記基板本体を形成する樹脂は液晶ポリマーである請求項1〜4のいずれかに記載の素子内蔵基板。 【請求項6】 第1支持基板の表面に、第1所定パターンの第1導体膜を形成する工程と、 一部の前記第1導体膜の上に、第1スルーホール電極となる第1導体ポストを形成する工程と、 他の一部の前記第1導体膜の上に、機能性フィラーと混合用樹脂粉とを塗布して原料粉を配置する工程と、 前記原料粉が配置された前記第1導体膜の上に、第1絶縁層を形成するための第1絶縁層用樹脂粉を塗布する工程と、 前記第1絶縁層用樹脂粉を、前記混合用樹脂粉と共に第1熱プレスして、第1基板ユニットを形成する工程と、 前記第1導体ポストの頂面に、導体接続膜を形成する工程と、 第2支持基板の表面に、第2所定パターンの第2導体膜を形成する工程と、 一部の前記第2導体膜の上に、第2スルーホール電極となる第2導体ポストを形成する工程と、 前記第2導体ポストが形成された前記第2導体膜の上に、第2絶縁層を形成するための第2絶縁層用樹脂粉を塗布する工程と、 前記第2絶縁層用樹脂粉を第2熱プレスして、第2基板ユニットを形成する工程と、 少なくとも前記第1基板ユニットと前記第2基板ユニットとを含む積層体を一括積層熱プレスして接合する工程と、を有し、 前記第1基板ユニットと前記第2基板ユニットとを含む積層体を熱プレスして接合する際に、前記第1基板ユニットの上に積層される別の基板ユニットの下面に形成してある導体膜に、前記導体接続膜が同時に接続され、 前記第1絶縁層用樹脂粉および前記第2絶縁層用樹脂粉は、融点が230〜360℃の熱可塑性樹脂粉末であり、 前記一括積層熱プレス時の温度が、前記第1絶縁層用樹脂粉および前記第2絶縁層用樹脂粉の融点以下の温度であり、前記導体接続膜の融点よりも高い素子内蔵基板の製造方法。 【請求項7】 前記第1絶縁層用樹脂粉と、前記第2絶縁層用樹脂粉と、前記混合用樹脂粉とが、実質的に同一の樹脂融点を有し、 前記導体接続膜の接続膜融点が、前記導体膜の導体膜融点よりも低い請求項6に記載の素子内蔵基板の製造方法。 【請求項8】 前記絶縁層用樹脂粉が液晶ポリマーである請求項6または7に記載の素子内蔵基板の製造方法。 【請求項9】 前記絶縁層用樹脂粉の塗布と、前記機能性フィラーおよび前記混合用樹脂粉の塗布は、静電印刷法にて行われる請求項6〜8のいずれかに記載の素子内蔵基板の製造方法。 【請求項10】 前記第1熱プレス時の温度が、前記第1絶縁層用樹脂粉の融点より高く熱分解温度よりも低いと共に、前記混合用樹脂粉の融点よりも高く熱分解温度よりも低く、 前記第2熱プレス時の温度が、前記第2絶縁層用樹脂粉の融点より高く熱分解温度よりも低い請求項7〜9のいずれかに記載の素子内蔵基板の製造方法。 【請求項11】 請求項7〜10のいずれかに記載の素子内蔵基板の製造方法により製造される素子内蔵基板。 【請求項12】 第1支持基板の表面に、第1所定パターンの第1導体膜を形成する工程と、 一部の前記第1導体膜の上に、第1スルーホール電極となる第1導体ポストを形成する工程と、 他の一部の前記第1導体膜の上に、機能性フィラーと混合用樹脂粉とを塗布して原料粉を配置する工程と、 前記原料粉が配置された前記第1導体膜の上に、第1絶縁層を形成するための第1絶縁層用樹脂粉を塗布する工程と、 前記第1絶縁層用樹脂粉を、前記混合用樹脂粉と共に第1熱プレスして、第1基板ユニットを形成する工程と、 第2支持基板の表面に、第2所定パターンの第2導体膜を形成する工程と、 一部の前記第2導体膜の上に、第2スルーホール電極となる第2導体ポストを形成する工程と、 前記第2導体ポストが形成された前記第2導体膜の上に、第2絶縁層を形成するための第2絶縁層用樹脂粉を塗布する工程と、 前記第2絶縁層用樹脂粉を第2熱プレスして、第2基板ユニットを形成する工程と、 前記第2導体ポストの頂面に、導体接続膜を形成する工程と、 少なくとも前記第1基板ユニットと前記第2基板ユニットとを含む積層体を一括積層熱プレスして接合する工程と、を有し、 前記第1基板ユニットと前記第2基板ユニットとを含む積層体を熱プレスして接合する際に、前記第2基板ユニットの上に積層される別の基板ユニットの下面に形成してある導体膜に、前記導体接続膜が同時に接続され、 前記第1絶縁層用樹脂粉および前記第2絶縁層用樹脂粉は、融点が230〜360℃の熱可塑性樹脂粉末であり、 前記一括積層熱プレス時の温度が、前記第1絶縁層用樹脂粉および前記第2絶縁層用樹脂粉の融点以下の温度であり、前記導体接続膜の融点よりも高い素子内蔵基板の製造方法。 【請求項13】 前記第1絶縁層用樹脂粉と、前記第2絶縁層用樹脂粉と、前記混合用樹脂粉とが、実質的に同一の樹脂融点を有し、 前記導体接続膜の接続膜融点が、前記導体膜の導体膜融点よりも低い請求項12に記載の素子内蔵基板の製造方法。 【請求項14】 前記絶縁層用樹脂粉が液晶ポリマーである請求項12または13に記載の素子内蔵基板 の製造方法。 【請求項15】 前記絶縁層用樹脂粉の塗布と、前記機能性フィラーおよび前記混合用樹脂粉の塗布は、静電印刷法にて行われる請求項12〜14のいずれかに記載の素子内蔵基板の製造方法。 【請求項16】 前記第1熱プレス時の温度が、前記第1絶縁層用樹脂粉の融点より高く熱分解温度よりも低いと共に、前記混合用樹脂粉の融点よりも高く熱分解温度よりも低く、 前記第2熱プレス時の温度が、前記第2絶縁層用樹脂粉の融点より高く熱分解温度よりも低い請求項12〜15のいずれかに記載の素子内蔵基板の製造方法。 【請求項17】 請求項12〜16のいずれかに記載の素子内蔵基板の製造方法により製造される素子内蔵基板。 第4 原査定の概要 原査定の概要は、以下のとおりである。 (進歩性)この出願の下記の請求項1〜5に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された文献1に記載された発明及び文献2に示される周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 文献1.特開2003−332749号公報 文献2.国際公開第2018/216597号 第5 引用文献の記載内容 1 引用文献1の記載内容 原査定の拒絶の理由で引用された特開2003−332749号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の(1)の記載があり、該記載により以下の(2)が認められる。なお、下線は強調のために当審で付した(以下同様)。 (1)引用文献1の記載 引用文献1には、以下の記載がある。 ア 「【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。 【0044】図1は、本実施形態における受動素子内蔵基板の製造工程を示す工程別断面図である。 【0045】図1(a)において、21は、絶縁基材である樹脂フィルム23の片面に貼着された導体箔(本例では厚さ18μmの銅箔)をエッチングによりパターン形成した導体パターン22を有する片面導体パターンフィルムである。本例では、樹脂フィルム23としてポリエーテルエーテルケトン樹脂65〜35重量%とポリエーテルイミド樹脂35〜65重量%とからなる厚さ75μmの熱可塑性樹脂フィルムを用いている。そして、導体箔は、この樹脂フィルム23に、接着材を用いることなく、加熱により溶着される。 【0046】図1(a)に示すように、導体パターン22の形成が完了すると、次に、図1(b)に示すように、樹脂フィルム23側から炭酸ガスレーザを照射して、導体パターン22を底面とする有底ビアホールであるビアホール24を形成する。ビアホール24の形成は、炭酸ガスレーザの出力と照射時間等を調整することで、導体パターン22に穴を開けないようにしている。ビアホール24の径は、50〜100μmである。 【0047】図1(b)に示すように、ビアホール24の形成が完了すると、次に、図1(c)に示すように、ビアホール24内に層間接続材料となる導電ペースト50を充填する。導電ペースト50は、平均粒径5μm、比表面積0.5m2/gの錫粒子300gと、平均粒径1μm、比表面積1.2m2/gの銀粒子300gとに、有機溶剤であるテルピネオール60gにエチルセルロース樹脂6gを溶解したものを加え、これをミキサーによって混練しペースト化したものである。」 イ 「【0055】次に、図1(d)に示すように、片面導体パターンフィルム21,21a,21bを複数枚(本例では5枚)積層する。 【0056】このとき、積層されるすべての片面導体パターンフィルム21,21a,21bは導体パターン22が設けられた側を上側として積層する。すなわち、片面導体パターンフィルム21,21a,21bは、導体パターン22が形成された面と導体パターン22が形成されていない面とが向かい合うように積層される。 【0057】ここで、本実施形態においては、積層される片面導体パターンフィルム21の内、1層の片面導体パターンフィルム21aの両側において、一対の導体パターン22a、22bが対向して配置されるように、片面導体パターンフィルム21a、21b上の導体箔がそれぞれパターン形成される。 【0058】上述したように、本実施形態においては、樹脂フィルム23がポリエーテルエーテルケトン樹脂とポリエーテルイミド樹脂とから構成されている。この樹脂フィルム23の誘電率は3.3である。従って、樹脂フィルム23の両側に一対の導体パターン22a、22bを対向して配置することにより、樹脂フィルム23を誘電体とし、かつ一対の導体パターン22a、22bを電極とするコンデンサを形成することができる。」 ウ 「【0062】図1(d)に示すように片面導体パターンフィルム21、21a,21bを積層したら、これらの上下両面から図示しない真空加熱プレス機により加熱しながら加圧する。本例では、250〜350℃の温度に加熱しつつ、1〜10MPaの圧力で10〜20分間加圧した。 【0063】これにより、図1(e)に示すように、各片面導体フィルムパターン21、21a,21bの樹脂フィルム23が塑性変形し、相互に接着される。樹脂フィルム23は全て同じ熱可塑性樹脂材料によって形成されているので、容易に熱融着して一体化した絶縁基材39となる。 【0064】さらに、ビアホール24内の導電ペースト50が焼結して一体化した導電性組成物51となるとともに、さらに隣接する導体パターン22と拡散接合する。これにより、隣接する導体パターン21同士の層間接続が行なわれる。このような工程を経て、一対の導電パターン22a、22bと樹脂フィルム23とによって構成されるコンデンサ30を内蔵した多層基板100が得られる。 【0065】ここで、導体パターン22の層間接続のメカニズムを簡単に説明する。ビアホール24内に充填され乾燥された導電ペースト50は、錫粒子と銀粒子とが混合された状態にある。そして、このペースト50が250〜350℃に加熱されると、錫粒子の融点は232℃であり、銀粒子の融点は961℃であるため、錫粒子は融解し、銀粒子の外周を覆うように付着する。 【0066】この状態で加熱が継続すると、融解した錫は、銀粒子の表面から拡散を始め、錫と銀との合金(融点480℃)を形成する。このとき、導電ペースト50には1〜10MPaの圧力が加えられているため、錫と銀との合金形成に伴い、ビアホール24内には、焼結により一体化した合金からなる導電性組成物51が形成される。 【0067】ビアホール24内で導電性組成物51が形成されているときには、この導電性組成物51は加圧されているため、導体パターン22のビアホール24の底部を構成している面に圧接される。これにより、導電性組成物51中の錫成分と、導体パターン22を構成する銅箔の銅成分とが相互に固相拡散し、導電性組成物51と導体パターン22との界面に固相拡散層を形成して電気的に接続する。」 エ 「【0074】コンデンサを構成する樹脂フィルムの誘電率を大きくするには、例えば、コンデンサを構成する樹脂フィルムのみに、チタン酸バリウム、チタン酸鉛、タングステン酸バリウム等の粉末(フィラー)を混入させれば良い。このようにして、樹脂フィルムの誘電率を4以上に高めると、多層基板に内蔵されるコンデンサとして、大容量のコンデンサを形成することができる。」 オ 図1 図1によれば、樹脂フィルム23上に形成された導体パターン22は、絶縁基材39の表面にあり、導体パターン22a及び22bは、絶縁基材39の内部にある。 (2)引用発明の認定 前記(1)の記載によれば、引用文献1には次の発明(以下、これを「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお、後の参照の便宜のため、引用発明を以下のように1a〜1jに分説し、「構成a」のようにして参照する。 1a 受動素子内蔵基板であって、(【0044】) 1b 絶縁基材である樹脂フィルム23の片面にパターン形成した導体パターン22を有する片面導体パターンフィルム21を有し、樹脂フィルム23として熱可塑性樹脂フィルムを用い、(【0045】) 1c 樹脂フィルム23側から炭酸ガスレーザを照射して、導体パターン22を底面とする有底ビアホールであるビアホール24を形成し、(【0046】) 1d ビアホール24内に層間接続材料となる導電ペースト50を充填し、導電ペースト50は、錫粒子と銀粒子とに、有機溶剤にエチルセルロース樹脂を溶解したものを加え、ペースト化したものであり、(【0047】) 1e 片面導体パターンフィルム21,21a,21bを複数枚積層し、(【0055】)、 1f 樹脂フィルム23の両側に一対の導体パターン22a、22bを対向して配置することにより、樹脂フィルム23を誘電体とし、かつ一対の導体パターン22a、22bを電極とするコンデンサを形成し、(【0058】) 1g コンデンサを構成する樹脂フィルムのみにフィラーを混入させ、樹脂フィルムの誘電率を4以上に高め、(【0074】) 1h 片面導体パターンフィルム21、21a,21bを積層したら、これらの上下両面から真空加熱プレス機により、250〜350℃の温度に加熱しつつ、1〜10MPaの圧力で10〜20分間加圧し、(【0062】) 1h1 これにより、各片面導体フィルムパターン21、21a,21bの樹脂フィルム23が塑性変形し、相互に接着され、熱融着して一体化した絶縁基材39となり、(【0063】) 1h2 ビアホール24内に充填された導電ペースト50は、250〜350℃に加熱されると、錫粒子の融点は232℃であり、銀粒子の融点は961℃であるため、錫粒子は融解し、銀粒子の外周を覆うように付着し、この状態で加熱が継続すると、融解した錫は、銀粒子の表面から拡散を始め、錫と銀との合金(融点480℃)を形成し、このとき、導電ペースト50には1〜10MPaの圧力が加えられているため、錫と銀との合金形成に伴い、ビアホール24内には、焼結により一体化した合金からなる導電性組成物51が形成され、ビアホール24内で導電性組成物51が形成されているときには、この導電性組成物51は加圧されているため、導体パターン22のビアホール24の底部を構成している面に圧接され、これにより、導電性組成物51中の錫成分と、導体パターン22を構成する銅箔の銅成分とが相互に固相拡散し、導電性組成物51と導体パターン22との界面に固相拡散層を形成して電気的に接続し、(【0065】〜【0067】) 1i 樹脂フィルム23上に形成された導体パターン22は、絶縁基材39の表面にあり、導体パターン22a及び22bは、絶縁基材39の内部にある、(図1) 1j 受動素子内蔵基板。 2 引用文献2の記載内容 原査定の拒絶の理由で周知技術を示すために引用された国際公開第2018/216597号(以下「引用文献2」という。)には、以下の(1)の記載があり、該記載により以下の(2)が認められる。 (1)引用文献2の記載 引用文献2には、以下の記載がある。 ア 「[0038] <多層配線基板> 図1は、本発明の多層配線基板の一例を模式的に示す断面図である。 図1には全体的な構成が示されていないが、多層配線基板1は、少なくとも、第1の絶縁層11と、第1の絶縁層11に積層された第2の絶縁層12とを備えている。第1の絶縁層11及び第2の絶縁層12の内部には、それぞれビア導体21及び22が設けられている。ビア導体21とビア導体22とは導電性の接合層31によって接合されている。図1に示す多層配線基板1では、第1の絶縁層11及び第2の絶縁層12が、いずれも1層から構成されている。」 イ 「[0041] 図1に示す多層配線基板1は、さらに、第1の絶縁層11に積層された第3の絶縁層13を備えている。第3の絶縁層13側の第1の絶縁層11の表面には導体配線層41が設けられており、第3の絶縁層13の内部にはビア導体23が設けられている。導体配線層41とビア導体23とは導電性の接合層32によって接合されている。」 ウ 「[0060] (絶縁層) 第1の絶縁層、第2の絶縁層及び第3の絶縁層等の絶縁層は、例えば、電気絶縁性を有する板状又はフィルム状の樹脂シートからなる。樹脂シートを構成する樹脂は、熱可塑性樹脂でも熱硬化性樹脂でもよいが、熱可塑性樹脂であることが好ましい。熱可塑性樹脂からなる樹脂シートを用いると、接着層を介さずに絶縁層同士を接合させることができる。」 エ 「[0063] (導体配線層) 導体配線層は、絶縁層の主面方向に実質的に平行に設けられている。 導体配線層としては、公知の配線基板に用いられる導体配線層を使用することができる。導体配線層の材料としては、例えば、銅(Cu)、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、ステンレス(SUS)、ニッケル(Ni)、金(Au)、及び、これらの合金等を用いることができる。これらの中では、銅(Cu)が特に好ましい。また、導体配線層は、導体箔からなることが好ましく、銅箔からなることが特に好ましい。」 オ 「[0069] (接合層) 接合層は、後述する各実施形態で説明する導電性ペーストを用いて形成することが好ましい。 本発明の多層配線基板において、基板全体のサイズは特に限定されないが、基板全体の厚さは、基板全体の幅よりも大きくてもよい。」 カ 「[0079] <多層配線基板の製造方法> 以下、本発明の多層配線基板の製造方法の一例について説明する。 本発明の多層配線基板の製造方法は、例えば、一方の表面から他方の表面まで貫通するビアホールを有する絶縁シートを準備する工程と、上記絶縁シートの上記ビアホール内にビア導体を形成する工程と、上記ビア導体が形成された上記絶縁シートを含む複数枚の絶縁シートを積層し、熱処理によって一括圧着する工程と、を備え、上記ビア導体は、導電性ペーストを用いて形成される導電性ペースト層を介して、他の絶縁シートに形成されたビア導体又は導体配線層と接合され、上記導電性ペースト層の最大径は、上記絶縁シートの表面に露出している上記ビア導体の最大径よりも大きい。 [0080] 図6A、図6B、図6C、図6D、図6E、図6F及び図6Gは、図1に示す多層配線基板の製造方法の一例を模式的に示す断面図である。 [0081] (絶縁シートを準備する工程) 図6Aに示すように、一方の表面に導体箔141が貼り付けられ、他方の表面に保護フィルム151が貼り付けられた絶縁シート111を準備する。絶縁シートは、第1の絶縁層等の絶縁層となるものである。」 キ 「[0090] (ビア導体を形成する工程) 図6Cに示すように、絶縁シート111のビアホール111a内にビア導体21を形成する。 [0091] 例えば、銅箔を一方の電極とした電気めっきにより、ビアホール内にめっきビア導体を形成する。ビア導体を構成する金属は、めっき可能な金属であれば特に限定されないが、銅(Cu)が最も好ましい。」 ク 「[0094] (導電性ペースト層を形成する工程) 図6D及び図6Eに示すように、ビア導体21上に導電性ペーストを塗布することにより、表面に露出しているビア導体21の最大径よりも大きい最大径を有する導電性ペースト層131を形成する。」 ケ 「[0098] (絶縁シートを積層し、一括圧着する工程) このようにしてビア導体及び導電性ペースト層が形成された絶縁シートを複数枚積層し、熱処理によって一括圧着する。図6Fでは、ビア導体21及び導電性ペースト層131が形成された絶縁シート111を含む4枚の絶縁シートを積層している。積層後、熱処理によって圧着することにより、絶縁シートが絶縁層となるとともに、導電性ペースト層が接合層となる。その結果、図6Gに示すように、図1に示す多層配線基板1が得られる。」 コ 「[0110] [第1実施形態] 本発明の第1実施形態では、接合層を形成するために用いる導電性ペーストは、Sn又はSn合金からなる金属粉末と、Cu−Ni合金又はCu−Mn合金からなる金属粉末とを含有する。 [0111] 図11A、図11B及び図11Cは、本発明の第1実施形態に係る導電性ペーストを用いて接合層を形成する場合の挙動を模式的に示す図である。 [0112] 図11Aは加熱前の状態を示しており、Sn又はSn合金61からなる金属粉末と、Cu−Ni合金又はCu−Mn合金62からなる金属粉末とを含有する導電性ペーストが、ビア導体21とビア導体22との間に配置されている。この状態で加熱し、導電性ペーストの温度がSn又はSn合金61の融点以上に達すると、図11Bに示すように、Sn又はSn合金61が溶融する。さらに加熱が続くと、図11Cに示すように、Sn又はSn合金61とCu−Ni合金又はCu−Mn合金62とが反応して金属間化合物63(例えば(Cu,Ni)6Sn5、(Cu,Mn)6Sn5、(Cu,Ni)3Sn、(Cu,Mn)3Sn等)が生成する。また、金属間化合物63は、Sn又はSn合金61とビア導体21又は22を構成するCu等と反応することによっても生成する(例えばCu6Sn5、Cu3Sn等)。 Sn又はSn合金からなる金属粉末と、Cu−Ni合金又はCu−Mn合金からなる金属粉末とを含有する導電性ペーストが導体配線層とビア導体との間に配置された場合においても、上記と同様の反応が起こり、金属間化合物が生成する。 [0113] 以上より、本発明の第1実施形態においては、金属間化合物を含む接合層を介してビア導体同士、又は、導体配線層とビア導体とが接合される。 [0114] 本発明の第1実施形態に係る導電性ペーストとしては、例えば、特許第5146627号公報に記載された導電性ペースト等を用いることができる。 [0115] 導電性ペーストに含有されるSn又はSn合金としては、例えば、Sn単体、又は、Cu、Ni、Ag、Au、Sb、Zn、Bi、In、Ge、Al、Co、Mn、Fe、Cr、Mg、Mn、Pd、Si、Sr、Te及びPからなる群より選ばれる少なくとも1種とSnとを含む合金等が挙げられる。Sn合金は、Snを70重量%以上含有することが好ましく、85重量%以上含有することがより好ましい。 [0116] 導電性ペーストに含有されるCu−Ni合金中のNiの比率は、10重量%以上15重量%以下であることが好ましい。また、Cu−Mn合金中のMnの比率は、10重量%以上15重量%以下であることが好ましい。これにより、所望の金属間化合物を生成するのに必要十分なNi又はMnを供給することができる。Cu−Ni合金中のNiの比率及びCu−Mn合金中のMnの比率が10重量%未満である場合、Snの一部が金属間化合物とならずに残留しやすくなる。また、Cu−Ni合金中のNiの比率及びCu−Mn合金中のMnの比率が15重量%を超える場合も、Snの一部が金属間化合物とならずに残留しやすくなる。 [0117] なお、Cu−Ni合金又はCu−Mn合金は、Mn及びNiを同時に含んでいてもよく、また、P等の第3成分を含んでいてもよい。」 サ 「[0133] 本発明の第1実施形態に係る多層配線基板の製造方法において、複数枚の絶縁シートを圧着する工程では、熱処理の温度は、少なくとも一定時間、230℃以上に達することが好ましい。熱処理の温度が230℃に達しない場合には、Sn(融点:232℃)が溶融状態とならず、金属間化合物を生成することができない。また、熱処理の最高温度は、350℃以下であることが好ましい。熱処理の最高温度が350℃を超えると、絶縁シートを構成する液晶ポリマー(LCP)等の樹脂が流れ出してしまう虞がある。」 シ 「[0146] 本発明の第1実施形態においては、各層のビア導体同士、及び、導体配線層とビア導体とが接合層を介して電気的に接続されているため、低抵抗となる。 [0147] さらに、各層のビア導体同士の間、及び、導体配線層とビア導体との間に金属間化合物層が形成され、化学的物理的に接続されている。接合層の融点は400℃以上(例えば430℃程度)となっているため、高温高湿試験、ヒートサイクル等の環境試験による劣化を抑制することができる。」 ス 図6 セ 図11 (2)文献2技術の認定 前記(1)の記載によれば、引用文献2には次の技術(以下、これを「文献2技術」という。)が記載されていると認められる。なお、後の参照の便宜のため、文献2技術を以下のように2a〜2oに分説し、「構成2a」のようにして参照する。 2a 多層配線基板であって、([0038]) 2b 多層配線基板1は、少なくとも、第1の絶縁層11と、第1の絶縁層11に積層された第2の絶縁層12とを備え、さらに、第1の絶縁層11に積層された第3の絶縁層13を備え、([0038]、[0041]) 2c 第1の絶縁層、第2の絶縁層及び第3の絶縁層等の絶縁層は樹脂シートからなり、樹脂シートを構成する樹脂は、熱可塑性樹脂であり、([0060]) 2d 一方の表面に導体箔141が貼り付けられ、他方の表面に保護フィルム151が貼り付けられた絶縁シート111を準備し、絶縁シートは、第1の絶縁層等の絶縁層となるものであり、([0081]) 2e 導体配線層は、導体箔からなり、([0063]) 2f 絶縁シート111のビアホール111a内にビア導体21を形成し、例えば、銅箔を一方の電極とした電気めっきにより、ビアホール内にめっきビア導体を形成し、([0090]、[0091]) 2g 上記ビア導体は、導電性ペーストを用いて形成される導電性ペースト層を介して、他の絶縁シートに形成された導体配線層と接合され、([0079]) 2h 接合層は、導電性ペーストを用いて形成し、ビア導体21上に導電性ペーストを塗布することにより、導電性ペースト層131を形成し、([0069]、[0094]) 2i 絶縁シート111を含む4枚の絶縁シートを積層し、積層後、熱処理によって圧着することにより、絶縁シートが絶縁層となるとともに、導電性ペースト層が接合層となり、その結果、多層配線基板1が得られ、([0098]) 2j 接合層を形成するために用いる導電性ペーストは、Snからなる金属粉末と、Cu−Ni合金又はCu−Mn合金からなる金属粉末とを含有し、([0110]) 2k 導電性ペーストの温度がSnの融点以上に達すると、Snが溶融し、さらに加熱が続くと、SnとCu−Ni合金又はCu−Mn合金62とが反応して金属間化合物63が生成し、([0112]) 2l 金属間化合物層が形成され、接合層の融点は400℃以上(例えば430℃程度)となり、([0147]) 2m 複数枚の絶縁シートを圧着する工程では、熱処理の温度は、少なくとも一定時間、230℃以上に達することが好ましく、熱処理の温度が230℃に達しない場合には、Sn(融点:232℃)が溶融状態とならず、金属間化合物を生成することができず、また、熱処理の最高温度は、350℃以下であることが好ましく、熱処理の最高温度が350℃を超えると、絶縁シートを構成する樹脂が流れ出してしまう虞があり、([0133]) 2o 多層配線基板。 第6 本願発明1と引用発明との対比 本願発明1と引用発明とを対比すると、以下のとおりである。 1 発明特定事項A1及びCについて 引用発明の「絶縁基材である樹脂フィルム23」(構成1b)は、本願発明1の「少なくとも一つの絶縁層」に相当する。 引用発明において「熱融着して一体化した絶縁基材39」(構成1h1)は、本願発明1の「基板本体」に相当する。 よって、本願発明1と引用発明とは、「基板本体」を有し、「前記基板本体が、少なくとも一つの絶縁層を有」する点で一致する。 2 発明特定事項A2について 引用発明の「導体パターン22a及び22b」は、「絶縁基材39」の内部にある(構成1i)から、本願発明1の「前記基板本体の内部」「に形成してある導体配線層」に相当する。 また、引用発明の「導体パターン22」は、「絶縁基材39」の表面にある(構成1i)から、本願発明1の「前記基板本体の」「表面に形成してある導体配線層」に相当する。 よって、本願発明1と引用発明とは、「前記基板本体の内部または表面に形成してある導体配線層」を有する点で一致する。 3 発明特定事項A3について 引用発明は、「樹脂フィルム23の両側に一対の導体パターン22a、22bを対向して配置することにより、樹脂フィルム23を誘電体とし、かつ一対の導体パターン22a、22bを電極とするコンデンサを形成」する(構成1f)ことで「コンデンサを構成する樹脂フィルム」(構成1g)を有するから、引用発明の「コンデンサを構成する樹脂フィルム」は、本件発明の「素子形成層」に相当するものであって、「導体パターン22a、22b」と接触している。 よって、本願発明1と引用発明とは、「前記導体配線層の一部に接触するように、前記基板本体の内部に形成される素子形成層」を有する点で一致する。 4 発明特定事項A及びHについて 引用発明は「受動素子内蔵基板」であるから、本願発明1の「素子内蔵基板」に相当する。 そして、引用発明の「受動素子内蔵基板」が「絶縁基材39」、「導体パターン22、22a、22b」及び「コンデンサを構成する樹脂フィルム」を備えることは、前記1〜3により明らかであるから、本願発明1と引用発明とは、基板本体と導体配線層と素子形成層と「を有する素子内蔵基板であ」る点で一致する。 5 発明特定事項Bについて 引用発明では「コンデンサを構成する樹脂フィルムのみにフィラーを混入させ、樹脂フィルムの誘電率を4以上に高め」る(構成1g)から、該「フィラー」は、「誘電率を4以上に高め」るという機能を有しているから、機能性フィラーといえる。 また、「樹脂フィルムのみにフィラーを混入」させると、「樹脂フィルム」の内部に「機能性フィラー」が分散することは明らかである。 よって、本願発明1と引用発明とは、「前記素子形成層が、素子を形成するための機能性フィラーが内部に分散してある絶縁領域で構成してあ」る点で一致する。 6 発明特定事項Dについて 引用発明の「樹脂フィルム23」は「熱可塑性樹脂フィルム」である(構成1b)から、本願発明1と引用発明とは、「前記絶縁層の樹脂は熱可塑性樹脂で構成してあ」る点で一致する。 7 発明特定事項Eについて 引用発明は「樹脂フィルム23側から炭酸ガスレーザを照射して、導体パターン22を底面とする有底ビアホールであるビアホール24を形成」する(構成1c)から、「ビアホール24」は「樹脂フィルム23」を貫通している。 そして、引用発明の「ビアホール24」は、本願発明1の「スルーホール」に相当する。 引用発明の「ビアホール24内に」「充填」された「導電ペースト50」(構成1d)は、「焼結により一体化した合金からなる導電性組成物51」(構成h2)となり、該「導電性組成物51」は、本願発明1の「スルーホール電極」に相当する。 よって、本願発明1と引用発明とは、「前記基板本体は、前記絶縁層を貫通するスルーホール電極を有」する点で一致する。 8 発明特定事項F及びGについて 引用発明には、本願発明1の「導体接続膜」に対応するものがない。 9 一致点及び相違点 前記1〜8によれば、本願発明1と引用発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。 〈一致点〉 「基板本体と、前記基板本体の内部または表面に形成してある導体配線層と、 前記導体配線層の一部に接触するように、前記基板本体の内部に形成される素子形成層と、を有する素子内蔵基板であって、 前記素子形成層が、素子を形成するための機能性フィラーが内部に分散してある絶縁領域で構成してあり、 前記基板本体が、少なくとも一つの絶縁層を有し、 前記絶縁層の樹脂は熱可塑性樹脂で構成してあり、 前記基板本体は、前記絶縁層を貫通するスルーホール電極を有する 素子内蔵基板。」である点。 〈相違点〉 本願発明1では「前記スルーホール電極と前記導体配線層との間には、導体接続膜が介在してあ」るのに対し、引用発明には本願発明1の「導体接続膜」に対応する構成が存在しない点。 これに付随し、本願発明1では「前記絶縁層を構成する樹脂の融点よりも、前記導体接続膜の融点が低い」のに対し、引用発明は「導体接続膜」に対応する構成が存在しないため、その融点も存在しない点。 第7 本願発明1の容易想到性についての判断 前記相違点について判断するにあたり、本願発明1の「融点」の意味について検討し、その後、相違点の容易想到性について検討する。 1 本願発明1の「融点」の意味 本願の明細書には、「導体接続膜28を構成する金属の融点は、絶縁層6を熱プレスで積層方向に融着させる温度よりも低いことが好ましい。その熱プレス時に、同時に、導体接続膜28を介して、スルーホール電極10を中間配線層10bまたは表面配線層8aに接続させることができる。」(【0034】)との記載、及び、「一括積層熱プレス時には、積層方向に隣り合う絶縁層6同士が熱融着すると共に、低融点の導体接続膜28がして、導体ポスト10aと配線層8bとを接続させると共に、導体ポスト10aと導体箔8cとを接続させる。一括積層熱プレス時の温度は、絶縁層を構成する樹脂の融点以下の温度であることが好ましく、導体接続膜28の融点よりも高いことが好ましい。」(【0079】)との記載がある。【0079】の「低融点の導体接続膜28がして」は「導体接続膜28」と「がして」の間に脱字があると思われ、文脈から、脱字は「溶融」、「融解」又はそれに類した語であると推察される。 該記載によれば、絶縁層6を熱プレスで融着させる際に、導電接続膜28が融けることでスルーホール電極10と配線層との接続を確実化することを目的として、導体接続膜28の融点を絶縁層6の熱プレスの温度よりも低くしていると理解される。 他方、絶縁層6については、熱プレスで熱融着しなければならないから、熱プレスの温度は、絶縁層6がプレスによって融着する程度に可塑性を持つ温度ではあっても、絶縁層6の融点、すなわち、絶縁層6が液体となる温度よりは低いと理解される。 以上によれば、本願発明1において「前記絶縁層を構成する樹脂の融点よりも、前記導体接続膜の融点が低い」(発明特定事項G)との事項は、熱プレスを行うことにより、スルーホール電極と配線層との接続を確実にするとともに、絶縁層の熱融着を確実にすることを目的として、熱プレスの温度を、導電接続膜の融点よりも高く、絶縁層の融点よりも低い絶縁層が熱融着可能な温度に設定することを意図して設けられたと認められる。すなわち、本願発明1の「融点」を解釈する上では、その後に熱プレス加工が行われることを前提に解釈する必要がある。 このような熱プレス加工に係る意図を勘案すれば、本願発明1における「絶縁層の融点」は、絶縁層が液化する温度を意味し、本願発明1における「導体接続膜の融点」は、熱プレス加工前の導体接続膜の融点を意味し、熱プレス加工後の導体接続膜の融点を意味するわけではないと解釈される。 2 相違点についての判断 相違点の容易想到性について判断する。 (1)文献2技術は、引用発明と同様の多層配線基板であり、230〜350℃での熱圧着を行うもの(構成2m)であって、「ビア導体は、導電性ペーストを用いて形成される導電性ペースト層を介して、他の絶縁シートに形成された導体配線層と接合され」るもの(構成2g)であり、「導電性ペースト」に含まれる「Sn」(構成2j)は、融点が232℃である。 文献2技術の「ビア導体21」は、「電気めっきにより」形成されたもの(構成2f)であるから、流動性を持たない固体であると解され、「ビア導体21」が固体であるからこそ、「ビア導体」に「導電性ペースト層」を形成することが可能であると解される(構成2h)。 他方、引用発明においては、構成1h2に示される工程によって「ビアホール24」内の金属と「導体パターン22」とを電気的に接続するものである。つまり、250〜350℃、1〜10MPaの熱プレス加工前は、「ビアホール24」内の金属は、「導電ペースト50」である。引用発明の「導電ペースト50」は、「錫粒子と銀粒子とに、有機溶剤にエチルセルロース樹脂を溶解したものを加え、ペースト化したもの」であり、熱融着後に「導電性組成物51」となるもので、熱融着に際しては「導電性組成物51中の錫成分と、導体パターン22を構成する銅箔の銅成分とが相互に固相拡散層を形成」する作用により「導電性組成物51」と「導体パターン22」との接続を図るものであるが、「導電性組成物51」を形成する前の「導電ペースト50」の上に、文献2技術の「導電性ペースト層」を形成することは、引用発明の「導電性組成物51」と「導体パターン22」との接続に係る作用を阻害すると予想され、このような構成を採用する動機付けが認められない。 仮に、引用発明の「導電ペースト50」の上に文献2技術のような「導電性ペースト層」を置くよう改変し、その後熱プレス加工をしたとしても、これによって引用発明における「導電性組成物51」と「導体パターン22」との接続がより良好になるとは予想できず、工数を増やすのみとなるから、このような改変を当業者が採用するとは認められない。 (2)そして、熱プレス加工によってビアホール内の金属と配線パターンとを接合する多層基板において、熱プレス加工前に、ビアホール内の金属に流動性があるにも関わらず、その上にさらに本願発明1でいう「導体接続膜」のような膜を形成することが周知技術であったとは認められない。 (3)前記(1)及び(2)によれば、相違点に係る事項は、当業者といえども引用発明から容易に想到し得ることではない。 よって、本願発明1は、当業者が、引用発明並びに文献2技術及び周知技術に基づいて、容易に発明をすることができたものであるとは認められない。 第8 本願発明2〜5の容易想到性についての判断 本願発明2〜5は、本願発明1の発明特定事項を全て含み、さらに別の発明特定事項を加えたものであるから、本件発明2〜5と引用発明との間には、少なくとも前記第6、9に示す相違点が存在する。 そして、前記第7のとおりであるから、本件発明2〜5は、当業者が、引用発明並びに文献2技術及び周知技術に基づいて、容易に発明をすることができたものであるとは認められない。 第9 むすび 以上のとおり、本願発明1〜5は、当業者が引用発明並びに文献2技術及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものではない。したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、本願発明1〜本願発明17については、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2024-02-20 |
出願番号 | P2019-068671 |
審決分類 |
P
1
8・
574-
WY
(H05K)
P 1 8・ 121- WY (H05K) |
最終処分 | 01 成立 |
特許庁審判長 |
土居 仁士 |
特許庁審判官 |
丸山 高政 寺谷 大亮 |
発明の名称 | 素子内蔵基板およびその製造方法 |
代理人 | 前田・鈴木国際特許弁理士法人 |