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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H04L 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 取り消して特許、登録 H04L |
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管理番号 | 1407701 |
総通号数 | 27 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2024-03-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2023-06-21 |
確定日 | 2024-02-27 |
事件の表示 | 特願2021− 74225「マルチコネクティビティにおける信頼性のある通信のための装置及び方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年 8月12日出願公開、特開2021−119694、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2016年(平成28年)6月2日を国際出願日とする出願である特願2018−563494号の一部を、令和3年4月26日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯の概要は以下のとおりである。 令和 3年 5月31日 手続補正書 令和 4年 4月28日付け 拒絶理由通知書 11月10日 意見書・手続補正書 令和 5年 2月14日付け 拒絶査定 6月21日 審判請求書・手続補正書 8月16日 前置報告書 以下では、令和5年2月14日付け拒絶査定を「原査定」といい、同年6月21日の手続補正書による補正を「本件補正」という。 第2 本件補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 本件補正を却下する。 [理由] 1 本件補正について (1)本件補正後の特許請求の範囲の記載 本件補正は、特許請求の範囲の記載を、次のとおり補正するものである。(下線部は、補正箇所を示す。) 「【請求項1】 通信システムにおける装置であって、 少なくとも1つのプロセッサと、 コンピュータプログラムコードを含む少なくとも1つのメモリと、 マルチノードコントローラの少なくとも一部を有するネットワーク要素と を備え、 前記少なくとも1つのメモリ及び前記コンピュータプログラムコードは、前記少なくとも1つのプロセッサと共に、前記装置に、 ユーザ端末に送信されるべきデータパケットをネットワークから受信するステップ、 少なくとも2つの基地局装置からデータパケットを前記ユーザ端末に送信するために、 前記少なくとも2つの基地局装置に前記データパケットを送信するステップ、 データパケットが正しく受信されたか否かの情報を基地局装置から受信するステップ、 及び 前記情報を他方の基地局装置に送信するステップを少なくとも実行させるように構成され、 1以上のデータパケットが前記ユーザ端末に正しく送信されたという情報を前記他方の基地局装置から受信したことに応じて、前記基地局装置のうちの少なくとも1つは、 前記基地局装置のうちの少なくとも1つによって保持されている1以上の送信バッファが正しく送信された前記データパケットを含んでいるかを特定し、 正しく送信された前記データパケットを保持されている前記送信バッファから除去する ように構成されており、 前記少なくとも1つのメモリ及び前記コンピュータプログラムコードは、前記少なくとも1つのプロセッサと共に、前記装置に、 前記基地局装置のうちの少なくとも1つによって保持されている前記送信バッファから正しく送信された前記データパケットの除去されたことについての情報を前記ユーザ端末に送信するステップを実行させるように更に構成された、 装置。」 2 補正の適否 本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、これを「本件補正発明」という。)は、以下の発明特定事項αを含んでいる。 発明特定事項α 前記装置に、前記基地局装置のうちの少なくとも1つによって保持されている前記送信バッファから正しく送信された前記データパケットの除去されたことについての情報を前記ユーザ端末に送信するステップを実行させるように更に構成された、 発明特定事項αは、要するに、「前記装置」すなわち「マルチノードコントローラの少なくとも一部を有するネットワーク要素」を備える「装置」が、「基地局装置」によって保持されている「前記送信バッファ」から「前記データパケットの除去されたことについての情報」を「前記ユーザ端末」に「送信」することを特定している。 しかしながら、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)の「一実施形態では、基地局は、送信バッファからのパケット除去についての情報をユーザ端末に送信するように構成される。」(【0055】、下線は強調のために当審で付した。)との記載によれば、送信バッファからパケットが除去されたことについての情報を送信するのは、「基地局」であって、「マルチノードコントローラの少なくとも一部を有するネットワーク要素」を備える「装置」ではない。 また、当初明細書等のその他の部分を参照しても、送信バッファからパケットが除去されたことについての情報を送信するのが、「基地局」ではなく、MNCであることは記載されていない。 そうすると、発明特定事項αは、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項とは認められない。 よって、発明特定事項αを含む本件補正は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものとはいえないから、本件補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものとは認められない。 3 本件補正についてのむすび 前記2によれば、本件補正は、特許法17条の2第3項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。 よって、前記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。 第3 本願発明 本件補正は前記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1〜4に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」〜「本願発明4」という。)は、令和4年11月10日の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1〜4に記載される以下のとおりのものであると認める。なお、後の参照の便宜のため、請求項1〜4を、以下の1A〜4Fに分説し、「発明特定事項1A」のようにして参照する。 【請求項1】 1A 通信システムにおける装置であって、 1B1 少なくとも1つのプロセッサと、 1B2 コンピュータプログラムコードを含む少なくとも1つのメモリと、 1B3 マルチノードコントローラの少なくとも一部を有するネットワーク要素と 1B を備え、 1C 前記少なくとも1つのメモリ及び前記コンピュータプログラムコードは、前記少なくとも1つのプロセッサと共に、前記装置に、 1D ユーザ端末に送信されるべきデータパケットをネットワークから受信するステップ、 1E 少なくとも2つの基地局装置からデータパケットを前記ユーザ端末に送信するために、前記少なくとも2つの基地局装置に前記データパケットを送信するステップ、 1F データパケットが正しく受信されたか否かの情報を基地局装置から受信するステップ、 及び 1G 前記情報を他方の基地局装置に送信するステップ を少なくとも実行させるように構成され、 1H 1以上のデータパケットが前記ユーザ端末に正しく送信されたという情報を前記他方の基地局装置から受信したことに応じて、前記基地局装置のうちの少なくとも1つは、 1H1 前記基地局装置のうちの少なくとも1つによって保持されている1以上の送信バッファが正しく送信された前記データパケットを含んでいるかを特定し、 1H2 正しく送信された前記データパケットを、保持されている前記送信バッファから除去する 1I ように構成された、装置。 【請求項2】 2A 通信システムにおける装置であって、 2B1 少なくとも1つのプロセッサ、及び 2B2 コンピュータプログラムコードを含む少なくとも1つのメモリを備え、 2C 前記少なくとも1つのメモリ及び前記コンピュータプログラムコードは、前記少なくとも1つのプロセッサと共に、前記装置に、 2D 2以上の基地局との接続を維持するステップ、 2E 2以上の基地局から同じデータパケットを受信するステップ、 2F 各データパケットの肯定応答を全基地局に送信するステップ、及び 2G 正しく送信されたデータパケットを少なくとも1つの基地局によって維持されているバッファから除去することについての情報を、前記少なくとも1つの基地局から受信するステップ 2H を少なくとも実行させるように構成された、装置。 【請求項3】 3A 通信システムにおけるマルチノードコントローラの少なくとも一部を有するネットワーク要素のための方法であって、 3B ユーザ端末に送信されるべきデータパケットをネットワークから受信するステップ、 3C 少なくとも2つの基地局装置からデータパケットを前記ユーザ端末に送信するために、前記少なくとも2つの基地局装置に前記データパケットを送信するステップ、 3D データパケットが正しく受信されたか否かの情報を基地局装置から受信するステップ、 及び 3E 前記情報を他方の基地局装置に送信するステップ を備え、 3F 1以上のデータパケットが前記ユーザ端末に正しく送信されたという情報を前記他方の基地局装置から受信したことに応じて、前記基地局装置のうちの少なくとも1つは、 3F1 前記基地局装置のうちの少なくとも1つによって保持されている1以上の送信バッファが正しく送信された前記データパケットを含んでいるかを特定し、 3F2 正しく送信された前記データパケットを、保持されている前記送信バッファから除去する 3G ように構成された、方法。 【請求項4】 4A 通信システムにおける方法であって、 4B 2以上の基地局との接続を維持するステップ、 4C 前記2以上の基地局から同じデータパケットを受信するステップ、 4D 各データパケットの肯定応答を全基地局に送信するステップ、及び 4E 正しく送信されたデータパケットを少なくとも1つの基地局によって維持されているバッファから除去することについての情報を、前記少なくとも1つの基地局から受信するステップ 4F を備える方法。」 第4 原査定の概要 原査定の概要は、以下のとおりである。 (発明の単一性)この出願は、特許法37条に規定する要件を満たしていない。 (進歩性)この出願の請求項1及び3に係る発明は、文献1に記載された発明及び文献2に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技 術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 文献1.特開2002−9741号公報 文献2.国際公開第03/049484号 第5 文献の記載事項 原査定で引用した特開2002−9741号公報(以下、これを「引用文献1」という。)及び原査定で引用した国際公開第03/049484号(以下、これを「引用文献2」という。)の記載内容は、それぞれ以下の1及び2のとおりである。 1 引用文献1の記載内容 引用文献1の記載は以下の(1)のとおりであり、該記載から以下の(2)が認められる。 (1)引用文献1の記載 引用文献1には、以下の事項が記載されている。なお、下線は強調のため当審にて付した(以下同様)。 ア 「【0080】上位局では、M個の基地局から送られてくるACK/NACK信号のうち、n個(1≦n≦M)以上のACK信号があるか否かを判断する(S131)。ACK信号がn個以上受信された場合には(S132)、復調パケットが正しく受信されたと判断して、ACK(RNC)信号を、n個未満の場合は(S133)、正しく復調されなかったと判断してNACK(RNC)信号を、各基地局ヘフィードバックする(S134)。」 イ 「【0089】図11は、CDMAパケット伝送において、複数の基地局から送信された信号を移動局が同時に受信する下りリンクサイトダイバーシチ受信を行う場合に、移動局からフィードバックされたACK/NACK信号を、複数の基地局(基地局数M)が受信した後、それぞれがACK/NACK信号を上位局へ送信し、複数のACK/NACK信号を合成して、再送制御を行う自動再送要求の制御フローを表した一実施例である。 【0090】移動局からのACK/NACK信号が受信されると、各基地局は、上位局へACK/NACK信号を転送する(S192、S202)。上位局において、ACK信号がn個(1≦n≦M)以上受信された場合には、そのパケットは、移動局側で正しく復調されたとしACK/NACK(RNC)信号をACK(RNC)と設定し(S211、S212)、n個未満の場合は、正しく復調されなかったとして、ACK/NACK(RNC)信号をNACKと設定する(S211、S213)。 【0091】これにより、下りリンクサイトダイバーシチのために送信を行っている複数の基地局が同一のACK/NACK(RNC)信号に従って送信を行うため、移動局においてサイトダイバーシチ効果を得ることができる。」 (2)引用発明の認定 引用文献1の【0090】及び【0091】に記載された「ACK/NACK(RNC)」は、同【0080】に記載された「ACK/NACK(RNC)」と同様であり、上位局から各基地局に送られるACK(RNC)又はNACK(RNC)のことであると解される。 そうすると、前記(1)の記載によれば、引用文献1には以下の発明(以下、これを「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお、後の参照の便宜のため、引用発明を1a〜1fに分説し、「構成1a」のようにして参照する。 1a CDMAパケット伝送において、複数の基地局から送信された信号を移動局が同時に受信する下りリンクサイトダイバーシチ受信を行う場合に、移動局からフィードバックされたACK/NACK信号を、複数の基地局(基地局数M)が受信した後、それぞれがACK/NACK信号を上位局へ送信し、複数のACK/NACK信号を合成して、再送制御を行う自動再送要求であって、(【0089】) 1b 移動局からのACK/NACK信号が受信されると、各基地局は、上位局へACK/NACK信号を転送し、(【0090】) 1c 上位局において、ACK信号がn個(1≦n≦M)以上受信された場合には、そのパケットは、移動局側で正しく復調されたとしACK/NACK(RNC)信号をACK(RNC)と設定し、n個未満の場合は、正しく復調されなかったとして、ACK/NACK(RNC)信号をNACKと設定し、(【0090】) 1d これにより、下りリンクサイトダイバーシチのために送信を行っている複数の基地局が同一のACK/NACK(RNC)信号に従って送信を行い、(【0091】) 1e 上位局では、ACK/NACK(RNC)信号を、各基地局ヘフィードバックする(【0080】) 1f 自動再送要求。 2 引用文献2の記載内容 引用文献2の記載は以下の(1)のとおりであり、該記載から以下の(2)が認められる。 (1)引用文献2の記載 引用文献2には、以下の事項が記載されている。 ア 明細書8頁20行〜9頁3行 「図6は、本発明による再送制御の基本構成を示したものである。 本発明の原則的な動作では、再送制御は基地局と端末局との間で行い、端末局1へ向かう下りパケットデータは1つのメイン基地局2−1から送信する。そして端末局1からの下りパケットデータを正しく受信できたか否かを示す上り制御信号Ack/Nackを複数の基地局2−1〜2−nで受信する。その結果、下り高速パケットデータを1つのメイン基地局2−1から送信することで回線占用率が低下し、またデータ量の少ない上り制御信号を最終的に1つのメイン基地局2−1がダイバーシチ受信することで再送遅延時間の短縮や再送効率の向上等の種々の対処が可能となる。」 イ 図6 図6によれば、基地局2−2及び基地局2−nからのAck/Nackは、基地局上位装置を介して基地局2−1に送信される。 (2)文献2技術の認定 前記(1)の記載によれば、引用文献2には以下の技術(以下、これを「文献2技術」という。)が記載されていると認められる。なお、後の参照の便宜のため、文献2技術を2a〜2fに分説し、「構成2a」のようにして参照する。 2a 再送制御であって、(前記(1)ア) 2b 端末局1へ向かう下りパケットデータは1つのメイン基地局2−1から送信し、(前記(1)ア) 2c 端末局1からの下りパケットデータを正しく受信できたか否かを示す上り制御信号Ack/Nackを複数の基地局2−1〜2−nで受信し、(前記(1)ア) 2d 基地局2−2及び基地局2−nからのAck/Nackは、基地局上位装置を介して基地局2−1に送信され、(前記(1)イ) 2e 下り高速パケットデータを1つのメイン基地局2−1から送信することで回線占用率が低下する(前記(1)ア) 2f 再送制御。 第6 本願発明1と引用発明との対比 本願発明1と引用発明とを対比すると、以下のとおりである。 1 発明特定事項1Aについて 引用発明の「上位局」は、「複数の基地局」及び「移動局」と共に「CDMAパケット伝送」を行うもの(構成1a)であるから、引用発明の「上位局」、「複数の基地局」及び「移動局」は、「CDMAパケット伝送」を行うシステムを構成しており、本願発明1の「通信システム」に相当する。 引用発明の「上位局」が装置で構成されることは明らかである。 よって、本願発明1と引用発明の「上位局」とは、「通信システムにおける装置」である点で一致する。 2 発明特定事項1B1、1B2及び1Bについて 引用発明の「上位局」が「少なくとも1つのプロセッサと、コンピュータプログラムコードを含む少なくとも1つのメモリと」を備えるかは不明である。 3 発明特定事項1B3及び1Bについて 引用発明の「上位局」は、移動局からのACK/NACK信号(構成1b)を合成したACK/NACK(RNC)信号(構成1a、1c)を、各基地局へフィードバックする(構成1e)ものであり、これにより、複数の基地局が同一のACK/NACK(RNC)信号に従って送信を行う(構成1d)から、引用発明の「上位局」は、複数の基地局すなわち通信ノードを制御するという意味で、マルチノードコントローラであるといえる。 また、引用発明の「上位局」は、CDMAパケット伝送を行うネットワークの要素である。 よって、引用発明の「上位局」は、マルチノードコントローラでありネットワーク要素であるから、本願発明1と引用発明の「上位局」とは、「マルチノードコントローラの少なくとも一部を有するネットワーク要素」を備える点で一致する。 4 発明特定事項1Cについて 引用発明の「上位局」が本願発明1の「装置」に相当することは前記1のとおりであり、引用発明の「上位局」が「メモリ」、「コンピュータプログラムコード」及び「プロセッサ」を備えるか不明であることは前記2のとおりである。 5 発明特定事項1Dについて 引用発明の「移動局」は本願発明1の「ユーザ端末」に相当するが、引用発明の「上位局」が「ユーザ端末に送信されるべきデータパケットをネットワークから受信するステップ」を実行するか否かは不明である。 6 発明特定事項1Eについて 引用発明の「複数の基地局」は、本願発明1の「少なくとも2つの基地局装置」に相当する。 引用発明の「上位局」は、「CDMAパケット伝送において、複数の基地局から送信された信号を移動局が同時に受信する下りリンクサイトダイバーシチ受信を行う」場合(構成1a)に動作するものであるから、本願発明1と引用発明とは、「少なくとも2つの基地局装置からデータパケットを前記ユーザ端末に送信するために」動作する点で共通するが、本願発明1は「前記少なくとも2つの基地局装置に前記データパケットを送信する」のに対し、引用発明の「上位局」は、複数の基地局にデータパケットを送信するか不明である。 7 発明特定事項1Fについて 引用発明の「移動局からのACK/NACK信号」(構成1b)は、本願発明1の「データパケットが正しく受信されたか否かの情報」に相当する。 そして、引用発明では「移動局からのACK/NACK信号が受信されると、各基地局は、上位局へACK/NACK信号を転送」する(構成1b)から、引用発明の「上位局」は、「移動局からのACK/NACK信号」を受信する。 よって、本願発明1と引用発明の「上位局」とは、「データパケットが正しく受信されたか否かの情報を基地局装置から受信するステップ」を実行する点で一致する。 8 発明特定事項1Gについて 引用発明の「上位局」は、「ACK信号がn個(1≦n≦M)以上受信された場合には、そのパケットは、移動局側で正しく復調されたとしACK/NACK(RNC)信号をACK(RNC)と設定し、n個未満の場合は、正しく復調されなかったとして、ACK/NACK(RNC)信号をNACKと設定し」(構成1c)、「ACK/NACK(RNC)信号を、各基地局ヘフィードバックする」(構成1e)ものである。 引用発明の「ACK/NACK(RNC)信号」と本願発明1の「前記情報」すなわち「データパケットが正しく受信されたか否かの情報」(発明特定事項1F)は、「データパケットが正しく受信されたか否かの情報」である点で共通し、本願発明1と引用発明とは、「データパケットが正しく受信されたか否かの情報を他方の基地局装置に送信するステップ」を実行する点で共通するが、本願発明1の「前記情報」は、「前記」とあるとおり、基地局から送られてきた情報そのものを意味するのに対し、引用発明の「ACK/NACK(RNC)信号」は、基地局から送られてきたACK/NACK信号を「合成して」(構成1a)作られるものであるから、基地局から送られてきた情報そのものではない点で相違する。 9 発明特定事項1H〜1Iについて 引用発明の「上位局」が「1以上のデータパケットが前記ユーザ端末に正しく送信されたという情報を前記他方の基地局装置から受信したことに応じて、前記基地局装置のうちの少なくとも1つは、前記基地局装置のうちの少なくとも1つによって保持されている1以上の送信バッファが正しく送信された前記データパケットを含んでいるかを特定し、正しく送信された前記データパケットを、保持されている前記送信バッファから除去するよう構成された装置」であるかは不明である。 10 前記1〜9によれば、本願発明1と引用発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。 〈一致点〉 「通信システムにおける装置であって、 マルチノードコントローラの少なくとも一部を有するネットワーク要素 を備え、 前記装置に、 少なくとも2つの基地局装置からデータパケットを前記ユーザ端末に送信するために動作するステップ、 データパケットが正しく受信されたか否かの情報を基地局装置から受信するステップ、 及び データパケットが正しく受信されたか否かの情報を他方の基地局装置に送信するステップ を少なくとも実行させるように構成された、装置。」である点。 〈相違点1〉 本願発明1は、「少なくとも1つのプロセッサと、コンピュータプログラムコードを含む少なくとも1つのメモリと」を備えるのに対し、引用発明の「上位局」は、「プロセッサ」、「コンピュータプログラムコード」及び「メモリ」を備えるか不明である点。 〈相違点2〉 本願発明1は、「ユーザ端末に送信されるべきデータパケットをネットワークから受信するステップ」を実行させるように構成されているのに対し、引用発明の「上位局」はそのようなステップを実行させるように構成されているかは不明な点。 〈相違点3〉 本願発明1は、「前記少なくとも2つの基地局装置に前記データパケットを送信する」ステップを実行させるように構成されているのに対し、引用発明の「上位局」はそのようなステップを実行させるように構成されているかは不明な点。 〈相違点4〉 本願発明1が他方の基地局装置に送信するのは、「前記情報」すなわち「基地局装置から受信」した「データパケットが正しく受信されたか否かの情報」であるのに対し、引用発明の「上位局」が各基地局装置へ送信するのは、基地局から送られてきたACK/NACK信号を「合成して」作られた「ACK/NACK(RNC)信号」である点。 〈相違点5〉 本願発明1は、「1以上のデータパケットが前記ユーザ端末に正しく送信されたという情報を前記他方の基地局装置から受信したことに応じて、前記基地局装置のうちの少なくとも1つは、前記基地局装置のうちの少なくとも1つによって保持されている1以上の送信バッファが正しく送信された前記データパケットを含んでいるかを特定し、正しく送信された前記データパケットを、保持されている前記送信バッファから除去するよう構成された装置」であるのに対し、引用発明の「上位局」は、そのように構成されているか不明である点。 第7 相違点4についての判断 事案に鑑み、相違点4について判断する。 引用発明の「上位局」は、「CDMAパケット伝送において、複数の基地局から送信された信号を移動局が同時に受信する下りリンクサイトダイバーシチ受信を行う場合に」(構成1a)用いられるものであり、この場合、複数の基地局は、同じ情報を同じタイミングで送信していると解される。 そのため、引用発明の「移動局」が「基地局」に対してフィードバックする「ACK/NACK信号」は、本来、どの基地局が受信しても同じものとなるはずであるが、上り伝送路のいくつかで誤りが生じて異なる信号として受信された場合に対処するため、上位局では、「複数のACK/NACK信号を合成」する(構成1a)、すなわち、「ACK信号がn個(1≦n≦M)以上受信された場合には、そのパケットは、移動局側で正しく復調されたとしACK/NACK(RNC)信号をACK(RNC)と設定し、n個未満の場合は、正しく復調されなかったとして、ACK/NACK(RNC)信号をNACKと設定」する(構成1c)ものと解される。 そうすると、引用発明の「上位局」が、「基地局」から受信した「ACK/NACK信号」を他の「基地局」に合成せずにそのまま送信することはあり得ない。 他方、文献2技術は「端末局1へ向かう下りパケットデータは1つのメイン基地局2−1から送信」するもの(構成2b)であって、引用発明のように「複数の基地局から送信された信号を移動局が同時に受信する下りリンクサイトダイバーシチ受信を行う」(構成1a)ものとは、前提が異なる。加えて、文献2技術は「下り高速パケットデータを1つのメイン基地局2−1から送信することで回線占用率が低下する」こと(構成2e)を意図したものであるから、引用発明のようなパケットデータを複数の基地局から送信するものに適用して回線占用率を高めることには、阻害要因がある。よって、引用発明に文献2技術を適用することはできない。 その他、技術常識に鑑みても、引用発明において、ある基地局から受信されたACK/NACK信号をそのまま他の基地局に送信することは、当業者といえども容易に想到し得ることではない。 第8 本願発明1の進歩性についての判断 前記第7のとおりであるから、その余の相違点について検討するまでもなく、本願発明1は、当業者が引用発明及び文献2技術に基づいて容易に発明をすることができたものとは認められない。 第9 本願発明2の進歩性についての判断 引用発明では、前記第7で検討したように、複数の基地局は、同じ情報を同じタイミングで送信していると解される。 そして、引用発明は「複数のACK/NACK信号を合成し」た(構成1a)「ACK/NACK(RNC)信号を、各基地局ヘフィードバックする」こと(構成1e)により、「複数の基地局が同一のACK/NACK(RNC)信号に従って送信を行」う(構成1d)のであるから、各基地局が、自分のバッファから正しく送信されたデータパケットを除去することについての情報を、移動局に対して送信する必要性が存在しない。 したがって、本願発明2の「正しく送信されたデータパケットを少なくとも1つの基地局によって維持されているバッファから除去することについての情報を、前記少なくとも1つの基地局から受信するステップ」(発明特定事項2G)は、引用発明に記載も示唆もされていない。 また、文献2技術を引用発明に適用できないことも、前記第7に示したとおりである。 以上によれば、本願発明2は、当業者が引用発明及び文献2技術に基づいて容易に発明をすることができたものとは認められない。 第10 本願発明3及び4の進歩性についての判断 本願発明3は、本願発明1から「プロセッサ」、「コンピュータプログラムコード」及び「メモリ」を備えるとの限定を除いたものであって、本願発明1の発明特定事項1D〜1Gとそれぞれ同様のステップである発明特定事項3B〜3Eを備え、本願発明1の発明特定事項1H〜1H2とそれぞれ同様の発明特定事項3F〜3F2を備えるから、本願発明3と引用発明との間には、前記第6に示した相違点4と同様の相違点が存在し、前記第7及び第8と同様の理由により、本願発明3は、当業者が引用発明及び文献2技術に基づいて容易に発明をすることができたものとは認められない。 本願発明3と本願発明1との関係と同様のことが、本願発明4と本願発明2との間にもいえるので、本願発明4は、前記第9と同様の理由により、当業者が引用発明及び文献2技術に基づいて容易に発明をすることができたものとは認められない。 第11 むすび 前記第8〜第10のとおり、本願発明1〜4は、当業者が引用発明及び文献2技術に基づいて容易に発明をすることができたものではないから、特許法29条2項の規定には該当しない。 したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2024-02-14 |
出願番号 | P2021-074225 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(H04L)
P 1 8・ 561- WY (H04L) |
最終処分 | 01 成立 |
特許庁審判長 |
高野 洋 |
特許庁審判官 |
稲葉 崇 丸山 高政 |
発明の名称 | マルチコネクティビティにおける信頼性のある通信のための装置及び方法 |
代理人 | 岡部 讓 |
代理人 | 岡部 洋 |
代理人 | 吉澤 弘司 |
代理人 | 三村 治彦 |