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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C25D
審判 全部申し立て 2項進歩性  C25D
管理番号 1407828
総通号数 27 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2024-03-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2023-03-30 
確定日 2023-11-30 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第7151758号発明「銅張積層板および銅張積層板の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7151758号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1について訂正することを認める。 特許第7151758号の請求項1、2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件の特許第7151758号(以下、「本件特許」という。)の請求項1、2に係る特許についての出願(特願2020−214849号。以下、「本願」という。)は、令和 2年12月24日の出願であって、令和 4年10月 3日にその特許権の設定登録がされ、同年10月12日に特許掲載公報が発行され、その後、その請求項1、2(全請求項)に係る特許について、令和 5年 3月30日に特許異議申立人である小宮 邦彦(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年 6月16日付けで取消理由が通知され、同年 7月24日に特許権者により訂正請求書及び意見書が提出され、同年10月20日に申立人により意見書が提出されたものである。

第2 本件訂正請求について
1 訂正請求の趣旨、及び訂正の内容
令和 5年 7月24日提出の訂正請求書により特許権者が行った訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)の趣旨は、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1について訂正することを求めるものであり、本件訂正請求に係る訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。なお、訂正箇所には、当審が下線を付した。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「乾式成膜法により前記ベースフィルム上に直接成膜された金属層」と記載されているのを、「乾式成膜法により前記ベースフィルム上に直接成膜された、ニッケル、クロムまたはニッケルクロム合金からなる下地金属層(厚さ150〜300Åのものを除く)および銅薄膜からなる金属層」に訂正する。

2 訂正の適否についての当審の判断
(1)訂正の目的、特許請求の範囲の拡張、変更の存否、及び新規事項の有無について
ア 訂正の目的
訂正事項1に係る訂正は、訂正前の請求項1に記載されていた「乾式成膜法により前記ベースフィルム上に直接成膜された金属層」を、「乾式成膜法により前記ベースフィルム上に直接成膜された、ニッケル、クロムまたはニッケルクロム合金からなる下地金属層(厚さ150〜300Åのものを除く)および銅薄膜からなる金属層」とすることにより、金属層の形態を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

イ 特許請求の範囲の拡張、変更の存否
訂正事項1に係る訂正は、上記アのとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえない。

ウ 新規事項の有無
(ア)訂正事項1に係る訂正のうち、金属層が「ニッケル、クロムまたはニッケルクロム合金からなる下地金属層」と「銅薄膜層」からなる点については、本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件明細書等」という。)の【0013】に「金属層21は下地金属層21aと銅薄膜層21bとからなる。下地金属層21aと銅薄膜層21bとはベースフィルム10の表面にこの順に積層されている。一般に、下地金属層21aはニッケル、クロム、またはニッケルクロム合金からなる。下地金属層21aはなくてもよい。銅薄膜層21bはベースフィルム10の表面に下地金属層21aを介して成膜されてもよいし、下地金属層21aを介さずベースフィルム10の表面に直接成膜されてもよい。」(下線は、当審が付したものである。以下同様。)との記載があることから、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものとはいえない。

(イ)訂正事項1に係る訂正のうち、「ニッケル、クロムまたはニッケルクロム合金からなる下地金属層」から「厚さ150〜300Åのものを除く」点については、令和 5年 6月16日付けで通知された取消理由において引用された韓国公開特許第10−2017−0028047号公報(甲第1号証)に記載された発明における「NiCrタイコート層」、すなわちニッケルクロム合金からなる下地金属層の厚さとして記載されていた「厚さ150〜300オングストローム」の範囲を除くことで、重なりのみを除く、いわゆる「除くクレーム」とするものであって、それによって、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものとはいえない。

(ウ)したがって、訂正事項1に係る訂正は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。

(2)独立特許要件について
本件は、訂正前の全請求項について特許異議の申立てがされているので、訂正事項1について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

3 本件訂正請求についてのむすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1について訂正することを認める。

第3 本件発明
上記第2の3のとおり、本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1、2に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」、「本件発明2」といい、総称して「本件発明」ということがある。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
ベースフィルムの表面に直接形成された導体層を有し、
前記導体層は、
乾式成膜法により前記ベースフィルム上に直接成膜された、ニッケル、クロムまたはニッケルクロム合金からなる下地金属層(厚さ150〜300Åのものを除く)および銅薄膜からなる金属層と、
電解めっきにより前記金属層上に直接成膜された銅めっき被膜と、を有し、
前記導体層は、厚さが0.4〜3.0μmであり、直径5μm以上のピンホールが0.01個/cm2以下である
ことを特徴とする銅張積層板。
【請求項2】
めっき装置を用いて、ロールツーロールにより基材を搬送しつつ、電解めっきにより該基材の表面の銅めっき被膜を成膜して、厚さが0.4〜3.0μmであり、直径5μm以上のピンホールが0.04個/cm2以下である導体層を有する銅張積層板を得るにあたり、
前記めっき装置は、前記基材のめっき面に接触する全てのローラの搬送面の表面粗さ(Rmax)が0.1μm以下である
ことを特徴とする銅張積層板の製造方法。」

第4 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として、いずれも本願の出願前に日本国内又は外国において公知となった、下記3の甲第1号証、甲第2号証(以下、「甲1」等という。)を提出し、以下の理由により、本件特許の請求項1、2に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。
1 申立理由1(新規性
本件訂正前の請求項1に係る発明は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

2 申立理由2(進歩性
本件訂正前の請求項2に係る発明は、甲1に記載された発明、及び甲2に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

3 証拠方法
甲1:韓国公開特許第10−2017−0028047号公報
甲2:特開2004−18949号公報

4 令和 5年10月20日提出の意見書における申立人の主張
なお、申立人は、令和 5年10月20日提出の意見書の第6頁第1〜10行において、本件訂正後の本件発明1の「下地金属層(厚さ150〜300Åのものを除く)」は、本件明細書等において実質的に開示されていないものであるから、本件発明1に係る特許は、特許法第36条第6項第1号(サポート要件)に規定された要件を満たさない特許出願に対してされたものである旨主張している(以下、「意見書における申立人の主張」という。)。

第5 令和 5年 6月16日付け取消理由通知書における取消理由の概要
令和 5年 6月16日付けで当審から通知した取消理由の概要は以下のとおりである。
1 取消理由1(新規性;申立理由1を採用)、取消理由2(進歩性;職権により追加)
本件訂正前の請求項1に係る発明は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
また、本件訂正前の請求項1に係る発明は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

第6 当審の判断
以下に述べるとおり、当審は、上記第4の各申立理由及び意見書における申立人の主張、及び上記第5の取消理由のいずれによっても、本件特許の請求項1、2に係る特許を取り消すことはできないと判断する。
1 取消理由1(新規性:申立理由1と同旨)、及び取消理由2(進歩性)について
(1)甲1の記載事項
甲1には、「

(当審訳:軟性銅箔積層フィルム、その製造方法、及びそれを用いた軟性印刷回路基板の製造方法)」(発明の名称)に関して、以下の記載がある(なお、以下の当審訳は、申立人が提出した訳文に基づくものである。)。
ア 「


」([請求項9])
(当審訳:



イ 「

」([0001])
(当審訳:



ウ 「

」([0006])
(当審訳:



エ 「

」([0008])
(当審訳:



オ 「

」([0010]、[0011])
(当審訳:



カ 「




([0022]〜[0029])
(当審訳:




キ 「

」([0035]〜[0037])
(当審訳:




ク 「



([0046]〜[0064])
(当審訳:







ケ 「

」([0078]〜[0086])
(当審訳:




コ 「

」([0091])
(当審訳:表2



サ 「


(図面1)

シ 「



(図面3〜図面6)

(2)甲1に記載された発明
ア 上記(1)ア〜シに摘記した甲1の記載事項を総合勘案し、特に、[0037]の記載と実施例3に着目すると、甲1には、軟性銅箔積層フィルムに係る次の発明が記載されていると認められる。

「ポリイミドフィルムを赤外線(IR)ヒータで乾燥させた後、プラズマ表面処理を遂行し、次いで、スパッタリング工程を通じて200オングストローム厚さのNiCrタイコート層を形成し、次いで、スパッタリング工程を通じて700オングストローム厚さの銅シード層を形成し、次いで、電気メッキを実施して2μm厚さの銅メッキ層を形成することで完成した軟性銅箔積層フィルムであって、
上記軟性銅箔積層フィルムから156mm幅×300mm長さのサンプル3個を確保し、暗室雰囲気で観察者とLED光源との間に当該サンプルを置いて数えた、上記観察者が肉眼で観察可能な5μm以上の直径を有する初期ピンホールの数の平均が4個である、
軟性銅箔積層フィルム。」(以下、「甲1発明」という。)

イ また、上記(1)ア〜シに摘記した甲1の記載事項を総合勘案し、特に、[請求項9]、[0037]の記載と実施例3に着目すると、甲1には、軟性銅箔積層フィルムの製造方法に係る次の発明が記載されていると認められる。
「甲1発明に係る軟性銅箔積層フィルムの製造方法であって、
ポリイミドフィルムを赤外線(IR)ヒータで乾燥させた後、プラズマ表面処理を遂行する段階と、
次いで、スパッタリング工程を通じて200オングストローム厚さのNiCrタイコート層を形成する段階と、
次いで、スパッタリング工程を通じて700オングストローム厚さの銅シード層を形成する段階と、
次いで、15個のメッキ槽に順次に通過させることで電気メッキを実施して2μm厚さの銅メッキ層を形成する段階と、を含む、
軟性銅箔積層フィルムの製造方法。」(以下、「甲1方法発明」という。)

(3)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明の「ポリイミドフィルム」、「軟性銅箔積層フィルム」は、本件発明1の「ベースフィルム」、「銅張積層板」に相当する。

(イ)甲1発明の「スパッタリング工程を通じて」「形成」された「200オングストローム厚さのNiCrタイコート層」は、乾式成膜法である「スパッタリング」により、「ポリイミドフィルム」上に直接成膜された、ニッケルクロム合金(甲1[0027])からなるものであって、その上に成膜される「銅シード層」の下地となるものであり、また、甲1発明の「スパッタリング工程を通じて」「形成」された「700オングストローム厚さの銅シード層」は、乾式成膜法である「スパッタリング」により、上記「NiCrタイコート層」上に直接成膜された、銅の薄膜層である。
そうすると、本件発明1の「乾式成膜法により前記ベースフィルム上に直接成膜された、ニッケル、クロムまたはニッケルクロム合金からなる下地金属層(厚さ150〜300Åのものを除く)および銅薄膜層からなる金属層」と、甲1発明の上記「200オングストローム厚さのNiCrタイコート層」及び上記「700オングストローム厚さの銅シード層」が積層された層とは、「乾式成膜法により前記ベースフィルム上に直接成膜された、ニッケル、クロムまたはニッケルクロム合金からなる下地金属層および銅薄膜層からなる金属層」である限りにおいて一致する。

(ウ)甲1発明の「電気メッキ」は、本件発明1の「電解めっき」に相当し、甲1発明の「電気メッキを実施して」「形成」された「2μm厚さの銅メッキ層」は、「NiCrタイコート層」及び「銅シード層」が積層された層上に直接成膜されたものであるから、本件発明1の「電解めっきにより前記金属層上に直接成膜された銅めっき被膜」に相当する。

(エ)甲1発明の「200オングストローム厚さのNiCrタイコート層」、「700オングストローム厚さの銅シード層」及び「2μm厚さの銅メッキ層」が積層された層は、合計の厚さが2.09μmであるから、本件発明1の「厚さが0.4〜3.0μmであ」る「導体層」に相当する。

(オ)甲1発明の「軟性銅箔積層フィルムから156mm幅×300mm長さのサンプル3個を確保し、暗室雰囲気で観察者とLED光源との間に当該サンプルを置いて数えた、上記観察者が肉眼で観察可能な5μm以上の直径を有する初期ピンホールの数の平均が4個である」ことは、156m幅×300mm長さのサンプルの面積である468cm2の中に5μm以上の直径を有する初期ピンホールが平均4個存在すること、すなわち、約0.0085個/cm2であることを意味しており、しかも、上記「軟性銅箔積層フィルム」全体を観察して「5μm以上の直径を有する初期ピンホールの数の平均が4個であ」れば、当該「軟性銅箔積層フィルム」を構成する「200オングストローム厚さのNiCrタイコート層」、「700オングストローム厚さの銅シード層」及び「2μm厚さの銅メッキ層」が積層された層の「5μm以上の直径を有する初期ピンホールの数」が平均4個以下であることは、明らかである。
そうすると、甲1発明の「軟性銅箔積層フィルムから156mm幅×300mm長さのサンプル3個を確保し、暗室雰囲気で観察者とLED光源との間に当該サンプルを置いて数えた、上記観察者が肉眼で観察可能な5μm以上の直径を有する初期ピンホールの数の平均が4個である」ことは、本件発明1の「導体層」の「直径5μm以下のピンホールが0.01個/cm2以下である」ことに相当する。

(カ)そうすると、本件発明1と甲1発明とは、
「ベースフィルムの表面に直接形成された導体層を有し、
前記導体層は、
乾式成膜法により前記ベースフィルム上に直接成膜された、ニッケル、クロムまたはニッケルクロム合金からなる下地金属層および銅薄膜層からなる金属層と、
電解めっきにより前記金属層上に直接成膜された銅めっき被膜と、を有し、
前記導体層は、厚さが0.4〜3.0μmであり、直径5μm以上のピンホールが0.01個/cm2以下である
銅張積層板。」である点で一致し、次の点で相違する。

<相違点1>
下地金属層の厚さについて、本件発明1では、「厚さ150〜300Åのものを除く」とされているのに対して、甲1発明では、「200オングストローム」である点。

イ 相違点についての判断
上記相違点1について検討する。
(ア)甲1発明における下地金属層の厚さである「200オングストローム」は、本件発明1において除かれている「150〜300Å」の範囲に含まれているから、上記相違点1が実質的な相違点であることは、明らかである。

(イ)次に、上記相違点1の容易想到性について、さらに検討する。
a 上記(1)カ、クに摘記したとおり、甲1の[0028]、[0053]には、タイコート層を150〜300オングストロームの厚さを有するように形成できることが記載されている一方で、タイコート層の厚さが150オングストローム未満である場合には、非伝導性高分子基材と銅層との接着力が不十分になること、タイコート層の厚さが300オングストロームを超過する場合には、回路パターンのためのエッチング工程が遂行されるとき、除去されねばならないタイコート層の一部が残存することになり、回路の短絡が誘発される恐れがあることも記載されている。

b そうすると、甲1発明において、下地金属層である「NiCrタイコート層」の厚さを「200オングストローム」から、本件発明1のように「150〜300Åを除く」厚さに変更することについては、阻害要因があるといえる。

c したがって、甲1発明において、上記相違点1に係る特定事項を備えることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

(ウ)よって、本件発明1によって奏される効果について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないから、取消理由1及び申立理由1によっては、同発明に係る特許を取り消すことはできない。
また、本件発明1は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、取消理由2によっては、同発明に係る特許を取り消すことはできない。

2 申立理由2(進歩性)について
(1)本件発明2について
ア 対比
本件発明2と甲1方法発明とを対比する。
(ア)甲1方法発明の「NiCrタイコート層」と「銅シード層」を順に「形成」した「ポリイミドフィルム」は、本件明細書の「ベースフィルム10の表面に金属層21を成膜したものを基材と称する。」(【0018】)との記載を踏まえると、本件発明2の「基材」に相当する。
また、甲1方法発明の「軟性銅箔積層フィルム」は、本件発明2の「銅張積層板」に相当する。

(イ)甲1方法発明の「電気メッキを実施して」「形成」された「2μm厚さの銅メッキ層」は、基材である上記(ア)の「ポリイミドフィルム」の表面に成膜された被膜であるから、本件発明2の「電解めっきにより該基材の表面」に「成膜」された「銅めっき被膜」に相当する。

(ウ)甲1方法発明の「200オングストローム厚さのNiCrタイコート層」、「700オングストローム厚さの銅シード層」、及び「2μm厚さの銅メッキ層」は、合計の厚さが2.09μmである導体層であるから、本件発明2の「厚さが0.4〜3.0μmであ」る「導体層」に相当する。

(エ)甲1方法発明における「15個のメッキ槽を順次に通過させることで電気メッキを実施」することは、本件発明2において、「めっき装置を用いて」、「基材を搬送しつつ、電解めっき」を行うことに相当する。

(オ)甲1方法発明によって製造された甲1発明の「軟性銅箔積層フィルムから156mm幅×300mm長さのサンプル3個を確保し、暗室雰囲気で観察者とLED光源との間に当該サンプルを置いて数えた、上記観察者が肉眼で観察可能な5μm以上の直径を有する初期ピンホールの数の平均が4個である」ことは、本件発明2の「導体層」の「直径5μm以下のピンホールが0.04個/cm2以下である」ことに相当する(上記1(3)ア(オ)参照)。

(カ)そうすると、本件発明2と甲1方法発明とは、
「めっき装置を用いて、基材を搬送しつつ、電解めっきにより該基材の表面の銅めっき被膜を成膜して、厚さが0.4〜3.0μmであり、直径5μm以上のピンホールが0.04個/cm2以下である導体層を有する銅張積層板を得る、銅張積層板の製造方法。」の点で一致し、次の点で相違する。

<相違点2>
本件発明2は、めっき装置が「ロールツーロールにより基材を搬送」するものであり、その「基材のめっき面に接触する全てのローラの搬送面の表面粗さ(Rmax)が0.1μm以下である」のに対して、甲1方法発明は、「15個のメッキ槽に順次に通過させる」のがロールツーロールであるのか不明であるのに加えて、仮にロールツーロールであるとしても、「基材のめっき面に接触する全てのローラの搬送面の表面粗さ(Rmax)が0.1μm以下である」か否か不明である点。

イ 相違点についての判断
上記相違点2について検討する。
(ア)甲2には、「めっき用陰極ロールおよびめっき被膜付きフィルムの製造方法」(発明の名称)に関して、以下の記載がある(「・・・」は記載の省略を表す。)。
a 「【請求項1】
導電面を有するフィルムを搬送しながらフィルム導電面を陰極ロールに接触させ、その前または/および後に配置されためっき浴にてフィルム導電面にめっき被膜を施すめっき被膜付きフィルムの製造に使用する陰極ロールであって、表面粗さRmaxが1μm以下であることを特徴とするめっき用陰極ロール。
・・・
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載のめっき用陰極ロールを用いることを特徴とする、めっき被膜付きフィルムの製造方法。
【請求項10】
複数のフィルムを同時に搬送する、請求項9に記載のめっき被膜付きフィルムの製造方法。」

b 「【0022】
図1に本発明を適用しためっき装置の一例の概略縦断面図を示す。
図1は、長尺フィルムをロール状態から巻き出し、めっきし、巻き取る連続式の電気めっき装置を示している。主たる工程は、ロール状フィルム306を巻き出す巻出部301、フィルムの導電面に酸処理、脱脂処理、水洗等の処理を施す前処理部302、電気めっき部303、めっき液を除去したり、洗い流したり、防錆処理、さらにこれを洗い流す処理、さらに、乾燥などを行う後処理部304、めっき被膜付きフィルムをロール状フィルム324に巻き取る巻取り部305からなっている。尚、電気めっき被処理部である導電面が清浄な場合は、前処理を省略しても構わないし、また、必要に応じて後処理工程を省略しても構わない。
【0023】
図1において、ロール状フィルム306から巻き出されたフィルムは、アキュムレータ307を通して、またバランスロール部308を経て、張力調整された後、速度制御ロール部309で速度を実質的に一定にされて、酸、脱脂処理部310、水洗部312を経て、めっき液7を収容しためっき槽6からなるめっき浴へ入る。
【0024】
図1のめっき浴部を拡大して、図2に示すが、陰極ロール1aに導電面を接触させた後、めっき浴槽の中を液中のフィルム搬送ロール101aを介して、陰極ロール1bへ接触させる。銅ボールを積層、充填したケース102aと102bを陽極にして、陰極を陰極ロール101aと102bとして、整流器3aにより給電し、フィルムにめっき被膜を形成する。以下、陰極ロール1bと陰極ロール1cを陰極にして、ケース102cと102dを陽極となし、整流器3bより給電し、フィルムにめっき被膜を形成する。以下、この繰り返しで、各陰極ロールを陰極とし、各ケース102e〜を陽極として、めっき被膜を形成する。1ユニットは一点鎖線で示すユニットとし、この繰り返しとなる。電流条件はフィルムに対して、0.2〜10A/dm2の電流密度となるようにして、フィルムにめっき被膜を形成する。その後、この繰り返しで、めっき被膜を順次形成させ、トータルでフィルムの導電面に1〜30μmの厚みのめっき被膜を形成する。」

c 「【0034】
さて、このような薄いフィルムを、広幅にて液中を搬送することは、非常に難しい。そこで、フィルムと陰極ロールの間に液膜を介在させ、潤滑をしながら搬送することになるが、陰極ロールの表面粗さRmaxが1μmを超えると、搬送張力を上げたときに、介在されている液膜の厚さよりもフィルムへ食い込む表面突起の方が大きくなり、フィルムがグリップされてしまい、局所的な張りが発生し、またこれに応じて局所的な弛みも発生する。このような状態になると、フィルムの導電面、めっきしたてのめっき被膜面にキズをつけ、また、陰極ロールの表面粗さをそのまま転写してしまう問題も発生する。そこで、本発明では、陰極ロールの表面粗さをRmaxにて1μm以下とすることにより、非常に液膜潤滑がスムーズになり、フィルムとロールがいわゆる滑る条件となって搬送を非常に安定させることに成功した。この状態であると、非常に表面品位の素晴らしい、フレキシブル回路基板の銅膜が形成できた。」

d 「【0050】
実施例1
・・・
【0056】
陰極ロールは、直径210mm、長さ1500mm、肉厚10mmのSUS316の円管に表面処理8(表3)を用いてこれに給電するものとした。膜厚は200μm、表面粗さは、Rmaxで0.4μmまで精密研磨により仕上げた。・・・」

e 「【図1】



f 「【図2】



(イ)上記(ア)に摘記したとおり、甲2には、めっき膜付きフィルムの製造に使用する陰極ロールとして、表面粗さRmaxが1μm以下、具体的には、「0.4μm」(実施例1)とすることにより、めっき浴槽中での液膜潤滑がスムーズになり、フィルムと陰極ロールが滑る条件となって搬送を安定化させることができ、その結果、表面品位のよいフレキシブル回路基板の銅膜を形成できること(【0034】)が記載されている。

(ウ)しかしながら、甲2には、例えば、液中ロール101a等の陰極ロール以外のローラを含む、フィルムのめっき面に接触する全てのローラについて、その表面粗さRmaxを1μm以下とすることまでは記載されておらず、また、その内の陰極ロールについても、表面粗さRmaxを0.1μm以下とすることまでは記載されていない。

(エ)また、甲2の記載からは、陰極ロールの表面粗さRmaxを1μm以下とすることと、めっき膜中のピンホールとの関係も不明である。

(オ)そうすると、甲2の記載事項を考慮することによって、甲1方法発明の「15個のメッキ槽に順次に通過させる」工程をロールツーロールで行うことまでは、当業者が容易に想到し得たとしても、そのローラについて、甲1方法発明が課題とするピンホールの個数を低減するとの観点から、「基材のめっき面に接触する全てのローラの搬送面の表面粗さ(Rmax)が0.1μm以下である」との上記相違点2に係る特定事項を採用する動機付けがあるとはいえない。

(カ)したがって、甲1方法発明において、上記相違点2に係る特定事項を備えることは、甲2の記載事項を考慮しても、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

(キ)よって、本件発明2によって奏される効果について検討するまでもなく、本件発明2は、甲1方法発明及び甲2の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2)小括
以上のとおりであるから、本件発明2は、甲1に記載された発明、及び甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、申立理由2によっては、同発明に係る特許を取り消すことはできない。

3 意見書における申立人の主張について
(1)意見書における申立人の主張のとおり、本件訂正により、本件発明1の「ニッケル、クロムまたはニッケルクロム合金からなる下地金属層」から「厚さ150〜300Å」のものが除かれた一方で、本件明細書等には、実施例としては、ベースフィルムの片面に、厚さ25nm(250Å)のニッケルクロム合金からなる下地金属層を形成したもの(【0025】)が記載されているのみで、結果的に、全ての実施例が本件発明1の技術的範囲に含まれないものとなっている。

(2)しかしながら、本件明細書等の【0007】、【0014】、【0017】、【0024】の記載を参照すれば、「セミアディティブ法により形成された配線パターンの不良率を低減できる銅張積層板および銅張積層板の製造方法を提供する」(【0007】)との本件発明が解決しようとする課題(以下、単に「課題」という。)は、少なくとも下地金属層が一般的な5〜50nm(50〜500Å)の厚さの範囲であれば、本件発明1において特定されている「導体層は、・・・直径5μm以上のピンホールが0.01個/cm2以下であること」によって解決できることを当業者が十分認識できるといえる。

(3)一方で、申立人は、意見書における主張において、下地金属層の厚さが150〜300Å以外の範囲では上記(2)の課題が解決されないのではないかとの疑義が生じる程度の根拠を何ら示していない。

(4)そうすると、本件発明1は、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものとはいえない。

(5)したがって、本件特許の請求項1の記載は、本件発明1について、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるから、特許法第36条第6項第1号に適合するものである。
よって、上記意見書における申立人の主張は採用しない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、令和 5年 6月16日付け取消理由通知書に記載した取消理由、及び申立人による特許異議の申立ての理由によっては、請求項1、2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1、2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースフィルムの表面に直接形成された導体層を有し、
前記導体層は、
乾式成膜法により前記ベースフィルム上に直接成膜された、ニッケル、クロムまたはニッケルクロム合金からなる下地金属層(厚さ150〜300Åのものを除く)および銅薄膜層からなる金属層と、
電解めっきにより前記金属層上に直接成膜された銅めっき被膜と、を有し、
前記導体層は、厚さが0.4〜3.0μmであり、直径5μm以上のピンホールが0.01個/cm2以下である
ことを特徴とする銅張積層板。
【請求項2】
めっき装置を用いて、ロールツーロールにより基材を搬送しつつ、電解めっきにより該基材の表面の銅めっき被膜を成膜して、厚さが0.4〜3.0μmであり、直径5μm以上のピンホールが0.04個/cm2以下である導体層を有する銅張積層板を得るにあたり、
前記めっき装置は、前記基材のめっき面に接触する全てのローラの搬送面の表面粗さ(Rmax)が0.1μm以下である
ことを特徴とする銅張積層板の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2023-11-17 
出願番号 P2020-214849
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (C25D)
P 1 651・ 121- YAA (C25D)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 井上 猛
特許庁審判官 山口 大志
粟野 正明
登録日 2022-10-03 
登録番号 7151758
権利者 住友金属鉱山株式会社
発明の名称 銅張積層板および銅張積層板の製造方法  

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