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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  B32B
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  B32B
管理番号 1407852
総通号数 27 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2024-03-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2023-09-04 
確定日 2024-02-14 
異議申立件数
事件の表示 特許第7248011号発明「バリア性積層フィルム及び該バリア性積層フィルムを用いた包装材料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7248011号の請求項1、2、9〜12に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7248011号(以下「本件特許」という。)の請求項1、2、9〜12に係る特許についての出願は、2019年(平成31年)3月20日(優先権主張 平成30年3月22日、平成30年9月28日)を国際出願日とする出願であって、令和5年3月20日にその特許権の設定登録がされ、令和5年3月29日に特許掲載公報が発行された。その後、請求項1、2、9〜12に係る特許に対し、令和5年9月4日に特許異議申立人弁理士法人朝日奈特許事務所(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
本件特許の請求項1、2、9〜12に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、その特許請求の範囲の請求項1、2、9〜12に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
プラスチック基材の表面に酸化アルミニウムを主成分とする酸化アルミニウム蒸着膜を形成し、前記酸化アルミニウム蒸着膜の表面にバリア性被覆層が積層されてなる、バリア性を備える積層フィルムにおいて、
前記酸化アルミニウム蒸着膜中には、前記プラスチック基材の表面と前記酸化アルミニウム蒸着膜との密着強度を規定する遷移領域が形成されており、
該遷移領域は、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)を用いてエッチングを行うことで検出される、水酸化アルミニウムに変成する元素結合Al2O4Hを含み、
前記バリア性被覆層と前記酸化アルミニウム蒸着膜とをTOF−SIMSを用いてエッチングを行うことで規定される前記酸化アルミニウム蒸着膜に対する、TOF−SIMSを用いて規定される該変成される前記遷移領域の割合により定義される遷移領域の変成率が、5%以上、60%以下であり、
135℃、40分間のハイレトルト熱水処理後の、酸素透過度が0.2cc/m2・24hr/atm以下であって、水蒸気透過度が0.9g/m2・24hr以下である、
上記バリア性積層フィルム。
【請求項2】
前記プラスチック基材が、ポリエチレンテレフタレートフィルムである、請求項1に記載のバリア性積層フィルム。
・・・
【請求項9】
バリア性被覆層が、金属アルコキシドと水溶性高分子の混合溶液を塗布し、加熱乾燥してなる層である、請求項1〜8の何れか1項に記載のバリア性積層フィルム。
【請求項10】
バリア性被覆層が、金属アルコキシドとシランカップリング剤と水溶性高分子の混合溶液を塗布し、加熱乾燥してなる層である、請求項1〜9のいずれか1項に記載のバリア性積層フィルム。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載のバリア性積層フィルムに、ヒートシール性を有する熱可塑性樹脂が積層されてなる、包装材料。
【請求項12】
レトルト殺菌用包装に用いられる、請求項11に記載の包装材料。」

第3 申立理由の概要
申立人は、証拠として、甲第1号証〜甲第5号証(以下「甲1」等という。)を提出し、以下の理由1及び理由2を申立てている。

1 申立理由1(新規性
本件特許の請求項1、2、9〜12に係る発明は、甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件特許は特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当するので、取り消すべきものである。

2 申立理由2(進歩性
本件特許の請求項1、2、9〜12に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲2〜甲5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は特許法第29条2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当するので、取り消すべきものである。

3 証拠方法
甲1:特開2014−223788号公報
甲2:「バリアロックス○R(当審注:○の中にアルファベットのRの表記。以下同様。) 透明蒸着バリアフィルム TECHNICAL DATA」、東レフィルム加工株式会社、2023年1月1日改定
甲3:「GL−RDのご紹介」、凸版印刷株式会社、2011年12月15日
甲4:高橋勤子ほか3名、「新規バリヤー性包装資材の評価」、あいち産業科学技術総合センター食品工業技術センター、研究報告書、2003年、インターネット
<URL:https://www.aichi-inst.jp/shokuhin/research/report/>
甲5:「[技術紹介]PETフィルムの透湿度 温度依存性」、技術レポートNo.T1307、株式会社東ソー分析センター、2013年12月3日

第4 各甲号証の記載
1 甲1について
(1)甲1の記載
甲1には、次の事項が記載されている(以下、下線は理解の便宜のため当審が付した。)。
「【請求項1】
ポリエステルフィルムの少なくとも片面の表層に高速イオンの照射による改質層が設けられ、その上に金属酸化物層、保護層がこの順で設けられたことを特徴とする耐湿熱性ガスバリアフィルム。
・・・
【請求項3】
金属酸化物層が酸化アルミニウムからなる請求項1または2に記載の耐湿熱性ガスバリアフィルム。」
「【0001】
本発明は、耐湿熱性ガスバリアフィルムおよびその製造方法に関する。さらに詳細には、それを用いた包装用積層フィルムが、強いレトルト処理後も優れたガスバリア性能を保持し、食品等の内容物の変質や劣化を抑制することができる耐湿熱性ガスバリアフィルムおよびその製造方法に関する。」
「【0016】
図2には本発明の耐湿熱性ガスバリアフィルムの製造方法に用いる製造装置の蒸着機の一例を示す。ポリエステルフィルムは巻き出しロール13から出て、高速イオンを発生するイオン源17の前で高速イオンを照射されて通過し、冷却ドラム15に巻かれて蒸発源の上を通過する際に、金属酸化物層が蒸着される。その後、巻取りロール14に巻き取られる。・・・」
「【0019】
保護層は、金属酸化物層の上に積層され、それ自身のガスバリア性能により金属酸化物層のピンホールなどの欠陥部分を補ってガスバリア性能をさらに強化する。また耐熱性に優れたものであることが好ましく、レトルト処理による高温下で金属酸化物層を保護することができる。さらに加工時には、金属酸化物層が過剰な屈曲・延伸・擦過などによりひび割れてガスバリア性能が劣化するのを機械的に防ぐことができる。」
「【0022】
本発明におけるポリエステルフィルムの少なくとも片面の表層には、金属酸化物層の形成に先立ち、高速イオンの照射による改質層が形成される。通常の低圧プラズマ処理(あるいはグロー放電処理)においてもイオン照射による表層の改質が行われるが、この場合のイオンのエネルギーは0.1〜数eV程度とされており、表層の改質の効果は表層のみに限定されている。」
「【0025】
照射する高速イオンのエネルギーは、イオン源の機構によって特徴的な分布を持つ。一般的なイオン源では、プラズマを発生させる機構、プラズマからイオンを引き出す機構、および引き出したイオンに加速電圧をかける機構が独立しており、加速電圧に従ったシャープなエネルギー分布を持つ高速イオンを得ることができる。一方で、後述するアノードレイヤータイプのイオン源では、上記の機構が独立でないためにイオンのエネルギーに分布が生じる。」
「【0027】
本発明においてポリエステルフィルム表層の改質の程度は、以下のパラメータにより調整できる。イオンのエネルギーは、1個のイオンがポリエステルフィルム表層に与えるエネルギーを意味する。イオン電流は、照射されるイオン粒子により流れる電流であり、改質のために入射する時間当たりのイオンの数に対応する。フィルムを送りながら処理する場合、フィルムの幅と送り速度の積が単位時間当たりの処理面積である。ポリエステルフィルムの表層改質の程度は、イオンの平均エネルギーEaとイオン電流Iの積である電力値を、単位時間当たりの処理面積で割って、単位面積あたりの照射エネルギー値(以下照射エネルギー密度)(J/m2)として、Ea×I/(v×W)で表される。ここで、フィルムの送り速度はv(m/s)、フィルムの幅はW(m)である。
・・・
【0029】
上述のような適切な照射エネルギー条件は、イオン源に導入するガスの流量や動作圧力、動作電圧などのパラメータを調整し、フィルムの送り速度を適宜選択することで達成できる。」
「【0031】
照射するイオンの種類は特にこだわらないが、食品包装用として問題のない無害なイオン種から選択すればよく、室温で気体であるものは取り扱い性に好適であり、希ガスの他に窒素、酸素、水素、二酸化炭素などのガスイオンは実用性の面で適している。その中でもコスト的に酸素、窒素、アルゴンのイオンは有利である。」
「【0042】
(2)レトルト処理
東洋モートン(株)製ドライラミネート用接着剤AD−503タイプ20重量部、東洋モートン(株)製硬化剤CAT−10タイプ1重量部、および酢酸エチル20重量部を混合し、30分攪拌して固形分濃度19重量%のドライラミネート用接着剤溶液を調整した。次に本発明の耐湿熱性ガスバリアフィルムの保護層の面にバーコート法により上記接着剤溶液を塗工し、80℃で45秒間乾燥して3.5μmの接着剤層を形成した。接着剤層面に無延伸ナイロンフィルム東レフィルム加工(株)製「レイファン」(登録商標)NO1401タイプ(厚さ30μm)を重ね、富士テック(株)製「ラミパッカー」(LPA330)を用いてヒートロールを40℃に加熱して貼り合わせた。次に未延伸ポリプロピレンフィルム「トレファン」(登録商標)NO ZK100タイプ(厚さ70μm)を同じ方法で貼り合わせた。このラミネートフィルムを40℃に加熱したオーブン内で2日間エージングして接着剤を硬化させた。
【0043】
上記ラミネートフィルムから15cm角に切り出してカットサンプルを作成した。2枚のカットサンプルを未延伸ポリプロピレンフィルム面が対向するようにして重ね、ヒートシーラーを用いて3辺の端部10mmを熱シールして150mm角のパッケージを作成した。
【0044】
次にそのパッケージを、(株)トミー精工製オートクレーブ(SR−24タイプ)を用いて温度135℃で30分間レトルト処理した。」
「【0051】
(実施例1)
A.ポリエステルフィルムへの改質層と金属酸化物層の形成
連続巻き取り式蒸着機((株)アルバック製)のフィルム巻き出し部と蒸着部の間に、有効長1mのリニア型アノードレイヤータイプのイオン源(米Veeco社、ALS1000L)を、フィルム走行面から50mmの距離に設置した。イオン源用電源は、米グラスマン・ハイボルテージ社SHタイプを用いた。フィルム走行面からフィルム背面側に10mm遠ざかった位置に1m×200mmの水冷を施したイオン電流測定用の電極を設け、イオン源を動作させた状態で正のリターディング電圧を変化させながらイオン電流を測定した。リターディング電圧とイオン電流の関係から非特許文献1と同様にしてイオンのエネルギー分布からイオンの平均エネルギーEa(eV)を算出した。なお、リターディング電圧をかけない状態でのイオン電流I(A)も測定した。まずイオン源には酸素を80cc/min導入し、アノード電圧2kV、アノード電流860mAで動作させた。この際のイオンの平均エネルギーEaは0.6keVであり、イオン電流は650mAでることを確認した。実施例2以降においても同様にイオン源の動作条件でのイオンの平均エネルギーとイオン電流を事前に測定した。
【0052】
フィルム巻き出し部には、ポリエステルフィルムとして、包装用の二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ(株)製「ルミラー」(登録商標)P60、厚さ12μm、幅1000mm)をセットし、到達圧力3×10−3Paまで真空引きした。つぎに粒状アルミニウム(真空冶金(株)製、純度99.99%)の入ったるつぼを高周波加熱して、フィルムを4m/sの速度で走行させ、透過率モニターにてアルミニウム蒸着フィルムの透過率が10%となるように投入電力を調節して蒸発量を設定した。イオン源を上記条件で動作させて酸素イオンを照射し、蒸着部に酸素を導入して酸化アルミニウム層を形成した。この時のフィルム冷却ドラムの温度は−30℃であった。これにより、10nm厚の酸化アルミニウム層を形成した。この時の照射エネルギー密度は、0.6keV×650mA/(4m/s×1m)=98J/m2であった。イオン源の横の真空槽の壁に取り付けたB−Aゲージ式圧力計で、真空度は2×10−2Paであった。
【0053】
B.保護層塗液の調製
保護層として塗布する樹脂はアクリル系共重合体であり、アクリロニトリル(AN)、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(2−HEMA)およびメチルメタクリレート(MMA)の各モノマーをそれぞれ20:50:30の割合(質量%)で共重合したものを準備した。該共重合樹脂をメチルエチルケトン(MEK)、ピロメリット酸ジ無水物(PMDA)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)酢酸プロピル、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)およびn−プロピルアルコールの混合溶剤に溶解させて固形分濃度が6.93質量%の共重合樹脂の溶液を得た。
【0054】
3−アミノプロピルトリエトキシシランをアセトンと水の混合溶媒に混合して2時間攪拌し加水分解させ固形分比率14.8%の溶液を得た。これをDIC(株)製キシレンジイソシアネートを主成分とする硬化剤HX−75(固形分濃度75質量%)、メチルエチルケトンと混合し、固形分11.8%の溶液を得た。この溶液103.8重量部と上記アクリル系共重合樹脂の溶液 144.5重量部を混合し、固形分濃度9.0%の保護層用のコーティング液を調整した。
【0055】
C.保護層の形成
上記フィルムの酸化アルミニウム層上に、上記保護層塗液を、ロール・ツー・ロールのダイレクトグラビアコーティング機にて、59線/cm、深度64μmの格子柄のグラビアロールを使用し、速度100m/minにて酸化アルミニウム層上にコーティングを行った後、乾燥炉で乾燥を行い、厚さ0.2μmの保護層を形成し、耐湿熱性ガスバリアフィルムを作成した。乾燥時のフィルム温度はヒートラベルにて140℃になるよう乾燥条件を設定した。このフィルムのレトルト後の各種特性を測定し、表1に記載した。」
「【0059】
(実施例5)
実施例1と同様の方法で、イオン源の電圧を3kV、イオン電流1680mA、送り速度1.5m/sとした。照射エネルギー密度は858J/m2であった。耐レトルト性としては優れた特性であった。・・・」
「【0066】
【表1】



(2)甲1に記載された発明
上記(1)の記載事項を総合し、特に実施例5及び【表1】について着目すると、甲1には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「ポリエステルフィルムの少なくとも片面の表層に高速イオンの照射による改質層が設けられ、その上に金属酸化物層、保護層がこの順で設けられた耐湿熱性ガスバリアフィルムであって、
改質層を形成するための高速イオンの照射条件は、酸素80cc/min、アノード電圧3kV、アノード電流1680mA、イオンの平均エネルギーEa0.9keV、イオン電流1430mA、照射エネルギー密度858J/m2であり、
前記金属酸化物層は、酸化アルミニウム蒸着層であり、
前記保護層は、金属酸化物層の上に積層され、それ自身のガスバリア性能により金属酸化物層のピンホールなどの欠陥部分を補ってガスバリア性能をさらに強化する層であり、
135℃30分レトルト後の、酸素透過度が0.2cc/m2day・atmであり、水蒸気透過度が0.3g/m2dayである、
耐湿熱性ガスバリアフィルム。」

2 甲2について
甲2には以下の記載がある。




3 甲3について
甲3には以下の記載がある。










4 甲4について
甲4には以下の記載がある。




5 甲5について
甲5には以下の記載がある。







第5 取消理由(新規性進歩性)についての当審の判断
1 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と甲1発明とをその機能、構造又は技術的意義を考慮し対比する。
甲1発明の「ポリエステルフィルム」、「酸化アルミニウム蒸着層であ」る「金属酸化物層」、「金属酸化物層の上に積層され、それ自身のガスバリア性能により金属酸化物層のピンホールなどの欠陥部分を補ってガスバリア性能をさらに強化する層であ」る「保護層」、「耐湿熱性ガスバリアフィルム」はそれぞれ、本件発明1の「プラスチック基材」、「酸化アルミニウム蒸着膜」、「バリア性被覆層」、「バリア性を備える積層フィルム」と「バリア性積層フィルム」に相当する。

そうすると、本件発明1と甲1発明とは、以下の点で一致し、相違する。
[一致点]
「プラスチック基材の表面に酸化アルミニウムを主成分とする酸化アルミニウム蒸着膜を形成し、前記酸化アルミニウム蒸着膜の表面にバリア性被覆層が積層されてなる、バリア性を備える積層フィルム」

[相違点1]
本件発明1は「前記酸化アルミニウム蒸着膜中には、前記プラスチック基材の表面と前記酸化アルミニウム蒸着膜との密着強度を規定する遷移領域が形成されており、
該遷移領域は、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)を用いてエッチングを行うことで検出される、水酸化アルミニウムに変成する元素結合Al2O4Hを含み、
前記バリア性被覆層と前記酸化アルミニウム蒸着膜とをTOF−SIMSを用いてエッチングを行うことで規定される前記酸化アルミニウム蒸着膜に対する、TOF−SIMSを用いて規定される該変成される前記遷移領域の割合により定義される遷移領域の変成率が、5%以上、60%以下であ」るのに対し、甲1発明では、かかる構成を有するか不明である点。

[相違点2]
本件発明1は、「135℃、40分間のハイレトルト熱水処理後の、酸素透過度が0.2cc/m2・24hr/atm以下であって、水蒸気透過度が0.9g/m2・24hr以下である」のに対し、甲1発明では、「135℃30分レトルト後の、酸素透過度が0.2cc/m2day・atmであり、水蒸気透過度が0.2g/m2dayである」点。

(2)判断
ア 甲1には、金属酸化物層とポリエステルフィルムの間に水酸化アルミニウムに変成する元素結合Al2O4Hを含む領域が形成されることについて何ら記載はなく、相違点1は実質的なものであるから、本件発明1は甲1発明ではない。
イ 次に、この相違点1について、当業者が容易に想到し得るものか検討する。
(ア) 本件発明1は、「水酸化アルミニウムは、その化学構造によりプラスチック基材との密着性がよく、またそれ自体がネットワークを作り緻密なため、高い水蒸気バリア性を有する。しかし、レトルト処理のような強力な環境に対して、水酸化アルミニウムと基材との水素結合に基づく結合構造は微視的に崩れやすい。また、水酸化アルミニウムのネットワークに対しても、水分子と水酸化アルミニウムの粒界面の親和性から膜中に浸透しやすい。」(【0012】)という知見に鑑みて、「水酸化アルミニウムに変成する元素結合Al2O4Hを含み、TOF−SIMSを用いてエッチングを行うことで規定される酸化アルミニウム蒸着膜に対する、TOF−SIMSを用いて規定される該変成される遷移領域の割合により定義される遷移領域の変成率が、5%以上、60%以下とする」ことを特定したものである。
そして、本件明細書には、上記の好ましい遷移領域の変成率とするため、「酸素プラズマ前処理の処理圧力としては、1〜20Paが好ましい」(【0085】)こと、「酸素プラズマ前処理の搬送速度としては、300〜800m/minが好ましい」(【0086】)こと、「酸素プラズマ前処理としては、酸素ガスと前記不活性ガスとの混合比率、酸素ガス/不活性ガスは、6/1〜1/1が好ましく、5/2〜3/2がより好ましい」(【0092】)こと、「酸素プラズマ前処理のプラズマ強度としては、100〜1000W・sec/m2が好ましい」(【0094】)ことなど、酸素プラズマ前処理の各種条件が記載されている(以下「本件明細書での酸素プラズマ前処理条件」という。)。
他方、甲1には、ポリエステルフィルムと酸化アルミニウム蒸着層との間に形成される元素結合Al2O4Hを含む領域については記載も示唆もなく、当該領域の厚さに関しても記載も示唆もない。
よって、甲1発明において、ポリエステルフィルムと酸化アルミニウム蒸着層との間に形成される元素結合Al2O4Hを含む領域に着目し、甲1発明における高速イオンの種類として「酸素」を採用した上で、高速イオン照射による改質条件を調整して、相違点1に係る本件発明1の構成を採用する動機付けがない。
また、甲2〜甲5にも、金属酸化物層とポリエステルフィルムの間に水酸化アルミニウムに変成する元素結合Al2O4Hを含む領域が形成されることについては、記載も示唆もない。
(イ)申立人は、本件特許明細書の酸素プラズマ前処理と、甲1の同様の処理との比較において、(項目1)〜(項目6)の条件を挙げ、それらの項目の条件で甲1に本件特許明細書と同様の記載があることから、甲1発明も相違点1に係る構成を有する蓋然性が高い旨主張している(特許異議申立書24〜28ページ)。
しかし、甲1発明が本件特許明細書の記載と同様の酸素プラズマ前処理を行ったからといって、甲1発明が相違点1に係る構成、すなわち、酸化アルミニウム蒸着膜における「遷移領域の変成率が、5%以上、60%以下」の構成を備えることになるとする根拠はない。また、本件特許明細書の酸素プラズマ前処理は、申立人が主張する(項目1)〜(項目6)の条件だけではなく、例えば処理圧力(本件特許明細書の段落【0085】)によっても処理の結果が異なることは明らかである上、(項目2)、(項目5)及び(項目6)は数値範囲で示されたものであり、これらの条件の数値範囲内の数値の組み合わせにより、「遷移領域の変成率」は変化するから、(項目1)〜(項目6)の条件が重なるからといって、甲1発明が相違点1に係る構成を備えることになるとはいえない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
(ウ)上記(ア)及び(イ)のとおりであるから、甲1発明において、相違点1に係る本件発明1の構成とすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
したがって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲2〜甲5に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

2 本件発明2、9〜12について
本件発明2、9〜12は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、上記1で検討したのと同じ理由により、本件発明2、9〜12は、甲1発明ではなく、甲1発明及び甲2〜甲5に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第6 むすび
以上のとおり、請求項1、2、9〜12に係る特許は、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1、2、9〜12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2024-02-02 
出願番号 P2020-507875
審決分類 P 1 652・ 121- Y (B32B)
P 1 652・ 113- Y (B32B)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 井上 茂夫
特許庁審判官 稲葉 大紀
藤井 眞吾
登録日 2023-03-20 
登録番号 7248011
権利者 大日本印刷株式会社
発明の名称 バリア性積層フィルム及び該バリア性積層フィルムを用いた包装材料  
代理人 守安 智  
代理人 竹林 則幸  
代理人 結田 純次  

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