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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
管理番号 1407853
総通号数 27 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2024-03-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2023-09-08 
確定日 2024-02-15 
異議申立件数
事件の表示 特許第7236966号発明「電気化学反応セルスタック」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7236966号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許7236966号(以下、「本件特許」という。)の請求項1〜4に係る特許についての出願は、令和 1年 9月12日を出願日とする特願2019−166185号(以下、「本願」という。)であって、令和 5年 3月 2日にその特許権の設定登録がなされ、同年 3月10日に特許掲載公報が発行されたものであり、その後、同年 9月 8日に、その請求項1〜4(全請求項)に係る特許について、特許異議申立人である西内 大生(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1〜4に係る発明(以下、これらを「本件特許発明1」、「本件特許発明2」等という。また、これらをまとめて「本件特許発明」という。)は、本件特許の願書に添付された特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された、次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
固体酸化物を含む電解質層と前記電解質層を挟んで第1の方向に互いに対向する空気極および燃料極とを含む電気化学反応単セルと、前記電気化学反応単セルの前記空気極側および前記燃料極側の少なくとも一方に配置され、前記空気極に電気的に接続される集電部材と、を備える複数の電気化学反応単位を備える電気化学反応セルスタックにおいて、
前記複数の電気化学反応単位のうちの少なくとも1つに備えられた前記集電部材は、FeとCrとを含む導電性の基材と、前記基材の表面の少なくとも一部を覆う導電性のコートと、を備え、
前記コートは、Feを含み、かつ、前記コートにおけるFeの濃度(atm%)は、前記基材から離間するほど連続的または段階的に低くなっており、
前記コートにおけるFeの濃度(atm%)の最大値は、前記基材におけるFeの濃度(atm%)の最大値の20%以下である、
ことを特徴とする電気化学反応セルスタック。
【請求項2】
請求項1に記載の電気化学反応セルスタックにおいて、さらに、
前記少なくとも1つの前記電気化学反応単位は、前記電気化学反応単セルと前記集電部材とを接合し、Coを含む導電性の接合部を備え、
前記コートは、さらに、Coを含み、前記コートにおける前記基材側のCoの濃度(atm%)は、前記接合部におけるCoの濃度(atm%)より低い、
ことを特徴とする電気化学反応セルスタック。
【請求項3】
請求項2に記載の電気化学反応セルスタックにおいて、
前記コートは、さらに、Mnを含み、前記コートにおけるCoの濃度(atm%)は、前記コートにおけるMnの濃度(atm%)の70%以上である、
ことを特徴とする電気化学反応セルスタック。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の電気化学反応セルスタックにおいて、
前記コートは、さらに、MnとCoとを含む、
ことを特徴とする電気化学反応セルスタック。」

第3 特許異議申立理由の概要
申立人は、次の甲第1号証〜甲第18号証(以下、それぞれ「甲1」〜「甲18」という。)を提出し、以下の1〜3の特許異議申立理由を主張している。

(証拠方法)
甲1:Fatemeh Saeidpour, 他2名, "Effect of Zro2 particles on oxidation and electrical behavior of Co coatings electroplated on ferritic stainless steel interconnect", Corrosion Science, 2019年(平成31年) 3月26日, Volume 153(2019), p.200-212
甲2:国際公開第2016/152924号
甲3:特開2010−062145号公報
甲4:本件特許の審査経過で発行された拒絶査定謄本(令和 4年 9月14日起案)
甲5:本件特許の審査経過で提出された手続補正書(令和 4年12月 8日提出)
甲6:本件特許の審査経過で発行された拒絶理由通知書(令和 4年 1月 7日起案)
甲7:本件特許の審査経過で提出された意見書(令和 4年 3月 8日提出)
甲8:特開2011−099159号公報
甲9:特開2012−204008号公報
甲10:特開2016−189243号公報
甲11:特開2018−156916号公報
甲12:特開2019−087370号公報
甲13:特開2016−115506号公報
甲14:特開2016−072213号公報
甲15:特開2006−024436号公報
甲16:特表2009−542899号公報
甲17:特開2009−289707号公報
甲18:再公表特許2015/068223号

1 申立理由1(進歩性
本件特許発明1は、甲1に記載された発明、甲1に記載された発明及び甲2に記載された事項、又は、甲1に記載された発明及び慣用技術に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許発明1に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

本件特許発明2は、甲1に記載された発明及び甲3に記載された事項、甲1に記載された発明並びに甲2及び甲3に記載された事項、又は、甲1に記載された発明並びに甲3に記載された事項及び慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許発明2に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

2 申立理由2(サポート要件)
本件特許発明1〜4は、コートにおけるFeの濃度の最大値や濃度の減少割合が規定されておらず、本件特許発明1〜4の課題を解決できない範囲を含んでいるため、本件特許の請求項1〜4に記載された範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
よって、本件特許の請求項1〜4の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえず、特許法第36条第6項第1号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

3 申立理由3(明確性要件)
本件特許の請求項1の「コートにおけるFeの濃度(atm%)の最大値は、前記基材におけるFeの濃度(atm%)の最大値の20%以下である」との構成は、Feの濃度(atm%)の具体的な数値範囲が特定されておらず、また、当該Feが熱拡散によりコートに拡散されたものをも含むか否かが明確ではないので、請求項1に係る発明の発明特定事項の特定及び技術的範囲を認定する際に、当業者に不測の不利益を与えることは明らかである。請求項1を引用する請求項2〜4も同様である。
よって、本件特許の請求項1〜4の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず、特許法第36条第6項第2号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

第4 当審の判断
上記申立理由1〜3はいずれも採用できない。その理由は以下のとおりである。
1 申立理由1(進歩性)について
(1)甲1の記載事項及び甲1に記載された発明
ア 甲1の記載事項
甲1には次の記載がある。(日本語訳は当審で作成した。なお、各甲号証に記載された発明の認定に関連する箇所には、当審で下線を付した。また、・・・は省略を表す。以下、同じ。)
(ア)「Abstract
The application of protective coatings has been proposed to overcome the difficulties in utilizing ferritic stainless steels as interconnects. Co and Co/ZrO2 coatings are electroplated onto Crofer22APU, and their oxidation and electrical behavior are evaluated in this paper. Cyclic oxidation is done in laboratory air at 800 ℃ for 500 h, oxidation rates and oxide layer microstructures are examined. SEM-EDS and XRD investigations exhibit the thicknesses of Cr2O3 scale, and oxidation rates are decreased for Co/ZrO2 coated steels relative to Co-coated and uncoated steels. The ASR value of the Co/ZrO2 coated steel is 14.5 mΩ cm2 after cyclic oxidation at 800 ℃.」
(当審訳:要約
フェライト系ステンレス鋼をインターコネクタとして利用する際の困難を克服するために、保護コーティングの適用が提案されている。本論文では、Co及びCo/ZrOコーティングがCrofer22APU上に電気めっきされ、その酸化及び電気的挙動が評価された。実験室の空気中で、800℃で500時間、周期酸化を行い、酸化速度と酸化層の微細構造を調べた。SEM−EDS及びXRD調査により、Cr2O3スケールの厚さが判明した。そして、Co/ZrO被覆鋼の酸化速度は、Co被覆鋼及び非被覆鋼に比べて減少した。Co/ZrO被覆鋼のASR値は、800℃での繰り返し酸化後、14.5mΩcm2であった。)

(イ)「In spite of these benefits, the development of surface oxide layers over time increases the electrical resistance of the FSS interconnect [8-10]. Furthermore, the evaporation of Cr in the form of Cr02(OH)2 from the interconnect steel into the electrolyte-cathode gas interface, which can deposit on the SOFC cathode and electrolyte, leads to the performance degradation in SOFC stacks [7].」(200ページ左欄18〜24行目)
(当審訳:これらの利点があるにもかかわらず、時間の経過とともに表面酸化物層が形成されると、フェライト系ステンレス鋼(FSS)インターコネクタの電気抵抗が増大する[8−10]。さらに、インターコネクタ鋼から電解質−カソード・ガス界面に、CrO2(OH)2の形態でCrが蒸発して、SOFCカソード及び電解質上に蒸着する可能性があり、これによりSOFCスタックの性能が低下する[7]。)

(ウ)「


(当審訳:表1 Crofer22APUステンレス鋼の化学組成)

(エ)「In the present work, Co and Co-Zr02 coatings are fabricated on Crofer 22 APU by using electroplating technique. The oxidation resistance and area specific resistance (ASR) of the Co and Co-Zr02 coated steels were likewise evaluated by an effort to exhibit the effect of Zr02 on the properties of the coating.」(201ページ左欄3〜7行目)
(当審訳:本研究では、電気メッキ法を用いてCrofer22APU上に、CoコーティングとCo−ZrO2コーティングを施す。ZrO2がコーティングの特性に及ぼす影響を示す試みにより、Coコーティング鋼及びCo−ZrO2コング鋼の耐酸化性及び面積当たりの抵抗(ASR)を同様に評価した。)

(オ)「2. Materials and experimental methods
Crofer 22APU stainless steel sheet, manufactured by ThyssenKrupp VDM GmbH (the chemical compositions are listed in Table 1), was used as a metallic substrate for electrodeposition. Crofer 22 APU sheet was wire-cut into 10 × 10 mm2 samples and total thickness was 2 mm. The surfaces of all the samples were ground with 240-2500 grit SiC paper, washed in distilled water and then degreased with acetone in an ultrasonic cleaner for 20 min. Before the electroplating process, the specimens were weighed and, then, pickled in a 5% HNO3 and 25% HCl solution for 2 min to activate the surface. Afterward, they were electroplated in a plating bath with 90 g/l of CoCl2・6H2O and 90 ml/1 of 37% HCl to form a very thin strike layer of Co before the coating step. The strike detaches the natural oxide scale from the surface of the sample and, then, creates a Co layer with a very thin thickness and improves the adhering of the following coating layers [19].
The samples were coated by using electroplating technique with pure Co and Co/ZrO2 coatings at 45℃ for 15 min. Electroplating was performed in a modified Watts bath with composition and operating conditions shown in Table 2. For electroplating processes, Crofer 22 APU (cathode) was located uprightly inside the bath, parallel to unadulterated Co (anode). The ZrO2 particles were scattered in the bath with a magnetic stirrer during electroplating. All the tests were performed in 100 ml of electrolytes made ready by deionized water. The particle size of ZrO2 in deposition bath was measured by a light phase scatter analyzer (Zetasizer-Vasco3). To modify the electrolyte pH, NH4OH or 20 vol% H2SO4 was utilized. The space between Crofer 22APU and unadulterated Co was 3 cm and the anode to cathode surface proportion was 2, so that the polarization effect was decreased [21].
After electrodeposition, the cyclic oxidation tests of uncoated, Co-coated and Co/Zr02-coated steels were conducted in a box furnace with a dry static laboratory air atmosphere. Cyclic thermal oxidation tests were also performed for up to 20 cycles. Every cycle included a 25h duration at 800℃ followed by 20 min of cooling at 25℃. The heating rate was about 5℃/min and cooling rate was almost 25℃/min for oxidation tests. Fig. 1 Shows thermal cycle diagram with data on thermal transients for oxidation test for three cycle.」(201ページ8〜43行目)
(当審訳:2.材料と実験方法
ThyssenKrupp VDM GmbH製のCrofer22APUステンレス鋼シート(化学組成を表1に示す)を、電着用の金属基板として使用した。Crofer22APUシートを10×10mm2のサンプルにワイヤーカットし、総厚さを2mmとした。すべてのサンプルの表面を240〜2500グリットのSiC紙で研磨し、蒸留水で洗浄し、超音波洗浄機を用い、アセトン中で20分間脱脂した。電気めっきプロセスの前に、試験片の重量を測定し、5%HNO3と25%HCl溶液に2分間浸漬して表面を活性化した。その後、これらを90g/lのCoCl2・6H2O及び90ml/lの37%HClを含むメッキ浴中で電気メッキして、コーティングステップの前に非常に薄いCoのストライク層を形成した。ストライクによりサンプルの表面から自然酸化スケールが剥離され、非常に薄いCo層が形成され、その後のコーティング層の密着性が向上する[19]。
サンプルは、電気めっき技術を使用して、純粋なCo及びCo/ZrO2コーティングを45℃で15分間コーティングした。電気めっきは、表2に示す組成と操作条件を備えた改造ワット浴で実行された。電気めっきプロセスでは、Crofer22APU(カソード)を浴内に、混じりのないCo(アノード)と平行に直立して配置した。ZrO2粒子は、電気めっき中にマグネチックスターラーを使用して浴内に散布された。すべてのテストは、脱イオン水で準備された100mlの電解液中で実行された。析出浴中のZrO2の粒子サイズは、光位相散乱分析装置(Zetasizer−Vasco3)によって測定された。電解質のpHを変更するには、NH4OHまたは20vol%H2SO4を使用した。Crofer22APUと純粋なCoの間の間隔は3cmで、アノードとカソードの表面比率は2であったため、分極効果は減少した[21]。
電着後、乾燥した静的な実験室空気雰囲気の箱型炉内で、コーティングされていない鋼、Coコーティングされた鋼、及びCo/ZrO2コーティングされた鋼の繰り返し酸化試験を行った。繰り返し熱酸化試験も、最大20サイクル行った。各サイクルでは、800℃で25時間持続させ、次いで25℃で20分間冷却させた。酸化試験の場合、加熱速度は約5℃/分、冷却速度はほぼ25℃/分であった。図1は、3サイクルの酸化試験の熱過渡現象に関するデータを含む、熱サイクル図を示している。)

(カ)「


(当審訳:Crofer22APUへのCo及びCo/Zr2の電気めっきの組成と動作条件)

(キ)「


(当審訳:3サイクルの酸化試験の熱過渡現象に関するデータを含む、熱サイクル図)

(ク)「


(当審訳:図5.Coコーティングされた試料(a、b)及びCo/ZrO2コーティングされた試料(c、d)のSEM断面像とEDSラインスキャン)

(ケ)「Fig. 5 shows SEM cross-section images with EDS line scan of the Co-coated (Fig. 5a, b) and Co/ZrO2-coated (Fig. 5c, d) samples. These coatings were electroplated with the unvarying thicknesses of approximately 5μm and adhered to the Crofer 22APU substrate well with no cracks or separation in the direction of the interface, although a few small cracks can be seen in the interface of Co-coating and substrate.」(204ページ5〜10行目)
(当審訳:図5は、Coコーティングされた試料(図5a、図5b)及びCo/ZrO2コーティングされた試料(図5c、図5d)のSEM断面像を、EDSラインスキャンと共に示す。これらのコーティングは、約5μmの一定の厚さで電気メッキが施されており、界面方向に亀裂または剥離を生じることなくCrofer22APU基板に良好に付着していたが、Coコーティングと基板との界面にはわずかな小亀裂が見られる。)

(コ)「


(当審訳:図9 800℃で500時間繰り返し酸化試験を実施した後の、コーティングされていない試料(図中a、b)、Coコーティングされた試料(図中c、d)、及びCo/ZrO2コーティングされた試料(図中e、f)のSEM断面像及びEDSラインスキャン)

(サ)「Fig.9c and d show the polished cross-sectional images and elements line scan of the Co-coated Crofer 22 APU after 500h cyclic oxidation in laboratory air at 800℃. Oxide layer composed on the Co-coated Crofer 22 APU included the internal layer of Cr-rich oxide with Co oxide and Co-Mn spinle layer on the external surface, corresponding to other studies [22, 29]. Fig. 9c shows that the external Co spinel layer was stuck to the internal Cr203 layer. But, the entire surface oxide layer adhering to the substrate appeared to be weak. In Co/Zr02-coated sample, as shown in Fig. 7e and f, the surface oxide layer consisted of a twofold oxide layer with the composition similar to the oxide scale created on the surface of Co-coated sample. XRD analysis (Fig. 8b, c) also verified that the compositions of the surface oxide scales created on the Co-coated and Co/Zr02-coated samples were similar. Fig. 9e shows that the external Co spinel layer was excellently stuck to the internal Cr2O3・layer. Furthermore, the entire surface oxide layer adhering to the substrate appeared to be intense.」(207ページ右欄4行目〜208ページ左欄5行目)
(当審訳:図9c及び図9dは、800℃の実験室空気中で500時間繰り返し酸化した後の、CoコーティングされたCrofer22APUの研磨された断面像及び元素ラインスキャンを示す。CoコーティングされたCrofer22APU上に構成された酸化物層は、Crリッチ酸化物を内部層に、Co酸化物とCo−Mnスピネル層とを外部表面に、含んでおり、他の研究[22,29]の結果と一致した。図9cは、外部のCoスピネル層が内部のCr2O3層に固着していることを示す。しかし、全面酸化物層は、基板への付着が弱いように思われた。
Co/ZrO2コーティング試料では、図7e及び図7fに示すように、表面酸化物層は、Coコーティング試料の表面に形成された酸化物スケールと同様の組成を有する2重の酸化物層から構成されていた。XRD分析(図8b、図8c)ではまた、Coコーティングされた試料上及びCo/ZrO2コーティングされた試料上に形成された表面酸化物スケールの組成が類似していることが確認された。図9eは、外部のCoスピネル層が、内部のCr2O3層に良好に固着していることを示す。さらに、酸化物層の全体は、基板への付着が強いように思われた。)
(当審注:207ページ右欄8行目の「Co-Mn spinle layer」は、「Co-Mn spinel layer」の明らかな誤記である。)

(シ)「The Cr2O3 layer with approximately 2.0 μm thickness was created on the uncoated sample after 500 h oxidation (Fig. 9a), but the internal Cr2O3 layer developed on the Co-coated sample (Fig. 9c) was only around 1.5 μm, exhibiting that the creation of the external Co3O4 and MnCo2O4 spinel layer decreased the development rate of the internal Cr2O3 scale. It is apparently indicated that the external spinel layer has not only limited the outward diffusion of Cr but also repressed the inward diffusion of O, finally resulting in the lower development rate of the internal Cr2O3 scale on Co-coated Crofer 22APU [22,30]. The Cr2O3 layer on the Co/ZrO2-coated sample (Fig. 9e) had thickness of about 800 nm. This was remarkably thinner than the one on the uncoated and Co-coated steels, showing that the incorporation of ZrO2 particles into Co coating decreased the development rate of a Cr2O3 layer on Crofer 22APU, whereas it was placed in SOFC cathode-related situations.」(208ページ左欄6〜19行目)
(当審訳:厚さ約2.0μmのCr2O3層が、500時間の酸化後にコーティングされていないサンプル上に形成された(図9a)が、Coコーティングされたサンプル上に発達した内部Cr2O3層(図9c)は、わずか約1.5μmであり、外部のCo3O4及びMnCo2O4スピネル層の生成により、内部のCr2O3スケールの発達速度が減少した。明らかに、外部スピネル層は、Crの外向き拡散を制限するだけでなく、Oの内向き拡散も抑制し、最終的にはCoコーティングされたCrofer22APUの内部Cr2O3スケールの発達速度が低下することを示している[22,30]。Co/ZrO2コーティングサンプル上のCr2O3層(図9e)の厚さは、約800nmであった。これは、コーティングされていない鋼及びCoコーティングされた鋼のものよりも著しく薄く、CoコーティングへのZrO2粒子の組み込みにより、Crofer22APU上のCr2O3層の発達速度が低下するのに対し、SOFCカソード関連の状況に置かれたことを示している。)

(ス)「A slow growth rate of the Cr2O3 layer is beneficial due to the fact that Cr2O3 has a low electrical conductivity and causes electrical missing of the SOFC systems. The electric conductivity of Cr2O3 is 0.022 S cm-1 at 800 ℃ [16], which is considerably lesser than the one of Co oxides (6.7 6.7 and 60 S cm-1 [29]. Therefore, the thickness of the Cr2O3 layer is anticipated to be the most important ingredient for the electrical resistance of the sample [31]. The thickness of the Cr2O3 layer is anticipated to be proportionate with electrical conductivity, supposing a consistent conductivity of the oxide; it has been shown that the ASR of FSSs electroplated with Co is an approximately linear function of the Cr2O3 layer thickness [32]. A thin Cr2O3 layer is also advantageous since the danger of spallation increases by increasing oxide layer thickness. The spallation of the protective Cr2O3 layer may result in both increased Cr evaporation and creation of non-protective iron oxides. A higher boundary for suitable Cr2O3 layer thickness is about 10 μm in many cases because the danger of oxide spallation and the electrical resistance becomes large above that thickness in a manner that is not acceptable [33].」(208ページ左欄40行目〜右欄11行目)
(当審訳:Cr2O3層の成長速度が遅いことは、Cr2O3の導電率が低く、SOFCシステムの電気的損失を引き起こすという事実により有益である。Cr2O3の電気伝導度は800℃で0.022Scm−1[16]、これはCo酸化物の電気伝導度(6.7±6.7及び60Scm−1[29])よりもかなり小さい。したがって、Cr2O3層の厚さは、サンプルの電気抵抗にとって最も重要な成分であると予想される[31]。酸化物の導電率が一貫していると仮定すると、Cr2O3層の厚さは導電率に比例すると予想される。Coで電気めっきされたFSSのASRは、Cr2O3層の厚さのほぼ線形関数であることが示されている[32]。酸化物層の厚さが増すと剥離の危険性が高まるため、薄いCr2O3層はさらに有利である。保護Cr2O3層の剥離により、Crの蒸発が増加し、非保護酸化鉄が生成される可能性がある。適切なCr2O3層の厚さの上限は、多くの場合約10μmである。これは、その厚さを超えると酸化物の剥離の危険性と電気抵抗が許容できないほど大きくなるためである[33]。)

(セ)「4. Conclusions
・Well adherent Co/ZrO2 coatings were electroplated on the ferritic stainless steel Crofer 22APU.
・The potential of Co and Co/ZrO2 to function as protective coatings on Crofer 22APU stainless steel was evaluated via cyclic oxidation tests.
・The Co/ ZrO2 coating decreased the Cr2O3 layers' thickness from about 2.0 μm on uncoated steel and around 1.5 μm on Co-coated sample to 〜800 nm after 500 h oxidation in laboratory air at 800℃.
・The Co/ZrO2 coatings could decrease the oxidation rates of the steel during exposure to laboratory air at 800℃ after 100-500h of oxidation, as compared to the uncoated and Co-coated samples.
・ASR of the uncoated and coated Crofer 22APU steels was measured in the temperature range of 650-800 ℃, which revealed a semiconductor behavior.
・ASR evaluations at 800℃ in laboratory air exhibited that the lowest ASR values were acquired for the Co/ZrO2-coated steels and was equal to 14.5 mΩ cm2 at 800 ℃ after 500 h cyclic oxidation in laboratory air.」(211ページ左欄30行目〜右欄16行目)
(当審訳:4.結論
・フェライト系ステンレス鋼Crofer22APUに、密着性の高いCo/ZrO2コーティングを電気めっきした。
・Co及びCo/ZrO2がCrofer22APUステンレス鋼の保護コーティングとして機能する可能性が、周期酸化試験によって評価された。
・Co/ZrO2コーティングは、800℃の実験室空気中で500時間酸化した後、Cr2O3層の厚さを、未コーティング鋼の約2.0μm、Coコーティングサンプルの約1.5μmから、約800nmまで減少させた。
・Co/ZrO2コーティングは、コーティングされていないサンプルやCoコーティングされたサンプルと比較して、100〜500時間酸化した後、800℃の実験室の空気にさらされた鋼の酸化速度を低下させることができた。
・コーティングなし及びコーティング済みのCrofer22APU鋼のASRを650〜800℃の温度範囲で測定し、半導体の挙動を明らかにした。
・実験室空気中800℃でのASR評価では、Co/ZrO2コーティングされた鋼で最も低いASR値が得られ、実験室空気中での500時間の繰り返し酸化後、800℃で14.5mΩcm2に等しいことが示された。)

イ 甲1に記載された発明
甲1の図9fによれば、「Co/ZrO2コーティング」が以下の事項を備えることを看取することができる。
(ア)「Co/ZrO2コーティング」がFeを含むこと。
(イ)「Co/ZrO2コーティング」中のFeの濃度は、「Crofer22APUステンレス鋼」から離間するほど連続的に低くなっていること。
(ウ)縦軸の目盛りで比較すると、「Crofer22APUステンレス鋼」のFeの濃度の最大値はおよそ100であり、「Co/ZrO2コーティング」のFeの濃度の最大値はおよそ20であること。
よって、上記ア(ア)〜(セ)に摘記した甲1の記載事項を総合勘案し、特に、図9e、fに示されるCo/ZrO2コーティングされた試料に着目すると、甲1にはSOFCスタックのインターコネクタに用いられる試験用試料に係る次の発明が記載されていると認められる。

「重量%で、C:0.01、Cr:22.7、Mn:0.38、Si:0.02、Ni:0.02、Al:0.02、Ti:0.07、La:0.06、残部Feを含むCrofer22APUステンレス鋼を、10×10mm2、総厚さ2mmとなるようにワイヤーカットし、
表面を240〜2500グリットのSiC紙で研磨し、蒸留水で洗浄し、超音波洗浄機を用いアセトンで20分間脱脂した後、
5%HNO3と25%HCl溶液に2分間浸漬して表面を活性化した後、
90g/lのCoCl2・6H2O及び90ml/lの37%HClを含むメッキ浴中で電気メッキして、非常に薄いCoのストライク層を形成した後、
電気めっき技術を使用して、Co/ZrO2コーティングを、CoSO4.7H2O100g/L、CoCl2・6H2O10g/L、H3BO320g/L、ZrO220g/L、pH3、45℃の条件で15分間コーティングすることにより作製した、SOFCスタックのインターコネクタに用いられる試験用試料に対して、
乾燥した静的な実験室空気雰囲気の箱型炉内で、800℃で25時間持続させ、次いで25℃で20分間冷却させることを1サイクルとして、20サイクルの繰り返し酸化試験を実施した、試験用試料であって、
EDSを用いた元素分析によるCo/ZrO2コート層におけるFeの濃度が、Crofer22APUステンレス鋼から離間するほど連続的に低くなっており、
Co/ZrO2コート層におけるFeの濃度の最大値が、Crofer22APUステンレス鋼におけるFeの濃度の最大値の概ね20%であり、
ASR(面積比抵抗)が14.5mΩcm2である、
試験用試料。」(以下、「甲1発明」という。)

(2)甲2の記載事項及び甲2に記載された技術的事項
ア 甲2の記載事項
甲2には、「電気化学反応単位および燃料電池スタック」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
(ア)「[0001] 本明細書によって開示される技術は、電気化学反応単位に関する。
[0002] 水素と酸素との電気化学反応を利用して発電を行う燃料電池の種類の1つとして、固体酸化物を含む電解質層を備える固体酸化物形の燃料電池(以下、「SOFC」ともいう)が知られている。SOFCの発電の最小単位である燃料電池発電単位(以下、単に「発電単位」ともいう)は、電解質層と電解質層を挟んで互いに対向する空気極および燃料極とを含む単セルと、単セルで発生した電力を集めるために単セルの空気極側および燃料極側のそれぞれに配置される導電性の集電部材とを備える。一般に、単セルの空気極側に配置される集電部材は、空気極に向けて突出する突出部を有する。空気極と集電部材の突出部とが導電性の接合層によって接合されることにより、空気極と集電部材とが電気的に接続される。」

(イ)「[0005] 集電部材の突出部における角部は、突出部における角部以外の部分と比較して、より多くの表面を有している。また、突出部を覆うコートの厚さは、突出部における角部の位置で薄くなりやすい。そのため、集電部材の突出部における角部では、突出部における角部以外の部分と比較して、Cr拡散が発生しやすい。そのため、集電部材の突出部の角部付近では、突出部から放出されたCrが接合層内部へ進入することによる接合層の導電性低下や空気極の電極反応速度低下が発生しやすい。上記従来技術では、このような接合層の導電性低下や空気極の電極反応速度低下を十分に抑制できないという問題がある。
[0006] なお、このような問題は、水の電気分解反応を利用して水素の生成を行う固体酸化物形の電解セル(以下、「SOEC」ともいう)の最小単位である電解セル単位にも共通の課題である。なお、本明細書では、発電単位と電解セル単位とをまとめて電気化学反応単位と呼ぶ。」

(ウ)「[0019] 燃料電池スタック100は、所定の配列方向(本実施形態では上下方向)に並べて配置された複数の燃料電池発電単位(以下、単に「発電単位」ともいう)102と、複数の発電単位102を上下から挟むように配置された一対のエンドプレート104,106とを備える。図1に示す燃料電池スタック100に含まれる発電単位102の個数は、あくまで一例であり、発電単位102の個数は燃料電池スタック100に要求される出力電圧等に応じて適宜決められる。なお、上記配列方向(上下方向)は第1の方向に相当する。」

(エ)「[0023] (発電単位102の構成)
図2から図5は、発電単位102の構成を概略的に示す説明図である。図2には、図1、図4および図5のII−IIの位置における発電単位102の断面構成を示しており、図3には、図1、図4および図5のIII−IIIの位置における発電単位102の断面構成を示しており、図4には、図2のIV−IVの位置における発電単位102の断面構成を示しており、図5には、図2のV−Vの位置における発電単位102の断面構成を示している。なお、図2および図3には、一部の断面を拡大して示している。
[0024] 図2および図3に示すように、発電の最小単位である発電単位102は、単セル110と、セパレータ120と、空気極側フレーム130と、空気極側集電体134と、燃料極側フレーム140と、燃料極側集電体144と、発電単位102の最上層および最下層を構成する一対のインターコネクタ150とを備えている。セパレータ120、空気極側フレーム130、燃料極側フレーム140、インターコネクタ150のZ軸周りの周縁部には、上述したボルト22が挿入される貫通孔108に対応する孔が形成されている。
[0025] インターコネクタ150は、方形の平板形の導電性部材であり、例えばフェライト系ステンレス等のCr(クロム)を含む金属により形成されている。インターコネクタ150は、発電単位102間の電気的導通を確保すると共に、発電単位102間でのガスの混合を防止する。なお、1つのインターコネクタ150は、2つの発電単位102に共用されている。すなわち、ある発電単位102における上側のインターコネクタ150は、その発電単位102の上側に隣接する他の発電単位102における下側のインターコネクタ150と同一部材である。また、燃料電池スタック100は一対のエンドプレート104,106を備えているため、燃料電池スタック100において最も上に位置する発電単位102における上側のインターコネクタ150、および、最も下に位置する発電単位102における下側のインターコネクタ150は省略可能である。
[0026] 単セル110は、電解質層112と、電解質層112を挟んで上下方向に互いに対向する空気極114および燃料極116とを備える。なお、本実施形態の単セル110は、燃料極116で電解質層112および空気極114を支持する燃料極支持形の単セルである。
[0027] 電解質層112は、方形の平板形部材であり、例えば、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、ScSZ(スカンジア安定化ジルコニア)、SDC(サマリウムドープセリア)、GDC(ガドリニウムドープセリア)、ペロブスカイト型酸化物等の固体酸化物により形成されている。空気極114は、X−Y平面で見た場合に電解質層112より小さい方形の平板形部材であり、例えば、ペロブスカイト型酸化物(例えばLSCF(ランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物)、LSM(ランタンストロンチウムマンガン酸化物)、LNF(ランタンニッケル鉄))により形成されている。燃料極116は、X−Y平面で見た場合に電解質層112と同一の大きさの方形の平板形部材であり、例えば、Ni(ニッケル)、Niとセラミック粒子からなるサーメット、Ni基合金等により形成されている。このように、本実施形態の単セル110は、固体酸化物を含む電解質層112を備える固体酸化物形燃料電池(SOFC)である。」

(オ)「[請求項1] 固体酸化物を含む電解質層と、前記電解質層を挟んで第1の方向に互いに対向する空気極および燃料極と、を含む単セルと、
前記単セルの前記空気極の側に配置され、前記空気極に向けて突出する突出部を有する集電部材と、
前記集電部材の表面を覆う導電性のコートと、
前記コートに覆われた前記突出部と前記空気極とを接合する導電性の接合層と、を備える電気化学反応単位において、
前記突出部の前記第1の方向に平行な少なくとも1つの断面において、前記コートに覆われた前記突出部は、前記接合層に覆われた被覆部分と、前記コートに覆われた前記突出部の角部を含む部分であって前記接合層から露出している露出部分と、を有することを特徴とする、電気化学反応単位。
・・・
[請求項9] 請求項1から請求項8までのいずれか一項に記載の電気化学反応単位において、
前記電気化学反応単位は、発電を行う燃料電池発電単位であることを特徴とする、電気化学反応単位。
[請求項10] 複数の燃料電池発電単位を備える燃料電池スタックにおいて、
前記複数の燃料電池発電単位の少なくとも1つは、請求項9に記載の電気化学反応単位であることを特徴とする、燃料電池スタック。」

(カ)「[図2]



(キ)「[図3]



イ 甲2に記載された技術的事項
上記ア(ア)〜(オ)から、甲2には、次の事項(以下「甲2に記載の技術的事項」という。)が記載されていると認められる。

「複数の燃料電池発電単位を備える燃料電池スタックにおいて、
前記複数の燃料電池発電単位の少なくとも1つは、
固体酸化物を含む電解質層と、前記電解質層を挟んで第1の方向に互いに対向する空気極及び燃料極と、を含む単セルと、
前記単セルの前記空気極の側に配置され、前記空気極に向けて突出する突出部を有する集電部材と、
前記集電部材の表面を覆う導電性のコートと、
前記コートに覆われた前記突出部と前記空気極とを接合する導電性の接合層と、
を備える電気化学反応単位が、発電を行う燃料電池発電単位である、
燃料電池スタックを構成する」技術。

(3)甲3の記載事項
甲3には、「インターコネクト用バリア皮膜、関連装置及び形成方法」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
ア 「【0039】
ある実施形態では、ボンド層(「ボンドペースト」とも言う)をインターコネクト構造と電極層間に用いて、燃料電池の性能を向上させる。ボンド層は、代表的にはインターコネクト構造と電極間により良好な電気接触を与える機能をもち、燃料電池全体の物理的一体性を高めることができる。したがって、ボンド層は電極層及びインターコネクト構造用の接合手段として用いることもできる。インターコネクト構造とカソード層間に位置するボンド層は通常「カソードボンド層」と言う。カソードボンド層の組成は、様々な要因、例えばカソード自身の組成、燃料電池に必要とされる導電性、使用するインターコネクト層のタイプ、材料の必要な接着強度、燃料電池に必要とされる熱特性、隣接する層の材料の化学的適合性などに依存する。
【0040】
多くの場合、カソードボンド層は、カソード自身の組成物と類似の組成物から形成される。特定の実施形態では、ボンド層は、電子伝導性セラミック材料、例えばペロブスカイト構造の材料の1種又は2種以上を含有する。ボンド層用の適当な材料の具体例には、La1-xSrxMnO3-δ (LSM), La1-xSrxCoO3-δ (LSC), La1-xSrxFeO3-δ (LSF), La1-xSrxCo1-yFeyO3-δ (LSCF); SrFe0.5Co0.5O3-δ, SrCo0.8Fe0.2O3-δ; La0.8Sr0.2 Co0.8Ni0.2O3-δ, La0.7Sr0.3Fe0.8Ni0.2O3-δ, La1-xMxCrO3-δ (式中M=Mg、Ca、Sr又はこれらの組合せ)、及びLaCr1-xMoxO3-δ(式中M0=Co、Ni、Al、Fe)、クロム酸ランタン(LaCrO3)、ランタンマンガネート(LaMnO3)、又はこれらの様々な組合せがあるが、これらに限らない。上記式において、添字x及びyはそれぞれ独立に0.99〜約0.01である。ある実施形態では、カソードボンド組成物はLSC又はLSM材料が好適である。(LSC又はLSM中の元素の相対割合がある程度変動することが当業者に明らかである。)
・・・」

イ「【0053】
図7には、SOFCセルの一部分180を示すとともに、セル部分の異なる層におけるEMPA200を示す。構造図180は金属製インターコネクト182、酸化物スケール層184、Mn3O4保護皮膜(バリア層)186、ボンド層188及びカソード層190を含む。EMPA図200は、Y軸202にとった構成元素の原子%を、X軸204にとった金属製インターコネクト内の1点からセルの異なる層内への垂直方向の実距離に対してプロットしたグラフである。グラフ中の異なる記号は元素をストロンチウム206、酸素208、クロム210、コバルト212、鉄214、ランタン216及びマンガン218として表示している。セル内の異なる層に対応するグラフ部分は、金属製インターコネクト220、酸化物スケール層222、保護バリア層224、ボンド層226及びカソード層228として区分されている。・・・」

ウ「【図7】



(4)本件特許発明1について
ア 甲1発明との対比
(ア)甲1発明の「Crofer22APUステンレス鋼」は、「重量%で」、「Cr:22.7」、「残部Feを含む」ものである。また、試料全体の「ASR(面積比抵抗)が14.5mΩcm2である」から、その一部である「Crofer22APUステンレス鋼」も導電性を有すると認められる。そして、「Crofer22APUステンレス鋼」の表面に「Co/ZrO2コーティング」を施し、「SOFCスタックのインターコネクタに用いられる試験用試料」として作製されるものであるから、甲1発明の「Crofer22APUステンレス鋼」は、本件特許発明1の「FeとCrとを含む導電性の基材」に相当する。

(イ)甲1発明の「Co/ZrO2コーティング」は、「電気めっき技術を使用して」「Crofer22APUステンレス鋼」上に形成されるから、「Crofer22APUステンレス鋼」の少なくとも一部を覆うものと認められる。また、試料全体の「ASR(面積比抵抗)が14.5mΩcm2である」からその一部である「Co/ZrO2コーティング」も導電性を有すると認められる。
よって、甲1発明の「Co/ZrO2コーティング」は、本件特許発明1の「前記基材の表面の少なくとも一部を覆う導電性のコート」に相当する。

(ウ)甲1発明の「Co/ZrO2コーティング」は、EDSを用いた元素分析によるCo/ZrO2コート層におけるFeの濃度が、Crofer22APUステンレス鋼から離間するほど連続的に低くなっているから、甲1発明の「Co/ZrO2コーティング」と本件特許発明1の「コート」は、「Feを含み、かつ、前記コートにおけるFeの濃度(atm%)は、前記基材から離間するほど連続的」「に低くなって」いる点で共通する。

(エ)甲1発明の「SOFCスタックのインターコネクタに用いられる試験用試料に対して、乾燥した静的な実験室空気雰囲気の箱型炉内で、800℃で25時間持続させ、次いで25℃で20分間冷却させることを1サイクルとして、20サイクルの繰り返し酸化試験を実施した、試験用試料」と、本件特許発明1の「電気化学反応セルスタック」に備えられた「複数の電気化学反応単位」に備えられた「集電部材」は、「部材」である限りで共通する。

(オ)そうすると、本件特許発明1と甲1発明とは、
「FeとCrとを含む導電性の基材と、前記基材の表面の少なくとも一部を覆う導電性のコートと、を備え、
前記コートは、Feを含み、かつ、前記コートにおけるFeの濃度(atm%)は、前記基材から離間するほど連続的に低くなっている、部材。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
本件特許発明1は、上記「部材」が「電気化学反応セルスタック」に備えられた「複数の電気化学反応単位」に備えられた「集電部材」であって、「固体酸化物を含む電解質層と前記電解質層を挟んで第1の方向に互いに対向する空気極および燃料極とを含む電気化学反応単セルと、前記電気化学反応単セルの前記空気極側および前記燃料極側の少なくとも一方に配置され、前記空気極に電気的に接続される集電部材と、を備える複数の電気化学反応単位を備える」構成を有するのに対して、甲1発明は、上記「部材」が「SOFCスタックのインターコネクタに用いられる試験用試料に対して、乾燥した静的な実験室空気雰囲気の箱型炉内で、800℃で25時間持続させ、次いで25℃で20分間冷却させることを1サイクルとして、20サイクルの繰り返し酸化試験を実施した、試験用試料」であって、上記のような構成を有さない点。

<相違点2>
本件特許発明1は「前記コートにおけるFeの濃度(atm%)の最大値は、前記基材におけるFeの濃度(atm%)の最大値の20%以下である」のに対して、甲1発明は「Co/ZrO2コート層におけるFeの濃度の最大値が、Crofer22APUステンレス鋼におけるFeの濃度の最大値の概ね20%であ」るものの、具体的に何%であるのか明確ではない点。

<相違点3>
本件特許発明1は「電気化学反応セルスタック」の発明であるのに対して、甲1発明は「SOFCスタックのインターコネクタに用いられる試験用試料」の発明である点。

イ 相違点についての判断
事案に鑑みて、まず相違点1及び3について検討する。
(ア)甲1には、相違点1及び3に係る本件特許発明1の発明特定事項が記載されていない。したがって、相違点1及び3は実質的な相違点である。

(イ)次に、相違点1及び3の容易想到性について検討すると、甲1発明は、Co/ZrO2コーティングを形成したCrofer22APUステンレス鋼の試験用試料に対して所定の「繰り返し酸化試験」を実施した試験用試料であり、その結果、図9eに示されるように、Crofer22APUステンレス鋼とCo/ZrO2コーティングの間にCr2O3の層が形成されている。(繰り返し酸化試験前の段階では、図5cに示されるように、Cr2O3の層は形成されていない。)

(ウ)ここで、上記ア(ス)で摘記した、甲1の208ページ左欄下から7行目〜右欄11行目には、「Cr2O3層の成長速度が遅いことは、Cr2O3の導電率が低く、SOFCシステムの電気的損失を引き起こすという事実により有益である。・・・酸化物層の厚さが増すと剥離の危険性が高まるため、薄いCr2O3層はさらに有利である。保護Cr2O3層の剥離により、Crの蒸発が増加し、非保護酸化鉄が生成される可能性がある。」と記載されている。当該記載によれば、内部にCr2O3の層が形成された部材がSOFCへの使用に適さないことは明らかである。

(エ)してみれば、甲1において、Crofer22APUステンレス鋼上にCo/ZrO2コーティングを施した部材をSOFCスタックのインターコネクタ(本件特許発明の「集電部材」に相当)に用いることを想定していたとしても、あえて所定の「繰り返し酸化試験」を実施し、内部にCr2O3の層が形成された甲1発明に係る試験用試料を「電気化学反応セルスタック」の「集電部材」に採用することには、阻害要因があるといえる。

(オ)以上のことから、甲1に記載された事項のほか、甲2に記載の技術的事項及び本願出願時の慣用技術を考慮したとしても、甲1発明において、上記相違点1及び3に係る本件特許発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

(カ)したがって、本件特許発明1は、甲1に記載された発明、甲1に記載された発明及び甲2に記載された事項、又は、甲1に記載された発明及び慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5)本件特許発明2について
ア 本件特許発明2は、本件特許発明1の発明特定事項をすべて含むものであるから、甲1発明と少なくとも上記相違点1、3と同様の点で相違する。

イ そうすると、甲1に記載された事項のほか、甲2及び3に記載された事項及び本願出願時の慣用技術を考慮したとしても、上記(4)のイで検討した理由と同様の理由により、本件特許発明2は、甲1に記載された発明及び甲3に記載された事項、甲1に記載された発明並びに甲2及び甲3に記載された事項、又は、甲1に記載された発明並びに甲3に記載された事項及び慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 申立理由2(サポート要件)について
(1)申立人は、特許異議申立書の26ページ9〜15行目において、本件特許発明1〜4は、コートにおけるFeの濃度の最大値や濃度の減少割合が規定されておらず、本件特許発明1〜4の課題を解決できない範囲を含んでいるため、本件特許の請求項1〜4に記載された範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないと主張している。

(2)上記主張について検討するに、本件特許発明の解決しようとする課題は、本件特許の願書に添付された明細書(以下、「本件明細書」という。)の記載(【0002】〜【0007】)によれば、「電気化学反応セルスタックに用いられる集電部材において、コートと基材との接合強度の確保と、Feに起因するコートの抵抗値の増大の抑制とを両立すること」であると認められる。

(3)そして、本件明細書には次の記載がある。
ア 「【0010】
本電気化学反応セルスタックでは、FeとCrとを含む基材の表面を覆うコートは、Feを含み、かつ、コートにおけるFeの濃度(atm%)は、基材から離間するほど低くなっている。このため、コートにおける基材側では、Feの濃度が相対的に高いことによって、コートと基材とのFeをともに含むことによる接合強度が確保される。また、コートにおける基材から離間した側では、Feの濃度が相対的に低いことによって、Feが含まれることに起因するコート全体の抵抗値の増大が抑制される。これにより、本電気化学反応セルスタックによれば、コートにおけるFeの濃度が均一である構成に比べて、コートと基材との接合強度の確保と、Feに起因するコートの抵抗値の増大の抑制とを両立することができる。」

イ 「【0016】
本電気化学反応セルスタックでは、コートにおけるFeの濃度(atm%)の最大値は、基材におけるFeの濃度(atm%)の最大値の20%以下である。このため、本電気化学反応セルスタックによれば、コートにおける基材側のFeの濃度が、基材におけるFeの濃度の最大値の20%より高い構成に比べて、Feに起因するコートの抵抗値の増大を抑制することができる。」

(4)上記(3)で摘記したとおり、本件特許の請求項1に記載された「前記コートは、Feを含み、かつ、前記コートにおけるFeの濃度(atm%)は、前記基材から離間するほど連続的または段階的に低くなって」いる構成及び「前記コートにおけるFeの濃度(atm%)の最大値は、前記基材におけるFeの濃度(atm%)の最大値の20%以下である」構成を備えてさえいれば、コートにおけるFeの濃度の最大値や濃度の減少割合が規定されていないとしても、「電気化学反応セルスタックに用いられる集電部材において、コートと基材との接合強度の確保と、Feに起因するコートの抵抗値の増大の抑制とを両立する」という課題は解決できるものと認められる。請求項1を直接又は間接的に引用し、上記構成を全て含む請求項2〜4も同様である。

(5)よって、申立人の主張には理由がない。

3 申立理由3(明確性要件)について
(1)申立人は、特許異議申立書の31ページ10〜15行目において、本件特許の請求項1の「コートにおけるFeの濃度(atm%)の最大値は、前記基材におけるFeの濃度(atm%)の最大値の20%以下である」との構成は、(i)Feの濃度(atm%)の具体的な数値範囲が特定されておらず、また、(ii)当該Feが熱拡散によりコートに拡散されたものをも含むか否かが明確ではないので、請求項1に係る発明の発明特定事項の特定及び技術的範囲を認定する際に、当業者に不測の不利益を与えることは明らかであると主張している。

(2)まず上記主張の(i)について検討するに、本件特許の請求項1において「前記コートにおけるFeの濃度(atm%)の最大値は、前記基材におけるFeの濃度(atm%)の最大値の20%以下である」と規定するに先だって、「前記コートにおけるFeの濃度(atm%)」の数値範囲を具体的に特定するものではなく、具体的な数値範囲が特定されていないからといって、請求項1に係る発明が不明確となるものではない。よって、主張の(i)は採用できない。

(3)つぎに上記主張の(ii)に対して検討する。上記構成(上記(1)参照。)は、「Feが熱拡散によりコートに拡散されたもの」か否かにかかわらず、本件特許の請求項1で特定される条件を満たすものであれば、請求項1に係る発明に含まれるというにすぎないから、申立人の主張によっても、請求項1に係る発明が不明確であるとはいえない。

(4)上記主張の(ii)に関して、申立人は、特許異議申立書の30ページ3〜10行目において、「特許権者は令和4年3月8日提出の意見書(甲第7号証、以下、甲7)において概ね甲3に記載された保護バリア層のFeは極めて微小で、Feの濃度が意図的にコントロールされていることを示すものではないと反論している。
しかしながら、前記「(4−3)理由2(サポート要件)」に記載のとおり、本件特許発明1はコートに極めて微量のFeを含む構成も包含するものである。また、本件特許発明1の文言上は、コートに含まれるFeが意図的にコントロールされたものか、意図せずに熱による拡散によってFeが含まれたものかが区別されていない。」と述べている。

(5)上記(4)における申立人の主張は、特許権者の反論(30ページ3〜5行目)によれば、「Feが熱拡散によりコートに拡散されたもの」は、本件特許の請求項1に係る発明から除外される」との認識を前提としたものと解される。この点について、以下、検討する。

(6)甲3には、次の記載がある。
ア 「【0003】
このような材料を用いる固体酸化物型燃料電池にもっともよく起こる問題の一つは、連続使用時に電池の性能が低下することである。・・・固体酸化物型燃料電池における性能劣化のもう一つの原因は、インターコネクトとカソード層との界面に低導電率のクロム酸ストロンチウムが生成することである。クロム酸ストロンチウムは、インターコネクト材料からのクロムと、カソード層から抜き出されるストロンチウムとの反応の結果として生成する。こうして形成されたクロム酸ストロンチウム層は、固体酸化物型燃料電池の長期もしくは間欠運転中に厚みを増加し、これにより装置の性能を劣化するおそれがある。」

イ 「【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、カソード層とインターコネクトとの間にクロム酸ストロンチウムの形成を実質的に防止できるバリア皮膜を設けることにより、上記その他の要望に応える。
【0008】
本発明の1実施形態は固体酸化物型燃料電池の製造方法である。本方法は、ストロンチウム組成物を含むカソード層をセラミック電解質層上に形成し、カソード層とその上に重なるクロム含有インターコネクト構造との間に、クロム酸ストロンチウムの形成を実質的に防止するバリア層を形成する工程を含む。
【0009】
本発明の別の実施形態は固体酸化物型燃料電池である。本固体酸化物型燃料電池は、ストロンチウム組成物を含むカソード層をセラミック電解質層上に形成し、カソード層とその上に重なるクロム含有インターコネクト構造との間に、クロム酸ストロンチウムの形成を実質的に防止するバリア層を形成する工程を含む方法で形成される。」

ウ 「【0053】
図7には、SOFCセルの一部分180を示すとともに、セル部分の異なる層におけるEMPA200を示す。・・・保護バリア層、酸化物層、又は金属製IC、酸化物層もしくはバリア層の交差部におけるストロンチウムの量はほぼ0である。このことは、バリア皮膜がボンド層及びカソードからのストロンチウムの移動を効果的に阻止したことを明示している。」

(7)上記(6)で摘記した事項によれば、甲3に記載された発明の課題は、インターコネクトとカソード層との界面に低導電率のクロム酸ストロンチウムが生成されるのを防ぐことであり、図7に示されたSOFCセルにおいては、当該課題を解決するためにバリア皮膜を形成してストロンチウムの移動を効果的に阻止する効果を奏すると認められる。

(8)そうすると、甲7の2ページ38〜44行目の「また、図7は、「バリア皮膜がボンド層及びカソードからのストロンチウムの移動を効果的に阻止したことを明示している」ものであり(同文献の段落0053)、Feの原子%が意図的にコントロールされていることを示すものでは全くありません。このことは、引用文献1に、上記本願の課題(コートと基材との接合強度の確保と、Feに起因するコートの抵抗値の増大の抑制とを両立する)について記載も示唆もされていないことからも明らかです。」という特許権者の反論は、「甲3に記載されたバリア皮膜は、ストロンチウムの移動に着目して形成されたものであって、本件特許発明のコートとは、課題や効果が異なるものである」、という意味と解するのが合理的である。

(9)以上のように、各証拠の内容や特許権者の反論の内容からすると、特許権者の反論は、「Feが熱拡散によりコートに拡散されたもの」が、本件特許の請求項1に係る発明から除外されることを述べるものとはいえないから、申立人の主張は、前提を欠くものであり、失当である。

(10)よって、申立人の主張には理由がない。

第5 むすび
以上のとおり、本件特許の請求項1〜4に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由によっては取り消すことはできず、また、他に本件特許の請求項1〜4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2024-02-05 
出願番号 P2019-166185
審決分類 P 1 651・ 121- Y (H01M)
P 1 651・ 537- Y (H01M)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 井上 猛
特許庁審判官 山口 大志
土屋 知久
登録日 2023-03-02 
登録番号 7236966
権利者 森村SOFCテクノロジー株式会社
発明の名称 電気化学反応セルスタック  
代理人 弁理士法人アルファ国際特許事務所  

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