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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C12G
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C12G
管理番号 1407868
総通号数 27 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2024-03-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2023-10-30 
確定日 2024-02-07 
異議申立件数
事件の表示 特許第7266904号発明「発泡性清酒の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7266904号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第7266904号(以下「本件特許」という。)の請求項1ないし9に係る特許についての出願は、令和3年4月23日の出願であって、令和5年4月21日にその特許権の設定登録(請求項の数9)がされ、同年5月1日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和5年10月30日に特許異議申立人 阪口 千恵子(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされ、同年12月27日に特許権者 朝日酒造株式会社(以下「特許権者」という。)から上申者が提出されたものである。

第2 本件特許発明

本件特許の請求項1ないし9に係る発明(以下「本件特許発明1」ないし「本件特許発明9」という。また、総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
発泡性清酒の製造方法であって、
酒母育成においてリンゴ酸高生産性酵母が用いられ上槽により得られた下記1の清酒と、
記1
アルコール度数:9%〜12%
日本酒度:−50〜−30
酸度:2〜4
アミノ酸度:0.5〜1.5
酵母による発酵活性を有する下記2のにごり清酒とを、
記2
アルコール度数:5%〜15%
日本酒度:−50〜−30
酸度:3〜8
アミノ酸度:0.5〜1.5
質量比で上記1の清酒:上記2のにごり清酒=98:2〜99:1の比率で混合して下記3の混合清酒を得、
記3
アルコール度数:9%〜12%
日本酒度:−50〜−30
酸度:2〜4
アミノ酸度:0.5〜1.5
この混合清酒を所定の容器に充填し該容器内で発酵させて下記4の発泡性清酒を得、
記4
アルコール度数:10%〜13%
日本酒度:−40〜−20
酸度:2〜4
アミノ酸度:0.5〜1.5
炭酸ガス含有量:3.5GV〜6GV
この発泡性清酒に殺菌処理を施すことを特徴とする発泡性清酒の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の発泡性清酒の製造方法において、前記容器は瓶であり、この瓶に充填した前記混合清酒を10℃〜20℃の温度環境下で10日〜50日間発酵させて前記発泡性清酒を得ることを特徴とする発泡性清酒の製造方法。
【請求項3】
請求項2記載の発泡性清酒の製造方法において、前記瓶内の前記発泡性清酒に前記殺菌処理を施した後、0℃〜5℃の温度環境下で5日〜15日間前記瓶を逆さ状態にして該瓶内に存する澱を瓶口側に集積させ、この瓶口側に集積させた前記澱を除去することを特徴とする発泡性清酒の製造方法。
【請求項4】
請求項3記載の発泡性清酒の製造方法において、前記澱を除去した後、この澱除去により目減りした分の前記発泡性清酒を補充することを特徴とする発泡性清酒の製造方法。
【請求項5】
請求項1記載の発泡性清酒の製造方法において、前記容器は貯蔵タンクであり、この貯蔵タンクに充填した前記混合清酒を15℃〜25℃の温度環境下で10日〜50日間発酵させて前記発泡性清酒を得ることを特徴とする発泡性清酒の製造方法。
【請求項6】
請求項5記載の発泡性清酒の製造方法において、前記貯蔵タンク内で前記発泡性清酒を得た後、前記温度環境を−5℃程度まで低下させて前記貯蔵タンク内に存する澱を該貯蔵タンクの底側に沈降させることを特徴とする発泡性清酒の製造方法。
【請求項7】
請求項6記載の発泡性清酒の製造方法において、前記澱を前記貯蔵タンクの底側に沈降させた後、前記発泡性清酒をろ過し、このろ過した発泡性清酒を瓶に充填し、この瓶に充填した発泡性清酒に前記殺菌処理を施すことを特徴とする発泡性清酒の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7いずれか1項に記載の発泡性清酒の製造方法において、前記清酒はグルコース濃度が4%〜7%であることを特徴とする発泡性清酒の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8いずれか1項に記載の発泡性清酒の製造方法において、前記殺菌処理は、加熱温度:65℃以上、加熱時間:5分以上の加熱処理であることを特徴とする発泡性清酒の製造方法。」

第3 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要

令和5年10月30日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。

1 申立理由1(甲第1号証に基づく進歩性
本件特許の請求項1ないし9に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

2 申立理由2(甲第2号証に基づく進歩性
本件特許の請求項1ないし9に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

3 申立理由3(甲第3号証に基づく進歩性
本件特許の請求項1ないし9に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第3号証に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

4 申立理由4(明確性
本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対して特許されたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。

・請求項1において「リンゴ酸高生産性酵母」なる用語が用いられているが、この用語の意義が明確でない。特に「リンゴ酸高生産性」とはどの程度のリンゴ酸生産性を意味するのか明確でない。明細書には「リンゴ酸高生産性酵母」の定義が記載されておらず、具体例も示されていない。実施例においても何の酵母を使用したのか具体的な記載がない。「リンゴ酸高生産性酵母」なる用語は、学術用語として確立しておらず、無定義で使用できるものではないと思料する。
請求項2ないし9の記載についても同様である。

5 申立理由5(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対して特許されたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。

・本件特許発明の課題は、「芳醇な甘さと爽やかな酸味を有し、日本酒感を有しながらも飲み易い酒質の発泡性清酒を得ることができる発泡性清酒の製造方法を提供する」(【0005】)ことと解される。そして、その課題解決のためには、得られる発泡性清酒のリンゴ酸濃度が高いことが必須である。しかし、請求項1では「下記4の発泡性清酒」のリンゴ酸濃度が規定されておらず、請求項1は課題解決のための必須構成を欠いている。また、「下記1の清酒」(ベース酒)の製造時に「酒母育成においてリンゴ酸高生産性酵母を用いる」だけで、上記課題を解決できる発泡性清酒を必ず製造できるのかについて、「リンゴ酸高生産性酵母」の意義が明確でない点も相まって、その根拠が不明である。
請求項2ないし9の記載についても同様である。

6 証拠方法
甲第1号証:特開2017−184656号公報
甲第2号証:石垣浩佳 工藤晋平 松田義弘 大原武久 小関敏彦、「酵母ブレンド発酵法によるコクのある発泡清酒の開発」、山形県工業技術センター報告、山形県工業技術センター発行、No.40(2008)、第46−49頁、2009年1月発行
甲第3号証:特開2018−174709号公報
甲第4号証:特開2019−180278号公報

なお、証拠の表記は、特許異議申立書の記載におおむね従った。以下、順に「甲1」のようにいう。

第4 当審の判断

1 申立理由1(甲1に基づく進歩性)について
(1)甲1に記載された事項等
ア 甲1に記載された事項
甲1には、「発泡性清酒の製造方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。

・「【請求項1】
米、水及び米麹を原材料とし、上槽により得られた日本酒度が−60〜−40及び酸度が4〜6の範囲である清酒と、酵母を含み醗酵活性のある醪を粗漉して得られた懸濁清酒とを、混合体積比率30:1〜45:1で混合した混合清酒を、密閉した容器内で10〜25℃で二次発酵させ、炭酸ガスを発生させた後、前記容器内部の滓を、容器口部を下にすることにより前記容器口部に集積させ、前記容器口部を冷却することにより、該滓を冷凍し、開栓して前記容器口部に集積した前記滓を噴出させ、該滓を引取り除く工程を有する、日本酒度が−40〜−20、酸度が4〜6の発泡性清酒の製造方法。」

・「【請求項4】
滓引き後、さらに、火入れを行う、請求項1から3の何れか1項記載の発泡性清酒の製造方法。」

・「【技術分野】
【0001】
本発明は、清酒の製造方法に関し、特に炭酸ガスを含み、濁りがない発泡性清酒の有利な製造方法に関する。」

・「【0013】
以下、本発明の発泡性清酒の製造方法を詳細に説明する。
本発明方法は、まず、通常の清酒の製造方法に従って、清酒と懸濁清酒を得る。
すなわち、米、水及び米麹を原材料とし、上槽により得られた日本酒度が−60〜−40及び酸度が4〜6の範囲である清酒と、酵母を含み醗酵活性のある醪を粗漉して得られた懸濁清酒とを得る。
仕込みの段階では、乳酸を水に対し、0.2〜1.0質量%、好ましくは0.4〜0.5質量%添加してもよい。また、培養酵母を白米に対し、0.2〜1.0質量%、好ましくは0.4〜0.8質量%添加してもよい。
【0014】
仕込み後12〜17日目で日本酒度が-60〜-40、酸度が4〜6になったところで、もろみを金網(網目1〜2.5mm、特に1mmが好ましい)で濾し、濁り液を得る。残りのもろみを圧搾機にかけ、清澄液を得る。
【0015】
圧搾終了後に、濁り液と清澄液を混合する。
清澄液と濁り液の混合比率(体積)は30:1〜45:1とする。この範囲より、清澄液が多いと炭酸ガスを発生が少なくなり、濁り液の比率が多すぎると、滓の量が多くなり、程度後に搖動工程を設けなくてはならず、工程が煩雑となる。
また、混合後のアルコール度は9.0〜12.0%程度に調整することが好ましい。アルコール度数がこの範囲を超え高い場合は二次醗酵が阻害されることがあり好ましくない。また、ここでの日本酒度は−60〜−40程度とすることが好ましい。なお、残存している非醗酵性のオリゴ糖が糖化酵素により糖化された資化性糖になるので、二次醗酵の初発糖濃度は十分であり、補糖などの必要はないところがシャンパン製法とは異なるところである。
【0016】
この混合酒を、容器内に入れ、密封する。ここで用いる容器としては、シャンパン瓶のような耐圧瓶が好ましい。充填後、打栓を行うが、この場合は単式王冠もしくはねじ式等のキャップが好ましい。
【0017】
密封後、10〜25℃で二次発酵を行う。これにより、容器内に炭酸ガスを発生させる。二次発酵の期間は、60〜210日が好ましく、特に90〜180日が好ましい。その後、容器内圧力が0.45〜0.5MPaに達した後に、冷蔵庫等に、容器を逆さまの状態にして保存する。そうすると、少しずつ滓がビン口に沈殿し、約3か月後には透明な部分と滓がきれいに分離した状態となる。すなわち、本発明によれば、滓を前記容器口部に集積させるのに、容器口部を下にするだけでよい。すなわち、シャンパン製法に必要な搖動工程(ルミアージュ)は必要ない。
【0018】
滓引きは、シャンパン製法でいうデゴルジュマンと同様に行えばよい。すなわち、前記容器口部をネックフリーザー等により冷却することにより、該滓を冷凍し、開栓して前記容器口部に集積した滓を噴出させ、滓を引取り除く。このとき、同時に透明な清酒が噴出するので、必要により、水又は清浄な清酒を注ぎ足す。その後、打栓することにより製品とすることができる。」

・「【0020】
本発明方法では、さらに必要により、火入れを行って、加熱殺菌するとともに、二次醗酵を完全に停止することもできる。
火入れ方法は湯せんが好ましい。例えば、次のように行うことが好ましい。
まず、火入れ装置槽内の水温を少しずつ上昇させることで、製品の温度をゆっくりと上昇させる。約30分で製品温度を63℃まで上げ、この状態を約3分間保持する。加熱処理後は水温を少しずつ下げ、約60分後には加熱前製品の温度にする。その後、冷蔵庫等で製品を保管する。」

イ 甲1に記載された発明
甲1に記載された事項を、特に請求項4に関して整理すると、甲1には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

<甲1発明>
「米、水及び米麹を原材料とし、上槽により得られた日本酒度が−60〜−40及び酸度が4〜6の範囲である清酒と、酵母を含み醗酵活性のある醪を粗漉して得られた懸濁清酒とを、混合体積比率30:1〜45:1で混合した混合清酒を、密閉した容器内で10〜25℃で二次発酵させ、炭酸ガスを発生させた後、前記容器内部の滓を、容器口部を下にすることにより前記容器口部に集積させ、前記容器口部を冷却することにより、該滓を冷凍し、開栓して前記容器口部に集積した前記滓を噴出させ、該滓を引取り除く工程を有する、日本酒度が−40〜−20、酸度が4〜6の発泡性清酒の製造方法であって、滓引き後、さらに、火入れを行う、発泡性清酒の製造方法。」

(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明における「清酒」、「懸濁清酒」、「混合清酒」、「発泡性清酒」は、それぞれ、本件特許発明1における「清酒」、「にごり清酒」、「混合清酒」、「発泡性清酒」に相当する。
甲1発明は、「滓引き後、さらに、火入れを行う」ことから、本件特許発明1における「発泡性清酒に殺菌処理を施す」との特定事項を満たす。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「発泡性清酒の製造方法であって、
上槽により得られた清酒と、
酵母による発酵活性を有するにごり清酒とを、
混合して混合清酒を得、
この混合清酒を所定の容器に充填し該容器内で発酵させて発泡性清酒を得、
この発泡性清酒に殺菌処理を施すことを特徴とする発泡性清酒の製造方法。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点1−1>
本件特許発明1においては、「清酒」が「酒母育成においてリンゴ酸高生産性酵母が用いられ」たものであり、「清酒」と「にごり清酒」の混合比率が「98:2〜99:1」であるのに対して、甲1発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点1−2>
本件特許発明1においては、「清酒」、「にごり清酒」及び「混合清酒」のアルコール度数、日本酒度、酸度及びアミノ酸度並びに「発泡性清酒」のアルコール度数、日本酒度、酸度、アミノ酸度及び炭酸ガス含有量が所定の値であるのに対して、甲1発明においては、そのようには特定されていない点。

イ 判断
相違点1−1について検討する。
甲1及び他の証拠には、甲1発明において相違点1−1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することの動機付けとなる記載はない。
してみると、甲1発明において、相違点1−1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
そして、本件特許発明1の奏する「芳醇な甘さと爽やかな酸味を有し、日本酒感を有しながらも飲み易い酒質の発泡性清酒を得る」(本件特許の発明の詳細な説明の【0016】)という効果は、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。

ウ まとめ
したがって、その他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本件特許発明2ないし9について
本件特許発明2ないし9は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)申立理由1についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし9は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、申立理由1によっては取り消すことはできない。

2 申立理由2(甲2に基づく進歩性)について
(1)甲2に記載された事項等
ア 甲2に記載された事項
甲2には、「酵母ブレンド発酵法によるコクのある発泡清酒の開発」に関して、おおむね次の事項が記載されている。

・「本研究では,このチロソール高生産性酵母によるコク成分を主体に,高リンゴ酸や微炭酸という特徴を加え,従来の低アルコール酒にはないコクがあって爽やかな飲み心地をもつ微発泡清酒を開発した。」(第46頁左欄14−18行)

・「2.1 供試材料
原料米には酒造好適米「出羽の里」を用いた。酵母は,当センター所有のTY24酵母(チロソール高生産性)と2408酵母(リンゴ酸高生産性)を一定比率でブレンドして使用した。」(第46頁左欄20−24行)

・「2.3 一次発酵および二次発酵
小仕込試験の結果から,最適とする酵母ブレンド比を決定し,総米120kgの試験醸造を実施した。
麹は床麹法で製造し,酒母は速醸酒母(中温速醸)とした。一次もろみは,小仕込試験同様に三段仕込で仕込み,吟醸仕込に近い低温発酵経過とした。酒母およびもろみ期間中は,適時酵母マイクロフローラを測定した。
一次もろみ上槽後,生成酒に酵母を含む濁り酒と仕込水を一定彙添加して二次発酵を開始した。二次発酵には,新洋技研工業(株)製の300L耐圧サーマルタンク(ステンレス製カーボネーティングストーン装備)を使用した(図1)。
また,発泡清酒の瓶詰試験には,ルーツ機械研究所製のカウンタープレッシャー充填機(ROOTS 2+1フィラー)を用いた。」(第46頁右欄5行−第47頁左欄3行)

・「総米1kgの小仕込試験で設定した酵母ブレンド比を表1に示す。

」(第47頁左欄19−20行)

・「3.2 一次もろみ発酵試験
小仕込試験の結果から,コク成分(チロソール)を高生産するTY24酵母とリンゴ酸を高生産する2408酵母を80:20でブレンドする方法を最適とし,総米120kgの試験醸造を実施した。」(第48頁左欄1−5行)

・「3.3 二次発酵およびガス封入試験
上槽した一次生成酒をベースに,二次発酵と炭酸ガス封入により,低アルコール微発泡清酒の試作を実施した。
二次発酵の工程は,発泡性を持たせると同時に加水後に発生しやすい不快なダイアセチル臭を抑制する効果がある。上槽後オリ引きした一次生成酒,上槽時に採取した新鮮な酵母(約107個/ml)を含む濁り酒および仕込水を混合し,アルコール分を10%に落とした状態から開始した。発酵温度は室温で行い,二次発酵期間は約1ヶ月とした。」(第49頁左欄11−22行)

イ 甲2に記載された発明
甲2に記載された事項を整理すると、甲2には次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認める。

<甲2発明>
「リンゴ酸を高生産する2408酵母を用いて上槽後オリ引きした一次生成酒、上槽時に採取した新鮮な酵母(約107個/ml)を含む濁り酒および仕込水を混合し、新洋技研工業(株)製の300L耐圧サーマルタンク(ステンレス製カーボネーティングストーン装備)を使用した二次発酵により得た低アルコール微発泡清酒の製造方法。」

(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲2発明を対比する。
甲2発明における「一次生成酒」、「濁り酒」、「低アルコール微発泡清酒」は、それぞれ、本件特許発明1における「清酒」、「にごり清酒」、「発泡性清酒」に相当する。
甲2発明における「一次生成酒」、「濁り酒」及び「仕込水」を混合したものは、本件特許発明1における「混合清酒」に相当する。
甲2発明における「一次生成酒」は、「リンゴ酸を高生産する2408酵母を用いて上槽後オリ引きした」ものであるから、甲2発明は、本件特許発明1における「酒母育成においてリンゴ酸高生産性酵母が用いられ上槽により得られた」との特定事項を満たす。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「発泡性清酒の製造方法であって、
酒母育成においてリンゴ酸高生産性酵母が用いられ上槽により得られた清酒と、
酵母による発酵活性を有するにごり清酒とを、
混合して混合清酒を得、
この混合清酒を所定の容器に充填し該容器内で発酵させて発泡性清酒を得ることを特徴とする発泡性清酒の製造方法。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点2−1>
本件特許発明1においては、「清酒」と「にごり清酒」の混合比率が「98:2〜99:1」であるのに対して、甲2発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点2−2>
本件特許発明1においては、「清酒」、「にごり清酒」及び「混合清酒」のアルコール度数、日本酒度、酸度及びアミノ酸度並びに「発泡性清酒」のアルコール度数、日本酒度、酸度、アミノ酸度及び炭酸ガス含有量が所定の値であるのに対して、甲2発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点2−3>
本件特許発明1においては、「発泡性清酒に殺菌処理を施す」と特定されているのに対して、甲2発明においては、そのようには特定されていない点。

イ 判断
相違点2−1について検討する。
甲2及び他の証拠には、甲2発明において相違点2−1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することの動機付けとなる記載はない。
してみると、甲2発明において、相違点2−1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
そして、本件特許発明1の奏する「芳醇な甘さと爽やかな酸味を有し、日本酒感を有しながらも飲み易い酒質の発泡性清酒を得る」(本件特許の発明の詳細な説明の【0016】)という効果は、甲2発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。

ウ まとめ
したがって、その他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲2発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本件特許発明2ないし9について
本件特許発明2ないし9は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲2発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)申立理由2についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし9は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、申立理由2によっては取り消すことはできない。

3 申立理由3(甲3に基づく進歩性)について
(1)甲3に記載された事項等
ア 甲3に記載された事項
甲3には、「発泡性清酒の製造方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。

・「【請求項1】
上槽及び火入れ後の清酒であるベース酒と、酵母を含み、発酵活性を有する懸濁清酒を粗漉しして得られる活性酒とを、9:1から200:1の比率で混合し、混合清酒を調製する混合工程と、
前記混合清酒を瓶容器に密封し、2次発酵させる2次発酵工程とを含むことを特徴とする発泡性清酒の製造方法。」

・「【0012】
続いて、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。本発明の一実施の形態に係る発泡性清酒の製造方法(以下、「発泡性清酒の製造方法」と略称する場合がある。)は、図1に示すように、上槽及び火入れ後の清酒であるベース酒と、酵母を含み、発酵活性を有する懸濁清酒を粗漉しして得られる活性酒とを、9:1から200:1の比率で混合し、混合清酒を調製する混合工程と、混合清酒を瓶容器に密封(充填及び打栓)し、2次発酵させる2次発酵工程とを含んでいる。
【0013】
ベース酒
発泡性清酒の製造方法における工程の1つであるベース酒の製造方法は、特に制限されず、任意の公知の方法を用いて行うことができるが、例えば、洗米した白米を水に浸積した後蒸し、得られた蒸米に麹菌を撒いて米麹を作り、水と酵母を加えてもろみを作る(1次発酵)。1次発酵が終わり、液状になったもろみを上槽し、これに火入れを行い、菌類を死滅させると共に、酵素を失活させたものをベース酒として用いる。火入れの方法、温度及び火入れ時間は特に制限されない。さらに、清澄な清酒と滓(澱ともいう。)とに分離させる(滓下げ)。ベース酒の酒度は−50〜0、好ましくは−10〜0程度とする。必要に応じて、水、清酒等を混合することにより、アルコール度数及び酒質の調節を行ってもよい。
【0014】
活性酒
発泡性清酒の製造方法におけるもう1つの工程である活性酒の製造方法も、特に制限されず、任意の公知の方法を用いて行うことができるが、活性酒は、酵母を含有し、発酵活性を有している必要があるため、1次発酵後の懸濁清酒を粗漉しすることにより得られる。ベース酒と同様、活性酒も、蒸米に麹菌と酵母を加え、1次発酵させる並行複発酵法により製造してもよいが、図1に示したように、まず、蒸米に水と麹菌を加え、もろみを作成し、デンプンを糖化させた後にもろみを上槽し、火入れを行い、菌類を死滅させ、酵素を失活させた糖化液に酵母を添加し、1次発酵を行わせる単式複発酵法により製造するのが、オフフレーバーの生成を抑制する上でより好ましい。1次発酵後、得られた懸濁清酒を粗漉し(上槽、滓引きの一例)して活性酒を得るが、粗漉しは、例えば0.3mmのステンレススクリーンを用いて行ってもよいが、他の方法によって行ってもよい。活性酒の酵母密度は、例えば、1mLあたり1〜3×108個程度である。
【0015】
混合工程
上記の様にして得られたベース酒及び混合酒を、9:1から200:1、好ましくは98:2から99:1の比率で混合(調合)し、混合清酒を調製する。混合工程により得られる混合清酒の酵母密度は、1mLあたり0.5〜3×106個であることが好ましい。酵母密度を前記範囲内にすることにより、ベース酒によって決定される風味の保持と、2次発酵後の十分な炭酸ガス量とのバランスが最善になる。混合性酒のアルコール濃度は、2次発酵を阻害せず、かつ2次発酵後に販売酒規格に合致するアルコール濃度が得られる範囲、例えば10%以上16%以下であることが好ましい。
【0016】
2次発酵工程
次いで、混合清酒を、全容器内の酒質が均一となるよう攪拌しながら瓶容器に充填後、密封する。瓶容器は、例えばシャンパン瓶のような耐圧瓶が好ましい。充填後、単式王冠で密封する。混合清酒が充填及び密封された瓶容器を、一定期間一定温度に保持することにより2次発酵を行う。その間、2次発酵の進行と共に、経時的に炭酸ガス濃度が上昇する。容器は、例えば12〜25℃の温度で、例えば、3週間から3ヶ月間、瓶容器内で2次発酵を行う。この間に容器内で酵母が活性化し、2次発酵により瓶容器内で炭酸ガスが発生する。前記状態下で容器内の内圧が0.4〜0.7MPa(4〜7kg/cm2)となったら2次発酵を終了する。
【0017】
2次発酵終了時には、滓が瓶等の瓶容器内に付着している。滓の除去は、任意の公知の方法を用いて行うことができるが、容器として瓶を使用する場合には、例えば、シャンパンの製造時と同様、瓶を揺動させながら倒立させ、滓を瓶の口部付近に集結させた状態で−27℃に冷却した工業用アルコール等により凍結後、開栓して滓を噴出させる方法により行ってもよい。この場合、滓を除去するための一連の工程は、シャンパンの製造に用いられるピュピュトル、ジャイロパレット、回転式ネックフリーザー等の装置を用いて行うことができる。
【0018】
必要に応じて、滓の除去に伴う内容量の減少を補うために、既に滓引された同質の清澄な発泡性清酒を補充し、販売時の規格量に合わせてもよい。その後、必要に応じて、コルク打栓、ワイヤーによる固定、必要に応じて火入れによる殺菌の処理が行われる。」

・「【0020】
発泡性清酒の製造試験
通常の並行複発酵法により製造後、火入れ及び滓下げを行い、中空糸膜でろ過したベース酒と、もろみを上槽後、火入れを行い、得られた糖化液に酵母を添加してアルコール発酵させた後、粗漉し滓下げした活性酒とを、98:2及び99:1の2通りの比率で混合した混合清酒(酵母密度は、それぞれ、9.0×105/mL、2.0×106/mLであった。)を調製し、瓶詰め、打栓後、20℃の温度で、3ヶ月間、2次発酵を行った。2次発酵終了後、シャンパンと同様の揺瓶及びネックフリージングにより滓の除去を行った。」

イ 甲3に記載された発明
甲3に記載された事項を、特に【0018】及び【0020】に関して整理すると、甲3には次の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されていると認める。

<甲3発明>
「通常の並行複発酵法により製造後、火入れ及び滓下げを行い、中空糸膜でろ過したベース酒と、もろみを上槽後、火入れを行い、得られた糖化液に酵母を添加してアルコール発酵させた後、粗漉し滓下げした活性酒とを、98:2及び99:1の2通りの比率で混合した混合清酒(酵母密度は、それぞれ、9.0×105/mL、2.0×106/mLであった。)を調製し、瓶詰め、打栓後、20℃の温度で、3ヶ月間、2次発酵を行い、火入れによる殺菌の処理を行って得た発泡性清酒の製造方法。」

(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲3発明を対比する。
甲3発明における「ベース酒」、「活性酒」、「混合清酒」、「発泡性清酒」は、それぞれ、本件特許発明1における「清酒」、「にごり清酒」、「混合清酒」、「発泡性清酒」に相当する。
甲3発明における「混合清酒」は、「ベース酒」と「活性酒」とを「98:2及び99:1の2通りの比率で混合した」ものであるから、本件特許発明1における「質量比で清酒:にごり清酒=98:2〜99:1の比率で混合」との特定事項を満たす。
甲3発明は、「火入れによる殺菌の処理を行」うことから、本件特許発明1における「発泡性清酒に殺菌処理を施す」との特定事項を満たす。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「発泡性清酒の製造方法であって、
上槽により得られた清酒と、
酵母による発酵活性を有するにごり清酒とを、
質量比で清酒:にごり清酒=98:2〜99:1の比率で混合して混合清酒を得、
この混合清酒を所定の容器に充填し該容器内で発酵させて発泡性清酒を得、
この発泡性清酒に殺菌処理を施すことを特徴とする発泡性清酒の製造方法。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点3−1>
本件特許発明1においては、「清酒」が「酒母育成においてリンゴ酸高生産性酵母が用いられ」たものであるのに対して、甲3発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点3−2>
本件特許発明1においては、「清酒」、「にごり清酒」及び「混合清酒」のアルコール度数、日本酒度、酸度及びアミノ酸度並びに「発泡性清酒」のアルコール度数、日本酒度、酸度、アミノ酸度及び炭酸ガス含有量が所定の値であるのに対して、甲3発明においては、そのようには特定されていない点。

イ 判断
相違点3−1について検討する。
甲3及び他の証拠には、甲3発明において相違点3−1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することの動機付けとなる記載はない。
してみると、甲3発明において、相違点3−1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
そして、本件特許発明1の奏する「芳醇な甘さと爽やかな酸味を有し、日本酒感を有しながらも飲み易い酒質の発泡性清酒を得る」(本件特許の発明の詳細な説明の【0016】)という効果は、甲3発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。

ウ まとめ
したがって、その他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲3発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本件特許発明2ないし9について
本件特許発明2ないし9は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲3発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)申立理由3についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし9は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、申立理由3によっては取り消すことはできない。

4 申立理由4(明確性)について
(1)明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
そこで、検討する。

(2)明確性要件の判断
本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし9の記載自体に不明確な記載はなく、本件特許の発明の詳細な説明の記載とも整合する。
したがって、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎とすれば、本件特許発明1ないし9に関して、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
よって、本件特許発明1ないし9は明確である。

(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人の上記第3 4の主張について検討する。
特許異議申立人は、請求項1における「リンゴ酸高生産性酵母」なる用語の意義が明確でないと主張しているが、「リンゴ酸高生産性酵母」が、一般的な酵母に比べてリンゴ酸を多く生産する酵母を意味することは本件特許の出願時の技術常識であるから(令和5年12月27日に特許権者が提出した上申書に添付された乙第1ないし4号証参照。)、「リンゴ酸高生産性酵母」は明確であり、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
よって、特許異議申立人の主張は採用できない。

(4)申立理由4についてのむすび
本件特許発明1ないし9に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由4によっては取り消すことはできない。

5 申立理由5(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。

(2)サポート要件の判断
本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第2のとおりである。
本件特許の発明の詳細な説明の【0005】によると、本件特許発明1ないし9の解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は、「芳醇な甘さと爽やかな酸味を有し、日本酒感を有しながらも飲み易い酒質の発泡性清酒を得ることができる発泡性清酒の製造方法を提供する」ことである。
そして、本件特許の発明の詳細な説明の【0007】ないし【0015】、【0021】ないし【0023】に対応する記載がある。
さらに、本件特許の発明の詳細な説明の【0026】ないし【0068】には本件特許発明の実施形態について説明があり、【0016】、【0024】及び【0025】には本件特許発明による発明の効果が記載されている。
そうすると、当業者は、「発泡性清酒の製造方法であって、
酒母育成においてリンゴ酸高生産性酵母が用いられ上槽により得られた下記1の清酒と、
記1
アルコール度数:9%〜12%
日本酒度:−50〜−30
酸度:2〜4
アミノ酸度:0.5〜1.5
酵母による発酵活性を有する下記2のにごり清酒とを、
記2
アルコール度数:5%〜15%
日本酒度:−50〜−30
酸度:3〜8
アミノ酸度:0.5〜1.5
質量比で上記1の清酒:上記2のにごり清酒=98:2〜99:1の比率で混合して下記3の混合清酒を得、
記3
アルコール度数:9%〜12%
日本酒度:−50〜−30
酸度:2〜4
アミノ酸度:0.5〜1.5
この混合清酒を所定の容器に充填し該容器内で発酵させて下記4の発泡性清酒を得、
記4
アルコール度数:10%〜13%
日本酒度:−40〜−20
酸度:2〜4
アミノ酸度:0.5〜1.5
炭酸ガス含有量:3.5GV〜6GV
この発泡性清酒に殺菌処理を施すことを特徴とする発泡性清酒の製造方法」は、発明の課題を解決できると認識できる。
したがって、本件特許発明1ないし9は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、本件特許発明1ないし9に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。

(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人の上記第3 5の主張について検討する。
特許異議申立人は、「下記4の発泡性清酒」のリンゴ酸濃度が規定されておらず、請求項1は課題解決のための必須構成を欠いていると主張しているが、サポート要件については、上記(2)のとおり判断されるものであるし、また、本件特許発明1ないし9の発明特定事項を満たしても発明の課題を解決できないとする具体的な証拠を挙げて主張するものでもない。
よって、特許異議申立人の主張は採用できない。

(4)申立理由5(サポート要件)についてのむすび
本件特許発明1ないし9に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由5によっては取り消すことはできない。

第5 結語

上記第4のとおり、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2024-01-26 
出願番号 P2021-073422
審決分類 P 1 651・ 537- Y (C12G)
P 1 651・ 121- Y (C12G)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 磯貝 香苗
特許庁審判官 中村 和正
淺野 美奈
登録日 2023-04-21 
登録番号 7266904
権利者 朝日酒造 株式会社
発明の名称 発泡性清酒の製造方法  
代理人 吉井 剛  

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