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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C12Q 審判 全部申し立て 1項2号公然実施 C12Q 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C12Q 審判 全部申し立て 2項進歩性 C12Q 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C12Q |
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管理番号 | 1407877 |
総通号数 | 27 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2024-03-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2023-11-17 |
確定日 | 2024-03-07 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第7276327号発明「生体成分測定試薬キットの感度低下抑制方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第7276327号の請求項1〜8に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第7276327号(請求項の数8。以下、「本件特許」という。)は、令和1年5月10日(優先権主張 平成30年5月10日)を国際出願日とする特願2020−518353号の請求項1〜8に係る発明について、令和5年5月10日に特許権の設定登録がされ、特許掲載公報が令和5年5月18日に発行されたものである。 その後、令和5年11月17日に、本件特許の請求項1〜8に係る特許に対して、特許異議申立人である井上憲介(以下、「申立人」という。)から、特許異議の申立てがされた。 よって、本件特許異議の申立てに係る審理対象は、全ての請求項に係る特許についてであり、審理対象外の請求項は存しない。 第2 本件発明 本件特許第7276327号の請求項1〜8の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1〜8に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである(以下、請求項1〜8に係る発明を、項番に従い、「本件発明1」〜「本件発明8」といい、それらを総称して、「本件発明」という。また、本件特許の設定登録時の願書に添付した明細書及び図面を「本件明細書等」という。)。 「【請求項1】 酸化還元発色試薬のカップラーとして、4−ヒドロキシアンチピリンを含有するアミノアンチピリン系化合物を用いる生体成分測定法に適用される測定感度低下抑制剤であって、鉄含有物質を含有することを特徴とする、生体成分の測定感度低下抑制剤。 【請求項2】 前記生体成分測定法が以下の(a)〜(d)の要件を満たす試薬又は試薬セットを使用する生体成分測定法であって、(d)の要件を満たす試薬中に添加して用いることを特徴とする、請求項1に記載の生体成分の測定感度低下抑制剤。 (a)過酸化水素を発生させることができる酸化酵素を含む。 (b)ペルオキシダーゼを含む。 (c)ペルオキシダーゼの存在下で過酸化水素と反応して呈色する酸化還元発色試薬を含む。 (d)該酸化還元発色試薬のカップラーとして、4−ヒドロキシアンチピリンを含有するアミノアンチピリン系化合物を含む。 【請求項3】 4−ヒドロキシアンチピリンに起因する生体成分の測定感度の低下を抑制することを特徴とする、請求項1又は2に記載の生体成分の測定感度低下抑制剤。 【請求項4】 酸化還元発色試薬のカップラーとして、4−ヒドロキシアンチピリンを含有するアミノアンチピリン系化合物を用いる生体成分測定法に適用される測定感度低下抑制方法であって、鉄含有物質を用いることを特徴とする、生体成分の測定感度低下の抑制方法。 【請求項5】 以下の(a)〜(d)の要件を満たす試薬又は試薬セットを使用する生体成分測定法における測定感度低下の抑制方法であって、(d)の要件を満たす試薬中に鉄含有物質を添加することを特徴とする、生体成分の測定感度低下の抑制方法。 (a)過酸化水素を発生させることができる酸化酵素を含む。 (b)ペルオキシダーゼを含む。 (c)ペルオキシダーゼの存在下で過酸化水素と反応して呈色する酸化還元発色試薬を含む。 (d)該酸化還元発色試薬のカップラーとして、4−ヒドロキシアンチピリンを含有するアミノアンチピリン系化合物を含む。 【請求項6】 4−ヒドロキシアンチピリンに起因する生体成分の測定感度の低下を抑制することを特徴とする、請求項4又は5に記載の生体成分の測定感度低下の抑制方法。 【請求項7】 前記(d)の要件を満たす試薬中に共存させた鉄含有物質の濃度が0.001〜1mMであることを特徴とする、請求項5又は6に記載の生体成分の測定感度低下の抑制方法。 【請求項8】 前記生体成分が、クレアチニン又は糖化ヘモグロビンのいずれかであることを特徴とする、請求項4乃至は7のいずれかに記載の生体成分の測定感度低下の抑制方法。」 第3 申立人が申し立てた特許異議申立理由 申立人が申し立てた特許異議申立の理由(以下、「申立理由」という。)の概要及び証拠方法は以下のとおりである。 申立理由の概要 (1)申立理由1 本件発明1〜6、8は、本件特許の優先日前に公然実施された発明(「セロテック」CRE−N)であるから、特許法第29条第1項第2号に該当し特許を受けることができない。また、本件発明7は、当該公然実施された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本件発明1〜8に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 (2)申立理由2 本件発明1〜8は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。 したがって、本件発明1〜8に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 (3)申立理由3 本件発明1〜8は、甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。 したがって、本件発明1〜8に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 (4)申立理由4 鉄含有物質と4−ヒドロキシアンチピリンを特定の条件で保存した場合や4−ヒドロキシアンチピリンの濃度が特定の範囲である場合以外については、4−ヒドロキシアンチピリンに起因する測定感度低下の抑制効果が得られることは理解できないこと、及び、鉄タンパク質でペルオキシダーゼを用いた例である対照(b)では、測定感度低下が抑制できず、鉄含有物質を含めば測定感度低下を抑制すると一般化することができないことから、本件発明1〜8に係る特許は、特許法第36条第6項第1号及び同法同条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 したがって、本件発明1〜8に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 2.証拠方法 甲第1号証:特開平11−243993号公報 甲第2号証:特開2008−37862号公報 甲第3号証:特開2019−195300号公報 甲第4号証:特開2019−196993号公報 甲第5号証:血液・尿検査用クレアチニンキット「セロテック」CRE−N添付文書 (https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/ivdDetail/380125_01E1X80013000064_A_01_07#CONTRAINDICATION-AND-PROHIBITIONSの写し) 甲第6号証:株式会社セロテック製品情報一覧 (www.serotec.co.jp/?cat=3の写し) 甲第7号証:セロテックCRE−Nの分析結果 甲第8号証:国際公開第2017/221795号 甲第9号証:特開昭57−71398号公報 甲第10号証:116216 ペルオキシダーゼ (https://www.merckmillipore.com/JP/ja/product/Peroxidase,MDA_CHEM-116216の写し) (以下、「甲第1号証」〜「甲第10号証」を、それぞれ「甲1」〜「甲10」という。) 第4 当審の判断 当審は、申立人が主張する上記の申立理由は、いずれも理由がなく、ほかに本件発明1〜8に係る特許を取り消すべき理由も発見できないから、本件発明1〜8に係る特許は、いずれも取り消すべきものではなく、維持すべきものと判断する。 1.本件明細書等の記載 本件明細書等には、以下の事項が記載されている。(下線は当審による。) 本a 「【0005】 本発明者らは、アミノアンチピリン系化合物および水素供与体を用いた酵素−ペルオキシダーゼ−発色剤系の生体成分測定試薬を調製し、それを生体成分測定に用いるにあたり、原因不明の測定感度の低下を経験した。 【0006】 測定感度の低下の程度は、測定のために調製した試薬組成物のロットによりばらつきがあったため、本発明者らは、測定キットの試薬組成について種々検討した。その結果、意外なことに、4−アミノアンチピリン中に極微量の4−ヒドロキシアンチピリン(以下、4HAとも表記する。)という物質が存在することを見出した。理論に束縛されることは望まないが、4−ヒドロキシアンチピリンが試薬中に存在した場合、構造上4−ヒドロキシアンチピリンは水素供与体とカップリング反応しないが、過酸化水素存在下、4−ヒドロキシアンチピリンとペルオキシダーゼが反応し、過酸化水素が消費されると考えられるため、その結果、検体中の測定対象物質に酵素を反応させて発生した過酸化水素が4−ヒドロキシアンチピリンに消費されることとなり、本来の4−アミノアンチピリン−水素供与体の反応で発色する発色量が減り、感度が低下すると考えられた。 【0007】 そこで、本発明は、これまでに知られていなかった上記課題を解決するために、4−ヒドロキシアンチピリンに起因する感度低下を抑制する手段を提供することを課題とする。 【課題を解決するための手段】 【0008】 本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、予想外のことに、生体成分測定試薬キットの調製にあたり、鉄イオンを発生させる成分等の鉄含有物質を用いることで、4−ヒドロキシアンチピリンに起因する感度低下を抑制できることを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は以下の構成からなる。」 本b 「【0015】 本発明の生体成分の測定感度低下抑制剤において、鉄含有物質(例えば、鉄イオンを発生する成分等)を前記(d)の要件を満たす試薬中に添加して用いることが好ましい。 前記(d)の要件を満たす試薬中に含まれるアミノアンチピリン系の化合物は、その製造中の副産物として極微量の4−ヒドロキシアンチピリンが混入することがあり、本発明において、本発明者らはかかる4−ヒドロキシアンチピリンが生体成分の測定感度低下を生じることを見出した。さらに、本発明者らは4−ヒドロキシアンチピリンに鉄含有物質を共存させることによりかかる感度低下を抑制することが可能であること見出し本発明を完成した。 つまり、本発明の生体成分の測定感度低下抑制剤は、前記(d)の要件を満たす試薬中に鉄含有物質を添加して用いることが好ましく、4−ヒドロキシアンチピリンに起因する生体成分の測定感度の低下を抑制することを目的とするものである。」 本c 「【0024】 本発明の生体成分の測定感度低下抑制方法は、前記(d)の要件を満たす試薬中に存在する4−ヒドロキシアンチピリンの濃度が、鉄含有物質(例えば、鉄イオンを発生する成分等)を添加する前の濃度で、0.1〜50μg/ml程度である場合に、特に効果を得られやすい。 前記鉄含有物質を添加する前の前記(d)の要件を満たす試薬中に存在する4−ヒドロキシアンチピリンの濃度が0.1μg/ml以下の場合は、4−ヒドロキシアンチピリンによる生体成分の測定感度低下が1%未満であり、鉄含有物質を共存させることにより測定感度低下を抑制する必要性が少ない。 前記鉄含有物質を添加する前の前記(d)の要件を満たす試薬中に存在する4−ヒドロキシアンチピリンの濃度が50μg/mlより多い場合は、4−ヒドロキシアンチピリンによる生体成分の測定感度低下を抑制するためには高濃度の鉄含有物質を必要とし、そのため鉄含有物質による副反応により発色が大きくなり測定誤差を生じやすい傾向がある。 本発明者らの検討により、一般的なアミノアンチピリン系化合物(4−アミノアンチピリン)原薬には、0.005〜0.30w/w%程度の4−ヒドロキシアンチピリンが混入していることが判明している。従って、本発明は、一例として0.01〜100g/l程度のアミノアンチピリン系化合物(4−アミノアンチピリン)を含む試薬、好ましくは0.01〜10g/l程度のアミノアンチピリン系化合物(4−アミノアンチピリン)を含む試薬、より好ましくは0.01〜5g/l程度のアミノアンチピリン系化合物(4−アミノアンチピリン)を含む試薬に用いられるのが効果的である。 なお、4−ヒドロキシアンチピリンの混入量が多い場合には、後述する4−ヒドロキシアンチピリンの除去方法などによって、予めアミノアンチピリン系化合物から4−ヒドロキシアンチピリンを除去してから生体成分測定に供することが好ましい。」 本d 「【0025】 (生体成分) 本発明の生体成分測定試薬キットが測定対象とする生体成分は特に限定されず、各種の生体成分の測定に用いることができる。例えば、本発明の生体成分測定に用いられる生体成分は、尿酸(UA)、クレアチニン(CRE)、トリグリセライド(TG)、コレステロール(CHO)、AST(GOT)、ALT(GPT)、LDH(乳酸脱水素酵素)とアイソザイム、ALP(アルカリ性フォスファターゼ)とアイソザイム、CK(クレアチンキナーゼ)とアイソザイム、アミラーゼ(Amy)とアイソザイム、リパーゼ、γ−GTP(γ-グルタミルトランスペプチダーゼ)、コリンエステラーゼ(ChE)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、クロール(Cl)、カルシウム(Ca)、リン(P)〔無機リン(IP)〕、鉄(Fe)、マグネシウム(Mg)、総蛋白(TP)、血清蛋白分画(PF)、尿素窒素(BUN)、クレアチニン(CRE)、尿酸(UA)、ビリルビン(Bil)、アンモニア、コレステロール、HDLコレステロール(HDL−C、高密度リポタンパクコレステロール)、LDLコレステロール(LDL−C、低密度リポタンパクコレステロール)、中性脂肪(トリグリセリド)(TG)、コレステロール(CHO)、BTR(BTR、総分岐鎖アミノ酸/チロシン比)、チロシン測定試薬(TYR)、血糖(BS、GLU)、1,5−アンヒドロ−D−グルシトール(1,5−AG)、糖化アルブミン(GA)、糖化ヘモグロビン(HbA1c)などを挙げることができるが、これらに限定されない。」 本e 「【0044】 本発明に用いる鉄含有物質は、アミノアンチピリン系化合物と共に配合した後に、アミノアンチピリン系化合物の不純物として含有される4−ヒドロキシアンチピリンに起因する生体成分測定の感度低下を抑制する効果を発現するためには、配合した後に一定時間の経過させることが好ましい。 本発明に用いる鉄含有物質が4−ヒドロキシアンチピリンに起因する生体成分測定の感度低下を抑制する効果を発現するためには、保管温度が1℃〜10℃では2週間乃至はそれ以上、11℃〜25℃では1週間乃至はそれ以上、26℃〜40℃では2日間乃至はそれ以上、41℃〜60℃では5時間乃至はそれ以上、61℃〜80℃では1時間乃至はそれ以上が好ましく、保管温度に依存して温度が高いほど短く、温度が低いほど長い時間が必要となる。反応させる時間の上限は特に限定されないが、例えば、10年間以下とすることができる。 なお、経過時間の上限を超えても、生体成分測定キットに用いる試薬品質の劣化を生じない限り、本発明に用いる鉄含有物質が4−ヒドロキシアンチピリンに起因する生体成分測定の感度低下を抑制する効果は維持される。」 本f 「【0046】 (酸化酵素) 本発明に用いる酸化酵素は、基質から過酸化水素を発生させることができるものであれば、目的となる測定対象に応じて制限なく用いることができる。具体例としては、ウリカーゼ、サルコシンオキシダーゼ、グリセロール3リン酸オキシダーゼ、フルクトシルアミノ酸オキシダーゼ等を用いることができるが、これらに限定されない。市販品としては、UAO−211(東洋紡製)、SAO−351(東洋紡製)、G3O−311(東洋紡製)等が好適に用いられる。その使用量や添加の形態などについては特に限定されない。」 本g 「【0050】 (酸化還元発色試薬) 本発明の生体成分測定に用いられる酸化還元発色試薬としては、過酸化水素と反応して呈色するものであれば、いかなる種類の色素を用いてもよく、例えば水素供与体とカップラーの組合せが挙げられる。その使用量や添加の形態などについては特に限定されない。これらはいずれも、市販品などを入手することができる。 【0051】 水素供与体とカップラーを用いた代表例は、水素供与体とカップラーとをペルオキシダーゼの存在下に過酸化水素によって酸化縮合させて色素を形成させるトリンダー(Trinder)法である。 【0052】 (水素供与体) 本発明の生体成分測定法においては、トリンダー法などに用いる水素供与体として、フェノール、フェノール誘導体、アニリン誘導体、ナフトール、ナフトール誘導体、ナフチルアミン、ナフチルアミン誘導体などが用いられる。 【0053】 … 【0054】 (カップラー) これら水素供与体はカップラーと組合せて用いることができる。 【0055】 カップラーとしては、4−アミノアンチピリン(4AA)、アミノアンチピリン誘導体等のアミノアンチピリン系化合物;バニリンジアミンスルホン酸等のバニリンジアミンスルホン酸系化合物;メチルベンズチアゾリノンヒドラゾン(MBTH)、スルホン化メチルベンズチアゾリノンヒドラゾン(SMBTH)等のメチルベンズチアゾリノンヒドラゾン系化合物などを挙げることができる。」 本h 「【0084】 本発明者らは、アミノアンチピリン系化合物(特に、4−アミノアンチピリン)の原薬中に極微量に含まれる4−ヒドロキシアンチピリンが、この酸化酵素−ペルオキシダーゼ−発色剤系の反応を阻害し、感度低下を招くことを初めて見出した。4−ヒドロキシアンチピリンが上記反応を阻害するメカニズムは必ずしも明らかではないが、その構造から、ペルオキシダーゼの作用により過酸化水素存在下、酸化還元発色試薬と4−ヒドロキシアンチピリンが縮合反応を起こし、過酸化水素を消費してしまうことが推察される。そして、本発明者らは、このような4−ヒドロキシアンチピリンに起因する反応阻害が、予め4−ヒドロキシアンチピリンに鉄含有物質を共存させて反応させることにより抑えられ、感度低下を抑制できることを見出した。鉄含有物質が4−ヒドロキシアンチピリンによる感度低下を抑制するメカニズムも明らかではないが、鉄含有物質(例えば、これから発生し得る鉄イオン)により4−ヒドロキシアンチピリンが何らかの構造変化を生じ、ペルオキシダーゼと反応しにくくなり過酸化水素を消費しなくなることが推察される。」 本i 「【0097】 (実施例3)クレアチニン測定感度に及ぼす4HAの混入濃度依存性 生体成分としてクレアチニンを用いて、試薬中に混入した4HAに起因する測定感度低下に関して、4HAの混入量依存性を評価した。 下記のクレアチニン測定試薬の第二試薬に、4HAを試薬中終濃度で0.13〜8.75μg/mlとなるように添加し各々の測定試薬を調製した。生体成分試料として、5mg/dLクレアチニン水溶液を用いた。 【0098】 [試薬の調製] 下記組成からなるクレアチニン測定試薬をそれぞれ調製した。ここで、4−アミノアンチピリンは、市販の4−アミノアンチピリン原体を精製し、4−ヒドロキシアンチピリンを含まない4−アミノアンチピリンを製造し、用いた。 第一試薬 PIPES−NaOH50mM pH7.4 アスコルビン酸オキシダーゼ(東洋紡製ASO−311)3U/mL ザルコシンオキシダーゼ(東洋紡製SAO−351)10U/mL クレアチンアミジノヒドロラーゼ(東洋紡製CRH−229)40U/mL カタラーゼ(東洋紡製CAO−509)130U/mL N−エチル−N−(3−スルホプロピル)−3−メトキシアニリン0.14g/L 第二試薬 PIPES−NaOH50mM pH7.4 クレアチニンアミドヒドロラーゼ(東洋紡製CNH−311)400U/mL ペルオキシダーゼ(東洋紡製PEO−302)10U/mL 4−アミノアンチピリン 0.6g/L 【0099】 [測定法] 日立7180形自動分析機を用いた。試料2.7μLに第一試薬120μL添加し37℃にて5分間インキュベーションし第一反応とした。その後第二試薬を40μL添加し5分間インキュベーションし第二反応とした。第一反応および第二反応の吸光度を液量補正した各吸光度の差をとる2ポイントエンド法で546nmにおける吸光度(主波長)および800nmにおける吸光度(副波長)を測定した。主波長から副波長を引いた吸光度を算出して求めた。 なお、本測定条件での4HAの反応中の濃度は0.03〜2.14μg/mlとなる。 【0100】 【表1】 ![]() 【0101】 結果を表1および図3に示す。第2試薬中の4HA濃度が高くなるにしたがって、試料測定感度が低下することを確認した。」 本j 「【0102】 (実施例4)鉄含有化合物による感度低下抑制効果 鉄含有化合物として塩化第二鉄を用いて、4HAに起因する感度低下の抑制効果を確認した。 実験条件は、対照(a)以外の試薬について、クレアチニン測定試薬の第二試薬に4HAを試薬中終濃度として10μg/mlとなるように添加し、生体成分試料として5mg/dLのクレアチニン水溶液を用いた以外は、実施例3と同1条件にて行った。 塩化第二鉄を所定のクレアチニン測定試薬の第二試薬中終濃度となるように添加した後、それぞれ加速条件(35℃)の温度条件で3日間保存した第二試薬を用いて、測定感度(mABS)を調べた。各試薬のブランク値も同時に測定し、測定感度からブランク値を差し引いた値をSTD感度として算出した。そして、4HAを添加していない各4AA濃度の対照(a)の測定感度(mABS)に対する各試薬の測定感度(mABS)の比率〔vs対照(%)〕を算出した。 結果を表2〜4に示す。 【表2】 ![]() 【表3】 ![]() 【表4】 ![]() 【0103】 この結果から、鉄塩を共存させることによる4HAに起因する感度低下の抑制効果は、鉄イオン濃度及び4HA濃度の両者に依存するが、塩化第二鉄の第二試薬中濃度を0.01mM〜0.05mMに調整した場合には4HAに起因する感度低下に対して特に効果的に抑制できることが確認できた。また、塩化第二鉄の第二試薬中濃度を0.001mMに調整した場合でもブランクと比較すると一定の感度低下抑制効果が認められた。ここで、35℃での評価は、冷蔵保存条件の加速試験に相当する。従って、冷蔵条件であっても、長期間にわたって各種の鉄塩を反応させることで、4−ヒドロキシアンチピリンに起因する感度低下を抑制できることが推察される。」 本k 「【0104】 (実施例5)鉄タンパク/鉄塩を含む混合物による感度低下抑制効果 鉄含有化合物としてフェリシアン化カリウム及びフェロシアン化カリウム、鉄タンパク質としてPEO−302(ペルオキシダーゼ)を用いて、4HAに起因する感度低下の抑制効果を確認した。 実験条件は、対照(a)以外の試薬について、クレアチニン測定試薬の第二試薬に4HAを試薬中終濃度として10μg/mlとなるように添加し、生体成分試料として5mg/dLのクレアチニン水溶液を用いた以外は、実施例3と同1条件にて行った。 フェリシアン化カリウム、フェロシアン化カリウムとPEO−302を所定の第二試薬中終濃度となるように、クレアチニン測定試薬の第二試薬に添加した後、それぞれ加速試験(35℃)の温度条件で3日間保存した第二試薬を用いて、測定感度(mABS)を調べた。各試薬のブランク値も同時に測定し、測定感度からブランク値を差し引いた値をSTD感度として算出した。そして、4HAを添加していない対照(a)の測定感度(mABS)に対する各試薬の測定感度(mABS)の比率〔vs対照(%)〕を算出した。 結果を表5に示す。 【表5】 ![]() 【0105】 この結果から、フェリシアン化カリウム及びフェロシアン化カリウムの両者については、4HAに起因する感度低下を抑制できることが確認された。PEO―302については、第二試薬中濃度が低いため感度低下抑制効果が大きくはないが、濃度が高くなるに従い抑制効果は増加していることが観察された。」 2.主な甲号証に記載された事項 (1)甲1に記載された事項 甲1には、以下の記載がある。(下線は当審による。) 甲1a 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、ビリルビンの干渉を回避することのできる生体成分の測定方法、及びビリルビンの干渉を回避するための生体成分測定用キットに関する。さらに詳しくは、酸化酵素−ペルオキシダーゼ−発色剤系の測定原理に基づいて血清などの生体試料中の生体成分の測定方法において、ビリルビンの干渉を回避することのできる測定方法、及びそれに用いるための測定用キットに関する。」 甲1b 「【0004】 【発明が解決しようとする課題】上記のように、臨床検査における血清などの生体試料中の生体成分の測定において、ビリルビンの干渉を回避する方法が数多く報告されている。しかし、これらの方法では、ある程度のビリルビンの干渉を回避することは可能でも、高濃度のビリルビンが共存していたり、あるいは測定対象物質の濃度が非常に低い場合に無視できるレベルにビリルビンの干渉を抑えることは不可能である。 【0005】そのため、高濃度のビリルビンが共存していたり、あるいは測定対象物質の濃度が非常に低い血清などの試料においても、ビリルビンの干渉を回避した正確な測定値が得られるような生体成分の測定法が望まれている。 【0006】 【課題を解決するための手段】上記問題点に鑑み、本発明者らは鋭意検討した結果、生体試料中の生体成分を、酸化酵素−ペルオキシダーゼ−発色剤系の原理に基づく比色定量法により測定する方法において、鉄錯体とステロイド骨格を有するアルキル基及びポリオキシアルキレン基を含む界面活性剤とを存在させることにより、ビリルビンが高濃度で共存するような試料においても、その干渉による測定値への誤差を最小限に抑えられることを見出し本発明を完成させた。」 甲1c 「【0008】 【発明の実施の形態】本発明で用いる鉄錯体としては、EDTA−鉄(III)、塩化第一鉄−EDTA、フェロシアン化カリウムをはじめとしたフェロシアン化物イオンなどが挙げられる。…」 甲1d 「【0011】上記した発色反応系並びに発色反応系に用いる発色剤は周知であり、かかる発色剤としては、過酸化水素とペルオキシダーゼの存在により色素を形成するものであればよく、水素供与体とそのカプラーの組合わせが通常用いられる。かかる組合わせとしては、例えばフェノールもしくはその誘導体あるいはアニリン誘導体と、4−アミノアンチピリンの組合わせが挙げられる。ここで用いるフェノール誘導体としては、例えば2,6−ジクロロフェノール、3,5−ジクロロ−2−ヒドロキシベンゼンスルホン酸、3−ヒドロキシ−2,4,6−トリクロロ安息香酸、3−ヒドロキシ−2,4,6−トリブロモ安息香酸などが挙げられ、アニリン誘導体としては、N,N−ジメチルアニリン、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3−メトキシアニリン、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメトキシアニリン、N−エチル−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3−メチルアニリンなどが挙げられる。カプラーとしては、4−アミノアンチピリン以外に、3−メチル−2−ベンゾチアゾリンヒドラゾン、ジアミノアンチピリンなどを用いることができる。 【0012】上記した本発明のビリルビンの干渉を回避する測定法は、酸化酵素−ペルオキシダーゼ−発色剤系の測定原理に基づく測定方法であれば特に限定されずいずれの生体成分の測定法にも適用できる。例えば、グルコース、総コレステロール、各コレステロール分画、トリグリセリド、尿酸、尿素窒素、無機リン、リン脂質、ピルビン酸、クレアチニンおよび乳酸などの生体成分測定系に組み込むことが可能である。 【0013】本発明のビリルビンを回避するための生体成分測定用キットは、以上の説明から明らかなように、酸化酵素、ペルオキシダーゼおよび発色剤とともに、更に鉄錯体および一般式(I)の非イオン系界面活性剤から構成される。ここで用いられる酸化酵素は、生体成分を酸化させて過酸化水素を発生させる酵素または酵素群であり、例えば生体成分としてグルコースを測定する場合には、グルコースオキシダーゼ、尿酸の場合にはウリカーゼ、クレアチニンの場合にはクレアチニナーゼ、クレアチナーゼ及びザルコシンオキシダーゼの酵素群、乳酸の場合には乳酸オキシダーゼが用いられる。ペルオキシダーゼとしては、例えばホースラディシュ由来のペルオキシダーゼが用いられ、発色剤としては前記した、フェノールもしくはその誘導体あるいはアニリン誘導体と、4−アミノアンチピリンの組合わせなどが用いられる。」 甲1e 「【0015】実施例1 以下のように試薬及び試料液を調製した。なお、試薬中の界面活性剤としてはポリオキシエチレンフィトスタノール、鉄錯体としてはフェロシアン化カリウムを用いた。 第一試薬(pH8.3): グッド緩衡剤 20mM N−エチル−N−(2−ヒドロキシ− 3−スルホプロピル)−3−メチルアニリン 2mM ポリオキシエチレンフィトスタノール(重合度25) 1.0% クレアチナーゼ 45KU/l ザルコシンオキシダーゼ 9KU/l 第二試薬(pH7.0): グッド緩衡剤 200mM 4−アミノアンチピリン 6mM アジ化ナトリウム 0.1% フェロシアン化カリウム 0.5mM クレアチニナーゼ 340KU/l ペルオキシダーゼ 3KU/l また、以下の比較例に示すように対照としてポリオキシエチレンフィトスタノール無添加の第一試薬、フェロシアン化カリウム無添加の第二試薬についても、同様に調製した。 【0016】試料液 結合型ビリルビン添加液 プール血清に、ジタウロビリルビンを40mg/dlになるように添加した。 遊離型ビリルビン添加液 プール血清に、遊離型ビリルビンを40mg/dlになるように添加した。また、対照としてビリルビン無添加の試料液も用意した。 【0017】測定操作は、以下の通り行った。 測定方法:各試料液15μlに第一試薬250μlを加え、37℃で5分間加温後、反応液中の546nmにおける吸光度(A1)を測定する。次いで第二試薬50μlを加え、37℃で5分間放置した後,再び反応液中の546nmにおける吸光度(A2)を測定する。得られたA1及びA2に液量補正を施した後(各々A1’、A2’とする)、A2’よりA1’を差し引いて反応前後での吸光度変化量(ΔA)を求める。一方、生理食塩水及びクレアチニン標準液(クレアチニン5.0mg/dl含有)を試料液として用いて同様の操作を行い、盲検値AB及び標準液吸光度ASを求める。 【0018】ここで得られたΔA、AB及びASから、次式(1)に従って試料液中のクレアチニン濃度を算出した。 【0019】 (ΔA−AB) クレアチニン濃度(mg/dl)=───────×5.0 (1) (AS−AB) 【0020】比較例1 実施例1において第一試薬より、ポリオキシエチレンフィトスタノールを除いた以外、実施例1と全く同様の測定を行い、実施例1と全く同様にして試料中のクレアチニン濃度を求めた。 【0021】比較例2 実施例1において第二試薬より、フェロシアン化カリウムを除いた以外、実施例1と全く同様の測定を行い、実施例1と全く同様にして試料中のクレアチニン濃度を求めた。 【0022】比較例3 実施例1において第一試薬よりポリオキシエチレンフィトスタノールを、そして第二試薬よりフェロシアン化カリウムを除いた以外、実施例1と全く同様の測定を行い、実施例1と全く同様にして試料中のクレアチニン濃度を求めた。 【0023】実施例、比較例1、比較例2及び比較例3の測定結果を表1に示す。表中の数値は、ビリルビン無添加の試料を測定したときの測定値を100%として表した。 【0024】 【表1】 ![]() 【0025】表1の結果から、フェロシアン化カリウムとポリオキシエチレンフィトスタノールを添加すると、ビリルビンの干渉はほとんど無視できるレベルにまで達することを見出した。」 甲1f 「【0037】 【発明の効果】本発明によれば、酸化酵素−ペルオキシダーゼ−発色剤系に基づく生体成分の測定方法において、ステロイド骨格を有するアルキル基及びポリオキシアルキレン基を含む界面活性剤と、鉄錯体を存在させることにより、検体試料中のビリルビンの干渉をほとんど受けずに生体成分を測定することが可能になる。」 (2)甲2に記載された事項 甲2には、以下の記載がある。(下線は当審による。) 甲2a 「【請求項1】 下記の一般式(I) 【化1】 ![]() (式中、R1は水素原子又は置換若しくは非置換のアルキル基を表し、R2はアミド置換アルキル基を表し、R5は水素原子又はフッ素原子を表し、R3、R4、R6及びR7は同一又は異なって、水素原子、置換若しくは非置換のアルキル基又は置換若しくは非置換のアルコキシル基を表し、ここで、R3、R4、R6及びR7からなる群より選ばれる少なくとも1つの基は置換若しくは非置換のアルキル基を表し、残りの基のうち少なくとも1つは置換若しくは非置換のアルコキシル基を表す)で表されるアニリン誘導体又はその塩。」 甲2b 「【請求項7】 試料中の定量すべき成分を直接若しくは間接的に過酸化水素に変換し、又は、試料中の定量すべき成分から直接若しくは間接的に過酸化水素を生成させ、過酸化活性物質の存在下、該過酸化水素を、請求項1〜6のいずれかに記載のアニリン誘導体又はその塩、及び、カップラーと反応させ、生成する色素を測定することを特徴とする試料中の定量すべき成分の定量方法。 【請求項8】 カップラーが、4−アミノアンチピリンである、請求項7記載の定量方法。 【請求項9】 過酸化活性物質が、ペルオキシダーゼである、請求項7又は8記載の定量方法。」 甲2c 「【0001】 本発明は、アニリン誘導体又はその塩、並びに、これを用いる試料中の定量すべき成分の定量方法、定量用試薬及び定量用キットに関する。」 甲2d 「【0003】 オキシダーゼにより生成した過酸化水素を過酸化活性物質の存在下に色素に変換する際に使用される酸化発色剤としては、例えばロイコ型発色試薬やカップリング型発色試薬等が知られている。ロイコ型発色試薬はそれ自体が酸化されて色素を生成する発色試薬である。カップリング型発色試薬は、2成分が酸化縮合反応して色素を生成する発色試薬であり、2つの成分を、別々の試薬容器中に含有させて保存できることから、定量用キットに汎用されている。カップリング型発色試薬における2つの成分は、4−アミノアンチピリン等のカップラーと、フェノール誘導体又はアニリン誘導体である。 【0004】 … しかしながら、酸化発色剤を用いた色素の形成反応は、試料中に含まれるビリルビンなどの還元性物質の影響を受けやすいという問題点が存在する。還元性物質の影響を回避する方法としては、例えば、過剰の4−アミノアンチピリンを添加する方法、フェロシアン化カリウムを添加する方法等が知られている。」 甲2e 「【0007】 本発明の目的は、試料中のビリルビンによる影響、及び、試薬液等に共存するアジ化ナトリウム等のアジ化物による影響を受けにくい酸化発色剤等として有用なアニリン誘導体又はその塩、並びに、これを用いる試料中の定量すべき成分の定量方法、定量用試薬及び定量用キットを提供することにある。」 甲2f 「【0017】 本発明により、試料中のビリルビンによる影響、及び、アジ化ナトリウム等のアジ化物を含有する試薬による影響を受けにくい酸化発色剤等として有用なアニリン誘導体又はその塩、並びに、これを用いる試料中の定量すべき成分の定量方法、定量試薬及び定量用キットが提供される。」 甲2g 「【0027】 … 本発明の化合物(I)の具体例としては、N−[2−(サクシニルアミノ)エチル]−2−メトキシ−5−メチルアニリン(MASE)、N−エチル−N−[2−(サクシニルアミノ)エチル]−2−メトキシ−5−メチルアニリン(Et−MASE)等があげられる。」 甲2h 「【0035】 本発明における過酸化活性物質としては、例えばペルオキシダーゼ、モノフェノールモノオキシダーゼ等のペルオキシダーゼ様活性を持つ酵素類、ペルオキシダーゼ様活性を持つ金属錯体等があげられ、ペルオキシダーゼ様活性を持つ酵素類が好ましく、中でも、ペルオキシダーゼが好ましい。 本発明におけるカップラーとしては、例えば4−アミノアンチピリン又はその誘導体、フェニレンジアミン誘導体、3−メチル−2−ベンゾチアゾリノンヒドラゾン(MBTH)等があげられるが、4−アミノアンチピリンが好ましい。」 甲2i 「【0040】 酵素反応により間接的に過酸化水素に変換される成分としては、例えばクレアチニン、クレアチン、シアル酸、総コレステロール(全てのリポタンパク中の遊離型コレステロールとエステル型コレステロールとを合わせたもの:TC)、エステル型コレステロール、HDL中のコレステロール(HDL中の遊離型コレステロールとエステル型コレステロールとを合わせたもの:HDL−C)、HDL中のエステル型コレステロール(HDL−EC)、LDL中のコレステロール(LDL中の遊離型コレステロールとエステル型コレステロールとを合わせたもの:LDL−C)、LDL中のエステル型コレステロール(LDL−EC)、VLDL中のコレステロール(VLDL中の遊離型コレステロールとエステル型コレステロールとを合わせたもの:VLDL−C)、VLDL中のエステル型コレステロール(VLDL−EC)、IDL中のコレステロール(IDL中の遊離型コレステロールとエステル型コレステロールとを合わせたもの:IDL−C)、IDL中のエステル型コレステロール(IDL−EC)、レムナントリポタンパク中のコレステロール、レムナントリポタンパク中のエステル型コレステロール、sdLDL中のコレステロール(sdLDL−C)、sdLDL中のエステル型コレステロール(sdLDL−EC)、トリグリセライド、L−アスパラギン酸、デンプン、マルトース、リン脂質、遊離脂肪酸、無機リン酸、グリコアルブミン、HbA1c等が挙げられる。」 甲2j 「【0041】 酵素反応により直接過酸化水素を生成させる成分としては、例えばコリンオキシダーゼ、尿酸オキシダーゼ(ウリカーゼ)、グルコースオキシダーゼ、ピルビン酸オキシダーゼ、乳酸オキシダーゼ、グリセロールオキシダーゼ、ザルコシンオキシダーゼ、アシルCoAオキシダーゼ、キサンチンオキシダーゼ、フルクトシルアミノ酸オキシダーゼ、モノアミンオキシダーゼ、ポリアミンオキシダーゼ、コレステロールオキシダーゼ等の各種オキシダーゼが挙げられる。」 甲2k 「【0045】 … 試料中の定量すべき成分と、試料中の定量すべき成分を間接的に過酸化水素に変換する試薬との組み合わせとしては、例えば以下の組み合わせを挙げることができる。 ・クレアチニン:クレアチニナーゼ、クレアチナーゼ、及び、ザルコシンオキシダーゼを含有する試薬 … ・HbA1c:プロテアーゼ、及び、フルクトシルアミノ酸オキシダーゼ若しくはフルクトシルペプチドオキシダーゼを含有する試薬 …」 甲2l 「【0048】 本発明の試薬及びキットは、凍結乾燥された状態、予め水性媒体に溶解された状態、試験片、フィルム状等いかなる形態で提供されていてもよい。凍結乾燥された状態の試薬及びキットは、本発明の試料中の定量すべき成分の定量に際して、水性媒体に溶解されて使用される。 本発明の試薬及びキットには、必要に応じて、水性媒体、安定化剤、防腐剤、干渉物質消去剤、反応促進剤、界面活性剤等が含有されてもよい。水性媒体としては、例えば脱イオン水、蒸留水、緩衝液等があげられるが、緩衝液が好ましい。緩衝液のpHとしては、pH4.0〜10.0であり、pH6.0〜8.0が好ましい。緩衝液に用いる緩衝剤としては、例えばリン酸緩衝剤、ホウ酸緩衝剤、グッドの緩衝剤等があげられる。 【0049】 … 【0050】 緩衝液の濃度は測定に適した濃度であれば特に制限はされないが、0.001〜2.0mol/Lが好ましく、0.005〜1.0mol/Lがより好ましい。 安定化剤としては、例えばエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、シュークロース、塩化カルシウム、フェロシアン化カリウム、牛血清アルブミン(BSA)等があげられる。防腐剤としては、例えばアジ化ナトリウム、抗生物質等があげられる。干渉物質消去剤としては、例えばアスコルビン酸の影響を消去するためのアスコルビン酸オキシダーゼ等があげられる。反応促進剤としては、例えばコリパーゼ、ホスホリパーゼ等の酵素、硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、等の塩類があげられる。界面活性剤としては、例えば非イオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤等があげられる。非イオン性界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレン(POE)系界面活性剤等が挙げられる。」 甲2m 「【0052】 以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、これらは本発明の範囲を何ら限定するものではない。 尚、本実施例、比較及び試験例においては、下記メーカーの試薬及び酵素を使用した。 PIPES(同仁化学研究所社製)、HEPES(BDHラボラトリー社製)、4−アミノアンチピリン(埼京化成社製)、EMSE{N−エチル−N−[2−(サクシニルアミノ)エチル]−3−メチルアニリン;ダイトーケミックス社製}、DOSE{N−[2−(サクシニルアミノ)エチル]−3,5−ジメトキシアニリン ナトリウム;ダイトーケミックス社製}、HDAOS[N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメトキシアニリン ナトリウム;同仁化学研究所社製]、ATP・二ナトリウム塩(協和発酵工業社製)、硫酸ナトリウム(関東化学社製)、カチオンBB(ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド;日本油脂社製)、デキストラン硫酸ナトリウム(分子量50万)(ファルマシア社製)、ウシ血清アルブミン(BSA;プロライアント社製)、フェロシアン化カリウム(関東化学社製)、アジ化ナトリウム(和光純薬工業社製)、エマルゲン709(POE高級アルコールエーテル;花王社製)、トリトンDF−16(POEオクチルフェニルエーテル;シグマ社製)、アデカトールPC−8(特殊フェノールエトキシレート;旭電化工業社製)、エマルゲンA−60(POEジスチレン化フェニルエーテル;花王社製)、エマルゲンA−90(POEジスチレン化フェニルエーテル;花王社製)、BLAUNONL205(POEラウリルアミン;青木油脂社製)、ペルオキシダーゼ(東洋紡績社製)、アスコルビン酸オキシダーゼ(旭化成社製)、リポプロテインリパーゼ(東洋紡社製)、グリセロールキナーゼ(東洋紡績社製)、グリセロール−3−リン酸オキシダーゼ(東洋紡績社製)、EST“Amano”2(コレステロールエステラーゼ;天野エンザイム社製)、CHO−PEL(コレステロールオキシダーゼ;キッコーマン社製)。」 甲2n 「【実施例5】 【0061】 HDL−C定量用キット 以下の第1試薬(試薬D)及び第2試薬(試薬b)からなるHDL−C測定用キットを調製した。 第1試薬(試薬D) HEPES(pH7.6) 50 mmol/L BSA 2 g/L 硫酸ナトリウム 5 g/L デキストラン硫酸ナトリウム 1 g/L カチオンBB 0.12 g/L ペルオキシダーゼ 10 kU/L MASE 0.3 g/L 第2試薬(試薬b) MES(pH6.7) 50 mmol/L BLAUNON L205 0.16 g/L 4−アミノアンチピリン 0.3 g/L フェロシアン化カリウム 0.03 g/L ペルオキシダーゼ 20 kU/L CHO−PEL 1 kU/L EST“Amano”2 100 kU/L BSA 2 g/L … 【実施例6】 【0062】 試料中のHDL−Cの定量 実施例5のキットを用いて、以下の手順により試料中のHDL−Cを定量した。 (1)検量線の作成 標準液として、生理食塩水(HDL−C:0mg/dL)及び血清(HDL−C:78.0mg/dL)を、実施例5のキットを用いて、日立7170S形自動分析装置により、HDL−C濃度と「吸光度」との間の関係を示す検量線を作成した。 【0063】 ここでの「吸光度」とは、以下の反応で測定された2つの吸光度(E1及びE2)を基に、E2からE1を差し引くことにより得られた値を表す。 反応セルへ標準液(2.0μL)と第1試薬(0.15mL)とを添加し37℃で5分間加温し、反応液の吸光度(E1)を主波長540nm、副波長700nmで測定し、次いで、この反応液に第2試薬(0.05mL)を添加しさらに37℃で5分間加温し、反応液の吸光度(E2)を主波長540nm、副波長700nmで測定した。 (2)ヒト血清検体における「吸光度」の測定 (1)の検量線の作成において用いた標準液の代わりにヒト血清検体(40検体)を用いる以外は(1)の「吸光度」の算出方法と同様の方法により、それぞれの検体に対して、「吸光度」を測定した。 (3)ヒト血清検体中のHDL−C濃度の決定 (2)で測定した「吸光度」と、(1)で作成した検量線とから、各検体中のHDL−C濃度を決定した。 【0064】 (2)の測定で使用したヒト血清検体(40検体)中のHDL−C濃度を、HDL−C定量用キットであるデタミナーL HDL−C K(協和メデックス社製)を用いて同様に決定した。(2)で決定した各検体中のHDL−C濃度とデタミナーL HDL−C Kを用いた測定により決定した各検体中のHDL−C濃度との間の相関を図2に示す。図2から明らかなように、両測定間で良好な相関関係が認められ、従って、実施例5のキットを用いることにより、検体中のHDL−Cを定量できることが判明した。 …」 甲2o 「【0072】 第4表から明らかなように、被酸化性発色試薬としてMASEを用いたキット(実施例5)においては、被酸化性発色試薬としてEMSEを用いたキット(比較例3)に比較して、ビリルビンの影響を受け難いことが判明した。」 (3)甲5に記載された事項 甲5には、以下の記載がある。 甲5a 「 ![]() 」(第1頁) 甲5b 「 ![]() 」(第2頁) 甲5c 「 ![]() 」(第3頁) (4)甲6に記載された事項 甲6には、以下の記載がある。 甲6a 「 ![]() 」(第1頁) 3.申立理由1(公然実施発明「セロテック」CRE−Nに基づく新規性・進歩性欠如)について (1)公然実施発明「セロテック」CRE−Nについて ア 公然実施性について 甲5に記載される「セロテック」CRE−Nに関して、甲6には、2016年3月31日に販売が開始されたことが記載されている(甲6a)。 そうすると、「セロテック」CRE−Nに係る発明は、本件特許の優先日である2018年5月10日よりも前に不特定多数の者に譲渡されることで公然実施されたものであると認められる。 イ 甲5に記載された発明 ペルオキシダーゼがキットの添加剤に含まれることからすると、甲5の記載(甲5a〜c)から、次の「甲5発明1」、「甲5発明2」を認定できる。 (ア)甲5発明1 「下記の酵素試液A及び酵素試液Bからなる血液・尿検査用クレアチニンキットで使用されるペルオキシダーゼを含有する添加剤 酵素試液A(溶液) pH8.0(25℃) グッド緩衝液 60mmol/L クレアチナーゼ 42U/mL サルコシンオキシダーゼ 5.2U/mL アスコルビン酸オキシダーゼ 9.3U/mL カタラーゼ 300U/mL EHSPT 1.78mmol/L 酵素試液B(溶液) pH8.0(25℃) グッド緩衝液 60mmol/L ペルオキシダーゼ 20U/mL クレアチニナーゼ 490U/mL 4-AA 5.91mmol/L」 (イ)甲5発明2 「下記の酵素試液A及び酵素試液Bからなる血液・尿検査用クレアチニンキットで添加剤としてペルオキシダーゼを使用する方法 酵素試液A(溶液) pH8.0(25℃) グッド緩衝液 60mmol/L クレアチナーゼ 42U/mL サルコシンオキシダーゼ 5.2U/mL アスコルビン酸オキシダーゼ 9.3U/mL カタラーゼ 300U/mL EHSPT 1.78mmol/L 酵素試液B(溶液) pH8.0(25℃) グッド緩衝液 60mmol/L ペルオキシダーゼ 20U/mL クレアチニナーゼ 490U/mL 4-AA 5.91mmol/L」 (2)本件発明1について ア 本件発明1と甲5発明1との対比 甲5cには、「4-アミノアンチピリン(4-AA)」との記載があることから、甲5発明1の「4-AA」は、4−アミノアンチピリンを意味するものであると解される。そして、本件明細書等の段落【0055】(本g)には、「4−アミノアンチピリン(4AA)、アミノアンチピリン誘導体等のアミノアンチピリン系化合物」との記載があることから、甲5発明1の「4-AA」は、本件発明1の「アミノアンチピリン系化合物」に相当する。 本件明細書等の段落【0050】〜【0051】(本g)には、酸化還元発色試薬としては、例えば水素供与体とカップラーの組合せが挙げられ、その代表例は、水素供与体とカップラーとをペルオキシダーゼの存在下に過酸化水素によって酸化縮合させて色素を形成させるトリンダー(Trinder)法であることが記載されている。そして、本件明細書等の段落【0052】(本g)には、トリンダー法などに用いる水素供与体として、アニリン誘導体が例示されており、本件明細書等の段落【0054】〜【0055】(本g)には、水素供与体と組合せて用いるカップラーとして、4−アミノアンチピリン等のアミノアンチピリン系化合物が例示されている。 一方、甲5cには、「H2O2にペルオキシダーゼ(POD)が作用すると、4-アミノアンチピリン(4-AA)とN-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-m-トルイジン(EHSPT)を酸化縮合しますので、生じるキノン色素を比色測定することによりクレアチニン濃度を求めます。」と記載されている。そして、一般にm-トルイジンは3−メチルアニリンの別称であるから、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-m-トルイジン(EHSPT)はアニリン誘導体の一つである。 そうすると、甲5発明1の「EHSPT」及び「4-AA」は、本件明細書等の段落【0050】〜【0055】(本g)において酸化還元発色試薬として記載される水素供与体とカップラーの組合せであるといえ、甲5発明1のキットにおいて「4−AA」は、「酸化還元発色試薬のカップラーとして」用いられたものであるといえる。 甲5cには、「使用目的 血清,血漿または尿中のクレアチニンの測定」と記載されていることから、甲5発明1のキットは、クレアチニンの測定に用いられるものであるところ、本件明細書等の段落【0025】(本d)には、生体成分測定に用いられる生体成分として、クレアチニンが例示されていることから、甲5発明1のキットは、「生体成分測定法に適用される」ものであるといえる。そして、甲5発明1の「ペルオキシダーゼ」は、本件明細書等の実施例5(本k)において、鉄含有物質として用いられているものであるから、本件発明1の「鉄含有物質」に相当し、また、甲5発明1の「ペルオキシダーゼ」は、甲5発明1のキット、すなわち、「酸化還元発色試薬のカップラーとして」用いられた「4-AA」を含み、且つ、「生体成分測定法に適用される」「キット」で使用される添加剤であるから、本件発明1の「酸化還元発色試薬のカップラーとして」「アミノアンチピリン系化合物を用いる生体成分測定法に適用される」「剤」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲5発明1とは、 「酸化還元発色試薬のカップラーとして、アミノアンチピリン系化合物を用いる生体成分測定法に適用される剤であって、鉄含有物質を含有する、剤。」である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点1−1> 本件発明1では、「鉄含有物質を含有する、剤」が、「4−ヒドロキシアンチピリンを含有するアミノアンチピリン系化合物を用いる生体成分測定法に適用される測定感度低下抑制剤」であることが特定されているのに対し、 甲5発明1では、そのような特定がない添加剤である点 イ 判断 本件明細書等の段落【0005】〜【0008】(本a)には、アミノアンチピリン系化合物および水素供与体を用いた酵素−ペルオキシダーゼ−発色剤系の生体成分測定試薬を調製し、それを生体成分測定に用いるにあたり、原因不明の測定感度の低下を経験したこと、測定感度の低下の程度は、測定のために調製した試薬組成物のロットによりばらつきがあったため、測定キットの試薬組成について種々検討した結果、4−アミノアンチピリン中に極微量の4−ヒドロキシアンチピリンという物質が存在することを見出したこと、及び、4−ヒドロキシアンチピリンが試薬中に存在した場合、本来の4−アミノアンチピリン−水素供与体の反応で発色する発色量が減り、感度が低下すると考えられたことから、4−ヒドロキシアンチピリンに起因する感度低下を抑制する手段を提供することを課題とし、生体成分測定試薬キットの調製にあたり、鉄含有物質を用いることで、4−ヒドロキシアンチピリンに起因する感度低下を抑制できることを見出し、本発明を完成させるに至ったことが記載されている。そして、このことを裏付ける実験結果として、実施例3(本i)では、4−ヒドロキシアンチピリンに起因して試料測定感度が低下することが実際に確認され、実施例4、5(本j、本k)によると、鉄含有物質である塩化第二鉄、フェリシアン化カリウム、フェロシアン化カリウム及びペルオキシダーゼの濃度を調整することで、4−ヒドロキシアンチピリンに起因する感度低下を抑制できることが示されている。 一方、甲5には、4-AA(4−アミノアンチピリン)が4−ヒドロキシアンチピリンを含有するものであることについて記載も示唆もされていないので、当然のことながら、4−ヒドロキシアンチピリンが、生体成分の測定感度低下の原因となることを、本件特許の優先日前の当業者は認識し得ないし、そうである以上、4−ヒドロキシアンチピリンに起因する測定感度低下が、甲5発明1のキットで使用されるペルオキシダーゼの濃度を調整することによって抑制できることも上記の当業者は知る由がなかったといえる。また、他の甲号証の記載を参照しても、これらのことが本件特許の優先日前に当業者に知られていたとはいえない。 そうすると、本件発明1は、「鉄含有物質」について、未知の属性を発見し、その属性により、「鉄含有物質」が、相違点1−1として挙げた「4−ヒドロキシアンチピリンを含有するアミノアンチピリン系化合物を用いる生体成分測定法に適用される測定感度低下抑制剤」という新たな用途に使用できることを見出したことに基づく発明であると認められるので、本件発明1は、相違点1−1により甲5発明1と実質的に相違する。 なお、申立人は異議申立書において、下記(ア)、(イ)のとおり主張する。 (ア)甲7の記載から、本件優先日当時、市販されていた「セロテック」CRE−Nにも4−ヒドロキシアンチピリンが含まれていたといえ、本件優先日当時、市販されていた4−アミノアンチピリンに4−ヒドロシキアンチピリンが含まれていたことは、本件明細書及び甲3や甲4の記載とも合致する事実である。 (イ)甲5には、ペルオキシダーゼが測定感度の低下を抑制することについては明確な記載はないものの、公然実施発明において、酸化還元発色試薬のカップラーとして、4−ヒドロキシアンチピリンを含む4−アミノアンチピリンを用いる生体成分測定法において、鉄タンパク質であるペルオキシダーゼを含む以上、測定感度低下の抑制との効果を奏していたといえるから、鉄タンパク質であるペルオキシダーゼは、測定感度低下抑制剤であったといえる。 しかし、甲7、本件明細書、甲3、4は、「セロテック」CRE−Nに、4−ヒドロキシアンチピリンが含まれていることを、本件特許の優先日前の当業者が認識していたことを示すものではないし、そうである以上、4−ヒドロキシアンチピリンに起因する測定感度低下に対して、鉄含有物質が濃度に応じて作用して、鉄含有物質が有する未知の属性に基づく測定感度低下抑制剤という新たな用途を提供することについて、上記の当業者は推知することができなかったといえる。 よって、甲5発明1の4−アミノアンチピリンに4−ヒドロシキアンチピリンが含まれていること、及び、ペルオキシダーゼが測定感度低下抑制効果を潜在的に有していることは、上記の用途発明に係る判断を左右するものではない。 したがって、申立人の上記主張は採用できない。 以上のとおり、上記相違点1−1は実質的な相違点である。 ウ 小括 以上のとおり、本件発明1は、甲5発明1と相違点1−1で実質的に相違するため、公然実施された発明であるとはいえない。 (3)本件発明2、3について 本件発明2、3は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、少なくとも相違点1−1で甲5発明1と実質的に相違するため、公然実施された発明であるとはいえない。 (4)本件発明4について ア 本件発明4と甲5発明2との対比 上記(2)アで示した相当関係を踏まえて、本件発明4と甲5発明2とを対比すると、両者は、 「酸化還元発色試薬のカップラーとして、アミノアンチピリン系化合物を用いる生体成分測定法に適用される方法であって、鉄含有物質を用いる、方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点1−2> 本件発明4では、「鉄含有物質を用いる、方法」が、「4−ヒドロキシアンチピリンを含有するアミノアンチピリン系化合物を用いる生体成分測定法に適用される測定感度低下抑制方法」であることが特定されているのに対し、 甲5発明2では、そのような特定がない点 イ 判断 甲5には、4-AA(4−アミノアンチピリン)が4−ヒドロキシアンチピリンを含有するものであることについて記載も示唆もされてないので、当然のことながら、4−ヒドロキシアンチピリンが、生体成分の測定感度低下の原因となることを、本件特許の優先日前の当業者は認識し得ないし、そうである以上、4−ヒドロキシアンチピリンに起因する測定感度低下が、甲5発明2のキットに添加されるペルオキシダーゼの濃度を調整することによって抑制できることも上記の当業者は知る由がなかったといえる。また、他の甲号証の記載を参照しても、これらのことが本件特許の優先日前に当業者に知られていたとはいえない。 そうすると、本件発明4と甲5発明2は、技術思想が異なる方法の発明と解すべきであり、両者は、相違点1−2により実質的に相違するものである。 ウ 小括 以上のとおり、本件発明4は、甲5発明2と相違点1−2で実質的に相違するため、公然実施された発明であるとはいえない。 (5)本件発明5について ア 本件発明5と甲5発明2との対比 甲5cには、「サルコシンはサルコシンオキシダーゼ(SOX)の作用によって酸化分解されて過酸化水素(H2O2)を生成します。」と記載されていることから、甲5発明2の「サルコシンオキシダーゼ」は、本件発明5の「過酸化水素を発生させることができる酸化酵素」に相当する。 甲5発明2の「EHSPT」及び「4-AA」は、上記(2)アで指摘したとおり、本件明細書等において酸化還元発色試薬として記載される水素供与体とカップラーの組合せであるといえるから、本件発明5の「ペルオキシダーゼの存在下で過酸化水素と反応して呈色する酸化還元発色試薬」に相当する。また、甲5発明2の「4−AA」は、本件発明5の「酸化還元発色試薬のカップラーとして」の「アミノアンチピリン系化合物」に相当する。 甲5発明2の「血液・尿検査用クレアチニンキット」は、本件発明5の「試薬セット」に相当する。そして、甲5cには、「使用目的 血清,血漿または尿中のクレアチニンの測定」と記載されていることから、甲5発明2の「血液・尿検査用クレアチニンキット」は、クレアチニンの測定に用いられるものであるところ、本件明細書等の段落【0025】(本d)には、生体成分測定に用いられる生体成分として、クレアチニンが例示されていることから、「生体成分測定法」において「使用する」ものであるといえる。 さらに、上記(2)アで示した相当関係を踏まえて、本件発明5と甲5発明2とを対比すると、両者は、 「以下の(a)〜(d)の要件を満たす試薬セットを使用する生体成分測定法における方法であって、鉄含有物質を添加する、方法。 (a)過酸化水素を発生させることができる酸化酵素を含む。 (b)ペルオキシダーゼを含む。 (c)ペルオキシダーゼの存在下で過酸化水素と反応して呈色する酸化還元発色試薬を含む。 (d)該酸化還元発色試薬のカップラーとして、アミノアンチピリン系化合物を含む。 」である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点1−3> 本件発明5では、「4−ヒドロキシアンチピリンを含有するアミノアンチピリン系化合物」の要件を満たす(d)の「試薬中に鉄含有物質を添加」する「生体成分の測定感度低下の抑制方法」と規定されているのに対し、 甲5発明2では、そのような特定がされていない点 イ 判断 甲5には、4-AA(4−アミノアンチピリン)が4−ヒドロキシアンチピリンを含有するものであることについて記載も示唆もされてないので、当然のことながら、4−ヒドロキシアンチピリンが、生体成分の測定感度低下の原因となることを、本件特許の優先日前の当業者は認識し得ないし、そうである以上、4−ヒドロキシアンチピリンに起因する測定感度低下が、甲5発明2のキットに添加されるペルオキシダーゼの濃度を調整することによって抑制できることも上記の当業者は知る由がなかったといえる。また、他の甲号証の記載を参照しても、これらのことが本件特許の優先日前に当業者に知られていたとはいえない。 そうすると、本件発明5と甲5発明2は、技術思想が異なる方法の発明と解すべきであり、両者は、相違点1−3により、実質的に相違するものである。 ウ 小括 以上のとおり、本件発明5は、甲5発明2と相違点1−3で実質的に相違するため、公然実施された発明であるとはいえない。 (6)本件発明6〜8について 本件発明6、8は、本件発明4又は5を直接又は間接的に引用するものであり、甲5発明2と少なくとも相違点1−2又は相違点1−3で実質的に相違するため、公然実施された発明であるとはいえない。 また、本件発明7は、本件発明4又は5を直接又は間接的に引用するものであり、甲5発明2と少なくとも相違点1−2又は相違点1−3で実質的に相違するが、これらの相違点については、上記(4)、(5)で述べたとおり、本件特許の優先日前の当業者は、4−ヒドロキシアンチピリンに起因する測定感度低下が、甲5発明2のキットに添加されるペルオキシダーゼの濃度を調整することによって抑制できることを知る由がなかったから、甲5及び他の甲号証を組み合わせても、本件発明7は、甲5発明2から当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。 (7)まとめ 以上のとおりであるから、申立理由1(公然実施発明「セロテック」CRE−Nに基づく新規性・進歩性欠如)には、理由がない。 4.申立理由2(甲1を主引例とする新規性欠如)について (1)甲1に記載された発明 フェロシアン化カリウム及びペルオキシダーゼが試薬の添加剤に含まれることからすると、甲1の実施例1(甲1e)の記載より、甲1には、次の「甲1発明1」、「甲1発明2」が記載されていると認められる。 ア 甲1発明1 「下記の第一試薬及び第二試薬からなる試薬で使用されるフェロシアン化カリウム及びペルオキシダーゼを含有する添加剤 第一試薬(pH8.3): グッド緩衡剤 20mM N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3−メチルアニリン2mM ポリオキシエチレンフィトスタノール(重合度25)1.0% クレアチナーゼ 45KU/l ザルコシンオキシダーゼ9KU/l 第二試薬(pH7.0): グッド緩衡剤 200mM 4−アミノアンチピリン 6mM アジ化ナトリウム0.1% フェロシアン化カリウム0.5mM クレアチニナーゼ340KU/l ペルオキシダーゼ3KU/l」 イ 甲1発明2 「下記の第一試薬及び第二試薬からなる試薬で添加剤としてフェロシアン化カリウム及びペルオキシダーゼを使用する方法 第一試薬(pH8.3): グッド緩衡剤 20mM N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3−メチルアニリン2mM ポリオキシエチレンフィトスタノール(重合度25)1.0% クレアチナーゼ 45KU/l ザルコシンオキシダーゼ9KU/l 第二試薬(pH7.0): グッド緩衡剤 200mM 4−アミノアンチピリン 6mM アジ化ナトリウム0.1% フェロシアン化カリウム0.5mM クレアチニナーゼ340KU/l ペルオキシダーゼ3KU/l」 (2)本件発明1について ア 本件発明1と甲1発明1との対比 本件明細書等の段落【0055】(本g)には、「4−アミノアンチピリン(4AA)、アミノアンチピリン誘導体等のアミノアンチピリン系化合物」との記載があることから、甲1発明1の「4−アミノアンチピリン」は、本件発明1の「アミノアンチピリン系化合物」に相当する。 本件明細書等の段落【0050】〜【0051】(本g)には、酸化還元発色試薬としては、例えば水素供与体とカップラーの組合せが挙げられ、その代表例は、水素供与体とカップラーとをペルオキシダーゼの存在下に過酸化水素によって酸化縮合させて色素を形成させるトリンダー(Trinder)法であることが記載されている。そして、本件明細書等の段落【0052】(本g)には、トリンダー法などに用いる水素供与体として、アニリン誘導体が例示されており、本件明細書等の段落【0054】〜【0055】(本g)には、水素供与体と組合せて用いるカップラーとして、4−アミノアンチピリン等のアミノアンチピリン系化合物が例示されている。 一方、甲1の【0011】(甲1d)には、発色剤としては、過酸化水素とペルオキシダーゼの存在により色素を形成するものであればよく、水素供与体とそのカプラーの組合わせが通常用いられ、その組合わせとしては、例えばフェノールもしくはその誘導体あるいはアニリン誘導体と、4−アミノアンチピリンの組合わせが挙げられること、及び、アニリン誘導体としては、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3−メチルアニリン等が挙げられることが記載されている。そうすると、甲1発明1の「N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3−メチルアニリン」及び「4−アミノアンチピリン」は、本件明細書等の段落【0050】〜【0055】(本g)に酸化還元発色試薬として記載される水素供与体とカップラーの組合せであるといえ、甲1発明1の試薬において「4−アミノアンチピリン」は、「酸化還元発色試薬のカップラーとして」用いられたものであるといえる。 甲1の実施例1(甲1e)では、甲1発明1の試薬を用いてクレアチニンの濃度を測定しているところ、本件明細書等の段落【0025】(本d)には、生体成分測定に用いられる生体成分として、クレアチニンが例示されていることから、甲1発明1の試薬は、「生体成分測定法に適用される」ものであるといえる。 甲1発明1の「フェロシアン化カリウム」及び「ペルオキシダーゼ」は、いずれも本件明細書等の実施例5(本k)において、鉄含有物質として用いられているものであるから、本件発明1の「鉄含有物質」に相当し、また、甲1発明1の「フェロシアン化カリウム」及び「ペルオキシダーゼ」は、甲1発明1の試薬、すなわち、「酸化還元発色試薬のカップラーとして」用いられた「4−アミノアンチピリン」を含み、且つ、「生体成分測定法に適用される」「試薬」で使用される添加剤であるから、本件発明1の「酸化還元発色試薬のカップラーとして」「アミノアンチピリン系化合物を用いる生体成分測定法に適用される」「剤」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲1発明1とは、 「酸化還元発色試薬のカップラーとして、アミノアンチピリン系化合物を用いる生体成分測定法に適用される剤であって、鉄含有物質を含有する、剤。」である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点2−1> 本件発明1では、「鉄含有物質を含有する、剤」が、「4−ヒドロキシアンチピリンを含有するアミノアンチピリン系化合物を用いる生体成分測定法に適用される測定感度低下抑制剤」であることが特定されているのに対し、 甲1発明1では、そのような特定がない添加剤である点 イ 判断 上記の3(2)イで検討したものと同様に、甲1には、4−アミノアンチピリンが4−ヒドロキシアンチピリンを含有するものであることについて記載も示唆もされていないので、当然のことながら、4−ヒドロキシアンチピリンが、生体成分の測定感度低下の原因となることを、本件特許の優先日前の当業者は認識し得ないし、そうである以上、4−ヒドロキシアンチピリンに起因する測定感度低下が、甲1発明1の試薬で使用されるフェロシアン化カリウム及びペルオキシダーゼの濃度を調整することによって抑制できることも上記の当業者は知る由がなかったといえる。また、他の甲号証の記載を参照しても、これらのことが本件特許の優先日前に当業者に知られていたとはいえない。 そうすると、本件発明1は、「鉄含有物質」について、未知の属性を発見し、その属性により、「鉄含有物質」が、相違点2−1として挙げた「4−ヒドロキシアンチピリンを含有するアミノアンチピリン系化合物を用いる生体成分測定法に適用される測定感度低下抑制剤」という新たな用途に使用できることを見出したことに基づく発明であると認められるので、本件発明1は、相違点2−1により甲1発明1と実質的に相違するものである。 なお、上記相違点2−1に関連して、申立人は異議申立書において、下記(ア)、(イ)のとおり主張する。 (ア)甲1には、検体試料中のビリルビンの干渉による測定誤差を回避するため、すなわち、4−アミノアンチピリンを含有するアミノアンチピリン系化合物を用いる生体成分測定法における測定感度低下を抑制するために、鉄錯体を試薬中に含有すること(段落【0006】)が開示されており、測定感度低下の原因が4−ヒドロキシアンチピリンであるか、ビリルビンの干渉によるものかについては差異がなく、本件発明1と甲1に記載された発明は鉄含有物質を含有する測定感度低下抑制剤として区別することができない。 (イ)測定感度低下が4−ヒドロキシアンチピリンに起因すると解釈されたとしても、甲1に記載された発明における4−アミノアンチピリンには4−ヒドロキシアンチピリンが含まれていたから、甲1に記載された発明に明示的な記載がなくとも、試薬中の鉄錯体により4−ヒドロキシアンチピリンに起因する測定感度低下の抑制効果は既に発揮されていたといえ、本件発明1も甲1に記載された発明も、鉄含有物質を含有する測定感度低下抑制剤として区別することができない。 最初に、上記(イ)の主張について検討するに、上記の3(2)イで検討したものと同様に、甲1発明1の試薬に、4−ヒドロキシアンチピリンが含まれていることを本件特許の優先日前の当業者が認識していたことを示す証拠は提出されてないし、そうである以上、4−ヒドロキシアンチピリンに起因する測定感度低下に対して、鉄含有物質が濃度に応じて作用して、鉄含有物質が有する未知の属性に基づく測定感度低下抑制剤という新たな用途を提供することについて、上記の当業者は推知することができなかったといえる。 よって、甲1発明1の4−アミノアンチピリンに4−ヒドロシキアンチピリンが含まれていること、及び、試薬中の鉄錯体が、4−ヒドロキシアンチピリンに起因する測定感度低下の抑制効果を潜在的に有していることは、上記の用途発明に係る判断を左右するものではない。 したがって、上記(イ)の主張は、理由がない。 次に、上記(ア)の主張について検討するに、甲1の段落【0006】(甲1b)には、「酸化酵素−ペルオキシダーゼ−発色剤系の原理に基づく比色定量法により測定する方法において、鉄錯体とステロイド骨格を有するアルキル基及びポリオキシアルキレン基を含む界面活性剤とを存在させることにより、ビリルビンが高濃度で共存するような試料においても、その干渉による測定値への誤差を最小限に抑えられることを見出し本発明を完成させた。」と記載され、ビリルビンによる測定感度低下の抑制効果が、鉄錯体以外の成分、具体的には、ステロイド骨格を有するアルキル基及びポリオキシアルキレン基を含む界面活性剤によって左右されることが記載されている。 そうすると、測定感度低下の原因が、4−ヒドロキシアンチピリンであるか、ビリルビンの干渉によるかにより、鉄錯体による効果上の差異が生じるから、両原因に差異がないことを前提とする上記(ア)の主張は、理由がない。 ウ 小括 以上のとおり、本件発明1は、甲1発明1と相違点2−1で実質的に相違するため、甲1に記載された発明であるとはいえない。 (3)本件発明2、3について 本件発明2、3は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、少なくとも相違点2−1で甲1発明1と実質的に相違するため、甲1に記載された発明であるとはいえない。 (4)本件発明4について ア 本件発明4と甲1発明2との対比 上記(2)アで示した相当関係を踏まえて、本件発明4と甲1発明2とを対比すると、両者は、 「酸化還元発色試薬のカップラーとして、アミノアンチピリン系化合物を用いる生体成分測定法に適用される方法であって、鉄含有物質を用いる、方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点2−2> 本件発明4では、「鉄含有物質を用いる、方法」が、「4−ヒドロキシアンチピリンを含有するアミノアンチピリン系化合物を用いる生体成分測定法に適用される測定感度低下抑制方法」であることが特定されているのに対し、 甲1発明2では、そのような特定がない点 イ 判断 上記の3(4)イで検討したものと同様に、甲1には、4−アミノアンチピリンが4−ヒドロキシアンチピリンを含有するものであることについて記載も示唆もされていないので、当然のことながら、4−ヒドロキシアンチピリンが、生体成分の測定感度低下の原因となることを、本件特許の優先日前の当業者は認識し得ないし、そうである以上、4−ヒドロキシアンチピリンに起因する測定感度低下が、甲1発明2の試薬に添加されるフェロシアン化カリウム及びペルオキシダーゼの濃度を調整することによって抑制できることも上記の当業者は知る由がなかったといえる。また、他の甲号証の記載を参照しても、これらのことが本件特許の優先日前に当業者に知られていたとはいえない。 そうすると、本件発明4と甲1発明2は、技術思想が異なる方法の発明と解すべきであり、両者は、相違点2−2により実質的に相違するものである。 ウ 小括 以上のとおり、本件発明4は、甲1発明2と相違点2−2で実質的に相違するため、甲1に記載された発明であるとはいえない。 (5)本件発明5について ア 本件発明5と甲1発明2との対比 本件明細書等の段落【0046】(本f)には、「本発明に用いる酸化酵素は、基質から過酸化水素を発生させることができるものであれば、目的となる測定対象に応じて制限なく用いることができる。具体例としては、…サルコシンオキシダーゼ…等を用いることができる」と記載されていることから、甲1発明2の「ザルコシンオキシダーゼ」は、本件発明5の「過酸化水素を発生させることができる酸化酵素」に相当する。 甲1発明2の「N−エチル−N−(2−ヒドロキシ− 3−スルホプロピル)−3−メチルアニリン」及び「4−アミノアンチピリン」は、上記(2)アで指摘したとおり、本件明細書等に酸化還元発色試薬として記載される水素供与体とカップラーの組合せといえるから、本件発明5の「ペルオキシダーゼの存在下で過酸化水素と反応して呈色する酸化還元発色試薬」に相当する。また、甲1発明2の「4−アミノアンチピリン」は、「酸化還元発色試薬のカップラーとして」の「アミノアンチピリン系化合物」に相当する。 甲1発明2の「第一試薬及び第二試薬からなる試薬」は、本件発明5の「試薬セット」に相当する。そして、甲1の実施例1(甲1e)では、甲1発明2の「第一試薬及び第二試薬からなる試薬」を用いてクレアチニンの濃度を測定しているところ、本件明細書等の段落【0025】(本d)には、生体成分測定に用いられる生体成分として、クレアチニンが例示されていることから、甲1発明2の「第一試薬及び第二試薬からなる試薬」は、「生体成分測定法」において「使用する」ものであるといえる。 さらに、上記(2)アで示した相当関係を踏まえて、本件発明5と甲1発明2とを対比すると、両者は、 「以下の(a)〜(d)の要件を満たす試薬セットを使用する生体成分測定法における方法であって、鉄含有物質を添加する、方法。 (a)過酸化水素を発生させることができる酸化酵素を含む。 (b)ペルオキシダーゼを含む。 (c)ペルオキシダーゼの存在下で過酸化水素と反応して呈色する酸化還元発色試薬を含む。 (d)該酸化還元発色試薬のカップラーとして、アミノアンチピリン系化合物を含む。 」である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点2−3> 本件発明5では、「4−ヒドロキシアンチピリンを含有するアミノアンチピリン系化合物」の要件を満たす(d)の「試薬中に鉄含有物質を添加」する「生体成分の測定感度低下の抑制方法」と規定されているのに対し、 甲1発明2では、そのような特定がされていない点 イ 判断 上記の3(5)イで検討したものと同様に、甲1には、4−アミノアンチピリンが4−ヒドロキシアンチピリンを含有するものであることについて記載も示唆もされてないので、当然のことながら、4−ヒドロキシアンチピリンが、生体成分の測定感度低下の原因となることを、本件特許の優先日前の当業者は認識し得ないし、そうである以上、4−ヒドロキシアンチピリンに起因する測定感度低下が、甲1発明2の試薬に添加されるフェロシアン化カリウム及びペルオキシダーゼの濃度を調整することによって抑制できることも上記の当業者は知る由がなかったといえる。また、他の甲号証の記載を参照しても、これらのことが本件特許の優先日前に当業者に知られていたとはいえない。 そうすると、本件発明5と甲1発明2は、技術思想が異なる方法の発明と解すべきであり、両者は、相違点2−3により、実質的に相違するものである。 ウ 小括 以上のとおり、本件発明5は、甲1発明2と相違点2−3で実質的に相違するため、甲1に記載された発明であるとはいえない。 (6)本件発明6〜8について 本件発明6〜8は、本件発明4又は5を直接又は間接的に引用するものであり、甲1発明2と少なくとも相違点2−2又は相違点2−3で実質的に相違するため、甲1に記載された発明であるとはいえない。 (7)まとめ 以上のとおりであるから、申立理由2(甲1を主引例とする新規性欠如)には、理由がない。 5.申立理由3(甲2を主引例とする新規性欠如)について (1)甲2に記載された発明 フェロシアン化カリウム及びペルオキシダーゼがキットの添加剤に含まれることからすると、甲2の実施例5(甲2n)の記載より、甲2には、次の「甲2発明1」、「甲2発明2」が記載されていると認められる。 ア 甲2発明1 「以下の第1試薬(試薬D)及び第2試薬(試薬b)からなるHDL−C測定用キットで使用されるフェロシアン化カリウム及びペルオキシダーゼを含有する添加剤 第1試薬(試薬D) HEPES(pH7.6) 50 mmol/L BSA 2 g/L 硫酸ナトリウム 5 g/L デキストラン硫酸ナトリウム 1 g/L カチオンBB 0.12 g/L ペルオキシダーゼ 10 kU/L MASE 0.3 g/L 第2試薬(試薬b) MES(pH6.7) 50 mmol/L BLAUNON L205 0.16 g/L 4−アミノアンチピリン 0.3 g/L フェロシアン化カリウム 0.03 g/L ペルオキシダーゼ 20 kU/L CHO−PEL 1 kU/L EST“Amano”2 100 kU/L BSA 2 g/L」 イ 甲2発明2 「以下の第1試薬(試薬D)及び第2試薬(試薬b)からなるHDL−C測定用キットで添加剤としてフェロシアン化カリウム及びペルオキシダーゼを使用する方法 第1試薬(試薬D) HEPES(pH7.6) 50 mmol/L BSA 2 g/L 硫酸ナトリウム 5 g/L デキストラン硫酸ナトリウム 1 g/L カチオンBB 0.12 g/L ペルオキシダーゼ 10 kU/L MASE 0.3 g/L 第2試薬(試薬b) MES(pH6.7) 50 mmol/L BLAUNON L205 0.16 g/L 4−アミノアンチピリン 0.3 g/L フェロシアン化カリウム 0.03 g/L ペルオキシダーゼ 20 kU/L CHO−PEL 1 kU/L EST“Amano”2 100 kU/L BSA 2 g/L」 (2)本件発明1について ア 本件発明1と甲2発明1との対比 本件明細書等の段落【0055】(本g)には、「4−アミノアンチピリン(4AA)、アミノアンチピリン誘導体等のアミノアンチピリン系化合物」との記載があることから、甲2発明1の「4−アミノアンチピリン」は、本件発明1の「アミノアンチピリン系化合物」に相当する。 本件明細書等の段落【0050】〜【0051】(本g)には、酸化還元発色試薬としては、例えば水素供与体とカップラーの組合せが挙げられ、その代表例は、水素供与体とカップラーとをペルオキシダーゼの存在下に過酸化水素によって酸化縮合させて色素を形成させるトリンダー(Trinder)法であることが記載されている。そして、本件明細書等の段落【0052】(本g)には、トリンダー法などに用いる水素供与体として、アニリン誘導体が例示されており、本件明細書等の段落【0054】〜【0055】(本g)には、水素供与体と組合せて用いるカップラーとして、4−アミノアンチピリン等のアミノアンチピリン系化合物が例示されている。 一方、甲2の請求項1(甲2a)には、下記の一般式(I) 【化1】 ![]() (式中、R1は水素原子又は置換若しくは非置換のアルキル基を表し、R2はアミド置換アルキル基を表し、R5は水素原子又はフッ素原子を表し、R3、R4、R6及びR7は同一又は異なって、水素原子、置換若しくは非置換のアルキル基又は置換若しくは非置換のアルコキシル基を表し、ここで、R3、R4、R6及びR7からなる群より選ばれる少なくとも1つの基は置換若しくは非置換のアルキル基を表し、残りの基のうち少なくとも1つは置換若しくは非置換のアルコキシル基を表す)で表されるアニリン誘導体又はその塩が記載されており、請求項7〜9(甲2b)には、試料中の定量すべき成分を直接若しくは間接的に過酸化水素に変換し、又は、試料中の定量すべき成分から直接若しくは間接的に過酸化水素を生成させ、過酸化活性物質の存在下、該過酸化水素を、上記一般式(I)で表されるアニリン誘導体又はその塩、及び、カップラーと反応させ、生成する色素を測定する試料中の定量すべき成分の定量方法が記載されており、カップラーが、4−アミノアンチピリンであること、過酸化活性物質が、ペルオキシダーゼであることも記載されている。そして、甲2の段落【0027】(甲2g)には、化合物(I)の具体例としては、N−[2−(サクシニルアミノ)エチル]−2−メトキシ−5−メチルアニリン(MASE)等があげられることが記載されている。 そうすると、甲2発明1の「MASE」及び「4−アミノアンチピリン」は、本件明細書等の段落【0050】〜【0055】(本g)に酸化還元発色試薬として記載される水素供与体とカップラーの組合せであるといえ、甲2発明1の試薬において「4−アミノアンチピリン」は、「酸化還元発色試薬のカップラーとして」用いられたものであるといえる。 甲2の実施例6(甲2n)では、実施例5のキットを用いて、試料中のHDL−Cを定量している。そして、甲2の段落【0040】(甲2i)の「HDL中のコレステロール(HDL中の遊離型コレステロールとエステル型コレステロールとを合わせたもの:HDL−C)」との記載によれば、「HDL−C」とは、「HDL中のコレステロール(HDL中の遊離型コレステロールとエステル型コレステロールとを合わせたもの)」であるといえる。一方、本件明細書等の段落【0025】(本d)には、生体成分測定に用いられる生体成分として、HDLコレステロール(HDL−C、高密度リポタンパクコレステロール)が例示されていることから、甲2発明1の「HDL−C測定用キット」は、「生体成分測定法に適用される」ものであるといえる。 甲2発明1の「フェロシアン化カリウム」及び「ペルオキシダーゼ」は、いずれも本件明細書等の実施例5(本k)において、鉄含有物質として用いられているものであるから、本件発明1の「鉄含有物質」に相当し、また、甲2発明1の「フェロシアン化カリウム」及び「ペルオキシダーゼ」は、甲2発明1のキット、すなわち、「酸化還元発色試薬のカップラーとして」用いられた「4−アミノアンチピリン」を含み、且つ、「生体成分測定法に適用される」「キット」で使用される添加剤であるから、本件発明1の「酸化還元発色試薬のカップラーとして」「アミノアンチピリン系化合物を用いる生体成分測定法に適用される」「剤」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲2発明1とは、 「酸化還元発色試薬のカップラーとして、アミノアンチピリン系化合物を用いる生体成分測定法に適用される剤であって、鉄含有物質を含有する、剤。」である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点3−1> 本件発明1では、「鉄含有物質を含有する、剤」が、「4−ヒドロキシアンチピリンを含有するアミノアンチピリン系化合物を用いる生体成分測定法に適用される測定感度低下抑制剤」であることが特定されているのに対し、 甲2発明1では、そのような特定がない添加剤である点 イ 判断 上記の3(2)イで検討したものと同様に、甲2には、4−アミノアンチピリンが4−ヒドロキシアンチピリンを含有するものであることについて記載も示唆もされていないので、当然のことながら、4−ヒドロキシアンチピリンが、生体成分の測定感度低下の原因となることを、本件特許の優先日前の当業者は認識し得ないし、そうである以上、4−ヒドロキシアンチピリンに起因する測定感度低下が、甲2発明1のキットで使用されるフェロシアン化カリウム及びペルオキシダーゼの濃度を調整することによって抑制できることも上記の当業者は知る由がなかったといえる。また、他の甲号証の記載を参照しても、これらのことが本件特許の優先日前に当業者に知られていたとはいえない。 そうすると、本件発明1は、「鉄含有物質」について、未知の属性を発見し、その属性により、「鉄含有物質」が、相違点3−1として挙げた「4−ヒドロキシアンチピリンを含有するアミノアンチピリン系化合物を用いる生体成分測定法に適用される測定感度低下抑制剤」という新たな用途に使用できることを見出したことに基づく発明であると認められるので、本件発明1は、相違点3−1により甲2発明1と実質的に相違するものである。 なお、上記相違点3−1に関連して、申立人は異議申立書において、3(2)イに記載した(ア)、(イ)の主張、及び、4(2)イに記載した(ア)、(イ)の主張と同様の主張を行っているが、いずれも理由が無いことは、既に述べたとおりである。 また、申立人は、補足事項として、4−アミノアンチピリンとともに塩化第二鉄を含有することは、甲9に記載されており、何ら新規な構成ではない旨も主張するが、かかる主張が、理由がないことは、3(2)イ、及び、4(2)イで既に述べたとおりである。 ウ 小括 以上のとおり、本件発明1は、甲2発明1と相違点3−1で実質的に相違するため、甲2に記載された発明であるとはいえない。 (3)本件発明2、3について 本件発明2、3は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、少なくとも相違点3−1で甲2発明1と実質的に相違するため、甲2に記載された発明であるとはいえない。 (4)本件発明4について ア 本件発明4と甲2発明2との対比 上記(2)アで示した相当関係を踏まえて、本件発明4と甲2発明2とを対比すると、両者は、 「酸化還元発色試薬のカップラーとして、アミノアンチピリン系化合物を用いる生体成分測定法に適用される方法であって、鉄含有物質を用いる、方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点3−2> 本件発明4では、「鉄含有物質を用いる、方法」が、「4−ヒドロキシアンチピリンを含有するアミノアンチピリン系化合物を用いる生体成分測定法に適用される測定感度低下抑制方法」であることが特定されているのに対し、 甲2発明2では、そのような特定がない点 イ 判断 上記の3(4)イで検討したものと同様に、甲2には、4−アミノアンチピリンが4−ヒドロキシアンチピリンを含有するものであることについて記載も示唆もされていないので、当然のことながら、4−ヒドロキシアンチピリンが、生体成分の測定感度低下の原因となることを、本件特許の優先日前の当業者は認識し得ないし、そうである以上、4−ヒドロキシアンチピリンに起因する測定感度低下が、甲2発明2のキットに添加されるフェロシアン化カリウム及びペルオキシダーゼの濃度を調整することによって抑制できることも上記の当業者は知る由がなかったといえる。また、他の甲号証の記載を参照しても、これらのことが本件特許の優先日前に当業者に知られていたとはいえない。 そうすると、本件発明4と甲2発明2は、技術思想が異なる方法の発明と解すべきであり、両者は、相違点3−2により実質的に相違するものである。 ウ 小括 以上のとおり、本件発明4は、甲2発明2と相違点3−2で実質的に相違するため、甲2に記載された発明であるとはいえない。 (5)本件発明5について ア 本件発明5と甲2発明2との対比 甲2の段落【0052】(甲2m)の「CHO−PEL(コレステロールオキシダーゼ;キッコーマン社製)」との記載を参照すると、甲2発明2の「CHO−PEL」は、コレステロールオキシダーゼである。そして、甲2の段落【0041】(甲2j)には、酵素反応により直接過酸化水素を発生させる成分として、コレステレオールオキシダーゼが例示されているから、甲2発明2の「CHO−PEL」は、本件発明5の「過酸化水素を発生させることができる酸化酵素」に相当する。 甲2発明2の「MASE」及び「4−アミノアンチピリン」は、上記(2)アで指摘したとおり、本件明細書等に酸化還元発色試薬として記載される水素供与体とカップラーの組合せといえるから、本件発明5の「ペルオキシダーゼの存在下で過酸化水素と反応して呈色する酸化還元発色試薬」に相当する。また、甲2発明2の「4−アミノアンチピリン」は、「酸化還元発色試薬のカップラーとして」の「アミノアンチピリン系化合物」に相当する。 甲2発明2の「HDL−C測定用キット」は、本件発明5の「試薬セット」に相当する。そして、甲2の実施例6(甲2n)では、実施例5のキットを用いて、試料中のHDL−Cを定量しており、段落【0040】(甲2i)の「HDL中のコレステロール(HDL中の遊離型コレステロールとエステル型コレステロールとを合わせたもの:HDL−C)」との記載から、「HDL−C」とは、「HDL中のコレステロール(HDL中の遊離型コレステロールとエステル型コレステロールとを合わせたもの)」であるといえる。一方、本件明細書等の段落【0025】(本d)には、生体成分測定に用いられる生体成分として、HDLコレステロール(HDL−C、高密度リポタンパクコレステロール)が例示されていることから、甲2発明2の「HDL−C測定用キット」は、「生体成分測定法に適用される」ものであるといえる。 さらに、上記(2)アで示した相当関係を踏まえて、本件発明5と甲2発明2とを対比すると、両者は、 「以下の(a)〜(d)の要件を満たす試薬セットを使用する生体成分測定法における方法であって、鉄含有物質を添加する、方法。 (a)過酸化水素を発生させることができる酸化酵素を含む。 (b)ペルオキシダーゼを含む。 (c)ペルオキシダーゼの存在下で過酸化水素と反応して呈色する酸化還元発色試薬を含む。 (d)該酸化還元発色試薬のカップラーとして、アミノアンチピリン系化合物を含む。」である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点3−3> 本件発明5では、「4−ヒドロキシアンチピリンを含有するアミノアンチピリン系化合物」の要件を満たす(d)の「試薬中に鉄含有物質を添加」する「生体成分の測定感度低下の抑制方法」と規定されているのに対し、 甲2発明2では、そのような特定がされていない点 イ 判断 上記の3(5)イで検討したものと同様に、甲2には、4−アミノアンチピリンが4−ヒドロキシアンチピリンを含有するものであることについて記載も示唆もされてないので、当然のことながら、4−ヒドロキシアンチピリンが、生体成分の測定感度低下の原因となることを、本件特許の優先日前の当業者は認識し得ないし、そうである以上、4−ヒドロキシアンチピリンに起因する測定感度低下が、甲2発明2のキットに添加されるフェロシアン化カリウム及びペルオキシダーゼの濃度を調整することによって抑制できることも上記の当業者は知る由がなかったといえる。また、他の甲号証の記載を参照しても、これらのことが本件特許の優先日前に当業者に知られていたとはいえない。 そうすると、本件発明5と甲2発明2は、技術思想が異なる方法の発明と解すべきであり、両者は、相違点3−3により、実質的に相違するものである。 ウ 小括 以上のとおり、本件発明5は、甲2発明2と相違点3−3で実質的に相違するため、甲2に記載された発明であるとはいえない。 (6)本件発明6〜8について 本件発明6〜8は、本件発明4又は5を直接又は間接的に引用するものであり、甲2発明2と少なくとも相違点3−2又は相違点3−3で実質的に相違するため、甲2に記載された発明であるとはいえない。 (7)まとめ 以上のとおりであるから、申立理由3(甲2を主引例とする新規性欠如)には、理由がない。 6.申立理由4(サポート要件・実施可能要件)について (1)サポート要件、実施可能要件の考え方 特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するというためには、明細書の発明の詳細な説明に、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度に発明の構成等の記載があることを要する。 (2)本件発明が解決しようとする課題 本件明細書等の【0007】(本a)の記載によると、本件発明が解決しようとする課題は、4−ヒドロキシアンチピリンに起因する感度低下を抑制する手段を提供することにあるものと認められる。 (3)本件発明1のサポート要件、実施可能要件の判断 本件明細書等の段落【0008】(本a)には、生体成分測定試薬キットの調製にあたり、鉄イオンを発生させる成分等の鉄含有物質を用いることで、4−ヒドロキシアンチピリンに起因する感度低下を抑制できることを見出し、本発明を完成させるに至ったことが記載されている。そして、本件明細書等の実施例4、5(本j、本k)では、鉄含有化合物として塩化第二鉄、フェリシアン化カリウム及びフェロシアン化カリウム、鉄タンパク質としてPEO−302(ペルオキシダーゼ)をそれぞれ用いて、4−ヒドロキシアンチピリンに起因する感度低下の抑制効果を確認したこと、各種鉄含有物質をそれぞれ所定のクレアチニン測定試薬の第二試薬中終濃度となるように添加した後、それぞれ加速条件(35℃)の温度条件で3日間保存した第二試薬を用いて、測定感度(mABS)を調べたことが記載されている。そして、その結果を示した表2〜5では、4−ヒドロシキアンチピリン(4−HA)を添加していない4−アミノアンチピリン(4−AA)を用いた対照(a)と比較して、4−ヒドロキシアンチピリンを含む4−アミノアンチピリンを用いた対照(b)の測定感度が低下しており、各種鉄含有物質を所定の濃度で添加した実験No.1〜20では、それぞれ各表の対応する対照(b)と比較して、測定感度が高くなっていることから、鉄含有物質を所定の濃度で用いることにより、4−ヒドロキシアンチピリンに起因する測定感度の低下を抑制できることを具体的に確認できる。 よって、本件発明1は、当業者が、本件発明の詳細な説明の記載から、上記(2)で示した課題を解決できると認識できる範囲のものであると認められる。 したがって、本件発明1は、サポート要件を満たすものである。 また、本件発明1は、上記の本件発明の詳細な説明の記載より、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができるから、実施可能要件を満たすものである。 (4)申立人の主張について 申立人は、鉄含有物質と4−ヒドロキシアンチピリンを35℃、3日間以外の温度条件及び保存期間で保存する場合や、4−ヒドロキシアンチピリンの濃度が0.0016mg/mL〜0.01mg/mLの範囲外である場合には、4−ヒドロキシアンチピリンに起因する測定感度低下の抑制効果が確かめられていないし、測定感度低下を抑制できることを理解できるような出願時の技術常識も存在しなかった旨主張する。 しかしながら、上記(3)で説示したとおり、本件明細書等の実施例4、5(本j、本k)の結果から、鉄含有物質を用いることにより、4−ヒドロキシアンチピリンに起因する測定感度の低下を抑制できることを具体的に確認でき、本件明細書等の【0024】に「本発明の生体成分の測定感度低下抑制方法は、前記(d)の要件を満たす試薬中に存在する4−ヒドロキシアンチピリンの濃度が、鉄含有物質(例えば、鉄イオンを発生する成分等)を添加する前の濃度で、0.1〜50μg/ml程度である場合に、特に効果を得られやすい。・・・前記鉄含有物質を添加する前の前記(d)の要件を満たす試薬中に存在する4−ヒドロキシアンチピリンの濃度が50μg/mlより多い場合は、4−ヒドロキシアンチピリンによる生体成分の測定感度低下を抑制するためには高濃度の鉄含有物質を必要とし」との記載(本c)、同【0044】に「本発明に用いる鉄含有物質は、アミノアンチピリン系化合物と共に配合した後に、アミノアンチピリン系化合物の不純物として含有される4−ヒドロキシアンチピリンに起因する生体成分測定の感度低下を抑制する効果を発現するためには、配合した後に一定時間の経過させることが好ましい。本発明に用いる鉄含有物質が4−ヒドロキシアンチピリンに起因する生体成分測定の感度低下を抑制する効果を発現するためには、保管温度が1℃〜10℃では2週間乃至はそれ以上、11℃〜25℃では1週間乃至はそれ以上、26℃〜40℃では2日間乃至はそれ以上、41℃〜60℃では5時間乃至はそれ以上、61℃〜80℃では1時間乃至はそれ以上が好ましく、保管温度に依存して温度が高いほど短く、温度が低いほど長い時間が必要となる。反応させる時間の上限は特に限定されないが、例えば、10年間以下とすることができる。」との記載(本e)に照らすと、実施例の保存条件や濃度条件を外れる場合であっても、上記の測定感度の低下抑制の効果は期待できるといえる。 もっとも、鉄含有物質と4−ヒドロキシアンチピリンの保存条件や4−ヒドロキシアンチピリンの濃度によって、測定感度の低下抑制効果に多少の影響が生じる可能性があったとしても、そのことだけで、本件発明の上記(2)で示した課題の達成や本件発明の実施において支障が生じるとまではいえない。 よって、申立人の上記主張は採用できない。 また、申立人は、実施例4及び実施例5において、対照(b)(すなわち、ペルオキシダーゼ(PEO−302)を含むもの)では、測定感度低下が抑制できなかったことが記載されているといえるとし、実施例5においては、ペルオキシダーゼ(PEO−302)の濃度が高くなるに従い抑制効果が増加することが記載されるところ(段落【0105】)、実施例4及び実施例5の対照(b)と実験No.18ないし20の条件は不明であるので、鉄含有物質を含めば測定感度低下を抑制する効果を有することについて一般化することはできないと主張する。 しかしながら、本件明細書等のいずれの箇所にも、対照(b)で測定感度低下が抑制できなかったことは記載されていないし、対照(b)は、鉄含有物質を添加したことによる測定感度低下抑制効果を示すために、各種鉄含有物質を添加した実験No.1〜20との比較対象として提示されたに過ぎないものであるので、対照(b)の測定感度の数値のみをもって、鉄含有物質による測定感度の低下抑制効果の理解が妨げられるとはいえない。 したがって、上記主張はその前提に誤りがあり、採用できない。 (5)本件発明2〜8について 本件発明2、3は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものなので、本件発明1と同様の理由により、実施可能要件及びサポート要件を満たすものである。 本件発明4〜8は、本件発明1と同様の発明特定事項を含む発明であるので、本件発明1と同様の理由により、実施可能要件及びサポート要件を満たすものである。 (6)まとめ 以上のとおりであるから、申立理由4(サポート要件・実施可能要件)は、理由がない。 第5 むすび 本件特許に係る特許異議申立てにおいて申立人が主張する申立理由は、いずれも理由がないから、本件発明1〜8に係る特許は、取り消すことができない。 ほかに、本件発明1〜8に係る特許を取り消すべき理由も発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2024-02-27 |
出願番号 | P2020-518353 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(C12Q)
P 1 651・ 113- Y (C12Q) P 1 651・ 537- Y (C12Q) P 1 651・ 112- Y (C12Q) P 1 651・ 536- Y (C12Q) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
福井 悟 |
特許庁審判官 |
中根 知大 高堀 栄二 |
登録日 | 2023-05-10 |
登録番号 | 7276327 |
権利者 | 東洋紡株式会社 |
発明の名称 | 生体成分測定試薬キットの感度低下抑制方法 |
代理人 | 弁理士法人三枝国際特許事務所 |