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審決分類 審判 全部申し立て 特174条1項  B21B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B21B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B21B
管理番号 1409163
総通号数 28 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2024-04-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2023-11-30 
確定日 2024-04-05 
異議申立件数
事件の表示 特許第7284367号発明「無方向性電磁鋼板コイル及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7284367号の請求項1〜4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7284367号(請求項の数4。以下、「本件特許」という。)は、平成30年8月6日を出願日とする出願(特願2018−148034号)に係るものであって、令和5年5月23日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は、令和5年5月31日である。)。
その後、令和5年11月30日に、本件特許の請求項1〜4に係る特許に対して、特許異議申立人である西村裕之(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。

第2 本件発明
本件特許の請求項1〜4に係る発明は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、それぞれ「本件発明1」等という。また、本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。

【請求項1】
質量%で、0.1%≦Si≦3.5%、0.2%≦Mn≦1.3%、0≦Al≦1.5%及び残部Feと不可避不純物からなる無方向性電磁鋼板を巻き取った無方向性電磁鋼板コイルにおいて、
前記無方向性電磁鋼板の長手方向の圧延位置0領域、圧延位置50領域及び圧延位置100領域の磁束密度の異方性指標B50xのばらつき指標ΔB50xが下記式(1)を満たすことを特徴とする無方向性電磁鋼板コイル。
ΔB50x≦0.30・・・・ 式(1)
ここで、前記無方向性電磁鋼板の圧延の際の進行方向の先端位置を0、後端位置100とし、前記無方向性電磁鋼板の全長における割合で、0〜100の数値で無方向性電磁鋼板における圧延位置を規定すると、前記圧延位置0領域は圧延位置0〜10の平均値、前記圧延位置50領域は圧延位置45〜55の平均値、前記圧延位置100領域は圧延位置90〜100の平均値である。
また、異方性指標B50x及びそのばらつきの指標ΔB50xは、圧延方向に対して、0°、22.5°、45°、67.5°、及び90°の角度の方向での、磁界強度5000A/mにおける磁束密度をそれぞれB50(0°)、B50(22.5°)、B50(45°)、B50(67.5°)、及びB50(90°)と表記した際に、下記式(2)、下記式(3)及び下記式(4)で規定される。
【数1】

また、B50xmax及びB50xminは、コイル幅(無方向性電磁鋼板の幅)の中央部において、コイル(無方向性電磁鋼板)長手方向の先端(0%の位置)から10%の位置のうちの任意の位置、コイル長手方向の先端から45%の位置から55%の位置のうちの任意の位置、コイル長手方向の先端から90%の位置から100%の位置(後端)のうちの任意の位置(一般的にはB部と呼ばれることが多い)の3か所で測定されたB50xのうちの、それぞれ最大値及び最小値である。
【請求項2】
請求項1に記載の無方向性電磁鋼板コイルを製造する無方向性電磁鋼板コイルの製造方法であって、
少なくとも1つの熱間圧延の圧延パススケジュールにおいて、
Rv1=v50/v0、Ev1=E50/E0とすると、
下記式(7)、式(8)及び式(9)を同時に満たすことを特徴とする無方向性電磁鋼板コイルの製造方法。
Rv1>1.0・・・式(7)
Ev1:1.0〜1.3・・・式(8)
Rv1/Ev1>1.1・・・式(9)
ここで、
v0:圧延位置0領域におけるv、
E0:圧延位置0領域におけるE、
v50:圧延位置50領域におけるv、
E50:圧延位置50領域におけるE、
r:圧延ロールの直径(mm)、
tIN:無方向性電磁鋼板の入側板厚(mm)、
tOUT:無方向性電磁鋼板の出側板厚(mm)、
v:圧延ロールのロール速度(m/min)
E=(tIN−tOUT)×ln(tIN/tOUT)×v/cである。
【数2】

【請求項3】
請求項1に記載の無方向性電磁鋼板コイルを製造する無方向性電磁鋼板コイルの製造方法であって、
少なくとも1つの熱間圧延の圧延パススケジュールにおいて、
Rv2=v100/v50、Ev2=E100/E50とすると、
式(10)及び式(11)を同時に満たすことを特徴とする無方向性電磁鋼板コイルの製造方法。
Ev2:1.0超〜3.0・・・式(10)
Rv2/Ev2<1.0・・・式(11)
ここで、
v50:圧延位置50領域におけるv、
E50:圧延位置50領域におけるE、
v100:圧延位置100領域におけるv、
E100:圧延位置100領域におけるE、
r:圧延ロールの直径(mm)、
tIN:無方向性電磁鋼板の入側板厚(mm)、
tOUT:無方向性電磁鋼板の出側板厚(mm)、
v:圧延ロールのロール速度(m/min)
E=(tIN−tOUT)×ln(tIN/tOUT)×v/cである。
【数3】

【請求項4】
請求項2及び請求項3を備えたことを特徴とする無方向性電磁鋼板コイルの製造方法。

第3 特許異議の申立ての理由の概要
本件特許の請求項1〜4に係る特許は、下記1〜3のとおり、特許法113条1号及び4号に該当する。証拠方法は、甲第1号証〜甲第4号証(以下、単に「甲1」等という。下記4を参照。)である。
1 申立理由1(新規事項の追加
令和4年7月19日提出の手続補正書でした補正は、本件特許の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでなく、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていないから、本件特許の請求項1〜4に係る特許は、同法113条1号に該当する。
2 申立理由2(実施可能要件
本件発明1〜4については、発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項1号に適合するものではないから、本件特許の請求項1〜4に係る特許は、同法113条4号に該当する。
3 申立理由3(明確性要件)
本件発明1〜4については、特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号に適合するものではないから、本件特許の請求項1〜4に係る特許は、同法113条4号に該当する。
4 証拠方法
・甲1 特開2019−52360号公報
・甲2 特許第6977436号公報
・甲3 特開2020−20005号公報
・甲4 特許第7147340号公報

第4 当審の判断
以下に述べるように、特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1〜4に係る特許を取り消すことはできない。

1 申立理由1(新規事項の追加
(1)申立人は、令和4年7月19日提出の手続補正書でした補正(以下、「本件補正」という。)は、請求項1に記載された式(2)について、

を、

とする補正事項を含むものであり、当該補正事項は、ルート内の分子の式における第2項の係数を「−2」から「+2」とするものであるところ、本件特許の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)には、本件補正後の式(2)は記載されていないから、上記補正事項を含む本件補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでなく、新規事項の追加に該当すると主張する。
以下、検討する。

(2)当初明細書等には、以下の記載がある。なお、下線は強調のために、当審で付与した。
「【請求項1】
質量%で、0.1%≦Si≦3.5%、0.2%≦Mn≦1.3%、0≦Al≦1.5%及び残部Feと不可避不純物を含む無方向性電磁鋼板を巻き取った無方向性電磁鋼板コイルにおいて、
前記無方向性電磁鋼板の長手方向の圧延位置0領域、圧延位置50領域及び圧延位置100領域の磁束密度の異方性指標B50xのばらつき指標ΔB50xが下記式(1)を満たすことを特徴とする無方向性電磁鋼板コイル。
ΔB50x≦0.3・・・・ 式(1)
ここで、前記無方向性電磁鋼板の圧延の際の進行方向の先端位置を0、後端位置100とし、前記無方向性電磁鋼板の全長における割合で、0〜100の数値で無方向性電磁鋼板における圧延位置を規定すると、前記圧延位置0領域は圧延位置0〜10の平均値、前記圧延位置50領域は圧延位置45〜55の平均値、前記圧延位置100領域は圧延位置90〜100の平均値である。
また、異方性指標B50x及びそのばらつきの指標ΔB50xは、圧延方向に対して、0°、22.5°、45°、67.5°、及び90°の角度の方向での、磁界強度5000A/mにおける磁束密度をそれぞれB50(0°)、B50(22.5°)、B50(45°)、B50(67.5°)、及びB50(90°)と表記した際に、下記式(2)、下記式(3)及び下記式(4)で規定される。
【数1】

また、B50xmax及びB50xminは、コイル幅(無方向性電磁鋼板の幅)の中央部において、コイル(無方向性電磁鋼板)長手方向の先端(0%の位置)から10%の位置のうちの任意の位置、コイル長手方向の先端から45%の位置から55%の位置のうちの任意の位置、コイル長手方向の先端から90%の位置から100%の位置(後端)のうちの任意の位置(一般的にはB部と呼ばれることが多い)の3か所で測定されたB50xのうちの、それぞれ最大値及び最小値である。」
「【0002】
電気機器等に使用される電磁鋼板は、省エネルギー化の観点等から、高効率化が求められている。
例えば、エアコンのコンプレッサー、家電製品に使用される各種モータ、自動車においては駆動モータ、電動ターボ、電動コンプレッサー用途においてモータコアの素材となる電磁鋼板については、磁束密度が高く、鉄損が低いことが求められている。
一方、電磁鋼板の特性向上が進展するに伴い、磁気特性のばらつきが問題となっており、数1000mにも及ぶ電磁鋼板コイル内の長手位置における特性ばらつき(特性変動)の低減への要請が高まっている。
磁気特性の変動は、コイルの長手位置における磁束密度の面内平均値や鉄損の面内平均値の変動で評価されることが多い。しかし、面内の複数の方向(圧延方向および圧延直角方向、さらには圧延方向と45°の方向やその他の方向)について平均した特性値で変動を評価したのでは、全体での変動の大きさが目的に反して小さく見積もられることにもなる。このため、これまでに開発されたコイル内の特性ばらつきが小さい鋼板は、実用的に期待される効果を十分に発揮できていない。」
「【0012】
本発明者はこれらの状況を鑑み鋭意検討し、コイル長手位置での特性変動について、磁束密度の面内異方性を注目する特性として評価した値が、実用的に求められるコイル内の特性ばらつき低減にとって適切な指標となることを知見した。そしてこの指標を好ましく制御することについて検討し、本発明を完成させた。
【0013】
本発明は、コイル(無方向性電磁鋼板)長手位置における磁束密度の面内異方性の変動を低減した無方向性電磁鋼板コイル及び無方向性電磁鋼板コイルの製造方法を提供することを目的とする。」
「【0019】
本発明によれば、コイル長手方向全長にわたり、従来技術よりも、磁束密度の面内異方性の変動が小さな無方向性電磁鋼板コイル及びその製造方法が提供される。」
「【0022】
<無方向性電磁鋼板コイル>
本実施の形態の無方向性電磁鋼板コイルは、コイル長手方向(無方向性電磁鋼板(一つの圧延材)の長手方向)にわたって磁束密度の面内異方性の値が安定しており、式(1)を満たす。
ΔB50x≦0.3・・・・式(1)
【0023】
・B50xについて、
B50xは、無方向性電磁鋼板(一つの圧延材)の磁束密度の面内異方性を表す指標である。
B50xは、圧延方向に対して、0°、22.5°、45°、67.5°、及び90°の角度の方向での、磁界強度5000A/mにおける磁束密度をそれぞれB50(0°)、B50(22.5°)、B50(45°)、B50(67.5°)、及びB50(90°)と表記した際に、下記式(2)及び下記式(3)で規定される。
【0024】
【数4】

【0025】
・ΔB50xについて、
ΔB50xは、前述のB50xのコイル内長手位置における変動の大きさを表す指標である。
ΔB50xは、コイル内長手位置におけるB50xの最大値と最小値から、以下の式(4)によって得られる。
B50xmax及びB50xminは、コイル幅(無方向性電磁鋼板の幅)の中央部において、コイル(無方向性電磁鋼板)長手方向の先端(0%の位置)から10%の位置のうちの任意の位置(一般的にはT部と呼ばれることが多い)、コイル長手方向の先端から45%の位置から55%の位置のうちの任意の位置(一般的にはM部と呼ばれることが多い)、コイル長手方向の先端から90%の位置から100%の位置(後端)のうちの任意の位置(一般的にはB部と呼ばれることが多い)の3か所で測定されたB50xのうちの、それぞれ最大値及び最小値である。
【0026】
【数5】

【0027】
本実施形態の無方向性電磁鋼板は、ΔB50xが0.3以下である。好ましくは、0.25以下、さらに好ましくは0.2以下である。ΔB50xは小さい方が好ましいことは当然であり、下限は0である。
ΔB50xの値を上記範囲とするにより、コイル(無方向性電磁鋼板)全長での磁束密度の面内異方性の変動が小さくなる。」

(3)当初明細書等の上記(2)の記載によれば、当初明細書等には、
ア モータコアの素材となる電磁鋼板には、磁束密度が高いことが求められており、数1000mにも及ぶ電磁鋼板コイルの長手位置における磁気特性(磁束密度)のばらつき(変動)の低減が要請されていること(【0002】)、
イ 磁気特性(磁束密度)のばらつき(変動)は、コイルの長手位置における磁気特性(磁束密度)の面内平均値のばらつき(変動)で評価されることが多いが、面内の複数の方向について平均した磁気特性(磁束密度)の値でばらつき(変動)を評価したのでは、全体でのばらつき(変動)の大きさが小さく見積もられること(【0002】)、
ウ 本発明者は、コイルの長手位置における磁気特性(磁束密度)のばらつき(変動)について、「磁束密度の面内異方性」に注目し、この「磁束密度の面内異方性」を用いて評価した値が、コイルの長手位置における磁気特性(磁束密度)のばらつき(変動)にとって適切な指標となることを知見し、本発明を完成させたこと(【0012】)、
エ 本発明は、コイルの長手位置における「磁束密度の面内異方性」のばらつき(変動)を低減した無方向性電磁鋼板コイルを提供することを目的とすること(【0013】)、
オ B50xは、「磁束密度の面内異方性」を表す指標であり、圧延方向に対して、0°、22.5°、45°、67.5°、及び90°の角度の方向での、磁界強度5000A/mにおける磁束密度をそれぞれB50(0°)、B50(22.5°)、B50(45°)、B50(67.5°)、及びB50(90°)と表記した際に、式(2)及び式(3)で規定されること(【請求項1】、【0023】、【0024】)、
カ ΔB50xは、コイルの長手位置における上記B50xのばらつき(変動)の大きさを表す指標であり、式(1)を満たすことで、コイルの長手方向にわたって「磁束密度の面内異方性」の値が安定していること(【0022】、【0025】)、
が記載されているといえる。

(4)ア 本件補正における上記(1)の補正事項は、請求項1に記載された式(2)について、ルート内の分子の式における第2項の係数を「−2」から「+2」とするものであるところ、上記(3)オのとおり、式(2)は、式(3)とともに、B50xを規定するものであって、当該B50xは、「磁束密度の面内異方性」を表す指標である。
イ ここで、「磁束密度の面内異方性」とは、無方向性電磁鋼板の面内における磁束密度が、圧延方向を基準として面内の各方向によって異なっていることを前提として、そのばらつきの程度を示すものであることは、技術常識である。
また、このような複数のデータのばらつきの程度を示す指標として、標準偏差は、当業者に広く知られたものであって、技術常識であり、以下のとおり定義されるものである。


ウ そうすると、当初明細書等の上記(2)の記載を踏まえ、上記イの技術常識に照らせば、請求項1に記載された式(2)及び式(3)が、「磁束密度の面内異方性」、すなわち、無方向性電磁鋼板の面内における磁束密度のばらつきの程度を、標準偏差によって示そうとしたものであることは、当業者であれば直ちに理解できることである。
すなわち、式(2)及び式(3)で規定されるB50xは、圧延方向を基準として面内の8方向、すなわち、圧延方向に対して、0°、90°の角度の方向のほか、同じく圧延方向に対して、左に22.5°、左に45°、左に67.5°の角度の方向と、同じく圧延方向に対して、右に22.5°、右に45°、右に67.5°の角度の方向の、合計8方向について、式(3)によって、磁束密度の値の平均値を求め、その上で、式(2)によって、各方向の磁束密度の値と上記平均値との差の2乗の総和をデータ数である8で割った値(分散)について、平方根を求めることで、標準偏差を求めようとしたものであることは、当業者にとって明らかである。
また、そうであれば、請求項1に記載された式(2)について、ルート内の分子の式における第2項の係数が「−2」であることは、明らかな誤記であり、「+2」が正しい記載であることは、当業者であれば直ちに認識できるといえる。
エ 以上によれば、本件補正における上記(1)の補正事項は、当業者にとって自明な誤記を単に正すものにすぎないから、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。

(5)ア 申立人は、特許権者が、令和4年7月19日提出の意見書において、本件補正前の式(2)は誤記であると主張し、参考として甲1を提示したことに触れて、本件補正前の式(2)が誤記である理由は、当初明細書等にも、本件特許の出願時の技術常識にもなく、特許権者からも述べられていないから、誤記であるとはいえず、また、甲1は本件特許の出願時点では未公開であったため、甲1に記載の異方性指標B50xを規定する式が技術常識であったとはいえず、さらに、ルート内の分子の式における第2項の係数を「−2」から「+2」とする場合、本件特許の技術的範囲が大きく変動するため、新たな技術的事項を導入するものであると主張する。
しかしながら、本件補正における上記(1)の補正事項が、当業者にとって自明な誤記を単に正すものにすぎないことは、上記(4)のとおりである。
また、上記(4)のとおり、請求項1に記載された式(2)について、ルート内の分子の式における第2項の係数が「−2」であることは、明らかな誤記であり、「+2」が正しい記載であることは、当業者であれば直ちに認識できるといえる。そうすると、本件補正前の式(2)についても、当業者であれば、正しい式(2)(本件補正後の式(2))を認識した上で、本件特許の技術的範囲を理解していたと解されるから、本件補正によって、本件特許の技術的範囲が変動したとはいえない。

イ 申立人は、原審審査官が、令和4年5月18日付けの拒絶理由通知書において、係数がマイナスであるため、式(2)によって磁束密度の面内異方性を表すことができないと説示したことに触れて、磁束密度の面内異方性を異方性指標B50xを用いて表すことは、技術常識ではなかったから、原審審査官が上記のように説示した根拠が不明であると主張する。
しかしながら、磁束密度の面内異方性を異方性指標B50xを用いて表すこと自体が、技術常識であったか否かにかかわらず、本件補正における上記(1)の補正事項が、当業者にとって自明な誤記を単に正すものにすぎないことは、上記(4)のとおりである。

ウ 申立人は、原審審査官が、ルート内がマイナスになる場合があり得るため、磁束密度の面内異方性を示すことができないと判断したのではないかとの認識を前提として、甲1の実施例(表3)について、本件補正前の式(2)で計算した場合も、ルート内がマイナスになることはないから、本件補正前の式(2)において、ルート内の分子の式における第2項の係数を「−2」から「+2」とする補正事項は、単なる誤記とはいえないと主張する。
しかしながら、原審審査官が、ルート内がマイナスになる場合があり得るため、磁束密度の面内異方性を示すことができないと判断したのか否かにかかわらず、また、甲1の実施例(表3)について、本件補正前の式(2)で計算した場合も、ルート内がマイナスになるか否かにかかわらず、本件補正における上記(1)の補正事項が、当業者にとって自明な誤記を単に正すものにすぎないことは、上記(4)のとおりである。

(6)まとめ
したがって、申立理由1(新規事項の追加)によっては、本件特許の請求項1〜4に係る特許を取り消すことはできない。

2 申立理由2(実施可能要件
(1)申立人は、本件発明1において、式(2)で規定されるB50xにおいて「−2」とする誤記を「+2」とする補正が適法である場合、本件明細書を通して、式(2)で規定される数値は、補正前の式(2)によって算出されたものか、補正後の式(2)によって算出されたものか、不明であるから、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1〜4を当業者が実施可能な程度に記載されたものとはいえないと主張する。
しかしながら、本件明細書及び図面には、本件発明1に係る無方向性電磁鋼板コイル(【0022】〜【0029】、【0070】〜【0091】)とその製造方法(【0030】〜【0069】、図1〜4)について具体的に説明がされており、また、実施例(【0092】〜【0125】)においても、具体的な製造方法及び製造条件が示されている。
そうすると、本件明細書における式(2)で規定される数値が、本件補正前の式(2)によって算出されたものか、本件補正後の式(2)によって算出されたものか、にかかわらず、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1〜4について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものといえる。

(2)まとめ
したがって、申立理由2(実施可能要件)によっては、本件特許の請求項1〜4に係る特許を取り消すことはできない。

3 申立理由3(明確性要件)
(1)申立人は、本件発明1において、式(2)で規定されるB50xにおいて「−2」とする誤記を「+2」とする補正が適法である場合、本件明細書を通して、式(2)で規定される数値は、補正前の式(2)によって算出されたものか、補正後の式(2)によって算出されたものか、不明であり、その結果、本件発明1において、式(1)で規定されるばらつき指標ΔB50xの数値にも、誤記があるのか否か不明であるから、本件発明1〜4は多義的であり、発明の範囲が不明確であると主張する。
しかしながら、本件明細書における式(2)で規定される数値が、本件補正前の式(2)によって算出されたものか、本件補正後の式(2)によって算出されたものか、にかかわらず、本件発明1〜4におけるΔB50xは、本件補正後の請求項1に記載される式(2)〜(4)に基づいて算出された数値であることが明らかなものであって、そのようにして算出されたΔB50xが、「ΔB50x≦0.30」を満たすものであることは明確である。

(2)まとめ
したがって、申立理由3(明確性要件)によっては、本件特許の請求項1〜4に係る特許を取り消すことはできない。

第5 むすび
以上のとおり、特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1〜4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1〜4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2024-03-29 
出願番号 P2018-148034
審決分類 P 1 651・ 55- Y (B21B)
P 1 651・ 537- Y (B21B)
P 1 651・ 536- Y (B21B)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 粟野 正明
特許庁審判官 井上 猛
相澤 啓祐
登録日 2023-05-23 
登録番号 7284367
権利者 日本製鉄株式会社
発明の名称 無方向性電磁鋼板コイル及びその製造方法  
代理人 三浦 淳史  
代理人 新田 修博  
代理人 栗林 三男  
代理人 栗林 和輝  

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