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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A01M
審判 全部申し立て 2項進歩性  A01M
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A01M
審判 全部申し立て 特174条1項  A01M
管理番号 1409198
総通号数 28 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2024-04-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2024-01-15 
確定日 2024-04-09 
異議申立件数
事件の表示 特許第7317388号発明「匍匐害虫駆除方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7317388号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第7317388号(以下「本件特許」という。)の請求項1に係る特許についての出願(以下「本件特許出願」という。)は、平成28年7月22日に出願した特願2016−144677号(以下「原出願」という。)の一部を令和3年6月23日に新たに特願2021−103798号として出願したものであって、令和5年7月21日に特許権の設定登録がされ、同年7月31日にその特許掲載公報が発行され、その後、令和6年1月15日に、特許異議申立人 根本 未果 (以下「申立人」という。)により、その請求項1に係る特許に対して、特許異議の申し立てがされたものである。

第2 特許請求の範囲の記載

本件特許の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
殺虫有効成分と、25℃における蒸気圧が7.0kPa以下でエタノールよりも低い蒸気圧を有する溶剤と、噴射剤とを、噴射ボタンの1回の操作により上記殺虫有効成分及び上記溶剤を所定量だけ噴射する定量噴射型のエアゾール容器に収容し、上記噴射剤と、該噴射剤以外の液体との重量比率が、上記液体:噴射剤としたとき、8:92〜30:70の範囲内となるように設定し、
上記殺虫有効成分及び上記溶剤を、上記エアゾール容器から、室内の壁と家具の側面または壁と電化製品の側面とで形成される隙間に、当該隙間の奥に位置する別の壁に向けて上記所定量だけ噴射する匍匐害虫駆除方法。」

第3 申立人が申し立てた理由の概要

特許異議申立書の記載からみて、申立人は、以下の申立理由ア〜エを主張している。

[申立理由ア]
本件発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証(特開2018−12676号公報)(以下「甲1」という。)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

申立理由アの具体的な理由の概要は次のとおりである。
本件特許は、原出願(特願2016−144677号)の分割出願に係るものであるところ、本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件特許明細書」という。)の【0020】には、「上記エアゾール容器のノズル部から上記殺虫有効成分及び上記溶剤を室内の壁と家具との隙間または室内の壁と電化製品との隙間に上方へ向けて所定量だけ噴射する匍匐害虫駆除方法である。」と記載されている(下線は当審合議体による。以下同様。)。
しかしながら、原出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「原出願の当初明細書等」という。)には、「上方に向けて」噴射することが記載されているとはいえないから、本件特許出願は不適法な分割出願である。したがって、本件特許出願の出願日は、原出願の出願日である平成28年7月22日への遡及は認められないから、その出願日は、本件特許出願の現実の出願日である令和3年6月23日である。
その結果、原出願の公開公報である甲1は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものに該当することとなり、本件発明は、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえる。

[申立理由イ]
本件特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第1号に該当し、取り消されるべきものである。

申立理由イの具体的な理由の概要は次のとおりである。
令和4年8月31日受付の手続補正書による特許請求の範囲の補正は、新規事項の追加に該当する。

[申立理由ウ]
本件特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

申立理由ウの具体的な理由の概要は次のとおりである。
本件発明の解決すべき課題は、「室内のどこに対しても安全に使用することができて汎用性が高く、しかも、大がかりな装置を不要にして駆除処理を容易にすること」であるところ(本件特許明細書【0008】)、本件発明において、(a)「床面から100cmの高さから噴射する」以外の匍匐害虫駆除方法、及び/又は、(b)「ゴキブリ」以外の匍匐害虫の駆除方法については、上記課題を解決することができない。

[申立理由エ]
本件特許は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。

申立理由エの具体的な理由の概要は次のとおりである。
本件特許明細書には、ゴキブリを駆除する実施例は記載されているものの、ゴキブリ以外の匍匐害虫の駆除について具体的な記載はなく、ゴキブリと同様の駆除効果が得られるように実施するためには、当業者であっても過度の試行錯誤を要する。

第4 当審合議体の判断

当審合議体は、本件特許は、申立人が申し立てた理由によっては、取り消すことはできないものではないと判断する。
その理由の詳細は以下のとおりである。

1 申立理由アについて

(1)本件特許出願の出願日について

ア 分割要件について

特許出願の分割は、二以上の発明を包含する特許出願(原出願)の一部を新たな特許出願とするものである(特許法第44条第1項柱書)から、適法に分割されたものというためには、以下の(要件1)及び(要件3)が満たされる必要があり、また、分割出願が原出願の時にしたものとみなされる(特許法第44条第2項本文)という特許出願の分割の効果を考慮すると、さらに以下の(要件2)も満たされる必要がある。
(要件1)原出願の分割直前の特許請求の範囲、明細書又は図面(以下「明細書等」という。)に記載された発明の全部が分割出願の請求項に係る発明とされたものでないこと。
(要件2)分割出願の明細書等に記載された事項が、原出願の出願当初の明細書等に記載された事項の範囲内であること。
(要件3)分割出願の明細書等に記載された事項が、原出願の分割直前の明細書等に記載された事項の範囲内であること。

申立人は、本件特許明細書の【0020】の「上記エアゾール容器のノズル部から上記殺虫有効成分及び上記溶剤を室内の壁と家具との隙間または室内の壁と電化製品との隙間に上方へ向けて所定量だけ噴射する匍匐害虫駆除方法である。」との記載が、上記要件2を充足しない旨を主張するので、以下に検討する。

イ 原出願の当初明細書等の記載事項

原出願の当初明細書等には、以下の記載がある(以下、「・・・」は記載の省略を表し、下線は当審合議体が追記した。)。

(原a)
「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、特許文献1の装置の薬剤拡散台輪部は家具や電化製品等の下部に設けられるものであることから、例えば家具の背面には忌避薬剤が届かない。したがって、特許文献1の装置の場合、家具の背面に潜んでいるゴキブリには殆ど効力が及ばないと考えられる。
・・・
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、室内のどこに対しても安全に使用することができて汎用性が高く、しかも、大がかりな装置を不要にして駆除処理を容易にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明では、エアゾール容器に収容される噴射剤の比率を高めるとともに、殺虫有効成分を溶解する溶剤の蒸気圧を低めにし、エアゾール容器から噴射された粒子を形成している溶剤の蒸発速度を遅くすることで、当該粒子が広範囲に飛ぶようにした。
・・・
【0020】
・・・
上記エアゾール容器から室内の隙間に対して上記殺虫有効成分及び上記溶剤を上記所定量だけ噴射する匍匐害虫駆除方法である。」

(原b)
「【0032】
ノズル部23は、吐出管の中心線と交差する方向である前側へ突出しており、前側へ行くほど上に位置するように傾斜している。ノズル部23の基端側がエアゾール容器10の吐出管13と連通している。ノズル部23の傾斜角度は、例えば吐出管の中心線と直交する平面とのなす角度が5度以上45度以下の範囲で設定することができる。ノズル部23を傾斜させることで、内容物を斜め上方へ向けて効果的に吐出することが可能になる。」

(原c)
「【0047】
噴射時のノズル部23の高さは、床面から100cm程度にするのが好ましい。ノズル部23が低すぎると上方へ向けての粒子の拡散量が低下してしまい、粒子が背面側へ周り込みにくくなるからである。」

(原d)
「【図1】

【図2】



ウ 判断

原出願の当初明細書等には、従来技術では、家具の背面に潜んでいるゴキブリには殆ど効力が及ばないという課題を解決するために、エアゾール容器から噴射された粒子が広範囲に飛ぶようにしたことや、粒子が背面側へ回り込みやすくするためには、上方へ向けての粒子の拡散量が低下しないようにすることが記載されているところ(摘記(原a)、(原c)及び(原d))、エアゾール容器のノズル部は、「傾斜角度は、例えば吐出管の中心線と直交する平面とのなす角度が5度以上45度以下の範囲で設定することができ」、ノズル部を傾斜させることにより、「内容物を斜め上方へ向けて効果的に吐出することが可能になる」ことが記載されている(摘記(原b)及び(原d))。
そうしてみれば、原出願の当初明細書等からは、上方への粒子の拡散が必要であり、エアゾールは上方への噴射をすることができる構造を有していることが読み取れるから、同明細書等には殺虫有効成分及び溶剤を「上方へ向けて」噴射することが記載されているといえる。

エ 申立人の主張について

申立人は、原出願の当初明細書等の【0020】、【0032】、【0045】及び【0047】の記載を踏まえると、原出願の当初明細書等には、「室内の壁と家具との間の狭い隙間や、壁と電化製品との間の狭い隙間に対して、エアゾール容器のノズル部から上記殺虫有効成分及び上記溶剤を「上方に向けて」噴射することが記載されているとはいえない」と主張する(特許異議申立書の6頁)。
しかしながら、上記ウのとおり、原出願の当初明細書等からは、上方への粒子の拡散が必要であり、エアゾールは上方への噴射のすることができる構造を有していることが読み取れるから、殺虫有効成分及び溶剤を「上方へ向けて」噴射することが記載されているといえる。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。

オ 小括

以上のとおり、本件特許出願は原出願に対して分割要件の要件2を満たすといえる。また、要件1及び3について、充足しないという特段の事情もない。
よって、本件特許出願は適法な分割された出願であるから、本件特許出願の出願日は、原出願の出願日である平成28年7月22日となる。

(2)特許法第29条第2項について

上記(1)のとおり、本件特許出願の出願日は、原出願の出願日である平成28年7月22日と認める。
したがって、甲1は、本件特許出願後に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものであるから、甲1に記載された発明に基づいて、本件発明の進歩性が欠如しているとはいえない。

(3)小括

以上のとおりであるから、申立理由アは理由がない。

2 申立理由イについて

(1)令和4年8月31日付け手続補正書による手続補正は、補正前の請求項2(補正後の請求項1に対応する。)の「上記エアゾール容器から室内の隙間に対して上記殺虫有効成分及び上記溶剤を所定量だけ噴射する匍匐害虫駆除方法。」とあるのを、「上記殺虫有効成分及び上記溶剤を、上記エアゾール容器から、室内の壁と家具の側面または壁と電化製品の側面とで形成される隙間に、当該隙間の奥に位置する別の壁に向けて上記所定量だけ噴射する匍匐害虫駆除方法。」と補正するものである(以下「本件補正」という。)。
以下、本件補正が、本件特許出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許出願の当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内のものであるか検討する。

(2)本件特許出願の当初明細書等の記載

本件特許出願の当初明細書等には以下の記載がある。

(本最初a)
「【0049】
次に、匍匐害虫駆除用エアゾール製品1の効力試験結果について説明する。効力試験は、図2に示すようなピートチャンバー100内で行った。ピートチャンバー100は一辺が180cmの立方体形状であり、容積は5.82m3である。ピートチャンバー100内には、複数のダンボール箱101によって3つの家具102、102、102を再現している。各家具102の寸法は、奥行き52cm、高さ160cm、幅52cmである。また、隣合う家具102、102の隙間は5cmに設定している。図2の左に配置されている家具102の側面とピートチャンバー100の壁との隙間は5cmに設定し、家具102の背面とピートチャンバー100の壁との隙間も5cmに設定している。尚、図2では家具を想定しているが、これに限らず、電化製品(例えば冷蔵庫や洗濯機等)であってもよい。
【0050】
匍匐害虫駆除用エアゾール製品1のノズル部23は、図2の左に配置されている家具102の側面とピートチャンバー100の壁との隙間に向ける。ノズル部23の床面からの高さは100cmに設定している。
・・・
【0053】
その後、操作ボタン23を操作する。操作ボタン20の1回の操作による噴射剤以外の上記液体の噴射量は、0.2mlに設定されている。
【0054】
噴射後、5分間放置し、5分経過したら第1〜第5メッシュ袋104〜108を回収して供試虫を取り出す。取り出した供試虫は清潔な容器に移して砂糖水を与えた。容器に移してから48時間経過後の致死率を算出した。」

(本最初b)
「【図2】



(3)判断

本件特許出願の当初明細書等には、匍匐害虫駆除用エアゾール製品の効力試験について説明され、効力試験が図2に示すようなピートチャンバー内で行ったことが記載されている(摘記(本最初a)及び(本最初b))。当該効力試験において、「匍匐害虫駆除用エアゾール製品1のノズル部23は、図2の左に配置されている家具102の側面とピートチャンバー100の壁との隙間に向ける」と記載されているから(摘記(本最初a)の【0050】)、エアゾール容器に収容された殺虫有効成分及び溶剤は、エアゾール容器から室内の壁と家具の側面とで形成される隙間に噴射されているといえる。そして、図2を見れば、室内の壁と家具の側面とで形成される隙間に噴射することは、「当該隙間の奥に位置する別の壁に向けて」噴射することであることは自明である。
したがって、本件補正は、本件特許出願の当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるといえる。

(4)小括

以上のとおりであるから、申立理由イは理由がない。

3 申立理由ウについて

(1)サポート要件の判断の前提

特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆる「明細書のサポート要件」)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(2)本件発明の課題について

本件特許の特許請求の範囲及び明細書(特に、段落【0008】)の記載全体を参照して、本件発明の課題は、「室内のどこに対しても安全に使用することができて汎用性が高く、しかも、大がかりな装置を不要にして駆除処理を容易にすること」と認められる。

(3)特許請求の範囲の記載について

前記第2に記載したとおりである。

(4)発明の詳細な説明の記載について

本件特許明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。

(本a)
「【0011】
この構成によれば、液体と噴射剤の重量比率が8:92〜30:70の範囲内であることから噴射剤がリッチな処方となる。これにより、殺虫有効成分及び溶剤を含む液体がエアゾール容器から噴射されるときに、小さな粒子になりやすいとともに、粒子の勢いが強くなり、しかも、噴射された粒子が広範囲に飛んでいき、空気中に漂いやすくなる。さらに、溶剤の25℃における蒸気圧が7.0kPa以下であり、十分に低いので、噴射された粒子を形成している溶剤の蒸発速度が遅くなり、このことで当該粒子が遠くまで飛んでいくとともに、空気中に漂っている時間が長くなる。従って、例えば壁と家具との間に噴射した場合を想定すると、殺虫有効成分を含んだ粒子が家具の側面に沿って奥の方まで飛んだ後、家具の背面側へ周り込んで背面に沿って飛んで空気中に漂い、その後、自重によって家具の下部付近まで落ちていく。このように、狭い隙間であっても粒子が広範囲に飛んでいくので、大がかりな装置を設けることなく殺虫有効成分による効力が広範囲で発揮される。
【0012】
また、エアゾール容器が定量噴射型であるため、上述のように広範囲に粒子が飛んだとしても、殺虫有効成分の量は規定量以上噴射されることはなく、安全性が高くなるとともに、取り扱いが容易になる。さらに、従来のように使用箇所が家具等の下に限定されないので、汎用性が高まる。」
・・・
【0018】
すなわち、一般によく使用されている溶剤としてエタノール(25℃における蒸気圧7.91kPa)が挙げられるが、ミリスチン酸イソプロピルと飽和炭化水素系溶剤を使用することで、溶剤の蒸気圧がエタノールよりも低くなる。これにより、噴射された粒子を形成している溶剤の蒸発速度がより一層遅くなり、粒子が空気中に漂っている時間がさらに長くなる。」
・・・
【0039】
溶剤の25℃における蒸気圧が7.0kPaを超えた場合には、噴射された粒子を形成している溶剤の蒸発速度が速くなって各粒子の質量が早期に減少してしまい、粒子の飛距離が短くなるとともに、空気中に漂っている時間が短くなってしまう。このことは効力の低下を意味する。一方、溶剤の25℃における蒸気圧が7.0kPa以下の場合には、蒸気圧が十分に低いので、噴射された粒子を形成している溶剤の蒸発速度が遅くなり、このことで当該粒子が遠くまで飛んでいくとともに、空気中に漂っている時間が長くなる。特に、25℃における蒸気圧が1.9kPa以下になると、粒子の飛距離が顕著に長くなるとともに、空気中に漂っている時間も顕著に長くなるので好ましい。」

(本b)
「【0041】
上述のように、エアゾール容器10には、噴射剤と、該噴射剤以外の液体とが収容される。噴射剤と、該噴射剤以外の液体との重量比率は、上記液体:噴射剤としたとき、8:92〜30:70の範囲内となるように設定されており、この匍匐害虫駆除用エアゾール製品1は、噴射剤がリッチな処方となっている。これにより、殺虫有効成分及び溶剤を含む上記液体がエアゾール容器10から噴射されるときに、小さな粒子になりやすいとともに、粒子の勢いが強くなり、しかも、噴射された粒子が広範囲に飛んでいき、空気中に漂いやすくなる。」

(本c)
「【0047】
噴射時のノズル部23の高さは、床面から100cm程度にするのが好ましい。ノズル部23が低すぎると上方へ向けての粒子の拡散量が低下してしまい、粒子が背面側へ周り込みにくくなるからである。」

(本d)
「【0049】
次に、匍匐害虫駆除用エアゾール製品1の効力試験結果について説明する。効力試験は、図2に示すようなピートチャンバー100内で行った。
・・・
【0054】
噴射後、5分間放置し、5分経過したら第1〜第5メッシュ袋104〜108を回収して供試虫を取り出す。取り出した供試虫は清潔な容器に移して砂糖水を与えた。容器に移してから48時間経過後の致死率を算出した。
【0055】
【表1】

【0056】
本発明の実施例1〜10と比較例1〜10は、それぞれ表1に示すように、Ai量、溶剤の種類、噴射剤の種類、液ガス比を設定している。溶剤の「IPM」はミリスチン酸イソプロピルであり、「ネオチオ」は飽和炭化水素系溶剤としてのネオチオゾール(中央化成株式会社製)である。「液ガス比」とは、上記液体:噴射剤の重量比率である。48時間後致死率(%)は、(死に至った供試虫/全供試虫)×100で求めた。「50cm」、「100cm」、「150cm」、「200cm」、「250cm」は、ノズル部23先端からの距離であり、第1〜第5メッシュ袋104〜108が配置されている場所を示している。つまり、「50cm」における致死率とは第1メッシュ袋104に入っていた供試虫の致死率であり、「100cm」における致死率とは第2メッシュ袋105に入っていた供試虫の致死率であり、「150cm」における致死率とは第3メッシュ袋106に入っていた供試虫の致死率であり、「200cm」における致死率とは第4メッシュ袋107に入っていた供試虫の致死率であり、「250cm」における致死率とは第5メッシュ袋108に入っていた供試虫の致死率である。尚、「−」は致死率を得てないところである。
【0057】
実施例1〜10では、上記液体:噴射剤の重量比率が8:92〜30:70の範囲内にあり、溶剤の25℃における蒸気圧がエタノールよりも低い7.0kPa以下であるため、ノズル部23先端から250cmも離れたところであっても致死率が80%以上得られている。
【0058】
一方、比較例1は、実施例1と異なる点が上記液体:噴射剤の重量比率だけであり、比較例1の上記液体:噴射剤の重量比率は6:94に設定している。この比較例1では、ノズル部23先端から250cm離れたところの致死率が30%しかない。これは、噴射剤が多すぎることにより、1回で噴射される上記液体の量が少なすぎて粒子が広範囲に密に飛ばなくなり、殺虫有効成分による効果が著しく低減してしまったためである。
【0059】
比較例2、3は溶剤がエタノールであるが、比較例2では、ノズル部23先端から250cm離れたところの致死率が60%しかなく、また、比較例3では、ノズル部23先端から250cm離れたところの致死率が50%しかない。これは、エタノールの蒸気圧が高いことから、噴射された粒子が遠くに飛んでいく前に蒸発してしまって粒子の飛距離が短くなってしまったからである。
【0060】
比較例4では、溶剤がエタノールで、上記液体:噴射剤の重量比率は50:50に設定している。比較例4では、ノズル部23先端から250cm離れたところの致死率が20%しかない。これは、上述したエタノールの蒸気圧の関係と、噴射剤がリッチでないので、エアゾール容器10から上記液体が噴射されるときに小さな粒子になり難く、噴射された粒子が広範囲に飛び難くなったからである。
【0061】
比較例5では、上記液体:噴射剤の重量比率は50:50に設定している。比較例5では、ノズル部23先端から250cm離れたところの致死率が20%しかない。これは、噴射剤がリッチでないので、エアゾール容器10から上記液体が噴射されるときに小さな粒子になり難く、噴射された粒子が広範囲に飛び難くなったからである。同様に、比較例6でも致死率は悪くなる。
【0062】
比較例7〜9では、溶剤がエタノールであることから、上記液体:噴射剤の重量比率を変更しても致死率は悪くなる。
【0063】
比較例10は、上記液体:噴射剤の重量比率を40:60に設定しているが、噴射剤の量が少ないことから粒子が飛びにくくなり、致死率は悪くなる。
【0064】
以上のように、溶剤の蒸気を低くし、液体:噴射剤の重量比率を8:92〜30:70の範囲内となるように設定したので、隙間の奥に潜む匍匐害虫に対して十分な駆除効果を得ることができる。上記効力試験はクロゴキブリのみで行っているが、実施例1〜10から明らかなように、隙間の手前だけでなく奥にいるクロゴキブリにも殺虫有効成分が付着しているので、クロゴキブリ以外の匍匐害虫、例えばワモンゴキブリ、チャバネゴキブリ、ムカデ等に対しても十分な駆除効果を得ることができる。」

(5)判断

ア 本件特許明細書の発明の詳細な説明(摘記(本a))には、溶剤の25℃における蒸気圧が7.0kPa以下の場合には、蒸気圧が十分に低いので、噴射された粒子を形成している溶剤の蒸発速度が遅くなり、このことで当該粒子が遠くまで飛んでいくとともに、空気中に漂っている時間が長くなると記載され(【0011】及び【0039】)、溶剤の蒸気圧がエタノールよりも低くなることにより、噴射された粒子を形成している溶剤の蒸発速度がより一層遅くなり、粒子が空気中に漂っている時間がさらに長くなると記載され(【0018】)、エアゾール容器が定量噴射型であるため、広範囲に粒子が飛んだとしても、殺虫有効成分の量は規定量以上噴射されることはなく、安全性が高くなるとともに、取り扱いが容易になり、さらに、従来のように使用箇所が家具等の下に限定されないので、汎用性が高まると記載されている(【0012】)。
また、液体と噴射剤の重量比率が8:92〜30:70の範囲内であることにより、殺虫有効成分及び溶剤を含む液体がエアゾール容器10から噴射されるときに、小さな粒子になりやすいとともに、粒子の勢いが強くなり、しかも、噴射された粒子が広範囲に飛んでいき、空気中に漂いやすくなると記載されている(摘記(本a)の【0011】及び摘記(本b))。
そして、実施例において、本件発明の特定事項を全て満たす実施例1〜10が存在し、実施例1〜10と、本件発明の特定事項の少なくともいずれかを満たさない比較例1〜10とについて、効力試験を行った結果、実施例1〜10が比較例1〜10に比べて隙間の奥に潜む匍匐害虫に対して十分な駆除効果を得ることができたことが示されている(摘記(本d))。

イ そうしてみれば、本件特許明細書には、匍匐害虫駆除方法に関して、本件発明の特定事項に対応した、特定の蒸気圧を有する溶剤を用いること、液体と噴射剤の重量比率を特定の範囲内とすること、定量噴射型のエアゾール容器を用いること、及び液体と噴射剤の重量比率を特定の範囲内とすることに関する説明があり、実施例において本件発明の特定事項を全て満たす具体例の記載があり、本件発明の特定事項を全て満たすことで、隙間の奥に潜む匍匐害虫に対して十分な駆除効果を得ることが示されていることから、室内のどこに対しても安全に使用することができ、しかも、大がかりな装置を不要にして駆除処理を容易にしたことが示されていると認められる。
したがって、上記特定事項に対応した説明と具体例を参考に技術常識を考慮すれば、当業者は本件発明の課題を解決できると認識できるといえる。

(6)申立人の主張について

ア 噴射する位置について

申立人は、噴射する位置について、本件特許明細書の【0047】の記載事項(摘記(本c))を考慮すると、噴射時のノズル部23が低すぎると、上方へ向けての粒子の拡散量が低下してしまい、粒子が背面側へ周り込みにくくなり、殺虫有効成分による効力が広範囲で発揮されないことは、明らかであり、「床面から100cm程度の高さから噴射する匍匐害虫駆除方法」以外は、本件特許出願時の明細書の実施例と同じように、隙間の奥に潜む匍匐害虫に対して十分な駆除効果を得ることができるとはいえず、本件発明の課題を解決することができないと主張する。
しかしながら、本件発明は、本件発明の特定事項に対応した手段、すなわち、特定の蒸気圧を有する溶剤を用いること、液体と噴射剤の重量比率を特定の範囲内とすること、定量噴射型のエアゾール容器を用いること、及び液体と噴射剤の重量比率を特定の範囲内とすることによって、隙間の奥に潜む匍匐害虫に対して十分な駆除処理ができるようにしたものであり、噴射する位置(高さ)を100cm程度にすることは、本件特許明細書の【0047】に記載されるように「好ましい」高さに過ぎない。そして、上記(5)述べたとおり、当業者は、本件発明の課題を本件特許明細書等の記載から解決できることを認識できるといえる。
よって、申立人の主張は採用できない。

イ 匍匐害虫について

申立人は、匍匐害虫について、本件特許出願時の明細書の【0001】、【0002】及び【0064】の記載事項を考慮すると、発明の詳細な説明には、ゴキブリ、ムカデのみが記載され、それ以外の「匍匐害虫」については、例示はもとより記載すらされていない。加えて、ゴキブリとは生態が全く相違するゴキブリ以外の匍匐害虫に対して、十分な駆除効果が得られることについては、本件特許出願時の明細書の発明の詳細な説明に、具体的な「試験結果」による裏付の記載や、理論的な「作用機序」を説明する記載が見当たらず、そのような記載がなくとも、十分な駆除効果が得られるといえる出願時の技術水準における「技術常識」の存在もない。そうすると、ゴキブリ以外の匍匐害虫に対して十分な駆除効果を得ることができるとはいえず、本件発明の課題を解決することができないと主張する。
しかしながら、当業者であれば、匍匐害虫の種類が異なったとしても、本件発明の殺虫有効成分を、匍匐害虫に対応したものにし、液体と噴射剤の重量比率を特定の範囲内に設定すれば、隙間の奥に潜む匍匐害虫に対して十分な駆除効果を得ることを、本件特許明細書の記載から理解することができる。
よって、申立人の主張は採用できない。

(7)小括

以上のとおりであるから、申立理由ウは理由がない。

4 申立理由エについて

(1)実施可能要件の判断の前提

明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであることを要するものである(特許法第36条第4項第1号)。
本件発明は「匍匐害虫駆除方法」の方法の発明であるところ、方法の発明における発明の「実施」とは、その方法の使用をする行為をいう(特許法第2条第3項第2号)から、当業者が、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、本件発明を「実施」をすることができるとは、匍匐害虫駆除方法を使用することができることである。

(2)判断

本件特許明細書の記載は上記3(4)のとおりであるところ、上記3(5)に述べたとおり、本件発明の特定事項に対応した、特定の蒸気圧を有する溶剤を用いること、液体と噴射剤の重量比率を特定の範囲内とすること、定量噴射型のエアゾール容器を用いること、及び液体と噴射剤の重量比率を特定の範囲内とすることに関する記載があり、実施例において本件発明の特定事項を全て満たす具体的な製造方法、具体的な適用方法についての記載があるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載により、当業者は、本件発明に係る「匍匐害虫駆除方法」を使用することができるといえる。
よって、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすものである。

(3)申立人の主張について

申立人は、ゴキブリの生態に即した本件発明の側匈害虫駆除方法により、ゴキブリとは生態が全く相違するゴキブリ以外の匍匐害虫を、ゴキブリと同様に駆除し得ると当業者が認識することは困難であり、ゴキブリと全く異なる匍匐害虫の駆除を、本件特許明細書の表1中の実施例1〜10と同様の駆除効果が得られるように行うためには、当業者であっても過度の試行錯誤を要すると主張する。
しかしながら、上記3(6)イで述べたように、ゴキブリ以外の匍匐害虫についても、本件特許明細書には、駆除処理できることが記載されているといえるから、かかる主張は採用できない。

(4)小括

以上のとおりであるから、申立理由エは理由がない。

第5 むすび

以上のとおりであるから、請求項1に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由及び証拠によっては、取り消すことができない。
また、ほかに請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2024-03-29 
出願番号 P2021-103798
審決分類 P 1 651・ 536- Y (A01M)
P 1 651・ 121- Y (A01M)
P 1 651・ 55- Y (A01M)
P 1 651・ 537- Y (A01M)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 阪野 誠司
特許庁審判官 井上 典之
赤澤 高之
登録日 2023-07-21 
登録番号 7317388
権利者 フマキラー株式会社
発明の名称 匍匐害虫駆除方法  
代理人 弁理士法人前田特許事務所  

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