• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G02B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G02B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G02B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  G02B
管理番号 1410207
総通号数 29 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2024-05-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2023-05-15 
確定日 2024-02-29 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第7173422号発明「光学フィルム、偏光板、画像表示装置及び光学フィルムの選定方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7173422号の明細書及び特許請求の範囲を、訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜11〕,12について訂正することを認める。 特許第7173422号の請求項1ないし12に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続等の経緯
特許第7173422号(請求項の数は12。以下「本件特許」という。)についての出願(特願2022−551238号)は、令和3年10月21日(優先権主張 令和2年10月21日)の出願であって、令和4年11月8日に特許権の設定の登録がされ、同年11月16日に特許公報が発行され、その後、その特許に対し、令和5年5月16日に、特許異議申立人 石川 竜郎(以下「特許異議申立人」という。)から全請求項に対して特許異議の申立てがされた。その後の手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。

令和 5年 8月 8日付け:取消理由通知書
令和 5年11月 2日 :訂正請求書の提出
令和 5年11月 2日 :意見書(特許権者)の提出
令和 5年11月22日 :手続補正書(特許権者)の提出
令和 6年 1月11日 :意見書(特許異議申立人)の提出

第2 本件訂正請求について
令和5年11月2日に提出された訂正請求書であって、令和5年11月22日に提出された手続補正書で補正された当該訂正請求書でなされた訂正の請求を、以下「本件訂正請求」という。

1 訂正の趣旨
本件訂正請求の趣旨は、特許第7173422号の明細書、特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜12について訂正することを求める、というものである。

2 訂正の内容
本件訂正請求において特許権者が求める訂正の内容は、以下のとおりである。なお、下線は当合議体が付したものであり、訂正箇所を示す。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「プラスチックフィルム上に低屈折率層を有する光学フィルムであって、
前記プラスチックフィルムは、面内で屈折率が最も大きい軸である遅相軸と、前記プラスチックフィルムの面内で前記遅相軸と直交する軸である進相軸とを有し、
前記低屈折率層は前記光学フィルムの表面に位置し、
前記光学フィルムは、下記測定条件1から算出したΣTが0.04超0.20未満を満たす領域を有する、光学フィルム。
<測定条件1>
前記光学フィルムの前記低屈折率層とは反対側の面から直線編光を入射する。前記入射光である直線偏光を光L1と定義する。前記光L1が前記光学フィルムを透過した透過光を光L2と定義する。
前記光L1は、前記遅相軸と前記光L1の振動方向との成す角を45度に固定した上で、前記光学フィルムの平面を基準とした前記光L1の振動方向の仰角が50度以上70度以下となる角度で前記光学フィルムに対して入射させる。前記仰角を50度以上70度以下の範囲で2度刻みで変動させ、11通りの仰角において前記光L2を測定する。前述した測定により、11の測定点において前記光L2が測定される。
前記光L2を、C光源及び視野角2度の条件に換算する。11の測定点のうちのn番目の測定点の光L2に関して、L*a*b*表色系のa*値及びb*値を、a*n及びb*nと定義する。また、11の測定点のうちのn+1番目の光L2に関して、L*a*b*表色系のa*値及びb*値を、a*n1及びb*n1と定義する。
前記11の測定点の測定に基づいて、隣接する測定点のa*の差の2乗と、隣接する測定点のb*の差の2乗との和を算出する。前記和を10の隣接点でそれぞれ算出し、前記和の総和を示すΣTを算出する。前記ΣTは下記式1で表すことができる。
ΣT=Σ[{a*n−a*n1}2+{b*n−b*n1}2](式1)」
と記載されているのを、
「プラスチックフィルム(但し、「プラスチックフィルムの面内で屈折率が最も大きい軸である遅相軸の屈折率(nx)と、プラスチックフィルムの面内で遅相軸と直交する軸である進相軸の屈折率(ny)との差(nx−ny)が0.07〜0.20である配向ポリエステルフィルム」を除く。)上に低屈折率層を有する光学フィルムであって、
前記プラスチックフィルムは、面内で屈折率が最も大きい軸である遅相軸と、前記プラスチックフィルムの面内で前記遅相軸と直交する軸である進相軸とを有し、
前記低屈折率層は前記光学フィルムの表面に位置し、
前記光学フィルムは、下記測定条件1から算出したΣTが0.04超0.20未満を満たす領域を有する、光学フィルム(但し、「紫外線吸収剤を含むプラスチックフィルム上に、紫外線吸収剤を含む紫外線吸収層、ハードコート層及び低屈折率層をこの順に有する光学フィルム」を除く。)。
<測定条件1>
前記光学フィルムの前記低屈折率層とは反対側の面から直線偏光を入射する。前記入射光である直線偏光を光L1と定義する。前記光L1が前記光学フィルムを透過した透過光を光L2と定義する。
前記光L1は、前記遅相軸と前記光L1の振動方向との成す角を45度に固定した上で、前記光学フィルムの平面を基準とした前記光L1の振動方向の仰角が50度以上70度以下となる角度で前記光学フィルムに対して入射させる。前記仰角を50度以上70度以下の範囲で2度刻みで変動させ、11通りの仰角において前記光L2を測定する。前述した測定により、11の測定点において前記光L2が測定される。
前記光L2を、C光源及び視野角2度の条件に換算する。11の測定点のうちのn番目の測定点の光L2に関して、L*a*b*表色系のa*値及びb*値を、a*n及びb*nと定義する。また、11の測定点のうちのn+1番目の光L2に関して、L*a*b*表色系のa*値及びb*値を、a*n1及びb*n1と定義する。
前記11の測定点の測定に基づいて、隣接する測定点のa*の差の2乗と、隣接する測定点のb*の差の2乗との和を算出する。前記和を10の隣接点でそれぞれ算出し、前記和の総和を示すΣTを算出する。前記ΣTは下記式1で表すことができる。
ΣT=Σ[{a*n−a*n1}2+{b*n−b*n1}2](式1)」
と訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2〜6,9〜11も同様に訂正する)。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項7に
「前記プラスチックフィルムの面内位相差が2500nm以下である、請求項1〜6の何れかに記載の光学フィルム。」
とあるうち、請求項1を引用するものについて独立形式請求項に改め、
「プラスチックフィルム上に低屈折率層を有する光学フィルムであって、
前記プラスチックフィルムは、面内で屈折率が最も大きい軸である遅相軸と、前記プラスチックフィルムの面内で前記遅相軸と直交する軸である進相軸とを有し、
前記プラスチックフィルムの面内位相差が2500nm以下であり、
前記低屈折率層は前記光学フィルムの表面に位置し、
前記光学フィルムは、下記測定条件1から算出したΣTが0.04超0.20未満を満たす領域を有する、光学フィルム(但し、「紫外線吸収剤を含むプラスチックフィルム上に、紫外線吸収剤を含む紫外線吸収層、ハードコート層及び低屈折率層をこの順に有する光学フィルム」を除く。)
<測定条件1>
前記光学フィルムの前記低屈折率層とは反対側の面から直線偏光を入射する。前記入射光である直線偏光を光L1と定義する。前記光L1が前記光学フィルムを透過した透過光を光L2と定義する。
前記光L1は、前記遅相軸と前記光L1の振動方向との成す角を45度に固定した上で、前記光学フィルムの平面を基準とした前記光L1の振動方向の仰角が50度以上70度以下となる角度で前記光学フィルムに対して入射させる。前記仰角を50度以上70度以下の範囲で2度刻みで変動させ、11通りの仰角において前記光L2を測定する。前述した測定により、11の測定点において前記光L2が測定される。
前記光L2を、C光源及び視野角2度の条件に換算する。11の測定点のうちのn番目の測定点の光L2に関して、L*a*b*表色系のa*値及びb*値を、a*n及びb*nと定義する。また、11の測定点のうちのn+1番目の光L2に関して、L*a*b*表色系のa*値及びb*値を、a*n1及びb*n1と定義する。
前記11の測定点の測定に基づいて、隣接する測定点のa*の差の2乗と、隣接する測定点のb*の差の2乗との和を算出する。前記和を10の隣接点でそれぞれ算出し、前記和の総和を示すΣTを算出する。前記ΣTは下記式1で表すことができる。
ΣT=Σ[{a*n−a*n1}2+{b*n−b*n1}2](式1)」
と訂正する(請求項7の記載を引用する請求項9〜11も同様に訂正する)。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項8に
「前記プラスチックフィルムが下記の条件Aを満たす、請求項1〜7の何れかに記載の光学フィルム。」
とあるうち、請求項1を引用するものについて独立形式請求項に改め、
「プラスチックフィルム上に低屈折率層を有する光学フィルムであって、
前記プラスチックフィルムは、面内で屈折率が最も大きい軸である遅相軸と、前記プラスチックフィルムの面内で前記遅相軸と直交する軸である進相軸とを有し、
前記プラスチックフィルムが下記の条件Aを満たし、
前記低屈折率層は前記光学フィルムの表面に位置し、
前記光学フィルムは、下記測定条件1から算出したΣTが0.04超0.20未満を満たす領域を有する、光学フィルム。
<測定条件1>
前記光学フィルムの前記低屈折率層とは反対側の面から直線偏光を入射する。前記入射光である直線偏光を光L1と定義する。前記光L1が前記光学フィルムを透過した透過光を光L2と定義する。
前記光L1は、前記遅相軸と前記光L1の振動方向との成す角を45度に固定した上で、前記光学フィルムの平面を基準とした前記光L1の振動方向の仰角が50度以上70度以下となる角度で前記光学フィルムに対して入射させる。前記仰角を50度以上70度以下の範囲で2度刻みで変動させ、11通りの仰角において前記光L2を測定する。前述した測定により、11の測定点において前記光L2が測定される。
前記光L2を、C光源及び視野角2度の条件に換算する。11の測定点のうちのn番目の測定点の光L2に関して、L*a*b*表色系のa*値及びb*値を、a*n及びb*nと定義する。また、11の測定点のうちのn+1番目の光L2に関して、L*a*b*表色系のa*値及びb*値を、a*n1及びb*n1と定義する。
前記11の測定点の測定に基づいて、隣接する測定点のa*の差の2乗と、隣接する測定点のb*の差の2乗との和を算出する。前記和を10の隣接点でそれぞれ算出し、前記和の総和を示すΣTを算出する。前記ΣTは下記式1で表すことができる。
ΣT=Σ[{a*n−a*n1}2+{b*n−b*n1}2](式1)
<条件A>
前記プラスチックフィルムから縦50mm×横50mmの大きさのサンプルを切り出す。前記サンプルの中央部の1箇所、及び、前記サンプルの四隅からそれぞれ前記中央部に向かって10mm進んだ4箇所、の合計5箇所を、測定箇所とする。
前記サンプルの前記5箇所で遅相軸の方向を測定する。前記サンプルの任意の1辺と、各測定箇所の遅相軸の方向とが成す角度を、それぞれD1、D2、D3、D4、D5と定義する。D1〜D5の最大値と、D1〜D5の最小値との差が1.5度以上を示す。」
と訂正する(請求項8の記載を引用する請求項9〜11も同様に訂正する)。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項12に記載された
「<測定条件1>
前記光学フィルムの前記低屈折率層とは反対側の面から直線編光を入射する。」を、
「<測定条件1>
前記光学フィルムの前記低屈折率層とは反対側の面から直線偏光を入射する。」と訂正する。

(5)訂正事項5
明細書の段落【0010】に記載された
「<測定条件1>
前記光学フィルムの前記低屈折率層とは反対側の面から直線編光を入射する。」を、
「<測定条件1>
前記光学フィルムの前記低屈折率層とは反対側の面から直線偏光を入射する。」と訂正する。

(6)訂正事項6
明細書の段落【0018】に記載された
「<測定条件1>
前記光学フィルムの前記低屈折率層とは反対側の面から直線編光を入射する。」を、
「<測定条件1>
前記光学フィルムの前記低屈折率層とは反対側の面から直線偏光を入射する。」と訂正する。

(7)訂正事項7
明細書の段落【0023】に記載された
「条件1では、光学フィルムの低屈折率層とは反対側の面から直線編光である光L1を入射する。」を、
「条件1では、光学フィルムの低屈折率層とは反対側の面から直線偏光である光L1を入射する。」と訂正する。

(8)訂正事項8
明細書の段落【0187】に記載された
「<測定条件1>
前記光学フィルムの前記低屈折率層とは反対側の面から直線編光を入射する。」を、
「<測定条件1>
前記光学フィルムの前記低屈折率層とは反対側の面から直線偏光を入射する。」と訂正する。

(9)一群の請求項について(別の訂正単位とする求め)
本件訂正前の請求項1〜11は、請求項2〜11が、本件訂正前の請求項1の記載を引用する関係にあるから、本件訂正請求は、一群の請求項〔1〜11〕について請求されたものである。
なお、令和5年11月22日提出の手続補正書によって補正された訂正請求書においては、
「(1−4)別の訂正単位とする求め
訂正後の請求項7及び8は、引用関係の解消を目的とする訂正であるから、これらの訂正が認められる場合には、請求項7及び8は、請求項1とは別途訂正することを求める」(12頁)
としている。
しかしながら、請求項9〜11は、請求項7及び8の他、請求項1〜6も直接的又は間接的に引用しているから、請求項7及び8を別の訂正単位とする求めは認められない。

3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1に係る請求項1の訂正は、「直線編光」という誤記を「直線偏光」に正すものであるから、誤記の訂正を目的とする訂正である。また、「プラスチックフィルム」を、「プラスチックフィルムの面内で屈折率が最も大きい軸である遅相軸の屈折率(nx)と、プラスチックフィルムの面内で遅相軸と直交する軸である進相軸の屈折率(ny)との差(nx−ny)が0.07〜0.20である配向ポリエステルフィルム」(以下「第1除外事項」という。)が除かれたものに限定し、「光学フィルム」を「紫外線吸収剤を含むプラスチックフィルム上に、紫外線吸収剤を含む紫外線吸収層、ハードコート層及び低屈折率層をこの順に有する光学フィルム」(以下「第2除外事項」という。)が除かれたものに限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。
また、訂正事項1に係る請求項1の訂正における上記「直線偏光」に関して、本件特許の願書に最初に添付した明細書の【0023】には、「図2(a)では、光源から直線偏光である光L1を出射し、光学フィルム100の低屈折率層30とは反対側の面に前記光L1を入射している。」と記載されており、また、訂正事項1に係る請求項1の訂正は、第1除外事項及び第2除外事項を請求項1から除くものであるから、当業者によって、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項が導入されることはないことは明らかである。また、上記訂正の内容からみて、訂正事項1に係る訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
したがって、訂正事項1に係る請求項1の訂正は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
また、請求項2〜6,9〜11についても同様である。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、本件訂正前の請求項1を引用する請求項7について、独立形式に改め、「直線編光」という誤記を「直線偏光」に正し、また、本件訂正前の請求項1の記載における「光学フィルム」を第2除外事項が除かれたものに限定するものであるから、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」、「誤記の訂正」及び「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。
また、上記(1)を踏まえると、訂正事項2に係る請求項7の訂正は、当業者によって、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項が導入されることはないことは明らかである。また、上記訂正の内容からみて、訂正事項2にかかる訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことは明らかである。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は、本件訂正前の請求項1を引用する請求項8について、独立形式に改め、「直線編光」という誤記を「直線偏光」に正すものであるから、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」及び「誤記の訂正」を目的とする訂正である。
また、上記(1)を踏まえると、訂正事項3に係る請求項8の訂正は、当業者によって、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項が導入されることはないことは明らかである。また、上記訂正の内容からみて、訂正事項3にかかる訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことは明らかである。

(4)訂正事項4について
訂正事項4に係る請求項12の訂正は、「直線編光」という誤記を「直線偏光」に正すものであるから、「誤記の訂正」を目的とする訂正である。
また、上記(1)を踏まえると、新たな技術的事項が導入されることはないことは明らかである。また、上記訂正の内容からみて、訂正事項4にかかる訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことは明らかである。

(5)訂正事項5〜8
訂正事項5〜8による訂正は、「直線編光」という誤記を「直線偏光」に正すものであるから、「誤記の訂正」を目的とする訂正である。また、上記(1)を踏まえると、訂正事項5〜8の訂正は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。

4 まとめ
上記のとおり、本件訂正の訂正事項1〜8は、本件訂正請求による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書、同法同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。
したがって、特許第7173422号の明細書及び特許請求の範囲を、訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜11〕,12について訂正することを認める。

第3 本件特許発明について
上記第2のとおり、本件訂正請求による訂正は認められることとなったことから、本件特許の請求項1〜12に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」〜「本件特許発明12」といい、これらをまとめて「本件特許発明」ということがある。)は、訂正後の特許請求の範囲の請求項1〜12に記載された事項によって特定されるとおりの、以下のものである。
「【請求項1】
プラスチックフィルム(但し、「プラスチックフィルムの面内で屈折率が最も大きい軸である遅相軸の屈折率(nx)と、プラスチックフィルムの面内で遅相軸と直交する軸である進相軸の屈折率(ny)との差(nx−ny)が0.07〜0.20である配向ポリエステルフィルム」を除く。)上に低屈折率層を有する光学フィルムであって、
前記プラスチックフィルムは、面内で屈折率が最も大きい軸である遅相軸と、前記プラスチックフィルムの面内で前記遅相軸と直交する軸である進相軸とを有し、
前記低屈折率層は前記光学フィルムの表面に位置し、
前記光学フィルムは、下記測定条件1から算出したΣTが0.04超0.20未満を満たす領域を有する、光学フィルム(但し、「紫外線吸収剤を含むプラスチックフィルム上に、紫外線吸収剤を含む紫外線吸収層、ハードコート層及び低屈折率層をこの順に有する光学フィルム」を除く。)。
<測定条件1>
前記光学フィルムの前記低屈折率層とは反対側の面から直線偏光を入射する。前記入射光である直線偏光を光L1と定義する。前記光L1が前記光学フィルムを透過した透過光を光L2と定義する。
前記光L1は、前記遅相軸と前記光L1の振動方向との成す角を45度に固定した上で、前記光学フィルムの平面を基準とした前記光L1の振動方向の仰角が50度以上70度以下となる角度で前記光学フィルムに対して入射させる。前記仰角を50度以上70度以下の範囲で2度刻みで変動させ、11通りの仰角において前記光L2を測定する。前述した測定により、11の測定点において前記光L2が測定される。
前記光L2を、C光源及び視野角2度の条件に換算する。11の測定点のうちのn番目の測定点の光L2に関して、L*a*b*表色系のa*値及びb*値を、a*n及びb*nと定義する。また、11の測定点のうちのn+1番目の光L2に関して、L*a*b*表色系のa*値及びb*値を、a*n1及びb*n1と定義する。
前記11の測定点の測定に基づいて、隣接する測定点のa*の差の2乗と、隣接する測定点のb*の差の2乗との和を算出する。前記和を10の隣接点でそれぞれ算出し、前記和の総和を示すΣTを算出する。前記ΣTは下記式1で表すことができる。
ΣT=Σ[{a*n−a*n1}2+{b*n−b*n1}2](式1)
【請求項2】
前記11の測定点の測定に基づいて、a*の最大値をa*max、a*の最小値をa*min、b*の最大値をb*max、b*の最小値をb*minと定義した際に、下記式2−1及び式2−2を満たす、請求項1に記載の光学フィルム。
a*max−a*min≦0.250(式2−1)
b*max−b*min≦0.350(式2−2)
【請求項3】
前記11の測定点の測定に基づいて、隣接する測定点のa*の差の2乗と、隣接する測定点のb*の差の2乗との和を算出する。前記和をSと定義した際に、Sは下記式3で表すことができる。Sを10の隣接点でそれぞれ算出し、10点のSの最大値をSMAXと定義した際に、SMAXが0.010以上0.050以下である、請求項1又は2に記載の光学フィルム。
S={a*n−a*n1}2+{b*n−b*n1}2(式3)
【請求項4】
前記光学フィルムの視感反射率Y値をR(%)と定義した際に、前記Rと前記ΣTとの積が0.05以上0.25以下である、請求項1〜3の何れかに記載の光学フィルム。
【請求項5】
前記低屈折率層の平均屈折率をn1、前記低屈折率層に隣接する層の平均屈折率をn2と定義した際に、n2/n1が1.23未満である、請求項1〜4の何れかに記載の光学フィルム。
【請求項6】
前記低屈折率層の平均屈折率をn1、前記低屈折率層に隣接する層の平均屈折率をn2と定義した際に、n2/n1が1.05以上1.23未満である、請求項1〜4の何れかに記載の光学フィルム。
【請求項7】
プラスチックフィルム上に低屈折率層を有する光学フィルムであって、
前記プラスチックフィルムは、面内で屈折率が最も大きい軸である遅相軸と、前記プラスチックフィルムの面内で前記遅相軸と直交する軸である進相軸とを有し、
前記プラスチックフィルムの面内位相差が2500nm以下であり、
前記低屈折率層は前記光学フィルムの表面に位置し、
前記光学フィルムは、下記測定条件1から算出したΣTが0.04超0.20未満を満たす領域を有する、光学フィルム(但し、「紫外線吸収剤を含むプラスチックフィルム上に、紫外線吸収剤を含む紫外線吸収層、ハードコート層及び低屈折率層をこの順に有する光学フィルム」を除く。)。
<測定条件1>
前記光学フィルムの前記低屈折率層とは反対側の面から直線偏光を入射する。前記入射光である直線偏光を光L1と定義する。前記光L1が前記光学フィルムを透過した透過光を光L2と定義する。
前記光L1は、前記遅相軸と前記光L1の振動方向との成す角を45度に固定した上で、前記光学フィルムの平面を基準とした前記光L1の振動方向の仰角が50度以上70度以下となる角度で前記光学フィルムに対して入射させる。前記仰角を50度以上70度以下の範囲で2度刻みで変動させ、11通りの仰角において前記光L2を測定する。前述した測定により、11の測定点において前記光L2が測定される。
前記光L2を、C光源及び視野角2度の条件に換算する。11の測定点のうちのn番目の測定点の光L2に関して、L*a*b*表色系のa*値及びb*値を、a*n及びb*nと定義する。また、11の測定点のうちのn+1番目の光L2に関して、L*a*b*表色系のa*値及びb*値を、a*n1及びb*n1と定義する。
前記11の測定点の測定に基づいて、隣接する測定点のa*の差の2乗と、隣接する測定点のb*の差の2乗との和を算出する。前記和を10の隣接点でそれぞれ算出し、前記和の総和を示すΣTを算出する。前記ΣTは下記式1で表すことができる。
ΣT=Σ[{a*n−a*n1}2+{b*n−b*n1}2](式1)
【請求項8】
プラスチックフィルム上に低屈折率層を有する光学フィルムであって、
前記プラスチックフィルムは、面内で屈折率が最も大きい軸である遅相軸と、前記プラスチックフィルムの面内で前記遅相軸と直交する軸である進相軸とを有し、
前記プラスチックフィルムが下記の条件Aを満たし、
前記低屈折率層は前記光学フィルムの表面に位置し、
前記光学フィルムは、下記測定条件1から算出したΣTが0.04超0.20未満を満たす領域を有する、光学フィルム。
<測定条件1>
前記光学フィルムの前記低屈折率層とは反対側の面から直線偏光を入射する。前記入射光である直線偏光を光L1と定義する。前記光L1が前記光学フィルムを透過した透過光を光L2と定義する。
前記光L1は、前記遅相軸と前記光L1の振動方向との成す角を45度に固定した上で、前記光学フィルムの平面を基準とした前記光L1の振動方向の仰角が50度以上70度以下となる角度で前記光学フィルムに対して入射させる。前記仰角を50度以上70度以下の範囲で2度刻みで変動させ、11通りの仰角において前記光L2を測定する。前述した測定により、11の測定点において前記光L2が測定される。
前記光L2を、C光源及び視野角2度の条件に換算する。11の測定点のうちのn番目の測定点の光L2に関して、L*a*b*表色系のa*値及びb*値を、a*n及びb*nと定義する。また、11の測定点のうちのn+1番目の光L2に関して、L*a*b*表色系のa*値及びb*値を、a*n1及びb*n1と定義する。
前記11の測定点の測定に基づいて、隣接する測定点のa*の差の2乗と、隣接する測定点のb*の差の2乗との和を算出する。前記和を10の隣接点でそれぞれ算出し、前記和の総和を示すΣTを算出する。前記ΣTは下記式1で表すことができる。
ΣT=Σ[{a*n−a*n1}2+{b*n−b*n1}2](式1)
<条件A>
前記プラスチックフィルムから縦50mm×横50mmの大きさのサンプルを切り出す。前記サンプルの中央部の1箇所、及び、前記サンプルの四隅からそれぞれ前記中央部に向かって10mm進んだ4箇所、の合計5箇所を、測定箇所とする。
前記サンプルの前記5箇所で遅相軸の方向を測定する。前記サンプルの任意の1辺と、各測定箇所の遅相軸の方向とが成す角度を、それぞれD1、D2、D3、D4、D5と定義する。D1〜D5の最大値と、D1〜D5の最小値との差が1.5度以上を示す。
【請求項9】
前記プラスチックフィルムと前記低屈折率層との間に、ハードコート層及び防眩層から選ばれる1種以上の層を有する、請求項1〜8の何れかに記載の光学フィルム。
【請求項10】
偏光子と、前記偏光子の一方の側に位置する第1の透明保護板と、前記偏光子の他方の側に位置する第2の透明保護板とを有する偏光板であって、前記第1の透明保護板及び前記第2の透明保護板の少なくとも一方が請求項1〜9の何れかに記載の光学フィルムであり、前記光学フィルムの前記低屈折率層側の面が前記偏光子とは反対側を向いてなる、偏光板。
【請求項11】
表示素子と、前記表示素子の光出射面側に配置されてなる偏光子及び光学フィルムとを有する画像表示装置であって、前記光学フィルムが請求項1〜9の何れかに記載の光学フィルムであり、かつ、前記光学フィルムの前記低屈折率層側の面が前記表示素子とは反対側を向いてなる、画像表示装置。
【請求項12】
表示素子の光出射面上に、偏光子及び光学フィルムを有してなる画像表示装置の光学フィルムの選定方法であって、下記(1)〜(4)の判定条件を満たす光学フィルムXを前記光学フィルムとして選定する、画像表示装置の光学フィルムの選定方法。
(1)プラスチックフィルム上に低屈折率層を有する光学フィルムXであること;
(2)前記プラスチックフィルムは、面内で屈折率が最も大きい軸である遅相軸と、前記プラスチックフィルムの面内で前記遅相軸と直交する軸である進相軸とを有すること;
(3)前記低屈折率層が前記光学フィルムXの表面に位置してなること;及び
(4)前記光学フィルムXが、下記測定条件1から算出したΣTが0.04超0.20未満を満たす領域を有すること。
<測定条件1>
前記光学フィルムの前記低屈折率層とは反対側の面から直線偏光を入射する。前記入射光である直線偏光を光L1と定義する。前記光L1が前記光学フィルムを透過した透過光を光L2と定義する。
前記光L1は、前記遅相軸と前記光L1の振動方向との成す角を45度に固定した上で、前記光学フィルムの平面を基準とした前記光L1の振動方向の仰角が50度以上70度以下となる角度で前記光学フィルムに対して入射させる。前記仰角を50度以上70度以下の範囲で2度刻みで変動させ、11通りの仰角において前記光L2を測定する。前述した測定により、11の測定点において前記光L2が測定される。
前記光L2を、C光源及び視野角2度の条件に換算する。11の測定点のうちのn番目の測定点の光L2に関して、L*a*b*表色系のa*値及びb*値を、a*n及びb*nと定義する。また、11の測定点のうちのn+1番目の光L2に関して、L*a*b*表色系のa*値及びb*値を、a*n1及びb*n1と定義する。
前記11の測定点の測定に基づいて、隣接する測定点のa*の差の2乗と、隣接する測定点のb*の差の2乗との和を算出する。前記和を10の隣接点でそれぞれ算出し、前記和の総和を示すΣTを算出する。前記ΣTは下記式1で表すことができる。
ΣT=Σ[{a*n−a*n1}2+{b*n−b*n1}2](式1)」

第4 取消理由通知に記載された取消理由の概要について
本件訂正前の請求項1〜7,9〜11に係る特許に対して、令和5年8月8日付けで通知された取消理由の要旨は、次のとおりである。

理由1:(新規性)本件特許の請求項1〜7、9に係る発明は、先の出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法29条1項3号に該当するから、請求項1〜7、9に係る特許は、いずれも、特許法第29条1項の規定に違反してされたものである。
理由2:(進歩性)本件特許の請求項1〜7、9〜11に係る発明は、先の出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、請求項1〜7、9〜11に係る特許は、いずれも、同条の規定に違反してされたものである。

取消理由1及び2で引用した引用例等は、次のとおりである。
・甲第1号証:国際公開第2020/100926号(以下「甲1」という。)
・甲第2号証:特開2014−235233号公報(以下「甲2」という。)
・甲第4号証:特開2020−166236号公報(以下「甲4」という。)
(当合議体注:甲1及び甲2が主引用例、甲4は周知技術又は技術常識を例示するための文献である。)

第5 取消理由通知に記載した取消理由についての合議体の判断
1 引用文献の記載事項及び引用発明について
(1)甲1に記載された事項及び甲1発明
ア 甲1には、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。(以下同様)

(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルム、偏光板、画像表示装置用の表面板及び画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
画像表示装置の表示素子上には、種々のプラスチックフィルムが用いられる場合が多い。例えば、表示素子上に偏光板を有する画像表示装置には、偏光板を構成する偏光子を保護するために、偏光子の両面を保護するためのプラスチックフィルム(偏光子保護フィルム)が用いられている。
【0003】
偏光子保護フィルムに代表される画像表示装置用の光学フィルムは、ポリエステルフィルム、アクリルフィルム、シクロオレフィン系フィルム、及びトリアセチルセルロースフィルム等のプラスチックフィルムを基材とし、必要に応じて該基材上に機能層を有するものである。
光学フィルムの基材であるプラスチックフィルムは、紫外線による経時劣化を抑制するために、紫外線吸収剤を練り込んだものが提案されている(特許文献1)。
・・・中略・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のプラスチックフィルムによれば、紫外線吸収剤によって耐光性を良好にすることができる。
【0006】
一方、近年、画像表示装置の高解像度化が急速に進んでおり、フルハイビジョン(画素数が1920×1080以上)及び4K(画素数が3840×2160以上)が実用化され始めている。このような高解像度の画像表示装置は、画面サイズが大きなものが好まれている。
しかし、高解像度の画像表示装置が紫外線吸収剤を練り込んだプラスチックフィルムを含む場合、紫外線による経時劣化が生じない場合であっても、電源OFF時や黒表示時に、画面の端部領域が青白く感じられる場合があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意研究した。その結果、プラスチックフィルムを構成する樹脂成分及びプラスチックフィルム中に含まれる紫外線吸収剤の少なくとも何れかが紫外線の波長領域の光を吸収し、可視光の短波長領域の光を蛍光発光することが、上記課題の原因であることを見出した。そして、本発明者らは、紫外線吸収剤を練り込んだプラスチックフィルム上に、あえて、紫外線吸収剤を含む紫外線吸収層を形成することにより、上記課題を解決するに至った。
・・・中略・・・
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を説明する。
[光学フィルム]
本発明の光学フィルムは、紫外線吸収剤Aを含むプラスチックフィルム上に紫外線吸収剤Bを含む紫外線吸収層を有してなり、下記条件1を満たすものである。
<条件1>
前記光学フィルムの平面に対して垂直方向を0度と定義する。
分光蛍光光度計を用いて、前記光学フィルムのプラスチックフィルム側の面に対して+45度の方向から波長365nmの励起光を照射し、発光した蛍光を−45度の方向から測定し、380〜490nmの蛍光の強度の和をBL1と定義する。
分光蛍光光度計を用いて、前記光学フィルムの紫外線吸収層側の面に対して+45度の方向から波長365nmの励起光を照射し、発光した蛍光を−45度の方向から測定し、380〜490nmの蛍光の強度の和をSL1と定義する。
前記前提において、BL1及びSL1が下記式(1)を満たす。
SL1/BL1≦0.30(1)」

(イ)「【実施例】
・・・中略・・・
【0154】
1−2.面内位相差(Re)、及び、厚み方向の位相差(Rth)
後述の「2」で作製又は準備した延伸ポリエステルフィルムA〜Cに関して、大塚電子社製の商品名「RETS−100(測定スポット:直径5mm)」を用いて、面内位相差及び厚み方向の位相差を測定した。測定の手順は、明細書本文の(A1)〜(A4)に沿って実施した。
・・・中略・・・
【0156】
1−4.紫外線透過率
実施例及び比較例の光学フィルムに関して、分光光度計(島津製作所製、商品名:UV−2450)を用いて、波長380nmの分光透過率を測定した。紫外線吸収層を有する光学フィルムは、プラスチックフィルムを基準とした紫外線吸収層側を光入射面とした。
【0157】
1−5.大画面の画像表示装置の評価(青白さ)
実施例及び比較例で作製した画像表示装置を室内の壁際に設置した。室内照明はOFFとして、遮光カーテンで太陽光を遮断して暗室(3Lx以下)とした。中心波長365nmのブラックライト(栄進化学社製、商品名:UV−LEDLIGHTPB−365、照射距離40cmでの紫外線照度が6000μW/cm2以上)を準備し、画像表示装置の右斜め45度方向、60cm離れた距離からブラックライトを照射した。その後、画像表示装置の電源がOFFの状態で、画像表示装置の端部周辺(主として左側の端部から約20mmの領域)が青白く感じられる否かについて目視で評価した。また、評価者は画像表示装置の正面に立ち、または座り、直線距離1mから評価した。評価者は、立ったり座ったりすることで、表示領域全体を観察した。
端部周辺を青白く感じないものを2点、どちらともいえないものを1点、端部周辺が青白く感じられるものを0点として、20人の被験者が評価を行い、平均点を算出し、下記基準で評価した。
A:平均点が1.6超
B:平均点が1.3超1.6以下
C:平均点が1.0超1.3以下
D:平均点が0.5超1.0以下
E:平均点が0.5以下
【0158】
1−6.曲面の画像表示装置の評価(青白さ)
直径50mmの表面が黒色の円筒を準備した。当該円筒に実施例及び比較例の光学フィルムを巻き付け、疑似的な曲面形状の画像表示装置(以下、「サンプル」と称する。)を作製した。その際、紫外線吸収層を有する光学フィルムは、プラスチックフィルムを基準とした紫外線吸収層側が円筒とは反対側を向くように配置した。
室内の蛍光灯照明下(600〜1500Lx)で、上記サンプルを様々な角度から様々な箇所を目視で観察し、青白く感じられる否かについて目視で評価した。サンプルと評価者との距離は1mとした。評価者は、立ったり座ったりすることで、表示領域全体を観察した。
サンプルが青白く感じた角度及び箇所がないものを2点、どちらともいえないものを1点、サンプルが青白く感じた角度及び箇所があるものを0点として、20人の被験者が評価を行い、平均点を算出し、下記基準で評価した。
A:平均点が1.6超
B:平均点が1.3超1.6以下
C:平均点が1.0超1.3以下
D:平均点が0.5超1.0以下
E:平均点が0.5以下
【0159】
1−7.画像表示装置の評価(虹ムラ)
実施例及び比較例で作製した画像表示装置を暗室環境(3Lx以下)で点灯し、目視で様々な角度から観察し、虹ムラの有無を評価した。
虹ムラが視認できないものを2点、どちらともいえないものを1点、虹ムラが明瞭に視認されるものを0点として、20人の被験者が評価を行い、平均点を算出し、下記基準で評価した。評価者は、立ったり座ったりすることで、表示領域全体を観察した。
A:平均点が1.5以上
B:平均点が1.0超1.5未満
C:平均点が0.5超1.0以下
D:平均点が0.5以下
【0160】
2.延伸ポリエステルフィルムの作製及び準備
[延伸ポリエステルフィルムA]
1kgのPET(融点258℃、吸収中心波長:320nm)と、0.1kgの紫外線吸収剤A(ベンゾオキサジノン系紫外線吸収剤、サンケミカル社:CYASORBUV−3638、極大吸収波長:350nm)とを、混練機で280℃にて溶融混合し紫外線吸収剤Aを含有したペレットを作製した。そのペレットと、融点258℃のPETを単軸押出機に投入し280℃で溶融混練し、Tダイから押出し、25℃に表面温度を制御したキャストドラム上にキャストしてキャスティングフィルムを得た。キャスティングフィルム中の紫外線吸収剤Aの量はPET100質量部に対して1質量部であった。
得られたキャスティングフィルムを、95℃に設定したロール群で加熱した後、延伸区間長400mmの間で、フィルム両面からラジエーションヒーターにより急速加熱しながら、延伸時のフィルム温度を103℃としながら、フィルム長手方向に3.3倍延伸し、その後一旦冷却した。続いて、この一軸延伸フィルムの両面に空気中でコロナ放電処理を施し、基材フィルムの濡れ張力を55mN/mとし、フィルム両面のコロナ放電処理面に、「ガラス転移温度18℃のポリエステル樹脂、ガラス転移温度82℃のポリエステル樹脂、及び平均粒径100nmのシリカ粒子を含む易滑層塗布液をインラインコーティングし、易滑層を形成した。
次いで、一軸延伸フィルムをテンターに導き、95℃の熱風で予熱後、1段目105℃、2段目140℃の温度でフィルム幅方向に4.5倍延伸した。ここで、横延伸区間を2分割した場合、横延伸区間中間点におけるフィルムの延伸量(計測地点でのフィルム幅−延伸前フィルム幅)は、横延伸区間終了時の延伸量の80%となるように2段階で延伸した。横延伸したフィルムは、そのまま、テンター内で段階的に180℃から熱処理温度225℃の熱風にて熱処理を行い、続いて同温度条件で幅方向に1%の弛緩処理を、さらに100℃まで急冷した後に幅方向に1%の弛緩処理を施し、その後、巻き取り、厚み28μmの延伸ポリエステルフィルムAを得た。
・・・中略・・・
【0163】
[延伸ポリエステルフィルムD]
キャスティングフィルムの厚みを変更し、2軸延伸後の厚みが48μmとなるように変更、横延伸区間中間点におけるフィルムの延伸量(計測地点でのフィルム幅−延伸前フィルム幅)を横延伸区間終了時の延伸量の70%に変更した以外は、延伸ポリエステルフィルムAと同様にして、延伸ポリエステルフィルムDを得た。
【0164】
3.光学フィルムの作製及び準備、偏光板の作製、並びに画像表示装置の作製
[実施例1]
上記「2」で作製した延伸ポリエステルフィルムAの一方の面に、下記処方の紫外線吸収層形成用塗布液を塗布、乾燥、紫外線照射して、厚み5μmの紫外線吸収層を形成し、実施例1の光学フィルム(光学フィルムX)を得た。なお、光学フィルムは、後述の画像表示装置の大きさに合わせるため、対角1444mm(縦:約729mm、横:約1247mm)の大きさに切断した。
<紫外線吸収層形成用塗布液>
・6官能アクリレートモノマー50質量部
(製品名:DPHA、サートマー社製)
・ウレタンアクリレートオリゴマー50質量部
(製品名:UV1700B、日本合成化学社製)
・Omnirad1846質量部
(IGMResins社製)
・反応性シリコーン系レベリング剤0.1質量部
(製品名:UV3500、ビックケミー社製)
・有機微粒子:3質量部
(平均粒子径:2.0μm、球状ポリアクリル−スチレン共重合体、積水化成品社製)
・フュームドシリカ1質量部
(オクチルシラン処理;平均粒子径12nm、日本アエロジル社製)
・紫外線吸収剤B6質量部
(ベンゾトリアゾール系、製品名:JF−79、城北化学工業社製)
(極大吸収波長:355nm)
(明細書本文の−Y及び+Yを示す波長:300nm、377nm)
・メチルイソブチルケトン160質量部
・イソプロピルアルコール40質量部
【0165】
次いで、膜厚200μmのPVAフィルムを、一軸延伸(温度110℃、延伸倍率5倍)して、膜厚40μmのフィルムを得た。このフィルムを、ヨウ素0.15g及びヨウ化カリウム10gを含む水溶液に60秒間浸漬し、次いでヨウ化カリウム12g及びホウ酸7.5gを含む68℃の水溶液に浸漬した。これを水洗、乾燥し、PVA偏光子を得た。次いで、接着剤(固形分濃度2.5質量%のPVA水溶液)を介して、透明板A(実施例1の光学フィルム)の延伸ポリエステルフィルムA側の面と、PVA偏光子とを接着した。さらに、同接着剤を介して、透明板B(厚み50μmのTACフィルム)と、PVA偏光子の他方の側とを接着し、実施例1の偏光板を得た。実施例1の偏光板は、透明板B(厚み50μmのTACフィルム)、接着剤層、PVA偏光子、接着剤層及び透明板A(実施例1の光学フィルム。該光学フィルムは、延伸ポリエステルフィルムAを基準として紫外線吸収層側の面が偏光子と反対側を向いている)をこの順に有するものである。実施例1の偏光板内において、PVA偏光子の吸収軸と、延伸ポリエステルフィルムAの遅相軸とは平行に配置した。
【0166】
次いで、市販の画像表示装置(LGエレクトロニクス製55UK6300PJF:55インチ)表示素子:液晶、有効表示領域の最大径:1444mm、解像度:4K(3840×2160)を準備した。当該画像表示装置は、光源側偏光板、液晶表示素子、出射側偏光板(視認側偏光板)、光学フィルム及び表面板をこの順で有するものであった。該画像表示装置の出射側偏光板(視認側偏光板)、光学フィルム及び表面板を取り外し、実施例1の偏光板を配置して、実施例1の画像表示装置を得た。なお、画像表示装置内において、実施例1の偏光板は透明板A(実施例1の光学フィルム)側の面が光出射面側となるように配置した。
実施例1の画像表示装置は、光源側偏光板、液晶表示素子、及び実施例1の偏光板をこの順で有するものである。
なお、本発明において画像表示装置は、長辺が横向きになる向きで、かつ、床面と平行(±5°)に、平坦な場所に固定配置して、上記1−5及び1−7の評価を行った。
・・・中略・・・
【0168】
[実施例3]
延伸ポリエステルフィルムD上に、実施例1と同様にして紫外線吸収層を形成した。
次いで、紫外線吸収層上に、下記処方のハードコート層形成用塗布液を塗布し、その後70℃×1分で乾燥し溶剤を揮発させた。続いて紫外線照射(100mJ/cm2)し、ハードコート層(ドライ厚み10μm)を形成した。
次いで、ハードコート層上に下記処方の低屈折率層形成用塗布液を塗布し、その後60℃×1分で乾燥し溶剤を揮発させた。続いて紫外線照射(200mJ/cm2)し、低屈折率層(ドライ厚み100nm)を形成し、実施例3の光学フィルム、偏光板及び画像表示装置を得た。
【0169】
<ハードコート層形成用塗布液>
・紫外線硬化型アクリレート含有組成物:22質量部
(日本化薬株式会社製、商品名「KAYARADPET−30」、固形分100%)
・紫外線硬化型アクリレート含有組成物:17質量部
(第一工業製薬株式会社社製、商品名「ニューフロンティアR−1403MB」、固形分
80%)
・フッ素系レベリング剤:1質量部
(DIC株式会社製、商品名「メガファックF−568」)
・光重合開始剤:1質量部
(IGMResinsB.V.社製、商品名「Omnirad 184」)
・メチルイソブチルケトン:15質量部
・メチルエチルケトン:44質量部
【0170】
<低屈折率層形成用塗布液>
・光重合開始剤0.02質量部
(IGMResins社製、商品名「Omnirad 127」)
・紫外線硬化性樹脂0.6質量部
(ポリエチレングリコール(n≒4)ジアクリレート、東亜合成社製、商品名「M−240」)
・中空シリカ6.2質量部(有効成分:1.2質量部)
(メタクリロイル基を有するシランカップリング剤で表面処理されてなる、平均粒子径75nmの中空シリカ。有効成分20質量%の分散液)
・中実シリカ1.8質量部(有効成分:0.7質量部)
(メタクリロイル基を有するシランカップリング剤で表面処理されてなる、平均粒子径12.5nmの中実シリカ。有効成分40質量%の分散液)
・シリコーン系レベリング剤0.08質量部
(信越化学社製、商品名「KP−420」)
・希釈溶剤91.3質量部
(メチルイソブチルケトンと1−メトキシ−2−プロピルアセテートとの68:32混合溶剤)
・・・中略・・・
【0177】
【表1】

【0178】
表1の結果から、実施例の光学フィルムを組み込んだ画像表示装置は、画面が青白く感じられることを抑制し得ることが確認できる。」

イ 甲1発明
上記(1)アの摘記事項、特に甲1の[0159]〜[0160]、[0163]、[0168]〜[0170]、[0177]及び表1等から理解される実施例3の「光学フィルム」として、甲1には、次の「光学フィルム」の発明(以下「甲1発明」)が記載されていると認められる。

「延伸ポリエステルフィルムD上に下記処方の紫外線吸収層形成用塗布液を塗布、乾燥、紫外線照射して紫外線吸収層を形成し、紫外線吸収層上に、下記処方のハードコート層形成用塗布液を塗布し、乾燥し溶剤を揮発させ、紫外線照射してハードコート層を形成し、ハードコート層上に下記処方の低屈折率層形成用塗布液を塗布し、乾燥し溶剤を揮発させ、紫外線照射して低屈折率層を形成した光学フィルムであって、延伸ポリエステルフィルムDは、1kgのPET(融点258℃、吸収中心波長:320nm)と、0.1kgの紫外線吸収剤A(ベンゾオキサジノン系紫外線吸収剤、サンケミカル社:CYASORBUV−3638、極大吸収波長:350nm)とを、混練機で280℃にて溶融混合し紫外線吸収剤Aを含有したペレットを作製し、そのペレットと、融点258℃のPETを単軸押出機に投入し280℃で溶融混練し、Tダイから押出し、25℃に表面温度を制御したキャストドラム上にキャストしてキャスティングフィルムを作製し、得られたキャスティングフィルムを、95℃に設定したロール群で加熱した後、延伸区間長400mmの間で、フィルム両面からラジエーションヒーターにより急速加熱しながら、延伸時のフィルム温度を103℃としながら、フィルム長手方向に3.3倍延伸し、その後一旦冷却し、続いて、この一軸延伸フィルムの両面に空気中でコロナ放電処理を施し、基材フィルムの濡れ張力を55mN/mとし、フィルム両面のコロナ放電処理面に、ガラス転移温度18℃のポリエステル樹脂、ガラス転移温度82℃のポリエステル樹脂、及び平均粒径100nmのシリカ粒子を含む易滑層塗布液をインラインコーティングし、易滑層を形成し、次いで、一軸延伸フィルムをテンターに導き、95℃の熱風で予熱後、1段目105℃、2段目140℃の温度でフィルム幅方向に4.5倍延伸し、ここで、横延伸区間を2分割した場合、横延伸区間中間点におけるフィルムの延伸量(計測地点でのフィルム幅−延伸前フィルム幅)は、横延伸区間終了時の延伸量の80%となるように2段階で延伸し、横延伸したフィルムは、そのまま、テンター内で段階的に180℃から熱処理温度225℃の熱風にて熱処理を行い、続いて同温度条件で幅方向に1%の弛緩処理を、さらに100℃まで急冷した後に幅方向に1%の弛緩処理を施し、その後、巻き取り、厚み28μmの延伸ポリエステルフィルムAを製造する方法において、キャスティングフィルムの厚みを変更し、2軸延伸後の厚みが48μmとなるように変更、横延伸区間中間点におけるフィルムの延伸量(計測地点でのフィルム幅−延伸前フィルム幅)を横延伸区間終了時の延伸量の70%に変更した以外は、延伸ポリエステルフィルムAと同様にして、延伸ポリエステルフィルムDを得たものであり、延伸ポリエステルフィルムDの面内位相差(Re)は1100である、光学フィルム。
<紫外線吸収層形成用塗布液>
・6官能アクリレートモノマー50質量部
(製品名:DPHA、サートマー社製)>
・ウレタンアクリレートオリゴマー50質量部
(製品名:UV1700B、日本合成化学社製)
・Omnirad1846質量部
(IGMResins社製)
・反応性シリコーン系レベリング剤0.1質量部
(製品名:UV3500、ビックケミー社製)
・有機微粒子:3質量部
(平均粒子径:2.0μm、球状ポリアクリル−スチレン共重合体、積水化成品社製)
・フュームドシリカ1質量部
(オクチルシラン処理;平均粒子径12nm、日本アエロジル社製)
・紫外線吸収剤B6質量部
(ベンゾトリアゾール系、製品名:JF−79、城北化学工業社製)
(極大吸収波長:355nm)
(明細書本文の−Y及び+Yを示す波長:300nm、377nm)
・メチルイソブチルケトン160質量部
・イソプロピルアルコール40質量部
<ハードコート層形成用塗布液>
・紫外線硬化型アクリレート含有組成物:22質量部
(日本化薬株式会社製、商品名「KAYARADPET−30」、固形分100%)
・紫外線硬化型アクリレート含有組成物:17質量部
(第一工業製薬株式会社社製、商品名「ニューフロンティアR−1403MB」、固形分80%)
・フッ素系レベリング剤:1質量部
(DIC株式会社製、商品名「メガファックF−568」)
・光重合開始剤:1質量部
(IGM Resins B.V.社製、商品名「Omnirad 184」)
・メチルイソブチルケトン:15質量部
・メチルエチルケトン:44質量部
<低屈折率層形成用塗布液>
・光重合開始剤0.02質量部
(IGM Resins社製、商品名「Omnirad 127」)
・紫外線硬化性樹脂0.6質量部
(ポリエチレングリコール(n≒4)ジアクリレート、東亜合成社製、商品名「M−240」)
・中空シリカ6.2質量部(有効成分:1.2質量部)
(メタクリロイル基を有するシランカップリング剤で表面処理されてなる、平均粒子径75nmの中空シリカ。有効成分20質量%の分散液)
・中実シリカ1.8質量部(有効成分:0.7質量部)
(メタクリロイル基を有するシランカップリング剤で表面処理されてなる、平均粒子径12.5nmの中実シリカ。有効成分40質量%の分散液)
・シリコーン系レベリング剤0.08質量部
(信越化学社製、商品名「KP−420」)
・希釈溶剤91.3質量部
(メチルイソブチルケトンと1−メトキシ−2−プロピルアセテートとの68:32混合溶剤)」

(2)甲2に記載された事項及び甲2発明
ア 甲2には、以下の記載がある。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば各種ディスプレイの観察者側の表面に、直接的に又は間接的に貼付して用いられる防眩性反射防止フィルム、特に反射防止性能が良好であると共に、液晶表示装置に色の異なるムラ(以下、「ニジムラ」ともいう)が観察されず、画像鮮明性に優れ、さらにシンチレーション(面ぎら)を低下させた防眩性反射防止フィルムに関する。
・・・中略・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の防眩性反射防止フィルムにおいては、フィルム表面に、いわゆるシンチレーション(面ぎら)とよばれるキラキラ光る輝きが発生し、ディスプレイの視認性が低下するという問題があった。
【0008】
一方、特許文献2に記載の防眩性反射防止フィルムは、画像鮮明性およびシンチレーションに優れるが、透明基材としてポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂に代表される一般的なポリエステルフィルムを使用している。その結果、無配向のポリエステルフィルムを用いた防眩性反射防止フィルムを偏光素子上に配置した場合、液晶表示装置に色の異なるムラ(以下、「ニジムラ」ともいう)が、特に表示画面を斜めから観察したときに生じ、液晶表示装置の表示品質が損なわれてしまうという課題があることが判明した。
【0009】
当該ニジムラを抑制するには、COPフィルム、PCフィルム、TACフィルムでもある程度効果が期待できる。しかしながら、これらのフィルムは耐湿熱性に劣るため、高温多湿の環境下においては長時間の保管や使用が難しい。
【0010】
そこで、本発明の目的とするところは、画像鮮明性に優れ、シンチレーションを低下させ、且つ偏光素子上に配置して表示画面を斜めから観察してもニジムラが生じない、防眩性反射防止フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、第1の発明の防眩性反射防止フィルムは、透明基材フィルム上に、該透明基材フィルムから順に防眩性ハードコート層、屈折率1.6〜2.4である高屈折率層、及び屈折率1.3〜1.5である低屈折率層が積層されて構成されている。そして、防眩性ハードコート層は、活性エネルギー線硬化型樹脂及び光重合開始剤を含むバインダーと、バインダーの硬化物との屈折率差が0〜0.02で、かつ平均粒子径が1〜6μmの透光性有機微粒子とを含み、該透光性有機微粒子を前記活性エネルギー線硬化型樹脂100質量部に対して35〜55質量部含有する。そのうえで、前記透明基材フィルムとして、該フィルムの面内において最も屈折率が大きい方向(遅相軸方向)の屈折率(nx)と、遅相軸方向と直交する方向(進相軸方向)の屈折率(ny)との差(nx−y)が0.07〜0.20の、配向ポリエステルフィルムを使用していることを特徴とする。
(※合議体注:「差(nx−y)」は「差(nx−ny)」の誤記である。)
・・・中略・・・
【発明の効果】
【0014】
第1の発明の防眩性反射防止フィルムでは、防眩性ハードコート層上の凹凸を均一かつ十分に形成することができ、シンチレーション(面ぎら)を低下させることができると共に、画像鮮明性に優れ、さらに反射防止性能が良好である。また、透明基材フィルムには所定の配向ポリエステルフィルムを使用しているため、本発明の防眩性反射防止フィルムを偏光素子上に配置した場合に、表示画面を斜めから観察してもニジムラが生じることがない。また、COPフィルムやPCフィルム等と比べて耐湿熱性に優れるため、高温多湿の環境下においても品質が劣化することなく、長時間の保管や使用に適している。
・・・中略・・・
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を具体化した実施形態について詳細に説明する。
<防眩性反射防止フィルム>
本実施形態の防眩性反射防止フィルムは、透明基材フィルム上に、該透明基材フィルムから順に防眩性ハードコート層、屈折率1.6〜2.4である高屈折率層、及び屈折率1.3〜1.5である低屈折率層が積層されて構成されている。上記防眩性ハードコート層は、活性エネルギー線硬化型樹脂及び光重合開始剤を含むバインダーと、バインダーの硬化物との屈折率差が0〜0.02でかつ平均粒子径が1〜6μmの透光性有機微粒子とを含み、透光性有機微粒子を活性エネルギー線硬化型樹脂100質量部に対して35〜55質量部含有する防眩性ハードコート層用塗液の硬化物である。
【0017】
次に、防眩性反射防止フィルムの構成要素について順に説明する。
〔透明基材フィルム〕
防眩性反射防止フィルムに用いられる透明基材フィルムには、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステルからなる配向ポリエステルフィルム(高複屈折フィルムとも称される)を使用する。特に、遅相軸方向の屈折率(nx)と進相軸方向の屈折率(ny)との差(nx−ny:△n)が0.07〜0.20、好ましくは0.10〜0.15のものを使用する。この屈折率差(△n)が0.07未満では、充分なニジムラの抑制効果が得られず、また、後述のリタデーション値を得るために必要な膜厚が厚くなる。一方、屈折率差(△n)が0.20を超えると、フィルムに裂け、破れ等を生じやすくなり、工業材料としての実用性が著しく低下する。(nx)としては、1.67〜1.78が好ましく、より好ましくは1.69〜1.73である。(ny)としては、1.55〜1.65が好ましく、より好ましいくは1.57〜1.62である。(nx)、(ny)、及び(△n)が上記の関係を満たすことで、好適なニジムラの抑制効果を得ることができる。
【0018】
また、配向ポリエステルフィルムのリタデーションは、3000〜30000nmが好ましい。リタデーションが3000nm未満では、反射防止フィルムを偏光素子上に配置した場合、斜め方向から観察した時に強い干渉色(ニジムラ)を呈し、包絡線形状が光源の発光スペクトルと相違して良好な視認性を確保することができない場合がある。一方、リタデーションが30000nmを超えても更なる視認性の改善効果は実質的に得られないばかりか、フィルムの厚みも相当に厚くなり、取り扱い性が低下する。より好ましいリタデーションの下限値は5000nm以上であり、さらに好ましくは10000nm以上である。
【0019】
なお、リタデーションとは、ポリエステルフィルムの面内において最も屈折率が大きい方向(遅相軸方向)の屈折率(nx)と、遅相軸方向と直交する方向(進相軸方向)の屈折率(ny)と、ポリエステルフィルムの厚み(d)とにより、以下の式によって表わされるものである。
リタデーション(Re)=(nx−ny)×d
リタデーションは、例えば王子計測機器製KOBRA−WRによって測定(測定角0°、測定波長548.2nm)することもできる。」

(イ)「【実施例】
【0056】
以下、製造例、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。ここで、実施例1〜5の防眩性反射防止フィルムは、透明基材フィルムの一方の面に、防眩性ハードコート層、高屈折率層及び低屈折率層が順に積層された構成のものである。また、本発明における物性は、下記に示す方法により測定した。
【0057】
<屈折率(配向ポリエステルフィルム)>
二枚の偏光板を用いて、配向ポリエステルフィルムの配向軸方向(主軸の方向)を求め、配向軸方向に対して直交する二つの軸の屈折率(nx、ny)を、アッベ屈折率計(アタゴ社製NAR−4T)によって求めた。
【0058】
<配向ポリエステルフィルムの膜厚>
厚みd(nm)は、電気マイクロメータ(アンリツ社製)を用いて任意の10点を測定し、単位をnmに換算して平均値を求めた。
【0059】
<配向ポリエステルフィルムのリタデーション>
リタデーションは、配向ポリエステルフィルムの面内において最も屈折率が大きい方向(遅相軸方向)の屈折率(nx)と、遅相軸方向と直交する方向(進相軸方向)の屈折率(ny)と、配向ポリエステルフィルムの厚み(d)とにより、以下の式によって計算した。
リタデーション(Re)=(nx−ny)×d
【0060】
<ニジムラ評価>
実施例、比較例にて作製した透明導電性フィルムを、液晶モニター(FLATORONIPS226V(LGElectronicsJapan社製))の観察者側の偏光素子上に配置した。なお、配向ポリエステルフィルムの遅相軸と液晶モニターの観察者側の偏光素子の吸収軸とのなす角度が0°となるように配置した。そして、暗所及び明所(液晶モニター周辺照度400ルクス)にて、正面及び斜め方向(約50度)から目視及び偏光サングラス越しに表示画像の観察を行い、ニジムラの有無を以下の基準に従い評価した。偏光サングラス越しの観察は、目視よりも非常に厳しい評価法である。観察は10人で行い、最多数の評価を観察結果としている。
◎:偏光サングラス越しでニジムラが観察されない。
○:偏光サングラス越しでニジムラが観察されるが、薄く、目視ではニジムラが観察されない、実使用上問題ないレベル。
△:偏光サングラス越しでニジムラが観察され、目視ではニジムラがごく薄く観察される。
×:偏光サングラス越しでニジムラが強く観察され、目視でもニジムラが観察される。
・・・中略・・・
【0065】
(5)シンチレーション(面ぎら)
100dpiのカラーフィルター上に防眩性反射防止フィルムを設置し、そのシンチレーション(面ぎら)を評価した。シンチレーション(面ぎら)が大を×、シンチレーション(面ぎら)が中を△、シンチレーション(面ぎら)が小を○と判定した。
【0066】
〔製造例1、防眩性ハードコート層用塗液(HC−1)の調製〕
活性エネルギー線硬化型樹脂としてウレタンアクリレート〔1分子中にアクリロイル基を6個有するウレタンアクリレート(6官能ウレタンアクリレート)、分子量1400、日本合成化学工業(株)製、紫光UV7600B〕100質量部、光重合開始剤として1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン〔チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製、イルガキュア(Irg.)2959〕5質量部、及びメチルイソブチルケトン(MIBK)145質量部を混合してバインダーを調製した。バインダーの硬化物の屈折率は1.50であった。
【0067】
そのバインダーに透光性有機微粒子としてスチレン−アクリル共重合体の微粒子〔積水化成品(株)製、SSX−105TND、平均粒子径は5.0μm、屈折率は1.50〕46質量部、及び表面調整剤としてポリエーテル変性ジメチルポリシロキサン〔ビック・ケミー(株)製、BYK−306〕0.6質量部を混合して防眩性ハードコート層用塗液(HC−1)を調製した。
・・・中略・・・
【0068】
〔製造例2、修飾コロイダルシリカ1の調製〕
フラスコにコロイダルシリカ〔屈折率:1.46、日産化学(株)製、商品名;XBA-ST、キシレン/ブタノール混合溶媒によるコロイダルシリカの30質量部分散液、平均粒子径:10〜15nm〕500質量部、γ−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン〔信越化学工業(株)製、商品名;KBM5103〕94質量部、及び蒸留水35質量部を混合した後、5時間加熱還流(反応温度80℃)を行い、加水分解反応及び縮合反応を行った。このような操作により、修飾コロイダルシリカ1を調製した。
【0069】
〔製造例3、高屈折率層用塗液(H−1)の調製〕
ITO微粒子(平均粒子径:0.06μm)50質量部、ペンタエリスリトールヘキサアクリレート20質量部、テトラメチロールメタントリアクリレート30質量部、ブチルアルコール900質量部、及び光重合開始剤〔チバスペシャルティケミカルズ(株)製、商品名;イルガキュア907〕2質量部を混合して高屈折率用塗液(H−1)を調製した。溶媒乾燥後の屈折率は1.64であった。
【0070】
〔製造例4、低屈折率層形成用塗液(L−1)の調製〕
パーフルオロ−〔1,1,9,9−テトラハイドロ−5,8−ビスフルオロメチル−4,7−ジオキサ−1−ノネン〕−9−オール〔CH2=CFCF2OCF(CF3)CF2OCF(CF3)CH2OH〕を104質量部とビス〔2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7−ドデカフルオロヘプタノイル〕パーオキサイドの8質量%パーフルオロヘキサン溶液11質量部との重合反応によりヒドロキシル基含有含フッ素アリルエーテル重合体(数平均分子量72,000、質量平均分子量118,000)を得た。
【0071】
次に、ヒドロキシル基含有含フッ素アリルエーテル重合体5質量部、メチルエチルケトン(MEK)43質量部、ピリジン1質量部及びα−フルオロアクリル酸フルオライド1質量部より、重合性二重結合を有する含フッ素反応性重合体溶液(固形分13質量%、α−フルオロアクリロイル基の水酸基への導入率40モル%)を調製した。
【0072】
また、中空シリカゾル〔触媒化成工業(株)製、商品名;ELCOMNY−1001SIV、イソプロピルアルコールによる中空シリカゾルの25質量%分散液、平均粒子径:60nm〕2000質量部、γ−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン〔信越化学工業(株)製、商品名;KBM5103〕70質量部及び蒸留水80質量部を混合して変性中空シリカ微粒子(ゾル)(平均粒子径:60nm)を調製した。そして、前記含フッ素反応性重合体溶液50質量部と、変性中空シリカ微粒子50質量部と、光重合開始剤〔チバスペシャルティケミカルズ(株)製、商品名;イルガキュア907〕2質量部と、イソプロピルアルコール2000質量部とを混合して、低屈折率層用塗液(L−1)を得た。溶媒乾燥後の屈折率は1.35であった。
【0073】
〔製造例5、低屈折率層形成用塗液(L−2)の調製〕
修飾コロイダルシリカ1を90質量部及びジペンタエリスリトールヘキサアクリレートを10質量部からなる主成分100重量部に対して、光重合開始剤〔チバスペシャルティケミカルズ(株)製、商品名;イルガキュア907〕5質量部及びポリシロキサン樹脂(商品名:VXL4930、ビアノバレジン社製)2質量部を混合して低屈折率層用塗液(L−2)を調製した。溶媒乾燥後の屈折率は1.49であった。
【0074】
(配向ポリエステルフィルム(PET−N)の作製)
溶融ポリエチレンテレフタレートを、290℃で溶融して、フィルム形成ダイを通して、シート状に押出し、水冷冷却した回転急冷ドラム上に密着させて冷却し、未延伸フィルムを作製した。この未延伸フィルムを二軸延伸試験装置(東洋精機社製)にて、120℃にて1分間予熱した後、120℃にて、延伸倍率4.5倍に延伸した後、その両面にプライマー層用組成物1をロールコーターにて均一に塗布した。次いで、この塗布フィルムを引続き95℃で乾燥し、その延伸方向とは90度の方向に延伸倍率1.5倍にて延伸を行い、リタデーション=10000nm、膜厚=100μm、nx=1.70、ny=1.60、Δn=0.10のポリエステル基材を得た。なお、プライマー層の屈折率は1.59、膜厚は80nmであった。
【0075】
(防眩性反射防止フィルムの作製)
(実施例1)
防眩性ハードコート層用塗液(HC−1)を、前記配向ポリエステルフィルム(PET−N)上にロールコーターにて塗布し、80℃で2分間乾燥した。その後、120W高圧水銀灯〔日本電池(株)製〕により紫外線を照射し(積算光量400mJ/cm2)、硬化させて防眩性ハードコート層を作製した(バインダーの硬化物の屈折率:1.50)。透光性有機微粒子とバインダーの硬化物との屈折率差は0.00であり、防眩性ハードコート層の厚みは8.5μmであった。
【0076】
続いて、その上に、バーコーターにより、高屈折率層用塗液(H−1)を乾燥膜厚が100nm程度になるように層の厚みを調整して塗布した。これを、120W高圧水銀灯〔日本電池(株)製〕により紫外線を照射し(積算光量400mJ/cm2)硬化した。
【0077】
高屈折率層の上に同様にして、低屈折率層用塗液(L−1)を乾燥膜厚が、光の波長550nmで最小反射率を示すように調整して塗布後、硬化して低屈折率層を形成した。
【0078】
(実施例2)
防眩性ハードコート層用塗液(HC−1)の透光性有機微粒子を、スチレン−アクリル共重合体の微粒子〔積水化成品(株)製、XX−27V、平均粒子径は3.0μm、屈折率は1.50〕に代え、含有量を55質量部として防眩性ハードコート層用塗液(HC−2)とした。さらに低屈折率層用塗液(L−1)を低屈折率層用塗液(L−2)に変更した以外は、全て実施例1と同様の条件で防眩性反射防止フィルムを作製した。透光性有機微粒子とバインダーの硬化物との屈折率差は0.00であり、防眩性ハードコート層の厚みは8.4μmであった。
【0079】
(実施例3)
防眩性ハードコート層用塗液(HC−1)中の透光性有機微粒子の含有量を35質量部に代え、防眩性ハードコート層用塗液(HC−3)に変更した以外は、全て実施例1と同様の条件で防眩性反射防止フィルムを作製した。透光性有機微粒子とバインダーの硬化物との屈折率差は0.00であり、防眩性ハードコート層の厚みは8.5μmであった。
【0080】
(実施例4)
防眩性ハードコート層用塗液(HC−1)中の透光性有機微粒子を、架橋アクリル樹脂の微粒子〔綜研化学(株)製、MX−500、平均粒子径5.0μm、屈折率1.49〕に変更して防眩性ハードコート層用塗液(HC−4)を調製した以外は、全て実施例1と同様の条件で防眩性反射防止フィルムを作製した。透光性有機微粒子とバインダーの硬化物との屈折率差は0.01であり、防眩性ハードコート層の厚みは8.7μmであった。
【0081】
(実施例5)
防眩性ハードコート層用塗液(HC−1)中の透光性有機微粒子を、スチレン−アクリル共重合体の微粒子〔積水化成品(株)製、XX−13V、平均粒子径は5.0μm、屈折率は1.54〕に変更し、さらに活性エネルギー線硬化型樹脂を2官能モノマー〔日本合成化学工業(株)製、KAYARADR−712〕に変更して防眩性ハードコート層形成用塗液(HC−5)を調製した以外は、全て実施例1と同様の条件で防眩性反射防止フィルムを作製した。バインダー硬化物の屈折率は、1.54であった。透光性有機微粒子とバインダーの硬化物との屈折率差は0.00であり、防眩性ハードコート層の厚みは8.7μmであった。
・・・中略・・・
【0086】
以上のようにして得られた防眩性反射防止フィルムについて、最小反射率、最小反射率波長、算術平均粗さ、ヘイズ値及びシンチレーションを前述の方法により測定し、それらの結果を表1,2に示した。なお、表1,2における屈折率差は、下記に示す式で算出した。
屈折率差=|(バインダーの硬化物の屈折率)−(透光性有機微粒子の屈折率)|
【0087】
【表1】

【表2】

【0088】
表1に示したように、実施例1〜5においては、透明基材フィルムとして配向ポリエステルフィルムを使用しているためニジムラが観察されず、かつ、算術平均粗さが十分に調整されており、さらにはヘイズ値が小さいことから、シンチレーション(面ぎら)が抑制されると共に、画像鮮明性に優れていた。さらに、防眩性ハードコート層上には屈折率1.6〜2.4である高屈折率層、及び屈折率1.3〜1.5である低屈折率層の順に減反射層が積層されていることから、優れた反射防止性能を発揮することができた。また、実施例1〜3及び5においては、透光性有機微粒子にスチレン−アクリル共重合体を用いたことから、算術平均粗さがさらに均一かつ十分に形成されており、シンチレーション(面ぎら)がより良好であった。
【0089】
その一方、比較例1においてはニジムラが観察されないものの、透光性有機微粒子とバインダーの硬化物との屈折率差が0.02以上であることから、ヘイズ値が大きく、視認性が悪い結果であった。比較例2においてはニジムラが観察されないものの、透光性有機微粒子の含有量が活性エネルギー線硬化樹脂100質量部に対して35質量部未満であることから、算術平均粗さRaが小さくなり過ぎる結果、光拡散性及び防眩性が不足する結果となった。比較例3においてはニジムラが観察されないものの、透光性有機微粒子の含有量が活性エネルギー線硬化樹脂100質量部に対して55質量部を超えていることから、算術平均粗さRaが必要以上に大きい結果、シンチレーション(面ぎら)が強く、さらに視認性が悪い結果であった。また、表2に示したように、比較例4〜11ではリタデーションの低いPETを使用しているためいずれの場合もニジムラが観察された。」

イ 甲2発明
上記(2)アの摘記事項、特に甲2の【0056】〜【0081】、【0087】、【0088】及び表1等から理解される、実施例1の「防眩性反射防止フィルム」として、甲2には、次の「防眩性反射防止フィルム」の発明(以下「甲2発明1」)が記載されていると認められる。

「防眩性ハードコート層用塗液(HC−1)を、配向ポリエステルフィルム(PET−N)上に塗布し乾燥した後、紫外線を照射して硬化させて防眩性ハードコート層を作製し、その上に高屈折率層用塗液(H−1)を塗布し、紫外線を照射して硬化させて高屈折率層を作製し、高屈折率層の上に同様にして、低屈折率層用塗液(L−1)を塗布後、硬化して低屈折率層を形成した防眩性反射防止フィルムにおいて、
配向ポリエステルフィルム(PET−N)は、溶融ポリエチレンテレフタレートを、290℃で溶融して、フィルム形成ダイを通して、シート状に押出し、水冷冷却した回転急冷ドラム上に密着させて冷却し、未延伸フィルムを作製し、この未延伸フィルムを二軸延伸試験装置(東洋精機社製)にて、120℃にて1分間予熱した後、120℃にて、延伸倍率4.5倍に延伸した後、その両面にプライマー層用組成物1をロールコーターにて均一に塗布し、次いで、この塗布フィルムを引続き95℃で乾燥し、その延伸方向とは90度の方向に延伸倍率1.5倍にて延伸を行って得られた、リタデーション=10000nm、膜厚=100μm、nx=1.70、ny=1.60、Δn=0.10のポリエステル基材であり、
防眩性ハードコート層用塗液(HC−1)は、活性エネルギー線硬化型樹脂としてウレタンアクリレート〔1分子中にアクリロイル基を6個有するウレタンアクリレート(6官能ウレタンアクリレート)、分子量1400、日本合成化学工業(株)製、紫光UV7600B〕100質量部、光重合開始剤として1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン〔チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製、イルガキュア(Irg.)2959〕5質量部、及びメチルイソブチルケトン(MIBK)145質量部を混合してバインダーを調製し、そのバインダーに透光性有機微粒子としてスチレン−アクリル共重合体の微粒子〔積水化成品(株)製、SSX−105TND、平均粒子径は5.0μm、屈折率は1.50〕46質量部、及び表面調整剤としてポリエーテル変性ジメチルポリシロキサン〔ビック・ケミー(株)製、BYK−306〕0.6質量部を混合して防眩性ハードコート層用塗液(HC−1)を調製したものであり、
高屈折率層用塗液(H−1)は、ITO微粒子(平均粒子径:0.06μm)50質量部、ペンタエリスリトールヘキサアクリレート20質量部、テトラメチロールメタントリアクリレート30質量部、ブチルアルコール900質量部、及び光重合開始剤〔チバスペシャルティケミカルズ(株)製、商品名;イルガキュア907〕2質量部を混合して高屈折率用塗液(H−1)を調製したものであり、
低屈折率層用塗液(L−1)は、パーフルオロ−〔1,1,9,9−テトラハイドロ−5,8−ビスフルオロメチル−4,7−ジオキサ−1−ノネン〕−9−オール〔CH2=CFCF2OCF(CF3)CF2OCF(CF3)CH2OH〕を104質量部とビス〔2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7−ドデカフルオロヘプタノイル〕パーオキサイドの8質量%パーフルオロヘキサン溶液11質量部との重合反応によりヒドロキシル基含有含フッ素アリルエーテル重合体(数平均分子量72,000、質量平均分子量118,000)を調製し、次に、ヒドロキシル基含有含フッ素アリルエーテル重合体5質量部、メチルエチルケトン(MEK)43質量部、ピリジン1質量部及びα−フルオロアクリル酸フルオライド1質量部より、重合性二重結合を有する含フッ素反応性重合体溶液(固形分13質量%、α−フルオロアクリロイル基の水酸基への導入率40モル%)を調製し、また、中空シリカゾル〔触媒化成工業(株)製、商品名;ELCOMNY−1001SIV、イソプロピルアルコールによる中空シリカゾルの25質量%分散液、平均粒子径:60nm〕2000質量部、γ−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン〔信越化学工業(株)製、商品名;KBM5103〕70質量部及び蒸留水80質量部を混合して変性中空シリカ微粒子(ゾル)(平均粒子径:60nm)を調製し、そして、前記含フッ素反応性重合体溶液50質量部と、変性中空シリカ微粒子50質量部と、光重合開始剤〔チバスペシャルティケミカルズ(株)製、商品名;イルガキュア907〕2質量部と、イソプロピルアルコール2000質量部とを混合して、低屈折率層用塗液(L−1)を調製したものである、防眩性反射防止フィルム。」

また、同様に、甲2には、【0056】〜【0081】、【0087】、【0088】及び表1等から理解される、実施例2〜5に係る「防眩製版社防止フィルム」の発明(以下「甲2発明2」〜「甲2発明5」)が記載されている。

2 甲1を主引用例とする新規性及び進歩性について
(1)対比及び判断
ア 本件特許発明1について
(ア)対比
本件特許発明1と甲1発明を対比すると、以下のとおりである。
a プラスチックフィルム
甲1発明の「延伸ポリエステルフィルムD」は、本件特許発明1の「プラスチックフィルム」に相当する。
また、甲1発明の「延伸ポリエステルフィルムD」は延伸しており、面内位相差が0ではないことから、本件特許発明1の「面内で屈折率が最も大きい軸である遅相軸と、前記プラスチックフィルムの面内で前記遅相軸と直交する軸である進相軸とを有し、」との要件を満たすことは明らかである。
また、面内位相差は、面内で屈折率が最も大きい軸である遅相軸の屈折率(nx)と遅相軸と直交する軸である進相軸の屈折率(ny)の差(nx−ny)に厚み(d)をかけた値((nx−ny)×d)であるところ、甲1発明の「延伸ポリエステルフィルムD」の面内位相差(Re)が「1100」であり、厚みが「48μm」(=48000nm)であるから、甲1発明の「延伸ポリエステルフィルムD」の遅相軸の屈折率(nx)と進相軸の屈折率(ny)の差(nx−ny)の値は、1100÷48000=「0.023」である。したがって、甲1発明の「延伸ポリエステルフィルムD」は本件特許発明1の「(但し、「プラスチックフィルムの面内で屈折率が最も大きい軸である遅相軸の屈折率(nx)と、プラスチックフィルムの面内で遅相軸と直交する軸である進相軸の屈折率(ny)との差(nx−ny)が0.07〜0.20である配向ポリエステルフィルム」を除く。)」(第1除外事項)との要件を満たす。

b 低屈折率層
甲1発明の「低屈折率層」は、本件特許発明1の「低屈折率層」に相当する。また、甲1発明の「低屈折率層」は延伸ポリエステルフィルムDより上の最表面に配置されていることから、甲1発明の「低屈折率層」は、本件特許発明1の「プラスチックフィルム上に低屈折率層を有する」との要件、及び、「光学フィルムの表面に位置し、」との要件を満たす。

c 光学フィルム
甲1発明の「光学フィルム」は、本件訂正発明1の「光学フィルム」に相当するが、甲1発明の「光学フィルム」は、「紫外線吸収剤A」を含有する「延伸ポリエステルフィルムD」上に、「紫外線吸収剤B」を含有する「紫外線吸収層」、「ハードコート層」、「低屈折率層」をこの順に有する構成であって、第2除外事項に該当するから、甲1発明の「光学フィルム」は、本件特許発明1の「(但し、「紫外線吸収剤を含むプラスチックフィルム上に、紫外線吸収剤を含む紫外線吸収層、ハードコート層及び低屈折率層をこの順に有する光学フィルム」を除く。」との要件を満たさない(すなわち、この点は、相違点となる。)。

(イ)一致点及び相違点
a 一致点
本件特許発明1と甲1発明は、次の点で一致する。
「プラスチックフィルム(但し、「プラスチックフィルムの面内で屈折率が最も大きい軸である遅相軸の屈折率(nx)と、プラスチックフィルムの面内で遅相軸と直交する軸である進相軸の屈折率(ny)との差(nx−ny)が0.07〜0.20である配向ポリエステルフィルム」を除く。)上に低屈折率層を有する光学フィルムであって、
前記プラスチックフィルムは、面内で屈折率が最も大きい軸である遅相軸と、前記プラスチックフィルムの面内で前記遅相軸と直交する軸である進相軸とを有し、
前記低屈折率層は前記光学フィルムの表面に位置する、光学フィルム。」

b 相違点
本件特許発明1と甲1発明を対比すると、次の点で相違する。

(相違点1−1)
本件特許発明1の「光学フィルム」は、「測定条件1から算出したΣTが0.04超0.20未満を満たす領域を有する」のに対して、
甲1発明は、「測定条件1から算出したΣTが0.04超0.20未満を満たす領域を有する」か、明らかでない点。

(相違点1−2)
本件特許発明1の「光学フィルム」は、「「紫外線吸収剤を含むプラスチックフィルム上に、紫外線吸収剤を含む紫外線吸収層、ハードコート層及び低屈折率層をこの順に有する光学フィルム」を除く」ものであるのに対して、
甲1発明は、本件特許発明1から「除く」とされる、「紫外線吸収剤A」を含有する「延伸ポリエステルフィルムD」上に、「紫外線吸収剤B」を含有する「紫外線吸収層」、「ハードコート層」、「低屈折率層」をこの順に有する構成である点。

(ウ)判断
新規性について
本件特許発明1と甲1発明とは、上記(イ)に示したとり、相違点を有する。
したがって、本件特許発明1は、甲1発明ではない。

進歩性について
事案に鑑み、相違点1−2について、検討する。
(a)甲1に記載される発明は、「光学フィルムの基材であるプラスチックフィルムは紫外線による経時劣化を抑制するために、紫外線吸収剤を」含ませる(【0003】)ことで、「耐候性を良好にする」(【0005】)が、「高解像度の画像表示装置が紫外線吸収剤を練り込んだプラスチックフィルムを含む場合、紫外線による経時劣化が生じない場合であっても、電源OFF時や黒表示時に、画面の端部領域が青白く感じられる場合があった」(【0006】)との課題を解決するため、「プラスチックフィルムを構成する樹脂成分及びプラスチックフィルム中に含まれる紫外線吸収剤の少なくとも何れかが紫外線の波長領域の光を吸収し、可視光の短波長領域の光を蛍光発光することが、上記課題の原因であることを見出し」(【0007】)、「紫外線吸収剤を練り込んだプラスチックフィルム上に、あえて、紫外線吸収剤を含む紫外線吸収層を形成することにより、上記課題を解決」(【0007】)した発明である。そして、甲1記載の「実施例3」である「紫外線吸収剤A」を含有する「延伸ポリエステルフィルムD」上に、「紫外線吸収剤B」を含有する「紫外線吸収層」、「ハードコート層」、「低屈折率層」をこの順に有する構成とした甲1発明は、上記課題を解決できる発明であり、「紫外線透過率」が比較例と比べて低い値であると共に、「青白さ(大画面の端部、曲面)」及び「虹ムラ」が「A」と評価される(【0177】及び表1)ものである。
そうすると、甲1発明は、「紫外線吸収剤A」を含有する「延伸ポリエステルフィルムD」上に、「紫外線吸収剤B」を含有する「紫外線吸収層」を有する構成は必須の構成であることに加え、甲1の実施例には、プラスチックフィルム上に低屈折率層を有する光学フィルムを有する構成が実施例3以外には記載されておらず、また甲1発明の構成を変更すべき動機付けはない。
したがって、甲1発明において、相違点1−1に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるということはできない。

(b)また、仮に甲1発明を、相違点1−2に係る「紫外線吸収剤を含むプラスチックフィルム上に、紫外線吸収剤を含む紫外線吸収層、ハードコート層及び低屈折率層をこの順に有する光学フィルム」以外の構成とする動機付けがあったとしても、相違点1−1に係る「測定条件1から算出したΣTが0.04超0.20未満を満たす領域を有する」ような具体的な層構成を示唆する記載までは甲1には存在しない。

c 特許異議申立人の主張について
令和6年1月11日提出の意見書(11〜13頁)において、特許異議申立人は甲1発明に甲2号証の実施例1の構成(ポリエステルフィルム/ハードコート層/高屈折率層/低屈折率層)を適用して、甲1発明から紫外線吸収層を除外した構成とすることは容易である旨主張している。
しかしながら、上記(ウ)b(a)で検討したように、甲1発明において「紫外線吸収剤A」を含有する「延伸ポリエステルフィルムD」上に、「紫外線吸収剤B」を含有する「紫外線吸収層」を有する構成は必須の構成であることから、上記主張を採用することはできない。

d 以上のとおりであるから、甲1に記載された発明及び甲2〜4に記載された事項に基づいて、上記相違点1−2に係る本件特許発明1の特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たものではない。
したがって、他の相違点を検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1に記載された発明及び甲2〜4に記載された事項に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(エ)小括
本件特許発明1は、甲1に記載された発明ではない。
また、本件特許発明1は、甲1に記載された発明及び甲2〜4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件特許発明2〜6,9〜11について
本件特許発明2〜6,9〜11は、本件特許発明1の発明特定事項を全て具備するものであるから、本件特許発明2〜6,9〜11も、上記ア(ウ)の本件特許発明1と同じ理由により、甲1に記載された発明ではない。
また、本件特許発明2〜6,9〜11は、甲1に記載された発明及び甲2〜4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件特許発明7について
(ア)一致点及び相違点
本件特許発明7と甲1発明を対比すると、両者の一致点、相違点はそれぞれ次のとおりである。
<一致点>
「プラスチックフィルム上に低屈折率層を有する光学フィルムであって、
前記プラスチックフィルムは、面内で屈折率が最も大きい軸である遅相軸と、前記プラスチックフィルムの面内で前記遅相軸と直交する軸である進相軸とを有し、
前記プラスチックフィルムの面内位相差が2500nm以下であり、
前記低屈折率層は前記光学フィルムの表面に位置する、光学フィルム。」

<相違点>
上記ア(イ)bにおける相違点1−1及び1−2と同じ相違点である。

(イ)判断
新規性について
本件特許発明7と甲1発明とは、少なくとも相違点1−2の点で相違する。
したがって、本件特許発明7は、甲1発明ではない。

進歩性について
上記相違点1−2について検討すると、上記ア(ウ)と同様に判断される。
したがって、他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明7は甲1に記載された発明及び甲2〜4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(ウ)小括
本件特許発明7は、本件特許発明1と同じ理由により、甲1に記載された発明ではない。
また、本件特許発明7は、甲1に記載された発明及び甲2〜4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1〜7,9〜11は、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明及び甲2〜4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

3 甲2を主引用例とする新規性及び進歩性について
(1)対比及び判断
ア 本件特許発明1について
(ア)対比
本件特許発明1と甲2発明1を対比すると、以下のとおりである。
a プラスチックフィルム
甲2発明1の「配向ポリエステルフィルム(PET−N)」は、本件特許発明1の「プラスチックフィルム」に相当し、甲2発明1の「配向ポリエステルフィルム(PET−N)」は、リタデーション(面内位相差)が0ではないことから、本件特許発明1の「面内で屈折率が最も大きい軸である遅相軸と、前記プラスチックフィルムの面内で前記遅相軸と直交する軸である進相軸とを有し、」との要件を満たすことは明らかである。
しかしながら、甲2発明1の「配向ポリエステルフィルム(PET−N)」において、面内で屈折率が最も大きい軸である遅相軸の屈折率(nx)と遅相軸と直交する軸である進相軸の屈折率(ny)の差(nx−ny)である「Δn」は「0.1」であって、第1除外事項に該当するから、甲2発明1の「配向ポリエステルフィルム(PET−N)」は本件特許発明1の「(但し、「プラスチックフィルムの面内で屈折率が最も大きい軸である遅相軸の屈折率(nx)と、プラスチックフィルムの面内で遅相軸と直交する軸である進相軸の屈折率(ny)との差(nx−ny)が0.07〜0.20である配向ポリエステルフィルム」を除く。)」との要件を満たさない。(すなわち、この点は相違点となる。)

b 低屈折率層
甲2発明1の「低屈折率層」は、本件特許発明1の「低屈折率層」に相当する。また、甲2発明1の「低屈折率層」は配向ポリエステルフィルムより上の最表面に配置されていることから、甲2発明1は、本件特許発明1の「プラスチックフィルム上に低屈折率層を有する」及び「低屈折率層は前記光学フィルムの表面に位置し、」との構成を具備する。

c 光学フィルム
甲2発明1の「防眩性反射防止フィルム」は、ディスプレイの表面に用いられるフィルム(甲2の【0001】)であることから、本件訂正発明1の「光学フィルム」に相当する。また、甲2発明1の「防眩性反射防止フィルム」は、「紫外線吸収剤」を含有しない「配向ポリエステルフィルム(PET−N)」上に、「防眩性ハードコート層」、「高屈折率層」、「低屈折率層」をこの順に有する構成であって、第2除外事項に該当しないことは明らかであるから、甲2発明1の「防眩性反射防止フィルム」は、本件特許発明1の「(但し、「紫外線吸収剤を含むプラスチックフィルム上に、紫外線吸収剤を含む紫外線吸収層、ハードコート層及び低屈折率層をこの順に有する光学フィルム」を除く。」との要件を満たす。

(イ)一致点及び相違点
a 一致点
本件特許発明1と甲2発明1は、次の点で一致する。
「プラスチックフィルム上に低屈折率層を有する光学フィルムであって、
前記プラスチックフィルムは、面内で屈折率が最も大きい軸である遅相軸と、前記プラスチックフィルムの面内で前記遅相軸と直交する軸である進相軸とを有し、
前記低屈折率層は前記光学フィルムの表面に位置する、光学フィルム(但し、「紫外線吸収剤を含むプラスチックフィルム上に、紫外線吸収剤を含む紫外線吸収層、ハードコート層及び低屈折率層をこの順に有する光学フィルム」を除く。)。」

b 相違点
本件特許発明1と甲2発明1を対比すると、次の点で相違する。

(相違点2−1)
本件特許発明1の「光学フィルム」は、「測定条件1から算出したΣTが0.04超0.20未満を満たす領域を有する」のに対して、
甲2発明1は、「測定条件1から算出したΣTが0.04超0.20未満を満たす領域を有する」か、明らかでない点。

(相違点2−2)
本件特許発明1の「プラスチックフィルム」は、第1除外事項が除かれたものであるのに対して、
甲2発明1の「配向ポリエステルフィルム(PET−N)」は、本件特許発明1から「除く」とされる、面内で屈折率が最も大きい軸である遅相軸の屈折率(nx)と遅相軸と直交する軸である進相軸の屈折率(ny)の差(nx−ny)である「Δn」が「0.10」である点。

(ウ)判断
新規性について
本件特許発明1と甲2発明1とは、上記のとおり、少なくとも相違点2−2の点で相違する。
したがって、本件特許発明1は、甲2発明1ではない。
また、甲2発明2〜甲2発明5も同様である。

進歩性について
事案に鑑み、相違点2−2について、検討する。
(a)甲2に記載された発明は、「画像鮮明性に優れ、シンチレーションを低下させ、且つ偏光素子上に配置して表示画面を斜めから観察してもニジムラが生じない、防眩性反射防止フィルムを提供する」(【0010】)との複数の課題を同時に解決するため、「第1の発明の防眩性反射防止フィルムは、・・・中略・・・透明基材フィルムとして、該フィルムの面内において最も屈折率が大きい方向(遅相軸方向)の屈折率(nx)と、遅相軸方向と直交する方向(進相軸方向)の屈折率(ny)との差(nx−y)が0.07〜0.20の、配向ポリエステルフィルムを使用していることを特徴とする」(【0011】)発明であり、「(nx)、(ny)、及び(△n)が上記の関係を満たすことで、好適なニジムラの抑制効果を得ることができる」(【0017】)とされている。そして甲2記載の「実施例1」である「配向ポリエステルフィルム(PET−N)」は「Δn=0.10」のポリエステル基材を用いる甲2発明1は、上記課題を解決できる発明であり、「ニジムラ」が「◎」と評価される(【0087】及び表1)ものであり、請求項1にも「Δn」(=nx−ny)が「0.07〜0.20」の「配向ポリエステルフィルム(PET−N)」を透明基材フィルムとして用いることが記載されている。
そうすると、甲2発明1は、防眩性反射防止フィルムにおいて、「Δn」(=nx−ny)が「0.07〜0.20」の「配向ポリエステルフィルム(PET−N)」をポリエステル基材として用いることが必須の構成であることに加え、甲2の実施例には、上記「配向ポリエステルフィルム(PET−N)」をポリエステル基材とした実施例及び比較例のみが記載されているため、甲2発明1の「配向ポリエステルフィルム(PET−N)」の「Δn」を「0.07〜0.20」以外に変更すべき動機付けはない。
したがって、甲2発明1において、相違点2−2に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるということはできない。

(b)また、仮に甲2発明1の「配向ポリエステルフィルム」を、相違点2−2に係る「(nx−ny)が0.07〜0.20である配向ポリエステルフィルム」以外の構成とする動機付けがあったとしても、相違点2−1に係る「測定条件1から算出したΣTが0.04超0.20未満を満たす領域を有する」ような具体的構成を示唆する記載までは甲2には存在しない。

c 特許異議申立人の主張について
令和6年1月11日提出の意見書(13頁)において、特許異議申立人は甲2発明1の「(nx−ny)が0.07〜0.20である配向ポリエステルフィルム」に代えて、新たに提示された甲7号証(特開2017−207699号公報)の二軸延伸ポリエステルフィルムを適用することは容易である旨主張している。
しかしながら、上記(ウ)b(a)で検討したように、甲2発明1の防眩性反射防止フィルムにおいて、「Δn」(=nx−ny)が「0.07〜0.20」の「配向ポリエステルフィルム(PET−N)」をポリエステル基材として用いることが必須の構成であることから、上記主張を採用することはできない。

d 以上のとおりであるから、甲2に記載された発明及び甲1,3〜4に記載された事項に基づいて、上記相違点2−2に係る本件特許発明1の特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たものではない。
したがって、他の相違点を検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲2に記載された発明及び甲1,3〜4に記載された事項に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、甲2発明2〜甲2発明5を主たる引用発明としても結論は同様である。

(エ)小括
本件特許発明1は、甲2に記載された発明ではない。
また、本件特許発明1は、甲2に記載された発明及び甲1,3〜4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件特許発明2〜6,9〜11について
本件特許発明2〜6,9〜11は、本件特許発明1の発明特定事項を全て具備するものであるから、本件特許発明2〜6,9〜11も、上記ア(ウ)の本件特許発明1と同じ理由により、甲2に記載された発明ではない。
また、本件特許発明2〜6,9〜11は、甲2に記載された発明及び甲1,3〜4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、甲2発明2〜甲2発明5も同様である。

(2)小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1〜6,9〜11は、甲2に記載された発明ではなく、また、甲2に記載された発明及び甲1,3〜4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

第6 取消理由通知において採用しなかった異議申立理由についての合議体の判断
1 甲1を主引用例とする新規性及び進歩性について
ア 本件特許発明8について
(ア)一致点及び相違点
本件特許発明8と甲1発明を対比すると、両者の一致点、相違点はそれぞれ次のとおりである。
<一致点>
「プラスチックフィルム上に低屈折率層を有する光学フィルムであって、
前記プラスチックフィルムは、面内で屈折率が最も大きい軸である遅相軸と、前記プラスチックフィルムの面内で前記遅相軸と直交する軸である進相軸とを有し、
前記低屈折率層は前記光学フィルムの表面に位置する、光学フィルム。」

<相違点>
上記第5のア(イ)bにおける相違点1−1に加え、以下の点で相違する。

(相違点1−3)
本件特許発明8の「光学フィルム」は、「プラスチックフィルム」が「条件Aを満たす」のに対して、
甲1発明の「延伸ポリエステルフィルムD」は、「条件A」の要件を満たすか明らかでない点。

(イ)判断
新規性について
本件特許発明8と甲1発明とは、少なくとも相違点1−3の点で相違する。
したがって、本件特許発明8は、甲1発明ではない。

進歩性について
事案に鑑み、上記相違点1−3について検討すると、甲1には本件特許発明8に記載された条件Aの要件を満たすことが記載されておらず、また、条件Aの要件を満たす蓋然性が高いということもできない。
また、本件特許発明8に係る条件Aについて、本件特許明細書には、「汎用の延伸プラスチックフィルムは、遅相軸の方向がずれないように設計している。しかし、上記のように、あえてプラスチックフィルムの遅相軸の方向をずらすことにより、虹ムラを抑制しやすくできる」(【0065】)こと、「さらに、条件Aを満たすプラスチックフィルムは、プラスチックフィルムの耐折り曲げ性を良好にすることができる点で好ましい」(【0068】)こと、また、「延伸時の加熱の際、乱流を生じるヒーターを用いることが好ましい。乱流を含む風で加熱することにより、フィルム面内の微細な領域で温度差が生じ、前記温度差によって配向軸に微細なズレが生じ、条件Aを満たしやすくできる。プラスチックフィルムが条件Aを満たすことにより、光学フィルムのΣTを前記範囲にしやすくできる」(【0115】)ことが記載されており、実施例において、「前記延伸区間は、始点が延伸ロールA、終点が延伸ロールBであり、延伸ロールA及びBは、それぞれ2本のニップロールを有している。ラジエーションヒーターでの加熱時に、ラジエーションヒーターのフィルムの反対側から、92℃、4m/sの風をフィルムに向けて送風することで、フィルムの表裏に乱流を生じさせることにより、フィルムの温度均一性が乱れるようにした」(【0208】)ことが記載されているところ、甲1〜4には、上記目的のために「プラスチックフィルム」が「条件A」を満たすようにすることや、上記条件Aを満たしやすくできるような製法について記載も示唆もされていない。
そうすると、本件特許発明8は甲1に記載された発明及び甲2〜4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(ウ)小括
本件特許発明8は、甲1に記載された発明ではない。
また、本件特許発明8は、甲1に記載された発明及び甲2〜4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件特許発明12について
(ア)甲1〜4には、測定条件1から算出したΣTが0.04超0.20未満を満たす領域を有するか否かという基準で画像表示装置の光学フィルムを選定する方法に関する発明は、そもそも記載も示唆もされていない。

(イ)小括
本件特許発明12は、甲1に記載された発明ではない。
また、本件特許発明12は、甲1に記載された発明及び甲2〜4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 甲2を主引用例とする新規性及び進歩性について
ア 本件特許発明8について
(ア)一致点及び相違点
本件特許発明8と甲2発明1を対比すると、両者の一致点、相違点はそれぞれ次のとおりである。
<一致点>
「プラスチックフィルム上に低屈折率層を有する光学フィルムであって、
前記プラスチックフィルムは、面内で屈折率が最も大きい軸である遅相軸と、前記プラスチックフィルムの面内で前記遅相軸と直交する軸である進相軸とを有し、
前記低屈折率層は前記光学フィルムの表面に位置する、光学フィルム。」

<相違点>
上記第5の3(1)ア(イ)bにおける相違点2−1に加え、以下の相違点を有する。

(相違点2−4)
本件特許発明8の「光学フィルム」は、「プラスチックフィルム」が「条件Aを満たす」のに対して、
甲2発明1の「防眩性反射防止フィルム」は、「条件A」の要件を満たすか明らかでない点。

(イ)判断
新規性について
本件特許発明8と甲2発明1とは、少なくとも相違点2−4を有しており、これは実質的な相違点である。
したがって、本件特許発明8は、甲2発明1ではない。
また、甲2発明2〜甲2発明5も同様である。

進歩性について
事案に鑑み、上記相違点2−4について検討すると、上記1ア(イ)bに示したのと同様の理由によって、本件特許発明8は甲2に記載された発明及び甲1,3〜4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

c 特許異議申立人の主張について
令和6年1月11日提出の意見書(13頁)において、特許異議申立人は新たに提示した甲10(特開2015−45874号公報)の【0014】の記載に倣って甲2発明1のフィルムの遅相軸にばらつきを付与することで本件特許発明8に係る「条件A」の要件を満たすようにすることは容易である旨主張している。
しかしながら、甲10には条件Aについて記載されていないため、上記主張を採用することはできない。

d 以上のとおりであるから、甲2に記載された発明及び甲1,3〜4に記載された事項に基づいて、上記相違点2−4に係る本件特許発明8の特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たものではない。
したがって、他の相違点を検討するまでもなく、本件特許発明8は、甲2に記載された発明及び甲1,3〜4に記載された事項に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、甲2発明2〜甲2発明5も同様である。

(ウ)小括
本件特許発明8は、甲2に記載された発明ではない。
また、本件特許発明8は、甲2に記載された発明及び甲1,3〜4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件特許発明12について
(ア)上記1イ(ア)と同様である。

(イ)小括
本件特許発明12は、甲2に記載された発明ではない。
また、本件特許発明12は、甲2に記載された発明及び甲1,3〜4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第7 特許異議申立人の意見書におけるその他の主張について
実施可能要件について
特許異議申立人は、令和6年1月11日提出の意見書の2頁において、「(1)訂正後の請求項1〜7、および9〜11に係る発明の実施可能要件および明確性について」と題して、「光学フィルム。」を、「光学フィルム(但し、「紫外線吸収剤を含むプラスチックフィルム上に、紫外線吸収剤を含む紫外線吸収層、ハードコート層及び低屈折率層をこの順に有する光学フィルム」を除く。)」と限定する訂正によって除外される構成は、紫外線吸収層と低屈折率層との間にハードコート層を含んでいるが、本件特許明細書にはハードコート層の存在を確認できず、実施可能ではない旨主張しているが、本件特許明細書の例えば【0021】には、「本開示の光学フィルム100は、プラスチックフィルム10及び低屈折率層30以外の層を有していてもよい。プラスチックフィルム10及び低屈折率層30以外の層としては、ハードコート層、防眩層及び高屈折率層等が挙げられる。」と記載されているから、上記主張を採用できない。

明確性要件、新規性進歩性について
特許異議申立人は、同2〜10頁において、「(1)訂正後の請求項1〜7、および9〜11に係る発明の実施可能要件および明確性について」と題して「低屈折率層」が明確ではない旨、また、「(2)訂正後の請求項1〜12に係る発明の新規性および進歩性について」と題して、当該意見書で提示した新たな証拠方法(甲5号証〜甲10号証)に基づき新規性及び進歩性がない旨を主張する。 しかし、これらの主張は、訂正により追加された事項についての見解など訂正の請求の内容に付随して生じる理由に係るものではなく、適切な取消理由を構成することが一見して明らかな場合に該当するものともいえず(審判便覧67−05.4の1(2)を参照)、かつ、実質的に新たな理由を主張するものといえるため、採用しない。仮にそうでないとしても、新たに提示された甲5〜10は、本件特許の主要な特定事項である「ΣT」の充足性について記載されていないため、取消理由を構成するものではない。

第8 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知書において通知した取消しの理由及び特許異議申立書に記載された申立ての理由によっては、請求項1〜12に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1〜12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックフィルム(但し、「プラスチックフィルムの面内で屈折率が最も大きい軸である遅相軸の屈折率(nx)と、プラスチックフィルムの面内で遅相軸と直交する軸である進相軸の屈折率(ny)との差(nx−ny)が0.07〜0.20である配向ポリエステルフィルム」を除く。)上に低屈折率層を有する光学フィルムであって、
前記プラスチックフィルムは、面内で屈折率が最も大きい軸である遅相軸と、前記プラスチックフィルムの面内で前記遅相軸と直交する軸である進相軸とを有し、
前記低屈折率層は前記光学フィルムの表面に位置し、
前記光学フィルムは、下記測定条件1から算出したΣTが0.04超0.20未満を満たす領域を有する、光学フィルム(但し、「紫外線吸収剤を含むプラスチックフィルム上に、紫外線吸収剤を含む紫外線吸収層、ハードコート層及び低屈折率層をこの順に有する光学フィルム」を除く。)。
〈測定条件1〉
前記光学フィルムの前記低屈折率層とは反対側の面から直線偏光を入射する。前記入射光である直線偏光を光L1と定義する。前記光L1が前記光学フィルムを透過した透過光を光L2と定義する。
前記光L1は、前記遅相軸と前記光L1の振動方向との成す角を45度に固定した上で、前記光学フィルムの平面を基準とした前記光L1の振動方向の仰角が50度以上70度以下となる角度で前記光学フィルムに対して入射させる。前記仰角を50度以上70度以下の範囲で2度刻みで変動させ、11通りの仰角において前記光L2を測定する。前述した測定により、11の測定点において前記光L2が測定される。
前記光L2を、C光源及び視野角2度の条件に換算する。11の測定点のうちのn番目の測定点の光L2に関して、L*a*b*表色系のa*値及びb*値を、a*n及びb*nと定義する。また、11の測定点のうちのn+1番目の光L2に関して、L*a*b*表色系のa*値及びb*値を、a*n1及びb*n1と定義する。
前記11の測定点の測定に基づいて、隣接する測定点のa*の差の2乗と、隣接する測定点のb*の差の2乗との和を算出する。前記和を10の隣接点でそれぞれ算出し、前記和の総和を示すΣTを算出する。前記ΣTは下記式1で表すことができる。
ΣT=Σ[{a*n−a*n1}2+{b*n−b*n1}2] (式1)
【請求項2】
前記11の測定点の測定に基づいて、a*の最大値をa*max、a*の最小値をa*min、b*の最大値をb*max、b*の最小値をb*minと定義した際に、下記式2−1及び式2−2を満たす、請求項1に記載の光学フィルム。
a*max−a*min≦0.250 (式2−1)
b*max−b*min≦0.350 (式2−2)
【請求項3】
前記11の測定点の測定に基づいて、隣接する測定点のa*の差の2乗と、隣接する測定点のb*の差の2乗との和を算出する。前記和をSと定義した際に、Sは下記式3で表すことができる。Sを10の隣接点でそれぞれ算出し、10点のSの最大値をSMAXと定義した際に、SMAXが0.010以上0.050以下である、請求項1又は2に記載の光学フィルム。
S={a*n−a*n1}2+{b*n−b*n1}2 (式3)
【請求項4】
前記光学フィルムの視感反射率Y値をR(%)と定義した際に、前記Rと前記ΣTとの積が0.05以上0.25以下である、請求項1〜3の何れかに記載の光学フィルム。
【請求項5】
前記低屈折率層の平均屈折率をn1、前記低屈折率層に隣接する層の平均屈折率をn2と定義した際に、n2/n1が1.23未満である、請求項1〜4の何れかに記載の光学フィルム。
【請求項6】
前記低屈折率層の平均屈折率をn1、前記低屈折率層に隣接する層の平均屈折率をn2と定義した際に、n2/n1が1.05以上1.23未満である、請求項1〜4の何れかに記載の光学フィルム。
【請求項7】
プラスチックフィルム上に低屈折率層を有する光学フィルムであって、
前記プラスチックフィルムは、面内で屈折率が最も大きい軸である遅相軸と、前記プラスチックフィルムの面内で前記遅相軸と直交する軸である進相軸とを有し、
前記プラスチックフィルムの面内位相差が2500nm以下であり、
前記低屈折率層は前記光学フィルムの表面に位置し、
前記光学フィルムは、下記測定条件1から算出したΣTが0.04超0.20未満を満たす領域を有する、光学フィルム(但し、「紫外線吸収剤を含むプラスチックフィルム上に、紫外線吸収剤を含む紫外線吸収層、ハードコート層及び低屈折率層をこの順に有する光学フィルム」を除く。)。
〈測定条件1〉
前記光学フィルムの前記低屈折率層とは反対側の面から直線偏光を入射する。前記入射光である直線偏光を光L1と定義する。前記光L1が前記光学フィルムを透過した透過光を光L2と定義する。
前記光L1は、前記遅相軸と前記光L1の振動方向との成す角を45度に固定した上で、前記光学フィルムの平面を基準とした前記光L1の振動方向の仰角が50度以上70度以下となる角度で前記光学フィルムに対して入射させる。前記仰角を50度以上70度以下の範囲で2度刻みで変動させ、11通りの仰角において前記光L2を測定する。前述した測定により、11の測定点において前記光L2が測定される。
前記光L2を、C光源及び視野角2度の条件に換算する。11の測定点のうちのn番目の測定点の光L2に関して、L*a*b*表色系のa*値及びb*値を、a*n及びb*nと定義する。また、11の測定点のうちのn+1番目の光L2に関して、L*a*b*表色系のa*値及びb*値を、a*n1及びb*n1と定義する。
前記11の測定点の測定に基づいて、隣接する測定点のa*の差の2乗と、隣接する測定点のb*の差の2乗との和を算出する。前記和を10の隣接点でそれぞれ算出し、前記和の総和を示すΣTを算出する。前記ΣTは下記式1で表すことができる。
ΣT=Σ[{a*n−a*n1}2+{b*n−b*n1}2] (式1)
【請求項8】
プラスチックフィルム上に低屈折率層を有する光学フィルムであって、
前記プラスチックフィルムは、面内で屈折率が最も大きい軸である遅相軸と、前記プラスチックフィルムの面内で前記遅相軸と直交する軸である進相軸とを有し、
前記プラスチックフィルムが下記の条件Aを満たし、
前記低屈折率層は前記光学フィルムの表面に位置し、
前記光学フィルムは、下記測定条件1から算出したΣTが0.04超0.20未満を満たす領域を有する、光学フィルム。
〈測定条件1〉
前記光学フィルムの前記低屈折率層とは反対側の面から直線偏光を入射する。前記入射光である直線偏光を光L1と定義する。前記光L1が前記光学フィルムを透過した透過光を光L2と定義する。
前記光L1は、前記遅相軸と前記光L1の振動方向との成す角を45度に固定した上で、前記光学フィルムの平面を基準とした前記光L1の振動方向の仰角が50度以上70度以下となる角度で前記光学フィルムに対して入射させる。前記仰角を50度以上70度以下の範囲で2度刻みで変動させ、11通りの仰角において前記光L2を測定する。前述した測定により、11の測定点において前記光L2が測定される。
前記光L2を、C光源及び視野角2度の条件に換算する。11の測定点のうちのn番目の測定点の光L2に関して、L*a*b*表色系のa*値及びb*値を、a*n及びb*nと定義する。また、11の測定点のうちのn+1番目の光L2に関して、L*a*b*表色系のa*値及びb*値を、a*n1及びb*n1と定義する。
前記11の測定点の測定に基づいて、隣接する測定点のa*の差の2乗と、隣接する測定点のb*の差の2乗との和を算出する。前記和を10の隣接点でそれぞれ算出し、前記和の総和を示すΣTを算出する。前記ΣTは下記式1で表すことができる。
ΣT=Σ[{a*n−a*n1}2+{b*n−b*n1}2] (式1)
〈条件A〉
前記プラスチックフィルムから縦50mm×横50mmの大きさのサンプルを切り出す。前記サンプルの中央部の1箇所、及び、前記サンプルの四隅からそれぞれ前記中央部に向かって10mm進んだ4箇所、の合計5箇所を、測定箇所とする。
前記サンプルの前記5箇所で遅相軸の方向を測定する。前記サンプルの任意の1辺と、各測定箇所の遅相軸の方向とが成す角度を、それぞれD1、D2、D3、D4、D5と定義する。D1〜D5の最大値と、D1〜D5の最小値との差が1.5度以上を示す。
【請求項9】
前記プラスチックフィルムと前記低屈折率層との間に、ハードコート層及び防眩層から選ばれる1種以上の層を有する、請求項1〜8の何れかに記載の光学フィルム。
【請求項10】
偏光子と、前記偏光子の一方の側に位置する第1の透明保護板と、前記偏光子の他方の側に位置する第2の透明保護板とを有する偏光板であって、前記第1の透明保護板及び前記第2の透明保護板の少なくとも一方が請求項1〜9の何れかに記載の光学フィルムであり、前記光学フィルムの前記低屈折率層側の面が前記偏光子とは反対側を向いてなる、偏光板。
【請求項11】
表示素子と、前記表示素子の光出射面側に配置されてなる偏光子及び光学フィルムとを有する画像表示装置であって、前記光学フィルムが請求項1〜9の何れかに記載の光学フィルムであり、かつ、前記光学フィルムの前記低屈折率層側の面が前記表示素子とは反対側を向いてなる、画像表示装置。
【請求項12】
表示素子の光出射面上に、偏光子及び光学フィルムを有してなる画像表示装置の光学フィルムの選定方法であって、下記(1)〜(4)の判定条件を満たす光学フィルムXを前記光学フィルムとして選定する、画像表示装置の光学フィルムの選定方法。
(1)プラスチックフィルム上に低屈折率層を有する光学フィルムXであること;
(2)前記プラスチックフィルムは、面内で屈折率が最も大きい軸である遅相軸と、前記プラスチックフィルムの面内で前記遅相軸と直交する軸である進相軸とを有すること;
(3)前記低屈折率層が前記光学フィルムXの表面に位置してなること;及び
(4)前記光学フィルムXが、下記測定条件1から算出したΣTが0.04超0.20未満を満たす領域を有すること。
〈測定条件1〉
前記光学フィルムの前記低屈折率層とは反対側の面から直線偏光を入射する。前記入射光である直線偏光を光L1と定義する。前記光L1が前記光学フィルムを透過した透過光を光L2と定義する。
前記光L1は、前記遅相軸と前記光L1の振動方向との成す角を45度に固定した上で、前記光学フィルムの平面を基準とした前記光L1の振動方向の仰角が50度以上70度以下となる角度で前記光学フィルムに対して入射させる。前記仰角を50度以上70度以下の範囲で2度刻みで変動させ、11通りの仰角において前記光L2を測定する。前述した測定により、11の測定点において前記光L2が測定される。
前記光L2を、C光源及び視野角2度の条件に換算する。11の測定点のうちのn番目の測定点の光L2に関して、L*a*b*表色系のa*値及びb*値を、a*n及びb*nと定義する。また、11の測定点のうちのn+1番目の光L2に関して、L*a*b*表色系のa*値及びb*値を、a*n1及びb*n1と定義する。
前記11の測定点の測定に基づいて、隣接する測定点のa*の差の2乗と、隣接する測定点のb*の差の2乗との和を算出する。前記和を10の隣接点でそれぞれ算出し、前記和の総和を示すΣTを算出する。前記ΣTは下記式1で表すことができる。
ΣT=Σ[{a*n−a*n1}2+{b*n−b*n1}2] (式1)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2024-02-20 
出願番号 P2022-551238
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (G02B)
P 1 651・ 536- YAA (G02B)
P 1 651・ 537- YAA (G02B)
P 1 651・ 121- YAA (G02B)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 大▲瀬▼ 裕久
関根 洋之
登録日 2022-11-08 
登録番号 7173422
権利者 大日本印刷株式会社
発明の名称 光学フィルム、偏光板、画像表示装置及び光学フィルムの選定方法  
代理人 弁理士法人大谷特許事務所  
代理人 弁理士法人大谷特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ