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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G02B
審判 全部申し立て 2項進歩性  G02B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G02B
管理番号 1410232
総通号数 29 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2024-05-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2023-09-21 
確定日 2024-04-08 
異議申立件数
事件の表示 特許第7243073号発明「インク組成物及びその硬化物、光変換層、並びにカラーフィルタ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7243073号の請求項1、3ないし15に係る特許を取り消す。 同請求項2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7243073号(以下「本件特許」という。)の請求項1〜15に係る特許についての出願(特願2018−146982号)は、平成30年8月3日の出願であって、令和5年3月13日にその特許権の設定登録がされ、令和5年3月22日に特許掲載公報が発行された。
本件特許について、特許掲載公報発行の日から6月以内である令和5年9月21日に特許異議申立人 平居 博美(以下「異議申立人」という。)から全請求項に対して特許異議の申立てがされた。その後、当合議体は、令和5年11月13日付けで本件特許の請求項1及び3〜15に係る特許に対して取消理由を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許権者 DIC株式会社からは何ら応答がなかったものである。


第2 本件特許発明
本件特許の請求項1〜15に係る発明(以下、それぞれ、「本件特許発明1」などといい、これらを総称して「本件特許発明」という。)は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1〜15に記載された事項により特定される、次のものである。

「【請求項1】
発光性ナノ結晶粒子と、
アリルエーテル基、及び、当該アリルエーテル基と反応して分子内環を形成しうるエチレン性不飽和基を含む第1の光重合性化合物と、
を含有し、
前記第1の光重合性化合物は、前記エチレン性不飽和基を有する構造として、下記式(II)で表される構造を含む、インク組成物(ただし、下記式(4)で表される(メタ)アクリルアミド化合物を含有するインク組成物は除く)。
【化1】

[式(II)中、*は結合手を示す。]
【化2】

[式(4)中、R11は、メチル基又は水素原子を示し、R12は炭素数1〜6の直鎖のアルキレン基を示す。]
【請求項2】
前記第1の光重合性化合物とは異なる光重合性化合物を第2の光重合性化合物とすると、前記第1の光重合性化合物の含有量に対する前記第2の光重合性化合物の含有量の比が、0.8以下である、請求項1に記載のインク組成物。
【請求項3】
前記第1の光重合性化合物とは異なる第2の光重合性化合物として、単官能又は多官能の(メタ)アクリレートを更に含有する、請求項1又は2に記載のインク組成物。
【請求項4】
前記発光性ナノ結晶粒子の含有量は、インク組成物の不揮発分の質量を基準として、20質量%超である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項5】
チオール化合物を更に含有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項6】
酸化防止剤を更に含有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項7】
光散乱性粒子を更に含有する、請求項1〜6のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項8】
無機成分の含有量が、前記インク組成物の不揮発分の質量を基準として、30質量%以上である、請求項1〜7のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項9】
光変換層を形成するために用いられる、請求項1〜8のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項10】
インクジェット方式で用いられる、請求項1〜9のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載のインク組成物の硬化物であって、
発光性ナノ結晶粒子と、エーテル環を有する構造単位を含む重合体と、を含有する、インク組成物の硬化物。
【請求項12】
複数の画素部と、該複数の画素部間に設けられた遮光部と、を備え、
前記複数の画素部は、請求項1〜10のいずれか一項に記載のインク組成物の硬化物又は請求項11に記載の硬化物を含む発光性画素部を有する、光変換層。
【請求項13】
前記発光性画素部として、
420〜480nmの範囲の波長の光を吸収し605〜665nmの範囲に発光ピーク波長を有する光を発する発光性ナノ結晶粒子を含有する、第1の発光性画素部と、
420〜480nmの範囲の波長の光を吸収し500〜560nmの範囲に発光ピーク波長を有する光を発する発光性ナノ結晶粒子を含有する、第2の発光性画素部と、
を備える、請求項12に記載の光変換層。
【請求項14】
光散乱性粒子を含有する非発光性画素部を更に備える、請求項12又は13に記載の光変換層。
【請求項15】
請求項12〜14のいずれか一項に記載の光変換層を備える、カラーフィルタ。」


第3 特許異議申立書に記載した申立ての理由及び取消理由の概要
1 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和5年9月21日に異議申立人が提出した特許異議申立書(以下「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
(1)申立理由1(甲1号証に基づく新規性
本件特許発明1、3、6及び11は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明であり、特許法29条1項3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法113条2号に該当し取り消すべきものである。

(2)申立理由2(甲1号証に基づく進歩性
本件特許発明2、4、5、7〜10及び12〜15は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証〜甲第4号証に記載された事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法113条2号に該当し取り消すべきものである。

(3)申立理由3(甲5号証に基づく進歩性
本件特許発明1〜15は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において下記の電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第5号証に記載された発明及び甲第2号証〜甲第4号証に記載された事項に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法113条2号に該当し取り消すべきものである。

(4)申立理由4(サポート要件)
本件特許発明は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法113条4号に該当し取り消すべきものである。

(5)証拠方法
甲第1号証:国際公開第2016/088646号(以下「甲1」という。)
甲第2号証:特開2016−98375号公報(以下「甲2」という。)
甲第3号証:特開2018−109141号公報(以下「甲3」という。)
甲第4号証:特開2018−84823号公報(以下「甲4」という。)
甲第5号証:国際公開第2015/186521号(以下「甲5」という。)

2 取消理由の概要
令和5年11月13日付けで通知した取消理由(以下「取消理由」という。)の概要は次のとおりである。
理由1:(新規性)本件特許発明1、3、9及び11は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができない。
理由2:(進歩性)本件特許発明1及び3〜15は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明及び甲2〜5に記載された事項に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件特許は、特許法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。


第4 当合議体の判断
1 取消理由(甲1に基づく新規性及び進歩性)について
(1)甲1の記載
取消理由で引用された甲1には、以下の事項が記載されている。なお、下線は、当合議体が付したものであり、引用発明の認定等に用いた箇所を示す。

ア 「[0017][半導体ナノ粒子含有硬化性組成物]
本発明の半導体ナノ粒子含有硬化性組成物は、トリシクロデカン構造を有する単官能の(メタ)アクリレート化合物(a)(以下「(メタ)アクリレート(a)」ともいう)と、2つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する(メタ)アクリレート化合物(b1)(以下「(メタ)アクリレート(b1)」ともいう)および上記式(1)で表される化合物(b2)から選ばれる少なくとも1種の化合物(b)と、重合開始剤(c)と、発光体である半導体ナノ粒子(d)とを含む。
・・・省略・・・
[0019]<(メタ)アクリレート(a)>
(メタ)アクリレート(a)は、トリシクロデカン構造を有する単官能の(メタ)アクリレート化合物である。ここで単官能とは(メタ)アクリロイルオキシ基を1つのみ有することを意味する。(メタ)アクリレート(a)は、半導体ナノ粒子(d)との高い相互作用および分散性を有している。このため、(メタ)アクリレート(a)を含むことにより、半導体ナノ粒子の分散性が良好で低粘度の半導体ナノ粒子含有硬化性組成物となる。また、半導体ナノ粒子含有硬化性組成物中に(メタ)アクリレート(a)が含まれていることにより、半導体ナノ粒子含有硬化性組成物の硬化時における硬化収縮が抑制され、柔軟性に優れた硬化物が得られる。
・・・省略・・・
[0021] (メタ)アクリレート(a)と化合物(b)との合計質量に対する(メタ)アクリレート(a)の含有量は、75〜99.5質量%であることが好ましい。上記の合計質量に対する(メタ)アクリレート(a)の含有量が75質量%以上であると、半導体ナノ粒子含有硬化性組成物中に(メタ)アクリレート(a)が含まれていることによる効果がより顕著となる。また、上記の合計質量に対する(メタ)アクリレート(a)の含有量が99.5質量%を超えると、相対的に化合物(b)の含有量が少なくなる。このため、半導体ナノ粒子含有硬化性組成物中に化合物(b)が含まれていることによる効果が得られにくくなる。よって、(メタ)アクリレート(a)と化合物(b)との合計質量に対する(メタ)アクリレート(a)の含有量は、75〜99.5質量%であることがより好ましく、80〜95質量%であることがさらに好ましい。
トリシクロデカン構造を有する単官能(メタ)アクリレート化合物(a)以外の単官能(メタ)アクリレート化合物(以降、「(メタ)アクリレート(e)」と称することがある。)は、酸素バリア性や分散性の観点で、本願の半導体ナノ粒子含有硬化性組成物に含まれないことが好ましい。
[0022] <化合物(b)>
化合物(b)は、2つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する(メタ)アクリレート化合物(b1)および上記式(1)で表される化合物(b2)から選ばれる少なくとも1種である。
・・・省略・・・
[0024] 上記式(1)で表される化合物(b2)としては、2−(アリルオキシメチル)アクリル酸のエステル化物を例示することができ、中でも2−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルが、半導体ナノ粒子含有硬化性組成物における半導体ナノ粒子の分散性の観点で好ましい。
上記の化合物(b)は単独で用いてもよく、二種類以上を併用してもよい。
[0025] (メタ)アクリレート(a)と化合物(b)との合計質量に対する化合物(b)の含有量は、25質量%以下であることが好ましい。上記の合計質量に対する化合物(b)の含有量が25質量%以下であると、化合物(b)の含有量が少なくなり、相対的に(メタ)アクリレート(a)の含有量が多くなる。このため、半導体ナノ粒子含有硬化性組成物中に(メタ)アクリレート(a)が含まれていることによる効果が得られやすくなる。また(メタ)アクリレート(a)と化合物(b)との合計質量に対する化合物(b)の含有量が0.5質量%以上であると、半導体ナノ粒子含有硬化性組成物中に化合物(b)が含まれていることによる効果が顕著となる。したがって、上記の合計質量に対する化合物(b)の含有量は、0.5〜25質量%であることがより好ましく、5〜20質量%であることがさらに好ましい。
半導体ナノ粒子含有硬化性組成物中における(メタ)アクリレート(a)と化合物(b)との総量は、80〜99.9質量%が好ましい。
・・・省略・・・
[0037]〈その他の成分〉
本発明の半導体ナノ粒子含有硬化性組成物は、上記必須成分の他に、必要に応じて、組成物の粘度、ならびに硬化物の透明性および耐熱性等の特性を損なわない範囲で、重合禁止剤、レベリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、光安定剤、顔料、他の無機フィラー等の充填剤、反応性希釈剤、その他改質剤等を含有してもよい。
・・・省略・・・
[0053] 本発明の硬化物を形成するには、例えば、本発明の半導体ナノ粒子含有硬化性組成物をガラス板、プラスチック板、金属板またはシリコンウエハ等の基板上に塗布して塗膜等に形成するか、あるいは金型等へ注入する等の方法を使用できる。その後、当該塗膜に活性エネルギー線を照射する、および/または当該塗膜を加熱して硬化させることによって得られる。」

イ 「 請求の範囲
[請求項1] トリシクロデカン構造を有する単官能の(メタ)アクリレート化合物(a)と、
2つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する(メタ)アクリレート化合物(b1)および下記式(1)で表される化合物(b2)から選ばれる少なくとも1種の化合物(b)と、
重合開始剤(c)と、
発光体である半導体ナノ粒子(d)とを含むことを特徴とする半導体ナノ粒子含有硬化性組成物。
H2C=C(R1)−CH2−O−CH2−C(R2)=CH2 (1)
(式(1)中、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、またはエステル結合を有する炭素数4〜10の有機基を表す。)
[請求項2] 前記(メタ)アクリレート化合物(a)と前記化合物(b)との合計質量に対する前記(メタ)アクリレート化合物(a)の含有量が75〜99.5質量%であることを特徴とする請求項1に記載の半導体ナノ粒子含有硬化性組成物。
・・・省略・・・
[請求項7] 請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子含有硬化性組成物を硬化してなることを特徴とする硬化物。」

(2)甲1発明
甲1には、請求の範囲の請求項1に係る発明である、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「 トリシクロデカン構造を有する単官能の(メタ)アクリレート化合物(a)と、
2つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する(メタ)アクリレート化合物(b1)および下記式(1)で表される化合物(b2)から選ばれる少なくとも1種の化合物(b)と、
重合開始剤(c)と、
発光体である半導体ナノ粒子(d)とを含むことを特徴とする半導体ナノ粒子含有硬化性組成物。
H2C=C(R1)−CH2−O−CH2−C(R2)=CH2 (1)
(式(1)中、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、またはエステル結合を有する炭素数4〜10の有機基を表す。)」

(3)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。

(ア)発光性ナノ結晶粒子
甲1発明の「発光体である半導体ナノ粒子(d)」は、技術的にみて、本件特許発明1の「発光性ナノ結晶粒子」に相当する。

(イ)第1の光重合性化合物
甲1発明の「式(1)で表される化合物(b2)」は、その構造式から、「アリルエーテル基」及び「エチレン性不飽和基」を含む。
そうしてみると、甲1発明の「式(1)で表される化合物(b2)」は、本件特許発明1の「第1の光重合性化合物」に相当する(当合議体注:式(1)は、上記(2)に記載したとおりであって、記載を省略した。以下、同様である。)。
また、甲1発明の「式(1)で表される化合物(b2)」は、本件特許発明1の「第1の光重合性化合物」の、「アリルエーテル基」「及び」「エチレン性不飽和基を含む」との要件、及び「前記エチレン性不飽和基を有する構造として」、「式(II)で表される構造を含む」との要件を満たす(当合議体注:式(II)は、上記第2に記載したとおりであって、記載を省略した。以下、同様である。)。

(ウ)インク組成物
甲1の[0053]における「本発明の硬化物を形成するには、例えば、本発明の半導体ナノ粒子含有硬化性組成物をガラス板、プラスチック板、金属盤またはシリコンウエハ等の基板上に塗布して塗膜等に形成する」との記載事項と、上記(ア)及び(イ)を総合すると、甲1発明の「半導体ナノ粒子含有硬化性組成物」は、本件特許発明1の「インク組成物」に相当する。
また、甲1発明の「半導体ナノ粒子含有硬化性組成物」は、本件特許発明1の「インク組成物」の「発光性ナノ結晶粒子」と「第1の光重合性化合物とを、含有し」との要件を満たす。
さらに、甲1発明の「半導体ナノ粒子含有硬化性組成物」は、本件特許発明1の「インク組成物」の「ただし、下記式(4)で表される(メタ)アクリルアミド化合物を含有するインク組成物は除く」との要件を満たす(当合議体注:式(4)は、上記第2で記載したとおりであって、記載を省略した。以下、同様である。)。

イ 一致点及び一応の相違点
上記アによると、本件特許発明1と甲1発明は、
「 発光性ナノ結晶粒子と、
アリルエーテル基、及び、エチレン性不飽和基を含む第1の光重合性化合物と、
を含有し、
前記第1の光重合性化合物は、前記エチレン性不飽和基を有する構造として、下記式(II)で表される構造を含む、インク組成物(ただし、下記式(4)で表される(メタ)アクリルアミド化合物を含有するインク組成物は除く)。」の点で一致し、以下の点で一応相違する。

<一応の相違点1>
「第1の光重合性化合物」について、本件特許発明1は、「アリルエーテル基、及び、当該アリルエーテル基と反応して分子内環を形成しうるエチレン性不飽和基を含む」のに対して、甲1発明の「式(1)で表される化合物(b2)」は、この点が一応明らかでない点。

ウ 判断
上記一応の相違点1について検討する。
甲1発明の「式(1)」の構造式から、甲1発明の「式(1)で表される化合物(b2)」は、アリルエーテル基、及び、当該アリルエーテル基と反応して分子内環を形成しうるエチレン性不飽和基を含むといえる。このことは、甲1の[0024]に「上記式(1)で表される化合物(b2)としては、2−(アリルオキシメチル)アクリル酸のエステル化合物を例示することができ、中でも2−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルが、半導体ナノ粒子含有硬化性組成物における半導体ナノ粒子の分散性の観点で好ましい。」と記載されていて、甲1発明の「式(1)で表される化合物(b2)」の好ましい例示として、本件特許明細書において実施例として記載されている2−(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルが挙げられていることからも理解できる。
したがって、上記一応の相違点1は、実質的な差異ではない。
仮に、上記一応の相違点1が実質的な差異であるとしても、当業者にとって適宜選択可能な設計事項にすぎない。

エ 小括
以上のことから、本件特許発明1は、甲1発明であるか、あるいは、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)本件特許発明3
甲1発明の「トリシクロデカン構造を有する単官能の(メタ)アクリレート化合物(a)」は、「化合物(b)」と異なる化合物であって、技術的にみて、光重合性化合物であるといえる。そうすると、甲1発明の「単官能の(メタ)アクリレート化合物(a)」は、本件特許発明3の「前記第1の光重合性化合物とは異なる第2の光重合性化合物」に相当する。
そうしてみると、本件特許発明3の発明特定事項は、甲1発明も具備する構成である。その余の点は、上記(3)と同様である。

(5)本件特許発明4
本件特許発明4の発明特定事項は、甲2の【0038】、甲3の【0139】並びに甲4の【請求項21】及び【0048】に記載されているように周知技術であり、当業者にとって適宜選択可能な設計事項にすぎない。その余の点は、上記(3)と同様である。

(6)本件特許発明5
本件特許発明5の発明特定事項は、甲3の【0048】及び甲4の【0042】に記載されているように周知技術であり、当業者にとって単なる周知技術の付加にすぎない。その余の点は、上記(3)と同様である。

(7)本件特許発明6
本件特許発明6の発明特定事項は、甲1の[0037]及び甲5の[0052]に記載されているように周知技術であり、当業者にとって単なる周知技術の付加にすぎない。その余の点は、上記(3)と同様である。

(8)本件特許発明7
本件特許発明7の発明特定事項は、甲2の【請求項1】及び甲3の【請求項1】に記載されているように周知技術であり、当業者にとって単なる周知技術の付加にすぎない。その余の点は、上記(3)と同様である。

(9)本件特許発明8
本件特許発明8の発明特定事項は、甲2の【0040】及び【0045】に記載されているように周知技術であり、当業者にとって単なる周知技術の付加にすぎない。その余の点は、上記(3)と同様である。

(10)本件特許発明9
甲1の[0062]の「本実施形態の半導体ナノ粒子含有硬化性組成は、半導体ナノ粒子(d)を含有しているため、半導体ナノ粒子(d)による光波長変換作用を利用できるものとなる。」との記載事項により、甲1発明も、本件特許発明9の発明特定事項を具備するといえる。
あるいは、甲1の[0062]、甲2の【0012】、甲3の【0007】、甲4の【0012】及び甲5の[0064]に記載されているように周知技術であり、当業者にとって単なる周知技術の付加にすぎない。その余の点は、上記(3)と同様である。

(11)本件特許発明10
本件特許発明10の発明特定事項は、甲2の【0006】及び【0092】並びに甲3の【0022】に記載されているように周知技術であり、当業者にとって単なる周知技術の付加にすぎない。その余の点は、上記(3)と同様である。

(12)本件特許発明11
甲1発明の「式(1)で表される化合物(b2)」は、「アリルエーテル基」と「当該アリルエーテル基を反応して分子内環を形成しうるエチレン性不飽和基」を含むため、硬化により「エーテル環を有する構造単位を含む重合体」を実質的に形成するといえる。また、硬化物については、甲1の請求の範囲の請求項7に記載されている。その余の点は、上記(3)と同様である。

(13)本件特許発明12
本件特許発明12の発明特定事項は、甲2の【0004】並びに甲3の【0022】及び【0023】に記載されているように周知技術であり、当業者にとって単なる周知技術の付加にすぎない。その余の点は、上記(3)と同様である。

(14)本件特許発明13〜14
本件特許発明13〜14の発明特定事項は、甲2の【0102】、甲3の【0138】及び甲4の【0034】に記載されているように周知技術であり、当業者にとって単なる周知技術の付加にすぎない。その余の点は、上記(3)と同様である。

(15)本件特許発明15
本件特許発明15の発明特定事項は、甲3の【0025】、甲4の【0183】及び甲5の[0064]に記載されているように周知技術であり、当業者にとって単なる周知技術の付加にすぎない。その余の点は、上記(3)と同様である。

(16)小括
以上のことから、本件特許の請求項1、3、9及び11に係る発明は、甲1に記載された発明である。また、本件特許の請求項1及び3〜15に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲2〜5のいずれかに記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
なお、上記第1で示したように、当合議体は、令和5年11月13日付けで本件特許の請求項1及び3〜15に係る特許に対して取消理由を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許権者からは何ら応答がなかった。

2 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)申立理由1〜2(甲1に基づく新規性及び進歩性)について
ア 本件特許発明1及び3〜15
本件特許発明1及び3〜15については、上記1で述べたとおりである。

イ 本件特許発明2
(ア)甲1発明
甲1発明については、上記1(2)で示したとおりである。

(イ)対比、一致点及び相違点
本件特許発明2は、本件特許発明1を引用するものであるから、対比、一致点及び判断については上記1(3)で述べたことと同様のことがいえる。
そうすると、本件特許発明2と甲1発明とを対比すると、本件特許発明2と甲1発明は、少なくとも以下の点で相違する。

<相違点2>
本件特許発明2は、「前記第1の光重合性化合物とは異なる光重合性化合物を第2の光重合性化合物とすると、前記第1の光重合性化合物の含有量に対する前記第2の光重合性化合物の含有量の比が、0.8以下である」のに対して、甲1発明は、このように特定されていない点。

(ウ)判断
上記相違点2について検討する。
甲1発明の「単官能の(メタ)アクリレート化合物(a)」が、本件特許発明3の「前記第1の光重合性化合物とは異なる第2の光重合性化合物」に相当することは、上記1(4)で示したとおりである。
そこで、甲1発明の「式(1)で表される化合物(b2)」(第1の光重合性化合物)に対する「単官能の(メタ)アクリレート化合物(a)」(第2の光重合性化合物)の含有量の比について検討する。
甲1の請求の範囲の請求項2には、「前記(メタ)アクリレート化合物(a)と前記化合物(b)との合計質量に対する前記(メタ)アクリレート化合物(a)の含有量が75〜99.5質量%である」と記載されている。上記記載から、甲1において、「式(1)で表される化合物(b2)」(第1の光重合性化合物)に対する「単官能の(メタ)アクリレート化合物(a)」(第2の光重合性化合物)の含有量の比は、75/(100−75)〜99.5/(100−99.5)より、3〜199となり、甲1においては、「単官能の(メタ)アクリレート化合物(a)」(第2の光重合性化合物)の含有量は、「式(1)で表される化合物(b2)」(第1の光重合性化合物)の含有量よりも多いものであるといえる。
甲1の[0021]及び[0025]の記載からも、甲1においては、酸素バリア性や分散性の観点から、「単官能の(メタ)アクリレート化合物(a)」(第2の光重合性化合物)の含有量を「式(1)で表される化合物(b2)」(第1の光重合性化合物)の含有量よりも多くするものであると理解できる。
そうしてみると、甲1発明において、「単官能の(メタ)アクリレート化合物(a)」(第2の光重合性化合物)の含有量を「式(1)で表される化合物(b2)」(第1の光重合性化合物)の含有量よりも少なくすることによって含有量の比を0.8以下とすることに阻害要因があるといえる。また、甲1発明において上記相違点2に係る構成を適用することを窺わせることは、いずれの甲号証にも記載されておらず、周知技術であるともいえない。
したがって、たとえ当業者といえども、甲1発明の「式(1)で表される化合物(b2)」(第1の光重合性化合物)に対する「単官能の(メタ)アクリレート化合物(a)」(第2の光重合性化合物)の含有量の比を上記相違点2に係る本件特許発明2の構成とすることは、容易に想到し得たとはいえない。

(エ)異議申立人の主張について
異議申立人は、異議申立書の10頁において、「本件明細書に記載されている具体的な組成物で、第1の光重合性化合物(AOMA)以外の第2の光重合性化合物(HDDMA)を含むものは実施例2のみであり(表1)、その「第2の光重合性化合物/第1の光重合性化合物」の含有量比は18.2/42.5≒0.43であって、「0.8」との上限の技術的な臨界的意義は示されておりません。」と主張している。
しかしながら、上記(ウ)で述べたように、甲1発明は本件特許発明2と前提において異なるものであるから、臨界的意義については容易想到性の判断に影響を及ぼすものではない。
したがって、異議申立人の上記主張は、採用されない。

(オ)小括
以上のことから、本件特許発明2は、たとえ当業者といえども、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(2)申立理由3(甲5に基づく進歩性)について
ア 甲5の記載
甲5には、以下の事項が記載されている。なお、下線は、当合議体が付したものであり、引用発明の認定等に用いた。

(ア)「技術分野
[0001]本発明は、半導体ナノ粒子含有硬化性組成物、硬化物、光学材料および電子材料に関する。さらに詳しくは、本発明は、半導体ナノ粒子含有硬化性組成物、この半導体ナノ粒子含有硬化性組成物を硬化させて得られる硬化物、およびその硬化物からなる光学材料・電子材料に関する。
・・・省略・・・
発明が解決しようとする課題
[0006] しかしながら、従来のナノサイズの半導体粒子を含む組成物は、半導体ナノ粒子の分散性が悪い、ハンドリング性が不十分などの問題点があった。本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、発光体である半導体ナノ粒子を含み、優れたハンドリング性および分散性を有する硬化性組成物、これを硬化させて得られる硬化物、およびその硬化物からなる光学材料・電子材料を提供することを課題とする。
課題を解決するための手段
[0007] 本発明者らは、上記課題を解決するべく、鋭意検討した。その結果、特定のアルキル(メタ)アクリレート化合物と、特定の(メタ)アクリルアミド化合物と、重合開始剤と、発光体である半導体ナノ粒子とを含む硬化性組成物を形成することで、優れたハンドリング性と分散性が得られることを見出し、本発明を想到した。
[0008] 本発明は以下の構成を採用する。
[1] 下記一般式(1)で示されるアルキル(メタ)アクリレート化合物(a)と、下記一般式(2)で示される(メタ)アクリルアミド化合物(b)と、重合開始剤(c)と、発光体である半導体ナノ粒子(d)と、を含むことを特徴とする半導体ナノ粒子含有硬化性組成物。
[0009][化1]

[0010](式(1)中、R1はメチル基または水素原子であり、R2は炭素数8〜22の直鎖または分鎖のアルキル基を示す。)
[0011][化2]

[0012](式(2)中、R3はメチル基または水素原子であり、R4は炭素数1〜6の直鎖のアルキレン基を表す。)
・・・省略・・・
発明の効果
[0018] 本発明の半導体ナノ粒子含有硬化性組成物は、特定のアルキル(メタ)アクリレート化合物と、特定の(メタ)アクリルアミド化合物と、重合開始剤と、発光体である半導体ナノ粒子とを含む。このことによって、本発明の半導体ナノ粒子含有硬化性組成物は、半導体ナノ粒子を含有することによる光波長変換作用を利用でき、かつ優れたハンドリング性と分散性を有するものとなる。
また、本発明の半導体ナノ粒子含有硬化性組成物を硬化させることで、光学材料・電子材料に好適に使用できる硬化物が得られる。
・・・省略・・・
[0067] 本発明の硬化物を形成するには、例えば、本発明の半導体ナノ粒子含有硬化性組成物をガラス板、プラスチック板、金属板またはシリコンウエハ等の基板上に塗布して塗膜等に形成するか、あるいは金型等へ注入する等の方法を使用できる。その後、当該塗膜に活性エネルギー線を照射する、および/または当該塗膜を加熱して硬化させることによって得られる。」

(イ)「 請求の範囲
[請求項1] 下記一般式(1)で示されるアルキル(メタ)アクリレート化合物(a)と、
下記一般式(2)で示される(メタ)アクリルアミド化合物(b)と、
重合開始剤(c)と、
発光体である半導体ナノ粒子(d)と、
を含むことを特徴とする半導体ナノ粒子含有硬化性組成物。
[化1]

(式(1)中、R1はメチル基または水素原子であり、R2は炭素数8〜22の直鎖または分鎖のアルキル基を示す。)
[化2]

(式(2)中、R3はメチル基または水素原子であり、R4は炭素数1〜6の直鎖のアルキレン基を表す。)
[請求項2] さらに、前記アルキル(メタ)アクリレート化合物(a)および前記(メタ)アクリルアミド化合物(b)に溶解するエチレン性不飽和基含有化合物(e)を含むことを特徴とする請求項1に記載の半導体ナノ粒子含有硬化性組成物。
[請求項3] 前記エチレン性不飽和基含有化合物(e)が、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、N−ビニルピロリドン、N−ビニル−εカプロラクタム、γ−ブチロラクトン(メタ)アクリレート、N−アクリロイルモルホリン、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]アクリルアミド、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、メチル−2−アリルオキシメチルアクリレート、テトラヒドラフルフリルアクリレート、エチレンオキシド付加物ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAエチレンオキシド付加物ジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジアクリレート、から選択されるいずれか一種以上であることを特徴とする請求項2に記載の半導体ナノ粒子含有硬化性組成物。」

イ 甲5発明
甲5には、請求の範囲の請求項1に係る発明を引用する請求項2に係る発明をさらに引用する請求項3に係る発明において、エチレン性不飽和基含有化合物(e)がメチル−2−アリルオキシメチルアクリレートである、次の発明(以下「甲5発明」という。)が記載されている(当合議体注:一般式(1)及び一般式(2)は、上記(1)に記載したとおりであって、記載を省略した。以下、同様である。)。
「 一般式(1)で示されるアルキル(メタ)アクリレート化合物(a)と、
一般式(2)で示される(メタ)アクリルアミド化合物(b)と、 重合開始剤(c)と、
発光体である半導体ナノ粒子(d)と、
を含む半導体ナノ粒子含有硬化性組成物であって、
さらに、前記アルキル(メタ)アクリレート化合物(a)および前記(メタ)アクリルアミド化合物(b)に溶解するエチレン性不飽和基含有化合物(e)を含み、
前記エチレン性不飽和基含有化合物(e)が、メチル−2−アリルオキシメチルアクリレートであることを特徴とする半導体ナノ粒子含有硬化性組成物。」

ウ 本件特許発明1
(ア)対比
本件特許発明1と甲5発明とを対比する。

a 発光性ナノ結晶粒子
甲5発明の「発光体である半導体ナノ粒子(d)」は、技術的にみて、本件特許発明1の「発光性ナノ結晶粒子」に相当する。

b 第1の光重合性化合物
甲5発明の「エチレン性不飽和基含有化合物(e)」は、「メチル−2−アリルオキシメチルアクリレート」であるから、「アリルエーテル基」及び「エチレン性不飽和基」を含み、アリルエーテル基、及び、当該アリルエーテル基と反応して分子内環を形成しうるエチレン性不飽和基を含むといえる。
そうしてみると、甲5発明の「エチレン性不飽和基含有化合物(e)」は、本件特許発明1の「第1の光重合性化合物」に相当する。
また、甲5発明の「エチレン性不飽和基含有化合物(e)」は、本件特許発明1の「第1の光重合性化合物」の、「アリルエーテル基、及び、当該アリルエーテル基と反応して分子内環を形成しうるエチレン性不飽和基を含む」との要件、及び「前記エチレン性不飽和基を有する構造として、下記式(II)で表される構造を含む」との要件を満たす(当合議体注:式(II)は、上記第2に記載したとおりであって、記載を省略した。以下、同様である。)。

c インク組成物
甲5の[0067]における「本発明の硬化物を形成するには、例えば、本発明の半導体ナノ粒子含有硬化性組成物をガラス板、プラスチック板、金属板またはシリコンウエハ等の基板上に塗布して塗膜等に形成する」との記載事項と、上記(ア)及び(イ)を総合すると、甲5発明の「半導体ナノ粒子含有硬化性組成物」は、本件特許発明1の「インク組成物」に相当する。
また、甲5発明の「半導体ナノ粒子含有硬化性組成物」は、本件特許発明1の「インク組成物」の「発光性ナノ結晶粒子」と「第1の光重合性化合物とを、含有し」との要件を満たす。

(イ)一致点及び相違点
上記(ア)によると、本件特許発明1と甲5発明は、
「 発光性ナノ結晶粒子と、
アリルエーテル基、及び、当該アリルエーテル基と反応して分子内環を形成しうるエチレン性不飽和基を含む第1の光重合性化合物と、
を含有し、
前記第1の光重合性化合物は、前記エチレン性不飽和基を有する構造として、下記式(II)で表される構造を含む、インク組成物。」の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点3>
本件特許発明1は、「式(4)で表される(メタ)アクリルアミド化合物を含有するインク組成物は除く」のに対して、甲5発明は、「一般式(2)で示される(メタ)アクリルアミド化合物」「を含む」点。

(ウ)判断
上記相違点3について検討する。
甲5発明の「一般式(2)で示される(メタ)アクリルアミド化合物」は、技術的にみて、本件特許発明1の「式(4)で表される(メタ)アクリルアミド化合物」に相当する。
ここで、甲5には、「発光体である半導体ナノ粒子を含み、優れたハンドリング性および分散性を有する硬化性組成物、これを硬化させて得られる硬化物、およびその硬化物からなる光学材料・電子材料を提供することを課題」([0006])として、「特定のアルキル(メタ)アクリレート化合物と、特定の(メタ)アクリルアミド化合物と、重合開始剤と、発光体である半導体ナノ粒子とを含む硬化性組成物を形成することで、優れたハンドリング性と分散性が得られることを見出し」([0007])たものであり、「一般式(1)で示されるアルキル(メタ)アクリレート化合物(a)と」、「一般式(2)で示される(メタ)アクリルアミド化合物(b)と、重合開始剤(c)と、発光体である半導体ナノ粒子(d)と、を含むことを特徴とする半導体ナノ粒子含有硬化性組成物」([0008])を発明したものであることが記載されている。
そうしてみると、甲5発明において、「一般式(2)で示される(メタ)アクリルアミド化合物(b)」を除くことは、甲5において記載された課題を解決する手段を失わせることになるから、甲5発明において、「一般式(2)で示される(メタ)アクリルアミド化合物(b)」を除くことに阻害要因がある。また、甲5発明において上記相違点3に係る構成を適用することを窺わせることは、いずれの甲号証にも記載されておらず、周知技術であるともいえない。
したがって、たとえ当業者といえども、甲5発明の「一般式(2)で示される(メタ)アクリルアミド化合物(b)」を除くことで上記相違点3に係る本件特許発明1の構成とすることは、容易に想到し得たとはいえない。

(エ)異議申立人の主張について
異議申立人は、異議申立書の17頁において、「本件発明が甲第5号証の発明より進歩性が認められるほど技術的に優れていることは、未だ証明されておりません。」と主張している。
しかしながら、上記(ウ)で述べたように、甲5発明は本件特許発明1と前提において異なるものであるから、技術的に優れているかどうかは容易想到性の判断に影響を及ぼすものではない。
したがって、異議申立人の上記主張は、採用されない。

(オ)小括
以上のことから、本件特許発明1は、たとえ当業者といえども、甲5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

イ 本件特許発明2〜15
本件特許発明2〜15は、本件特許発明1の構成を全て備えるものであるから、本件特許発明2〜15も、本件特許発明1と同じ理由により、たとえ当業者といえども、甲5に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。

3 申立理由4(サポート要件)について
(1)異議申立人の主張の概要
異議申立人は、異議申立書の20頁において、「本件明細書に記載の限られた実施例を、特に制限の無い「発光性ナノ結晶粒子」や、アリルエーテル基を構造(II)を含む以外は制限の無い本件請求項1の「第1光重合性化合物」まで拡張ないし一般化することはできないため、本件はサポート要件を満たさないと思料いたします。」と主張している。

(2)判断
本件特許明細書の【0007】には、発明が解決しようとする課題として、「本発明は、外部量子効率の維持性能に優れる画素部を形成し得るインク組成物、当該インク組成物の硬化物、並びに、当該インク組成物を用いた光変換層及びカラーフィルタを提供することを目的とする。」と記載されている。
これに対して、本件特許発明においては、「発光性ナノ結晶粒子」を含有することにとどまり、「発光性ナノ結晶粒子」がどのようなものであるのかは特定されていない。また、本件特許発明においては、「第1の光重合性化合物」として「アリルエーテル基、及び、当該アリルエーテル基と反応して分子内環を形成しうるエチレン不飽和基を有する」ものであって、エチレン不飽和基を有する構造として」「式(II)で表される構造を含む」と特定されていることにとどまり、式(II)がどのようなものであるのかは特定されていない。
たしかに、本件特許明細書の【0208】〜【0228】には、本件特許発明を具体化する実施例が記載されていて、発光性ナノ結晶粒子として、【0211】〜【0213】に記載された有機リガンド交換による緑色発光性InP/ZnSeS/ZnSナノ結晶粒子のみが記載されており、また、本件特許明細書の実施例の第1の光重合性化合物としては、実施例1〜3のAOMA(2−アリルオキシメチルアクリル酸メチル)を用いたもののみが記載されている。
しかしながら、本件特許明細書において、【0029】及び【0030】には、光重合性化合物が分子内環(エーテル環)を有する構造単位を含む重合体を有することにより画素部の外部量子効率の維持率が向上することが記載されている。また、発光性ナノ結晶粒子は、【0035】〜【0064】に記載され、分子内環(エーテル環)を有する構造単位を含む光重合性化合物は、【0067】〜【0081】に記載されている。
当業者であれば、本件特許明細書の発光性ナノ結晶粒子や第1の光重合性化合物についての上記記載に基づいて、実施例に記載された発光性ナノ結晶粒子や第1の光重合性化合物以外であっても、第1の光重合性化合物により形成されるエーテル環により、硬化成分の分子内運動が抑制されること等に起因して、画素部の外部量子効率の維持率が向上し、上記課題を解決できると理解できる。
そうしてみると、本件特許発明の発光性ナノ結晶粒子及び第1の光重合性化合物にまで拡張ないし一般化することは可能である。
したがって、本件特許発明は、発明の詳細な説明に記載したものである。


第5 むすび
以上のとおり、本件特許の請求項1及び3〜15に係る特許は、特許法113条2項の規定に該当し取り消すべきものである。
また、本件特許の請求項2に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消しの理由及び特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由によっては、取り消すことができない。
また、他に本件特許の請求項2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この決定に対する訴えは、この決定の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
異議決定日 2024-02-29 
出願番号 P2018-146982
審決分類 P 1 651・ 113- ZC (G02B)
P 1 651・ 537- ZC (G02B)
P 1 651・ 121- ZC (G02B)
最終処分 08   一部取消
特許庁審判長 神谷 健一
特許庁審判官 井口 猶二
宮澤 浩
登録日 2023-03-13 
登録番号 7243073
権利者 DIC株式会社
発明の名称 インク組成物及びその硬化物、光変換層、並びにカラーフィルタ  
代理人 中塚 岳  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 財部 俊正  
代理人 清水 義憲  

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