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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C02F
審判 全部申し立て 2項進歩性  C02F
管理番号 1410253
総通号数 29 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2024-05-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2024-01-24 
確定日 2024-05-17 
異議申立件数
事件の表示 特許第7314133号発明「電気式脱イオン装置、超純水製造システムおよび超純水製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7314133号の請求項1〜15に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7314133号の請求項1〜15に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、2019年(令和元年)5月24日(優先権主張 平成30年6月27日)を国際出願日とする出願であって、令和5年7月14日にその特許権の設定登録がされ、同年同月25日に特許掲載公報が発行され、その後、令和6年1月24日に、請求項1〜15に係る特許について、特許異議申立人 黒崎 惇子(以下、「申立人」という。)により、甲第1〜19号証を証拠方法として特許異議の申立てがなされたものである。

第2 本件発明
本件特許の請求項1〜15に係る発明は、それぞれ、特許請求の範囲の請求項1〜15に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである(以下、請求項1〜15に係る発明を、それぞれ「本件発明1」〜「本件発明15」といい、まとめて「本件発明」ということがある。)。
「【請求項1】
陽極と、
陰極と、
前記陽極と前記陰極の間に配置され、前記陽極に接する陽極室と、前記陰極に接する陰極室と、前記陽極室と前記陰極室との間に交互に配置されたアニオン交換膜およびカチオン交換膜と、前記アニオン交換膜および前記カチオン交換膜の間に交互に形成された濃縮室および脱塩室と、前記脱塩室内に充填されたイオン交換体とを有する、電気式脱イオンスタックと、
前記陽極と前記陰極の間に直流電圧を印加する電源装置と
を有する電気式脱イオン装置であって、
前記直流電圧が、50〜200Vであり、所定の期間の最大電圧をVmax、最少電圧をVminとしたときに、下記関係式(1)を満たすことを特徴とする電気式脱イオン装置。
(Vmax−Vmin)/(Vmax+Vmin)≦0.3 …(1)
【請求項2】
前記電気式脱イオンスタックは、前記濃縮室内、前記陽極室内および前記陰極室内に充填されたイオン交換体または電気導電体を有する請求項1に記載の電気式脱イオン装置。
【請求項3】
前記電源装置は、前記電源装置に供給された交流電圧を前記直流電圧に変換して出力する変換器である請求項1または2に記載の電気式脱イオン装置。
【請求項4】
前記所定の期間は、前記交流電圧の交流周期の1/2以上である、請求項3に記載の電気式脱イオン装置。
【請求項5】
前記変換器は、全波整流方式で交流電圧を前記直流電圧に変換する全波整流式変換器またはスイッチング方式で交流電圧を前記直流電圧に変換するスイッチング式変換器である請求項3または4に記載の電気式脱イオン装置。
【請求項6】
逆浸透膜装置と、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の電気式脱イオン装置を順に有する超純水製造システム。
【請求項7】
前記逆浸透膜装置は2基の逆浸透膜装置を直列に接続して構成された2段逆浸透膜装置である請求項6に記載の超純水製造システム。
【請求項8】
イオン交換樹脂装置と、脱気装置と、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の電気式脱イオン装置を順に有する超純水製造システム。
【請求項9】
前記電気式脱イオン装置の透過水中のホウ素濃度が1μg/L以下(as B)である請求項6乃至8のいずれか1項に記載の超純水製造システム。
【請求項10】
被処理水を、電気式脱イオン装置で処理する工程を含む超純水製造方法であって、
前記電気式脱イオン装置は、陽極と、陰極と、前記陽極と前記陰極の間に配置され、前記陽極に接する陽極室と、前記陰極に接する陰極室と、前記陽極室と前記陰極室との間に交互に配置されたアニオン交換膜およびカチオン交換膜と、前記アニオン交換膜および前記カチオン交換膜の間に交互に形成された濃縮室および脱塩室と、前記脱塩室内に充填されたイオン交換体とを有する、電気式脱イオンスタックと、前記陽極と前記陰極の間に直流電圧を印加する電源装置を有し、
前記直流電圧が、50〜200Vであり、所定の期間の最大電圧をVmax、最少電圧をVminとしたときに、下記関係式(1)を満たす条件で、前記被処理水を処理することを特徴とする超純水製造方法。
(Vmax−Vmin)/(Vmax+Vmin)≦0.3…(1)
【請求項11】
前記電気式脱イオンスタックは、前記濃縮室内、前記陽極室内および前記陰極室内に充填されたイオン交換体または電気導電体を有する請求項10に記載の超純水製造方法。
【請求項12】
さらに、原水を逆浸透膜装置によって処理して前記被処理水を得る工程を有する、請求項10または11に記載の超純水製造方法。
【請求項13】
前記逆浸透膜装置は、2基の逆浸透膜装置を直列に接続して構成された2段逆浸透膜装置である請求項12に記載の超純水製造方法。
【請求項14】
さらに、原水を、イオン交換樹脂装置と、脱気装置とによって処理して前記被処理水を得る工程を有する、請求項10または11に記載の超純水製造方法。
【請求項15】
前記電気式脱イオン装置で処理された処理水は、ホウ素濃度が1μg/L以下(as B)である請求項10乃至14のいずれか1項に記載の超純水製造方法。」

第3 特許異議申立理由の概要
1 特許法第29条第1項所定の規定違反(新規性欠如)について
本件発明1、3、5、6、10及び12は、甲第1号証に記載された発明である。

2 特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)について
(1) 本件発明1〜15は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、又は、甲第1号証に記載された発明、甲第2〜19号証に記載された事項及び本件特許の優先日当時の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2) 本件発明1は、甲第2号証に記載された発明、甲第1号証に記載された事項及び本件特許の優先日当時の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 証拠方法
甲第1号証:特開平10−263553号公報
甲第2号証:「高効率大容量スイッチング電源PAT−Tシリーズカタログ」,菊水電子工業株式会社,2009年5月,2017年8月,URL:https://catalog.orixtrntec.jp/pdf/27117400.pdf?k=f767ddeac4f9fd53db626c71232420f78a17e5a4
甲第3号証:特表平6−506867号公報
甲第4号証:「G2 DC POWER CONTROLLER カタログ」,Evoqua Water Technologies LLC,2017年,URL:https://www.evoqua.com/siteassets/documents/products/electrochamical/ion-g2controller-ds.pdf
甲第5号証:「Ionpure(R) G2 DC Power Controller カタログ」,Siemens Water Technologies Corp.,2010年,URL:http://adpore.co.kr/wp/wp-content/uploads/2014/08/downlaod/G2%20power-1.pdf(当審注:「(R)」は登録商標マークである。)
甲第6号証:「取扱説明書 GP series & GP−R series 定電圧/定電流直流電源」,pdf版 2版,株式会社高砂製作所,2014年3月7日,URL:https://www.takasago-ss.co.jp/file/DOC-0087-01_GPGP-R_Manual.pdf
甲第7号証:特開平7−265865号公報
甲第8号証:特開2000−52865号公報
甲第9号証:新井 芳明ら,「新版 図説電気・電子用語事典」,新版第2刷,2011年12月31日,実教出版株式会社,p.606−607
甲第10号証:特開平7−290059号公報
甲第11号証:特開2014−575号公報
甲第12号証:特開2017−140550号公報
甲第13号証:特開2016−87573号公報
甲第14号証:特開2016−107249号公報
甲第15号証:「リップルノイズ」,電源ナビホームページ,URL:https://dengen-navi.com/wp/glossary/リップルノイズ/
甲第16号証:特開2003−1258号公報
甲第17号証:特開2017−176968号公報
甲第18号証:特開2005−177564号公報
甲第19号証:特開2011−131210号公報

第4 特許異議申立理由についての当審の判断
1 甲各号証の記載事項等
(1) 甲第1号証の記載事項及び甲第1号証に記載された発明
ア 甲第1号証には、以下の(ア)〜(エ)の記載がある。
(ア) 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 イオン交換膜の相互間にイオン交換体が充填された少なくとも1つの脱塩室及び該脱塩室に隣接する少なくとも1つの濃縮室から成る脱イオンチャンバと、相互間に前記脱イオンチャンバを挟んで配設される陽電極及び陰電極と、交流電源から供給される交流電流を整流して前記陽電極及び陰電極間にイオン交換電流を供給する整流装置とを備える純水製造装置において、
前記イオン交換電流を検出する電流検出手段と、
前記イオン交換電流が所定値から変動したときに電流変動信号を発生する信号発生手段と、前記電流変動信号に応答し、交流電源の電圧及び周波数を相互に比例関係を維持しつつ制御する制御手段とを備え、
前記イオン交換電流を所定値に制御することを特徴とする純水製造装置。」

(イ) 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、純水製造装置に関し、更に詳しくは、原水から純水を製造するためのイオン交換電流を制御する機能を備えた純水製造装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、相互に隣接する脱塩室及び濃縮室から成る脱イオンチャンバと、この脱イオンチャンバを挟む陽電極及び陰電極の相互間にイオン交換電流を流すことにより、原水から純水を得る形式の純水製造装置が知られている。
【0003】この形式の純水製造装置では、予め逆浸透膜を利用して原水を透過水と濃縮水とに分離した後に、イオン交換体が充填された各脱塩室に透過水を流入させ、各濃縮室に濃縮水を流入させる。陽電極と陰電極との間にイオン交換電流(例えば、1A)を流すことにより、脱塩室を流れる透過水中のイオンが、濃縮室を流れる濃縮水中に電気的に排除されて、脱イオン水(純水)が得られる。イオン交換電流には、交流電流を整流した直流電流が使用される。
【0004】上記従来の純水製造装置では、運転が開始されると、イオン交換体の汚染が進み、或いは、反応ガスがイオン交換体内に滞留すること等によって、陽電極と陰電極との間の電気抵抗が運転開始以前より高くなる。そこで、陽電極と陰電極との間に印加される電圧を徐々に上昇させ、双方の電極間を流れるイオン交換電流を電気抵抗の上昇に拘わらず一定値に維持している。この印加電圧は、通常、所定値1Aを維持するために、例えば、50V〜400Vの間で変化させる。印加電圧が最大許容値400Vを越えたときに、イオン交換体の寿命が尽きたものと判断し、イオン交換体を未使用のものと交換する。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】上記従来の純水製造装置では、運転を長く継続すると、装置内部で、透過水の温度が上昇し、イオン交換体内に反応ガスが滞留する等の現象が発生して、良好なイオン交換状態が損なわれることがあった。
【0006】本発明は、上記に鑑み、イオン交換体の温度上昇を抑制して安定に保持し、良好なイオン交換状態を持続させることにより、イオン交換体の寿命を延ばすことができる純水製造装置を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、種々の研究を行った結果、イオン交換体層を通過する透過水の温度上昇は、電圧の上昇に伴って誘電体損が増加することに起因することを確め、本発明を完成させるに至った。
【0008】上記目的を達成するために、本発明の純水製造装置は、イオン交換膜の相互間にイオン交換体が充填された少なくとも1つの脱塩室及び該脱塩室に隣接する少なくとも1つの濃縮室から成る脱イオンチャンバと、相互間に前記脱イオンチャンバを挟んで配設される陽電極及び陰電極と、交流電源から供給される交流電流を整流して前記陽電極及び陰電極間にイオン交換電流を供給する整流装置とを備える純水製造装置において、前記イオン交換電流を検出する電流検出手段と、前記イオン交換電流が所定値から変動したときに電流変動信号を発生する信号発生手段と、前記電流変動信号に応答し、交流電源の電圧及び周波数を相互に比例関係を維持しつつ制御する制御手段とを備え、前記イオン交換電流を所定値に制御することを特徴とする。
【0009】本発明者らは、上記形式の純水製造装置では、イオン交換電流を一定に保持するために印加電圧を上昇させると、イオン交換体内における誘電体損も増加し、これに比例してイオン交換体の温度が上昇する点に着眼し、本発明においては、交流電源の電圧と周波数とを相互に比例関係を維持しつつ上昇させ、印加する直流電圧中に含まれる交流成分の比率(リプル率)を下げることにより、電圧上昇に伴うイオン交換体の温度上昇を抑えることとした。」

(ウ) 「【0012】図1に示すように、純水製造装置(EDI)11は、カチオン交換膜とアニオン交換膜との間にイオン交換体としてイオン交換樹脂12が充填された脱塩室13、及び脱塩室13に隣接する濃縮室14から成る脱イオンチャンバと、相互間に該脱イオンチャンバを挟んで配設される電極室15a、15bとを備える。電極室15a内には陽電極16a、電極室15b内には陰電極16bが配設される。また、純水製造装置11の前段には、逆浸透膜装置17が配設されている。
【0013】脱塩室13には、その流入側に、一端が逆浸透膜装置17の透過室に連通するRO透過水供給ライン18の他端が連通し、流出側に脱塩水流出ライン19が連通している。濃縮室14には、その流入側に、一端が逆浸透膜装置17の濃縮室に連通するRO濃縮水供給ライン20が連通し、流出側にEDI濃縮水流出ライン21が連通している。電極室15a、15bには、夫々、流入側にRO透過水供給ライン18が連通し、流出側に電極水流出ライン22が連通している。
【0014】上記構成の純水製造装置11では、電極室15aの陽電極16aと、電極室15bの陰電極16bとの間に、整流された直流電流(脈流)がイオン交換電流として供給される。イオン交換電流は、脱塩室13内のRO透過水及び濃縮室14内のRO濃縮水の流れと直交する方向に流れる。脱塩室13内を流れるRO透過水は、この電流によって、脱塩室13内のイオン交換樹脂12の充填層を通過する際に不純物イオンが除去され、脱塩水(純水)として脱塩水流出ライン19から流出する。
【0015】一方、脱塩室13内で除去された、RO透過水中の不純物イオンは、電気的に吸引されてカチオン交換膜又はアニオン交換膜を通過し、濃縮室14に移動する。つまり、不純物イオンの内の陽イオンは、陰極側に吸引されカチオン交換膜を通過して濃縮室14に移動し、陰イオンは、陽極側に吸引されアニオン交換膜を通過して濃縮室14に移動する。このため、濃縮室14を流れるRO濃縮水は、移動してくる不純物イオンを受け取り、不純物イオンを濃縮したEDI濃縮水としてEDI濃縮水流出ライン21から流出する。また、電極室15a、15bを流れるRO透過水は、電極水流出ライン22から流出する。
【0016】電源制御回路24は、インバータ(制御手段)25と、三相トランス回路26と、三相全波整流回路27とを備えている。三相全波整流回路27の出力側には交流電圧成分を除去するためのフィルタを備えていない。
【0017】インバータ25は、電源端子が三相交流電源31に接続され、信号入力端子がローパスフィルタ28を介して信号発生回路(信号発生手段)29に接続されている。ローパスフィルタ28は、インバータ25に導通するライン34に接続された抵抗32と電解コンデンサ33とから構成される。三相全波整流回路27は、陽電極16aに接続される正極端子39aと、陰電極16bに接続される負極端子39bとを備えており、全波整流回路27には、監視回路(電流検出手段)30が接続されている。
【0018】監視回路30は、イオン交換電流を検出するもので、負極端子39bに導通するライン42に直列に挿入された抵抗41と、この抵抗41の両端電圧を検出する電圧検出用IC46と、電圧検出用IC46に抵抗47を介してベースが接続されたnpnトランジスタ45と、一端が抵抗44を介して電圧検出用IC46に接続され且つ他端がトランジスタ45に接続されたLED43とを備える。例えば、イオン交換電流を1A、抵抗41を33Ω、抵抗44を330Ω、抵抗47を47kΩとすると、抵抗41の両端の電圧降下は3.3Vとなる。従って、監視回路30では、抵抗41の両端電圧が3.3Vを越えたことを電圧検出用IC46によって検出した場合に、陽電極16aと陰電極16bとの間に流れるイオン交換電流が所定値(1A)を越えたとして、LED43に通電してこれを発光させる。
【0019】信号発生回路29は、ライン34を介して接続されたインバータ25の作動を制御するワンチップマイコン35と、所定の周波数で発振してワンチップマイコン35にクロックを供給する水晶振動子36と、フォトトランジスタ37と、ワンチップマイコン35に電源(例えば、D.C.5V)を供給する直流電源部38とを備える。フォトトランジスタ37がLED43から受光すると、ワンチップマイコン35が、イオン交換電流が所定値を越えた旨を認識して、電流変動信号を、例えば、0〜5Vの方形波としてインバータ25に出力する。
【0020】インバータ25は、イオン交換電流を所定値に制御するものであり、信号発生回路29からローパスフィルタ28を経由して送られた電流高の信号に応答し、電源31の電圧と周波数とを相互の比例関係を維持しつつ下降させ、電流低の信号に応答し、電源31の電圧と周波数とを相互の比例関係を維持しつつ上昇させる。
【0021】上記構成の純水製造装置11では、インバータ25の出力は、三相トランス回路26及び三相全波整流回路27を経由して全波整流され、正極端子39a及び負極端子39bを経由して、純水製造装置11の陽電極16aと陰電極16bとの間に供給される。これにより、純水製造装置11では、前述の工程によって、原水から脱塩水(純水)が製造される。
【0022】この場合、監視回路30では、抵抗41の両端電圧を監視し、両端電圧が所定値を越えたことを電圧検出用IC46によって検出したときに、イオン交換電流が所定値を越えたとしてLED43を発光させる。信号発生回路29では、フォトトランジスタ37がLED43の光を受けると、ワンチップマイコン35からインバータ25に、電圧と周波数とを比例させて下降させる旨の電流変動信号を出力する。これにより、インバータ25が、電源31の電圧と周波数とを、相互に比例関係を維持した状態で下げるので、陽電極16aと陰電極16bとの間のイオン交換電流は所定値に維持される。
【0023】上述のように、本発明の純水製造装置11では、イオン交換樹脂の汚染等によって陽電極16aと陰電極16bとの間の電気抵抗値が高くなると、交流電源の電圧と周波数とを相互に比例関係を維持しつつ上昇させて、イオン交換電流を所定値に制御する。周波数を電圧に比例させて制御することにより、周波数の上昇に伴って印加電圧中の交流成分が減少し、イオン交換樹脂12中における誘電体損が減少するので、印加電圧の上昇に伴って増加する誘電体損が相殺される。これにより、イオン交換電流を所定値に制御しながらイオン交換樹脂12の温度上昇を抑制できるので、良好なイオン交換状態を持続させ、イオン交換樹脂12の寿命を延ばすことができる。」

(エ) 「【図1】



イ 前記ア(ア)の記載によれば、甲第1号証には、イオン交換膜の相互間にイオン交換体が充填された少なくとも1つの脱塩室及び該脱塩室に隣接する少なくとも1つの濃縮室から成る脱イオンチャンバと、相互間に前記脱イオンチャンバを挟んで配設される陽電極及び陰電極と、交流電源から供給される交流電流を整流して前記陽電極及び陰電極間にイオン交換電流を供給する整流装置とを備える純水製造装置において、前記イオン交換電流を検出する電流検出手段と、前記イオン交換電流が所定値から変動したときに電流変動信号を発生する信号発生手段と、前記電流変動信号に応答し、交流電源の電圧及び周波数を相互に比例関係を維持しつつ制御する制御手段とを備え、前記イオン交換電流を所定値に制御する、純水製造装置が記載されている。
また、前記ア(イ)の記載によれば、前記純水製造装置は、陽電極と陰電極との間にイオン交換電流を流すことにより、脱塩室を流れる透過水中のイオンが、濃縮室を流れる濃縮水中に電気的に排除されて、脱イオン水(純水)が得られるものであり、イオン交換電流には、交流電流を整流した直流電流が使用されるのであるが、運転が開始されると、イオン交換体の汚染が進み、或いは、反応ガスがイオン交換体内に滞留すること等によって、陽電極と陰電極との間の電気抵抗が運転開始以前より高くなるので、陽電極と陰電極との間に印加される電圧を徐々に上昇させ、双方の電極間を流れるイオン交換電流を電気抵抗の上昇に拘わらず一定値に維持しているものであり、この印加電圧は、通常、所定値の電流を維持するために、例えば、50V〜400Vの間で変化させるものであり(段落【0003】〜【0004】)、イオン交換電流を一定に保持するために印加電圧を上昇させると、イオン交換体内における誘電体損も増加し、これに比例してイオン交換体の温度が上昇するため、交流電源の電圧と周波数とを相互に比例関係を維持しつつ上昇させ、印加する直流電圧中に含まれる交流成分の比率(リプル率)を下げることにより、電圧上昇に伴うイオン交換体の温度上昇を抑えるものである(段落【0009】)。
すなわち、前記ア(ウ)及び(エ)の記載によれば、前記純水製造装置は、カチオン交換膜とアニオン交換膜との間にイオン交換体としてイオン交換樹脂が充填された脱塩室、及び脱塩室に隣接する濃縮室から成る脱イオンチャンバと、相互間に該脱イオンチャンバを挟んで配設される電極室とを備え、電極室内には陽電極、陰電極が配設されるものであり(段落【0012】)、イオン交換樹脂の汚染等によって陽電極と陰電極との間の電気抵抗値が高くなると、交流電源の電圧と周波数とを相互に比例関係を維持しつつ上昇させて、イオン交換電流を所定値に制御することにより、周波数の上昇に伴って印加電圧中の交流成分が減少し、イオン交換樹脂中における誘電体損が減少するので、印加電圧の上昇に伴って増加する誘電体損が相殺され、これによって、イオン交換電流を所定値に制御しながらイオン交換樹脂の温度上昇を抑制できるので、良好なイオン交換状態を持続させ、イオン交換樹脂の寿命を延ばすことができるものである(段落【0023】)。

ウ 前記イによれば、甲第1号証には、以下の発明が記載されているといえる。
「イオン交換膜の相互間にイオン交換体が充填された少なくとも1つの脱塩室及び該脱塩室に隣接する少なくとも1つの濃縮室から成る脱イオンチャンバと、相互間に前記脱イオンチャンバを挟んで配設される陽電極及び陰電極と、交流電源から供給される交流電流を整流して前記陽電極及び陰電極間にイオン交換電流を供給する整流装置とを備える純水製造装置において、前記イオン交換電流を検出する電流検出手段と、前記イオン交換電流が所定値から変動したときに電流変動信号を発生する信号発生手段と、前記電流変動信号に応答し、交流電源の電圧及び周波数を相互に比例関係を維持しつつ制御する制御手段とを備え、前記イオン交換電流を所定値に制御する、純水製造装置であって、
前記純水製造装置は、陽電極と陰電極との間にイオン交換電流を流すことにより、脱塩室を流れる透過水中のイオンが、濃縮室を流れる濃縮水中に電気的に排除されて、脱イオン水(純水)が得られるものであり、イオン交換電流には、交流電流を整流した直流電流が使用されるのであるが、運転が開始されると、イオン交換体の汚染が進み、或いは、反応ガスがイオン交換体内に滞留すること等によって、陽電極と陰電極との間の電気抵抗が運転開始以前より高くなるので、陽電極と陰電極との間に印加される電圧を徐々に上昇させ、双方の電極間を流れるイオン交換電流を電気抵抗の上昇に拘わらず一定値に維持しているものであり、この印加電圧は、通常、所定値の電流を維持するために、例えば、50V〜400Vの間で変化させるものであり、イオン交換電流を一定に保持するために印加電圧を上昇させると、イオン交換体内における誘電体損も増加し、これに比例してイオン交換体の温度が上昇するため、交流電源の電圧と周波数とを相互に比例関係を維持しつつ上昇させ、印加する直流電圧中に含まれる交流成分の比率(リプル率)を下げることにより、電圧上昇に伴うイオン交換体の温度上昇を抑えるものであり、
前記純水製造装置は、カチオン交換膜とアニオン交換膜との間にイオン交換体としてイオン交換樹脂が充填された脱塩室、及び脱塩室に隣接する濃縮室から成る脱イオンチャンバと、相互間に該脱イオンチャンバを挟んで配設される電極室とを備え、電極室内には陽電極、電極室内には陰電極が配設されるものであり、イオン交換樹脂の汚染等によって陽電極と陰電極との間の電気抵抗値が高くなると、交流電源の電圧と周波数とを相互に比例関係を維持しつつ上昇させて、イオン交換電流を所定値に制御することにより、周波数の上昇に伴って印加電圧中の交流成分が減少し、イオン交換樹脂中における誘電体損が減少するので、印加電圧の上昇に伴って増加する誘電体損が相殺され、これによって、イオン交換電流を所定値に制御しながらイオン交換樹脂の温度上昇を抑制できるので、良好なイオン交換状態を持続させ、イオン交換樹脂の寿命を延ばすことができるものである、純水製造装置。」(以下、「甲1発明1」という。)

エ また、前記純水製造装置により純水を製造する工程は、純水製造方法といえるから、甲第1号証には、以下の発明が記載されているといえる。
「イオン交換膜の相互間にイオン交換体が充填された少なくとも1つの脱塩室及び該脱塩室に隣接する少なくとも1つの濃縮室から成る脱イオンチャンバと、相互間に前記脱イオンチャンバを挟んで配設される陽電極及び陰電極と、交流電源から供給される交流電流を整流して前記陽電極及び陰電極間にイオン交換電流を供給する整流装置とを備える純水製造装置において、前記イオン交換電流を検出する電流検出手段と、前記イオン交換電流が所定値から変動したときに電流変動信号を発生する信号発生手段と、前記電流変動信号に応答し、交流電源の電圧及び周波数を相互に比例関係を維持しつつ制御する制御手段とを備え、前記イオン交換電流を所定値に制御する、純水製造方法であって、
前記純水製造方法は、陽電極と陰電極との間にイオン交換電流を流すことにより、脱塩室を流れる透過水中のイオンが、濃縮室を流れる濃縮水中に電気的に排除されて、脱イオン水(純水)が得られるものであり、イオン交換電流には、交流電流を整流した直流電流が使用されるのであるが、運転が開始されると、イオン交換体の汚染が進み、或いは、反応ガスがイオン交換体内に滞留すること等によって、陽電極と陰電極との間の電気抵抗が運転開始以前より高くなるので、陽電極と陰電極との間に印加される電圧を徐々に上昇させ、双方の電極間を流れるイオン交換電流を電気抵抗の上昇に拘わらず一定値に維持しているものであり、この印加電圧は、通常、所定値の電流を維持するために、例えば、50V〜400Vの間で変化させるものであり、イオン交換電流を一定に保持するために印加電圧を上昇させると、イオン交換体内における誘電体損も増加し、これに比例してイオン交換体の温度が上昇するため、交流電源の電圧と周波数とを相互に比例関係を維持しつつ上昇させ、印加する直流電圧中に含まれる交流成分の比率(リプル率)を下げることにより、電圧上昇に伴うイオン交換体の温度上昇を抑えるものであり、
前記純水製造方法は、カチオン交換膜とアニオン交換膜との間にイオン交換体としてイオン交換樹脂が充填された脱塩室、及び脱塩室に隣接する濃縮室から成る脱イオンチャンバと、相互間に該脱イオンチャンバを挟んで配設される電極室とを備え、電極室内には陽電極、電極室内には陰電極が配設されるものであり、イオン交換樹脂の汚染等によって陽電極と陰電極との間の電気抵抗値が高くなると、交流電源の電圧と周波数とを相互に比例関係を維持しつつ上昇させて、イオン交換電流を所定値に制御することにより、周波数の上昇に伴って印加電圧中の交流成分が減少し、イオン交換樹脂中における誘電体損が減少するので、印加電圧の上昇に伴って増加する誘電体損が相殺され、これによって、イオン交換電流を所定値に制御しながらイオン交換樹脂の温度上昇を抑制できるので、良好なイオン交換状態を持続させ、イオン交換樹脂の寿命を延ばすことができるものである、純水製造方法。」(以下、「甲1発明2」という。)

(2) 甲第2号証の記載事項及び甲第2号証に記載された発明
ア 甲第2号証には、以下の(ア)〜(ウ)の記載がある。
(ア) 「

」(2009年5月発行分2ページ)

(イ) 「

」(2009年5月発行分4ページ)

(ウ) 「

」(2009年5月発行分6ページ)

イ 前記ア(ア)の記載によれば、甲第2号証には高効率大容量スイッチング電源PAT−Tシリーズが記載されており、このうち前記ア(イ)に記載されたPAT80−100Tに注目すると、前記PAT80−100Tは、水処理、メッキ等に用いられることが看取されるものであり、前記ア(ウ)の記載によれば、公称入力定格電圧が3相AC200V〜AC240V、50Hz〜60Hzであり、定格出力電力が8kWであり、定格出力電圧が80.00Vであり、定格出力電流が100.0Aであり、定電圧におけるリップルノイズが、測定周波数帯域10Hz〜20MHzにおいて、350mVp−pであり、測定周波数帯域5Hz〜1MHzにおいて、30mVrmsであるものである。

ウ 前記イによれば、甲第2号証には、以下の発明が記載されているといえる。
「高効率大容量スイッチング電源PAT80−100Tであって、
前記PAT80−100Tは、水処理、メッキ等に用いられるものであり、
公称入力定格電圧が3相AC200V〜AC240V、50Hz〜60Hzであり、定格出力電力が8kWであり、定格出力電圧が80.00Vであり、定格出力電流が100.0Aであり、定電圧におけるリップルノイズが、測定周波数帯域10Hz〜20MHzにおいて、350mVp−pであり、測定周波数帯域5Hz〜1MHzにおいて、30mVrmsである、高効率大容量スイッチング電源PAT80−100T。」(以下、「甲2発明1」という。)

エ 同様に、前記ア(イ)に記載されたPAT160−50Tに注目すると、甲第2号証には、以下の発明が記載されているといえる。
「高効率大容量スイッチング電源PAT160−50Tであって、
前記PAT160−50Tは、水処理、メッキ等に用いられるものであり、
公称入力定格電圧が3相AC200V〜AC240V、50Hz〜60Hzであり、定格出力電力が8kWであり、定格出力電圧が160.0Vであり、定格出力電流が500.0Aであり、低電圧におけるリップルノイズが、測定周波数帯域10Hz〜20MHzにおいて、350mVp−pであり、測定周波数帯域5Hz〜1MHzにおいて、30mVrmsである、高効率大容量スイッチング電源PAT160−50T。」(以下、「甲2発明2」という。)
更に同様に、前記ア(イ)に記載されたPAT650−12.3Tに注目すると、PAT650−12.3Tは、コンデンサ、太陽光発電に用いられることが看取されることからすれば、甲第2号証には、以下の発明が記載されているといえる。
「高効率大容量スイッチング電源PAT650−12.3Tであって、
前記PAT650−12.3Tは、コンデンサ、太陽光発電に用いられるものであり、
公称入力定格電圧が3相AC200V〜AC240V、50Hz〜60Hzであり、定格出力電力が8kWであり、定格出力電圧が650.0Vであり、定格出力電流が12.30Aであり、定電圧におけるリップルノイズが、測定周波数帯域10Hz〜20MHzにおいて、600mVp−pであり、測定周波数帯域5Hz〜1MHzにおいて、100mVrmsである、高効率大容量スイッチング電源PAT650−12.3T。」(以下、「甲2発明3」という。)

(3) 甲第9号証の記載事項
甲第9号証には、以下の記載がある。


」(606ページ左欄)

(4) 甲第10号証の記載事項
甲第10号証には、以下のア、イの記載がある。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 電解にてアルカリイオン水と酸性イオン水とを生成してこれら電解水を各別に吐出する電解槽の電極に直流電流を供給する電源を出力電圧が可変のスイッチング電源で形成するとともに、電解槽から吐出されるイオン水のpH値を測定するpHセンサと、pHセンサ出力と希望の設定pH値とを比較して比較結果をD/A変換部へ通じて上記スイッチング電源に送ってスイッチング電源の出力電圧を制御する制御部とを備えていることを特徴とするイオン水生成装置。」

イ 「【0013】このイオン水生成装置においては、商用コンセントにプラグを差し込むと、ラインフィルター11を介して電源トランス12に電源が入り、整流回路13,13を通じてDC5V安定化電源とDC±12V安定化電源が各部に供給され、表示操作部8の電源スイッチ80をオンとすれば、電源ランプLが点灯するとともに、リレー接点rがオンなってスイッチング電源2に交流が供給される。また、この時点では、もっとも利用頻度が高い弱アルカリイオン水(pH8.5±0.5程度)をアルカリイオン水選択スイッチ81で選択した場合と同じ状態にセットされる。得たいイオン水のpH値が異なる場合には、アルカリイオン水選択スイッチ81と酸性イオン水選択スイッチ83のいずれかを操作する。
・・・
【0015】また、ここでは、pH値による負帰還制御に加えて、スイッチング電源2内において出力電圧の負帰還制御も行っている。・・・このようなスイッチング電源2の出力における電圧リップルは小さく且つ安定しているために、電解槽1の電極に完全な直流電流を供給することが可能であり、これ故に電極の寿命を長くすることができる。」

(5) 甲第18号証の記載事項
甲第18号証には、以下のア、イの記載がある。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
超純水製造システムにおけるアニオン交換装置又は混床式イオン交換装置の前段に熱交換器を配置し、前記アニオン交換装置又は混床式イオン交換装置に通水する被処理水の水温を25℃以下に制御することを特徴とする超純水の製造方法。」

イ 「【0013】
前述したとおり、最近、超純水中のホウ素イオンの濃度を低くすることが求められるようになってきているが、ホウ素イオンはイオン交換樹脂に吸着され難いため、ホウ素イオンを少なくするためには、いきおいイオン交換樹脂の再生を頻繁に行わなければならず、このため超純水製造システムのメンテナンスコストが高くなるという問題があった。
【0014】
本発明者等は、かかる問題を解消すべく鋭意研究を進めたところ、被処理水の水温を低くすると、イオン交換樹脂のホウ素イオンの破過までの時間が長くなることを見出だした。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、かかる知見に基づいてなされたもので、超純水製造システムにおけるアニオン交換装置又は混床式イオン交換装置の前段に熱交換器を配置し、前記アニオン交換装置又は混床式イオン交換装置の被処理水の水温を25℃以下、好ましくは20℃以下に制御することを特徴としている。
・・・
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、イオン交換装置の再生時期を延長するとともにホウ素を極低濃度まで低減させることができる。」

なお、このほかの甲各号証の摘記は省略する。

2 特許法第29条第1項所定の規定違反(新規性欠如)について
(1) 本件発明1、3、5、6について
ア 対比
(ア) 本件発明1と甲1発明1とを対比すると、甲1発明1における「陽電極」、「陰電極」、「陽電極」が配設される「電極室」、「陰電極」が配設される「電極室」、「アニオン交換膜」及び「カチオン交換膜」、「濃縮室」及び「脱塩室」、「脱塩室」に充填された「イオン交換樹脂」は、それぞれ、本件発明1における「陽極」、「陰極」、「前記陽極と前記陰極の間に配置され、前記陽極に接する陽極室」、「前記陰極に接する陰極室」、「前記陽極室と前記陰極室との間に交互に配置されたアニオン交換膜およびカチオン交換膜」、「前記アニオン交換膜および前記カチオン交換膜の間に交互に形成された濃縮室および脱塩室」、「前記脱塩室内に充填されたイオン交換体」に相当し、甲1発明1における「脱イオンチャンバ」及び「脱イオンチャンバを挟んで配設される電極室」は、本件発明1における「電気式脱イオンスタック」に相当する。
また、甲1発明1における「交流電源から供給される交流電流を整流して前記陽電極及び陰電極間にイオン交換電流を供給する整流装置」は、「イオン交換電流」として「交流電流を整流した直流電流が使用される」ことからみれば、本件発明1における「前記陽極と前記陰極の間に直流電圧を印加する電源装置」に相当し、甲1発明1における「純水製造装置」は、脱イオン水(純水)を得るものであるから、本件発明1における「電気式脱イオン装置」に相当し、甲1発明1において「印加電圧」を「50V〜400Vの間で変化させる」ことは、本件発明1において「直流電圧が、50〜200Vであ」ることを満たす。

(イ) そうすると、本件発明1と甲1発明1とは、
「陽極と、
陰極と、
前記陽極と前記陰極の間に配置され、前記陽極に接する陽極室と、前記陰極に接する陰極室と、前記陽極室と前記陰極室との間に交互に配置されたアニオン交換膜およびカチオン交換膜と、前記アニオン交換膜および前記カチオン交換膜の間に交互に形成された濃縮室および脱塩室と、前記脱塩室内に充填されたイオン交換体とを有する、電気式脱イオンスタックと、
前記陽極と前記陰極の間に直流電圧を印加する電源装置と
を有する電気式脱イオン装置であって、
前記直流電圧が、50〜200Vである、電気式脱イオン装置。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
・相違点1:「直流電圧」が、本件発明1は、「所定の期間の最大電圧をVmax、最少電圧をVminとしたときに、下記関係式(1)を満たす」「(Vmax−Vmin)/(Vmax+Vmin)≦0.3 …(1)」のに対して、甲1発明1は、「交流電源の電圧と周波数とを相互に比例関係を維持しつつ上昇させ、印加する直流電圧中に含まれる交流成分の比率(リプル率)を下げる」ものであり、「イオン交換樹脂の汚染等によって陽電極と陰電極との間の電気抵抗値が高くなると、交流電源の電圧と周波数とを相互に比例関係を維持しつつ上昇させて、イオン交換電流を所定値に制御する」ものである点。

イ 判断
(ア) 以下、前記ア(イ)の相違点1が実質的な相違点であるか否かについて検討すると、本件特許明細書には以下の記載がある。
「【0035】
また、直流電圧が式(1)を満足することは、以下に説明するとおり、該直流電圧の電圧リップルが低減されていることを示し、このように、電圧リップルを小さくすることで、複数の電気式脱イオン装置11を直列接続して運転した場合に、電源装置からの供給電圧を長期間安定的に維持することができるという利点もある。特に、ホウ素やシリカなどの弱電解質を高度に除去するために、電圧実効値を大きくすることで電源装置にかかる負荷が大きくなった場合に、電源装置からの供給電圧を長期間安定的に維持するという優れた効果を発揮しやすい。
・・・
【0037】
本発明で使用する電源装置113は、例えば、このような電圧リップル発生の周期を所定の期間として、この間での電圧の最大値Vmaxと最小値Vminの差と、所定の期間における電圧の平均値((Vmax+Vmin)/2で近似される。)の比が小さいものを用いることとした。すなわち、式(1)((Vmax−Vmin)/(Vmax+Vmin)≦0.3)は、本発明が効果を発揮するために指標となる電圧リップルを規定する式であり、式(1)を満足することで、電圧リップルを小さくし、電気式脱イオン装置11の透過水中のホウ素を早期にかつ著しく低減するという効果を実現した。この原理はあくまでも推測であるが、一例として次のように考えられる。
【0038】
上述したように、電気式脱イオンスタック110内では、被処理水が脱塩室114内を通流する過程で、イオン交換体に被処理水中のイオン成分が吸着されると同時に、イオン交換体に吸着されたイオン成分が電流によって水が解離して生じた水素イオンおよび水酸化イオンとイオン交換することでイオン交換体から脱離し、濃縮室116へと移動する。
【0039】
このとき、陽極および陰極間に印加される直流電圧のリップルが大きい場合、陽極から陰極に流れる電流値の変動が電圧リップルに応じて大きくなり、所定の期間の間で電流が相対的に大きい期間と小さい期間が生じる。そして、この電流が小さい期間ではイオン交換体が吸着したイオン成分の脱離が起こりにくくなるため、その結果、陽極から陰極に流れる電流が小さい期間では、イオン交換体のイオン交換基が吸着できるイオン成分の量が少なくなり、透過水中に除去しきれないイオン成分が残留しやすくなる。特に、ホウ素やシリカなどの弱電解質が透過水中に残りやすくなる。
【0040】
これに対し、電圧リップルの小さい直流電圧が印加された場合には、定常的に電流が流れるため、イオン交換体からのイオン成分の脱離とイオン交換基へのイオン成分の吸着が連続的かつ定常的に行われ、その結果、被処理水中のイオン成分をより高度に低減できることとなる。特に、ホウ素やシリカなどの弱電解質の濃度が飛躍的に低減できるようになる。また、電気式脱イオンスタック内でのイオン成分の滞留が起こりにくいため、イオン成分を濃縮水中に迅速に排出することができるので、イオン成分の除去効率を向上させることができる。
・・・
【0051】
実施形態の電気式脱イオン装置に用いる電源装置の特性、特には、出力する直流電圧のリップルの程度を評価する際は、50〜200Vの定電圧を出力させて評価することができ、例えば、70〜90Vの直流電圧を出力させて評価することが好ましい。
・・・
【0089】
なお、電源装置の故障の原因は、必ずしも明らかではないが複数台の電源装置を使用することによる、電源装置同士の干渉、あるいは電圧リップルによって供給電圧や供給電流の周期的な増減が生じ、これにより電磁波が発生したことの影響ではないかと推測している。また、ホウ素やシリカ等の弱電解質の高除去率を得るためには、他のイオンを脱塩する場合と比較して高電流を流す必要があり、そのために高電圧で運転することになるので、電源装置への負担が大きくなることも影響していると考えられる。」

(イ) 前記(ア)の本件特許明細書の記載からみれば、本件発明1において「直流電圧」が「関係式(1)」を満足することは、該「直流電圧」の電圧リップルが低減されていることを示すものであり、電圧リップルを小さくすることで、複数の「電気式脱イオン装置」を直列接続して運転した場合に、「電源装置」からの供給電圧を長期間安定的に維持することができるものであり(段落【0035】)、「関係式(1)」は、本件発明が効果を発揮するために指標となる電圧リップルを規定する式であり、「関係式(1)」を満足することで、電圧リップルを小さくし、「電気式脱イオン装置」の透過水中のホウ素を早期にかつ著しく低減するという効果を実現したものである(段落【0037】)。
また、出力する直流電圧のリップルの程度を評価する際は、「50〜200V」の定電圧を出力させて評価するものである(段落【0051】)。
そうすると、本件発明1は、「50〜200V」の定電圧を出力させて評価したとき、「直流電圧」が「関係式(1)を満たす」、すなわち、「(Vmax−Vmin)/(Vmax+Vmin)≦0.3」となる程度に電圧リップルを低減することで、「電源装置」からの供給電圧を長期間安定的に維持することができ、「電気式脱イオン装置」の透過水中のホウ素を早期にかつ著しく低減するという効果を奏するものといえるのであり、このことは、本件特許明細書の段落【0072】〜【0090】、【図3】、【図5】の実施例の記載からも裏付けられるものである。
一方、甲1発明1は、「印加する直流電圧中に含まれる交流成分の比率(リプル率)を下げる」ものであり、本件発明1と同様に、電圧リップルを低減するものといえるのであるが、そこから進んで、「50〜200V」の定電圧を出力させて評価したとき、「直流電圧」が「関係式(1)を満たす」、すなわち、「(Vmax−Vmin)/(Vmax+Vmin)≦0.3」となるまで電圧リップルを低減することまでは記載も示唆もされていないし、このことが甲第1号証に記載されているに等しいといえることを裏付ける技術常識も存在しない。
してみれば、甲1発明1が、「所定の期間の最大電圧をVmax、最少電圧をVminとしたときに、下記関係式(1)を満たす」「(Vmax−Vmin)/(Vmax+Vmin)≦0.3 …(1)」、との前記相違点1に係る発明特定事項を有するものとはいえないから、前記相違点1は実質的な相違点であるので、本件発明1が甲1発明1であるとはいえない。
更に、本件発明3、5及び6について検討しても事情は同じである。

(2) 本件発明10、12について
ア 対比
(ア) 前記(1)ア(ア)と同様にして本件発明10と甲1発明2とを対比すると、甲1発明2における「陽電極」、「陰電極」、「陽電極」が配設される「電極室」、「陰電極」が配設される「電極室」、「アニオン交換膜」及び「カチオン交換膜」、「濃縮室」及び「脱塩室」、「脱塩室」に充填された「イオン交換樹脂」は、それぞれ、本件発明10における「陽極」、「陰極」、「前記陽極と前記陰極の間に配置され、前記陽極に接する陽極室」、「前記陰極に接する陰極室」、「前記陽極室と前記陰極室との間に交互に配置されたアニオン交換膜およびカチオン交換膜」、「前記アニオン交換膜および前記カチオン交換膜の間に交互に形成された濃縮室および脱塩室」、「前記脱塩室内に充填されたイオン交換体」に相当し、甲1発明2における「脱イオンチャンバ」及び「脱イオンチャンバを挟んで配設される電極室」は、本件発明10における「電気式脱イオンスタック」に相当する。
また、甲1発明2における「交流電源から供給される交流電流を整流して前記陽電極及び陰電極間にイオン交換電流を供給する整流装置」は、本件発明10における「前記陽極と前記陰極の間に直流電圧を印加する電源装置」に相当し、甲1発明2における「純水製造装置」は、本件発明10における「電気式脱イオン装置」に相当し、甲1発明2において「印加電圧」を「50V〜400Vの間で変化させる」ことは、本件発明10において「直流電圧が、50〜200Vであ」ることを満たす。
そして、甲1発明2における「純水製造方法」は、本件発明10における「被処理水を、電気式脱イオン装置で処理する工程を含む」「純水製造方法」に相当する。

(イ) そうすると、本件発明10と甲1発明2とは、
「被処理水を、電気式脱イオン装置で処理する工程を含む純水製造方法であって、
前記電気式脱イオン装置は、陽極と、陰極と、前記陽極と前記陰極の間に配置され、前記陽極に接する陽極室と、前記陰極に接する陰極室と、前記陽極室と前記陰極室との間に交互に配置されたアニオン交換膜およびカチオン交換膜と、前記アニオン交換膜および前記カチオン交換膜の間に交互に形成された濃縮室および脱塩室と、前記脱塩室内に充填されたイオン交換体とを有する、電気式脱イオンスタックと、前記陽極と前記陰極の間に直流電圧を印加する電源装置を有し、
前記直流電圧が、50〜200Vである純水製造方法。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
・相違点1’:「直流電圧」が、本件発明10は、「所定の期間の最大電圧をVmax、最少電圧をVminとしたときに、下記関係式(1)を満たす条件で、前記被処理水を処理する」「(Vmax−Vmin)/(Vmax+Vmin)≦0.3…(1)」ものであるのに対して、甲1発明2は、「交流電源の電圧と周波数とを相互に比例関係を維持しつつ上昇させ、印加する直流電圧中に含まれる交流成分の比率(リプル率)を下げる」ものであり、「イオン交換樹脂の汚染等によって陽電極と陰電極との間の電気抵抗値が高くなると、交流電源の電圧と周波数とを相互に比例関係を維持しつつ上昇させて、イオン交換電流を所定値に制御する」ものである点。
・相違点2:本件発明10は「超純水製造方法」に係るものであるのに対して、甲1発明2は「純水製造方法」に係るものである点。

イ 判断
始めに、前記ア(イ)の相違点1’が実質的な相違点であるか否かについて検討すると、前記相違点1’は前記相違点1と同じものであるから、前記(1)イ(イ)に記載したのと同様の理由により、前記相違点1’は実質的な相違点であるので、前記ア(イ)の相違点2について検討するまでもなく、本件発明10が甲1発明2であるとはいえない。
更に、本件発明12について検討しても事情は同じである。

(3) 申立人の主張について
ア 特許法第29条第1項所定の規定違反(新規性欠如)についての申立人の主張は、概略、以下のとおりである。
(ア) 甲第9号証に記載された事項からみれば、甲第1号証に記載された発明において「印加する直流電圧中に含まれる交流成分の比率(リプル率)を下げる」ことは、「関係式(1)」の「(Vmax−Vmin)/(Vmax+Vmin)」を下げることに相当し、甲第11号証(段落【0011】)、甲第12号証(段落【0010】)、甲第16号証(段落【0010】)、甲第17号証(段落【0012】)の記載からみれば、「電気式脱イオン装置」においてホウ素除去性能を向上させることは本件特許の優先日当時における周知の課題であり、また、本件特許明細書において「関係式(1)」の「0.3」の臨界的意義を示す実験結果は記載されていないから、周知の課題であるホウ素除去性能を向上させることに対して、甲第1号証に記載された発明において「印加する直流電圧中に含まれる交流成分の比率(リプル率)を下げる」ことには、「(Vmax−Vmin)/(Vmax+Vmin)≦0.3」とすることが含まれるので、本件発明1は甲第1号証に記載された発明である(37ページ5行〜39ページ14行)。

(イ) 甲第18号証(段落【0013】、【0021】)には、混床式イオン交換装置を用いる超純水の製造方法において、混床式イオン交換装置に通水する被処理水の水温を低くすることによってホウ素濃度を低くできることが記載されており、一方、甲第1号証には、「印加する直流電圧中に含まれる交流成分の比率(リプル率)を下げることにより、電圧上昇に伴うイオン交換体の温度上昇を抑える」ことが記載されているから、甲第1号証に記載された発明においてホウ素除去率が向上することは明らかである。
すると、甲第1号証に記載された発明において「印加する直流電圧中に含まれる交流成分の比率(リプル率)を下げる」ことは、「(Vmax−Vmin)/(Vmax+Vmin)≦0.3」とすることに相当するので、本件発明1は甲第1号証に記載された発明である(39ページ15行〜40ページ14行)。

イ 以下、前記ア(ア)及び(イ)の主張について検討する。
(ア) 始めに、前記ア(ア)の主張について検討すると、本件特許明細書の記載(前記(1)イ(ア)(段落【0038】〜【0040】))からみれば、本件発明においては、電気式脱イオンスタック内で、被処理水が脱塩室内を通流する過程で、イオン交換体に被処理水中のイオン成分が吸着されると同時に、イオン交換体に吸着されたイオン成分が電流によって水が解離して生じた水素イオン及び水酸化イオンとイオン交換することでイオン交換体から脱離し、濃縮室へと移動するものであり、このとき、陽極及び陰極間に印加される直流電圧のリップルが大きい場合、陽極から陰極に流れる電流値の変動が電圧リップルに応じて大きくなり、所定の期間の間で電流が相対的に大きい期間と小さい期間が生じ、そして、この電流が小さい期間ではイオン交換体が吸着したイオン成分の脱離が起こりにくくなるため、その結果、陽極から陰極に流れる電流が小さい期間では、イオン交換体のイオン交換基が吸着できるイオン成分の量が少なくなり、透過水中に除去しきれないイオン成分が残留しやすくなり、特に、ホウ素やシリカなどの弱電解質が透過水中に残りやすくなるものである。
これに対し、電圧リップルの小さい直流電圧が印加された場合には、定常的に電流が流れるため、イオン交換体からのイオン成分の脱離とイオン交換基へのイオン成分の吸着が連続的かつ定常的に行われ、その結果、被処理水中のイオン成分をより高度に低減できることとなり、特に、ホウ素やシリカなどの弱電解質の濃度が飛躍的に低減できるようになるのであり、また、電気式脱イオンスタック内でのイオン成分の滞留が起こりにくいため、イオン成分を濃縮水中に迅速に排出することができるので、イオン成分の除去効率を向上させることができるものである。
このことからみれば、本件発明においては、電圧リップルを小さくして、「(Vmax−Vmin)/(Vmax+Vmin)≦0.3」を満たすものとすることで、定常的に電流が流れ、イオン交換体からのイオン成分の脱離とイオン交換基へのイオン成分の吸着が連続的かつ定常的に行われ、その結果、被処理水中のイオン成分をより高度に低減できることとなり、特に、ホウ素やシリカなどの弱電解質の濃度が飛躍的に低減できる、という機序により、ホウ素除去性能を向上させることができるものといえる。
そして、甲第1、9号証及び摘記を省略した甲第11、12、16、17号証には、そのような機序によりホウ素除去性能を向上できることが記載も示唆もされるものではないし、このことを開示した技術常識も存在しないから、甲第1号証に記載された発明が、ホウ素除去性能を向上させることができる程度にまで、すなわち、「(Vmax−Vmin)/(Vmax+Vmin)≦0.3」を満たす程度にまで、電圧リップルを小さくする、すなわち、「印加する直流電圧中に含まれる交流成分の比率(リプル率)を下げる」ものということはできない。
してみれば、甲第1号証に記載された発明において「印加する直流電圧中に含まれる交流成分の比率(リプル率)を下げる」ことが、「関係式(1)」の「(Vmax−Vmin)/(Vmax+Vmin)」を下げることに相当し、「電気式脱イオン装置」においてホウ素除去性能を向上させることが本件特許の優先日当時の周知の課題であり、更に、本件特許明細書において「関係式(1)」の「0.3」の臨界的意義を示す実験結果が記載されていないとしても、甲第1号証に記載された発明が、「(Vmax−Vmin)/(Vmax+Vmin)≦0.3」を含むということはできないので、前記ア(ア)の主張は採用できない。

(イ) 次に、前記(ア)イの主張について検討すると、前記(ア)イの主張は、甲第1号証に記載された発明においてホウ素除去率が向上することは明らかであることを前提としたものといえる。
ところが、甲第1号証には、甲第1号証に記載された発明によりホウ素除去率が向上していることは記載されていないし、甲第1号証に記載された発明が、ホウ素除去性能を向上させることができる程度にまで、すなわち、「(Vmax−Vmin)/(Vmax+Vmin)≦0.3」を満たす程度にまで、電圧リップルを小さくする、すなわち、「印加する直流電圧中に含まれる交流成分の比率(リプル率)を下げる」ものということはできないことは、前記(ア)に記載したとおりである。
また、甲第18号証の記載(前記1(5)ア、イ)によれば、甲第18号証には、超純水製造システムにおけるアニオン交換装置又は混床式イオン交換装置に通水する被処理水の水温を25℃以下に制御することで、イオン交換装置の再生時期を延長するとともにホウ素を極低濃度まで低減できることが記載されているに過ぎない。そして、甲第1号証に記載された発明は被処理水の水温を25℃以下に制御するものとはいえないから、イオン交換樹脂の温度上昇を抑制できるものであるとしても、甲第1号証に記載された発明においてホウ素除去率が向上することが明らかであるということはできない。
そうすると、甲第1号証に記載された発明においてホウ素除去率が向上することは明らかであることを前提とした前記(ア)イの主張は、前提において誤っているから、甲第1号証に記載された発明において「印加する直流電圧中に含まれる(リプル率)を下げる」ことが、本件発明1において「(Vmax−Vmin)/(Vmax+Vmin)≦0.3」とすることに相当するとはいえないので、申立人の前記ア(イ)の主張も採用できない。

(4) 小括
したがって、本件発明1、3、5、6、10及び12は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえないから、前記第3の1の特許法第29条第1項所定の規定違反(新規性欠如)についての特許異議の申立て理由は理由がない。

3 特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)について
(1) 甲第1号証を主引用例とした場合について
ア 本件発明1〜9について
前記相違点1が実質的な相違点であることは、前記2(1)イ(イ)に記載したとおりであるから、そこから進んで、前記相違点1の容易想到性について検討すると、本件発明1は、「50〜200V」の定電圧を出力させて評価したとき、「直流電圧」が「関係式(1)を満たす」、すなわち、「(Vmax−Vmin)/(Vmax+Vmin)≦0.3」となるまで電圧リップルを低減することで、複数の「電気式脱イオン装置」を直列接続して運転した場合に、「電源装置」からの供給電圧を長期間安定的に維持することができ、「電気式脱イオン装置」の透過水中のホウ素を早期にかつ著しく低減するものであることは、前記2(1)イ(イ)に記載したとおりである。
そして、甲第2〜19号証には、「50〜200V」の定電圧を出力させて評価したとき、「直流電圧」が「関係式(1)を満たす」、すなわち、「(Vmax−Vmin)/(Vmax+Vmin)≦0.3」となるまで電圧リップルを低減することは記載されていないし、そうすることで、複数の「電気式脱イオン装置」を直列接続して運転した場合に、「電源装置」からの供給電圧を長期間安定的に維持することができ、「電気式脱イオン装置」の透過水中のホウ素を早期にかつ著しく低減できることも記載も示唆もされていない。
してみれば、甲1発明1において、「直流電圧」を、「所定の期間の最大電圧をVmax、最少電圧をVminとしたときに、下記関係式(1)を満たす」「(Vmax−Vmin)/(Vmax+Vmin)≦0.3 …(1)」ものとするには至らないし、そうすることによる効果を予測することも困難である。
したがって、甲1発明1を、前記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることは、当業者が容易になし得ることではないから、本件発明1は、甲1発明1に基づいて、又は、甲1発明1、甲第2〜19号証に記載された事項及び本件特許の優先日当時の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
更に、本件発明2〜9について検討しても事情は同じである。

イ 本件発明10〜15について
前記アと同様にして、前記2(2)ア(イ)の相違点1’の容易想到性について検討すると、前記相違点1’は前記相違点1と同じものであるから、前記アに記載したのと同様の理由により、甲1発明2を、前記相違点1’に係る本件発明10の発明特定事項を有するものとすることは、当業者が容易になし得ることではないので、前記相違点2について検討するまでもなく、本件発明10は、甲1発明2に基づいて、又は、甲1発明2、甲第2〜19号証に記載された事項及び本件特許の優先日当時の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
更に、本件発明11〜15について検討しても事情は同じである。

ウ 申立人の主張について
(ア) 甲第1号証を主引用例とした場合の特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)についての申立人の主張は、概略、以下のとおりである。
a 甲第10号証(段落【0015】)には、電解によるイオン水生成装置における「電源装置」において、スイッチング電源の出力における電圧リップルが小さいと、電極の寿命を長くすることができることが記載されており、前記記載から、電圧リップルが小さい、すなわちリプル率が小さいと、電極の寿命が長くなること、すなわち「電気式脱イオン装置」において用いる「電源装置」のリプル率が小さいと「電気式脱イオン装置」の寿命も長くなることは、本件特許の優先日当時の技術常識であるから、「電源装置」の供給電圧を長期間、安定的に保つことができる「電気式脱イオン装置」を提供するために、リプル率を小さくすること、すなわち「(Vmax−Vmin)/(Vmax+Vmin)≦0.3」とすることは、容易想到である(40ページ22行〜41ページ14行)。

b 甲第1号証に記載された発明のように「印加する直流電圧中に含まれる交流成分の比率(リプル率)を下げる」ことでホウ素除去性能を向上させることは本件特許の優先日当時よく知られており、当業者であれば明らかである。
そして、甲第11号証(段落【0059】)、甲第16号証(段落【0051】【表1】)、甲第17号証(段落【0039】)の記載によれば、本件特許の優先日当時、「電気式脱イオン装置」を用いて本件発明1により達成できる程度までホウ素除去率を向上させることは既に達成されており、本件発明1の効果は当業者が予測できない格別な効果とはいえないから、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである(41ページ15行〜42ページ10行)。

c 甲第2号証に記載された「高効率大容量スイッチング電源」である「PAT80−100T」、「PAT160−50T」及び「PAT650−12.3T」における「(Vmax−Vmin)/(Vmax+Vmin)」を、リップルノイズ及び定格出力電圧に基づいて計算すると、いずれも、「(Vmax−Vmin)/(Vmax+Vmin)≦0.3」の要件を満たすのであり、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明に、本件特許の優先日当時に公知であったこれらの「高効率大容量スイッチング電源」を適用しただけのものである。
また、甲第4号証(1ページ左欄1行〜10行、2ページ右欄の表。)、甲第5号証(1ページ左欄1行〜2行、8行〜13行、2ページ右欄の表。)の記載によれば、本件特許明細書の実施例2及び4で使用されているEvoqua社製の「電源装置」である「IP−POWER−G2」も、本件特許の優先日当時に公知のものであり、前記「IP−POWER−G2」がEvoqua社製の「電気式脱イオン装置」(VNXシリーズ)に用いられることも、本件特許の優先日当時に公知である。
更に、甲第6号証(52〜53ページの表)には、「低電圧/定電流直流電源」である「GPO110−3」及び「GPO250−1」が記載され、前記記載と甲第7号証(段落【0044】)及び甲第8号証(段落【0031】)の記載によれば、「電気式脱イオン装置」の「電源装置」として、「関係式(1)」を満たす「GPO110−3」及び「GPO250−1」を使用することは、本件特許の優先日当時に公知の技術である。
そうすると、本件発明1は、甲第2号証、甲第4号証及び甲第5号証に記載された本件特許の優先日当時に公知の「電源装置」を、甲第1号証、甲第7号証、甲第8号証に記載された「電気式脱イオン装置」に適用しただけであり、本件発明1が奏する効果も、当業者が予測できない格別顕著なものであるともいえないのであり、「直流電圧」を「(Vmax−Vmin)/(Vmax+Vmin)≦0.3」を満たすものとすることは、本件特許の優先日当時に公知のカタログに記載されたスペックに基づいて特定しただけのものであるから、当業者が容易に想到することができたものである。
また、前記甲第2号証、甲第4号証及び甲第5号証に記載された「電源装置」を、甲第1号証に記載された「電気式脱イオン装置」に適用することによってホウ素除去性能を向上させることは、当業者にとって容易である。
なお、特許権者が令和5年4月10日に提出した意見書における甲第3号証に記載された事項についての主張は、甲第3号証の記載(12ページ右下欄1〜2行、12ページ右下欄5〜7行、19〜23行。)からみれば、説得力がない。
したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明、甲第2〜12、15〜18号証に記載された事項及び本件特許の優先日当時の周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである(42ページ11行〜52ページ15行)。

(イ) 以下、前記(ア)a〜cの主張について検討する。
a 始めに、前記(ア)aの主張について検討すると、甲第10号証の記載(前記1(4)ア、イ)によれば、甲第10号証には、電解にてアルカリイオン水と酸性イオン水を生成してこれら電解水を各別に吐出する電解槽の電極に直流電流を供給する電源を出力電圧が可変のスイッチング電源で形成したイオン水生成装置において、スイッチング電源の出力における電圧リップルが小さくかつ安定しているために、電解槽の電極に完全な直流電流を供給することが可能であり、これゆえに電極の寿命を長くできることが記載されているにすぎず、「(Vmax−Vmin)/(Vmax+Vmin)≦0.3」とすることで、複数の「電気式脱イオン装置」を直列接続して運転した場合に、「電源装置」からの供給電圧を長期間安定的に維持することができ、「電気式脱イオン装置」の透過水中のホウ素を早期にかつ著しく低減できることは記載も示唆もされていない。
特に、本件特許明細書の記載(前記2(1)イ(ア)段落【0089】)からみれば、電源装置の故障の原因は、複数台の電源装置を使用することによる、電源装置同士の干渉、あるいは電圧リップルによって供給電圧や供給電流の周期的な増減が生じ、これにより電磁波が発生したことの影響であることが推認され、また、ホウ素やシリカ等の弱電解質の高除去率を得るためには、他のイオンを脱塩する場合と比較して高電流を流す必要があり、そのために高電圧で運転することになるので、電源装置への負担が大きくなることも影響していると考えられるのであるが、甲第10号証には、「電気式脱イオン装置」においてこれらの影響を排除できることは記載も示唆もされていないのであるから、甲第10号証に記載された事項から、本件発明の効果を予測することは困難である。
したがって、甲第1号証に記載された発明において「(Vmax−Vmin)/(Vmax+Vmin)≦0.3」とすることが容易想到であるとはいえないので、前記(ア)aの主張は採用できない。

b 次に、前記(ア)bの主張について検討すると、前記(ア)bの主張は、甲第1号証に記載された発明においてホウ素除去性能が向上していることを前提としたものといえる。
ところが、甲第1号証に記載された発明においてホウ素除去率が向上することが明らかであるということはできないことは、前記2(3)イ(イ)に記載したとおりであるから、前記(ア)bの主張は前提において誤っている。
また、甲第11、16、17号証の記載から、本件発明1により達成できる程度までホウ素除去率を向上させることが既に達成されているとしても、本件発明1は、「(Vmax−Vmin)/(Vmax+Vmin)≦0.3」を満たすことで、複数の「電気式脱イオン装置」を直列接続して運転した場合に、「電源装置」からの供給電圧を長期間安定的に維持することができ、「電気式脱イオン装置」の透過水中のホウ素を早期にかつ著しく低減できるものであり、そのような効果を甲第11、16、17号証の記載から予測することは困難であるから、本件発明1の効果は、当業者が予測できない格別な効果といえるので、前記(ア)bの主張も採用できない。

c 最後に、前記(ア)cの主張について検討すると、前記(ア)cの主張は、総じて、「(Vmax−Vmin)/(Vmax+Vmin)≦0.3」を満たす「電源装置」は、甲第2、4、5、6号証に記載されているから、本件特許の優先日当時に公知であったものであり、本件発明1は、単にこれら公知の「電源装置」を甲第1号証等に記載された「電気式脱イオン装置」に適用しただけのものである、というものと解される。
ところが、甲第2、4、5、6号証には、そもそも、「(Vmax−Vmin)/(Vmax+Vmin)」というパラメータ自体が記載されていないから、甲第1号証に記載された発明の「電源装置」を、甲第2、4、5、6号証に記載された事項に基づいて、「(Vmax−Vmin)/(Vmax+Vmin)≦0.3」を満たすものとするには至らないし、仮に、そうすることが容易想到であるとしても、本件発明1が奏する効果を予測することは困難であることは前記a及びbに記載したとおりである。
したがって、本件発明1が、単に本件特許の優先日当時に公知の「電源装置」を甲第1号証に記載された「電気式脱イオン装置」に適用しただけのものであるとはいえないし、「(Vmax−Vmin)/(Vmax+Vmin)≦0.3」が、本件特許の優先日当時に公知のカタログに記載されたスペックに基づいて特定しただけのものともいえない。
更に、甲第7、8号証に記載された「電気式脱イオン装置」について検討しても事情は同じであるし、このことは、特許権者が令和5年4月10日に提出した意見書の当否に左右されるものでもないから、前記(ア)cの主張も採用できない。

エ 小括
したがって、本件発明1〜15は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、又は、甲第1号証に記載された発明、甲第2〜19号証に記載された事項及び本件特許の優先日当時の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、前記第3の2(1)の特許異議の申立て理由は理由がない。

(2) 甲第2号証を主引用例とした場合について
ア 対比
(ア) 本件発明1と甲2発明1とを対比すると、甲2発明1における「高効率大容量スイッチング電源PAT80−100T」は、本件発明1における「直流電圧を印加する電源装置」に相当し、甲2発明1において「定格出力電圧が80.00V」であることは、本件発明1において「前記直流電圧が、50〜200V」であることを満たす。
また、技術常識(甲第9号証606ページ「リプル百分率」、前記1(3)ア、イ)からみて、甲2発明1における「リップルノイズ」は、出力電圧の交流分におけるピークからピークまでの電圧(リプル電圧)であり、出力電圧の交流分における最大のピーク及び最小のピークは、それぞれ、本件発明1における「所定の期間の最大電圧」「Vmax」及び「最小電圧」「Vmin」に相当する。
そして、前記「リップルノイズ」は、前記「Vmax」と「Vmin」の差にほかならないから、本件発明1における「(Vmax−Vmin)」に相当するので、甲2発明1における「(Vmax−Vmin)」は、「350mV」といえる。
更に、甲2発明1における「定格出力電圧」は、前記技術常識(甲第9号証606ページ「リプル百分率」)からみて、直流出力電圧のことであり、出力電圧の交流分における最大のピーク及び最小のピークは、前記直流出力電圧の上下に存在することからみれば、前記「定格出力電圧」は、本件発明1における「(Vmax+Vmin)」の概略2分の1に相当するといえるから、甲2発明1における「(Vmax+Vmin)」は、「定格出力電圧」概略2倍、すなわちの概略80.00V×2=160.00Vといえる。
そして、前記「定格出力電圧」は、前記「関係式(1)」を評価するときの出力電圧である「50〜200V」を満たすから、甲2発明1における「(Vmax−Vmin)/(Vmax+Vmin)」は、概略、350mV/160.00V=350mV/160000mV=0.0022と計算されるので、「(Vmax−Vmin)/(Vmax+Vmin)≦0.3」を満たす。

(イ) 前記(ア)によれば、本件発明1と甲2発明1とは、
「直流電圧を印加する電源装置であって、
前記直流電圧が、20〜500Vであり、所定の期間の最大電圧をVmax、最小電圧をVminとした時に、下記関係式(1)を満たす電源装置。
(Vmax−Vmin)/(Vmax+Vmin)≦0.3 ・・・(1)」
の点で一致し、以下の点で相違する。
・相違点3:本件発明1は、「陽極と、陰極と、前記陽極と前記陰極の間に配置され、前記陽極に接する陽極室と、前記陰極に接する陰極室と、前記陽極室と前記陰極室との間に交互に配置されたアニオン交換膜およびカチオン交換膜と、前記アニオン交換膜および前記カチオン交換膜の間に交互に形成された濃縮室および脱塩室と、前記脱塩室内に充填されたイオン交換体とを有する、電気式脱イオンスタックと、前記陽極と前記陰極の間に直流電圧を印加する電源装置とを有する電気式脱イオン装置」に係るものであるのに対して、甲2発明1は、「電源装置」に係るものである点。

イ 判断
(ア) 以下、前記ア(イ)の相違点3の容易想到性について検討すると、前記2(1)ア(ア)に記載したのと同様の理由により、甲第1号証には、「陽極と、陰極と、前記陽極と前記陰極の間に配置され、前記陽極に接する陽極室と、前記陰極に接する陰極室と、前記陽極室と前記陰極室との間に交互に配置されたアニオン交換膜およびカチオン交換膜と、前記アニオン交換膜および前記カチオン交換膜の間に交互に形成された濃縮室および脱塩室と、前記脱塩室内に充填されたイオン交換体とを有する、電気式脱イオンスタックと、前記陽極と前記陰極の間に直流電圧を印加する電源装置とを有する電気式脱イオン装置」が記載されているといえ、また、甲第1号証の記載(前記1(1)ア(ア)段落【0003】)によれば、そのような「電気式脱イオン装置」のイオン交換電流には、交流電流を整流した直流電流が使用されるものである。
一方、甲2発明1は、「公称入力定格電圧が3相AC200V〜AC240V 50Hz〜60Hz」であり、「定格出力電圧が80.00V」であるから、交流電流を整流して直流電流として出力するものといえ、更に、水処理に用いられるものである。
これらのことからみれば、甲2発明1を甲第1号証に記載された「電気式脱イオン装置」に適用して、「陽極と、陰極と、前記陽極と前記陰極の間に配置され、前記陽極に接する陽極室と、前記陰極に接する陰極室と、前記陽極室と前記陰極室との間に交互に配置されたアニオン交換膜およびカチオン交換膜と、前記アニオン交換膜および前記カチオン交換膜の間に交互に形成された濃縮室および脱塩室と、前記脱塩室内に充填されたイオン交換体とを有する、電気式脱イオンスタックと、前記陽極と前記陰極の間に直流電圧を印加する電源装置とを有する電気式脱イオン装置」に係るものとすることは、試行的に行い得たことかもしれない。

(イ) しかしながら、本件発明1の効果の予測性について検討すると、第4の2(3)イ(イ)及び第4の3(1)ウ(イ)a及びbに記載したのと同様の理由により、甲第1、11、16、17号証に記載された事項から、本件発明1の効果を予測することは困難であるし、その他の甲各号証の記載事項について検討しても事情は同じである。
してみれば、本件発明1は、当業者が予測することが困難な各別な効果を奏するものといえるから、甲2発明1、甲第1号証に記載された事項及び本件特許の優先日当時の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
更に、甲2発明2及び甲2発明3について検討しても事情は同じである。

ウ 申立人の主張について
(ア) 甲第2号証を主引用例とした場合の特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)についての申立人の主張は、概略、以下のとおりである。
本件発明1と甲第2号証に記載された発明とは、前記ア(イ)の相違点3の点で相違するが、甲第1号証における「純水製造装置(EDI)を用いる純水製造」は、原水の脱イオンによって純水を得る「水処理」の一例であり、「直流電圧50〜200Vを印加する電源装置を用いる水処理」は、主に「電気式脱イオン装置を用いる水処理」であり、当業者であれば、周知の課題である「ホウ素除去性能を向上させる」ことに対して、甲第2号証に記載された発明における「(Vmax−Vmin)/(Vmax+Vmin)≦0.3」を満たす電源装置を、「電気式脱イオン装置を用いる水処理」に適用して、「ホウ素除去性能を向上させる」ことは容易であるから、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明、甲第1号証に記載された事項及び本件特許の優先日当時の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(イ) ところが、甲各号証に記載された事項から、本件発明1の効果の予測することは困難であることは前記イ(イ)に記載したとおりであるし、「(Vmax−Vmin)/(Vmax+Vmin)≦0.3」を満たす電源装置を「電気式脱イオン装置を用いる水処理」に適用することで、「ホウ素除去性能を向上させる」ことができることを裏付ける証拠もないから、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明、甲第1号証に記載された事項及び本件特許の優先日当時の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないので、前記(ア)の主張は採用できない。

エ 小括
したがって、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明、甲第1号証に記載された事項及び本件特許の優先日当時の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、前記第3の2(2)の特許異議の申立て理由も理由がない。

(3) まとめ
よって、前記第3の2の特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)についての特許異議の申立て理由は理由がない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、申立人の特許異議申立書に記載した特許異議の申立て理由によっては、本件発明1〜15に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1〜15に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2024-05-07 
出願番号 P2020-527290
審決分類 P 1 651・ 113- Y (C02F)
P 1 651・ 121- Y (C02F)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 三崎 仁
特許庁審判官 後藤 政博
金 公彦
登録日 2023-07-14 
登録番号 7314133
権利者 野村マイクロ・サイエンス株式会社
発明の名称 電気式脱イオン装置、超純水製造システムおよび超純水製造方法  
代理人 弁理士法人サクラ国際特許事務所  

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