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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C07C
審判 全部申し立て 2項進歩性  C07C
管理番号 1410257
総通号数 29 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2024-05-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2024-01-26 
確定日 2024-05-08 
異議申立件数
事件の表示 特許第7320334号発明「新規なジアミン及びその製造方法、並びに該ジアミンより製造されるポリアミック酸及びポリイミド」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7320334号の請求項1〜9に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7320334号(以下「本件特許」という。)の請求項1〜9に係る特許についての出願は、令和5年3月23日(優先権主張 令和4年4月22日)の出願であって、同年7月26日にその特許権の設定登録がされ、同年8月3日に特許掲載公報が発行された。その後、本件特許の全請求項に係る特許に対し、令和6年1月26日に、特許異議申立人 株式会社ジムウイン(以下「申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。

第2 本件発明
本件特許の請求項1〜9に係る発明は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1〜9に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、各請求項に係る発明を請求項の番号順に「本件発明1」等といい、「本件発明1〜9」をまとめて「本件発明」ともいう。)。

「【請求項1】
下記式(1):
【化1】

で表されるジアミン。
【請求項2】
下記式(2):
【化2】

で表されるジニトロ化合物を還元する、請求項1に記載のジアミンの製造方法。
【請求項3】
下記式(2):
【化3】

で表されるジニトロ化合物。
【請求項4】
下記一般式(3):
【化4】

(式中、Aは4価の芳香族基又は4価の脂肪族基を表す。)
で表される繰り返し単位を有するポリアミック酸。
【請求項5】
下記一般式(4):
【化5】

(式中、Aは4価の芳香族基又は4価の脂肪族基を表す。)
で表される繰り返し単位を有するポリイミド。
【請求項6】
請求項4に記載のポリアミック酸および溶媒を含有するポリアミック酸溶液。
【請求項7】
請求項4に記載のポリアミック酸を含有するフィルム。
【請求項8】
請求項5に記載のポリイミドを含有するフィルム。
【請求項9】
請求項5に記載のポリイミドを含有する層を有する積層体。」

第3 申立理由の概要
申立人が特許異議申立書に記載した申立理由の概要及び添付した証拠方法は、以下に示すとおりである(以下、下記(3)に示す甲号証を、それぞれ番号順に「甲1」等という。)。

(1) 申立理由1(特許法第29条第1項第3号新規性
本件発明1及び4〜9は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、請求項1及び4〜9に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(2) 申立理由2(特許法第29条第2項進歩性
本件発明1〜9は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1及び2〜11に記載された発明に基いて、本件特許の出願前に本件特許の発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、請求項1〜9に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(3) 甲号証等一覧
甲第1号証:特開2008−255252号公報
甲第2号証:特開平8−48773号公報
甲第3号証:Polymers, 2020, Vol. 12, No. 4, 859, p. 1-24, https://doi.org/10.3390/polym12040859
甲第4号証:絶縁材料, 2009, Vol. 42, No. 2, p. 21-25
甲第5号証:Journal of Polymer Science: Part A Polymer Chemistry, 1990, Vol. 28, p. 2753-2764
甲第6号証:Macromolecules, 2008, Vol. 41, p. 9556-9564
甲第7号証:Polymer, 2015, Vol. 80, p. 67-75
甲第8号証:Journal of Applied Polymer Science, 2000, Vol. 75, p. 87-95
甲第9号証:The Royal Society of Chemistry Advances, 2016, Vol. 6, p. 84284-84293
甲第10号証:東京化成工業株式会社, "4,4'-Diaminodiphenyl Ether 101-80-4", 令和6年1月12日印刷, インターネット

甲第11号証:東京化成工業株式会社, "1,4-Bis(4-aminophenoxy)benzene 3491-12-1", 令和6年1月12日印刷, インターネット


第4 甲号証の記載事項
申立人が証拠方法として提出した甲号証の記載事項について、申立理由の判断に必要な箇所を摘記する(以下、「・・・」は記載の省略を表し、下線は当審合議体が付した。)。

(1) 甲1の記載事項
摘記(1a) 「【請求項1】
下記一般式(1)で表される反復単位を有するポリエステルイミド前駆体。
【化1】

(ここで、Bは、式(2)〜式(8)より選択される少なくとも1つの2価の芳香族基であり、2つのカルボキシル基はシス配置に限定されず、シスとトランス配置が混在していてもよい。)
【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

(R1は炭素数1〜6のアルキル基を表す。R2〜R4は炭素数1〜6のアルキル基、水素を表し、R2〜R4は、それぞれ独立であり、同じであっても異なっていてもよい。R5は炭素数1〜6のアルキル基を表す。R6〜R9は炭素数1〜6のアルキル基、水素を表す。)
【請求項2】
下記一般式(9)で表される反復単位を有するポリエステルイミド。
【化9】

(式(9)中、Bは、式(2)〜式(8)より選択される少なくとも1つの2価の芳香族基である。)
【化10】

【化11】

【化12】

【化13】

【化14】

【化15】

【化16】

(R1は炭素数1〜6のアルキル基を表す。R2〜R4は炭素数1〜6のアルキル基、水素を表し、R2〜R4は、それぞれ独立であり、同じであっても異なっていてもよい。R5は炭素数1〜6のアルキル基を表す。R6〜R9は炭素数1〜6のアルキル基、水素を表す。)」

摘記(1b) 「【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
ポリイミドを低熱膨張化するための分子設計として、主鎖骨格をできるだけ直線状で剛直に(内部回転により多様なコンホメーションをとりにくく)する必要がある。しかし一方で、これによりポリマー鎖の絡み合いが減少し、フィルムが脆弱化する恐れがある。また、ポリイミド骨格へのエーテル構造などの屈曲性単位の過大な導入は、膜靭性の向上や金属との接着強度の向上には大きく寄与するが、低熱膨張特性の発現を妨げることが予想される。
本発明において着目したエステル構造は、エーテル構造に比べて内部回転障壁が高く、コンホメーション変化が比較的妨げられているため、剛直構造単位として振舞い、且つポリイミド主鎖にある程度の柔軟さも付与し、可撓性のフィルムを与えることが期待される。
【0034】
また、エステル構造はアミド構造やイミド構造よりも単位体積当たりの分極率が低いため、ポリイミドへのエステル構造の導入は低吸湿膨張率化にも有利である。
しかしながら、低吸湿膨張率化を目論み、ポリイミド中の芳香族エステル構造の含有率を増加させるだけでは、ポリイミド最大の特長である耐熱性、難燃性、前駆体の溶解性(溶液キャスト製膜性)、重合反応性(重合時に沈殿しないこと)の悪化が懸念される。また、膜厚や作製条件にもよるが、熱膨張係数が5〜9ppm/Kと非常に低くなり、銅箔同等の熱膨張係数への制御が困難である。その上、銅箔との接着強度などの悪化も懸念される。
【0035】
本発明においては、酸二無水物及びジアミンとして特定の芳香族骨格を有するモノマーを選定し、ポリイミドへ特定の芳香族骨格及びエステル構造を導入することにより、ポリイミドの耐熱性、前駆体の溶解性、重合反応性を保持したまま、燃焼時のチャー化率の向上による著しい難燃性の向上及び金属、特に銅との接着強度の向上を実現した。
本発明のポリエステルイミド前駆体は、エステル構造を有する酸二無水物及びエステル構造を有するジアミンをモノマーとして用いることにより製造される。
本発明に係るポリエステルイミド前駆体を重合する際、エステル構造を有するモノマーとして、下記式(10)で表されるエステル構造を有するテトラカルボン酸二無水物、及び式(11)〜式(17)より選択されるエステル構造を有するジアミンを少なくとも1種用いる。
【0036】
【化18】

【0037】
【化19】

【0038】
【化20】

【0039】
【化21】

【0040】
【化22】

【0041】
【化23】

【0042】
【化24】

【0043】
【化25】

【0044】
(R1は炭素数1〜6のアルキル基を表す。R2〜R4は炭素数1〜6のアルキル基、水素を表し、R2〜R4は、それぞれ独立であり、同じであっても異なっていてもよい。R5は炭素数1〜6のアルキル基を表す。R6〜R9は炭素数1〜6のアルキル基、水素を表す。)
本発明に係るポリエステルイミドは、式(9)で表される反復単位を有するポリエステルイミドであって、エステル構造を有する特定の芳香族酸二無水物モノマーとジアミンモノマーの構成により、高難燃性、低吸湿膨張率、金属、特に銅との高い接着強度、銅箔同等の低熱膨張係数、高ガラス転移温度を同時に実現することを可能とする。
また、本発明によると、フッ素化モノマーなどの高価なモノマーを使用せずに、上記のような特性を併せ持つポリイミドを低コストで製造することができる。
【0045】
以下に本発明の実施の形態について詳細に説明するが、これらは本発明の実施形態の一例であり、これらの内容に限定されない。
本発明は、式(10)で表されるエステル構造を有する酸二無水物と式(11)〜式(17)で表されるエステル構造を有するジアミンから選択される少なくとも1種のモノマーを重合反応させることにより、産業上極めて有用な、エステル構造及び特定の芳香族構造を有するポリエステルイミドを提供することができる。エステル構造を有し、かつ特定の芳香族構造を有するモノマーの剛直性、疎水性、置換基の立体的嵩高さという構造上の特徴から、樹脂とした際に高難燃性、低吸湿膨張率、金属、特に銅との高い接着強度、銅箔同等の低線熱膨張係数、高ガラス転移温度、可撓性を併せ持つ、従来の材料では得ることのできなかった物性を有する材料とすることができる。」

摘記(1c) 「【0046】
<ポリエステルイミド前駆体の製造方法>
本発明に係るポリエステルイミド前駆体を製造する方法は特に限定されず、公知の方法を適用することができる。より具体的には、以下の方法により得られる。
まずジアミンを重合溶媒に溶解し、これにテトラカルボン酸二無水物粉末を徐々に添加し、メカニカルスターラーを用い、0〜100℃、好ましくは20〜60℃で0.5〜100時間好ましくは1〜24時間攪拌する。この際、モノマー濃度は重合度の観点や、モノマーや生成するポリマーの溶解性の観点から、5〜50wt%が好ましく、10〜40wt%がより好ましい。このモノマー濃度範囲で重合を行うことにより、均一で高重合度のポリエステルイミド前駆体溶液を得ることができる。ポリエステルイミドフィルムの靭性の観点から、ポリエステルイミド前駆体の重合度はできるだけ高いことが望ましい。ポリエステルイミドフィルムの靭性及びワニスのハンドリングの観点から、ポリエステルイミド前駆体の固有粘度は0.1〜15.0dL/gの範囲であることが好ましく、0.5〜5.0dL/gの範囲であることがより好ましい。
・・・
【0053】
<ポリエステルイミドの製造方法>
本発明に係るポリエステルイミドは、上記の方法で得られたポリエステルイミド前駆体を脱水閉環反応(イミド化反応)することで製造することができる。この際、ポリエステルイミドの使用可能な形態は、フィルム、金属箔/ポリエステルイミドフィルム積層体、粉末、成型体及び溶液である。
ポリエステルイミドフィルムを製造する方法について述べる。
ポリエステルイミド前駆体の重合溶液(ワニス)をガラス、銅、アルミニウム、シリコンなどの基板上に流延し、オーブン中40〜180℃、好ましくは50〜150℃で乾燥する。得られたポリエステルイミド前駆体フィルムを基板上で真空中、窒素などの不活性ガス中、あるいは空気中、200〜430℃、好ましくは250〜400℃で加熱することで本発明に係るポリエステルイミドフィルムを製造することができる。イミド化の閉環反応の観点から、200℃以上であり、生成したポリエステルイミドフィルムの熱安定性の観点から、430℃以下である。イミド化は真空中あるいは不活性ガス中で行うことが望ましいが、イミド化温度が高すぎなければ空気中で行っても、差し支えない。」

摘記(1d) 「【実施例】
【0060】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、これら実施例に限定されるものではない。なお、以下の例における物性値は、次の方法により測定した。
<赤外線吸収スペクトル>
フーリエ変換赤外分光光度計(ThermoNicolet社製Avatar360 FT-IR)を用い、全反射法にてポリエステルイミドフィルム(25μm厚)の赤外線吸収スペクトルを測定した。
<固有粘度>
0.5wt%のポリエステルイミド前駆体溶液を、オストワルド粘度計を用いて30℃で測定した。
【0061】
<ガラス転移温度:Tg>
島津製作所製熱機械分析装置(TMA−50)を用いて、熱機械分析により、荷重5g、昇温速度10℃/min、窒素雰囲気下(流量20ml/min)、温度50〜450℃の範囲における試験片伸びの測定を行い、得られた曲線の変曲点からポリエステルイミドフィルム(25μm厚)のガラス転移温度を求めた。
<線熱膨張係数:CTE>
島津製作所製熱機械分析装置(TMA−50)を用いて、熱機械分析により、荷重5g、昇温速度10℃/min、窒素雰囲気下(流量20ml/min)、温度50〜450℃の範囲における試験片伸びの測定を行い、50〜200℃の範囲での平均値としてポリエステルイミドフィルム(25μm厚)の線熱膨張係数を求めた。
【0062】
<吸湿膨張率:CHE>
アルバック理工株式会社製熱機械分析装置(TM−9400)及び湿度雰囲気調整装置(HC−1)を用いて、幅3mm、長さ30mm(チャック間長さ15mm)、厚み25μmのフィルムを23℃、荷重5gにて湿度10%RHから80%RHに変化させた際の試験片の伸びから10%RH〜80%RHにおける平均値としてポリエステルイミドフィルムの吸湿膨張率を求めた。
<難燃性>
イミド化後のポリエステルイミドフィルムの厚みが12μmとなるようにポリエステルイミド前駆体溶液をフィルム銅箔上に塗布した。窒素雰囲気中にて乾燥器中でイミド化したポリエステルイミドフィルム付銅箔の銅箔を塩化第二鉄溶液にてエッチングし、得られたサンプルを乾燥器105℃にて1時間以上放置し乾燥させた。その後、長さ20cm×幅5cmの大きさとなるように40枚作製した。40枚のサンプル中、20枚を23℃、相対湿度50%の雰囲気下に48時間以上放置(受理状態)し、残り20枚を温度70℃、168時間エージング後、温度23℃、相対湿度20%以下のデシケーター中にて4時間冷却した。各々のフィルム各5枚を用いて、UL94 VTM試験に基づく評価方法にて23℃、相対湿度55%の雰囲気下にて燃焼性試験によりVTM-0評価を行った。(なお、このとき評価に使用した炎は、20mmの大きさの青色炎で、銅スラグの100〜700℃までの昇温時間が42.9秒であった。)
【0063】
<銅箔接着強度>
サンプル作製法及び測定法についてはJIS C6471規格に準じて行った。ポリエステルイミド前駆体溶液を銅箔上に塗布し乾燥器中でイミド化したポリエステルイミドフィルム(25μm厚)付銅箔を長さ15cm×幅1cmの大きさに切断し、1cmの中心幅3mmを残し、塩化第二鉄溶液にて銅箔をエッチングした。得られたサンプルを乾燥器105℃にて1時間以上放置し乾燥させ、その後、厚み3mmのFR−4基板に両面粘着テープにて取り付けた。幅3mmの導体をポリエステルイミドフィルムとの界面で引剥がし、アルミ製テープに張りつけ掴み代とした。
試料を島津製作所製引っ張り試験機(オートグラフAG-10KNI)に固定した。固定する際、確実に90°の方向に引き剥がすために治具をとりつけ、約50mm/minの速度にて50mm引き剥がした際の荷重を測定し、1cmあたりの接着強度として算出した。
【0064】
<ハンダ耐熱性評価>
ポリエステルイミド前駆体溶液を銅箔上に塗布し乾燥器中でイミド化したポリエステルイミドフィルム(25μm厚)付銅箔を長さ3cm×幅3cmの大きさに切断し、中心部2.5cm×2.5cmを残し、塩化第二鉄溶液にて銅箔をエッチングした。得られたサンプルを乾燥器105℃にて1時間以上放置し乾燥させた後、300℃に設定されたハンダ浴中に、銅箔側が接するようにハンダ浴表面に2分間静置し、銅箔とポリエステルイミドフィルム中のふくれ、皺の発生の有無など、外観を目視により評価し、外観の変化が見られない場合を良好な結果(○)とした。
【0065】
<煮沸ハンダ耐熱性評価>
ポリエステルイミド前駆体溶液を銅箔上に塗布し乾燥器中でイミド化したポリエステルイミドフィルム(25μm厚)付銅箔を長さ3cm×幅3cmの大きさに切断し、中心部2.5cm×2.5cmを残し、塩化第二鉄溶液にて銅箔をエッチングした。還流冷却器付き容器に精製水を入れ、得られたサンプルを浸漬し、100℃で2時間静置した。その後、常温精製水中にサンプルを投入し、各サンプルを1枚ずつ取り出し、両面の水分を紙タオルでふきとった。その後、280℃に設定されたハンダ浴中に、銅箔側が接するようにハンダ浴表面に2分間静置し、銅箔とポリエステルイミドフィルム中のふくれ、皺の発生の有無など、外観を目視により評価し、外観の変化が見られない場合を良好な結果(○)とした。
【0066】
(実施例1)
<ポリエステルイミド前駆体の重合、イミド化及びポリエステルイミドフィルム特性の評価>
よく乾燥した攪拌機付密閉反応容器中に式(18)で表されるエステル構造を有するジアミン(以下、ATAB)13mmol、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル3mmol(以下、ODA)を入れ、N−メチル−2−ピロリドン71mLに溶解した後、この溶液に式(10)で表されるエステル構造を有するテトラカルボン酸二無水物(以下、TABP)の粉末17mmolを徐々に加えた。室温下で30分間攪拌し、その後、80℃に加温することで、溶液粘度が急激に増加した。さらに4時間撹拌し、透明、均一で粘稠なポリエステルイミド前駆体溶液を得た。
【0067】
【化26】

【0068】
【化27】

【0069】
このポリエステルイミド前駆体溶液は室温及び20℃で一ヶ月間放置しても沈澱、ゲル化は全く起こらず、高い溶液貯蔵安定を示した。N−メチル−2−ピロリドン中、30℃、0.5重量%の濃度でオストワルド粘度計にて測定したポリエステルイミド前駆体の固有粘度は0.82dL/gであった。
金属製の塗工台に、12μm厚の銅箔(日本電解株式会社 USLP箔)を、マット面側が表面になるように静置した。塗工台の表面温度を90℃に設定し、ポリエステルイミド前駆体溶液をドクターブレードにて銅箔マット面に塗布した。その後、塗工台で30分静置、さらに乾燥器中で100℃で30分間静置の後、タック性のないポリエステルイミド前駆体フィルム(厚み45μmもしくは24μm)を得た。次いで、SUS製金属板にポリエステルイミド前駆体フィルムをはりつけ、窒素雰囲気下、熱風乾燥器中にて、昇温速度5℃/minにて、150℃30分、200℃1時間、400℃1時間にてイミド化を行った。カールのない銅箔つきフィルムが得られた。この銅箔付きフィルムの銅箔を塩化第二鉄溶液にてエッチングすることにより、膜厚25μmもしくは12μmの薄茶色のポリエステルイミドフィルムを得た。
【0070】
この膜厚25μmのポリエステルイミドフィルムは180°折曲げ試験によって破断せず、可撓性を示した。N−メチル−2−ピロリドンやジメチルアセトアミドなどの有機溶媒に対して溶解性を示さなかった。また、TMA測定により17ppm/K(50℃から200℃の間の平均値)と銅箔同等の低い線熱膨張係数を示した。吸湿膨張率を測定したところ4.8ppm/%RH(10%RHから80%RHの間の平均値)と、極めて低い吸湿膨張率を示した。90°銅箔接着強度を測定したところ0.9kg/cmと高い接着強度を示した。膜厚12μmのポリエステルイミドフィルムの難燃性を評価したところUL94 VTM-0の性能を示した。また、良好なはんだ耐熱性、煮沸はんだ耐熱性を示した。表1に物性値をまとめる。得られたポリエステルイミドフィルムの赤外線吸収スペクトルを図1に示す。
【0071】
(実施例2)
式(19)で表されるエステル構造を有するジアミン(以下、BBOT)を用いた以外は、実施例1に記載した方法に従って、ポリエステルイミド前駆体を重合し、製膜、イミド化してポリエステルイミドフィルムを作製し、同様に物性評価した。
【0072】
【化28】

【0073】
物性値を表1に示す。得られたポリエステルイミドフィルムの赤外線吸収スペクトルを図2に示す。このポリエステルイミドフィルムは180°折曲げ試験によっても破断せず、可撓性を示した。また、N−メチル−2−ピロリドンやジメチルアセトアミドなどの有機溶媒に対して溶解性を示さなかった。低吸湿膨張率、高難燃性、銅箔との高い接着強度、銅に近い線熱膨張係数、良好なハンダ耐熱性及び煮沸ハンダ耐熱性を示した。
・・・
【0085】
【表1】



(2) 甲2の記載事項
摘記(2a) 「【0027】[参考例]まず、下記のように1,4−ビス(4−アミノベンゾイルオキシ)ベンゼンを合成した。
【0028】テトラヒドロフラン500mlにヒドロキノン33.0g(0.300モル)とトリエチルアミン66.8g(0.660モル)を溶解し、0℃に冷却後、その中にテトラヒドロフラン150mlにp−ニトロ塩化ベンゾイル116.9g(0.630モル)を溶かした溶液を、反応液の温度が10℃以下になるように滴下した。その後、室温に戻し、2時間撹拌を続けた。
【0029】次いで、析出物を濾過し、テトラヒドロフランで洗浄し、更に水、メタノールで洗浄した後、乾燥して1,4−ビス(4−ニトロベンゾイルオキシ)ベンゼンの白色結晶を得た。その収量は121.0g(収率98.8%)であった。粗結晶をN,N−ジメチルホルムアミドにより再結晶し、純品を得た。
【0030】1000mlのオートクレーブに、上で得られた1,4−ビス(4−ニトロベンゾイルオキシ)ベンゼン102.1g(0.250モル)を5%Pd/C3g、ジメチルホルムアミド700mlと共に装入した。60℃で激しく撹拌しながら水素を導入し、水素の吸収が認められなくなるまで撹拌を続けた。
【0031】冷却後、濾過して触媒を除去し、減圧濃縮して水1000mlへ注ぎ、沈澱物を濾過し、水で洗浄後、減圧乾燥し、1,4−ビス(4−アミノベンゾイルオキシ)ベンゼンの淡茶白色固体を得た。収量は83.6g(収率96.0%)であった。粗結晶をDMF/メタノールの混合溶媒により再結晶し、純品を得た。」

(3) 甲3の記載事項(訳文にて示す。以下、甲4〜9も同様。)
摘記(3a) 「低熱膨張係数と低吸水性を有するポリエステルイミド(V).長さ及び置換基が異なるジアミンで結合した効果」(タイトル)

摘記(3b) 「


」(3ページ5行〜最終行)

(4) 甲4の記載事項
摘記(4a) 「tert−ブチルジアミンの調製とマレイミド末端オリゴマーの応用研究」(タイトル)

摘記(4b) 「

」(21ページ:中国語の要旨)

摘記(4c) 「

」(22ページ)

(5) 甲5の記載事項
摘記(5a) 「導入

」(2753ページ)

摘記(5b) 「結論

」(2764ページ)

(6) 甲6の記載事項
摘記(6a) 「

」(9556ページ)

摘記(6b) 「

」(9563ページ左欄1行〜9564ページ左欄2行)


(7) 甲7の記載事項
摘記(7a) 「要旨

」(67ページ)

摘記(7b) 「

・・・

」(69ページ左欄5〜24行)

(8) 甲8の記載事項
摘記(8a) 「

」(87ページ)

摘記(8b) 「

」(88ページ左欄下から10〜2行)

(9) 甲9の記載事項
摘記(9a) 「

」(84285ページ左欄下から8〜右欄1行)

(10) 甲10の記載事項
摘記(10a) 「CAS RN: 101-80-4 | 製品コード: O0088
4,4'-Diaminodiphenyl Ether
・・・
別名
4,4'-ジアミノジフェニルエーテル
・・・
規格表
・・・
融点 192℃」

(11) 甲11の記載事項
摘記(11a) 「CAS RN: 3491-12-1 | 製品コード: B1243
1,4-Bis(4-aminophenoxy)benzene
・・・
別名
1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン
・・・
規格表
・・・
融点 173℃」

第5 当審における判断
1 申立理由1及び申立理由2について
(1) 甲1に記載された発明
甲1には、「ポリエステルイミド前駆体」及び「ポリエステルイミド」について(摘記(1a))、その原料モノマーである「酸二無水物」及び「ジアミン」として、それぞれ、「式(10)で表されるエステル構造を有するテトラカルボン酸二無水物」及び「式(11)で表されるエステル構造を有するジアミン」を用いることが記載され(摘記(1b))、実施例2として(摘記(1d))、「式(11)のエステル構造を有するジアミン」に該当する「式(19)で表されるエステル構造を有するジアミン」と「式(10)で表されるエステル構造を有するテトラカルボン酸二無水物」を原料モノマーとして、「ポリエステルイミド前駆体溶液」及び「ポリエステルイミドフィルム」を得たことが具体的に記載されている。
そして、摘記(1c)によれば、当該「ポリエステルイミド前駆体溶液」及び「ポリエステルイミドフィルム」が、それぞれ、上記原料モノマー構造に由来する分子構造を有する「ポリエステルイミド前駆体」及び「ポリエステルイミド」を含有するものといえる。
そうすると、甲1には、以下に示す甲1発明A〜Cが記載されているといえる。

<甲1発明A>
下記式(19)で表されるエステル構造を有するジアミン。


<甲1発明B>
下記一般式で表される反復単位を有するポリエステルイミド前駆体。

Bは以下の式で表される2価の芳香族基である


<甲1発明C>
下記一般式で表される反復単位を有するポリエステルイミド。

Bは以下の式で表される2価の芳香族基である


(2) 本件発明と甲1に記載された発明との対比・判断
ア 本件発明1について
(ア) 本件発明1と甲1発明Aとの対比
甲1発明Aの「エステル構造を有するジアミン」の分子構造骨格は、本件発明1の「ジアミン」の分子構造骨格と同一であり、甲1発明Aの置換基である「メチル基」は、本件発明1の置換基である「tert−ブチル基((H3C)3C−)」と、「アルキル基」という点では一致する。

そうすると、本件発明1と甲1発明Aとは、
「下記式で表されるジアミン。

(Rはアルキル基)」である点で一致し、以下の相違点1で相違する。

相違点1:「R」について、本件発明1は「tert−ブチル基」であるのに対して、甲1発明Aは「メチル基」である点

(イ) 相違点についての検討
新規性について
甲1の【0037】及び【0044】には、「

・・・R1は炭素数1〜6のアルキル基を表す。」との記載がある(摘記(1b))。
しかしながら、当該「式(11)で表されるエステル構造を有するジアミン」は、そのアミノ基の置換位置や、エステル結合の結合位置や、R1の置換位置が特定されておらず、R1の「炭素数1〜6のアルキル基」についても、その【0071】の実施例2の式(19)に示される炭素数1の「メチル基」のみが記載されているにすぎず、アルキル基が分岐鎖型のアルキル基であることの明示的な記載や、本件発明1の「tert−ブチル基」についての明示的な記載もないので、本件発明1が、甲1に実質的に記載されているとはいえない。

そして、本件明細書【0081】【表1】に記載の「

」という試験結果においては、NMP(N−メチルピロリドン)、DMAc(N,N−ジメチルアセトアミド)、及びDMF(N,N−ジメチルホルムアミド)の各溶媒に対する溶媒溶解性の評価において、「R」が「メチル基」である参考例1のものが「×:加温すると溶解するが、冷却すると結晶が析出する、あるいは、加温しても溶解しない」の評価になるのに対して、「R」が「tert−ブチル基」である実施例2のものが「○:室温で溶解する」又は「△:加温すると溶解し、冷却しても結晶が析出しない」の評価になることが示されている。

そうすると、相違点1の「R」の違いが、技術的に無意味な構成上の差異であるとはいえないから、本件発明1は甲1に記載された発明ではない。

進歩性について
本件発明1は、相違点1の「R」が「tert−ブチル基」であることにより、本件明細書【0081】に示されるとおりの溶媒溶解性に優れるという格別の効果を奏するに至ったものである。
そして、甲1〜甲11の記載を精査しても、相違点1の「R」を「tert−ブチル基」にすることにより、溶媒溶解性に優れたジアミンが得られるという作用効果が得られることについて、示唆を含めて記載が見当たらないので、相違点1に関する構成を具備させることが、当業者にとって容易に想到し得るとは認められない。

したがって、本件発明1は、甲1及び2〜11に記載された発明に基いて、当業者が容易になし得たものではない。

なお、申立人は、tert−ブチル基のような立体的嵩高さを有する置換基を導入することでジアミン化合物の溶媒溶解性を向上することは、例えば甲4〜8に記載のとおり、本件発明の出願時において当業者には公知の技術であると主張する(申立書の第23頁)。
しかしながら、甲4〜8には、「tert−ブチル基」を有し、「エステル構造」ではなく「エーテル構造」を有する「ジアミン化合物」をモノマーとする「ポリイミド(PI)」自体の溶解性等が記載(摘記(4b)、(5a)、(5b)、(6a)、(6b)、(7a)及び(8a))されているが、甲1〜11のいずれにも、「ジエステル構造」を有する「ジアミン化合物」自体の「NMP、DMAc又はDMF」等に対する溶解性に課題があることや、「tert−ブチル基」を「ジアミン化合物」に導入することで、「ジアミン化合物」自体の上記溶解性が著しく向上することの記載はない。
また、甲1〜11には、甲1発明Aにおいて、「R」を「メチル基」から、それ以外のアルキル基に変更する動機付け、特に「tert−ブチル基」に変更する動機付けについて、示唆を含めて記載がない。
このため、申立人の上記主張は採用できない。

イ 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の発明特定事項を全て備え、本件発明1を更に限定するものであるから、本件発明2は、上記アと同様の理由により、甲1及び2〜11に記載された発明に基いて、当業者が容易になし得たものではない。

ウ 本件発明3について
(ア) 本件発明3と甲1発明Aとの対比
本件発明3と甲1発明Aとは、
「下記式で表される化合物。

(Rはアルキル基、Sは置換基)」である点で一致し、以下の相違点2及び3で相違する。

相違点2:「R」について、本件発明3は「tert−ブチル基」であるのに対して、甲1発明Aは「メチル基」である点

相違点3:「S」について、本件発明3は「NH2」であるのに対して、甲1発明Aは「NO2」である点

(イ) 相違点についての検討
相違点2は、相違点1と同様の相違点であるところ、上記ア(イ)bで述べたとおり、甲1〜甲11の記載を精査しても、相違点2の「R」を「tert−ブチル基」にすることにより、溶媒溶解性に優れたジアミンを製造するための中間体である本件発明3のジニトロ化合物が得られるという作用効果が得られることについて、示唆を含めて記載が見当たらないので、相違点2に関する構成を具備させることが、当業者にとって容易に想到し得るとは認められない。
したがって、相違点3について検討するまでもなく、本件発明3は、甲1及び2〜11に記載された発明に基いて、当業者が容易になし得たものではない。

エ 本件発明4について
(ア) 本件発明4と甲1発明Bとの対比
甲1発明Bの「ポリエステルイミド前駆体」は、本件発明4の「ポリアミック酸」に相当する。
また、甲1発明Bの


」の構造は、本件発明4の


Aは4価の芳香族基又は4価の脂肪族基」であるといえる。

そうすると、本件発明4と甲1発明Bとは、
「下記式:

(Rはアルキル基)
で表される繰り返し単位を有するポリアミック酸。」である点で一致し、以下の相違点4で相違する。

相違点4:「R」について、本件発明4は「tert−ブチル基」であるのに対して、甲1発明Bは「メチル基」である点

(イ) 相違点についての検討
相違点4は、相違点1と同様の相違点であるところ、上記ア(イ)aで述べた理由と同様に、実質的な相違点であるから、本件発明4は甲1に記載された発明ではない。
また、上記ア(イ)bで述べた理由と同様に、甲1〜甲11の記載を精査しても、相違点4の「R」を「tert−ブチル基」にすることにより、溶媒溶解性に優れたジアミンを用いて製造される本件発明4のポリアミック酸が得られるという作用効果が得られることについて、示唆を含めて記載が見当たらないので、相違点4に関する構成を具備させることが、当業者にとって容易に想到し得るとは認められない。
したがって、本件発明4は、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1及び2〜11に記載された発明に基いて、当業者が容易になし得たものでもない。

オ 本件発明5について
(ア) 本件発明5と甲1発明Cとの対比
甲1発明Cの「ポリエステルイミド」は、本件発明5の「ポリイミド」に相当する。
また、甲1発明Cの


」の構造は、本件発明5の


Aは4価の芳香族基又は4価の脂肪族基」であるといえる。

そうすると、本件発明5と甲1発明Cとは、
「下記式:

(Rはアルキル基)
で表される繰り返し単位を有するポリイミド。」である点で一致し、以下の相違点5で相違する。

相違点5:「R」について、本件発明5は「tert−ブチル基」であるのに対して、甲1発明Cは「メチル基」である点

(イ) 相違点についての検討
相違点5は、相違点1と同様の相違点であるところ、上記ア(イ)aで述べた理由と同様に、実質的な相違点であるから、本件発明5は甲1に記載された発明ではない。
また、上記ア(イ)bで述べた理由と同様に、甲1〜甲11の記載を精査しても、相違点5の「R」を「tert−ブチル基」にすることにより、溶媒溶解性に優れたジアミンを用いて製造される本件発明5のポリイミドが得られるという作用効果が得られることについて、示唆を含めて記載が見当たらないので、相違点5に関する構成を具備させることが、当業者にとって容易に想到し得るとは認められない。
したがって、本件発明5は、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1及び2〜11に記載された発明に基いて、当業者が容易になし得たものでもない。

カ 本件発明6及び7について
本件発明6及び7は、本件発明4の発明特定事項を全て備え、本件発明4を更に限定するものであるから、本件発明6及び7は、上記エと同様の理由により、甲1に記載された発明ではないし、甲1及び2〜11に記載された発明に基いて、当業者が容易になし得たものではない。

キ 本件発明8及び9について
本件発明8及び9は、本件発明5の発明特定事項を全て備え、本件発明5を更に限定するものであるから、本件発明8及び9は、上記オと同様の理由により、甲1に記載された発明ではないし、甲1及び2〜11に記載された発明に基いて、当業者が容易になし得たものではない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1〜9に係る特許を取り消すことはできない。
また、ほかに本件請求項1〜9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2024-04-23 
出願番号 P2023-046456
審決分類 P 1 651・ 113- Y (C07C)
P 1 651・ 121- Y (C07C)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 木村 敏康
特許庁審判官 小石 真弓
野田 定文
登録日 2023-07-26 
登録番号 7320334
権利者 田岡化学工業株式会社
発明の名称 新規なジアミン及びその製造方法、並びに該ジアミンより製造されるポリアミック酸及びポリイミド  
代理人 中里 卓夫  

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