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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B21C
審判 全部申し立て 2項進歩性  B21C
管理番号 1410259
総通号数 29 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2024-05-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2024-01-30 
確定日 2024-05-09 
異議申立件数
事件の表示 特許第7317816号発明「金属板の巻回体、巻回体を備える梱包体、巻回体の梱包方法、巻回体の保管方法、巻回体の金属板を用いた蒸着マスクの製造方法及び金属板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7317816号の請求項1〜19に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7317816号の請求項1〜19に係る特許についての出願は、2019年(令和1年)6月10日(優先権主張 2018年(平成30年)6月8日)を国際出願日とする出願であって、令和5年7月21日にその特許権の設定登録がされ、令和5年7月31日に特許掲載公報が発行された。
その後、その特許に対し、令和6年1月30日に特許異議申立人 脇谷 治義(以下「申立人」という。)により全請求項(請求項1〜19)に係る特許に対する特許異議の申立てがなされた。


第2 本件発明
特許第7317816号(以下「本件特許」という。)の請求項1〜19の特許に係る発明(以下、各請求項に係る発明を「本件発明1」などという。また、総合して、「本件発明」という場合がある。)は、それぞれ、特許請求の範囲の請求項1〜19に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
A 蒸着マスクを製造するために用いられる金属板の巻回体であって、
B 150mm以上且つ550mm以下の外径を有する軸部材と、
C 前記軸部材に巻き付けられ、50μm以下の厚みを有する前記金属板と、を備え、
D 前記金属板は、30質量%以上且つ54質量%以下のニッケルを含む鉄合金を有し、
E 前記軸部材の外径(R2)に対する、前記軸部材に巻き付けられている前記金属板のうち最も外側に位置する前記金属板の外径(R3)と前記軸部材の外径(R2)の差の比率である(R3−R2)/R2が、1/5以下であり、
F 前記軸部材に巻き付けられている前記金属板のうち最も外側に位置する前記金属板を切断することにより得られる試験片の反り量が、15mm以下であり、
G 前記試験片は、前記軸部材に巻き付けられている前記金属板の長さ方向において、500mmの寸法を有し、
H 前記長さ方向に直交する幅方向における前記試験片の寸法は、少なくとも2つの前記蒸着マスクの、前記幅方向における寸法の合計よりも大きく、
I 前記試験片は、前記長さ方向における端部である第1端部及び第2端部を含み、
J 前記反り量は、前記第1端部が前記第2端部に対して上方に位置するように前記第1端部を鉛直面に固定した状態で、前記第2端部と前記鉛直面との間に生じている隙間の寸法である、
K 巻回体。
【請求項2】
前記軸部材の外径が300mm以下であり、
前記金属板の厚みが30μm以下である、請求項1に記載の巻回体。
【請求項3】
前記巻回体の重量が70kg以下である、請求項2に記載の巻回体。
【請求項4】
前記軸部材がフェノール樹脂を含む、請求項2又は3に記載の巻回体。
【請求項5】
前記軸部材は、100mm以上の内径を有する中空状部材である、請求項2乃至4のいずれか一項に記載の巻回体。
【請求項6】
前記軸部材の外径と内径の差が5mm以上である、請求項5に記載の巻回体。
【請求項7】
前記軸部材の外径が300mm以上且つ550mm以下であり、
前記金属板の厚みが50μm以下である、請求項1に記載の巻回体。
【請求項8】
前記巻回体の重量が100kg以下である、請求項7に記載の巻回体。
【請求項9】
蒸着マスクを製造するために用いられる、請求項1乃至8のいずれか一項に記載の巻回体と、
前記巻回体を収容する容器と、を備える、梱包体。
【請求項10】
前記容器は、前記軸部材を支持する側部を備え、
前記側部は、前記巻回体の前記金属板が前記側部の下端よりも上方に位置するように前記軸部材を支持する、請求項9に記載の梱包体。
【請求項11】
前記容器は、
前記巻回体の下方に位置する下部と、
前記巻回体の前記金属板が前記下部に接しないよう前記軸部材を支持する前記側部と、を備える、請求項10に記載の梱包体。
【請求項12】
前記容器は、前記巻回体を上方から覆う上部を備える、請求項11に記載の梱包体。
【請求項13】
前記容器の内部に位置する脱酸素剤又は乾燥剤を備える、請求項9乃至12のいずれか一項に記載の梱包体。
【請求項14】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の巻回体を準備する準備工程と、
前記巻回体を容器に収容する収容工程と、を備える、梱包方法。
【請求項15】
前記容器は、前記軸部材を支持する側部を備え、
前記側部は、前記巻回体の前記金属板が前記側部の下端よりも上方に位置するように前記軸部材を支持する、請求項14に記載の梱包方法。
【請求項16】
前記容器は、前記巻回体の下方に位置する下部と、
前記巻回体の前記金属板が前記下部に接しないよう前記軸部材を支持する前記側部と、
前記巻回体を上方から覆う上部と、を備える、請求項15に記載の梱包方法。
【請求項17】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の巻回体を保管する保管方法であって、
軸部材に巻き付けられる前記金属板のうち最も前記軸部材側に位置する部分の内径が150mm以上且つ550mm以下になるように前記巻回体を保管する、保管方法。
【請求項18】
複数の貫通孔が形成された蒸着マスクを製造する方法であって、
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の巻回体から前記金属板を巻き出す工程と、
前記金属板をエッチングして前記金属板に前記貫通孔を形成する加工工程と、を備える、蒸着マスクの製造方法。
【請求項19】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の巻回体の前記軸部材に巻き付けられた、蒸着マスクを製造するために用いられる金属板。」
(なお、符号A〜Kは、申立人が特許異議申立書(以下「申立書」という。)8〜9ページにおいて、本件発明1を分説して、それぞれの構成に付したものである。また、以下、それぞれ「構成A」などという。)


第3 申立理由の概要
申立人が提出した証拠及び申立人による特許異議申立理由の概要は以下のとおりである。
1 申立人が提出した証拠方法
申立人が提出した証拠方法である甲第1号証は、以下のとおりである。(以下、甲第1号証を「甲1」という。)
甲1:特許第3556942号公報

2 申立の理由の概要
申立人は、請求項1〜19に係る特許は、以下の理由(1)〜(2)により取り消されるべきものである旨を申立している。
(1)申立理由1(本件発明1〜19についての進歩性欠如)
本件発明1〜19は、甲1記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜19に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(申立書11〜21ページ)。
(2)申立理由2(本件発明1〜19についてのサポート要件違反)
請求項1〜19に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(申立書21〜24ページ)。


第4 甲1に記載された事項及び発明等について
1 甲1の記載事項(なお、下線部は当審で付した。以下同様。)
「【0001】
本発明は、シャドウマスクに用いられ、エッチング後の形状が良好なFe−Ni合金条に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
シャドウマスクに用いられる条は、通常、圧延によって製造される。シャドウマスク用条は、脱脂後、フォトレジストを両面に塗付し、そしてパターンを焼き付けて現像後、塩化第二鉄溶液を両面からスプレーすることにより穿孔された後、個々のシヤドウマスクに切断されて作製される(「まてりあ」第36巻第11号(1977)1070〜1074頁)。個々に切断されたシャドウマスクは、エッチング工程あるいはブラウン管製造工程において自動搬送ラインによって運搬されることから、エッチング後のシャドウマスクには搬送時のひっかかり等の搬送不良を回避するために平坦性が要求される。
【0003】
圧延方向に平行および直角な断面における板厚方向の残留応力分布の模式図を図1に、実際測定例のグラフ図を図2に示す。図1に示すように圧延加工後のシャドウマスク用条1には、圧延方向(RD)に平行な断面および直交する断面において、厚さ方向表層部には圧縮、中央部には引張残留応力が残存している。シャドウマスクは、図4に示すように、その片側面に例えば直径130μmの真円状開口部(以下「小孔」2と称す)を有し、もう一方の相対する位置には例えば220μmの真円状開口部(以下「大孔」3と称す)を有する。図4には残留応力の影響にて反りが発生するメカニズムを示す模式図を示す。このように表面ともう一方の面とで開口径の異なる非対称な孔を穿孔した場合、エッチングによって大孔(3)側のほうが多く減肉されるために残留応力のバランス関係が崩れ、反りが発生する。
【0004】
エッチング後の応力バランスは、小孔(2)側表層の圧縮応力と板厚中央部の引張応力とで支配されることから、小孔(2)側の面が凸になるように反る。従来、民生用のシャドウマスクにおいては孔の非対称性が小さいことから、残留応力の影響で発生する反りは小さかったが、高精細シャドウマスク材ではこの非対称性が大きいために残留応力の影響による大きな反りが発生する問題が生じた。
【0005】
一般には、再結晶温度以下の温度で歪取焼鈍を行い、この残留応力を除去することにより、エッチング後の反り発生を抑制することができる。しかし、歪取焼鈍を行うことにより、製造コストが高くなる。また、歪取焼鈍の際に、引張強さ(TSと表記する)はあまり低下しないものの、0.2%耐力(0.2%YSと表記する)がかなり低下する。0.2%YSが低くなると、その後のエッチング工程において折れが発生しやすくなるなどの問題が生じる。
【0006】
本発明は、Fe−Ni系合金において、形状矯正工程により残留応力及び圧延後の形状を調整することにより、歪取焼鈍を行わなくてもエッチング後に生じる反りが小さい圧延条を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、最終圧延後の形状矯正工程において、残留応力および形状をそれぞれ下記の(1)および(2)の状態に調整することにより、歪取焼鈍を行うことなく、Fe−Ni系合金圧延条におけるエッチング反りを抑制できることを発見した。そして、歪取焼鈍を省略した効果として、製造コストを低減することができ、また、TS/0.2%YS≦1.03と、TSと同レベルの0.2%YSを得ることも可能となった。
(1)圧延方向に平行の断面および直交する断面における板厚方向の残留応力分布において、板厚中央部に発生する最大引張残留応力を50N/mm2以下に調整する。
(2)図3に示す圧延条1において、圧延幅方向中央部から圧延方向に一致する長辺500mm、圧延直交方向に短辺50mmを有する短冊形状の板(以下「短冊片1」と称す)および圧延直交方向に一致する長辺500mm、圧延方向に短辺50mmを有する短冊片(以下「短冊片2」と称す)を採取する。短冊片1、2を図3の右半分に示すようにそれぞれ長辺方向に垂下したときに生じる反り(以下、前者圧延方向に平行な方向に発生する反りを「カール反り」、後者圧延直交な方向に発生する反りを「トヨ反り」と称す)が10mm以下になるように調整する。
【0008】
Ni含有量が34〜38質量%のFe−Ni系合金はシャドウマスク用条材として汎用されており、Fe−Ni系合金は熱膨張係数が低いことから、高精彩シャドウマスクとして好適である。これらの素材の主要元素以外の元素は、熱膨張係数、エッチング性、加工性などに悪影響を与えるので、Fe−Ni系合金についてはC:0.10質量%以下、Si:0.1質量%以下、好ましくは0.05質量%以下、Al:0.05質量%以下、Mn:0.5質量%以下、S:0.005質量%以下、P:0.005質量%以下であることが好ましい。
一方、Fe−Ni系合金を高強度化するために、2〜8質量%のCoをNiと置き換える形で添加したFe−Ni系合金も、シャドウマスク用材として使用されている。すなわちNiを30〜35質量%の範囲まで低減して2〜8質量%のCoを添加する。この範囲でのCo添加は熱膨張係数を上昇させず、むしろ低下させる効果を示す。さらに高強度化するためにはCoに加え、Nb、Ta、Hf、Ti、Zrのうち1種以上を0.05〜0.8質量%添加することが有効である。ただし、Nb、Ta、Hf、Ti、Zrの合計添加量が0.8質量%を超えると、熱膨張係数の増加が著しくなるため、合計添加量は0.8質量%以下に制限される。なお、これら添加元素を加える場合についても、C:0.10質量%以下、Si:0.1質量%以下、好ましくは0.05質量%以下、Al:0.05質量%以下、Mn:0.5質量%以下、S:0.005質量%以下、P:0.005質量%以下であることが好ましい。
・・・
【0011】
ところで、ブライトロールで圧延された条では、圧延方向に直交する断面にはほとんど残留応力が発生しないことが知られているが、シャドウマスク用条の場合は、以下説明する特殊なロールによって仕上げ圧延されるために圧延方向に直交する断面にも大きな残留応力が発生する。すなわち、シャドウマスク用条は、圧延面にエッチング後、重ねられて熱処理されるが、そのときの熱処理による密着を防ぐことを目的として、シャドウマスク用材の表面には、ダル目と称される凹凸模様が圧延ロールから転写される。このダル目模様は、例えばショット加工などにより表面に適当な凹凸加工を施された圧延ロールによって圧延することで得られる。このような表面凹凸が大きなロールで圧延すると、ブライトロールに比較して材料表面との摩擦力が非常に高いことから圧延方向に直交する断面にも大きな残留応力が発生する。圧延後の条では、圧延方向に平行な断面のほうが直角な断面のよりも残留応力が大きいが、平行断面の残留応力はレベラーによる形状矯正によって減少するために直角断面と同等もしくは低くなる場合がある。
よって、圧延方向に平行な断面と、圧延方向に直角は断面の残留応力の大小により、シャドウマスクの反りが圧延方向に平行方向に反るか、直角方向に反るか決まる。
エッチング後でも反りが小さいためには、板厚中央部の最大引張応力値が50N/mm2以下である必要があるが、レベラーでの矯正条件は、残留応力の状態により異なる。即ち、前述したように表面の凹凸が大きな圧延ロールで圧延した場合は表面の摩擦が大きく、残留応力が大きくなるが、そのレベルはロールの表面粗さだけではなく、圧延速度、圧延油の粘性等、圧延条件の複合的要因により支配され、詳細に解析するのは困難である。
残留応力の小さいシャドウマスク材を得るには、圧延後のシャドウマスク用素材を矯正条件を変えて、試験的に矯正加工し、残留応力の少ない素材が得られる条件を絞り出すことにより行う。
【0012】
エッチング後のシャドウマスクの平坦性は、水平に設置された平坦な定盤上にシャドウマスクを凹面が上になるように置いたときの反り量(盤面からの浮き上がり量)で示され、またこの反りが2mm以下であることを要求される。しかしながらこの方法で反りを測定する場合、その絶対値が小さいために、正確に反りを測定することができないという問題があった。そこで、図6に示すような垂直に固定された平坦な板4に、シャドウマスクの片方の端をクランプなどで固定し、もう一方の端の盤面からの距離を測定する方法(垂下法)を考えた。上述した定盤上に置く方法での反りが2mmなるシャドウマスクは、垂下法での反りが20mmとなることから、垂下法では測定精度が約10倍向上することが期待できる。
【0013】
短冊片にてエッチング前の素材の反りを測定するのは、例えばカール反り10mm、トヨ反り10mmなる正方形の板の反りを測定しようとした場合、2方向成分のそりが互いに打ち消し合う作用がはたらき、見掛け上反りが発生しなくなるためである。そこで、短冊形状に切り出すことで相互作用を抑え、両者の反りを精度良く測定することができるようになる。
【0014】
短冊片によるカール反りおよびトヨ反りをそれぞれ10mm以下としたのは、板厚中央部の最大引張残留応力値を50N/mm2以下に調整しても、エッチング前に元々存在する素材の反りと50N/mm2以下の残留応力により発生する反りとの相乗効果によって、エッチング後のシャドウマスクの反りが大きくなるためである。
【0015】
本発明により平行方向、直角方向ともに残留応力が50N/mm2以下、かつ短冊片による垂下反りが10mm以下になるように形状矯正を行ったシャドウマスク用条は、歪取焼鈍を行わなくてもエッチング後のシャドウマスクの形状が良好である。
【0016】
【実施例】
以下に本発明による実施例を示す。
参考例としてのAlキルド鋼および本発明例としてのFe−Ni系合金を溶製し、次にインゴットを熱間鍛造、熱間圧延した。ついで熱間圧延板表面の酸化スケール除去後に冷間圧延と焼鈍とを繰り返した後、最終冷間圧延を施し0.12mm厚さの素材を製造した。得られた0.12mm厚さの素材を種々のIM(インターメッシュ:矯正ロールのかみ込み量)および張力に調整したマルチレベラーを有するテンションレベリング方式の矯正機にて形状矯正した。この矯正機の構造は図7の通りである。出側のIMは上下ワークロールの間隙が材料の板厚と等しくなるように、すなわちマイナス側に設定し、入側のIMは下側ワークロール列に対する上側ワークロール列の傾き角度を変えることにより変化させプラス側に設定した。なお、IMの値(図8の横軸)に対して、張力(図8の縦軸)は入側のブライドルロールの周速で制御した。矯正機を通板した後の素材について、引張試験、残留応力測定および垂下反り測定を行った。
引張試験では、JIS13B号試験片を圧延方向と平行方向に2mm/minの速度で行った。
残留応力測定では、幅20mm×長さ200mmの短冊形試料を、塩化第二鉄水溶液を用いて、片面側からエッチングして試料の反りの曲率半径を求め、残留応力を算出した。この測定を表裏両面よりエッチング量を変化させて行い、厚み方向の残留応力分布を求めた(須藤一:残留応力とゆがみ、内田老鶴圃社(1998)、p.46.)。圧延方向と平行な断面の残留応力を求める場合には短冊形試料の長さ方向が圧延方向と一致するように試料を採取し、圧延方向と直角な断面の残留応力を求める場合には、短冊形試料の長さ方向が圧延方向と直交するように試料を採取した。また、平行、直角の場合とも、素材の幅方向の中央部から試料を採取した。
垂下反りの測定方法は図3に示した。
ここで得られた素材のうち、供試材No.3〜9がFe−Ni系合金の実施例であり、供試材No.1、2がAlキルド鋼に関する実施例は参考例である。」

図3




図6




図7




2 上記1から理解できる事項
段落【0007】、【0012】の記載及び図3、6等から、短冊片1は、圧延方向における端部である第1端部及び第2端部を含み、短冊片1の垂下反りは、前記第1端部が前記第2端部に対して上方に位置するように前記第1端部を鉛直面に固定した状態で、前記第2端部と前記鉛直面との間に生じている隙間の寸法であることが理解できる。

3 甲1発明
上記1及び2から、甲1には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。(便宜のため、本件発明1の構成A〜Hに対応させて、甲1発明を分説し、それぞれの構成にa〜hの符号を付した。以下「構成a」などという。)
「a シャドウマスクを製造するために用いられるFe−Ni合金条であって、
d 前記Fe−Ni合金条は、Ni含有量が34〜38質量%のFe−Ni系合金を有し、
f 前記Fe−Ni合金条を切断することにより得られる短冊片1の垂下反りが、10mm以下であり、
g 前記短冊片1は、前記Fe−Ni合金条の圧延方向において、500mmの寸法を有し、
h 圧延直交方向における前記短冊片1の寸法は、50mmであり、
i 前記短冊片1は、前記圧延方向における端部である第1端部及び第2端部を含み、
j 前記垂下反りは、前記第1端部が前記第2端部に対して上方に位置するように前記第1端部を鉛直面に固定した状態で、前記第2端部と前記鉛直面との間に生じている隙間の寸法である、
k Fe−Ni合金条。」


第5 当審の判断
1 申立理由1(本件発明についての進歩性欠如(第3の2(1))について)
(1)本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「シャドウマスク」は本件発明1の「蒸着マスク」に相当し、以下同様に、「短冊片1」は「試験片」に、「垂下反り」は「反り量」に、「圧延方向」は「長さ方向」に、「圧延直交方向」は「前記長さ方向に直交する幅方向」に、それぞれ相当する。
また、甲1発明の「Ni含有量が34〜38質量%のFe−Ni系合金を有」することは、当該「34〜38質量%」が「30質量%以上且つ54質量%以下」に包含されるから、本件発明1における、「30質量%以上且つ54質量%以下のニッケルを含む鉄合金を有」することに相当する。
また、甲1発明における、「垂下反り」が「10mm以下」であることは、「15mm以下」に包含されるから、本件発明1における、「反り量」が「15mm以下」であることに相当する。
また、甲1発明の「Fe−Ni合金条」は、本件発明1の「金属板の巻回体」又は「巻回体」と、「金属板」である限りで共通する。
また、甲1発明の「圧延直交方向における前記短冊片1の寸法は、50mmであ」ることと、本件発明1の「前記長さ方向に直交する幅方向における前記試験片の寸法は、少なくとも2つの前記蒸着マスクの、前記幅方向における寸法の合計よりも大き」いこととは、「前記長さ方向に直交する幅方向における前記試験片の寸法は、所定寸法であ」る限りで共通する。

したがって、本件発明1と甲1発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。
<一致点>
「蒸着マスクを製造するために用いられる金属板であって、
前記金属板は、30質量%以上且つ54質量%以下のニッケルを含む鉄合金を有し、
前記金属板を切断することにより得られる試験片の反り量が、15mm以下であり、
前記試験片は、前記金属板の長さ方向において、500mmの寸法を有し、
前記長さ方向に直交する幅方向における前記試験片の寸法は、所定寸法であり、
前記試験片は、前記長さ方向における端部である第1端部及び第2端部を含み、
前記反り量は、前記第1端部が前記第2端部に対して上方に位置するように前記第1端部を鉛直面に固定した状態で、前記第2端部と前記鉛直面との間に生じている隙間の寸法である、
金属板。」

<相違点1>
本件発明1は、蒸着マスクを製造するために用いられる金属板が、「金属板の巻回体」(構成A)であって、「150mm以上且つ550mm以下の外径を有する軸部材と、前記軸部材に巻き付けられ、50μm以下の厚みを有する前記金属板」(構成B、C)を備え、「前記軸部材の外径(R2)に対する、前記軸部材に巻き付けられている前記金属板のうち最も外側に位置する前記金属板の外径(R3)と前記軸部材の外径(R2)の差の比率である(R3−R2)/R2が、1/5以下であ」る(構成E)とともに、試験片が、「前記軸部材に巻き付けられている前記金属板のうち最も外側に位置する前記金属板を切断することにより得られる」(構成F)ものであるのに対し、
甲1発明は、Fe−Ni合金条が、そもそも巻回体ではなく、短冊片1(試験片)が、軸部材に巻き付けられている金属板のうち最も外側に位置する金属板を切断することにより得られるものではない点。

<相違点2>
試験片の幅方向の寸法が、本件発明1は、「少なくとも2つの前記蒸着マスクの、前記幅方向における寸法の合計よりも大き」い(構成H)のに対し、甲1発明では、短冊片1の圧延直交方向の寸法は50mmである点。

(2)相違点についての検討
ア 相違点1について検討する。

イ まず、甲1の段落【0001】に「本発明は、シャドウマスクに用いられ、エッチング後の形状が良好なFe−Ni合金条に関するものである。」、段落【0002】に「シャドウマスクに用いられる条は、通常、圧延によって製造される。」、段落【0006】に「本発明は、Fe−Ni系合金において、形状矯正工程により残留応力及び圧延後の形状を調整することにより、歪取焼鈍を行わなくてもエッチング後に生じる反りが小さい圧延条を提供することを目的とする。」、及び段落【0016】に「本発明例としてのFe−Ni系合金を溶製し、次にインゴットを熱間鍛造、熱間圧延した。ついで熱間圧延板表面の酸化スケール除去後に冷間圧延と焼鈍とを繰り返した後、最終冷間圧延を施し0.12mm厚さの素材を製造した。得られた0.12mm厚さの素材を種々のIM(インターメッシュ:矯正ロールのかみ込み量)および張力に調整したマルチレベラーを有するテンションレベリング方式の矯正機にて形状矯正した。・・・矯正機を通板した後の素材について、引張試験、残留応力測定および垂下反り測定を行った。」と記載されていることから総合すれば、甲1には、Fe−Ni系合金を圧延した後に矯正機を通板したFe−Ni系合金条に対して垂下反り測定を行うことが記載されているといえるものの、甲1には、矯正機を通板したFe−Ni系合金条を、軸部材に巻き付けて巻回体とするようなことは記載も示唆もされていない。

ウ そして、一般的に、金属板を軸部材に巻き付けて巻回体とした場合には、当該金属板の反り量が大きくなることは技術常識であるから、甲1に記載されている、矯正機を通板したFe−Ni系合金条に対して垂下反り測定を行うことに換えて、矯正機を通板したFe−Ni系合金条を軸部材に巻き付けて巻回体とした後に、垂下反り測定を行うことように設計変更することが、当業者が容易になし得たものとはいえない。

エ さらに、本件発明1の試験片は、「前記軸部材に巻き付けられている前記金属板のうち最も外側に位置する前記金属板を切断することにより得られる」(構成F)ものであるところ、甲1発明は、Fe−Ni系合金条をそもそも巻回体とするものではないから、短冊片1(試験片)を、軸部材に巻き付けられている金属板のうち最も外側に位置する金属板を切断することにより得られるものとすることが、記載も示唆もされているとはいえない。

オ 加えて、本件発明1は、「前記軸部材の外径(R2)に対する、前記軸部材に巻き付けられている前記金属板のうち最も外側に位置する前記金属板の外径(R3)と前記軸部材の外径(R2)の差の比率である(R3−R2)/R2が、1/5以下であ」る(構成E)との構成を有することにより、軸部材52に巻き付けられている金属板51のうち最も外側に位置する金属板51を試験片66として用いて反りを測定しても、軸部材52に巻き付けられている金属板51のうち最も内側に位置する金属板51に生じる反りの有用な指標にすることができる(本件特許の明細書の段落【0107】を参照。)との効果を奏するものであるところ、甲1発明は、Fe−Ni系合金条を、そもそも巻回体とするものではないから、甲1発明において、巻回体の軸部材の外径(R2)と、軸部材に巻き付けられている金属板の外径(R3)についての条件を、上記効果を奏するように設計することが、当業者が容易になし得たものであるとはいえない。

カ よって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明から当業者が容易になし得たものということはできない。

(3)申立人の主張とその検討
ア 申立人の主張の概要
申立人は、金属板の流通・保管における利便性等に鑑みれば、金属板を軸部材に巻き回して巻回体とすることは、公知の流通形態の中から一流通形態を選択したものに過ぎない旨、本件発明1では、軸部材の外径を150mm以上且つ550mm以下とするとともに(構成B)、軸部材の外径(R2)に対する、軸部材に巻き付けられている金属板のうち最も外側に位置する金属板の外径(R3)と軸部材の外径(R2)の差の比率である(R3−R2)/R2を、1/5以下(構成E)としているが、金属板を巻回体とすることは単なる供給態様の相違に過ぎず、軸部材の外径や(R3−R2)/R2を上記範囲に設計することは、金属板の巻回体において、当業者が適宜なし得る設計変更に過ぎない旨を主張している(申立書16〜19ページ)。
イ 検討
しかしながら、金属板を軸部材に巻き回して巻回体とすることが公知又は周知であったとしても、甲1発明から、矯正機を通板したFe−Ni系合金条を軸部材に巻き付けて巻回体とした後に、垂下反り測定を行うことように設計変更することが容易になし得るものとはいえないことは、上記(2)で説示したとおりである。
さらに、「(R3−R2)/R2を、1/5以下」(構成E)とすることが単なる設計事項ではないことも、上記(2)で説示したとおりである。
よって、申立人の主張は採用できない。

(4)本件発明2〜19について
本件発明2〜19はいずれも請求項1の記載を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明2〜19と、甲1発明とを対比すると、少なくとも上記相違点1〜2で相違し、本件発明1と同様の理由により、甲1発明に基づいて当業者が容易になし得たということはできない。

(5)小括
したがって、少なくとも相違点1に係る本件発明1〜19の構成は、当業者が容易に想到し得たものではないから、本件発明1〜19は、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、請求項1〜19に係る本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたとする申立理由1により、取り消すことはできない。

2 申立理由2(本件発明についてのサポート要件違反(第3の2(2))について)
(1)本件発明のサポート要件についての検討
ア 特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

イ まず、本件発明の課題について、本件特許の明細書の段落【0007】に「金属板が軸部材に巻き付けられている間、金属板には、軸部材の形状に応じた変形が生じている。そのような変形が、金属板から作製された蒸着マスクにも残っていると、蒸着マスクの検査工程において蒸着マスクの寸法などを測定する際の精度が低下したり、測定が不可能になったりすることが考えられる。」ことが記載されている。

ウ 他方、本件特許の請求項1には、上記課題に関連して、少なくとも、
(ア)(構成A)「蒸着マスクを製造するために用いられる金属板の巻回体」
(イ)(構成B)「150mm以上且つ550mm以下の外径を有する軸部材」
(ウ)(構成D)「前記金属板は、30質量%以上且つ54質量%以下のニッケルを含む鉄合金を有」する
(エ)(構成E)「前記軸部材の外径(R2)に対する、前記軸部材に巻き付けられている前記金属板のうち最も外側に位置する前記金属板の外径(R3)と前記軸部材の外径(R2)の差の比率である(R3−R2)/R2が、1/5以下であ」る
(オ)(構成F)「前記軸部材に巻き付けられている前記金属板のうち最も外側に位置する前記金属板を切断することにより得られる試験片の反り量が、15mm以下であ」る
との各構成が特定されている。

エ そして、発明の詳細な説明には、上記各構成(構成A、B、D〜F)に関連して、以下の事項が記載されている。
(ア)「【0086】
ところで、軸部材52の外径R2が小さいと、金属板51が軸部材52に巻き付けられている間に金属板51に生じた塑性変形に起因する反りが、軸部材52から巻き出された後の金属板51にも少なくとも部分的に残ることがある。後述するように、蒸着マスク20は、巻回体50から巻き出された金属板51を加工することによって作製される。このため、軸部材52の外径R2が小さいと、金属板51から作製された蒸着マスク20にも反りが残ることがある。このような反りは、金属板51を構成する鉄合金が、34質量%以上且つ38質量%以下のニッケルを含む場合、すなわち鉄合金がいわゆるインバー材である場合に、顕著に生じることがある。原因としては、金属板51がインバー材である場合、金属板51の熱膨張係数が低く、このため金属板51の熱膨張係数と軸部材52の熱膨張係数との差が大きくなり、熱膨張に起因する力が金属板51と軸部材52との間に生じ易くなるという点が挙げられるが、原因は特には限定されない。
蒸着マスク20に反りが生じていると、蒸着マスク20の検査工程において蒸着マスク20の寸法を測定する際の精度が低下したり、測定が不可能になったりすることがある。また、蒸着マスク20に反りが生じていると、平面視における蒸着マスク20の寸法の精度が低下してしまうことも考えられる。このような課題を考慮し、軸部材52の外径R2は、例えば、125mm以上であってもよく、150mm以上であってもよく、180mm以上であってもよく、200mm以上であってもよい。」
(イ)「【0107】
なお、軸部材52に巻き付けられている金属板51に生じる反りの程度は、金属板51のうち最も内側の部分において、すなわち最も軸部材52側に位置する金属板51において最大になる。一方、本実施の形態において、軸部材52に巻き付けられている金属板51の外径R3と軸部材52の外径R2の差は、軸部材52の外径R2に比べて小さい。例えば、軸部材52の外径R2に対する、金属板51の外径R3と軸部材52の外径R2の差の比率、すなわち(R3−R2)/R2は、1/5以下であり、1/10以下の場合もある。このため、軸部材52に巻き付けられている金属板51のうち最も外側に位置する金属板51を試験片66として用いて反りを測定することは、軸部材52に巻き付けられている金属板51のうち最も内側に位置する金属板51に生じる反りの有用な指標になり得ると考える。」
(ウ)「【0132】
ここで本実施の形態においては、上述のように、巻回体50の軸部材52の外径R2が少なくとも125mm以上又は150mm以上である。言い換えると、軸部材52に巻き付けられている金属板51のうち最も軸部材52側に位置する部分の内径が125mm以上又は150mm以上である。このため、軸部材52に巻き付けられていた金属板51に反りが残ることを抑制することができる。例えば、金属板51から取り出された試験片66を鉛直面67aに固定した場合に生じる上述の隙間S1を、20mm以下に抑制することができ、より好ましくは15mm以下に抑制することができる。このため、金属板51から作製された蒸着マスク20を水平面68aに載置した場合に生じる上述の隙間S2を、0.5mm以下に抑制することができ、より好ましくは0.25mm以下に抑制することができる。これにより、蒸着マスク20の検査工程において、貫通孔25の位置、面積、形状などに関する情報を高い精度で得ることができる。」

オ 上記イから、本件発明の解決すべき課題は、蒸着マスクを製造するために用いられる金属板の巻回体に起因した変形が、金属板から作製された蒸着マスクにも残っていると、蒸着マスクの検査工程において蒸着マスクの寸法などを測定する際の精度が低下する又は測定できないことを防止することであると認められる。
他方、上記エに示した発明の詳細な説明(特に、下線部を参照。)から、本件特許の請求項1に特定されている構成A、B、D〜Fによって、上記課題が解決されると理解できる。

カ 以上から、本件特許の請求項1及び請求項1を引用する請求項2〜19に係る発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。

(2)申立人の主張に対する検討
ア 申立人の主張の概要
申立人は、本件発明1の構成要件A〜Kのいずれにも、保管場所の温度及び湿度について規定されておらず、「金属板と軸部材との間に生じる、熱膨張(熱収縮)の差に起因する力が大きくなる保管条件」も本件発明1の技術的範囲に当然に含まれ得るから、本件発明は、サポート要件を満たしていない旨を主張している(申立書21〜24ページ)。

イ 検討
金属板の巻回体の保管に関連して、発明の詳細な説明には、
段落【0096】に「巻回体50を作製した後、巻回体50を容器に収容する収容工程を実施してもよい。巻回体50は、容器に収容された状態で流通する。・・・なお、巻回体50の流通とは、巻回体50が巻回体50の製造者から巻回体50の使用者に渡るまでの、輸送、保管、取引などの活動を意味する。」、
段落【0101】に「巻回体50は、巻回体50が巻回体50の製造者から巻回体50の使用者に渡るまでの間、適切な保管場所で保管されてもよい。ここで本実施の形態によれば、巻回体50の金属板51は、所定の閾値以上の外径R2を有する軸部材52に巻き付けられた状態で保管される。・・・これにより、軸部材52から巻き出された後の金属板51に反りが残ることを抑制することができる。」、
段落【0102】に「保管場所の環境は、巻回体50の金属板51の特性に変化が生じることを抑制するよう設定される。例えば、保管場所の温度は30℃以下であり、より好ましくは25℃以下である。また、例えば、保管場所の温度は0℃以上であり、より好ましくは10℃以上である。また、保管場所の湿度は60%以下であり、より好ましくは50%以下である。」との記載がある。
上記記載等を総合すれば、本件特許の明細書には、金属板の巻回体を保管する場合には、保管場所の温度及び湿度は上記【0102】に記載された範囲内とすることが適切である旨が記載されていると理解できる。そして、上記段落【0101】の「巻回体50は、巻回体50が巻回体50の製造者から巻回体50の使用者に渡るまでの間、適切な保管場所で保管されてもよい。」との記載に鑑みれば、本件発明の課題解決において、金属板の巻回体を特定の保管条件や保管場所で保管することが必須の要件であるとは記載されていない。
そうすると、本件発明は、発明の詳細な説明に発明として記載されたものと、実質的に対応しているといえる。
また、本件発明は金属板の巻回体の発明であって、この物の発明を特定する事項として上記保管条件を特定しなければならないような特段の事情も見いだせない。

さらに、申立人による、金属板と軸部材との間に生じる熱膨張(熱収縮)の差に起因する力が大きくなる保管条件も本件発明1の技術的範囲に含まれ得るとの主張についても検討する。
本件特許の明細書の段落【0086】には、「このため、軸部材52の外径R2が小さいと、金属板51から作製された蒸着マスク20にも反りが残ることがある。」と記載されるとおり、蒸着マスク20の反りが、軸部材の外径R2が小さいことから生じる旨が記載されている。そして、申立人が主張の根拠とする、金属板51と軸部材52との熱膨膨張の差については、同段落において、「原因としては、金属板51がインバー材である場合、金属板51の熱膨張係数が低く、このため金属板51の熱膨張係数と軸部材52の熱膨張係数との差が大きくなり、熱膨張に起因する力が金属板51と軸部材52との間に生じ易くなるという点が挙げられるが、原因は特には限定されない。」と記載されるとおり、原因の1つとして例示されるものにすぎず、蒸着マスク20の反りに関して、考慮するべき必須の原因として記載されるものではない。
そして、本件発明1は、「150mm以上且つ550mm以下の外径を有する軸部材」とあるとおり、軸部材の外径を特定の範囲に規定する旨が特定されており、当該構成によって金属板の反りを抑制できるものと当業者は認識できる。金属板51と軸部材52との熱膨膨張の差に関しては、反りの原因の1つとして例示されるものにすぎないから、熱膨張の差が生じないような保管条件とすることが、課題解決のための必須の構成とは認められない。
したがって、熱膨張の差が生じないような保管条件であることが特定されていないからといって、発明の課題を解決するための手段が反映されていないとはいえず、申立人の主張は採用できない。

(3)小括
したがって、請求項1〜19に係る特許を、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたとする申立理由2により取り消すことはできない。


第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1〜19に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1〜19に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2024-04-24 
出願番号 P2020-523221
審決分類 P 1 651・ 537- Y (B21C)
P 1 651・ 121- Y (B21C)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 渋谷 善弘
特許庁審判官 大山 健
菊地 牧子
登録日 2023-07-21 
登録番号 7317816
権利者 大日本印刷株式会社
発明の名称 金属板の巻回体、巻回体を備える梱包体、巻回体の梱包方法、巻回体の保管方法、巻回体の金属板を用いた蒸着マスクの製造方法及び金属板  
代理人 宮嶋 学  
代理人 岡村 和郎  
代理人 柏 延之  
代理人 堀田 幸裕  
代理人 高田 泰彦  

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