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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01B |
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管理番号 | 1411100 |
総通号数 | 30 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2024-06-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2023-07-24 |
確定日 | 2024-05-23 |
事件の表示 | 特願2018−17051号「ひずみゲージ」拒絶査定不服審判事件〔令和元年8月8日出願公開、特開2019−132790号〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成30年2月2日の特許出願であって、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。 令和4年 2月16日付け:拒絶理由通知 同年 6月21日 :意見書、手続補正書の提出 同年10月28日付け:拒絶理由通知書 令和5年 4月21日付け:拒絶査定 (同月25日 :拒絶査定の謄本の送達) 同年 7月24日 :審判請求書の提出 第2 本願発明 本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、令和4年6月21日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認める。 「【請求項1】 可撓性を有する基材上に形成された、ひずみ検出部と、温度検出部と、を備え、 前記ひずみ検出部は、 前記基材上に、クロムとニッケルの少なくとも一方を含む材料から形成された抵抗体を有し、 前記抵抗体は、並置された複数の抵抗パターンと、隣接する前記抵抗パターンの端部同士を接続する折り返し部分と、を含み、 前記折り返し部分には、前記抵抗体よりもゲージ率が低い材料からなる第1金属層が積層され、前記折り返し部分上の前記第1金属層の抵抗値が前記折り返し部分の抵抗値よりも低く、 前記温度検出部は、 前記基材上に、前記抵抗体と同一材料により形成された第2金属層と、 前記第2金属層上に、前記第1金属層と同一材料により形成された第3金属層と、を有する熱電対であるひずみゲージ。」 第3 原査定における拒絶の理由の概要 原査定の拒絶の理由のうち、本願発明についての拒絶の理由の概要は、次のとおりである。 理由3(進歩性の欠如) 本願発明は、下記の引用文献に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 記 引用文献1 :特開平3−191802号公報 引用文献26:特開平3−215722号公報 引用文献27:特開2013−153129号公報 引用文献28:J.Podbrdsky 外1名、On the surface temperature of substrates on a hotplate used for epitaxial growth、Czechoslovak Journal of Physics B、1968年、18巻、11号、1444〜1488頁 なお、上記拒絶の理由については、引用文献26を主たる引用文献とした進歩性の欠如の理由のほかに、引用文献1を主たる引用文献とした進歩性の欠如の理由も示されている。 第4 各引用文献に記載された事項及び引用発明の認定等 1 引用文献1に記載された事項及び引用発明の認定 (1) 引用文献1に記載された事項 原査定の拒絶の理由において引用した引用文献1(特開平3−191802号公報)には、以下の事項が記載されている。下線は合議体が付したものである。以下同様である。 ア 1頁左欄下から7行から同頁右欄下から7行、第7図 「〔産業上の利用分野〕 この発明は、抵抗線歪ゲージ等に利用される感歪素子に関する。 〔従来の技術と発明の課題〕 第7図に示すように、歪ゲージ等に利用される感歪素子aは、一般に同一の感歪電気抵抗材料を用いて被測定物bの表面や、樹脂フィルム上に真空蒸着法等によって形成される。 ところで、この感歪素子は、歪に応じて電気抵抗が変化する性質を専ら利用するものであるため、例えば、被測定物の一方向に発生ずる歪を測定する場合には、感歪素子の長手方向を歪発生方向に一致させて使用する。 このような場合、上述した従来の構造であると被測定物の歪により、抵抗変化を生じない部分の抵抗値が感歪素子全体の抵抗値に占める割合が大きくなるため、感歪素子全体としての歪による抵抗変化率が小さくなり、感度が低下する。 そこで、この発明の課題は、全抵抗値における非変化抵抗値の占める割合を小さくすることにより、感歪素子の感度を上げることにある。」 「第7図 」 イ 2頁左上欄下から2行〜同頁右上欄下から5行、第1図、第2図 「〔実施例〕 以下、実施例について図面を参照して説明する。 第1図および第2図に示すように、この感歪素子10は、並列に配置された一方向に延びる複数の感歪電気抵抗体11と、この感歪電気抵抗体11を直列に接続する低電気抵抗体12とから成り、被測定体A上に直接真空蒸着して形成されている。 前記感歪電気抵抗体11は、60%Cu−40%Ni合金で形成されており、前記低電気抵抗体12はAuで形成されている。 このようにしておくと、60%Cu−40%Ni合金は電気抵抗率RCu−Niが49×l0−6Ω・cmであり、一方のAuの電気抵抗率RAuは2.2×10−6Ω・cmであるので、前記低電気抵抗体12部分を感歪電気抵抗体11と同一の60%Cu−40%Ni合金で形成した場合に比べその電気抵抗が約1/22に低下し、感歪電気抵抗体11の抵抗変化が顕著に現われる。」 「第1図 」 「第2図 」 ウ 2頁左下欄8行〜同頁右下欄9行、第5図、第6図 「 なお、この発明の感歪素子は第5図に示すように、同一材料で一連の感歪電気抵抗体11を形成した後に所要部に低電気抵抗体12を重ね合わせるようにしてもよい。 また、第6図に示すように、樹脂フィルム14上に各抵抗体11、12および電極部13を蒸着し、この樹脂フィルム14を介して被測定物に貼り付けるようにしてもよい。 さらに、被測定物あるいは樹脂フィルム等への感歪素子の形成方法も例示のような真空蒸着法に限定されず、スパッタリング、イオンブレーティング等の各種PVD法またはスクリーン印刷法であってもよい。 〔効果〕 以上のように、この発明の感歪素子は、一方向に延びる複数の感歪電気抵抗体を並列に配置し、各感歪電気抵抗体を低電気抵抗体で直列に接続する構成にしたため、一方向に発生する歪のみを感知することができ、しかも、感歪電気抵抗体の抵抗値が感歪素子全体の抵抗値に占める割合が大きくなるのでその抵抗変化が顕著に現われ、感歪素子の感度が向上する。」 「第5図 」 「第6図 」 (2) 引用発明の認定 前記(1)において摘記した事項から、引用文献1には、第1図及び第2図に示されたものに対応する次の発明が記載されていると認められる(以下「引用発明」という。)。 <引用発明> 「 並列に配置された一方向に延びる複数の感歪電気抵抗体11と、この感歪電気抵抗体11を直列に接続する低電気抵抗体12とから成り、被測定体A上に直接真空蒸着して形成されている感歪素子10であって、(摘記事項イ) 前記感歪電気抵抗体11は、60%Cu−40%Ni合金で形成されており、前記低電気抵抗体12はAuで形成されており、(摘記事項イ) 60%Cu−40%Ni合金は電気抵抗率RCu−Niが49×l0−6Ω・cmであり、一方のAuの電気抵抗率RAuは2.2×10−6Ω・cmであるので、前記低電気抵抗体12部分を感歪電気抵抗体11と同一の60%Cu−40%Ni合金で形成した場合に比べその電気抵抗が約1/22に低下し、感歪電気抵抗体11の抵抗変化が顕著に現われるものであり、(摘記事項イ) 感歪素子は、同一材料で一連の感歪電気抵抗体11を形成した後に所要部に低電気抵抗体12を重ね合わせるようにしてもよく、(摘記事項ウ) 樹脂フィルム14上に各抵抗体11、12および電極部13を蒸着し、この樹脂フィルム14を介して被測定物に貼り付けるようにしてもよい、(摘記事項ウ) 感歪素子10。」 2 引用文献26に記載された事項及び周知技術1の認定 (1) 引用文献26に記載された事項 原査定の拒絶の理由において引用した引用文献26(特開平3−215722号公報)には、次の事項が記載されている。 ア 特許請求の範囲 「(5)応力センサーに異種金属を接合することにより、応力と温度を両方測定できることを特徴とするセンサー。」 「(6)高融点金属の粉末と、セラミック粉末と、有機ビヒクルとからなるペーストを、被測定物表面にジグザグ状部分を有する線状に塗布して焼成することにより、前記被測定物表面に直接形成してなる応力センサーに、前記高融点金属とは異なる高融点金属の粉末と、セラミック粉末と、有機ビヒクルとからなるペーストを前記被測定物に線状に塗布して焼成することによって得られる線状パターンを接合することにより、温度センサーを設けたことを特徴とするセンサー。」 イ 3頁右上欄下から3行〜4頁右上欄10行 「〔実施例及び作用〕 以下本発明を詳細に説明する。 まず本発明で用いるペーストは、高融点金属粉末と、セラミック粉末と、有機ビヒクルとからなる。 (中略) 上述の構成のペーストを用い、被測定物表面に熱電対となる線状パターン(及び本発明の第2の温度センサーにおいては応力測定用のジグザグ状パターン)を形成する。このペーストの塗布にはスクリーン印刷法(ハケ刷り法)を用いるのが好ましい。 (中略) なお、高融点金属としてクロメル、コンスタンタン等の金属を用いる場合には、この焼成の工程を中性又は還元雰囲気中で行うのが好ましく、白金系の金属の場合は大気中(酸化雰囲気中)で行うのが好ましい。」 ウ 4頁右上欄11行〜同頁左下欄2行、第1図 「 第1図は本発明の一実施例による温度センサーの模式平面図である。温度センサー1は、熱電対を形成する二種類の高融点金属の一方を含有する線状パターン11、及び他方の高融点金属を含有する線状パターン12が、両端部で重なる構造を有する。両線状パターンの重なり部分13が測温部となり、その重なりは、各線状パターンの幅を2〜3mm程度とすると、1mm程度であればよい。なお、線状パターン11及び12において、リード部(図示せず)を被測定物の比較的低温となる部分まで延長し、そこで新たにリード線をそれぞれ融着して測定するのが良い。」 「第1図 」 エ 4頁左下欄3行〜同頁右下欄下から6行、第2図 「 第2図は本発明のもう一つの実施例による温度センサーの模式平面図である。温度センサー2は、一方の高融点金属を含有する線状パターン21と、他方の高融点金属を含有する線状パターン22とが、線状パターン22の端部23で重なる熱電対部2aを有している。また線状パターン21は、ジグザグ状の延長部21aを有しており、さらにリード部cへと続いている。このジグザグ状の延長部21aは通常の歪ゲージパターンと同様の形状となっており、線状パターン21からなるパターン全体が歪ゲージ部2bとなる。 この温度センサー2による測温は、線状パターン22のリード部aと、線状パターン21の一方のリード部bとの間に生ずる起電力を測定することによってなされる。また線状パターン21のジグザグ状延長部21aをはさむ両端部(リード部b及びリード部c)間の抵抗値の変化により、被測定物表面における表面応力を測定できる。 なお、各線状パターンの幅は、第1図に示す温度センサー1と同様に2〜3mm程度で良いが、歪ゲージ2bのリード部b及びcの幅をジグザグ状パターン部(歪測定部位)21aにおける幅よりも大きくしておくことで、リード部分における抵抗を小さくし、もってリード部分の歪によるノイズ(抵抗値)を拾わなくする工夫をするのが良い。また線状パターン21と線状パターン22との接点23(熱電対の測温部分)は、第1図に示す温度センサー1における2つの線状パターンの重なり程度とすれば良い。 第2図からわかるように、温度センサー2の温度測定部位と応力測定部位とは実質的に同一部位となるので、温度と応力とを同時に精度良く計ることができる。」 「第2図 」 (2) 周知技術1の認定 前記(1)において摘記した事項に例示されるように、次の技術事項は当業者にとって周知技術であったと認められる(以下「周知技術1」という。)。 <周知技術1> 「歪ゲージにおいて、基材上に形成された抵抗体上に異種金属を接合することにより熱電対を形成して、応力と温度を両方測定できるようにすること。」 3 引用文献28に記載された事項及び周知技術2の認定 (1) 引用文献28に記載された事項 原査定の拒絶の理由において引用した引用文献28(J.Podbrdsky 外1名、On the surface temperature of substrates on a hotplate used for epitaxial growth、Czechoslovak Journal of Physics B、1968年、18巻、11号、1444〜1488頁)には、次の事項が記載されている。日本語訳は当合議体が作成した。 「With the help of thin-film Au-constantan thermocouples the surface temperature of mica substrates on a hotplate was measured.」(1444頁1〜2行) (日本語訳)薄膜の金−コンスタンタン熱電対を用いて、ホットプレート上のマイカ基板の表面温度を測定した。 (2) 周知技術2の認定 前記(1)において摘記した事項に例示されるように、次の技術事項は当業者にとって周知技術であったと認められる(以下「周知技術2」という。)。 なお、コンスタンタンが銅55%とニッケル45%の組成からなる合金であることは当業者にとって技術常識である。 <周知技術2> 「金とコンスタンタン(銅ニッケル合金)を熱電対の両脚の構成材料とすること。」 4 引用文献31に記載された事項及び技術常識1の認定 (1) 引用文献31に記載された事項 この審決において新たに引用する「大倉征「ひずみゲージとその応用」日本舶用機関学会誌第16巻第6号465〜473頁(昭和56年6月)」(以下「引用文献31」という。)には、以下の事項が記載されている。 ア 465頁右欄11〜26行 「2.2 ひずみゲージの原理と構造 ひずみゲージ(以下ゲージと記す)とは,一言でいうと抵抗素子を伸び縮みさせると,その抵抗値が増減するという原理を利用したものである.ゲージを測定すべき材料に接着したとき,被測定物のひずみに対するゲージの抵抗変化率は,ひずみに比例し(3)式で表わすことができる. ΔR1/R1=Ks・ε (3) R1:ゲージの初期抵抗 ΔR1:ひずみを加えたときのゲージ抵抗変化分 ε:ひずみ (3)式のKsをゲージ率あるいはゲージファクターと言っており,ほぼ2.0の値をとる.このようにゲージはひずみの発生する場所に適当な接着剤で取り付ければ,そこに生じたひずみによってごくわずかな抵抗変化を生じ,この抵抗変化を検出することによって,ひずみ量が定量的に測定することができる.」 イ 470頁左欄下から3行〜同頁右欄2行 「4.3 温度補償法 ゲージはひずみだけでなく,温度によっても抵抗変化を生じ,見かけ上ひずみを生じゼロドリフトをおこす.この影響を小さくするためには,アクティブ・ダミー法と自己温度補償型ゲージ(例えばセルコンゲージ)を用いる二つの方法がある.」 (2) 技術常識1の認定 前記(1)において摘記した事項に例示されるように、次の技術事項は当業者にとって技術常識であったと認められる(以下「技術常識1」という。)。 <技術常識1> 「歪みゲージは、温度によっても抵抗変化を生じるため、温度補償を行う必要があること。」 第5 対比 1 対比分析 本願発明と引用発明を対比する。 (1)ア 引用発明の「感歪素子10」は、本願発明の「ひずみゲージ」に相当する。 イ したがって、本願発明と引用発明は、「ひずみゲージ」の発明である点において一致する。 (2)ア 引用発明の「感歪素子10」は、「樹脂フィルム14上に各抵抗体11、12および電極部13を蒸着し、この樹脂フィルム14を介して被測定物に貼り付けるようにしてもよい」としているところ、引用発明の「樹脂フィルム14」は、本願発明の「可撓性を有する基材」に相当する。 イ 引用発明の「各抵抗体11、12および電極部13」は、本願発明の「ひずみ検出部」に相当する。 ウ そうすると、引用発明の「樹脂フィルム14上に」「蒸着」された「各抵抗体11、12および電極部13」は、本願発明の「可撓性を有する基材上に形成された、ひずみ検出部」に相当する。 エ したがって、本願発明と引用発明は、次の点において共通する。 「可撓性を有する基材上に形成されたひずみ検出部」を備える点。 (3)ア 引用発明の「60%Cu−40%Ni合金で形成」された「感歪電気抵抗体11」は、「樹脂フィルム14上に」「蒸着」されたものであり、本願発明の「前記基材上に、クロムとニッケルの少なくとも一方を含む材料から形成された抵抗体」に相当する。 イ 引用発明の「並列に配置された一方向に延びる複数の感歪電気抵抗体11」は、本願発明の「並置された複数の抵抗パターン」に相当する。 ウ 引用発明においては、「低電気抵抗体12」は「感歪電気抵抗体11を直列に接続する」ものであるところ、「感歪素子は、同一材料で一連の感歪電気抵抗体11を形成した後に所要部に低電気抵抗体12を重ね合わせるようにしてもよく」としているから、「低電気抵抗体12」が「重ね合わせ」られる「所要部」にある「感歪電気抵抗体11」と「同一材料」で「形成」された部分は、本願発明の「隣接する前記抵抗パターンの端部同士を接続する折り返し部分」に相当する。 エ したがって、本願発明と引用発明は、次の点において一致する。 「 前記ひずみ検出部は、 前記基材上に、クロムとニッケルの少なくとも一方を含む材料から形成された抵抗体を有し、 前記抵抗体は、並置された複数の抵抗パターンと、隣接する前記抵抗パターンの端部同士を接続する折り返し部分と、を含「む」」点。 (4)ア 引用発明の「同一材料で一連の感歪電気抵抗体11を形成した後に所要部に」「重ね合わせ」された「低電気抵抗体12」は、本願発明の「前記折り返し部分」に「積層され」た「第1金属層」に相当する。 イ 引用発明においては、「前記低電気抵抗体12部分を感歪電気抵抗体11と同一の60%Cu−40%Ni合金で形成した場合に比べその電気抵抗が約1/22に低下し、感歪電気抵抗体11の抵抗変化が顕著に現われるもの」としているから、低電気抵抗体12は、感歪電気抵抗体11よりもゲージ率(単位ひずみ当たりの抵抗変化率のことをいう。前記第4の4(1)の摘記事項アを参照。)が低い材料からなることは明らかである。 ウ したがって、本願発明と引用発明は、次の点において一致する。 「前記折り返し部分には、前記抵抗体よりもゲージ率が低い材料からなる第1金属層が積層され「る」」点。 (5)ア 引用発明において、「前記感歪電気抵抗体11は、60%Cu−40%Ni合金で形成されており、前記低電気抵抗体12はAuで形成されており」、「60%Cu−40%Ni合金は電気抵抗率RCu−Niが49×l0−6Ω・cmであり、一方のAuの電気抵抗率RAuは2.2×10−6Ω・cmである」ところ、「感歪電気抵抗体11」と「低電気抵抗体12」が「重ね合わせ」された部分において、「感歪電気抵抗体11」と「低電気抵抗体12」の大きさ(長さ、幅、厚み)はほぼ同じであるといえるから(第5図を参照)、低電気抵抗体12の抵抗値が感歪電気抵抗体11の抵抗値よりも低いことは明らかである。 イ したがって、本願発明と引用発明は、次の点において一致する。 「前記折り返し部分には、前記抵抗体よりもゲージ率が低い材料からなる第1金属層が積層され、前記折り返し部分上の前記第1金属層の抵抗値が前記折り返し部分の抵抗値よりも低[い]」点。 2 一致点及び相違点の認定 前記1の対比分析の検討結果をまとめると、本願発明と引用発明は、次の(1)の一致点において一致し、後記(2)の相違点において相違する。 (1) 一致点 「可撓性を有する基材上に形成されたひずみ検出部を備え、 前記ひずみ検出部は、 前記基材上に、クロムとニッケルの少なくとも一方を含む材料から形成された抵抗体を有し、 前記抵抗体は、並置された複数の抵抗パターンと、隣接する前記抵抗パターンの端部同士を接続する折り返し部分と、を含み、 前記折り返し部分には、前記抵抗体よりもゲージ率が低い材料からなる第1金属層が積層され、前記折り返し部分上の前記第1金属層の抵抗値が前記折り返し部分の抵抗値よりも低い、 ひずみゲージ」である点。 (2) 相違点 本願発明においては、 「可撓性を有する基材上に形成された」「温度検出部」を備え、 「前記温度検出部は、 前記基材上に、前記抵抗体と同一材料により形成された第2金属層と、 前記第2金属層上に、前記第1金属層と同一材料により形成された第3金属層と、を有する熱電対である」のに対して、 引用発明においては、樹脂フィルム14上に温度検出部を備えていない点。 第6 判断 1 相違点の判断 前記相違点について検討する。 (1)ア 「歪みゲージは、温度によっても抵抗変化を生じるため、温度補償を行う必要があること」は、当業者にとって技術常識であることを踏まえると(前記技術常識1を参照)、引用発明の「感歪素子10」において温度補償を行うべきことは、引用発明に内在する自明な課題である。 イ ここで、「歪ゲージにおいて、基材上に形成された抵抗体上に異種金属を接合することにより熱電対を形成して、応力と温度を両方測定できるようにすること」は、当業者にとって周知技術であるから(前記周知技術1を参照)、引用発明の上記自明な課題を解決するために、樹脂フィルム14上に形成された感歪電気抵抗体11に異種金属を接合することにより熱電対を形成して、応力の測定に加えて温度も測定できるようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 ウ その際、「金とコンスタンタン(銅ニッケル合金)を熱電対の両脚の構成材料とすること」は、当業者にとって周知技術であるから(前記周知技術2を参照)、引用発明において、「感歪電気抵抗体11」は「60%Cu−40%Ni合金」で形成されており、「低電気抵抗体12」は「Au」で形成されていることを踏まえれば、上記周知技術2に沿って、感歪電気抵抗体11と同一の材料(銅ニッケル合金)を熱電対の一方の脚(前記相違点に係る「第2金属層」に相当)とし、低電気抵抗体12と同一の材料(Au)を熱電対の他方の脚(前記相違点に係る「第3金属層」に相当)として構成することは、当業者にとって自明な設計事項にすぎない。 (2) 総合評価 前記(1)において検討したとおり、前記相違点に係る本願発明の構成は、格別のものではなく、当業者が容易に想到し得たものである。 そして、本願発明の奏する効果としては、当該構成のものとして当業者が予測困難であり、かつ、格別顕著な効果を認めることはできない。 よって、本願発明は、引用発明、周知技術1、2及び技術常識1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 2 請求人の主張について (1) 請求人の主張の概要 請求人は、審判請求書の「(3)理由3(進歩性)」「(3−1)請求項1」において、概略次の主張をしている。 ア 引用文献1は、Cu−Ni合金で形成された感歪電気抵抗体を有する発明であり、引用文献26に引用文献1を組み合わせる動機付けはない。 イ 引用文献26は、セラミック部材等の使用条件と同じ高温下で測温することができる温度センサーを提供すること等を目的とする発明であり、センサーに使用する高融点金属としてクロメル、コンスタンタンが示唆されているところ、本願発明とは目的や用途が全く異なり、本願発明の進歩性を否定する引用文献としてはふさわしくない。 (2) 請求人の主張に対する当審の判断 ア 動機付けについて 前記1(1)アにおいて説示したとおり、技術常識1を踏まえると、引用発明の「感歪素子10」において温度補償を行うべきことは、引用発明に内在する自明な課題であるから、上記自明な課題を解決するために、引用文献26の熱電対を採用する契機はあるというべきであって、引用文献1と引用文献26を組み合わせる動機付けはないという主張を採用することはできない。 イ 引用文献26について 前記第4の2(2)において認定したとおり、引用文献26には、「歪ゲージにおいて、基材上に形成された抵抗体上に異種金属を接合することにより熱電対を形成して、応力と温度を両方測定できるようにすること」という周知技術が開示されているのであるから、本願発明とは目的や用途が全く異なり本願発明の進歩性を否定する引用文献としてはふさわしくないとの主張は、当を得たものではない。 第7 むすび 以上検討のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。 |
審理終結日 | 2024-03-22 |
結審通知日 | 2024-03-26 |
審決日 | 2024-04-10 |
出願番号 | P2018-017051 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G01B)
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最終処分 | 02 不成立 |
特許庁審判長 |
岡田 吉美 |
特許庁審判官 |
濱野 隆 田辺 正樹 |
発明の名称 | ひずみゲージ |
代理人 | 伊東 忠重 |
代理人 | 伊東 忠彦 |