• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  G01T
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G01T
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  G01T
管理番号 1411316
総通号数 30 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2024-06-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2023-06-26 
確定日 2024-04-08 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第7197506号発明「シリコンドリフト型放射線検出器及び放射線検出装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7197506号「シリコンドリフト型放射線検出器及び放射線検出装置」の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1〜6]、[7〜14]、15、16、17、18、19について訂正することを認める。 特許第7197506号の請求項7〜11、13〜19に係る特許を維持する。 特許第7197506号の請求項1〜6に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7197506号(以下「本件特許」という。)の請求項1〜14に係る特許についての出願は、2018年(平成30年)12月14日(優先権主張 2017年(平成29年)12月15日、以下「優先日」という。)を国際出願日とする出願であって、令和4年12月19日にその特許権の設定登録がされ、令和4年12月27日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。

令和 5年 6月27日(受付日):特許異議申立人伊東沙織(以下「申立人」という。)による請求項1〜11、13〜14に係る特許に対する特許異議の申立て
同年 9月22日付け :取消理由通知書
同年11月27日(受付日):特許権者による意見書及び訂正請求書(以下、この訂正請求書を「本件訂正請求書」といい、本件訂正請求書による訂正を「本件訂正」という。)の提出

なお、当合議体は、申立人に対し、本件訂正に係る請求について、相当の期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、その期間内に申立人からは何らの応答もなかった。

第2 本件訂正の適否
1 本件訂正の内容
本件訂正の内容は、次のとおりである。下線は訂正箇所を示す。
(1)訂正事項1(請求項1)
請求項1を削除する。

(2)訂正事項2(請求項2)
請求項2を削除する。

(3)訂正事項3(請求項3)
請求項3を削除する。

(4)訂正事項4(請求項4)
請求項4を削除する。

(5)訂正事項5(請求項5)
請求項5を削除する。

(6)訂正事項6(請求項6)
請求項6を削除する。

(7−1)訂正事項7−1(請求項7)
訂正前の請求項7に、
「ハウジングと、
該ハウジングの内側に配置された請求項1乃至6のいずれか一つに記載のシリコンドリフト型放射線検出素子とを備え、
前記ハウジングは、塞がれていない開口部を有し、
前記シリコンドリフト型放射線検出素子は、前記開口部に対向する表面を有し、
該表面の上に遮光膜が設けられていること
を特徴とするシリコンドリフト型放射線検出器。」
と記載されているうち、請求項1を引用するものについて、
「ハウジングと、
該ハウジングの内側に配置されたシリコンドリフト型放射線検出素子とを備え、
前記ハウジングは、塞がれていない開口部を有し、
前記シリコンドリフト型放射線検出素子は、前記開口部に対向しており放射線が入射する表面を有し、
該表面上に直接又は他の膜を介して遮光膜が設けられており、
前記表面は前記開口部よりも大きく、
前記ハウジングは、前記開口部の縁を含み、前記表面の一部に重なった重なり部分を有し、
前記重なり部分は、前記表面に接着部材を介して接着されていること
を特徴とするシリコンドリフト型放射線検出器。」と訂正する(請求項7を直接的又は間接的に引用する請求項9〜14も同様に訂正する。)。

(7−2)訂正事項7−2(請求項15)
訂正前の請求項7に、
「ハウジングと、
該ハウジングの内側に配置された請求項1乃至6のいずれか一つに記載のシリコンドリフト型放射線検出素子とを備え、
前記ハウジングは、塞がれていない開口部を有し、
前記シリコンドリフト型放射線検出素子は、前記開口部に対向する表面を有し、
該表面の上に遮光膜が設けられていること
を特徴とするシリコンドリフト型放射線検出器。」
と記載されているうち、請求項2を引用するものについて、
「ハウジングと、
該ハウジングの内側に配置されたシリコンドリフト型放射線検出素子とを備え、
前記ハウジングは、塞がれていない開口部を有し、
前記シリコンドリフト型放射線検出素子は、前記開口部に対向しており放射線が入射する表面を有し、
該表面上に直接又は他の膜を介して遮光膜が設けられており、
前記遮光膜は、前記表面に入射する光の量を0.1%未満に減少させ、
前記表面は前記開口部よりも大きく、
前記ハウジングは、前記開口部の縁を含み、前記表面の一部に重なった重なり部分を有し、
前記重なり部分は、前記表面に接着部材を介して接着されていること
を特徴とするシリコンドリフト型放射線検出器。」と記載し、新たに請求項15とする。

(7−3)訂正事項7−3(請求項16)
訂正前の請求項7に、
「ハウジングと、
該ハウジングの内側に配置された請求項1乃至6のいずれか一つに記載のシリコンドリフト型放射線検出素子とを備え、
前記ハウジングは、塞がれていない開口部を有し、
前記シリコンドリフト型放射線検出素子は、前記開口部に対向する表面を有し、
該表面の上に遮光膜が設けられていること
を特徴とするシリコンドリフト型放射線検出器。」
と記載されているうち、請求項3を引用するものについて、
「ハウジングと、
該ハウジングの内側に配置されたシリコンドリフト型放射線検出素子とを備え、
前記ハウジングは、塞がれていない開口部を有し、
前記シリコンドリフト型放射線検出素子は、前記開口部に対向しており放射線が入射する表面を有し、
該表面上に直接又は他の膜を介して遮光膜が設けられており、
前記遮光膜は、厚さ50nm超500nm未満の金属膜であり、
前記表面は前記開口部よりも大きく、
前記ハウジングは、前記開口部の縁を含み、前記表面の一部に重なった重なり部分を有し、
前記重なり部分は、前記表面に接着部材を介して接着されていること
を特徴とするシリコンドリフト型放射線検出器。」と記載し、新たに請求項16とする。

(7−4)訂正事項7−4(請求項17)
訂正前の請求項7に、
「ハウジングと、
該ハウジングの内側に配置された請求項1乃至6のいずれか一つに記載のシリコンドリフト型放射線検出素子とを備え、
前記ハウジングは、塞がれていない開口部を有し、
前記シリコンドリフト型放射線検出素子は、前記開口部に対向する表面を有し、
該表面の上に遮光膜が設けられていること
を特徴とするシリコンドリフト型放射線検出器。」
と記載されているうち、請求項4を引用するものについて、
「ハウジングと、
該ハウジングの内側に配置されたシリコンドリフト型放射線検出素子とを備え、
前記ハウジングは、塞がれていない開口部を有し、
前記シリコンドリフト型放射線検出素子は、前記開口部に対向しており放射線が入射する表面を有し、
該表面上に直接又は他の膜を介して遮光膜が設けられており、
前記遮光膜は、カーボン膜であり、
前記表面は前記開口部よりも大きく、
前記ハウジングは、前記開口部の縁を含み、前記表面の一部に重なった重なり部分を有し、
前記重なり部分は、前記表面に接着部材を介して接着されていること
を特徴とするシリコンドリフト型放射線検出器。」と記載し、新たに請求項17とする。

(7−5)訂正事項7−5(請求項18)
訂正前の請求項7に、
「ハウジングと、
該ハウジングの内側に配置された請求項1乃至6のいずれか一つに記載のシリコンドリフト型放射線検出素子とを備え、
前記ハウジングは、塞がれていない開口部を有し、
前記シリコンドリフト型放射線検出素子は、前記開口部に対向する表面を有し、
該表面の上に遮光膜が設けられていること
を特徴とするシリコンドリフト型放射線検出器。」
と記載されているうち、請求項5を引用するものについて、
「ハウジングと、
該ハウジングの内側に配置されたシリコンドリフト型放射線検出素子とを備え、
前記ハウジングは、塞がれていない開口部を有し、
前記シリコンドリフト型放射線検出素子は、前記開口部に対向しており放射線が入射する表面を有し、
該表面上に直接又は他の膜を介して遮光膜が設けられており、
前記表面とは逆側にある裏面に設けられ、放射線の入射によって発生する電荷が流入し、前記電荷に応じた信号を出力する信号出力電極と、
前記表面に設けられており、電圧を印加される第1電極と、
前記裏面に設けられ、前記信号出力電極を囲んでおり、前記信号出力電極からの距離が互いに異なる複数の第2電極とを更に備え、
前記表面は前記開口部よりも大きく、
前記ハウジングは、前記開口部の縁を含み、前記表面の一部に重なった重なり部分を有し、
前記重なり部分は、前記表面に接着部材を介して接着されており、
前記第2電極は、前記裏面に沿った一の方向の長さが前記裏面に沿った他の方向の長さよりも長い形状を有し、
前記信号出力電極は、前記一の方向に沿って並んでおり互いに接続された複数の電極からなること
を特徴とするシリコンドリフト型放射線検出器。」と記載し、新たに請求項18とする。

(7−6)訂正事項7−6(請求項19)
訂正前の請求項7に、
「ハウジングと、
該ハウジングの内側に配置された請求項1乃至6のいずれか一つに記載のシリコンドリフト型放射線検出素子とを備え、
前記ハウジングは、塞がれていない開口部を有し、
前記シリコンドリフト型放射線検出素子は、前記開口部に対向する表面を有し、
該表面の上に遮光膜が設けられていること
を特徴とするシリコンドリフト型放射線検出器。」
と記載されているうち、請求項6を引用するものについて、
「ハウジングと、
該ハウジングの内側に配置されたシリコンドリフト型放射線検出素子とを備え、
前記ハウジングは、塞がれていない開口部を有し、
前記シリコンドリフト型放射線検出素子は、前記開口部に対向しており放射線が入射する表面を有し、
該表面上に直接又は他の膜を介して遮光膜が設けられており、
前記表面とは逆側にある裏面に設けられ、放射線の入射によって発生する電荷が流入し、前記電荷に応じた信号を出力する信号出力電極と、
前記表面に設けられており、電圧を印加される第1電極と、
前記裏面に設けられ、前記信号出力電極を囲んでおり、前記信号出力電極からの距離が互いに異なる複数の第2電極とを更に備え、
前記表面は前記開口部よりも大きく、
前記ハウジングは、前記開口部の縁を含み、前記表面の一部に重なった重なり部分を有し、
前記重なり部分は、前記表面に接着部材を介して接着されており、
前記第2電極は、前記裏面に沿った一の方向の長さが前記裏面に沿った他の方向の長さよりも長い形状を有し、
前記信号出力電極は、前記裏面に設けられており前記一の方向に沿って延伸した導電線を含んでいること
を特徴とするシリコンドリフト型放射線検出器。」と記載し、新たに請求項19とする。

(8)訂正事項8(請求項8)
訂正前の請求項8に、
「ハウジングと、
該ハウジングの内側に配置されたシリコンドリフト型放射線検出素子とを備え、
前記ハウジングは、塞がれていない開口部を有し、
前記シリコンドリフト型放射線検出素子は、前記開口部に対向しており放射線が入射する表面を有し、
該表面の上に遮光膜が設けられていること
を特徴とするシリコンドリフト型放射線検出器。」
と記載されているのを、
「ハウジングと、
該ハウジングの内側に配置されたシリコンドリフト型放射線検出素子とを備え、
前記ハウジングは、塞がれていない開口部を有し、
前記シリコンドリフト型放射線検出素子は、前記開口部に対向しており放射線が入射する表面を有し、
該表面の上に遮光膜が設けられており、
前記表面は前記開口部よりも大きく、
前記ハウジングは、前記開口部の縁を含み、前記表面の一部に重なった重なり部分を有し、
前記重なり部分は、前記表面に接着部材を介して接着されていること
を特徴とするシリコンドリフト型放射線検出器。」と訂正する(請求項8を直接的又は間接的に引用する請求項9〜14も同様に訂正する。)。

(9)訂正事項9(発明の名称)
訂正前の明細書の発明の名称に、
「シリコンドリフト型放射線検出素子、シリコンドリフト型放射線検出器及び放射線検出装置」
と記載されているのを、
「シリコンドリフト型放射線検出器及び放射線検出装置」と訂正する。

(10)訂正事項10(【0001】)
訂正前の明細書の【0001】に、
「本発明は、シリコンドリフト型放射線検出素子、シリコンドリフト型放射線検出器及び放射線検出装置に関する。」
と記載されているのを、
「本発明は、シリコンドリフト型放射線検出器及び放射線検出装置に関する。」と訂正する。

(11)訂正事項11(【0007】)
訂正前の明細書の【0007】に
「本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、放射線の検出効率及び低エネルギーの放射線の検出感度を向上させたシリコンドリフト型放射線検出素子、シリコンドリフト型放射線検出器及び放射線検出装置を提供することにある。」
と記載されているのを、
「本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、放射線の検出効率及び低エネルギーの放射線の検出感度を向上させたシリコンドリフト型放射線検出器及び放射線検出装置を提供することにある。」と訂正する。

(12)訂正事項12(【0008】〜【0019】)
訂正前の明細書の【0008】〜【0019】を削除する。

(13)一群の請求項及び別の訂正単位としての求めについて
本件訂正は、一群の請求項である訂正後の請求項1〜19について請求されたものである。また、明細書に係る訂正は、一群の請求項である訂正後の請求項1〜19について請求されたものである。
そして、特許権者は、訂正後の請求項7〜14並びに訂正後の請求項15、16、17、18及び19について、当該各請求項に係る訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の訂正後の請求項とは別の訂正単位として扱われることを求めている。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、独立特許要件の有無
(1)訂正事項1〜6
ア 訂正の目的の適否
訂正事項1〜6は、それぞれ、訂正前の請求項1〜6を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無
訂正事項1〜6は、前記アのとおりのものであるから、新規事項を追加するものではない。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記ア及びイに照らせば、訂正事項1〜6は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

エ 独立特許要件の有無
訂正事項1〜6に係る訂正後の請求項1〜6は、特許異議の申立てがされている請求項であるから、当該訂正事項に対しては、いわゆる独立特許要件は課されない。

オ 小括
よって、訂正事項1〜6は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とし、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものであり、同法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する要件は課されない。

(2−1)訂正事項7−1
ア 訂正の目的の適否
訂正事項7−1は以下の内容からなる。
(i)訂正前の請求項7は請求項1〜6のいずれかの記載を引用していたところ、そのうち請求項1の記載を引用するものに限定する訂正。
(ii)上記(i)に加えて、請求項間の引用関係を解消して、独立形式請求項である訂正後の請求項7とする訂正。
(iii)上記(i)に伴い、「前記シリコンドリフト型放射線検出素子」が、「前記開口部に対向する表面を有し、該表面の上に遮光膜が設けられている」ことと、「放射線が入射する表面上に直接に又は他の膜を介して遮光膜が設けられている」ことの双方が特定されたことになることから、冗長な記載を整理して、「前記開口部に対向しており放射線が入射する表面を有し、該表面上に直接又は他の膜を介して遮光膜が設けられて」いることにする訂正。
(iv)訂正前の請求項7に特定されていた「ハウジング」、「(ハウジングの)開口部」及び「(シリコンドリフト型放射線検出素子の)表面」の関係について、「前記表面は前記開口部よりも大きく、前記ハウジングは、前記開口部の縁を含み、前記表面の一部に重なった重なり部分を有し、前記重なり部分は、前記表面に接着部材を介して接着されていること」を限定する訂正。

上記(i)及び(iv)の訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
上記(ii)の訂正は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものである。
上記(iii)の訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 新規事項の有無
(ア)上記(i)〜(iii)の訂正について
上記(i)〜(iii)の訂正によって、新たな技術的事項が導入されることはない。
(イ)上記(iv)の訂正について
上記(iv)の訂正に係る事項は、本件特許の設定登録時の明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)の「表面111は、開口部131よりも大きい。カバー13の一部分は、放射線検出素子11の表面111に対向する視点から表面111に直交する方向に見た場合、表面111の一部に重なっている。カバー13の中で表面111の一部に重なっている部分を重なり部分132とする。重なり部分132は、開口部131の縁を含んでいる。重なり部分132は、放射線検出素子11の表面111に、接着部材162を介して接着されている。」(【0045】)、及び図3(下図参照)の記載に照らして、新規事項を追加するものではない。


ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記ア及びイに照らせば、訂正事項7−1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

エ 独立特許要件の有無
訂正事項7−1に係る訂正後の請求項7及びそれを直接的又は間接的に引用する訂正後の請求項9〜14のうち、訂正後の請求項12以外の請求項は、特許異議の申立てがされている請求項であるから、当該請求項についての訂正事項に対しては、いわゆる独立特許要件は課されない。
他方、訂正後の請求項12は、特許異議の申立てがされていない請求項であるところ、当該請求項に係る訂正事項は、特許請求の範囲の減縮を目的とする上記(i)及び(iv)の訂正を含むことから、訂正後の請求項7を直接的又は間接的に引用する訂正後の請求項12に係る訂正については、いわゆる独立特許要件が課されることになる。しかるに、後記第6の1(3)のとおり、訂正後の請求項12に係る発明は甲9に記載された発明に基づいて進歩性を欠如するものではなく、また、他に、特許出願の際独立して特許を受けることができない理由を発見しないことから、当該訂正事項は、独立特許要件を満たしている。

オ 小括
よって、訂正事項7−1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とし、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものであり、同法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する要件は課されないか、又は同項の規定に適合する。

(2−2)訂正事項7−2〜7−6
ア 訂正の目的の適否
訂正事項7−2〜7−6は以下の内容からなる。
(i)訂正前の請求項7は請求項1〜6のいずれかの記載を引用していたところ、それぞれ、そのうち請求項2〜6の記載を引用するものに限定する訂正。
(ii)上記(i)に加えて、請求項間の引用関係を解消して、それぞれ、独立形式請求項である訂正後の請求項15〜19を新たに追加する訂正。
(iii)上記(i)に伴って、訂正事項7−1の(iii)と同じ。
(iv)上記(i)に加えて、訂正事項7−1の(iv)と同じ。

上記(i)及び(iv)の訂正は、特許請求の範囲の減縮の目的とするものである。
上記(ii)の訂正は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものである。
上記(iii)の訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 新規事項の有無
訂正事項7−1における判断と同じとなる。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項7−1における判断と同じとなる。

エ 独立特許要件の有無
訂正事項7−2〜7−6に係る訂正後の請求項15〜19は、特許異議の申立てがされている請求項であるから、当該訂正事項に対しては、いわゆる独立特許要件は課されない。

オ 小括
よって、訂正事項7−2〜7−6は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とし、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものであり、同法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する要件は課されない。

(3)訂正事項8
ア 訂正の目的の適否
訂正事項8は以下の内容からなる。
訂正前の請求項8に特定されていた「ハウジング」、「(ハウジングの)開口部」及び「(シリコンドリフト型放射線検出素子の)表面」の関係について、訂正事項7−1の(iv)と同じ。

上記の訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無
訂正事項7−1の(iv)における判断と同じとなる。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項7−1の(iv)における判断と同じとなる。

エ 独立特許要件の有無
訂正事項8に係る訂正後の請求項8及びそれを直接的又は間接的に引用する訂正後の請求項9〜14のうち、訂正後の請求項12以外の請求項は、特許異議の申立てがされている請求項であるから、当該請求項についての訂正事項に対しては、いわゆる独立特許要件は課されない。
他方、訂正後の請求項12は、特許異議の申立てがされていない請求項であるところ、当該請求項に係る訂正事項は、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正を含むことから、訂正後の請求項8を直接的又は間接的に引用する訂正後の請求項12に係る訂正については、いわゆる独立特許要件が課されることになる。しかるに、後記第6の1(3)のとおり、訂正後の請求項12に係る発明は甲9に記載された発明に基づいて進歩性を欠如するものではなく、また、他に、特許出願の際独立して特許を受けることができない理由を発見しないことから、当該訂正事項は、独立特許要件を満たしている。

オ 小括
よって、訂正事項8は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とし、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものであり、同法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する要件は課されないか、又は同項の規定に適合する。

(4)訂正事項9〜12
訂正事項9〜12は、訂正事項1〜6により、「シリコンドリフト型放射線検出素子」の発明に係る請求項1〜6が削除されたことに伴って、明細書の記載を特許請求の範囲の記載と整合させるためにしたものであって、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項9〜12は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
また、訂正事項9〜12は、上記のとおり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、特許請求の範囲の減縮並びに誤記及び誤訳の訂正のいずれをも目的とするものではないから、いわゆる独立特許要件は課されない。

よって、訂正事項9〜12は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とし、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものであり、同法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する要件は課されない。

3 訂正の適否についての判断の小括
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合し、同法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する要件は課されないか、又は同項の規定に適合する。
そして、前記1(13)のとおり、特許権者は、訂正後の請求項7〜14並びに訂正後の請求項15、16、17、18及び19について、当該各請求項に係る訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別の訂正単位として扱われることを求めている。
よって、明細書及び特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1〜6]、[7〜14]、15、16、17、18、19について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明
前記第2によれば、本件特許の請求項1〜19に係る発明(以下、それぞれ、「本件発明1」〜「本件発明19」といい、削除された請求項に係る発明を除き、これらを総称して「本件発明」ということがある。)は、本件訂正後の請求項1〜19に記載されたとおりの以下のものである。

「【本件発明1】(削除)
【本件発明2】(削除)
【本件発明3】(削除)
【本件発明4】(削除)
【本件発明5】(削除)
【本件発明6】(削除)
【本件発明7】
ハウジングと、
該ハウジングの内側に配置されたシリコンドリフト型放射線検出素子とを備え、
前記ハウジングは、塞がれていない開口部を有し、
前記シリコンドリフト型放射線検出素子は、前記開口部に対向しており放射線が入射する表面を有し、
該表面上に直接に又は他の膜を介して遮光膜が設けられており、
前記表面は前記開口部よりも大きく、
前記ハウジングは、前記開口部の縁を含み、前記表面の一部に重なった重なり部分を有し、
前記重なり部分は、前記表面に接着部材を介して接着されていること
を特徴とするシリコンドリフト型放射線検出器。
【本件発明8】
ハウジングと、
該ハウジングの内側に配置されたシリコンドリフト型放射線検出素子とを備え、
前記ハウジングは、塞がれていない開口部を有し、
前記シリコンドリフト型放射線検出素子は、前記開口部に対向しており放射線が入射する表面を有し、
該表面の上に遮光膜が設けられており、
前記表面は前記開口部よりも大きく、
前記ハウジングは、前記開口部の縁を含み、前記表面の一部に重なった重なり部分を有し、
前記重なり部分は、前記表面に接着部材を介して接着されていること
を特徴とするシリコンドリフト型放射線検出器。
【本件発明9】
前記表面は前記開口部よりも大きく、
前記ハウジングは、前記開口部の縁を含み、前記表面の一部に重なった重なり部分を有し、
前記表面内で前記重なり部分が重なった部分で囲まれた部分は、前記遮光膜で覆われていること
を特徴とする請求項7又は8に記載のシリコンドリフト型放射線検出器。
【本件発明10】
前記シリコンドリフト型放射線検出素子を冷却する冷却部を備えておらず、
前記ハウジングは気密されていないこと
を特徴とする請求項7乃至9のいずれか一つに記載のシリコンドリフト型放射線検出器。
【本件発明11】
前記表面に対向する位置に窓材が設けられていないこと
を特徴とする請求項7乃至10のいずれか一つに記載のシリコンドリフト型放射線検出器。
【本件発明12】
前記ハウジングと前記シリコンドリフト型放射線検出素子との間の隙間に充填された充填物を更に備えること
を特徴とする請求項7乃至11のいずれか一つに記載のシリコンドリフト型放射線検出器。
【本件発明13】
請求項7乃至12のいずれか一つに記載のシリコンドリフト型放射線検出器と、
該シリコンドリフト型放射線検出器が検出した放射線のスペクトルを生成するスペクトル生成部と
を備えることを特徴とする放射線検出装置。
【本件発明14】
試料へ放射線を照射する照射部と、
前記試料から発生した放射線を検出する請求項7乃至12のいずれか一つに記載のシリコンドリフト型放射線検出器と、
該シリコンドリフト型放射線検出器が検出した放射線のスペクトルを生成するスペクトル生成部と、
該スペクトル生成部が生成したスペクトルを表示する表示部と
を備えることを特徴とする放射線検出装置。
【本件発明15】
ハウジングと、
該ハウジングの内側に配置されたシリコンドリフト型放射線検出素子とを備え、
前記ハウジングは、塞がれていない開口部を有し、
前記シリコンドリフト型放射線検出素子は、前記開口部に対向しており放射線が入射する表面を有し、
該表面上に直接に又は他の膜を介して遮光膜が設けられており、
前記遮光膜は、前記表面に入射する光の量を0.1%未満に減少させ、
前記表面は前記開口部よりも大きく、
前記ハウジングは、前記開口部の縁を含み、前記表面の一部に重なった重なり部分を有し、
前記重なり部分は、前記表面に接着部材を介して接着されていること
を特徴とするシリコンドリフト型放射線検出器。
【本件発明16】
ハウジングと、
該ハウジングの内側に配置されたシリコンドリフト型放射線検出素子とを備え、
前記ハウジングは、塞がれていない開口部を有し、
前記シリコンドリフト型放射線検出素子は、前記開口部に対向しており放射線が入射する表面を有し、
該表面上に直接に又は他の膜を介して遮光膜が設けられており、
前記遮光膜は、厚さ50nm超500nm未満の金属膜であり、
前記表面は前記開口部よりも大きく、
前記ハウジングは、前記開口部の縁を含み、前記表面の一部に重なった重なり部分を有し、
前記重なり部分は、前記表面に接着部材を介して接着されていること
を特徴とするシリコンドリフト型放射線検出器。
【本件発明17】
ハウジングと、
該ハウジングの内側に配置されたシリコンドリフト型放射線検出素子とを備え、
前記ハウジングは、塞がれていない開口部を有し、
前記シリコンドリフト型放射線検出素子は、前記開口部に対向しており放射線が入射する表面を有し、
該表面上に直接に又は他の膜を介して遮光膜が設けられており、
前記遮光膜は、カーボン膜であり、
前記表面は前記開口部よりも大きく、
前記ハウジングは、前記開口部の縁を含み、前記表面の一部に重なった重なり部分を有し、
前記重なり部分は、前記表面に接着部材を介して接着されていること
を特徴とするシリコンドリフト型放射線検出器。
【本件発明18】
ハウジングと、
該ハウジングの内側に配置されたシリコンドリフト型放射線検出素子とを備え、
前記ハウジングは、塞がれていない開口部を有し、
前記シリコンドリフト型放射線検出素子は、前記開口部に対向しており放射線が入射する表面を有し、
該表面上に直接に又は他の膜を介して遮光膜が設けられており、
前記表面とは逆側にある裏面に設けられ、放射線の入射によって発生する電荷が流入し、前記電荷に応じた信号を出力する信号出力電極と、
前記表面に設けられており、電圧を印加される第1電極と、
前記裏面に設けられ、前記信号出力電極を囲んでおり、前記信号出力電極からの距離が互いに異なる複数の第2電極とを更に備え、
前記表面は前記開口部よりも大きく、
前記ハウジングは、前記開口部の縁を含み、前記表面の一部に重なった重なり部分を有し、
前記重なり部分は、前記表面に接着部材を介して接着されており、
前記第2電極は、前記裏面に沿った一の方向の長さが前記裏面に沿った他の方向の長さよりも長い形状を有し、
前記信号出力電極は、前記一の方向に沿って並んでおり互いに接続された複数の電極からなること
を特徴とするシリコンドリフト型放射線検出器。
【本件発明19】
ハウジングと、
該ハウジングの内側に配置されたシリコンドリフト型放射線検出素子とを備え、
前記ハウジングは、塞がれていない開口部を有し、
前記シリコンドリフト型放射線検出素子は、前記開口部に対向しており放射線が入射する表面を有し、
該表面上に直接に又は他の膜を介して遮光膜が設けられており、
前記表面とは逆側にある裏面に設けられ、放射線の入射によって発生する電荷が流入し、前記電荷に応じた信号を出力する信号出力電極と、
前記表面に設けられており、電圧を印加される第1電極と、
前記裏面に設けられ、前記信号出力電極を囲んでおり、前記信号出力電極からの距離が互いに異なる複数の第2電極とを更に備え、
前記表面は前記開口部よりも大きく、
前記ハウジングは、前記開口部の縁を含み、前記表面の一部に重なった重なり部分を有し、
前記重なり部分は、前記表面に接着部材を介して接着されており、
前記第2電極は、前記裏面に沿った一の方向の長さが前記裏面に沿った他の方向の長さよりも長い形状を有し、
前記信号出力電極は、前記裏面に設けられており前記一の方向に沿って延伸した導電線を含んでいること
を特徴とするシリコンドリフト型放射線検出器。」

第4 取消理由通知書に記載した取消理由の概要
本件特許の登録時の請求項1〜14に係る特許に対して、当合議体が特許権者に通知した取消理由通知書(以下、単に「取消理由通知書」という。)に係る取消理由の概要は、次のとおりである。

1 サポート要件違反
本件特許の登録時の請求項1〜11、13、14に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものである。

新規性欠如
本件特許の登録時の請求項1〜3に係る発明は、その優先日前に日本国内または外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、甲第1号証〜甲第3号証のそれぞれに記載された発明であり、又は、本件特許の登録時の請求項1〜3、7、8、11に係る発明は、その優先日前に日本国内または外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、甲第9号証に記載された発明であるから、当該各請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

進歩性欠如
本件特許の登録時の請求項1〜3に係る発明は、その優先日前に日本国内または外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、甲第1号証〜甲第3号証のそれぞれに記載された発明に基いて、又は、本件特許の登録時の請求項1〜3、7、8、11、13、14に係る発明は、その優先日前に日本国内または外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、甲第9号証に記載された発明及び周知技術に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、当該各請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

第5 当事者が提出した証拠
以下、「第」及び「号証」を略して表記する。
1 申立人が提出した証拠
甲1:米国特許出願公開第2012/0313195号明細書
甲2:独国特許出願公開第102012012296号明細書
甲3:M.Bautz et al.,”Directly-deposited blocking filters for high-performance silicon X-ray detectors” Proceedings of SPIE, Vol.9905 99054C (2016)
甲4:米国特許出願公開第2012/0025089号明細書
甲5:米国特許第4354104号明細書
甲6:米国特許出願公開第2008/0164412号明細書
甲7:米国特許出願公開第2017/0184734号明細書
甲8:米国特許出願公開第2008/0156996号明細書
甲9:Anderhaltz et al,, ”Windowless Silicon Drift Detector” Microsc. Microanal., 17(Suppl2), p.620,621 (2011)
甲10:米国特許出願公開第2008/0212739号明細書
甲11:米国特許第6337897号明細書
甲12:米国特許出願公開第2012/0288058号明細書

2 特許権者が提出した証拠
なし

第6 当合議体の判断
当合議体は、本件発明7〜11、13〜19に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消理由(以下、単に「取消理由」という。)及び申立人が申し立てた特許異議申立理由によっては、取り消すことはできないと判断する。その理由は以下のとおりである。

1 取消理由についての判断
(1)サポート要件違反について
ア 取消理由は、本件特許の登録時の請求項1〜11、13、14に記載された発明について、本件明細書等には、(i)放射線検出器が窓材を有する窓を備えていないこと(【0061】)、(ii)放射線検出器の表面は、カバーの重なり部分が重なった部分で囲まれた部分が遮光膜に覆われていること(【0060】)、(iii)カバーの重なり部分は、放射線検出素子の表面に接着部材を介して接着されていること(【0045】)が記載されており、当業者であれば、このような構成であれば、遮光膜を設けることによって窓材を存在しなくてもよいようにできる(【0060】)とともに、放射線検出素子を試料に近づけることができる距離が、カバーの厚みと接着部材の厚みとを併せた値になって小さくなることから、本件明細書等に記載された発明が解決しようとする課題、つまり、従来技術の放射線検出器においては、ハウジングの気密状態を維持するためにハウジング及び窓材にある程度の大きさが必要であり、放射線検出器全体の大きさが大きくなるため、放射線検出素子を試料に近づけることができる距離には下限があり、また、気密状態を維持するためには窓材にはある程度の厚みが必要であるため、低エネルギーの放射線が窓材を透過する透過率が低くなっていたという課題を解決できることを認識できるといえる一方、当該請求項1〜11、13、14の記載は、放射線検出素子を試料に近づけることができる距離を小さくするための構成を反映していないから、当該各請求項に記載された発明は、当業者が本件課題を解決できると認識できる範囲のものとはいえないことを説示するものである。
これに対し、本件訂正により、本件発明が、いずれも、上記(i)〜(iii)に係る構成を備えることが明らかにされたことから、取消理由は解消した。

イ 取消理由は、本件特許の登録時の請求項4に記載された発明についてサポート要件違反を説示するものであったが、本件訂正により、当該請求項4は削除されたことから、取消理由は解消した。

(2)新規性欠如及び進歩性欠如について
前記第4の2及び3のとおり、取消理由は、(i)登録時の請求項1〜3に係る発明に対して、甲1〜3のそれぞれに記載された発明に基づく新規性欠如及び進歩性欠如、並びに(ii)登録時の請求項1〜3、7、8、11、13、14に係る発明に対して、甲9に記載された発明に基づく新規性欠如又は進歩性欠如からなるところ、前記第2のとおり、請求項1〜3は本件訂正により削除されたことから、(i)の取消理由は解消した。
そこで、以下、(ii)について判断する。
なお、本件発明12に係る特許については、特許異議の申立ての対象外であるが、前記第2の2(2−1)エ及び同(3)エにおいて独立特許要件の有無を検討する便宜上、この中で判断を示すこととする。

ア 甲9に記載された事項及び甲9に記載された発明
(ア)甲9に記載された事項
甲9には、以下の事項が記載されている(なお、甲9の翻訳文を記載し、括弧内に原文の対応箇所を示す。また、下線は当合議体が付した。以下同様。)。

「ウィンドウレスシリコンドリフト検出器」(表題)

「ウィンドウレスEDS検出器は、液体窒素冷却のリチウムドリフト型シリコン検出器[1]とシリコンドリフト検出器(SDD;[2])として、最近TEMで使用されている。SDDは比較的控えめな熱電冷却方式で、検出器を数分で冷却でき、TEMを換気する際には急速に暖めることができるため、現代のウィンドウレスEDS用途に適している。」(第1段落)

「試料と検出器の間に従来のウィンドウがない場合、透過率の向上が計算でき、プロットすることができる。図1のウィンドウレス検出器には、試料からの発光の影響を低減するための遮光体が含まれている。この遮光体は超薄型窓(SUTW; Moxtek AP3.3)よりもかなり薄く、X線の透過率をさらに低下させるサポートグリッドを必要としない。図1に示す最も顕著な吸収端は、炭素(0.28keV)、遮光体内の酸素(0.53keV)、遮光体とSUTWの両方に使用されているアルミニウムコーティングによるわずかな減少(1.56keV)である。」(第2段落)

(イ)甲9から読み取れる事項
a 前記(ア)によれば、甲9には、ウィンドウレスシリコンドリフト検出器において、試料からの発光の影響を低減するための遮光体が含まれ、この遮光体はX線透過率をさらに低減させるサポートグリッドを必要としないものであり、アルミウムコーティングが使用されていることが記載されていることから、次の技術的事項が記載されていると認められる。
(a)「ウィンドウレスシリコンドリフト検出器において、試料からの発光の影響を低減するためのものであって、アルミニウムコーティングからなる遮光体を用いること。」

(b)「ウィンドウレスシリコンドリフト検出器は、X線を検出対象とすること。」

b 甲9に記載されたウィンドウレスシリコンドリフト検出器が、X線が入射する表面を有するシリコンドリフト検出素子と、それを覆うハウジングと、を有すること、及び、回路等と組み合わせて放射線検出装置を構成すること、は技術常識に照らして明らかである。

(ウ)甲9に記載された発明
前記(1)を踏まえると、甲9には、ウィンドウレスシリコンドリフト検出器についての次の発明(以下「甲9発明」という。)が記載されていると認められる(なお、括弧内は、認定の根拠とした箇所を示す。)。

<甲9発明>
「検出器と試料の間に従来のウィンドウがないものであって、(第2段落)
試料からの発光の影響を低減するためのアルミニウムコーティングからなる遮光体と、(前記(イ)a(a))
X線が入射する表面を有するシリコンドリフト検出素子と、
前記シリコンドリフト検出素子を覆うハウジングと、
を備えたものであって、(前記(イ)b)
X線を検出対象とする、(前記(イ)a(b))
ウィンドウレスシリコンドリフト検出器。(表題)」

イ 本件発明7〜19に対する判断
(ア)本件発明7について
a 対比
(a)本件発明7の「シリコンドリフト型放射線検出器。」との特定事項について
甲9発明の「X線」は、本件発明7の「放射線」に相当する。そうすると、甲9発明の「X線を検出対象とする」「ウィンドウレスシリコンドリフト検出器」は、本件発明7の「シリコンドリフト型放射線検出器」に相当する。
よって、本件発明7と甲9発明は、「シリコンドリフト型放射線検出器」の発明である点において一致する。

(b)本件発明7の「ハウジングと、」との特定事項について
甲9発明の「ハウジング」は、本件発明7の「ハウジング」に相当する。
よって、甲9発明は、本件発明7の上記特定事項を備えている。

(c)本件発明7の「該ハウジングの内側に配置されたシリコンドリフト型放射線検出素子とを備え、」との特定事項について
甲9発明は「X線を検出対象とする」ところ、甲9発明の「シリコンドリフト検出素子」は、「X線が入射する表面を有する」ことからみても、X線を検出する素子であることは明らかである。そうすると、甲9発明の「シリコンドリフト検出素子」は、本件発明7の「シリコンドリフト型放射線検出素子」に相当する。
そして、甲9発明は、「前記シリコンドリフト検出素子を覆うハウジング」を備えるところ、「シリコンドリフト検出素子」が「ハウジング」の内側に配置されることは明らかであり、このことは、本件発明7において、「シリコンドリフト型放射線検出素子」が「該ハウジングの内側に配置され[る]」ことに相当する。
よって、甲9発明は、本件発明7の上記特定事項を備えている。

(d)本件発明7の「前記ハウジングは、塞がれていない開口部を有し、」との特定事項について
甲9発明は、「ハウジング」を備え、「検出器と試料の間に従来のウィンドウがない」ものであるところ、ハウジングにおける当該「ウィンドウがない」ところは、本件発明7の「塞がれていない開口部」に相当するといえる。
よって、甲9発明は、本件発明7の上記特定事項を備えている。

(e)本件発明7の「前記シリコンドリフト型放射線検出素子は、前記開口部に対向しており放射線が入射する表面を有し、」との特定事項について
甲9発明の「シリコンドリフト検出素子」が有する「X線が入射する表面」は、本件発明7の「放射線が入射する表面」に相当する。
また、甲9発明は、「検出器と試料の間に従来のウィンドウがない」ものであるから、「シリコンドリフト検出素子」の「X線が入射する表面」が、「ウィンドウがない」ところに対向して配置されることは明らかであり、前記(d)を踏まえると、前記「X線が入射する表面」が、「ウィンドウがない」ところ、すなわちハウジングの開口部に対向しているといえる。そして、このことは、本件発明7の「放射線が入射する表面」が「前記開口部に対向して[いる]」ことに相当する。
よって、甲9発明は、本件発明7の上記特定事項を備えている。

(f)本件発明7の「該表面上に直接に又は他の膜を介して遮光膜が設けられており、」との特定事項について
甲9発明の「遮光体」は、「アルミニウムコーティングからなる」ものであるから、膜状のものと認められる。したがって、甲9発明の「遮光体」は、本件発明7の「遮光膜」に相当する。
そうすると、本件発明7と甲9発明とは、「遮光膜が設けられて[いる]点で共通する。
他方、「遮光膜」が設けられる構成において、本件発明7は「該表面上に直接に又は他の膜を介して」設けられているのに対して、甲9発明は、そうであるか不明である。

(g)本件発明7の「前記表面は前記開口部よりも大きく、前記ハウジングは、前記開口部の縁を含み、前記表面の一部に重なった重なり部分を有し、前記重なり部分は、前記表面に接着部材を介して接着されていること」との特定事項について
甲9発明は、検出器と試料の間に従来のウィンドウがなく、ハウジングと、X線が入射する表面を有するシリコンドリフト検出素子とを備えるものの、ハウジングとシリコンドリフト検出素子の関係が、「前記表面は前記開口部よりも大きく、前記ハウジングは、前記開口部の縁を含み、前記表面の一部に重なった重なり部分を有し、前記重なり部分は、前記表面に接着部材を介して接着されている」ものであるかは不明である。

b 一致点及び相違点の認定
前記aを踏まえると、本件発明7と甲9発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。

<一致点>
「ハウジングと、
該ハウジングの内側に配置されたシリコンドリフト型放射線検出素子とを備え、
前記ハウジングは、塞がれていない開口部を有し、
前記シリコンドリフト型放射線検出素子は、前記開口部に対向しており放射線が入射する表面を有し、
遮光膜が設けられている、
シリコンドリフト型放射線検出器。」

<相違点1>
「遮光膜」が設けられる構成において、本件発明7は「放射線が入射する表面」「上に直接に又は他の膜を介して」であるのに対して、甲9発明は、そうであるのか不明である点。

<相違点2>
ハウジング(の開口部)とシリコンドリフト型放射線検出素子(の表面)の関係について、本件発明7は「前記表面は前記開口部よりも大きく、前記ハウジングは、前記開口部の縁を含み、前記表面の一部に重なった重なり部分を有し、前記重なり部分は、前記表面に接着部材を介して接着されている」のに対して、甲9発明は、そうであるのか不明である点。

相違点の判断
事案に鑑み、相違点2について判断する。
前記ア(ア)及び(イ)のとおり、甲9の記載からは、ウィンドウレスシリコンドリフト検出器において、X線が入射する表面を有するシリコンドリフト検出素子と、前記シリコンドリフト検出素子を覆うハウジングとを備えること、及び、検出器と試料の間に従来のウィンドウがないことを読み取ることができる。
しかしながら、相違点2に係る構成は、申立人が提示した甲1〜12のいずれにも記載も示唆もされていない。また、甲9発明において、相違点2に係る構成を採用する動機付けもない。
そして、本件発明7は、相違点2に係る構成を備えることにより、放射線検出素子を試料に近づけることができる距離が、カバーの厚みと接着部材の厚みとを併せた値になって小さくなり、したがって、低エネルギーの放射線の検出感度が向上するという、格別な効果を奏するものと認められる。
また、甲9のその余の記載をみても、上記の判断を左右するものはない。
したがって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明7は、甲9に記載された発明及び甲1〜12に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

d 本件発明7についての小括
本件発明7は、甲9に記載された発明及び甲1〜12に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(イ)本件発明8について
a 対比並びに一致点及び相違点の認定
本件発明8と甲9発明とは、前記(ア)と同様に対比すると、前記(ア)bで認定した本件発明7と甲9発明との一致点で一致し、次の点で相違する。

<相違点3>
「遮光膜」が設けられる構成において、本件発明8は「放射線が入射する表面」「の上に」設けられるのに対して、甲9発明は、そうであるのか不明である点。

<相違点4>
相違点2と同じ。

相違点の判断
本件発明8は、相違点4に係る構成を備えるところ、前記(ア)cと同様の理由で、甲9に記載された発明及び甲1〜12に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(ウ)本件発明9〜14について
本件発明9〜14は、本件発明7又は8を直接的ないし間接的に引用するものであって、いずれも、前記相違点2又は4を含むから、前記(ア)c又は(イ)bと同様の理由で、甲9に記載された発明及び甲1〜12に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(エ)本件発明15〜19について
本件発明15〜19は、いずれも、本件発明7の発明特定事項を含み、さらに限定したものであって、前記相違点2を含むから、前記(ア)cと同様の理由で、甲9に記載された発明及び甲1〜12に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(オ)甲9に記載された発明に基づく新規性及び進歩性欠如についてのまとめ
前記(ア)〜(エ)のとおり、本件発明7〜19は、甲9に記載された発明及び甲1〜12に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)取消理由についての判断の小括
以上のとおりであるから、本件発明7〜11、13〜19についての特許は、取消理由によっては取り消すことができない。
また、本件発明12は、甲9に記載された発明に基づいて新規性及び進歩性を欠如するものではない。

2 取消理由通知書において採用しなかった特許異議申立理由についての判断
申立人は、上記の特許異議申立理由として、(i)本件特許の登録時の請求項1〜6に係る発明に対して、甲1〜4、7の少なくとも一つを主引用例とする新規性欠如又は進歩性欠如、(ii)本件特許の登録時の請求項7〜11、13及び14に係る発明に対して、甲8、10〜12の少なくとも一つを主引用例とする進歩性欠如を主張する。
しかるところ、(i)については、前記第2のとおり、請求項1〜6が本件訂正により削除されたことから、解消した。
そこで、以下、(ii)について判断する。

(1)甲8を主引用例とする進歩性欠如について
甲8には、図6において、放射線検出システム101における筐体103の内部に放射線検出器モジュール109が設けられ、筐体103の内部環境を真空とすること([0042])、及び、放射線検出器モジュール109を形成するシリコンドリフト検出器(SDD)は、真空中でウィンドウレスで動作できること([0044])が記載されていることから、放射線検出器モジュール109をウィンドウレスにすることを読み取ることができる。
しかしながら、甲8には、放射線検出器モジュール109をウィンドウレスにするにあたり、シリコンドリフト検出器及びハウジングをどのように構成するかについて具体的な記載はなく、前記相違点2及び4に係る本件発明の構成(前記1(2)イ(ア)b及び(イ)a)は記載も示唆もされていない。申立人が提出する他の証拠についても同様である。
そうすると、本件発明7〜11、13〜19と甲8に記載された発明とは、少なくとも、前記相違点2又は4と同じ点で相違するから、前記1(2)イ(ア)c又は同(イ)bと同様の理由で、本件発明7〜11、13〜19は、甲8に記載された発明及び甲1〜12に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)甲10及び11のいずれかを主引用例とする進歩性欠如について
甲10(図3等において、X線検出器5の内部に、半導体検出素子12が、X線の入射窓に検出面12aを向けて設置されている。また、X線検出器5の手前に、X線入射孔13を有する入射側コリメータ14が設置されている。)及び甲11(図7A及び図8において、SSD43が、平板状の第2のコリメータ40に取り付けられている。)は、いずれも、「シリコンドリフト検出素子を覆うハウジング」に設けられた「開口」を記載するものではなく、前記相違点2及び4に係る構成(前記1(2)イ(ア)b及び同(イ)a)は記載も示唆もされていない。申立人が提出する他の証拠についても同様である。
そうすると、本件発明7〜11、13〜19と甲10及び11に記載された発明とは、少なくとも、前記相違点2又は4と同じ点で相違するから、前記1(2)イ(ア)c又は同(イ)bと同様の理由で、本件発明7〜11、13〜19は、甲10及び11のいずれかに記載された発明及び甲1〜12に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)甲12を主引用例とする進歩性欠如について
ア 甲12に記載された事項
甲12には、以下の事項が記載されている(なお、甲12の翻訳文を記載し、括弧内に原文の対応箇所を示す。また、翻訳文は、甲12の日本語ファミリ文献である特開2012−255769号公報の記載に基づくものである。)。

(ア)[0060]及び図3
「[0060]図3は、当該実施形態に係る複合X線分析装置1の蛍光X線検出器7の先端の形状を表す模式図である。蛍光X線検出器7の外径は20mmであり、その先端に受光部12を有している。ここで、蛍光X線検出器7がSDDである場合、受光部12は、複数のリング形状の電極が設けられる円形状の平面である。試料100の蛍光X線測定を行う場合、試料100が放射する蛍光X線を検出する感度が最大となるように、蛍光X線検出器7が複合X線分析装置1に配置されている。受光部12で受光される蛍光X線の受光感度を最大にする蛍光X線の入射方向を、蛍光X線検出器7の光軸と定義すると、蛍光X線検出器7の光軸が、試料100の中心部を貫いているのが望ましい。なお、受光部12が受光できる蛍光X線の量をより多くするために、受光部12の中心より光軸が受光部12の受光面に垂直に延伸しているのが一般的であるが、必ずしもこれに限定されない。さらに、試料100が放射する蛍光X線を検出する感度をより高くするよう、受光部12が試料100により近接するよう、蛍光X線検出器7が配置されるのが望ましい。」





(イ)[0080]〜[0084]、図6、7
「[0080]図6は、当該実施形態に係る複合X線分析装置1の蛍光X線検出器7の先端の形状を表す模式図である。蛍光X線検出器7は、図6に示す通り、X線遮蔽体13をさらに備えている。X線遮蔽体13の形状は、蛍光X線検出器7の本体側が中空円柱をしており、先端側が中空の円錐台形状であり、先端には円形の開口部がある。すなわち、X線遮蔽体13は、中空円柱形状により、蛍光X線検出器7の受光部12の周縁を囲っている。また、X線遮蔽体13の先端側がテーパー状になっており、先端に近づくにつれて、断面の半径が徐々に小さくなっていく構造となっている。X線遮蔽体13は、ビームストッパ8からの蛍光X線を遮蔽する材質であれば何でもよく、ここでは、ステンレススチールからなるとしているが、一般的な金属であってもよい。また、必要に応じて鉛が含まれていてもよい。
[0081]図7は、当該実施形態に係る複合X線分析装置1の蛍光X線検出器7の配置を示す模式図である。蛍光X線検出器7の本体部の外径は20mmであり、X線遮蔽体13の中空円柱部分の外径は12mmであり、受光部12からX線遮蔽体13の先端までの距離は20mmである。X線遮蔽体13の先端から試料100までの距離L1は2mmである。
[0082]光学系3のコリメータから試料100に入射するX線の光軸上に、順に、試料100と、ビームストッパ8が配置されている。コリメータの外径は13mmである。図7に示す通り、ビームストッパ8に、X線のダイレクトビームが照射される位置に鉛によって形成されているコア部11が備えられており、コア部11をホルダーが支持している。すなわち、コア部11は、ビームストッパ8におけるX線のダイレクトビームが直接照射される部分である。試料100に入射するするX線のダイレクトビームをコア部11にある鉛が吸収することにより、ビームストッパ8のコア部11はX線のダイレクトビームを遮蔽している。試料100とビームストッパ8のコア部11の距離L2は、11mmである。なお、ここでは、ビームストッパ8は、鉛によって形成されているコア部11を備えるとしたが、ビームストッパ8はこれに限定されることはなく、たとえば、鉛合金によって形成される一体型であってもよい。この場合であっても、本発明に係るX線遮蔽体13は、一体型のビームストッパにおけるX線のダイレクトビームが直接照射される部分が放射する蛍光X線を遮蔽する。
・・・中略・・・
[0083]図7に示す蛍光X線検出器7は、試料100が放射する蛍光X線を検出するのに、適した位置に配置されている。X線のダイレクトビームが試料100に照射する領域の中心部を、蛍光X線検出器7の光軸が貫いているのが望ましい。蛍光X線検出器7の光軸は、受光部12の中心から受光部12の平面に対して垂直に延伸しているので、試料100が受光部12へ放射する蛍光X線XL1の中心は、受光部12の中心に到達する。図には、試料100が受光部12へ放射する蛍光X線XL1の中心が波線で示されている。
[0084]これに対して、X線遮蔽体13の一部は、受光部12とビームストッパ8との間に配置されており、X線遮蔽体13は、ビームストッパ8が受光部12へ放射する蛍光X線を遮蔽している。とくに、X線遮蔽体13は、コア部11が受光部12へ放射する蛍光X線XL2を遮蔽している。図には、コア部11が受光部12へ放射する蛍光X線XL2の中心が波線で示されている。もしもX線遮蔽体13が存在していなければ、ビームストッパ8が受光部12へ放射する蛍光X線が受光部12に到達するところ、X線遮蔽体13が存在していることにより、ビームストッパ8が受光部12へ放射する蛍光X線が、とくにコア部11が受光部12へ放射する蛍光X線XL2が、X線遮蔽体13により遮蔽されている。」









イ 甲12に記載された発明
(ア)前記ア(ア)によれば、甲12には、図3に係る蛍光X線検出器(以下「図3蛍光X線検出器」という。)について、
「SDD(シリコンドリフト検出器)である蛍光X線検出器7であって、
外径が20mmであり、その先端に受光部12を有しており、
受光部12は、複数のリング形状の電極が設けられる円形状の平面である、([0060])
蛍光X線検出器7。」の発明が記載されていると認められる。

(イ)また、前記ア(イ)によれば、同じく甲12には、図7に係る蛍光X線検出器(以下「図7蛍光X線検出器」という。)について、
「蛍光X線検出器7であって、
X線遮蔽体13を備えており、X線遮蔽体13の形状は、蛍光X線検出器7の本体側が中空円柱をしており、先端側が中空の円錐台形状であり、先端には円形の開口部があり、すなわち、X線遮蔽体13は、中空円柱形状により、蛍光X線検出器7の受光部12の周縁を囲っており、([0080])
その本体部の外径は20mmであり、X線遮蔽体13の中空円柱部分の外径は12mmであり、受光部12からX線遮蔽体13の先端までの距離は20mmであり、([0081])
蛍光X線検出器7の光軸は、受光部12の中心から受光部12の平面に対して垂直に延伸しているので、試料100が受光部12へ放射する蛍光X線XL1の中心は、受光部12の中心に到達する、([0083])
蛍光X線検出器7。」の発明が記載されていると認められる。

ウ 対比・判断
甲12に記載された図3蛍光X線検出器及び図7蛍光X線検出器に係る発明は前記イで認定したとおりであるところ、これらは、本件発明の「シリコンドリフト型放射線検出器」に係るものであって、本件発明の「ハウジング」に相当する構成を備えているとみる余地はある。
しかしながら、図3蛍光X線検出器に係る発明では、シリコンドリフト型放射線検出素子をハウジングにどのように設けるかについて、具体的な記載はなく、前記相違点2及び4に係る本件発明の構成(前記1(2)イ(ア)b及び(イ)a)は記載も示唆もされていない。また、図7蛍光X線検出器に係る発明では、X線遮蔽体13が、中空円柱形状により、蛍光X線検出器7の受光部12の周縁を囲っているものであることが記載されているにとどまり、当該発明が、相違点2及び4に係る本件発明の構成を備えているとはいえない。そして、これらの発明から出発した当業者が、前記相違点2又は4に係る構成を採用する動機付けもない。
また、甲12のその余の記載をみても、上記の判断を左右するものはない。
そうすると、本件発明7〜11、13〜19は、前記1(1)イ(ア)c又は同(イ)bと同様の理由で、甲12に記載された発明及び甲1〜12に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)取消理由通知書において採用しなかった特許異議申立理由についての判断の小括
以上のとおりであるから、本件発明7〜11、13〜19についての特許は、取消理由通知書において採用しなかった特許異議申立理由によっては取り消すことができない。

第7 むすび
以上のとおり、本件発明7〜11、13〜19に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件発明7〜11、13〜19に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
請求項1〜6に係る特許は本件訂正により削除され、当該各請求項1〜6に係る申立ては、その対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】 シリコンドリフト型放射線検出器及び放射線検出装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンドリフト型放射線検出器及び放射線検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線等の放射線を検出する放射線検出器には、半導体を用いた放射線検出素子を備えたものがある。半導体を用いた放射線検出素子には、例えばシリコンドリフト型放射線検出素子がある。シリコンドリフト型放射線検出素子を備えた放射線検出器は、シリコンドリフト型放射線検出器(SDD:Silicon Drift Detector)である。従来、このような放射線検出素子は、ノイズを低減するために、冷却して使用されていた。放射線検出器は、ハウジングと、放射線検出素子と、ペルチェ素子等の冷却部とを備える。放射線検出素子及び冷却部は、ハウジングの内側に配置される。冷却による結露を防止するために、ハウジングは気密状態になっており、ハウジングの内側は減圧されているか又は乾燥ガスが封入されている。また、放射線検出素子はハウジングから可及的に熱的に離隔している。
【0003】
ハウジングには、放射線を透過させる材料で形成された窓材を有する窓が設けられている。窓材を透過した放射線が放射線検出素子へ入射し、放射線が検出される。窓材には、放射線検出素子への光の入射を防止するために遮光を行う役割がある。また、窓材は、気密状態を維持するための構造的な強度を有する必要がある。特許文献1には、放射線検出器の例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】 特開2000−55839号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
試料から発生する放射線の検出効率を高めるためには、放射線検出素子を試料に近づければよい。しかしながら、従来の放射線検出器では、ハウジングの気密状態を維持するためにハウジング及び窓材にある程度の大きさが必要であり、放射線検出器全体の大きさが大きくなっている。放射線検出器全体の大きさのため、放射線検出素子を試料に近づけることができる距離には下限があり、検出効率の向上には限界がある。
【0006】
また、気密状態を維持するために窓材にはある程度の厚みが必要である。窓材の厚みのため、低エネルギーの放射線が窓材を透過する透過率が低くなり、低エネルギーの放射線は放射線検出素子へ入射し難い。このため、このような放射線検出器は、低エネルギーの放射線の検出感度が低い。
【0007】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、放射線の検出効率及び低エネルギーの放射線の検出感度を向上させたシリコンドリフト型放射線検出器及び放射線検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】(削除)
【0009】(削除)
【0010】(削除)
【0011】(削除)
【0012】(削除)
【0013】(削除)
【0014】(削除)
【0015】(削除)
【0016】(削除)
【0017】(削除)
【0018】(削除)
【0019】(削除)
【0020】
本発明に係るシリコンドリフト型放射線検出器は、ハウジングと、該ハウジングの内側に配置された本発明に係るシリコンドリフト型放射線検出素子とを備え、前記ハウジングは、塞がれていない開口部を有し、前記シリコンドリフト型放射線検出素子は、前記開口部に対向する表面を有し、該表面の上に遮光膜が設けられていることを特徴とする。
本発明に係るシリコンドリフト型放射線検出器は、ハウジングと、該ハウジングの内側に配置されたシリコンドリフト型放射線検出素子とを備え、前記ハウジングは、塞がれていない開口部を有し、前記シリコンドリフト型放射線検出素子は、前記開口部に対向しており放射線が入射する表面を有し、該表面の上に遮光膜が設けられていることを特徴とする。
【0021】
本発明においては、シリコンドリフト型放射線検出器のハウジングは開口部を有し、シリコンドリフト型放射線検出素子の放射線が入射する表面の上には遮光膜が設けられている。遮光膜によって、光によるノイズの発生が防止され、シリコンドリフト型放射線検出素子は動作が可能である。このため、遮光のために窓材を有する窓を開口部に設ける必要が無く、開口部は塞がれていない。シリコンドリフト型放射線検出器が窓を備えていないので、低エネルギーの放射線でもシリコンドリフト型放射線検出素子へ入射し易い。また、シリコンドリフト型放射線検出器の大きさが小さくなる。
【0022】
本発明に係るシリコンドリフト型放射線検出器は、前記表面は前記開口部よりも大きく、前記ハウジングは、前記開口部の縁を含み、前記表面の一部に重なった重なり部分を有し、前記表面内で前記重なり部分が重なった部分で囲まれた部分は、前記遮光膜で覆われていることを特徴とする。
【0023】
本発明においては、ハウジングの一部がシリコンドリフト型放射線検出素子の表面の一部に重なっており、表面内でハウジングが重なった部分で囲まれた部分は遮光膜に覆われている。シリコンドリフト型放射線検出素子の放射線が入射する部分が遮光され、光によるノイズの発生が防止される。シリコンドリフト型放射線検出器は、内部へ可視光が入射される環境において使用されることが可能である。
【0024】
本発明に係るシリコンドリフト型放射線検出器は、前記シリコンドリフト型放射線検出素子を冷却する冷却部を備えておらず、前記ハウジングは気密されていないことを特徴とする。
【0025】
本発明においては、シリコンドリフト型放射線検出器は、シリコンドリフト型放射線検出素子を冷却するペルチェ素子等の冷却部を備えていない。近年、電気回路等の低ノイズ化により、シリコンドリフト型放射線検出器は、冷却を行わなくとも十分な性能が得られるようになっている。冷却を行わないので、ハウジングは気密されている必要が無い。このため、ハウジングを小さくすることができ、シリコンドリフト型放射線検出器の大きさが小さくなる。
【0026】
本発明に係るシリコンドリフト型放射線検出器は、前記表面に対向する位置に窓材が設けられていないことを特徴とする。
【0027】
本発明においては、シリコンドリフト型放射線検出素子の放射線が入射する表面に対向する位置には、窓材が設けられていない。放射線が窓材を透過することが無いので、低エネルギーの放射線でもよりシリコンドリフト型放射線検出素子へ入射し易い。また、シリコンドリフト型放射線検出器の大きさが小さくなる。
【0028】
本発明に係るシリコンドリフト型放射線検出器は、前記ハウジングと前記シリコンドリフト型放射線検出素子との間の隙間に充填された充填物を更に備えることを特徴とする。
【0029】
本発明の一形態においては、ハウジングとシリコンドリフト型放射線検出素子との間に樹脂などの充填物が充填されている。シリコンドリフト型放射線検出素子に接続されたボンディングワイヤが充填物に埋もれ、ボンディングワイヤが湿気から防護される。
【0030】
本発明に係る放射線検出装置は、本発明に係るシリコンドリフト型放射線検出器と、該シリコンドリフト型放射線検出器が検出した放射線のスペクトルを生成するスペクトル生成部とを備えることを特徴とする。
【0031】
本発明に係る放射線検出装置は、試料へ放射線を照射する照射部と、前記試料から発生した放射線を検出する本発明に係るシリコンドリフト型放射線検出器と、該シリコンドリフト型放射線検出器が検出した放射線のスペクトルを生成するスペクトル生成部と、該スペクトル生成部が生成したスペクトルを表示する表示部とを備えることを特徴とする。
【0032】
本発明においては、シリコンドリフト型放射線検出器の大きさが小さいので、放射線検出装置では、シリコンドリフト型放射線検出器を試料に近づけることが可能となる。シリコンドリフト型放射線検出器が試料に近づくことにより、試料から発生する放射線の検出効率が向上する。また、低エネルギーの放射線でもよりシリコンドリフト型放射線検出素子へ入射し易く、低エネルギーの放射線の検出感度が向上する。このため、放射線検出装置では、軽元素の分析が容易となる。
【発明の効果】
【0033】
本発明にあっては、低エネルギーの放射線でもシリコンドリフト型放射線検出素子へ入射し易いので、低エネルギーの放射線の検出感度が向上する。また、シリコンドリフト型放射線検出器を試料に近づけることにより、試料から発生する放射線の検出効率が向上する等、本発明は優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】実施形態1に係る放射線検出器の構成例を示す模式的断面図である。
【図2】実施形態1に係る放射線検出装置の構成を示すブロック図である。
【図3】実施形態1に係る放射線検出素子とカバーの一部とを示す模式的断面図である。
【図4】遮光膜の一例を示す模式的断面図である。
【図5】遮光膜の他の例を示す模式的断面図である。
【図6】実施形態1に係る放射線検出器の他の構成例を示す模式的断面図である。
【図7】実施形態2に係る放射線検出器の構成例を示す模式的断面図である。
【図8】実施形態3に係る放射線検出素子の模式的平面図である。
【図9】実施形態3における信号出力電極の第2の構成例を示す模式的平面図である。
【図10】実施形態3における信号出力電極の第3の構成例を示す模式的平面図である。
【図11】実施形態4に係る放射線検出装置の構成を示すブロック図である。
【図12】実施形態4に係る放射線検出器の内部の構成例を示す模式図である。
【図13】実施形態4に係る複数の放射線検出器の配置例を示す模式的斜視図である。
【図14】実施形態4に係る照射部、放射線検出器及び試料の配置例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下本発明をその実施の形態を示す図面に基づき具体的に説明する。
(実施形態1)
図1は、実施形態1に係る放射線検出器1の構成例を示す模式的断面図であり、図2は、実施形態1に係る放射線検出装置10の構成を示すブロック図である。放射線検出装置10は、例えば蛍光X線分析装置である。放射線検出装置10は、試料6に電子線又はX線等の放射線を照射する照射部4と、試料6が載置される試料台5と、放射線検出器1とを備えている。照射部4から試料6へ放射線が照射され、試料6では蛍光X線等の放射線が発生し、放射線検出器1は試料6から発生した放射線を検出する。図中には、放射線を矢印で示している。放射線検出器1は、検出した放射線のエネルギーに比例した信号を出力する。なお、放射線検出装置10は、試料台5に載置させる方法以外の方法で試料6を保持する形態であってもよい。
【0036】
放射線検出器1には、出力した信号を処理する信号処理部2と、放射線検出器1が備える放射線検出素子11に放射線検出のために必要な電圧を印加する電圧印加部34とが接続されている。信号処理部2は、放射線検出器1が出力した各値の信号をカウントし、放射線のエネルギーとカウント数との関係、即ち放射線のスペクトルを生成する処理を行う。信号処理部2は、スペクトル生成部に対応する。
【0037】
信号処理部2は、分析部32に接続されている。分析部32は、演算を行う演算部及びデータを記憶するメモリを含んで構成されている。信号処理部2、分析部32、電圧印加部34及び照射部4は、制御部31に接続されている。制御部31は、信号処理部2、分析部32、電圧印加部34及び照射部4の動作を制御する。信号処理部2は、生成したスペクトルを示すデータを分析部32へ出力する。分析部32は、信号処理部2からのデータを入力され、入力されたデータが示すスペクトルに基づいて、試料6に含まれる元素の定性分析又は定量分析を行う。分析部32には、液晶ディスプレイ等の表示部33が接続されている。表示部33は、分析部32による分析結果を表示する。また、表示部33は、信号処理部2が生成したスペクトルを表示する。制御部31は、使用者の操作を受け付け、受け付けた操作に応じて放射線検出装置10の各部を制御する構成であってもよい。また、制御部31及び分析部32は同一のコンピュータで構成されていてもよい。
【0038】
図1に示すように、放射線検出器1は、板状の底板部14を備えている。底板部14の一面側には、キャップ状のカバー13が被さっている。カバー13は、円筒の一端に切頭錐体が連結した形状になっており、円筒の他端は底板部14に接合している。カバー13の先端の切頭部分には、開口部131が形成されている。開口部131には窓材を有する窓は設けられておらず、開口部131は塞がれていない。カバー13及び底板部14は、放射線検出器1のハウジングを構成している。カバー13及び底板部14の内側は気密されていない。ここで、気密された状態とは、カバー13及び底板部14の内側と外側との間でガスの交換が無い状態である。即ち、本実施形態では、カバー13及び底板部14の内側と外側との間でガスの交換がある。開口部131又はその他の部分を通って、カバー13及び底板部14の内側と外側との間をガスが出入りする。
【0039】
カバー13の内側には、放射線検出素子11と、基板12とが配置されている。基板12は、開口部131に対向する面を有し、当該面上に放射線検出素子11が配置されている。基板12と放射線検出素子11との間には介在物があってもよい。基板12は、放射線の照射による放射線の発生が可及的に少ない材質で形成されていることが望ましい。基板12の材質は、例えばセラミックである。放射線検出素子11は、シリコンドリフト型放射線検出素子であり、放射線検出器1は、シリコンドリフト型放射線検出器である。例えば、放射線検出素子11は板状である。放射線検出素子11は、開口部131に対向する位置に配置されている。近年、電気回路等の低ノイズ化により、放射線検出器は、冷却を行わなくとも十分な性能が得られるようになっている。このため、放射線検出素子11は、冷却をせずに動作が可能である。即ち、放射線検出素子11は、室温での動作が可能である。放射線検出器1は、放射線検出素子11を冷却するためのペルチェ素子等の冷却部を備えていない。
【0040】
基板12には、配線が設けられている。基板12の配線と放射線検出素子11とはボンディングワイヤ153を介して電気的に接続されている。カバー13には、ボンディングワイヤ153を通すために、カバー13の内面から窪んだ凹部が形成されている。凹部があることによって、ボンディングワイヤ153を通すために放射線検出器1全体が大きくなることが防止される。基板12の配線と放射線検出素子11とは、後述するように、ボンディングワイヤ153が放射線検出素子11に接続される方法以外の方法で接続されていてもよい。基板12の、開口部131に対向する面とは反対側の面には、増幅器151と、放射線検出器1の動作に必要な各種の部品152とが設けられている。例えば、部品152には、ESD(electro−static discharge;静電気放電)対策用の部品が含まれる。ESD対策用の部品は、例えば、コンデンサ、ダイオード又はバリスタである。開口部が塞がれている形態に比べて、放射線検出器1は、外部からの影響を受けやすくなっている。放射線検出器1は、ESD対策用の部品を備えることにより、EDSによる悪影響を抑制するように、EDS対策を強化することができる。
【0041】
基板12には、貫通孔が設けられている。増幅器151は、貫通孔を通るように配置されたボンディングワイヤ154を介して放射線検出素子11に接続されている。増幅器151及び部品152は、基板12の配線に電気的に接続されている。なお、図1に示す基板12の形状は一例であり、基板12は貫通孔を有しておらず、増幅器151は、貫通孔を通るボンディングワイヤ154を用いる方法以外の方法で放射線検出素子11に接続されていてもよい。
【0042】
また、放射線検出器1は複数のリードピン17を備えている。リードピン17は、底板部14を貫通している。基板12の配線とリードピン17とは、電気的に接続されている。リードピン17を用いて、放射線検出素子11に対する電圧の印加及び信号の入出力が行われる。
【0043】
増幅器151は、例えばプリアンプである。放射線検出素子11は、検出した放射線のエネルギーに比例した信号を出力し、出力された信号はボンディングワイヤ154を通じて増幅器151へ入力される。増幅器151は、信号の変換及び増幅を行う。変換・増幅後の信号は、増幅器151から出力され、リードピン17を通じて放射線検出器1外へ出力される。このようにして、放射線検出器1は、放射線検出素子11が検出した放射線のエネルギーに比例した信号を出力する。出力された信号は、信号処理部2へ入力される。なお、増幅器151は、プリアンプ以外の機能をも有していてもよい。また、増幅器151は、放射線検出器1の外部に配置されていてもよい。
【0044】
信号処理部2は、増幅器151からの信号に対する温度の影響を補正する機能を有していてもよい。放射線検出素子11から出力される信号の強度は、温度に影響される。放射線検出素子11では、放射線に由来しないリーク電流が発生し、増幅器151からの信号には、リーク電流に応じた信号が含まれている。リーク電流は温度に影響される。信号処理部2は、リーク電流に応じた信号に基づいて信号への温度の影響の度合いを判定し、判定した度合いに応じて、増幅器151からの信号に対する温度の影響を補正する処理を行ってもよい。また、放射線検出器1は、放射線検出器1内の温度を測定するサーミスタ等の温度測定部を有していてもよい。信号処理部2は、温度測定部による温度の測定結果に応じて、増幅器151からの信号に対する温度の影響を補正する処理を行ってもよい。また、信号に対する温度の影響を補正する処理は、分析部32が行ってもよい。
【0045】
図3は、実施形態1に係る放射線検出素子11とカバー13の一部とを示す模式的断面図である。放射線検出素子11は、開口部131に対向した表面111を有している。放射線検出素子11は、表面111の一部を覆う遮光膜161を有している。表面111は、開口部131よりも大きい。カバー13の一部分は、放射線検出素子11の表面111に対向する視点から表面111に直交する方向に見た場合、表面111の一部に重なっている。カバー13の中で表面111の一部に重なっている部分を重なり部分132とする。重なり部分132は、開口部131の縁を含んでいる。重なり部分132は、放射線検出素子11の表面111に、接着部材162を介して接着されている。
【0046】
放射線検出素子11は、板状の半導体部112を有している。半導体部112の成分は例えばn型のSi(シリコン)である。表面111には、第1電極113が設けられている。第1電極113は、表面111の中央部分を含む領域に連続的に設けられている。第1電極113は、表面111の周縁の近傍まで設けられており、表面111の大部分を占めている。第1電極113は、電圧印加部34に接続されている。放射線検出素子11の表面111とは逆側にある裏面には、多重になったループ状の第2電極114が設けられている。また、多重の第2電極114で囲まれた位置には、放射線検出時に信号を出力する電極である信号出力電極115が設けられている。信号出力電極115は、増幅器151に接続されている。多重の第2電極114の内、最も信号出力電極115に近い第2電極114と最も信号出力電極115から遠い第2電極114とは、電圧印加部34に接続されている。
【0047】
電圧印加部34は、多重の第2電極114に対し、最も信号出力電極115に近い第2電極114の電位が最も高く、最も信号出力電極115から遠い第2電極114の電位が最も低くなるように、電圧を印加する。また、放射線検出素子11は、隣接する第2電極114の間に、所定の電気抵抗が発生するように構成されている。例えば、隣接する第2電極114の間に位置する半導体部112の一部分の化学成分を調整することで、二つの第2電極114が接続される電気抵抗チャネルが形成されている。即ち、多重の第2電極114は、電気抵抗を介して数珠つなぎに接続されている。このような多重の第2電極114に電圧印加部34から電圧が印加されることによって、夫々の第2電極114は、信号出力電極115に遠い第2電極114から信号出力電極115に近い第2電極114に向けて順々に単調に増加する電位を有する。なお、複数の第2電極114の中に、電位が同じ隣接する一対の第2電極114が含まれていてもよい。
【0048】
複数の第2電極114の電位によって、半導体部112内には、段階的に信号出力電極115に近いほど電位が高く信号出力電極115から遠いほど電位が低くなる電界が生成される。更に、電圧印加部34は、最も電位の高い第2電極114よりも第1電極113の電位が低くなるように、第1電極113に電圧を印加する。このように、第1電極113と第2電極114との間で半導体部112に電圧が印加され、半導体部112の内部には、信号出力電極115に近づくほど電位が高くなる電界が生成される。
【0049】
放射線検出器1は、開口部131が試料台5の載置面に対向するように配置されている。即ち、試料台5に試料6が載置された状態では、放射線検出素子11の表面111は、試料6に対向する。試料6からの放射線は、第1電極113を透過し、表面111から半導体部112内へ入射する。放射線は半導体部112に吸収され、吸収された放射線のエネルギーに応じた量の電荷が発生する。発生する電荷は電子及び正孔である。発生した電荷は、半導体部112の内部の電界によって移動し、一方の種類の電荷は、信号出力電極115へ流入する。本実施形態では、信号出力電極115がn型である場合、放射線の入射によって発生した電子が移動し、信号出力電極115へ流入する。信号出力電極115へ流入した電荷は電流信号となって出力され、増幅器151へ入力される。
【0050】
図3に示すように、放射線検出素子11の表面111の内、周縁部分には第1電極113が設けられていない。半導体部112の中で、入射した放射線を検出することが可能な部分は、第1電極113及び第2電極114に電圧が印加されることによって、信号出力電極115へ向けて電荷が流れるように電界が発生した部分である。表面111の内、半導体部112の放射線を検出することが可能な部分の表面になっている領域を、有感領域116とする。有感領域116へ入射した放射線は、放射線検出素子11によって検出され得る。半導体部112の中で、有感領域116以外の領域を表面とする部分では、信号出力電極115へ向けて電荷が流れるための電界が発生しないか、又は信号出力電極115へ向けて電荷が流れるための電界の強度が弱く、入射した放射線は検出され難い。例えば、有感領域116は、表面111の中央部分を含む領域であり、表面111の縁は有感領域116に含まれない。
【0051】
カバー13の重なり部分132は、表面111の縁を含む領域に重なっている。表面111の重なり部分132が重なった部分で囲まれた部分は、重なり部分132が重なっておらず、有感領域116に含まれている。例えば、重なり部分132は、有感領域116以外の領域と有感領域116の一部とに重なっている。また、例えば、重なり部分132は、有感領域116ではない領域に重なっており、有感領域116が開口部131と対向している。重なり部分132は、遮光性を有し、放射線を遮蔽する材料で構成されている。例えば、重なり部分132は金属含有材料で構成されてある。より具体的には、重なり部分132は、金属製であるか、又は、バリウム等、亜鉛よりも原子番号の大きい金属が混合した樹脂で構成されている。重なり部分132が金属含有材料で構成されていることによって効果的に放射線が遮蔽される。放射線検出器1へ入射する放射線の一部は重なり部分132によって遮蔽され、重なり部分132によって遮蔽されずに開口部131を通過した放射線は、有感領域116へ入射し、放射線検出素子11によって検出される。
【0052】
即ち、重なり部分132は、放射線が入射する範囲を限定するコリメータとしての役割を果たす。このため、放射線検出器1では、従来に比べて放射線検出の性能を落とさずに、コリメータが不要になっている。即ち、放射線検出器1は、コリメータを備えていない。カバー13の内側にコリメータが配置されていないので、コリメータを備えた従来の放射線検出器に比べて、カバー13の大きさが小さく、放射線検出器1の大きさは小さい。
【0053】
接着部材162は、遮光性を有している。接着部材162が遮光性を有していることによって、カバー13内部へ光が入射して放射線検出素子11へ光が入射することが防止され、光によりノイズが発生することが防止される。遮光膜161がカバー13と放射線検出素子11との間を埋めていれば、遮光膜161によりカバー13と放射線検出素子11との間を遮光することは可能である。しかし、接着部材162が遮光膜161よりも厚い場合は、遮光膜161がカバー13と放射線検出素子11との間を埋めることができず、接着部材162は遮光性を有している必要がある。接着部材162は遮光膜161よりも厚いことが多いので、接着部材162は遮光性を有していることが望ましい。接着部材162は、光の量を0.1%未満に減少させることが望ましい。光の量が0.1%未満に減少することにより、ノイズの発生が効果的に防止される。光はゼロまで減少してもよい。
【0054】
重なり部分132が金属含有材料で構成されている場合等、重なり部分132が導電性を有している場合は、接着部材162は絶縁性を有する。接着部材162が絶縁性を有することによって、重なり部分132と放射線検出素子11との間の電気的な接触が防止され、カバー13に電圧が印加されることが防止される。従って、放射線検出素子11へ印加される電圧が不安定になることが防止され、放射線検出器1の性能低下が防止される。接着部材162は、表面111の周縁部分全体にわたって設けられていることが望ましい。接着部材162が表面111の周縁部分全体にわたって設けられている場合は、光がカバー13の内部に入ってこなくなる。また、放射線検出器1の組み立て時に、カバー13に対する放射線検出素子11の位置決めを容易に行うことができる。なお、放射線検出素子11の表面111と接着部材162との間には、保護膜等の他の構成物が介在していてもよい。
【0055】
接着部材162は絶縁性を有していなくてもよい。重なり部分132が導電性を有していない場合は、接着部材162は絶縁性を有していなくてもよい。また、接着部材162が絶縁性を有しておらず重なり部分132が導電性を有している場合、放射線検出器1は、重なり部分132を介して放射線検出素子11と基板12の配線とが接続されている形態であってもよい。例えば、放射線検出素子11と重なり部分132とが電気的に接続されており、重なり部分132と基板12の配線とがボンディングワイヤを介して接続されている。このようにして、ボンディングワイヤ153が放射線検出素子11に接続される方法以外の方法で放射線検出素子11と基板12の配線とが接続される。基板12の配線を通じて重なり部分132に電圧が印加され、重なり部分132を通じて放射線検出素子11に電圧が印加される。この場合、重なり部分132と、底板部14、リードピン17、及び基板12との間は絶縁されている必要がある。
【0056】
放射線検出素子11の表面111の内、重なり部分132が重なった部分で囲まれた部分は、遮光膜161で覆われている。表面111の上の遮光膜161に対向する位置は、開口部131によって開放されている。放射線検出器1は、遮光膜161が真空中にある状態、又は遮光膜161が大気に曝露された状態でも使用される。遮光膜161によって、光が表面111へ入射することが防止され、光が原因で放射線検出素子11にノイズが発生することが防止される。特に、放射線検出素子11の放射線が入射する部分で光によるノイズが発生することが遮光膜161によって防止される。遮光膜161は、光の量を0.1%未満に減少させることが望ましい。表面111へ入射する光の量が0.1%未満に減少することによって、放射線検出素子11に発生するノイズが十分に低減される。放射線検出素子11へ入射する光を遮光膜161が遮光するので、放射線検出器1は、放射線検出器1内へ可視光が入射される環境で使用されることが可能である。
【0057】
図4は、遮光膜161の一例を示す模式的断面図である。放射線検出素子11の表面111上には、金属膜でなる遮光膜161が設けられている。金属膜でなる遮光膜161は、遮光性を有する。金属膜でなる遮光膜161の成分は、例えば、Al(アルミニウム)、Au(金)、リチウム合金、ベリリウム、又はマグネシウムである。遮光膜161がAlでなる場合、遮光膜161の厚さは、50nm超500nm未満であることが望ましい。Alでなる遮光膜161の厚さが50nmを超えることによって、放射線検出素子11でのノイズを低減させるために必要な遮光性が得られる。遮光膜161の厚さが500nm以上では、低エネルギーのX線の感度が低下する。より好ましくは、Alでなる遮光膜161の厚さは、100nm以上350nm以下である。遮光膜161と第1電極113の間には、酸化膜があってもよい。また、遮光膜161の表面上には、遮光膜161を保護する保護膜があってもよい。例えば、保護膜の成分は、Al2O3(酸化アルミニウム)又はSiO2(二酸化ケイ素)であってもよい。
【0058】
図5は、遮光膜161の他の例を示す模式的断面図である。放射線検出素子11の表面111の上に金属膜163が設けられ、金属膜163の上に、カーボン膜でなる遮光膜161が設けられている。金属膜163の成分は、例えば、Al又はAuである。カーボン膜でなる遮光膜161の成分は、例えば、グラフェニックカーボンである。遮光膜161がカーボン膜である場合でも、効果的に遮光が行われる。カーボン膜は、耐薬品性及び耐腐食性に優れており、可視光を通しにくい一方で、X線を透過させ易い。また、金属膜に比べて、カーボン膜は放射線の照射により特性X線が発生し難い。このため、放射線検出時に所謂システムピークが発生し難く、放射線検出の精度がより高くなる。金属膜163に重なる遮光膜161の表面上には、遮光膜161を保護する保護膜があってもよい。例えば、保護膜の成分は、Al2O3又はSiO2であってもよい。また、放射線検出器1は、金属膜163を備えておらず、カーボン膜でなる遮光膜161が放射線検出素子11の表面111の上に直接に設けられていてもよい。また、放射線検出素子11の表面111と金属膜163又はカーボン膜でなる遮光膜161との間には、酸化膜があってもよい。
【0059】
遮光膜161は、放射線検出素子11の一部ではなくてもよい。図6は、実施形態1に係る放射線検出器1の他の構成例を示す模式的断面図である。放射線検出素子11の表面111の内で重なり部分132が重なった部分で囲まれた部分、重なり部分132の端面、及び重なり部分132の一部が、遮光膜161で覆われている。放射線検出器1の遮光膜161以外の構成は、図1に示した例と同様である。例えば、放射線検出器1を組み立てる際の最後の工程で遮光膜161を形成することによって、図6に示す例が構成される。この例では、遮光膜161は、放射線検出素子11とは別の放射線検出器1の構成部分である。この例においても、表面111の上の遮光膜161に対向する位置は開放されている。
【0060】
本実施形態においては、放射線検出素子11の表面111は、カバー13の重なり部分が重なった部分で囲まれた部分が遮光膜161に覆われているので、放射線検出素子11は、光によるノイズの発生を防止しながら、放射線検出のための動作を行うことができる。このため、遮光のために窓材を有する窓を開口部131に設ける必要が無い。また、放射線検出器1は冷却部を備えておらず、カバー13及び底板部14の内側は気密されていないので、気密のために窓材を有する窓を開口部131に設ける必要が無い。従って、放射線検出器1は、窓材を有する窓を備えておらず、開口部131は塞がれていない。ここで、「開口部131が塞がれていない」とは、放射線検出素子11の表面111の上に設けられた遮光膜161に対向する位置が開放されていることを意味する。例えば、図6に示す例においても、開口部131は塞がれていない。放射線検出器1が窓材を有する窓を備えていないので、放射線が窓材を透過することが無く、低エネルギーの放射線でもより放射線検出素子11へ入射し易い。このため、放射線検出器1では、低エネルギーの放射線の検出感度が向上する。放射線検出装置10では、低エネルギーの放射線を放射する軽元素の分析が容易となる。
【0061】
また、本実施形態においては、放射線検出器1が窓材を有する窓を備えていないので、従来に比べて放射線検出器1の大きさは小さい。また、コリメータを備えていないので、従来に比べて放射線検出器1の大きさは小さい。また、カバー13の内側に冷却部が配置されていないので、従来に比べてカバー13の大きさが小さく、放射線検出器1の大きさは小さい。また、カバー13及び底板部14の内側は気密されていないので、カバー13及び底板部14は気密状態を維持するための強度及び大きさが不要である。例えば、カバー13の重なり部分132以外の部分は、樹脂製であってもよい。このため、カバー13及び底板部14の大きさを小さくすることができ、放射線検出器1の大きさは小さい。放射線検出器1の大きさが従来よりも小さいので、放射線検出装置10では、従来よりも放射線検出器1を試料台5へ近づけて配置することが可能である。即ち、放射線検出素子11は、従来に比べて試料6に近づくことが可能である。放射線検出素子11が試料6に近づくことにより、試料6から発生する放射線の検出効率が向上する。従って、放射線検出装置10では、試料6から発生する放射線の検出効率が向上する。
【0062】
(実施形態2)
図7は、実施形態2に係る放射線検出器1の構成例を示す模式的断面図である。放射線検出素子11及び基板12とカバー13の内面との間の隙間には、充填物181が充填されている。また、放射線検出素子11及び基板12と底板部14の内面との間の隙間には、充填物182が充填されている。充填物181及び182は、絶縁性を有する。充填物181及び182は、遮光性を有することが望ましい。充填物181及び182の材料は、例えば樹脂である。充填物181及び182は隙間に完全に充填されていなくてもよく、充填物181及び182が充填されていない隙間が残っていてもよい。但し、ボンディングワイヤ153は充填物181に埋もれていることが望ましく、ボンディングワイヤ154は充填物182に埋もれていることが望ましい。放射線検出器1のその他の部分の構成は実施形態1と同様であり、放射線検出素子11の構成は実施形態1と同様である。また、放射線検出器1以外の放射線検出装置10の構成は実施形態1と同様である。
【0063】
充填物181及び182は、遮光性を有することが望ましい。充填物181及び182が遮光性を有することにより、放射線検出素子11への光の入射がより効果的に防止され、光により放射線検出素子11にノイズが発生することがより効果的に防止される。
【0064】
ボンディングワイヤ153,154が充填物181,182に埋もれていることによって、ボンディングワイヤ153,154が湿気から防護される。このため、ボンディングワイヤ153,154が湿気によって劣化することが防止される。また、ボンディングワイヤ153が放射線検出素子11又は基板12から分離することが防止され、ボンディングワイヤ154が放射線検出素子11又は増幅器151から分離することが防止される。
【0065】
充填物181,182により、放射線検出素子11及び基板12が湿気から防護される。このため、放射線検出素子11及び基板12に設けられた電極及び配線が湿気によって劣化することが防止される。また、充填物181,182に覆われることによって、放射線検出素子11及び基板12に設けられた電極及び配線で電流のリークが発生することが抑制される。以上のように、充填物181,182を備えることにより、放射線検出器1の耐久性が向上する。
【0066】
(実施形態3)
図8は、実施形態3に係る放射線検出素子11の模式的平面図である。図8には、表面111とは逆側にある裏面117の側から見た放射線検出素子11を示している。半導体部112の裏面117には、信号出力電極115と多重に信号出力電極115を囲む複数の第2電極114との組が複数組設けられている。第2電極114は、裏面117に沿った一の方向の長さが裏面117に沿った他の方向の長さよりも長い形状を有する。他の方向の長さよりも長さが長い一の方向を長方向とする。例えば、第2電極114の形状は平面視で楕円であり、長方向は楕円の長軸に沿った方向である。複数組の第2電極114は、長方向に交差する方向に並んでいる。図8には、二組の第2電極114が設けられている例を示している。多重の第2電極114の組数は二組以上であってもよい。図8には、各組に三つの第2電極114が含まれている例を示しているが、実際にはより多くの第2電極114が設けられている。
【0067】
各組の多重の第2電極114で囲まれた位置には、複数の小電極1151を含んでなる信号出力電極115が設けられている。複数の小電極1151は、長方向に沿って並んでいる。複数の小電極1151は、互いにワイヤ1152で接続されている。実施形態1又は2と同様に、表面111には第1電極113が設けられており、放射線検出器1は遮光膜161を有している。第1電極113と最も内側の第2電極114と最も外側の第2電極114とは、電圧印加部34に接続されている。電圧印加部34が電圧を印加することにより、半導体部112の内部には、信号出力電極115に近づくほど電位が高くなる電界が生成される。夫々の小電極1151に対して、電荷が流入する。複数の信号出力電極115は、増幅器151に接続している。複数の小電極1151が連結されているので、増幅器151は、夫々の小電極1151に接続されておらずとも、信号出力電極115に接続されていればよい。夫々の小電極1151に増幅器151を接続する場合に比べて、増幅器151の数が減少し、放射線検出素子11の部品数が減少する。放射線検出器1のその他の部分の構成及び放射線検出装置10の構成は、実施形態1又は2と同様である。なお、放射線検出器1が複数の増幅器151を備え、信号出力電極115に一対一で増幅器151が接続されていてもよい。
【0068】
実施形態3では、複数組の第2電極114及び信号出力電極115が長方向に交差する方向に並んでいることにより、放射線検出素子11は、長方向に交差する方向に放射線検出の精度を向上させることができる。信号出力電極115が単一の電極であり、裏面117に沿ったいずれの方向にも信号出力電極115の大きさがほぼ均等である場合は、信号出力電極115と第2電極114との間の距離が裏面117に沿った方向によって変化する。半導体部112内に発生する電界は方向によって異なり、半導体部112内で電荷が発生した位置によって、電荷が流れる速度が異なる。このため、電荷が信号出力電極115へ移動する速度がばらつき、信号処理に必要な時間が増大し、放射線検出の時間分解能が低下する。信号出力電極115が長方向に長い形状を有する場合は、信号出力電極115と第2電極114との間の距離は均等になるものの、信号出力電極115の面積が大きくなる。面積が大きくなることによって、信号出力電極115の容量が大きくなり、一つの電荷当たりの信号が小さくなり、放射線検出時の信号強度のノイズ比が悪化する。
【0069】
実施形態3では、信号出力電極115が長方向に長い形状を有するのではなく、信号出力電極115が複数の小電極1151を含んでなることによって、信号出力電極115の面積の増大が抑制される。信号出力電極115の容量の増大が抑制され、放射線検出時の信号強度のノイズ比の悪化が抑制される。また、複数の小電極1151が長方向に沿って並んでいることによって、信号出力電極115と第2電極114との間の距離の変化が小さい。このため、電荷が信号出力電極115へ移動する速度のばらつきが小さく、信号処理に必要な時間の増大が抑制され、放射線検出の時間分解能の低下が抑制される。なお、放射線検出素子11は、小電極1151を個別に囲む第2電極114を含んでいてもよい。例えば、夫々の小電極1151を個別に第2電極114が囲み、複数の小電極1151はワイヤ1152で接続され、小電極1151と当該小電極1151を囲む第2電極114との複数の組を他の第2電極114が囲んでいてもよい。
【0070】
図9は、実施形態3における信号出力電極115の第2の構成例を示す模式的平面図である。信号出力電極115は、複数の小電極1151を含んでなる。複数の小電極1151は、長方向に沿って並んでいる。複数の小電極1151は、裏面117に設けられた線電極1153を介して互いに接続されている。線電極1153は、線状の電極であり、小電極1151と同じ成分で構成されている。線電極1153に対しても、電荷が流入する。この構成においても、信号出力電極115の面積の増大が抑制される。また、信号出力電極115と第2電極114との間の距離の変化が小さく、電荷が信号出力電極115へ移動する速度のばらつきが小さい。
【0071】
図10は、実施形態3における信号出力電極115の第3の構成例を示す模式的平面図である。信号出力電極115は、単一の小電極1151と、裏面117に設けられた線電極1153とを含んでいる。線電極1153は、小電極1151に連結しており、長方向に沿って延伸している。この構成においても、信号出力電極115の面積の増大が抑制される。また、線電極1153が長方向に沿って延伸していることにより、第2電極114の、小電極1151から遠い部分は、線電極1153からはより近い。このため、信号出力電極115と第2電極114との間の距離の変化が小さく、電荷が信号出力電極115へ移動する速度のばらつきが小さい。
【0072】
実施形態3においては、放射線検出素子11が信号出力電極115及び多重の第2電極114を複数組備えた形態を示したが、放射線検出素子11は、信号出力電極115と一の方向の長さが他の方向の長さよりも長い形状を有する多重の第2電極114とを一組のみ備えた形態であってもよい。また、実施形態3に係る放射線検出器1は、窓材で開口部131を塞いだ形態をとることも可能である。開口部131が窓材で塞がれている放射線検出器1は、遮光膜161又は遮光性を有する接着部材162を有していなくてもよい。
【0073】
(実施形態4)
図11は、実施形態4に係る放射線検出装置10の構成を示すブロック図である。実施形態4に係る放射線検出装置10は、複数の放射線検出器1を備える。照射部4は試料6へ放射線を照射し、試料6から発生した放射線を複数の放射線検出器1で検出する。図中には、放射線を矢印で示している。複数の放射線検出器1は、夫々に電圧印加部34及び信号処理部2に接続されている。電圧印加部34は、各放射線検出器1内の放射線検出素子11に電圧を印加する。信号処理部2は、複数の放射線検出器1から出力された信号を処理する。分析部32は、複数の放射線検出器1での検出結果に基づいて各種の分析を行う。なお、放射線検出装置10は、複数の電圧印加部34及び信号処理部2を備え、一つの電圧印加部34及び信号処理部2に一つの放射線検出器1が接続されていてもよい。
【0074】
図12は、実施形態4に係る放射線検出器1の内部の構成例を示す模式図である。図12には、放射線検出器1内の放射線検出素子11の配置を平面視で示している。放射線検出器1は、複数の放射線検出素子11を備えている。複数の放射線検出素子11は、表面111を同一方向に向けており、カバー13の内側に配置されている。例えば、図12に示すように、複数の放射線検出素子11は二列に並べられている。図12には放射線検出器1内に七個の放射線検出素子11が配置された例を示したが、放射線検出器1内の放射線検出素子11の数は七個以外の数であってもよい。複数の放射線検出素子11は一体に形成されていてもよく、個別に分離されていてもよい。夫々の放射線検出素子11の構成は、実施形態1〜3のいずれかと同様である。放射線検出器1は、複数の増幅器151を備え、放射線検出素子11中の信号出力電極115は夫々に増幅器151に接続されている。なお、放射線検出器1は放射線検出素子11の数よりも少ない数の増幅器151を備え、一つの増幅器151に複数の信号出力電極115が接続されていてもよい。放射線検出器1のその他の部分の構成は、実施形態1〜3と同様である。また、放射線検出装置10のその他の部分の構成は、実施形態1〜3と同様である。
【0075】
図13は、実施形態4に係る複数の放射線検出器1の配置例を示す模式的斜視図である。照射部4から試料6へ照射されるX線等の放射線を実線矢印で示す。図中の61は、照射部4からの放射線の試料6での照射位置である。照射位置61を通り試料6に交差する直線62を一点鎖線で示す。例えば、直線62は試料6の表面に直交する。直線62を囲う位置に、複数の放射線検出器1が配置されている。複数の放射線検出器1は、正面を照射位置61に対向させるように配置されている。このため、各放射線検出素子11の表面111は、照射位置61に対向する。試料6への放射線の照射により、蛍光X線等の放射線が試料6から発生する。放射線は照射位置61から放射状に発生し、夫々の放射線検出器1へ入射する。夫々の放射線検出器1において、放射線は夫々の放射線検出素子11へ入射し、放射線が検出される。図13には三個の放射線検出器1を示したが、配置された放射線検出器1の数は、二個又は四個以上であってもよい。
【0076】
直線62を囲って複数の放射線検出器1が配置され、放射線検出器1内に複数の放射線検出素子11が配置されていることによって、多数の放射線検出素子11によって放射線が検出される。試料6から発生したX線は、高い確率でいずれかの放射線検出素子11へ入射し、検出される。このため、実施形態4に係る放射線検出装置10は、試料6から発生した放射線を検出する効率が高い。放射線の検出効率が高いことにより、放射線検出装置10は、試料6から発生した放射線を検出するために必要な時間を短縮することができる。
【0077】
図14は、実施形態4に係る照射部4、放射線検出器1及び試料6の配置例を示す模式図である。試料6は、長尺のシートであり、白抜き矢印で示す方向にローラ63によって移動する。照射部4及び複数の放射線検出器1は、試料6の下側に配置されている。図14には二個の放射線検出器1を示したが、配置された放射線検出器1の数は、三個以上であってもよい。なお、照射部4及び放射線検出器1は、試料6の表側と裏側とに分かれて配置されていてもよい。
【0078】
試料6は連続的に移動し、照射部4は連続的に試料6へ放射線を照射する。試料6が移動することにより、試料6上の複数の部分に放射線が順次照射され、各部分から放射線が順次発生する。複数の放射線検出器1は、試料6から発生した放射線を順次検出し、分析部32は、順次分析を行う。図14中には、放射線を破線矢印で示している。例えば、放射線検出器1は試料6から発生した蛍光X線を検出し、分析部32は、試料6に含まれる不純物の量を計測する。例えば、試料6の母材の蛍光X線の強度が試料6の厚みによって変化することを利用して、分析部32は、検出した蛍光X線の強度から試料6の厚みを計測する。
【0079】
例えば、試料6は工業生産物であり、放射線検出装置10を用いて不純物の量又は試料6の厚みを測定し、不純物の量又は試料6の厚みが許容範囲を外れた場合に試料6が異常であると判定することができる。放射線検出装置10は、試料6から発生した放射線を検出するために必要な時間が短いので、試料6の異常を判定するために必要な時間も短い。このため、試料6の異常を判定する際の試料6の移動時間を速くすることができる。従って、実施形態4に係る放射線検出装置10を用いることにより、試料6の生産及び検査を時間的に効率良く実行することが可能となる。
【0080】
なお、実施形態4に係る放射線検出器1は、窓材で開口部131を塞いだ形態をとることも可能である。開口部131が窓材で塞がれている放射線検出器1は、遮光膜161又は遮光性を有する接着部材162を有していなくてもよい。
【0081】
なお、以上の実施形態1〜4においては、放射線検出器1がペルチェ素子等の冷却部を備えていない形態を示したが、放射線検出器1は、放射線検出素子11の温度を一定に保つための温度調整部を備えていてもよい。温度調整部は、ペルチェ素子を用いることがあるものの、従来の冷却部よりも冷却能力はより低くてもよく、カバー13及び底板部14の内側と外側との温度差は10℃以内であり、結露が発生するような温度まで冷却を行うことは無い。温度調整部は、冷却能力は低くてもよいので、従来の冷却部よりも小さい。このため、温度調整部を備えた形態であっても、放射線検出器1の大きさは従来よりも小さい。また、実施形態1〜4においては、放射線検出素子11がシリコンドリフト型放射線検出素子である形態を示したが、放射線検出素子11は、半導体製の素子であれば、シリコンドリフト型放射線検出素子以外の素子であってもよい。このため、放射線検出器1は、シリコンドリフト型放射線検出器以外の放射線検出器であってもよい。例えば、放射線検出器1は、X線エネルギー検出用のピクセルアレイ型半導体検出器であってもよい。
【0082】
また、実施形態1〜4においては、放射線を試料6へ照射し、試料6から発生した放射線を検出する形態を示したが、放射線検出装置10は、試料6を透過又は試料6で反射した放射線を検出する形態であってもよい。また、放射線検出装置10は、放射線の方向を変更することにより試料6を放射線で走査する形態であってもよい。また、放射線検出装置10は、照射部4、試料台5、分析部32、又は表示部33を備えていない形態であってもよい。放射線検出装置10が照射部4及び試料台5を備えていない形態であっても、放射線検出素子11が従来よりも試料に近づくように放射線検出装置10を使用することが可能であり、放射線の検出効率を向上させることが可能である。
【0083】
本発明は上述した実施の形態の内容に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。即ち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0084】
1 放射線検出器(シリコンドリフト型放射線検出器)
10 放射線検出装置
11 放射線検出素子(シリコンドリフト型放射線検出素子)
111 表面
13 カバー(ハウジング)
131 開口部
132 重なり部分
14 底板部(ハウジング)
161 遮光膜
162 接着部材
2 信号処理部
31 制御部
32 分析部
33 表示部
4 照射部
5 試料台
6 試料
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 (削除)
【請求項2】 (削除)
【請求項3】 (削除)
【請求項4】 (削除)
【請求項5】 (削除)
【請求項6】 (削除)
【請求項7】
ハウジングと、
該ハウジングの内側に配置されたシリコンドリフト型放射線検出素子とを備え、
前記ハウジングは、塞がれていない開口部を有し、
前記シリコンドリフト型放射線検出素子は、前記開口部に対向しており放射線が入射する表面を有し、
該表面上に直接に又は他の膜を介して遮光膜が設けられており、
前記表面は前記開口部よりも大きく、
前記ハウジングは、前記開口部の縁を含み、前記表面の一部に重なった重なり部分を有し、
前記重なり部分は、前記表面に接着部材を介して接着されていること
を特徴とするシリコンドリフト型放射線検出器。
【請求項8】
ハウジングと、
該ハウジングの内側に配置されたシリコンドリフト型放射線検出素子とを備え、
前記ハウジングは、塞がれていない開口部を有し、
前記シリコンドリフト型放射線検出素子は、前記開口部に対向しており放射線が入射する表面を有し、
該表面の上に遮光膜が設けられており、
前記表面は前記開口部よりも大きく、
前記ハウジングは、前記開口部の縁を含み、前記表面の一部に重なった重なり部分を有し、
前記重なり部分は、前記表面に接着部材を介して接着されていること
を特徴とするシリコンドリフト型放射線検出器。
【請求項9】
前記表面は前記開口部よりも大きく、
前記ハウジングは、前記開口部の縁を含み、前記表面の一部に重なった重なり部分を有し、
前記表面内で前記重なり部分が重なった部分で囲まれた部分は、前記遮光膜で覆われていること
を特徴とする請求項7又は8に記載のシリコンドリフト型放射線検出器。
【請求項10】
前記シリコンドリフト型放射線検出素子を冷却する冷却部を備えておらず、
前記ハウジングは気密されていないこと
を特徴とする請求項7乃至9のいずれか一つに記載のシリコンドリフト型放射線検出器。
【請求項11】
前記表面に対向する位置に窓材が設けられていないこと
を特徴とする請求項7乃至10のいずれか一つに記載のシリコンドリフト型放射線検出器。
【請求項12】
前記ハウジングと前記シリコンドリフト型放射線検出素子との間の隙間に充填された充填物を更に備えること
を特徴とする請求項7乃至11のいずれか一つに記載のシリコンドリフト型放射線検出器。
【請求項13】
請求項7乃至12のいずれか一つに記載のシリコンドリフト型放射線検出器と、
該シリコンドリフト型放射線検出器が検出した放射線のスペクトルを生成するスペクトル生成部と
を備えることを特徴とする放射線検出装置。
【請求項14】
試料へ放射線を照射する照射部と、
前記試料から発生した放射線を検出する請求項7乃至12のいずれか一つに記載のシリコンドリフト型放射線検出器と、
該シリコンドリフト型放射線検出器が検出した放射線のスペクトルを生成するスペクトル生成部と、
該スペクトル生成部が生成したスペクトルを表示する表示部と
を備えることを特徴とする放射線検出装置。
【請求項15】
ハウジングと、
該ハウジングの内側に配置されたシリコンドリフト型放射線検出素子とを備え、
前記ハウジングは、塞がれていない開口部を有し、
前記シリコンドリフト型放射線検出素子は、前記開口部に対向しており放射線が入射する表面を有し、
該表面上に直接に又は他の膜を介して遮光膜が設けられており、
前記遮光膜は、前記表面に入射する光の量を0.1%未満に減少させ、
前記表面は前記開口部よりも大きく、
前記ハウジングは、前記開口部の縁を含み、前記表面の一部に重なった重なり部分を有し、
前記重なり部分は、前記表面に接着部材を介して接着されていること
を特徴とするシリコンドリフト型放射線検出器。
【請求項16】
ハウジングと、
該ハウジングの内側に配置されたシリコンドリフト型放射線検出素子とを備え、
前記ハウジングは、塞がれていない開口部を有し、
前記シリコンドリフト型放射線検出素子は、前記開口部に対向しており放射線が入射する表面を有し、
該表面上に直接に又は他の膜を介して遮光膜が設けられており、
前記遮光膜は、厚さ50nm超500nm未満の金属膜であり、
前記表面は前記開口部よりも大きく、
前記ハウジングは、前記開口部の縁を含み、前記表面の一部に重なった重なり部分を有し、
前記重なり部分は、前記表面に接着部材を介して接着されていること
を特徴とするシリコンドリフト型放射線検出器。
【請求項17】
ハウジングと、
該ハウジングの内側に配置されたシリコンドリフト型放射線検出素子とを備え、
前記ハウジングは、塞がれていない開口部を有し、
前記シリコンドリフト型放射線検出素子は、前記開口部に対向しており放射線が入射する表面を有し、
該表面上に直接に又は他の膜を介して遮光膜が設けられており、
前記遮光膜は、カーボン膜であり、
前記表面は前記開口部よりも大きく、
前記ハウジングは、前記開口部の縁を含み、前記表面の一部に重なった重なり部分を有し、
前記重なり部分は、前記表面に接着部材を介して接着されていること
を特徴とするシリコンドリフト型放射線検出器。
【請求項18】
ハウジングと、
該ハウジングの内側に配置されたシリコンドリフト型放射線検出素子とを備え、
前記ハウジングは、塞がれていない開口部を有し、
前記シリコンドリフト型放射線検出素子は、前記開口部に対向しており放射線が入射する表面を有し、
該表面上に直接に又は他の膜を介して遮光膜が設けられており、
前記表面とは逆側にある裏面に設けられ、放射線の入射によって発生する電荷が流入し、前記電荷に応じた信号を出力する信号出力電極と、
前記表面に設けられており、電圧を印加される第1電極と、
前記裏面に設けられ、前記信号出力電極を囲んでおり、前記信号出力電極からの距離が互いに異なる複数の第2電極とを更に備え、
前記表面は前記開口部よりも大きく、
前記ハウジングは、前記開口部の縁を含み、前記表面の一部に重なった重なり部分を有し、
前記重なり部分は、前記表面に接着部材を介して接着されており、
前記第2電極は、前記裏面に沿った一の方向の長さが前記裏面に沿った他の方向の長さよりも長い形状を有し、
前記信号出力電極は、前記一の方向に沿って並んでおり互いに接続された複数の電極からなること
を特徴とするシリコンドリフト型放射線検出器。
【請求項19】
ハウジングと、
該ハウジングの内側に配置されたシリコンドリフト型放射線検出素子とを備え、
前記ハウジングは、塞がれていない開口部を有し、
前記シリコンドリフト型放射線検出素子は、前記開口部に対向しており放射線が入射する表面を有し、
該表面上に直接に又は他の膜を介して遮光膜が設けられており、
前記表面とは逆側にある裏面に設けられ、放射線の入射によって発生する電荷が流入し、前記電荷に応じた信号を出力する信号出力電極と、
前記表面に設けられており、電圧を印加される第1電極と、
前記裏面に設けられ、前記信号出力電極を囲んでおり、前記信号出力電極からの距離が互いに異なる複数の第2電極とを更に備え、
前記表面は前記開口部よりも大きく、
前記ハウジングは、前記開口部の縁を含み、前記表面の一部に重なった重なり部分を有し、
前記重なり部分は、前記表面に接着部材を介して接着されており、
前記第2電極は、前記裏面に沿った一の方向の長さが前記裏面に沿った他の方向の長さよりも長い形状を有し、
前記信号出力電極は、前記裏面に設けられており前記一の方向に沿って延伸した導電線を含んでいること
を特徴とするシリコンドリフト型放射線検出器。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2024-03-28 
出願番号 P2019-559215
審決分類 P 1 652・ 113- YAA (G01T)
P 1 652・ 121- YAA (G01T)
P 1 652・ 537- YAA (G01T)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 山村 浩
特許庁審判官 松川 直樹
安藤 達哉
登録日 2022-12-19 
登録番号 7197506
権利者 株式会社堀場製作所
発明の名称 シリコンドリフト型放射線検出素子、シリコンドリフト型放射線検出器及び放射線検出装置  
代理人 河野 英仁  
代理人 河野 登夫  
代理人 河野 英仁  
代理人 河野 登夫  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ