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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  E03D
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  E03D
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  E03D
管理番号 1411360
総通号数 30 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2024-06-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2024-02-06 
確定日 2024-05-31 
異議申立件数
事件の表示 特許第7321967号発明「水洗大便器」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7321967号の請求項1〜7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7321967号(以下「本件特許」という。)の請求項1〜7に係る特許についての出願は、平成27年8月31日に出願された特願2015−171094号の一部が令和2年4月28日に新たな特許出願として出願された特願2020−79359号であって、令和5年7月28日にその特許権の設定登録がされ、同年8月7日に特許掲載公報が発行された。
その後、令和6年2月6日に特許異議申立人TOTO株式会社(以下「申立人」という。)により、請求項1〜7に係る特許に対して、特許異議の申立てがされた。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1〜7に係る発明(以下「本件特許発明1」等という。)は、特許請求の範囲の請求項1〜7に記載された、次の事項により特定されるとおりのものである。なお、本件特許発明1等における符号A等は分説のため当審で付与した。分説された本件特許発明1等の発明特定事項を、符号に基づき以下「発明特定事項A」等という。

「 【請求項1】
A 便鉢と、前記便鉢の上端に接続され、前記便鉢に対応する開口部を有し、一部に凹部が形成された上面部と、を有する便器本体と、
B 前記便鉢の後方に設けられる機能部と、を備え、
C 前記凹部は、下側となるほど互いに近づくように傾斜した2つの側面と、前記2つの傾斜した側面に挟まれた底面と、を有し、
D 前記機能部の少なくとも一部は前記凹部内に位置しており、
E 前記2つの傾斜した側面および前記底面と前記機能部のベースプレートのベース凹部との間と、前記凹部の左右方向外側の上面部の部分と前記機能部の前記ベースプレートとの間とに、弾性部材が設けられており、
F 前記ベース凹部において前記弾性部材は、前記ベース凹部の下面の前縁よりも後ろ側に形成された溝に設けられている
G ことを特徴とする水洗大便器。
【請求項2】
H 前記機能部は、前記2つの傾斜した側面と対向するように配置される
G ことを特徴とする請求項1に記載の水洗大便器。
【請求項3】
I 前記底面は平坦である
G ことを特徴とする請求項1または2に記載の水洗大便器。
【請求項4】
J 前記底面は水平面と略平行である
G ことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の水洗大便器。
【請求項5】
K 前記機能部は下方に突出する突出部を備え、
前記突出部は、前記凹部の前記2つの傾斜した側面にそれぞれ対向する、下側となるほど互いに近づくように傾斜する2つの側面を有する
G ことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の水洗大便器。
【請求項6】
L 前記底面の左右方向の長さは、前記開口部の左右方向の最大幅の1/2倍より長い
G ことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の水洗大便器。
【請求項7】
M 前記便器本体は、前記便鉢の前後左右を覆い隠すように全周にわたって連続する外周壁であって、前記凹部の後端との間に空間を形成する外周壁を有する
G ことを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の水洗大便器。」

第3 特許異議申立理由の概要
申立人による特許異議申立理由の概要は、次のとおりである。

本件特許発明1、2、5は、甲第1号証に記載された発明であるから、本件特許発明1、2、5に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
本件特許発明1〜6は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1〜6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
本件特許発明7は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
本件特許発明1〜7を特定する、特許請求の範囲の請求項1〜7の記載は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、本件特許発明1〜7に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

第4 証拠
1 証拠一覧
申立人により、特許異議申立書とともに提出された証拠は、次のとおりである。
甲第1号証:特開2010−116730号公報
甲第2号証:特開平9−228451号公報
甲第3号証:韓国特許第10―1510431号公報

2 各証拠について
(1)甲1
申立人が甲第1号証として提出した特開2010−116730号公報(以下「甲1」という。)には、次の事項が記載されている。(下線は、当審において付した。以下同様。)

ア 記載事項
(ア)「【0014】
本実施形態のトイレ装置は、洋式腰掛便器(以下、単に「便器」と称す)100と、その後方上部に設けられたケーシング200と、を備える。ケーシング200の内部には、例えば、図示しない便座に座った使用者の「おしり」などの洗浄を実現する局部洗浄機能部などが内蔵されている。なお、図示しない便座および便蓋は、ケーシング200に設けられた軸支部211、213において、ケーシング200に対して開閉自在にそれぞれ軸支されている。」

(イ)「【0021】
ケーシング200は、ケースカバー210と、ケースプレート220と、を有する。局部洗浄機能部などの機器は、ケースプレート220に設置され、その上方をケースカバー210により覆われている。ケースプレート220は、下方に向かって凹形状に形成された凹設部223を有する。凹設部223は、ケースプレート220の一部に設けられ、後方から前方に向かって低くなるように傾斜している。そして、凹設部223の前端部には、洗浄ノズル241が貫通可能な開口部223bが設けられている。つまり、洗浄ノズル241は、この開口部223bを貫通して進出または後退する。
【0022】
一方、便器100は、図3に表したように、ボウル上面105において下方に向かって凹形状に形成された凹部103を有する。凹部103は、その前端にボウル101と連通する連通部103bが形成され、ケースプレート220に設けられた凹設部223と同様に、その後端部103aから前端部(連通部)103bに向かって低くなるように傾斜している。そして、ケースプレート220は、凹設部223が便器100の凹部103に格納された状態で、便器100のボウル上面105に載置されている。そのため、洗浄ノズル241が開口部223bを貫通して進退することは、洗浄ノズル241が連通部103bを貫通して進退することと同等である。」

(ウ)「【0032】
なお、ケースプレート220の凹設部223と、便器100の凹部103と、の間には、弾性を有する弾性体107が設けられている。この弾性体107は、凹設部223の開口部223b近傍を支持するとともに、ケースプレート220の凹設部223と、便器100の凹部103と、の間の液密性を確保している。つまり、弾性体107は、ケースプレート220の凹設部223と、便器100の凹部103と、の間に小水などが進入することを防止している。なお、この弾性体107は、ケースプレート220の前縁に沿って、便器100の上面105にも配置され、ケースプレート220と便器100の上面105との間の液密性を確保し、小水などが浸入することを防止している。」

(エ)「【図1】



(オ)「【図2】



(カ)「【図3】



イ 認定事項
(ア)認定事項1〜3
上記ア(カ)における【図3】より、
「ボウル上面105は、ボウル101の上端に接続され、ボウル101に対応する開口部を有すること」(以下「認定事項1」という。)、
「便器100は、ボウル101と凹部103を有すること」(以下「認定事項2」という。)、
「凹部103の内面は、右側から下端を経て左側に至る曲面状であること」(以下「認定事項3」という。)
が、看取される。

(イ)認定事項4〜5
上記ア(オ)における【図2】より、
「弾性体107は、ケースプレート220の凹設部223の下面の前縁に接するように、設けられること」(以下「認定事項4」という。)、
「ケースプレート220は、薄板状であること」(以下「認定事項5」という。)
が、看取される。

ウ 甲1発明
以上のことから、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。なお、発明特定事項A等に概ね対応させたa等を含む符号を付与し、引用箇所の段落番号等を併記した。以下同様。

「aア,b
洋式腰掛便器(便器)100と、その後方上部に設けられたケーシング200と、を備え、ケーシング200の内部には、局部洗浄機能部などが内蔵されており(【0014】)、

aイ,d,eア
ケーシング200は、ケースカバー210と、ケースプレート220と、を有し、ケースプレート220は、下方に向かって凹形状に形成された凹設部223を有し(【0021】)、
便器100は、ボウル上面105において下方に向かって凹形状に形成された凹部103を有し、凹部103は、その前端にボウル101と連通する連通部103bが形成され、ケースプレート220は、凹設部223が便器100の凹部103に格納された状態で、便器100のボウル上面105に載置されており(【0022】)、

eイ
ケースプレート220の凹設部223と、便器100の凹部103と、の間には、弾性を有する弾性体107が設けられており、この弾性体107は、凹設部223の開口部223b近傍を支持するとともに、ケースプレート220の凹設部223と、便器100の凹部103と、の間の液密性を確保しており、この弾性体107は、ケースプレート220の前縁に沿って、便器100の上面105にも配置され、ケースプレート220と便器100の上面105との間の液密性を確保し、小水などが浸入することを防止しており(【0032】)、

aウ
ボウル上面105は、ボウル101の上端に接続され、ボウル101に対応する開口部を有し(認定事項1)、
便器100は、ボウル101と凹部103を有し(認定事項2)、


凹部103の内面は、右側から下端を経て左側に至る曲面状であり(認定事項3)、


弾性体107は、ケースプレート220の凹設部223の下面の前縁に接するように、設けられ(認定事項4)、
ケースプレート220は、薄板状である(認定事項5)、


トイレ装置(【0014】)。」

(2)甲2
申立人が甲第2号証として提出した特開平9−228451号公報(以下「甲2」という。)には、次の事項が記載されている。

ア 記載事項
(ア)「【0013】図1は、本発明の第1の実施形態に係るシール体が取付けられた衛生洗浄装置と便器とを示す斜視図、図2は、シール体の横断面形状を示す部分拡大断面図である。
【0014】図1に示すように、シール体1は、便器3の便槽19の外縁形状に合せた形に成型されており、衛生洗浄装置17の底面7における便槽19に臨む位置15に接着されている。この衛生洗浄装置17を便器3の後部に設置すると、シール体1は便器3の便槽19外縁に沿ってこれを囲む位置21に接触した状態になる。このシール体1は、便器3と衛生洗浄装置17との間の隙間へ、便槽19から洗浄水や小水等が浸入するのを防止する。シール体1は撥水性をもつ柔軟弾性材料(後に具体例を示す)で形成されてる。
【0015】図2の横断面図に示すように、シール体1は、衛生洗浄装置底面7の便槽19に臨む箇所(図1に符号15で示す)に形成された凹部11に、両面テープ13又は接着剤によって貼り付けられている。このシール体1は、底面7に張り付けられた基部1aと、この基部1aの前縁から便器3方向に垂れ下がったブレード状の堤部1bとからなる。……」

(イ)「【0017】シール体1は、図3に示すように、便槽19の後部外縁に沿うように湾曲した形に成形された中央部31と、この湾曲部31の両端から延長して便器3の側面外縁に沿うように折曲った形に成形された2つの端部33、35とから構成される。中央部31は、小便等の汚水が便槽19から便器・衛生洗浄装置間の隙間9に浸入するのを防止する機能をもち、2つの端部33、35は、便槽からの汚水が側方から回り込んで隙間に浸入するのを防止する機能をもつ。
【0018】シール体1は、便槽側から見ると、図4に示すように、その全長に亘って、隙間9を完全に塞ぐのに十分な厚みをもっている。この厚みは、図2を参照して既に説明したように、又は図5に示すように、三日月形に湾曲したブレード状の堤部1bによって提供される。この堤部1bは、圧縮されることにより破線で示すように変形するので、その高さを広範囲にわたって柔軟に変えることができる。従って、便器表面のうねりによる隙間9の広狭の変化に柔軟に追従して、隙間9を完全に密閉する。……」

(ウ)「【図1】



(エ)「【図2】



イ 認定事項
(ア)認定事項6
上記ア(ウ)〜(エ)における【図1】〜【図2】より、
「衛生洗浄装置17の底面7及び便器3の上面は、平面状であること」(以下「認定事項6」という。)
が、看取される。

ウ 甲2記載の技術事項
以上のことから、甲2には、次の事項(以下「甲2記載の技術事項」という。)が記載されていると認められる。

「シール体1は、便器3の便槽19の外縁形状に合せた形に成型されており、衛生洗浄装置17の底面7における便槽19に臨む位置15に接着されており、この衛生洗浄装置17を便器3の後部に設置すると、シール体1は便器3の便槽19外縁に沿ってこれを囲む位置21に接触した状態になり、シール体1は撥水性をもつ柔軟弾性材料で形成されており(【0014】)、
シール体1は、衛生洗浄装置底面7の便槽19に臨む箇所15に形成された凹部11に、両面テープ13又は接着剤によって貼り付けられており(【0015】)、
衛生洗浄装置17の底面7及び便器3の上面は、平面状である(認定事項6)、
シール体が取付けられた衛生洗浄装置と便器(【0013】)。」

(3)甲3
申立人が甲第3号証として提出した韓国特許第10―1510431号公報(以下「甲3」という。)には、次の事項が記載されている(外国語の文献であるため、原文の摘記は省略し、申立人が提出した訳文を一部当審で修正した訳文による。)。

ア 記載事項
(ア)「【0020】本発明セラミック一体型ビデの着脱装置(100)は、便器(10)内部に凹入された水槽(110)が構成されて、前記水槽(110)上面に安着固定される中間プレート(120)が構成されて、両端部のフック(131’)が一方向に形成されて中間プレート(120)に固定される第1着脱案内部材(131)が具備されて、前記第1着脱案内部材(131)のフック(131’)と反対方向にフック(132’)が形成されて中間プレート(120)に固定される第2着脱案内部材(132)が具備された着脱案内部(130)が構成されて、作業者の加圧の有無によって前、後進に移動しながら着脱案内部(130)の第1着脱案内部材(131)に着脱される加圧着脱部(140)が構成されて、前、後進に移動する前記加圧着脱部(140)によって左、右方向に移動しながら着脱案内部(130)の第2着脱部材(132)に着脱される移動着脱部(150)を含んで構成されるもので、これをさらに具体的に説明すると次のとおりである。」

(イ)「図1



イ 認定事項
(ア)認定事項7
上記ア(イ)における図1より、
「便器(10)は、便鉢の前後左右を覆い隠すように全周にわたって連続する外周壁であって、凹部の後端との間に水槽(110)を形成する外周壁を有すること」(以下「認定事項7」という。)
が、看取される。

ウ 甲3記載の技術事項
以上のことから、甲3には、次の事項(以下「甲3記載の技術事項」という。)が記載されていると認められる。

「便器(10)は、便鉢の前後左右を覆い隠すように全周にわたって連続する外周壁であって、凹部の後端との間に水槽(110)を形成する外周壁を有すること(認定事項7)。」

第5 当審の判断
1 本件特許発明1と甲1発明との対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。

(1)発明特定事項Aについて
甲1発明の「ボウル101」は、本件特許発明1の「便鉢」に相当する。
また、甲1発明の「ボウル上面105」は、本件特許発明1の「上面部」に相当し、甲1発明の「ボウル上面105において下方に向かって凹形状に形成された凹部103」は、本件特許発明1の「上面部」の「一部に」「形成された」「凹部」に相当する。ここで、甲1発明では、「ボウル上面105は、ボウル101の上端に接続され、ボウル101に対応する開口部を有」するから、甲1発明の「ボウル上面105」は、本件特許発明1の「前記便鉢の上端に接続され、前記便鉢に対応する開口部を有し、一部に凹部が形成された上面部」に相当する。
また、甲1発明の「洋式腰掛便器(便器)100」は、本件特許発明1の「便器本体」に相当する。ここで、甲1発明では、「便器100は、ボウル101と凹部103を有」するから、甲1発明の「洋式腰掛便器(便器)100」は、本件特許発明1の「便鉢と、前記便鉢の上端に接続され、前記便鉢に対応する開口部を有し、一部に凹部が形成された上面部と、を有する便器本体」に相当する。
よって、甲1発明は、発明特定事項Aに相当する構成を含む。

(2)発明特定事項Bについて
上記(1)より、甲1発明の「洋式腰掛便器(便器)10」は、本件特許発明1の「前記便鉢」に相当する。
また、甲1発明の「洋式腰掛便器(便器)100」「の後方上部に設けられたケーシング200」は、本件特許発明1の「前記便鉢の後方に設けられる機能部」に相当する。
よって、甲1発明は、発明特定事項Bに相当する構成を含む。

(3)発明特定事項Cについて
上記(1)より、甲1発明の「凹部103」は、本件特許発明1の「前記凹部」に相当する。
また、甲1発明では、「凹部103の内面は、右側から下端を経て左側に至る曲面状であ」るから、「凹部103」の曲面には、右側の側部、左側の側部及び下端があるといえる。ここで、甲1発明の「凹部103」における右側の側部及び左側の側部は、本件特許発明1の「前記凹部」における「下側となるほど互いに近づくように傾斜した2つの側面」と、「前記凹部」における「2つの」側部である点で共通し、甲1発明の「凹部103」における下端は、本件特許発明1の「前記凹部」における「前記2つの傾斜した側面に挟まれた底面」と、「前記凹部」における底部である点で共通する。
よって、発明特定事項Cに関して、甲1発明は本件特許発明1と、「前記凹部は、2つの側部と、底部と、を有する」点で共通する。

(4)発明特定事項Dについて
上記(1)より、甲1発明の「凹部103」は、本件特許発明1の「前記凹部」に相当する。
また、上記(2)より、甲1発明の「ケーシング200」は、本件特許発明1の「前記機能部」に相当する。ここで、甲1発明では、「ケーシング200は、ケースカバー210と、ケースプレート220と、を有し、ケースプレート220は、下方に向かって凹形状に形成された凹設部223を有」するから、甲1発明の「ケーシング200」が有する「ケースプレート220」のうちの「凹設部223」は、本件特許発明1の「前記機能部の少なくとも一部」に相当する。
そして、引用発明1では、「ケースプレート220は、凹設部223が便器100の凹部103に格納された状態で、便器100のボウル上面105に載置されて」いるから、甲1発明は、発明特定事項Dのように、「前記機能部の少なくとも一部は前記凹部内に位置して」いるといえる。
よって、甲1発明は、発明特定事項Dに相当する構成を含む。

(5)発明特定事項Eについて
上記(1)より、甲1発明の「凹部103」は、本件特許発明1の「前記凹部」に相当する。
また、上記(2)より、甲1発明の「ケーシング200」は、本件特許発明1の「前記機能部」に相当する。
また、上記(3)より、甲1発明の「凹部103」における右側及び左側は、本件特許発明1の「前記2つの傾斜した側面」と、「前記凹部」における「2つの」側部である点で共通し、甲1発明の「凹部103」における下端は、本件特許発明1の「前記底面」と、前記凹部における底部である点で共通する。
また、甲1発明の「ケーシング200」が「有」する「ケースプレート220」、「ケースプレート220の凹設部223」、「弾性体107」は、それぞれ、本件特許発明1の「前記機能部のベースプレート」、「前記機能部のベースプレートのベース凹部」、「弾性部材」に相当する。
ここで、甲1発明では、「ケースプレート220の凹設部223と、便器100の凹部103と、の間には、弾性を有する弾性体107が設けられて」いるから、甲1発明は本件特許発明1と、前記凹部における「2つの」側部及び底部「と前記機能部のベースプレートのベース凹部との間」に、「弾性部材が設けられて」いる点で、共通する。
また、甲1発明では、「この弾性体107は、ケースプレート220の前縁に沿って、便器100の上面105にも配置され」ているから、甲1発明は、本件特許発明1と同様に、「前記凹部の左右方向外側の上面部の部分と前記機能部の前記ベースプレートとの間とに、弾性部材が設けられて」いるといえる。
よって、発明特定事項Eに関して、甲1発明は本件特許発明1と、「前記凹部における2つの側部及び底部と前記機能部のベースプレートのベース凹部との間と、前記凹部の左右方向外側の上面部の部分と前記機能部の前記ベースプレートとの間とに、弾性部材が設けられている」点で共通する。

(6)発明特定事項Gについて
甲1発明の「トイレ装置」は、本件特許発明1の「水洗大便器」に相当する。
よって、甲1発明は、発明特定事項Gに相当する構成を有する。

(7)一致点・相違点
上記(1)〜(6)からみて、本件特許発明1と甲1発明とは、
「A 便鉢と、前記便鉢の上端に接続され、前記便鉢に対応する開口部を有し、一部に凹部が形成された上面部と、を有する便器本体と、
B 前記便鉢の後方に設けられる機能部と、を備え、
C’ 前記凹部は、2つの側部と、底部と、を有し、
D 前記機能部の少なくとも一部は前記凹部内に位置しており、
E’ 前記2つの側部および底部と前記機能部のベースプレートのベース凹部との間と、前記凹部の左右方向外側の上面部の部分と前記機能部の前記ベースプレートとの間とに、弾性部材が設けられている
G 水洗大便器。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1(発明特定事項C)>
本件特許発明1と甲1発明とは、「前記凹部は、2つの側部と、底部と、を有する」点で共通するものの、
本件特許発明1の「2つの側部」は、「下側となるほど互いに近づくように傾斜した2つの側面」であり、本件特許発明1の「底部」は、「前記2つの傾斜した側面に挟まれた底面」であるのに対し、
甲1発明では、そのように構成されていない点。

<相違点2(発明特定事項E)>
本件特許発明1は、上記相違点1に係る「前記2つの傾斜した側面および前記底面」と前記機能部のベースプレートのベース凹部との間に弾性部材が設けられているのに対し、
甲1発明では、そのように構成されていない点。

<相違点3(発明特定事項F)>
本件特許発明1では、「前記ベース凹部において前記弾性部材は、前記ベース凹部の下面の前縁よりも後ろ側に形成された溝に設けられている」のに対し、
甲1発明では、「弾性体107は、凹設部223下面の前縁に接するように、設けられ」る点。

2 本件特許発明1の新規性進歩性についての判断
(1)新規性について
本件特許発明1と甲1発明とは相違点1〜3で相違するから、本件特許発明1は甲1発明ではない。
よって、本件特許発明1に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。

(2)進歩性について
ア 当審の判断
事案に鑑み、相違点3から判断する。
甲1発明は、「弾性体107は、ケースプレート220の凹設部223の下面の前縁に接するように、設けられ」たという構成を有することで、「この弾性体107は、ケースプレート220の前縁に沿って、便器100の上面105にも配置され、ケースプレート220と便器100の上面105との間の液密性を確保し、小水などが浸入することを防止」するものである。したがって、甲1発明の「弾性体107」は、「凹設部223」の下面の前縁よりも後ろ側に設けることに阻害要因があるといえる。
さらに、甲1発明では、「ケースプレート220は、薄板状である」から、「ケースプレート220」の「凹設部223」に溝を設けて、当該溝に「弾性体107」を設けることに阻害要因があるといえる。
加えて、甲1発明では、「凹部103の内面は、右側から下端を経て左側に至る曲面状であ」り、また、「凹部103と、の間に」「弾性体107が設けられ」る「ケースプレート220の凹設部223」も曲面状であることは明らかであるのに対し、甲2記載の技術事項では、「衛生洗浄装置17の底面7及び便器3の上面は、平面状である」から、甲1発明の「凹設部223」に甲2記載の技術事項をそのまま適用できるものでもない。
したがって、甲1発明に甲2記載の技術事項を適用することにより、相違点3に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。
なお、本件特許発明7に対して提示された甲3にも、相違点3に係る本件特許発明1の構成が記載されていないことは明らかである。

そして、相違点3に係る構成が想到容易でないから、その余の相違点1及び相違点2について判断するまでもなく、本件特許発明1は甲1発明、甲2記載の技術事項及び甲3記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 申立人の主張について
(ア)新規性
申立人は、上記相違点3に関し、特許異議申立書の第18頁において、甲1発明の弾性体107は、ケースプレート220の凹設部223の下面の前縁よりも後ろ側に形成された溝に設けられていることが、図2から看取できる旨を主張する。
しかしながら、甲1発明は、「弾性体107は、ケースプレート220の凹設部223の下面の前縁に接するように、設けられ」たものである。したがって、甲1発明の「弾性体107」は、「凹設部223」の下面の前縁よりも後ろ側に形成された溝に設けられたものであるとは認められない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。

(イ)進歩性
申立人は、上記相違点3に関し、特許異議申立書の第20〜22頁において、甲2には衛生洗浄装置17の下面の前縁よりも後ろ側にシール体1を設けるための凹部11が形成されることが記載されているから、本件特許発明1は甲1発明及び甲2記載の技術事項により容易想到である旨を主張する。
しかしながら、上記アで述べたように、甲1発明には、「凹設部223」の下面の前縁よりも後ろ側に設けることに阻害要因があり、また、甲1発明には、「ケースプレート220」に溝を設けて、当該溝に「弾性体107」を設けることに阻害要因があり、加えて、甲1発明に甲2記載の技術事項を適用する動機付けがない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1に係る特許は、特許法第113条第2号に該当せず、取り消されるべきものではない。

3 本件特許発明2〜7の新規性進歩性についての判断
本件特許発明2〜7は、本件特許発明1の構成を全て有し、さらに限定を付加したものであるところ、上記1及び2において対比・判断したとおり、本件特許発明1は、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明2〜7も、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、本件特許発明2〜7に係る特許は、特許法第113条第2号に該当せず、取り消されるべきものではない。

4 本件特許発明1〜7の明確性についての判断
(1)申立人の具体的な主張
申立人は、特許異議申立書の第24頁において、発明特定事項Dは、機能部の全てが凹部内に位置している場合を含んでいるところ、発明特定事項Bには、機能部が便鉢の後方に設けられることが記載されているだけであるから、機能部の全てが凹部内に位置している場合にどのような形態となるのかが、本件明細書を参酌しても不明である旨を主張する。

(2)判断基準
特許法36条6項2号の趣旨は、特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合に、特許が付与された発明の技術的範囲が不明確となることにより生じ得る第三者の不測の不利益を防止することにある。そこで、特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載のみならず、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。

(3)判断基準に基づく判断
上記(2)の判断基準に基づいて、判断する。
本件特許発明1では、「機能部」と「凹部」との関係について、
発明特定事項Dにおいて、「前記機能部の少なくとも一部は前記凹部内に位置して」いることが特定されているほか、
発明特定事項Eにおいて、「機能部のベースプレートのベース凹部」が「前記2つの傾斜した側面および前記底面」(凹部が有する、下側となるほど互いに近づくように傾斜した2つの側面と、前記2つの傾斜した側面に挟まれた底面)「との間」に「弾性部材が設けられて」いるものであることだけでなく、「前記機能部の前記ベースプレート」が「前記凹部の左右方向外側の上面部の部分と」「の間」に「弾性部材が設けられて」いるものであることも特定されている。
そうすると、本願特許発明1の「機能部」は、「前記凹部内に位置して」いる「前記機能部の少なくとも一部」だけでなく、「前記凹部の左右方向外側の上面部の部分と」「の間」に「弾性部材が設けられて」いる「前記機能部の前記ベースプレート」を有するものである。したがって、本願特許発明1において、機能部の全てが凹部内に位置しているものではないと理解されるから、本件特許発明1について、機能部の全てが凹部内に位置している場合を仮定した申立人の主張を考慮しても、本件特許発明1が第三者に不測の不利益を生じさせるほどに不明確となるということはできない。
よって、本件特許発明1は、第三者に不測の不利益を生じさせるほどに不明確なものではない。本件特許発明2〜7も同じである。

(4)申立人の主張について
申立人は、発明特定事項Dは機能部の全てが凹部内に位置している場合を含んでいると主張するが、発明特定事項Dは、発明特定事項Eを踏まえると、必ずしも、「機能部」の全ての部分が「凹部内」に位置している態様を含めるための発明特定事項ではなく、機能部の全ての部分が凹部内に位置していない態様を排除するものであると、認められる。
そして、上記(2)で述べたように、本件特許発明1〜7では、「機能部」と「凹部」の関係は明確に理解されることから、申立人の主張は採用できない。

(5)小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1〜7に係る特許は、特許法第113条第4号に該当せず、取り消されるべきものではない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、本件特許発明1〜7に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては取り消すことができない。
また、他に本件特許発明1〜7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2024-05-20 
出願番号 P2020-079359
審決分類 P 1 651・ 537- Y (E03D)
P 1 651・ 121- Y (E03D)
P 1 651・ 113- Y (E03D)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 有家 秀郎
特許庁審判官 澤田 真治
太田 恒明
登録日 2023-07-28 
登録番号 7321967
権利者 株式会社LIXIL
発明の名称 水洗大便器  
代理人 弁理士法人iX  
代理人 森下 賢樹  

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