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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G08G
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G08G
管理番号 1412170
総通号数 31 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2024-07-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2023-09-28 
確定日 2024-07-16 
事件の表示 特願2021−548043「運行スケジュール作成システム、コンピュータ、端末、運行スケジュール作成方法及びプログラム」拒絶査定不服審判事件〔令和3年4月1日国際公開、WO2021/059395、請求項の数(10)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、令和元年9月25日を国際出願日とする出願であって、令和5年1月23日付け(発送日:令和5年2月7日)で拒絶理由通知がされ、令和5年4月7日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がされたが、令和5年7月25日付け(発送日:令和5年8月8日)で拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ、これに対し、令和5年9月28日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ、令和5年11月1日に前置報告がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。

本願請求項8−9に係る発明は、以下の引用文献1−5に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2009−223673号公報
2.特開2017−164526号公報
3.国際公開第2004/106860号(周知技術を示す文献)
4.特開2017−191611号公報
5.国際公開第2016/052747号

第3 審判請求時の補正について
審判請求時の補正は、以下のとおり特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。

1.審判請求時の補正によって請求項1−2、8−10、明細書の【0008】−【0009】、【0011】に記載の「便意」を「尿意」とする補正がなされた。当該補正が特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるかについて検討すると、明細書の【0024】には「また、コンピュータ10は、膀胱や腸の張り具合に基づいて、便意を催すタイミングを予測する。」と記載されていることから、「便意」には、「腸」に溜められる「便」のみならず、「膀胱」に溜められる「尿」も含まれると解釈することが自然であるから、上記補正は、「便意」について、「尿意」に限定するものであり、「尿意」という発明特定事項を追加する補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、上記補正は新規事項を追加するものではないかについて検討すると、上記したように段落【0024】には「尿」を溜める「膀胱」について記載されていることから、「尿意」という事項は、当初明細書等に記載された事項であり、新規事項を追加するものではないといえる。

2.審判請求時の補正によって請求項8に「前記ドライバの運転前の画像を撮影する第1撮影手段と、前記ドライバの運転前の画像に基づいて第1生体情報を推定し、」との発明特定事項を追加する補正がなされた。当該補正が特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるかについて検討すると、ドライバの運転前の第1生体情報が画像に基づいて推定されたことに限定するものであり、「前記ドライバの運転前の画像を撮影する第1撮影手段と、前記ドライバの運転前の画像に基づいて第1生体情報を推定し、」という発明特定事項を追加する補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、上記補正は新規事項を追加するものではないかについて検討すると、明細書の【0022】には「また、例えば、車両の内部や事業所等に設けられた撮影装置は、ドライバが車両の運転前に、このドライバの顔や身体の一部又は全部を画像として撮影する。」、「コンピュータ10は、第1生体情報を推定することにより、ドライバの運転前の第1生体情報を取得することになる。」と記載されていることから、当初明細書等に記載された事項であり、新規事項を追加するものではないといえる。

そして、以下の「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように、補正後の請求項1−10に係る発明は、独立特許要件を満たすものである。

第4 本願発明
本願請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、令和5年9月28日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。(請求項2−10に係る発明については、記載を省略する。)

「【請求項1】
ドライバに適した運行スケジュールを作成する運行スケジュール作成システムであって、
前記ドライバの運転前の画像を撮影する第1撮影手段と、
前記ドライバの運転前の画像に基づいて第1生体情報を推定し、前記ドライバの運転前の第1生体情報を取得する第1取得手段と、
取得した前記第1生体情報を解析して、眠くなるタイミングと、空腹になるタイミングと、尿意を催すタイミングとを予測する第1予測手段と、
前記第1予測手段により予測した結果に応じて、前記ドライバに適した運行スケジュールを作成する作成手段と、
を備えることを特徴とする運行スケジュール作成システム。」

第5 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
(1)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の 事項が記載されている。(下線は当審で付した。以下同じ。)

ア「【0005】
覚醒度に基づいて安全運転を運転者に促すようなルート検索(運行計画)を行う運行支援装置、運行支援方法、運行支援プログラムを提供することを目的とする。」

イ「【0010】
以下図面に基づいて、本発明の実施形態について詳細を説明する。
(運行支援装置の構成)
図1に運行支援装置1(例えば、カーナビゲーションシステム)のブロック図を示す。運行支援装置1は、入力部2、個人認証部3、データベース選択部4、眠気データベース5、眠気特徴判断部6、初期ルート検索部7、地図データベース8、休憩嗜好リスト判断部9、運行案内情報生成部10、センサー11、動的覚醒度判断部12、動的ルート検索部13、制御部14、表示部15から構成されている。また、運行計画作成部は、データベース選択部4、眠気特徴判断部6、初期ルート検索部7、地図データベース8、休憩嗜好リスト判断部9、運行案内情報生成部10、動的ルート検索部13から構成されている。」

ウ「【0018】
また、出発後(移動中)は動的ルート検索部13により検索された後述する動的ルート検索情報に基づいて運行案内情報は更新される。
また、初期ルート検索情報や動的ルート検索情報から得られる情報を必要に応じて眠気データベース5の対応する運転者の眠気データベース5a、5b、5cに保存し、眠気データベースの更新がされる。
【0019】
センサー11は、運転者の身体的変化を検知して動的覚醒度判断部12に転送する。例えば、運転者に電極を接触させてその電極に電圧を印加し、その電極の電位差から心拍信号を取得する。または、心臓の鼓動を捕らえるものであれば心電計、脈波計、心音センサーなどを用いてもよい。
【0020】
動的覚醒度判断部12は、センサー11から転送されたデータにより運転者の覚醒度を判断する。また、測定した覚醒度のデータは眠気データベース5にリアルタイムで記録される。
【0021】
動的ルート検索部13は、動的覚醒度判断部12から転送された覚醒度、車両位置、運行時間などに基づいて再度ルート検索を行う。
制御部14は運行支援装置の制御を行う。」

エ「【0055】
図6では休憩したときに緯度、経度のデータを記録しているが、走行中(休憩場所以外)の通過場所の緯度、経度のデータを記録してもかまわない。
「覚醒度」は、覚醒度のレベルが記録されている。図6では、図4、図5などで説明したように安全領域、注意領域、危険領域によって3段階に分け、さらに図7の表Aに示すように4段階に覚醒度を「1」〜「4」段階に分けている。つまり、図7のBのグラフに示すように安全領域を覚醒度「1」、注意領域は覚醒度「2」「3」、危険領域に覚醒度「4」を割り付けている。」

オ 「【0084】
(変形例2)
覚醒度を顔面表情から判断してもよい。例えば、覚醒度1として視線の移動が速く頻繁である、瞬きは2回位の安定した周期、動きが活発で身体の動きをともなう。
【0085】
覚醒度2として、唇を開いている。視線移動の動きが遅い。
覚醒度3として、瞬きはゆっくりと頻発、口の動きがある、座り直し有り、顔に手おやる。
【0086】
覚醒度4として、意識的と思われる瞬きがある、頭を振る、肩の上下動などの無用な身体全体の動きがある、あくびは頻発し深呼吸も見られる、瞬きも視線の動きも遅い。
覚醒度5として、瞼を閉じる、頭が前に傾く、頭が後ろに倒れる。
【0087】
上記のような運転者の顔面表情の画像データを取得して、その画像データを画像処理などして、上記実施例の覚醒度の変わりに使用してもよい。
(変形例3)
帰りのルートも検索し、眠くならずに運転できたルートを記録しておき、後ほど推奨ルートとして運転者に簡単に提示できるようにする。」

カ 「



」図1

キ「


」図7

ク「


」図12

(2)認定事項
ア 上記(1)のウの【0019】及び【0020】並びにオの【0084】及び【0087】の記載事項から、動的覚醒度判断部12は、センサー11が検知した運転者の身体的変化のデータにより運転者の覚醒度を判断し、覚醒度は、運転者の顔面表情の画像データを取得して、その画像データを画像処理などした視線の移動や瞬き等に関する情報から判断するといえることから、センサ11は運転者の顔面表情の画像データを取得すると認められ、動的覚醒度判断部12は、画像データを画像処理などして視線の移動や瞬き等に関する情報を取得して、取得した視線の移動や瞬き等に関する情報から、覚醒度を判断していると認められる。

(3)したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「安全運転を運転者に促すようなルート検索(運行計画)を行う運行支援装置1であって、
運転者の顔面表情の画像データを取得するセンサー11と、
運転者の顔面表情の画像データを画像処理などして視線の移動や瞬き等に関する情報を取得して、取得した視線の移動や瞬き等に関する情報から、覚醒度を判断する動的覚醒度判断部12と、
覚醒度に基づいて再度ルート検索を行う動的ルート検索部13とを備える運行支援装置1。」

2.引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2の段落【0002】、【0069】−【0070】、【0077】、【0111】−【0115】及び【図5】の記載からみて、当該引用文献2には、「画像に基づいて生体情報を取得し、取得した生体情報に基づいて、覚醒度を算出し、現在から所定時間が経過したときの覚醒度を予測する技術」(以下、「引用文献2記載技術」という。)が記載されていると認められる。

3.引用文献3について、
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献3の段落【0005】の記載からみて、当該引用文献3には、「快適なドライブのために、食事やトイレも適切に確保することが重要である技術」(以下、「引用文献3記載技術」という。)が記載されていると認められる。

4.引用文献4について、
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献4の段落【0187】の記載からみて、当該引用文献4には、「生体情報である血糖値から空腹であるか否かについて推定可能とする技術」(以下、「引用文献4記載技術」という。)が記載されていると認められる。

5.引用文献5について、
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献5の段落【0023】―【0026】の記載からみて、当該引用文献5には、「超音波センサを用いて直腸の太さに相当する二つの反射波の時間差ΔTを判定閾値と比較し、排便タイミングを判定する技術」(以下、「引用文献5記載技術」という。)が記載されていると認められる。

第6 対比・判断
1 本願発明1と引用発明1とを対比すると、以下のとおりとなる。
(1)引用発明1における「安全運転を運転者に促すようなルート検索(運行計画)を行う運行支援装置1」は、その機能、構成又は技術的意義からみて、本願発明1の「ドライバに適した運行スケジュールを作成する運行スケジュール作成システム」に相当し、以下同様に、「運転者」は、「ドライバ」に、「顔面表情の画像データ」は、「画像」に、「取得する」は、「撮影する」に、「センサー11」は、「第1撮影手段」に、「を画像処理などして」は、「に基づいて」に、「視線の移動や瞬き等に関する情報」は、「第1生体情報」に、「動的覚醒度判断部12」は、「第1取得手段」に、「基づいて」は、「応じて」に、「動的ルート検索部13」は、「作成手段」に、相当する。

(2)引用発明1において、動的覚醒度判断部12は顔面情報の画像データから視線の移動や瞬き等に関する情報を推定していると認められるから、引用発明1の「運転者の顔面表情の画像データを画像処理などして視線の移動や瞬き等に関する情報を取得して」という態様は、本願発明1の「前記ドライバの運転前の画像に基づいて第1生体情報を推定し、前記ドライバの運転前の第1生体情報を取得する」と「ドライバの画像に基づいて第1生体情報を推定し、前記ドライバの第1生体情報を取得する」という態様の限りにおいて共通する。

(3)引用発明1の「覚醒度を判断する動的覚醒度判断部12」と本願発明1の「眠くなるタイミング・・・を予測する第1予測手段」とは「覚醒度を判断する手段」という限りにおいて共通するといえる。

(4)引用発明1において、引用文献1の上記4の(1)ウの【0021】の記載事項から、動的ルート検索部13は、動的覚醒度判断部12から転送された覚醒度、車両位置、運行時間などに基づいて再度ルート検索を行っているから、引用発明1の「再度ルート検索を行う」という態様は、本願発明1の「ドライバに適した運行スケジュールを作成する」という態様に相当する。

2 したがって、本願発明1と引用発明1とは以下の点で一致する。

「ドライバに適した運行スケジュールを作成する運行スケジュール作成システムであって、
前記ドライバの画像を撮影する第1撮影手段と、
前記ドライバの画像に基づいて第1生体情報を推定し、前記ドライバの第1生体情報を取得する第1取得手段と、
取得した第1生態情報から、覚醒度を判断する手段と
前記手段の結果に応じて、前記ドライバに適した運行スケジュールを作成する作成手段と、
を備える運行スケジュール作成システム。」

3 そして、本願発明1と引用発明1とは、以下の点で相違する。

[相違点1]
本願発明1は、「ドライバの運転前の画像を撮影」し、「ドライバの運転前の画像に基づいて第1生体情報を推定し、前記ドライバの運転前の第1生体情報を取得する」のに対し、引用発明1は、運転者の運転前の顔面表情の画像データを取得しているか明らかでなく、運転者の運転前の顔面表情の画像データに基づいて視線の移動や瞬き等に関する情報を推定し、運転者の運転前の視線の移動や瞬き等に関する情報を取得しているか明らかでない点。

[相違点2]
本願発明1は、「取得した前記第1生体情報を解析して、眠くなるタイミングと、空腹になるタイミングと、尿意を催すタイミングとを予測」しているのに対し、引用発明1は、取得した視線の移動や瞬き等に関する情報から、覚醒度のみを判断している点。

[相違点3]
本願発明1は、「第1予測手段により予測した結果に応じて」運行スケジュールを作成しているのに対し、引用発明1は、「手段の結果」が予測されたものか明らかでない点。

事案に鑑み、上記相違点2について検討する。
引用文献2記載技術は、画像に基づいて生体情報を推定し、眠くなるタイミングを予測する技術である。しかし引用文献4記載技術及び引用文献5記載技術はそれぞれ、空腹になるタイミングと、便意を催すタイミングとを予測している技術ではあるが、画像に基づいて生体情報を推定し、タイミングを予測する技術ではないから、上記相違点2に係る本願発明1の発明特定事項を開示ないし示唆するものではない。また引用文献3記載技術を考慮して、運行スケジュールを作成する際に、引用文献2記載技術、引用文献4記載技術及び引用文献5記載技術を組み合わせたとしても、画像に基づく生体情報から眠くなるタイミングと、空腹になるタイミングと、尿意を催すタイミングとの全てを予測する技術に想到することは、当業者といえども容易になし得る技術ではない。
さらに、上記相違点2に係る本願発明1の発明特定事項は、本願の出願前に周知の技術ではなく、当業者が適宜なし得た設計的事項でもない。

したがって、他の相違点を検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明1及び引用文献2記載技術ないし引用文献5記載技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 本願発明2ないし7について

本願発明2ないし7は、本願発明1の発明特定事項を全て含み、さらに本願発明2ないし本願発明7で新たに特定される発明特定事項を含むものであるから、本願発明1に対して述べたものと同様の理由により、引用発明1及び引用文献2記載技術ないし引用文献5記載技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3 本願発明8ないし10について
本願発明8ないし10は、本願発明1をそれぞれ「コンピュータ」、「運行スケジュール作成方法」、「コンピュータ読み取り可能なプログラム」の発明として表現したものであって、本願発明1の全ての発明特定事項に対応する事項を含むから、本願発明1に対して述べたものと同様の理由により、引用発明1及び引用文献2記載技術ないし引用文献5記載技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第7 むすび

以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2024-07-02 
出願番号 P2021-548043
審決分類 P 1 8・ 537- WY (G08G)
P 1 8・ 121- WY (G08G)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 山本 信平
特許庁審判官 青木 良憲
北村 亮
発明の名称 運行スケジュール作成システム、コンピュータ、端末、運行スケジュール作成方法及びプログラム  
代理人 小木 智彦  

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