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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G03F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G03F
管理番号 1412309
総通号数 31 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2024-07-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2024-02-20 
確定日 2024-06-13 
異議申立件数
事件の表示 特許第7339103号発明「硬化性樹脂組成物、ドライフィルム、硬化物、および、電子部品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7339103号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7339103号の請求項1〜7に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願(特願2019−175595号)は、令和元年(2019年)9月26日に特許出願したものであって、令和5年8月28日にその特許権の設定登録がされ、令和5年9月5日に特許掲載公報が発行された。
本件特許について、特許掲載公報の発行の日から6月以内である令和6年2月20日に、特許異議申立人 弁理士法人朝日奈特許事務所(以下「特許異議申立人」という。)から、請求項1〜7に係る特許に対して、特許異議の申立てがされた。


第2 本件特許発明
本件特許の請求項1〜7に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」〜「本件特許発明7」という。また、それらを総称して「本件特許発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1〜7に記載された事項によって特定されるとおりの、以下のものである。

【請求項1】
カルボキシル基含有樹脂、(B)光重合開始剤、および、(C)無機フィラーを含有する硬化性樹脂組成物であって、
前記(C)無機フィラーの粒度分布が下記条件(1)〜(3)を満たすことを特徴とする硬化性樹脂組成物。
(1)D50粒径値=1.0μm以下
(2)(D90粒径値)/(D10粒径値)=5.0以下
(3)((D90粒径値)−(D50粒径値))/((D50粒径値)−(D10粒径値))=0.5〜5.0
【請求項2】
前記(C)無機フィラーの粒度分布が下記条件(4)をさらに満たすことを特徴とする請求項1記載の硬化性樹脂組成物。
(4)D50頻度=7.0%以上
【請求項3】
硬化性樹脂組成物からなる樹脂層を現像液によって部分的に薄膜化する工程を含む硬化物の製造方法に用いられることを特徴とする請求項1または2記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
前記(C)無機フィラー含有量が、溶剤を除いた硬化性樹脂組成物全量基準で、25〜70質量%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項記載の硬化性樹脂組成物をフィルム上に塗布、乾燥して得られる樹脂層を有することを特徴とするドライフィルム。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一項記載の硬化性樹脂組成物、または、請求項5記載のドライフィルムの樹脂層を硬化して得られることを特徴とする硬化物。
【請求項7】
請求項6記載の硬化物を有することを特徴とする電子部品。


第3 特許異議申立ての概要
1 証拠方法
特許異議申立人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。
甲第1号証:特開2012−211943号公報
甲第2号証:特開2006−11449号公報
甲第3号証:特開2017−9715号公報
甲第4号証:(株)アドマテックス製高純度球状シリカの製品紹介のインターネットページ
(https://www.admatechs.co.jp/product-admafinesilica.html)
以下、「甲第1号証」〜「甲第4号証」をそれぞれ「甲1」〜「甲4」という。

2 申立て理由の概要
特許異議申立人が主張する特許異議の申立て理由は、概略、以下のとおりである。
(1) 申立て理由1:特許法29条1項3号(同法113条2号
本件特許発明1〜7は、甲1、甲2または甲3に記載された発明である。

(2) 申立て理由2:特許法29条2項(同法113条2号
本件特許発明1〜7は、甲1〜甲4に記載の発明に基づいて容易想到である。

(申立て理由1において甲1〜甲3は、それぞれ、主引用文献である。また、甲4は技術常識を示す文献である。以下、甲1〜甲3を主引用文献とした申立て理由1を、それぞれ、「申立て理由1−1」〜「申立て理由1−3」といい、甲1〜甲3を主引用文献とした申立て理由2を、それぞれ、「申立て理由2−1」〜「申立て理由2−3」という。)


第4 当合議体の判断
1 申立て理由1−1及び2−1(本件特許発明1〜7に対する甲1を主引用文献とした場合の新規性及び進歩性
(1) 甲1発明
ア 甲1の【0001】には、【技術分野】として以下の記載がある。
「 本発明は、ソルダーレジストなどに好適に用いられる感光性組成物、並びに、該感光性組成物を用いた感光性フィルム、高精細な永久パターン(保護膜、層間絶縁膜、ソルダーレジストなど)、永久パターン形成方法、及びプリント基板に関する。」

イ 甲1の【0012】には、【発明が解決しようとする課題】として以下の記載がある。
「 本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、耐熱衝撃性(TCT特性)及び電気絶縁性(HAST特性)に優れた高性能な硬化膜を得ることができる感光性組成物、並びに、感光性フィルム、永久パターン、永久パターン形成方法、及びプリント基板を提供することを目的とする。」

ウ 甲1の【0013】には、【課題を解決するための手段】として以下の記載がある。
「 前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> アクリル樹脂と、重合性化合物と、光重合開始剤と、無機充填剤と、分散剤とを含み、前記無機充填剤の感光性組成物全固形分における含有量が、50質量%以上であり、前記無機充填剤の平均粒子径が、0.55μm未満であることを特徴とする感光性組成物である。」

エ 甲1の【0053】には、<無機充填剤>について、以下の記載がある。
「 前記無機充填剤の平均粒子径(d50)としては、0.55μm未満である限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.01μm以上0.55μm未満が好ましく、0.04μm以上0.55μm未満がより好ましく、0.1μm〜0.5μmが特に好ましい。
前記無機充填剤の平均粒子径(d50)が、0.55μm以上であると、耐熱衝撃性(TCT特性)及び絶縁信頼性(HAST特性)が低下することがある。一方、前記無機充填剤の平均粒子径(d50)が、前記特に好ましい範囲内であると、塗布粘度と硬化膜の平滑性、耐熱衝撃性、絶縁信頼性の点で有利である。」

オ 甲1の【0096】〜【0097】には、「合成例1」として、「固形分30質量%の下記構造式で表される構造単位からなるアクリル樹脂1の溶液を調製した」ことが記載されている。



ただし、各構造式の下に示す数字は、それぞれの構造のモル%比を表す。
また、*1は、下記構造式(b1)及び(b2)で表される構造の混合を表す。




カ 甲1の【0100】には、「実施例1」として、「下記の各成分を混合し」て「調製した」「感光性組成物塗布液」が記載されている。
「 合成例1で合成したアクリル樹脂1(固形分30質量%)
32.3質量部
着色顔料:HELIOGEN BLUE D7086(BASF社製)
0.021質量部
着色顔料:Pariotol Yellow D0960(BASF社製)0.006質量部
分散剤:ソルスパース24000GR(ルーブリゾール社製)
0.16質量部
重合性化合物:DCP−A(共栄社化学(株)製)5.3質量部
開始剤:イルガキュア907(BASF(株)製)0.6質量部
増感剤:DETX−S(日本化薬(株)製)0.005質量部
反応助剤:EAB−F(保土ヶ谷化学(株)製)0.019質量部
硬化剤:メラミン(和光純薬工業(株)製)0.16質量部
熱架橋剤:エポトートYDF−170(東都化成(株)製)
2.9質量部
無機充填剤:SO−C2(シリカ、平均粒子径0.5μm、アドマテックス社製)16.8質量部
イオントラップ剤:IXE−6107(東亞合成(株)製)
0.82質量部
塗布助剤:メガファックF−780F0.2質量部
(大日本インキ(株)製:30質量%メチルエチルケトン溶液)
エラストマー:エスペル1612(日立化成工業(株)製)2.7質量部
シクロヘキサノン(溶媒)38.7質量部


キ 甲1の【0102】には、<感光性フィルムの作製>として、以下の記載がある。
「 図1に示すように、支持体1として、厚み25μmのポリエチレンテレフタレートフィム(PET)を用い、該支持体1上に前記感光性組成物塗布液をバーコーターにより、乾燥後の感光層2の厚みが約30μmになるように塗布し、80℃、30分間熱風循環式乾燥機中で乾燥させ、感光性フィルムを作製した。」
(合議体注:図1は以下のとおりである。)
【図1】


ク 甲1の【0103】〜【0106】には、<永久パターンの形成>として、以下の記載がある。
「−積層体の形成−
次に、前記基材として、配線形成済みの銅張積層板(スルーホールなし、銅厚み12μmのプリント配線板)の表面に化学研磨処理を施して調製した。該銅張積層板上に、前記感光性フィルムの感光層が前記銅張積層板に接するようにして、真空ラミネーター(ニチゴーモートン(株)製、VP130)を用いて積層させ、前記銅張積層板と、前記感光層と、前記ポリエチレンテレフタレートフィルム(支持体)とがこの順に積層された積層体を形成した。
圧着条件は、圧着温度70℃、圧着圧力0.2MPa、加圧時間10秒とした。」
「−露光工程−
前記調製した積層体における感光層に対し、ポリエチレンテレフタレートフィルム(支持体)側から、回路基板用露光機EXM−1172(オーク製作所社製)を用いて、フォトマスク越しに、40mJ/cm2で露光して、前記感光層の一部の領域を硬化させた。」
「−現像工程−
室温にて10分間静置した後、前記積層体からポリエチレンテレフタレートフィルム(支持体)を剥がし取り、銅張積層板上の感光層の全面に、アルカリ現像液として、1質量%炭酸ナトリウム水溶液を用い、30℃にて60秒間、0.18MPa(1.8kgf/cm2)の圧力でスプレー現像し、未露光の領域を溶解除去した。その後、水洗し、乾燥させ、永久パターンを形成した。」
「−硬化処理工程−
前記永久パターンが形成された積層体の全面に対して、150℃で1時間、加熱処理を施し、永久パターンの表面を硬化し、膜強度を高め、試験板を作製した。」

ケ 甲1の【0100】には、実施例1として、「感光性組成物塗布液」が記載されている。ここで、甲1の【0100】によれば、前記「感光性組成物塗布液」は、合成例1で合成したアクリル樹脂1、2種類の着色顔料、分散剤、重合性化合物、開始剤、増感剤、反応助剤、硬化剤、熱架橋剤、無機充填剤、イオントラップ剤、塗布助剤、エラストマー及び溶媒から製造されたものであることが理解できる。
そうすると、甲1には、実施例1として、次の「感光性樹成物塗布液」の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「 下記の各成分を混合して調製した感光性組成物塗布液。
下記構造式で表される構造単位からなるアクリル樹脂1(固形分30質量%) 32.3質量部

ただし、各構造式の下に示す数字は、それぞれの構造のモル%比を表す。
また、*1は、下記構造式(b1)及び(b2)で表される構造の混合を表す。

着色顔料:HELIOGEN BLUE D7086(BASF社製)
0.021質量部
着色顔料:Pariotol Yellow D0960(BASF社製) 0.006質量部
分散剤:ソルスパース24000GR(ルーブリゾール社製)
0.16質量部
重合性化合物:DCP−A(共栄社化学(株)製) 5.3質量部
開始剤:イルガキュア907(BASF(株)製) 0.6質量部
増感剤:DETX−S(日本化薬(株)製) 0.005質量部
反応助剤:EAB−F(保土ヶ谷化学(株)製) 0.019質量部
硬化剤:メラミン(和光純薬工業(株)製) 0.16質量部
熱架橋剤:エポトートYDF−170(東都化成(株)製) 2.9質量部
無機充填剤:SO−C2(シリカ、平均粒子径0.5μm、アドマテックス社製) 16.8質量部
イオントラップ剤:IXE−6107(東亞合成(株)製)
0.82質量部
塗布助剤:メガファックF−780F 0.2質量部
(大日本インキ(株)製:30質量%メチルエチルケトン溶液)
エラストマー:エスペル1612(日立化成工業(株)製)2.7質量部
シクロヘキサノン(溶媒) 38.7質量部


(2) 甲4に記載された技術的事項
甲4には、次の技術的事項が開示されていると認められる。
ア 「(株)アドマテックス製の「アドマファイン」は、高純度合成球状「シリカ」であり、真球状微細粒子でシャープな粒度分布である」こと。

イ 「(株)アドマテックス製の「アドマファインSO−C2」の粒度分布図が以下のとおりである」こと。




(3) 本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
(ア) カルボキシル基含有樹脂
甲1発明の「アクリル樹脂1」は、上記第4 1(1)ケに記載された構造式を参照すると、カルボキシル基を含有することは明らかである。そうすると甲1発明の「アクリル樹脂1」は、本件特許発明1の「カルボキシル基含有樹脂」に相当する。

(イ) (B)光重合開始剤
甲1発明の「開始剤:イルガキュア907(BASF(株)製)」は、甲1の【0013】における「アクリル樹脂と、重合性化合物と、光重合開始剤と、無機充填剤と、分散剤とを含み、前記無機充填剤の感光性組成物全固形分における含有量が、50質量%以上であり、前記無機充填剤の平均粒子径が、0.55μm未満であることを特徴とする感光性組成物である。」との記載やその機能からみて、「光重合」の「開始剤」であることは明らかであるから、本件特許発明1の「(B)光重合開始剤」に相当する。

(ウ) (C)無機フィラー
甲1発明の「無機充填剤:SO−C2(シリカ、平均粒子径0.5μm、アドマテックス社製)」は、本件特許明細書において、「無機フィラースラリー(C)−2」等を得るために使用されている「球状シリカ粒子(アドマテックス社製アドマファインSO−C2、平均粒径:500nm)」(【0089】)と同一の材料であると認められるから、本件特許発明1の「(C)無機フィラー」に相当する。

(エ) 硬化性樹脂組成物
甲1発明の「感光性組成物塗布液」は、「アクリル樹脂1」、「重合性化合物:DCP−A(共栄社化学(株)製)」、「開始剤:イルガキュア907(BASF(株)製)」、「硬化剤:メラミン(和光純薬工業(株)製)」等を混合して調製されたものであるから、本件特許発明1の「硬化性樹脂組成物」に相当する。

(オ) 一致点及び相違点
上記(ア)〜(エ)によれば、本件特許発明1と甲1発明とは、
「カルボキシル基含有樹脂、(B)光重合開始剤、および、(C)無機フィラーを含有する硬化性樹脂組成物。」である点で一致し、以下の点で一応相違する。

(相違点1−1)
本件特許発明1は、「(C)無機フィラーの粒度分布が下記条件(1)〜(3)を満たす
(1)D50粒径値=1.0μm以下
(2)(D90粒径値)/(D10粒径値)=5.0以下
(3)((D90粒径値)−(D50粒径値))/((D50粒径値)−(D10粒径値))=0.5〜5.0」のに対し、甲1発明は、「無機充填剤:SO−C2(シリカ、平均粒子径0.5μm、アドマテックス社製)」の粒度分布が明らかでない点。

イ 判断
まず、上記相違点1−1が、本件特許発明1と甲1発明との間の実質的な相違点といえるか否か、すなわち、本件特許発明1が甲1発明であるといえるのか否かについて検討する。
(ア) 上記第4 1(3)ア(ウ)のとおり、甲1発明の「無機充填剤:SO−C2(シリカ、平均粒子径0.5μm、アドマテックス社製)」は、本件特許明細書において、「無機フィラースラリー(C)−2」等を得るために使用されている「球状シリカ粒子(アドマテックス社製アドマファインSO−C2、平均粒径:500nm)」と同一の材料であると認められる。

(イ) また、甲4に開示されている「(株)アドマテックス製の「アドマファインSO−C2」は、甲1発明の「無機充填剤:SO−C2(シリカ、平均粒子径0.5μm、アドマテックス社製)」及び本件特許明細書に記載された「球状シリカ粒子(アドマテックス社製アドマファインSO−C2、平均粒径:500nm)」と同一の材料であると認められ、その粒度分布図は、上記第4 1(2)イのとおりである。

(ウ) 他方、本件特許明細書の【0018】には、「本発明において(C)無機フィラーの粒度分布は、一次粒子の粒径だけでなく、二次粒子(凝集体)の粒径も含めた粒度分布であり、レーザー回折法により測定された体積分布である。」と記載されており、本件特許発明における「(C)無機フィラーの粒度分布」は、二次粒子(凝集体)の粒径も含めた粒度分布であることが理解される。

(エ) そして、本件特許明細書に記載された「無機フィラースラリー(C)−2」(【0089】)、「無機フィラースラリー(R)−3」(【0095】)及び「無機フィラースラリー(R)−5」(【0097】)は、いずれも無機フィラーとして「球状シリカ粒子(アドマテックス社製アドマファインSO−C2、平均粒径:500nm)」を使用しているにも関わらず、無機フィラースラリーを得るための分散処理の条件が異なるため、本件特許発明1における条件(1)〜(3)の値が異なっており、しかも、「無機フィラースラリー(R)−3」及び「無機フィラースラリー(R)−5」は、条件(3)を満たさないものである。

(オ) してみれば、甲1発明は、本件特許明細書に記載された「球状シリカ粒子(アドマテックス社製アドマファインSO−C2、平均粒径:500nm)」と同一の材料である「無機充填剤:SO−C2(シリカ、平均粒子径0.5μm、アドマテックス社製)」を含有するものの、「感光性組成物塗布液」は、「各成分を混合して調製した」としか特定されておらず、「無機充填剤」の分散処理の条件が不明であり、二次粒子(凝集体)の粒径も含めた「無機充填剤」の粒度分布を特定できないため、当該「無機充填剤」が、本件特許発明1における条件(1)〜(3)を満たすと認めることはできない。

(カ) したがって、上記相違点1−1は、実質的な相違点であり、本件特許発明1は甲1発明でない。

次に、甲1発明に基づいて、当業者が上記相違点1−1に係る構成に想到することが容易であったといえるか検討する。
(キ) 甲1発明は、耐熱衝撃性(TCT特性)及び電気絶縁性(HAST特性)に優れた高性能な硬化膜を得ることができる感光性組成物、並びに、感光性フィルム、永久パターン、永久パターン形成方法、及びプリント基板を提供することを課題とし(【0012】)、当該課題を解決するために、「無機充填剤」の感光性組成物全固形分における含有量を50質量%以上、平均粒子径を0.55μm未満としている(【0013】)。そして、当該「無機充填剤」について、甲1には、前記「無機充填剤」の平均粒子径(d50)としては、0.01μm以上0.55μm未満が好ましく、0.04μm以上0.55μm未満がより好ましく、0.1μm〜0.5μmが特に好ましいこと、及び、前記「無機充填剤」の平均粒子径(d50)が、0.55μm以上であると、耐熱衝撃性(TCT特性)及び絶縁信頼性(HAST特性)が低下することがあり、前記「無機充填剤」の平均粒子径(d50)が、前記特に好ましい範囲内であると、塗布粘度と硬化膜の平滑性、耐熱衝撃性、絶縁信頼性の点で有利であることが記載されている(【0053】)のみであり、前記「無機充填剤」の「D50粒径値」だけでなく「D10粒径値」や「D90粒径値」にも着目して制御することにより、前記「無機充填剤」を特定の粒度分布を有するものとすることについては記載も示唆もされておらず、また、「無機フィラー」の粒度分布が、本件特許発明1の条件(1)〜(3)を満たす「硬化性樹脂組成物」について記載された文献もないから、甲1発明に基づいて、「無機充填剤」の粒度分布を本件特許発明1の条件(1)〜(3)を満たす特定のものとする動機付けを見出すことはできない。

(ク) したがって、甲1発明に基づいて、当業者が上記相違点1−1に係る構成を想到することが容易であったとはいえない。

(ケ) なお、甲1の「実施例2〜5」の「感光性組成物塗布液」を「甲1発明」とした場合も、同様の理由により、本件特許発明1は、甲1発明ではなく、甲1発明に基づいて、当業者が上記相違点1−1に係る構成を想到することが容易であったともいえない。

ウ 特許異議申立人の主張について
(ア) 特許異議申立人は、特許異議申立書(25〜28頁)において、上記相違点1−1について、「甲第1号証の上記開示によれば、甲1発明の具体例である実施例(実施例1)において、無機充填剤(SO−C2(シリカ、平均粒子径0.5μm、アドマテックス社製))を用いたことが開示されている([0100])。
ここで、本件特許明細書には、「(調整例2:無機フィラースラリー(C)−2)球状シリカ粒子(アドマテックス社製アドマファインSO−C2、平均粒径:500nm)50gと、溶剤としてPMA48gと、メタクリル基を有するシランカップリング剤(信越化学工業社製KBM−503)2gとを配合撹拌し、ビーズミル(BUHLER社製K−8)で回転数900rpm、ポンプ出力20%、分散時温度が40〜50℃で分散処理を実施し、条件(1)が0.5μm、条件(2)が3.3、条件(3)が3.7、条件(4)が8.7%の分散体を得た。」([0089])と開示されている。
すなわち、アドマテックス社製アドマファインSO−C2は、条件(1)〜(3)を満たす無機フィラーであることが開示されている。

また、甲第4号証には、(株)アドマテックス製のシリカ「SC−C2」が、真球状微細粒子でシャープな粒度分布を示すこと、および、シリカ「SC−C2」の粒度分布が以下のとおりであることが開示されている。



そうすると、甲1発明における「SO−C2(シリカ、平均粒子径0.5μm」は、本件特許発明1における「(1)D50粒径値=1.0μm以下である(C)無機フィラー」に相当する。
また、甲1発明における「SO−C2(シリカ、平均粒子径0.5μm、アドマテックス社製)」は、本件特許発明1における「(3)((D90粒径値)−(D50粒径値))/((D50粒径値)−(D10粒径値))=0.5〜5.0である(C)無機フィラー」に相当する。
以上より、甲1発明は、構成要件1Cおよび1Dを具備している。」と主張している。

(イ) しかしながら、本件特許発明における「(C)無機フィラーの粒度分布」は、二次粒子(凝集体)の粒径も含めた粒度分布であり、甲1発明は、本件特許明細書に記載された「球状シリカ粒子(アドマテックス社製アドマファインSO−C2、平均粒径:500nm)」と同一の「無機充填剤」を含有するものの、「無機充填剤」の分散処理の条件が不明であり、二次粒子(凝集体)の粒径も含めた「無機充填剤」の粒度分布を特定できないため、当該「無機充填剤」が、本件特許発明1における条件(1)〜(3)を満たすと認められないことは、上記イで説示したとおりである。

(ウ) また、二次粒子(凝集体)の粒径も含めた微粒子の粒度分布は、二次粒子(凝集体)の形成状況に応じて変化するものであると認められるところ、甲4において開示された(株)アドマテックス製のシリカ「SC−C2」の粒度分布が、甲1発明においても維持されているとする合理的な根拠を見出すことはできない。

したがって、上記主張を採用することはできない。

エ 小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1は、甲1発明ではなく、また、甲1発明及び特許異議申立人が提出したいずれの証拠の記載に基づいても当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(6) 本件特許発明2〜7について
本件特許発明2〜7は、いずれも、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであって、本件特許発明1の構成を全て具備するものである。
そうすると、上記(5)のとおり、本件特許発明1が、甲1発明ではなく、また、甲1発明及び特許異議申立人が提出したいずれの証拠の記載に基づいても当業者が容易に発明をすることができたものでない以上、本件特許発明2〜7も、甲1発明ではなく、また、甲1発明及び特許異議申立人が提出したいずれの証拠の記載に基づいても当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 申立て理由1−2及び2−2(本件特許発明1〜7に対する甲2を主引用文献とした新規性及び進歩性
(1) 甲2発明
ア 甲2の【0001】には、【技術分野】として、以下の記載がある。
「 本発明は,感光性ペースト組成物,それを利用して製造されたプラズマディスプレイパネル電極,及びそれを備えるプラズマディスプレイパネルに関し,さらに具体的には,導電性粉末の粒径及び粒度分布を最適化して電極特性を改善した感光性ペースト組成物,それを利用して製造されたプラズマディスプレイパネル電極,及びそれを備えるプラズマディスプレイパネルに関する。」

イ 甲2の【0010】には、【発明が解決しようとする課題】として、以下の記載がある。
「 そこで,本発明は,このような問題に鑑みてなされたもので,その目的は,上述したような導電性粉末の大きな粒度分布により発生する問題点を解決して,電極の主要特性である抵抗,及び耐電圧特性をいずれも満足することができる,新規かつ改良された感光性ペースト組成物,それを利用して製造されたプラズマディスプレイパネル電極,及びそれを備えるプラズマディスプレイパネルを提供することにある。」

ウ 甲2の【0011】には、【課題を解決するための手段】として、以下の記載がある。
「 上記課題を解決するために,本発明の第1の観点によれば,導電性粉末と,無機バインダーと,有機ビヒクルとを含む感光性ペースト組成物において,上記導電性粉末の10重量%に該当する粒径D10と,上記導電性粉末の90重量%に該当する粒径D90との差が,2.0μm以下であることを特徴とする感光性ペースト組成物が提供される。」

エ 甲2の【0036】には、以下の記載がある。
「 常の導電性粉末は,湿式法(一部は乾式法でも生産)で製造されるが,このように製造された導電性粉末は,粒度分布が非常に広い。しかし,本実施形態に係る導電性粉末は,10重量%に該当する粒径D10と,90重量%に該当する粒径D90との差が2.0μm以下であり,非常に狭い粒度分布を持つ。粒度分布が上記範囲を逸脱すれば,結果的に広い粒度分布度,すなわち,小さな粒度(0.5μm未満)の粒子と大きい粒度(5.0μm超過)の粒子とをいずれも持つので,上述したような問題点を持つ。」

オ 甲2の【0040】には、以下の記載がある。
「 図1には,本実施形態に係る導電性粉末の粒度分布を示すグラフを概略的に示した。図1を参照すれば,本実施形態に係る導電性粉末は,D50が1.02μm,Dminが0.58μm,Dmaxが2.94μm,D10が0.87μm,D90が1.38μmであり,粒度分布が非常に狭いということが分かる。」
(合議体注:図1は以下のとおりである。)
【図1】


カ 甲2の【0066】には、「実施例1」の「感光性ペースト組成物」の製造に関して、以下の記載がある。
「 銀粉末(球形,比表面積0.75m2/g,D50=1.02μm,Dmin=0.58μm,Dmax=2.94μm,D10=0.87μm,D90=1.38μm)65重量%,ガラスフリット(Dmax=3.6μm,無定形,PbO−SiO2−B2O3系の混合物)3.0重量%,共重合体バインダーとしてpolyMMA−co−MAA(分子量15,000g/mol,酸価52mgKOH/g)6.0重量%,光開始剤(2−ベンジル−2−ジエチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−1−ブタノン)0.5重量%,架橋剤(トリメチロールプロパントリエトキシトリアクリレート)6.0重量%,溶媒(テキサノール)19.4重量%及びその他の添加剤(マロン酸)0.1重量%を配合して攪拌器によって攪拌した後,3ロールミルを利用して混練することにより,実施例1による感光性ペースト組成物を製造した。前記組成物の製造においては,共重合体バインダー,光開始剤,架橋剤及び溶媒をまず配合して有機ビヒクルを製造した後,ガラスフリット及び銀粉末を添加した。」

キ 甲2の【0066】には、実施例1として、「感光性ペースト組成物」が記載されている。ここで、甲2の【0066】によれば、前記「感光性ペースト組成物」は、銀粉末、ガラスフリット、共重合体バインダー、光開始剤、架橋剤、溶媒及びその他の添加剤から製造されたものであることが理解できる。
そうすると、甲2には、実施例1として、次の「感光性ペースト組成物」の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。

「 銀粉末(球形,比表面積0.75m2/g,D50=1.02μm,Dmin=0.58μm,Dmax=2.94μm,D10=0.87μm,D90=1.38μm)65重量%,ガラスフリット(Dmax=3.6μm,無定形,PbO−SiO2−B2O3系の混合物)3.0重量%,共重合体バインダーとしてpolyMMA−co−MAA(分子量15,000g/mol,酸価52mgKOH/g)6.0重量%,光開始剤(2−ベンジル−2−ジエチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−1−ブタノン)0.5重量%,架橋剤(トリメチロールプロパントリエトキシトリアクリレート)6.0重量%,溶媒(テキサノール)19.4重量%及びその他の添加剤(マロン酸)0.1重量%を配合して攪拌器によって攪拌した後,3ロールミルを利用して混練することにより製造した感光性ペースト組成物。」

(2) 本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲2発明とを対比する。
(ア) カルボキシル基含有樹脂
フォトレジストの技術分野において、一般的に、「MMA」は「メチルメタクリレート」の略称であり、「MAA」は「メタクリル酸」の略称であることを考慮すると、甲2発明の「polyMMA−co−MAA」は、「メチルメタクリレート」と「メタクリル酸」の共重合体(樹脂)であり、「メタクリル酸」は、カルボキシル基を有するモノマーである。そうすると甲2発明の「polyMMA−co−MAA」は、本件特許発明1の「カルボキシル基含有樹脂」に相当する。
なお、甲2の【0051】には、「メチルアクリレート(MAA)」との記載があるが、フォトレジストの技術分野において、一般的に、「メチルアクリレート」の略称は「MA」であり、また、甲2発明の「polyMMA−co−MAA」が、「メチルメタクリレート」と「メチルアクリレート」の共重合体であるとすると、当該共重合体には酸が存在せず、「polyMMA−co−MAA」の酸価が52mgKOH/gであるとの記載と矛盾するから、甲2の【0051】における「メチルアクリレート(MAA)」との記載は、誤記であることが明らかである。

(イ) (B)光重合開始剤
甲2発明の「光開始剤(2−ベンジル−2−ジエチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−1−ブタノン)」は、「感光性ペースト組成物」の組成やその機能からみて、「光」の照射により、「polyMMA−co−MAA」や架橋剤の「重合」を「開始」させているものと認められるから、本件特許発明1の「(B)光重合開始剤」に相当する。

(ウ) (C)無機フィラー
「フィラー」とは、一般的に、「樹脂やバインダーに添加される粒子」のことを意味し、また、「粉末」とは、一般的に、「小さな粒子の集まり」を意味するところ、甲2発明の「銀粉末」は、「無機物質の小さな粒子の集まりである」である「銀粉末」が、共重合バインダー等に添加されていると認められるから、甲2発明の「銀粉末」は、本件特許発明1の「(C)無機フィラー」に相当する。
また、甲2発明の「銀粉末」は、「D50=1.02μm」、「D10=0.87μm」、「D90=1.38μm」である。

(エ) 硬化性樹脂組成物
甲2発明の「感光性ペースト組成物」は、「銀粉末」、「ガラスフリット」、「共重合体バインダー(樹脂)」として「polyMMA−co−MAA」、「光開始剤」、「架橋剤」等を配合して混練することにより製造されたものであり、当該「感光性ペースト組成物」は、組成やその機能からみて、光の照射により、「polyMMA−co−MAA」や「架橋剤」を重合させて、光照射部分を「硬化」させているものと認められるから、甲2発明の「感光性ペースト組成物」は、本件特許発明1の「硬化性樹脂組成物」に相当する。

(オ) 一致点及び相違点
上記(ア)〜(エ)によれば、本件特許発明1と甲2発明とは、
「カルボキシル基含有樹脂、(B)光重合開始剤、および、(C)無機フィラーを含有する硬化性樹脂組成物。」である点で一致し、以下の点で一応相違する。

(相違点2−1)
本件特許発明1は、「(C)無機フィラーの粒度分布が下記条件(1)〜(3)を満たす
(1)D50粒径値=1.0μm以下
(2)(D90粒径値)/(D10粒径値)=5.0以下
(3)((D90粒径値)−(D50粒径値))/((D50粒径値)−(D10粒径値))=0.5〜5.0」のに対し、甲2発明の「銀粉末」は、「D50=1.02μm」、「D10=0.87μm」、「D90=1.38μm」であり、少なくとも本件特許発明1において特定された上記「条件(1)」を満たしていない点。

イ 判断
まず、上記相違点2−1が、本件特許発明1と甲2発明との間の実質的な相違点といえるか否か、すなわち、本件特許発明1が甲2発明であるといえるのか否かについて検討する。
(ア) 甲2発明の「銀粉末」は、「D50=1.02μm」であり、本件特許発明1の「(C)無機フィラーの粒度分布」に関する「D50粒径値=1.0μm以下」という「条件(1)」の下限値である「1.0μm」よりもわずかに大きくなっているが、「D50粒径値」の有効数字を考慮すると、甲2発明の「銀粉末」は、「D50=1.0μm」であると解釈し得る余地はある。
しかしながら、上記第4 1(3)イ(ウ)のとおり、本件特許発明における「(C)無機フィラーの粒度分布」は、二次粒子(凝集体)の粒径も含めた粒度分布であるところ、甲2の【0036】には、「通常の導電性粉末は,湿式法(一部は乾式法でも生産)で製造されるが,このように製造された導電性粉末は,粒度分布が非常に広い。しかし,本実施形態に係る導電性粉末は,10重量%に該当する粒径D10と,90重量%に該当する粒径D90との差が2.0μm以下であり,非常に狭い粒度分布を持つ。粒度分布が上記範囲を逸脱すれば,結果的に広い粒度分布度,すなわち,小さな粒度(0.5μm未満)の粒子と大きい粒度(5.0μm超過)の粒子とをいずれも持つので,上述したような問題点を持つ。」と記載されているものの、どのようにして銀粉末を非常に狭い粒度分布を持つようにするのか、その具体的な製造方法が何ら記載されておらず、仮に湿式法で製造したのならば、銀粉末の分散処理の条件も明示されていないため、甲2発明の「銀粉末」における「D50」、「D10」及び「D90」の値が、二次粒子(凝集体)の粒径も含めた粒度分布における値であるのか否か明らかでない。
また、仮に甲2発明の「銀粉末」における「D50」、「D10」及び「D90」の値が、二次粒子(凝集体)を含まない状態で測定したものならば、二次粒子(凝集体)の粒径も含めた粒度分布における「銀粉末」の「D50」の値は、通常、二次粒子(凝集体)を含まない状態で測定した「D50」である「1.02μm」よりも大きくなるため、本件特許発明1における条件(1)を満たすとはいえない。
したがって、甲2発明の「銀粉末」は、二次粒子(凝集体)の粒径も含めた「銀粉末」の粒度分布を特定できないため、本件特許発明1における条件(1)〜(3)を満たすと認めることはできない。

(イ) したがって、上記相違点2−1は、実質的な相違点であり、本件特許発明1は甲2発明でない。

次に、甲2発明に基づいて、当業者が上記相違点2−1に係る構成を想到することが容易であったといえるか検討する。
(ウ) 甲2発明は、導電性粉末の大きな粒度分布により発生する問題点を解決して,電極の主要特性である抵抗,及び耐電圧特性をいずれも満足することができる,新規かつ改良された感光性ペースト組成物,それを利用して製造されたプラズマディスプレイパネル電極,及びそれを備えるプラズマディスプレイパネルを提供することを課題とし(【0010】)、当該課題を解決するために、導電性粉末と,無機バインダーと,有機ビヒクルとを含む感光性ペースト組成物において,導電性粉末の10重量%に該当する粒径D10と,上記導電性粉末の90重量%に該当する粒径D90との差が,2.0μm以下である感光性ペースト組成物を提供するものである(【0011】)。そして、当該「導電性粉末」について、甲2には、D10とD90との差が2.0μm以下であるということは,すなわち,導電性粉末粒子の粒径が均一に分布されているということを意味すると記載されている(【0037】)ものの、甲2発明は、「D10」の値が非常に小さい場合や、「D50」の値が「D10」または「D90」と非常に近い場合等、「導電性粉末」の粒度分布が必ずしも本件特許発明1の条件(2)〜(3)を満たさないものを含んでおり、また、「無機フィラー」の粒度分布が、本件特許発明1の条件(1)〜(3)を満たす「硬化性樹脂組成物」について記載された文献もないから、甲2発明に基づいて、「銀粉末」の粒度分布を本件特許発明1の条件(1)〜(3)を満たす特定のものとする動機付けを見出すことはできない。

(エ) したがって、甲2発明に基づいて、当業者が上記相違点2−1に係る構成を想到することが容易であったとはいえない。

ウ 特許異議申立人の主張について
(ア) 特許異議申立人は、特許異議申立書(29頁)において、上記相違点2−1について、「 また、甲2発明における「D50=1.02μmである銀粉末」は、本件特許発明1における「(1)D50粒径値=1.0μm以下である(C)無機フィラー」に相当する。
さらに、甲2発明における「D10=0.87μm,D90=1.38μmである銀粉末」は、(D90粒径値)/(D10粒径値)=1.59であるから、本件特許発明1における「(2)(D90粒径値)/(D10粒径値)=5.0以下である(C)無機フィラー」に相当する。
また、甲2発明における「D50=1.02μm,D10=0.87μm,D90=1.38μmである銀粉末」は、((D90粒径値)−(D50粒径値))/((D50粒径値)−(D10粒径値))=2.4であるから、本件特許発明1における「(3)((D90粒径値)−(D50粒径値))/((D50粒径値)−(D10粒径値))=0.5〜5.0である(C)無機フィラー」に相当する。
以上より、甲2発明は、構成要件1A〜1Dを具備している。
以上、甲第2号証には、構成要件1A〜1Dをすべて具備する甲2発明が開示されている。そのため、本件特許発明1は、新規性がなく、当然に進歩性もない。
なお、構成要件1Bに関して、甲2発明における銀粉末のD50が1.02μmであるのに対し、構成要件1Bでは「1.0μm以下」であることから甲2発明の銀粉末のD50が、構成要件1Bを満たしていないと捉えることが考えられる。
しかしながら、数値範囲の最適化は、当業者の設計的事項であるし、「1.02μm」と「1.0μm」とは、実質的に同一と捉え得る程度に近似している。したがって、もし仮に構成要件1Bを相違点であると捉えたとしても、当業者は、甲2発明において、そのような相違点を具備させることについて、何ら困難ではない。
したがって、本件特許発明1は、依然として進歩性がない。」と主張している。

(イ) しかしながら、本件特許発明における「(C)無機フィラーの粒度分布」は、二次粒子(凝集体)の粒径も含めた粒度分布であり、甲2発明の「銀粉末」における「D50」、「D10」及び「D90」の値は、二次粒子(凝集体)の粒径も含めた粒度分布における値であるのか否か明らかでなく、甲2発明の「銀粉末」は、二次粒子(凝集体)の粒径も含めた「銀粉末」の粒度分布を特定できないため、本件特許発明1における条件(1)〜(3)を満たすと認められないことは、上記イで説示したとおりである。

したがって、上記主張を採用することはできない。

エ 小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1は、甲2発明ではなく、また、甲2発明及び特許異議申立人が提出したいずれの証拠の記載に基づいても当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(6) 本件特許発明2〜7について
本件特許発明2〜7は、いずれも、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであって、本件特許発明1の構成を全て具備するものである。
そうすると、上記(5)のとおり、本件特許発明1が、甲2発明ではなく、また、甲2発明及び特許異議申立人が提出したいずれの証拠の記載に基づいても当業者が容易に発明をすることができたものでない以上、本件特許発明2〜7も、甲2発明ではなく、また、甲2発明及び特許異議申立人が提出したいずれの証拠の記載に基づいても当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3 申立て理由1−3及び2−3(本件特許発明1〜7に対する甲3を主引用文献とした新規性及び進歩性
(1) 甲3発明
ア 甲3の【0001】には、【技術分野】として、以下の記載がある。
「 本発明は光硬化性樹脂組成物、ドライフィルム、硬化物およびプリント配線板に関する。」

イ 甲3の【0007】には、【発明が解決しようとする課題】として、以下の記載がある。
「 そこで本発明の目的は、サブミクロンサイズのシリカフィラーを含有するにもかかわらず、解像性に優れ、TCT耐性およびHAST耐性試験後の密着性に優れた硬化物が得られるアルカリ水溶液により現像可能な光硬化性樹脂組成物、該組成物から得られる樹脂層を有するドライフィルム、該組成物または該ドライフィルムの樹脂層の硬化物、および、該硬化物を有するプリント配線板を提供することにある。」

ウ 甲3の【0008】には、【課題を解決するための手段】として、以下の記載がある。
「 本発明者等は上記を鑑み鋭意検討した結果、特定のカルボキシル基含有感光性樹脂、および、これと反応する官能基を持つ表面処理剤で表面処理した0.4〜1.0μmの球状シリカを配合することによって、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。」

エ 甲3の【0047】には、[(C)球状シリカ]について、以下の記載がある。
「 (C)球状シリカは、前記(A)成分と反応する官能基を持つ表面処理剤で、表面処理された平均粒径0.4〜1.0μmの球状シリカである。ここで平均粒径とは、シリカ単体もしくはシリカ分散液のメディアン径でのd50値である。平均粒径は0.5〜0.9μmであることが好ましい。平均粒径は、レーザー回折・散乱式の粒子径分布測定装置により測定される。」

オ 甲3の【0055】には、[(C)球状シリカ]について、以下の記載がある。
「 前記平均粒径0.4〜1.0μmの球状シリカ粒子の市販品としては、例えば、アドマテックス社製SO−C2、SO−E2、SO−25HV、SO−C3、SO−E3、デンカ社製SFP−30M、SFP−130MC等が挙げられる。」

カ 甲3の【0102】〜【0104】には、下記の方法により得られた「カルボキシル基含有感光性樹脂溶液A−1」が記載されている。
「((A)カルボキシル基含有感光性樹脂の合成(A−1))
温度計、窒素導入装置兼アルキレンオキシド導入装置、および撹拌装置を備えたオートクレーブに、ノボラック型クレゾール樹脂(昭和電工社製、ショーノールCRG951、OH当量:119.4)119.4部、水酸化カリウム1.19部およびトルエン119.4部を仕込み、撹拌しつつ系内を窒素置換し、加熱昇温した。次に、プロピレンオキシド63.8部を徐々に滴下し、125〜132℃、0〜4.8kg/cm2で16時間反応させた。その後、室温まで冷却し、この反応溶液に89%リン酸1.56部を添加混合して水酸化カリウムを中和し、不揮発分62.1%、水酸基価が182.2g/eq.であるノボラック型クレゾール樹脂のプロピレンオキシド反応溶液を得た。これは、フェノール性水酸基1当量当りアルキレンオキシドが平均1.08モル付加しているものであった。」
「 得られたノボラック型クレゾール樹脂のアルキレンオキシド反応溶液293.0部、アクリル酸43.2部、メタンスルホン酸11.53部、メチルハイドロキノン0.18部およびトルエン252.9部を、撹拌機、温度計および空気吹き込み管を備えた反応器に仕込み、空気を10ml/分の速度で吹き込み、撹拌しながら、110℃で12時間反応させた。反応により生成した水は、トルエンとの共沸混合物として、12.6部の水が留出した。その後、室温まで冷却し、得られた反応溶液を15%水酸化ナトリウム水溶液35.35部で中和し、次いで水洗した。その後、エバポレーターにてトルエンをジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(カルビトールアセテート)118.1部で置換しつつ留去し、ノボラック型アクリレート樹脂溶液を得た。」
「 次に、得られたノボラック型アクリレート樹脂溶液332.5部およびトリフェニルホスフィン1.22部を、撹拌器、温度計および空気吹き込み管を備えた反応器に仕込み、空気を10ml/分の速度で吹き込み、撹拌しながら、テトラヒドロフタル酸無水物60.8部を徐々に加え、95〜101℃で6時間反応させ、冷却後、固形物の酸価88mgKOH/g、固形分70.9%のカルボキシル基含有感光性樹脂溶液A−1を得た。」

キ 甲3の【0106】には、下記の方法により得られた「シリカ溶剤分散品C−1」が記載されている。
「((C)球状シリカの調整(C−1))
球状シリカ(電気化学工業社製SFP−30M、平均粒径d50=0.7μm)を70gと、溶剤としてPMA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを28gと、メタクリル基を有するシランカップリング剤として信越シリコーン社製KBE−502を2.0gを均一分散させて、シリカ溶剤分散品C−1を得た。」

ク 甲3の【0122】には、下記の方法により得られた「ワニスD−1」が記載されている。
「(ブロック共重合体の調整(D−1)
ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(CA)75gに、Y−X−Y型ブロック共重合体(アルケマ社製M22N)を25gを加え、攪拌し、80℃にて加熱することにより溶解させた。これをワニスD−1とする。」

ケ 甲3の【0124】、【0133】〜【0134】には、「実施例1」として、「下記の表1」「中に示す配合に従い、各成分を配合し、攪拌機にて予備混合した後、3本ロールミルで分散させ、混練して、」「調製した」「光硬化性樹脂組成物」が記載されている。
「【表1】

* シリカ、カオリングレーは何れも固形分の値」
「A−1:上記で得たカルボキシル基含有感光性樹脂(ポリフェノール樹脂変性樹脂)ワニスA−1(固形分70.9%)」
「B−1:BASFジャパン社製イルガキュアTPO
B−2:BASFジャパン社製イルガキュアOXE02
C−1:上記で得たメタクリル基を有するシランカップリング剤で表面処理した球状シリカ溶剤分散品C−1(固形分70%、球状シリカの平均粒径0.7μm)」
「*1:青色着色剤
*2:黄色着色剤
*3:メラミン
*4:三菱化学社製YX−4000
*5:DIC社製のエピクロンN−770
*6:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート
*7:上記で得たブロック共重合体ワニスD−1(固形分25%)」

コ 甲3の【0135】には、以下の記載がある。
「 上記表中に示す結果から、本発明の光硬化性樹脂組成物はサブミクロンサイズのシリカフィラーを含有するにもかかわらず、解像性に優れ、TCT耐性およびHAST耐性試験後の密着性に優れた硬化物が得られることがわかる。」

サ 甲3の【0124】、【0133】〜【0134】には、実施例1として、「光硬化性樹脂組成物」が記載されている。ここで、甲3の【0124】、【0133】〜【0134】によれば、前記「光硬化性樹脂組成物」は、【0102】〜【0104】で得たカルボキシル基含有感光性樹脂ワニスA−1、BASFジャパン社製イルガキュアTPO、BASFジャパン社製イルガキュアOXE02、青色着色剤、黄色着色剤、メラミン、【0106】で得たメタクリル基を有するシランカップリング剤で表面処理した球状シリカ溶剤分散品C−1、三菱化学社製YX−4000、DIC社製のエピクロンN−770、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート及び【0122】で得たブロック共重合体ワニスD−1から製造されたものであることが理解できる。
そうすると、甲3には、実施例1として、次の「光硬化性樹脂組成物」の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。

「 下記の配合に従い、各成分を配合し、攪拌機にて予備混合した後、3本ロールミルで分散させ、混練して、調製した光硬化性樹脂組成物。
A−1:カルボキシル基含有感光性樹脂ワニスA−1(固形分70.9%)
141質量部
B−1:BASFジャパン社製イルガキュアTPO 10質量部
B−2:BASFジャパン社製イルガキュアOXE02 1質量部
青色着色剤 0.5質量部
黄色着色剤 0.4質量部
メラミン 5質量部
C−1:メタクリル基を有するシランカップリング剤で表面処理した球状シリカ溶剤分散品C−1(固形分70%、球状シリカの平均粒径0.7μm)
120質量部
三菱化学社製YX−4000 15質量部
DIC社製のエピクロンN−770 30質量部
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート 15質量部
ブロック共重合体ワニスD−1(固形分25%) 50質量部


(2) 甲4に記載された技術的事項
甲4には、上記第4 1(2)イのとおりの技術的事項が開示されていると認められる。

(3) 本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲3発明とを対比する。
(ア) カルボキシル基含有樹脂
「カルボキシル基含有感光性樹脂」が、「カルボキシル基含有樹脂」の一種であることは明らかであるから、甲3発明の「A−1:カルボキシル基含有感光性樹脂ワニスA−1」は、本件特許発明1の「カルボキシル基含有樹脂」に相当する。

(イ) (B)光重合開始剤
甲3発明の「B−1:BASFジャパン社製イルガキュアTPO」及び「B−2:BASFジャパン社製イルガキュアOXE02」は、甲3の上記【表1】における「(B)光重合開始剤(TPO)」及び「(B)光重合開始剤(OXE02)」との記載を考慮すると、本件特許発明1の「(B)光重合開始剤」に相当する。

(ウ) (C)無機フィラー
上記第4 3(1)オのとおり、甲3の【0135】には、「シリカフィラー」との記載があり、当該「シリカフィラー」が、甲3発明の「C−1:メタクリル基を有するシランカップリング剤で表面処理した球状シリカ溶剤分散品C−1(固形分70%、球状シリカの平均粒径0.7μm)」に含有される「球状シリカ」(以下「球状シリカC−1」という。)を指していることは明らかであるところ、シリカは無機物であるから、甲3発明の「球状シリカC−1」は、本件特許発明1の「(C)無機フィラー」に相当する。

(エ) 硬化性樹脂組成物
「光硬化性樹脂組成物」が、「硬化性樹脂組成物」の一種であることは明らかであるから、甲3発明の「光硬化性樹脂組成物」は、本件特許発明1の「硬化性樹脂組成物」に相当する。

(オ) 一致点及び相違点
上記(ア)〜(エ)によれば、本件特許発明1と甲3発明とは、
「カルボキシル基含有樹脂、(B)光重合開始剤、および、(C)無機フィラーを含有する硬化性樹脂組成物。」である点で一致し、以下の点で一応相違する。

(相違点3−1)
本件特許発明1は、「(C)無機フィラーの粒度分布が下記条件(1)〜(3)を満たす
(1)D50粒径値=1.0μm以下
(2)(D90粒径値)/(D10粒径値)=5.0以下
(3)((D90粒径値)−(D50粒径値))/((D50粒径値)−(D10粒径値))=0.5〜5.0」のに対し、甲3発明は、「球状シリカC−1」の粒度分布が明らかでない点。

イ 判断
まず、上記相違点3−1が、本件特許発明1と甲3発明との間の実質的な相違点といえるか否か、すなわち、本件特許発明1が甲3発明であるといえるのか否かについて検討する。
(ア) 上記第4 3(1)カのとおり、甲3発明の「球状シリカC−1」は、球状シリカ(電気化学工業社製SFP−30M、平均粒径d50=0.7μm)を70gと、溶剤としてPMA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを28gと、メタクリル基を有するシランカップリング剤として信越シリコーン社製KBE−502を2.0gを均一分散させて得られた「シリカ溶剤分散品C−1」に含有されるものであるが、そのD10粒径値及びD90粒径値が不明であり、また、均一分散させる際の分散処理の条件も明示されておらず、二次粒子(凝集体)の粒径も含めた「球状シリカC−1」の粒度分布を特定できないため、甲3発明の「球状シリカC−1」が、本件特許発明1における条件(1)〜(3)を満たすと認めることはできない。

(イ) したがって、上記相違点3−1は、実質的な相違点であり、本件特許発明1は甲3発明でない。

次に、甲3発明に基づいて、当業者が上記相違点3−1に係る構成を想到することが容易であったといえるか検討する。
(ウ) 甲3発明は、サブミクロンサイズのシリカフィラーを含有するにもかかわらず、解像性に優れ、TCT耐性およびHAST耐性試験後の密着性に優れた硬化物が得られるアルカリ水溶液により現像可能な光硬化性樹脂組成物、該組成物から得られる樹脂層を有するドライフィルム、該組成物または該ドライフィルムの樹脂層の硬化物、および、該硬化物を有するプリント配線板を提供することを課題とし(【0007】)、当該課題を解決するために、特定のカルボキシル基含有感光性樹脂、および、これと反応する官能基を持つ表面処理剤で表面処理した平均粒径0.4〜1.0μmの球状シリカを配合している(【0008】)。そして、当該「球状シリカ」について、甲3には、「(C)球状シリカは、前記(A)成分と反応する官能基を持つ表面処理剤で、表面処理された平均粒径0.4〜1.0μmの球状シリカである。ここで平均粒径とは、シリカ単体もしくはシリカ分散液のメディアン径でのd50値である。平均粒径は0.5〜0.9μmであることが好ましい。」と記載されている(【0047】)のみであり、前記「球状シリカ」の「D50粒径値」だけでなく「D10粒径値」や「D90粒径値」にも着目して制御することにより、前記「球状シリカ」を特定の粒度分布を有するものとすることについては記載も示唆もされておらず、「無機フィラー」の粒度分布が、本件特許発明1の条件(1)〜(3)を満たす「硬化性樹脂組成物」について記載された文献もないから、甲3発明に基づいて、「球状シリカ」の粒度分布を本件特許発明1の条件(1)〜(3)を満たす特定のものとする動機付けを見出すことはできない。

(エ) したがって、甲3発明に基づいて、当業者が上記相違点3−1に係る構成を想到することが容易であったとはいえない。

(オ) なお、甲3の「実施例2〜11」の「光硬化性樹脂組成物」を「甲3発明」とした場合も、同様の理由により、本件特許発明1は、甲3発明ではなく、甲3発明に基づいて、当業者が上記相違点3−1に係る構成を想到することが容易であったともいえない。

ウ 特許異議申立人の主張について
(ア) 特許異議申立人は、特許異議申立書(30〜32頁)において、上記相違点3−1について、「 甲第3号証の上記開示によれば、平均粒径0.4〜1.0μmの球状シリカ粒子の市販品として、アドマテックス社製SO−C2、SO−C3等が挙げられている([0055])。
ここで、本件特許明細書には、「(調整例2:無機フィラースラリー(C)−2)球状シリカ粒子(アドマテックス社製アドマファインSO−C2、平均粒径:500nm)50gと、溶剤としてPMA48gと、メタクリル基を有するシランカップリング剤(信越化学工業社製KBM−503)2gとを配合撹拌し、ビーズミル(BUHLER社製K−8)で回転数900rpm、ポンプ出力20%、分散時温度が40〜50℃で分散処理を実施し、条件(1)が0.5μm、条件(2)が3.3、条件(3)が3.7、条件(4)が8.7%の分散体を得た。」([0089])と開示されている。
すなわち、アドマテックス社製アドマファインSO−C2は、条件(1)〜(4)を満たす無機フィラーであることが開示されている。

また、甲第4号証には、(株)アドマテックス製のシリカ「SC−C2」が、真球状微細粒子でシャープな粒度分布を示すこと、および、シリカ「SC−C2」の粒度分布が以下のとおりであることが開示されている。



そうすると、甲3発明における「アドマテックス社製SO−C2」は、本件特許発明1における「(2)(D90粒径値)/(D10粒径値)=5.0以下である(C)無機フィラー」に相当する。
また、甲3発明における「アドマテックス社製SO−C2」は、本件特許発明1における「(3)((D90粒径値)−(D50粒径値))/((D50粒径値)−(D10粒径値))=0.5〜5.0である(C)無機フィラー」に相当する。
以上より、甲3発明は、構成要件1Cおよび1Dを具備している。」と主張している。

(イ) しかしながら、上記第4 3(1)オのとおり、甲3において、「アドマテックス社製SO−C2」は、平均粒径0.4〜1.0μmの球状シリカ粒子の市販品として例示された多数の球状シリカ粒子のうちの一例にすぎず、これらの多数の球状シリカ粒子の中から、実施例等による裏付けがない「アドマテックス社製SO−C2」を含む「光硬化性樹脂組成物」を甲3発明として認定することはできない。

(ウ)また、仮に「アドマテックス社製SO−C2」を含む「光硬化性樹脂組成物」を甲3発明として認定しても、上記第4 1(3)ウ(イ)のとおり、本件特許発明における「(C)無機フィラーの粒度分布」は、二次粒子(凝集体)の粒径も含めた粒度分布であり、甲3発明は、「アドマテックス社製SO−C2」の分散処理の条件が不明であるため、当該「アドマテックス社製SO−C2」が、本件特許発明1における条件(1)〜(3)を満たすとは認められない。

(エ) さらに、微粒子の粒度分布は、二次粒子(凝集体)の形成状況に応じて変化するものであると認められるところ、甲4において開示された(株)アドマテックス製のシリカ「SC−C2」の粒度分布が、甲3発明においても維持されているとする合理的な根拠を見出すこともできない。

したがって、上記主張を採用することはできない。

エ 小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1は、甲3発明ではなく、また、甲3発明及び特許異議申立人が提出したいずれの証拠の記載に基づいても当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(6) 本件特許発明2〜7について
本件特許発明2〜7は、いずれも、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであって、本件特許発明1の構成を全て具備するものである。
そうすると、上記(5)のとおり、本件特許発明1が、甲3発明ではなく、また、甲3発明及び特許異議申立人が提出したいずれの証拠の記載に基づいても当業者が容易に発明をすることができたものでない以上、本件特許発明2〜7も、甲3発明ではなく、また、甲3発明及び特許異議申立人が提出したいずれの証拠の記載に基づいても当業者が容易に発明をすることができたものではない。


第5 むすび
したがって、請求項1〜7に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1〜7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2024-06-04 
出願番号 P2019-175595
審決分類 P 1 651・ 113- Y (G03F)
P 1 651・ 121- Y (G03F)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 本田 博幸
関根 洋之
登録日 2023-08-28 
登録番号 7339103
権利者 太陽ホールディングス株式会社
発明の名称 硬化性樹脂組成物、ドライフィルム、硬化物、および、電子部品  
代理人 本多 一郎  

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