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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 G02B 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 G02B 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 G02B 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 G02B |
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管理番号 | 1412311 |
総通号数 | 31 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2024-07-26 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2024-02-26 |
確定日 | 2024-07-02 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第7339039号発明「長尺フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第7339039号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第7339039号(以下「本件特許」という。)の請求項1〜9に係る特許についての出願(特願2019−129646号)は、令和元年7月11日の出願であって、令和5年8月28日にその特許権の設定登録がされ、令和5年9月5日に特許掲載公報が発行された。 本件特許について、特許掲載公報発行の日から6月以内である令和6年2月26日に特許異議申立人 加藤 浩志(以下「特許異議申立人」という。)から全請求項に対して特許異議の申立てがされた。 第2 本件特許発明 本件特許の特許請求の範囲の請求項1〜9に係る発明(以下、項番に従って「本件特許発明1」などという。また、これらを総称して「本件特許発明」ともいう。)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1〜9に記載された事項により特定される、次のものである。 「【請求項1】 少なくとも一方の面の短尺方向の少なくとも一方の端部に凹凸部を有する長尺状の基材フィルムと、少なくとも1種の重合性液晶化合物を含有する重合性液晶組成物の硬化物層を含む転写可能な機能層とを含んでなる長尺フィルムであって、 前記機能層が、前記基材フィルムの凹凸部を有する面上に積層されており、 機能層の面内平均厚みXと凹凸部の凸部最大高さYとの関係が、1.0<Y/X≦15.0を満たし、 前記基材フィルムの短尺方向全幅をA、該基材フィルムの凹凸部の短尺方向幅の合計をB、前記機能層の短尺方向幅をCとした場合に、B+C>Aを満たす長尺フィルム。 【請求項2】 機能層の基材フィルムからの剥離力が、0.02N/25mm以上1N/25mm未満である、請求項1に記載の長尺フィルム。 【請求項3】 基材フィルムがセルロース系樹脂フィルムまたはオレフィン系樹脂フィルムである、請求項1または2に記載の長尺フィルム。 【請求項4】 機能層を構成する前記硬化物層中の重合性液晶化合物の分子配向方向が、前記基材フィルム長尺方向面内に対して水平であり、かつ、前記基材フィルムの長尺方向に対して平行方向でない、請求項1〜3のいずれかに記載の長尺フィルム。 【請求項5】 機能層を構成する前記硬化物層が、下記式(1)および(2)を満たす、請求項1〜4のいずれかに記載の長尺フィルム。 Re(450)/Re(550)≦1.00 (1) 100nm≦Re(550)≦150nm (2) [式(1)および(2)中、Re(λ)は波長λnmにおける面内位相差値を表す。] 【請求項6】 機能層を構成する前記硬化物層が、下記式(3)および(4)を満たす、請求項1〜4のいずれかに記載の長尺フィルム。 200nm≦Re(550)≦300nm (3) 1.00≦Re(450)/Re(550) (4) [式(3)および(4)中、Re(λ)は波長λnmにおける面内位相差値を表す。] 【請求項7】 機能層が光配向膜を含む、請求項1〜6のいずれかに記載の長尺フィルム。 【請求項8】 機能層を構成する前記硬化物層中の重合性液晶化合物の分子配向方向が、前記基材フィルムの長尺方向面内に対して実質的に鉛直方向である、請求項1〜4のいずれかに記載の長尺フィルム。 【請求項9】 機能層を構成する前記硬化物層が、下記式(5)を満たす、請求項1〜4および8のいずれかに記載の長尺フィルム。 −150nm≦Rth(550)≦−20nm (5) [式(5)中、Rth(550)は硬化物層の波長550nmにおける厚み方向の位相差値を示す。]」 第3 特許異議申立ての理由の概要 1 特許異議申立人が主張する取消しの理由は、概略、以下のとおりである。 (1)理由1(甲第1号証を主引例とする新規性及び進歩性) 新規性:本件特許の請求項1、3、4、7及び8に係る発明は、本件特許の出願前に、日本国内又は外国において下記の頒布された甲第1号証に記載された発明であって、特許法29条1項3号に該当し特許を受けることができないから、同法113条2号に該当し取り消すべきものである。 進歩性:本件特許の請求項1〜9に係る発明は、本件特許の出願前に、日本国内又は外国において頒布された下記の甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基づいて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、同法113条2号に該当し取り消すべきものである。 (2)理由2(甲第2号証を主引例とする進歩性) 進歩性:本件特許の請求項1〜9に係る発明は、本件特許の出願前に、日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明並び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、同法第113条2号に該当し取り消すべきものである。 (3)理由3(記載要件違反) サポート要件:本件特許の請求項1〜9に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでないから、本件特許の特許請求の範囲の記載が、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていないため、同法113条4号に該当し取り消すべきものである。 明確性:本件特許の請求項1〜9に係る発明は、明確でないから、本件特許の特許請求の範囲の記載が、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていないため、同法113条4号に該当し取り消すべきものである。 実施可能要件:本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許の請求項1〜9に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないから、本件特許の発明の詳細な説明の記載が、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていないため、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 委任省令要件:本件特許の発明の詳細な説明は、本件特許の請求項1〜9に係る発明について、経済産業省令で定めるところにより記載されたものでないから、本件特許の発明の詳細な説明の記載が、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていないため、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 2 特許異議申立人が提出した証拠方法 特許異議申立人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。 甲第1号証:特開2002−122741号公報(以下「甲1」という。) 甲第2号証:特開2015−68951号公報(以下「甲2」という。) 甲第3号証:”ワイヤーバー”,[online],三井精器株式会社,[2024年1月31日検索],インターネット<URL:https://www.mitsuiec.co.jp/Wirebar>(以下「甲3」という。) 甲第4号証:”バーコーター” ,[online],第一理化株式会社,[2024年1月31日検索],インターネット<URL:https://www.dai-ichi-rika.co.jp/barkor-1.htm>(以下「甲4」という。) 甲第5号証:特開2015−163934号公報(以下「甲5」という。) 甲第6号証:特開2017−97217号公報(以下「甲6」という。) 甲第7号証:特開2011−248198号公報(以下「甲7」という。) 甲第8号証:特開2005−77795号公報(以下「甲8」という。) 甲第9号証:国際公開第2014/077208号(以下「甲9」という。) (当合議体注:甲1及び甲2は、主引例であり、甲3及び甲4は、技術常識を示す資料であり、甲5〜甲9は、周知技術を示す文献である。) 第4 当合議体の判断 1 理由1(甲1を主引例とする新規性及び進歩性)について (1)甲1の記載 甲1には、次の記載がある。なお、下線は、当合議体が付与したもので、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。 ア 「【特許請求の範囲】 ・・・省略・・・ 【請求項4】 支持体上に重合性液晶性化合物を配向させて形成された2つの層を有する光学補償シートにおいて、該光学補償シートの一方の面から該2層を見たときに、一方の層は、該液晶性化合物の光軸と該光学補償シート面とのなす角度が該光学補償シートの厚さ方向に対して連続的または段階的に増加するように配向させた層であり、他方の層は、該角度が連続的または段階的に減少するように配向させた層であり、且つ、該2層の液晶性化合物それぞれの面内における配向方向が互いに80〜100度の角度で交差するように配置した光学補償シートであって、幅手両端部がエンボス加工されている長尺ロール状であることを特徴とする光学補償シート。 ・・・省略・・・ 【請求項18】 長尺の支持体の両面に対して、それぞれ下記の工程(1)〜(3)を行うことによって、両面に配置された液晶性化合物から形成された2層が、その2層それぞれのシート面内における配向方向のなす角度が互いに80〜100°となるように配向処理させることを特徴とする請求項9、11、13、15、17のいずれか1項に記載の光学補償シートの製造方法。 (1)長尺の該支持体上に直接または他の層を介して配向層を連続的に塗布する。 (2)該配向層を該支持体の長尺方向に対して略45度の角度で斜め方向に配向処理を行う。 (3)該配向層上に液晶性化合物を連続的に塗布して、液晶相を発現する温度条件で固定化する。」 イ 「【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、光学補償シート、偏光板及び液晶表示装置に関する。 ・・・省略・・・ 【0009】 【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、TN−TFTなどのTN型LCDの視野角特性、すなわち、斜め方向から見た場合の画面の着色、明暗の反転現象を簡便に改善できる光学補償シートを提供し、且つ、それを用いて簡単な構成で著しく視野角が改善される液晶表示装置を提供することである。更に取り扱い性に優れた光学補償シートを提供することを目的としている。更に、このような光学補償シートを安定に、連続的に製造するための方法を提供することを目的としている。 【0010】 【課題を解決するための手段】本発明は下記の項目によって達成された。 ・・・省略・・・ 【0064】本発明に係る配向層(配向性層ともいう)について説明する。配向性層は、一般に透明支持体上又は下塗層上に設けられる。配向性層は、その上に設けられる液晶性化合物の配向方向を規定するように機能する。そしてこの配向が、光学補償シートから傾いた配向を与える。配向性層は、光学異方層に配向性を付与できるものであれば、どのような層でも良い。配向性層の好ましい例としては、有機化合物(好ましくはポリマー)のラビング処理された層、無機化合物の斜方蒸着層、及びマイクログルーブを有する層、さらにω−トリコサン酸、ジオクタデシルメチルアンモニウムクロライド及びステアリン酸メチル等のラングミュア・ブロジェット法(LB膜)により形成される累積膜、あるいは電場あるいは磁場の付与により誘電体を配向させた層を挙げることができるが、特にこれらに限定されるものではない。公知の光配向層を用いることも出来る。 ・・・省略・・・ 【0083】(1)および(2)は、支持体上に通常のプレチルト角(0度より大きく40度以下)を与える配向膜を介して液晶性化合物を配向させた層の上に、別の支持体上で同様に形成させた第二の液晶性化合物を配向させた層を、例えば粘着剤を介して転写することにより達成される。また、(5)、(6)は、この方法で支持体ごと貼り合わせたものである。 ・・・省略・・・ 【0102】本発明の光学補償シートの支持体には主にセルロースエステルを含む支持体が好ましく、中でも炭素数2〜4のアシル基を有するセルロースエステルが特に好ましく、その総アシル基置換度が2.30以上2.80以下のセルロースエステルが配向膜及び重合性液晶性化合物を塗設する支持体として特に好ましい。セルロースエステルとしてはセルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネートが好ましく、中でもセルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネートが好ましく用いられる。 ・・・省略・・・ 【0227】本発明の別の実施態様では、支持体の両端部にエンボス加工を付与させた長尺ロールを提供する。これにより、ロール状に巻かれた長尺フィルム上に、配向膜を付与する際、あるいはさらに重合性液晶性化合物を塗設する際に生じていたムラが著しく減少した。ムラの原因は完全に特定はされていないが、これはロール状長尺フィルムの剥離帯電、搬送中の帯電によるものが一因と考えられる。特に長尺ロールから配向膜の形成、重合性液晶性化合物の塗設を巻き取り無しで連続的に行う場合には更に効果が認められた。又、本発明の光学補償シートでは硬化樹脂層(例えば重合性液晶から形成された光学異方性層)の上に別の重合性液晶から形成された光学異方性層設けた構成を有するが、1つ目の硬化樹脂層(配向層及び重合性液晶性化合物層)を設け、巻き取ったロールに、2層目の配向層と重合性液晶層を設ける場合、更に剥離帯電の影響が大きく問題であった。あるいは1つの配向層及び重合性液晶性化合物層を設け、巻き取ったロールフィルム同士を張り合わせるとき、もしくは一方のロールフィルム上に重合性液晶性化合物層を転写する際にも、しわや空気の抱き込み、異物を巻き込む事による故障などが少なくなるなど、支持体の両端部にエンボス加工を付与させることによって、その影響を著しく軽減させることができたのである。 【0228】特に、支持体の片側に重合性液晶層を2層以上設ける場合、あるいは両側に各々1層以上設ける場合で著しい効果が認められた。 【0229】エンボス加工の幅は5〜40mmが好ましく、より好ましくは7〜15mmである。フィルム端部から0〜50mmの部分にエンボス加工が施されていることが好ましく、エンボスの形態は問わないが、一ヶ所に加工するエンボスの条数は、1条でも2条でもそれ以上であってもかまわない。両端部になされていることが特に好ましい。 【0230】エンボス加工の高さは2〜80μmであることが好ましく、更に5〜50μmであることが好ましく、7〜25μmであることが特に好ましい。エンボス加工は高すぎると巻き乱れや、ロール端部の盛り上がりなど、フィルム端部にひずみを与えてしまうため好ましくない。又、低すぎると配向の乱れを抑制する効果に乏しくなる。樹脂フィルム厚みの1〜25%の範囲で高さを調節することが好ましい。 ・・・省略・・・ 【0301】本発明の好ましい例を以下に示す。下記重合性液晶層の上にさらに別の配向膜、重合性液晶層を塗設することができる。このとき、必要に応じて、下引き層を設けることもできる。あるいは別の支持体に塗設された重合性液晶層を転写あるいは支持体ごと接着させることもできる。具体的には下記構成の光学補償シート2枚を接着剤あるいは粘着剤を用いて張り合わせることが出来る。」 ウ 「【0325】 【実施例】以下、本発明を実施例にて具体的に説明するが、本発明はこれのみに限定されるものではない。 【0326】〈樹脂フィルム1の作製〉 (ドープ組成物(イ)の調製)下記組成物を密閉容器に投入し、加圧下で80℃に保温し撹伴しながら完全に溶解、混合してドープ組成物(イ)を得た。 【0327】 セルロースアセテートプロピオネート(以下CAPと略す) 100質量部 (アセチル置換度2.0、プロピオニル置換度0.8) トリフェニルフォスフェート 8質量部 エチルフタリルエチルグリコレート 3質量部 チヌビン326 0.5質量部 (チバスペシャルティケミカルズ(株)社製) チヌビン109 0.7質量部 (チバスペシャルティケミカルズ(株)社製) チヌビン171 0.7質量部 (チバスペシャルティケミカルズ(株)社製) メチレンクロライド 298質量部 エタノール 74質量部 上記組成物を密閉容器に投入し、加圧下で80℃に保温し撹伴しながら完全に溶解してドープ組成物(イ)を得た。 【0328】次にこのドープ組成物(イ)を絶対濾過精度10μmのカートリッジフィルターで濾過し、冷却して30℃に保ちステンレスバンド上に幅1.5mで均一に流延し、残留溶媒量50質量%でステンレスバンド上から剥離し、続いてテンターにより幅手方向に延伸倍率1.05倍に延伸しながら、残留溶媒量が10質量%以下となるまで乾燥させ、幅1.3mにスリッティグした後、更に120℃に維持された乾燥ゾーンを多数のロールで搬送させながら乾燥を終了させ膜厚80μm、幅1.3m長さ1800mの長尺フィルムを得た。ステンレスバンドに接していたフィルム面をb面、もう一方の面をa面とし、b面が内側となるようにロール状に巻いた。これを樹脂フィルム1とする。 【0329】又、乾燥終了後、巻き取りの前に、フィルムの両端部にエンボスリングを押し当てることにより幅15mm高さ10μmの、1mm×1mmの凸部が25個/cm2形成されるようにエンボス加工を連続的に施した以外は同様にして、長さ1800mの長尺フィルムを得た。これをエンボス付き樹脂フィルム1とする。 ・・・省略・・・ 【0343】【表2】 【0344】《配向膜の作製》以下の光学補償シートの作製においては、以下の方法で、異なった配向を与える配向膜を支持体上に塗設して作製した。 【0345】(配向膜A−1の作製)樹脂フィルム支持体にゼラチン薄膜(乾燥膜厚0.1μm)をワイヤーバーにより連続的に塗設し、さらにその上に1kgの直鎖アルキル変性ポリビニルアルコール(MP203;クラレ(株)製)をメタノール/水=1/4混合比を有する溶媒100lに溶解した溶液をワイヤーバー#3により連続的に塗布した。これらを80℃に維持された乾燥ゾーンにて乾燥させた後、ラビング処理を行い、配向膜A−1を作製する。 【0346】(配向膜A−2の作製)樹脂フィルム支持体にゼラチン薄膜(乾燥膜厚0.1μm)をワイヤーバーにより連続的に塗設し、1kgの下記構造のアルキル変性ポリビニルアルコールP−2をメタノール/水=1:4混合比を有する溶媒100lに溶解した溶液をワイヤーバー#3により連続的に塗布した。これを65℃に維持された乾燥ゾーンにて乾燥させた後、ラビング処理を行い、配向膜A−2を作製する。 【0347】【化7】 【0348】尚、ラビング処理の方向については、配向膜を塗布した支持体を配向膜面側から見て直線上にラビングした方向をY軸の+方向とみなし、それに直交するX軸を同様に支持体面内に設定し、基準配置とした。以後、シート面の面内方向の特定については、特に断らない限り、ラビング方向を基準として同様に行った。 【0349】《液晶性化合物の配向特性の評価方法》本発明の光学補償シートに係る配向膜の特性と液晶性化合物の組み合わせによって得られる液晶性化合物の配向特性は以下の手順で決定した。 【0350】上記で作製した各配向膜(3種類)と下記に示す溶液LC−1、LC−2を用いて各配向膜の特性を検討した。溶液LC−1、LC−2の液晶性化合物の液晶性に関しては、いずれもエナンチオトロピックなネマティック層を発現する。 【0351】 (溶液LC?1の組成) MEK(メチルエチルケトン) 89.5部 化合物1 2部 化合物2 4部 化合物3 3部 イルガキュアー369(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製) 1.5部 【0352】【化8】 【0353】【化9】 【0354】【化10】 【0355】 (溶液LC−2の組成) MEK 89.5部 化合物1 3部 化合物2 3部 化合物3 5部 イルガキュアー369(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製) 1.5部 検討方法としては、配向膜を塗布したスライドグラスを用いて各々、配向処理を行い、溶液LC−1、LC−2を配向膜上に塗布後溶剤を乾燥させ、配向膜がアンチパラレルになるよう合わせた。さらに、ホットステージを用い、液晶温度範囲でオルソスコープ像、コノスコープ像の観察を行い、さらに自動複屈折計を用いてアンチパラレル処理を行った際の平均チルト角を測定した。さらに、各々の配向膜に溶液LC−1、LC−2を塗布、乾燥、熱処理を行い、液晶性化合物の片面のみに配向膜を配置し、もう片面は空気界面となるような試料を作製し、これを同様の観察、測定を行い平均チルト角を測定した。更に、クリスタルローテーション法を用いて、配向膜界面、空気界面のプレチルト角の測定を行った。結果を表3に示す。 【0356】【表3】 【0357】表3から、配向膜A−1、A−2のプレチルト角は、各々50°以下80°以上であることが示された。 【0358】《光学補償シートの作製》 (光学補償シートVの作製)以下にVタイプの光学補償シートの作製方法を示す。Vタイプとは、支持体の片面(b面)側に支持体/配向膜A−1/液晶配向層(LC−1)/配向膜A−2/液晶配向層(LC−2)の構成を有する光学補償シートである。 【0359】長尺ロールの樹脂フィルム支持体1上に上記記載の配向膜A−1を形成した。上表の長尺の樹脂フィルム支持体1のb面にゼラチン薄膜(乾燥膜厚0.1μm)をワイヤーバーにより連続的に塗設し、さらにその上に1kgの直鎖アルキル変性ポリビニルアルコール(MP203;クラレ(株)製)をメタノール/水=1:4混合比を有する溶媒100lに溶解した溶液をワイヤーバー#3により連続的に塗布した。これらを80℃に維持された乾燥ゾーンにて乾燥させた後、長尺方向に対して45°の角度でラビング処理を行い、配向膜A?1を作製した。続けて、この配向膜上に、上記の溶液LC?1をワイヤーバー#5を用いて連続的に塗設した。更に、これを55℃に維持された乾燥ゾーン内にて無風状態で30秒乾燥、次いで75℃の乾燥ゾーンにて30秒熱処理を行い、98kPaで60秒間窒素パージした後、酸素濃度0.1%条件下で450mJ/cm2の紫外線により硬化させた膜を作製した。こうして1層の液晶配向層を有する長尺ロール状シートを得た。 【0360】次に、この長尺ロール状シートの液晶配向層の上に、上記の配向膜A−2の作製に用いた前記アルキル変性ポリビニルアルコールP−2とメタノール/水1:4からなる溶液をワイヤーバー#3により連続的に塗布した。これを65℃に維持された乾燥ゾーン内にて乾燥させた後、ラビング処理を行い、配向膜を形成した。ラビングは、1層目の配向膜のラビング方向(Y軸の+方向)を基準としてX軸の+の方向に向けて行った。そして、この配向膜上に下記成分の前出の溶液LC−2をワイヤバー#5を用いて連続的に塗設した。これを55℃に維持された乾燥ゾーン内にて無風状態で30秒乾燥、次いで75℃に維持された乾燥ゾーン内にて30秒熱処理を行い、98kPaで60秒間窒素パージした後、酸素濃度0.1%条件下で450mJ/cm2の紫外線により膜を硬化させ、透明支持体の片面に、2層の液晶性化合物含有層を有する光学補償シート1Vを得た。 【0361】長尺の支持体1を長尺の支持体2〜48に変更した以外は同様にして、透明支持体の片面に、2層の液晶配向層を有する光学補償シート2V〜48Vを得た。(各々の支持体を用いて作製したVタイプの光学補償シートは、各々の支持体番号にVを付与して表記した。)又、液晶配向層は特に断らない限り重合性液晶性化合物を用いて配向させた後、重合させて形成させた層を意味する。 【0362】図2は、このVタイプの光学補償シートの構成を示す概略図である。図3の(a)はこのタイプの光学補償シートをシート正面(2層の液晶配向層を有する側)からみたときの概略図であり、この図では液晶配向層のみを表示している。1は光学補償シートを指し、22は支持体からみて手前側にある配向した液晶層の光学軸を示し、33はその内側にある配向した液晶層の光学軸をしめす。これらは面内で90度の角度で交差している。(b)はその光学補償シートの一辺5に平行な状態における断面図を表す。同じく22、33によりそれぞれの液晶層中の配向した液晶性化合物の光軸が層中の膜厚方向で連続的に変化する様子を示す。 ・・・省略・・・ 【0371】《液晶配向層の評価方法》液晶配向層のむらを確認するため、クロスニコルに配置した2枚の偏光板の間に支持体上に少なくとも1層の液晶配向層を有する製造途中の光学補償シートあるいは完成した光学補償シートを配置して、ライトボックスにより下側より光を照射して液晶配向層のむらを観察し、下記の基準で評価した。◎及び○は実用上支障ないレベルであり、Xは収率が著しく低下し、実用上困難なレベルである。 【0372】 ◎ 長尺シートに配向むらは認められない。 ○ 長尺シートの一部にわずかに配向むらが認められる。 【0373】 △ 長尺シートの一部に配向むらが認められる。 × 長尺シートの広い範囲に配向むらが認められる。 【0374】評価結果を以下に示す。 ・・・省略・・・ 【0376】【表5】 ・・・省略・・・ 【0388】 【発明の効果】本発明により、視野角特性、すなわち、斜め方向から見た場合の画面の着色、明暗の反転現象を一枚のみで簡便に改善できる長尺の光学補償シートを提供し、且つ、それらを用いて著しく視野角が改善される液晶表示装置を提供することが出来た。」 エ 【図2】 (2)甲1発明 甲1において、【0358】の記載により、Vタイプの光学補償シートは、支持体の片面(b面)側に支持体/配向膜A−1/液晶配向層(LC−1)/配向膜A−2/液晶配向層(LC−2)の構成を有する光学補償シートである。ここで、【0361】の記載により、光学補償シート25Vは、支持体25を有するものであり、【0329】及び【0343】の記載により、支持体25は、エンボス樹脂フィルム1である。また、【0361】の記載により、液晶配向層は、重合性液晶化合物を用いて配向させた後、重合させて形成させた層である。 そうしてみると、甲1には、請求項4に係る発明の光学補償シートを具体化した実施例として、次の「光学補償シート25V」の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 「 支持体25の片面(b面)側に支持体25/配向膜A−1/液晶配向層(LC−1)/配向膜A−2/液晶配向層(LC−2)の構成を有する光学補償シート25Vであって、 支持体25は、フィルムの両端部にエンボスリングを押し当てることにより幅15mm高さ10μmの、1mm×1mmの凸部が25個/cm2形成された、長さ1800mの長尺のエンボス樹脂フィルム1であり、 液晶配向層(LC−1)及び液晶配向層(LC−2)は、重合性液晶化合物を用いて配向させた後、重合させて形成させた層である、光学補償シート25V。」 (3)本件特許発明1 ア 対比 本件特許発明1と甲1発明とを対比する。 (ア)基材フィルム 甲1発明の「支持体25」は、「フィルムの両端部にエンボスリングを押し当てることにより幅15mm高さ10μmの、1mm×1mmの凸部が25個/cm2形成される、長さ1800mの長尺のエンボス樹脂フィルム1であ」る。 上記構成からみて、甲1発明の「支持体25」は、本件特許発明1の「基材フィルム」に相当する。 また、上記構成からみて、甲1発明の「支持体25」は、少なくとも一方の面の短尺方向の少なくとも一方の端部に「凸部」を有する長尺状であるといえる。そうしてみると、甲1発明の「支持体25」は、本件特許発明1の「基材フィルム」の「少なくとも一方の面の短尺方向の少なくとも一方の端部に凹凸部を有する長尺状の」との要件を満たす。 (イ)硬化物層 甲1発明の「液晶配向層(LC−1)及び液晶配向層(LC−2)」は、「重合性液晶化合物を用いて配向させた後、重合させて形成させた層である」。 上記構成からみて、甲1発明の「重合性液晶化合物」は、その文言どおり、本件特許発明1の「重合性液晶化合物」に相当する。また、甲1発明の液晶配向層(LC−1)」及び「液晶配向層(LC−2)」は、本件特許発明1の「硬化物層」に相当する。さらに、甲1発明の「液晶配向層(LC−1)」及び「液晶配向層(LC−2)」は、本件特許発明1の「硬化物層」の「少なくとも1種の重合性液晶化合物を含有する重合性液晶組成物の」との要件を満たす。 (ウ)機能層 甲1発明は、「支持体25の片面(b面)側に支持体25/配向膜A−1/液晶配向層(LC−1)/配向膜A−2/液晶配向層(LC−2)の構成を有する」。 ここで、本件特許明細書の【0012】には、「該機能層は、本発明の効果に影響を及ぼさず、転写後に光学フィルムとして機能し得る限り、液晶硬化物層以外の層を含んでいてもよい。そのような他の層としては、配向膜や、保護層やハードコート層などの硬化樹脂層、液晶硬化物層等の機能層を偏光フィルムなどの他の部材と接着するための粘接着剤層などが挙げられる。」と記載されていて、光学フィルムとして機能するものとして液晶硬化物層以外の層を含んでもよいことから、甲1発明の「配向膜A−1」、「液晶配向層(LC−1)」、「配向膜A−2」及び「液晶配向層(LC−2)」も光学フィルムとして機能するといえる。 そうしてみると、甲1発明の「配向膜A−1」、「液晶配向層(LC−1)」、「配向膜A−2」及び「液晶配向層(LC−2)」は、本件特許発明1の「機能層」に相当する。また、甲1発明の「配向膜A−1」、「液晶配向層(LC−1)」、「配向膜A−2」及び「液晶配向層(LC−2)」は、本件特許発明1の「硬化物層を含む転写可能な機能層」と、「硬化物層を含む」との点で共通する。 (エ)長尺フィルム 上記(ア)〜(ウ)を総合すると、甲1発明の「光学補償シート25V」は、本件特許発明1の「長尺フィルム」に相当する。 また、甲1発明の「光学補償シート25V」は、「支持体25」と、「配向膜A−1」、「液晶配向層(LC−1)」、「配向膜A−2」及び「液晶配向層(LC−2)」を含んでなるといえる。そうしてみると、甲2発明の「光学補償シート25V」は、本件特許発明1の「長尺フィルム」の「基材フィルムと」「機能層とを含んでなる」との要件を満たす。 イ 一致点・相違点 (ア)一致点 上記アの対比結果からみて、本件特許発明1と引用発明は、次の点で一致する。 「 少なくとも一方の面の短尺方向の少なくとも一方の端部に凹凸部を有する長尺状の基材フィルムと、少なくとも1種の重合性液晶化合物を含有する重合性液晶組成物の硬化物層を含む機能層とを含んでなる長尺フィルム。」 (イ)相違点 上記アの対比結果からみて、本件特許発明1と引用発明は、次の点で相違する。 <相違点1> 「機能層」について、本件特許発明1は、「転写可能」であるのに対して、甲1発明の「配向膜A−1」、「液晶配向層(LC−1)」、「配向膜A−2」及び「液晶配向層(LC−2)」は、転写可能であるかどうかが明らかでない点。 <相違点2> 「機能層」について、本件特許発明1は、「前記基材フィルムの凹凸部を有する面上に積層されて」いるのに対して、甲1発明の「配向膜A−1」、「液晶配向層(LC−1)」、「配向膜A−2」及び「液晶配向層(LC−2)」は、「支持体25」の「凸部」を有する面上に積層されているかどうかが明らかでない点。 <相違点3> 本件特許発明1は、「機能層の面内平均厚みXと凹凸部の凸部最大高さYとの関係が、1.0<Y/X≦15.0を満たし」ているのに対して、甲1発明は、このように特定されていない点。 <相違点4> 本件特許発明1は、「前記基材フィルムの短尺方向全幅をA、該基材フィルムの凹凸部の短尺方向幅の合計をB、前記機能層の短尺方向幅をCとした場合に、B+C>Aを満たす」のに対して、甲1発明は、このように特定されていない点。 ウ 判断 事案に鑑み、上記相違点4について検討する。 (ア)新規性について 甲1の【0227】には、「本発明の別の実施態様では、支持体の両端部にエンボス加工を付与させた長尺ロールを提供する。これにより、ロール状に巻かれた長尺フィルム上に、配向膜を付与する際、あるいはさらに重合性液晶性化合物を塗設する際に生じていたムラが著しく減少した。ムラの原因は完全に特定はされていないが、これはロール状長尺フィルムの剥離帯電、搬送中の帯電によるものが一因と考えられる。」と記載されている。上記記載から、「配向膜」及び「重合性液晶性化合物」は、帯電が影響しないようにするためにエンボス加工された箇所の内側であって、ムラが生じないようにするためにエンボス加工された箇所を避けて付与すると解するのが自然である。 また、甲1の【0227】には、「1つ目の硬化樹脂層(配向層及び重合性液晶性化合物層)を設け、巻き取ったロールに、2層目の配向層と重合性液晶層を設ける場合、更に剥離帯電の影響が大きく問題であった。あるいは1つの配向層及び重合性液晶性化合物層を設け、巻き取ったロールフィルム同士を張り合わせるとき、もしくは一方のロールフィルム上に重合性液晶性化合物層を転写する際にも、しわや空気の抱き込み、異物を巻き込む事による故障などが少なくなるなど、支持体の両端部にエンボス加工を付与させることによって、その影響を著しく軽減させることができたのである。」と記載されている。上記記載は、しわや空気の抱き込み、異物を巻き込むことは、エンボス加工による効果であることを示すことにとどまり、配向層及び重合性液晶性化合物層がエンボス加工された箇所に及ぶものであるかどうかについて示したものではない。また、同記載の「重合性液晶性化合物層を転写する」について、エンボス加工がなされているのは転写される側の支持体であって、そもそも「重合性液晶性化合物層を転写する」側の支持体にエンボス加工がなされていることを示すものではない。 さらに、甲1の【0230】には、「エンボス加工の高さは2〜80μmであることが好ましく、更に5〜50μmであることが好ましく、7〜25μmであることが特に好ましい。エンボス加工は高すぎると巻き乱れや、ロール端部の盛り上がりなど、フィルム端部にひずみを与えてしまうため好ましくない。又、低すぎると配向の乱れを抑制する効果に乏しくなる。」と記載されている。上記記載は、ロール端部の盛り上がりなど、フィルム端部にひずみを与えて支持体そのものに影響を与えることを意味するのであって、上記記載は、配向層及び重合性液晶性化合物層がエンボス加工された箇所に及ぶことを示すものではない。 甲1の上記箇所には、甲1発明の「配向膜A−1」、「液晶配向層(LC−1)」、「配向膜A−2」及び「液晶配向層(LC−2)」は、「凸部」を有する箇所に及ぶことは記載されておらず、むしろ、甲1発明の「配向膜A−1」、「液晶配向層(LC−1)」、「配向膜A−2」及び「液晶配向層(LC−2)」は、「凸部」を有する箇所には及ばないと解するのが自然である。そうしてみると、甲1発明において、「支持体25」の「凸部」の短尺方向の幅の合計と、「配向膜A−1」、「液晶配向層(LC−1)」、「配向膜A−2」及び「液晶配向層(LC−2)」の短尺方向幅との和は、「支持体25」の短尺方向全幅よりも、大きいものであるとはいえない。 そして、上記箇所以外にも、甲1には、甲1発明において上記相違点4に係る構成を用いることを窺わせる記載はなく、甲1発明において上記相違点4に係る構成を用いることが当業者にとって自明であるともいえない。 したがって、上記相違点4は実質的な相違点であるから、本件特許発明1は、甲1発明と同一ではない。 (イ)進歩性について 甲1発明において上記相違点4に係る構成とすることは、他の甲号証にも記載されておらず、周知技術であるともいえない。 そうしてみると、甲1発明において上記相違点4に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者であっても、容易に想到し得たとはいえない。 そして、本件特許発明1の構成により、本件特許明細書の【0007】に記載された「本発明によれば、基材フィルムと、転写可能な液晶硬化物層を含む機能層とを有する長尺フィルムであって、基材フィルムの剥離時に短尺方向端部の機能層の脱離が生じ難く、光学特性に優れる光学フィルムを生産性よく製造し得る長尺フィルムを提供することができる。」との効果を奏するものである。 したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、当業者であっても、甲1発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。 エ 他の実施例を主引例とした場合 甲1の他の実施例を主引例とした場合も同様である。 オ 特許異議申立人の主張 (ア)特許異議申立人の主張の概要 特許異議申立人は、特許異議申立書において、「甲1におけるエンボスは、剥離帯電によるムラ、転写時のシワ及び空気の抱き込みを防止することが記載されているから(段落227)、配向層及び液晶層の幅方向端部がエンボス上に配置されることは明らかである(段落230には、エンボス加工の高さが高すぎるとフィルム端部にひずみを与えることが記載されている。また、エンボス加工部より内側に配向層及び液晶層が設けられるのであればエンボス形成の意味がない)。」(23頁8行〜13行)(以下「主張1」という)、「長尺状の基材フィルムの短尺方向の端部に凹凸部を設け、機能層を当該凹凸部上に形成する(構成要件CのB+C>Aを満たす)ことにより、貼り付き・ブロッキング・位相差ムラ・光軸ずれ・フィルム間の接触による不良・巻ズレ等を防止することは、従来周知の技術である。」(23頁23行〜24頁2行)(以下「主張2」という。)、「本件第1発明のける1.0<Y/X≦15.0は技術的意味がないものと考えら、従来の、長尺フィルムの側端部に凹凸部を形成した技術と異なるところはないから、本件第1発明は周知技術にすぎず、又は当該周知技術に基づいて当業者が容易に想到しえた発明にすぎない。」(以下「主張3」という。)、と主張している。 (イ)特許異議申立人の主張についての当合議体の判断 上記主張3について、技術的意味については進歩性の判断に影響を及ぼすものではない。その余の点は、上記ウで述べたとおりである。 したがって、上記主張1〜3は、いずれも採用できない。 カ 本件特許発明1についてのまとめ 以上のことから、本件特許発明1は、甲1発明と同一であるとはいえず、また、当業者であっても、甲1発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。 (4)本件特許発明2〜9 本件特許発明2〜9は、本件特許発明1の構成を全て備えるものであるから、本件特許発明1、3、4、7及び8も、本件特許発明1と同じ理由により、甲1発明と同一であるとはいえず、また、本件特許発明2〜9は、当業者であっても、甲1発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。 (5)小括 本件特許発明1、3、4、7及び8は、甲1に記載された発明と同一であるとはいえず、また、本件特許発明1〜9は、当業者であっても、甲1に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。 2 理由2(甲2を主引例とする進歩性)について (1)甲2の記載 甲2には、次の記載がある。なお、下線は、当合議体が付与したもので、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。 ア 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 少なくとも一方の面の短尺方向両端部に凸部を有する長尺状アクリル樹脂基材の、前記凸部を有する一面側に、ハードコート層、防眩層、反射防止層及び帯電防止層よりなる群から選択される1種以上の層を含む機能層を有し、前記長尺状アクリル樹脂基材の前記機能層とは反対側の面に、配向層と位相差層とをこの順に有する位相差フィルムであって、前記凸部のうち少なくとも一部が前記機能層により被覆され、 短尺方向中央部における機能層の平均の厚みが、前記被覆された凸部における凸部と機能層との合計の厚みに対して、25〜60%である、位相差フィルム。 【請求項2】 位相差フィルムの製造方法であって、少なくとも一方の面の短尺方向両端部に凸部を有する長尺状アクリル樹脂基材を準備する工程と、 前記長尺状アクリル樹脂基材の前記凸部を有する一面側に、ハードコート層、防眩層、反射防止層及び帯電防止層よりなる群から選択される1種以上の層を含む機能層を、前記凸部のうち少なくとも一部を被覆し、短尺方向中央部における機能層の平均の厚みが、前記被覆された凸部における凸部と機能層との合計の厚みに対して、25〜60%となるように、連続的に形成する機能層形成工程と、 前記長尺状アクリル樹脂基材の機能層とは反対側の面に配向層を形成する配向層形成工程と、 前記配向層上に位相差層を形成する位相差層形成工程とを有する、位相差フィルムの製造方法。」 イ 「【発明の詳細な説明】 【技術分野】 【0001】 本発明は、位相差フィルム及びその製造方法、偏光板、並びに、画像表示装置に関するものである。 ・・・省略・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0009】 本発明者は、位相差フィルムの光学性能を更に向上させるために、上記TAC基材よりも膜厚方向の位相差が小さいアクリル樹脂基材を用いることを検討した。しかしながら、アクリル樹脂基材を用いた場合には、位相差フィルムに、TAC基材を用いた場合には生じなかった位相差ムラや光軸ずれが生じる場合があるとの知見を得た。 【0010】 本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、アクリル樹脂基材を用いた場合であっても位相差ムラや光軸ずれのない位相差フィルム及びその製造方法、光漏れのない偏光板、及び表示品質に優れた画像表示装置を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 ・・・省略・・・ 【発明の効果】 【0014】 本発明によれば、アクリル樹脂基材を用いた場合であっても位相差ムラや光軸ずれのない位相差フィルム及びその製造方法、光漏れのない偏光板、及び表示品質に優れた画像表示装置を提供することができる。」 ウ 「【発明を実施するための形態】 ・・・省略・・・ 【0018】 本発明に係る位相差フィルムを、図を参照して説明する。図1及び図2はそれぞれ、本発明に係る位相差フィルムの一例を短尺方向で切断した模式断面図である。 本発明の位相差フィルム10は、図1に例示されるように、少なくとも一方の面の短尺方向両端部5に凸部6を有する長尺状アクリル樹脂基材1の凸部6を有する一面側に、ハードコート層、防眩層、反射防止層及び帯電防止層よりなる群から選択される1種以上の層を含む機能層4を有し、当該機能層4は前記凸部6の少なくとも一部を被覆しており、機能層4の平均の厚みが、被覆された凸部7における凸部6と機能層4との合計の厚みに対して25?60%となっている。一方、当該長尺状アクリル樹脂基材1の機能層4とは反対側の面には、配向層2と位相差層3等をこの順に有している。 また、本発明の位相差フィルムは、図2に例示されるように、アクリル樹脂基材1の機能層4とは反対側の面に、配向層2として、第一配向領域2’Aと、第一配向領域2’Aとは異なる配向性を有する第二配向領域2’Bを有するパターン配向層2’を有し、位相差層3として、第一位相差領域3’Aと第一位相差領域3’Aとは異なる方向に液晶性化合物が配列された第二位相差領域3’Bを有するパターン位相差層3’を有するパターン位相差フィルム20であってもよい。 【0019】 本発明の位相差フィルムは、アクリル樹脂基材の凸部を有する面側に機能層を有し、短尺方向中央部における機能層の平均の厚みが、前記被覆された凸部における凸部と機能層との合計の厚みに対して、25〜60%であることにより、配向ムラのない位相差層を形成することができ、位相差ムラや光軸ずれのない位相差フィルムを得ることができる。 【0020】 位相差フィルムの光学性能をより向上するために、TAC基材よりも膜厚方向の位相差が小さいアクリル樹脂基材を用いて位相差フィルムを製造することが検討されている。一方、位相差フィルムの製造の効率化の点から、長尺状の樹脂基材を用いて連続的に位相差フィルムを製造する手法が用いられている。長尺状のアクリル樹脂基材は、通常、巻き取られてロール状となって搬送され、保管されている。ロール状とするためにアクリル樹脂基材は可橈性を有している。 ロール状の基材は、基材同士が重なり合って貼りつくことがある。特にアクリル樹脂基材は貼りつきが顕著であり、基材同士が貼りつくと、基材の傷や変形の原因となった。このような基材同士の貼りつきを防止する手法として、ナーリング加工等、短尺方向の両端部に凸部を設ける手法が知られている。短尺方向両端部に凸部を有するアクリル樹脂基材は、重ね合わせても凸部のみが接触し、短尺方向の中央部付近には基材間に空気の層を形成され、また、機能層を有することにより、アクリル樹脂基材同士の接触が生じず、基材の傷や貼りつきが抑制される。 しかしながら、両端部に凸部を有するアクリル樹脂基材はロール時に、短尺方向中央部付近に亀甲状のたわみが生じやすく、アクリル樹脂基材を巻き出してもこのようなたわみの痕が残ることがあった。位相差フィルムにおいて、配向層及び位相差層は、光軸ずれを生じさせないために、面内で均一に形成されることが求められ、わずかなシワやたわみであっても配向不良の原因となることがあった。 本発明者らは鋭意検討の結果、短尺方向の両端部に凸部を有する長尺状アクリル樹脂基材の当該凸部を有する一面側に、ハードコート層、防眩層、反射防止層及び帯電防止層よりなる群から選択される1種以上の層を含む機能層を、凸部の一部を被覆するように設け、短尺方向中央部における機能層の平均の厚みが、前記被覆された凸部における凸部と機能層との合計の厚みに対して、25〜60%とすることにより、巻き取り時において、適度な上記空気層を確保することができ、アクリル樹脂基材同士や、アクリル樹脂基材と前記機能層との接触を抑制するとともに、短尺方向中央部付近のたわみを抑制し、アクリル樹脂基材の機能層とは反対側の表面平滑性が向上できるとの知見を得た。 このように機能層を有し、表面平滑性に優れたアクリル樹脂基材上に配向層や液晶層を形成することにより、位相差ムラや光軸ずれのない位相差フィルムを得ることができる。 ・・・省略・・・ 【0028】 本発明において、アクリル樹脂基材は短尺方向両端部に凸部を有するものである。当該凸部は、いわゆるナーリング等と呼ばれ、アクリル樹脂基材の巻き取り時に、基材同士の接触や貼りつきを抑制するものである。 このような凸部の形状や、材質、形成方法は、従来公知のものの中から適宜選択すればよい。凸部の形状としては、例えば、角錐台形、円錐台形、円丘形、波形、格子形、不定形等が挙げられる。また、各突起の直径は、50〜1000μm程度であり、100〜3000μmとすることが好ましい。また、密度は、20〜1000個/cm2程度であり、50〜200個/cm2とすることが好ましい。 凸部は基材の片面のみに有していてもよく、基材の両面に有していてもよい。 このような凸部の具体例としては、例えば、国際公開第2010/143524号パンフレット、特開2007−91784号公報等に記載のものが挙げられる。 このような凸部は、短尺方向の両端部において、長尺方向に帯状に設けられるが、当該帯幅は、通常、各端部においてそれぞれ短尺の0.2〜5%程度の中から適宜選択される。 ・・・省略・・・ 【0030】 凸部の高さHは特に限定されず、適宜調整すればよい。アクリル樹脂基材同士の貼りつきを抑制する点からは、3〜100μmであることが好ましく、5〜10μmであることがより好ましい。 【0031】 <機能層> 本発明の位相差フィルムは、アクリル樹脂基材の凸部を有する一面側に、ハードコート層、防眩層、反射防止層及び帯電防止層よりなる群から選択される1種以上の層を含む機能層を有する。 機能層は1つの層又は2つ以上の層で構成され、2つ以上の層を有する場合には、各層の合計の厚みが、機能層が被覆された凸部の厚みの25〜60%となっていればよい。アクリル樹脂基材の貼りつきを抑制し、位相差ムラや光軸ずれのない位相差フィルムが得られる点から、平坦部における機能層の平均厚みが、1.35〜95μmであることが好ましく、3〜9.5μmであることがより好ましい。 ・・・省略・・・ 【0039】 配向層を光配向法により形成する場合、配向層形成用組成物として、偏光を照射することにより配向規制力を発現する光配向性材料を含有する光配向性組成物が用いられる。当該光配向性材料としては、光二量化型材料であっても、光異性化型材料であってもよい。具体的には、例えば、シンナメート、クマリン、ベンジリデンフタルイミジン、ベンジリデンアセトフェノン、ジフェニルアセチレン、スチルバゾール、ウラシル、キノリノン、マレインイミド、または、シンナミリデン酢酸誘導体を有するポリマー等が挙げられ、中でも、シンナメート、または、クマリンの少なくとも一方を有するポリマー、シンナメートおよびクマリンを有するポリマー、並びにこれらの誘導体が好ましく用いられる。このような光二量化型材料の具体例として、例えば、特開平9−118717号公報、特表平10−506420号公報、特表2003−505561号公報、および、WO2010/150748号公報に記載された化合物を挙げることができる。 ・・・省略・・・ 【0044】 配向層の厚さは、後述する位相差層における液晶性化合物を一定方向に配列できればよく、適宜設定すればよい。配向層の厚さは、通常、1nm〜1000nmの範囲内であり、60nm〜300nmの範囲内が好ましい。 ・・・省略・・・ 【0054】 位相差層の厚さは、所望の面内リタデーション値が得られるように、前記液晶性化合物の種類等に応じて適宜決定すればよい。中でも、0.5μm〜4μmの範囲内であることが好ましく、1μm〜3μmの範囲内であることがより好ましく、1μm〜2μmの範囲内であることがさらに好ましい。」 エ 「【実施例】 【0074】 以下、本発明について実施例を示して具体的に説明する。これらの記載により本発明を制限するものではない。 【0075】 (実施例1) 短尺方向両端部に高さ10μmの凸部を有する長尺状アクリル樹脂基材(厚さ40μm、幅1330mm、長さ6000m)の凸部を有する面に、ロールトゥロール方式により、アクリル系樹脂を含有する防眩層形成用組成物を塗工して、平均厚みが6μmの防眩層を形成し、巻き取った。前記被覆された凸部における凸部と機能層との合計の厚みは、16μmであり、短尺方向中央部における機能層の平均の厚みが、前記被覆された凸部における凸部と機能層との合計の厚みに対して38%であった。なお、厚みの測定は、厚み測定器(テスター産業社製)を用いた。 次に、長尺状アクリル樹脂基材の防眩層とは反対側の面に、光二量化反応型の光配向材料を含有する配向層用硬化性組成物を塗布し、100℃で乾燥させて乾燥後の膜厚が250nmの塗膜とした。当該塗膜に、偏光紫外線を照射して配向層を形成した。 次いで、配向層上に、重合性液晶化合物とメチルイソブチルケトンを含む位相差層用硬化性組成物を塗布し、紫外線を照射することにより硬化させて、膜厚が1μmの位相差層を形成し、位相差フィルム1を得た。」 オ 図1 (2)甲2発明 甲2には、請求項1に係る発明の位相差フィルムを具体化した実施例1として、次の「位相差フィルム1」の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。 「 短尺方向両端部に高さ10μmの凸部を有する長尺状アクリル樹脂基材(厚さ40μm、幅1330mm、長さ6000m)の凸部を有する面に、ロールトゥロール方式により、アクリル系樹脂を含有する防眩層形成用組成物を塗工して、平均厚みが6μmの防眩層を形成し、 次に、長尺状アクリル樹脂基材の防眩層とは反対側の面に、光二量化反応型の光配向材料を含有する配向層用硬化性組成物を塗布し、100℃で乾燥させて乾燥後の膜厚が250nmの塗膜とし、当該塗膜に、偏光紫外線を照射して配向層を形成し、 次いで、配向層上に、重合性液晶化合物とメチルイソブチルケトンを含む位相差層用硬化性組成物を塗布し、紫外線を照射することにより硬化させて、膜厚が1μmの位相差層を形成し、得た、位相差フィルム1。」 (3)本件特許発明1 ア 対比 本件特許発明1と甲2発明とを対比する。 (ア)基材フィルム 甲2発明の「長尺状アクリル樹脂基材」は、「短尺方向両端部に高さ10μmの凸部を有する」。 上記構成からみて、甲2発明の「長尺状アクリル樹脂基材」は、本件特許発明1の「長尺状の基材フィルム」に相当する。 また、上記構成からみて、甲2発明の「長尺状アクリル樹脂基材」は、少なくとも一方の面の短尺方向の少なくとも一方の端部に「凸部」を有するといえる。そうしてみると、甲2発明の「長尺状アクリル樹脂基材」は、本件特許発明1の「長尺状の基材フィルム」の「少なくとも一方の面の短尺方向の少なくとも一方の端部に凹凸部を有する」との要件を満たす。 (イ)硬化物層 甲2発明の「位相差層」は、「重合性液晶化合物とメチルイソブチルケトンを含む位相差層用硬化性組成物を塗布し、紫外線を照射することにより硬化させて」、「形成し」たものである。 上記構成からみて、甲2発明の「重合性液晶化合物」は、その文言どおり、本件特許発明1の「重合性液晶化合物」に相当する。また、甲2発明の「位相差層」は、本件特許発明1の「硬化物層」に相当する。さらに、甲2発明の「位相差層」は、本件特許発明1の「硬化物層」の「少なくとも1種の重合性液晶化合物を含有する重合性液晶組成物の」との要件を満たす。 (ウ)機能層 甲2発明は、「配向層上に」「位相差層を形成し」たものである。 ここで、本件特許明細書の【0012】には、「該機能層は、本発明の効果に影響を及ぼさず、転写後に光学フィルムとして機能し得る限り、液晶硬化物層以外の層を含んでいてもよい。そのような他の層としては、配向膜や、保護層やハードコート層などの硬化樹脂層、液晶硬化物層等の機能層を偏光フィルムなどの他の部材と接着するための粘接着剤層などが挙げられる。」と記載されていて、光学フィルムとして機能するものとして液晶硬化物層以外の層を含んでもよいことから、甲2発明の「配向層」及び「位相差層」も光学フィルムとして機能するといえる。 そうしてみると、甲2発明の「配向層」及び「位相差層」は、本件特許発明1の「機能層」に相当する。また、甲2発明の「配向層」及び「位相差層」は、本件特許発明1の「機能層」の「硬化物層を含む転写可能な機能層」と、「硬化物層を含む」との点で共通する。 (エ)長尺フィルム 甲2発明は、「長尺状アクリル樹脂基材の防眩層とは反対側の面に」「配向層を形成し」、「配向層上に」「位相差層を形成」たものである。 上記構成及び上記(ア)〜(ウ)を総合すると、甲2発明の「位相差フィルム1」は、本件特許発明1の「長尺フィルム」に相当する。 また、甲2発明の「位相差フィルム1」は、「長尺状アクリル樹脂」と、「配向層」及び「位相差層」を含んでなるといえる。そうしてみると、甲2発明の「位相差フィルム1」は、本件特許発明1の「長尺フィルム」の「長尺状の基材フィルムと」「機能層とを含んでなる」との要件を満たす。 イ 一致点・相違点 (ア)一致点 上記アの対比結果からみて、本件特許発明1と甲2発明は、次の点で一致する。 「 少なくとも一方の面の短尺方向の少なくとも一方の端部に凹凸部を有する長尺状の基材フィルムと、少なくとも1種の重合性液晶化合物を含有する重合性液晶組成物の硬化物層を含む機能層とを含んでなる長尺フィルム。」 (イ)相違点 上記アの対比結果からみて、本件特許発明1と引用発明は、次の点で相違する。 <相違点1> 「機能層」について、本件特許発明1は、「転写可能」であるのに対して、甲2発明の「配向層」及び「位相差層」は、転写可能であるかどうかが明らかでない点。 <相違点2> 「機能層」について、本件特許発明1は、「前記基材フィルムの凹凸部を有する面上に積層されて」いるのに対して、甲2発明の「配向層」及び「位相差層」は、「長尺状アクリル樹脂基材」の「凸部」を有する面上に積層されていない点。 <相違点3> 本件特許発明1は、「機能層の面内平均厚みXと凹凸部の凸部最大高さYとの関係が、1.0<Y/X≦15.0を満たし」ているのに対して、甲2発明は、このように特定されていない点。 <相違点4> 本件特許発明1は、「前記基材フィルムの短尺方向全幅をA、該基材フィルムの凹凸部の短尺方向幅の合計をB、前記機能層の短尺方向幅をCとした場合に、B+C>Aを満たす」のに対して、甲2発明は、このように特定されていない点。 ウ 判断 事案に鑑み、上記相違点2及び4について検討する。 甲2の【0028】には、「凸部は基材の片面のみに有していてもよく、基材の両面に有していてもよい。」と記載されていることから、甲2発明の「長尺状アクリル樹脂基材」の「配向層」及び「位相差層」側の面に凸部を設けることは、示唆されているといえる。 しかしながら、甲2の【0020】には、「短尺方向の両端部に凸部を有する長尺状アクリル樹脂基材の当該凸部を有する一面側に、ハードコート層、防眩層、反射防止層及び帯電防止層よりなる群から選択される1種以上の層を含む機能層を、凸部の一部を被覆するように設け、短尺方向中央部における機能層の平均の厚みが、前記被覆された凸部における凸部と機能層との合計の厚みに対して、25〜60%とすることにより、巻き取り時において、適度な上記空気層を確保することができ、アクリル樹脂基材同士や、アクリル樹脂基材と前記機能層との接触を抑制するとともに、短尺方向中央部付近のたわみを抑制し、アクリル樹脂基材の機能層とは反対側の表面平滑性が向上できるとの知見を得た。このように機能層を有し、表面平滑性に優れたアクリル樹脂基材上に配向層や液晶層を形成することにより、位相差ムラや光軸ずれのない位相差フィルムを得ることができる。」と記載されている(下線は当合議体が付与した。)。上記【0020】の記載に接した当業者は、甲2発明の「長尺状アクリル樹脂基材」の「配向層」及び「位相差層」側の面に凸部を設けたとしても、表面平滑性を考慮して「配向層」及び「位相差層」は、凸部を形成した領域の内側になるように凸部を形成するのであって、「配向層」及び「位相差層」を凸部を形成した領域にまで達するように凸部を形成するものとはいえない。 そうしてみると、甲2発明において、「配向層」及び「位相差層」が「長尺状アクリル樹脂基材」の「凸部」を有する面上に積層した上で、「長尺状アクリル樹脂基材」の「凸部」の短尺方向の幅の合計と、「配向層」及び「位相差層」の短尺方向幅との和は、「支持体25」の短尺方向全幅よりも、大きくすることに阻害要因があるといえる。 そして、上記箇所以外にも、甲2には、甲2発明において上記相違点2及び4に係る構成を用いることを窺わせる記載はなく、甲2発明において上記相違点2及び4に係る構成を用いることが当業者にとって自明であるともいえない。さらに、甲2発明において上記相違点2及び4に係る構成を用いることは、他の甲号証にも記載されておらず、周知技術であるともいえない。 そうしてみると、甲2発明において上記相違点2及び4に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者であっても、容易に想到し得たとはいえない。 そして、本件特許発明1の構成により、本件特許明細書の【0007】に記載された「本発明によれば、基材フィルムと、転写可能な液晶硬化物層を含む機能層とを有する長尺フィルムであって、基材フィルムの剥離時に短尺方向端部の機能層の脱離が生じ難く、光学特性に優れる光学フィルムを生産性よく製造し得る長尺フィルムを提供することができる。」との効果を奏するものである。 したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明2は、当業者であっても、甲2発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。 エ 補足 上述のとおりであるが、相違点4について、甲2の図1には、配向層2及び位相差層3が凸部6と一部重複しているようにも見えるので、相違点4は実質的な差異ではないとして以下に検討する。 甲2発明において、「配向層」及び「位相差層」が「長尺状アクリル樹脂基材」の「凸部」を有する面上に積層した上で、「長尺状アクリル樹脂基材」の「凸部」の短尺方向の幅の合計と、「配向層」及び「位相差層」の短尺方向幅との和は、「支持体25」の短尺方向全幅よりも、大きくすることに阻害要因があることは、上記ウで述べたとおりである。 そうしてみると、相違点4が実質的な差異ではないとしても、結論に変わりはない。 オ 他の実施例を主引例とした場合 甲2の他の実施例を主引例とした場合も同様である。 カ 特許異議申立人の主張 (ア)特許異議申立人の主張の概要 特許異議申立人は、特許異議申立書において、「甲2(態様1)では、配向層及び位相差層が凸部を被覆しているから、構成要件CにおけるB+C>Aを満たす。」(37頁8行〜9行)(以下「主張1」という)、「本件第1発明と甲2(態様1)とを対比すると、前者では機能層が転写可能であるのに対して、後者では位相差層が転写可能であることが記載されていない点で両者は相違する(相違点1)。しかしながら、位相差層を転写可能とすることは、従来周知の技術である。」(37頁15行〜18行)(以下「主張2」という。)、「機能部が凸部を被覆する態様2が記載されている・・・本件第1発明は、機能層が重合性液晶化合物の硬化物層を含むことを特定するのみであって、その配向方向が特定されているわけではないから、転写可能な重合性液晶化合物の硬化物層であると特定する点に技術的意味は認められない。」(38頁7行〜20行)(以下「主張3」という。)、と主張している。 (イ)特許異議申立人の主張についての当合議体の判断 主張2の転写可能であることが周知技術であること、及び主張3の技術的意味については、いずれも進歩性の判断に影響を及ぼすものではない。その余の点は、上記ウ及びエで述べたとおりである。 したがって、上記主張1〜3は、いずれも採用できない。 カ 本件特許発明1についてのまとめ 以上のことから、本件特許発明1は、当業者であっても、甲2発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。 (4)本件特許発明2〜9 本件特許発明2〜9は、本件特許発明1の構成を全て備えるものであるから、本件特許発明1と同じ理由により、本件特許発明2〜9は、当業者であっても、甲2発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。 (5)小括 本件特許発明1〜9は、当業者であっても、甲2に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。 3 理由3(記載要件違反)について (1)サポート要件 ア 特許異議申立人の主張の概要 特許異議申立人は、特許異議申立書の43頁において、本件特許発明の課題を本件特許明細書の【0005】に記載されたものであると解されるとして、発明の詳細な説明には、2≦Y/X≦9において上記課題を達成することしか記載されておらず、両方の端部に凹凸部を有する場合において評価が得られることしか記載されておらず、一方の面に端部に凹凸部を有する場合に評価が得られることしか記載されておらず、本件特許発明は上記課題を達成しえない範囲を含んでいると主張している。 イ 当合議体の判断 本件特許発明は、上記第2で示したとおりである。また、本件特許発明の課題は、本件特許明細書の【0005】に記載された「そこで、本発明は、基材フィルムと、転写可能な液晶硬化物層を含む機能層とを有する長尺フィルムであって、基材フィルムの剥離時に短尺方向端部の機能層の脱離が生じ難く、光学特性に優れる光学フィルムを生産性よく製造し得る長尺フィルムを提供することを目的とする。」というものである。 そして、本件特許発明に係る「Y/X」の数値範囲について、本件特許明細書の【0018】には、「本発明において、機能層の面内平均厚みXと凹凸部の凸部最大高さYとの関係が、1.0<Y/X≦15.0を満たすことが好ましい。機能層と基材フィルム上の凹凸部とが上記関係を満たすことにより、長尺フィルムのハンドリング性が向上しやすく、また、長尺フィルムをロール状に巻回した際の巻きズレや長期保管時の変形(ブロッキング)を抑制する効果が高まりやすい。Y/Xの値が大きくなりすぎると、フィルム端部で顕著に貼りつきが発生しやすくなり、面内においてもフィルムロールの変形が多くなりやすい。」と記載されていることから、本件特許明細書に実施例として記載された2.0〜9.0(【0272】の【表2】)の数値範囲から本件特許発明の「1.0<Y/X≦15.0」の数値範囲にまで、当業者であれば拡張ないし一般化することができる。 また、本件特許明細書に実施例として記載された、基材フィルムの両端部に凹凸部を有し、且つ基材フィルムの一方の面に凹凸部を有する場合から、基材フィルムの一方の端部のみに凹凸部を有する場合や基材フィルムの両面に凹凸部を有する場合にも、当業者であれば拡張ないし一般化することができることは明らかである。 そうしてみると、本件特許発明は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるとはいえない。 したがって、本件特許発明は、発明の詳細な説明に記載したものである。 (2)明確性要件 ア 特許異議申立人の主張の概要 特許異議申立人は、特許異議申立書の44頁において、本件特許発明に係る「1.0<Y/X≦15.0を満た」すことの技術的意味が不明確であり、本件特許明細書の比較例1は実施例1と同様の凹凸部が設けられているから比較例1における凸部最大高さは7μmであるとして、Y/Xが3.5であり2より小さい場合の比較例がないから、Y/Xの技術的意味が不明確であると主張している。 イ 当合議体の判断 本件特許明細書の【0018】の記載は、上記(1)イで示したとおりであり、本件特許発明の「Y/X」の数値範囲の技術的意味が理解できる。また、本件特許明細書の【0271】には、「機能層の面内平均厚みXを確認したところ2μmであった。また、凸部最大高さYは2μmであった。」と記載されていることから、比較例1のY/Xは、【0272】の【表1】に記載されているように1.0であり、Y/Xが2より小さい比較例が記載されている。 そうしてみると、本件特許発明は、技術的意味が理解できる上、本件特許発明の「1.0<Y/X≦15.0を満たし」という構成自体は、評価対象が当該構成を具備しているのか否かを明確に区別できるので、第三者に不測の不利益をもたらすとはいえない。 したがって、本件特許発明は、明確である。 (3)実施可能要件 ア 特許異議申立人の主張の概要 特許異議申立人は、特許異議申立書の43〜44頁において、Y/Xが2より小さい場合の実施例又は比較例がなく、Y/Xの技術的意味が当業者が実施できる程度に記載されていない、凹凸部との関係で剥離端部がギザギザにちぎれやすくなるのを抑えかつ直線的に剥離しやすくなるとは考え難い、効果発現のためどのように凹凸部と空隙とをコントロールするのか記載されていない、と主張している。 イ 当合議体の判断 本件特許明細書において、【0238】〜【0273】には、実施例及び比較例が記載されている。また、本件特許発明に係る「B+C>A」の機序は【0013】に、本件特許発明に係る「Y/X」の機序は【0018】に記載されている。そして、長尺フィルムについては【0019】〜【0030】に、重合性液晶化合物を含む重合性液晶組成物の硬化物層については【0031】〜【0114】に、配向膜については【0115】〜【0135】に、垂直配向促進剤については【0136】〜【0163】に、硬化樹脂層については【0166】〜【0198】に、粘接着剤層については【0199】〜【0215】に、指針がそれぞれ記載されている。 また、本件特許発明の技術的意味は上記(2)イで述べたとおりであり、当業者であれば、発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他の発明の技術的意味は理解できる。 そうしてみると、当業者であれば、上記指針を基に実施例及び比較例に記載された事項から、本件特許発明を実施することは可能である。 したがって、発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明を実施できる程度に記載したものである。 (4)委任省令要件 ア 特許異議申立人の主張の概要 特許異議申立人は、特許異議申立書の45頁において、本件特許発明の課題と上記特性(当合議体注:上記(3)アで示した「凹凸部との関係で剥離端部がギザギザにちぎれやすくなるのを抑えかつ直線的に剥離しやすくなる」特性と認められる。)との実質的な関係を理解することができないことから発明の課題の解決手段を理解できず、発明の技術上の意義が不明であって委任省令要件違反にも該当すると主張している。 イ 当合議体の判断 本件特許発明は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるとはいえないことは、上記(1)イで述べたとおりであり、また、本件特許発明の技術的意味は上記(2)イで述べたとおりであり、当業者であれば、発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他の発明の技術上の意義は理解できる。 したがって、発明の詳細な説明は、本件特許発明について、経済産業省令で定めるところにより記載されたものである。 第5 むすび 請求項1〜9に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由によっては、取り消すことができない。また、他に請求項1〜9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2024-06-17 |
出願番号 | P2019-129646 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(G02B)
P 1 651・ 536- Y (G02B) P 1 651・ 113- Y (G02B) P 1 651・ 537- Y (G02B) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
神谷 健一 |
特許庁審判官 |
清水 康司 井口 猶二 |
登録日 | 2023-08-28 |
登録番号 | 7339039 |
権利者 | 住友化学株式会社 |
発明の名称 | 長尺フィルム |
代理人 | 森住 憲一 |
代理人 | 梶田 真理奈 |